説明

伝達性海綿状脳症の診断方法

伝達性海綿状脳症(TSE)は、質量分析法を用いて検体から採取した体液のサンプル中におけるポリペプチドを観測することにより診断される。ポリペプチドは、TSE感染した検体と非感染の検体とにおいては異なって保有され、その分子量は、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲である。TSEは、体液のサンプル中におけるポリペプチドの試験量を決定することにより、検体について診断することができる。ポリペプチドは、シスタチンC、あるいはヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖から構成される。ヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖は、ウシのヘモグロビンの抗体に対して免疫反応を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝達性海綿状脳症(TSE)であること、TSEの可能性やその進行について確認するのに有効な情報を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝達性海綿状脳症(TSE)は、中枢神経系に変性を来す疾患である。TSEは伝染し、遺伝し、あるいは散発的に発症し、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、致死性家族性不眠症あるいはクールーがヒトにおいて見られるだけでなく、例えば蓄牛の牛海綿状脳症(BSE)や羊のスクラピーのように、動物においても見られる。これらの疾患は長期の潜伏期間を有し、失調、精神異常、精神医学でいう障害や死へとつながる。神経病理学的な変化には、脳組織における液胞の変性、アストログリオーシスおよびアミロイド班の形成が含まれる。これらの疾患は、徴候を診断するのが困難である。
【0003】
CJD患者の脳脊髄液(CSF)からは、2次元のポリアクリルアミドのゲル電気泳動[ハリントン、M.G.医学ニューイングランドジャーナル、315、279(1986)、シーヒ、G.、ケニー、K.、ギブズ、C.J.、リー、K.H.およびハリントン、M.B.医学ニューイングランドジャーナル、335、924(1996)]により、2つのポリペプチド(これは、14−3−3ポリペプチドとして知られている)が追加的に示されている。これら14−3−3ポリペプチドのTSEにおける作用は未だ不明のままである。14−3−3ポリペプチドはCJDの診断評価のための生前検査に使用することができるが、その特異性は低い。
【0004】
国際公開第98/23962号および第98/32710号の明細書、およびM.J.、ベックマン・コールター・ペース・セッター・回報3(2)、1−4(1999年6月)において記載されているように、異常な形態をしたプリオンの蛋白質(CJDと関連する)に対する単一細胞の抗体が、酵素に関連した免疫測定に用いられるが、これらの処理は、未だ完全には開発されていない。
【0005】
国際公開第01/67108号は、心臓や脳に蛋白質(H−FABPあるいはB−FABP)を結合させる脂肪酸が集中していることを体液のサンプルから判定する、TSEの診断分析に関する。
【0006】
国際公開第03/023406号(2003年3月20日発行)には、TSE診断を目的とする方法について記載されている。この方法には、TSEを保有する検体とTSEを保有しない検体とではサンプル中で異なって存在する、ポリペプチドマーカの試験量を決定する処理が含まれている。マーカは質量分析法を用いて体液から決定されることとしてもよい。レーザ脱離による質量分析法が好ましい。
【0007】
米国特許第6225047号には、異なる遺伝子地図を作成するための、濃縮液のクロマトグラフィの使用について、特に2つのサンプル間で違いの見られる検体を識別する方法について、記載されている。文献中においては、方法の1つとして特にレーザ脱離による質量分析法が明記されている。
【0008】
国際公開第01/25791号には、ポリペプチドマーカの試験量を決定する処理を含む、前立腺癌の診断を助成するための方法について記載されている。ポリペプチドマーカは、前立腺癌患者のサンプルと前立腺癌でない検体のそれとでは異なって表れる。マーカは、質量分析法を用いて決定されてもよく、レーザ脱離による質量分析法が好ましい。
【0009】
体液あるいは他の体組織のための非侵襲性のTSEマーカ(特に、血液中のCJDやBSEマーカ)の開発やマーカを決定する新規な方法は、臨床医学者が早期診断を確立するのに役立つであろう。本発明は、この問題を解決するものである。
【発明の開示】
【0010】
本発明によれば、伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、前記検体から採取した体液のサンプルを質量分析法にかけて該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する処理を含み、前記ポリペプチドは、TSEに感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備えた構成とされる。
【0011】
本発明は、TSEに感染した検体とTSE非感染の検体とではその体液において異なって保有され、診断、予見および治療に応用するためのポリペプチドの使用であってもよく、該ポリペプチドは、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備え、質量分析法によって決定される。
【0012】
本発明の実施形態においては、分子量は、例えば、以下に述べるように、1000から3500未満、あるいは30000超から100000、あるいは3500から30000の範囲において選択された所定の値であってもよい。
【0013】
更に、本発明は、伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSE感染の疑いのある検体における感染の可能性の診断方法における、およそ13350の分子量を備えたマーカの使用に関する。前記マーカは、シスタチンC(スイスプロット・アクセッション番号:P01034、120AAの活性蛋白質、等電点8.75)であるとされており、神経内分泌基本ポリペプチド、ガンマトレースあるいはポスト・ガンマグロブリンとも呼ばれる。このシステインプロテイナーゼから成る分泌活性抑制剤は、同様の配列および構造上の特徴に基づき、3つの基を含む、蛋白質のスーパーファミリーに属している。この蛋白質は、精巣上体、輸精管、脳、胸腺および卵巣において非常に多く見られ、顎下腺においては低量しか見られない。シスタチンCは、CJD感染者のCSFにおいては異なって示されることが、イムノブロットにより確認されている。シスタチンCは、以下の配列(配列IDNo.1)を有する先駆物質に由来している。
【0014】
magplrapll llailavala vspaagsspg kpprlvggpm dasveeegvr raldfavgey 60
