説明

伝送装置、及び伝送方法

【課題】供給される電源電力に電圧低下が生じたとしても、少なくとも優先度の高い装置に関しては、動作が不安定になる危険性をできる限り抑制することが可能な伝送装置、及び伝送方法を提供する。
【解決手段】送受信部101は、1つの伝送ケーブルを介して優先度の設定された複数の信号を送受信し、電源電力の供給を受ける。ケーブル損失算出部113は、ケーブル損失を算出する。余裕度算出部113は、供給される電源電力の最大供給電力と、ケーブル損失と、複数の信号をそれぞれ処理する複数の装置の消費電力とから、電力の余裕度を算出する。制御部113は、電力余裕度に応じて、優先度の高い信号を処理する装置から順に、電源電力を供給するよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の信号を1本のケーブルを介して送受信するとともに、この1本のケーブルを介して、送受信する相手先の装置から電源電力を供給される伝送装置、及び伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラで被写体を撮像して得たアナログ映像信号を、同軸ケーブルを介して送信し、モニタに表示したり記録装置に記録したりすることで、監視を行うことが一般的に行われている。このような監視を行うシステムのひとつとして、配線の手間やコストを削減するため、カメラがアナログ映像信号を送信する同軸ケーブルを介して、モニタや記録装置側からカメラへ電源電力を供給する監視システムがある。
【0003】
また最近では、アナログ映像信号とディジタル信号とを1本の同軸ケーブルを介して送受信する監視カメラも登場している。
【0004】
そして上記を組み合わせた技術として、アナログ映像信号とディジタル信号とを1本の同軸ケーブルを介して送受信するとともに、この1本の同軸ケーブルを介して、送受信する一方の装置から他方の装置へ電源電力を供給する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−352216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の技術では、この1本の同軸ケーブルを介して、送受信する一方の装置から他方の装置へ電源電力を供給することはできるものの、同軸ケーブルが有する抵抗や、電源電力を供給される各装置の消費電力の増加などに起因して電源電力に電圧低下が生じた場合の対応については言及されていない。同軸ケーブルが有する抵抗値は、同軸ケーブルの種類、敷設した同軸ケーブルの長さ、すなわちケーブル長によって変化する。また周囲温度や経年変化によっても、同軸ケーブルの抵抗値は変化する。また、電源電力を供給される各装置の消費電力は、使用状況によって変化する。従って、同軸ケーブルの抵抗値が大きかったり、各装置の消費電力が大きかったりすると、電源電力の電圧が、電源電力を供給される各装置の規格以下になり、これらの装置の動作が不安定になる恐れがある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、供給される電源電力に電圧低下が生じたとしても、電源電力が供給される各装置のうち、少なくとも優先度の高い装置に関しては、動作が不安定になる危険性をできる限り抑制することが可能な伝送装置、及び伝送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本願発明は以下の装置、方法を提供するものである。
1)所定領域(1)の外部に位置する第1の装置(20)と、1つの伝送ケーブル(30)を介して信号を送受信する所定領域(1)の内部に位置する伝送装置(10)において、1つの伝送ケーブル(30)を介して、あらかじめ優先度が設定された複数の信号を送受信するとともに、第1の装置(20)から電源電力の供給を受ける送受信部(101)と、複数の信号を、これら複数の信号をそれぞれ処理する、所定領域(1)の内部に位置する複数の第2の装置(40、50)に対して入出力する複数の信号入出力部(106、107)と、1つの伝送ケーブル(30)における電力の損失であるケーブル損失を算出するケーブル損失算出部(111)と、第1の装置(20)が供給可能な最大供給電力と、ケーブル損失と、複数の第2の装置(40、50)の消費電力とから、電力の余裕度を算出する余裕度算出部(111)と、送受信部(101)で供給を受けた電源電力を、第2の装置(40、50)それぞれの電源電力に変換するとともに、変換した各電源電力を複数の第2の装置(40、50)へそれぞれ供給する電源供給部(113、114)と、余裕度算出部(111)で算出される電力余裕度が、所定値を超えている場合は、複数の第2の装置(40、50)のすべてに電源電力を供給するよう電源供給部(113、114)を制御する一方、所定値以下であったときは、電力余裕度に応じて、複数の第2の装置(40、50)のうち、優先度の高い信号を処理する第2の装置(50)から順に、電源電力を供給するよう電源供給部(113、114)を制御する制御部(111)とを備えることを特徴とする伝送装置。
2)送受信部(101)は、少なくともディジタル信号とアナログ映像信号とを含んだ複数の信号を送受信することを特徴とする1)に記載の伝送装置。
3)ケーブル損失算出部(111)は、ケーブル損失の算出を繰り返し行い、余裕度算出部(111)は、ケーブル損失算出部(111)がケーブル損失を算出するごとに電力余裕度を算出することを特徴とする1)に記載の伝送装置。
4) 所定領域(1)の外部に位置する第1の装置(20)と、1つの伝送ケーブル(30)を介して信号を送受信する所定領域(1)の内部に位置する伝送装置(10)に用いる伝送方法であって、1つの伝送ケーブル(30)を介して、あらかじめ優先度が設定された複数の信号を送受信するとともに、第1の装置(20)から電源電力の供給を受ける送受信ステップ(ステップS501)と、複数の信号を、これら複数の信号をそれぞれ処理する、所定領域の内部に位置する複数の第2の装置(40、50)に対して入出力する複数の信号入出力ステップ(ステップS502)と、1つの伝送ケーブル(30)における電力の損失であるケーブル損失を算出するケーブル損失算出ステップ(ステップS503)と、第1の装置(20)が供給可能な最大供給電力と、ケーブル損失と、複数の第2の装置(40、50)の消費電力とから、電力の余裕度を算出する余裕度算出ステップ(ステップS504、S506、S508)と、送受信ステップ(ステップS501)で供給を受けた電源電力を、第2の装置(40、50)それぞれの電源電力に変換するとともに、変換した各電源電力を複数の第2の装置(40、50)へそれぞれ供給する電源供給ステップ(ステップS509、S510)と、余裕度算出ステップ(ステップS504、S506、S508)で算出される電力余裕度が、所定値を超えている場合は、複