説明

伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板およびその製造方法

【課題】鋼板引張強さが1760MPa以上の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板およびその製造方法を提供する
【解決手段】質量%で、C:0.25〜0.4%、Si:1.0%以下、Mn:1.5〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下、B:0.0005〜0.005%を含み、さらにTi:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%のうちから選ばれる1種または2種を合計で0.005〜0.1%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織がマルテンサイト単相組織(表層20μmを除く)で、さらに引張強さが1760MPa以上であることを特徴とする伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車骨格部材、補強部材等に好適な、引張強さが1760MPa以上の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全という観点から、自動車の燃費改善が求められている。また、車両衝突時に乗員を保護する観点からは、自動車車体の安全性向上も求められている。このため、燃費改善と安全性向上の両方を満足すべく、自動車車体の軽量化と強化の双方の検討が積極的に進められている。自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるには、部品素材である薄鋼板を高強度化することで、薄鋼板の板厚の低減もしくは、補強部品の削減が効果的であり、特に衝突時に乗員を守るキャビン周りの自動車骨格部材、補強部材には、現在、引張強さ(TS)が1470MPa級までの超高張力薄鋼板が実用化されている。しかしながら、最近のCO排出規制の強化を受けて、鋼板のさらなる超高強度化が求められている。
【0003】
引張強さが1470MPaを超える超高強度とするためには、高硬度であるマルテンサイト相の活用が有効であり、例えば特許文献1では、C:0.27%、Si:0.55%、Mn:2.09%、Ti:0.11%、Mo:0.33%を含む鋼板の焼入れ焼戻し処理により、引張強さが1470MPaの超高強度薄鋼板が得られている。
【0004】
一方、自動車骨格部材等の部材は一般的にプレス加工により成形されるため、その材料には伸びフランジ性が要求される。伸びフランジ性の改善については、例えば特許文献2に、複合組織鋼において軟質相と硬質相の硬度差を低減することにより伸びフランジ性を改善する技術が開示されている。さらに、特許文献3では、複合組織ではなく焼戻しマルテンサイト単相組織とすることで、980MPa級鋼において優れた伸びフランジ性を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−90488号公報
【特許文献2】特開2005−171321号公報
【特許文献3】特許第3729108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引張強さが1470MPaを超える超高強度になると、複合組織鋼での強度確保が困難となり、必然的に焼戻しマルテンサイト単相組織となるため、特許文献2に記載の技術は適用できず、さらに、特許文献3に記載のように、複合組織鋼に比べて、焼戻しマルテンサイト鋼の方が伸びフランジ性に優れる。また、特許文献3に記載のように焼戻しマルテンサイト単相組織としても、発明者らの実験の結果、引張強さが1760MPa以上の強度レベルでは、伸びフランジ性が極度に低下し、部品フランジ部の軽微な立ち上げなどの伸びフランジ加工で割れが発生し、実用上問題となることが明らかとなった。
【0007】
以上のように、引張強さが1760MPa以上の超高強度鋼板においては、伸びフランジ性の低下が大きな問題となるが、特許文献1を含め、引張強さが1760MPa以上の超高強度鋼板において伸びフランジ成形性を考慮した技術は見当たらず、引張強さが1760MPa以上の超高強度鋼板の適用に際しては、伸びフランジ性の改善が課題であった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、鋼板引張強さが1760MPa以上の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究し,強度、伸びフランジ性に及ぼす合金元素、組織、製造方法の影響を詳細に調査した結果、引張強さが1760MPa以上を得るためには、Cが0.25%以上の添加が必要であること、Bおよび、TiまたはNbの微量添加により、引張強さが1760MPa以上の超高強度で優れた伸びフランジ性が得られることを知見し、本発明に至った。
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
第一の発明は、質量%で、C:0.25〜0.4%、Si:1.0%以下、Mn:1.5〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下、B:0.0005〜0.005%を含み、さらにTi:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%のうちから選ばれる1種または2種を合計で0.005〜0.1%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織がマルテンサイト単相組織(表層20μmを除く)で、さらに引張強さが1760MPa以上であることを特徴とする伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板である。
