説明

付加反応硬化型シリコーン組成物および半導体装置

【課題】吐出性と良好なチクソトロピー性を兼ね備えており、プライマーを必要とせず優れた自己接着性を有する付加反応硬化型シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】本発明のシリコーン組成物は、(A)アルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンと、(B)Q単位、DVi単位、D単位およびM単位から成るレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、(A)と(B)成分の合計に対して30〜40重量%と、(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサンを、SH基が(A)および(B)成分中のアルケニル基合計1モル当たり1.0〜1.4モルになる量と、(D)白金系触媒(白金分換算で0.01〜100ppm)と、(E)煙霧質シリカを(A)と(B)成分の合計に対し2〜20重量%を含有し、良好なチクソトロピー性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応硬化型シリコーン組成物と半導体装置に係わり、特に、プラスチック、金属、ガラスなどの各種基材に対して自己接着性を有する1成分系の付加反応硬化型シリコーン組成物と、この組成物によりリッド(蓋体あるいはキャップ)の接着がなされた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置などの電子機器において、エポキシ樹脂などを主体とする基板とNi,Cuなどの金属基材とを接着するために、エポキシ樹脂系などの各種の接着剤が使用されている。
【0003】
近年、電気・電子部品の分野では小サイズ化の進行が著しく、部材の接着面積も狭小化の一途をたどっているため、単位面積当たりの接着強度の増大が望まれている。特に、半導体装置において、半導体素子を覆う金属製のリッドを基板に接着するための接着剤として、接着強度(せん断接着強さ)および破壊モードの改善という接着性の向上と、低粘度化の両立が求められているが、従来の接着性組成物では、これらの両方を満足させることが困難であった。
【0004】
すなわち、せん断接着強さを向上させ、接着性の破壊モードを改善するために、重合度の高いシリコーンオイルを配合した付加反応硬化型シリコーン組成物が提案されている。
【0005】
しかし、この組成物では、粘度が高くなりすぎるという欠点があり、実際には補強性の充填剤が配合されるため、粘度がさらに高くなってしまい、小口径のシリンジなどから吐出させることが難しいという問題があった。
【0006】
粘度を上昇させにくい充填剤としては、炭酸カルシウムや粉砕シリカが一般に知られているが、これらの充填剤を配合すると、せん断接着強さや引張り接着強さ、および接着の破壊モードにおける凝集破壊率(CF)が低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、接着性の向上には各種の接着プロモーターの使用が考えられ、接着プロモーターを配合した組成物も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0008】
しかし、このような組成物においては、内添剤としての接着プロモーターの効果が十分でなく、経済的に好ましくない。また、接着プロモーターに含まれる高活性基が、貯蔵安定性や架橋特性などに対して次第に不利に作用するため、接着プロモーターによる接着性向上は制限的にのみ可能であるにすぎず、むしろ接着プロモーターの含有量をできるだけ低く抑えることが考慮されている。
【0009】
そして、このような接着プロモーターが配合された組成物で、保存安定性を向上させるためには反応遅延剤を添加することが一般的であるが、反応遅延剤を添加した場合は硬化が遅くなるという問題があった。
【0010】
さらに最近、半導体素子のリッドと基板とを接着するための接着剤には、より低い温度での硬化が求められている。この要求は、硬化反応の温度を低く抑えることによって、加熱による部品のダメージを最小限に抑えるためであり、連続的な製造を考慮すると、硬化時間を長くしても硬化温度を下げることが求められている。
【特許文献1】特開昭54−80358号公報
【特許文献2】特公昭53−21026号公報
【特許文献3】特開昭54−48853号公報
【特許文献4】特公昭51−33540号公報
【特許文献5】特公昭45−23354号公報
【特許文献6】特開昭54−37157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これらの点に鑑みてなされたもので、適度な粘度(吐出性)と良好なチクソトロピー性(非流動性)を兼ね備えており、プライマーを必要とせず優れた自己接着性を有する付加反応硬化型シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物は、(A)1分子中にケイ素原子に結合するアルケニル基を少なくとも2個有するジオルガノポリシロキサンと、(B)SiO4/2単位(Q単位)、ViRSiO2/2単位(DVi単位)、RSiO2/2単位(D単位)およびRSiO1/2単位(M単位)(式中、Viはビニル基を表し、Rは脂肪族不飽和結合を含まない置換または非置換の1価の炭化水素基を表す。)