伝熱板の製造方法
【課題】伝熱板の水密性及び気密性を高めるとともに、平坦性の高い伝熱板を製造することができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】表面10aに凹設された第一凹部12と、この第一凹部12の底面12aに凹設され熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる第二凹部13とを有する本体10に、第二凹部13を封止する蓋部材30を摩擦攪拌接合によって固定して形成される伝熱板の製造方法であって、突合部40に沿って摩擦攪拌接合を行う蓋部材固定工程と、第二凹部13の開口周縁14に沿って回転ツールGを移動させて、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う第二凹部密封工程と、本体10の裏面側に凸となる反りを、本体10の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、を含むことを特徴とする。
【解決手段】表面10aに凹設された第一凹部12と、この第一凹部12の底面12aに凹設され熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる第二凹部13とを有する本体10に、第二凹部13を封止する蓋部材30を摩擦攪拌接合によって固定して形成される伝熱板の製造方法であって、突合部40に沿って摩擦攪拌接合を行う蓋部材固定工程と、第二凹部13の開口周縁14に沿って回転ツールGを移動させて、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う第二凹部密封工程と、本体10の裏面側に凸となる反りを、本体10の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合とは、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、半導体製造装置において冷却用に使用されるヒートプレート(伝熱板)は、板状を呈する本体と、本体の表面に形成された凹部を封止する蓋部材とを摩擦攪拌接合によって形成されている。
【0004】
具体的には、本体は、本体の表面に凹設された第一凹部と、第一凹部の底面に凹設された第二凹部とを有する。蓋部材は、第一凹部に隙間無く配置される形状を呈している。伝熱板は、第一凹部の側壁と蓋部材の側面との突合部に対して摩擦攪拌接合を行うことにより一体成形されている。摩擦攪拌接合によれば、比較的容易にかつ水密性及び気密性の高い製品を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−257490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の伝熱板の製造方法では、第一凹部の側壁と蓋部材の側面との突合部のみを摩擦攪拌接合するだけであるため、例えば第一凹部の底面と蓋部材の裏面との間には微細な隙間が形成されている。かかる隙間は伝熱板の水密性及び気密性を低下させる要因になっていた。また、本体の表面から摩擦攪拌を行うため、熱収縮によって塑性化領域が縮むと、伝熱板が反って撓んでしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、伝熱板の水密性及び気密性を高めるとともに、平坦性の高い伝熱板を製造することができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、表面に凹設された第一凹部と、この第一凹部の底面に凹設され熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる第二凹部とを有する本体に、前記第二凹部を封止する蓋部材を摩擦攪拌接合によって固定して形成される伝熱板の製造方法であって、前記本体の前記第一凹部の側壁と前記蓋部材の側面との突合部に沿って回転ツールを移動させて少なくとも前記突合部の一部に対して摩擦攪拌接合を行う蓋部材固定工程と、前記第二凹部の開口周縁に沿って回転ツールを移動させて、前記第一凹部の底面と前記蓋部材の裏面との重ね合わせ部に対して摩擦攪拌接合を行う第二凹部密封工程と、前記蓋部材固定工程及び前記第二凹部密封工程によって形成された前記本体の裏面側に凸となる反りを、前記本体の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
かかる製造方法によれば、第一凹部の底面と蓋部材の裏面との重ね合わせ部に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部の底面と蓋部材の裏面との微細な隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板の水密性及び気密性を高めることができる。また、矯正工程において本体の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、蓋部材固定工程及び第二凹部密封工程により形成された本体の裏面側に凸となる反りを矯正し、伝熱板の平坦性を高めることができる。
【0010】
また、前記矯正工程では、前記本体を押圧するプレス矯正、前記本体をハンマーなどの衝打具で衝打する衝打矯正、又は前記本体上でロール部材を回転させるロール矯正を行うことにより、前記反りを矯正することが好ましい。また、矯正工程を行う際に、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをプレス矯正、衝打矯正又はロール矯正を行うことが好ましい。
【0011】
かかる製造方法によれば、本体が裏面側に凸の状態から表面側に凸の状態になるように強制的に押圧力が加わって、本体が、反りとは反対側に強制的に撓ませられるため反りを矯正することができる。また、補助部材を配置することで、プレス矯正、衝打矯正又はロール矯正の作業性を高めることができる。
【0012】
また、前記各補助部材は、前記本体よりも硬度が低い材料を用いていることが好ましい。かかる製造方法によれば、プレス矯正、衝打矯正又はロール矯正で押圧する際に、本体を傷つけることなく矯正することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水密性及び気密性が高く、かつ、平坦性の高い伝熱板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態に係る伝熱板を示した分解斜視図である。
【図2】(a)は、小型回転ツール、(b)は、大型回転ツールを示した側面図である。
【図3】第一実施形態に係る蓋部材固定工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)のX1−X1断面図である。
【図4】第一実施形態に係る蓋部材固定工程を示した平面図である。
【図5】第一実施形態に係る第二凹部密封工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)のX2−X2断面図である。
【図6】第一実施形態に係る第二凹部密封工程を示した平面図である。
【図7】第一実施形態に係る第二凹部密封工程後を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、地点c−地点fを結ぶ線の断面図である。
【図8】第一実施形態に係るプレス矯正の準備段階を示した斜視図である。
【図9】第一実施形態に係るプレス矯正を示した側面図であって、(a)はプレス前、(b)はプレス中を示した図である。
【図10】第一実施形態に係るプレス矯正の押圧位置を示した平面図である。
【図11】第一実施形態に係るロール矯正を示した図であって、(a)は斜視図、(b)はプレス前を示した側面図、(c)はプレス中を示した側面図である。
【図12】第二実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は、分解斜視図、(b)は断面図を示す。
【図13】第二実施形態に係る第二凹部密封工程を段階的に示した平面図である。
【図14】第三実施形態に係る伝熱板を示した分解斜視図である。
【図15】第三実施形態に係る第二凹部密封工程を示した平面図である。
【図16】第四実施形態に係る本体を示した斜視図である。
【図17】第四実施形態に係る第二凹部密封工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)X3−X3断面図である。
【図18】仮接合工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)のX4−X4断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る伝熱板の製造方法について図面を適宜参照して詳細に説明する。まず、本発明に係る伝熱板の製造方法によって形成される伝熱板1について説明する。
【0016】
伝熱板1は、図1に示すように、本体10に、蓋部材30を摩擦攪拌接合によって固定して形成される。伝熱板1は、例えば、スパッタリング装置において、ターゲット材を冷却するために使用される。
【0017】
本体10は、略直方体の外観を呈し、本実施形態ではアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。本体10は、本体10の表面(上面)10aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12の内部に凹設された第二凹部13,13と、第二凹部13に連通する貫通孔16とを有する。本体10は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。
【0018】
本体10は、本実施形態ではアルミニウム又はアルミニウム合金から形成したが、他の金属部材で形成してもよい。また、本体10は、本実施形態では外観視略直方体としたが、多角柱体、円柱体等であってもよい。
【0019】
第一凹部12は、蓋部材30が配置される部位である。第一凹部12は、本体10の上面10aよりも一段下がった位置に形成されており、平面視矩形を呈する底面12aと、底面12aから垂直に立設する4つの側壁12bとを有する。側壁12bの高さは、蓋部材30の厚みtと略同等に形成されている。
【0020】
第二凹部13,13は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部13,13は、平面視矩形を呈し、それぞれ略同等の形状に形成されている。第二凹部13,13は、上方が開口しており、第一凹部12の内部において所定の間隔をあけて設けられている。第二凹部13,13の周囲には前記した第一凹部12の底面12aが拡がっている。つまり、第二凹部13,13は、第一凹部12に包囲されている。第二凹部13の形状や設置数は伝熱板1の用途に応じて適宜変更可能である。
【0021】
貫通孔16は、図1に示すように、本体10の外部と第二凹部13とを連通し、熱輸送流体(冷却水)を循環させる部分である。貫通孔16は、第二凹部13,13に連通しつつ、本体10の対向する側面10b,10b間を貫通して形成されている。貫通孔16の形状、数及び形成位置は、冷却水の種類や流量に応じて適宜変更可能である。
【0022】
蓋部材30は、図1に示すように、本体10と同等の材料からなる板状部材である。蓋部材30の平面形状は、本体10の第一凹部12の平面形状と同等に形成されている。蓋部材30は、第一凹部12に配置された後に、摩擦攪拌接合されることで第二凹部13の開口部を封止する。
【0023】
次に、後記する摩擦攪拌接合によって用いる小型の回転ツール(以下、「小型回転ツールF」という。)及び小型回転ツールFよりも大型の回転ツール(以下、「大型回転ツールG」という。)について図2を用いて説明する。
【0024】
図2に示す小型回転ツールFは、工具鋼など本体10よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。小型回転ツールFの寸法・形状は、本体10の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、大型回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、大型回転ツールGを用いる場合よりも小さな負荷で摩擦攪拌接合を行うことが可能となるので、摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、小型回転ツールFの移動速度(送り速度)を大型回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、摩擦攪拌接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0025】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0026】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さくなっている。攪拌ピンF2の長さLAは、蓋部材30の厚みt(図1参照)よりも小さく形成されている。
【0027】
図2の(b)に示す大型回転ツールGは、工具鋼など本体10よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。ショルダ部G1の下端面G11は、小型回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。攪拌ピンG2の長さLBは、蓋部材30の厚みt(図1参照)よりも大きく形成されている。
【0028】
次に、伝熱板の製造方法について説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0029】
まず、図3の(a)に示すように、蓋部材30を、本体10の第一凹部12(図1参照)に配置する。第一凹部12の側壁12bと、蓋部材30の側面30aとが突き合わされ、突合部40が構成される。なお、図3の(b)に示すように、第一凹部12の底面12aと、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う部分を、重ね合わせ部18とする。