nkasndmyhs ralqvvrark qivagvnyfl dvelgrttct ktqpnldncp fhdqphlkrk 120
afcsfqiyav pwqgtmtlsk stcqda 146
また、下に示される配列(配列IDNo.2)をも備える。
【0015】
sspgkpprlv ggpmdasvee egvrraldfa vgeynkasnd myhsralqvv rarkqivagv 60
nyfldvelgr ttctktqpnl dncpfhdqph lkrkafcsfq iyavpwqgtm tlskstcqda 120
シスタチンCの突然変異による型(68番をLeuからGluに置換したもの)は、アミロイドの特質を備えた物質が堆積することで能動脈壁が肥厚化するという特性を備えた、脳出血の遺伝型と関係があるとこれまで説明されてきた。後にアルツハイマー病が発病する危険性が増大することと関連のある遺伝子型(BB:AlaをThrに置換したもの)も存在する。
【0016】
そこで、本発明によれば、伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、前記検体から採取した体液のサンプルを質量分析法にかけて該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する処理を含み、前記ポリペプチドは、TSEに感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、シスタチンCであることを特徴とする診断方法が提供される。体液は、脳脊髄液であるのが好ましいが、例えば、全血、リンパ液、漿液、尿あるいはプリオンの蛋白質が蓄積されやすい、扁桃やリンパ節のような他のリンパ網内系の組織であってもよい。
【0017】
更に、本発明は、質量分析法によって体組織のサンプルにおける測定あるいは検出が可能であり、TSE感染した検体と非感染の検体とではその体組織において含まれ方が異なり、伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いの強い検体における感染の可能性や進行を示すマーカとしての、シスタチンCの所定のレベルでの使用についても提供する。
【0018】
更には、実験により、BSE陽性の蓄牛とBSE陰性の蓄牛とで区別を可能とする主な蛋白質としての、様々なヘモグロビンのイソホームが、レーザ脱離/イオン化による質量分析法を用いて識別、確認された。表面活性化レーザ脱離イオン化(SELDI)質量分析法においては、およそ30000、15000Da、7500Daにおけるピークあるいはクラスタがヘモグロビンを示しており、複合荷電された実際そのままのヘモグロビン分子に対応している。あるいは、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示す、ヘモグロビン鎖やその断片が切り捨てられた変形や断片もあり得る。この結果、SELDIスペクトルにおけるヘモグロビンのピークあるいはクラスタの有無から、例えばリンパ液や他の体液を用いた検査を行い、蓄牛のBSEを生前に診断する手段とすることができる。
【0019】
更には、本発明に係る伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのあるウシの検体における感染の可能性を診断する方法は、前記検体から採取した体液のサンプルを質量分析法にかけて該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する処理を含み、前記ポリペプチドは、TSE感染したウシの検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、ヘモグロビン、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示すヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖である構成とする。
【0020】
なお、ここで、「ウシ(bovine)」という表現には、一般的なウシ類、(スクラピーの)羊、および(慢性消耗性疾患の)鹿やエルクも含まれる。
本発明によれば、更に、ヘモグロビン、ウシのヘモグロビンに特有な抗体に対して免疫反応を示すヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖または断片鎖の所定のレベルでの使用であって、前記レベルは質量分析法によって検体の組織のサンプルにおける測定や検出が可能であり、前記ヘモグロビン、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示す前記ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖は、TSE感染したウシの検体の体組織とTSE非感染のウシでない検体の体組織とにおいては異なっており、伝達性海綿状脳症(TSE)であることあるいはTSE感染の疑いのあるウシの検体においてTSEの可能性や進行を認識ためのマーカとされるような使用が提供される。
【0021】
上記検査は、1回あるいは間隔をおいて、一体の動物あるいは動物群に対して適用される際に有用であり、実際の伝達性海綿状脳症あるいは最新の伝達性海綿状脳症に感染しているとはそれまで認められなかった動物にとっては、明らかにより有用である。係る動物やその動物に検査を実施する方法もまた、本発明に含まれる。
【0022】
本発明によれば、更に、TSEの診断において使用されるための分析装置あるいはキットが提供され、
(1)TSE感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、1000から100000までの範囲の分子量を備えたポリペプチド、
(2)TSE感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、およそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Daの分子量を備えたポリペプチドのうちから選択されたポリペプチド、
(3)シスタチンCあるいは
(4)TSE感染したウシの検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有される、ヘモグロビン、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示すヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖
のいずれかに特有な抗体と結合した固体基質を含むことを特徴とする。上記の装置あるいはキットは、必要な準備試薬、洗浄試薬、検出試薬およびシグナル生成試薬を含んで構成されることとしてもよい。
【0023】
