説明

伝送システム及び伝送装置

【課題】近接配置される一対の共振素子の間で効率的な伝送を行うことが可能な伝送システムを提供する。
【解決手段】本発明の伝送システムにおいて、各々の伝送装置に含まれる共振素子10は、誘電体基板11の一方の面に形成される共振電極12と、誘電体基板11の他方の面に形成される接地電極13と、給電部となるビア導体14及び入出力電極16を備えている。送信回路を含む伝送装置と受信回路を含む伝送装置との間で高周波信号を伝送する場合、それぞれの共振素子10の共振電極12が所定の距離を介して直接対向する状態で配置し、その際の電界結合により上記2つの伝送装置の間で高周波信号を伝送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の伝送装置の間で電力や情報を非接触で伝送可能な伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、近接して配置された2つの伝送装置の間で、ケーブル等を配線することなく非接触でデータ通信を行う伝送システムが注目されている。この種の伝送システムは、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)技術を用いた非接触ICカードなどに応用されるように、物品管理や交通機関における認証などの多様な用途に用いられている。また、2つの伝送装置の間で、情報の送受信のみならず、電力を送受信することにより、電池の搭載やケーブルの敷設が不要になるメリットがある。一般に、上記伝送システムにおいて、近接して配置された2つの伝送装置の間で情報や電力を送受信するための様々な手法が提案されている。例えば、特許文献1には、2つの共振器の間の共鳴(共振)を利用して電力を高効率に伝送する手法が開示されている。また例えば、特許文献2には、それぞれコイルからなる2つの共鳴素子を磁界共鳴の関係に配置して電力を伝送する手法が開示されている。また例えば、特許文献3には、ループ状アンテナを形成した基板の磁界結合を利用するRFID用のアンテナ装置が開示されている。また例えば、特許文献4には、2つの装置の間の静電界を利用して電力を伝送する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0222542号明細書
【特許文献2】特開2010−063245号公報
【特許文献3】特開2007−012689号公報
【特許文献4】特開2009−296857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の伝送システムにおいては、磁界の結合を利用する手法、静電界の結合を利用する手法、共振器の共振現象を利用する手法が含まれる。しかしながら、例えば、コイルによる磁界を発生させる構成を採用すると、発生した磁界が金属等の導体部分に作用して渦電流を発生させ、これによる磁界強度の低下や熱の発生という問題が生じる恐れがある。また、対向する平板状の素子の間の静電界の結合を利用した特許文献3の手法によれば、集中定数素子としてのコンデンサを設けた構成であることから、共振特性を発生させるためには別途コイル部品を設ける必要がある。また、高周波の共振特性を利用する場合は、コンデンサやコイルの自己共振の影響により高周波特性が劣化する問題がある。
【0005】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、近接配置される一対の共振素子の間で電力や情報の伝送を行う際、磁界結合や静電界の結合を利用する場合の不具合を防止しつつ、良好な伝送効率で伝送を行うことが可能な伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、所定の周波数で共振する第1の共振素子と第1の回路とを含む第1の伝送装置と、前記所定の周波数で共振する第2の共振素子と第2の回路とを含む第2の伝送装置とを含んで構成され、前記第1及び第2の伝送装置の間で前記所定の周波数の高周波信号を伝送する伝送システムに対して適用される。本発明の伝送システムにおいて、(1)前記第1及び第2の共振素子の各々は、誘電体基板の一方の面に形成される共振電極と、前記誘電体基板の他方の面に形成される接地電極と、前記共振電極に接続される給電部とを備え、(2)前記第1及び第2の回路のうち、少なくとも、一方は前記給電部に接続される送信回路を備え、他方は前記給電部に接続される受信回路を備え、(3)前記第1及び第2の共振素子のそれぞれの前記共振電極が所定の距離を介して直接対向する状態で配置されたときの電界結合により、前記第1及び第2の伝送装置の間で前記高周波信号が伝送されることを特徴としている。
