説明

代謝障害の治療のためのドーパミン作動薬と第一相インスリン分泌促進薬の組合せ

本発明は、中枢ドーパミン活性を増加する薬剤(単数又は複数)及び第一相インスリン分泌促進薬の使用を含む、代謝障害又は代謝障害の重要な要素を治療する方法を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、代謝障害の治療のための、第一相インスリン分泌促進薬を加えた、中枢ドーパミン活性を増加する薬剤を対象とする。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記述
2型糖尿病(T2D)は、食事の摂取後などの血糖が異常に高い場合の、インスリン感受性組織への血液循環からの血糖の除去を引き起こすその正常な作用に対する体の抵抗性による正常な血漿血糖値を維持するためのインスリンの無効性、及び同様に特に食事/グルコースチャレンジ(glucose challenge)後の適切な量のインスリンを分泌するベータ細胞の不全の両方によって特徴付けられる。ベータ細胞不全と一体となったこのインスリン抵抗性は、異常に高い循環血漿血糖値をもたらし、集合的に、T2D患者の主な死亡原因である心血管疾患にかかりやすくする脂質異常症及び高血圧などの無数の他の代謝障害と一体となる。2型糖尿病は、現在、世界に流行しており、2億人を上回る人々が、この疾患に罹患しており、世界保健機関は、2030年までに世界中にこの疾患に罹患した約3億人の人々が存在するであろうことを予想している。さらに、前糖尿病と呼ばれる状態も、2型糖尿病と比べて約2倍の罹患した個人の数で世界的に増加している。前糖尿病の定義は、保健機関の間で異なるが、一般的に、空腹時血糖異常(IFG)(110−125mg/dlの空腹時血糖値)又は耐糖能異常(IGT)(1dL当たり140から199mg(7.8から11.0mmol)を上回る経口グルコース負荷(75g)後2時間血漿血糖)に分類され、率直なT2Dの発症の増加したリスクを伴う。IFG及びIGTは、明らかな代謝異常である(Abdul−Ghani MAら、Diabetes 55巻:1430−35頁、2006年)。現在、グルコース負荷後1時間血漿血糖値は、IFG及びIGTに比べて将来のT2D発病のより良い予測指標(predictor)であるように見える(Abdul−Ghani MAら、Diabetes Care 32巻:281−86頁、2009年)。実際、空腹時高血糖症及び正常なグルコース負荷後2時間血漿血糖値を有する対象において、将来のT2D発病を最も良く予測するのは1時間血漿血糖である(Abdul−Ghani MAら、Diabetes Care 33巻:557−561頁、2010年)。経口グルコース負荷へのインスリン分泌反応は、一般的に、第一及び第二相反応からなる。インスリンは、動脈血糖濃度における方形波の増加に反応して二相の様式で膵臓から放出される。第一相は、約10分続く短いスパイクからなり、続いて第二相があり、これは2−3時間で水平状態に到達する。第一相インスリン放出の減少は、2型糖尿病を患う運命にある個体におけるβ細胞機能の最も早い検出可能な欠点であること、及びこの欠点は、前のインスリン抵抗性に対する数年の補償の後のβ細胞消耗を大いに表していることは広く考えられている。IGTを患う対象は、第一及び第二相インスリン分泌反応不全を特徴とするが、IFGを患う対象は、主として、第一相インスリン分泌反応不全を特徴とする(Abdul−Ghani MAら、Eur J Clin Invest in press;Ferrannini Eら、Diabetologia 46巻:1211−1219頁、2003年)。T2Dを患う対象は、インスリン分泌の両相に機能障害を有する。IFG、IGT及びT2Dを患う対象はすべて、インスリン抵抗性を有する。食後血糖代謝異常(高い食後血糖値、食後高血糖)は、T2Dへの進行のみならず心血管疾患(CVD)のリスク要素として確認されている(Bonora Eら、Diabetologia 44巻:2107−14頁、2001年;Ceriello Aら、Nutr Metab Cardiovasc Dis 16巻:453−6頁、2006年;Di Filippo Cら、Curr Diabetes Rev 3巻:268−73頁、2007年)。