説明

代謝量測定装置

【課題】個人が簡単に測定できる生理パラメータに基づいて代謝量測定を行う方法および装置を提供する。
【解決手段】環境温度および採血をせずに測定した体温、血流量、血中酸素飽和度などの生理パラメータを用いて、体の熱平衡を考慮した代謝量算出式(6)を使用することにより簡易な代謝量を算出する。
(体全体の代謝量[産熱量])=α(T−T)+β(TFS−T) …(6)
ここで、動脈血温度T、体温T、熱容量実効値α、指の皮膚温度TFS、室温T、対流熱伝導率実効値β。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採血せずに生体中の複数の生理パラメータを測定し、複数の生理パラメータから代謝量を算出する代謝量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
代謝の測定にはいくつかの手法がある。そのうち間接熱量測定は、代謝量を直接測定するのではなく、その代謝量を産生するために消費された酸素量を測定する手法である。間接熱量測定の内、人の顔にマスクを被せ、呼吸する空気を採取し、酸素及び二酸化炭素の消費量を測定する開放回路系の間接熱量測定方法がある。この方法は、運動時と安静時の代謝量の変化などを測定する場合に使用されるが、マスクを長時間つけ続けることが難しいため、短時間の代謝量測定に限られる。より長時間の代謝量を測定するために、密閉された室内に入り、そこで消費される酸素及び二酸化炭素産生量を測定する閉鎖回路系の間接熱量測定方法がある。この方法は、安静時や睡眠時などの代謝量を測定することができ、人への負担も少ないため長時間の測定が可能である。また、人体に無害な水素と酸素の安定同位体が含まれた水を飲み、尿中へ安定同位体が排泄される経過を測定することにより、その間のエネルギー消費量を測定する方法がある。この測定では人の日常生活における平均エネルギー消費量を測定することとなる。また、特開2004−329542号公報には、体表面に由来する複数の温度と血中酸素量とに対応するパラメータと血糖値との関係を利用して血糖値を算出する方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−329542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
代謝量の測定にあたっては、従来、大掛かりな装置を必要とし、日常生活の中で個人が簡単に測定できるようなものではなかった。
【0005】
本発明は、個人が自宅で簡易的に代謝量を測定することができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
代謝によって発生した熱量の多くは体温の維持に費やされ、余分な熱量は体外へ放出される。すなわち、代謝によって発生した熱量(産熱量) は体内に蓄えられる熱量(蓄熱量) と体外へ放出される熱量(放熱量)の和と等しい。この人体の熱制御機構から、蓄熱量、放熱量に基づいて代謝量を算出することができる。
【0007】
本発明による代謝量測定装置は、環境温度を測定する環境温度測定器と、被測定体の体表面上の第1部位に由来する温度を測定する第1部位温度測定器と、被測定体の第1部位とは異なる位置の第2部位の温度を取り込む第2部位温度取り込み部と、第1部位の血流量に関する情報を取り込む血流量取り込み部と、環境温度、第1部位に由来する温度、第2部位の温度、及び血流量と代謝量との関係を記憶した記憶部と、環境温度測定器によって測定された環境温度、第1部位温度測定器によって測定された第1部位温度、第2部位温度温取り込み部によって取り込まれた第2部位温度、及び血流量取り込み部によって取り込まれた血流量を記憶部に記憶した関係に適用して代謝量を演算する演算部と、演算部によって演算された結果を表示する表示部とを備える。
【0008】
本発明による代謝量測定装置は、また、環境温度を測定する環境温度測定器と、体表面の第1部位が接触する体表面接触部と、体表面接触部に接し、かつ一端が開口する筒状部材と、筒状部材の他端の近傍に設けられ、第1部位からの輻射熱を測定する輻射温度計と、第1部位の血流量に関する情報を取得する血流量取得部と、前記筒状部材の前記一端に向けて、少なくとも2つの異なる波長の光を照射する光源と、前記体表面と相互作用した光を検出する光検出器と、体表面の第1部位と異なる部位の第2部位の温度を取り込む第2部位温度取り込み部と、環境温度測定器によって測定された環境温度、輻射温度計によって測定された第1部位の温度、第2部位温度温取り込み部によって取り込まれた第2部位の温度、血流量取り込み部によって取り込まれた血流量、及び光検出器によって測定された光検出結果を、予め記憶した代謝量との関係に適用して代謝量を演算する演算部と、演算部から出力される結果を表示する表示部とを備える。
第2部位温度取り込み部を体温計とし、体温計の出力が演算部に供給されるようにしてもよい。また、第2部位温度取り込み部は、体温を数値入力するための操作部を有していてもよい。第1部位温度測定器は、指置き部と、指置き部に置かれた指の第1部位に由来する温度を測定する温度センサとを有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な代謝量測定装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
人体の熱制御機構の原理に基づき、代謝によって発生した熱量(産熱量)は体内に蓄えられる熱量(蓄熱量)と体外へ放出される熱量(放熱量)の和と等しいため、次式が成り立つ。
(体全体の代謝量[産熱量])=(体全体の蓄熱量)+(体全体の放熱量) …(1)
【0011】
体の部位riにおける体内部温度をT、体の部位riにおける組織温度をTT、体の部位riにおける熱容量をαiとすると、体全体の蓄熱量は体の各部位における蓄熱量の総和となり、以下の式で示すことができる。
【0012】
【数1】