【0012】
第二の発明は、さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする第一の発明に記載の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板である。
【0013】
第三の発明は、さらに、質量%で、Cu:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする第一または第二の発明に記載の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板である。
【0014】
第四の発明は、第一乃至第三の発明の何れかに記載の組成を有するスラブに、熱間圧延工程、冷間圧延工程、連続焼鈍工程を順次施す冷延鋼板の製造方法であって、前記連続焼鈍工程では、Ae変態点以上900℃以下の温度域に加熱保持後、平均冷却速度300℃/s以上で200℃以下まで急冷し、次いで250℃以下で焼戻すことを特徴とする伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法である。
【0015】
なお、本発明において、「伸びフランジ性に優れた」とは、伸びフランジ性の評価指標である穴広げ率が25%以上であることを意味する。また、本発明において、鋼板とは、鋼板、鋼帯を含むものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、伸びフランジ性に優れた、引張強さが1760MPa以上の焼戻しマルテンサイト単相組織を有する超高強度冷延鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の冷延鋼板は、以下に規定する成分を有し、組織は焼戻しマルテンサイト単相組織(表層20μmを除く)であり、引張強さが1760MPa以上であることを特徴とする。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
[化学成分]
まず、本発明における鋼の化学成分(組成)を規定した理由を説明する。なお成分%は全て質量%を意味する。
【0020】
C:0.25〜0.4%
Cは、強度確保のために重要な元素の一つであり、本発明では引張強さを1760MPa以上とするために、0.25%以上の含有を必要とする。より安定して強度を確保するためには0.27%以上が好ましい。一方、0.4%を越える含有は、靱性を著しく劣化させる。以上より、C量は0.25%以上0.4%以下の範囲とする。より好ましくは、0.27%以上0.38%以下の範囲である。
【0021】
Si:1.0%以下
Siは、焼戻し軟化抵抗を高める元素で、添加することで安定して強度を得ることができるため、添加することが好ましいが、無添加でも問題なく本発明の効果が得られる。一方、1.0%を超えるSiの添加は、効果が飽和する上、鋼板の化成処理性を劣化させるため、Si量の上限を1.0%とする。好ましくは、0.1%以上0.8%以下の範囲である。
【0022】
Mn:1.5〜2.5%
Mnは、オーステナイトを安定化し、フェライト変態を遅延させる元素であり、Mnを適量添加することで、連続焼鈍後の冷却時のフェライト生成を抑制し、安定して焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることができる。このような効果を得るためにはMn量は1.5%以上の添加が必要である。一方、2.5%を越えると焼鈍後急冷時の焼割れの原因となる。以上より、Mn量は1.5%以上2.5%以下の範囲とする。より好ましくは1.6%以上2.2%以下の範囲である。
【0023】
P:0.02%以下
Pは、旧オーステナイト粒界に偏析し、耐遅れ破壊特性を劣化させる。そのため、Pはできるだけ低減することが好ましく、本発明では、P量の上限は0.02%とする。より好ましくは、0.01%以下である。
【0024】
S:0.003%以下
Sは、鋼板中で介在物として存在し、伸びフランジ性を劣化させる。そのため、Sはできるだけ低減するのが好ましく、伸びフランジ性への悪影響を排除するためには、S量の上限は0.003%とする必要がある。より優れた伸びフランジ性を要求される場合には、0.002%以下が好ましい。
【0025】
Al:0.01〜0.1%
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、添加が望ましい元素である。また適性範囲のAlを添加したアルミキルド鋼のほうが、Alを添加しない従来のリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。以上の理由により、Al量の下限は0.01%とする。一方で、Al含有量が多くなると表面性状の悪化につながるためAl量の上限は0.1%とする。
【0026】
N:0.005%以下
Nは、0.005%を超えると強度バラツキの原因となるため、N量は0.005%以下とする。
【0027】
B:0.0005〜0.005%
Bは、本発明において重要な元素の一つである。Bは旧オーステナイト粒界強度を高める元素であり、本発明者らの検討の結果、粒界での脆性破壊を回避することで伸びフランジ性を向上させることができることが明らかとなった。さらに、同様の効果により、遅れ破壊特性向上にも有効である。
