説明

位相差フィルムおよびその製造方法、光学素子、並びに画像表示装置

【課題】 液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示ムラや湿度による視認性の変化を改善することができる位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】 下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロース混合エステルを含むセルロース混合エステルフィルム上に、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される少なくとも一種の位相差ポリマーを含む位相差ポリマー層を有しており、正面レターデーション(Re)ムラが5nm以下であることを特徴とする位相差フィルム。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース混合エステルフィルム上に位相差ポリマー層を設けた位相差フィルムに関する。より具体的には、環境に優しくて、光学特性の面内ムラや湿度依存性が小さいセルロース混合エステルフィルムを支持体とした位相差フィルムに関する。また、本発明は、当該位相差フィルムの製造方法、当該位相差フィルムを用いた光学素子や画像表示装置(特に液晶表示装置)にも関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、光学補償フィルム、補償シート等とも呼ばれ、様々な用途がある。例えば、導波型光デバイス、偏波ビームスプリッター、サーキュレーター、液晶表示装置、有機EL表示装置等に用いられる。特に画像表示装置全般に重要な部材として使用され、例えば、光学補償により液晶表示装置のコントラスト向上や視野角範囲の拡大を実現するために使用されている。このような位相差フィルムの材料としては、光透過性に優れたポリマーが適しており、よく用いられている。その代表的なポリマー種類として、特許文献1には、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群から選択される少なくとも一種の位相差ポリマー層を塗設したことを特徴とする位相差ポリマー層が開示されている。また、位相差ポリマー層に紫外線吸収剤を含有させることによって、位相差フィルムの紫外線に対する耐性を改善することも記載されている。
【0003】
特許文献1には、位相差ポリマー層の支持体として、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロースエステルを使用することが記載されており、実施例では厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムが使用されている。従来から、画像表示装置に使用されるセルロースエステルフィルムを製造する際には、ジクロロメタンのような塩素系有機溶剤にセルロースエステルを溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶剤の中でもジクロロメタンは、セルロースアシレートの良溶媒であるとともに、沸点が低くて(約40℃)製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから好ましく使用されている。
【0004】
一方、近年では環境保全の観点から、塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが強く求められるようになっている。このため、より厳密な密閉系を採用して系から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、系から万が一漏れても外気に出す前にガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を排出することがないように対策が講じられた。しかしながら、これらの対策を行っても完全な非排出には至っていないため、さらなる改良が必要とされていた。
【0005】
そこで、有機溶剤を用いない製膜法として、セルロースエステルを溶融製膜する方法が開発されている(特許文献2および特許文献3)。これは、セルロースエステルのエステル基の炭素鎖を長くすることで融点を下げ溶融製膜しやすくしたものである。具体的には、従来から用いられていたセルロースアセテートを、セルロースプロピオネートやセルロースプロピオネート等に変えることで溶融製膜を可能にしている。また、従来のセルロースエステルフィルムを基板として位相差フィルムを作製すると、湿度変化に伴い視野特性が変動しにくくなるという利点も得られるものであった。
【特許文献1】特開2004−258544号公報
【特許文献2】特表平6−501040号公報
【特許文献3】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの方法で溶融製膜したものを、特許文献2および特許文献3の実施例などにしたがって実施しようとすると、セルロースエステルフィルムの着色、フィルムの搬送性、あるいは傷付きのいずれかで問題を生じてしまい、これらの全てを満足させることは困難であった。これらの特許文献には、微粒子を添加して滑り性などをコントロールすることが記載されているが、微粒子を添加しても他の性能との両立が困難であることが、本発明者により明らかとなった。
【0007】
すなわち、これらの特許文献によるセルロースエステルを用いて偏光板を作成し液晶表示装置に組み込むと、著しいキズによる異物ムラが発生してしまうという問題、あるいは着色やヘイズによる輝度低下の問題などがあり、その改良が必要なレベルであった。このような故障は、15インチ以上の大型液晶表示板に組み込んだ際に特に顕著であり、大きな課題であった。これは、溶融混練機から溶融物をT−ダイ(スリット)を通してキャスティングドラム上に押出し冷却固化して製膜して巻き取り、さらに加工する過程において、セルロースエステルフィルムの搬送性が悪く、セルロースエステルフィルム面同士で傷付けあうことが要因である。
【0008】
このように、位相差フィルムにおける位相差ポリマー層の支持体として用いるセルロースエステルフィルムについては、いまだ改良の余地が多分にある。セルロースエステルフィルムを支持体として用いた従来の位相差フィルムには、画像表示装置に組み込んだときの光学性能が十分とは言えない。例えば、上記の特許文献1に記載される位相差フィルムは、画像表示装置に組み込んだ後に高温高湿/低温低湿の環境下で長時間使用すると、画像表示装置に画像変化やムラが発生するという問題がある。これは、トリアセチルセルロースフィルムの光学特性等に起因する問題であり、その改良は重要である。
【0009】
これらの従来技術の課題に鑑みて、本発明は環境に優しい支持体を用い、液晶表示装置に組み込んだときの表示性能を改善することができる位相差フィルムを提供することを目的とする。特に、取り扱い時の耐候性(例えば紫外線耐性、熱耐性など)に優れていて、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での異物故障や湿度による視認性の変化を改善することができる位相差フィルムを提供することを目的とする。また、面状に優れ傷付きのないセルロース混合エステルフィルムを作製し、さらにその上に位相差ポリマー層を形成して、上記特性を有する位相差フィルムを効率よく製造する方法を提供することも目的とする。さらに、光学特性に優れた光学素子や画像表示装置(特に液晶表示装置)を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は以下の構成により達成された。
(態様1)
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロース混合エステルを含むセルロース混合エステルフィルム上に、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される少なくとも一種の位相差ポリマーを含む位相差ポリマー層を有しており、正面レターデーション(Re)ムラが5nm以下であることを特徴とする位相差フィルム。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【0011】
(態様2)
前記セルロース混合エステルが、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子を前記セルロース混合エステルに対して0.005〜1.0質量%含有することを特徴とする態様1に記載の位相差フィルム。
(態様3)
前記微粒子が、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2およびV25からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする態様2に記載の位相差フィルム。
【0012】
(態様4)
前記微粒子の平均二次粒子サイズが0.01〜5μmであり、前記セルロース混合エステルフィルムの動的および静的キシミ値が共に0.2〜1.5であり、且つ、前記セルロース混合エステルフィルム表面の算術平均粗さ(Ra)が3〜200nmであることを特徴とする態様2または3に記載の位相差フィルム。
(態様5)
前記セルロース混合エステルフィルムが、可塑剤、紫外線吸収剤または安定剤を含むことを特徴とする態様1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0013】
(態様6)
前記セルロース混合エステル中のセルロースの水酸基に対して置換している炭素数3〜22のアシル基が、プロピオニル基およびブチリル基からなる群より選択されるアシル基であることを特徴とする態様1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
(態様7)
前記位相差ポリマー層が、可塑剤、紫外線吸収剤または安定剤を含むことを特徴とする態様1〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
(態様8)
前記位相差ポリマー層が下記式(I)の光学特性条件を満たすことを特徴とする態様1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
nx>ny>nz (I)
(式中、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記位相差フィルムにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸は、前記位相差フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向である。)
【0014】
(態様9)
前記位相差ポリマー層が、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン二無水物と2,2 −ビス(トリフルオロメチル)−4 ,4 ’−ジアミノビフェニルとを反応させて得られるポリアミック酸をさらにイミド化して得られるポリイミドを含むことを特徴とする態様1〜8のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
(態様10)
セルロース混合エステルフィルムのヘイズが0.1〜1.2%であり、全光線透過率が91%以上であり、25℃,相対湿度60%環境下での波長590nmにおける面内方向の複屈折が0〜0.001、および厚さ方向の複屈折の絶対値が0〜0.003であることを特徴とする態様1〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
(態様11)
前記セルロース混合エステルフィルムが、以下の式を満たすことを特徴とする態様1〜10のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
|Re(700)−Re(400)| = 0〜15nm
|Rth(700)−Rth(400)| = 0〜35nm
(上式において、Re(400)は波長400nmにおける正面レターデーション、Re(700)は波長700nmにおける正面レターデーション、Rth(400)は波長400nmにおける厚さ方向のレターデーション、Rth(700)は波長700nmにおける厚さ方向のレターデーションである)
【0015】
(態様12)
前記セルロース混合エステルフィルムの厚みムラが0〜5μmであることを特徴とする態様1〜11のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
(態様13)
前記セルロース混合エステルが下記式(S−4)〜(S−6)を満たすことを特徴とする態様1〜12のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
式(S−4) 2.6≦A+B’≦3.0
式(S−5) 0≦A≦1.8
式(S−6) 1.0≦B’≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、B’はセルロースの水酸基に対するプロピオニル基およびブチリル基の置換度の総和を表す。)
【0016】
(態様14)
セルロース混合エステルフィルム上に位相差ポリマー層を有し、正面レターデーション(Re)ムラが5nm以下である位相差フィルムの製造方法であって、
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロース混合エステルを180〜230℃で溶融してダイから押し出し、溶融製膜して膜厚20μm〜200μmのセルロース混合エステルフィルムを得る溶融製膜工程と、
前記セルロース混合エステルフィルム上に、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される少なくとも一種の位相差ポリマーを含む位相差ポリマー層を塗設する位相差ポリマー層塗設工程を有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【0017】
(態様15)
前記セルロース混合エステルが、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子を前記セルロース混合エステルに対して0.005〜1.0質量%含有することを特徴とする態様14に記載の位相差フィルムの製造方法。
(態様16)
溶融製膜した前記セルロース混合エステルフィルムを少なくとも1方向に−10%〜50%延伸する工程を有することを特徴とする態様14または15に記載の位相差フィルムの製造方法。
(態様17)
前記位相差ポリマー層を延伸する工程を有することを特徴とする態様14〜16のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0018】
(態様18)
前記セルロース混合エステルフィルムを、セルロース混合エステルと微粒子との溶融混合物(メルト)をキャスティングドラム上で固化させ、キャスティングドラム上に形成されたセルロース混合エステルフィルムを剥離し、ニップロールで張力カットし、さらに巻き取り時の張力が0.01kg/cm2〜10kg/cm2で巻き取る工程を経て製造することを特徴とする態様14〜17のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0019】
(態様19)
前記溶融混合物をキャスティングドラム上で固化する際、(Tg+30℃)からTgの間(ここでTgはセルロース混合エステルフィルムのガラス転移温度)の冷却を10℃/秒〜100℃/秒の速度(固化速度)で行なうことを特徴とする態様18に記載の位相差フィルムの製造方法。
(態様20)
セルロース混合エステルと微粒子との混合物を、圧縮比2〜15のスクリューを用いて180℃〜230℃で溶融した後、ダイからキャスティングドラム上に押し出す工程を有することを特徴とする態様14〜19のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0020】
(態様21)
ダイから押し出した後、Tgから(Tg−20℃)の間(ここでTgはセルロース混合エステルフィルムのガラス転移温度)の冷却を0.1℃/秒〜20℃/秒の速度で行うことを特徴とする態様20に記載の位相差フィルムの製造方法。
(態様22)
態様14〜21のいずれか1項に記載の製造方法により製造された位相差フィルム。
【0021】
(態様23)
態様1〜13または22のいずれか1項に記載の位相差フィルムと偏光子との積層体を含む光学素子。
(態様24)
透明保護フィルムをさらに含み、前記透明保護フィルムを介して前記位相差フィルムと前記偏光子とが積層されている態様23に記載の光学素子。
【0022】
(態様25)
態様1〜13または22のいずれか1項に記載の位相差フィルム、または態様23または24に記載の光学素子を含む画像表示装置。
(態様26)
液晶セルを含み、前記液晶セルの少なくとも片側に、態様1〜13もしくは22のいずれか1項に記載の位相差フィルム、または、態様23もしくは24に記載の光学素子が積層されている液晶表示装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の位相差フィルムを組み込んで液晶表示装置を製造すれば、表示ムラや、湿度や温度、あるいは画像の色による光学特性の変化を抑制することができる。また、本発明の製造方法によれば、位相差フィルムの支持体であるセルロース混合エステルを表面欠陥(傷付き)を大幅に軽減した状態でハンドリング性よく製造することができる。さらに、本発明の光学素子、画像表示装置および液晶表示装置は、光学特性が良好である。
【発明の実施の形態】
【0024】
以下に本発明の位相差フィルム等について記述する。なお、記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0025】
《セルロース混合エステルフィルム》
本発明の位相差フィルムは、位相差ポリマー層の支持体としてセルロース混合エステルフィルムを有する。そこで、まずセルロース混合エステルフィルムとその製法について以下に説明する。
(セルロース混合エステル)
まず、本発明の位相差フィルムの支持体であるセルロース混合エステルフィルム、およびその製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いられるセルロース混合エステルは下記式(S−1)〜(S−3)を満足する。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【0026】
セルロースを構成する、ベータ(β)−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロース混合エステルは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合の合計を意味する。2位、3位および6位の水酸基がすべてエステル化しているときは、アシル置換度は3となる。本発明では、より好ましくは2.6≦A+B≦3.0であり、さらに好ましくは2.67≦A+B≦2.97である。またAは、好ましくは0≦A≦1.8であり、Bは1.0≦B≦2.97が好ましく、さらには1.2≦B≦2.97が好ましい。本発明においては、セルロースの2位、3位および6位の水酸基の置換度は特に限定されないが、セルロース混合エステルの6位の置換度が好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは0.85以上であり、特に0.90以上が好ましい。これによりセルロース混合エステルの溶解性、耐熱性を向上させることができる。
【0027】
次にセルロース混合エステルの置換基Bで表される炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。セルロース混合エステルのアシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数は3〜18であることが好ましく、炭素数は3〜12であることがさらに好ましく、炭素数は3〜8であることが特に好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、あるいはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数は6〜22であることが好ましく、炭素数は6〜18であることがさらに好ましく、炭素数は6〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
【0028】
好ましいアシル基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、さらに好ましいものは、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などである。
【0029】
本発明で用いるセルロース混合エステルのエステルを構成するアシル基は、好ましくは炭素原子数が6以下の脂肪族アシル基であり、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基からなる群より選択されるアシル基が好ましい。より好ましいのは、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基およびペンタノイル基からなる群より選択されるアシル基であり、さらに好ましいのはアセチル基、プロピオニル基およびブチリル基からなる群より選択されるアシル基である。本発明で用いるセルロース混合エステルのエステルを構成するアシル基は、単一種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0030】
さらに、本発明で用いるセルロース混合エステルは、下記式(S−4)〜(S−6)を満足することが好ましい。
式(S−4) 2.6≦A+B’≦3.0
式(S−5) 0≦A≦1.8
式(S−6) 1.0≦B’≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、B’はセルロースの水酸基に対するプロピオニル基およびブチリル基の置換度の総和を表す。)
またより好ましくは、本発明で使用するセルロース混合エステルが、2.6≦A+B’≦3.0、0≦A≦1.4、および1.0≦B’≦3を満足することが好ましい。特に、本発明で使用するセルロース混合エステルが、2.7≦A+B’≦3.0、0≦A≦1.0および1.3≦B’≦3を満足することが好ましい。このようにアセチル基の含有率を低くし、プロピオニル基、ブチリル基の含有率を多くすることによって、フィルム化したときの温度、湿度に対する光学特性変化を抑制することができる。
【0031】
(セルロース混合エステルの製造方法)
次に、本発明で用いるセルロース混合エステルの製造方法について説明する。本発明で用いるセルロース混合エステルのさらに詳細な原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁に記載されている。セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。セルロース原料がシート状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態は微細粉末から羽毛状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0032】
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行なっておくことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。
【0033】
本発明におけるセルロース混合エステルを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
【0034】
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2〜7であり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。
【0035】
アシル化の停止後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0036】
このようにして得られるセルロース混合エステルは、セルロース水酸基の全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、所望のアシル置換度を有するセルロース混合エステルまで変化させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0037】
セルロース混合エステル中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、アシル化後の反応混合物のろ過を行なうことが好ましい。ろ過は、エステル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。ろ過の際には、そのろ材は特に限定されず、布、ガラスフィルター、セルロース系ろ紙、セルロース系布フィルター、金属フィルター、ポリマー系フィルター(例えば、ポリプロピレン製フィルター、ポリエチレンフィルター、ポリアミド系フィルター、フッ素系フィルターなど)を挙げることができる。そのフィルター口径サイズは、0.1〜500μmが好ましく、より好ましくは2〜200μmであり、さらに好ましくは3〜60μmである。
【0038】
生成したセルロース混合エステルは洗浄処理することが好ましい。洗浄には、不純物を除去することができるものであればいかなるものでも良いが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは5℃〜100℃であり、さらに好ましくは15℃〜90℃であり、特に好ましくは30℃〜80℃である。
【0039】
本発明においてセルロース混合エステルの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロース混合エステルを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行なうことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。この時、セルロース混合エステルのガラス転移点(Tg)よりも低い温度で乾燥することが好ましく、Tgより10℃以上低い温度で乾燥することがさらに好ましい。乾燥によって得られるセルロース混合エステルは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
本発明で好ましく用いられるセルロース混合エステルの重合度は、平均重合度100〜700、好ましくは120〜550、さらに好ましくは130〜350であり、特に好ましくは平均重合度130〜300である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。さらに特開平9−95538に詳細に記載されている。これらのセルロース混合エステルは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。
【0041】
本発明で用いられるセルロース混合エステルは、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.5〜5.0であり、さらに好ましくは2.0〜4.5であり、特に好ましくは2.0〜4.0である。これらのセルロース混合エステルは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロース混合エステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロース混合エステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。セルロース混合エステルはペレット化することが好ましく、好ましいペレットの大きさは1mm3〜10cm3であり、より好ましくは5mm3〜5cm3、さらに好ましくは10mm3〜3cm3である。この後、上述の条件で乾燥する。得られたセルロース混合エステルは、その保存は環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存することが望ましい。さらに、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムあるいはコンテナに保存することがさらに好ましい。
【0042】
その他、6位置換度の大きいセルロース混合エステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や、特開2002−338601号各公報などに記載がある。セルロース混合エステルの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相アシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0043】
(添加剤)
本発明の位相差フィルムの支持体であるセルロース混合エステルフィルムには、添加剤を添加することができる。中でも、本発明では微粒子を添加することが特に好ましい。その他、必要に応じてさらに種々の添加剤を溶融液の調製前から調製後のいずれの段階で添加してもよい。微粒子以外の添加剤としては、紫外線吸収剤、シリカ、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナなどの無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなど2族金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などが挙げられる。
【0044】
(微粒子)
本発明における位相差フィルムの支持体であるセルロース混合エステルフィルムは、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子をセルロース混合エステルに対して、0.005〜1.0質量%を含有することを特徴とするものである。該微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。
【0045】
無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましくは、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25であり、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2である。
【0046】
SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。
【0047】
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂も好ましく用いられる。シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
【0048】
本発明に係る微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から0.005〜2μmであることが好ましく、さらに好ましくは平均一次粒子サイズが0.005〜0.5μmであり、特に好ましくは平均一次粒子サイズが0.005〜0.1μmである。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズの測定は、セルロース混合エステルフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察し、その平均値をもって平均一次粒子サイズとした。
【0049】
これら微粒子の添加方法は、常法によって混練するなどにより行なうことができるが、特に好ましくは予め溶媒に分散した微粒子とセルロース混合エステル混合分散させた後、溶媒を揮発させた固形物とし、これをセルロース混合エステル溶融物の製造過程で用いることが均一な溶融物が得られる点で好ましい。なお、フィルム中に均一に分散する微粒子とするためには、混練機中やあるいは製膜時のダイ(好ましくはT−ダイ)中でのシェアーにより、粉体から微粒子化され微細分散化される工程を含むことが好ましい。なお、微粒子と共に場合によりその他の機能性素材(例えば可塑剤および/または紫外線吸収剤)を同時に溶媒に溶解して分散し、混合して使用してもよい。