従って、食後高血糖は、全体的な代謝及び心臓血管の健康を改善するために、前糖尿病及びT2Dの対象において同様に修正することが重要である。しかし、食後インスリン抵抗性を治療する方法は、あまり注目されてこなかったし、筋肉及び肝臓においてこの食後インスリン反応を制御するものは、あまり知られていない。現在、前糖尿病又はT2Dを患う対象において食後インスリン抵抗性及び第一相インスリン分泌反応を改善する利用可能な治療方法は存在しない。これらの異常の両方を修正する能力は、IFG、IGT及びT2Dを患う対象に、より良い食後血糖コントロール及び健康アウトカムをもたらすであろう。必要とされるものは、IFG、IGT及びT2Dを改善する方法として食後インスリン抵抗性及び第一相インスリン分泌の両方を治療する簡単な方法である。
【発明の概要】
【0003】
中枢/視床下部ドーパミン活性が、インスリン感受性非T2D対象で高い時及びこのような対象で低い時の特に1日の適切な時間における、(ブロモクリプチンなどの)中枢作用ドーパミン作動薬又は中枢ドーパミン活性を増加する化合物の定時の1日1回投与は、インスリン放出を増加することなく食後血糖代謝を改善すること(FDA Cycloset(登録商標)貼付文書2009年)が、最近、確かめられた。これは、このようなドーパミン作動薬による治療は、食後インスリン抵抗性を改善し得ることを示唆している。現在、IFG、IGT、又はT2Dを治療するこのような方法を、第一相インスリン分泌促進薬と組み合わせると、これらの障害を低減する相乗効果を生じることができることが、驚くべきことに見出された。本発明において有用なさらなるドーパミン作動薬には、キンピロール、キネロラン、タリペキソール、ロピニロール、アポモルヒネ、リスリド、テルグリド、フェノルドパム、ジヒドロエルゴトキシン、ヒデルギン(hydergine)、ジヒドロエルゴクリプチン、及びこれらの組合せが含まれる。最も好ましい中枢作用ドーパミン作動薬はブロモクリプチンである。
【0004】
ドーパミン作動薬である、ブロモクリプチンメシレートの急速放出、高吸収製剤であるCyclosetは、主にインスリンへの食後反応性を改善することによって、2型糖尿病における血糖コントロールを改善する。第一相インスリン放出における増加を直接的又は間接的に刺激するいくつかの薬剤(第一相インスリン分泌促進薬と呼ばれる)は、2型糖尿病を患う対象における食後血糖値を低下することによって、血糖コントロールにおける改善も生ずる。
【0005】
現在、本発明者らは、2型糖尿病を患う対象における改善された血糖コントロールは、これらの二つの異なる薬剤クラス、例えば、中枢ドーパミン活性に加えて本明細書に定義された第一相インスリン分泌促進薬を増加する薬剤を組み合わせることによって可能であることを見出した。このようなドーパミン活性調節剤及び第一相インスリン分泌促進薬の組合せは、有利な効果を有することが観察された。第一に、本組合せは、血糖コントロールに付加したものを上回る、即ち、相乗効果を生じる。この相乗作用は、Cycloset及び短時間作用型インスリンなどのドーパミン作動薬を用いても実現し得る。第二に、本組合せは、それらの通常の各々の単一投薬使用に比べてこれらのより低い投薬量で組み合わせた場合、Cycloset及びインスリン分泌促進薬の1日の投薬量を減らし、血糖コントロールへの追加の利益を得るのを可能にする。第三に、本組合せは、これらの薬剤の各々の全体的な副作用を低減する。第四に、脂質代謝、血圧、及び血管機能不全、並びに心臓及び腎臓疾患における改善の代謝上の利益も、中枢ドーパミン活性を増加するこの薬剤−第一相インスリン分泌促進薬の組合せと類似した相乗的様式で実現することができる。全体で、この独自の組合せは、各薬剤クラスが、このような代謝障害を治療するために個別に使用されるのに比べてより低い用量で代謝疾患を治療するために、相乗的な増加した有効性及び同時の減少した副作用を可能にする。
【0006】