【0030】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体10に蓋部材30を接合する。図3の(a)に示すように、右回転させた小型回転ツールFを、本体10の上面10aに設定した開始位置s1に挿入した後、突合部40に沿って移動させる。小型回転ツールFの押込み量、送り速度等は適宜設定すればよい。このとき、本体10の外周面に、本体10を四方向から囲む治具(図示せず)を予め当てておくのが好ましい。これによれば、小型回転ツールF及び大型回転ツールGの押圧力によって本体10が変形しにくくなる。
【0031】
小型回転ツールFの移動について具体的に説明する。小型回転ツールFを、開始位置s1から突合部40の真上位置(小型回転ツールFの中心が突合部40と重なる位置)まで回転させながら移動させる。そして、小型回転ツールFの中心(軸芯)が突合部40上を移動するように、突合部40に沿って小型回転ツールFを移動させる。このとき、突合部40の周囲の本体10と蓋部材30は、一体的に塑性流動化されて塑性化領域W1が形成される。「塑性化領域」とは、小型回転ツールFの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、小型回転ツールFが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。なお、図3の(a)に示すように、塑性化領域W1のうち、突合部40上に最初に突入した部分を始端W1aとする。
【0032】
蓋部材固定工程では、図3の(b)に示すように、攪拌ピンF2の長さが蓋部材30の厚みtよりも小さく、塑性化領域W1が第一凹部12の底面12aに接触しない程度に設定されている。摩擦攪拌接合を行うと、蓋部材30のような比較的薄い部材は、熱収縮によって変形する可能性が高い。したがって、攪拌ピンF2の長さ及び小型回転ツールFの押込み量を小さく設定することにより、蓋部材30の変形を防ぐことができる。
なお、蓋部材固定工程では、小型回転ツールFの攪拌ピンF2の長さを大きくしたり、小型回転ツールFを深く押し込んだりして、塑性化領域W1と底面12aとを接触させてもよい。
【0033】
小型回転ツールFの移動方向(図3(a)参照)と同じ方向に小型回転ツールFが回動するシアー側(被接合部に対する小型回転ツールFの外周の相対速さが、小型回転ツールFの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)が、本体10上に位置するように、小型回転ツールFを回転、移動させる。つまり、突合部40における小型回転ツールFの回転方向(自転方向)が、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。具体的には、本実施形態では、小型回転ツールFを第二凹部13に対して右回りに移動させているので、小型回転ツールFも右回転させる。
【0034】
なお、小型回転ツールFを第二凹部13に対して左回りに移動させるときは、小型回転ツールFを左回転させることとなる。このようにすることによって、小型回転ツールFのシアー側が厚肉の本体10側に位置する。そして、薄肉の蓋部材30側は、小型回転ツールFのフロー側(被接合部に対する小型回転ツールFの外周の相対速さが、小型回転ツールFの外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、蓋部材30側は、メタルの流動量が少なくなり、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、本体10側であって突合部40よりも外側位置の離間した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0035】
小型回転ツールFの回転及び移動を継続し、図4に示すように、小型回転ツールFを、突合部40に沿って一周させる。小型回転ツールFが、塑性化領域W1の始端W1a(図3の(a)参照)を通過したら、小型回転ツールFを本体10の上面10a側に移動させて、終了位置e1で小型回転ツールFを離脱させる。なお、塑性化領域W1のうち、突合部40上に最後に形成される部分を終端W1bとする。
【0036】
このように、塑性化領域W1の始端W1a(図3(a)参照)を小型回転ツールFが通り越すことにより、始端W1aと終端W1bとが互いにオーバーラップするため、塑性化領域W1の一部が重複するように構成される。
【0037】
終了位置e1は、突合部40から外側に外れた位置となっているので、小型回転ツールFの引抜跡が突合部40に形成されることはなく、本体10と蓋部材30との接合性をさらに高めることができる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
【0038】
第二凹部密封工程では、第一凹部12の底面12aと、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では、図5の(a)に示すように、回転させた大型回転ツールGを本体10の上面10aに設定した開始位置SM1に挿入した後、第二凹部13の開口周縁14に沿って移動させ、終了位置EM1まで移動させる。
【0039】
大型回転ツールGの移動について具体的に説明する。本体10の上面10aに設定した開始位置SM1に、右回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが塑性化領域W1を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部13の回りに沿って移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、第二凹部13の周囲には、塑性化領域W2が形成される。図5の(b)に示すように、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBが、蓋部材30の厚みtよりも大きくなっているため、重ね合わせ部18を確実に摩擦攪拌接合することができる。
【0040】
本実施形態では、第二凹部13の開口周縁14から第一凹部12の側壁12bまでの距離D1は、大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1の2倍以上で形成されているため、重ね合わせ部18の幅を十分に確保することができ確実に摩擦攪拌接合を行うことができる。なお、隣り合う第二凹部13,13の間の距離D2(図3の(a)参照)は、少なくとも大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも大きくければよいが、本実施形態ではショルダ部G1の外径Y1の約3倍になっている。
【0041】
また、図5の(b)に示すように、本実施形態では、大型回転ツールGの中心から第二凹部13の開口周縁14までの距離E1は、ショルダ部G1の外径Y1の半径よりも大きくなっている。このようにすれば、摩擦攪拌接合により塑性流動化された塑性流動材が第二凹部13に流入するのを防ぐことができる。
【0042】
また、本実施形態では、第二凹部13の開口周縁14から大型回転ツールGの外周面までの距離E2は、4mmよりも大きくすることが好ましい。距離E2が4mm以下であると、大型回転ツールGと第二凹部13との距離が近くなり、摩擦攪拌接合の際に第二凹部13の内壁が変形する可能性がある。
【0043】
大型回転ツールGを第二凹部13の回りに一周させたら、図5の(a)の矢印に示すように、塑性化領域W2及び塑性化領域W1を横断させて、本体10の上面10aに設定した終了位置EM1まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM1に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
【0044】
第二凹部密封工程では、大型回転ツールGの移動方向と同じ方向に大型回転ツールGが回動するシアー側(被接合部に対する大型回転ツールGの外周の相対速さが、大型回転ツールGの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)が、本体10上の第二凹部13から離間した部位に位置するように、大型回転ツールGを回転、移動させる。つまり、大型回転ツールGの回転方向(自転方向)が、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。具体的には、本実施形態では、大型回転ツールGを第二凹部13に対して右回りに移動させているので、大型回転ツールGも右回転させる。
【0045】
なお、大型回転ツールGを第二凹部13に対して左回りに移動させるときは、大型回転ツールGを左回転させる。かかる方法によれば、大型回転ツールGのシアー側が本体10の第二凹部13から離間した部位に位置する。本体10の第二凹部13に近い部位は、大型回転ツールGのフロー側(被接合部に対する大型回転ツールGの外周の相対速さが、大型回転ツールGの外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、本体10の第二凹部13に近い部位は、メタルの流動量が少なくなり、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、第二凹部13から離間した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0046】
次に、図6に示すように、他方の第二凹部13の回りに形成された重ね合わせ部18に対して、摩擦攪拌接合を行う。本体10の上面10aに設定した開始位置SM2に大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが塑性化領域W1を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部13回りに沿って移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、第二凹部13の周囲に塑性化領域W2が形成される。大型回転ツールGを第二凹部13の回りに一周させたら、図6の矢印に示すように、塑性化領域W2及び塑性化領域W1を横断させて、本体10の上面10aに設定された終了位置EM2まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM2に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。
【0047】
なお、第二凹部密封工程において、開始位置SM1,SM2及び終了位置EM1,EM2は、突合部40よりも外側であれば、他の位置であっても構わない。
【0048】
図7に示すように、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程を行った後、伝熱板1には、塑性化領域W1,W2が形成される。塑性化領域W1,W2は、熱収縮によって縮むため、伝熱板1の表面Za側において、本体2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、伝熱板1は表面Za側が凹となるように(裏面Zb側に凸となるように)、撓んでしまう可能性がある。特に、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jのうち、伝熱板1の四隅に係る地点a,c,f,hにおいては、その反りの影響が顕著に現れる傾向がある。なお、地点jは、伝熱板1の中心地点を示し、地点b,d,e,gは、本体2の各辺の中間地点を示す。また、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jに対応する裏面Zbの各点を地点a’〜j’とする。また、伝熱板1の地点aから地点f方向を縦方向、地点aから地点c方向を横方向とする。
【0049】
矯正工程では、伝熱板1(本体2)の裏面Zbから、本体2の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させて、前記した接合工程により形成された伝熱板1の反りを矯正する。矯正工程では、以下に記すプレス矯正、衝打矯正及びロール矯正の三種類の方法からいずれか一以上の方法を選択して行えばよい。まず、プレス矯正について説明する。
【0050】
(プレス矯正)
前記した第二凹部密封工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、図8に示すように、伝熱板1の裏面Zbが上方を向くように裏返し、裏面Zbの中心地点j’(図7の(b)参照)に板状の第一補助部材T1を配置する。さらに、伝熱板1の表面Za側の四隅に、板状の第二補助部材T2,T2及び第三補助部材T3,T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、プレス矯正を行う際の当て材又は台座となる部材であるとともに、伝熱板1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0051】
各補助部材を配置したら、図9の(a)及び(b)に示すように、公知のプレス装置Pを用いて、伝熱板1の裏面Zbから押圧する。即ち、第一補助部材T1にプレス装置PのポンチPaを押し当て、所定の押圧力で押圧する。プレス装置Pによって伝熱板1に圧力が加えられると、図9の(a)及び(b)に示すように、第一補助部材T1が伝熱板1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が伝熱板1の両端側を上側に押すため、伝熱板1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0052】
プレス装置の押圧力は、伝熱板1の厚みや材料によって適宜設定すればよいが、図9の(b)に示すように、伝熱板1の表面Za側が下に凸となって、表面Zaに引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることが好ましい。
【0053】