から成るレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、前記(A)成分と(B)成分との合計に対して30〜40重量%と、(C)1分子中にケイ素原子に結合する水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、ケイ素原子に結合する水素原子が、前記(A)成分中のケイ素原子に結合するアルケニル基と前記(B)成分中のケイ素原子に結合するビニル基との合計1モル当たり1.0〜1.4モルになる量と、(D)白金系触媒を、白金分に換算して組成物全体の重量の0.01〜100ppmになる量と、(E)煙霧質シリカを、前記(A)成分と前記(B)成分との合計に対し2〜20重量%をそれぞれ含有し、良好なチクソトロピー性を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の半導体装置は、基板と、該基板上に実装された半導体素子と、前記半導体素子を覆うリッドを有し、前記リッドが、前記本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物により基板上に接着されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物においては、(A)アルケニル基含有のジオルガノポリシロキサンとともに、(B)SiO4/2単位(Q単位)、ViRSiO2/2単位(DVi単位)、RSiO2/2単位(D単位)およびRSiO1/2単位(M単位)からなるレジン構造を有するポリオルガノシロキサンが配合され、さらに(E)補強性充填剤として煙霧質シリカが配合されているので、細径のノズル(例えばφ2mm)から吐出可能な低い粘度を有するうえに、良好なチクソトロピー性を有し、吐出されたビードは十分に形状を保持することができる。また、プライマーを必要とすることなく、各種金属の被着体に対する良好な接着性(せん断接着強さおよび引張り接着強さ)を持ち、かつ破壊モードにおいて薄層破壊(TCF)を含まず凝集破壊(CF)率100%という良好な接着性を有する。さらに、保存安定性に優れ、また加熱により速やかに硬化するので、半導体装置におけるリッドの接着固定などを短時間で確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について記載する。
【0016】
本発明の実施形態の付加反応硬化型シリコーン組成物は、(A)アルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンと、(B)SiO4/2単位(Q単位)、ViRSiO2/2単位(DVi単位)、RSiO2/2単位(D単位)およびRSiO1/2単位(M単位)からなるレジン構造を有するポリオルガノシロキサンと、(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(D)白金系触媒と、(E)煙霧質シリカをそれぞれ含有する。
【0017】
(A)成分であるアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合するアルケニル基を少なくとも2個有するものであり、実施形態のシリコーン組成物のベースポリマーとして使用される。このアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、基本的に主鎖部分がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のものであるが、分子構造の一部に分岐状の構造を含んでいてもよく、また全体が環状であってもよい。硬化物の機械的強度などの点から、直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。さらに、通常ポリオルガノシロキサン中に少量存在する、沸点が250℃に満たない低分子量成分が除去されていることが好ましい。
【0018】
アルケニル基は、分子鎖の両末端にのみ存在していても、分子鎖の中間にのみ存在していても、分子鎖の両末端および中間の両方に存在していてもよい。このようなアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンとしては、例えば、一般式:
【化1】

(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない置換または非置換の1価の炭化水素基であり、Xはアルケニル基である。Yは、アルケニル基またはRであり、nは0または1以上の整数、mは0または1以上の整数であり、かつ1分子中にケイ素原子に結合するアルケニル基を少なくとも2個含有する。)で表されるジオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0019】
前記一般式(1)において、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基のようなアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基のようなシクロアルキル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基のようなアラルキル基;およびこれらの基の水素原子の少なくとも一部がフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子やシアノ基などで置換された基、例えばクロロメチル基、ブロモメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基のようなハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などが挙げられる。特に、メチル基やフェニル基が好適する。
【0020】
Xのアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基などが挙げられる。特に、ビニル基、アリル基など炭素原子数2〜4の低級アルケニル基が好ましい。