数の第2の装置(40、50)のすべてに電源電力を供給するよう制御する一方、所定値以下であったときは、電力余裕度に応じて、複数の第2の装置(40、50)のうち、優先度の高い信号を処理する第2の装置(50)から順に、電源電力を供給するよう制御する制御ステップ(ステップS509、S510)とを含むことを特徴とする伝送方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伝送装置によれば、供給される電源電力の余裕度を算出し、電力余裕度に応じて、複数の装置のうち、優先度の高い信号を処理する装置から順に、電源電力を供給するよう構成したので、供給される電源電力に電圧低下が生じたとしても、電源電力が供給される各装置のうち、少なくとも優先度の高い装置に関しては、動作が不安定になる危険性をできる限り抑制することが可能な伝送装置、及び伝送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の伝送装置の一実施形態である子機アダプタのブロック構成図である。
【図2】子機アダプタと接続される親機アダプタのブロック構成図である。
【図3】子機アダプタと親機アダプタとを含む伝送システムの一実施例を示すシステム構成図である。
【図4】同軸ケーブルの抵抗値の算出処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図5】子機アダプタにおける電源供給処理の一実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[子機アダプタ及び親機アダプタの構成]
以下、本発明の伝送装置の一実施形態である子機アダプタと、子機アダプタに接続される親機アダプタとについて、添付図面を参照して説明する。子機アダプタと親機アダプタとは、一本の同軸ケーブルを介して、アナログ映像信号とディジタル信号とを送受信する。同時に、この1本の同軸ケーブルを介して、親機アダプタから子機アダプタへ、子機アダプタ自身の電源電力や、この子機アダプタに接続される複数の装置用の電源電力を供給する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態である子機アダプタのブロック構成図である。図1において、同軸ケーブル接続部101は、子機アダプタ10の外部に露出した、同軸ケーブルを接続するためのBNC(Bayonet Neill Concelman)コネクタや、サージ対策部品などで構成されている。同軸ケーブル接続部101に接続される同軸ケーブルを介して、後述のようにアナログ映像信号と、ディジタル信号とを親機アダプタと送受信するとともに、親機アダプタから子機アダプタへ電源電力が供給される。
【0013】
BPF(Band-pass filter)部102は、所望の周波数帯域の信号を帯域通過させる周波数特性を有している。本実施形態におけるBPF部102は、12MHz〜44MHzの周波数帯域の信号を通過させるものとする。BPF部102は、同軸ケーブル接続部101と変復調部103との間で、帯域通過したディジタル信号を双方向に伝送する。
【0014】
変復調部103は、BPF部102から送られたQAM(Quadrature Amplitude Modulation)変調(直交位相振幅変調)されたディジタル信号を復調してディジタルブリッジ部104へ送るとともに、ディジタルブリッジ部104から送られた無変調のディジタル信号をQAM変調してBPF部102に送る。
【0015】
ディジタルブリッジ部104は、同軸ケーブル側とLAN(Local Area Network)ケーブル側とで異なっているディジタル信号のアクセス方式やデータ転送プロトコルを相互に変換する。
【0016】
物理インタフェース部105は、同軸ケーブル側とLANケーブル側とで異なっているディジタル信号の物理レイヤを相互に変換する。
【0017】
LAN接続部106は、子機アダプタ10の外部に露出した、LANケーブルを接続するためのコネクタを有している。LAN接続部106は、コネクタに接続されたLANケーブルと物理インタフェース部105との間でディジタル信号を送受信する。
【0018】
アナログ映像入力部107は、子機アダプタ10の外部に露出した、アナログ映像信号を入力するためのBNCコネクタや、フィルタを有している。アナログ映像入力部107は、入力されたアナログ映像信号を、フィルタを通してビデオ増幅部108へ送る。
【0019】
ビデオ増幅部108は、アナログ映像入力部107から送られたアナログ映像信号を増幅するとともに波形整形し、LPF(Low-pass filter)部109へ送る。
【0020】
LPF(Low-pass filter)部109は、所望の周波数帯域の信号を低域通過させる周波数特性を有している。本実施例形態におけるLPF部109は、30Hz〜6MHzの周波数帯域の信号を通過させるものとする。LPF部109は、ビデオ増幅部108で増幅、波形整形されたアナログ映像信号を低域通過させ、同軸ケーブル接続部101に送る。
【0021】
なお、BPF部102並びにLPF部109は、通過帯域では75オームのインピーダンス特性であり、通過帯域外では高インピーダンスの特性であるものとする。
【0022】
インピーダンス変換部110は、同軸ケーブル接続部101から送られた電源電力を通過させ、電源制御部111へ送る。インピーダンス変換部110は、DC(直流)では低インピーダンス、それ以外では高インピーダンスとなる周波数特性であるものとする。インピーダンス変換を行う理由は、並列に接続されるBPF部102、LPF部109の各フィルタの特性に悪影響を与えないようにするためである。
【0023】
電源制御部111は、インピーダンス変換部110から送られた電源電力を、子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力として供給するとともに、ディジタル電源部113やアナログ電源部114にも電源電力を供給する。
【0024】
メモリ112は、電源制御部111の制御などに必要な種々のデータを記憶する。
【0025】
ディジタル電源部113とアナログ電源部114とは、DC/DCコンバータ回路、ヒューズや、子機アダプタ10の外部に露出した、外部の機器に電源電力を供給するための電源出力端子を有している。ディジタル電源部113は、電源制御部111から供給された電源電力を、DC/DCコンバータ回路で電圧を変化させて、外部のディジタル機器の電源電力として供給する。ここでディジタル機器とは、LAN接続部106と接続し、ディジタル信号を処理する機器を示すものとする。ディジタル電源部113は、たとえばマイナス48Vの電圧の電源電力を供給する。アナログ電源部114は、電源制御部111から供給された電源電力を、DC/DCコンバータ回路で電圧を変化させて、外部のアナログ機器の電源電力として供給する。ここでアナログ機器とは、アナログ映像入力部107と接続し、アナログ映像信号を処理する機器を示すものとする。アナログ電源部114は、たとえば12Vの電圧の電源電力を供給する。誤接続を防止するため、ディジタル電源部113とアナログ電源部114とでは物理的形状の異なる電源出力端子を用いることも好適である。