【0013】
式(2)は体の部位ごとの量を取り扱ったものであるが、体内部温度を代表する有効値として体の深部の動脈血温度Taを用い、体の組織温度を代表する有効値として体温Tcを用いる。また熱容量についても、体全体の熱容量を代表する有効値としてαを用いる。このαは各個人の体組成、密度及び体重等に依存する値となる。以上から体全体の蓄熱量は以下の式で表すことができる。
体全体の蓄熱量 =α(Ta−Tc) …(3)
【0014】
また、通常、放熱は伝導、放射、対流及び蒸発により行なわれるが、伝導及び放射は人が服を着ている状態では熱量が小さく無視することができる。蒸発は、発汗がない温度制御が行なわれている室内状態を仮定すると、無視することができる。このため体表面と空気との対流による放熱のみ考慮すると、体の表面部位rjにおける皮膚温度をTS、体の表面部位rjに接する外部温度をTOUT、体の表面部位rjにおける対流熱伝達率をβjとすると、体全体の放熱量は体の表面部位からの放熱量の総和となり、以下の式で示すことができる。
【0015】
【数2】

【0016】
式(4)は体の部位ごとの量を取り扱ったものであるが、体の体表面温度を代表する有効値として指の皮膚温度TFSを用い、外部温度を代表する有効値として室温TRを用いる。また対流熱伝達率についても、体の表面部位全体の対流熱伝達率を代表する有効値としてβを用いる。このβは各個人の表面積及び服装等に依存する値となる。以上により、体全体からの放熱量は以下の式で表すことができる。
体全体の放熱量 = β(TFS−TR) …(5)
【0017】
本実施例で、体全体の放熱を代表する部位として指を用いるのは、指は外部温度の変化に敏感で、皮膚温度や放熱量の変化が大きく現れることと、筋肉が少ないために局所的な産熱量が小さく、体全体の現象をよく反映するからである。
【0018】
式(1),(3),(5)から体全体の代謝量は以下の式で表すことができる。
(体全体の代謝量[産熱量])=α(Ta−Tc) +β(TFS−TR) …(6)
【0019】
指での熱流保存則から、指に入ってくる熱量と指から放熱される熱量は釣り合っていると考えることができる。指の組織に関して、指の深部の動脈温度をTFaとし、指組織の熱伝導率をλ、指組織における血流量をωb、血液の比熱をcb、指表面の対流熱伝達率κとすると、指の熱流保存則は以下の式で表すことができる。この式でχは比例係数である。
λ(χωbbFa−TFS)=κ(TFS−TR) …(7)
【0020】
左辺は動脈から指表面への組織への熱移動を表し、ペン(Penn)の生体熱移動方程式(Pennes H.H., “Analysis of tissue and arterial blood temperatures in the resting human forearm” J. applied physiology, 1, 93-122(1984))に基づいている。
【0021】
ここで、指の深部の動脈温度TFaと体の深部の動脈血温度Taが比例し、TFa=σTa+τと仮定すると、式(7)は以下のようになる。
【0022】
【数3】