【0021】
Yは、アルケニル基または前記したRである。アルケニル基の具体例としては、前記Xで例示したものと同じものが挙げられる。分子鎖両末端のケイ素原子に結合する置換基としての2つのYは、同一でも異なっていてもよいが、いずれもアルケニル基であることが好ましい。
【0022】
nは、好ましくは10〜10,000、より好ましくは50〜2,000の整数であり、mは、好ましくは0〜100の整数である。
【0023】
本発明の実施形態において、(A)成分であるアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンとして、粘度(23℃)が60〜100Pa・s(より好ましくは70〜90Pa・s)の長鎖の両末端ビニル基含有ジオルガノポリシロキサンと、粘度(23℃)が1.0〜5.0Pa・s(より好ましくは2.5〜3.5Pa・s)の短鎖の両末端ビニル基含有ジオルガノポリシロキサンとを組合せて使用することが好ましい。そして、これらの混合物である(A)成分の粘度(23℃)は10〜20Pa・sとすることが好ましい。
【0024】
(B)成分であるレジン構造を有するポリオルガノシロキサンは、SiO4/2単位(Q単位)、ViRSiO2/2単位(DVi単位)、RSiO2/2単位(D単位)およびRSiO1/2単位(M単位)(式中、Viはビニル基を表し、Rは脂肪族不飽和結合を含まない置換または非置換の1価の炭化水素基を表す。)から成り、三次元網状構造を有する。
【0025】
としては、前記一般式(1)におけるRとして例示したものと同じものを例示することができ、好ましくはメチル基である。
【0026】
(B)成分において、各単位の分子全体に対する割合(モル比)は、Q単位が0.01〜10.00モル%、DVi単位が0.01〜10.00モル%、D単位が50.00〜99.90モル%とすることが好ましい。(B)成分のレジン構造を有するポリオルガノシロキサンは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。このようなレジン構造を有するポリオルガノシロキサンは、各単位源となる化合物を、上記モル比となる割合で組み合わせたものを、例えば酸の存在下で共加水分解することによって容易に合成することができる。
【0027】
(B)成分の配合割合は、前記(A)成分と(B)成分との合計量に対して30〜40重量%、より好ましくは32〜38重量%とし、特に34〜36重量%の範囲とすることが好ましい。このような割合で(B)成分を配合することにより、接着強さ、特に接着の破壊モードを向上させることができるとともに、低粘度化を実現することができる。
【0028】
(C)成分であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合する水素原子(すなわち、SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上含有するもので、前記した(A)成分および(B)成分の架橋成分として作用する。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状、環状、あるいは三次元網目構造のいずれでもよい。
【0029】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの代表例としては、以下の平均組成式:HSiO(4−a−b)/2………(2)
で表わされるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。ここで、Rは、脂肪族不飽和結合を含まない置換または非置換の1価の炭化水素基であり、一般式(1)におけるRとして例示したものと同じものを例示することができる。好ましくはメチル基のような炭素原子数1〜3の低級アルキル基、またはフェニル基である。aおよびbは、0<a<2で0.7≦b≦2、かつ0.8≦a+b≦3であり、好ましくは、0.001≦a≦1.2で0.8≦b≦2、かつ1≦a+b≦2.7を満足する数である。)
【0030】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。23℃における粘度(動粘度)は、10〜25cSt(センチストークス)であり、特に15〜20cStの範囲が好ましい。
【0031】
(C)成分の配合量は、ケイ素原子に結合する水素原子(SiH基)が、前記(A)成分中のケイ素原子に結合するアルケニル基と前記(B)成分中のケイ素原子に結合するビニル基との合計1モル当たり1.0〜1.4モルになる量、より好ましくは1.15〜1.25モルになる量である。この割合が1.0モル未満では、架橋反応が不十分となるおそれがあり、ゴム強度の低下が懸念される。また1.4モルを超えると、接着性の破壊モードにおいてTCFが生じるため好ましくない。
【0032】
(D)成分である白金系触媒は、前記(A)成分のアルケニル基および(B)成分のビニル基と(C)成分のSiH基との付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進するための触媒である。このような白金系触媒としては、従来公知のものを使用することができ、具体的には、白金(白金黒を含む。)、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒドあるいはケトン等との錯体、白金・オレフィン錯体、白金・ジケトン錯体、白金・アセチルアセテート錯体、白金・ビニルシロキサン錯体等の白金系化合物が挙げられる。また、白金系化合物以外にも、ロジウムのトリフェニルホスフィン錯体等のロジウム系化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム系化合物、ルテニウム、イリジウム、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、鉛、アルミニウム、ニッケル等の化合物、アゾ化合物等のラジカル開始剤が挙げられる。これらの中でも特に白金系化合物は、反応活性に優れているので、好適に使用される。また、これらの触媒は、必要に応じて単独であるいは2種以上を併用してもよい。