また、本発明によれば、TSEの診断において用いられる分析装置であって、TSE感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、1000から100000までの範囲の分子量を備え、質量分析法によって決定されるポリペプチドを認識し、該ポリペプチドと結合し、あるいは該ポリペプチドに対し親和力を有する物質を含んだ領域を備えたプレート、シスタチンCに特有な抗体を含んだ領域を備えたプレート、シスタチンCに特有であり、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の診断において有効な抗体を含んだ領域を備えたプレート、シスタチンCに特有であり、散発型CJDの診断において有効な抗体を含んだ領域を備えたプレートのいずれかを備えたことを特徴とする分析装置が提供される。上記装置は、必要な準備試薬、洗浄試薬、検出試薬およびシグナル生成試薬と関連付けられて構成されることとしてもよい。
【0024】
また、本発明によれば、TSEの診断に用いられるキットであって、体液のサンプルを受け取り質量分析計にかけて、該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定するためのプローブあるいはプロテインチップアレイを備え、該ポリペプチドは、TSE感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、1000から100000までの範囲の分子量であることを特徴とするキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性を診断する方法を提供する。検体から採取された体液のサンプルは、質量分析法にかけられ、サンプル中にポリペプチドマーカが存在するか否かが判定される。ポリペプチドマーカは、TSEに感染した検体と非感染の検体とでは体液中に異なって保有されるものである。ポリペプチドマーカは、分子量は1000から100000、好ましくは1000から35000の範囲内であり、マーカの存在、非存在、過少出現あるいは過剰出現によってTSEが示唆される。
【0026】
この方法は、あらゆるタイプのTSEに対し、TSE感染あるいは感染の疑いのあるあらゆるヒトや動物に対し、応用が可能である。この方法は特にCJDの診断に適用でき、特にヒトにおける新規の変異型CJD、蓄牛のような反芻動物におけるBSE、羊におけるスクラピーのように、他の動物におけるBSEと同様の疾患に適用することができる。
【0027】
ポリペプチドという用語には、例えば炭水化物、ホスファート、サルフェートあるいは他の翻訳後修飾のような非ペプチド残留物の付加によって変更されたペプチドだけでなく、蛋白質および蛋白質断片も含まれる。
【0028】
サンプルは、プローブ上あるいはプロテインチップアレイ上でポリペプチドと吸着物質との間で結合できる条件の下では、プローブに吸着されてもよい。吸着物質は、金属イオンと化合した金属キレート化合物から構成されるのが好ましく、その金属としては、銅が好ましい。ポリペプチドを検出するよりも前に、プローブあるいはプロテインチップアレイ上の未結合物質あるいは弱結合の物質は洗浄液で除去されるので、サンプル中のポリペプチドは濃縮される。サンプルは、プローブ上、あるいは、ポリペプチドと結合することのできる固定化金属アフィニティ−キャプチャ(immobilised metal affinity capture、IMAC)の界面を有するプロテインチップアレイ上で吸着されるのが好ましい。また、サンプルは、ポリペプチドと結合できる条件下では疎水性かつ強い陰イオンあるいは弱い陽イオンの交換面を備えた、プローブ上で吸着されてもよい。プローブは、数個の吸着壁を有し、分析器に挿入されて、その分析器の読み取りのために各吸着壁は順にイオン化手段(例えばレーザ)に当たる、小板から構成されることとしてもよい。ポリペプチドは、表面活性化レーザ脱離イオン化(SELDI)あるいは飛行時間型質量分析(ToF−MS)によって判定されるのが好ましい。
【0029】
原理的にはいかなる体液や組織であっても、診断用のサンプルとして用いることができるが、体液としては、脳脊髄液(CSF)、リンパ液、血清、血液、尿、唾液あるいは涙が好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態としては、TSEは牛海綿状脳症(BSE)である。この場合、ポリペプチドは、およそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Daの分子量を備えることが好ましい。ポリペプチドの存在、非存在、過剰出現あるいは過少出現によってBSEが示唆される。本発明によって、診断を行うために、どんな前述の分子量の値以外の値やそれらの組み合わせであっても、測定に取り組むようになるのが好ましいであろう。
【0031】
本発明の他の実施形態においては、TSEはCJDである。
本発明の更なる実施形態においては、TSEはスクラピーである。
ポリペプチドの分子量の測定あるいはポリペプチド群の分子量の測定は、質量分析法の結果得られる。全ての分子量は、Daで測定される。上記で引用した分子量は、1%の精度、一般的には0.5から1%の精度で測定することができる。0.1%の精度で測定できるのが好ましい。本明細書において、分子量に関して「およそ(about)」とは、上記あるいは以下において値を引用する際に、およそ1%の精度の範囲内、好ましくは0.5%の精度の範囲内、更に好ましくは0.1%の精度の範囲内、の意味である。
【0032】
本発明はまた、TSE感染した検体と非感染の検体とではその体液において異なって保有され、診断、予後および治療への応用のためのポリペプチドの使用であってもよく、そのポリペプチドは、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備え、質量分析法によって決定される。これには、調製品、および/あるいは、上記のポリペプチドを認識、ポリペプチドと結合あるいは何らかの親和力を有する物質を使用するという概念も含まれる。かかる物質の例としては、抗体や、抗体チップが挙げられる。ここで用いられる「抗体」という語には、多クローン性抗血清、単クローン抗体、Fabのような抗体の断片、および一般的な誘導抗体が含まれる。抗体はキメラ抗体であってもよいし、あるいは単一の種についての抗体であってもよい。上で「予後」への応用について言及しているが、この概念には、TSE経路と同様の判定を行うことや、例えば、上記の体液のサンプル中におけるポリペプチドの量を測定することも含まれる。上で「治療」への応用について言及しているが、この概念には、例えば、上記のポリペプチドを認識する物質、ポリペプチドと結合あるいは親和力を有する物質を準備することや、かかる物質を治療に用いることも含まれる。その物質は、この場合、例えば抗体を薬物と結合させることによって、変更されている。したがって、この物質は、その薬物を動物の治療すべき特定の箇所をターゲットとすることができる。
【0033】
