伝熱状態を解析する解析装置
【課題】その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を、短時間に解析できる解析装置および解析プログラムを提供する。
【解決手段】反応器の流動層の断面積をSとし、高さをHとして2次元化した上で、沸点以下の熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積と、沸点を越えている熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積との比率に応じて、水平方向に二分割する。さらに、鉛直方向には、伝熱管が存在する領域とそれ以外の領域とに二分割される。ゾーンB1とゾーンB2との間の熱収支の関係、ゾーンB1とゾーンE1との間の熱収支の関係、ゾーンB2とゾーンE2との間の熱収支の関係、ゾーンE1とゾーンE2との間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度をそれぞれ算出する。
【解決手段】反応器の流動層の断面積をSとし、高さをHとして2次元化した上で、沸点以下の熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積と、沸点を越えている熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積との比率に応じて、水平方向に二分割する。さらに、鉛直方向には、伝熱管が存在する領域とそれ以外の領域とに二分割される。ゾーンB1とゾーンB2との間の熱収支の関係、ゾーンB1とゾーンE1との間の熱収支の関係、ゾーンB2とゾーンE2との間の熱収支の関係、ゾーンE1とゾーンE2との間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度をそれぞれ算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析装置および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続式の化学プロセスにおいては連続流通型の反応器が用いられてきた。このような反応器では、原料を連続的に供給して化学反応を進行させる。このような連続式の化学プロセスにおいては、流動層反応器が利用されることも多い。
【0003】
このような連続式の反応器は、熱反応(発熱または吸熱)を生じる化学プロセスにも適用される。このような化学プロセスに適用する場合には、生成物の品質を安定化させるために、反応器内(流動層)の温度を所定の目標温度に管理する必要がある。そのため、反応器の内部には、熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置される。このような伝熱管は、典型的には、コイル状やヘアピン状に形成される。すなわち、これらの伝熱管に熱伝達媒体を通過させることで、反応器内の媒質(流動化粒子や、反応物質、雰囲気ガス)との間で熱交換が行なわれ、反応器内の媒質の温度が冷却(除熱)または昇温(加熱)される。
【0004】
このような熱伝達媒体の典型例としては、水が利用される。たとえば、反応器内の冷却を行なう場合には、伝熱管の入口から液相状態の水(フィールド温度)が供給される。この液相状態の水は、伝熱管を通過する過程において、反応器内から熱を吸収することで、その温度が沸点に到達して飽和蒸気となる。さらに、場合によっては、熱伝達媒体である水は、沸点を超えるまで過熱されて過熱蒸気となる。
【0005】
生成物の安定した品質を維持しつつ反応器の運転を行なうためには、反応器内の温度制御が重要であり、そのためには、伝熱管内外における伝熱挙動の把握および理解が不可欠である。
【0006】
一般的には、1つの反応器に対して複数系列のブロックの伝熱管が構成、すなわち複数本の伝熱管が挿入されている。そして、各ブロックについて、そこに流す熱伝達媒体の流量、温度および圧力などが制御される。しかしながら、上述したように、熱伝達媒体が伝熱管を通過する過程で液相状態の水から過熱蒸気まで変態しており、熱伝達媒体がいずれの区間でいずれの相状態であるかを把握することは難しい。熱伝達媒体の相状態が変化すると、伝熱挙動(伝熱係数)も大きく異なり、このような伝熱解析をする上ではこうした情報を得ることが重要である。
【0007】
そこで、反応器内の伝熱解析の手法としては、粒子相およびガス相をそれぞれ連続流体とみなし二流体モデルとして取り扱う手法や、粒子一つ一つの挙動を非定常解析する複雑な方法などが提案されている。
【0008】
たとえば、非特許文献1には、流動性の触媒による熱分解反応を含む流動床の挙動をコンピュータシミュレーションにより算出する方法が開示されている。非特許文献2は、液相の流動床反応器において、固体粒子の一つ一つをトレースして、その挙動および伝熱を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】セバスチャン・ジマーマン、ファリボーズ・タグファイポー(Sebastian Zimmermann and Fariborz Taghipour)、「FCC流動床反応器における流体力学および反応速度のCFDモデリング(CFD Modeling of the Hydrodynamics and Reaction Kinetics of FCC Fluidized-Bed Reactors)」、産業技術化学研究(Ind. Eng. Chem. Res.)、(米国)、米国化学学会(American Chemical Society)、2005年、第44巻、pp.9818−9827
【非特許文献2】K.F.マローン、B.H.クゥー(K.F. Malone, B.H. Xu)、「液体流動床における伝熱の粒子規模シミュレーション(Particle-scale simulation of heat transfer in liquid-fluidised beds)」、パウダーテクノロジー(Powder Technology)、2008年、第184巻、pp.189−204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したような非特許文献1および2に開示されるような手法では、反応器内の挙動を高い精度で解析できる一方で、膨大な繰り返し計算を行なう必要があるため、計算に非常に多くの時間を要する。解析の精度や解析対象の規模によっては、1回の計算が完了するまでに、数時間から数ヶ月に及ぶものも少なくない。このように、非常に多くの計算時間が必要であり、かつ、それに要する計算コストも大きくなるため、現実的には実際の商業規模の装置の解析へ適用することは容易ではなかった。
【0011】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を、短時間に解析できる解析装置および解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある局面によれば、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析装置を提供する。本解析装置は、複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付ける入力手段と、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出する区間長算出手段と、反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する温度算出手段とを含む。
【0013】
好ましくは、区間長算出手段は、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係、および、伝熱管を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて、第1〜第5の区間の長さをそれぞれ算出する。
【0014】
好ましくは、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係は、熱伝達媒体を沸点まで上昇させるための顕熱についての第1の熱収支の関係と、沸点まで上昇した熱伝達媒体が保持する潜熱についての第2の熱収支の関係とを含む。
【0015】
好ましくは、温度算出手段は、第1、第2、第4、第5の区間の長さの総和に基づいて第1のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出し、第3の区間の長さに基づいて第2のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出する。
【0016】
好ましくは、温度算出手段は、第1のゾーンと第2のゾーンとの間の熱収支の関係、第1のゾーンと第3のゾーンとの間の熱収支の関係、第2のゾーンと第4のゾーンとの間の熱収支の関係、および、第3のゾーンと第4のゾーンとの間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度を算出する。
【0017】
好ましくは、第3のゾーンは、反応器内において第1のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものであり、第4のゾーンは、反応器内において第2のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものである。
【0018】
本発明の別の局面によれば、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析プログラムを提供する。本解析プログラムはコンピュータに、複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付けるステップと、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出するステップと、反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を短時間に解析できる。これにより、現実に反応器を運転する際における伝熱状態の解析をより容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に従う解析対象の化学プロセスの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す反応器内に配置された伝熱管の一例を示す模式図である。
【図3】図2に示す伝熱管の重力方向の位置関係を示す模式図である。
【図4】この発明の実施の形態に従う解析装置を実現するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータの概略構成図である。
【図5】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の全体処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法における複数の伝熱管のモデルを示す図である。
【図7】本実施の形態に従う反応器内の伝熱状態を解析するためのモデルを示す図である。
【図8】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法において粒子の移動量を算出するためのモデルを示す図である。
【図9】本実施の形態に従う反応器内の反応率の一例を示す図である。
【図10】図5に示す全体処理手順を示すフローチャートのステップS4の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【図11】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を実プラントへ適用した場合の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
<A.概要>
本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法においては、基本的には、2つの段階の処理を行なうことで、内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する。
【0023】
第1の段階としては、反応器内に配置される複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているか、あるいは、沸点以下に維持されているかを含む解析条件を受付けて、熱伝達媒体の状態の別にそれぞれが存在する区間長さを算出する。より具体的には、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えている伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水のみが存在する区間)、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水と飽和蒸気が混在する区間)、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間(熱伝達媒体が水である場合には、過熱蒸気が存在する区間)の別に、その区間長さを算出する。同様に、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持されている伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水のみが存在する区間)、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水と飽和蒸気が混在する区間)の別に、その区間長さを算出する。
【0024】
すなわち、各伝熱管を流れる熱伝達媒体が、入口から出口に向かって、液体状態の水、飽和蒸気、過熱蒸気に順次変化するものとみなして、各区間の長さを算出する。
【0025】
上述のような第1〜第5の区間の長さは、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係、および、伝熱管を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて算出される。この処理については、後に詳述する。
【0026】
第2の段階としては、反応器内の温度分布を算出する。このとき、算出を高速化するために、反応器内を4つのゾーンに区分して模擬する。より具体的には、(a)沸点以下の温度に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わすゾーン、(b)沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わすゾーン、(c)(a)のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じないゾーン、(d)(b)のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じないゾーン、の4つのゾーンに区分する。
【0027】
このように4つのゾーンに区分するのは、液体状態の水のみが存在する場合、あるいは、液体状態の水と飽和蒸気が混在する場合の伝熱挙動(伝熱係数)と、熱伝達媒体が過熱蒸気である場合の伝熱挙動(伝熱係数)とが大きく異なるためである。ここで、上記の第1の段階において算出した、それぞれの伝熱管における各区間の長さに基づいて、上記(a)および(b)のゾーンにおける伝熱挙動を模擬する。
【0028】