【0007】
本発明の伝送システムによれば、所定の周波数で共振する共振素子をそれぞれ有する第1及び第2の伝送装置が互いに近接し、それぞれの共振電極が所定の距離を介して直接対向する状態になったとき、両者の間の電界結合によって、一方の送信回路から他方の受信回路に高周波信号が伝送される。よって、遠距離に適したアンテナ等の電磁波の放射を利用することなく、近距離に置かれた2つの伝送装置の間で非接触の送受信を実現することができ、主に電界結合によって送受信を行うので、磁界結合や静電界を利用する手法に比べて高周波信号を高い効率で伝送することが可能となる。
【0008】
本発明において、「電界結合により」とあるのは、上記2つの共振素子の間で高周波信号を伝送する際に電界結合が支配的であるとの意味であり、電界結合より十分小さい磁界結合が存在することも想定される。また、上記2つの共振素子の各々の共振電極が直接対向するときの「所定の距離」は、高周波信号の周波数や伝送システムの用途に依存して定まる。例えば、RFID等の非接触ICカードの用途を想定すると、「所定の距離」が数10mmのオーダーであることが望ましい。この場合の伝送効率は、例えば2つの共振素子の各々の給電部の間で、高周波信号の減衰量が−10dB以下であることが望ましい。
【0009】
本発明において、前記第1及び第2の伝送装置の間で電力を伝送してもよく、あるいは情報を伝送してもよい。さらには、前記第1及び第2の伝送装置の間で電力及び情報の両方を同時に伝送してもよい。この場合、特に電力を伝送する形態に対しては、前記送信回路を、電源と、当該電源により供給される前記電力に応じた振幅を有する前記高周波信号を生成する高周波信号生成回路とを含めて構成するとともに、前記受信回路を、前記給電部を介して受信された前記高周波信号を整流して直流電圧に変換する整流回路を含めて構成することができる。
【0010】
本発明において、前記第1及び第2の伝送装置の間で良好な伝送効率を確保するには、前記第1及び第2の共振素子の各々を、前記高周波信号の波長λに対して1/3λから1/2λの範囲内のサイズに形成することが好ましい。例えば、正方形の表面形状(パッチ状)の共振素子に対し、その各1辺を1/3λから1/2λの範囲内に設定することができる。
【0011】
本発明において、前記給電部は多様な構造を持たせることができる。例えば、前記給電部には、前記第1及び第2の共振素子の各々のインピーダンスを整合するための給電構造を持たせることができる。この場合、前記給電部の給電構造として、前記誘電体基板を貫いて前記共振電極と電気的に接続されるビア導体を形成し、このビア導体の径に応じて前記インピーダンスを調整するようにしてもよい。
【0012】
前記誘電体基板の材料は特に制約されないが、例えば、セラミック材料を用いて形成してもよい。セラミック材料を用いて前記誘電体基板を形成することにより、高周波特性に優れた共振素子を実現することができる。
【0013】
また、本発明は上記伝送システムに適用するのみならず、所定の周波数で共振する第1及び第2の共振素子を含む各々の伝送装置に対しても適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、近接配置される一対の共振素子の間で電力や情報を伝送する伝送システムにおいて、主に共振素子間に生じる電界結合によって良好な伝送効率で高周波信号を伝送させることができ、磁界結合や静電界の結合による伝送で生じる性能劣化を引き起こすことなく、小型化及び高周波化に適した伝送システムを多様な用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の共振素子の概略の構造を表す斜視図である。
【図2】本実施形態の共振素子の模式的な上面図、側面図、下面図をそれぞれ表す図である。
【図3】本実施形態の一対の共振素子の配置状態を示す図である。
【図4】図3の配置状態にある一対の共振素子に対するシミュレーションの条件及び結果を表にして示す図である。
【図5】図3の配置状態にある一対の共振素子に対するシミュレーションによって得られた伝送効率の周波数特性を示すグラフである。
【図6】図3と同様の配置状態にある一対の共振素子の電磁界分布を表す図である。
【図7】一対の共振素子に関して距離と伝送効率との関係を示すグラフである。
【図8】電力を伝送する伝送システムの構成例を示す図である。
【図9】電力及び情報を伝送する伝送システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