【0050】
この時、最終的にセルロース混合エステルフィルム中での微粒子の平均二次粒子サイズは0.01〜5μmが好ましく、さらに好ましくは平均二次粒子サイズが0.02〜3μmであり、特には平均二次粒子サイズが0.02〜1μmが好ましい。ここで、微粒子の平均二次粒子サイズの測定は、セルロース混合エステルフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率10万〜100万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察しその平均値をもって平均二次粒子サイズとした。
【0051】
さらに、本発明に無機化合物からなる微粒子は、セルロース混合エステルフィルム中で安定に存在させるために表面処理をすることが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施して用いることが好ましい。表面処理法として、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、カップリング剤の使用が好ましい。カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。無機微粒子(特にSiO2)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。シランカップリング剤としては一般式(31)で表されるオルガノシラン化合物が使用可能である。カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して、0.005〜5質量%使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%が好ましい。
【0052】
xSi(OR')(4-x) (31)
(式中、R、R'は、同一または異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アリル基、フルオロアルキル基を表す。なお、アルキル基は、官能基として、エポキシ基、アミノ基、アクリル基、イソシアネート基、および/またはメルカプト基を有していてもよい。xは0〜3の整数、好ましくは0〜2の整数である。)
【0053】
一般式(31)で表されるオルガノシランの具体例として下記のものを挙げることができるが、本発明で用いることができるオルガノシランはこれらの例示化合物に限定されるものではない。
x=0の場合:テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等
x=1の場合:メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、CF3CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等
x=2の場合:ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等
また硬化膜の硬さおよび脆性の調節や官能基導入の目的で、異なる2種以上のオルガノシランを組み合わせて用いることができる。
【0054】
カップリング剤は、微粒子への直接処理方法とインテグラルブレンド法によって処理される。直接法では乾式法とスラリー法スプレー法に大きく分類される。直接処理方法で得られた微粒子はバインダー中に添加され微粒子の表面に確実にカップリング剤が修飾できる点で優れている。その中で乾式法は微粒子にシランカップリング剤のアルコール水溶液、有機溶剤または水溶液中で均一に分散させた後乾燥して実施するものであり一般的である。ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レデイミキサー、V型ブレンダー、オープンニーダー等の攪拌機を使用するのが好ましい。これらの攪拌機の中でも特にオープンニーダーが好ましい。微粒子と少量の水、または水を含有する有機溶剤そしてカップリング剤を混合しオープンニーダーで攪拌して水を除去したさらに微細分散するのが好ましい。
【0055】
また、スラリー法は微粒子の製造において微粒子をスラリー化する工程がある場合にそのスラリー中にカップリング剤を添加するもので、製造工程で処理できる利点を有する。スプレー法は微粒子の乾燥工程において微粒子にカップリング剤を添加するもので、製造工程で処理できる利点を有するが処理の均一性に難点がある。インテグラルブレンド法について述べると、カップリング剤を微粒子とバインダー中に添加する方法であり、良く混練する必要があり簡便である。本発明では、微粒子をセルロース混合エステルに対して0.005〜1.0質量%を含有することが好ましい。より好ましくは0.01〜0.8質量%含有することであり、さらには0.02〜1.0質量%含有することが特に好ましい。
【0056】
(その他のセルロース混合エステルフィルム中への添加剤)
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムには、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、上記および上記以外の微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期は溶融物(ドープ)作製工程において何れの段階で添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製してもよい。
【0057】
(可塑剤)
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムに好ましく添加される可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが挙げられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートが含まれる。
【0058】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチルが含まれる。
【0059】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどがある。さらにトリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ジトリメチロールプロパンテトラプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート、イノシトールペンタアセテート、ソルビタンテトラブチレート等も好ましく利用される。
【0060】
中でもトリフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート等が好ましい。
【0061】
特にトリフェニルフォスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネートが好ましい。これらの可塑剤は1種で用いてもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロース混合エステルに対して5〜30質量%が好ましく、特に5〜16質量%が好ましい。これらの可塑剤として、特開平11−124445号公報記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号公報記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号公報記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号公報記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号公報記載の置換フェニルリン酸エステル類などを挙げらることができる。
【0062】
(紫外線吸収剤)
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムには、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロース混合エステルに対する不要な着色が少ないことから、好ましい。
【0063】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
【0064】
特に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。また例えば、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロース混合エステルに対して質量割合で1ppm〜3.0%が好ましく、10ppm〜2%がさらに好ましい。
【0065】
これらの紫外線吸収剤の市販品として下記のものがあり、本発明で利用することができる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、スミソーブ340(住友化学)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成)、シーソーブ101(シプロ化成)、シーソーブ101S(シプロ化成)、シーソーブ102(シプロ化成)、シーソーブ103(シプロ化成)、アデカスタイプLA−51(旭電化)、ケミソープ111(ケミプロ化成)、UVINUL D−49(BASF)などを挙げられる。
オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)がある。またサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成)やシーソーブ202(シプロ化成)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成)、UVINUL N−539(BASF)がある。
【0066】
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムには、また光学異方性をコントロールするためのレターデーション調整剤が、場合により添加される。これらは、セルロース混合エステルフィルムのレターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロース混合エステル100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセレート100質量部に対して、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
【0067】
(安定剤)
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムには、安定剤を含有させることも好ましく、フェノール系安定剤、リン系(フォスファイト系)安定剤、チオエーテル系安定剤、スズ系安定剤およびアミン系安定剤よりなる群から選択される1種類以上の安定剤を挙げることができる。本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、リン系安定剤の具体例としては、特開2004−182979の段落[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることができる。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を用いることができる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0068】
上記フェノール系安定剤としては、公知の任意のフェノール系安定剤が使用され得る。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系安定剤の例としては、例えば、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert-ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリジアン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)〕メタン、および3,9−ビス{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニール)プロピオネート]メタン、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロオキシ−3’,5’−ジーtert−ブチル−フェニール)プロピオネート、トリス−3,5−ジーtert−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニール)プロピオニルオキシメチル]メタン、トリス[N−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ブチリデン−1,1−ビス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]が挙げられる。高分子量多環ヒンダードフェノール系酸化防止剤がより好ましい。さらに好ましくは、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタンである。
これらは、住友化学からスミライザーBHT、スミライザーBP−76、スミライザーBBM−S、スミライザーGA−80として、またチバ・スペシャルティ・ケミカルズからIrganox1076、Irganox1000、Irganox3114、Irganox245として市販されている。
【0069】
上記リン系安定剤としては、従来公知の任意のリン系安定剤が本発明に用いられ得る。好ましいリン系安定剤の例としては、例えば、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、およびトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、ジステアリル・ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ・10−フォスファ・フェナンスレン−10−オキサイド、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4‘ビフェニレンジフォスファイト、が挙げられる。亜リン酸エステル系酸化防止剤がより好ましい。さらに好ましくは、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトである。これらは、旭電化からアデカタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており入手可能である。
【0070】
チオエーテル系安定剤としては、公知の任意のチオエーテル系安定剤が本発明に用いられ得る。好ましいチオエーテル系安定剤の例としては、例えば、テトラキス〔メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート〕メタン、3,3‘−チオジプロピオン酸、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネートが挙げられる。これらは、住友化学からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。スズ系安定剤としては、公知の任意のスズ系安定剤が本発明に用いられ得る。好ましいスズ系安定剤の例としては、例えば、オクチル錫マレエートポリマー、モノステアリル錫トリス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0071】
また、アミン系安定剤としては、公知の任意のアミン系安定剤が本発明に用いられ得る。好ましいアミン系安定剤の例としては、例えば、2,2'−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N‘−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−N‘−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N‘−シクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N‘−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペラジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケイト、ビス[(1,2,2,6,6、−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート、等が挙げられる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャルティ・ケミカルズからTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0072】
さらに、本発明に用いられる安定剤は、高分子量多環ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、リン酸エステル系酸化防止剤の組み合わせが好ましい。さらに好ましくは、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタンと、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトとの組み合わせである。本発明における(C)安定剤の添加量は、前記熱可塑性樹脂組を基準として、0.01〜3質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.03〜2質量%である。さらに好ましくは、0.05〜1.5質量%である。安定剤の添加量が少なすぎる場合は、安定剤の効果が得られにくく着色が激しくなることがある。また、安定剤の添加量が多すぎると、面状が悪化することがある。
【0073】
(フッ素原子を有する重合体−離型剤)
次に、本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムにおいては、フッ素原子を有する重合体も好ましく、離型剤としての作用が発現できる。ここでいうフッ素原子を有する重合体としては、例えば、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基を有する化合物であれば特に制限はない。好ましくはアクリルエステル基およびその類縁基を含有するものが適しており、具体的には下記一般式(32)で表されるフッ素化(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリレートは、メタクリレート、アクリレート、フルオロアクリレート、塩素化アクリレートを総称するものとする。
【0074】
CH2=C(Rk1)−COO−(Xk)nk−Rf (32)
式中、Rfは炭素数1〜20のパ−フロロアルキル基、または部分フッ素化アルキル基であり、Rfは直鎖状であっても分岐状であってもよく、また酸素原子および/または窒素原子を含む官能基を主鎖中に有するものであってもよい。Rk1は水素原子、フッ素化されていてもよいアルキル基、塩素原子またはフッ素原子を表し、Xkは2価の連結基を表し、nkは0以上の整数を表す。
【0075】
Rfのパ−フロロアルキル基の好ましい炭素数は1〜18であり、より好ましくは4〜18であり、さらに好ましくは6〜14であり、最も好ましくは6〜12である。部分フッ素化アルキル基は、その一部にパ−フロロアルキル基を有するものが好ましく、そのパ−フロロアルキル基の炭素数の好ましい範囲は上記と同じである。また、主鎖中に有していてもよい酸素原子を含む官能基としては、−SO2−、−C(=O)−、窒素原子を含む官能基としては、−NH−、−N(CH3)−、−N(C25)−、−N(C37)−などを挙げることができる。Rk1が採りうるフッ素化されていてもよいアルキル基は、無置換のアルキル基、パ−フロロアルキル基、部分フッ素化アルキル基のいずれであってもよい。好ましいのは、無置換のアルキル基および部分フッ素化アルキル基である。無置換のアルキル基として好ましいのは、メチル基である。
【0076】
Xkが採りうる2価の連結基として好ましいものは、−(CH2nk−、−CH2CH(OH)−(CH2nk−、−(CH2nkN(Rk2)−SO2−、−(CH2nkN(Rk2)−CO−、−CH(CH3)−、−CH(CH2CH3)−、−C(CH32−、−CH(CF3)−、−C(CH3)(CF3)−、−C(CF32−、また、一般式(3)で表される素材もフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A)として好ましい。Rk2は水素原子または炭素数1〜6アルキル基である。nkは0以上の整数であり、0〜25が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜10が特に好ましい。nkが2以上であるとき、各Xkが表す連結基は同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)は、1種類だけを用いても構わないし、2種類以上を同時に用いても構わない。フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)におけるフッ素化アルキル基は、離型性(剥離性)の観点からは、その炭素数は6〜18が特に好ましく、さらには6〜14であり、特には6〜12が好ましい。本発明において、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)の重合体中への導入量に特に制限はないが、10質量%以上重合せしめることが好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上の含有量が好ましい。
【0078】
さらに本発明においてはフッ素原子を有する重合体中に、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体(単量体B)を含有させることも可能である。ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体(単量体B)としては、1分子中にポリオキシアルキレン基とエチレン性不飽和基を有する化合物であれば特に制限はない。オキシアルキレン基としてはエチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基が好ましい。またその重合度は通常1〜100であり、5〜50が好ましい。エチレン性不飽和基としては、原料の入手性、各種コーティング組成物中の配合物に対する相溶性、そのような相溶性を制御することの容易性、あるいは重合反応性の観点から(メタ)アクリルエステル基およびその類縁基を含有するものが適している。
【0079】
さらに、1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)を含有させることも可能である。1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)としては、特に制限はなく、目的とする配合物中のマトリックス樹脂、溶媒等の組成により適宜選択される。エチレン性不飽和基としては原料の入手性、各種コーティング組成物中の配合物に対する相溶性、そのような相溶性を制御することの容易性あるいは重合反応性の観点から(メタ)アクリルエステル基およびその類縁基を含有するものが適している。
ない。
【0080】
以下に本発明で好ましく用いられるフッ素原子を有する重合体の具体例を挙げるが、本発明で用いることができるフッ素原子を有する重合体はこれらに限定されるものではない。
PF−1 :2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ブチルアクリレート=30/70(モル比、分子量3000)
PF−2 :2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート=25/75(モル比、分子量5000)
PF−3 :2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ブチルアクリレート=20/80(モル比、分子量8000)
【0081】
PF−4 :2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ブチルメクリレート=15/85(モル比、分子量5000)
PF−8 :2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/ブチルアクリレート=30/20/50(モル比、分子量9000)
PF−9 :2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/メチルアクリレート/トリエチレングリコール ジメタクリレート=30/20/30/15/5(モル比、分子量3000)
【0082】
PF−10 :2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンアクリレート/2−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/テトラエチレングリコール ジメタクリレート=30/25/25/15/5(モル比、分子量3500)
PF−11 :2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/テトラエチレングリコール ジメタクリレート=30/25/25/10(モル比、分子量6000)
【0083】
PF−12 :2−トリデカフルオロヘキシル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート=30/25/25/20(モル比、分子量6000)
PF−13 :2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート=25/25/30/20(モル比、分子量8000)
PF−14 :2−ヘプタデシルフルオロオクチル−エチルアクリレート/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/スチレン=30/25/35/10(モル比、分子量9000)
【0084】
(位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムの溶融製膜工程)
次に本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムの溶融製膜工程とその条件などについて記載する。一般に、溶融製膜はセルロース混合エステルを予め所定の温度に予熱し、添加物などを混合する混練・押し出し工程、キャスト工程、延伸工程、緩和工程、冷却工程、巻き取り工程、加工工程を通じて、所望のセルロース混合エステルフィルムを得るものである。以下にそれらについて、本発明の溶融製膜技術を説明する。本発明では液晶表示装置の表示ムラを改良するために、セルロース混合エステルにフッ素原子を有する重合体を含有させることを特徴とするが、これにより剥ぎ取り時のダイスジ発生が抑制され、厚みムラ、光学ムラを極力小さくすることが可能となったものである。溶融製膜条件の最適化について、以下に詳細に記述する。
【0085】
(セルロース混合エステルの予熱)
セルロース混合エステルは予め十分に乾燥した後に、溶融押出し機のホッパーに投入される。好ましい乾燥としては、セルロース混合エステル中の水分量が0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%であり、特には0.1質量%以下である。これにより溶融中に発現するセルロース混合エステルの加水分解を抑制し、これに伴う異物の発生を抑止できる。このような乾燥は、セルロース混合エステルを好ましくは80℃〜180℃で、好ましくは0.1時間〜100時間乾燥することで達成できる。なお、この処理は、空気雰囲気下で行っても、不活性気体(例えば窒素)雰囲気下で行っても、真空中で行っても良い。該前処理により製膜中に発生する異物も軽減することができる。特に減圧下での加熱による乾燥が好ましい。本発明で好ましく使用されるホッパーの加熱温度は、好ましくは(Tg−50℃)〜(Tg+30℃)、より好ましくは(Tg−40℃)〜(Tg+10℃)、さらに好ましくは(Tg−30℃)〜Tgに加熱しておくことが推奨される。これによりホッパー内でのセルロース混合エステルへの空気中からの水分再吸着が抑制できる。なおTgとは、ホッパーに供給されるセルロース混合エステル(添加剤を含んでいてもよい)のガラス転移温度である。
【0086】
(混練押出し)
溶融押し出し機に設置されている2〜15の圧縮比を有する混練スクリューを用い、予熱過程で加熱された所望の溶融温度で、セルロース混合エステルを混練する。すなわち、本発明ではダイスジを解消するために、セルロース混合エステルの溶融温度を好ましくは180℃〜230℃、より好ましくは190℃〜230℃、さらに好ましくは195℃〜225℃とする。230℃以上の高い温度で溶融した場合は、セルロース混合エステルは分解が生じ、該分解物がダイ内に残留することで発生するダイラインが引き起こし、厚みムラが著しく悪化する。さらに着色も著しく発生し、製膜時に発生する耳部のロス分を再利用できないという、問題を引き起こす。本発明では、先願の実施例に記載されている方法では、セルロース混合エステルの分解が著しい高温で実施されていることを鑑みて改良したものである。なお、溶融温度を低下させると溶融不良が発生し、これがブツを発生する原因となりやすい。そこで本発明では、低温でも不溶解を発生させないために、高圧縮比のスクリューを用いていることも推奨される。好ましい圧縮比は3〜15、より好ましくは4〜12、さらに好ましくは5〜10である。通常は3未満の圧縮比で溶融するのが一般的である。この時、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子をセルロース混合エステルに対して0.005〜1.0質量%添加することが好ましい、さらに、その他の好ましい添加物である前述の可塑剤、紫外線吸収剤や安定剤などを、好ましい添加量で含有させることが好ましい。
【0087】
この際には、溶融温度は一定温度で行ってもよく、いくつかに分割して制御して得られた溶融温度で実施しても良い。より好ましくは上流側(ホッパー側)の温度を下流側(ダイ側)の温度より1℃〜50℃、より好ましくは2℃〜30℃、さらに好ましくは3℃〜20℃高くするほうが、セルロース混合エステルの分解をより抑制できて好ましい。好ましくは溶融を効率よく実施するために送液上流部をより高温にし、溶融された後はセルロース混合エステルの分解を抑制するために、温度を低めにするものである。好ましい混練時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、さらに好ましくは4分〜30分である。さらに、溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中で実施するのも好ましい。
【0088】
(キャスト)
溶融したセルロース混合エステルは、ギアポンプに通して押し出し機の脈動を除去される。その後に続いて、金属メッシュフィルター等でろ過を行なう。メッシュの目の大きさは2〜30μmが好ましく、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは2〜10μmである。この時、加圧を行い、ろ過に要する時間をできるだけ短縮することが好ましい。ろ過圧は、0.5MPa〜15MPaが好ましく、2Pa〜15MPaがさらに好ましく、10Pa〜15MPaがもっとも好ましい。ろ過圧は、高いほうが濾過時間を短くすることができるので好ましいが、フィルターの破損が起こらない範囲の高圧を用いることが好ましい。ろ過の時の温度は180℃〜230℃が好ましく、185℃〜225℃がさらに好ましく、190〜220℃が特に好ましい。ろ過時の温度が該上限値以下であれば、熱劣化が進行するなどの問題が生じにくいので好ましく、該下限値以上であれば、ろ過に時間がかかりすぎて熱劣化が進行するなどの不都合が生じにくいので好ましい。ろ過に要する時間はできるだけ短くして、フィルムの黄変を防止するのがよい。フィルター1cm2当たり1分間のろ過量は、0.05〜100cm3が好ましく、0.1〜100cm3がさらに好ましく、0.5〜100cm3がもっとも好ましい。