本組合せ組成物は、代謝症候群、2型糖尿病、肥満、前糖尿病、任意の代謝障害の重要な要素、インスリン抵抗性、高インスリン血症、心血管疾患、高い血漿ノルエピネフリン、増加した心血管関連炎症因子又は血管内皮機能障害の増悪因子(potentiator)、高リポタンパク血症、アテローム性動脈硬化、過食症、高血糖症、高脂血症、高血圧症、及び高血圧から選択される1種又は複数の代謝障害を治療するために有効である。代謝障害の重要な要素は、空腹時血糖不全、耐糖能不全、増加した腹囲、増加した内臓脂肪分、増加した空腹時血漿血糖、増加した空腹時血漿トリグリセリド、増加した空腹時血漿遊離脂肪酸、減少した空腹時血漿高比重リポタンパク値、増加した収縮期又は拡張期血圧、増加した食後血漿トリグリセリド又は遊離脂肪酸値、増加した細胞酸化的ストレス又はそれらの血漿指標、増加した循環高凝固状態、動脈硬化、冠動脈疾患、末梢血管疾患、うっ血性心不全、脂肪肝、腎不全を含む腎疾患、及び脳血管疾患からなる群から選択される。
【0007】
第一相インスリン分泌促進薬には、それだけには限らないが、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)又はその模倣薬、インスリン及び/又はメグリチニド、レパグリニド、ナテグリニド又はジペプチジルペプチダーゼ阻害剤が含まれる。
【0008】
多様な概日中枢神経振動は、米国特許第5,468,755号に記載され、参照によりその全体を本明細書に組み込んだ、それらの概日(タイミング)位相関係の機能として、末梢における多様な生理学的(例えば、代謝)事象の調節及び調整を支配する。代謝状態を支配している一つのこのような概日リズムは、ドーパミン活性の中枢(視床下部)概日リズムである。中枢ドーパミン活性の概日リズムにおける位相シフトは、肥満又は糖尿病の状態に影響を与えることが、先に観察されている。しかし、現在、環境、食事、ストレス、遺伝的特徴及び/又は他の要因による中枢又は視床下部ドーパミン活性の健康な正常な概日リズムから外れた位相シフトは、ずっと異なるより広い生理的調節システムにおいても有効であり、本明細書に記載された代謝症候群の多様で複雑な代謝病状及び代謝症候群に関連した多様で複雑な代謝病状を増強し、それらの原因となることが驚くべきことに見出された。さらに、現在、これらの異常な中枢ドーパミン概日リズムを健康な正常状態のそれに合わせ直すことは、本明細書に記載された代謝症候群の多様で複雑な病状及び代謝症候群に関連した多様で複雑な病状における同時の改善をもたらすことが見出されている。上記に記載の通り、代謝症候群及びその関連した病状は、糖尿病及び肥満と異なる病状を示し、この原因は知られていない。しかし、代謝症候群を患う対象は、この症候群を患っていない対象に比べて心血管疾患を発病する格段に大きなリスクを有する。肥満及び2型糖尿病は、代謝症候群と常に関係があるわけではなく、逆の場合も同じであるので、この主要な健康リスクは、独自の特徴を有する別々の独自の代謝状態を表していることは明らかである。様々な手段によって中枢ドーパミン活性の概日リズムを調節することは、この症候群の、及びこれに関連する多くの病状、例えば、異常な血管緊張、血管の健康、内皮機能、グルコース及び脂質代謝、血管構造に特異的に影響を与える免疫系機能、インスリン作用、及び血液凝固性を減少させるために使用することができる。この同じ概日ドーパミンを合わせ直す方法は、集まって心血管疾患のリスクを増加する一般的又は調和しない起源の生理的病状の一群である心血管代謝(cardiometabolic)リスクを治療するためにも使用することができる。これらのリスク要因には、代謝症候群、同様に、炎症、内皮機能不全、高コレステロール血、糖尿病、肥満、喫煙、性、及び年齢のものが含まれる。代謝症候群、心血管代謝リスク及びそれらの関連した病変を改善するために中枢ドーパミン作動薬を用いてドーパミン活性を単に増加することよりもむしろ、これらの状態の治療におけるこのようなドーパミン作動薬療法から最大の利益を引き出すために、同一種の健康な対象の中枢ドーパミン活性における1日のピークと同時に起きるように、このようなドーパミン作動薬の投与の時期を選ぶことによって、これらの状態により良く影響を与えることができる。
【0009】