最終的に、上述のように4つに区分されたゾーンについて、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する。このように算出されたゾーン別の温度により、反応器内の温度分布(温度の偏りなど)を評価することができる。
【0029】
<B.対象プロセス>
本発明に従う伝熱状態の解析処理は、発熱反応を生じる化学反応に対して反応器内に配置された伝熱管に熱伝達媒体を循環させることで冷却するプロセス、および、吸熱反応を生じる化学反応に対して反応器内に配置された伝熱管に熱伝達媒体を循環させることで加熱するプロセスのいずれに対しても適用可能である。本実施の形態においては、典型的に、流動層反応器で発熱反応を生じる化学反応を進行させる場合に、熱伝達媒体として水を用いて、反応器内の温度制御(冷却)を行なうプロセスに適用した場合の処理について説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に従う解析対象の化学プロセスの概略構成を示す図である。図2は、図1に示す反応器内に配置された伝熱管の一例を示す模式図である。図3は、図2に示す伝熱管の重力方向の位置関係を示す模式図である。
【0031】
図1を参照して、解析対象の化学プロセス1は、流動層の反応器2を中心に構成される。反応器2の内部には、供給される原料Aとの間で化学反応を生じる原料Bが存在するものとする。典型的には、原料Aは、反応器2の底部に設けられた原料供給口4から気相状態で供給される。反応器2の底部側には、ガス分散板6が設けられており、このガス分散板6の上側に原料Bが充填される。なお、原料Bには、原料Aによる化学反応を促進するための触媒が含まれる場合もある。原料Bは、ガス分散板6の上側に流動層8の状態で存在する。この流動層8では、反応器2の下部から原料Aを送り込むことにより、原料Bを流動化させて、原料Aと原料Bとを接触させる。化学反応によって生成されたガス状の反応生成物は、反応器2の頂部から取り出されて、次工程へ送られる。
【0032】
反応器2の内部には、熱伝達媒体(冷却水)を流すための複数の伝熱管10が配置される。熱伝達媒体が伝熱管10を通過することで、熱伝達媒体と原料Aおよび/または原料Bとの間で熱交換が生じ、反応器2の内部(流動層8)の温度が調整される。
【0033】
より具体的には、反応器2への原料の供給経路12上には、原料Aの吹込流量を制御するための流調弁14と、原料Aの吹込流量を検出するための流量検出器16と、原料Aの吹込温度を検出するための温度検出器18とが設けられる。
【0034】
また、伝熱管10の供給側には、熱伝達媒体(冷却水)の供給流量(冷却水量)を制御するための流調弁24と、熱伝達媒体の入口流量を検出するための流量検出器26と、熱伝達媒体の入口温度を検出するための温度検出器28とが設けられる。
【0035】
また、反応器2から生成物を取り出すための経路上には、生成物の流量(生成物流量)を検出するための流量検出器34と、生成物の温度を検出するための温度検出器36とが設けられる。
【0036】
図2に示す反応器2の運転を行なう際には、流量検出器34および温度検出器36によりそれぞれ測定される生成物の流量検出値および温度検出値に基づいて、原料Aの吹込流量および吹込温度、ならびに、冷却水量および冷却水温度などが適宜調整される。また、本実施の形態に従う解析方法によって反応器2内の伝熱状態が取得されると、取得された伝熱状態に基づいて、上述の各種パラメータが調整される場合もある。
【0037】
なお、本明細書においては、反応器2の長手方向をZ軸とし、このZ軸に直交する平面をX軸およびY軸として定義する。
【0038】
図2には、反応器2内に配置される伝熱管10の一例を示す。図2(a)に示す例では、伝熱管10が12系列のブロックとして配置されているものとする。なお、図2に示す伝熱管10の配置例は、後述する計算例においても利用される。
【0039】
図2(a)において、各伝熱管10に示す○印は、Z方向への屈曲を意味する。たとえば、系列(1)の伝熱管10についてみれば、図2(a)のIIb−IIb線での断面構造は、図2(b)に示すようになる。すなわち、図2(b)に示すように、伝熱管10は、X−Y平面上で屈曲して配置されるだけでなく、Z方向にも屈曲して配置される。
【0040】
このように、伝熱管10は、X,Y,Z軸の各方向に屈曲配置することで、より多くの表面積(界面積)を確保するようになっている。
【0041】
なお、後述する計算例においては、図3に示すように、ガス分散板6の位置(すなわち、流動層8の最下層位置)から伝熱管10の最下端までの距離をhEとし、伝熱管10のZ軸における屈曲量をhBとする。
【0042】
<C.解析装置の構成>
本実施の形態に従う解析装置は、代表的にコンピュータによって実現される。図4は、この発明の実施の形態に従う解析装置を実現するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータ100の概略構成図である。
【0043】
図4参照して、コンピュータ100は、FD(Flexible Disk)駆動装置111およびCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)駆動装置113を搭載したコンピュータ本体101と、モニタ102と、キーボード103と、マウス104とを含む。
【0044】
コンピュータ本体101は、FD駆動装置111およびCD−ROM駆動装置113に加えて、相互にバスで接続された、演算装置であるCPU(Central Processing Unit)105と、メモリ106と、記憶装置である固定ディスク107と、通信インターフェース109とを含む。
【0045】
本実施の形態に従う伝熱状態の解析処理は、CPU105がメモリ106などのコンピュータハードウェアを用いて、プログラムを実行することで実現される。一般的に、このようなプログラムは、FD112やCD−ROM114などの記録媒体に格納されて、またはネットワークなどを介して流通する。そして、このようなプログラムは、FD駆動装置111やCD−ROM駆動装置113などにより記録媒体から読取られて、または通信インターフェース109にて受信されて、固定ディスク107に格納される。さらに、このようなプログラムは、固定ディスク107からメモリ106に読出されて、CPU105により実行される。
【0046】
CPU105は、様々な数値論理演算を行なう演算処理部であり、プログラムされた命令を順次実行することで、本実施の形態に従う解析機能を提供する。メモリ106は、CPU105のプログラム実行に応じて各種の情報を記憶する。
【0047】
モニタ102は、CPU105が出力する情報を表示するための表示部であって、一例としてLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などから構成される。すなわち、モニタ102には、解析結果などが表示される。
【0048】
マウス104は、クリックやスライドなどの動作に応じたユーザから指令を受付ける。キーボード103は、入力されるキーに応じたユーザから指令を受付ける。通信インターフェース109は、コンピュータ100と他の装置との間の通信を確立するための装置であり、各種データを外部から受付可能である。
【0049】
なお、上述したようなコンピュータに代えて、その一部または全部を専用のハードウェアによって実現してもよい。また、本実施の形態に従う解析処理の一部をネットワークにより接続されたコンピュータに実行させてもよい(いわゆる、クラウドコンピューティング)。また、本実施の形態に従う伝熱状態の解析処理に必要な一部機能を、コンピュータ100で実行されるOS(Operating System)が提供してもよい。
【0050】
<D.全体処理手順>
先に、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の全体処理手順について説明する。図5は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の全体処理手順を示すフローチャートである。なお、図5に示す各ステップは、主として、解析装置のコンピュータ100のCPU105が予め定められたプログラムを実行することで実現される。
【0051】
図5を参照して、まず、CPU105は、解析対象の化学プロセスについての解析条件を受付ける(ステップS1)。この解析条件には、解析対象の反応器の構造パラメータ、伝熱管10の構造パラメータ、熱伝達媒体の流量・温度・圧力などの設定値、および、反応器2内での化学反応による発熱量といった各種パラメータに加えて、複数の伝熱管10の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているか、あるいは、沸点以下に維持されているかという状態値を含む。そして、CPU105は、入力された解析条件に基づいて、複数の伝熱管10のうち流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているグループに属する伝熱管10の合計長さを算出するとともに、複数の伝熱管10のうち流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持されているグループに属する伝熱管10の合計長さを算出する(ステップS2)。
【0052】
続いて、CPU105は、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているグループに属する伝熱管10の合計長さに対して、熱伝達媒体の3つの状態にそれぞれ対応する区間長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持されているグループに属する伝熱管10の合計長さに対して、熱伝達媒体の2つの状態にそれぞれ対応する区間長さを算出する(ステップS3)。
【0053】
続いて、CPU105は、反応器2内を4つのゾーンに区分して、ゾーン間の熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する(ステップS4)。そして、CPU105は、ステップS4において算出されたゾーン別の温度に基づいて、反応器2内の温度分布などを解析結果として出力する(ステップS5)。そして、処理は終了する。
【0054】
<E.伝熱管における区間長さ算出>
次に、図5に示すステップS2およびS3に示す、各状態に対応する区間長さの算出処理について説明する。
【0055】
図6は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法における複数の伝熱管10のモデルを示す図である。図6を参照して、一つのモデルとして、反応器2に供給される熱伝達媒体(水)が伝熱管10を通過する過程において沸点まで昇温され、さらに、一部の熱伝達媒体が過熱蒸気となって伝熱管10の出口に達する状態を考える。このような状態となっている伝熱管10を、過熱蒸気発生を意味する"Super heated steam producers"の頭文字をとって、以下「SP」とも称し、「SP」である伝熱管10が含まれる集合を「SPグループ」とも称す。
【0056】
一方、熱伝達媒体の流量および温度、反応器内温度(厳密には、反応器の反応層温度Tbed)、伝熱管10のジオメトリなどによっては、熱伝達媒体(水)が伝熱管10を通過したとしても、過熱蒸気となるまでは加熱されない場合もある。このような場合には、伝熱管10の出口では、沸点に到達しているが未だ液体状態の水と飽和蒸気が混在した状態(以下「沸点液」とも称す。)となっている。このような状態となっている伝熱管10を、完全な沸騰器ではないことを意味する"Non-complete boilers"の頭文字をとって、以下「NB」とも称し、「NB」である伝熱管10が含まれる集合を「NBグループ」とも称す。
【0057】
現実に運転している反応器2においては、各伝熱管10の出口温度を測定することで、それがSPグループに属するのか、あるいは、NBグループに属するのかを判断することができる。また、机上でのシミュレーションを行なう場合には、過去の運転データや経験則などに基づいて、各伝熱管10がSPグループに属するのかであるか、あるいは、NBグループに属するのかを指定することができる。
【0058】
本実施の形態に従う解析方法においては、SPグループに属すると判断された伝熱管10について、熱伝達媒体の流れる方向の順に、沸点以下の液体状態の水のみが存在する第1の区間(熱伝達媒体である水の温度が入口温度から沸点までの間にある区間)、沸点に到達しているが未だ液体状態の水と飽和蒸気が混在する第2の区間(熱伝達媒体である水が沸点に維持されている区間)、過熱蒸気が存在する第3の区間(熱伝達媒体である水が沸点を超えている区間)に区分する。同様に、NBグループに属すると判断された伝熱管10について、熱伝達媒体の流れる方向の順に、沸点以下の液体状態の水のみが存在する第4の区間(熱伝達媒体である水の温度が入口温度から沸点までの間にある区間)、沸点に到達しているが未だ液体状態の水と飽和蒸気が混在する第5の区間(熱伝達媒体である水が沸点に維持されている区間)に区分する。そして、各区間についての区間長さを算出する。
【0059】
より具体的には、伝熱管10を流れる熱伝達媒体についての熱収支、および、伝熱管10を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて、各区間の長さが算出される。このとき、反応器2内の媒質(反応物質や雰囲気ガス)と伝熱管10との間の伝熱係数も算出される。
【0060】
(e1.SPグループについての熱収支式)
まず、過熱蒸気が発生しているSPグループの伝熱管10について考える。
【0061】
入口温度Twater[℃]の熱伝達媒体を入口流量mSP[kg/s](あるいは、[ton/h])で伝熱管10へ流すとすると、熱伝達媒体が第1の区間の区間長さL1を通過することで、沸点Tboil[℃]まで加熱されるので、この第1の区間を通過する際に受ける熱収支を考慮すると、(1.1)式に示すような関係式が成立する。なお、(1.1)式において、Cp(water)[J/kg・℃]は熱伝達媒体の液体状態での比熱であり、h[W/m2・℃]は熱伝達媒体が飽和蒸気である場合の伝熱係数であり、DOは対象の伝熱管10の外径である。なお、(1.1)式においては、第1区間における熱伝達媒体の平均温度を入口温度と沸点との中間値((Twater+Tboil)/2)とした。
【0062】
次に、入口流量mSP[kg/s]の熱伝達媒体が第2の区間の区間長さL2を通過することで与えられる熱は気化熱となるので、(1.2)式に示すような関係式が成立する。なお、(1.2)式において、HV[J/kg]は熱伝達媒体の蒸発潜熱である。
【0063】
次に、入口流量mSP[kg/s]の熱伝達媒体は第3の区間の区間長さL3を通過することで与えられる熱により過熱蒸気となるので、熱伝達媒体が過熱蒸気である場合の伝熱係数hsteam[W/m2・℃]、ならびに、熱伝達媒体が沸点Tboilである場合の比エンタルピHboil[J/kg]および熱伝達媒体が出口温度TSPの過熱蒸気である場合の比エンタルピHSP[J/kg]を用いて、(1.3)式に示すような関係式が成立する。
【0064】
また、熱伝達媒体が過熱蒸気である場合の伝熱係数hsteamについては、レイノルズ数とプラントル数との相関式で表される、ジッタス−ベルター(Dittus and Boelter)の式((1.4)式)を用いて算出することができる。
【0065】
【数1】
【0066】
(e2.NBグループについての熱収支式)