本発明の方法論は、あらゆるTSE診断に応用させることができる。体液のサンプルは、感染した検体および非感染の検体から用意される。サンプルは、プローブあるいは各種のサンプルにおけるペプチドの保持力がそれぞれ異なる吸着媒体にその表面を処理され、非結合あるいは結合力の弱い物質を除去するのに洗浄液を任意に用いるようなアレイに応用される。エネルギーを吸着する物質を適宜使用することもできる。しかる後、プローブまたはアレイは、質量分析器に挿入され、様々な機器の設定を用いて各種サンプル/吸着剤の組み合わせから読みが行われる。1組の与えられた条件下での感染したサンプルと非感染のサンプルとの比較によって、1以上のポリペプチドが示される。示されるポリペプチドは、感染したサンプルと非感染のサンプルとでは異なって表されるものである。同一の条件(吸着剤、分析器の設定等)の下で、検体から採取した液体サンプルの検査でこれらポリペプチドが存在するあるいは存在しないことから、検体が感染しているか否かを判定するのに用いることができる。
【0034】
ここで、ポリペプチドの「存在するあるいは存在しないこと」という表現は、単に感染したサンプルと非感染のサンプルとでは検出される量に違いが見られる、という意に解されるべきである。このように、検査サンプルにおいてポリペプチドが「存在しないこと」には、そのポリペプチドが実際に存在するが、比較用の検査サンプルにおける量よりはごく低量である、という可能性も含んでいる。本発明によれば、診断は、ポリペプチドが存在するか存在しないかに基づいてなすことができ、これには、参照用の検査サンプルと比較してより低量、あるいはより多量のポリペプチドが存在することに基づいて診断することについても含まれる。
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。

<実施形態1>
BSE感染した蓄牛から採取した体液(脳脊髄液、リンパ液その他)中のポリペプチド
本研究の目的は、BSE感染した蓄牛から採取した体液(脳精髄液、リンパ液その他)において、特定のポリペプチドを検出することにあった。サンプルは、表面活性化レーザ脱離イオン化(SELDI)質量分析法(MS)技術で分析された。この技術によれば、異なるタイプのリテンテート(retentate)クロマトグラフィを用いてミクロ単位での蛋白質のアフィニティ−キャプチャが実行され、飛行時間型質量分析がなされる。こうして、サイファージェン・バイオシステムズ社(米国カリフォルニア州フリーモント)のPBSII型質量分析器で分析された、与えられたサンプルに特有な蛋白質の分布図に各々応じた、異なる地図が生成される。ピークに現れる違いは、プロテインチップアレイを使ってBSEに感染した蓄牛から採取したリンパ液のサンプル集団と、健康な蓄牛から採取したものとでスペクトルを比較することで識別される。
【0036】
SELDI分析は、金属親和力で特定のポリペプチドを検出するために、未加工のウシのリンパ液サンプル2μlを用いてなされた。このアプローチにおいては、銅の親和力で蛋白質を捕獲して特定の蛋白質の部分集合をサンプル中から選別するために、固定された銅の親和力アレイ(IMAC−Cu++)が採用された。プロテインチップアレイおよび固定された金属チップアレイは、IMAC−Cu++親和力アレイで構成されることとしてもよい。捕獲された蛋白質は、PBSIIプロテインチップアレイリーダ(サイファージェン・バイオシステムズ社製、米国カリフォルニア州フリーモント)を用いて直接検出された。
【0037】
以下に示すプロトコルは、クロマトグラフィックTED−Cu(II)プロテインチップアレイを処理し、分析するのに用いられた。TED(tris(Carboxymethyl)ethylenediamine-Cu)とは、ステンレススチール基質の酸化膜で覆ったシリコンで、その表面をコーティングした吸着剤のことである。
【0038】
・最初に表面に100ミリモル(mM)の硫酸銅10μlを行き渡らせて装荷し、15分間湿室で定温放置する。
・その後。チップをイオン除去した水で約10秒間、2回すばやくすすぎ洗いし、余分な結合していない銅を除去する。
【0039】
・サンプルに装荷する前に、I−MAC3アレイを、5分間に渡り、0.5モルのPBS塩化ナトリウム5μlとで平衡状態にさせる。
・平衡緩衝液を除去した後、3μlの同一の緩衝液を、2μlのリンパ液を加える前に追加する。チップを20分間湿室で定温放置する。
【0040】
・しかる後、サンプルを除去し、表面を3回平衡緩衝液で洗浄する(各回5分ずつ)。
・水での最後のすすぎを2回行う。
【0041】
・表面は、空気乾燥にしてもよく、続いて、トリフルオロ酢酸である、50%濃度アセトニトリルで調合された0.5μlの飽和シナピン酸(SPA、サイファージェン・バイオシステム社)に追加する。
【0042】
・レーザ脱着イオン化飛行時間型質量分析で得られた蛋白質を全面的に分析する前に、チップを再度空気乾燥する。
・プロテインチップアレイを装置に挿入し、正確な検出器の精度、およびレーザがデータ収集を自動的に行えるだけのエネルギーを備えていることを一旦解析する。
【0043】
・得られたスペクトルを、バイオマークウィザードのソフトウェア(サイファージェン・バイオシステムズ社、米国カリフォルニア州フリーモント)をデルのディメンジョン4100(Dell Dimension 4100)のパーソナルコンピュータで動かして分析する。多重スペクトルを通じて複数のピークが描かれる。
【0044】
図1Aから図1Fは、比較研究した結果であり、BSEと診断された蓄牛および正常な蓄牛から採取したリンパ液から、上記の通りに準備したIMAC3プロテインチップアレイを用いて得られたものである。この研究では、23個のピークが、BSE感染した蓄牛から採取したリンパ液において特に異なって表されている。それらの分子量は、それぞれおよそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da(質量精度は、略0.1%である)である。図1には2つのスペクトル図が示されている。それぞれ、正常なサンプル、BSEのサンプルについての0から100000Daの範囲のスペクトル図である。より具体的には、縦方向の矢で示されているように、図1Aは、およそ1010、1100、1125および1365についてのピークを示している。図1Bは、およそ3645および4030のピークを示している。図1Cは、およそ3890、5820、7520、7630および7980のピークを示している。図1Dは、およそ9950、10250、11600および11800のピークを示している。図1Eは、およそ15000、15200、15400、15600および15900のピークを示している。図1Fは、およそ30000、31000および31800のピークを示している。
【0045】
スペクトルP1からP20(図1A、図1B)は英国からのサンプルのバッチに相当し、スペクトル1から20(図1Cから図1F)は米国からのサンプルのバッチに相当する。サンプルを提供した蓄牛の状態は、下の表1および表2に示される。表1および表2においては、「陰性(Negative)」はBSEに非感染であることを意味し、「陽性(Positive)」はBSEに感染した蓄牛であることを意味する。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