さらに、本発明によれば、2型糖尿病を患う又はそれを患っていない全ての対象における、代謝症候群(肥満、インスリン抵抗性、高脂血症、及び高血圧)、MSに関連した非代謝病状(前炎症状態、前凝固状態、前酸化状態、及び/又は内皮機能不全)、動脈硬化、及び/又は心血管疾患を治療するためのドーパミン作動薬の使用は、このような治療の有効性を最大化するために、毎日、特定の間隔で適用される。本明細書に記載された代謝及び非代謝血管障害の治療のための、このような中枢に作用するドーパミン作動薬の使用は、1日の適切な時間(単数又は複数)におけるそれらの投与によって増強され得る。中枢神経系内のドーパミン活性の概日リズム、及び特に、これらのドーパミン神経リズムの、セロトニン神経活性などの他の概日神経活性との位相関係は、概日中枢ドーパミン活性における1日のピークの相に依存して、末梢グルコース及び脂質代謝を調節することが明らかにされている。結局、他と比べた1日の特定の時間におけるドーパミン活性の増加は、2型糖尿病、肥満、前糖尿病、代謝症候群、心血管代謝リスク、高血圧、脂質異常症、インスリン抵抗性、高インスリン血症、脂肪肝、腎疾患、心血管疾患、脳血管疾患、並びに末梢血管障害及び切迫した血管疾患などの代謝疾患及び障害の改善における最大の有効性を生ずる。そのようなものとして、これらの前述の病状及び異常の最大化され成功した治療は、中枢に作用するドーパミン作動薬(単数又は複数)の適切に時間選択した毎日の投与によって達成され得る。このようなドーパミン作動薬療法は、これらの代謝障害(全体的末梢代謝の中枢異常調節)の根本的原因を攻撃するので、肝臓又は筋肉内の生化学的経路などの特定の下流周辺標的に作用することによって、代謝疾患の特定の個別の症状、例えば高血圧又は高コレステロール又は高血糖を攻撃する他の従来の手段によっては一般的に達成し得ない同時の方法で、いくつかの代謝病状における改善を達成することが可能である。このような治療効果は、現在、代謝疾患の療法の一般的装備一式に欠けている。さらに、中枢ドーパミン作動薬療法は、抗糖尿病薬、血圧降下剤、コレステロール降下薬、抗炎症薬、又は抗肥満薬などの周辺の治療薬に直接的又は間接的に結合させて、肥満又は2型糖尿病又は肥満又は2型糖尿病に付随する高血圧などの代謝疾患の特定の態様などの代謝疾患に追加の改善を生ずることができる。本発明のタイミングの態様の詳細は、同時係属国際特許出願公開第WO2008/150480号及び第WO2008/121258号に見出すことができる。
【0010】
代謝症候群(肥満、インスリン抵抗性、高脂血、及び高血圧)を含む代謝障害、代謝障害の重要な要素を含む2型糖尿病、肥満、及び/又は前糖尿病の新規な治療法は、中枢ドーパミン神経活性濃度(特に視床下部に分布するニューロン及び視床下部それ自体の中)における増加及び中枢ノルアドレナリン作動性神経活性濃度(特に視床下部を神経支配する脳幹領域及び視床下部それ自体の中)における減少を同時に刺激する医薬組成物を、このような治療を必要とする哺乳動物種に投与するステップからなる。中枢神経系、特に中枢神経系の視床下部内のドーパミン神経活性のノルアドレナリン作動性神経活性に対する比を増加することは、代謝障害を低減し、代謝症候群、2型糖尿病、肥満、及び/又は前糖尿病及びそれらの重要な要素に関連した状態を改善することが、予想外に見出された。本明細書で定義された通り、「正常な活性」は、ニューロンの活動電位における増加又は減少のいずれかを意味する。より具体的には、本明細書に定義された「神経活性」は、それによって活動電位に影響を与えるニューロンから他へのシナプス神経化学的シグナル伝達における増加又は減少のいずれかを意味する。さらにより厳密には、本明細書に定義される「神経活性」は、それによって第二のニューロンの活動電位又は神経伝達物質放出に影響を与える、別の(第一の[例えば、シナプス前])ニューロン(例えば、内因性神経伝達物質による)から、又は神経調節化合物(例えば、医薬品などの外因性神経伝達物質受容体モジュレーター)からのいずれかからの、(第二の[シナプス後])ニューロンへの生化学的コミュニケーションを意味する。