【0026】
また、ディジタル機器の電源電力は、LANケーブルで電力を供給するPoE(Power Over Ethernet(登録商標))の技術を用いて、ディジタル信号を送受信するLANケーブルで供給してもよい。その場合はLAN接続部106からディジタル機器の電源電力を供給する。
【0027】
PoEの技術を用いてディジタル機器の電源電力を供給することとすれば、ディジタル機器とLAN接続部106との間をLANケーブルで接続するだけで、ディジタル信号の送受信と電源電力の供給とが可能となる。そのため、ケーブルの接続が更に簡略になり、電源電力の供給のための配線工事が不要となる効果がある。
【0028】
設定部115は、ケーブルの抵抗値を算出するための設定を行う。
【0029】
図2は子機アダプタ10と接続される親機アダプタ20のブロック構成図である。図2において、LAN接続部206は、親機アダプタ20の外部に露出した、LANケーブルを接続するためのコネクタを有している。LAN接続部206は、コネクタに接続されたLANケーブルと、物理インタフェース部205の間でディジタル信号を送受信する。
【0030】
物理インタフェース部205は、LANケーブル側と同軸ケーブル側とで異なっているディジタル信号の物理レイヤを相互に変換する。
【0031】
ディジタルブリッジ部204は、LANケーブル側と同軸ケーブル側とで異なっているディジタル信号のアクセス方式やデータ転送プロトコルを相互に変換する。
【0032】
変復調部203は、ディジタルブリッジ部204から送られた無変調のディジタル信号をQAM変調してBPF部202へ送るとともに、BPF部202から送られたQAM変調されたディジタル信号を復調してディジタルブリッジ部204に送る。
【0033】
BPF部202は、BPF部102と同様、12MHz〜44MHzの周波数帯域の信号を通過させるものとする。BPF部202は、変復調部203と同軸ケーブル接続部201との間で、帯域通過したディジタル信号を双方向に伝送する。
【0034】
同軸ケーブル接続部201は、親機アダプタ20の外部に露出した、同軸ケーブルを接続するためのBNCコネクタや、サージ対策部品を有している。同軸ケーブル接続部201は、BPF部202と同軸ケーブルとの間でディジタル信号を双方向に伝送する。
【0035】
LPF部209は、LPF部109と同様、30Hz〜6MHzの周波数帯域の信号を通過させるものとする。LPF部209は、同軸ケーブル接続部201から送られたアナログ映像信号を低域通過させ、ビデオ増幅部208へ送る。
【0036】
ビデオ増幅部208は、LPF部209から送られたアナログ映像信号を増幅して波形整形し、アナログ映像出力部207へ送る。
【0037】
アナログ映像出力部207は、親機アダプタ20の外部に露出した、アナログ映像信号を出力するためのBNCコネクタや、フィルタを有している。アナログ映像出力部207は、ビデオ増幅部208から送られたアナログ映像信号を、フィルタを通してBNCコネクタから外部へ出力する。
【0038】
電源部212は、親機アダプタ20の外部に露出した、AC(交流)電源に接続するための電源入力端子と、ACをDCに変換し、ノイズフィルタによりリプルノイズが少ないDC電力を生成するスイッチ電源回路とを備え、電源入力端子から入来したACの電源電力からDCの電源電力を生成し、DC/DC変換部211へ供給する。
【0039】
DC/DC変換部211は、電源部212で生成したDCの電源電力の電圧を変換し、インピーダンス変換部210へ供給する。
【0040】
インピーダンス変換部210は、インピーダンス変換部110と同様、DCでは低インピーダンス、それ以外では高インピーダンスとなる周波数特性を有している。インピーダンス変換部210は、DC/DC変換部211から供給されたDCの電源電力を、同軸ケーブル接続部201へ供給する。
【0041】
図3は子機アダプタと親機アダプタとを含んで構成される伝送システムの一実施例を示すシステム構成図である。図3において、たとえば1は店舗、2は事務所で、店舗1の子機アダプタ10と、事務所2の親機アダプタ20とは、同軸ケーブル30で接続されている。
【0042】
店舗1において、監視カメラ40は、店舗1の内部の様子を監視するために設置されている。監視カメラ40の映像出力端子は、同軸ケーブルを介して子機アダプタ10のアナログ映像入力部107に接続されている。監視カメラ40は、アナログ入出力部107と接続し、アナログ映像信号を処理するアナログ機器であり、電源電力が子機アダプタ10のアナログ電源部114から供給される。
【0043】
無線LANアクセスポイント50のLAN端子は、LANケーブルを介して子機アダプタ10のLAN接続部106に接続されている。無線LANアクセスポイント50は、LAN接続部106と接続し、ディジタル信号を処理するディジタル機器であり、電源電力が子機アダプタ10のディジタル電源部113から供給される。
【0044】
PC(Personal Computer)60(60a、60b、60c)は、店舗1においてユーザにインターネット接続サービスを提供するために設置されている。PC60は、無線LANアクセスポイント50とIEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)802.11nなどの規格の無線LANで接続されている。なお無線LANアクセスポイント50は、PC60との間をLANケーブルで接続する有線ルータであってもよい。
【0045】
事務所2において、モニタ80は、店舗1の内部の様子を事務所2から監視できるよう設置されている。モニタ80の映像入力端子は、同軸ケーブルを介して親機アダプタ20のアナログ映像出力部207に接続されている。
【0046】
ルータ70のLAN側端子は、LANケーブルを介して親機アダプタ20のLAN接続部206に接続されている。さらにルータ70のWAN(Wide Area Network)側端子は、インターネットなどのネットワーク90に接続されている。親機アダプタ20は、AC電源に接続されている。
【0047】
このような子機アダプタと親機アダプタとを含んで構成される伝送システムにおける、電源電力の供給方法と、アナログ映像信号とディジタル信号との送受信の方法とについて、以下に説明する。
【0048】
電源電力の供給方法は、親機アダプタ20から子機アダプタ10への電源電力の供給方法、同軸ケーブル30の抵抗値の算出方法、子機アダプタ10からディジタル機器やアナログ機器への電源電力の供給方法にわけて説明する。
