説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】冷却流延法であってもRth/Reが4未満となるようにRthが低く抑えられた位相差フィルムを製造する。
【解決手段】ドープを流延ドラムに流延して、この流延ドラムにより流延膜を冷却して固化する。流延膜を溶媒が含まれた状態のフィルム12として剥ぎ取る。剥ぎ取ったフィルム12をテンタ18で乾燥する。テンタ18では、溶媒残留率が150重量%から40重量%になるまではフィルム12の周辺の雰囲気温度を70℃以上となるように保持する。この温度保持工程の間は拡幅せず、温度保持工程の後に拡幅して位相差フィルム17とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、液晶ディスプレイにおける液晶層の位相差と合わせることにより、液晶層を通過した後の楕円偏光を直線偏光に近い状態へ変換するものである。そして、液晶層の位相差は一律ではなく、様々である。そのために、用いる液晶層に応じて、組み合わせるべき位相差フィルムを選択する必要がある。
【0003】
位相差フィルムとして用いられるポリマーフィルムには、様々なものがあり、例えば、セルロースアシレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム等がある。これらのポリマーフィルムは、所定の方向に引っ張る延伸工程を経て、位相差フィルムとされる。長尺の位相差フィルムを製造する場合には、例えば、位相差フィルムとすべきポリマーフィルムの側端部をクリップ等の保持手段により保持して、幅方向に張力を付与して幅を拡げる。この延伸工程により、面方向レタデーションReを上昇させる。なお、Reは、フィルムの厚み方向に直交する方向、すなわちフィルム面方向におけるレタデーション値であり、以下の式(1)により求められる。Nxは位相差フィルムの面での遅相軸方向であるX軸における屈折率、Nyは進相軸方向であるY軸における屈折率、dはフィルムの厚み(nm)である。
Re=(Nx−Ny)×d・・・(1)
【0004】
溶液製膜方法で位相差フィルムを製造する場合には、一般的な溶液製膜工程の中で、ポリマーフィルムに位相差を発現させる上記の延伸工程が組み込まれて実施される。長尺のポリマーフィルムをつくる溶液製膜方法は、周知のように、ポリマーを溶剤に溶解してつくったドープを、流延支持体に流延して流延膜を形成し、溶媒が蒸発しきらないうちに流延膜を流延支持体から剥がし、搬送しながら乾燥する方法である。
【0005】
溶液製膜における製造過程で延伸工程を実施する場合には、溶媒残留率が極めて小さくなった後に延伸工程を実施することが多い。例えば、特許文献1では、溶媒残留率が10〜100質量%以下であるフィルムに対して、延伸後の幅が延伸前の幅の1.0〜4.0倍となるように延伸工程を実施し、これによりReが30〜300nmのフィルムが得られるとしている。また、特許文献2には、流延支持体の流延膜を溶媒残留率が70〜160質量%の範囲になるまで乾燥してからフィルムとして剥がし、溶媒残留率が10〜50質量%の範囲になるまでこのフィルムを乾燥してから延伸し始める方法が提案されている。この方法は2回の延伸工程を有し、2回目の延伸工程は、溶媒残留率が5質量%以下のフィルムに対して実施している。
【0006】
また、少なくとも2つの芳香族環を有する芳香族化合物をフィルム中に含ませて位相差フィルムを製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。このように、添加によりレタデーションを上昇させて位相差を発現させるものはレタデーション上昇剤と呼ばれる。
【0007】
ところで、位相差フィルムは、液晶ディスプレイの急激な需要の伸びにより、増産傾向にある。しかし、製造設備を増やすには多大なコストと稼働開始までの時間とがかかることから、既存設備を使用しての増産が望まれる。溶液製膜では、流延膜を支持体上で乾燥することにより固化して剥ぎ取るという方法(以下、乾燥流延法と称する)と、流延膜を支持体上で冷却することにより固化して剥ぎ取るという方法(以下、冷却流延法と称する)とがあり、生産効率、すなわち単位時間あたりの生産量を比べると冷却流延法の方が格段に優れる。
【特許文献1】特開2002−187960号公報
【特許文献2】特開2002−311245号公報
【特許文献3】国際公開第00/65384号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では様々な液晶層が提案されてきており、最近では、面方向におけるレタデーションReが従来品並みあるいは従来品よりも高く、厚み方向におけるレタデーション値Rthが従来品よりも低い、という高Reかつ低Rthの位相差フィルムが望まれる場合がある。例えば、Reが50nm以上であるとともに、Rth/Reが従来の位相差フィルムよりも低い4未満である位相差フィルムが望まれる場合がある。なお、Rthは下記の式(2)で表される。なお、Nzは位相差フィルムの厚み方向であるZ軸における屈折率である。
Rth={(Nx+Ny)/2−Nz}×d・・・(2)
【0009】
しかし、冷却流延法は、上記のように生産速度を上げるには適した方法ではあるものの、延伸工程で幅方向にフィルムを引っ張るとReのみならずRthもが高くなりやすいという傾向がある。これは、乾燥流延法に比べて冷却流延法では溶媒残留率が非常に多いうちに流延支持体から流延膜を剥ぎ取るためである。より具体的には、剥ぎ取り時における溶媒残留率が多いほど、剥ぎ取り時に付与すべき剥ぎ取り力がより強くなり、この剥ぎ取り力が大きくなるほどフィルムは搬送方向(長手方向)に伸びることになる。搬送方向での張力付与は、フィルムの面方向である搬送方向にポリマーの分子を配向させてしまう。ポリマー分子の搬送方向における配向が大きいほど、フィルムを延伸した場合のRthの上昇度は大きくなるのである。また、剥ぎ取り時に搬送方向に分子が配向したフィルムを乾燥してから拡幅すると、乾燥の際に収縮が起きており、この収縮により分子の搬送方向における配向はより大きなものとなる。そして、以上のような傾向は、生産速度を上げるほど顕著なものとなる。