そのようなものとして、ドーパミン神経活性における増加は、a)増加したドーパミンリガンド−ドーパミン受容体結合シグナル伝達(例えば、シナプス後ドーパミン受容体作動薬)と一致する方法で、前記他のニューロン(単数又は複数)の活動電位又は神経伝達物質放出に影響を与える他の(第二)ニューロン(単数又は複数)のドーパミン受容体部位への増加した結合をもたらす、ドーパミン産生(第一)ニューロンからのドーパミン分子の放出の増加、任意の機構によるシナプス内のドーパミン分子の増加、及び/又は任意の供給源(例えば、医薬品)からのドーパミン模倣化合物(単数又は複数)の増加及び/又はb)このようなドーパミン又はドーパミン模倣化合物(単数又は複数)が、前記「他の(第二)ニューロン(例えば、ドーパミン受容体数又は親和性又は反応性の増加として)における活動電位又は神経伝達物質放出に影響を与える能力に対する前記「他の(第二)ニューロン(単数又は複数)の感受性又は反応性における増加を特徴とする。逆に、ドーパミンを産生するニューロン(即ち、シナプス前ドーパミンニューロン)に結合しているドーパミン模倣薬及び/又はそれによってドーパミン放出を減少する神経伝達物質又は神経修飾物質に反応するドーパミン産生ニューロンの増加した感受性又は反応性は、ドーパミン神経活性における減少をもたらす活性と考えられる[それ自体を考慮した場合、本発明を尊重するとドーパミン活性の望ましくない側面である]。明確にするために、シナプス後ドーパミン受容体作動薬には、ドーパミンD1、D2、D3、D4、及びD5受容体作動薬が含まれ、シナプス後ノルエピネフリン受容体拮抗薬には、アルファ2bc及びアルファ1拮抗薬が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
材料及び方法
動物実験
インスリン抵抗性及び耐糖能異常を発病することが知られている雄性シリアンハムスターを、4週齢において購入し、72°F及び14時間:10時間の1日の明:暗サイクルで10週間、齧歯類用飼料で飼育した。動物が、(これらの条件下でインスリン抵抗性及び耐糖能異常になることが知られている)この毎日の光周期で14週齢になったとき、動物の半数に照明13時間後に、ハムスターの体重1kgあたり4mgで2週間、ブロモクリプチンメシレートを腹腔内(IP)投与し、他の半数は、2週間、ビヒクル注射を受けた。
【0012】
2週間の処置後、ブロモクリプチンのグループ及びビヒクルのグループの両方を、2グループに分割して全部で4グループにした:1.2週間ビヒクル及び耐糖能試験(GTT)の開始時ビヒクル、2.2週間ビヒクル及びGTTの開始時エキセンジン−4、3.2週間ブロモクリプチン及びGTT時ビヒクル、4.2週間ブロモクリプチン及びGTT時エキセンジン−4。
【0013】
4つの処置グループの各々の間で、照明後7時間において3g/体重1kgのグルコースによるチャレンジによって、実験の第15日に全ての4実験グループの間で、耐糖能試験を実施した(2週間のブロモクリプチン又はビヒクルの処置及びGTT時にビヒクル又は生理食塩水に溶解したGLP−1類似体である4μg/kgのエキセンジン−4[Sigma Chemical、St Louis、MO]のいずれかのIP注射)。同様に、2週間、ビヒクルで処置された追加のグループのハムスターが、8μg/kgでGTTの日にエキセンジン−4を摂取した。グルコース負荷投与後2時間、30分毎に、血液を頸静脈から抜き取り、血糖値を測定した。
【0014】
同様に設計された4グループの動物の間の実験において、第一相インスリン分泌促進薬(FPIS)としてエキセンジン−4の代わりに240ng/kgでインスリンをIP注射した。
【0015】
人体実験
実験開始前の少なくとも60日間、安定していた、スルホニル尿素投与でほとんど制御されていない494人の肥満した2型糖尿病患者を、多施設実験に入れ、Cyclosetに加えて安定用量の現在使用されているスルホニル尿素による処置に244人をランダム化し、プラセボに加えて安定用量の現在使用されているスルホニル尿素による処置に250人をランダム化した。Cycloset投与の開始前1週間及び開始後24週、患者を臨床研究センターに入れ、標準化した食事を朝食、昼食及び夕食時に与えた。Cycloset投与の開始前1週間及び開始後24週間、食後1時間の血漿インスリン及び糖化ヘモグロビンA1c(HbA1c)(血糖コントロールの指標)を測定した。プラセボと比較したCyclosetが誘発したHbA1cの改善を、実験患者においてベースラインである食後1時間のインスリン値を関数として解析した。