また、本実施形態では、図10に示すように、中心地点j’だけでなく伝熱板1の裏面Zbの地点b’、地点d’、地点e’及び地点g’付近に対しても押圧を行う。即ち、伝熱板1の裏面Zbにかかる各辺の中間地点である地点b’、地点d’、地点e’及び地点g’を含んだ位置H2〜H5に第一補助部材T1を配置して、プレス装置Pによって押圧を行う。これにより、伝熱板1をバランスよく矯正でき、平坦性をより高めることができる。
【0054】
なお、プレスする位置は、本実施形態では5箇所に設定したが、これに限定されるものではなく、接合工程によって生じる伝熱板1の反りに応じて適宜設定すればよい。
【0055】
(衝打矯正)
次に、衝打矯正について説明する。衝打矯正については、プレス矯正と近似するため、
具体的な図示は省略する。衝打矯正とは、例えばハンマーなどの衝打具を用いて伝熱板に発生した反りを矯正することをいう。衝打矯正は、プレス装置Pに替えてハンマー等の衝打具で伝熱板1を衝打する点を除いては、プレス矯正と略同等である。
【0056】
衝打矯正では、プレス矯正と同様に補助部材を配置した後、図9及び図10を参照するように、伝熱板1の裏面Zbから例えばプラスチックハンマー等の衝打具で伝熱板1を衝打する。伝熱板1を衝打すると、伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる(図9の(b)参照)。これにより、伝熱板1の反りを矯正して平坦にすることができる。また、プレス矯正と同様に、必要に応じて伝熱板1の裏面Zbの位置H2〜H5を衝打することで、伝熱板1をバランスよく矯正することができる。
【0057】
衝打矯正は、プレス矯正と比べると、プレス装置等を準備する手間が省けるため、作業を容易に行うことができる。また、衝打矯正は、作業が容易であるため伝熱板1が小さい場合や薄い場合に有効である。なお、衝打矯正を終了した後は、衝打により発生したバリを除去することが好ましい。
【0058】
(ロール矯正)
次に、ロール矯正について説明する。前記した接合工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、伝熱板1の裏面Zbが上方を向くように裏返し、裏面Zbの中心地点j’を含んで縦方向と平行になるように長板形状の第一補助部材T1を配置する。さらに、伝熱板1の表面Za側の縁部において縦方向と平行になるように、長板形状の第二補助部材T2及び第三補助部材T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。
【0059】
そして、第一補助部材T1の上側に、第一補助部材T1と直交するようにロールR1を配置し、第二補助部材T2,T3の下側に第二補助部材T2及び第三補助部材T3と直交するようにロールR2を配置する。つまり、伝熱板1は、図11の(b)に示すように、上側に凸の状態でロールR1,R2の間に配置され、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を介してロールR1,R2に狭持される。
【0060】
第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、ロール矯正を行う際の当て材であるとともに、伝熱板1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。
【0061】
ここで、ロールR1,R2が互いに近づいて伝熱板1に圧力を加えると、図11の(b)及び(c)に示すように、第一補助部材T1が伝熱板1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が伝熱板1の両端側を上側に押すため、伝熱板1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0062】
また、図11の(a)に示すように、ロールR1が矢印α方向に回転するとともに、ロールR2が矢印β方向に回転すると、ロールR1,R2は伝熱板1に対して矢印γ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。また、ロールR1が矢印β方向に回転するとともにロールR2が矢印α方向に回転すると、ロールR1,R2は伝熱板1に対して矢印δ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。
【0063】
したがって、伝熱板1に作用する曲げモーメントの位置が、その相対的な移動に伴って遷移していくため、伝熱板1の全体が強制的に下側に凸に撓まされる。そのため、この相対的な移動を繰り返して往復動させることによって、反りを矯正していくことが可能になる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0064】
また、伝熱板1の縦方向にロールR1,R2を回転させて矯正工程を行なった後、横方向にロールR1,R2を回転させてもよい。即ち、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を横方向と平行になるように配置するとともに、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3に対して直交するようにロールR1,R2を配置する。そして、ロールR1,R2を横方向に往復動させる。これにより、伝熱板1をバランスよく矯正することができる。
【0065】
また、ここでは、伝熱板1の裏面Zbを上にして、歪矯正工程を行うものとして説明したが、裏返さずに表面Zaを上にして歪矯正工程を行うようにしてもよい。この場合、前記した各構成部品は、表裏対称に表れるため、説明を省略する。
【0066】
以上説明した伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて、第二凹部13の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとの微細な隙間を塞ぐことができる。また、第二凹部13の周囲において、本体10と蓋部材30とを密着させることができる。これにより、伝熱板1の水密性及び気密性を高めることができる。
【0067】
また、矯正工程において本体の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、蓋部材固定工程及び第二凹部密封工程により形成された本体の裏面側に凸となる反りを矯正し、伝熱板の平坦性を高めることができる。
【0068】
また、第一凹部12内に第二凹部13,13を内包するように形成されているため、第二凹部13が複数個形成される場合や第二凹部13の形状が複雑になる場合であっても、容易に伝熱板1を製造することができる。従来は、例えば第二凹部が平面視蛇行状を呈する場合、その形状に合わせて平面視蛇行状に蓋部材を成形していた。これにより、蓋部材の成形作業が煩雑になるとともに、本体と蓋部材とを精度よく配置するのが困難になるという問題があった。
しかし、本実施形態によれば、第二凹部13が複数個ある場合であっても、第二凹部13,13を包囲するように平面視矩形の第一凹部12を形成するとともに、第一凹部12の形状に合わせて蓋部材30を矩形に形成することで、蓋部材30の形状を単純化することができる。これにより、蓋部材30を容易に成形できるとともに、第一凹部12に蓋部材30を精度よく配置することができ、伝熱板1を容易に製造することができる。
【0069】
また、本実施形態では、第二凹部密封工程の前に蓋部材固定工程を行うため、蓋部材30を本体10に固定した状態で第二凹部密封工程を行うことができるため、作業性を高めることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る第二凹部密封工程では、第二凹部13の開口周縁14に沿って大型回転ツールGを一周させるとともに、塑性化領域W2をオーバーラップさせて重複させることにより、第二凹部13の周囲の重ね合わせ部18の気密性及び水密性を高めることができる。
【0071】
また、大型回転ツールGを金属部材に挿入する際には、金属部材に大きな負荷が作用するため、摩擦攪拌の開始位置SM1,SM2を蓋部材30上に設定すると、蓋部材30が変形してしまう可能性がある。しかし、本実施形態に係る第二凹部密封工程では、摩擦攪拌の開始位置SM1,SM2を突合部40の外側に設定したため、大型回転ツールGの挿入時における蓋部材30の変形を防ぐことができる。また、本実施形態では、摩擦攪拌の終了位置EM1,EM2を肉厚の本体10側に設定したため、大型回転ツールGの引抜跡の補修を容易に行うことができる。
【0072】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態では、本体10に形成された第二凹部51の形状が、平面視矩形枠状を呈する点で第一実施形態と相違する。なお、第二実施形態の説明においては、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0073】
第二実施形態に係る伝熱板101は、図12の(a)に示すように、本体10と、本体10に摩擦攪拌接合される蓋部材30とを備えている。
本体10は、本体10の上面10aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12の中央に凹設された第二凹部51と、第二凹部51に連通する貫通孔16とを有する。
【0074】
第一凹部12は、本体10の上面10aよりも一段下がった位置に形成されており、蓋部材30が配置される部位である。第一凹部12は、平面視矩形を呈する底面12aと、底面12aから垂直に立設した4つの側壁12bとを有する。本実施形態では、第二凹部51を平面視矩形枠状に形成したため、底面12aが第二凹部51の内側と外側の両方に形成されている。
【0075】
第二凹部51は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部51は、第一凹部12内において、平面視矩形枠状に形成されており、上方に開口している。第二凹部51の開口部には、開口周縁53a,53bがそれぞれ形成されている。
【0076】
図12の(b)に示すように、第一凹部12に蓋部材30を配置すると、第一凹部12の側壁12bと蓋部材30の側面30aとで突合部40が形成される。また、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとで重ね合わせ部18が形成される。本実施形態では、重ね合わせ部18は、第二凹部51の内側と外側の両方に形成される。
【0077】
次に、第二実施形態に係る伝熱板の製造方法について図13を用いて説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0078】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体10に蓋部材30を接合する。蓋部材固定工程では、図13の(a)に示すように、右回転させた小型回転ツールFを、突合部40上に設定した開始位置s2に挿入し、突合部40に沿って終了位置e2まで摩擦攪拌接合を行う。第一実施形態では、突合部40の全周に亘って摩擦攪拌接合を行ったが、本実施形態では、突合部40を構成する各辺の中間部分のみに対して摩擦攪拌接合を行う。即ち、突合部40を構成する各辺の一点に開始位置s2及び終了位置e2をそれぞれ設定し摩擦攪拌接合を行う。蓋部材固定工程では、突合部40の一方の対辺の中間部分を摩擦攪拌接合した後に、他方の対辺の中間部分を摩擦攪拌接合することが好ましい。これにより、蓋部材30をバランスよく固定することができ、蓋部材30の本体10に対する位置決め精度が向上する。蓋部材固定工程によって、塑性化領域W1が形成される。
【0079】
第二凹部密封工程では、図13の(a)に示すように、第一凹部12の底面12aと、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では本体10の上面10aに設定した開始位置SM3に、左回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが突合部40を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部51の開口周縁53aの外周に沿って大型回転ツールGを移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、第二凹部51の周囲には、塑性化領域W2が形成される。
【0080】
大型回転ツールGを第二凹部51の回りに一周させたら、図13の(b)に示すように、塑性化領域W2を横断させて、本体10の上面10aに設定した終了位置EM3まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM3に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。
【0081】
次に、本実施形態に係る第二凹部密封工程では、第二凹部51の内側の重ね合わせ部18(図12の(b)参照)に対しても摩擦攪拌接合を行う。図13の(b)に示すように、蓋部材30の中央に摩擦攪拌の開始位置SM4を設定し、第二凹部51の開口周縁53bの内側に沿って大型回転ツールGを移動して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部51の内側には、塑性化領域W3が形成される。大型回転ツールGが第二凹部51の内側を一周したら、既存の塑性化領域W3と重複するようにして、蓋部材30の中央に設定した終了位置EM4まで大型回転ツールGを移動させる。
【0082】
第二凹部密封工程が終了したら、矯正工程を行う。矯正工程では、前記したプレス矯正、衝打矯正、又はロール矯正のいずれかを実行すればよいため、詳細な説明は省略する。
【0083】
以上説明した第二実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて、第二凹部51の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとの微細な隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板101の水密性及び気密性を高めることができる。本実施形態では、第二凹部51を平面視矩形枠状に形成したため、第二凹部51の内側に形成された重ね合わせ部18に対しても摩擦攪拌接合を行った。これにより、伝熱板101の水密性及び気密性をさらに高めることができる。また、矯正工程を行うことで、伝熱板101の平坦性を高めることができる。