これらのデータから、およそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Daにおけるピークがリンパ液サンプルとしてBSEの診断に用いることができる、と示される。上記のピークのうちいずれか1つ、あるいはそれらのうちで1以上のピークについての組み合わせをこのように用いることにより、BSEを診断することもできる。

<実施形態2>
CJD感染の患者のCSF中におけるシスタチンCの確認および増加
CJD監視ユニットから入手したCSFサンプル(100μl)(非感染者のみならず散発型あるいは明らかに変異型のCJDに関するもの)が、SELDIプロテインチップアレイ技術を用いて調査された。WCX2(炭水化物官能基との弱陽イオン交換アレイ)、SAX2(第4アミン官能基との強陰イオン交換アレイ)およびIMAC3(ニトロトリアセテート酸との固定された金属のアフィニティキャプチャアレイ)の表面は、得られたサンプル中の、蛋白質固有の結合の違いを調査するために用いられる。CJD症状のある患者のサンプルとCJDではないが同様の症状のある患者のサンプル(非感染、すなわちコントロールによる)とを識別するために、まずコントロール(非感染者)に対して、変異型および散発型患者(CJDサンプル)のケースについて様々な比較がなされた。研究所および発明者の14.3.3のサンプルから採取したコントロールと比較された、CJDと診断された患者についてサンプルのグループ全体については、診断された部分母集団中で区別することなく分析された。これらサンプルの比較は、散発型および/あるいは変異型CJDのサンプルを、対応するコントロール(非感染)と区別せずに行った。
【0049】
これにより、本発明においては、分子量がおよそ13365から13370(±0.5%)の知的障害マーカの存在について確認された。このマーカは、金属親和力に加えて陽イオンの特性を示している。
【0050】
13365から13370のマーカは、陽イオン交換クロマトグラフィを用いて非感染のCSFサンプルを分別することで精製された。そのような分別を目的として設計されているスピンサックス(Spin Sax)カラムは、正味の電荷にしたがって蛋白質を分離するものであり、塩を集中させかつ等電点を低くする緩衝液を用いて、等電点を減少させることにより蛋白質を順次抽出するのに用いられる。IMAC3およびSAXチップを用いて得られた蛋白質の分布図もまた、同様であった。各分別に際し、13350mwのピークを識別するために、蛋白質電気泳動(SDS PAGE)で負荷をかけた。予め青変したコロイド状トリス・トリシンの1次元ゲルが流されて硝酸銀で染色されることで、質量分析法で識別した後に結合の切り出しおよび蒸解ができるようになる。ゲルから摘出した水平方向の結合は、マトリックス支援イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)、タンデム飛行時間型(MALDI-TOF-TOF)(アプライドバイオシステムズ社:衝突を誘導する解離フラグメントの分析によって部分配列の決定することができる)あるいはナノLC・Q−tofを用いてのアプローチによって確認される。13350のピークは、シスタチンCと確認された。
【0051】
マトリックス支援イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF MS)は、紫外光吸収基質や生体分子が共沈することを利用してナノ秒レーザパルスを照射する技術においては比較的新規である。レーザのエネルギーの凡そは基質で吸収され、その基室により望まぬ生体分子の断片が発生することが防止される。イオン化生体分子は、電場中で加速されて飛行管に突入する。この管内を飛行中の間に、分子は各自の質量電荷比にしたがって分離され、異なるタイミングで検出器に到達する。この方法によれば、各分子は他の分子とは異なるサインを出している。本方法は、蛋白質、ペプチド、オリゴ糖類およびオリゴヌクレオチドのような、分子量400から350000Daの生体分子の検出および生体分子の特性の決定に用いられている。
【0052】
CSFがCJD感染している患者中にシスタチンCが確認されたことおよびシスタチンCが増加していることを確かめるため、発明者は、8つのCJD感染した患者(うち3人は変異型CJD、5人は分散型CJD)のCSFに対して、8つの精神異常のCSFサンプル上におけるヒトのシスタチンCに固有な抗体を使用して、ウェスタンブロットによる実験を行った。
【0053】
図2により、コントロールと比較して検査した8人のCJD感染患者について、シスタチンがCJDの脳脊髄液のマーカとなり得ることを意味する特定のシグナルが増加していることを、発明者が確認したことが示されている。

<実施形態3>
BSEに感染した蓄牛のリンパ液についてのSELDI分析
発明者は、先述のBSEプラスとBSEマイナスのリンパ液のサンプルをSELDI分析によって比較調査を行うことで、数個のハイライト部分の蛋白質の集合は各々異なって表されることを確認した。更に分析を行い、このようなクラスタの一つとして、およそ15000Da付近の質量を備え、BSE感染した蓄牛から採取したサンプルに関しては過剰な違いがみられるクラスタを選び出した。BSEに感染した蓄牛のリンパ液を1次元電気泳動にかけ、標準質量のマーカ蛋白質を用いて決定された、質量15000Daの移動する帯域を抽出し、それをトリプシンで蒸解してMAL:DI−TOFの質量分析装置にかけた。この方法によれば、15000Daの蛋白質は、SELDIで分析すると、ウシのヘモグロビン中のイソホームであると推定的な確認がなされた。
【0054】
これらサンプル中のヘモグロビンの内容を調査し確認するために、発明者は、ウシのヘモグロビンと交叉反応を示すような抗体を探した。他の種から採取されたヘモグロビン(4870−3980、バイオトレンド−アナワ社)とで交叉反応を示すと予測される、赤血球から採取された天然のヘモグロビンに対して培養されたヒツジの多クローン性抗体だけでなく、ウマやウシのヘモグロビン(J16、バイオメダ社)と弱い反応を示す、ヤギの多クローン性抗体の抗人ヘモグロビンについて検査した。ポジティブコントロールとしての、天然の精製されたヒトおよびウシのヘモグロビン(4870−4056および4870−2002、バイオトレンド−アナワ社)を用いて実験を行った。
【0055】
図3は、バイオメダ社から入手したヤギの多クローン性抗体について行われた、ウェスタンブロット実験を強調表示した図である。ヒトおよびウシのヘモグロビンで目立ったシグナルがあるのに加え、3個のBSEプラスの検査リンパ液サンプル中の予測された範囲においては、蛋白質レベルが増加していることがまさに認められ得る。第2の抗体について実行されたウェスタンブロット実験では、シグナルは全く認められなかった(データは不図示である)。複数の点が検出されるか否かを見るために、シルバーステインの分析用2次元ゲル、およびBSEマイナスのリンパ液サンプルの2次元ポリフッ化ビニルデン(PVDF)メンバについての免疫検出実験がされた(図4)。図4では広範囲に渡り、予測された領域に4つの点が示されている。2点については、α鎖(15053Da、等電点(pI)8.19)に対応し、残りの2点はβ鎖(15954Da、等電点7.02)に対応しているように見受けられる。α鎖は、N−グリコシレーション、プロテインキナーゼCリン酸化、カゼインキナーゼIIリン酸化およびN−ミリストイル化の4つの変異サイトを備えることが判明しており、β鎖もまた同様にN−グリコシレーションサイト(スキャン・プロサイト)の代わりにアミド化サイトを備えていることがわかっていることから、これらのことから、SELDIスペクトル中ピーク前後の多くの強調部分についてだけでなく、主な分子量においてそのバリエーションが説明される。