【0023】
この式(8)を式(6)に代入すると、式(9)が得られる。
【0024】
【数4】

【0025】
式(9)を使用するためには、各個人によって異なる比例係数a〜eを決定する必要がある。そのためには、人の代謝量を測定し、式(9)と代謝量測定値から各個人の係数を重回帰分析により求める方法を取ることができる。
【0026】
上記モデル式に従い、体の体表面温度を代表する有効値としての指表面温度TFS、室温TR、体の組織温度を代表する有効値としての体温Tc、血流量ωbを測定し、別途測定した比例係数を使用することにより、代謝量を測定することができる。ここでは、体の代表測定ポイントを指先としたが、他の体表面を使うことも可能である。体の組織温度の代表ポイントは舌下、腋下、直腸など、体の体表面温度を代表する有効値としての温度測定部位と異なる部位の温度を測定することにより、体内部の組織温度に相当する温度が得られる。なお、体の体表面温度を代表する有効値としての温度測定部位としては、指表面の他、四肢の部位を利用することもできる。
【0027】
また、代謝量を測定することは大掛かりな装置を必要とするため、人のエネルギー源である血中グルコース濃度と代謝量との関係を使用することにより、グルコース濃度に対応する代謝量を求めることもできる。体全体の代謝量とグルコース濃度の関係は、体の部位rkでグルコース熱産生によって発生する熱量をQG(rj)、脂肪及びアミノ酸等のグルコース以外の物質による熱産生によって発生する熱量をQΠ(rj)とすると、体全体の代謝量は体の各部位で発生する熱量総和となり、以下の式で示すことができる。
【0028】
【数5】

【0029】
式(10)は体の部位ごとの熱量を取り扱ったものであるが、体全体での平均的な細胞内グルコース濃度Gcは細胞内のグルコースによる代謝量と比例し、体全体での平均的なグルコース以外の物質の細胞内濃度Πは細胞内のグルコース以外による代謝量と比例すると仮定し、比例係数をA,Bとすると、体全体の代謝量は以下の式で表すことができる。
体全体の代謝量 = AGc+BΠ …(11)
式(9)と式(11)より、以下の式が成立する。
【0030】
【数6】

【0031】
上記モデル式に従い、体の体表面温度を代表する有効値としての指表面温度TFS、室温TR、体の組織温度を代表する有効値としての体温Tc、血流量ωbを測定し、別途測定した比例係数を使用することにより、血中グルコースに対応した代謝量AGcを測定することができる。
【0032】
また、より精度を向上させたい場合は、組織酸素飽和度を考慮する。体全体の放熱量は使用される酸素量に比例するため、Gc+Π∝[O2消費量]の関係が成立する。組織酸素飽和度StO2はO2消費量と同義なため、以下の式で表すことができる。
StO2=a’Gc+b’Π …(13)
式(12)と式(13)より式(14)が成立する。
【0033】
【数7】

【0034】
上記モデル式に従い、体の体表面温度を代表する有効値としての指表面温度TFS、室温TR、体の組織温度を代表する有効値としての体温Tc、血流量ωb、組織酸素飽和度StO2を測定し、別途測定した比例係数を使用することにより、血中グルコースに対応した代謝量である((ab’-a’b)/b’)Gcを測定することができる。
【0035】
また、式(14)の係数を整理すると式(15)のようになり、グルコース濃度を算出することが出来る。
【0036】
【数8】