最初に、本実施形態の伝送システムの各伝送装置に含まれる主要な構成要素である共振素子の構造について図1及び図2を参照して説明する。図1は、本実施形態の共振素子10の概略の構造を表す斜視図である。また、図2は、図1の共振素子10の模式的な上面図、側面図、下面図をそれぞれ表している。図1及び図2に示すように、本実施形態の共振素子10は、誘電体基板11と、誘電体基板11の上面に形成された共振電極12と、誘電体基板11の下面に形成された接地電極13と、共振電極12に接続されるビア導体14と、接地電極13の下方に形成された絶縁層15と、絶縁層15の下面に形成された入出力電極16とを備えたマイクロストリップ線路構造を有している。
【0018】
誘電体基板11は、方形状の平面形状と所定の厚さを有し、セラミック材料を用いて形成するか、あるいは、例えばFR−4(Flame retardant-4)等のガラスエポキシ樹脂材料を用いて形成してもよい。誘電体基板11の上面の共振電極12は、誘電体基板11よりも小さいサイズの方形状の導体パターンに形成されている。誘電体基板11の底面の接地電極13は、誘電体基板11の平面形状とほぼ同サイズのベタ状の導体パターンに形成されている。
【0019】
例えば、430MHz帯の共振周波数を想定すると、誘電体基板11及び接地電極13は、例えば矩形の各辺が25〜100mm程度の平面サイズを有し、共振電極12は、例えば矩形の各辺が誘電体基板11の3分の2程度の平面サイズを有し、誘電体基板11の厚さは、例えば4〜12mm程度に形成される。通常、上述の各サイズは、使用する高周波信号の波長λに対し、1/3λから1/2λの範囲内に設定することが望ましいが、この点に関しては後述する。なお、上述の各サイズや厚さについては、共振周波数等の条件に適合する所望の設計値に変更できることは当然である。
【0020】
接地電極13の下側には、絶縁層15を挟んで入出力電極16が形成されている。また、誘電体基板11及び絶縁層15を積層方向に貫いて、共振電極12と入出力電極16との間を電気的に接続する円柱状のビア導体14が形成されている。図2に示すように、共振電極12の中央の円形部分がビア導体14の上端部14aに接続されるとともに、入出力電極16の円形部分がビア導体14の下端部14bに接続されている。また、図2に示すように、入出力電極16は、テーパー状の導体パターンに形成され、ビア導体14の下端部14bに接続される一端部から共振素子10の側面側の他端部にかけて次第に細くなる形状を有する。なお、絶縁層15は、接地電極13と入出力電極16を電気的に絶縁するために設けられ、誘電体基板11よりも十分薄く、同様の材料によって形成される。
【0021】
ビア導体14が形成される円柱領域は、その表面のみに導体を形成して内部を空洞にしてもよいが、全体を導体材料で充填してもよい。給電部に相当するビア導体14は、その直径に応じて共振素子10のインピーダンスが変化することから、インピーダンスの調整手段として用いられるが、この点については後述する。なお、ビア導体14と電気的に接続される入出力電極16については、例えば、50Ωのインピーダンスとなるようにサイズが調整されている。
【0022】
図1及び図2の構造を有する共振素子10を用いた送信動作時には、送信回路から所定の共振周波数(例えば、430MHz帯)の高周波信号が入出力電極16に入力され、ビア導体14を介して共振電極12を励振する。また、上記の共振素子10を用いた受信動作時には、外部空間の電界を受けた共振電極12では所定の共振周波数の高周波信号が生じ、それがビア導体14及び入出力電極16を経由して受信回路に伝送される。
【0023】
次に、本実施形態の共振素子10の伝送特性について図3〜図7を参照して説明する。図3は、図1及び図2の構造を有する一対の共振素子10の配置状態を示している。図4の表は、図3の配置状態にある一対の共振素子10に対するシミュレーションの条件及び結果を表にして示している。図3には、一方の共振素子10(1)と他方の共振素子10(2)が伝送距離Lを隔てて積層方向で重なる位置に配置され、それぞれの共振電極12の側が直接対向して向き合ったときの配置状態が示されている。そして、図4には、誘電体基板11、共振電極12、ビア導体14についての設計条件や伝送距離Lの値として5通りの条件1〜5を規定するとともに、これらの条件1〜5に対するシミュレーションを行って得られた結果を表にしている。
【0024】