【0033】
(D)成分の配合量は、硬化に必要な量であれば特に限定されず、前記(A)成分と(B)成分および(C)成分の種類や所望の硬化速度などに応じて、適宜増減することができる。通常、白金分に換算して、組成物全体(合計重量)の0.01〜100ppmとすればよく、特に1〜50ppmの範囲が硬化性とコストの面から好ましい。
【0034】
(E)成分である煙霧質シリカは補強性充填剤である。本発明の実施形態において、補強性充填剤としては、煙霧質シリカのみを使用することができ、粉砕シリカのような他の補強性充填剤の使用は、接着性の破壊モードでTCFが生じるため好ましくない。本発明の実施形態では、少なくとも200m/gの表面積を持つ煙霧質シリカの使用が好ましい。
【0035】
(E)成分である煙霧質シリカの配合量は、前記(A)成分と(B)成分との合計に対し2〜20重量%、より好ましくは5〜17重量%とし、特に10〜12重量%とすることが好ましい。このような含有割合で煙霧質シリカを配合することにより、組成物のチクソトロピー性を向上させ、破壊モードにおいてCFを保持することができる。
【0036】
本発明の実施形態の組成物には、前記(A)成分〜(E)成分の他に、(F)接着性付与剤を配合することができる。(F)接着性付与剤としては、分子中にケイ素原子に結合したアルコキシ基および/またはアルケニルオキシ基と、Si−H基、アルケニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、エステル基、無水カルボキシル基、アミノ基およびアミド基から選ばれる少なくとも1個の反応性官能基をそれぞれ1個以上含有する、オルガノシランあるいはケイ素原子数2〜50好ましくは4〜20のオルガノシロキサンオリゴマーなどの有機ケイ素化合物が好適に用いられる。この有機ケイ素化合物は、シリコーン組成物に半導体素子、取り付け部、リードフレームなどへの接着性を付与するためのものであり、公知のものを使用することができ、シリコーン組成物の付加反応を阻害しないものであればよい。
【0037】
このような有機ケイ素化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ官能性基含有アルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のアミノ基含有アルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン等のアルコキシシランが挙げられるほか、オルガノシロキサンオリゴマーとして以下のような化合物が挙げられる。
【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
(F)接着性向上剤の配合量は、通常(A)〜(E)成分の合計量100重量部当たり、5.0重量部以下とすることが好ましく、3.5重量部以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
実施形態の組成物には、必要に応じて各種の添加剤をさらに添加することができる。特に、組成物を1液型で使用する場合には、貯蔵安定性向上のために、ヒドロシリル化反応抑制剤を配合することができる。反応抑制剤としては、従来から公知のものを使用することができ、例えばアセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含有する化合物、アルキニル基を含有する化合物、マレイン酸誘導体などが挙げられる。これらの中でも、アルケニル基またはアルキニル基を有する化合物の使用が望ましい。特に1分子中にアルキニル基を2個以上有する化合物、1分子中にアルキニル基とアルコール性水酸基を有する化合物で示されるジシロキサン、マレイン酸ジエステルなどが好適に使用される。これらの反応抑制剤の添加量は、少なすぎるとヒドロシリル化反応の遅延効果が得られず、逆に多すぎると硬化そのものが阻害されてしまうため、(A)〜(E)成分の合計量100重量部に対して0.00001〜10重量部の範囲であることが望ましい。
【0042】
本発明の実施形態の付加反応硬化型シリコーン組成物は、(A)〜(E)の各成分、および必要に応じて(F)接着性向上剤や反応抑制剤のような他の任意成分を混合することにより調製される。こうして得られる組成物は、適度な粘度で良好な吐出性を有し、かつチクソ比(1rpm/4rpm粘度比)が2.5以上であり、チクソトロピー性に優れている。そして、この組成物を室温でまたは加熱して硬化させることにより得られる硬化物は、せん断接着強さが5.0MPa以上でかつ破壊モードにおいてCF100%でTCFを含まず、各種金属、特にNiやNi合金の被着体に対して良好な接着性を有している。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中、粘度は23℃で測定した値である。
【0044】
実施例