次に、過熱蒸気が発生していないNBグループの伝熱管10について考える。この場合、SP管についての熱収支の関係において、第3の区間の区間長さL3をゼロとしたものと実質的に等価となる。
【0067】
すなわち、入口温度Twater[℃]の熱伝達媒体を入口流量mNB[kg/s](あるいは、[ton/h])で伝熱管10へ流すとすると、熱伝達媒体が第4の区間の区間長さL1*を通過することで、沸点Tboil[℃]まで加熱されるので、この第1の区間を通過する際に受ける熱収支を考慮すると、(2.1)式に示すような関係式が成立する。
【0068】
次に、入口流量mNB[kg/s]の熱伝達媒体が第5の区間の区間長さL2*を通過することで与えられる熱は気化熱となるので、(2.2)式に示すような関係式が成立する。
【0069】
【数2】
【0070】
すなわち、上述の(1.1)式および(2.1)式は、熱伝達媒体を沸点まで上昇させるための顕熱について熱収支の関係を意味する。また、(1.2)式は、沸点まで上昇した熱伝達媒体が保持する潜熱についての熱収支の関係を意味する。
【0071】
(e3.物質についての収支式)
また、伝熱管10に供給される熱伝達媒体の質量の連続性が維持されるので、複数の伝熱管10の入口における水の総流量をMwater[kg/s]とし、蒸気の総発生量をMsteam[kg/s]とすると、NBグループの伝熱管10を通過する熱伝達媒体のうち蒸気となるものの比率fを用いて、(3.1)式および(3.2)式のような水の物質収支の式が成立する。
【0072】
【数3】
【0073】
(e4.計算例)
次に、図2に示すような伝熱管10の配置構成について計算した結果を示す。図2に示すように合計5ブロックがSPグループに属し、合計7ブロックがNBグループに属しているものとする。
【0074】
図3に示す屈曲量hBを600[mm]とすると、SPグループに属する伝熱管10の合計長さは48.6[m]と計算され、NBグループに属する伝熱管10の合計長さは79.1[m]と計算された。すなわち、(4)式のような条件式が成立する。
【0075】
【数4】
【0076】
その他のパラメータとしては、各ブロックの伝熱管10の外径φを89.1[mm]とし、その肉厚を5.5[mm]とした。また、熱伝達媒体としては、3.0[MPaG]かつ200[℃]の水を4.1[ton/h]の入口流量で供給するものとする。また、蒸気の総発生量Msteamは1.3[ton/h]であるとする。また、沸点Tboilは235.7[℃]であり、出口温度TSPは340[℃]であるとする。
【0077】
上述のような解析条件に基づいて、各式を連立させて解くと、以下のような結果を算出することができる。すなわち、伝熱管10の各区間における区間長さL1,L2,L3,L1*,L2*、NBグループを通過する熱伝達媒体のうち蒸気となるものの比率f、伝熱係数h,hsteamは、それぞれ以下のように算出される。
【0078】
【数5】
【0079】
<F.反応器におけるゾーン別の温度算出>
(f1.Four-zone heat transfer model)
上述したように、熱伝達媒体が液体状態の水のみが存在する場合、あるいは、液体状態の水と飽和蒸気が混在する場合と過熱蒸気である場合とでは、その温度および伝熱挙動が異なる。そのため、伝熱管10が配置されている領域のうち、その内部を飽和蒸気が流れる領域とその内部を過熱蒸気が流れる領域との間には、流動層8の層温度に差が生じる可能性がある。たとえば、上述の計算例に示すように、伝熱係数hと伝熱係数hsteamとの間には、8倍程度の差がある。
【0080】
そこで、本実施の形態に従う解析方法においては、異なる温度の伝熱管10が配置されて熱交換が行なわれる流動層8内の温度を解析する方法として、流動層8を4つのゾーンに区分して模擬する、Four-zone heat transfer modelを採用する。
【0081】
図7は、本実施の形態に従う反応器2内の伝熱状態を解析するためのモデルを示す図である。図7に示すモデルは、反応器2の流動層8の断面積をS[m2]とし、高さをH[m]として2次元化した上で、沸点以下の熱伝達媒体が流れる伝熱管10の界面積A1[m2]と、沸点を越えている熱伝達媒体が流れる伝熱管10の界面積A2[m2]との比率に応じて、水平方向に二分割する。すなわち、A1:A2=S1:S2が成立するように、各ゾーンの断面積S1およびS2が決定される。
【0082】
さらに、鉛直方向には、伝熱管10が存在する領域とそれ以外の領域とに二分割される。すなわち、図3に示すように、ガス分散板6から伝熱管10の最下端までの領域(距離hEの範囲)と、伝熱管10が存在する範囲(屈曲量hBの範囲)とに鉛直方向に二分割される。
【0083】
以下、図7に示すように、それぞれのゾーンを「ゾーンB1」、「ゾーンB2」、「ゾーンE1」、「ゾーンE2」と称する。ゾーンB1では、伝熱管10内の沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象が生じ、ゾーンB2では、伝熱管10内の沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象が生じる。すなわち、ゾーンB1からは、反応器2内の熱量QB1が外部へ排出され、ゾーンB2からは、反応器2内の熱量QB2が外部へ排出されるものとする。
【0084】
また、ゾーンE1は、ゾーンB1に関連付けられており、ゾーンE1では伝熱管10内の熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない。同様に、ゾーンE2は、ゾーンB2に関連付けられており、ゾーンE2では伝熱管10内の熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない。すなわち、ゾーンE1は、反応器2内においてゾーンB1の重力下側に位置する領域を表わしたものであり、ゾーンE2は、反応器2内においてゾーンB2の重力下側に位置する領域を表わしたものである。そのため、ゾーンB1とゾーンE1との間は、反応器2内に吹き込まれるガス状の原料Aによって鉛直方向に移動する粒子に伴って熱収支の関係が成立し、ゾーンB2とゾーンE2との間は、反応器2内に吹き込まれるガス状の原料Aによって鉛直方向に移動する粒子に伴って熱収支の関係が成立する。なお、本モデルにおいては、ゾーンB2とゾーンE1との間には、熱の移動が存在しないものとみなす。
【0085】
ゾーンB1の界面積A1およびゾーンB2の界面積A2は、上述したようなSPグループおよびNBグループについてそれぞれ算出された各状態に対応する区間長さに基づいて算出される。
【0086】
具体的には、ゾーンB1の界面積A1は、SPグループに属する伝熱管10のうち、熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される区間の長さ(第1の区間の区間長さL1および第2の区間の区間長さL2)と、NBグループに属する伝熱管10のうち、熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される区間の長さ(第4の区間の区間長さL1*および第5の区間の区間長さL2*)との総和に基づいて以下のように算出される。なお、NBグループに属する伝熱管10のすべてがゾーンB1に含まれることになる。
【0087】
また、ゾーンB2の界面積A2は、SPグループに属する伝熱管10のうち、熱伝達媒体の温度が沸点を超えている区間の長さ(第3の区間の区間長さL3)に基づいて以下のように算出される。なお、DOは対象の伝熱管10の外径である。
【0088】
【数6】
【0089】
また、各ゾーンの温度は均一であるとする。すなわち、ゾーンB1の温度がTB1であり、ゾーンB2の温度がTB2であり、ゾーンE1の温度がTE1であり、ゾーンE2の温度がTE2であるとする。
【0090】
また、ゾーンB1に属する伝熱管10を流れる熱伝達媒体の温度は、入口温度Twaterから沸点Tboilの範囲までの温度分布を有するが、取扱いを容易にするために、流れる熱伝達媒体の温度を代表する熱伝達媒体温度TW1を採用する。この熱伝達媒体温度TW1は、上述の計算によって得られた各状態に対応する区間長さなどを用いて、重み付け平均から算出してもよい。
【0091】
同様に、ゾーンB2に属する伝熱管10を流れる熱伝達媒体の温度は、沸点Tboilから出口温度TSPの範囲までの温度分布を有するが、流れる熱伝達媒体の温度を代表する熱伝達媒体温度TW2を採用する。この熱伝達媒体温度TW2は、沸点Tboilと出口温度TSPとの中間値として算出してもよい。
【0092】
上述のようなモデル化をした上で、ゾーンB1とゾーンB2との間の熱収支の関係、ゾーンB1とゾーンE1との間の熱収支の関係、ゾーンB1とゾーンE1との間の熱収支の関係、ゾーンB2とゾーンE2との間の熱収支の関係、ゾーンE1とゾーンE2との間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度TB1,TB2,TE1,TE2をそれぞれ算出する。
【0093】
なお、ゾーンB1とゾーンB2との間の粒子の移動量をWrB[kg/s]とし、ゾーンB1とゾーンE1との間の粒子の移動量をWa1[kg/s]とし、ゾーンB2とゾーンE2との間の粒子の移動量をWa2[kg/s]とし、ゾーンE1とゾーンE2との間の粒子の移動量をWrE[kg/s]とする。これらの隣接するゾーン間の熱収支は、これらの粒子の移動によって運搬される熱を表わすことになる。
【0094】
また、ガス状の原料Aの吹込温度をT0とする。この吹き込まれるガスによって、ゾーンE1およびE2に存在する粒子には、その吹込温度T0に応じた熱量が与えられるとともに、鉛直上方向に移動力が生じる。
【0095】
(f2.各ゾーンにおける熱収支の関係)
上述のような物理現象に起因する各ゾーンについての熱収支をまとめると、以下に示す(5.1)〜(5.4)式に示すような関係式を導くことができる。なお、(5.1)〜(5.4)式の左辺の項ΔHrφE1,ΔHrφE2,ΔHrφB1,ΔHrφB2は、それぞれゾーンE1,E2,B1,B2における化学反応による単位時間当たりの発熱量[J/s]を示す。この発熱量については、後述する。
【0096】
【数7】
【0097】
以下、これらの熱収支の関係式について説明する。
まず、ゾーンE1についての熱収支を表わす(5.1)式の右辺第1項は、反応器2内に吹き込まれる原料Aが、その吹込温度T0からゾーンE1の温度TE1に達するまでに必要とする単位時間当たりの顕熱量を示す。すなわち、ρgは、吹き込まれる原料Aの密度[kg/m3]を示し、Uは、吹き込まれる原料Aの空塔速度[m/s]を示し、Cpgは、吹き込まれる原料Aの比熱[J/kg・℃]を示す。
【0098】
また、(5.1)式の右辺第2項は、ゾーンE1とゾーンB1との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。すなわち、Cppは、流動層8に存在する粒子の比熱[J/kg・℃]を示し、ηは、移動量についての係数(パラメータ)である。同様に、(5.1)式の右辺第3項は、ゾーンE1とゾーンE2との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。
【0099】
ゾーンE2についての熱収支を表わす(5.2)式の右辺の各項は、上述の(5.1)式と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0100】
次に、ゾーンB1についての熱収支を表わす(5.3)式の右辺第1項は、ゾーンE1からゾーンB1に流れ込む温度TE1の雰囲気ガスがゾーンB1の温度TB1に達するまでに必要とする単位時間当たりの顕熱量を示す。同様に、(5.3)式の右辺第2項は、ゾーンE1とゾーンB1との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。この(5.3)式の右辺第2項は、上述した(5.1)式の右辺第2項と符号が反対で同じ値となっている。
【0101】
また、(5.3)式の右辺第3項は、ゾーンB1とゾーンB2との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。
【0102】
また、(5.3)式の右辺第4項は、ゾーンB1に属する伝熱管10を流れる熱伝達媒体によって反応器2の外部へ持ち出される単位時間当たりの熱量を示す。すなわち、右辺第4項は、図7に示す熱量QB1に相当する。
【0103】
ゾーンB2についての熱収支を表わす(5.4)式の右辺の各項は、上述の(5.3)式と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0104】
(f3.粒子の移動量)
次に、上述の(5.1)〜(5.4)式を解くために必要な粒子の移動量について説明する。
【0105】
図8は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法において粒子の移動量を算出するためのモデルを示す図である。図8を参照して、反応器2内に吹き込まれたガス状の原料Aにより生じる気泡の移動によって、反応器2内の粒子が移動するものとする。すなわち、粒子の移動量は、気泡のウエイクによる成分と、気泡の移動に同搬する成分との合成により表わされるものとする。
【0106】
より具体的には、気泡のウエイクによって移動する粒子の体積比率をfw(無次元)とし、気泡が移動することに伴い同搬される粒子の体積比率をfd(無次元)とすると、粒子の鉛直方向の移動量Wa1およびWa2は、それぞれ(6.1)式および(7.1)式に用に表わすことができる。
【0107】
【数8】
【0108】
ここで、ρpは、移動する粒子の密度[kg/m3]を示し、εmfは、流動層8に存在する雰囲気ガスの体積比率(無次元)を示す。すなわち、(1−εmf)は、流動層8のうち粒子が存在する確率を意味する。
【0109】
また、GB1およびGB2は、それぞれゾーンB1およびB2におけるガスの体積移動量[m3/s]を示す。すなわち、それぞれ(6.2)式および(7.2)式に従って算出される。ここで、Umfは、最小流動化速度[m/s]を示し、Uは、雰囲気ガスの空塔速度[m/s]を示す。なお、係数αは、反応器の構造により定まる、ガスの体積移動量についての係数(パラメータ)である。一例として、αは、0.7〜0.9の範囲の値(典型的には、0.8)が用いられる。
【0110】
また、ゾーンB1およびB2における断面積S1およびS2は、それぞれ(6.3)式および(7.3)式に従って算出される。
【0111】
次に、粒子の水平方向の移動量WrEおよびWrBは、粒子の物性やガス分散板の構造に依存し、より具体的には、それぞれ粒子の鉛直方向の移動量Wa1およびWa2に比較して、1ケタ程度小さいことが知られており、係数βを0.005〜0.15(すなわち、鉛直方向の移動量に対して0.5%〜15%)として、それぞれ(8.1)式および(8.2)式のように表わすことができる。
【0112】
【数9】
【0113】
本実施の形態に従う計算例においては、図2および図3に示すような伝熱管10のジオメトリから、一例として、係数k=2.74、高さh0=0.30[m]、H=0.90[m]という値を用いることができる。
【0114】
(f4.化学反応による発熱量)
次に、上述の(5.1)〜(5.4)式の左辺の項である、各ゾーンにおける単位時間当たりの発熱量について説明する。
【0115】
上述の(5.1)〜(5.4)式の左辺の各項は、以下に示す(9.1)〜(9.4)式のように表わすことができる。
【0116】
【数10】
【0117】