図4に示す条件1〜5としては、誘電体基板11の材料及び比誘電率εr、共振素子10の全体及び共振電極12のそれぞれの平面サイズ(1辺の長さ)、ビア導体14の直径、誘電体基板11の厚さ、図3の伝送距離Lについての多様な組合せが含まれる。また、シミュレーションの結果に基づいて得られた後述の伝送効率及び伝送周波数F0を示している。図4に示すように、共振素子10の周波数帯域としては、430MHz帯に加えて、950MHz帯も適用可能であることがわかる。この場合、共振素子10のサイズを同一材料(セラミック)の場合で比較すると、430MHz帯に適用する場合に比べ、950MHz帯に適用する場合は、より小型化が可能である。また、950MHz帯の2つの条件4、5を比較すると、誘電体基板11の材料としては、FR−4よりもセラミックを用いる方が高い伝送効率を得られ、かつ小型化に適している。
【0025】
図5は、図4の条件1の場合に関し、図3の配置状態にある一対の共振素子10に対するシミュレーションによって得られた伝送効率の周波数特性を示している。条件1によれば、図4に示すように、共振素子10の外形については、全体のサイズ(1辺の長さ)が50mm、共振電極12のサイズ(1辺)が36.25mm、セラミックからなる誘電体基板11の厚さが12mm、ビア導体14の直径が12mmに設定されている。また、伝送距離Lについては、L=34mmに設定されている。
【0026】
図5において、横軸の周波数範囲410〜460MHzに対し、縦軸にはシミュレーションで得られたSパラメータS21の値(dB)をグラフにして示している。このSパラメータS21は、図3の配置状態で、一方の共振素子10(1)から他方の共振素子10(2)に伝送される高周波信号の透過特性を表わすものである。図5の横軸のほぼ中央で透過特性のピークPが現れており、このピークPの周波数を伝送周波数F0と定義すると、F0=435.9MHzとなる。また、ピークPのSパラメータS21は、S21=−1.143(dB)であり、このときに伝送特性が最も高い透過率(高い効率)になるので、これを伝送効率と定義すると、図5の伝送効率は76.8%に対応する。このように、本実施形態の一対の共振素子10を図3の配置状態で用いて高周波信号を伝送させると、非常に良好な伝送効率を得ることができる。
【0027】
ここで、図6を参照して、一対の共振素子10の間の伝送のメカニズムについて説明する。図6は、図3と同様の配置状態に置かれた一対の共振素子10に関し、周波数435MHzの高周波信号を伝送させたときの電磁界分布を表した図である。図6の上段は電界強度分布を表し、図6の下段は磁界強度分布を表している。図6の上段の電界強度部分については、対向配置される一対の共振素子10のうち、それぞれの共振電極12の内部に近付くほど強くなるが、共振電極12のビア導体14を取り囲む外周部分にピークが現れる。一方、図6の下段の磁界強度部分については、電界強度分布に比べると、極めて弱くなっている。このように、図3の配置状態に置かれた一対の共振素子10の間は、磁界結合が極めて弱く、電界結合が支配的であることがわかる。
【0028】
一方、図7は、図4の条件1の場合に関し、図3の配置状態にある一対の共振素子10に対するシミュレーションによって得られた伝送効率として、横軸の伝送距離L(図3参照)と縦軸の伝送効率との関係をグラフにして示している。図7では、ビア導体14によるインピーダンス整合を行う場合の特性C1と、インピーダンス整合を行わない場合の特性C2を重ねて示している。また、図5の特性に対応する伝送距離Lとして、L=34mmの位置を破線にて表している。
【0029】
まず、インピーダンス整合ありの場合の特性C1においては、L=34mmの位置で既に説明したように伝送効率76.8%が得られる。この位置を基準として、伝送距離Lが小さい領域では伝送効率が緩やかに上昇していくが、伝送距離Lが大きい領域では伝送効率が減少していく。一方、インピーダンス整合なしの場合の特性C2においては、L=34mmの位置では概ね特性C1と同等の伝送効率が得られ、それ以外の領域では特性C1に比べて伝送効率が劣化している。特に、伝送距離Lが大きい領域では、特性C2の伝送効率が急峻に劣化している。このように、伝送距離Lの増加に対して伝送効率の劣化を少なくするには、共振素子10のインピーダンス整合を行うことが望ましい。
【0030】
なお、図4の条件1に関するインピーダンスの調整に関し、例えば、ビア導体14の直径を小さくしたときに伝送距離Lが長くなる傾向にあり、ビア導体14の直径を大きくしたときに伝送距離Lが短くなる傾向にある。ただし、ビア導体14の直径を大きくし過ぎると、共振電極12のうち電界結合に寄与する領域を制約するため、好ましくない。