【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0038】
最初に、指表面温度及び室温については、一例として測温抵抗体や輻射熱を測定する輻射温度計を使用すれば比較的容易に測定することができる。また、体温については測温抵抗体を使用した電子体温計や輻射温度計を使用した耳式体温計等で舌下体温、腋下体温、直腸温度及び鼓膜温度を比較的容易に測定することができる。血流量は、一例としてドップラー効果を利用したレーザー血流計で計測することができ、また、指に微小な熱量を加えてその温度変化を測定する方式でも測定することができる。組織酸素飽和度は、光学式の酸素飽和度を求める機能を持つパルスオキシメータや組織酸素飽和度計で無侵襲に測定することができる。
【0039】
図1は、各種センサによる測定値と、それから導出されるパラメータとの関係を図示した説明図である。輻射温度計を使用して指の表面温度TFSを測定し、サーミスタを用いて室温TRを測定する。本体に接続された又は市販の体温計を使用し、体温Tcを測定する。また、ヘモグロビンの吸収に関係する波長で光強度Iを測定し、血流量ωbを算出する。指の表面温度TFSと血流量ωbより、動脈血温度に関するパラメータを算出する。また、ヘモグロビンの吸収に関係する少なくとも2種類の波長で吸光度A,Aを測定し、モグロビン酸素飽和度に関するパラメータを算出する。
【0040】
図2は、本発明による代謝メーターの上面図である。この装置では、体表面として指先の腹の皮膚を使うが、計測の原理上、他の体表面を使うことも可能である。
【0041】
装置には体温を測定する体温測定部1と、室温、指表面温度、血流量及び組織酸素飽和度を測定する本体部2に分かれ、体温測定部1と本体部2とは配線部3で接続されている。本実施例では、体温測定部1と本体部2を接続し、体温測定部1で測定した体温データを本体部2に送信するようになっているが、一般に販売されている体温計を使用し、その体温データを本体部2の操作部10を使用して入力するようにしても良い。また、血流量や組織酸素飽和度を、一般に販売されている装置を使用し、その血流量データや組織酸素飽和度データを本体部2の操作部10を使用して入力するようにしても良い。図3に体温及び血流量を一般の装置で測定することとした場合の、本発明による代謝メーターの上面図を示す。
【0042】
体温データ等の入力は、一例として図4に示すような画面で行なうことができる。この例では36.50℃を規定値で表示するようにし、1の位に下線が表示され、入力対象であることが示されている。ここで操作ボタン10b,10cを使用して数値を変更する。すなわち、表示されている数値を増やす場合には操作ボタン10bを押し、減らす場合には操作ボタン10cを押して、測定した体温となるように入力し、その後、操作ボタン10dを押して体温の1の位を決定する。後は同様の操作で小数点第1位及び第2位を入力し、体温データを入力する。もし誤って操作ボタン10dを押してしまったら、操作ボタン10aを押すことにより、入力をやり直すことができる。
【0043】
装置上面には、操作部10、測定対象となる指が置かれる測定部12、測定結果の表示、装置の状態や測定値などを表示する表示部11が設けられている。操作部10には、装置の操作を行うための4個の押しボタン10a〜10dが配置されている。測定部12にはカバー14が設けられ、カバー14を開けると(図はカバーを開けた状態を示す)、楕円型の周縁を持つ指置き部13がある。指置き部13の中には、輻射温度センサ部の開口端 22と光学センサ部30、温度センサ部20がある。
【0044】
