説明

伝送線路構造

【課題】 マイクロストリップ線路とストリップ線路を接続して成る高周波信号の伝送線路構造において、ストリップ線路の上面接地導体に高周波信号による電位が生じて特性インピーダンスの不整合を生じるために高周波信号の伝送特性が低下する。
【解決手段】 マイクロストリップ線路21a・21bとストリップ線路22とを接続し、線路導体25a・25bと内層線路導体28とを接続するとともに接地導体24a・24bと下面接地導体29とを接続して成り、内層線路導体28と下面接地導体29間の静電容量を内層線路導体28と上面接地導体30間の静電容量よりも大きくしたことを特徴とする伝送線路構造である。線路導体25a・25bと内層線路導体28における高周波信号の伝搬モードが近くなるので特性インピーダンスの不整合の発生がなくなり、高周波信号の伝送特性が良好となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高周波回路用パッケージや高周波用多層回路基板等の信号入出力部に使用される伝送線路構造に関し、特にマイクロストリップ線路とストリップ線路を接続して成る高周波信号の伝送特性を改善した伝送線路構造に関する。
【0002】
【従来の技術】MHz帯やGHz帯の高周波信号を用いる無線通信機器用等の高速デジタル回路や高周波回路もしくは高周波半導体素子等を収容する高周波用パッケージ、あるいは高周波用多層回路基板等に搭載した高周波半導体素子等を気密封止した場合などの高周波信号の信号入出力部においては、高周波信号の伝送線路としてマイクロストリップ線路を用い、パッケージの内部や回路基板上の半導体素子搭載部に回路や素子等を収容して気密封止する構造がとられるために、通常は図8に斜視図で示すようなマイクロストリップ線路とストリップ線路とを接続した伝送線路構造が用いられる。
【0003】図8において1aおよび1bはマイクロストリップ線路であり、それぞれが例えば高周波回路用パッケージの内側および外側に位置している。2はストリップ線路であり、高周波回路用パッケージの容器等としての側壁の一部ともなる。マイクロストリップ線路1a・1bはそれぞれ誘電体3a・3bと、その下面に形成された接地導体4a・4bと、その上面に形成された線路導体5a・5bとから成る。ストリップ線路2は上部誘電体6と、下部誘電体7と、それらの間に挟持された内層線路導体8とから成り、下部誘電体7の下面に下面接地導体9が、上部誘電体6の上面に上面接地導体10がそれぞれ形成され、さらに必要に応じて、上部誘電体6と下部誘電体7の側面に下面接地導体9と上面接地導体10との導通をとるための側面導体11が設けられる。なお、側面導体11に代えて上部誘電体6内に設けられたビアホール等が用いられる場合もある。
【0004】従来の伝送線路構造においては、通常はマイクロストリップ線路1a・1bの誘電体3a・3bとストリップ線路2の上部誘電体6と下部誘電体7とにはそれぞれ同じ誘電体材料が使用され、また、ほぼ同じ厚みの誘電体として形成されており、マイクロストリップ線路2における内層線路導体8と下面接地導体9間および内層線路導体8と上面接地導体10間の静電容量はほぼ同じ値であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来の伝送線路構造においては、信号入出力部のストリップ線路2において、マイクロストリップ線路1a・1bの接地導体4a・4bに接続された下面接地導体9から側面導体11等の金属部を介して上面接地導体10の導通をとっているためにその導通経路上に内層線路導体8に生じる電位に誘起されることによる電位が生じ、それに伴う電流が流れる。このため、ストリップ線路2における高周波信号の伝搬モードが理想的なストリップ線路の伝搬モードから外れてしまい、周波数によっては上面接地導体10にあるいはそこから下面接地導体9にわたって電位が定在的に分布することとなり、それによって高周波信号との間で共振特性を有することとなる結果、特性インピーダンスの不整合を生じて高周波信号の伝送特性を低下させてしまうという問題点があった。
【0006】本発明は上記従来技術における問題点に鑑みて本発明者が鋭意研究に努めた結果完成されたものであり、その目的は、マイクロストリップ線路とストリップ線路とから成る伝送線路構造における高周波信号の伝送特性を改善して、高周波信号の入出力を安定に効率良く行なうことができる伝送線路構造を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係る伝送線路構造は、誘電体の上面に線路導体が、下面に接地導体が形成されたマイクロストリップ線路と、上部誘電体の上面に上面接地導体が、下部誘電体の下面に下面接地導体が形成され、前記上部誘電体と前記下部誘電体との間に内層線路導体が挟持されたストリップ線路とを接続し、前記線路導体と前記内層線路導体とを接続するとともに前記接地導体と前記下面接地導体とを接続して成る伝送線路構造であって、前記内層線路導体と前記下面接地導体間の静電容量を前記内層線路導体と前記上面接地導体間の静電容量よりも大きくしたことを特徴とするものである。