【0031】
また、図4に示す条件1〜5に関し、共振電極12のサイズと波長λは密接な関係がある。ここで、波長λは次式で表される。
【数1】

ただし、f:周波数
εr:誘電体基板11の比誘電率
μr:誘電体基板11の比透磁率(ここでは、μr=1とする)
【0032】
そして、図4に示す条件1〜5に関し、共振電極12のサイズに対する上式の波長λの比率を求めると、0.465〜0.482の範囲内に入る。実際には、良好な伝送効率を確保するため、共振電極12のサイズとして、既に述べたように1/3λから1/2λの範囲内に設定することが好ましい。
【0033】
次に、本実施形態の伝送システムの構成例について説明する。本実施形態の伝送システムは、図1に示す共振素子10をそれぞれ含む複数の伝送装置から構成される。以下では、簡単のため、2台の伝送装置からなる伝送システムの構成例を説明する。既に説明したように、一対の共振素子10により電力と情報の一方又は両方を伝送可能であるため、図8では電力を伝送する伝送システム1を示すとともに、図9では電力及び情報を伝送する伝送システム1aを示す。
【0034】
図8に示す伝送システム1の構成例は、2台の伝送装置2、3を含んで構成され、送信側の伝送装置2から受信側の伝送装置3に電力を伝送する機能を有している。送信側の伝送装置2は、電源20、高周波発信機21、増幅回路22、インピーダンス整合回路23、共振素子10(0)を含んでいる。電源20は、所定の電圧値を有する直流電力を生成する。なお、伝送装置2が携帯用途である場合は、電源20として二次電池を搭載してもよい。高周波発信機21は、電源20から供給される電力を用いて上述の共振周波数を有する高周波信号を生成する。増幅回路22は、高周波発信機21から出力される高周波信号を増幅し、所定レベルの送信信号を出力する。インピーダンス整合回路23は、上述のビア導体14を含む信号経路に構成され、共振素子10(0)のインピーダンスを整合する回路である。なお、インピーダンスはビア導体14のみで調整してもよいが、ビア導体14に加えて調整用の個別素子を設けてもよい。以上の構成要素により、上述の共振周波数及び所定レベルの送信信号が共振素子10(0)に入力される。
【0035】
一方、受信側の伝送装置3は、共振素子10(1)、インピーダンス整合回路30、整流回路31、電源制御回路32、デバイス33を含んでいる。共振素子10(1)は、対向配置される共振素子10(0)から伝送される送信信号を受け、受信信号を出力する。インピーダンス整合回路30の役割は送信側のインピーダンス整合回路23と同様である。整流回路31は、共振素子10(1)からインピーダンス整合回路30を経由して受け取った受信信号を整流して直流電圧に変換する回路である。例えば、整流回路31では、ダイオードの整流作用を利用することができる。電源制御回路32は、整流回路31から出力された直流電圧を制御してデバイス33に供給する。なお、電源制御回路32は、例えば、二次電池やキャパシタを接続して電力を蓄積可能に構成してもよく、あるいはフィルタ回路や昇圧回路などを設けてもよい。デバイス33は、電源制御回路32から直流電圧が供給される負荷であり、特に制約されないが、所定の機能を持つIC等、多様な形態を利用することができる。
【0036】
次に、図9に示す伝送システム1aの構成例は、2台の伝送装置2a、3aを含んで構成され、送信側の伝送装置2aから受信側の伝送装置3aに電力及び情報を伝送する機能を有している。なお、図9の構成例では、伝送システム1aのうち、伝送装置3aは受信機能に加えて送信機能を併せ持ち、伝送装置2aは送信機能に加えて受信機能を併せ持つ。送信側の伝送装置2aは、データI/O部40、RFトランシーバ回路41、電源42、インピーダンス整合回路43、共振素子10(0)を含んでいる。データI/O部40は、送信対象のデータを所定の形式に従って順次送出する。RFトランシーバ回路41は、電源42から供給される電力を用いて、データI/O部40から受け取ったデータにより変調された高周波信号を生成する。この高周波信号は、上述の共振周波数及び所定のレベルを有する送信信号となる。インピーダンス整合回路43は、図8のインピーダンス整合回路23と同様、共振素子10(0)のインピーダンスを整合する回路である。以上の構成要素により、上述の共振周波数及び所定のレベルを有する送信信号が共振素子10(0)に入力される。
【0037】