図5に、装置の操作手順を示す。操作部10のボタンを押し、装置の電源を入れると、表示部11に「ウォーミングアップ」が表示され、装置内の電子回路がウォーミングアップされる。同時に、チェックプログラムが作動し、電子回路を自動的にチェックする。「ウォーミングアップ」が終了すると、表示部11に「指を置いてください」と表示される。指置き部13に指を置くと、表示部11にカウントダウンが表示される。カウントダウンが終了すると、表示部11に「指を離してください」と表示される。指置き部13から指を離すと、表示部11に「データ処理中」が表示される。その後、表示部11に血中グルコース濃度に相当する代謝量が表示される。この時点で、表示された血糖値は、日時・時間とともにICカードに記憶される。表示された代謝量を読み取ったら、操作部のボタンを押す。装置は、約1分後に、次の測定を待つ「指を置いてください」が表示部11に表示された状態になる。
【0045】
図6は測定部の詳細を示す図であり、(a)は上面図、(b)はそのXX断面図、(c)はそのYY断面図である。
【0046】
最初に、本発明の代謝メーターによる温度測定について説明する。指置き部13に置かれた被検部(指の腹)を見通せる装置内部の位置に赤外線レンズ25が配され、赤外線レンズ25の下方に赤外線透過窓26を介して焦電検出器27が配置されている。また、サーミスタ23は室温を測定するために使用され、指を置く直前の温度を室温とする。
【0047】
このように本実施例の温度センサ部は3個の温度センサを有し、次の3種類の温度を測定する。
(1)指の輻射温度(焦電検出器27):TFS
(2)室温(サーミスタ23):TR
(3)体温(体温測定部1):Tc
【0048】
次に、光学センサ部30について説明する。光学センサ部は、組織酸素飽和度を求めるために必要なヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度とを測定するためのものである。ヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度を測定するには最低2波長での吸光度測定が必要であり、図6(c)は2個の光源33,34と1個の検出器35によって2波長測定を行うための構成例を示している。
【0049】
光学センサ部30には、2個の光ファイバー31,32の端部が位置する。光ファイバー31は光照射用の光ファイバーであり、光ファイバー32は受光用の光ファイバーである。図6(c)に示すように、光ファイバー31は支線となるファイバー31a,31bにつながり、それらの末端には2つの波長の発光ダイオード33,34が配されている。受光用光ファイバー32の末端には、フォトダイオード35が配されている。発光ダイオード33は波長830nmの光を出射し、発光ダイオード34は波長780nmの光を出射する。この2つの近赤外光を用いて、酸素化及び還元ヘモグロビンの濃度変化、そしてその総和であり血液量に対応する総ヘモグロビン濃度変化を計測する。
【0050】
2個の発光ダイオード33,34は時分割的に発光し、発光ダイオード33,34から発生された光は光照射用光ファイバー31から被検者の指に照射される。指に照射された光は、指の皮膚で拡散反射し、受光用光ファイバー32に入射してフォトダイオード35によって検出される。指に照射された光が指の皮膚で拡散反射されるとき、光は皮膚を通して組織内部に侵入し、毛細血管を流れる血液中のヘモグロビンによる吸収を受ける。フォトダイオード35による測定データは反射率Rであり、吸光度は近似的にlog(1/R)で計算される。波長830nmと波長780nmの光について各々照射を行い、各々につき反射率Rを測定し、かつlog(1/R)を求めることにより、波長830nmの吸光度A1と波長780nmの吸光度A2が測定される。
【0051】
還元型ヘモグロビン濃度を[Hb]、酸素結合型ヘモグロビン濃度を[HbO2]とすると、吸光度A1及び吸光度A2は次式で表される。
【0052】
【数9】