【0056】
更にウシのヘモグロビンのイソホームとしての15000Daにおけるクラスタを確認するために、ウシおよびヒトの精製されたヘモグロビンをSELDIのノーマルフェーズで分析した。図5は、両種における類似点について説明するための、両種について得られた全スペクトル図である。図6Aおよび図6Bは、4つの代表的なスペクトルでは、IMAC法においてBSEプラスのリンパ液で見られるヘモグロビンの概観はどのようであるかを示している。これに対し、図6Cは、7kDa未満での違いを強調表示している。これらのスペクトルから、発明者は、ヘモグロビンに対応するウシのリンパ液についてのSELDIでの調査から、13中5のクラスタが強調されていると結論付けた。
【0057】
上記で引用した各刊行物は、本文において信頼すべきものとして、ここではある程度参照として組み込まれている。

配列リスト

【0058】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1A】1Aから1Fは、リンパ液のサンプルのうち、1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da蛋白質のピークを強調した、レーザ吸着/イオン化質量分析法による、正常のサンプルおよびBSE感染体のサンプルにおけるリンパ液のスペクトル図である。
【図1B】1Aから1Fは、リンパ液のサンプルのうち、1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da蛋白質のピークを強調した、レーザ吸着/イオン化質量分析法による、正常のサンプルおよびBSE感染体のサンプルにおけるリンパ液のスペクトル図である。
【図1C】1Aから1Fは、リンパ液のサンプルのうち、1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da蛋白質のピークを強調した、レーザ吸着/イオン化質量分析法による、正常のサンプルおよびBSE感染体のサンプルにおけるリンパ液のスペクトル図である。
【図1D】1Aから1Fは、リンパ液のサンプルのうち、1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da蛋白質のピークを強調した、レーザ吸着/イオン化質量分析法による、正常のサンプルおよびBSE感染体のサンプルにおけるリンパ液のスペクトル図である。
【図1E】1Aから1Fは、リンパ液のサンプルのうち、1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da蛋白質のピークを強調した、レーザ吸着/イオン化質量分析法による、正常のサンプルおよびBSE感染体のサンプルにおけるリンパ液のスペクトル図である。
【図1F】1Aから1Fは、リンパ液のサンプルのうち、1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Da蛋白質のピークを強調した、レーザ吸着/イオン化質量分析法による、正常のサンプルおよびBSE感染体のサンプルにおけるリンパ液のスペクトル図である。
【図2】CSFのサンプルにおけるヒトのシスタチンCの免疫検出を示す図である。
【図3】リンパ液のサンプルにおけるウシのヘモグロビン検出を示す図である。
【図4】2次元ゲル上および2次元PVDF膜上のBSEリンパ液のサンプルを示す図である。
【図5】レーザ脱離/イオン化質量分析法による、ヒトおよびウシのヘモグロビンのスペクトルを示す図である。
【図6A】6Aから6Cは、レーザ脱離/イオン化質量分析法による、正常なウシおよびBSE感染したウシのサンプルから採取したリンパ液のスペクトルを示す図である。
【図6B】6Aから6Cは、レーザ脱離/イオン化質量分析法による、正常なウシおよびBSE感染したウシのサンプルから採取したリンパ液のスペクトルを示す図である。
【図6C】6Aから6Cは、レーザ脱離/イオン化質量分析法による、正常なウシおよびBSE感染したウシのサンプルから採取したリンパ液のスペクトルを示す図である。
【配列表】















【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、
質量分析法によって前記検体から採取した体液のサンプルを配置して該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、
前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する
処理を含み、
前記ポリペプチドは、TSE感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備える
ことを特徴とする診断方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、前記TSE感染した検体の体液においては存在するが、前記TSE非感染の検体の体液においては存在せず、体液のサンプルに該ポリペプチドが存在することによりTSEであることが示される
ことを特徴とする請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドは、前記TSE感染した検体の体液においては存在しないが、前記TSE非感染の検体の体液においては存在し、体液のサンプルに該ポリペプチドが存在しないことによりTSEであることが示される
ことを特徴とする請求項1に記載の診断方法。
【請求項4】
前記質量分析法は、レーザ吸着/イオン化による質量分析法である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項5】
前記サンプルは、固定化金属アフィニティ−キャプチャ(IMAC)、前記ポリペプチドを結合することのできる疎水性の強陰イオンあるいは弱陽イオンの交換面を有する、プローブあるいはプロテインチップアレイ上にて吸着される
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項6】
前記ポリペプチドは、表面活性化レーザ脱着イオン化(SELDI)あるいは飛行時間型質量分析(TOF−MS)によって判定される
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項7】
前記体液は、脳脊髄液(CSF)、リンパ液、血清、血液、涙、尿あるいは唾液から構成される
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項8】