【0028】
また、Bはフェライト変態を遅延させる元素であり、Bを適量添加することで、連続焼鈍後の冷却時のフェライト生成を抑制し、安定して焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることができる。以上のような効果を得るためにはB量は0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.005%を越えると上記した効果が飽和するだけでなく、熱間圧延の変形抵抗が大きくなり、製造が困難となる。以上より、B量は0.0005%以上0.005%以下の範囲とする。
【0029】
Ti:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%のうちから選ばれる1種または2種を合計で0.005〜0.1%
TiまたはNbは、本発明において最も重要な元素である。本発明者らの検討の結果、TiまたはNbを微量添加することで、引張強さ1760MPa以上の超高強度で優れた伸びフランジ性が得られることが明らかとなった。このような効果が得られる理由については必ずしも明らかではないが、TiまたはNbの微細炭化物が析出することとでマルテンサイト中の固溶C量が低下し、マルテンサイト母地自体の加工性が向上したものと、本発明者らは考えている。
【0030】
一方、マルテンサイト中の固溶C量が低下すると強度が低下すると推定されるが、TiまたはNbの微細炭化物による析出強化により、強度が低下することなく、優れた伸びフランジ性が得られたものと考えられる。以上のような効果を得るためには、TiまたはNbの1種または2種を合計で0.005%以上添加することが必要である。一方、0.1%を越える添加は、過剰な強度上昇をもたらし、伸びフランジ性が劣化する。以上より、Ti及びNb量は合計で0.005%以上0.1%以下の範囲とする。より、好ましくは0.01%以上0.08%以下の範囲である。
【0031】
本発明の鋼板は、上記の必須添加元素で目的とする特性が得られるが、所望の特性に応じて以下の元素を含有することができる。
【0032】
Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上
Cr、Mo、Vは、フェライト変態を遅延させる元素であり、それぞれ適量添加することで、連続焼鈍後の冷却時のフェライト生成を抑制し、安定して焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることができる。このような効果を得るためには、それぞれ0.01%以上の添加が必要である。一方、それぞれ0.5%を越える添加は上記した効果が飽和するだけでなく、コストアップにつながる。以上より、Cr、Mo、Vを添加する場合は、それぞれ0.01%以上0.5%以下の範囲とする。より好ましい上限は0.2%以下である。
【0033】
Cu:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種
Cu、Niは、フェライト変態を遅延させる元素であり、それぞれ適量添加することで、連続焼鈍後の冷却時のフェライト生成を抑制し、安定して焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることができるうえ、耐遅れ破壊特性向上にも有効である。このような効果を得るためには、それぞれ0.05%以上の添加が必要である。一方、それぞれ0.5%を越える添加は上記した効果が飽和するだけでなく、コストアップにつながる。以上より、Cu、Niを添加する場合はそれぞれ0.05%以上0.5%以下の範囲とする。より好ましい上限は、0.2%以下である。
【0034】
上記以外の残部はFe及び不可避不純物とする。不可避的不純物としては、例えば、Sb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。また、本発明では、Mg、Ca、Zr、REMを通常の鋼組成の範囲内で含有しても、その効果は失われない。
【0035】
[金属組織]
次に、本発明の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板の金属組織について説明する。本発明の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板のミクロ組織は、焼戻しマルテンサイト単相組織(表層20μmを除く)とする。フェライト等の軟質相が含まれない焼戻しマルテンサイト単相組織とすることで、フェライト等を含む場合に比べて伸びフランジ性に優れる。また、引張強さ1760MPaを確保する上で高強度な焼戻しマルテンサイト単相とすることが、合金元素削減の観点からも好ましい。
【0036】
ここで、焼戻しマルテンサイトとは、マルテンサイトを250℃以下の低温で焼戻した組織であり、ラス状フェライトとラス内およびラス境界に析出した微細鉄炭化物、およびTi、Nb等の微細炭化物からなる。同じくラス状フェライトと微細板状鉄炭化物からなる組織として下部ベイナイトが知られるが、下部ベイナイトに生成する鉄炭化物は同一ラス内において、長手が一方向に揃っているという特徴があり、ランダムである焼戻しマルテンサイトとは、透過電子顕微鏡で観察することで区別できる。
【0037】
さらに、焼戻しマルテンサイト単相とは、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、X線回折法で組織を定量測定し、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトが合わせて1体積%以上含まれないことを意味する。