ここで、Qrxは、反応器2内で進行する化学反応で生じる単位モル当たりの発熱量[W/mol]である。また、反応器2内に充填される原料のうち化学反応に使用される割合を反応率Xとして表わしている。なお、反応率Xの添え字は、流動層8における高さ(ガス分散板6からの距離)を示す。すなわち、Xh0は、ガス分散板6から高さh0(ゾーンE1,E2とゾーンB1,B2との境界面)の位置にある流動層8の反応率を示し、XHは、ガス分散板6から高さHの位置にある流動層8の反応率を示す。
【0118】
すなわち、この反応率Xは、反応器2内の鉛直方向に位置に依存する変数である。また、反応率Xは温度依存性も有する。そのため、流動層8における温度が上昇すると、その反応率は増加する。
【0119】
図9は、本実施の形態に従う反応器2内の反応率の一例を示す図である。図9に示すように、基本的には、反応器2の上部であるほど反応率Xは高い値を示し、かつ、流動層8の温度が上昇するほど反応率Xは高い値を示す。
【0120】
なお、このような反応率Xの算出方法の詳細については、文献1(“流動層触媒反応器における触媒粒子径分布の現象(THE EFFECT OF PARTICLE SIZE DISTRIBUTION ON THE PERFORMANCE OF A CATALYTIC FLUIDIZED BED REACTOR)”、グワンリン・サン、ジョン・R.グレース(Guanglin Sun and John R. Grace)、化学工学サイエンス(Chemical Engineering Science)、(英国)、1990年、第45巻、第8号、pp.2187−2194)、および、文献2(“パイロットスケール触媒反応気泡流動層に関するモデリング(Modeling of Catalytically Bubbling Fluidized Bed on Pilot Scale)”、アミール・ファルシ、サイード・ハッサン・ボロージェルディ(Amir Farshi, Saeed Hassan Boroojerdi)石油と石炭(Petroleum and Coal)、2005年、第47巻、第1号、pp.57−62)などを参照されたい。
【0121】
本実施の形態に従う解析方法においては、上述の(5.1)〜(5.4)式に示す熱収支の関係式と、上述の(9.1)〜(9.4)式に示す発熱量(反応率)についての関係式とを交互に繰り返し計算することで、ゾーン別の温度の収束解を算出する。
【0122】
なお、ゾーンの温度が変化しても反応率がほぼ一定であるとみなすことができる場合には、このような収束計算を行なう必要はない。
【0123】
(f5.処理手順)
次に、上述したように、(5.1)〜(5.4)式に示す熱収支の関係式と、(9.1)〜(9.4)式に示す発熱量(反応率)についての関係式とを交互に繰り返し計算することで、ゾーン別の温度の収束解を算出する場合の処理手順について説明する。
【0124】
図10は、図5に示す全体処理手順を示すフローチャートのステップS4の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【0125】
図10を参照して、CPU105は、各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2の初期値を設定する(ステップS41)。具体的には、CPU105は、ユーザが入力する値、あるいは、予め定められたデフォルト値などを設定する。なお、初期値としては、すべてのゾーン温度が同一の値を採用してもよい。
【0126】
続いて、CPU105は、設定されている各ゾーンの温度に基づいて、各ゾーンにおける反応率および単位時間当たりの発熱量を算出する(ステップS42)。すなわち、CPU105は、各ゾーンにおける反応率を算出し、続いて、上述の(9.1)〜(9.4)式に従って、ΔHrφE1,ΔHrφE2,ΔHrφB1,ΔHrφB2をそれぞれ算出する。
【0127】
続いて、CPU105は、ステップS42において算出した各ゾーンにおける単位時間当たりの発熱量を用いて、(5.1)〜(5.4)式に示す熱収支の関係式を解いて、各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2を算出する(ステップS43)。
【0128】
続いて、CPU105は、ステップS43において算出した各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2が収束しているか否かを判断する(ステップS44)。すなわち、CPU105は、直近のステップS42の実行時に各ゾーンにおける単位時間当たりの発熱量の算出処理に用いられた各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2と、直近のステップS43において算出された各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2との間のそれぞれの偏差が所定値以内に収まっているか否かを評価する。
【0129】
算出した各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2が収束していない場合(ステップS44においてNOの場合)には、CPU105は、現在の各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2を補正する(ステップS45)。たとえば、ステップS44における評価において偏差が最も大きい温度について、その偏差を解消する方向にその値が変更される。そして、ステップS42以下の処理が繰返される。
【0130】
これに対して、算出した各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2が収束している場合(ステップS44においてYESの場合)には、CPU105は、現在の各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2、および、現在の反応率を収束解として出力する(ステップS46)。そして、処理は、図5に示すステップS5へ進む。
【0131】
(f6.計算例)
上述したような本実施の形態に従う計算例において収束計算を行なったところ、以下に示すような収束解を得た。
【0132】
【数11】
【0133】
なお、伝熱管10が存在しないゾーンE1およびE2における反応率Xh0としては、ゾーンB1およびB2との境界面(h=h0)における値に換算した値を示す。また、伝熱管10が存在するゾーンB1およびB2における反応率XHとしては、流動層の最上部の高さ(h=H)における値に換算した値を示す。
【0134】
上述した結果を見ると、NBのグループに属する伝熱管10とSPのグループに属する伝熱管10との間には、最大で3.1[℃](=|TB1−TB2|=|398.7[℃]−401.8[℃]|)の温度差が生じる可能性があることがわかる。
【0135】
また、流動層8内において、NBのグループに属する伝熱管10が配置される領域とその下部にある伝熱管10が配置されていない領域との間には、最大で1.1[℃](=|TB1−TE1|=|398.7[℃]−399.8[℃]|)の温度差が生じる可能性があることがわかる。
【0136】
また、流動層8内において、SPのグループに属する伝熱管10が配置される領域とその下部にある伝熱管10が配置されていない領域との間には、最大で0.6[℃](=|TB2−TE2|=|401.8[℃]−402.4[℃]|)の温度差が生じる可能性があることがわかる。
【0137】
<G.適用例>
上述した本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の適用例について説明する。
【0138】
(g1.運転中のプラントを変更する場合)
たとえば、何らの運転中のプラントにおいて、生産量などを調整するために運転条件を変更する必要がある場合などに、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を用いて、反応器2内での温度分布の変化などを予め推算することができる。この手順としては、以下のようになる。
【0139】
図11は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を実プラントへ適用した場合の手順を示すフローチャートである。
【0140】
図11を参照して、ユーザは、運転中のプラントにおいて、伝熱管10のそれぞれの出口温度などに基づいて、各伝熱管10がSPグループおよびNBグループのいずれに属するかを判断する(ステップS100)。
【0141】
続いて、ユーザは、変更を希望する運転条件とともに、解析に必要なパラメータを本実施の形態に従う解析装置(コンピュータ)へ入力する(ステップS101)。なお、運転条件としては、熱伝達媒体である冷却水の循環流量・温度・圧力、および、反応器への原料の吹込流量・吹込温度などを含む。すると、解析装置は、入力されたパラメータおよび運転条件に従って、伝熱状態の解析処理(図5に示すステップS1〜S5)を実行する(ステップS102)。
【0142】
ユーザは、解析装置からディスプレイなどに出力される解析結果を参照して、希望する運転条件が適切なものであるか否かを判断する(ステップS103)。希望する運転条件が適切なものではない場合(ステップS103においてNOの場合)には、ユーザは、新たな運転条件を設定し(ステップS104)、解析装置(コンピュータ)へ入力する(ステップS101)。そして、ステップS102以下の処理が繰返される。
【0143】
そして、適切な運転条件が見つかれば(ステップS103においてYESの場合)、ユーザは、得られた運転条件に従って、プラントの運転状態を変更する(ステップS105)。
【0144】
(g2.プラント運転前のシミュレーションとして適用する場合)
本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法は、現実に運転するプラントだけでなく、実プラントの運転前における伝熱状態や、パイロットプラントにおける伝熱状態をシミュレーションすることもできる。この場合には、経験則、類似のプラントにおける状況、もしくは、予め定められた規則などに基づいて、複数の伝熱管10について、各伝熱管10がSPグループおよびNBグループのいずれに属するかを予め決定する。それ以外の手順は、図11に示す手順と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0145】
(g3.運転中のプラントの状態を把握する場合)
本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を用いることで、運転中のプラントにおけるある時点での伝熱状態を把握することもできる。この場合には、把握した伝熱状態を評価して、運転条件を変更する必要があるか否かを判断することもできる。
【0146】
<H.作用・効果>
本実施の形態によれば、複数の伝熱管が配置された反応器内の複雑な伝熱解析を、熱伝達媒体の状態の別にそれぞれが存在する区間長さを算出して、その伝熱挙動(伝熱係数)が異なる2つの状態(沸点以下の温度を有する熱伝達媒体が流れる区間と沸点を超えた温度を有する熱伝達媒体が流れる区間)に分離する。そして、各区間の長さを示す値を用いて、反応器内を4つのゾーンに区分して熱収支の関係を用いて、ゾーン別の温度を算出する。
【0147】
このように反応器内の複雑な伝熱状態を4つのゾーンのモデルに代表させることで、その計算量を低減するとともに、反応器の運転に必要な情報を短時間に取得することができる。
【0148】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0149】
1 化学プロセス、2 反応器、4 原料供給口、6 ガス分散板、8 流動層、10 伝熱管、12 供給経路、14,24 流調弁、16,26,34 流量検出器、18,28,36 温度検出器、100 コンピュータ、101 コンピュータ本体、102 モニタ、103 キーボード、104 マウス、105 CPU、106 メモリ、107 固定ディスク、109 通信インターフェース、111 FD駆動装置、113 CD−ROM駆動装置、114 CD−ROM。
【技術分野】
【0001】
本発明は、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析装置および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、連続式の化学プロセスにおいては連続流通型の反応器が用いられてきた。このような反応器では、原料を連続的に供給して化学反応を進行させる。このような連続式の化学プロセスにおいては、流動層反応器が利用されることも多い。
【0003】
このような連続式の反応器は、熱反応(発熱または吸熱)を生じる化学プロセスにも適用される。このような化学プロセスに適用する場合には、生成物の品質を安定化させるために、反応器内(流動層)の温度を所定の目標温度に管理する必要がある。そのため、反応器の内部には、熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置される。このような伝熱管は、典型的には、コイル状やヘアピン状に形成される。すなわち、これらの伝熱管に熱伝達媒体を通過させることで、反応器内の媒質(流動化粒子や、反応物質、雰囲気ガス)との間で熱交換が行なわれ、反応器内の媒質の温度が冷却(除熱)または昇温(加熱)される。
【0004】
このような熱伝達媒体の典型例としては、水が利用される。たとえば、反応器内の冷却を行なう場合には、伝熱管の入口から液相状態の水(フィールド温度)が供給される。この液相状態の水は、伝熱管を通過する過程において、反応器内から熱を吸収することで、その温度が沸点に到達して飽和蒸気となる。さらに、場合によっては、熱伝達媒体である水は、沸点を超えるまで過熱されて過熱蒸気となる。
【0005】
生成物の安定した品質を維持しつつ反応器の運転を行なうためには、反応器内の温度制御が重要であり、そのためには、伝熱管内外における伝熱挙動の把握および理解が不可欠である。
【0006】
一般的には、1つの反応器に対して複数系列のブロックの伝熱管が構成、すなわち複数本の伝熱管が挿入されている。そして、各ブロックについて、そこに流す熱伝達媒体の流量、温度および圧力などが制御される。しかしながら、上述したように、熱伝達媒体が伝熱管を通過する過程で液相状態の水から過熱蒸気まで変態しており、熱伝達媒体がいずれの区間でいずれの相状態であるかを把握することは難しい。熱伝達媒体の相状態が変化すると、伝熱挙動(伝熱係数)も大きく異なり、このような伝熱解析をする上ではこうした情報を得ることが重要である。
【0007】
そこで、反応器内の伝熱解析の手法としては、粒子相およびガス相をそれぞれ連続流体とみなし二流体モデルとして取り扱う手法や、粒子一つ一つの挙動を非定常解析する複雑な方法などが提案されている。
【0008】
たとえば、非特許文献1には、流動性の触媒による熱分解反応を含む流動床の挙動をコンピュータシミュレーションにより算出する方法が開示されている。非特許文献2は、液相の流動床反応器において、固体粒子の一つ一つをトレースして、その挙動および伝熱を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】セバスチャン・ジマーマン、ファリボーズ・タグファイポー(Sebastian Zimmermann and Fariborz Taghipour)、「FCC流動床反応器における流体力学および反応速度のCFDモデリング(CFD Modeling of the Hydrodynamics and Reaction Kinetics of FCC Fluidized-Bed Reactors)」、産業技術化学研究(Ind. Eng. Chem. Res.)、(米国)、米国化学学会(American Chemical Society)、2005年、第44巻、pp.9818−9827