[親機アダプタ20から子機アダプタ10への電源電力の供給方法]
まず、本実施例における親機アダプタ20から子機アダプタ10への電源電力の供給方法について説明する。親機アダプタ20の電源部212は、入来したACの電源電力からDCの電源電力を生成し、DC/DC変換部211に供給する。DC/DC変換部211は、親機アダプタ20内の各ブロックで使用する電源電力を生成したり、子機アダプタ10側で使用するための子機アダプタ用電源電力を生成する。子機アダプタ用電源電力は、インピーダンス変換部210を介し、同軸ケーブル接続部201へ供給される。同軸ケーブル接続部201へ供給された子機アダプタ用電力は、同軸ケーブル30を介して、子機アダプタ10に供給される。
【0049】
親機アダプタ20から同軸ケーブル30を介して子機アダプタ10に供給された子機アダプタ用電源電力は、子機アダプタ10の同軸ケーブル接続部101に送られる。同軸ケーブル接続部101に送られた子機アダプタ用電源電力は、インピーダンス変換部110を介して、電源制御部111へ送られる。
[同軸ケーブル30の抵抗値の第1の算出方法]
子機アダプタ用電源電力を供給された子機アダプタ10は、ディジタル機器やアナログ機器に電源電力を供給するのに先立って、同軸ケーブル30の抵抗値を算出する。同軸ケーブル30の抵抗値を算出する第1の方法として、子機アダプタ10の設定部115で設定された同軸ケーブル30の種類、ケーブル長を用いて算出する例を説明する。
【0050】
設定部115はたとえば2個のロータリーディップスイッチで構成される。第1のロータリーディップスイッチは、同軸ケーブル30の種類を設定するものである。同軸ケーブルは一般に日本国内では5C−2Vや3C−2V、海外ではRG59やURM−70などの規格のケーブルが広く用いられている。従って、たとえば第1のロータリーディップスイッチのポジションを表1のように定める。
【0051】
【表1】

第2のロータリーディップスイッチはケーブル長を設定するもので、たとえば表2のように定める。
【0052】
【表2】

各種のケーブルの単位長さあたりの抵抗値は既知であるので、これをメモリ112に表3のように記憶させておく。
【0053】
【表3】

以上表1〜3の関係により、第1のロータリーディップスイッチと第2のロータリーディップスイッチとの設定されたポジションから同軸ケーブル30の抵抗値が算出できる。
【0054】
たとえば、同軸ケーブル30の種類が5C−2Vであるとすると、表1から第1のロータリーディップスイッチのポジションは1に設定される。また、ケーブル長が520mであるとすると、表2から最も近いのはポジション5であるので、第2のロータリーディップスイッチのポジションは5に設定される。
【0055】
第1のロータリーディップスイッチの設定されたポジションに基づきメモリ112から読み出した単位長さあたりの抵抗値と、第2のロータリーディップスイッチの設定されたポジションに基づくケーブル長とから、同軸ケーブル30の抵抗値を算出する。本実施例では、5C−2Vの単位長さあたりの抵抗値は0.035Ω/m、ケーブル長は500mとなるので、ケーブルの抵抗値は
500×0.035=17.5(Ω)
と算出される。
[同軸ケーブル30の抵抗値の第2の算出方法]
同軸ケーブル30の抵抗値を算出する第2の方法として、子機アダプタ10にテスト抵抗を設け、同軸ケーブル30の抵抗値を算出する例を、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、図4のフローチャートにおける動作の主体は、特に記載のない場合は電源制御部111である。
【0056】
子機アダプタ10の設定部115として、モード設定スイッチを設ける。親機アダプタ20から同軸ケーブル30を介して子機アダプタ10に電源電力が供給される。子機アダプタ10では、同軸ケーブル30から供給された電源電力は、同軸ケーブル接続部101、インピーダンス変換部110を通って電源制御部111に供給され、電源制御部111が起動する。電源制御部111は、起動したらまず設定部115のモード設定スイッチの状態を確認する。電源制御部111は、モード設定スイッチがケーブル測定モードに設定されていることを確認すると、以下の処理を行う。
【0057】
まず、電源制御部111にのみ電源電力が供給された状態で、このときの電流I1を測定する(ステップS401)。次に電源制御部111は、回路を切り替えて電源制御部111に加えてテスト抵抗を直列に挿入し(ステップS402)、そのときの電流I2を測定する(ステップS403)。テスト抵抗の抵抗値はRtとする。電源制御部111の電源電力のケーブル測定モードにおける消費電力は既知のWsであるとすると、以下の式が成り立つ。
【0058】
Vm = Rca × I1 + Ws / I1 ・・・(1)
Vm = Rca × I2 + Rt × I2 + Ws / I2・・・(2)
ただし、 Vm は親機アダプタ20の子機アダプタ用電源電力の出力電圧、 Rca は同軸ケーブル30の抵抗値とする。
(1)、(2)式を変形して
Rca × I1 + Ws / I1 = Rca × I2 + Rt × I2 + Ws / I2
Rca × (I1 - I2 )= Ws × (1 / I2 - 1 / I1 ) + I2 × Rt
Rca = (Ws × (1 / I2- 1 / I1 ) + I2 × Rt ) / (I1 - I2)・・・(3)
となる。子機アダプタ10のケーブル測定モードでの消費電力Ws、テスト抵抗の抵抗値Rtは既知の値なので、あらかじめメモリ112に記憶させておく。
【0059】
電源制御部111は、メモリ112から子機アダプタ10のケーブル測定モードでの消費電力Ws、テスト抵抗の抵抗値Rtを読み出す。そして、抵抗値Rtと、測定した電流値I1、I2とから、(3)式を用いて同軸ケーブル30の抵抗値 Rca を算出(ステップS404)する。
【0060】
以上説明した第1の方法や第2の方法などを用いて、同軸ケーブル30の抵抗値を算出することができる。
【0061】
なお、子機アダプタ10にモード設定スイッチを設けずに、電源投入時には必ずケーブル測定モードに移行したり、所定の時間ごとにケーブル測定モードに移行するなどして、同軸ケーブル30の抵抗値を算出するよう構成してもよい。
[子機アダプタ10からディジタル機器やアナログ機器への電源電力の供給方法]
算出した同軸ケーブル30の抵抗値を用いて、子機アダプタ10からディジタル機器やアナログ機器へ電源電力を供給する方法について、図5のフローチャートを用いて説明する。図5は、子機アダプタ10における電源供給の一実施例を示すフローチャートである。なお、図5のフローチャートにおける動作の主体は、特に記載のない場合は電源制御部111である。
【0062】