【0089】
次に、製膜ダイ(例えば、T−ダイ、ハンガーコートダイ)から搬送する冷却ドラム上にシート状に押し出すが、前述のように溶融温度より低い温度に制御したT−ダイから押出すことが好ましい。なお、溶融温度が溶融押出し機内で複数に分割し異なる温度にすることも可能であるが、その場合はT−ダイに最も近いところの溶融温度を基準にする。セルロース混合エステルフィルムは、180〜230℃で溶融してT−ダイから押し出し溶融製膜されることを特徴とする。さらに好ましくは、185〜230℃で溶融してT−ダイから押し出し溶融製膜することであり、特には195〜225℃で溶融してT−ダイから押し出し溶融製膜ことである。この後、上述のようにT−ダイとキャスティングドラムの間を一定の距離(1〜50cmが好ましい)に保つ。この時、この間の温度変動が少ないよう、ケーシング内に入れることが好ましい。さらに本発明では、T−ダイの温度を溶融温度より5℃〜30℃低くすることが好ましい。これは、T−ダイ上で滞留しセルロース混合エステルが分解し焦げつき、これがダイラインを引き起こすのを防ぐため、T−ダイの温度を下げたことが特徴である。通常の製膜では溶融混練機からT−ダイまで同じ温度あるいはそれ以上にし、溶融粘度を低くすることで、発生したダイラインをレベリング化するのが一般的であるが、熱分解しやすいセルロース混合エステルを溶融製膜する場合は上記のように温度を下げることが有効である。
【0090】
また、セルロース混合エステルフィルムのダンムラ(幅方向に発生する段々状のムラ)を解消するために、本発明ではT−ダイとキャスティングドラムの間を1cm〜50cm離すことが好ましい。より好ましくは1cm〜40cm、さらに好ましくは2cm〜35cmである。この時のキャスティングドラムの温度は(Tg−30℃)〜Tgが好ましく、より好ましくは(Tg−20℃)〜(Tg−1℃)、さらに好ましくは(Tg−15℃)〜(Tg−2℃)である。さらにこのようにT−ダイ、キャスティングドラム間の距離を長くすることは、上記ダイ筋をレベリング化させ軽減させる効果も有する。なお、本発明で用いるセルロース混合エステルのTgは70℃〜180℃が好ましく、より好ましくは80℃〜160℃、さらに好ましくは90℃〜150℃である。
【0091】
押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィールドブロックダイを用いて複数層押出しても良い。この後、適宜選ばれた直径(10〜200cmが好ましい)、本数(2〜20本が好ましい)、温度(Tg−30℃が好ましい)のキャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの前面に実施してもよく、一部に実施しても良い。
【0092】
次にT−ダイから押出された溶融されたセルロース混合エステル(メルト)は、キャスティングドラム上で冷却固化する時間をできるだけ長くすることが好ましい。即ち(Tg+30℃)からTgの間を10℃/秒〜100℃/秒の速度(固化速度)で冷却し固化するのが好ましく、より好ましい固化速度は15℃/秒〜80℃/秒、さらに好ましくは20℃/秒〜60℃/秒で冷却する。そのために、キャスティングドラムとT−ダイの間を温調するのが好ましく、好ましい温度は(Tg−30℃)〜(Tg+50℃)、より好ましくは(Tg−20℃)〜(Tg+40℃)、さらに好ましくは(Tg−10℃)〜(Tg+30℃)である。
【0093】
本発明では、好ましいキャスティングドラムの本数は2本〜10本、より好ましくは2本〜6本、さらに好ましくは3本〜5本である。これらのキャスティングドラムの温度は同じであってもよく、異なっていても良い。最上流のキャスティングドラムの温度を最下流のキャスティングドラムより低くすることがより好ましい。3本以上配置する場合は、これらの間のキャスティングドラム温度を、その前段のロールの温度より高くても低くても構わない。即ち、最上流と最下流の温度を低くすればよく、その間のロール温度は任意に設定してよい。これらのキャスティングドラムの直径は通常20cm〜300cmである。これらの製膜速度は、15m/分〜300m/分の速度で製膜することが好ましい。より好ましくは20m/分〜200m/分、さらに好ましくは30m/分〜100m/分である。
【0094】
冷却した後、セルロース混合エステルフィルムは、キャスティングドラムから剥ぎ取られ、ニップロールを経て、ニップロールで張力カットした後、巻き取り時の張力が0.01kg/cm2〜10kg/cm2で巻き取るのが好ましく、より好ましくは0.10kg/cm2〜9kg/cm2、さらに好ましくは0.10kg/cm2〜9kg/cm2である。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。製膜幅は好ましくは1.5m〜5m、より好ましくは1.6m〜4m、さらに好ましくは1.7m〜3mである。
【0095】
一般に、Re,Rthが放物線状のムラを発現する。キャスティングドラムの後にニップロールを設置し、巻き取り張力のカットする方法が挙げられるが、完全にはカットできず僅かに張力がキャスティングドラム剥ぎ取り後のシートまで伝播する。これがRe,Rthムラを引き起こす。ここで、Re、Rthとは、光学異方性を示しており、Reは正面レターデーションをRthは厚さ方向のレターデーションを示す。その測定方法は後述するとおりである。このようなムラは、幅方向全域に渡っておこるため、小さなサイズでは検知し難く、大きなサイズを切り出したときに、問題となる。このため、上記のような弱い張力で巻き取ることがポイントである(通常は20kg/cm2以上で巻かれる)。このような低張力で巻くことで巻きズレが発生し易くなるが、これには両端にナーリング(厚みだし)加工を付与することで対策できる。
【0096】
未延伸フィルムを延伸することで、厚みムラ、Reムラ、Rthムラ、Re,Rthの湿度変動の小さな延伸フィルムを得ることも可能である。このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、あるいは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミネートフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0097】
(延伸)
延伸はTg〜(Tg+50℃)で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+1℃)〜(Tg+30℃)、さらに好ましくは(Tg+2℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は−20%〜150%、より好ましくは−10%〜100%、さらに好ましくは−10%〜50%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げても良い(横延伸)。
【0098】
一般にいずれの場合も、延伸倍率を大きくすると、Re,Rthとも大きくすることができる。さらにRe、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することで達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。横延伸の場合、直交方向に延伸すると同時に縦方向にも延伸したり、逆に緩和させることで制御することができる。即ち縦方向に延伸することでRth/Re比を大きくすることができ、逆に縦方向に緩和することでRth/Re比を小さくすることができる。このような延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、さらに好ましくは30%/分〜800%/分である。
【0099】
本発明においては、セルロース混合エステルフィルム支持体のReムラ,Rthムラ、および厚みのムラをより小さくするために、ムラの少ない原反を用いることに加えて、延伸温度に幅方向に勾配を持たせるのが好ましい。即ち縦延伸の場合でも、横延伸の場合でも両端部の延伸が進みやすくRe,Rthが発現し易いため、中央部より端部の温度を高くすることが好ましい。端部とは、全幅に対し10%の領域を指し、ここを中央部より好ましくは6℃〜40℃、より好ましくは7℃〜30℃、さらに好ましくは8℃〜25℃高くすることで達成できる。このように両端の温度を上げるには、両端部に熱源(パネルヒーター、赤外線ヒーター等)を増設してもよく、熱風の噴出し口を増設しても良い。このように敢えて温度分布を付与することで、一定の温度で延伸するより一層均一な延伸が達成できる。このような減少はセルロース混合エステルフィルム特有の現象である。
【0100】
ここで、熱処理後の冷却温度は、熱処理温度やフィルム厚みによって異なるが、通常−40℃〜(Tg−10)℃の温度範囲において空冷する。好ましくは、0〜40℃である。この際、フィルムの表面と裏面を冷却する空気等の冷却媒体の温度差が、得られる(二軸)延伸フィルムの非熱変形性に影響を及ぼす。冷却気体の温度差が大き過ぎると、得られる(二軸)延伸フィルムの表裏両面の熱収縮率差が大きくなり、加熱時にフィルムが歪み、ソリが生じ易くなり、変形が大きくなる。かかる点を考慮すると、フィルムの表面と裏面を冷却する空気等の冷却媒体の温度差は小さい方が好ましいが、本発明の目的を達成するためには、該温度差を5℃以内に調整することが重要である。
【0101】
これらの延伸前、延伸後のセルロース混合エステルフィルムは、105℃、5時間での縦および横の寸法収縮率は±0.1%以下であることが好ましく、80℃/相対湿度90%における寸法収縮率が縦および横とも±0.5%未満であることが好ましく、ヘイズは1.2%以下が好ましく、0.6%以下であることがより好ましい。また、引き裂き強度は縦、横とも10g以上であることが好ましく、引っ張り強度が縦、横とも50N/mm2以上であることが好ましく、弾性率が縦、横とも3kN/mm2以上であることが好ましい。
【0102】
延伸フィルムは、未延伸フィルムを延伸することで達成できる。その際に、Reムラの小さな未延伸フィルム(原反)を延伸することでReムラの小さな延伸フィルムを達成でき、Rthムラ、厚みムラ、Re,Rthの温度変化に対しても有効である。本発明では、上述のように厚みムラを小さくしたフィルムを用いることで、厚みもレターデーションも均一な延伸を行なうことができる(本発明のような手法を実施していない前述の特開2000−352620号公報記載のような厚みムラの存在するフィルムを延伸すると、力学的に弱い薄いところから延伸されるため、厚みムラが増幅され易い。延伸により厚みムラが軽減されるような印象をもたれる場合があるが、このようなセルロース混合エステルフィルムの場合はこの逆である)。
【0103】
(セルロース混合エステルフィルムの特性)
(厚み)
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムの膜厚は20〜200μmであることが好ましく、より好ましくは20μm〜160μm、さらに好ましくはは30μm〜120μmが好ましく、特には40〜120μmが好ましい。したがって、延伸する場合は未延伸フィルムの膜厚は、延伸倍率により予め厚めの原反押し出し膜厚として所望のセルロース混合エステルフィルムが作製されるものである。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムの厚みムラは、厚み方向、幅方向いずれも0〜5μmが好ましく、より好ましくは0〜3μm、さらに好ましくは0〜2μmである。
【0104】
(キシミ値)
本発明においては、微粒子を添加することで位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムのキシミ値を軽減し、搬送性を改良することができる。キシミ値は、0.2〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.3であり、さらには0.256〜1.0が好ましい。微粒子の存在状態が粗大である場合は、そのキシミ値が小さくなる場合と大きくなる場合があり、共に搬送性に好ましくないばかりか、傷付きの発生を伴い推奨されない。
キシミ値の測定は、以下に従って求めたものである。試料100mm×200mmおよび75mm×100mmの試料を、23℃、相対湿度65%、2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株))にて、大きいフィルムを台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルムを載せた。おもりを水平方向に引っ張り、動きだした時の力、動いているときの力を測定した。そして、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ算出し、靜キシミ値および動キシミ値とした。
F=μ×W (W:おもりの重さ(kgf))
【0105】
(算術平均粗さ)
本発明の位相差フィルム用支持体である微粒子を含有するセルロース混合エステルフィルムは、その表面の粗さが適度にあることが好ましい。表面粗さとしては、一般に用いられている算術平均粗さ(Ra)で示され、好ましくは2〜200nmであり、より好ましくはRaが5〜150nmであり、特に好ましくはRaが5〜100nmである。Raの測定は、一般に使用されている接触式あるいは非接触式表面粗さ測定機で求めることができる。
【0106】
(光学特性)
次に、本発明の位相差フィルムに用いるセルロース混合エステルフィルムの好ましい光学特性について説明するが、本発明で用いることができるセルロース混合エステルフィルムは以下に記載される性質を有するものに限定されない。
本発明の位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルムの、正面レターデーション値(Re)および厚さ方向のレターデーション値(Rth)は、以下に基づき算出するものとする。Re、Rthは各々、波長λにおける正面レターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値等複数の方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。
【0107】
この時、平均屈折率の仮定値および膜厚を入力することが必要である。KOBRA 21ADHはRth(λ)に加えてnx、ny、nzも算出する。平均屈折率は、セルロースアセテートでは1.48を使用するが、セルロースアセテート以外の代表的な光学用途のポリマーフィルムの値としては、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)、等の値を用いることができる。その他既存のポリマー材料の平均屈折率値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)やポリマーフィルムのカタログ値を使用することができる。また、平均屈折率が不明な材料の場合は、アッベ屈折計を用いて測定することができる。本明細書におけるλは、特に記載がなければ590±5nmである。
【0108】
本発明で用いるセルロース混合エステルの波長590nmにおける正面レターデーション(Re)は0〜10nmであることが好ましく、かつ厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値は0〜60nmであることが好ましい。さらに好ましくは、正面レターデーション(Re)は0〜8nmであることが好ましく、かつ厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値は0〜50nmである。特に好ましくは、正面レターデーション(Re)は0〜5nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値は0〜40nmである。Reムラは0〜5nmであり、より好ましくは0〜3μm、さらに好ましくは0〜2μmである。好ましいRthムラは0〜10nmが好ましく、より好ましくは0〜7nm、さらに好ましくは0〜5nmである。これらの光学特性を有するセルロース混合エステルフィルムは、偏光子の保護膜として極めて好ましいものである。なお、Reムラ、Rthムラなどの測定法は、実施例に記載される方法にしたがう。
【0109】
また、湿度変化に伴って光学特性が変化する問題も、本発明では改良することができる。本発明では、25℃における相対湿度10%と80%の差が小さいセルロース混合エステルフィルムを好ましく用いることができる。セルロース混合エステルフィルムの湿度変化に伴う光学特性の変化は、Reの湿度変化による変化量をその絶対値で比較することにより評価することができる。Re湿度変化(nm)は、相対湿度80%におけるRe(80%RH)と相対湿度10%におけるRe(10%RH)の差の絶対値であり、湿度変化によるRth湿度変化(nm)は、相対湿度80%におけるRth(80%RH)と相対湿度10%におけるRth(10%RH)の差の絶対値で表わされる。本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムは、Reの湿度変化は10nm以下であることが好ましく、さらには5nm以下であることがより好ましく、1nm以下であることが特に好ましい。また、Rth湿度変化は、25nm以下であることが好ましく、さらには20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることが特に好ましい。これは、従来のセルローストリアセテートに比較すると、2/3〜1/3の好ましい変化量である。
【0110】
本発明では、波長に対する光学特性の挙動をコントロールしたセルロース混合エステルフィルムを用いることもできる。すなわち、波長400nmにおけるRe(400)と波長700nmにおけるRe(700)の差の絶対値が0〜15nmであることが好ましく、波長400nmにおけるRth(400)と波長700nmにおけるRth(700)の差の絶対値が0〜35nmであることが好ましい。また、本発明においてはその光学特性の表示方法である固有複屈折としては、25℃,相対湿度60%環境下で波長590nmにおける面内方向の固有複屈折が0〜0.001であることが好ましく、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.003であることが好ましい。より好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0008であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.0025であり、さらには面内方向の固有複屈折が0〜0.0006であることが好ましく、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.001であることが好ましい。
【0111】
(軸ズレ)
本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムは、光学遅相軸は流延方向あるいは幅方向に対して平行あるいは直角であることが好ましい。特に延伸する場合は、流延方向に延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±1.5°、さらに好ましくは0±0.5°である。幅方向に延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1.5°あるいは−90±1.5°、さらに好ましくは90±0.5°あるいは−90±0.5°である。
【0112】
(透過率)
本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムの試料20mm×70mmを、25℃,相対湿度60%において透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)で測定したときの可視光(615nm)の透過率は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上であり、特に好ましくは92%以上である。
【0113】
(ヘイズ)
本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムの試料40mm×80mmを、25℃,相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定したヘイズは、0〜1.5%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜1.2%であり、さらに好ましくは0〜0.8%であり、特に好ましくは0.1〜0.5%である。
【0114】
(セルロース混合エステルフィルムの機能化)
(表面処理)
本発明で用いる位相差フィルムの支持体であるセルロース混合エステルフィルムには、さらに機能を付与してもよく、その場合の好ましい態様を記述する。まずセルロース混合エステルフィルムの表面処理方法について記述する。セルロース混合エステルフィルムは、場合により表面処理を行なうことによって、セルロース混合エステルフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。グロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことも示すが、大気圧下でのグロー放電処理でもよい。
【0115】
まず、低圧下でのグロー放電処理は、米国特許第3,462,335号、同3,761,299号、同4,072,769号および英国特許第891,469号明細書に記載されている。また不活性ガス、酸化窒素類、有機化合物ガス等の特定のガス等を導入することも行われる。ポリマーの表面をグロー放電処理する際には大気圧でもよいし減圧下で実施されてもよい。グロー放電処理の雰囲気に酸素、窒素、ヘリウムあるいはアルゴンのような種々のガスや水を導入しながら実施してもよい。
【0116】
次に紫外線照射法も本発明では好ましく用いられる。使用される水銀灯は石英管からなる高圧水銀灯で、紫外線の波長が180〜380nmの間であるものが好ましい。紫外線照射の方法については、光源はセルロース混合エステルフィルムの表面温度が150℃前後にまで上昇することが支持体性能上問題なければ、主波長が365nmの高圧水銀灯ランプを使用することができる。低温処理が必要とされる場合には主波長が254nmの低圧水銀灯が好ましい。またオゾンレスタイプの高圧水銀ランプ、および低圧水銀ランプを使用する事も可能である。
【0117】
次にセルロース混合エステルフィルムの表面処理としてコロナ放電処理も好ましく、コロナ放電処理装置は、Pillar社製ソリッドステートコロナ処理機、LEPEL型表面処理機、VETAPHON型処理機等を用いることができる。処理は空気中、常圧で行なうことができる。処理時の放電周波数は、5〜40KV、より好ましくは10〜30KVであり、波形は交流正弦波が好ましい。
【0118】
また、セルロース混合エステルフィルムの表面処理として好ましく用いられるアルカリケン化処理を具体的に説明する。セルロース混合エステルフィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1mol/L〜4.0mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜3.5mol/Lであることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲が好ましく、40℃〜70℃がさらに好ましい。次に一般には水洗され、しかる後に酸性水溶液を通過させた後に、水洗して表面処理したセルロース混合エステルフィルムを得る。
【0119】
この時、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などであり、その濃度は0.01mol/L〜3.0mol/Lであることが好ましく、0.05mol/L〜2.0mol/Lであることがさらに好ましい。アルカリケン化時間は、20〜600秒で実施されるがことが好ましく、さらには30〜300秒が好ましく、特に好ましくは40〜210秒である。また中和は、20〜600秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜250秒、特に好ましくは40〜180秒である。さらに水洗については、20〜400秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜300秒、特に好ましくは40〜210秒である。
【0120】
これらの方法で得られた固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社、1989年12月10日発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができ、接触角法を用いることが好ましい。水の接触角は10〜45°であることが好ましく、さらには10〜40°が好ましく、特には10〜30°が好ましい。
【0121】
(接着層)
セルロース混合エステルフィルムと機能性層を接着するために、表面活性化処理をしたのち、直接セルロース混合エステルフィルム上に機能層を塗布して接着力を得る方法と、一旦何らかの表面処理をした後、あるいは表面処理なしで、下塗層(接着層)を設けこの上に機能層を塗布する方法とがある。
下塗層の構成としても種々の工夫が行われており、第1層として支持体によく隣接する層(以下、下塗第1層と略す)を設け、その上に第2層として機能層とよく接着する下塗り第2層を塗布する所謂重層法がある。
【0122】
また本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムの好ましい態様として、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられる態様を挙げることができる。例えば、−COOM基含有の酢酸ビニル−マレイン酸共重合体化合物、または親水性セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等)、ポリビニルアルコール誘導体(例えば酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等)天然高分子化合物(例えばゼラチン、カゼインアラビアゴム等)、親水基含有ポリエステル誘導体(例えばスルホン基含有ポリエステル共重合体)が挙げられる。
【0123】
(導電性層)
本発明で用いるセルロース混合エステルフィルムが利用される偏光板用保護膜の構成においては、フィルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることが好ましい。まず、本発明において形成しうる導電層について以下に記す。導電性素材としては、導電性金属酸化物や導電性ポリマーが好ましい。なお、蒸着やスパッタリングによる透明導電性膜でもよい。金属酸化物の例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、In23、SiO2、MgO、BaO、MoO2、V25等、あるいはこれらの複合酸化物が好ましく、特にZnO、SnO2あるいはV25が好ましい。複合酸化物の異種原子例としては、Al、In、Ta、Sb、Nb、ハロゲン原子、Agの添加が効果的であり、添加量は0.01mol%〜25mol%の範囲が好ましい。また、これらの導電性を有する金属酸化物粉体の体積抵抗率は107Ω−cm、特に105Ω−cm以下であって、1次粒子サイズが100Å〜0.2μmで、これら凝集体の高次構造の長径が300Å〜6μmである特定の構造を有する粉体を導電層に体積分率で0.01%〜20%含んでいることが好ましい。この導電性微粒子の使用量は0.01〜5.0g/m2が好ましく、特に0.005〜1g/m2が好ましい。
【0124】
導電性微粒子の分散用バインダーは、フィルム形成能を有する物であれば特に限定されるものではないが、例えばゼラチン、カゼイン等のタンパク質、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース化合物、デキストラン、寒天、アルギン酸ナトリウム、デンプン誘導体等の糖類、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸等の合成ポリマー等を挙げることができる。
【0125】
次にイオン導電性物質とは、電気伝導性を示し、電気を選ぶ担体であるイオンを含有する物質のことである。この例としては、イオン性高分子化合物と電解質を含む金属酸化物ゾルを挙げることができる。これらの導電性層の電気抵抗は1012Ω(25℃・相対湿度10%)以下が好ましく、より好ましくは1010Ω以下、特に好ましくは109Ω以下である。さらに導電性材料として、有機電子伝導性材料もこのましく、例えばポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアセチレン誘導体などを挙げることができる。
【0126】
本発明では、セルロース混合エステルフィルムに界面活性剤を含む機能層が好ましく用いられる。機能層に用いられる界面活性剤はその使用目的によって、分散剤、塗布剤、濡れ剤、帯電防止剤などに分類されるが、以下に述べる界面活性剤を適宜使用することで、それらの目的は達成できる。本発明で使用される界面活性剤は、ノニオン性、イオン性(アニオン、カチオン、ベタイン)いずれも使用できる。さらにフッ素系低分子界面活性剤も有機溶媒中での塗布剤としたり、帯電防止剤として好ましく用いられる。使用される層としてはセルロース混合エステルからなる層中でもよいし、その他の機能層のいずれでもよい。光学用途で利用される場合は、機能層の例としては下塗り層、中間層、配向制御層、屈折率制御層、保護層、防汚層、粘着層、バック下塗り層、バック層などである。その使用量は目的を達成するために必要な量であれば特に限定されないがしいが、一般には添加する層の質量に対して、0.0001〜5質量%が好ましく、さらには0.0005〜2質量%が好ましい。その場合の塗設量は、1m2当り0.02〜1000mgが好ましく、0.05〜200mgが好ましい。
【0127】
《位相差ポリマー層》
以上の素材や方法によって作製された位相差フィルム用支持体であるセルロース混合エステルフィルム上に、さらに本発明では前述したポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される少なくとも一種の位相差ポリマーを含む位相差ポリマー層を塗設することを特徴とする。以下に、該位相差ポリマー層とその塗設について記述する。
【0128】
(位相差ポリマー)
本発明の位相差ポリマー層に使用する位相差ポリマーは、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドから選択されたポリマーであり、その素材は特に限定されず、ホモポリマーでもヘテロポリマーでも良い。なお、ここで、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドは、それぞれ、エーテル結合とカルボニル基とを含むポリマー、アミド結合とイミド結合とを含むポリマー、およびエステル結合とイミド結合とを含むポリマーを指す。また、これら位相差ポリマーは単独で使用しても二種類以上併用しても良い。
【0129】
前記ポリマーの分子量は、特に限定されないが、質量平均分子量(Mw)が1,000(千)〜1,000,000(百万)の範囲であることが好ましい。この範囲であればフィルム強度と有機溶媒への溶解性が得られやすい。さらに前記Mwは、より好ましくは50,000(5万)〜200,000 (二十万)である。
【0130】
前記位相差層用の位相差ポリマーの中では、フィルム加工時の光透過率がより高いという理由や、高い複屈折率が得やすいという理由等によりポリイミドを用いることが好ましい。前記ポリイミドは面内配向性が高く有機溶剤に可溶であることがさらに好ましい。例えば、特表2000−511296号公報に開示された、9,9−ビス(アミノアリール)フルオレンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との縮合重合生成物、具体的には、下記式(1)に示す繰り返し単位を1つ以上含むポリマーが挙げられる。
【0131】
【化1】