【0084】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態では、本体10に形成された第二凹部61の形状が、平面視円形状を呈する点で第一実施形態と相違する。なお、第三実施形態の説明においては、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0085】
第三実施形態に係る伝熱板102は、図14に示すように、本体10と、本体10に摩擦攪拌接合される蓋部材30とを備えている。
本体10は、本体10の上面10aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12に凹設された第二凹部61と、第二凹部61に連通する貫通孔16とを有する。
【0086】
第一凹部12は、本体10の上面10aよりも一段下がった位置に形成されており、蓋部材30が配置される部位である。第一凹部12は、平面視矩形を呈する底面12aと、底面12aから垂直に立設した4つの側壁12bとを有する。
【0087】
第二凹部61は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部61は、第一凹部12内に凹設されており平面視円形状を呈し、上方に開口している。第二凹部61の開口部には開口周縁62が形成されている。
【0088】
次に、第三実施形態に係る伝熱板の製造方法について図15を用いて説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0089】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体10に蓋部材30を接合する。蓋部材固定工程では、図15に示すように、突合部40の四隅に断続的に摩擦攪拌接合を行う。即ち、突合部40の各四隅に設定された開始位置s3から終了位置e3まで小型回転ツールFを右回転させて摩擦攪拌接合を行う。蓋部材固定工程では、突合部40の一方の対角同士を先に摩擦攪拌接合した後に、他方の対角同士を摩擦攪拌することが好ましい。これにより、蓋部材30をバランスよく固定することができ、蓋部材30の本体10に対する位置決め精度が向上する。
【0090】
第二凹部密封工程では、第一凹部12の底面12a(図14参照)と、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では、本体10の上面10aに設定した開始位置SM5に、右回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが突合部40を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部61の外周に沿って大型回転ツールGを移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、塑性化領域W2が形成される。
【0091】
大型回転ツールGを第二凹部61回りに一周させたら、図15の矢印にしたがって、塑性化領域W2を横断させ、本体10の上面10aに設定した終了位置EM5まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM5に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。
【0092】
第二凹部密封工程が終了したら、矯正工程を行う。矯正工程では、前記したプレス矯正、衝打矯正、又はロール矯正のいずれかを実行すればよいため、詳細な説明は省略する。
【0093】
以上説明した第三実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて第二凹部61の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとの間の隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板102の水密性及び気密性を高めることができる。また、矯正工程を行うことで伝熱板102の平坦性を高めることができる。
【0094】
また、本実施形態では、第二凹部61を平面視円形状に形成しているが、第二凹部61の周囲を包囲するように平面視矩形の第一凹部12を形成し、第一凹部12と同等の平面形状からなる蓋部材30で封止している。つまり、第二凹部61の形状が平面視円形であったとしても蓋部材30の形状は平面視矩形のものを用いることができる。これにより、蓋部材30の形状は平面視矩形の単純な形状のものを用いることができるため、蓋部材30の成形を容易に行うことができるとともに、第一凹部12に蓋部材30を精度よく配置することができる。
【0095】
また、本実施形態に係る蓋部材固定工程では、突合部40の四隅のみに対して摩擦攪拌接合を行うため、作業手間を省略することができる。
【0096】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態では、本体70に形成された第二凹部71の形状が、平面視U字状を呈する点で第一実施形態と相違する。なお、第四実施形態の説明においては、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0097】
第四実施形態に係る伝熱板103は、図16及び図17に示すように、本体70と、本体70に配置される蓋部材80とを摩擦攪拌接合によって一体成形される。
本体70は、直方体を呈し、平面視直方形を呈する。本体70は、本体70の上面70aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12に凹設された第二凹部71と、第二凹部71に連通する貫通孔16とを有する。蓋部材80は、図17に示すように、第一凹部12と略同等の平面形状を呈する板状部材である。
【0098】
第一凹部12は、本体70の上面70aよりも一段下がった位置に形成されており、蓋部材80が配置される部位である。第一凹部12は、平面視矩形を呈する底面12aと底面12aから垂直に立設した4つの側壁12bとを有する。
【0099】
第二凹部71は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部71は、平面視U字状を呈する。第二凹部71は、上方に開口している。第二凹部71の開口部には、開口周縁72が形成されている。
【0100】
次に、第四実施形態に係る伝熱板の製造方法について、図17を用いて説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0101】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体70に蓋部材80を接合する。蓋部材固定工程では、図17の(a)に示すように、小型回転ツールFを用いて突合部40の四隅に断続的に摩擦攪拌接合を行うとともに、突合部40を構成する各辺の中間部分に対して摩擦攪拌接合を行う。蓋部材固定工程によって塑性化領域W1が形成される。
【0102】
第二凹部密封工程では、図17に示すように、第一凹部12の底面12aと、蓋部材80の裏面80bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では、本体70の上面70aに設定した開始位置SM6に、右回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材80側へ移動させる。大型回転ツールGが突合部40を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部71の開口周縁72の外周に沿って大型回転ツールGを移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、塑性化領域W2が形成される。
【0103】
大型回転ツールGを第二凹部71に沿って一周させたら、図17の(a)の矢印にしたがって、塑性化領域W2を横断させ、本体70の上面70aに設定した終了位置EM6まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM6に達したら、本体70から大型回転ツールGを離脱させる。
【0104】
第二凹部密封工程が終了したら、矯正工程を行う。矯正工程では、前記したプレス矯正、衝打矯正、又はロール矯正のいずれかを実行すればよいため、詳細な説明は省略する。
【0105】
以上説明した第四実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて第二凹部71の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材80の裏面80bとの微細な隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板103の水密性及び気密性を高めることができる。また、矯正工程を行うことで、伝熱板103の平坦性を高めることができる。
【0106】
また、本実施形態では、第二凹部71を平面視U字状に形成しているが、第二凹部71の周囲を包囲するように平面視矩形の第一凹部12を形成し、第一凹部12と同等の平面形状からなる蓋部材80で封止している。つまり、第二凹部71の形状が平面視U字状のような複雑な形状であったとしても、蓋部材80は、平面視矩形のものを用いることができる。これにより、蓋部材80の形状は平面視矩形の単純な形状のものを用いることができるため、蓋部材80の成形を容易に行うことができるとともに、第一凹部12に蓋部材80を精度よく配置することができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、第四実施形態のように蓋部材80が比較的大きい場合、蓋部材固定工程を行う前に、仮接合工程を行ってもよい。
【0108】
仮接合工程では、図18の(a)及び(b)に示すように、突合部40の内側であって、かつ、第二凹部71の外側において、蓋部材80の上方から回転した回転ツールHを押し込んで、第一凹部12の底面12aと、蓋部材80の裏面80bとが重ね合わされた重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。当該摩擦攪拌接合によって塑性化領域W4が形成される。
【0109】
仮接合工程により、本体70と蓋部材80とが仮接合される。蓋部材80が大きい場合、蓋部材固定工程を行うと、摩擦攪拌接合の熱収縮により蓋部材が反って蓋部材80の中央部分と本体70とが離間してしまい、第二凹部密封工程の作業が煩雑になる可能性がある。しかし、本実施形態の仮接合工程を行うことで、蓋部材80の反りを抑制することができるため、第二凹部密封工程を好適に行うことができる。
【0110】
仮接合工程は、重ね合わせ部18において、連続的に摩擦攪拌接合を行ってもよいし、本実施形態のように断続的に行ってもよい。
【0111】
また、前記した実施形態では、第二凹部密封工程の前に、蓋部材固定工程を行ったが、第二凹部密封工程を行った後に、蓋部材固定工程を行ってもよい。
【0112】
また、大型回転ツールGを挿入する位置に、挿入時の摩擦抵抗を軽減するために、予め下穴を形成しておいてもよい。
【0113】
また、本実施形態では、第一凹部及び蓋部材の平面形状は矩形としたが、これに限定されるものではなく、平面視円形、楕円系、又は角形であってもよい。第一凹部及び蓋部材の形状は、成形しやすく、かつ、精度良く配置可能な形状であることが好ましい。
【符号の説明】
【0114】
1 伝熱板
10 本体
10a 上面
12 第一凹部
12a 底面
12b 側壁
13 第二凹部
14 開口周縁
16 貫通孔
18 重ね合わせ部
30 蓋部材
30a 側面
30b 裏面
40 突合部
F 小型回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 大型回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
s1 開始位置
e1 終了位置
SM1 開始位置
EM1 終了位置
W1〜W4 塑性化領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合とは、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、半導体製造装置において冷却用に使用されるヒートプレート(伝熱板)は、板状を呈する本体と、本体の表面に形成された凹部を封止する蓋部材とを摩擦攪拌接合によって形成されている。
【0004】
具体的には、本体は、本体の表面に凹設された第一凹部と、第一凹部の底面に凹設された第二凹部とを有する。蓋部材は、第一凹部に隙間無く配置される形状を呈している。伝熱板は、第一凹部の側壁と蓋部材の側面との突合部に対して摩擦攪拌接合を行うことにより一体成形されている。摩擦攪拌接合によれば、比較的容易にかつ水密性及び気密性の高い製品を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−257490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の伝熱板の製造方法では、第一凹部の側壁と蓋部材の側面との突合部のみを摩擦攪拌接合するだけであるため、例えば第一凹部の底面と蓋部材の裏面との間には微細な隙間が形成されている。かかる隙間は伝熱板の水密性及び気密性を低下させる要因になっていた。また、本体の表面から摩擦攪拌を行うため、熱収縮によって塑性化領域が縮むと、伝熱板が反って撓んでしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、伝熱板の水密性及び気密性を高めるとともに、平坦性の高い伝熱板を製造することができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、表面に凹設された第一凹部と、この第一凹部の底面に凹設され熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる第二凹部とを有する本体に、前記第二凹部を封止する蓋部材を摩擦攪拌接合によって固定して形成される伝熱板の製造方法であって、前記本体の前記第一凹部の側壁と前記蓋部材の側面との突合部に沿って回転ツールを移動させて少なくとも前記突合部の一部に対して摩擦攪拌接合を行う蓋部材固定工程と、前記第二凹部の開口周縁に沿って回転ツールを移動させて、前記第一凹部の底面と前記蓋部材の裏面との重ね合わせ部に対して摩擦攪拌接合を行う第二凹部密封工程と、前記蓋部材固定工程及び前記第二凹部密封工程によって形成された前記本体の裏面側に凸となる反りを、前記本体の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