【非特許文献2】K.F.マローン、B.H.クゥー(K.F. Malone, B.H. Xu)、「液体流動床における伝熱の粒子規模シミュレーション(Particle-scale simulation of heat transfer in liquid-fluidised beds)」、パウダーテクノロジー(Powder Technology)、2008年、第184巻、pp.189−204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したような非特許文献1および2に開示されるような手法では、反応器内の挙動を高い精度で解析できる一方で、膨大な繰り返し計算を行なう必要があるため、計算に非常に多くの時間を要する。解析の精度や解析対象の規模によっては、1回の計算が完了するまでに、数時間から数ヶ月に及ぶものも少なくない。このように、非常に多くの計算時間が必要であり、かつ、それに要する計算コストも大きくなるため、現実的には実際の商業規模の装置の解析へ適用することは容易ではなかった。
【0011】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を、短時間に解析できる解析装置および解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある局面によれば、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析装置を提供する。本解析装置は、複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付ける入力手段と、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出する区間長算出手段と、反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する温度算出手段とを含む。
【0013】
好ましくは、区間長算出手段は、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係、および、伝熱管を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて、第1〜第5の区間の長さをそれぞれ算出する。
【0014】
好ましくは、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係は、熱伝達媒体を沸点まで上昇させるための顕熱についての第1の熱収支の関係と、沸点まで上昇した熱伝達媒体が保持する潜熱についての第2の熱収支の関係とを含む。
【0015】
好ましくは、温度算出手段は、第1、第2、第4、第5の区間の長さの総和に基づいて第1のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出し、第3の区間の長さに基づいて第2のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出する。
【0016】
好ましくは、温度算出手段は、第1のゾーンと第2のゾーンとの間の熱収支の関係、第1のゾーンと第3のゾーンとの間の熱収支の関係、第2のゾーンと第4のゾーンとの間の熱収支の関係、および、第3のゾーンと第4のゾーンとの間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度を算出する。
【0017】
好ましくは、第3のゾーンは、反応器内において第1のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものであり、第4のゾーンは、反応器内において第2のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものである。
【0018】
本発明の別の局面によれば、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析プログラムを提供する。本解析プログラムはコンピュータに、複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付けるステップと、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出するステップと、反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を短時間に解析できる。これにより、現実に反応器を運転する際における伝熱状態の解析をより容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に従う解析対象の化学プロセスの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す反応器内に配置された伝熱管の一例を示す模式図である。
【図3】図2に示す伝熱管の重力方向の位置関係を示す模式図である。
【図4】この発明の実施の形態に従う解析装置を実現するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータの概略構成図である。
【図5】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の全体処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法における複数の伝熱管のモデルを示す図である。
【図7】本実施の形態に従う反応器内の伝熱状態を解析するためのモデルを示す図である。
【図8】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法において粒子の移動量を算出するためのモデルを示す図である。
【図9】本実施の形態に従う反応器内の反応率の一例を示す図である。
【図10】図5に示す全体処理手順を示すフローチャートのステップS4の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【図11】本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を実プラントへ適用した場合の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
<A.概要>
本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法においては、基本的には、2つの段階の処理を行なうことで、内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する。
【0023】
第1の段階としては、反応器内に配置される複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているか、あるいは、沸点以下に維持されているかを含む解析条件を受付けて、熱伝達媒体の状態の別にそれぞれが存在する区間長さを算出する。より具体的には、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えている伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水のみが存在する区間)、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水と飽和蒸気が混在する区間)、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間(熱伝達媒体が水である場合には、過熱蒸気が存在する区間)の別に、その区間長さを算出する。同様に、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持されている伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水のみが存在する区間)、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間(熱伝達媒体が水である場合には、液体状態の水と飽和蒸気が混在する区間)の別に、その区間長さを算出する。
【0024】
すなわち、各伝熱管を流れる熱伝達媒体が、入口から出口に向かって、液体状態の水、飽和蒸気、過熱蒸気に順次変化するものとみなして、各区間の長さを算出する。
【0025】
上述のような第1〜第5の区間の長さは、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係、および、伝熱管を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて算出される。この処理については、後に詳述する。
【0026】
第2の段階としては、反応器内の温度分布を算出する。このとき、算出を高速化するために、反応器内を4つのゾーンに区分して模擬する。より具体的には、(a)沸点以下の温度に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わすゾーン、(b)沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わすゾーン、(c)(a)のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じないゾーン、(d)(b)のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じないゾーン、の4つのゾーンに区分する。
【0027】
このように4つのゾーンに区分するのは、液体状態の水のみが存在する場合、あるいは、液体状態の水と飽和蒸気が混在する場合の伝熱挙動(伝熱係数)と、熱伝達媒体が過熱蒸気である場合の伝熱挙動(伝熱係数)とが大きく異なるためである。ここで、上記の第1の段階において算出した、それぞれの伝熱管における各区間の長さに基づいて、上記(a)および(b)のゾーンにおける伝熱挙動を模擬する。
【0028】
最終的に、上述のように4つに区分されたゾーンについて、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する。このように算出されたゾーン別の温度により、反応器内の温度分布(温度の偏りなど)を評価することができる。
【0029】
<B.対象プロセス>
本発明に従う伝熱状態の解析処理は、発熱反応を生じる化学反応に対して反応器内に配置された伝熱管に熱伝達媒体を循環させることで冷却するプロセス、および、吸熱反応を生じる化学反応に対して反応器内に配置された伝熱管に熱伝達媒体を循環させることで加熱するプロセスのいずれに対しても適用可能である。本実施の形態においては、典型的に、流動層反応器で発熱反応を生じる化学反応を進行させる場合に、熱伝達媒体として水を用いて、反応器内の温度制御(冷却)を行なうプロセスに適用した場合の処理について説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に従う解析対象の化学プロセスの概略構成を示す図である。図2は、図1に示す反応器内に配置された伝熱管の一例を示す模式図である。図3は、図2に示す伝熱管の重力方向の位置関係を示す模式図である。
【0031】
図1を参照して、解析対象の化学プロセス1は、流動層の反応器2を中心に構成される。反応器2の内部には、供給される原料Aとの間で化学反応を生じる原料Bが存在するものとする。典型的には、原料Aは、反応器2の底部に設けられた原料供給口4から気相状態で供給される。反応器2の底部側には、ガス分散板6が設けられており、このガス分散板6の上側に原料Bが充填される。なお、原料Bには、原料Aによる化学反応を促進するための触媒が含まれる場合もある。原料Bは、ガス分散板6の上側に流動層8の状態で存在する。この流動層8では、反応器2の下部から原料Aを送り込むことにより、原料Bを流動化させて、原料Aと原料Bとを接触させる。化学反応によって生成されたガス状の反応生成物は、反応器2の頂部から取り出されて、次工程へ送られる。
【0032】
反応器2の内部には、熱伝達媒体(冷却水)を流すための複数の伝熱管10が配置される。熱伝達媒体が伝熱管10を通過することで、熱伝達媒体と原料Aおよび/または原料Bとの間で熱交換が生じ、反応器2の内部(流動層8)の温度が調整される。
【0033】
より具体的には、反応器2への原料の供給経路12上には、原料Aの吹込流量を制御するための流調弁14と、原料Aの吹込流量を検出するための流量検出器16と、原料Aの吹込温度を検出するための温度検出器18とが設けられる。
【0034】
また、伝熱管10の供給側には、熱伝達媒体(冷却水)の供給流量(冷却水量)を制御するための流調弁24と、熱伝達媒体の入口流量を検出するための流量検出器26と、熱伝達媒体の入口温度を検出するための温度検出器28とが設けられる。
【0035】
また、反応器2から生成物を取り出すための経路上には、生成物の流量(生成物流量)を検出するための流量検出器34と、生成物の温度を検出するための温度検出器36とが設けられる。
【0036】
図2に示す反応器2の運転を行なう際には、流量検出器34および温度検出器36によりそれぞれ測定される生成物の流量検出値および温度検出値に基づいて、原料Aの吹込流量および吹込温度、ならびに、冷却水量および冷却水温度などが適宜調整される。また、本実施の形態に従う解析方法によって反応器2内の伝熱状態が取得されると、取得された伝熱状態に基づいて、上述の各種パラメータが調整される場合もある。
【0037】
なお、本明細書においては、反応器2の長手方向をZ軸とし、このZ軸に直交する平面をX軸およびY軸として定義する。
【0038】
図2には、反応器2内に配置される伝熱管10の一例を示す。図2(a)に示す例では、伝熱管10が12系列のブロックとして配置されているものとする。なお、図2に示す伝熱管10の配置例は、後述する計算例においても利用される。
【0039】
図2(a)において、各伝熱管10に示す○印は、Z方向への屈曲を意味する。たとえば、系列(1)の伝熱管10についてみれば、図2(a)のIIb−IIb線での断面構造は、図2(b)に示すようになる。すなわち、図2(b)に示すように、伝熱管10は、X−Y平面上で屈曲して配置されるだけでなく、Z方向にも屈曲して配置される。
【0040】
このように、伝熱管10は、X,Y,Z軸の各方向に屈曲配置することで、より多くの表面積(界面積)を確保するようになっている。
【0041】
なお、後述する計算例においては、図3に示すように、ガス分散板6の位置(すなわち、流動層8の最下層位置)から伝熱管10の最下端までの距離をhEとし、伝熱管10のZ軸における屈曲量をhBとする。
【0042】
<C.解析装置の構成>
本実施の形態に従う解析装置は、代表的にコンピュータによって実現される。図4は、この発明の実施の形態に従う解析装置を実現するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータ100の概略構成図である。
【0043】
図4参照して、コンピュータ100は、FD(Flexible Disk)駆動装置111およびCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)駆動装置113を搭載したコンピュータ本体101と、モニタ102と、キーボード103と、マウス104とを含む。