【0010】
特許文献1や特許文献2の方法でもReを上昇させることはできるが、これらの方法により、冷却流延特有の上記のようなRthの上昇を抑えて位相差フィルムを製造することはできない。また、冷却流延でなければ、従来以上の生産速度は望めない。
【0011】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、冷却流延法であってもRthが低く抑えられてReが高い位相差フィルムを製造することができる位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、支持体上に流延ダイから連続的に流出して流延膜とし、この流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取り、乾燥して拡幅することにより位相差フィルムとする位相差フィルムの製造方法において、周方向に回転し周面が冷却されたドラムを前記支持体として用いることにより前記流延膜を冷却して固化し、前記ドラムからフィルムとして剥ぎ取るフィルム形成工程と、前記溶媒が蒸発して溶媒残留率が150重量%から40重量%になる間は、雰囲気温度を70℃以上に保持し、この雰囲気下で前記フィルムを乾燥する温度保持工程と、前記温度保持工程の後に前記フィルムを拡幅する拡幅工程と、を有することを特徴として構成されている。
【0013】
温度保持工程では、前記フィルムを拡幅しない状態で前記雰囲気によりフィルムの温度を保持することにより、フィルム面方向における前記ポリマーの配向を抑制することが好ましい。前記ポリマーはセルロースアシレートであることが好ましい。
【0014】
そして、フィルムの両側部を保持してフィルムを搬送し、この搬送の間にフィルムを拡幅する保持手段と、フィルムの搬送方向に延びるようにフィルムの搬送路の上方に配され、フィルムに温度調整された空気を送り出す送風ダクトとを備えるテンタにより、温度保持工程と拡幅工程とを為すことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、冷却流延法であってもRthが低く抑えられてReが高い位相差フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0017】
ポリマーとしては、溶液製膜方法により位相差フィルムとすることができる公知のポリマーを用いることができる。ポリマーの中でもセルロースアシレートが好ましく、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0018】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0019】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0020】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0021】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0022】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0023】
ドープには、レタデーション上昇剤を含ませることができる。レタデーション上昇剤は、特に限定されず、例えば、特開2006−235483号公報の段落[0030]〜[0142]に記載されるものを用いることができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0024】
ドープを製造するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散媒に分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0025】
セルロースアシレートの溶媒としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0026】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0027】
流延すべきドープの製造方法は特に限定されない。しかし、後述のように、本発明では、流延されたドープからなる流延膜を冷却により固化させて剥ぎ取るために、流延膜を乾燥して剥ぎ取る場合のドープよりも、セルロースアシレート等の固形分の濃度が高くなるように、ドープを製造することが好ましい。この方法としては、いわゆるフラッシュ濃縮法を用いることが好ましい。フラッシュ濃縮法とは、目的とする濃度よりも低い濃度のドープを一旦つくり、このドープ11を公知のフラッシュ装置で吹き出させることにより溶媒の一部を蒸発させる方法である。
【0028】
流延すべきドープは、セルロースアシレートの濃度が5重量%〜40重量%であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。
【0029】
なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0030】
[フィルム製造設備及び方法]
図1は位相差フィルムを製造するための溶液製膜設備10を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備10に限定されるものではない。以下の説明では、ドープのポリマー成分としてセルロースアシレートを用いる場合を例として記載するが、他のポリマーを用いてもよい。溶液製膜設備10には、ドープ11を流延してセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)12とするための流延室13と、フィルム12の両側端部を保持してフィルム12を拡幅し位相差フィルム17とするテンタ18と、位相差フィルム17の両側端部を切り離す耳切装置21と、位相差フィルム17を複数のローラ22に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室23と、位相差フィルム17を冷却するための冷却室25と、位相差フィルム17の帯電量を減らすための除電装置26と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対27と、位相差フィルム17を巻き取る巻取室28とが上流側から順に備えられる。