【0038】
また、脱炭等により鋼板表面から深さ20μm以内の最表層にフェライトが生成することがあるが、これは伸びフランジ性に影響を及ぼさず、むしろ曲げ性を向上させることから、鋼板表層20μm以内にはフェライトが含まれていてもよい。このため、鋼板表面より深さ20μm以内の部分については組織を限定しないこととした。
【0039】
[製造条件]
次に、本発明の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0040】
前述の化学成分範囲に調整された溶鋼から、連続鋳造または造塊でスラブを溶製する。そのスラブに、熱間圧延工程、冷間圧延工程、連続焼鈍工程を順次施す。
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法によっても可能である。
【0041】
1.加熱
熱間圧延工程の好ましい条件は、まず、スラブ鋳造後、再加熱することなく若しくは1000℃以上に再加熱するのが好ましい。本発明では、スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、あるいは保熱をおこなった後に直ちに圧延する、あるいは鋳造後そのまま圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0042】
いったん室温まで冷却し再加熱する場合、スラブ加熱温度は1000℃以上とするのが好ましい。上限は特に限定されないが、1300℃を超えると酸化重量の増加にともなうスケールロスが増大することなどから、1300℃以下とすることが好ましい。また、冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入し再加熱する場合も、スラブ加熱温度は1000℃以上とするのが好ましい。
【0043】
2.熱間圧延
次いで、必要に応じて粗圧延を行った後、好ましくは仕上げ圧延温度800℃以上で仕上げ圧延を行う。仕上げ圧延温度が800℃を下回ると、鋼板の組織が不均一になり、加工性を劣化させる。よって、仕上げ圧延温度は800℃以上とするのが好ましい。上限は特に限定されないが、過度に高い温度で圧延するとスケール疵などの原因となるので、1000℃以下とすることが好ましい。
【0044】
その後、平均冷却速度30℃/s以上で700℃以下まで冷却し、700℃以下で巻き取ることが好ましい。平均冷却速度30℃/s未満ではフェライト粒径が粗大となるため、冷間圧延後の焼鈍時にオーステナイト粒径が粗大となり、加工性や靱性に悪影響を及ぼすことから、平均冷却速度30℃/s以上で700℃以下まで冷却することが好ましい。また、巻取り温度が700℃を越えると、巻取り後のスケールロスが増大することから、700℃以下で巻き取ることが好ましい。
【0045】
なお、本発明の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造における熱間圧延では、熱間圧延時に圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩耗係数は0.10〜0.25の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとしてもよい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0046】
3.冷間圧延
次いで、上記により得られた熱延板に冷間圧延工程を施す。冷間圧延工程では、熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、特に限定されないが、表面の平坦度や組織の均一性の観点から、圧下率20%以上とすることが好ましい。なお、冷間圧延前には、通常法に準じた酸洗を施せばよいが、熱延板表面のスケールが極めて薄い場合には直接冷間圧延を施してもよい。
【0047】
4.焼鈍
次いで、得られた冷延板に連続焼鈍工程を施す。連続焼鈍工程では、冷延板に焼鈍を施し冷延焼鈍板とする。焼鈍は、連続焼鈍ラインで行うことが好ましい。
【0048】
連続焼鈍工程では、Ae点以上900℃以下の温度域に加熱保持する。加熱保持温度がAe点未満では、オーステナイト単相組織とならず、冷却-焼戻し後に焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることができない。一方、900℃を超えるとオーステナイト粒が粗大化するため、鋼板の曲げ性、靱性が劣化してしまう。このため、加熱保持温度はAe点以上900℃以下とする。なお、保持時間は、鋼板の均一性の観点からAe点以上となる時間が60sec以上であることが好ましい。さらに好ましくは120sec以上である。
【0049】
5.冷却
次いで、平均冷却速度300℃/s以上で200℃以下まで急冷する。200℃までの平均冷却速度が300℃/s未満では、冷却中にフェライトが生成する場合があり、所望する焼戻しマルテンサイト単層組織が得られない場合があるため、200℃までの平均冷却速度を300℃/s以上とする。平均冷却速度は好ましくは400℃/s以上である。
【0050】
この冷却は、噴流水中で行うことが好ましく、噴流水中で急冷することにより、より低合金で超高強度が得られ、経済性に優れる。なお、加熱保持後直ちに急速冷却しても、製造プロセス上一定温度まで徐冷後、急速冷却しても構わないが、徐冷する際は,急冷開始温度はAr点以上からとする必要がある。
【0051】
6.焼戻し