【0044】
コンピュータ本体101は、FD駆動装置111およびCD−ROM駆動装置113に加えて、相互にバスで接続された、演算装置であるCPU(Central Processing Unit)105と、メモリ106と、記憶装置である固定ディスク107と、通信インターフェース109とを含む。
【0045】
本実施の形態に従う伝熱状態の解析処理は、CPU105がメモリ106などのコンピュータハードウェアを用いて、プログラムを実行することで実現される。一般的に、このようなプログラムは、FD112やCD−ROM114などの記録媒体に格納されて、またはネットワークなどを介して流通する。そして、このようなプログラムは、FD駆動装置111やCD−ROM駆動装置113などにより記録媒体から読取られて、または通信インターフェース109にて受信されて、固定ディスク107に格納される。さらに、このようなプログラムは、固定ディスク107からメモリ106に読出されて、CPU105により実行される。
【0046】
CPU105は、様々な数値論理演算を行なう演算処理部であり、プログラムされた命令を順次実行することで、本実施の形態に従う解析機能を提供する。メモリ106は、CPU105のプログラム実行に応じて各種の情報を記憶する。
【0047】
モニタ102は、CPU105が出力する情報を表示するための表示部であって、一例としてLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などから構成される。すなわち、モニタ102には、解析結果などが表示される。
【0048】
マウス104は、クリックやスライドなどの動作に応じたユーザから指令を受付ける。キーボード103は、入力されるキーに応じたユーザから指令を受付ける。通信インターフェース109は、コンピュータ100と他の装置との間の通信を確立するための装置であり、各種データを外部から受付可能である。
【0049】
なお、上述したようなコンピュータに代えて、その一部または全部を専用のハードウェアによって実現してもよい。また、本実施の形態に従う解析処理の一部をネットワークにより接続されたコンピュータに実行させてもよい(いわゆる、クラウドコンピューティング)。また、本実施の形態に従う伝熱状態の解析処理に必要な一部機能を、コンピュータ100で実行されるOS(Operating System)が提供してもよい。
【0050】
<D.全体処理手順>
先に、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の全体処理手順について説明する。図5は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の全体処理手順を示すフローチャートである。なお、図5に示す各ステップは、主として、解析装置のコンピュータ100のCPU105が予め定められたプログラムを実行することで実現される。
【0051】
図5を参照して、まず、CPU105は、解析対象の化学プロセスについての解析条件を受付ける(ステップS1)。この解析条件には、解析対象の反応器の構造パラメータ、伝熱管10の構造パラメータ、熱伝達媒体の流量・温度・圧力などの設定値、および、反応器2内での化学反応による発熱量といった各種パラメータに加えて、複数の伝熱管10の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているか、あるいは、沸点以下に維持されているかという状態値を含む。そして、CPU105は、入力された解析条件に基づいて、複数の伝熱管10のうち流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているグループに属する伝熱管10の合計長さを算出するとともに、複数の伝熱管10のうち流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持されているグループに属する伝熱管10の合計長さを算出する(ステップS2)。
【0052】
続いて、CPU105は、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えているグループに属する伝熱管10の合計長さに対して、熱伝達媒体の3つの状態にそれぞれ対応する区間長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持されているグループに属する伝熱管10の合計長さに対して、熱伝達媒体の2つの状態にそれぞれ対応する区間長さを算出する(ステップS3)。
【0053】
続いて、CPU105は、反応器2内を4つのゾーンに区分して、ゾーン間の熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する(ステップS4)。そして、CPU105は、ステップS4において算出されたゾーン別の温度に基づいて、反応器2内の温度分布などを解析結果として出力する(ステップS5)。そして、処理は終了する。
【0054】
<E.伝熱管における区間長さ算出>
次に、図5に示すステップS2およびS3に示す、各状態に対応する区間長さの算出処理について説明する。
【0055】
図6は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法における複数の伝熱管10のモデルを示す図である。図6を参照して、一つのモデルとして、反応器2に供給される熱伝達媒体(水)が伝熱管10を通過する過程において沸点まで昇温され、さらに、一部の熱伝達媒体が過熱蒸気となって伝熱管10の出口に達する状態を考える。このような状態となっている伝熱管10を、過熱蒸気発生を意味する"Super heated steam producers"の頭文字をとって、以下「SP」とも称し、「SP」である伝熱管10が含まれる集合を「SPグループ」とも称す。
【0056】
一方、熱伝達媒体の流量および温度、反応器内温度(厳密には、反応器の反応層温度Tbed)、伝熱管10のジオメトリなどによっては、熱伝達媒体(水)が伝熱管10を通過したとしても、過熱蒸気となるまでは加熱されない場合もある。このような場合には、伝熱管10の出口では、沸点に到達しているが未だ液体状態の水と飽和蒸気が混在した状態(以下「沸点液」とも称す。)となっている。このような状態となっている伝熱管10を、完全な沸騰器ではないことを意味する"Non-complete boilers"の頭文字をとって、以下「NB」とも称し、「NB」である伝熱管10が含まれる集合を「NBグループ」とも称す。
【0057】
現実に運転している反応器2においては、各伝熱管10の出口温度を測定することで、それがSPグループに属するのか、あるいは、NBグループに属するのかを判断することができる。また、机上でのシミュレーションを行なう場合には、過去の運転データや経験則などに基づいて、各伝熱管10がSPグループに属するのかであるか、あるいは、NBグループに属するのかを指定することができる。
【0058】
本実施の形態に従う解析方法においては、SPグループに属すると判断された伝熱管10について、熱伝達媒体の流れる方向の順に、沸点以下の液体状態の水のみが存在する第1の区間(熱伝達媒体である水の温度が入口温度から沸点までの間にある区間)、沸点に到達しているが未だ液体状態の水と飽和蒸気が混在する第2の区間(熱伝達媒体である水が沸点に維持されている区間)、過熱蒸気が存在する第3の区間(熱伝達媒体である水が沸点を超えている区間)に区分する。同様に、NBグループに属すると判断された伝熱管10について、熱伝達媒体の流れる方向の順に、沸点以下の液体状態の水のみが存在する第4の区間(熱伝達媒体である水の温度が入口温度から沸点までの間にある区間)、沸点に到達しているが未だ液体状態の水と飽和蒸気が混在する第5の区間(熱伝達媒体である水が沸点に維持されている区間)に区分する。そして、各区間についての区間長さを算出する。
【0059】
より具体的には、伝熱管10を流れる熱伝達媒体についての熱収支、および、伝熱管10を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて、各区間の長さが算出される。このとき、反応器2内の媒質(反応物質や雰囲気ガス)と伝熱管10との間の伝熱係数も算出される。
【0060】
(e1.SPグループについての熱収支式)
まず、過熱蒸気が発生しているSPグループの伝熱管10について考える。
【0061】
入口温度Twater[℃]の熱伝達媒体を入口流量mSP[kg/s](あるいは、[ton/h])で伝熱管10へ流すとすると、熱伝達媒体が第1の区間の区間長さL1を通過することで、沸点Tboil[℃]まで加熱されるので、この第1の区間を通過する際に受ける熱収支を考慮すると、(1.1)式に示すような関係式が成立する。なお、(1.1)式において、Cp(water)[J/kg・℃]は熱伝達媒体の液体状態での比熱であり、h[W/m2・℃]は熱伝達媒体が飽和蒸気である場合の伝熱係数であり、DOは対象の伝熱管10の外径である。なお、(1.1)式においては、第1区間における熱伝達媒体の平均温度を入口温度と沸点との中間値((Twater+Tboil)/2)とした。
【0062】
次に、入口流量mSP[kg/s]の熱伝達媒体が第2の区間の区間長さL2を通過することで与えられる熱は気化熱となるので、(1.2)式に示すような関係式が成立する。なお、(1.2)式において、HV[J/kg]は熱伝達媒体の蒸発潜熱である。
【0063】
次に、入口流量mSP[kg/s]の熱伝達媒体は第3の区間の区間長さL3を通過することで与えられる熱により過熱蒸気となるので、熱伝達媒体が過熱蒸気である場合の伝熱係数hsteam[W/m2・℃]、ならびに、熱伝達媒体が沸点Tboilである場合の比エンタルピHboil[J/kg]および熱伝達媒体が出口温度TSPの過熱蒸気である場合の比エンタルピHSP[J/kg]を用いて、(1.3)式に示すような関係式が成立する。
【0064】
また、熱伝達媒体が過熱蒸気である場合の伝熱係数hsteamについては、レイノルズ数とプラントル数との相関式で表される、ジッタス−ベルター(Dittus and Boelter)の式((1.4)式)を用いて算出することができる。
【0065】
【数1】
【0066】
(e2.NBグループについての熱収支式)
次に、過熱蒸気が発生していないNBグループの伝熱管10について考える。この場合、SP管についての熱収支の関係において、第3の区間の区間長さL3をゼロとしたものと実質的に等価となる。
【0067】
すなわち、入口温度Twater[℃]の熱伝達媒体を入口流量mNB[kg/s](あるいは、[ton/h])で伝熱管10へ流すとすると、熱伝達媒体が第4の区間の区間長さL1*を通過することで、沸点Tboil[℃]まで加熱されるので、この第1の区間を通過する際に受ける熱収支を考慮すると、(2.1)式に示すような関係式が成立する。
【0068】
次に、入口流量mNB[kg/s]の熱伝達媒体が第5の区間の区間長さL2*を通過することで与えられる熱は気化熱となるので、(2.2)式に示すような関係式が成立する。
【0069】
【数2】
【0070】
すなわち、上述の(1.1)式および(2.1)式は、熱伝達媒体を沸点まで上昇させるための顕熱について熱収支の関係を意味する。また、(1.2)式は、沸点まで上昇した熱伝達媒体が保持する潜熱についての熱収支の関係を意味する。
【0071】
(e3.物質についての収支式)
また、伝熱管10に供給される熱伝達媒体の質量の連続性が維持されるので、複数の伝熱管10の入口における水の総流量をMwater[kg/s]とし、蒸気の総発生量をMsteam[kg/s]とすると、NBグループの伝熱管10を通過する熱伝達媒体のうち蒸気となるものの比率fを用いて、(3.1)式および(3.2)式のような水の物質収支の式が成立する。
【0072】
【数3】
【0073】
(e4.計算例)
次に、図2に示すような伝熱管10の配置構成について計算した結果を示す。図2に示すように合計5ブロックがSPグループに属し、合計7ブロックがNBグループに属しているものとする。
【0074】
図3に示す屈曲量hBを600[mm]とすると、SPグループに属する伝熱管10の合計長さは48.6[m]と計算され、NBグループに属する伝熱管10の合計長さは79.1[m]と計算された。すなわち、(4)式のような条件式が成立する。
【0075】
【数4】
【0076】
その他のパラメータとしては、各ブロックの伝熱管10の外径φを89.1[mm]とし、その肉厚を5.5[mm]とした。また、熱伝達媒体としては、3.0[MPaG]かつ200[℃]の水を4.1[ton/h]の入口流量で供給するものとする。また、蒸気の総発生量Msteamは1.3[ton/h]であるとする。また、沸点Tboilは235.7[℃]であり、出口温度TSPは340[℃]であるとする。
【0077】
上述のような解析条件に基づいて、各式を連立させて解くと、以下のような結果を算出することができる。すなわち、伝熱管10の各区間における区間長さL1,L2,L3,L1*,L2*、NBグループを通過する熱伝達媒体のうち蒸気となるものの比率f、伝熱係数h,hsteamは、それぞれ以下のように算出される。
【0078】
【数5】
【0079】
<F.反応器におけるゾーン別の温度算出>
(f1.Four-zone heat transfer model)
上述したように、熱伝達媒体が液体状態の水のみが存在する場合、あるいは、液体状態の水と飽和蒸気が混在する場合と過熱蒸気である場合とでは、その温度および伝熱挙動が異なる。そのため、伝熱管10が配置されている領域のうち、その内部を飽和蒸気が流れる領域とその内部を過熱蒸気が流れる領域との間には、流動層8の層温度に差が生じる可能性がある。たとえば、上述の計算例に示すように、伝熱係数hと伝熱係数hsteamとの間には、8倍程度の差がある。
【0080】
そこで、本実施の形態に従う解析方法においては、異なる温度の伝熱管10が配置されて熱交換が行なわれる流動層8内の温度を解析する方法として、流動層8を4つのゾーンに区分して模擬する、Four-zone heat transfer modelを採用する。
【0081】
図7は、本実施の形態に従う反応器2内の伝熱状態を解析するためのモデルを示す図である。図7に示すモデルは、反応器2の流動層8の断面積をS[m2]とし、高さをH[m]として2次元化した上で、沸点以下の熱伝達媒体が流れる伝熱管10の界面積A1[m2]と、沸点を越えている熱伝達媒体が流れる伝熱管10の界面積A2[m2]との比率に応じて、水平方向に二分割する。すなわち、A1:A2=S1:S2が成立するように、各ゾーンの断面積S1およびS2が決定される。
【0082】
さらに、鉛直方向には、伝熱管10が存在する領域とそれ以外の領域とに二分割される。すなわち、図3に示すように、ガス分散板6から伝熱管10の最下端までの領域(距離hEの範囲)と、伝熱管10が存在する範囲(屈曲量hBの範囲)とに鉛直方向に二分割される。
【0083】
以下、図7に示すように、それぞれのゾーンを「ゾーンB1」、「ゾーンB2」、「ゾーンE1」、「ゾーンE2」と称する。ゾーンB1では、伝熱管10内の沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象が生じ、ゾーンB2では、伝熱管10内の沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象が生じる。すなわち、ゾーンB1からは、反応器2内の熱量QB1が外部へ排出され、ゾーンB2からは、反応器2内の熱量QB2が外部へ排出されるものとする。
【0084】