前記一般式(1)中、R3〜R6は、水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、1〜4個のハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基、および炭素数1〜10アルキル基からなる群からそれぞれ独立に選択される少なくとも一種類の置換基である。好ましくは、R3〜R6は、ハロゲン原子、フェニル基、1〜4個のハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置換されたフェニル基、および炭素数1〜10のアルキル基からなる群からそれぞれ独立に選択される少なくとも一種類の置換基である。
前記一般式(1)中、Zは、例えば、炭素数6〜20の4価芳香族基であり、好ましくは、ピロメリット基、多環式芳香族基、多環式芳香族基の誘導体、または、下記一般式(2)で表される基である。
【0132】
【化2】

前記一般式(2)中、Z’は、例えば、共有結合、C(R72基、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(C252基、または、NR8基であり、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。また、wは、1〜10の整数を表す。R7は、それぞれ独立に、水素原子またはC(R93である。R8は、水素原子、炭素原子数1〜約20のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基であり、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。R9は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または塩素原子である。
【0133】
前記多環式芳香族基としては、例えば、ナフタレン、フルオレン、ベンゾフルオレンまたはアントラセンから誘導される4価の基が挙げられる。また、前記多環式芳香族基の置換誘導体としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、そのフッ素化誘導体、およびフッ素原子や塩素原子等のハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも一つの基で置換された前記多環式芳香族基が挙げられる。
【0134】
この他にも、例えば、特表平8−511812号公報に記載された、繰り返し単位が下記一般式(3)または(4)で示されるホモポリマーや、繰り返し単位が下記一般式(5)で示されるポリイミド等が挙げられる。なお、下記式(5)のポリイミドは、下記式(3)のホモポリマーの好ましい形態である。
【0135】
【化3】

【0136】
前記一般式(3)〜(5)中、GおよびG’は、例えば、共有結合、CH2基、C(CH32基、C(CF32基、C(CX32基(ここで、Xは、ハロゲン原子である。)、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(CH2CH32基、および、N(CH3)基からなる群から、それぞれ独立して選択される基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0137】
前記一般式(3)および一般式(5)中、Lは、置換基であり、dおよびeは、その置換数を表す。Lは、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、フェニル基、または、置換フェニル基であり、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。前記置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、および炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基を有する置換フェニル基が挙げられる。また、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。dは、0〜2の整数であり、eは、0〜3の整数である。
【0138】
前記一般式(3)〜(5)中、Qは置換基であり、fはその置換数を表す。Qとしては、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、ニトロ基、シアノ基、チオアルキル基、アルコキシ基、アリール基、置換アリール基、アルキルエステル基、および置換アルキルエステル基からなる群から選択される原子または基であって、Qが複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。前記置換アルキル基としては、例えば、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。また前記置換アリール基としては、例えば、ハロゲン化アリール基が挙げられる。fは、0〜4の整数であり、gおよびhは、それぞれ0〜3および1〜3までの整数である。また、gおよびhは、1より大きいことが好ましい。
【0139】
前記一般式(4)中、R10およびR11は、水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、置換フェニル基、アルキル基、および置換アルキル基からなる群から、それぞれ独立に選択される基である。その中でも、R10およびR11は、それぞれ独立に、ハロゲン化アルキル基であることが好ましい。
【0140】
前記一般式(5)中、M1およびM2は、同一であるかまたは異なり、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、フェニル基、または、置換フェニル基である。前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。また、前記置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、および炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基を有する置換フェニル基が挙げられる。
【0141】
これらポリイミドの中でも、例えば、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン二無水物と2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニルとを反応させて得られるポリアミック酸をさらにイミド化して得られるポリイミド、すなわち下記一般式(6)で表されるポリイミドが、特に光透過性が優れており、さらに、各種有機溶媒に対する溶解度が比較的高くフィルムに加工しやすいため特に好ましい。
【化4】