一方、受信側の伝送装置3aは、共振素子10(1)、インピーダンス整合回路50、分配回路51、整流回路52、電源制御回路53、RFトランシーバ回路54、デバイス制御回路55、デバイス56を含んでいる。共振素子10(1)は、対向配置される共振素子10(0)から伝送される送信信号を受け、受信信号を出力する。インピーダンス整合回路50の役割は送信側のインピーダンス整合回路43と同様であるが、伝送装置3aは送信機能と受信機能を併せ持つため、インピーダンス整合回路50は送信及び受信に対応する整合回路を備えており、受信側の整合回路に接続される端子Trと送信側の整合回路に接続される端子Tsとが設けられている。インピーダンス整合回路50の受信側の端子Trに接続される分配回路51は、共振素子10(1)からインピーダンス整合回路50を経由して受け取った受信信号を、電力信号の経路と情報信号の経路に分配する。すなわち、分配回路51が整流回路52とRFトランシーバ回路54にそれぞれ接続され、前者が電力信号用の経路となり、後者が情報信号用の経路となる。なお、図9では、情報信号用の経路を点線で表し、他の経路と区別して表している。
【0038】
整流回路52は、図8の整流回路31と同様に機能し、分配回路51から受け取った受信信号を整流して直流電圧に変換する回路である。整流回路52で得られた直流電圧は、電源制御回路53及びRFトランシーバ回路54にそれぞれ供給される。電源制御回路53及びデバイス56は、図8の電源制御回路32及びデバイス33と同様に機能するが、図9に示すように、これらの構成要素に加えて、デバイス制御回路55が設けられている。デバイス制御回路55は、電源制御回路53から供給される直流電圧により動作する制御回路であり、例えば、ICチップなどが用いられる。デバイス制御回路55は、記憶手段に保持する情報(プログラムやデータ)に基づいて、デバイス56の動作を制御する。一方、RFトランシーバ回路54は、分配回路51から受け取った受信信号を復調してデータを抽出する。デバイス制御回路55は、RFトランシーバ回路54で抽出されたデータを受け取って必要な制御情報を判別する。また、伝送装置3aにおける送信動作時には、RFトランシーバ回路54は、送信対象のデータにより変調された高周波信号を生成し、送信信号としてインピーダンス整合回路50を介して共振素子10(1)に出力する。
【0039】
以上のように、2つの構成例に示される伝送システム1、1aは多様な用途に適用することができる。電力を伝送する伝送システム1(図8)は、独自の電源を持たないセンサ端末等の機器に用いることができる。例えば、電源を利用できる伝送装置2から、電源を持たない伝送装置3に電力を伝送することで、ケーブル等を配線することなく伝送装置3のセンサ等を駆動することができる。また、電力及び情報を伝送する伝送システム1a(図9)は、固定型の伝送装置2aから携帯型の伝送装置3aに電力及び情報を伝送する用途に利用することができる。例えば、一般的なRFIDと同様、物品管理や交通機関における認証用途に利用することができる。また例えば、道路に設置された固定型の伝送装置2aと、自動車等に配置された移動型の伝送装置3aとの間で各種情報の通信を行う用途に利用することができる。
【0040】
なお、図8及び図9では、電力を伝送する伝送システム1と、電力及び情報を伝送する伝送システム1aを説明したが、電力を伝送せずに情報のみを伝送する伝送システムに対しても本発明を適用可能である。また、伝送システム内に、電力を伝送する伝送装置と、情報を伝送する伝送装置と、電力及び情報を伝送する伝送装置が混在してもよい。また、伝送システム内に、送信回路を含む伝送装置と、受信回路を含む伝送装置と、送信回路と受信回路の両方を含む伝送装置が混在してもよい。
【0041】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。例えば、図1及び図2では、共振電極12が方形状の導体パターンを有する場合を説明したが、これに限られることなく、長方形や円形など多様な形状の導体パターンを用いて共振電極12を形成することができる。また、ビア導体14や入出力電極16についても、図1及び図2の構造に限られず、多様な構造で形成することができる。また、給電部としてビア導体14を設ける代わりに、入出力電極16に接続される側面電極を設けてもよい。この場合、インピーダンスの調整手段としては、ビア導体14の代わりに、共振電極12に形成したスリットのサイズを調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1(1a)…伝送システム
2、3(2a、3a)…伝送装置
10…共振素子
11…誘電体基板
12…共振電極