また、ゾーンE1は、ゾーンB1に関連付けられており、ゾーンE1では伝熱管10内の熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない。同様に、ゾーンE2は、ゾーンB2に関連付けられており、ゾーンE2では伝熱管10内の熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない。すなわち、ゾーンE1は、反応器2内においてゾーンB1の重力下側に位置する領域を表わしたものであり、ゾーンE2は、反応器2内においてゾーンB2の重力下側に位置する領域を表わしたものである。そのため、ゾーンB1とゾーンE1との間は、反応器2内に吹き込まれるガス状の原料Aによって鉛直方向に移動する粒子に伴って熱収支の関係が成立し、ゾーンB2とゾーンE2との間は、反応器2内に吹き込まれるガス状の原料Aによって鉛直方向に移動する粒子に伴って熱収支の関係が成立する。なお、本モデルにおいては、ゾーンB2とゾーンE1との間には、熱の移動が存在しないものとみなす。
【0085】
ゾーンB1の界面積A1およびゾーンB2の界面積A2は、上述したようなSPグループおよびNBグループについてそれぞれ算出された各状態に対応する区間長さに基づいて算出される。
【0086】
具体的には、ゾーンB1の界面積A1は、SPグループに属する伝熱管10のうち、熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される区間の長さ(第1の区間の区間長さL1および第2の区間の区間長さL2)と、NBグループに属する伝熱管10のうち、熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される区間の長さ(第4の区間の区間長さL1*および第5の区間の区間長さL2*)との総和に基づいて以下のように算出される。なお、NBグループに属する伝熱管10のすべてがゾーンB1に含まれることになる。
【0087】
また、ゾーンB2の界面積A2は、SPグループに属する伝熱管10のうち、熱伝達媒体の温度が沸点を超えている区間の長さ(第3の区間の区間長さL3)に基づいて以下のように算出される。なお、DOは対象の伝熱管10の外径である。
【0088】
【数6】
【0089】
また、各ゾーンの温度は均一であるとする。すなわち、ゾーンB1の温度がTB1であり、ゾーンB2の温度がTB2であり、ゾーンE1の温度がTE1であり、ゾーンE2の温度がTE2であるとする。
【0090】
また、ゾーンB1に属する伝熱管10を流れる熱伝達媒体の温度は、入口温度Twaterから沸点Tboilの範囲までの温度分布を有するが、取扱いを容易にするために、流れる熱伝達媒体の温度を代表する熱伝達媒体温度TW1を採用する。この熱伝達媒体温度TW1は、上述の計算によって得られた各状態に対応する区間長さなどを用いて、重み付け平均から算出してもよい。
【0091】
同様に、ゾーンB2に属する伝熱管10を流れる熱伝達媒体の温度は、沸点Tboilから出口温度TSPの範囲までの温度分布を有するが、流れる熱伝達媒体の温度を代表する熱伝達媒体温度TW2を採用する。この熱伝達媒体温度TW2は、沸点Tboilと出口温度TSPとの中間値として算出してもよい。
【0092】
上述のようなモデル化をした上で、ゾーンB1とゾーンB2との間の熱収支の関係、ゾーンB1とゾーンE1との間の熱収支の関係、ゾーンB1とゾーンE1との間の熱収支の関係、ゾーンB2とゾーンE2との間の熱収支の関係、ゾーンE1とゾーンE2との間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度TB1,TB2,TE1,TE2をそれぞれ算出する。
【0093】
なお、ゾーンB1とゾーンB2との間の粒子の移動量をWrB[kg/s]とし、ゾーンB1とゾーンE1との間の粒子の移動量をWa1[kg/s]とし、ゾーンB2とゾーンE2との間の粒子の移動量をWa2[kg/s]とし、ゾーンE1とゾーンE2との間の粒子の移動量をWrE[kg/s]とする。これらの隣接するゾーン間の熱収支は、これらの粒子の移動によって運搬される熱を表わすことになる。
【0094】
また、ガス状の原料Aの吹込温度をT0とする。この吹き込まれるガスによって、ゾーンE1およびE2に存在する粒子には、その吹込温度T0に応じた熱量が与えられるとともに、鉛直上方向に移動力が生じる。
【0095】
(f2.各ゾーンにおける熱収支の関係)
上述のような物理現象に起因する各ゾーンについての熱収支をまとめると、以下に示す(5.1)〜(5.4)式に示すような関係式を導くことができる。なお、(5.1)〜(5.4)式の左辺の項ΔHrφE1,ΔHrφE2,ΔHrφB1,ΔHrφB2は、それぞれゾーンE1,E2,B1,B2における化学反応による単位時間当たりの発熱量[J/s]を示す。この発熱量については、後述する。
【0096】
【数7】
【0097】
以下、これらの熱収支の関係式について説明する。
まず、ゾーンE1についての熱収支を表わす(5.1)式の右辺第1項は、反応器2内に吹き込まれる原料Aが、その吹込温度T0からゾーンE1の温度TE1に達するまでに必要とする単位時間当たりの顕熱量を示す。すなわち、ρgは、吹き込まれる原料Aの密度[kg/m3]を示し、Uは、吹き込まれる原料Aの空塔速度[m/s]を示し、Cpgは、吹き込まれる原料Aの比熱[J/kg・℃]を示す。
【0098】
また、(5.1)式の右辺第2項は、ゾーンE1とゾーンB1との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。すなわち、Cppは、流動層8に存在する粒子の比熱[J/kg・℃]を示し、ηは、移動量についての係数(パラメータ)である。同様に、(5.1)式の右辺第3項は、ゾーンE1とゾーンE2との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。
【0099】
ゾーンE2についての熱収支を表わす(5.2)式の右辺の各項は、上述の(5.1)式と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0100】
次に、ゾーンB1についての熱収支を表わす(5.3)式の右辺第1項は、ゾーンE1からゾーンB1に流れ込む温度TE1の雰囲気ガスがゾーンB1の温度TB1に達するまでに必要とする単位時間当たりの顕熱量を示す。同様に、(5.3)式の右辺第2項は、ゾーンE1とゾーンB1との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。この(5.3)式の右辺第2項は、上述した(5.1)式の右辺第2項と符号が反対で同じ値となっている。
【0101】
また、(5.3)式の右辺第3項は、ゾーンB1とゾーンB2との間を移動する粒子によって運ばれる単位時間当たりの熱量を示す。
【0102】
また、(5.3)式の右辺第4項は、ゾーンB1に属する伝熱管10を流れる熱伝達媒体によって反応器2の外部へ持ち出される単位時間当たりの熱量を示す。すなわち、右辺第4項は、図7に示す熱量QB1に相当する。
【0103】
ゾーンB2についての熱収支を表わす(5.4)式の右辺の各項は、上述の(5.3)式と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0104】
(f3.粒子の移動量)
次に、上述の(5.1)〜(5.4)式を解くために必要な粒子の移動量について説明する。
【0105】
図8は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法において粒子の移動量を算出するためのモデルを示す図である。図8を参照して、反応器2内に吹き込まれたガス状の原料Aにより生じる気泡の移動によって、反応器2内の粒子が移動するものとする。すなわち、粒子の移動量は、気泡のウエイクによる成分と、気泡の移動に同搬する成分との合成により表わされるものとする。
【0106】
より具体的には、気泡のウエイクによって移動する粒子の体積比率をfw(無次元)とし、気泡が移動することに伴い同搬される粒子の体積比率をfd(無次元)とすると、粒子の鉛直方向の移動量Wa1およびWa2は、それぞれ(6.1)式および(7.1)式に用に表わすことができる。
【0107】
【数8】
【0108】
ここで、ρpは、移動する粒子の密度[kg/m3]を示し、εmfは、流動層8に存在する雰囲気ガスの体積比率(無次元)を示す。すなわち、(1−εmf)は、流動層8のうち粒子が存在する確率を意味する。
【0109】
また、GB1およびGB2は、それぞれゾーンB1およびB2におけるガスの体積移動量[m3/s]を示す。すなわち、それぞれ(6.2)式および(7.2)式に従って算出される。ここで、Umfは、最小流動化速度[m/s]を示し、Uは、雰囲気ガスの空塔速度[m/s]を示す。なお、係数αは、反応器の構造により定まる、ガスの体積移動量についての係数(パラメータ)である。一例として、αは、0.7〜0.9の範囲の値(典型的には、0.8)が用いられる。
【0110】
また、ゾーンB1およびB2における断面積S1およびS2は、それぞれ(6.3)式および(7.3)式に従って算出される。
【0111】
次に、粒子の水平方向の移動量WrEおよびWrBは、粒子の物性やガス分散板の構造に依存し、より具体的には、それぞれ粒子の鉛直方向の移動量Wa1およびWa2に比較して、1ケタ程度小さいことが知られており、係数βを0.005〜0.15(すなわち、鉛直方向の移動量に対して0.5%〜15%)として、それぞれ(8.1)式および(8.2)式のように表わすことができる。
【0112】
【数9】
【0113】
本実施の形態に従う計算例においては、図2および図3に示すような伝熱管10のジオメトリから、一例として、係数k=2.74、高さh0=0.30[m]、H=0.90[m]という値を用いることができる。
【0114】
(f4.化学反応による発熱量)
次に、上述の(5.1)〜(5.4)式の左辺の項である、各ゾーンにおける単位時間当たりの発熱量について説明する。
【0115】
上述の(5.1)〜(5.4)式の左辺の各項は、以下に示す(9.1)〜(9.4)式のように表わすことができる。
【0116】
【数10】
【0117】
ここで、Qrxは、反応器2内で進行する化学反応で生じる単位モル当たりの発熱量[W/mol]である。また、反応器2内に充填される原料のうち化学反応に使用される割合を反応率Xとして表わしている。なお、反応率Xの添え字は、流動層8における高さ(ガス分散板6からの距離)を示す。すなわち、Xh0は、ガス分散板6から高さh0(ゾーンE1,E2とゾーンB1,B2との境界面)の位置にある流動層8の反応率を示し、XHは、ガス分散板6から高さHの位置にある流動層8の反応率を示す。
【0118】
すなわち、この反応率Xは、反応器2内の鉛直方向に位置に依存する変数である。また、反応率Xは温度依存性も有する。そのため、流動層8における温度が上昇すると、その反応率は増加する。
【0119】
図9は、本実施の形態に従う反応器2内の反応率の一例を示す図である。図9に示すように、基本的には、反応器2の上部であるほど反応率Xは高い値を示し、かつ、流動層8の温度が上昇するほど反応率Xは高い値を示す。
【0120】
なお、このような反応率Xの算出方法の詳細については、文献1(“流動層触媒反応器における触媒粒子径分布の現象(THE EFFECT OF PARTICLE SIZE DISTRIBUTION ON THE PERFORMANCE OF A CATALYTIC FLUIDIZED BED REACTOR)”、グワンリン・サン、ジョン・R.グレース(Guanglin Sun and John R. Grace)、化学工学サイエンス(Chemical Engineering Science)、(英国)、1990年、第45巻、第8号、pp.2187−2194)、および、文献2(“パイロットスケール触媒反応気泡流動層に関するモデリング(Modeling of Catalytically Bubbling Fluidized Bed on Pilot Scale)”、アミール・ファルシ、サイード・ハッサン・ボロージェルディ(Amir Farshi, Saeed Hassan Boroojerdi)石油と石炭(Petroleum and Coal)、2005年、第47巻、第1号、pp.57−62)などを参照されたい。
【0121】
本実施の形態に従う解析方法においては、上述の(5.1)〜(5.4)式に示す熱収支の関係式と、上述の(9.1)〜(9.4)式に示す発熱量(反応率)についての関係式とを交互に繰り返し計算することで、ゾーン別の温度の収束解を算出する。
【0122】
なお、ゾーンの温度が変化しても反応率がほぼ一定であるとみなすことができる場合には、このような収束計算を行なう必要はない。
【0123】
(f5.処理手順)
次に、上述したように、(5.1)〜(5.4)式に示す熱収支の関係式と、(9.1)〜(9.4)式に示す発熱量(反応率)についての関係式とを交互に繰り返し計算することで、ゾーン別の温度の収束解を算出する場合の処理手順について説明する。
【0124】
図10は、図5に示す全体処理手順を示すフローチャートのステップS4の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
【0125】
図10を参照して、CPU105は、各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2の初期値を設定する(ステップS41)。具体的には、CPU105は、ユーザが入力する値、あるいは、予め定められたデフォルト値などを設定する。なお、初期値としては、すべてのゾーン温度が同一の値を採用してもよい。
【0126】
続いて、CPU105は、設定されている各ゾーンの温度に基づいて、各ゾーンにおける反応率および単位時間当たりの発熱量を算出する(ステップS42)。すなわち、CPU105は、各ゾーンにおける反応率を算出し、続いて、上述の(9.1)〜(9.4)式に従って、ΔHrφE1,ΔHrφE2,ΔHrφB1,ΔHrφB2をそれぞれ算出する。
【0127】
続いて、CPU105は、ステップS42において算出した各ゾーンにおける単位時間当たりの発熱量を用いて、(5.1)〜(5.4)式に示す熱収支の関係式を解いて、各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2を算出する(ステップS43)。
【0128】
続いて、CPU105は、ステップS43において算出した各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2が収束しているか否かを判断する(ステップS44)。すなわち、CPU105は、直近のステップS42の実行時に各ゾーンにおける単位時間当たりの発熱量の算出処理に用いられた各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2と、直近のステップS43において算出された各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2との間のそれぞれの偏差が所定値以内に収まっているか否かを評価する。
【0129】
算出した各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2が収束していない場合(ステップS44においてNOの場合)には、CPU105は、現在の各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2を補正する(ステップS45)。たとえば、ステップS44における評価において偏差が最も大きい温度について、その偏差を解消する方向にその値が変更される。そして、ステップS42以下の処理が繰返される。