【0008】また、本発明の請求項2に係る伝送線路構造は、前記の請求項1に係る伝送線路構造において、前記下部誘電体の誘電率を前記上部誘電体の誘電率よりも高くしたことを特徴とするものである。
【0009】また、本発明の請求項3に係る伝送線路構造は、前記の請求項1または請求項2に係る伝送線路構造において、前記下部誘電体の厚みを前記上部誘電体の厚みよりも小さくしたことを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の伝送線路構造によれば、ストリップ線路部分における内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも大きくしたことから、ストリップ線路における内層線路導体と上下の接地導体との間の電界が下面接地導体側に集中することとなるため、従来のように内層線路導体と上下の接地導体との間の静電容量がほぼ同じである場合と比較してストリップ線路の内層線路導体における高周波信号の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体における伝搬モードに近づけることができる。その結果、ストリップ線路の上面接地導体の電位が接地として安定するために電位の定在的な分布やそれによる特性インピーダンスの不整合の発生がなくなるので、高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができる伝送線路構造となる。
【0011】また、本発明の請求項2に係る伝送線路構造によれば、ストリップ線路部分において下部誘電体の誘電率を上部誘電体の誘電率よりも高くしたことから、それぞれの誘電体をほぼ同じ厚みの単一の誘電体層により構成した場合にも容易に内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも大きくすることができる。また、それぞれの誘電体を異なる誘電率を有する誘電体材料から成る複数の誘電体層を積層しあるいは内層線路導体を中心にして入れ子状に組み合わせて構成した場合には、それぞれの誘電率を所望の値に精密にかつ容易に制御して形成することができるため、内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも容易にかつ精度よく大きくすることができる。そして、この請求項2に係る伝送線路構造によってもストリップ線路における内層線路導体と上下の接地導体との間の電界が下面接地導体側に集中することとなり、その結果、同じ上部誘電体と下部誘電体とを同じ誘電体材料で構成した場合と比較して、ストリップ線路の内層線路導体における高周波信号の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体における伝搬モードに精度よく近づけることができるため、高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができるとともに、上下の誘電体をほぼ同じ厚みで形成することができるので薄型とすることができるという利点を有する伝送線路構造となる。
【0012】また、本発明の請求項3に係る伝送線路構造によれば、ストリップ線路部分において下部誘電体の厚みを上部誘電体の厚みよりも小さくしたことから、下部誘電体の誘電率と上部誘電体の誘電率が同じ場合であっても内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも容易に大きくすることができるとともに、下部誘電体の誘電率を上部誘電体の誘電率よりも高くした場合には内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりもより一層大きくすることができる。従って、これによってもストリップ線路における内層線路導体と上下の接地導体との間の電界が下面接地導体側に集中することとなり、その結果、同じ上部誘電体と下部誘電体とを同じ厚みで形成した場合と比較して、また下部誘電体の誘電率を高くした場合にはより一層、ストリップ線路の内層線路導体における高周波信号の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体における伝搬モードに近づけることができるため、高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができる伝送線路構造となる。