【0142】
なお、これらポリイミドのイミド化率は特に限定されないが高い程良く、理想的には100%であり、前記一般式(1)〜(6)はそのイミド化率100%の状態を表す式である。
前記ポリイミドとしては、その他、米国特許第5,071,997号公報、米国特許第5,480,964号公報および特表平10−508048号公報等に記載のポリイミドがある。さらに、例えば、前述のような骨格(繰り返し単位)以外の酸二無水物やジアミンを、適宜共重合させたコポリマーが挙げられる。
【0143】
前記酸二無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、2,2’−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0144】
前記ピロメリト酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、3,6−ジフェニルピロメリト酸二無水物、3,6−ビス(トリフルオロメチル)ピロメリト酸二無水物、3,6−ジブロモピロメリト酸二無水物、3,6−ジクロロピロメリト酸二無水物等が挙げられる。前記ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。前記ナフタレンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,3,6,7−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロ−ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0145】
前記複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。前記2,2’−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,2’−ジブロモ−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ジクロロ−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0146】
また、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物のその他の例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,5,6−トリフルオロ−3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2,2−ジフェニルプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、(3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物)、4,4’−[4,4’−イソプロピリデン−ジ(p−フェニレンオキシ)]ビス(フタル酸無水物)、N,N−(3,4−ジカルボキシフェニル)−N−メチルアミン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジエチルシラン二無水物等が挙げられる。
【0147】
これらの中でも、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2’−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく、より好ましくは、2,2’−ビス(トリハロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、さらに好ましくは、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。前記ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンが挙げられ、具体例としては、ベンゼンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、ナフタレンジアミン、複素環式芳香族ジアミン、およびその他の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0148】
前記ベンゼンジアミンとしては、例えば、o−、m−およびp−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、1,4−ジアミノ−2−フェニルベンゼンおよび1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼンのようなベンゼンジアミンからなる群から選択されるジアミン等が挙げられる。前記ジアミノベンゾフェノンの例としては、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、および3,3’−ジアミノベンゾフェノン等が挙げられる。前記ナフタレンジアミンとしては、例えば、1,8−ジアミノナフタレン、および1,5−ジアミノナフタレン等が挙げられる。前記複素環式芳香族ジアミンの例としては、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、および2,4−ジアミノ−S−トリアジン等が挙げられる。
【0149】
また、前記芳香族ジアミンとしては、これらの他に、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−(9−フルオレニリデン)−ジアニリン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0150】
前記ポリエーテルケトンとしては、例えば、特開2001−49110号公報に記載された、下記一般式(7)で表されるポリアリールエーテルケトンが挙げられる。
【0151】
【化5】

前記一般式(7)中、Xは、置換基を表し、qはその置換数を表す。Xは、例えば、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲン化アルキル基、低級アルコキシ基、または、ハロゲン化アルコキシ基であり、Xが複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。
【0152】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子が挙げられ、これらの中でも、フッ素原子が好ましい。前記低級アルキル基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖を有する低級アルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、および、tert−チル基が好ましく、特に好ましくは、メチル基およびエチル基である。
【0153】
前記ハロゲン化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基等の前記低級アルキル基のハロゲン化物が挙げられる。前記低級アルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、および、tert−ブトキシ基が、さらに好ましく、特に好ましくはメトキシ基およびエトキシ基である。前記ハロゲン化アルコキシ基としては、例えば、トリフルオロメトキシ基等の前記低級アルコキシ基のハロゲン化物が挙げられる。
前記一般式(7)中、qは、0〜4の整数である。前記一般式(7)においては、q=0であり、かつ、ベンゼン環の両端に結合したカルボニル基とエーテルの酸素原子とが互いにパラ位に存在することが好ましい。また、前記一般式(7)中、R1は、下記一般式(8)で表される基であり、mは、0または1の整数である。
【0154】
【化6】

前記一般式(8)中、X’は置換基を表し、例えば、前記一般式(7)におけるXと同様である。前記一般式(8)において、X’が複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。q’は、前記X’の置換数を表し、0〜4の整数であって、q’=0が好ましい。また、pは、0または1の整数である。
【0155】
前記一般式(8)中、R2は、2価の芳香族基を表す。この2価の芳香族基としては、例えば、o−、m−もしくはp−フェニレン基、または、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、o−、m−もしくはp−テルフェニル、フェナントレン、ジベンゾフラン、ビフェニルエーテル、もしくは、ビフェニルスルホンから誘導される2価の基等が挙げられる。これらの2価の芳香族基において、芳香族に直接結合している水素原子が、ハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基で置換されてもよい。これらの中でも、前記R2としては、下記式(9)〜(15)からなる群から選択される芳香族基が好ましい。
【0156】
【化7】

【0157】
前記一般式(7)中、前記R1としては、下記式(16)で表される基が好ましく、下記式(16)において、R2およびpは前記一般式(8)と同義である。
【0158】
【化8】

【0159】
さらに、前記一般式(7)中、nは重合度を表し、例えば、2〜5000の範囲であり、好ましくは、5〜500の範囲である。また、その重合は、同じ構造の繰り返し単位からなるものであってもよく、異なる構造の繰り返し単位からなるものであってもよい。後者の場合には、繰り返し単位の重合形態は、ブロック重合であってもよいし、ランダム重合でもよい。
【0160】
さらに、前記一般式(7)で示されるポリアリールエーテルケトンの末端は、p−テトラフルオロベンゾイレン基側がフッ素原子であり、オキシアルキレン基側が水素原子であることが好ましく、このようなポリアリールエーテルケトンは、下記一般式(17)で表わすことができる。なお、下記式において、nは前記一般式(7)と同様の重合度を表す。
【0161】
【化9】

前記一般式(7)で示されるポリアリールエーテルケトンの具体例 SHAPE \* MERGEFORMAT としては、下記式(18)〜(21)で表されるもの等が挙げられ、下記各式において、nは、前記一般式(7)と同様の重合度を表す。
【0162】
【化10】

【0163】
前記ポリエーテルケトンとしては、その他、特開2001−64226号公報に記載の含フッ素ポリアリールエーテルケトン等も好ましく用いることができる。
また、前記ポリアミドまたはポリエステルとしては、例えば、特表平10−508048号公報に記載されるポリアミドやポリエステルが挙げられ、それらの繰り返し単位は、例えば、下記一般式(22)で表わすことができる。
【0164】
【化11】

前記一般式(22)中、Yは、OまたはNHである。また、Eは、例えば、共有結合、炭素数2のアルキレン基、ハロゲン化された炭素数2のアルキレン基、CH2基、C(CX32基(ここで、Xはハロゲン原子または水素原子である。)、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(R)2基、および、N(R)基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の基であり、それぞれ同一でもよいし異なってもよい。前記Eにおいて、Rは、炭素数1〜3のアルキル基および炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基の少なくとも一種類であり、カルボニル官能基またはY基に対してメタ位またはパラ位にある。
【0165】
また、前記(22)中、AおよびA’は、置換基であり、tおよびzは、それぞれの置換数を表す。また、pは、0〜3の整数であり、qは、1〜3の整数であり、rは、0〜3の整数である。前記Aは、例えば、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、OR(ここで、Rは、前記定義のものである。)で表されるアルコキシ基、アリール基、ハロゲン化等による置換アリール基、炭素数1〜9のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜9のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1〜12のアリールオキシカルボニル基、C1〜12アリールカルボニルオキシ基およびその置換誘導体、炭素数1〜12のアリールカルバモイル基、ならびに、炭素数1〜12のアリールカルボニルアミノ基およびその置換誘導体からなる群から選択され、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。
【0166】
前記A’は、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基、フェニル基および置換フェニル基からなる群から選択され、複数の場合、それぞれ同一であるかまたは異なる。前記置換フェニル基のフェニル環上の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基およびこれらの組み合わせが挙げられる。前記tは、0〜4の整数であり、前記zは、0〜3の整数である。
【0167】
前記一般式(22)で表されるポリアミドまたはポリエステルの繰り返し単位の中でも、下記一般式(23)で表されるものが好ましい。
【化12】