【0130】
これに対して、算出した各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2が収束している場合(ステップS44においてYESの場合)には、CPU105は、現在の各ゾーンの温度TB1,TB2,TE1,TE2、および、現在の反応率を収束解として出力する(ステップS46)。そして、処理は、図5に示すステップS5へ進む。
【0131】
(f6.計算例)
上述したような本実施の形態に従う計算例において収束計算を行なったところ、以下に示すような収束解を得た。
【0132】
【数11】
【0133】
なお、伝熱管10が存在しないゾーンE1およびE2における反応率Xh0としては、ゾーンB1およびB2との境界面(h=h0)における値に換算した値を示す。また、伝熱管10が存在するゾーンB1およびB2における反応率XHとしては、流動層の最上部の高さ(h=H)における値に換算した値を示す。
【0134】
上述した結果を見ると、NBのグループに属する伝熱管10とSPのグループに属する伝熱管10との間には、最大で3.1[℃](=|TB1−TB2|=|398.7[℃]−401.8[℃]|)の温度差が生じる可能性があることがわかる。
【0135】
また、流動層8内において、NBのグループに属する伝熱管10が配置される領域とその下部にある伝熱管10が配置されていない領域との間には、最大で1.1[℃](=|TB1−TE1|=|398.7[℃]−399.8[℃]|)の温度差が生じる可能性があることがわかる。
【0136】
また、流動層8内において、SPのグループに属する伝熱管10が配置される領域とその下部にある伝熱管10が配置されていない領域との間には、最大で0.6[℃](=|TB2−TE2|=|401.8[℃]−402.4[℃]|)の温度差が生じる可能性があることがわかる。
【0137】
<G.適用例>
上述した本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法の適用例について説明する。
【0138】
(g1.運転中のプラントを変更する場合)
たとえば、何らの運転中のプラントにおいて、生産量などを調整するために運転条件を変更する必要がある場合などに、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を用いて、反応器2内での温度分布の変化などを予め推算することができる。この手順としては、以下のようになる。
【0139】
図11は、本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を実プラントへ適用した場合の手順を示すフローチャートである。
【0140】
図11を参照して、ユーザは、運転中のプラントにおいて、伝熱管10のそれぞれの出口温度などに基づいて、各伝熱管10がSPグループおよびNBグループのいずれに属するかを判断する(ステップS100)。
【0141】
続いて、ユーザは、変更を希望する運転条件とともに、解析に必要なパラメータを本実施の形態に従う解析装置(コンピュータ)へ入力する(ステップS101)。なお、運転条件としては、熱伝達媒体である冷却水の循環流量・温度・圧力、および、反応器への原料の吹込流量・吹込温度などを含む。すると、解析装置は、入力されたパラメータおよび運転条件に従って、伝熱状態の解析処理(図5に示すステップS1〜S5)を実行する(ステップS102)。
【0142】
ユーザは、解析装置からディスプレイなどに出力される解析結果を参照して、希望する運転条件が適切なものであるか否かを判断する(ステップS103)。希望する運転条件が適切なものではない場合(ステップS103においてNOの場合)には、ユーザは、新たな運転条件を設定し(ステップS104)、解析装置(コンピュータ)へ入力する(ステップS101)。そして、ステップS102以下の処理が繰返される。
【0143】
そして、適切な運転条件が見つかれば(ステップS103においてYESの場合)、ユーザは、得られた運転条件に従って、プラントの運転状態を変更する(ステップS105)。
【0144】
(g2.プラント運転前のシミュレーションとして適用する場合)
本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法は、現実に運転するプラントだけでなく、実プラントの運転前における伝熱状態や、パイロットプラントにおける伝熱状態をシミュレーションすることもできる。この場合には、経験則、類似のプラントにおける状況、もしくは、予め定められた規則などに基づいて、複数の伝熱管10について、各伝熱管10がSPグループおよびNBグループのいずれに属するかを予め決定する。それ以外の手順は、図11に示す手順と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0145】
(g3.運転中のプラントの状態を把握する場合)
本実施の形態に従う伝熱状態の解析方法を用いることで、運転中のプラントにおけるある時点での伝熱状態を把握することもできる。この場合には、把握した伝熱状態を評価して、運転条件を変更する必要があるか否かを判断することもできる。
【0146】
<H.作用・効果>
本実施の形態によれば、複数の伝熱管が配置された反応器内の複雑な伝熱解析を、熱伝達媒体の状態の別にそれぞれが存在する区間長さを算出して、その伝熱挙動(伝熱係数)が異なる2つの状態(沸点以下の温度を有する熱伝達媒体が流れる区間と沸点を超えた温度を有する熱伝達媒体が流れる区間)に分離する。そして、各区間の長さを示す値を用いて、反応器内を4つのゾーンに区分して熱収支の関係を用いて、ゾーン別の温度を算出する。
【0147】
このように反応器内の複雑な伝熱状態を4つのゾーンのモデルに代表させることで、その計算量を低減するとともに、反応器の運転に必要な情報を短時間に取得することができる。
【0148】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0149】
1 化学プロセス、2 反応器、4 原料供給口、6 ガス分散板、8 流動層、10 伝熱管、12 供給経路、14,24 流調弁、16,26,34 流量検出器、18,28,36 温度検出器、100 コンピュータ、101 コンピュータ本体、102 モニタ、103 キーボード、104 マウス、105 CPU、106 メモリ、107 固定ディスク、109 通信インターフェース、111 FD駆動装置、113 CD−ROM駆動装置、114 CD−ROM。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析装置であって、
前記複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付ける入力手段と、
流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出する区間長算出手段と、
前記反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、前記第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、前記第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する温度算出手段とを備える、解析装置。
【請求項2】
前記区間長算出手段は、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係、および、伝熱管を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて、前記第1〜第5の区間の長さをそれぞれ算出する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係は、
熱伝達媒体を沸点まで上昇させるための顕熱についての第1の熱収支の関係と、
沸点まで上昇した熱伝達媒体が保持する潜熱についての第2の熱収支の関係とを含む、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記温度算出手段は、前記第1、第2、第4、第5の区間の長さの総和に基づいて前記第1のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出し、前記第3の区間の長さに基づいて前記第2のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記温度算出手段は、前記第1のゾーンと前記第2のゾーンとの間の熱収支の関係、前記第1のゾーンと前記第3のゾーンとの間の熱収支の関係、前記第2のゾーンと前記第4のゾーンとの間の熱収支の関係、および、前記第3のゾーンと前記第4のゾーンとの間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度を算出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記第3のゾーンは、前記反応器内において前記第1のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものであり、
前記第4のゾーンは、前記反応器内において前記第2のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析プログラムであって、前記解析プログラムはコンピュータに、
前記複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付けるステップと、
流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出するステップと、
前記反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、前記第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、前記第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出するステップとを実行させる、解析プログラム。
【請求項1】
その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析装置であって、
前記複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付ける入力手段と、
流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出する区間長算出手段と、
前記反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、前記第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、前記第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出する温度算出手段とを備える、解析装置。
【請求項2】
前記区間長算出手段は、伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係、および、伝熱管を流れる熱伝達媒体の物質収支の関係に基づいて、前記第1〜第5の区間の長さをそれぞれ算出する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記伝熱管を流れる熱伝達媒体についての熱収支の関係は、
熱伝達媒体を沸点まで上昇させるための顕熱についての第1の熱収支の関係と、
沸点まで上昇した熱伝達媒体が保持する潜熱についての第2の熱収支の関係とを含む、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記温度算出手段は、前記第1、第2、第4、第5の区間の長さの総和に基づいて前記第1のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出し、前記第3の区間の長さに基づいて前記第2のゾーンにおける熱伝達媒体が流れる伝熱管の界面積を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記温度算出手段は、前記第1のゾーンと前記第2のゾーンとの間の熱収支の関係、前記第1のゾーンと前記第3のゾーンとの間の熱収支の関係、前記第2のゾーンと前記第4のゾーンとの間の熱収支の関係、および、前記第3のゾーンと前記第4のゾーンとの間の熱収支の関係、に基づいて、ゾーン別の温度を算出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記第3のゾーンは、前記反応器内において前記第1のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものであり、
前記第4のゾーンは、前記反応器内において前記第2のゾーンの重力下側に位置する領域を表わしたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
その内部に熱伝達媒体を流すための複数の伝熱管が配置された反応器における伝熱状態を解析する解析プログラムであって、前記解析プログラムはコンピュータに、
前記複数の伝熱管の各々について、流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超えるか、あるいは、沸点以下に維持されるかを含む解析条件を受付けるステップと、
流れる熱伝達媒体の温度が沸点を超える伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第1の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第2の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点より高い状態にある第3の区間の長さを算出するとともに、流れる熱伝達媒体の温度が沸点以下に維持される伝熱管に対して、熱伝達媒体の温度が沸点より低い状態に維持される第4の区間の長さ、熱伝達媒体の温度が沸点に維持される第5の区間の長さを算出するステップと、
前記反応器内を、沸点以下に維持される熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第1のゾーンと、沸点より高い温度にある熱伝達媒体についての伝熱現象を表わす第2のゾーンと、前記第1のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象を生じない第3のゾーンと、前記第2のゾーンと関連付けられ、熱伝達媒体についての伝熱現象が生じない第4のゾーンとに区分した上で、隣接するゾーン間での熱収支の関係に基づいて、ゾーン別の温度を算出するステップとを実行させる、解析プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−226820(P2011−226820A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94253(P2010−94253)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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