【0053】
AHb(830nm)とAHb(780nm)、AHbO2(830nm)とAHbO2(780nm)はそれぞれ還元型ヘモグロビン、酸素結合型ヘモグロビンのモル吸光係数であり各波長で既知である。aは比例係数である。ヘモグロビン濃度[Hb]+[HbO2]、ヘモグロビン酸素飽和度[HbO2]/([Hb]+[HbO2])は上式から次のように求められる。
【0054】
【数10】

【0055】
なお、ここでは2波長による吸光度測定によってヘモグロビン濃度とヘモグロビン酸素飽和度を測定する例について説明したが、3波長以上で吸光度を測定することによって、妨害成分の影響を低減し、測定精度を高めることも可能である。
【0056】
血流量については、同様に指で散乱反射された光のうち、発光ダイオード34の780nmの光の周波数スペクトルから以下の式で求めることができる。
【0057】
【数11】

【0058】
ここで、k1は比例定数、ωは角周波数、P(ω)は信号のパワースペクトル、Iは波長780nmの受光量である。
【0059】
図7は、装置内におけるデータ処理の流れを示す概念図である。本例の装置には、体温測定部1,サーミスタ23,焦電検出器27,フォトダイオード35からなる4個のセンサがある。フォトダイオード35では波長830nmの吸光度と波長780nmの吸光度を測定する、装置には5種類の測定値が入力されることになる。
【0060】
5種類のアナログ信号は、それぞれA1〜A4の増幅器を経由して、AD1〜AD4のアナログ・デジタル変換器によってデジタル変換される。デジタル変換された値から5つの生理パラメータ(体温、室温、指表面温度、血流量、組織酸素飽和度)が計算される。
【0061】
これら5つの生理パラメータをもって、最終的な表示を行なうための代謝量への変換計算が行なわれる。図8は、装置の機能ブロック図を示す。本装置はバッテリー41で駆動される。温度センサ及び光学センサで構成されるセンサ部43で測定した信号は、各々の信号に対応して設置されるアナログ・デジタル変換器44(アナログ・デジタル変換器AD1〜AD4)へ入りデジタル信号へ変換される。マイクロプロセッサ45の周辺回路としては、アナログ・デジタル変換器AD1〜AD4、液晶表示器11、RAM42があり、これらは各バスライン46を介してマイクロプロセッサ45からアクセスされる。また、押しボタン10a〜10dはそれぞれマイクロプロセッサ45と接続されている。マイクロプロセッサ45はソフトウェアを格納するROM47を内蔵している。またマイクロプロセッサ45は、ボタン10a〜10dを押すことによって、外部からの指令を受けることができる。
【0062】
マイクロプロセッサ45に内蔵されたROM47は、処理計算に必要なプログラムを記憶する。マイクロプロセッサ45はさらに、ヘモグロビン酸素飽和度の定数を格納するヘモグロビン酸素飽和度定数格納部48と、血流量の定数を格納する血流量定数格納部29とを内蔵している。計算プログラムは指の測定終了後、Hb/O2定数格納部及び血流量定数格納部から最適定数を呼び出して計算する。また、処理計算に必要なメモリー領域は、同様に装置に組み込まれているRAM42に確保される。計算処理された結果は、液晶表示部11に表示される。
【0063】
また、本実施例では、装置内で代謝量の計算を実施しているが、ICカードに生理パラメータを保存し、例えば別PCでICカードデータを読み込み代謝量を計算することができる。
【0064】
ROMには処理計算に必要なプログラム構成要素として、特に代謝量を求めるための関数が入っている。この関数は以下のように定められたものである。まず、代謝量は式(9)で表現される。式(9)中の計数a〜eは、複数の測定データから前もって決定されている。a〜e(ai(i=0,1,2,3,4))を求める手順は以下のとおりである。
(1)生理パラメータと別途測定した代謝量の関係を示す重回帰式を作成する。
(2)最小二乗法によって得られた式から生理パラメータに関する正規方程式(連立方程式)を求める。
(3)正規方程式から係数ai(i=0,1,2,3,4,5)の値を求め、重回帰式に代入する。
【0065】
また、グルコース濃度は式(15)で表現される。式(15)中の計数a〜fは、複数の測定データから前もって決定されている。a〜f(ai(i=0,1,2,3,4,5))を求める手順は上記代謝量と同様に行なうことができる。ここでは、グルコース濃度の例をしめす。
【0066】
初めに、血中グルコース濃度Gcと生理パラメータX1=(TFS−TR)/ωb,X2=TFSb,X3=(TFS−TR),X4=Tc,X5=StOの関係を表す次の回帰式(19)を作る。
【0067】
【数12】

【0068】
続いて、酵素電極法による血中グルコース濃度測定値Gcとの誤差が最小になるような重回帰式を求めるため、最小二乗法を用いる。残差の二乗和をDとすると、Dは次式(20)で表される。
【0069】
【数13】

【0070】
残差の二乗和Dが最小になるのは、式(20)をa0,a1,…,a5で偏微分してゼロとなるときなので、次式が得られる。
【0071】
【数14】

【0072】
C、X1〜X5の平均値をCmean、X1mean〜X5meanとするとXimean=0(i=1〜5)であるので、式(19)から式(22)が得られる。
【0073】
【数15】

【0074】
また、正規化パラメータ間の変動・共変動は、式(23)で表され、正規化パラメータXi(i=1〜5)とCとの共変動は式(24)で表される。
【0075】
【数16】

【0076】
式(22)(23)(24)を式(21)に代入して整理すると、連立方程式(正規方程式)(25)が得られ、これを解くことでa1〜a5が求まる。
【0077】
【数17】

【0078】
定数項a0は、式(22)を用いて求める。以上で求めた ai(i=0,1,2,3,4,5)は装置製造時にROMに格納されている。装置による実際の測定では、測定値から求めた正規化パラメータX1〜X5を回帰式(19)に代入することで、グルコース濃度が算出される。また、ai(i=0,1,2,3,4,5)は装置製造時ではなく、販売後に使用する個人毎に求めICカードに収納することもできる。
【0079】
以下に、代謝量の算出過程の具体例を示す。予め大人数に対して測定した多数のデータから式(9)の係数が決められており、マイクロプロセッサのROMには下記の代謝量の算出式が格納されている。
【0080】
【数18】