【0013】本発明の伝送線路構造においてストリップ線路の内層線路導体と下面接地導体間の静電容量は、内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも 1.5倍以上大きいことが好ましく、より好適には2倍以上大きいことが望ましい。
【0014】また、下部誘電体の誘電率を上部誘電体の誘電率よりも高くする場合は、誘電率の比で 1.5倍以上高いと内層線路導体と下面接地導体間の静電容量が十分に大きくなって電界が効果的に集中することとなって好ましく、好適には誘電率の比で2倍以上高いことが望ましい。
【0015】以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更・改良を施すことは何ら差し支えない。
【0016】図1は本発明の伝送線路構造の例を示す斜視図である。また、図2はその信号入出力部のストリップ線路の部分の断面図である。
【0017】図1および図2において、21aおよび21bはマイクロストリップ線路であり、それぞれ例えば高周波回路用パッケージの内側および外側に位置している。22はストリップ線路であり、マイクロストリップ線路21a・21bと接続されて伝送線路構造を構成するとともに、高周波回路用パッケージの内部や回路基板上の半導体素子搭載部に回路や素子等を収容して気密封止するための容器もしくは気密封止部としての側壁の一部ともなる。マイクロストリップ線路21a・21bはそれぞれ誘電体23a・23bと、その下面のほぼ全面に被着形成された接地導体24a・24bと、その上面に被着形成された線路導体25a・25bとから成る。ストリップ線路22は上部誘電体26と、上部誘電体26よりも高い誘電率を有するほぼ同じ厚みの下部誘電体27と、それらの間に挟持された内層線路導体28とから成り、下部誘電体27の下面に下面接地導体29が、上部誘電体26の上面に上面接地導体30がそれぞれ被着形成され、さらに必要に応じて、上部誘電体26と下部誘電体27の側面に下面接地導体29と上面接地導体30との導通をとるための側面導体31が設けられる。
【0018】そして、線路導体25a・25bと内層線路導体28とが接続され、接地導体24a・24bと下面接地導体29とが接続されて、それぞれ信号線路と接地電位面とを形成している。なお、線路導体25a・25bならびに内層線路導体28は伝送線路構造が使用される高周波回路用パッケージや高周波多層回路基板等の仕様に応じて複数本並列に形成される場合もある。また、側面導体31に代えて上部誘電体26内に設けられたビアホールや導通スルーホール等が用いられる場合もあり、上面接地導体30や側面導体31としてはメタライズ層として形成される場合や金属ブロックにより形成される場合もある。
【0019】このような構成の本発明の伝送線路構造によれば、ストリップ線路22において内層線路導体28と下面接地導体29間の静電容量が内層線路導体28と上面接地導体30間の静電容量よりも大きくなるので、マイクロストリップ線路21a・21bの線路導体25a・25bを伝搬する電磁波(高周波信号)による電界分布としてほとんどの電界が線路導体25a・25bから接地導体24a・24bへ向けて生じるのに対してストリップ線路22においても内層線路導体28からの電界を下面接地導体29側へ向けて集中させることができ、それにより線路導体25a・25bと内層線路導体28における高周波信号の伝搬モードを近づけて特性インピーダンスの不整合をなくし、反射の少ない伝送特性の良好な伝送線路構造とすることが可能となる。
【0020】また、図3は本発明の伝送線路構造の他の例を示すストリップ線路の部分の断面図である。
【0021】図3のストリップ線路32において、33は上部誘電体、34は上部誘電体33よりも厚みの小さい下部誘電体であり、35は上部誘電体33と下部誘電体34との間に挟持された内層線路導体である。下部誘電体34の下面には下面接地導体36が、上部誘電体33の上面には上面接地導体37がそれぞれ被着形成され、さらに必要に応じて、上部誘電体33と下部誘電体34の側面に下面接地導体36と上面接地導体37との導通をとるための側面導体38が設けられている。そして、ストリップ線路32に接続されたマイクロストリップ線路の線路導体と内層線路導体35とが接続され、接地導体と下面接地導体36とが接続されて、それぞれ信号線路と接地電位面とを形成している。