前記一般式(23)中、A、A’およびYは、前記一般式(22)で定義したものであり、vは0〜3の整数、好ましくは、0〜2の整数である。xおよびyは、それぞれ0または1であるが、共に0であることはない。以上、記述してきた本発明の位相差ポリマーは、特開2004−258544号公報の段落[0014]〜[0059]に、詳細に記載されている。
【0168】
(添加剤)
なお、本発明の位相差フィルムは、前記位相差ポリマー層が各種添加剤を適宜含んでいても良い。前記添加剤の種類は特に限定されず、各種可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤、金属類を含む種々の添加剤等、公知の添加剤を適宜使用することができる。特に位相差ポリマーに添加することのできる好ましい可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤は、セルロース混合エステルに使用する前述の素材を適用できる。その際に添加量も特に限定されないが、前記位相差フィルムの機能を損なわない範囲が好ましい。
【0169】
(光学特性)
次に、本発明の位相差フィルムを構成する位相差ポリマー層は、下記式(I)の光学特性条件を満たすことが好ましい。これにより、例えば、垂直配向(VA)モードの液晶表示装置において広視野角で良好なコントラストを付与することができる。
nx>ny>nz (I)
ただし、式中、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記位相差フィルムにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸とは、前記位相差フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向を示す。さらに、厚み方向の複屈折率(nx−nz)および面内の複屈折率(nx−ny)がなるべく大きいことがより好ましい。(nx−nz)の値は、具体的には0.002以上がより好ましく、0.005以上がさらに好ましく、特に好ましくは0.01以上、最適には0.02以上である。nx−nyの値は、具体的には0.002以上がより好ましく、上限は特に限定されないが、例えば0.1以下である。
【0170】
(厚み)
なお、本発明の位相差ポリマー層の厚みは、十分な位相差を得るために0.2μm以上が好ましく、製造しやすさと品質安定性の観点から100μm以下が好ましい。前記厚みは、より好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは1〜25μmである。なお、本発明の位相差ポリマー層におけるRthは、位相差フィルムの機能の観点から50nm以上がより好ましく、製造しやすさと品質安定性の観点から1000nm以下がより好ましい。前記Rthは、さらに好ましくは100〜600nm、特に好ましくは200〜300nmである。また、前記Reは、10〜1000nmの範囲であることがより好ましく、より好ましくは30〜500nmであり、さらに好ましくは30〜250nmである。
【0171】
《位相差フィルムの製造方法》
本発明の位相差フィルムの製造方法について説明する。
本発明の位相差フィルムの製造方法は特に限定されないが、例えば以下のような方法で製造することができる。すなわち、まず、セルロース混合エステルフィルム支持体を準備し、その上に、前記位相差ポリマー層を形成する。形成方法は特に限定されないが、例えば、前記セルロース混合エステルフィルム支持体上に、前記位相差ポリマーからなる溶液を塗布し乾燥させる方法、または前記位相差ポリマーからなる溶融混合物を塗布し固体化させる方法がある。これら二つの方法のうち、製造効率および光学的異方性制御等の観点から前者の方法が好ましい。前記溶液または溶融混合物には、帯電防止や前記支持体との密着性向上等のため、添加剤を適宜添加しても良い。前記溶液または溶融混合物の塗布方法も特に限定されず、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延製膜法、バーコート法、グラビア印刷法等の公知の方法を適宜用いることができる。
【0172】
前記位相差ポリマーからなる溶液において、溶媒は特に限定されない。前記溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸ブチルおよびカプロラクトン等のエステルや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノン等のケトンや、メチルエーテル(ジメチルエーテル)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジクロロエチルエーテル、フラン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、およびトリプロピレングリコール等のエーテルや、塩化メチレン、トリクロロエチレンおよびテトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素や、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミド等のアミドを使用することができ、これらは単独で使用しても二種類以上併用しても良い。前記溶液の濃度も特に限定されないが、粘度および塗工容易性等の観点から、溶媒100質量部に対し前記ポリマーを例えば5〜50質量部、好ましくは10〜40質量部混合する。また、前記溶液塗布後の乾燥温度も特に限定されず、自然乾燥(風乾)でも良いが、製造効率等の観点から、例えば40〜200℃に加熱して乾燥させることが好ましい。
【0173】
このような位相差ポリマー層は、そのまま本発明の位相差フィルムとして使用することもできるが、必要に応じ、適切な光学特性等を付与するために伸長や収縮等の処理を施しても良い。この処理方法は特に限定されないが、延伸法が好ましく、例えば自由端一軸延伸法、固定端一軸延伸法、逐次二軸延伸法および同時二軸延伸法等が挙げられる。前記式(I)の光学特性条件を付与するためには通常は一軸延伸法で十分であるが、二軸延伸法を用いても良い。また、前記セルロース混合エステルフィルム支持体ごと延伸処理等を施すことができる。この場合、セルロース混合エステルフィルム支持体の材料自体が本来有する収縮性等を利用しても良いし、前記の通り、あらかじめセルロース混合エステルフィルム支持体に伸長性や収縮性を付与しても良い。伸長率や収縮率等は、延伸機の条件設定等により適宜制御することがより好ましい。
【0174】
以上のようにして、本発明のセルロース混合エステルフィルムを支持体上に位相差ポリマー層ーを塗設した位相差フィルムを製造することができるが、本発明の製造方法はこれには限定されない。なお、本発明ではこのようにして製造した位相差フィルムは、前記セルロース混合エステルフィルム支持体と一体のまま使用することを特徴とするものである。しかし、本発明の使用方法とは異なるが、本発明の位相差フィルムからセルロース混合エステルフィルム支持体と分離した後、位相差ポリマー層を単独で使用することも利用できる。その際には、セルロース混合エステル支持体と前記位相差ポリマー層を分離する方法は特に限定されないが、例えば、以下のようにすれば良い。すなわち、別途ガラス、シリコンウェハまたはプラスチック等からなる基材を準備し、その上に粘着剤や接着剤等を塗布し、その塗布面と前記位相差フィルムとを密着させ、前記セルロース混合エステルフィルム支持体を前記位相差フィルムから剥離する(この操作を「転写」と呼ぶことがある)。
【0175】
この時、前記粘着剤や接着剤等の種類は特に限定されないが、例えば、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤や、ゴム系接着剤等が挙げられる。なお、本発明では「接着剤」と「粘着剤」とに明確な区別はないが、接着剤の中で被接着物同士の剥離や再接着が比較的容易であるものを「粘着剤」と呼ぶ。次に、本発明のセルロース混合エステルフィルムを支持体上に位相差ポリマー層を塗設した位相差フィルムを利用した位相差板、光学素子および画像表示装置について説明する。まず、本発明の位相差フィルムは、セルロース混合エステルフィルム支持体上に本発明の位相差ポリマーからなる位相差ポリマー層(光学補償層)が積層された位相差フィルムである。
【0176】
《光学素子》
次に、本発明の光学素子は、本発明の位相差フィルム、または本発明の位相差ポリマ−層と偏光子との積層体を含む光学素子である。それ以外の構成要素は特に限定されないが、前記偏光子の保護や前記光学素子の変形抑制のため、透明保護フィルムをさらに含み、前記透明保護フィルムを介して前記位相差フィルムまたは位相差ポリマー層と前記偏光子とが積層されていることが好ましい。例えば、偏光子に透明保護フィルムが積層された偏光板にさらに本発明の位相差ポリマー層を積層させて本発明の光学素子とすることができる。また、本発明の光学素子は、これら偏光子や透明保護フィルム以外の任意の構成要素を適宜含んでいても良い。以下、本発明の光学素子の各構成要素についてさらに具体的に説明する。
【0177】
前記偏光子としては、特に限定されないが、延伸したポリマーフィルムが良好な光学特性が得やすいため好ましい。例えば、従来公知の方法により、各種フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて染色し、架橋、延伸、乾燥することによって調製したもの等が使用できる。この中でも、自然光を入射させると直線偏光を透過するフィルムが好ましく、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。前記二色性物質を吸着させる各種フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルム等が挙げられ、これらの他にも、例えば、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルム等も使用できる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが良好な光学特性が得やすいため好ましい。また、前記偏光子の厚みは、例えば、1〜80μmの範囲であるが、これには限定されない。
【0178】
前記透明保護フィルムとしては、特に限定されず、従来公知の透明フィルムを使用できるが、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。このような透明保護フィルムの材質の具体例としては、本発明のセルロース混合エステルフィルムが好ましい。その他にトリアセチルセルロール(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この中でも、セルロースエステルフィルムが好ましく、偏光特性や耐久性の点から、表面をアルカリ等でケン化処理したTACフィルムが好ましく、さらに本発明のセルロース混合エステルフィルムを使用することが、環境変化に対する光学特特性の変化が小さくて特に好ましい。その他、前記特開2001−343529号公報(国際公開第01/37007号パンフレット)に記載のポリマーフィルム等も好ましく使用できる。
【0179】
また、前記透明保護フィルムは、例えば、色付きが無いことが好ましい。具体的には、下記式(V)で表される前記透明保護フィルムの厚み方向位相差値(R’)が、−90nm〜+75nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは−80nm〜+60nmであり、特に好ましくは−70nm〜+45nmの範囲である。前記位相差値が−90nm〜+75nmの範囲であれば、十分に保護フィルムに起因する着色(光学的な着色)を解消できる。
R’=[((nx’+ny’)/2)−nz’]×d’ (V)
ただし、式中、nx’、ny’およびnz’は、それぞれ前記透明保護フィルムにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸とは、前記透明保護フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向を示す。そして、d’は、前記透明保護フィルムの膜厚を示す。
【0180】
また、前記透明保護フィルムは、それ自体が光学補償機能を有していても良いし、または、光学補償機能を有する層がその上に積層されたものでも良い。これらは特に限定されず、例えば、液晶セルにおける位相差に基づく視認角の変化が原因である、着色等の防止や、良視認の視野角の拡大等を目的とした公知のものが使用できる。具体的には、例えば、前述した透明フィルムを一軸延伸または二軸延伸した各種延伸フィルム、ポリマーのZ軸配向処理(ポリマー溶液を塗布し乾燥させる等の処理により負の一軸性の光学的異方性を持たせること)により形成した光学的異方性層、液晶ポリマー等の配向フィルム、透明保護フィルム上に液晶ポリマー等の配向層を配置した積層体等が挙げられる。これらの中でも、良視認の広い視野角を達成できることから、前記液晶配向層との積層体が好ましく、特に、ディスコティック系やネマチック系の液晶ポリマーの傾斜配向層から構成される光学補償層を、前述のトリアセチルセルロースフィルム等で支持した積層体が好ましい。また、前記液晶配向層は、必要に応じ前記二色性物質を含んでいても良い。このような積層体としては、例えば、富士写真フイルム株式会社製「WVフィルム(商品名)」等の市販品が挙げられる。なお、前記光学補償機能を有する透明保護フィルムは、前記位相差フィルムやトリアセチルセルロースフィルム等のフィルム支持体を2層以上積層させることによって、位相差等の光学特性を制御したもの等でもよい。
【0181】
また、前記透明保護フィルムは、さらに、例えば、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキングの防止や拡散、アンチグレア等を目的とした処理等が施されたものでもよい。前記ハードコート処理とは、表面の傷付き防止等を目的とし、例えば、前記透明保護フィルムの表面に、硬化型樹脂から構成される、硬度や滑り性に優れた硬化被膜を形成する処理である。前記硬化型樹脂としては、例えば、シリコーン系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系等の紫外線硬化型樹脂等が使用でき、前記処理は、従来公知の方法によって行なうことができる。スティッキングの防止は、隣接する層との密着防止を目的とする。前記反射防止処理とは、偏光板表面での外光の反射防止等を目的とし、従来公知の反射防止層等の形成により行なうことができる。
【0182】
前記アンチグレア処理とは、外光が反射することによる透過光の視認妨害を防止すること等を目的とし、例えば、従来公知の方法によって、前記透明保護フィルムの表面に、微細な凹凸構造を形成することによって行なうことができる。このような凹凸構造の形成方法としては、例えば、サンドブラスト法やエンボス加工等による粗面化方式や、前述のような透明樹脂に透明微粒子を配合して前記透明保護フィルムを形成する方式等が挙げられる。
【0183】
前記透明微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等が挙げられ、この他にも導電性を有する無機系微粒子や、架橋または未架橋のポリマー粒状物等から構成される有機系微粒子等を使用することもできる。前記透明微粒子の平均粒子サイズは、特に限定されないが、例えば、0.5〜20μmの範囲である。また、前記透明微粒子の配合割合は、特に限定されないが、一般に、前述のような透明樹脂100質量部あたり2〜70質量部の範囲が好ましく、より好ましくは5〜50質量部の範囲である。
【0184】
前記透明微粒子を配合したアンチグレア層は、例えば、透明保護フィルムそのものとして使用することもでき、また、透明保護フィルム表面に塗工層等として形成されてもよい。さらに、前記アンチグレア層は、透過光を拡散して視野角を拡大するための拡散層(視覚補償機能等)を兼ねるものであってもよい。前記透明保護フィルムの厚みは、特に限定されず、例えば、位相差や保護強度等に応じて適宜決定できるが、通常、500μm以下であり、好ましくは5〜300μm、より好ましくは5〜150μmの範囲である。
【0185】
前記透明保護フィルムは、例えば、偏光子に前記各種透明樹脂を直接塗布する方法、前記偏光子に前記透明樹脂製フィルムを接着剤や粘着剤の層を介して積層する方法等の従来公知の方法によって適宜形成でき、また市販品を使用することもできる。ここで、粘着剤や接着剤の種類は特に限定されないが、例えば前記と同様である。また、前記透明保護フィルムは、前記偏光子の片側にのみ設けられていても良いが、両側に設けられていても良く、その場合、各透明保護フィルムは互いに同じでも異なっていても良い。なお、例えば、本発明の位相差板における前記基材が前記透明保護フィルムを兼ねていても良いし、前記基材が偏光子を兼ね、本発明の位相差フィルムが前記透明保護フィルムを兼ねていても良い。このような構成をとることにより、本発明の光学素子の薄型化を図ることも可能である。
【0186】
さらに、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層、アンチグレア層等は、前記透明保護フィルムとは別個に、例えば、これらの層を設けたシート等から構成される光学層として積層してもよい。また、前記偏光板は、さらにその他の光学層、例えば反射板、半透過反射板、輝度向上フィルム等、液晶表示装置等の形成に使用される従来公知の各種光学層を含んでいても良い。これらの光学層は、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよく、また、一層でもよいし、二層以上を積層してもよい。以下に、このような一体型偏光板について説明する。
【0187】
まず、反射型偏光板または半透過反射型偏光板の一例について説明する。前記反射型偏光板は、前記偏光子および透明保護フィルムにさらに反射板が、前記半透過反射型偏光板は、前記偏光子および透明保護フィルムにさらに半透過反射板が、それぞれ積層されている。前記反射型偏光板は、例えば、液晶セルの裏側に配置され、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置(反射型液晶表示装置)等に使用できる。このような反射型偏光板は、例えば、バックライト等の光源の内蔵を省略できるため、液晶表示装置の薄型化を可能にする等の利点を有する。
【0188】
前記反射型偏光板は、例えば、前記偏光板の片面に、金属等から構成される反射板を形成する方法等、従来公知の方法によって作製できる。具体的には、例えば、前記偏光板における透明保護フィルムの片面(露出面)を、必要に応じてマット処理し、前記面に、アルミニウム等の反射性金属からなる金属箔や蒸着膜を反射板として形成した反射型偏光板等が挙げられる。
【0189】
また、前述のように各種透明樹脂に微粒子を含有させて表面を微細凹凸構造とした透明保護フィルムの上に、その微細凹凸構造を反映させた反射板を形成した、反射型偏光板等も挙げられる。その表面が微細凹凸構造である反射板は、例えば、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制できるという利点を有する。このような反射板は、例えば、前記透明保護フィルムの凹凸表面に、真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式等、従来公知の方法により、直接、前記金属箔や金属蒸着膜として形成することができる。
【0190】
また、前述のように偏光板の透明保護フィルムに前記反射板を直接形成する方式に代えて、反射板として、前記透明保護フィルムのような適当なフィルムに反射層を設けた反射シート等を使用してもよい。前記反射板における前記反射層は、通常、金属から構成されるため、例えば、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続や、透明保護フィルムの別途形成を回避する点等から、その使用形態は、前記反射層の反射面が前記フィルムや偏光板等で被覆された状態であることが好ましい。
【0191】
一方、前記半透過型偏光板は、前記反射型偏光板において、反射板に代えて、半透過型の反射板を有するものである。前記半透過型反射板としては、例えば、反射層で光を反射し、かつ、光を透過するハーフミラー等が挙げられる。前記半透過型偏光板は、例えば、液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置等を比較的明るい雰囲気で使用する場合には視認側(表示側)からの入射光を反射して画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置等に使用できる。すなわ、前記半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、一方、比較的暗い雰囲気下においても、前記内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置等の形成に有用である。
【0192】
次に、前記偏光子および透明保護フィルムにさらに輝度向上フィルムが積層された偏光板の一例を説明する。前記輝度向上フィルムとしては、特に限定されず、例えば、誘電体の多層薄膜や、屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体のような、所定偏光軸の直線偏光を透過して、他の光は反射する特性を示すもの等が使用できる。このような輝度向上フィルムとしては、例えば、3M社製の商品名「D−BEF」等が挙げられる。また、コレステリック液晶層、特にコレステリック液晶ポリマーの配向フィルムや、その配向液晶層をフィルム基材上に支持したもの等が使用でき、例えば、前記コレステリック液晶の選択反射といわゆるλ/4板との組み合わせを利用した輝度向上フィルムが好ましい。これらは、左右一方の円偏光を反射して、他の光は透過する特性を示すものであり、例えば、日東電工社製の商品名「PCF350」、Merck社製の商品名「Transmax」等が挙げられる。その他、前記輝度向上フィルムとしては、偏光方向による異方性散乱を利用した散乱フィルムや、いわゆるワイヤーグリッド型偏光子と呼ばれるものが挙げられる。
【0193】
本発明の光学素子の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法によって製造することができるが、例えば、各構成要素同士(位相差フィルム、偏光子、透明保護フィルム等)を粘着剤や接着剤等の層を介して積層させる方法によって製造できる。前記粘着剤や接着剤等の種類は特に限定されず、前記各構成要素の材質等によって適宜決定できるが、例えば、前記と同様に、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤や、ゴム系接着剤等が挙げられる。このような粘着剤や接着剤等は、例えば、湿度や熱の影響によっても剥がれ難く、光透過率や偏光度にも優れる。具体的には、前記偏光子がPVA系フィルムの場合、例えば、接着処理の安定性等の点から、PVA系接着剤が好ましい。また、前記接着剤や粘着剤は、感圧性であっても良い。これらの接着剤や粘着剤は、例えば、そのまま偏光子や透明保護フィルムの表面に塗布してもよいし、前記接着剤や粘着剤から構成されたテープやシートのような層を前記表面に配置してもよい。また、例えば、水溶液として調製した場合、必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒を配合してもよい。なお、前記接着剤を塗布する場合は、例えば、前記接着剤水溶液に、さらに、他の添加剤や、酸等の触媒を配合してもよい。このような接着層の厚みは、特に限定されないが、例えば、1nm〜500nmであり、好ましくは10nm〜300nmであり、より好ましくは20nm〜100nmである。
【0194】
また、場合によっては、接着剤や粘着剤を用いる代わりに、ある構成要素上に別の構成要素を塗工等により直接形成して積層させることができる。例えば、本発明の位相差フィルムを偏光子に積層させる場合、前記位相差フィルムと基材との積層体を準備し、転写により前記位相差フィルムのみを前記偏光子上に接着しても良いし、前記偏光子上に本発明の位相差フィルムを直接塗工して形成しても良い。また、本発明の位相差板を偏光子に積層させる場合、両者を前記接着剤や粘着剤で接着しても良いし、前記偏光子上に基材および本発明の位相差フィルムをこの順番で塗工して形成しても良い。
【0195】
以上のような本発明の光学素子を形成する偏光子、透明保護フィルム、光学層、粘着剤層等の各層は、例えば、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で適宜処理することによって、紫外線吸収能を持たせたものでもよい。
【0196】
本発明の光学素子は、例えば、液晶表示装置等の製造過程において、液晶セル表面等に各構成要素を順次別個に積層する方式によっても製造できる。しかし、あらかじめ前記各構成要素を積層し、本発明の光学素子とした後に液晶表示装置等の製造に供する方が、例えば、品質の安定性や組立作業性等に優れ、液晶表示装置等の製造効率を向上できるという利点があるため好ましい。
【0197】
本発明の光学素子は、例えば、液晶セル等の他の部材への積層が容易になることから、その外側の片面または両面に、前記のような粘着剤層や接着剤層をさらに有していることが好ましい。前記粘着剤層等は、例えば、単層体でもよいし、積層体でもよい。前記積層体としては、例えば、異なる組成や異なる種類の単層を組み合わせた積層体を使用することもできる。また、前記光学素子の両面に配置する場合は、例えば、それぞれ同じ粘着剤層でもよいし、異なる組成や異なる種類の粘着剤層であってもよい。このように前記光学素子に設けた粘着剤層等の表面が露出する場合は、前記粘着層等を実用に供するまでの間、汚染防止等を目的として、剥離ライナーによって前記表面をカバーすることが好ましい。この剥離ライナーは、適当なフィルムに、必要に応じて、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤による剥離コートを設ける方法等によって形成できる。前記フィルムの材質は特に限定されないが、例えば、前記透明保護フィルムと同様のものを使用することができる。
【0198】
本発明の光学素子の使用方法は特に限定されないが、例えば、液晶セル表面に配置する等、各種画像表示装置への使用に適している。
【0199】
《画像表示装置》
次に、本発明の画像表示装置について説明する。本発明の画像表示装置は、本発明の位相差フィルム、本発明の位相差板または前記本発明の光学素子を含む画像表示装置である。これ以外には、本発明の画像表示装置は特に限定されず、その製造方法、構造、使用方法等は任意であり、従来公知の形態を適宜適用することができる。
【0200】
(液晶表示装置)
本発明の画像表示装置の種類は特に限定されないが、液晶セルを含み、前記液晶セルの少なくとも片側に、本発明の位相差フィルム、本発明の位相差板、または本発明の光学素子が積層されている液晶表示装置が好ましい。例えば、本発明の位相差フィルムや光学素子を液晶セルの片側または両側に配置して液晶パネルとし、反射型や半透過型、あるいは透過・反射両用型等の液晶表示装置に用いることができる。前記液晶表示装置を形成する前記液晶セルの種類は、任意で選択でき、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、ツイストネマチック型やスーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のもの等、種々のタイプの液晶セルが使用できる。本発明の位相差フィルム、位相差板および光学素子は、特にVA(垂直配向;Vertical Aligned)セルの光学補償に非常に優れているので、VAモードの液晶表示装置における視野角補償に非常に有用である。
【0201】
前記液晶セルは、通常、対向する液晶セル基板の間隙に液晶が注入された構造であって、前記液晶セル基板としては、特に限定されず、例えば、ガラス基板やプラスチック基板が使用できる。なお、前記プラスチック基板の材質としては、特に限定されず、従来公知の材料が挙げられる。また、本発明の本発明の位相差フィルム、位相差板、または光学素子は液晶セルの片面に設けても両面に設けても良く、液晶セルの両面に前記光学素子等の部材を設ける場合、それらは同じ種類のものでもよいし、異なっていてもよい。さらに、液晶表示装置の製造に際しては、例えば、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、光拡散板やバックライト等の適当な部品を、適当な位置に1層または2層以上配置することができる。
【0202】
本発明の液晶表示装置における液晶パネルの構造は特に限定されないが、例えば、液晶セル、本発明の位相差フィルム、偏光子および透明保護フィルムを含み、前記液晶セルの一方の面に前記位相差フィルム、前記偏光子および前記透明保護フィルムがこの順序で積層されていることが好ましい。また、前記本発明の位相差フィルムにおいて複屈折層(光学的異方性層および位相差層)が透明基材上に形成されている場合、その配置は特に限定されないが、例えば、前記複屈折層側が前記液晶セルに面しており、前記透明基材側が前記偏光子に面している配置が挙げられる。
【0203】
本発明の液晶表示装置がさらに光源を含む場合、その光源は特に限定されないが、例えば、光のエネルギーが有効に使用できることから、例えば、偏光を出射する平面光源であることが好ましい。さらに、本発明の画像表示装置は、前述のような液晶表示装置には限定されず、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)等の自発光型表示装置であっても良い。自発光型フラットディスプレイに使用する場合は、例えば、本発明の位相差フィルムは、光学的異方性層の面内位相差値をλ/4にすることで、円偏光を得ることができるため、反射防止フィルターとして利用できる。
【0204】
(EL表示装置)
以下に、本発明のエレクトロルミネッセンス(EL)表示装置について説明する。本発明のEL表示装置は、本発明の位相差フィルムまたは光学素子を有する表示装置であり、このEL表示装置は、有機EL表示装置および無機EL表示装置のいずれでもよい。近年、EL表示装置においても、黒状態における電極からの反射防止として、例えば、偏光子や偏光板等の光学フィルムをλ/4板とともに使用することが提案されている。本発明の位相差フィルムや光学素子は、特に、EL層から直線偏光、円偏光もしくは楕円偏光のいずれかの偏光が発光されている場合、または、正面方向に自然光を発光していても斜め方向の出射光が部分偏光している場合等に非常に有用である。
【0205】
まず、一般的な有機EL表示装置について説明する。前記有機EL表示装置は、一般に、透明基板上に、透明電極(陽極)、有機発光層および金属電極(陰極)がこの順序で積層された発光体(有機EL発光体)を含む。前記有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えば、トリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層とアントラセン等の蛍光性有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、また、前記正孔注入層と発光層と電子注入層との積層体等、種々の組み合わせが挙げられる。
【0206】
このような有機EL表示装置の発光原理は以下の通りである。すなわち、前記陽極と陰極とに電圧を印加することによって、前記有機発光層に正孔と電子とが注入され、前記正孔と電子とが再結合することによってエネルギーが生じる。そして、そのエネルギーによって蛍光物質が励起され、前記蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。前記正孔と電子との再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、電流と発光強度とは、印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0207】
前記有機EL表示装置においては、前記有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明であることが必要なため、通常、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明導電体で形成された透明電極が陽極として使用される。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に、仕事関数の小さな物質を用いることが重要であり、通常、Mg−Ag、Al−Li等の金属電極が使用される。
【0208】
このような構成の有機EL表示装置において、前記有機発光層は、例えば、厚み10nm程度の極めて薄い膜で形成されることが好ましい。これは、前記有機発光層においても、透明電極と同様に、光をほぼ完全に透過させるためである。その結果、非発光時に、前記透明基板の表面から入射して、前記透明電極と有機発光層とを透過して前記金属電極で反射した光が、再び前記透明基板の表面側へ出る。このため、外部から視認した際に、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見えるのである。
【0209】
本発明の有機EL表示装置は、例えば、前記透明電極の表面に本発明の位相差フィルムまたは光学素子が配置されることが好ましい。この構成を有することにより、外界の反射を抑え、視認性向上が可能である等の効果を示す有機EL表示装置となる。例えば、前記位相差フィルムおよび偏光板を含む本発明の光学素子は、外部から入射して前記金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって前記金属電極の鏡面を外部から視認させない等の効果がある。特に、本発明の位相差フィルムが1/4波長板であり、かつ、前記偏光板と前記位相差フィルムとの偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、前記金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0210】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、前記偏光板によって直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は、前記位相差フィルムによって、一般に楕円偏光となるが、特に前記位相差フィルムが1/4波長板であり、しかも前記角がπ/4の場合には、円偏光となる。
この円偏光は、例えば、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び、有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、前記位相差フィルムで再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、前記偏光板の偏光方向と直交しているため、前記偏光板を透過できず、その結果、前述のように、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができるのである。
【実施例】
【0211】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0212】
[実施例1]
(1−1)セルロース混合エステルペレットの調製
セルロース混合エステルとして、セルロース混合エステルA(アセチル置換度1.00、プロピオニル置換度1.90、トータル置換度2.90、粘度平均重合度180、含水率0.1質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度140mPa・s、平均粒子サイズ1.4mmであって標準偏差0.4mmである粉体)を用いた。なお、セルロース混合エステルAは、残存酢酸量が0.05質量%、残留プロピオン酸が0.03質量%であり、Ca含有量が51ppm、Mg含有量が15ppm、Fe含有量が0.45ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を0.16ppm含むものであった。
【0213】
また6位アセチル基の置換度は0.31、6位プロピオニル基の置換度は0.66であり全アセチル中の33.5%であった。また、質量平均分子量/数平均分子量比は2.7であった。得られたセルロース混合エステルAを、メチレンクロライド/メタノール=90/10(質量比)を用いてガラス板上に溶液製膜して、80μmの厚さのフィルムを得た。このセルロース混合エステルAのみからなるフィルムのイエローインデックスは0.86であり、ヘイズは0.1、透明度は93.9%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は125℃であった。このセルロース混合エステルAは、綿花リンターから採取したセルロースを原料として合成した。
【0214】
このセルロース混合エステルAを105℃で、5時間乾燥し、含水率を0.07質量%にした後に、微粒子を表1に従って添加した。また、セルロース混合エステル固形分に対して、可塑剤としてトリフェニルフォスフェートをセルロース混合エステルに対して2.5質量%添加およびソルビトールテトラアセテート2.5質量%添加し、さらにUV剤a{2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン}を0.5質量%、UV剤b{2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール}を0.2質量%、およびUV剤c{2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール}を0.25質量%添加した。また、安定剤として、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト0.25質量%、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕0.25質量%、およびビス[(1,2,2,6,6、−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート0.25質量%を添加した。
【0215】
これらを混合して2軸混練押し出し機のホッパーに投入し、さらに200℃でスクリュー回転数200rpm、滞留時間20秒で混練して融解した。さらに、水浴中で直径3mmのストランド状に押し出し、1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒間通過させて温度を下げ、長さ5mmに裁断してペレットを得た。得られたセルロース混合エステルAからなるペレットを、105℃で120分間乾燥し、しかる後にアルミニウムを有するラミネートフィルムからなる防湿袋に袋詰めして保管した。
【0216】
(1−2)ろ過
上記セルロース混合エステルを直径3mm、長さ5mmの円柱状のペレットに成形したものを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これをホッパーに投入し205℃で溶融した後、口径5μmの焼結金属フィルターを用いて、10MPaで速度0.1m/分にて加圧ろ過した。得られたろ過物は、透明かつ均質な組成であることを確認した。
【0217】
(1−3)溶融製膜
これを109℃になるように調整したホッパーに投入した。上流側溶融温度は190℃、中間溶融温度は205℃、下流側溶融温度は表1に記載の温度とし、圧縮比は14、T−ダイ温度は(Tg−7℃)、T−ダイとキャスティングドラムの間の距離は8cm、固化速度は30℃/秒、キャスティングドラム温度は第一ロール(上流)が(Tg−10℃)、第ニロール(上流)が(Tg−11℃)、第三ロール(上流)が(Tg−12℃)とし、冷却速度は−15℃/秒とした。そして10分間かけてメルトを溶融押出しした。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、ニップロールを介して、巻き取り張力6kg/cm2で巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、巻き取った。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で500m巻き取った。ただし、試料1−5のセルロース混合エステルフィルムについては、巻き取る前に流延方向1.2倍、幅方向1.4倍に延伸した。フィルムの膜厚は、表1に従って作製した。このようにして得たセルロース混合エステルフィルムの物性を、上記の方法で測定して表1に記載した。
【0218】
(1−4)位相差ポリマー層の作製
次に、セルロース混合エステルフィルム支持体の上に、以下のようにして位相差ポリマー層を作製した。まず、位相差ポリマーとしてのポリイミドである2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)と、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(PFMB)とを、米国特許第5,344,916号明細書に記載の方法により共重合させて合成した。前記ポリイミド粉末の分子量を測定したところ、質量平均分子量Mw=59400、数平均分子量Mn=19200であった。次に、このポリイミド粉末にメチルイソブチルケトン(MIBK)を少しずつ加えながら攪拌し、完全に溶解させた。
【0219】
そして、この溶液中に紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社、商品名TINUVIN−384−2)を、前記ポリイミド粉末に対し3質量%加え、メチルイソブチルケトンをさらに加えて、前記溶液中の溶質濃度が15質量%となるように調整した。この位相差ポリマー溶液を、前記セルロース混合エステルフィルム支持体の上に塗布して130℃で5分間乾燥し、負の一軸性の光学的異方性を有する厚さ8μmのポリイミド被膜を形成した。そして、この被膜をセルロース混合エステルフィルムごとに150℃で5%自由端一軸延伸し(セルロース混合エステルの流延方向と直交する方向に)、前記セルロース混合エステルフィルム支持体上に位相差ポリマー層を積層した位相差フィルムを得た。
【0220】
(1−5)評価
得られた各試料について、セルロース混合エステルフィルム支持体および位相差ポリマー層を塗設したものを、下記の方法に従って評価し表1に記載した。
微粒子を含有しない比較用位相差フィルム試料1−1の支持体であるセルロース混合エステルフィルムは、セルロース混合エステルフィルム支持体のキシミ値が大きく、ダイスジ、ダンムラ、傷付きおよび接着性の全てが著しく悪いものであった。また、その上に位相差ポリマー層を塗設した比較用位相差フィルム試料1−1は、位相差ポリマー自身のReムラおよびRthムラが著しく悪いものであった。これは、溶融製膜時の面状が悪い事に起因し、光学特性を大きく発現する位相差ポリマー層の不均一性が誘起された結果である。
【0221】
これに対して、微粒子を所望量およびサイズにコントロールして作製した本発明の位相差フィルム試料1−2〜1−7のセルロース混合エステルフィルム支持体は、フィルム中での微粒子の平均2次粒子サイズも小さく、キシミ値も小さくかつRaも小さく、ダイスジ、ダンムラも良好であり、さらに傷付きや接着性も良好で全ての点で優れたものであった。また、その上に位相差ポリマー層を塗設した本発明の位相差フィルム試料はReムラおよびRthムラも小さくて優れたものであった。なお、これらの本発明の位相差フィルム支持体であるセルロース混合エステルフィルムは、流延製膜中の搬送工程での取り扱いも全く問題ないものであり、巻き取りフィルムもその巻き姿も整然としたものであった。また、巻き取った後のロールフィルムを巻きほぐして、フィルム面上の傷付きが無い、優れたフィルムであることを確認した。
【0222】
一方、微粒子の含有量が少ない比較試料1−8のセルロース混合エステルフィルム支持体は、キシミ値が大きく、ダンムラ、傷付きおよび接着性が悪いものであった。また、その上に位相差ポリマー層を塗設した位相差フィルム試料はReムラおよびRthムラが大きく問題となるレベルであった。さらに、微粒子の含有量が多すぎる比較試料1−9は、ダイスジ、ダンムラおよび傷付きが悪化することが確認され、問題となるレベルであった。また、ヘイズや透過率の悪化も見られるものでもあった。また、微粒子の平均一次粒子サイズが大きい比較試料1−12は、キシミ値が大きくなりダイスジ、ダンムラ,傷付きが悪く、位相差フィルムとしてのReムラおよびRthムラの劣るものであった。
【0223】
また、下流側溶融温度を低くして作製した比較試料1−10用のセルロース混合エステルフィルム支持体は、表面粗さが大きくてダイスジ、ダンムラも悪く問題であり、位相差フィルムとしてのReムラとRthムラも悪いものであった。さらに、下流側溶融温度が高温(特許文献3の特開2000−352620号公報実施例に記載)である比較試料1−11は、キシミ値が大きくなり、Ra低く、ダイスジ、ダンムラ、傷付きおよび接着性の全てが悪いものであった。さらに、フィルムの黄着色が見られ問題であることが確認された。さらに、位相差フィルムとしてのReムラとRthムラも悪いものであった。
【0224】
以上から、微粒子を適切に含有させることで、優れた光学用フィルムを作製することができた。なお、本発明の試料1−2〜試料1−7は、残存酢酸量が0.01質量%未満であり、Ca含有量が0.05質量%未満、Mg含有量が0.01質量%未満であった。また、フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は−0.04%であり、熱収縮が生じ難いフィルムであった。
【0225】
ここで本発明の位相差フィルム用のセルロース混合エステルフィルム試料の代表として試料1−3のセルロース混合エステルフィルムは、傾斜幅は19.1nm、限界波長は389.0nm、吸収端は376.1nm、380nmの吸収は1.7%であり、軸ズレ(分子配向軸)は0.15°、弾性率は長手方向が2.86GPa,幅方向が2.84GPa、抗張力は長手方向が113MPa、幅方向が108MPa、伸長率は長手方向が57%,幅方向が59%であり、光弾性係数は9.1×10-13cm2/kgfであった。ヘイズは0.2%であり、透過率は93.1%であった。耐折強度は、105回であり優れたフィルム強度を有するものであった。また、微粒子粉落ちも見られず、耐湿熱性もAであり問題なかった。また、ReおよびRthの波長依存性(波長分散性)は|Re(700)−Re(400)|が9nmであり、|Rth(700)−Rth(400)|は20nmであった。
【0226】
アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.1,ウェットでは1.1であった。また、含水率は1.7質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.08%であり幅方向が−0.09%であった。異物はリントが5個/m未満であった。透湿度は、560g/m2であった。
また、輝点異物は、0.02mm以下が10個/3m未満、0.02〜0.05mmが4個/3m未満、0.05mm以上はなかった。これらの結果は、光学用途に対しては優れた特性を有することを示すものである。また、塗布後の接着も見られず(○)、透湿度も良好(○)であった。その他の本発明の試料も試料1−3とほぼ同等の特性値を示すものであった。
【0227】
【表1】