複数のペプチドが前記サンプルにおいて判定される
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項9】
前記TSEは、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項10】
前記TSEは、散発型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)あるいは変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項11】
前記TSEは、牛海綿状脳症(BSE)である
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項12】
BSEあるいはBSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、
質量分析法によって前記検体から採取した体液のサンプルを配置して該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、
前記試験量がBSE診断に一致するか否かを判定する
処理を含み、
ポリペプチドは、BSE感染した検体の体液とBSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、
1以上のポリペプチドは、およそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15900、30000、31000および31800Daの分子量から各々選出され、
前記1以上のポリペプチドが異なって示されることにより、BSEであることを示唆する
ことを特徴とする診断方法。
【請求項13】
前記TSEは、スクラピ−である
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項14】
TSE感染した検体および非感染の検体の体液において異なって保有されるポリペプチドの使用であって、
前記ポリペプチドは、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備え、
質量分析法により、診断、予見および治療に応用するために判定することができる
ことを特徴とするポリペプチドの使用。
【請求項15】
診断、予見および治療に応用するための物質の使用であって、
前記物質は、TSE感染した検体および非感染の検体の体液において異なって保有されるポリペプチドを認識し、該ポリペプチドを拘束し、あるいは親和力を有し、
前記ポリペプチドは、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備え、質量分析法により判定することができる
ことを特徴とする物質の使用。
【請求項16】
前記物質は、抗体あるいは抗体チップから構成される
ことを特徴とする請求項15に記載の物質の使用。
【請求項17】
TSEを診断する際に使用される分析装置であって、
TSE感染した検体および非感染の検体の体液において異なって保有されるポリペプチドを認識し、該ポリペプチドを拘束し、あるいは親和力を有する物質を載置するプレート
を備え、
前記ポリペプチドは、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備え、質量分析法により判定することができる
ことを特徴とする分析装置。
【請求項18】
TSEを診断する際に使用される分析装置であって、
シスタチンCに固有の抗体を含む位置を有するプレート
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項19】
変異型CJDを診断する際に使用される分析装置であって、
シスタチンCに固有の抗体を含む位置を有し、変異型CJDの診断に使用することのできるプレート
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項20】
分散型CJDを診断する際に使用される分析装置であって、
シスタチンCに固有の抗体を含む位置を有し、分散型CJDの診断に使用することのできるプレート
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項21】
BSEを診断する際に使用される分析装置であって、
ウシのヘモグロビンに特有な抗体に対して免疫反応を示し、BSEの診断に使用することのできるヘモグロビン、ヘモグロビン鎖、あるいは切り捨てられた鎖または断片鎖に対する固有の抗体を含む位置を有するプレート
を特徴とする分析装置。
【請求項22】
BSEを診断する際に使用される分析装置であって、
(1)TSE感染した検体および非感染の検体の体液において異なって保有され、1000から100000の範囲の分子量を備えるポリペプチド、
(2)TSE感染した検体および非感染の検体の体液において異なって保有され、各分子量として、およそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000および31800Daを有するうちから選出されたポリペプチド、
(3)シスタチンC、あるいは
(4)ウシのヘモグロビンに特有な抗体に対して免疫反応を示し、ウシのTSE感染した検体とウシでない非感染の検体の組織においては異なって保有されるヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖または断片鎖
のうちいずれかに特有の抗体と結合した固体基質
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項23】
TSEの診断に使用するためのキットであって、
体液のサンプルを受け、質量分析法において配置し、該サンプル中のポリペプチドの試験量を判定するためのプローブと
を備え、
前記ポリペプチドは、TSE感染した検体と非感染の検体の体液において異なって保有され、3500から30000の範囲を除き、1000から100000の範囲の分子量を備える
ことを特徴とするキット。
【請求項24】
前記プローブは、前記ポリペプチドを吸着するための吸着剤を含有する
ことを特徴とする請求項23に記載のキット。
【請求項25】
未結合あるいは弱結合の物質を前記プローブから除去するための洗浄手段
を更に備えたことを特徴とする請求項23あるいは24に記載のキット。
【請求項26】
伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、
質量分析法によって前記検体から採取した体液のサンプルを配置して該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、
前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する
処理を含み、
前記ポリペプチドは、TSE感染した検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、シスタチンCから構成される