【0022】下部誘電体34の誘電率は上部誘電体33の誘電率と同じか、またはより高くすることが好ましく、このようなストリップ線路32によれば、内層線路導体35と下面接地導体36間の静電容量を内層線路導体35と上面接地導体37間の静電容量よりも効果的に大きくすることができる。なお、結果として内層線路導体35と下面接地導体36間の静電容量が高くなるのであれば、下部誘電体34として上部誘電体33よりも誘電率の低いものを用いてもよい。なお、この内層線路導体35も伝送線路構造が使用される高周波回路用パッケージや高周波多層回路基板等の仕様に応じてマイクロストリップ線路の線路導体とともに複数本並列に形成される場合もある。また、側面導体38に代えて上部誘電体33内に設けられたビアホールや導通スルーホール等が用いられる場合もある。
【0023】このようなストリップ線路32を用いた本発明の伝送線路構造によっても、ストリップ線路32において内層線路導体35からの電界を下面接地導体36側へ向けて集中させることができ、それにより線路導体と内層線路導体35における高周波信号の伝搬モードを近づけて特性インピーダンスの不整合をなくし、反射の少ない伝送特性の良好な伝送線路構造とすることが可能となる。
【0024】さらに、下部誘電体34の厚みを上部誘電体33の3分の2以下とすれば、ストリップ線路32における伝搬方向に垂直な面内での電界分布の下面接地導体36側への集中がより顕著となるために、マイクロストリップ線路の線路導体での伝搬モードとストリップ線路32の内層線路導体35での伝搬モードがさらに近づき、ストリップ線路32の上面接地導体37の電位が接地として一層安定するため、高周波信号の伝送特性がより一層良好なものとなる。また、下部誘電体34の厚みを上部誘電体33の2分の1以下とすれば、これらの作用効果がより顕著となって好適なものとなる。
【0025】本発明の伝送線路構造における誘電体23a・23bおよび上部誘電体26・33、下部誘電体27・34としては、例えばアルミナやムライト等のセラミックスやいわゆるガラセラ(ガラス+セラミックス)、あるいはテフロン(PTFE)、ガラスエポキシ、ポリイミド等の樹脂系材料などが用いられる。これら誘電体の厚みや幅は、伝送される高周波信号の周波数や特性インピーダンスなどに応じて設定される。
【0026】また、ストリップ線路22・32の上部誘電体26・33と下部誘電体27・34とは高周波回路用パッケージや高周波多層回路基板の半導体素子搭載部等の信号入出力部において気密封止部としても利用されるため、内層線路導体28・35を上下から挟み込むように形成される。これら上部誘電体26・33と下部誘電体27・34は、マイクロストリップ線路21a・21bの誘電体23a・23bと一体的に形成してもよく、別々に作製したものを接合するようにしてもよい。
【0027】線路導体25a・25bおよび内層線路導体28・35は、高周波線路導体用の金属材料、例えばCuやMoMn+Cu、W+Au、Cr+Cu、Cr+Cu+Ni+Au、Ta2 N+NiCr+Au、Ti+Pd+Au、NiCr+Pd+Auなどを用いて厚膜印刷法あるいは各種の薄膜形成方法やメッキ処理法などにより形成され、その厚みや幅も伝送される高周波信号の周波数や特性インピーダンスなどに応じて設定される。
【0028】接地導体24a・24bおよび上面接地導体30・37、下面接地導体29・36、側面導体31・38は、線路導体25a・25bおよび内層線路導体28・35と同様の材料を用いて同様の方法により誘電体23a・23bの下面のほぼ全面または上部誘電体26・33の上面、下部誘電体27・34の下面に被着形成され、その厚みは、例えば厚膜であれば20μm程度、薄膜であれば5μm程度に設定される。
【0029】
【実施例】以下、本発明の具体例を示す。
〔例1〕マイクロストリップ線路の誘電体およびストリップ線路の下部誘電体として厚み0.25mmのアルミナ(比誘電率εr=9.8 )を、ストリップ線路の上部誘電体として厚み0.25mmのムライト(比誘電率εr=6.0 )を用い、幅0.13mmの内層線路導体を有する長さ 0.5mm、下部誘電体および上部誘電体の幅 1.0mmのストリップ線路に、幅 0.2mmの線路導体を有するマイクロストリップ線路を接続して成る伝送線路構造を作製し、本発明の伝送線路構造の試料Aを得た。
【0030】また、比較例の伝送線路構造として、ストリップ線路の上部誘電体の材料にもアルミナ(比誘電率εr=9.8 )を用い、ストリップ線路の内層線路導体の幅を0.1mm、マイクロストリップ線路の線路導体の幅を 0.2mmとした他は上記と同様にして、伝送線路構造の試料Bを得た。