かかる製造方法によれば、第一凹部の底面と蓋部材の裏面との重ね合わせ部に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部の底面と蓋部材の裏面との微細な隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板の水密性及び気密性を高めることができる。また、矯正工程において本体の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、蓋部材固定工程及び第二凹部密封工程により形成された本体の裏面側に凸となる反りを矯正し、伝熱板の平坦性を高めることができる。
【0010】
また、前記矯正工程では、前記本体を押圧するプレス矯正、前記本体をハンマーなどの衝打具で衝打する衝打矯正、又は前記本体上でロール部材を回転させるロール矯正を行うことにより、前記反りを矯正することが好ましい。また、矯正工程を行う際に、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをプレス矯正、衝打矯正又はロール矯正を行うことが好ましい。
【0011】
かかる製造方法によれば、本体が裏面側に凸の状態から表面側に凸の状態になるように強制的に押圧力が加わって、本体が、反りとは反対側に強制的に撓ませられるため反りを矯正することができる。また、補助部材を配置することで、プレス矯正、衝打矯正又はロール矯正の作業性を高めることができる。
【0012】
また、前記各補助部材は、前記本体よりも硬度が低い材料を用いていることが好ましい。かかる製造方法によれば、プレス矯正、衝打矯正又はロール矯正で押圧する際に、本体を傷つけることなく矯正することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水密性及び気密性が高く、かつ、平坦性の高い伝熱板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態に係る伝熱板を示した分解斜視図である。
【図2】(a)は、小型回転ツール、(b)は、大型回転ツールを示した側面図である。
【図3】第一実施形態に係る蓋部材固定工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)のX1−X1断面図である。
【図4】第一実施形態に係る蓋部材固定工程を示した平面図である。
【図5】第一実施形態に係る第二凹部密封工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)のX2−X2断面図である。
【図6】第一実施形態に係る第二凹部密封工程を示した平面図である。
【図7】第一実施形態に係る第二凹部密封工程後を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、地点c−地点fを結ぶ線の断面図である。
【図8】第一実施形態に係るプレス矯正の準備段階を示した斜視図である。
【図9】第一実施形態に係るプレス矯正を示した側面図であって、(a)はプレス前、(b)はプレス中を示した図である。
【図10】第一実施形態に係るプレス矯正の押圧位置を示した平面図である。
【図11】第一実施形態に係るロール矯正を示した図であって、(a)は斜視図、(b)はプレス前を示した側面図、(c)はプレス中を示した側面図である。
【図12】第二実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は、分解斜視図、(b)は断面図を示す。
【図13】第二実施形態に係る第二凹部密封工程を段階的に示した平面図である。
【図14】第三実施形態に係る伝熱板を示した分解斜視図である。
【図15】第三実施形態に係る第二凹部密封工程を示した平面図である。
【図16】第四実施形態に係る本体を示した斜視図である。
【図17】第四実施形態に係る第二凹部密封工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)X3−X3断面図である。
【図18】仮接合工程を示した図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)のX4−X4断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る伝熱板の製造方法について図面を適宜参照して詳細に説明する。まず、本発明に係る伝熱板の製造方法によって形成される伝熱板1について説明する。
【0016】
伝熱板1は、図1に示すように、本体10に、蓋部材30を摩擦攪拌接合によって固定して形成される。伝熱板1は、例えば、スパッタリング装置において、ターゲット材を冷却するために使用される。
【0017】
本体10は、略直方体の外観を呈し、本実施形態ではアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。本体10は、本体10の表面(上面)10aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12の内部に凹設された第二凹部13,13と、第二凹部13に連通する貫通孔16とを有する。本体10は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。
【0018】
本体10は、本実施形態ではアルミニウム又はアルミニウム合金から形成したが、他の金属部材で形成してもよい。また、本体10は、本実施形態では外観視略直方体としたが、多角柱体、円柱体等であってもよい。
【0019】
第一凹部12は、蓋部材30が配置される部位である。第一凹部12は、本体10の上面10aよりも一段下がった位置に形成されており、平面視矩形を呈する底面12aと、底面12aから垂直に立設する4つの側壁12bとを有する。側壁12bの高さは、蓋部材30の厚みtと略同等に形成されている。
【0020】
第二凹部13,13は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部13,13は、平面視矩形を呈し、それぞれ略同等の形状に形成されている。第二凹部13,13は、上方が開口しており、第一凹部12の内部において所定の間隔をあけて設けられている。第二凹部13,13の周囲には前記した第一凹部12の底面12aが拡がっている。つまり、第二凹部13,13は、第一凹部12に包囲されている。第二凹部13の形状や設置数は伝熱板1の用途に応じて適宜変更可能である。
【0021】
貫通孔16は、図1に示すように、本体10の外部と第二凹部13とを連通し、熱輸送流体(冷却水)を循環させる部分である。貫通孔16は、第二凹部13,13に連通しつつ、本体10の対向する側面10b,10b間を貫通して形成されている。貫通孔16の形状、数及び形成位置は、冷却水の種類や流量に応じて適宜変更可能である。
【0022】
蓋部材30は、図1に示すように、本体10と同等の材料からなる板状部材である。蓋部材30の平面形状は、本体10の第一凹部12の平面形状と同等に形成されている。蓋部材30は、第一凹部12に配置された後に、摩擦攪拌接合されることで第二凹部13の開口部を封止する。
【0023】
次に、後記する摩擦攪拌接合によって用いる小型の回転ツール(以下、「小型回転ツールF」という。)及び小型回転ツールFよりも大型の回転ツール(以下、「大型回転ツールG」という。)について図2を用いて説明する。
【0024】
図2に示す小型回転ツールFは、工具鋼など本体10よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。小型回転ツールFの寸法・形状は、本体10の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、大型回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、大型回転ツールGを用いる場合よりも小さな負荷で摩擦攪拌接合を行うことが可能となるので、摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、小型回転ツールFの移動速度(送り速度)を大型回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、摩擦攪拌接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0025】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0026】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が大型回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さくなっている。攪拌ピンF2の長さLAは、蓋部材30の厚みt(図1参照)よりも小さく形成されている。
【0027】
図2の(b)に示す大型回転ツールGは、工具鋼など本体10よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。ショルダ部G1の下端面G11は、小型回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。攪拌ピンG2の長さLBは、蓋部材30の厚みt(図1参照)よりも大きく形成されている。
【0028】
次に、伝熱板の製造方法について説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0029】
まず、図3の(a)に示すように、蓋部材30を、本体10の第一凹部12(図1参照)に配置する。第一凹部12の側壁12bと、蓋部材30の側面30aとが突き合わされ、突合部40が構成される。なお、図3の(b)に示すように、第一凹部12の底面12aと、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う部分を、重ね合わせ部18とする。
【0030】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体10に蓋部材30を接合する。図3の(a)に示すように、右回転させた小型回転ツールFを、本体10の上面10aに設定した開始位置s1に挿入した後、突合部40に沿って移動させる。小型回転ツールFの押込み量、送り速度等は適宜設定すればよい。このとき、本体10の外周面に、本体10を四方向から囲む治具(図示せず)を予め当てておくのが好ましい。これによれば、小型回転ツールF及び大型回転ツールGの押圧力によって本体10が変形しにくくなる。
【0031】
小型回転ツールFの移動について具体的に説明する。小型回転ツールFを、開始位置s1から突合部40の真上位置(小型回転ツールFの中心が突合部40と重なる位置)まで回転させながら移動させる。そして、小型回転ツールFの中心(軸芯)が突合部40上を移動するように、突合部40に沿って小型回転ツールFを移動させる。このとき、突合部40の周囲の本体10と蓋部材30は、一体的に塑性流動化されて塑性化領域W1が形成される。「塑性化領域」とは、小型回転ツールFの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、小型回転ツールFが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。なお、図3の(a)に示すように、塑性化領域W1のうち、突合部40上に最初に突入した部分を始端W1aとする。
【0032】
蓋部材固定工程では、図3の(b)に示すように、攪拌ピンF2の長さが蓋部材30の厚みtよりも小さく、塑性化領域W1が第一凹部12の底面12aに接触しない程度に設定されている。摩擦攪拌接合を行うと、蓋部材30のような比較的薄い部材は、熱収縮によって変形する可能性が高い。したがって、攪拌ピンF2の長さ及び小型回転ツールFの押込み量を小さく設定することにより、蓋部材30の変形を防ぐことができる。
なお、蓋部材固定工程では、小型回転ツールFの攪拌ピンF2の長さを大きくしたり、小型回転ツールFを深く押し込んだりして、塑性化領域W1と底面12aとを接触させてもよい。
【0033】
小型回転ツールFの移動方向(図3(a)参照)と同じ方向に小型回転ツールFが回動するシアー側(被接合部に対する小型回転ツールFの外周の相対速さが、小型回転ツールFの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)が、本体10上に位置するように、小型回転ツールFを回転、移動させる。つまり、突合部40における小型回転ツールFの回転方向(自転方向)が、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。具体的には、本実施形態では、小型回転ツールFを第二凹部13に対して右回りに移動させているので、小型回転ツールFも右回転させる。
【0034】
なお、小型回転ツールFを第二凹部13に対して左回りに移動させるときは、小型回転ツールFを左回転させることとなる。このようにすることによって、小型回転ツールFのシアー側が厚肉の本体10側に位置する。そして、薄肉の蓋部材30側は、小型回転ツールFのフロー側(被接合部に対する小型回転ツールFの外周の相対速さが、小型回転ツールFの外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、蓋部材30側は、メタルの流動量が少なくなり、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、本体10側であって突合部40よりも外側位置の離間した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0035】