親機アダプタ20は、電源部212で生成した電源電力をDC/DC変換部211で変換し、同軸ケーブル接続部201から子機アダプタ用電源電力として同軸ケーブル30に出力する。子機アダプタ10の同軸ケーブル接続部101は、親機アダプタから子機アダプタ用電源電力を供給されるとともに、後述のようにディジタル信号とアナログ映像信号との送受信を行う(ステップS501)。 同軸ケーブル接続部101で送受信されるディジタル信号は、後述のようにLAN接続部106をとおって無線LANアクセスポイント50と送受信される。
同軸ケーブル接続部101で送信されるアナログ映像信号は、監視カメラ40で撮像され、アナログ映像入力部107から入力するものである(ステップS502)。
【0063】
電源制御部111は、前述の第1の方法や第2の方法などを用いて同軸ケーブル30の抵抗値 Rca を算出し、算出した同軸ケーブル30の抵抗値から、以下のようにして同軸ケーブル30における電力の損失を算出する(ステップS503)。
【0064】
ケーブル損失をPca、親機アダプタ20のDC/DC変換部211から出力される子機アダプタ用電源電力をPmとすると、Pcaは
Pca = (Pm / Vm )^2 × Rca
Pca = Pm^2 × Rca / Vm^2 ・・・(4)
となる。Vmは親機アダプタ20のDC/DC変換部211の仕様により定まる値である。Pmに同じくDC/DC変換部211の仕様で定まる最大供給電力の値を使用すれば、最大のケーブル損失としてPcaを算出することができる。
【0065】
したがって、メモリ112に、あらかじめ親機アダプタ20の出力電圧をVmとして、親機アダプタ20のDC/DC変換部211から出力可能な最大供給電力をPmとして、記憶させておく。電源制御部111は、メモリ112から、親機アダプタ20の出力電圧Vmと、親機アダプタ20のDC/DC変換部211から出力される電力Pmとを読み出す。そして、(4)式を使って、Pmと(3)式で算出したケーブルの抵抗値Rcaとからケーブル損失Pcaを算出する。
【0066】
次に、電源制御部111は、最大供給電力Pmが
Pm ≦ Pca + Pint ・・・(5)
Pca + Pint < Pm ≦ Pca + Pint + Pdigi ・・・(6)
Pca + Pint + Pdigi < Pm ≦ Pca + Pint + Pdigi + Pana・・・(7)
Pca + Pint + Pdigi + Pana < Pm ・・・(8)
のいずれに該当するかを判断し、子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力、ディジタル電源部113の電源電力、アナログ電源部114の電源電力が供給可能かどうかを判断する。
【0067】
ただし、子機アダプタ10内の各ブロックの最大消費電力をPint、ディジタル電源部113に接続するディジタル機器の最大消費電力をPdigi、アナログ電源部114に接続するアナログ機器の最大消費電力をPanaとする。
【0068】
なお、本実施例の子機アダプタ10においては、ディジタル信号の送受信を主な目的とし、電源電力の供給の優先度は、アナログ電源部114よりもディジタル電源部113のほうが高いものとする。
【0069】
Pintは、あらかじめ様々な状態で子機アダプタ10の消費電力を測定して算出したり、設計上の仕様として定めておき、メモリ112に記憶させておく。ディジタル機器の最大消費電力Pdigiとアナログ機器の最大消費電力Panaは、ディジタル電源部113とアナログ電源部114との最大供給出力の仕様として定めておき、同じくメモリ112に記憶させておく。電源制御部111は、メモリ112からPint、Pdigi、Panaを読み出して、更にステップS503で算出したPcaを用いて、合計の最大消費電力が(5)、(6)、(7)、(8)式のいずれの式に該当するかを判断する。
【0070】
具体的には、電源制御部111は、まず(5)式が成り立つかどうかを判断する(ステップS504)。(5)式が成り立つ場合は、電源制御部111の最大供給電力が、ケーブル損失と子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力との和以下なので、子機アダプタ10の動作が停止したり不安定になる恐れがある。そこで、図示しない表示部に警告のメッセージを表示させ、動作を停止する(ステップS505)。
【0071】
(5)式が成り立たない場合は、次に(6)式が成り立つかどうかを判断する(ステップS506)。(6)式が成り立つ場合は、電源制御部111の最大供給電力が、ケーブル損失と子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力との和よりも大きいが、ケーブル損失と子機アダプタ内の各ブロックの電源電力とディジタル機器の最大消費電力との和以下である。そのため、子機アダプタ10は、ディジタル信号の送受信とアナログ映像信号の送受信は行えるものの、ディジタル電源部113やアナログ電源部114から外部へ電源電力を供給する余裕がない。そこで、変復調部103、ディジタルブリッジ部104、物理インタフェース部105、ビデオ増幅部108の子機アダプタ10内の各ブロックに電源を供給して子機アダプタ10を機能させる。ただし、アナログ電源部114及びディジタル電源部113への電源電力の供給は行わない。これにより子機アダプタ10は、ディジタル信号の送受信とアナログ映像信号の送受信とを開始するが、ディジタル機器の電源電力、アナログ機器の電源電力は供給しない(ステップS507)。
【0072】
(6)式が成り立たない場合は、次に(7)式が成り立つかどうかを判断する(ステップS508)。(7)式が成り立つ場合は、電源制御部111の最大供給電力が、ケーブル損失と子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力とディジタル機器の最大消費電力との和よりも大きいが、ケーブル損失と子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力とディジタル機器の最大消費電力とアナログ機器の最大消費電力との和以下である。そのため、子機アダプタ10は、ディジタル信号の送受信とアナログ映像信号の送受信とを行い、ディジタル電源部113からディジタル機器へ電源電力を供給する余裕はあるが、アナログ電源部114からアナログ機器へ電源電力を供給する余裕はない。そこで、子機アダプタ10内の各ブロックと、ディジタル電源部113に電源電力を供給するが、アナログ電源部114への電源電力の供給は行わない。これにより子機アダプタ10は、ディジタル信号の送受信とアナログ映像信号の送受信を開始するとともに、ディジタル機器の電源電力として無線LANアクセスポイント50に電源電力を供給するが、アナログ機器の電源電力は供給しない(ステップS509)。