【0016】
結果
動物実験
2週間の定時ブロモクリプチン投与は、グルコース投与後2時間にわたるGTTの間、血糖曲線下面積(AUC)を統計的に有意に低減しなかった(21%減少、P<0.09)。同様に、4ug/kg又は8ug/kgのいずれにおいてもグルコース投与直前のエキセンジン−4は、グルコース投与後2時間にわたるGTTの間、血糖曲線下面積(AUC)を統計的に有意に低減しなかった(19%及び27%減少、それぞれP=0.23及びP=0.13)。しかし、2週間ブロモクリプチンを処置されGTT開始前に4ug/kgでエキセンジン−4を摂取した動物において、60%の血糖AUCの統計的に有意な減少が観測された(P<0.0002)。従って、耐糖能異常に対するドーパミン作動薬処置又は第一相インスリン分泌促進薬のいずれも統計的に有意な効果は、観測されなかったが、これら二つの組合せは、耐糖能異常に著しい改善を生じ、この改善の数値は、別々の二つの薬剤効果の加算より50%大きく、エキセンジン−4の用量を倍にすることの効果の二倍を上回った(P=0.05)。これらの条件を見た場合でも、GTT AUCにおける50%低減は、関連の耐糖能異常におけるしっかりとした改善を表している(Ceriello Aら、Nutr Metab Cardiovasc Dis 16巻:453−6頁、2006年;Abdul−Ghani MAら、Diabetes Care 32巻:281−86頁、2009年)。これらの薬剤のこの相乗効果(0+0=著しい効果)は、第一相インスリン分泌促進薬(FPIS)の用量の低減を可能にし、中枢作用ドーパミン作動薬と組み合わせた場合、より良い結果をさらに達成する(2Xエキセンジン−4用量は、耐糖能異常に利益を生じず、耐糖能異常へのドーパミン作動薬/半分のFPIS用量の数値的効果の半分でさえなかったという結果によって証明されたように)。FPISの低減は、処置対象に有益であるその副作用及びベータ細胞への負荷(ベータ細胞の消耗)を低減することを可能にする。
【0017】
FPISをエキセンジン−4から外因性インスリン自体に置き換えること以外は上記と同様に設計された実験において、このようなグルコース投与後2時間にわたる血糖AUCは、ブロモクリプチンによる2週間の処置(28%減少、P=0.23)によって又はグルコース投与直前のインスリン投与(P=0.64)によって有意に低減されなかった。しかし、2週間、ブロモクリプチンを処置されGTT前にインスリンを摂取した動物は、55%の血糖AUCの減少を示した(P=0.014)。再び、FPIS(インスリン)に加えた中枢作用ドーパミン作動薬の組合せは、各々が任意の有益な結果を生ずることにおいて有効ではなかった個別の処置の合計に比べて格段により大きい効果を生じる。再び、統計的有意性に関係なく数値的に見ても、上記組合せは、実証可能な健康利益と共に、上述の通り、耐糖能異常における著しい改善である、各療法単独の負荷に比べて50%大きい耐糖能異常における低減を生じた。
【0018】
食事前に投与される場合、食後の血漿インスリン値を増加する能力のみを共有する2つの著しく異なるFPIS分子で、この相乗作用が達成されるという観察は、これはクラス現象であり、使用されるFPIS剤に特異的な何かではないことを示している。先に、中枢ドーパミン活性を増加する様々な薬剤は全て、代謝障害を改善することが実証されており、この現象は、一般的な意味において、分子特異的ではなく、クラス効果であることを再び示している。従って、この相乗作用は、クラス相互作用相乗作用であることが完全に予想することができる。
【0019】