小型回転ツールFの回転及び移動を継続し、図4に示すように、小型回転ツールFを、突合部40に沿って一周させる。小型回転ツールFが、塑性化領域W1の始端W1a(図3の(a)参照)を通過したら、小型回転ツールFを本体10の上面10a側に移動させて、終了位置e1で小型回転ツールFを離脱させる。なお、塑性化領域W1のうち、突合部40上に最後に形成される部分を終端W1bとする。
【0036】
このように、塑性化領域W1の始端W1a(図3(a)参照)を小型回転ツールFが通り越すことにより、始端W1aと終端W1bとが互いにオーバーラップするため、塑性化領域W1の一部が重複するように構成される。
【0037】
終了位置e1は、突合部40から外側に外れた位置となっているので、小型回転ツールFの引抜跡が突合部40に形成されることはなく、本体10と蓋部材30との接合性をさらに高めることができる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
【0038】
第二凹部密封工程では、第一凹部12の底面12aと、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では、図5の(a)に示すように、回転させた大型回転ツールGを本体10の上面10aに設定した開始位置SM1に挿入した後、第二凹部13の開口周縁14に沿って移動させ、終了位置EM1まで移動させる。
【0039】
大型回転ツールGの移動について具体的に説明する。本体10の上面10aに設定した開始位置SM1に、右回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが塑性化領域W1を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部13の回りに沿って移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、第二凹部13の周囲には、塑性化領域W2が形成される。図5の(b)に示すように、大型回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBが、蓋部材30の厚みtよりも大きくなっているため、重ね合わせ部18を確実に摩擦攪拌接合することができる。
【0040】
本実施形態では、第二凹部13の開口周縁14から第一凹部12の側壁12bまでの距離D1は、大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1の2倍以上で形成されているため、重ね合わせ部18の幅を十分に確保することができ確実に摩擦攪拌接合を行うことができる。なお、隣り合う第二凹部13,13の間の距離D2(図3の(a)参照)は、少なくとも大型回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも大きくければよいが、本実施形態ではショルダ部G1の外径Y1の約3倍になっている。
【0041】
また、図5の(b)に示すように、本実施形態では、大型回転ツールGの中心から第二凹部13の開口周縁14までの距離E1は、ショルダ部G1の外径Y1の半径よりも大きくなっている。このようにすれば、摩擦攪拌接合により塑性流動化された塑性流動材が第二凹部13に流入するのを防ぐことができる。
【0042】
また、本実施形態では、第二凹部13の開口周縁14から大型回転ツールGの外周面までの距離E2は、4mmよりも大きくすることが好ましい。距離E2が4mm以下であると、大型回転ツールGと第二凹部13との距離が近くなり、摩擦攪拌接合の際に第二凹部13の内壁が変形する可能性がある。
【0043】
大型回転ツールGを第二凹部13の回りに一周させたら、図5の(a)の矢印に示すように、塑性化領域W2及び塑性化領域W1を横断させて、本体10の上面10aに設定した終了位置EM1まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM1に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
【0044】
第二凹部密封工程では、大型回転ツールGの移動方向と同じ方向に大型回転ツールGが回動するシアー側(被接合部に対する大型回転ツールGの外周の相対速さが、大型回転ツールGの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)が、本体10上の第二凹部13から離間した部位に位置するように、大型回転ツールGを回転、移動させる。つまり、大型回転ツールGの回転方向(自転方向)が、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。具体的には、本実施形態では、大型回転ツールGを第二凹部13に対して右回りに移動させているので、大型回転ツールGも右回転させる。
【0045】
なお、大型回転ツールGを第二凹部13に対して左回りに移動させるときは、大型回転ツールGを左回転させる。かかる方法によれば、大型回転ツールGのシアー側が本体10の第二凹部13から離間した部位に位置する。本体10の第二凹部13に近い部位は、大型回転ツールGのフロー側(被接合部に対する大型回転ツールGの外周の相対速さが、大型回転ツールGの外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、本体10の第二凹部13に近い部位は、メタルの流動量が少なくなり、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、第二凹部13から離間した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0046】
次に、図6に示すように、他方の第二凹部13の回りに形成された重ね合わせ部18に対して、摩擦攪拌接合を行う。本体10の上面10aに設定した開始位置SM2に大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが塑性化領域W1を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部13回りに沿って移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、第二凹部13の周囲に塑性化領域W2が形成される。大型回転ツールGを第二凹部13の回りに一周させたら、図6の矢印に示すように、塑性化領域W2及び塑性化領域W1を横断させて、本体10の上面10aに設定された終了位置EM2まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM2に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。
【0047】
なお、第二凹部密封工程において、開始位置SM1,SM2及び終了位置EM1,EM2は、突合部40よりも外側であれば、他の位置であっても構わない。
【0048】
図7に示すように、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程を行った後、伝熱板1には、塑性化領域W1,W2が形成される。塑性化領域W1,W2は、熱収縮によって縮むため、伝熱板1の表面Za側において、本体2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、伝熱板1は表面Za側が凹となるように(裏面Zb側に凸となるように)、撓んでしまう可能性がある。特に、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jのうち、伝熱板1の四隅に係る地点a,c,f,hにおいては、その反りの影響が顕著に現れる傾向がある。なお、地点jは、伝熱板1の中心地点を示し、地点b,d,e,gは、本体2の各辺の中間地点を示す。また、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jに対応する裏面Zbの各点を地点a’〜j’とする。また、伝熱板1の地点aから地点f方向を縦方向、地点aから地点c方向を横方向とする。
【0049】
矯正工程では、伝熱板1(本体2)の裏面Zbから、本体2の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させて、前記した接合工程により形成された伝熱板1の反りを矯正する。矯正工程では、以下に記すプレス矯正、衝打矯正及びロール矯正の三種類の方法からいずれか一以上の方法を選択して行えばよい。まず、プレス矯正について説明する。
【0050】
(プレス矯正)
前記した第二凹部密封工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、図8に示すように、伝熱板1の裏面Zbが上方を向くように裏返し、裏面Zbの中心地点j’(図7の(b)参照)に板状の第一補助部材T1を配置する。さらに、伝熱板1の表面Za側の四隅に、板状の第二補助部材T2,T2及び第三補助部材T3,T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、プレス矯正を行う際の当て材又は台座となる部材であるとともに、伝熱板1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0051】
各補助部材を配置したら、図9の(a)及び(b)に示すように、公知のプレス装置Pを用いて、伝熱板1の裏面Zbから押圧する。即ち、第一補助部材T1にプレス装置PのポンチPaを押し当て、所定の押圧力で押圧する。プレス装置Pによって伝熱板1に圧力が加えられると、図9の(a)及び(b)に示すように、第一補助部材T1が伝熱板1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が伝熱板1の両端側を上側に押すため、伝熱板1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0052】
プレス装置の押圧力は、伝熱板1の厚みや材料によって適宜設定すればよいが、図9の(b)に示すように、伝熱板1の表面Za側が下に凸となって、表面Zaに引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることが好ましい。
【0053】
また、本実施形態では、図10に示すように、中心地点j’だけでなく伝熱板1の裏面Zbの地点b’、地点d’、地点e’及び地点g’付近に対しても押圧を行う。即ち、伝熱板1の裏面Zbにかかる各辺の中間地点である地点b’、地点d’、地点e’及び地点g’を含んだ位置H2〜H5に第一補助部材T1を配置して、プレス装置Pによって押圧を行う。これにより、伝熱板1をバランスよく矯正でき、平坦性をより高めることができる。
【0054】
なお、プレスする位置は、本実施形態では5箇所に設定したが、これに限定されるものではなく、接合工程によって生じる伝熱板1の反りに応じて適宜設定すればよい。
【0055】
(衝打矯正)
次に、衝打矯正について説明する。衝打矯正については、プレス矯正と近似するため、
具体的な図示は省略する。衝打矯正とは、例えばハンマーなどの衝打具を用いて伝熱板に発生した反りを矯正することをいう。衝打矯正は、プレス装置Pに替えてハンマー等の衝打具で伝熱板1を衝打する点を除いては、プレス矯正と略同等である。
【0056】
衝打矯正では、プレス矯正と同様に補助部材を配置した後、図9及び図10を参照するように、伝熱板1の裏面Zbから例えばプラスチックハンマー等の衝打具で伝熱板1を衝打する。伝熱板1を衝打すると、伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる(図9の(b)参照)。これにより、伝熱板1の反りを矯正して平坦にすることができる。また、プレス矯正と同様に、必要に応じて伝熱板1の裏面Zbの位置H2〜H5を衝打することで、伝熱板1をバランスよく矯正することができる。
【0057】
衝打矯正は、プレス矯正と比べると、プレス装置等を準備する手間が省けるため、作業を容易に行うことができる。また、衝打矯正は、作業が容易であるため伝熱板1が小さい場合や薄い場合に有効である。なお、衝打矯正を終了した後は、衝打により発生したバリを除去することが好ましい。
【0058】
(ロール矯正)
次に、ロール矯正について説明する。前記した接合工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、伝熱板1の裏面Zbが上方を向くように裏返し、裏面Zbの中心地点j’を含んで縦方向と平行になるように長板形状の第一補助部材T1を配置する。さらに、伝熱板1の表面Za側の縁部において縦方向と平行になるように、長板形状の第二補助部材T2及び第三補助部材T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。
【0059】
そして、第一補助部材T1の上側に、第一補助部材T1と直交するようにロールR1を配置し、第二補助部材T2,T3の下側に第二補助部材T2及び第三補助部材T3と直交するようにロールR2を配置する。つまり、伝熱板1は、図11の(b)に示すように、上側に凸の状態でロールR1,R2の間に配置され、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を介してロールR1,R2に狭持される。
【0060】
第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、ロール矯正を行う際の当て材であるとともに、伝熱板1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。
【0061】
ここで、ロールR1,R2が互いに近づいて伝熱板1に圧力を加えると、図11の(b)及び(c)に示すように、第一補助部材T1が伝熱板1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が伝熱板1の両端側を上側に押すため、伝熱板1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0062】