【0228】
(測定方法および評価方法)
以下にセルロース混合エステルフィルム、位相差ポリマー層および位相差フィルムに関する測定方法と評価方法ついて記載する。
【0229】
(キシミ値)
試料100mm×200mmおよび75mm×100mmを、25℃・相対湿度60%で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株))を用いて、大きいフィルムを台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルムを載せた。おもりを水平方向に引っ張り、動き出した時の力、動いているときの力を測定した。そして、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ次式に従い算出した。
F=μ×W (W:おもりの重さ(kgf))
(動摩擦(鋼球法))
試料35mm×100mmを、25℃・相対湿度60%で2時間調湿し、動摩擦係数測定器(東洋ボールドウィン)を用いて、測定面を上にして試料を台に固定し、鋼球を試料上におろし、台を送り測定した。
【0230】
(厚みムラ、Reムラ、Rthムラ)
MD方向のサンプリングは、長手方向に1m間隔で100点、1cm四方の大きさにサンプリングすることにより行った。また、TD方向サンプリングは、製膜全幅にわたり、1cm四方の大きさに5cm等間隔でサンプルングすることにより行った。それぞれ得られたサンプルの各最大値と最小値の差を、各平均値で割り、百分率で示したものをReムラ、Rthムラとした。また、厚みムラも各サンプルの厚みを測定し、MD方向、TD方向の各最大値と最小値の差を、各平均値で割り、百分率で示したものを厚みムラとした。
【0231】
(ダイスジ)
流延方向にスジ状に発生するダイスジの評価は、反射光源のもと目視で観察し、以下に従って実施した。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: ダイスジがはっきりと認められた。
D: ダイスジが全面に著しく認められた。
【0232】
(ダンムラ)
流延方向と直交する方向に認められるダン状のムラ(ダンムラ)を、反射光源のもと目視で観察し、以下に従って評価した。
A: ダンムラは見られなかった。
B: ダンムラが微かに見られた。
C: ダンムラがはっきりと認められた。
D: ダンムラが全面に著しく認められた。
【0233】
(傷付き)
キシミ値を評価したフィルムを目視で観察し、以下に従って評価した。
A: 傷付きは全く認められなかった。
B: 傷付きがわずかに認められた。
C: 傷付きがかなり認められた。
D: 傷付きが著しく認められた。
【0234】
(接着性)
得られた試料フィルム5cmX5cmを25℃、相対湿度80%で3時間調湿した後、フィルムの溶融製膜時のキャスティングドラム面とエアー面を重ね合わせ、防湿袋に封じ込んだ後に、フィルム全体に10kgの荷重をかけた。さらに、60℃で3日間経時させ25℃、相対湿度60%に戻し2時間後にフィルム同士の接着跡を目視確認し下記に従って判断した。
A: 接着跡は見られなかった。
B: 接着跡が微かに見られた。
C: 接着跡がかなり認められた。
D: 接着跡が全面に著しく認められた。
【0235】
(ReおよびRth並びに、湿度に伴うReおよびRth変動)
セルロース混合エステルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差値を測定することにより、正面レターデーション値(Re)と厚さ方向のレターデーション値(Rth)とを算出させた。特に断らない場合ReおよびRthは、この値をさす。
【0236】
(Re湿度変化、Rth湿度変化)
位相差フィルム試料を、温度25℃、相対湿度10%および80%の環境下、1日間調湿して、ReとRthを両条件下で評価した。そして、ReおよびRthの湿度変化による変化量を、その絶対値で評価した。
【0237】
(位相差ポリマー層のRe、Rth測定)
実施例の位相差ポリマー層について厚み方向位相差Rthおよび面内位相差Reを測定した。測定に先立ち、各位相差ポリマー層をガラス基板上に転写し、ガラス基板と位相差ポリマー層とを含む積層体を作製した。すなわち、まず、ガラス基板を準備し、その上に接着剤(日東電工株式会社製アクリル粘着剤)を塗布した。さらに、その塗布面と位相差ポリマー層表面とを密着させ、前記セルロース混合エステルフィルム支持体を前記位相差ポリマー層から剥離して目的の積層体を得た。そして、この積層体を用いて位相差測定を行なった。
【0238】
測定結果によると、実施例および比較例の位相差フィルムは、いずれも前記式(I)の光学特性条件(nx>ny>nz)を満たし、二軸性の光学的異方性を有していた。さらに、いずれの位相差フィルムも、Rth=200nm、Re=55nmという測定値を示し、十分に大きな位相差を有していることが分かった。
【0239】
(光弾性係数)
(ア)1cm幅×10cm長のフィルムを、長手方向がMD方向とTD方向になるように2種類切り出した。
(イ)これをエリプソ測定装置(日本分光製、M−150)にセットし、長手方向(10cm長)に沿って100g、200g、300g、400g、500gの荷重を掛けながら、順次25℃・相対湿度60%において632.8nmの光でReを測定した。
(ウ)横軸に応力(荷重をフィルム断面積で割った値(kgf/cm2))、縦軸にRe変化(nm)をプロットし、この傾きから光弾性(cm2/kgf)を求めた。
(エ)2種類の試料の測定値を平均して光弾性(cm2/kgf)とした。
【0240】
(セルロース混合エステルの置換度)
セルロースの水酸基に対するアシル基の置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83〜91頁(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
(セルロース混合エステルの重合度)
絶乾したセルロース混合エステル約0.2gを精秤して、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
ηrel =T/T0 T :測定試料の落下秒数
[η]=(1nηrel )/C T0 :溶剤単独の落下秒数
DP=[η]/Km C :濃度(g/l)
Km:6×10-4
【0241】
(ヘイズ)
試料40mm×80mmを、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
(透過率)
試料20mm×70mmについて、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透明度を測定した。
【0242】
(分子配向軸または軸ズレ)
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて、試料70mm×100mmの軸ズレ角度を測定した。幅方向に全幅にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(軸ズレ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとったものである。
(耐折強度)
試料120mm×120mmを、25℃・相対湿度60%で2時間調湿し、ISO8776−1988に従って折り曲げによって切断するまでの往復回数を測定した。
【0243】
(アルカリ加水分解性)
試料100mm×100mmを、自動アルカリケン化処理装置(新東科学(株))にて、60℃,2mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて3分間ケン化し、4分間水洗した後、30℃,0.01mol/L希硝酸にて4分間中和し、4分間水洗した。その後、100℃で3分間乾燥し、さらに自然乾燥を1時間行なって、下記の目視基準とケン化処理前後のヘイズ値からアルカリ加水分解性を評価した(25℃・相対湿度60%)。
A: 白化は全く認められなかった。
B: 白化がわずかに認められた。
C: 白化がかなり認められた。
D: 白化が著しく認められた。
【0244】
(微粒子粉落ち)
試料フィルム20cmX30cmを25℃、相対湿度60%で3時間調湿した後、フィルムの溶融製膜時のキャスティングドラム面をガラス板に両面テープで貼り合せ、表を黒紙10cmX10cmに1kgの荷重をかけて、10往復した。その後、黒紙の表面を目視観察し粉状の異物を下記に従って判断した。
A: 粉上異物は見られなかった。
B: 粉上異物が微かに見られた。
C: 粉上異物がかなり認められた。
D: 粉上異物が全面に著しく認められた。
【0245】
(カール値)
試料35mm×3mmを、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株))で相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定した。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0246】
(耐湿熱性)
試料35mm×25mmを、85℃・相対湿度90%で200,500,1000時間それぞれ経時させて、プラチナスレインボー(PR−1G、タバイ エスペック(株))にて、2枚の試料を接着剤にて張り合わせて調湿し、試料の状態を目視で観察し、色の変化を測定して以下の基準で評価した。
A: 特に異常が認められなかった。
B: 分解臭または分解による形状変化が認められた。
【0247】
(含水率)
試料7mm×35mmを水分測定器と試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))を用いてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
(残留溶剤量)
ガスクロマトグラフィー(GC−18A、島津製作所(株))を用いて、試料7mm×35mmのベース残留溶剤量を測定した。
【0248】
(熱収縮率)
試料30mm×120mmを90℃・相対湿度5%で24時間、120時間経時させ、自動ピンゲージ(新東科学(株))にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開けて、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに90℃・相対湿度5%にて24時間、120時間熱処理してパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。熱収縮率を{(L1−L2)/L1}×100により求めた。
【0249】
(透湿度、透湿係数)
試料70mmφを25℃・相対湿度90%および40℃・相対湿度90%でそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量(g/m2)を算出した。そして、透湿度を調湿後質量−調湿前質量により求めた。
【0250】
(寸法安定性)
寸法安定性は熱収縮率で評価した。試料の縦方向および横方向より30mm幅×120mm長さの試験片を各3枚採取した。試験片の両端に6mmφの穴をパンチで100mm間隔に開けた。これを23±3℃、相対温度65±5%の室内で3時間以上調湿した。自動ピンゲージ(新東科学(株)製)を用いてパンチ間隔の原寸(L1)を最小目盛り/1000mmまで測定した。次に試験片を80℃±1℃の恒温器に吊して3時間熱処理し、25±3℃、相対湿度60±5%の室内で3時間以上調湿した後、自動ピンゲージで熱処理後のパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。そして以下の式により熱収縮率を算出した。
熱収縮率=(L1−L2/L1)×100
【0251】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STM T50BPを用いて、23℃、70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
(輝点異物の測定)
直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間に各試料を置いた。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で1cm2当たりの直径に応じた輝点数をカウントした。
(異物検査)
試料の全幅×1mの範囲に反射光をあて、膜中異物を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で異物(リント)を確認して評価した。
【0252】
(Tgの測定)
DSCの測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0253】
[実施例2]
次に、セルロース混合エステルフィルムを偏光板等に応用した実施例を記載する。
(2−1)セルロース混合エステルフィルムのケン化
本発明の位相差フィルム試料1−3のセルロース混合エステルフィルム表面側、およびセルローストリアセテート(富士写真フイルム株式会社製フジタックTD80、Reは2.1nm、Rthは39nm、膜厚80μm))を以下の方法でケン化した。すなわち、KOHを1.5mol/Lとなるように溶解した後に、60℃に調温したものをケン化液として用いた。そして、60℃のフィルム上に10g/m2塗布し、1分間ケン化した。この後、50℃の温水をスプレーにより、10リットル/m2・分で1分間吹きかけ洗浄した。その後、110℃の乾燥風を風速15m/秒で送り、5分間で乾燥した。これらのケン化は、ロール状のフィルムを速度45m/分で移動させながら実施した。得られた本発明のセルロース混合エステルフィルム1−3のケン化フィルムを試料2−1とし、セルローストリアセテート試料2−2とした。
【0254】
(2−2)偏光膜の作成
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜(偏光層)を調製した。
(2−3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記ケン化処理した位相差フィルム試料2−1のセルロース混合エステルフィルムのケン化面、およびセルローストリアセテートフィルム試料2−2のケン化面を、これらで上記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロース混合エステルフィルム試料2−1の長手方向が90度となるように張り合わせた。このうち本発明のセルロース混合エステルフィルム2−1と、セルローストリアセテートフィルム試料2−2を特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、目視で色調変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)で評価し、表示ムラの発生している領域を目視で評価し、それが発生している割合(%)を求めたところ、本発明の位相差フィルム試料2−1の色調変化は1であり、非常に優れたものであった。また、特開平2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が吸収軸に対して45°の角度となるように延伸した偏光板についても同様に本発明の位相差フィルムを用い作製したが、上記同様良好な結果が得られた。
【0255】
[実施例3]
(1)VAパネルへの実装
本発明の実施例2で作製した偏光板を、視認側偏光板は26’’ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。VAモードの液晶TV(ソニー(株)製、KDL−L26RX2)の、表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に(2−3)で作製した本発明の偏光板を組み合わせで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。
【0256】
プロテクトフィルムを剥した後、測定機(ELDIM社製、EZ−Contrast 160D)を用いて、黒表示および白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80°以上の良好な視野角特性が得られた。さらに、耐久試験による光漏れおよび偏光板剥がれテストを実施し問題ないことを確認した。耐久性テスト条件は以下の通りである。
1)60℃・相対湿度90%の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
2)80℃dryの環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し1時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
【0257】
[実施例4]
実施例1の(1−1)のセルロース混合エステルペレットの調製において微粒子を添加せずに、(1−3)溶融製膜工程において微粒子をセルロース混合エステルと共にホッパーに投入した点を変更した以外は、本発明の位相差フィルム試料1−3と全く同様にして、比較試料4−1を作製した。微粒子の平均二次粒子サイズが著しき大きいものであり、ヘイズ、透過率が著しく悪化し、かつ傷付きの悪いものであった。
【0258】
[実施例5]
実施例1の本発明の試料1−3における(1−1)セルロース混合エステルペレットの調製において、剥離剤としてPF−1をセルロース混合エステルAに対して0.2質量%添加する以外は、試料1−3と全く同様にして、本発明の試料5−1を作製した。フィルム中での微粒子の平均2次粒子サイズも小さく、キシミ値も小さくかつRaも小さくダイスジ、ダンムラも良好であり、さらに光学特性(ヘイズ、透過率、Re、Rth、Reムラ、Rthムラ)、膜厚ムラ、および傷付き、接着性も良好で全ての点で優れたものであった。特に、剥ぎ取り時の荷重がPF−1を添加しない試料1−3に対して、約1/2となり優れた搬送性が確認された。従って、剥離剤としてフッ素系化合物(特に重合物)を含有させることが、有効であることが確証された。
【0259】
[実施例6]
(6−1)セルロース混合エステルのペレット化
合成した表2のセルロース混合エステルを120℃で3時間送風乾燥し、含水率を0.1質量%にした。これに、表2に記載の本発明のSiO2粒子(アエロジルR972V)0.05質量%、可塑剤、および紫外線吸収剤{「紫外線吸収剤a」2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(0.8質量%)、「紫外線吸収剤b」2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(0.25質量%)}を添加し、さらに安定剤トリス−3,5−ジーt−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート(0.15質量部)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4‘−ビフェニレンジフォスファイト(0.15質量部)、ビス[(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート(0.15質量部)からなる混合物を、2軸混練押出し機を用いて190℃で溶融混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)を行った。水浴中に直径3mmのストランド状に押出し、長さ5mmに裁断した。
【0260】
【表2】