【0081】
測定値の一例として、測定データTc = 36.45、TFS−TR =7.80、(TFS−TR)/ωb =13.11、TFSb =54.03を上記の式に代入すると8.8kJとなる。この時の閉鎖回路系の間接熱量測定法による代謝量は8.7kJである。また、閉鎖回路系の間接熱量測定法による代謝量が8.2kJの時の測定データTc =36.99、TFS−TR =6.76、(TFS−TR)/ωb =7.68、TFSb =35.41を上記の式に代入すると7.9kJとなる。
【0082】
図9は、縦軸を本発明の方法による代謝量の算出値、横軸を閉鎖回路系の間接熱量測定法による代謝量の測定値として、複数の被験者に対してそれぞれの測定値をプロットした図である。本法の様に人の体温・指温度・血流量を測定し代謝量を算出することで良好な相関が得られる(相関係数=0.82)。
【0083】
以下に、グルコース濃度の算出過程の具体例を示す。予め大人数に対して測定した多数のデータから式(15)の係数が決められており、マイクロプロセッサのROMには下記のグルコース濃度の算出式が格納されている。
【0084】
【数19】

【0085】
測定値の一例として、測定データTc = 36.45、TFS−TR =7.80、(TFS−TR)/ωb =13.11、TFSb =54.03、StO2=0.72を上記の式に代入すると148.1となる。この時の血中グルコース濃度は178.6mg/dlである。また、血中グルコース濃度が203.4mg/dlの時の測定データTc =36.52、TFS−TR =7.81、(TFS−TR)/ωb =11.30、TFSb =46.51、StO2=0.49を上記の式に代入すると201.5mg/dlとなる。
【0086】
図10は、縦軸を本発明の方法によるグルコース濃度の算出値、横軸を酵素電極法によるグルコース濃度の測定値として、複数の被験者に対してそれぞれの測定値をプロットした図である。本法の様に人の体温・指温度・酸素供給量・血流量を測定し血中グルコース濃度を算出することで良好な相関が得られる(相関係数=0.84)。
【0087】
また、算出したグルコース濃度に式(11)の係数Aを掛けると、血中グルコース濃度に対応した代謝量を算出することができる。
【0088】
実施例ではグルコース濃度に対応した代謝量を求めたが、グルコース以外の物質の代謝量として、中性脂肪及び/又はコレステロールによる代謝量があり、これらの血中濃度と測定値とから算出式を作成し、中性脂肪やコレステロール濃度に対応した代謝量も求めることができる。
【0089】
また、算出した代謝量又はグルコース濃度又は血中グルコース濃度等に対応した代謝量の蓄積された測定値の傾向が、健常者と、動脈硬化や心疾患、耐糖能異常などの代謝病の疾患を患っている患者と異なるため、これら算出した値は、病態を把握できる指標としても使用することができる。蓄積された代謝量を時系列的に表示することによって、その傾向についての判断が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】各種センサによる測定値と、それから導出されるパラメータとの関係を示す説明図。
【図2】本発明による代謝メーターの上面図。
【図3】本発明による代謝メーターの上面図。
【図4】数値の入力操作を示す図。
【図5】装置の操作手順を示す図。
【図6】測定部の詳細図。
【図7】装置内におけるデータ処理の流れを示す概念図。
【図8】装置内におけるデータ保管場所を示す概念図。
【図9】本発明による代謝量の算出値と従来法で測定した代謝量のプロット図。
【図10】本発明によるグルコース濃度の算出値と酵素電極法によるグルコース濃度の測定値のプロット図。
【符号の説明】
【0091】
1…体温測定部、2…本体部、3…配線部、10…操作部、11…表示部、12…測定部、13…指置き部、22…輻射温度センサ部の開口端、20…温度センサ部、30…光学センサ部、21…プレート、23…サーミスタ、25…赤外線レンズ、26…赤外線透過窓、27…焦電検出器、31,32…光ファイバー、33,34…光源、35…フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境温度を測定する環境温度測定器と、
被測定体の体表面上の第1部位に由来する温度を測定する第1部位温度測定器と、
前記被測定体の前記第1部位とは異なる位置の第2部位の温度を取り込む第2部位温度取り込み部と、
前記第1部位の血流量に関する情報を取り込む血流量取り込み部と、
前記環境温度、前記第1部位に由来する温度、前記第2部位の温度、及び前記血流量と代謝量との関係を記憶した記憶部と、
前記環境温度測定器によって測定された環境温度、前記第1部位温度測定器によって測定された第1部位温度、前記第2部位温度温取り込み部によって取り込まれた第2部位温度、前記血流量取り込み部によって取り込まれた血流量を前記記憶部に記憶した前記関係に適用して代謝量を演算する演算部と、
前記演算部によって演算された結果を表示する表示部と
を備えることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の代謝量測定装置において、前記第2部位温度取り込み部は体温計からなり、前記体温計の出力が前記演算部に供給されることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の代謝量測定装置において、前記第2部位温度取り込み部は、体温を数値入力するための操作部を有することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の代謝量測定装置において、前記血流量取り込み部は、前記第1部位に光を照射する光源と、前記第1部位から散乱反射された光の周波数スペクトルを測定する光測定器とを有することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項5】