【0073】
(5)(6)(7)のいずれの式も成り立たない場合は、(8)式が成り立つことになるので、電源制御部111の最大供給電力が、ケーブル損失と子機アダプタ10内の各ブロックの電源電力とディジタル機器の最大消費電力とアナログ機器の最大消費電力との和よりも大きい。そのため、子機アダプタ10は、ディジタル信号の送受信とアナログ映像信号の送受信とを行い、ディジタル電源部113とアナログ電源部114とからディジタル機器とアナログ機器とに電源電力を供給する余裕がある。そこで、子機アダプタ10内の各ブロックと、ディジタル電源部113と、アナログ電源部114とに電源電力を供給する。これにより、子機アダプタ10は、ディジタル信号の送受信とアナログ映像信号の送受信とを開始するとともに、ディジタル機器の電源電力としてディジタル電源部113から無線LANアクセスポイント50に電源電力を供給し、アナログ機器の電源電力としてアナログ電源部114から監視カメラ40に電源電力を供給する(ステップS510)。
【0074】
以上のようにして、親機アダプタ20から子機アダプタ10に電源電力を供給し、子機アダプタ10からディジタル機器やアナログ機器に電源電力を供給することができる。これにより、店舗に設置するディジタル機器やアナログ機器に、電源電力の供給のための配線を行う必要がない。
【0075】
このような電源電力の供給手順は、電源電力の供給の開始時点だけでなく、その後も定期的に余裕度の算出を繰り返すことも好適である。その際は、Pintを子機アダプタ10内の各ブロックの実際の消費電力、Pdigiをディジタル電源部113に接続するディジタル機器の実際の消費電力、Panaをアナログ電源部114に接続するアナログ機器の実際の消費電力として、電源電力の余裕度を算出すれば、より正確に電源電力の余裕度を算出することができる。また、ディジタル電源部113に接続するディジタル機器の実際の消費電力Pdigiは、ディジタル電源部113の実際の消費電力を計測してこれにて代替し、アナログ電源部114に接続するアナログ機器の実際の消費電力Panaは、アナログ電源部114の実際の消費電力を計測してこれにて代替してもよい。
【0076】
なお、電源電力の供給の状態は、子機アダプタ10の図示しない表示部に表示するなどして報知すれば、ディジタル機器やアナログ機器に電源電力が供給できない場合でもすぐにわかるので、好適である。電源電力が供給できない場合は、子機アダプタ10とは別に外部電源を用意して、ディジタル機器やアナログ機器の電源電力を供給する。
【0077】
また、電源制御部111は、ステップS507、ステップS509、ステップS510における供給の開始時点で、ディジタル電源部113がディジタル機器に供給する電源電力の電圧や、アナログ電源部114がアナログ機器に供給する電源電力の電圧が適切であるか監視を行うことも好適である。
【0078】
その場合、電源制御部111は、ディジタル電源部113がディジタル機器に供給する電源電力の電圧や、アナログ電源部114がアナログ機器に供給する電源電力の電圧を監視し、各々所望の値を満たすように予め決められたしきい値と比較する。電圧がしきい値よりも大きい場合には、ディジタル機器やアナログ機器に電源電力を供給するが、しきい値以下のときは、ディジタル機器やアナログ機器への電源電力の供給を停止する。
【0079】
このような電圧の監視は、ステップS507、ステップS509、ステップS510における電源電力の供給の開始時点だけでなく、その後も定期的に監視を繰り返すことも好適である。ただし繰り返し電圧の監視を行う場合には、しきい値を下回った場合即座に電源電力の供給を停止すると弊害が生じる恐れもある。そのため、警告メッセージを表示させたり、警告ブザーを鳴動させて、対応を促すよう構成することも好適である。
【0080】
なお、IEEE802.3afで規格化されているPoEでは、受電機器の性能に合わせて表4のような電力クラスを規定している。また給電機器は、受電機器がどの電力クラスに該当するかの電力クラス分けを行なうことと定められている。したがって、IEEE802.3af規格に準拠したPoEでディジタル機器の電源電力を供給する場合は、前述のPdigiを最初はデフォルトの15.4Wとする。そして受電機器のクラス分けを行ったのちは、その電力クラスに対して定められた給電側の最大供給電力をPdigiとして用いる。このようにすれば、より適切に設定を行うことができる。また、IEEE802.3af規格では、最小出力電圧としてマイナス44Vが規定されている。そこで、電源制御部111は、ディジタル電源部113の出力する電源電力の電圧の監視を行う際のしきい値として、規定されたマイナス44Vを用いればよい。
【0081】
【表4】

また、ディジタル電源部113やアナログ電源部114から電源電力の供給を開始した瞬間に、子機側アダプタ10内の各ブロックに供給する電源電力の電圧が降下する恐れがある。特に、ディジタル機器やアナログ機器の消費電力が想定外に大きかった場合、消費電力の影響を受け、子機アダプタ10内の各ブロックに供給する電源電力の電圧が大きく降下して、子機アダプタ10が動作不能に陥る恐れがある。
【0082】
そこで、図示しないディップスイッチなどで、ディジタル電源部113やアナログ電源部114への電源電力の供給を、ユーザの指示により停止できるよう構成すれば、動作不能状態を回避することができ好適である。
【0083】
このように、本発明の伝送装置は、供給される電源電力の余裕度を算出し、電力余裕度が、所定値を超えている場合は、複数の装置のすべてに電源電力を供給する一方、電力余裕度が、所定値以下であったときは、電力余裕度に応じて、複数の装置のうち、優先度の高い信号を処理する装置から順に、電源電力を供給するよう構成したので、供給される電源電力に電圧低下が生じたとしても、電源電力が供給される各装置のうち、少なくとも優先度の高い装置に関しては、動作が不安定になる危険性をできる限り抑制することが可能な伝送装置を提供することができる。
【0084】
[アナログ映像信号の送受信の方法]
本実施例の電源電力の供給方法の説明に引き続き、アナログ映像信号の送受信の方法について説明する。店舗1の監視カメラ40で撮像されたアナログ映像信号は、子機アダプタ10のアナログ映像入力部107に送られる。アナログ映像入力部107に送られたアナログ映像信号は、ビデオ増幅部108で増幅され波形整形された後、LPF部109へ送られる。LPF部109は、30Hz〜6MHzの周波数帯域の信号を通過させるので、アナログ映像信号はLPF部109を通過して、同軸ケーブル接続部101から同軸ケーブル30へ送られる。前述のように、親機アダプタ20から子機アダプタ10へ同軸ケーブル30を介して電源電力を供給しているので、子機アダプタ10と親側アダプタ20との間で、一本の同軸ケーブルを用いて電源電力の供給とアナログ映像信号の送受信とが行われる。