【0261】
(6−2)溶融製膜
上記方法で調製したセルロース混合エステルペレットを、100℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これを(Tg−10℃)になるように調整したホッパーに投入し、単軸押出機を用いて、圧縮比3.0のスクリューを用い、上流供給部(195℃)、中間圧縮部(210℃)、下流計量部(228℃)でセルロース混合エステルを溶融押出した。次に、溶融したセルロース混合エステルをギアポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、3μmフィルターでろ過し、230℃のダイを通してキャストドラムに流延した。この時、3kVの電極をメルトから5cm離した所に設置し、両端5cmずつ静電印加処理を行った。(Tg−5℃)、Tg、(Tg−10℃)に設定した直径60cmの3本キャスティングドラムを通し固化させ、表2に記載の厚みのセルロース混合エステルフィルムを得た。両端5cmトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけ、各水準とも、幅が1.5m、製膜速度が30m/分、2000m巻きのサンプルを取った。
【0262】
(6−3)位相差ポリマー層の作製
次に、(6−2)で得られたセルロース混合エステルフィルム支持体の上に、以下のようにして位相差ポリマー層を作製した。まず、位相差ポリマーとしてのポリイミドである2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6 FDA)と、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(PFMB)とを、米国特許第5,344,916号明細書に記載の方法により共重合させて合成した。前記ポリイミド粉末の分子量を測定したところ、質量平均分子量Mw=59400、数平均分子量Mn=19200であった。次に、このポリイミド粉末にメチルイソブチルケトン(MIBK)を少しずつ加えながら攪拌し、完全に溶解させた。
【0263】
そして、この溶液中に紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社、商品名TINUVIN−384−2)を、前記ポリイミド粉末に対し3質量%加え、メチルイソブチルケトンをさらに加えて、前記溶液中の溶質濃度が15質量%となるように調整した。この位相差ポリマー溶液を、前記セルロース混合エステルフィルム支持体の上に塗布して130℃で5分間乾燥し、負の一軸性の光学的異方性を有する厚さ8μmのポリイミド被膜を形成した。そして、この被膜をセルロース混合エステルフィルムごとに150℃で5%自由端一軸延伸し(セルロース混合エステルの流延方向と直交する方向に)、前記セルロース混合エステルフィルム支持体上に位相差ポリマー層を積層した位相差フィルムを得た。
【0264】
(6−4)評価
得られた本発明の位相差フィルム試料6−1〜6−12は、その支持体であるセルロース混合エステルフィルムにおけるキシミ値および微粒子2次粒子サイズが小さく、かつダイスジ、ダンムラ、傷付きおよび接着性の全てに優れるものであった。またヘイズ、透過率、微粒子粉落ちも優れたものであった。さらに位相差ポリマー層のReムラ、Rthムラや位相差フィルムのRe湿度変化およびRth湿度変化も小さくて優れたものであった。
【0265】
[実施例7]
実施例1の本発明の試料1−3におけて、セルロース混合エステルフィルムとして、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)63〜65頁に記載されている実施例2の試料2−1(トリアセチルセルロース、80μm)を用いる以外は、実施例1の試料1−3と全く同様にして試料7−1を作製した。比較用試料7−1についてその特性を比べたところ、位相差フィルムとしてのReおよびRthの湿度変化が著しく大きいものであった。このことから、従来使用されているセルローストリアセテート(特許文献1の実施例に記載)に比べ、本発明がすぐれていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0266】
本発明の製造方法によれば、ダイスジ、厚さムラおよび光学特性のムラを大幅に軽減したセルロース混合エステルフィルムを作製し、当該フィルムを支持体とする光学特性に優れた位相差フィルムを提供することができる。また、ハンドリング中のフィルム面同士のこすれによる傷つきを大幅に低減できる。さらに、本発明の位相差フィルムを液晶表示装置に組み込めば、従来から問題になっていた表示ムラや湿度による視認性の変化を大幅に抑えることができる。したがって、本発明のは産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロース混合エステルを含むセルロース混合エステルフィルム上に、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される少なくとも一種の位相差ポリマーを含む位相差ポリマー層を有しており、正面レターデーション(Re)ムラが5nm以下であることを特徴とする位相差フィルム。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【請求項2】
前記セルロース混合エステルが、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子を前記セルロース混合エステルに対して0.005〜1.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記微粒子が、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2およびV25からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記微粒子の平均二次粒子サイズが0.01〜5μmであり、前記セルロース混合エステルフィルムの動的および静的キシミ値が共に0.2〜1.5であり、且つ、前記セルロース混合エステルフィルム表面の算術平均粗さ(Ra)が3〜200nmであることを特徴とする請求項2または3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記セルロース混合エステルフィルムが、可塑剤、紫外線吸収剤または安定剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
前記セルロース混合エステル中のセルロースの水酸基に対して置換している炭素数3〜22のアシル基が、プロピオニル基およびブチリル基からなる群より選択されるアシル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
前記位相差ポリマー層が、可塑剤、紫外線吸収剤または安定剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
前記位相差ポリマー層が下記式(I)の光学特性条件を満たすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
nx>ny>nz (I)
(式中、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記位相差フィルムにおけるX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸は、前記位相差フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向である。)
【請求項9】
セルロース混合エステルフィルム上に位相差ポリマー層を有しており、正面レターデーション(Re)ムラが5nm以下である位相差フィルムの製造方法であって、
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロース混合エステルを180〜230℃で溶融してダイから押し出し、溶融製膜して膜厚20μm〜200μmのセルロース混合エステルフィルムを得る溶融製膜工程と、
前記セルロース混合エステルフィルム上に、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドからなる群より選択される少なくとも一種の位相差ポリマーを含む位相差ポリマー層を塗設する位相差ポリマー層塗設工程を有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【請求項10】
前記セルロース混合エステルが、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子を前記セルロース混合エステルに対して0.005〜1.0質量%含有することを特徴とする請求項9に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項11】
溶融製膜した前記セルロース混合エステルフィルムを少なくとも1方向に−10%〜50%延伸する工程を有することを特徴とする請求項10または11に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記位相差ポリマー層を延伸する工程を有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法により製造された位相差フィルム。
【請求項14】
請求項1〜8または13のいずれか1項に記載の位相差フィルムと偏光子との積層体を含む光学素子。
【請求項15】
透明保護フィルムをさらに含み、前記透明保護フィルムを介して前記位相差フィルムと前記偏光子とが積層されている請求項14に記載の光学素子。
【請求項16】
請求項1〜8または13のいずれか1項に記載の位相差フィルム、または請求項14または15に記載の光学素子を含む画像表示装置。
【請求項17】
液晶セルを含み、前記液晶セルの少なくとも片側に、請求項1〜8もしくは13のいずれか1項に記載の位相差フィルム、または、請求項14もしくは15に記載の光学素子が積層されている液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−343479(P2006−343479A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168166(P2005−168166)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】