次いで、靱性を向上させるため、250℃以下で焼戻しを行うことが好ましい。焼戻し温度が250℃を超えると、粗大な炭化物が析出し強度低下が著しくなるため、添加元素に見合う強度が得られず非経済的である。よって、焼戻し温度は250℃以下に規定する。より好ましくは230℃以下である。焼戻し温度の下限は特に規定しないが、特性バラツキ低減の観点から100℃以上であることが好ましい。より好ましくは150℃以上である。また、焼戻しの保持時間は3〜30minであることが好ましい。
【0052】
なお、焼鈍後、形状矯正、表面粗度等の調整のために、伸び率5%以下の調質圧延を施してもよい。
なお、本発明の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板には、焼鈍後、酸洗処理やNi等を5〜500mg/m程度付着する処理等を施して、化成処理性、溶接性、耐食性、耐かじり性等の改善を行ってもよい。
【実施例】
【0053】
表1に示す化学組成の鋼スラブを連続鋳造により製造し、1250℃に再加熱後、仕上げ圧延温度約850℃、巻取り温度約600℃で、板厚3.0mmまで熱間圧延を行った。酸洗後、冷間圧延を施して、板厚1.2mmの冷延板とし、次いで、表2に示す条件で焼鈍した後、噴流水中で室温まで急冷し、続いて焼戻しを施した。焼鈍温度から200℃までの平均冷却速度は約1000℃/sであった。
【0054】
得られた冷延板に、伸び率0.5%の調質圧延を施した後に試験片を採取し、組織観察、引張試験および穴広げ試験を実施した。各試験方法の詳細は以下の通りである。
【0055】
[組織観察]
得られた冷延鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な断面について、走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を観察し、組織の種類の同定を行い、観察され撮影された金属組織写真を画像解析して焼戻しマルテンサイト相の体積率を求めた。構成相の種類、焼戻しマルテンサイト体積率を表2に示す。
【0056】
[引張試験]
得られた冷延鋼板から長軸を圧延方向に直交する方向としたJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行った。引張試験により得られた、引張強さ(TS/MPa)、伸び(El/%)を表2に示す。
【0057】
[穴広げ試験]
伸びフランジ性の指標として、日本鉄鋼連盟規格JFST1001−1996に準拠して、穴広げ試験を実施した。穴拡げ率(λ/%)を表2に示す。なお、本発明では、λ≧25%の場合に伸びフランジ性が良好であるとする。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表2より、本発明例は、いずれも焼戻しマルテンサイト単相組織、引張強さが1760MPa以上で、さらに穴拡げ率(λ)が25%以上であり、伸びフランジ性に優れていることが分かる。一方、C添加量が下限未満となっている比較例No.1は、引張強さが1760MPaに達していない。また、B無添加およびTi、Nb無添加の比較例No.6、7は穴拡げ率(λ)が25%未満であり、伸びフランジ性に劣る。焼戻し温度が上限を超える比較例No.5は添加合金元素に見合った強度が得られず、引張強さが1760MPa未満となっている。さらに、加熱保持温度がAe点未満の比較例No.11はフェライト相が含まれており、強度が1760MPaに達していないほか、焼戻しマルテンサイト単相組織となっていないため穴拡げ率(λ)が25%未満と、伸びフランジ性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
自動車用超高強度部材以外の家電および建築など、高強度および高伸びフランジ性が必要とされる分野においても好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.25〜0.4%、Si:1.0%以下、Mn:1.5〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下、B:0.0005〜0.005%を含み、さらにTi:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%のうちから選ばれる1種または2種を合計で0.005〜0.1%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織がマルテンサイト単相組織(表層20μmを除く)で、さらに引張強さが1760MPa以上であることを特徴とする伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項3】
さらに、質量%で、Cu:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜0.5%のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の組成を有するスラブに、熱間圧延工程、冷間圧延工程、連続焼鈍工程を順次施す冷延鋼板の製造方法であって、前記連続焼鈍工程では、Ae変態点以上900℃以下の温度域に加熱保持後、平均冷却速度300℃/s以上で200℃以下まで急冷し、次いで250℃以下で焼戻すことを特徴とする伸びフランジ性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2010−248565(P2010−248565A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98534(P2009−98534)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】