ことを特徴とする診断方法。
【請求項27】
伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、
質量分析法によって前記検体から採取した体液のサンプルを配置して該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、
前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する
処理を含み、
前記ポリペプチドは、シスタチンCである
ことを特徴とする診断方法。
【請求項28】
前記体液は、CSFから構成される
ことを特徴とする請求項26あるいは27に記載の診断方法。
【請求項29】
本発明に係る伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのあるウシの検体における感染の可能性の診断方法であって、
質量分析法によって前記検体から採取した体液のサンプルを配置して該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、
前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する
処理を含み、
前記ポリペプチドは、TSE感染したウシの検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示すヘモグロビン、ヘモグロビン鎖、あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖である
ことを特徴とする診断方法。
【請求項30】
伝達性海綿状脳症(TSE)あるいはTSEの疑いのある検体における感染の可能性の診断方法であって、
質量分析法によって前記検体から採取した体液のサンプルを配置して該サンプルにおけるポリペプチドの試験量を決定し、
前記試験量がTSE診断に一致するか否かを判定する
処理を含み、
前記ポリペプチドは、TSE感染したウシの検体の体液とTSE非感染の検体の体液とにおいては異なって保有され、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示すヘモグロビン、ヘモグロビン鎖、あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖である
ことを特徴とする診断方法。
【請求項31】
少なくとも一のポリペプチドの所定のレベルでの使用であって、
前記ポリペプチドは1000から100000の範囲の分子量を備え、質量分析法によって体組織における測定や検出が可能であり、TSE感染した検体および非感染の検体の体液においては異なっており、伝達性海綿状脳症(TSE)であることあるいはTSE感染の疑いのある検体においてTSEの可能性や進行を認識するためのマーカとされる
ことを特徴とする使用。
【請求項32】
前記少なくとも一のポリペプチドは、およそ1010、1100、1125、1365、3645、4030、3890、5820、7520、7630、7980、9950、10250、11600、11800、15000、15200、15400、15600、15900、30000、31000、31800Daの分子量を備えるポリペプチドの中から選択される
ことを特徴とする請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記体液は、脳脊髄液、リンパ液、血清、血液、涙、尿あるいは唾液から構成される
ことを特徴とする請求項31または32に記載の使用。
【請求項34】
シスタチンCの所定のレベルでの使用であって、
前記シスタチンCは、体組織における測定や検出が可能であり、TSE感染した検体およびTSE非感染の検体においては異なっており、伝達性海綿状脳症(TSE)であることあるいはTSE感染の疑いのある検体においてTSEの可能性や進行を認識するためのマーカとされる
ことを特徴とする使用。
【請求項35】
前記レベルは、質量分析法によって測定や検出が可能とされる
ことを特徴とする請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記体組織は、ヒトの検体から構成される
ことを特徴とする請求項34あるいは35に記載の使用。
【請求項37】
前記体組織は、脳脊髄液から構成される
ことを特徴とする請求項36に記載の使用。
【請求項38】
ヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖または断片鎖の所定のレベルでの使用であって、
前記ヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖または断片鎖は、ウシのヘモグロビンに特有な抗体に対して免疫反応を示し、
前記レベルは検体の組織のサンプルにおける測定や検出が可能であり、ウシのヘモグロビンに特有の抗体に対して免疫反応を示す前記ヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖は、TSE感染したウシの検体の体組織とTSE非感染のウシでない検体の体組織とにおいては異なっており、伝達性海綿状脳症(TSE)であることあるいはTSE感染の疑いのあるウシの検体においてTSEの可能性や進行を認識するためのマーカとされる
ことを特徴とする使用。
【請求項39】
前記レベルは、質量分析法によって測定や検出が可能とされる
ことを特徴とする請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記ヘモグロビン、ヘモグロビン鎖あるいは切り捨てられた鎖や断片鎖は、質量分析法によって決定される、分子量およそ15000Da、7500Daあるいは3000Daを備えている
ことを特徴とする請求項38あるいは39に記載の使用。
【請求項41】
前記体組織のサンプルは、リンパ液から構成される
ことを特徴とする請求項38あるいは40に記載の使用。
【請求項42】
前記体組織のサンプルは、生体から採取される
ことを特徴とする請求項38あるいは40に記載の使用。
【請求項43】
ウシ属の動物、あるいは該動物群であって、
請求項38から42のいずれか1項に記載の検査によって、伝達性海綿状脳症(TSE)ではないことを確認される
ことを特徴とするウシ属の動物あるいは該動物群。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2006−504977(P2006−504977A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501826(P2005−501826)
【出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004574
【国際公開番号】WO2004/040316
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(304032181)プロテオメ サイエンシス ピーエルシー (1)
【Fターム(参考)】