【0085】
ここで、後述のディジタル信号の伝送に用いるQAM変調波よりも高い周波数帯域にアナログ映像信号をFM変調して送信する方法もある。しかしながら、一般的に同軸ケーブルはケーブル長が長くなるに従い高周波特性が悪くなることが知られている。そこで本実施形例の子機アダプタ10は、アナログ映像信号を無変調で送信するものとする。
【0086】
同軸ケーブル30を介して送信されたアナログ映像信号は、親機アダプタ20の同軸ケーブル接続部201で受信され、LPF部209を通過してビデオ増幅部208に送られる。LPF部209から送られたアナログ映像信号は、ビデオ増幅部208で増幅され波形整形された後、アナログ映像出力部207から外部へ出力される。アナログ映像出力部207から出力されたアナログ映像信号は、モニタ80に送られる。これにより、店舗1の内部に設けられた監視カメラ40で撮像した店舗内の画像を、事務所2のモニタ80で閲覧し、事務所で店舗内の監視を行うことができる。
【0087】
なお、本実施例では、子機アダプタ10から親機アダプタ20へとアナログ映像信号を送信する例を示したが、親機アダプタ20から子機アダプタ10へアナログ映像信号を送信してもよい。
[ディジタル信号の送受信の方法]
本実施例の電源電力の供給方法の説明と、アナログ映像信号の送受信の方法の説明に引き続き、ディジタル信号の送受信の方法について説明する。親機アダプタ20の変復調部203及び子機アダプタ10の変復調部103は、ディジタル信号に対しQAM変調及び復調を行って送受信する構成となっている。
【0088】
親機アダプタ20の変復調部203は、起動時にまず256QAMの変調方式で直交位相振幅変調を行ってテスト信号を送信し、リンクの確立を試みる。変復調部203から送信されたテスト信号は、BPF部202に送られる。BPF部202は、12MHz〜44MHzの周波数帯域の信号を通過させるので、QAM変調されたテスト信号はBPF部202を通過して、同軸ケーブル接続部201から送信される。
【0089】
同軸ケーブル接続部201から送信されたテスト信号は、同軸ケーブル30を介して子機アダプタ10の同軸ケーブル接続部101で受信され、BPF部102を通過して変復調部103で復調される。変復調部103は復調を行ってテスト信号を確認すると、応答信号を生成してQAM変調し、BPF部102へ送る。変復調部103から送られた応答信号は、BPF部102を通過し、同軸ケーブル接続部101から送信される。
【0090】
同軸ケーブル接続部101から送信された応答信号は、同軸ケーブル30を介して親機アダプタ20の同軸ケーブル接続部201で受信され、BPF部202を通過して変復調部203で復調される。変復調部203は、応答信号を復調して確認すると、リンクが確立されたと判断し、その後は256QAMの変調方式で通信を行う。
【0091】
しかし送信した256QAMのテスト信号に対し、正しい応答信号を所定の時間内に確認できなかった場合は、変復調部203は変調方式を64QAMに変更して変調レートを下げ、再びテスト信号を送信する。
【0092】
このようにして変復調部203と変復調部103とは、リンクの確立を試みながら、256QAM、64QAM、16QAMと順次変調レートを下げた変調方式を用いてテスト信号の送信を行い、変調方式を確定する。このようなリンクの確認を所定のサイクルで行い、都度変調方式を確認・変更する。
【0093】
なお、リンクの確認方法は、このように変復調部103が一定サイクルでテスト信号を送受信するよう構成してもよいし、後述のディジタルブリッジ部104が送信する定期的なパケットを利用するよう構成してもよい。
【0094】
これにより、C/N比がよいときには、変調方式を256QAMとして高速な送受信を可能とすることができる。同軸ケーブル長が長い、外乱によるノイズが多いなどの理由でC/N比が悪い場合には、変調方式を64QAM、16QAMなどとすることで、変調レートを下げて確実に送受信することができる。
【0095】
また、子機アダプタ10の変復調部103は、親機アダプタ20との間でリンクが確立しているかどうかを確認したら、その結果をリンク信号として電源制御部111へ通知する。子機アダプタ10の電源制御部111は、変復調部103から送られるリンク信号により、リンクを確立できないことを確認すると、ディジタル電源部113への電源電力の供給を停止する。これにより、リンクが確立できない場合は、無駄な消費電力を削減することができる。ディジタル電源部113への電源電力の供給の停止は、所定のサイクルののちの次回のリンクの確認時に解除するよう構成すれば、送受信の異常が解消したら自動的に復帰することができる。また、図示しない表示部に、確定した変調方式を表示したり、リンクが確立できない場合は警告メッセージを表示したり、警告ブザーを鳴動して、対応を促すよう構成することも好適である。
【0096】
変復調部103に引き続き、ディジタルブリッジ部104の動作について説明する。ディジタルブリッジ部104は、同軸ケーブル側で用いられる転送プロトコルと、LANケーブル側で用いられる転送プロトコルとを相互に変換する。詳細には、同軸ケーブル上ではたとえば転送プロトコルとして、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)の半二重伝送方式を採用するHomePNA(Phoneline Networking Alliance)規格を用いて伝送するものとする。一方LANケーブル上では転送プロトコルとして、CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)の全二重伝送方式を採用するEthernet(登録商標)を用いて伝送するものとする。ディジタルブリッジ部104は、これらの転送プロトコルを相互に変換し、パケット送信時の衝突回避を抑制したり、半二重伝送時のデータ待機用にディジタル信号のバッファ制御などを行う。
【0097】
子機アダプタ10のディジタルブリッジ部104は、同軸ケーブル30を介して接続された親機アダプタ20に対し、リンクが確立しているか定期的にリンク確認用パケットを送信する。親機アダプタ20のディジタルブリッジ部204は、リンク確認用パケットを受信したら、これに応答する応答パケットを送信する。子機アダプタ10のディジタルブリッジ部104は、応答パケットを確認することにより、リンクが確立したことを確認できる。ディジタルブリッジ部104は、変復調部103と同様、このようなリンクの確認を所定のサイクルで行う。また、リンク信号による電源電力の供給停止、復帰や、表示部への表示などは、変復調部103と同様である。
【0098】
リンク確認用の別手法として、変復調部103において、BPF部102の通過帯域内の所定周波数を親機アダプタ20の変復調部203との間で送受信しあい、接続確認を行ってもよい。また双方のパケットのやりとりは、親機アダプタ20の変復調部203からリンク確認用パケットを送り、子機アダプタ10の変復調部103がそれに応答するものであってもよい。