また、図11の(a)に示すように、ロールR1が矢印α方向に回転するとともに、ロールR2が矢印β方向に回転すると、ロールR1,R2は伝熱板1に対して矢印γ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。また、ロールR1が矢印β方向に回転するとともにロールR2が矢印α方向に回転すると、ロールR1,R2は伝熱板1に対して矢印δ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。
【0063】
したがって、伝熱板1に作用する曲げモーメントの位置が、その相対的な移動に伴って遷移していくため、伝熱板1の全体が強制的に下側に凸に撓まされる。そのため、この相対的な移動を繰り返して往復動させることによって、反りを矯正していくことが可能になる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0064】
また、伝熱板1の縦方向にロールR1,R2を回転させて矯正工程を行なった後、横方向にロールR1,R2を回転させてもよい。即ち、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を横方向と平行になるように配置するとともに、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3に対して直交するようにロールR1,R2を配置する。そして、ロールR1,R2を横方向に往復動させる。これにより、伝熱板1をバランスよく矯正することができる。
【0065】
また、ここでは、伝熱板1の裏面Zbを上にして、歪矯正工程を行うものとして説明したが、裏返さずに表面Zaを上にして歪矯正工程を行うようにしてもよい。この場合、前記した各構成部品は、表裏対称に表れるため、説明を省略する。
【0066】
以上説明した伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて、第二凹部13の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとの微細な隙間を塞ぐことができる。また、第二凹部13の周囲において、本体10と蓋部材30とを密着させることができる。これにより、伝熱板1の水密性及び気密性を高めることができる。
【0067】
また、矯正工程において本体の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、蓋部材固定工程及び第二凹部密封工程により形成された本体の裏面側に凸となる反りを矯正し、伝熱板の平坦性を高めることができる。
【0068】
また、第一凹部12内に第二凹部13,13を内包するように形成されているため、第二凹部13が複数個形成される場合や第二凹部13の形状が複雑になる場合であっても、容易に伝熱板1を製造することができる。従来は、例えば第二凹部が平面視蛇行状を呈する場合、その形状に合わせて平面視蛇行状に蓋部材を成形していた。これにより、蓋部材の成形作業が煩雑になるとともに、本体と蓋部材とを精度よく配置するのが困難になるという問題があった。
しかし、本実施形態によれば、第二凹部13が複数個ある場合であっても、第二凹部13,13を包囲するように平面視矩形の第一凹部12を形成するとともに、第一凹部12の形状に合わせて蓋部材30を矩形に形成することで、蓋部材30の形状を単純化することができる。これにより、蓋部材30を容易に成形できるとともに、第一凹部12に蓋部材30を精度よく配置することができ、伝熱板1を容易に製造することができる。
【0069】
また、本実施形態では、第二凹部密封工程の前に蓋部材固定工程を行うため、蓋部材30を本体10に固定した状態で第二凹部密封工程を行うことができるため、作業性を高めることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る第二凹部密封工程では、第二凹部13の開口周縁14に沿って大型回転ツールGを一周させるとともに、塑性化領域W2をオーバーラップさせて重複させることにより、第二凹部13の周囲の重ね合わせ部18の気密性及び水密性を高めることができる。
【0071】
また、大型回転ツールGを金属部材に挿入する際には、金属部材に大きな負荷が作用するため、摩擦攪拌の開始位置SM1,SM2を蓋部材30上に設定すると、蓋部材30が変形してしまう可能性がある。しかし、本実施形態に係る第二凹部密封工程では、摩擦攪拌の開始位置SM1,SM2を突合部40の外側に設定したため、大型回転ツールGの挿入時における蓋部材30の変形を防ぐことができる。また、本実施形態では、摩擦攪拌の終了位置EM1,EM2を肉厚の本体10側に設定したため、大型回転ツールGの引抜跡の補修を容易に行うことができる。
【0072】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態では、本体10に形成された第二凹部51の形状が、平面視矩形枠状を呈する点で第一実施形態と相違する。なお、第二実施形態の説明においては、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0073】
第二実施形態に係る伝熱板101は、図12の(a)に示すように、本体10と、本体10に摩擦攪拌接合される蓋部材30とを備えている。
本体10は、本体10の上面10aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12の中央に凹設された第二凹部51と、第二凹部51に連通する貫通孔16とを有する。
【0074】
第一凹部12は、本体10の上面10aよりも一段下がった位置に形成されており、蓋部材30が配置される部位である。第一凹部12は、平面視矩形を呈する底面12aと、底面12aから垂直に立設した4つの側壁12bとを有する。本実施形態では、第二凹部51を平面視矩形枠状に形成したため、底面12aが第二凹部51の内側と外側の両方に形成されている。
【0075】
第二凹部51は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部51は、第一凹部12内において、平面視矩形枠状に形成されており、上方に開口している。第二凹部51の開口部には、開口周縁53a,53bがそれぞれ形成されている。
【0076】
図12の(b)に示すように、第一凹部12に蓋部材30を配置すると、第一凹部12の側壁12bと蓋部材30の側面30aとで突合部40が形成される。また、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとで重ね合わせ部18が形成される。本実施形態では、重ね合わせ部18は、第二凹部51の内側と外側の両方に形成される。
【0077】
次に、第二実施形態に係る伝熱板の製造方法について図13を用いて説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0078】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体10に蓋部材30を接合する。蓋部材固定工程では、図13の(a)に示すように、右回転させた小型回転ツールFを、突合部40上に設定した開始位置s2に挿入し、突合部40に沿って終了位置e2まで摩擦攪拌接合を行う。第一実施形態では、突合部40の全周に亘って摩擦攪拌接合を行ったが、本実施形態では、突合部40を構成する各辺の中間部分のみに対して摩擦攪拌接合を行う。即ち、突合部40を構成する各辺の一点に開始位置s2及び終了位置e2をそれぞれ設定し摩擦攪拌接合を行う。蓋部材固定工程では、突合部40の一方の対辺の中間部分を摩擦攪拌接合した後に、他方の対辺の中間部分を摩擦攪拌接合することが好ましい。これにより、蓋部材30をバランスよく固定することができ、蓋部材30の本体10に対する位置決め精度が向上する。蓋部材固定工程によって、塑性化領域W1が形成される。
【0079】
第二凹部密封工程では、図13の(a)に示すように、第一凹部12の底面12aと、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では本体10の上面10aに設定した開始位置SM3に、左回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが突合部40を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部51の開口周縁53aの外周に沿って大型回転ツールGを移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、第二凹部51の周囲には、塑性化領域W2が形成される。
【0080】
大型回転ツールGを第二凹部51の回りに一周させたら、図13の(b)に示すように、塑性化領域W2を横断させて、本体10の上面10aに設定した終了位置EM3まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM3に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。
【0081】
次に、本実施形態に係る第二凹部密封工程では、第二凹部51の内側の重ね合わせ部18(図12の(b)参照)に対しても摩擦攪拌接合を行う。図13の(b)に示すように、蓋部材30の中央に摩擦攪拌の開始位置SM4を設定し、第二凹部51の開口周縁53bの内側に沿って大型回転ツールGを移動して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部51の内側には、塑性化領域W3が形成される。大型回転ツールGが第二凹部51の内側を一周したら、既存の塑性化領域W3と重複するようにして、蓋部材30の中央に設定した終了位置EM4まで大型回転ツールGを移動させる。
【0082】
第二凹部密封工程が終了したら、矯正工程を行う。矯正工程では、前記したプレス矯正、衝打矯正、又はロール矯正のいずれかを実行すればよいため、詳細な説明は省略する。
【0083】
以上説明した第二実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて、第二凹部51の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとの微細な隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板101の水密性及び気密性を高めることができる。本実施形態では、第二凹部51を平面視矩形枠状に形成したため、第二凹部51の内側に形成された重ね合わせ部18に対しても摩擦攪拌接合を行った。これにより、伝熱板101の水密性及び気密性をさらに高めることができる。また、矯正工程を行うことで、伝熱板101の平坦性を高めることができる。
【0084】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態では、本体10に形成された第二凹部61の形状が、平面視円形状を呈する点で第一実施形態と相違する。なお、第三実施形態の説明においては、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0085】
第三実施形態に係る伝熱板102は、図14に示すように、本体10と、本体10に摩擦攪拌接合される蓋部材30とを備えている。
本体10は、本体10の上面10aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12に凹設された第二凹部61と、第二凹部61に連通する貫通孔16とを有する。
【0086】
第一凹部12は、本体10の上面10aよりも一段下がった位置に形成されており、蓋部材30が配置される部位である。第一凹部12は、平面視矩形を呈する底面12aと、底面12aから垂直に立設した4つの側壁12bとを有する。
【0087】
第二凹部61は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部61は、第一凹部12内に凹設されており平面視円形状を呈し、上方に開口している。第二凹部61の開口部には開口周縁62が形成されている。
【0088】
次に、第三実施形態に係る伝熱板の製造方法について図15を用いて説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0089】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体10に蓋部材30を接合する。蓋部材固定工程では、図15に示すように、突合部40の四隅に断続的に摩擦攪拌接合を行う。即ち、突合部40の各四隅に設定された開始位置s3から終了位置e3まで小型回転ツールFを右回転させて摩擦攪拌接合を行う。蓋部材固定工程では、突合部40の一方の対角同士を先に摩擦攪拌接合した後に、他方の対角同士を摩擦攪拌することが好ましい。これにより、蓋部材30をバランスよく固定することができ、蓋部材30の本体10に対する位置決め精度が向上する。
【0090】
第二凹部密封工程では、第一凹部12の底面12a(図14参照)と、蓋部材30の裏面30bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では、本体10の上面10aに設定した開始位置SM5に、右回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材30側へ移動させる。大型回転ツールGが突合部40を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部61の外周に沿って大型回転ツールGを移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、塑性化領域W2が形成される。
【0091】
大型回転ツールGを第二凹部61回りに一周させたら、図15の矢印にしたがって、塑性化領域W2を横断させ、本体10の上面10aに設定した終了位置EM5まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM5に達したら、本体10から大型回転ツールGを離脱させる。
【0092】