13…接地電極
14…ビア導体
15…絶縁層
16…入出力電極
20、42…電源
21…高周波発信機
22…増幅回路
23、30、43、50…インピーダンス整合回路
31、52…整流回路
32、53…電源制御回路
33、56…デバイス
40…データI/O部
41、54…RFトランシーバ回路
51…分配回路
55…デバイス制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で共振する第1の共振素子と、第1の回路とを含む第1の伝送装置と、
前記所定の周波数で共振する第2の共振素子と、第2の回路とを含む第2の伝送装置と、
を含んで構成され、前記第1及び第2の伝送装置の間で前記所定の周波数の高周波信号を伝送する伝送システムにおいて、
前記第1及び第2の共振素子の各々は、
誘電体基板の一方の面に形成される共振電極と、前記誘電体基板の他方の面に形成される接地電極と、前記共振電極に接続される給電部とを備え、
前記第1及び第2の回路のうち、少なくとも、一方は前記給電部に接続される送信回路を備え、他方は前記給電部に接続される受信回路を備え、
前記第1及び第2の共振素子のそれぞれの前記共振電極が所定の距離を介して直接対向する状態で配置されたときの電界結合により、前記第1及び第2の伝送装置の間で前記高周波信号が伝送されることを特徴とする伝送システム。
【請求項2】
前記高周波信号により電力が伝送されることを特徴とする請求項1に記載の伝送システム。
【請求項3】
前記高周波信号により情報が伝送されることを特徴とする請求項1又は2に記載の伝送システム。
【請求項4】
前記送信回路は、電源と、当該電源により供給される前記電力に応じた振幅を有する前記高周波信号を生成する高周波信号生成回路と、を含むことを特徴とする請求項2に記載の伝送システム。
【請求項5】
前記受信回路は、前記給電部を介して受信された前記高周波信号を整流して直流電圧に変換する整流回路を含むことを特徴とする請求項2に記載の伝送システム。
【請求項6】
前記第1及び第2の共振素子の各々は、前記高周波信号の波長λに対し、1/3λから1/2λの範囲内のサイズに形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の伝送システム。
【請求項7】
前記給電部は、前記第1及び第2の共振素子の各々のインピーダンスを整合するための給電構造を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の伝送システム。
【請求項8】
前記給電構造は、前記誘電体基板を貫いて前記共振電極と電気的に接続されるビア導体であり、当該ビア導体の径に応じて前記インピーダンスを調整可能であることを特徴とする請求項7に記載の伝送システム。
【請求項9】
前記誘電体基板は、セラミック材料により形成されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の伝送システム。
【請求項10】
所定の周波数で共振する第1の共振素子と、前記所定の周波数で共振する第2の共振素子と、を含んで構成される伝送装置であって、
前記第1及び第2の共振素子の各々は、
誘電体基板の一方の面に形成される共振電極と、前記誘電体基板の他方の面に形成される接地電極と、前記共振電極に接続される給電部とを備え、
前記第1及び第2の共振素子のそれぞれの前記共振電極が所定の距離を介して直接対向する状態で配置されたときの電界結合により、前記第1及び第2の共振素子の間で前記高周波信号が伝送されることを特徴とする伝送装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の共振素子のうち、少なくとも、一方の前記給電部に接続される送信回路と、他方の前記給電部に接続される受信回路と、を更に備えることを特徴とする請求項10に記載の伝送装置。
【請求項12】
請求項11に記載の前記第1及び第2の共振素子の間で電力が伝送されることを特徴とする電力伝送装置。
【請求項13】
請求項11に記載の前記第1及び第2の共振素子の間で情報が伝送されることを特徴とする情報伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−85234(P2012−85234A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231957(P2010−231957)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】