ヒトの食事は、一般的に1日3回であるので、独自の剤形に1日の特定時間にのみ中枢ドーパミン活性を増加する短時間作用型薬剤を含む長期間効果のあるFPISを調製することによって、代謝障害のためのこの組合せ相乗的治療薬を毎日1回の投薬に減少させることが可能である。このような剤形は、相乗作用の利益を提供し、1日の適切な時間を選択することによって、ドーパミン刺激の最大効果を可能にし、使用の利便性(1日につき1回だけの投与)を提供する。このような剤形は、投与の非経口又は経口経路の形態を取ることができる。
【0020】
人体実験
平均の食後1時間血漿インスリン値は、実験の開始においてCycloset処置グループ及びプラセボ処置グループの両方において50μU/mlであり、入来HbA1Cは、それぞれ9.4%及び9.5%であった。Cycloset処置グループにおいて、HbA1Cは、24週間の処置にわたって0.3%減少したが、HbA1Cは、プラセボアーム(P<0.0001)において0.26%増加した。入来食後1時間インスリンが<30uU/mlである対象については、HbA1cへのCyclosetの効果は存在せず、入来食後1時間インスリンが>30uU/ml及び<50uU/mlである対象については、Cyclosetの効果は、−0.57(P<0004)であり、入来食後1時間インスリンが>50μU/mlである対象の間では、HbA1cへのCyclosetの効果は、−0.79(P<0.0001)であった。
【0021】
これらの結果は、ドーパミン作動薬のT2D対象における血糖コントロールを改善する効果は、対象における食後1時間インスリン値との間に正の相関が認められることを示しており、中枢ドーパミン活性を増加する薬剤のFPISとの組合せは、グルコース代謝に相乗的改善を生じるであろうという概念を支持している。さらに、これらの動物実験及び人体実験の全体的な結果は、膵臓ベータ細胞機能それ自体を保存している、即ち、チアゾリジンジオン及びグルカゴン様ペプチド1類似体などの、食事グルコースへの適切なベータ細胞インスリン反応性の喪失を遅らせる医薬品は、中枢ドーパミン活性を増加する薬剤と共に、相乗作用を与えて、代謝障害を改善し、血糖コントロールに長く続く利益(例えば、1年以上の間)を生ずるであろうことを示している。代謝障害の治療のための療法のこの組合せは、本発明によって同様に構想される。
【0022】
エキセンジン−4
もともとアメリカドクトカゲ(Heloderma suspectum)(ヒラモンスタートカゲ)の毒から単離された39アミノ酸ペプチドであるエキセンジン−4は、GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)受容体を活性化して膵腺房細胞における細胞内cAMPを増加する。合成エキセンジン−4も、エキセナチド、又はByettaとして知られており、その分子量は、4187である。
【0023】
GLP−1は、消化管ホルモンであり、これは、主としてグルコース依存性インスリン放出を刺激することによって血糖を調節する(第一相インスリン分泌)。エキセンジン−4は、高親和性グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)受容体作動薬である(Kd=136pM)。エキセンジン−4は、GLP−1受容体の長期間作用型作動薬である。エキセナチドは、GLP−1に匹敵する効能を有し、DPP−IVによる劣化に耐性がある。エキセナチドは、主として食後高血糖を減少させることによって血糖コントロールを改善する。
【0024】
本実験で使用されたエキセンジン−4の用量は、Straussら、2008年及びNachnaniら、2010年によって報告された実験に使用された用量と同等である。
(参考文献)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝障害又は代謝障害の重要な要素を治療する方法であって、中枢ドーパミン活性を増加する薬剤(単数又は複数)及び第一相インスリン分泌促進薬を患者に投与するステップを含む上記方法。
【請求項2】