第二凹部密封工程が終了したら、矯正工程を行う。矯正工程では、前記したプレス矯正、衝打矯正、又はロール矯正のいずれかを実行すればよいため、詳細な説明は省略する。
【0093】
以上説明した第三実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて第二凹部61の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材30の裏面30bとの間の隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板102の水密性及び気密性を高めることができる。また、矯正工程を行うことで伝熱板102の平坦性を高めることができる。
【0094】
また、本実施形態では、第二凹部61を平面視円形状に形成しているが、第二凹部61の周囲を包囲するように平面視矩形の第一凹部12を形成し、第一凹部12と同等の平面形状からなる蓋部材30で封止している。つまり、第二凹部61の形状が平面視円形であったとしても蓋部材30の形状は平面視矩形のものを用いることができる。これにより、蓋部材30の形状は平面視矩形の単純な形状のものを用いることができるため、蓋部材30の成形を容易に行うことができるとともに、第一凹部12に蓋部材30を精度よく配置することができる。
【0095】
また、本実施形態に係る蓋部材固定工程では、突合部40の四隅のみに対して摩擦攪拌接合を行うため、作業手間を省略することができる。
【0096】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態では、本体70に形成された第二凹部71の形状が、平面視U字状を呈する点で第一実施形態と相違する。なお、第四実施形態の説明においては、第一実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0097】
第四実施形態に係る伝熱板103は、図16及び図17に示すように、本体70と、本体70に配置される蓋部材80とを摩擦攪拌接合によって一体成形される。
本体70は、直方体を呈し、平面視直方形を呈する。本体70は、本体70の上面70aに凹設された第一凹部12と、第一凹部12に凹設された第二凹部71と、第二凹部71に連通する貫通孔16とを有する。蓋部材80は、図17に示すように、第一凹部12と略同等の平面形状を呈する板状部材である。
【0098】
第一凹部12は、本体70の上面70aよりも一段下がった位置に形成されており、蓋部材80が配置される部位である。第一凹部12は、平面視矩形を呈する底面12aと底面12aから垂直に立設した4つの側壁12bとを有する。
【0099】
第二凹部71は、熱輸送流体(本実施形態では冷却水)が流通する部分である。第二凹部71は、平面視U字状を呈する。第二凹部71は、上方に開口している。第二凹部71の開口部には、開口周縁72が形成されている。
【0100】
次に、第四実施形態に係る伝熱板の製造方法について、図17を用いて説明する。本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、蓋部材固定工程と、第二凹部密封工程と、矯正工程を実行する。
【0101】
蓋部材固定工程では、突合部40に摩擦攪拌接合を行って、本体70に蓋部材80を接合する。蓋部材固定工程では、図17の(a)に示すように、小型回転ツールFを用いて突合部40の四隅に断続的に摩擦攪拌接合を行うとともに、突合部40を構成する各辺の中間部分に対して摩擦攪拌接合を行う。蓋部材固定工程によって塑性化領域W1が形成される。
【0102】
第二凹部密封工程では、図17に示すように、第一凹部12の底面12aと、蓋部材80の裏面80bとが重なり合う重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。第二凹部密封工程では、本体70の上面70aに設定した開始位置SM6に、右回転させた大型回転ツールGを挿入した後、蓋部材80側へ移動させる。大型回転ツールGが突合部40を横断したら、重ね合わせ部18上において、第二凹部71の開口周縁72の外周に沿って大型回転ツールGを移動させる。大型回転ツールGを移動させることにより、塑性化領域W2が形成される。
【0103】
大型回転ツールGを第二凹部71に沿って一周させたら、図17の(a)の矢印にしたがって、塑性化領域W2を横断させ、本体70の上面70aに設定した終了位置EM6まで移動させる。大型回転ツールGが終了位置EM6に達したら、本体70から大型回転ツールGを離脱させる。
【0104】
第二凹部密封工程が終了したら、矯正工程を行う。矯正工程では、前記したプレス矯正、衝打矯正、又はロール矯正のいずれかを実行すればよいため、詳細な説明は省略する。
【0105】
以上説明した第四実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、突合部40に対する摩擦攪拌接合に加えて第二凹部71の周囲において、重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行うことにより、第一凹部12の底面12aと蓋部材80の裏面80bとの微細な隙間を塞ぐことができる。これにより、伝熱板103の水密性及び気密性を高めることができる。また、矯正工程を行うことで、伝熱板103の平坦性を高めることができる。
【0106】
また、本実施形態では、第二凹部71を平面視U字状に形成しているが、第二凹部71の周囲を包囲するように平面視矩形の第一凹部12を形成し、第一凹部12と同等の平面形状からなる蓋部材80で封止している。つまり、第二凹部71の形状が平面視U字状のような複雑な形状であったとしても、蓋部材80は、平面視矩形のものを用いることができる。これにより、蓋部材80の形状は平面視矩形の単純な形状のものを用いることができるため、蓋部材80の成形を容易に行うことができるとともに、第一凹部12に蓋部材80を精度よく配置することができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、第四実施形態のように蓋部材80が比較的大きい場合、蓋部材固定工程を行う前に、仮接合工程を行ってもよい。
【0108】
仮接合工程では、図18の(a)及び(b)に示すように、突合部40の内側であって、かつ、第二凹部71の外側において、蓋部材80の上方から回転した回転ツールHを押し込んで、第一凹部12の底面12aと、蓋部材80の裏面80bとが重ね合わされた重ね合わせ部18に対して摩擦攪拌接合を行う。当該摩擦攪拌接合によって塑性化領域W4が形成される。
【0109】
仮接合工程により、本体70と蓋部材80とが仮接合される。蓋部材80が大きい場合、蓋部材固定工程を行うと、摩擦攪拌接合の熱収縮により蓋部材が反って蓋部材80の中央部分と本体70とが離間してしまい、第二凹部密封工程の作業が煩雑になる可能性がある。しかし、本実施形態の仮接合工程を行うことで、蓋部材80の反りを抑制することができるため、第二凹部密封工程を好適に行うことができる。
【0110】
仮接合工程は、重ね合わせ部18において、連続的に摩擦攪拌接合を行ってもよいし、本実施形態のように断続的に行ってもよい。
【0111】
また、前記した実施形態では、第二凹部密封工程の前に、蓋部材固定工程を行ったが、第二凹部密封工程を行った後に、蓋部材固定工程を行ってもよい。
【0112】
また、大型回転ツールGを挿入する位置に、挿入時の摩擦抵抗を軽減するために、予め下穴を形成しておいてもよい。
【0113】
また、本実施形態では、第一凹部及び蓋部材の平面形状は矩形としたが、これに限定されるものではなく、平面視円形、楕円系、又は角形であってもよい。第一凹部及び蓋部材の形状は、成形しやすく、かつ、精度良く配置可能な形状であることが好ましい。
【符号の説明】
【0114】
1 伝熱板
10 本体
10a 上面
12 第一凹部
12a 底面
12b 側壁
13 第二凹部
14 開口周縁
16 貫通孔
18 重ね合わせ部
30 蓋部材
30a 側面
30b 裏面
40 突合部
F 小型回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 大型回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
s1 開始位置
e1 終了位置
SM1 開始位置
EM1 終了位置
W1〜W4 塑性化領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹設された第一凹部と、この第一凹部の底面に凹設され熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる第二凹部とを有する本体に、前記第二凹部を封止する蓋部材を摩擦攪拌接合によって固定して形成される伝熱板の製造方法であって、
前記本体の前記第一凹部の側壁と前記蓋部材の側面との突合部に沿って回転ツールを移動させて少なくとも前記突合部の一部に対して摩擦攪拌接合を行う蓋部材固定工程と、
前記第二凹部の開口周縁に沿って回転ツールを移動させて、前記第一凹部の底面と前記蓋部材の裏面との重ね合わせ部に対して摩擦攪拌接合を行う第二凹部密封工程と、
前記蓋部材固定工程及び前記第二凹部密封工程によって形成された前記本体の裏面側に凸となる反りを、前記本体の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項2】
前記矯正工程では、前記本体をプレス矯正することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項3】
前記矯正工程では、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをプレス矯正することを特徴とする請求項2に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項4】
前記矯正工程では、前記本体をロール矯正することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項5】
前記矯正工程では、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをロール矯正することを特徴とする請求項4に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項6】
前記矯正工程では、前記本体を衝打具で衝打することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項7】
前記矯正工程では、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りを矯正することを特徴とする請求項6に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項8】
前記各補助部材は、前記本体よりも硬度が低い材料であることを特徴とする請求項3、請求項5又は請求項7に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項1】
表面に凹設された第一凹部と、この第一凹部の底面に凹設され熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる第二凹部とを有する本体に、前記第二凹部を封止する蓋部材を摩擦攪拌接合によって固定して形成される伝熱板の製造方法であって、
前記本体の前記第一凹部の側壁と前記蓋部材の側面との突合部に沿って回転ツールを移動させて少なくとも前記突合部の一部に対して摩擦攪拌接合を行う蓋部材固定工程と、
前記第二凹部の開口周縁に沿って回転ツールを移動させて、前記第一凹部の底面と前記蓋部材の裏面との重ね合わせ部に対して摩擦攪拌接合を行う第二凹部密封工程と、
前記蓋部材固定工程及び前記第二凹部密封工程によって形成された前記本体の裏面側に凸となる反りを、前記本体の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項2】
前記矯正工程では、前記本体をプレス矯正することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項3】
前記矯正工程では、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをプレス矯正することを特徴とする請求項2に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項4】
前記矯正工程では、前記本体をロール矯正することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項5】
前記矯正工程では、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをロール矯正することを特徴とする請求項4に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項6】
前記矯正工程では、前記本体を衝打具で衝打することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項7】
前記矯正工程では、前記本体の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記本体の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りを矯正することを特徴とする請求項6に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項8】
前記各補助部材は、前記本体よりも硬度が低い材料であることを特徴とする請求項3、請求項5又は請求項7に記載の伝熱板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−201447(P2010−201447A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48091(P2009−48091)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
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