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された粘度100Pa・sのジメチルポリシロキサン(MVi933Vi)(以下、A−1成分と示す。)18重量部(ビニル基含有シロキサン成分全体に対して24.3重量%)と、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された粘度3Pa・sのジメチルポリシロキサン(MVi339Vi)(以下、A−2成分と示す。)30重量部(ビニル基含有シロキサン成分全体に対して40.6重量%)と、(B)ビニル基を含有するレジン構造のポリシロキサン(Q単位の割合が27.4モル%、DVi単位の割合が39.3モル%、M単位の割合が33.3モル%)26重量部(ビニル基含有シロキサン成分全体に対して35.1重量%)とから成るビニル基含有シロキサン成分に、(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン(MD2316M)を、SiH基量が前記ビニル基含有シロキサン成分のビニル基の全量に対して1.25モル倍、すなわちH/Vi比が1.25になる量、(E)煙霧質シリカ9.8重量部、(F)前記[化3]で表される接着向上剤(接着向上剤-1と示す。)を2.5重量部とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(接着向上剤-2と示す。)を0.4重量部、反応抑制剤であるトリアリルイソシアネート(反応抑制剤-1と示す。)を0.8重量部と3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール(反応抑制剤-2と示す。)を0.12重量部、白金系触媒(白金含有量3.4重量%の錯体化合物)0.07重量部、およびカラーマスター(カーボンブラックとビニル基含有シリコーンオイルとの混合物)0.5重量部をそれぞれ均一に撹拌・混合し、付加反応硬化型シリコーン組成物を調製した。
【0045】
なお、シロキサンを表す組成式において、
Mは、式:MeSiO1/2で表される1官能型シロキシ単位、
Viは、式:MeViSiO1/2で表される1官能型シロキシ単位、
Dは、式:MeSiO2/2で表される2官能型シロキシ単位、
は、式:HMeSiO2/2で表される2官能型シロキシ単位、
Qは、式:SiO4/2で表される4官能型シロキシ単位をそれぞれ表す。Meはメチル基、Viはビニル基である。実施例における各成分の組成(全体に対する重量%)を表1に示す。
【0046】
また、比較例1〜3として、表1に示す各成分を同表に示す組成(全体に対する重量%)で配合して撹拌・混合し、それぞれ付加反応硬化型シリコーン組成物を調製した。なお、表1中、A−3成分は、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された粘度10Pa・sのジメチルポリシロキサンを示す。
【0047】
【表1】

【0048】
次いで、実施例および比較例1〜3で得られた組成物について、以下に示す測定方法にしたがって、せん断接着強さ、破壊モードの接着性(凝集破壊率)、吐出性(粘度)およびチクソトロピー性をそれぞれ測定した。これらの結果を表2に示す。
【0049】
<せん断接着強さ>
JIS K 6249の引用規格であるJIS K 6850に規定される方法に準じて、以下に示すようにしてせん断接着強さの試験を行なった。すなわち、80×25×2mmの2枚のニッケルメッキ板を、長辺を10mmだけ重ねて平行に置き、その重ねた部分の対向する2面に接するように0.2mmの厚さのシリコーン組成物の層を形成し、125℃で90分間加熱した後放冷して試験体を作製した。また、アルミ板についても同様にして試験体を作製した。このようにして得られた試験体を引張試験機に装着し、10mm/min.の引張速度で接着性の試験を行い、破断面が凝集破壊(CF)であるか、接着破壊(AF)であるかを確認した。
【0050】
<破壊モードの接着性(凝集破壊率)>
引張せん断接着試験において、シリコーン組成物層と基材との間の接合部で破壊が生じる場合の凝集破壊率を測定した。なお、シリコーン組成物層と基材との接着強さがシリコーン組成物の強度より大きい場合に、接合部が破壊される前にシリコーン組成物層または基材が破壊される凝集破壊が生じる。引張せん断接着強さが大きく、かつ破壊状況が凝集破壊である場合に接着性が良好であるといえる。
【0051】
<吐出性(粘度)>
JIS K 6249に規定される方法に準じ、以下に示すようにして硬化前の組成物の粘度を測定した。すなわち、回転粘度計(芝浦システム社製)のNo.7rotorにより、20rpm(1分間)、および4rpm(2分間)の条件で粘度をそれぞれ測定した。20rpm(1分間)で測定した粘度が80〜180Pa・sの範囲にあり、かつ4rpm(2分間)で測定した粘度が250〜550Pa・sのとき、吐出性が良好であるといえる。粘度がこの範囲にあるか否かを調べた。なお、比較例2では、20rpm(1分間)の粘度がオーバーレンジになり、測定不能であった。
【0052】
<チクソトロピー性(チクソ比)>
回転粘度計(芝浦システム製)のNo.7rotorにより、1rpm、4rpmおよび20rpmの条件で粘度をそれぞれ測定した。そして、1rpm/4rpm粘度比が2.5以上であり、1rpm/20rpm粘度比が7以上であるものをチクソトロピー性が良好である(○)とした。また、1rpm/20rpm粘度比が6.0〜7.0であるものを△、6.0以下であるものを×とした。
【0053】
<ビード形状保持性>、
実施例および比較例1〜3のシリコーン組成物をビード状に吐出させ、5時間後の形状保持性を調べた。吐出された状態のビード形状をほぼ保っているものを○、型が崩れているがビード状を保っているものを△、流れて形状が保たれていないものを×と判定した。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から以下に示すことがわかる。すなわち、実施例で得られたシリコーン組成物は、せん断接着強さが5MPa以上と極めて大きいうえに、破壊モードの接着性がCF100%と良好であり、吐出性に優れかつチクソトロピー性も良好である。