請求項1記載の代謝量測定装置において、前記血流量取り込み部は、血流量を数値入力するための操作部を有することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項6】
請求項1記載の代謝量測定装置において、前記第1部位の酸素飽和度に関する情報を取り込む酸素飽和度取り込み部をさらに有し、前記記憶部は、前記第1部位に由来する温度、前記第2部位の温度、及び前記血流量及び前記酸素飽和度と代謝量との関係を記憶し、前記演算部は、前記環境温度測定器によって測定された環境温度、前記第1部位温度測定器によって測定された第1部位温度、前記第2部位温度温取り込み部によって取り込まれた第2部位温度、前記血流量取り込み部によって取り込まれた血流量、前記酸素飽和度取り込み部によって取り込まれた酸素飽和度を前記記憶部に記憶した前記関係に適用して代謝量を演算することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項7】
請求項6記載の代謝量測定装置において、前記酸素飽和度取り込み部は、少なくとも2つの異なる波長の光を照射する光源部と、前記体表面で散乱された前記光源部からの光を検出する検出器と、前記検出器による検出結果からヘモグロビン酸素飽和度を演算する手段とを有することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項8】
請求項6記載の代謝量測定装置において、前記酸素飽和度取り込み部は、酸素飽和度を数値入力するための操作部を有することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項9】
請求項1記載の代謝量測定装置において、前記第1部位温度測定器は、指置き部と、前記指置き部に置かれた指の前記第1部位に由来する温度を測定する温度センサとを有することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の代謝量測定装置において、前記温度センサは前記第1部位に由来する輻射温度を測定するものであることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項11】
環境温度を測定する環境温度測定器と、
体表面の第1部位が接触する体表面接触部と、
前記体表面接触部に接し、かつ一端が開口する筒状部材と、
前記筒状部材の他端の近傍に設けられ、前記第1部位からの輻射熱を測定する輻射温度計と、
前記第1部位の血流量に関する情報を取得する血流量取得部と、
前記筒状部材の前記一端に向けて、少なくとも2つの異なる波長の光を照射する光源と、
前記体表面と相互作用した光を検出する光検出器と、
前記体表面の前記第1部位と異なる部位の第2部位の温度を取り込む第2部位温度取り込み部と、
前記環境温度測定器によって測定された環境温度、前記輻射温度計によって測定された第1部位の温度、前記第2部位温度温取り込み部によって取り込まれた第2部位の温度、及び前記血流量取り込み部によって取り込まれた血流量、及び前記光検出器によって測定された光検出結果を、予め記憶した代謝量との関係に適用して代謝量を演算する演算部と、
前記演算部から出力される結果を表示する表示部と
を備えることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項12】
請求項11記載の代謝量測定装置において、前記第2部位温度取り込み部は体温計であることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項13】
請求項11記載の代謝量測定装置において、前記第2部位温度取り込み部は、体温を数値入力するための操作部であることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項14】
請求項11記載の代謝量測定装置において、前記第1部位は被測定体の四肢の部位であり、前記輻射熱検出器は、前記四肢の部位に由来する輻射熱を測定することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項15】
請求項11記載の代謝量測定装置において、前記演算部から出力される結果を蓄積する蓄積部を有し、前記蓄積部に蓄積されたデータを前記表示部に時系列的に表示することを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項16】
請求項11記載の代謝量測定装置において、前記代謝量は、グルコースの代謝の量であることを特徴とする代謝量測定装置。
【請求項17】
請求項11記載の代謝量測定装置において、前記代謝量は、中性脂肪及び/又はコレステロールの代謝の量であることを特徴とする代謝量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−105323(P2007−105323A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300797(P2005−300797)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】