中枢ドーパミン活性を増加する薬剤が、ドーパミン作動薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドーパミン作動薬が、D2受容体作動薬である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ドーパミンD2受容体作動薬が、ブロモクリプチン、リスリド、ヒデルギン(hydergine)、ジヒドロエルゴトキシン、又はセロトニン2B受容体作動薬活性が低い又はそれがない他のドーパミンD2受容体作動薬である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
FPISが、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)又はその類似体、ジペプチジルペプチダーゼ阻害剤、(グルコース依存性インスリン分泌促進ペプチドとしても知られている)胃抑制ポリペプチド、メグリチニド、レパグリニド、ナテグリニド(nataglinide)、又は短時間作用型インスリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
FPISが、チアゾリジンジオン又はGLP−1類似体などの、グルコース刺激インスリン放出に関する膵臓ベータ細胞機能の喪失を遅らせる薬剤として分類される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
代謝障害が、前糖尿病、IFG、IGT、又はT2Dを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
代謝障害が、代謝症候群、2型糖尿病、肥満、前糖尿病、任意の代謝障害の重要な要素、インスリン抵抗性、高インスリン血症、心血管疾患、高い血漿ノルエピネフリン、増加した心血管関連炎症因子又は血管内皮機能障害の増悪因子、高リポタンパク血症、アテローム性動脈硬化、過食症、高血糖症、高脂血症、高血圧症、及び高血圧を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
代謝障害の重要な要素が、空腹時血糖不全、耐糖能不全、増加した腹囲、増加した内臓脂肪分、増加した空腹時血漿血糖、増加した空腹時血漿トリグリセリド、増加した空腹時血漿遊離脂肪酸、減少した空腹時血漿高比重リポタンパク値、増加した収縮期又は拡張期血圧、増加した食後血漿トリグリセリド又は遊離脂肪酸値、増加した細胞酸化的ストレス又はそれらの血漿指標、増加した循環高凝固状態、動脈硬化、冠動脈疾患、末梢血管疾患、うっ血性心不全、脂肪肝、腎不全を含む腎疾患、及び脳血管疾患からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
中枢ドーパミン活性を増加する薬剤が、同一種の健康な対象における1日のその概日リズムの自然なピークの時間に中枢ドーパミン活性を増加する時間及び様式で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、主として朝の覚醒から4時間以内に中枢ドーパミン活性を増加するためにヒトに投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が、朝の覚醒から2時間以内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
このような代謝障害の治療を必要とする代謝障害を患う対象への1日1回の投与のための、1)1日の特定時間に中枢ドーパミン活性を増加する短時間作用型薬剤及び2)1日の食事において食後インスリンを増加する長時間作用型FPISの医薬剤形。

【公表番号】特表2012−529434(P2012−529434A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514225(P2012−514225)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/037605
【国際公開番号】WO2010/141938
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(507272935)ヴェロサイエンス・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】