【0031】これらの試料AおよびBに対して、3次元の電磁界解析により抽出した特性から入力した信号のうちの反射された量(S11)を、周波数に対する反射特性として求めた。また、3次元の電磁界解析により抽出した特性から入力した信号のうちの伝送された量の評価指標として挿入損失量(S21)を、周波数に対する伝送特性として求めた。これらの結果について、反射特性を図4に、伝送特性を図5に線図で示す。なお、図4において横軸は周波数(単位:GHz)、縦軸は反射量(単位:dB)を表わし、試料AのS11の特性曲線を実線で、試料BのS11の特性曲線を点線で示している。また、図5において横軸は周波数(単位:GHz)、縦軸は挿入損失量(単位:dB)を表わし、試料AのS21の特性曲線を実線で、試料BのS21の特性曲線を点線で示している。
【0032】図4および図5の結果より、試料Bにおいては40GHz付近に強い共振特性が生じていて反射量および挿入損失量が大きくなっていることが分かる。一方、試料Aにおいてはストリップ線路の内層線路導体の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体の伝搬モードに近づけて強い共振特性を抑圧することができ、しかも共振周波数をより高周波側へ変化させることができたことが分かる。これにより、本発明の伝送線路構造は高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができるものであることが確認できた。
【0033】〔例2〕〔例1〕と同様にして、マイクロストリップ線路の誘電体およびストリップ線路の下部誘電体として厚み0.25mmのアルミナ(比誘電率εr=9.8 )を、ストリップ線路の上部誘電体として同じ材料の厚み0.50mmのものを用い、内層線路導体の幅を0.10mm、線路導体の幅を 0.2mmとした本発明の伝送線路構造の試料Cを得た。
【0034】また、比較例として、ストリップ線路の上部誘電体の厚みを0.37mmとした他は同様にして、伝送線路構造の試料Dを得た。
【0035】これらの試料CおよびDに対して、〔例1〕と同様に周波数に対する反射特性と周波数に対する伝送特性とを求めた。これらの結果について、反射特性を図6に、伝送特性を図7に線図で示す。なお、図6においても横軸は周波数(単位:GHz)、縦軸は反射量(単位:dB)を表わし、試料CのS11の特性曲線を実線で、試料DのS11の特性曲線を点線で示している。また、図7においても横軸は周波数(単位:GHz)、縦軸は挿入損失量(単位:dB)を表わし、試料CのS21の特性曲線を実線で、試料DのS21の特性曲線を点線で示している。
【0036】図6および図7の結果より、試料Dにおいては43GHz付近に強い共振特性が生じていて反射量および挿入損失量が大きくなっていることが分かる。一方、試料Cにおいてはストリップ線路の内層線路導体の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体の伝搬モードに近づけて強い共振特性を抑圧することができ、しかも共振周波数をより高周波側へ変化させることができたことが分かる。これにより〔例1〕と同様に、本発明の伝送線路構造は高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができるものであることが確認できた。
【0037】なお、試料Cについてストリップ線路の上部誘電体として厚み0.50mmのムライト(比誘電率εr=6.0 )を用いて同様に評価したところ、共振特性をより一層抑圧することができ、さらに優れた高周波信号の伝送特性を有するものとなることが確認できた。
【0038】
【発明の効果】本発明の伝送線路構造によれば、ストリップ線路における内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも大きくしたことから、ストリップ線路における内層線路導体と上下の接地導体との間の電界が下面接地導体側に集中することとなり、ストリップ線路の内層線路導体における高周波信号の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体における伝搬モードに近づけることができるため、ストリップ線路の上面接地導体の電位が接地として安定することにより電位の定在的な分布やそれによる特性インピーダンスの不整合の発生がなくなり、高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができる伝送線路構造を提供することができた。