【0056】
これに対して、比較例1で得られたシリコーン組成物は、せん断接着強さが低いばかりでなく、チクソトロピー性が不良であった。また、比較例2で得られたシリコーン組成物は、せん断接着強さは大きいが、粘度が高すぎて吐出性が不良であった。さらに、比較例3で得られたシリコーン組成物は、せん断接着強さが大きく吐出性も良好であるが、せん断接着試験の破壊モードがCF100%でなく、AFが生じていた。また、チクソ比が低く、チクソトロピー性も十分に良好ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物は、細径のノズルから吐出可能な低い粘度を有するうえに、良好なチクソトロピー性を有する。また、保存安定性に優れ、例えば加熱することにより速やかに硬化する。さらに、硬化物は、各種金属の被着体に対する良好な接着性を持ち、TCFを含まずCF100%という良好な破壊モードを有する。したがって、本発明の付加反応硬化型シリコーン組成物は、半導体装置の接着用材料として有用であり、特に半導体素子を覆うNi,Ni合金など金属製のリッドと基板との接着用材料として好適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にケイ素原子に結合するアルケニル基を少なくとも2個有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)SiO4/2単位(Q単位)、ViRSiO2/2単位(DVi単位)、RSiO2/2単位(D単位)およびRSiO1/2単位(M単位)(式中、Viはビニル基を表し、Rは脂肪族不飽和結合を含まない置換または非置換の1価の炭化水素基を表す。)から成るレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、前記(A)成分と(B)成分との合計に対して30〜40重量%と、
(C)1分子中にケイ素原子に結合する水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、ケイ素原子に結合する水素原子が、前記(A)成分中のケイ素原子に結合するアルケニル基と前記(B)成分中のケイ素原子に結合するビニル基との合計1モル当たり1.0〜1.4モルになる量と、
(D)白金系触媒を、白金分に換算して組成物全体の重量の0.01〜100ppmになる量と、
(E)煙霧質シリカを、前記(A)成分と前記(B)成分との合計に対し2〜20重量%をそれぞれ含有し、
良好なチクソトロピー性を有することを特徴とする付加反応硬化型シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(B)成分であるレジン構造を有するポリオルガノシロキサンにおいて、前記SiO4/2単位(Q単位)、ViRSiO2/2単位(DVi単位)、およびRSiO2/2単位(D単位)の割合が、各単位の合計モル数に対して、それぞれ0.01〜10.00モル%、0.01〜10.00モル%、および50.00〜99.90モル%であることを特徴とする請求項1記載の付加反応硬化型シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(A)成分であるアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンが、23℃における粘度(以下、粘度(23℃)と示す。)が60〜100Pa・sである両末端ビニル基含有ジオルガノポリシロキサンと、粘度(23℃)が1.0〜5.0Pa・sである両末端ビニル基含有ジオルガノポリシロキサンとをそれぞれ含み、粘度(23℃)が10〜20Pa・sであることを特徴とする請求項1または2記載の付加反応硬化型シリコーン組成物。
【請求項4】
粘度(23℃)が200〜600Pa・sであり、回転速度が0.5rpmにおける粘度と4rpmにおける粘度との比(以下、0.5rpm/4rpm粘度比と示す。)で表されるチクソ比が、4.5以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の付加反応硬化型シリコーン組成物。
【請求項5】
(F)接着性向上剤をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の付加反応硬化型シリコーン組成物。
【請求項6】
前記(F)接着性向上剤が、分子中にケイ素原子に結合するアルコキシ基および/またはアルケニルオキシ基と、Si−H基、アルケニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、エステル基、無水カルボキシ基、アミノ基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基をそれぞれ1個以上含有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項5記載の付加反応硬化型シリコーン組成物。
【請求項7】
基板と、該基板上に実装された半導体素子と、前記半導体素子を覆うリッドを有し、前記リッドが、請求項1乃至6のいずれか1項記載の付加反応硬化型シリコーン組成物により基板上に接着されてなることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2008−156578(P2008−156578A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350265(P2006−350265)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】