【0099】
子機アダプタ10のディジタルブリッジ部104と、親機アダプタ20のディジタルブリッジ部204とがリンクを確認したら、その後は親機アダプタ20と子機アダプタ10の間で、同軸ケーブル30を通してディジタル信号が送受信される。
【0100】
子機アダプタ10は、前述のように既に一本の同軸ケーブルを介してアナログ映像信号を送受信するとともに、この一本の同軸ケーブルを用いて、親機アダプタ20から電源電力をされている。したがって、子機アダプタ10は、一本の同軸ケーブルを介してアナログ映像信号とディジタル信号とを送受信するとともに、この一本の同軸ケーブルを用いて、親機アダプタ20から電源電力を供給されることとなる。
【0101】
これにより、たとえば店舗10に設置したPC60でブラウザを起動してホームページの閲覧要求を行うと、無線LANアクセスポイント50をとおして子機アダプタ10のLAN接続部106にディジタル信号が送受信される。
【0102】
子機アダプタ10のLAN接続部106に送られたディジタル信号は、同軸ケーブル接続部101をとおして親機アダプタ20の同軸ケーブル接続部201に送信される。親機アダプタ20の同軸ケーブル接続部201に送られたディジタル信号は、LAN接続部206から出力され、ルータ70を通してインターネット90上のWebサーバに接続要求が送信される。
【0103】
そしてWebサーバから、該当するホームページのディジタル信号が返信されると、閲覧要求と逆のルートでPC60に返信され、PC60のブラウザの画面にホームページが表示される。すなわち、店舗10内のPC60でユーザに対しホームページを閲覧するといったインターネット接続サービスを提供することができる。
【0104】
たとえば、店舗と事務所との間で既にアナログ映像監視システムが設置されており、店舗には監視カメラが、事務所にはモニタが、そして店舗と事務所との間には同軸ケーブルが既に設置されているものとする。このようなアナログ映像監視システムを用いて、店舗と事務所との間で新たにディジタル信号を送受信したい場合、本発明を適用すれば、新たにケーブルを敷設したり、ディジタル機器の電源装置を用意する必要がない。したがって、配線工事が不要でコストや手間がかからない。
【0105】
本実施例の子機アダプタは、供給される電源電力の余裕度を算出し、余裕度に応じて、ディジタル機器の電源電力、アナログ機器の電源電力の順に電源電力を供給する。そのため、同軸ケーブルの抵抗値が大きかったり、各装置の消費電力が大きかったりして電源電力に余裕がない場合でも、優先度の高い装置に関しては動作が不安定になる危険性を抑制することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 店舗
2 事務所
10 子機アダプタ
20 親機アダプタ
30 同軸ケーブル
40 監視カメラ
50 無線LANアクセスポイント
60(60a、60b、60c) PC
70 ルータ
80 モニタ
90 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定領域の外部に位置する第1の装置と、1つの伝送ケーブルを介して信号を送受信する前記所定領域の内部に位置する伝送装置において、
前記1つの伝送ケーブルを介して、あらかじめ優先度が設定された複数の信号を送受信するとともに、前記第1の装置から電源電力の供給を受ける送受信部と、
前記複数の信号を、これら複数の信号をそれぞれ処理する、前記所定領域の内部に位置する複数の第2の装置に対して入出力する複数の信号入出力部と、
前記1つの伝送ケーブルにおける電力の損失であるケーブル損失を算出するケーブル損失算出部と、
前記第1の装置が供給可能な最大供給電力と、前記ケーブル損失と、前記複数の第2の装置の消費電力とから、電力の余裕度を算出する余裕度算出部と、
前記送受信部で供給を受けた電源電力を、前記第2の装置それぞれの電源電力に変換するとともに、変換した各電源電力を前記複数の第2の装置へそれぞれ供給する電源供給部と、
前記余裕度算出部で算出される前記電力余裕度が、所定値を超えている場合は、前記複数の第2の装置のすべてに電源電力を供給するよう前記電源供給部を制御する一方、前記所定値以下であったときは、前記電力余裕度に応じて、前記複数の第2の装置のうち、優先度の高い信号を処理する第2の装置から順に、電源電力を供給するよう前記電源供給部を制御する制御部と
を備えることを特徴とする伝送装置。
【請求項2】
前記送受信部は、少なくともディジタル信号とアナログ映像信号とを含んだ複数の信号を送受信することを特徴とする請求項1に記載の伝送装置。
【請求項3】
前記ケーブル損失算出部は、ケーブル損失の算出を繰り返し行い、
前記余裕度算出部は、前記ケーブル損失算出部がケーブル損失を算出するごとに電力余裕度を算出することを特徴とする請求項1に記載の伝送装置。
【請求項4】
所定領域の外部に位置する第1の装置と、1つの伝送ケーブルを介して信号を送受信する前記所定領域の内部に位置する伝送装置に用いる伝送方法であって、
前記1つの伝送ケーブルを介して、あらかじめ優先度が設定された複数の信号を送受信するとともに、前記第1の装置から電源電力の供給を受ける送受信ステップと、
前記複数の信号を、これら複数の信号をそれぞれ処理する、前記所定領域の内部に位置する複数の第2の装置に対して入出力する複数の信号入出力ステップと、
前記1つの伝送ケーブルにおける電力の損失であるケーブル損失を算出するケーブル損失算出ステップと、
前記第1の装置が供給可能な最大供給電力と、前記ケーブル損失と、前記複数の第2の装置の消費電力とから、電力の余裕度を算出する余裕度算出ステップと、
前記送受信ステップで供給を受けた電源電力を、前記第2の装置それぞれの電源電力に変換するとともに、変換した各電源電力を前記複数の第2の装置へそれぞれ供給する電源供給ステップと、
前記余裕度算出ステップで算出される前記電力余裕度が、所定値を超えている場合は、前記複数の第2の装置のすべてに電源電力を供給するよう制御する一方、前記所定値以下であったときは、前記電力余裕度に応じて、前記複数の第2の装置のうち、優先度の高い信号を処理する第2の装置から順に、電源電力を供給するよう制御する制御ステップと
を含むことを特徴とする伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174002(P2012−174002A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35630(P2011−35630)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】