【0039】また、本発明の請求項2に係る伝送線路構造によれば、ストリップ線路において下部誘電体の誘電率を上部誘電体の誘電率よりも高くしたことから、下部誘電体の厚みと上部誘電体の厚みが同じ場合であっても内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも大きくすることができてストリップ線路における内層線路導体と上下の接地導体との間の電界が下面接地導体側に集中することとなるため、ストリップ線路の内層線路導体における高周波信号の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体における伝搬モードに近づけることができ、高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができるとともに、上下の誘電体をほぼ同じ厚みで形成することができるので薄型とすることができるという利点を有する伝送線路構造を提供することができた。
【0040】また、本発明の請求項3に係る伝送線路構造によれば、ストリップ線路において下部誘電体の厚みを上部誘電体の厚みよりも小さくしたことから、下部誘電体の誘電率と上部誘電体の誘電率が同じ場合であっても内層線路導体と下面接地導体間の静電容量を内層線路導体と上面接地導体間の静電容量よりも大きくすることができるとともに、下部誘電体の誘電率を上部誘電体の誘電率よりも高くした場合には内層線路導体と下面接地導体間の静電容量をより一層大きくすることができる。そして、これによってもストリップ線路における内層線路導体と上下の接地導体との間の電界が下面接地導体側に集中することとなるため、同じ上部誘電体と下部誘電体とを同じ厚みで形成した場合と比較して、また下部誘電体の比誘電率を高くした場合にはより一層、ストリップ線路の内層線路導体における高周波信号の伝搬モードをマイクロストリップ線路の線路導体における伝搬モードに近づけることができ、高周波信号の伝送特性を良好なものとして安定に効率良く高周波信号の入出力を行なうことができる伝送線路構造を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の伝送線路構造の例を示す斜視図である。
【図2】本発明の伝送線路構造におけるストリップ線路の部分の例を示す断面図である。
【図3】本発明の伝送線路構造におけるストリップ線路の部分の他の例を示す断面図である。
【図4】伝送線路構造における周波数に対する反射特性を示す線図である。
【図5】伝送線路構造における周波数に対する伝送特性を示す線図である。
【図6】伝送線路構造における周波数に対する反射特性を示す線図である。
【図7】伝送線路構造における周波数に対する伝送特性を示す線図である。
【図8】従来の伝送線路構造の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
21a、21b・・・・・マイクロストリップ線路
23a、23b・・・・・誘電体
24a、24b・・・・・接地導体
25a、25b・・・・・線路導体
22、32・・・・・・・ストリップ線路
26、33・・・・・・・上部誘電体
27、34・・・・・・・下部誘電体
28、35・・・・・・・内層線路導体
29、36・・・・・・・下面接地導体
30、37・・・・・・・上面接地導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 誘電体の上面に線路導体が、下面に接地導体が形成されたマイクロストリップ線路と、上部誘電体の上面に上面接地導体が、下部誘電体の下面に下面接地導体が形成され、前記上部誘電体と前記下部誘電体との間に内層線路導体が挟持されたストリップ線路とを接続し、前記線路導体と前記内層線路導体とを接続するとともに前記接地導体と前記下面接地導体とを接続して成る伝送線路構造であって、前記内層線路導体と前記下面接地導体間の静電容量を前記内層線路導体と前記上面接地導体間の静電容量よりも大きくしたことを特徴とする伝送線路構造。
【請求項2】 前記下部誘電体の誘電率を前記上部誘電体の誘電率よりも高くしたことを特徴とする請求項1記載の伝送線路構造。
【請求項3】 前記下部誘電体の厚みを前記上部誘電体の厚みよりも小さくしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の伝送線路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平10−65412
【公開日】平成10年(1998)3月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−217584
【出願日】平成8年(1996)8月19日
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)