【0031】
流延室13には、案内されてきたドープ11を連続的に流出する流延ダイ31と、周面にドープ11が流延されるように流延ダイ31のドープ流出口に対向して備えられ、周方向に回転する支持体としての流延ドラム32とを備える。
【0032】
流延ダイ31には、流延ドラム32に向けて流出するドープ11の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ31の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が取り付けられる。流延ドラム32は、駆動手段(図示せず)により回転する。周方向に回転する流延ドラム32の上に流延ダイ31から連続的にドープ11を流出することにより、流延ドラム32の周面でドープ11が流延されて流延膜33が形成される。
【0033】
流延ドラム32には、流延ドラム32に所定の温度の伝熱媒体を供給して、流延ドラム32の周面温度を制御する伝熱媒体循環装置36が備えられる。流延ドラム32の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、伝熱媒体が通過することにより、流延ドラム32の周面の温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延ドラム32の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ11の濃度等に応じて適宜設定する。流延ドラム32は、回転速度むらが所定の回転速度の0.2%以内となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。
【0034】
流延ドラム32の回転方向における流延ダイ31の上流側には、空気を吸引する減圧チャンバ37が備えられる。減圧チャンバ37による空気の吸引により、ビードとして流出されたドープ11の上流側のエリアを減圧して下流側のエリアよりも低い圧力にする。
【0035】
流延室13には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置38と、ドープ11及び流延膜33から蒸発した溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)41とが設けられる。そして、凝縮液化した溶媒を回収するための回収装置42が流延室13の外部には設けられてある。
【0036】
流延室の下流に設けられるテンタ18には、フィルム12の搬送方向に延び、温度調整された空気をフィルム12に対して上方から吹き付けるように送り出す送風ダクト51が備えられる。この送風ダクト51は、内部がフィルムの搬送方向で複数に区画されており、各区画にはフィルム12の幅方向に延びるスリット(図示せず)がフィルム搬送路に対向するように形成されている。そして、これらの各スリットから空気が流出する。この空気は、送風ダクト51に接続された送風機47により送風ダクト51に送られる。送風機47には、送風ダクト51の各区画のスリットからの空気の送り出しのオン・オフ、風量、風速、空気の温度及び湿度を制御するコントローラ(図示無し)が備えられ、このコントローラが、区画毎に、送り出す空気の温湿度と空気の流出条件とを独立して制御する。これにより、フィルム12は、所定温度の雰囲気の中で乾燥される。
【0037】
耳切装置21には、切り取られた位相差フィルム17の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ52が備えられる。
【0038】
乾燥室23には、位相差フィルム17から蒸発した溶媒、すなわち溶媒ガスを吸着して回収する吸着回収装置53が接続する。乾燥室23の下流には冷却室25が設けられており、乾燥室23と冷却室25との間に位相差フィルム17の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けられてもよい。除電装置26は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、位相差フィルム17の帯電圧を所定の範囲となるように調整する。除電装置26の位置は、冷却室25の下流側に限定されない。ナーリング付与ローラ対27は、位相差フィルム17の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。巻取室28の内部には、位相差フィルム17を巻き取るための巻取ロール56と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ57とが備えられている。
【0039】
次に、溶液製膜設備10により位相差フィルム17を製造する方法の一例を説明する。ドープ11は、伝熱媒体により冷却された流延ドラム32に流延ダイ31から流延される。流延時におけるドープ11の温度は30〜35℃の範囲で一定、流延ドラム32の表面温度は−10〜10℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室13の温度は、温調装置38により10℃〜30℃とされることが好ましい。なお、流延室13の内部で蒸発した溶媒は回収装置42により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0040】
流延ダイ31から流延ドラム32にかけては流延ビードが形成され、流延ドラム32の上には流延膜33が形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ37で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ37にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。
【0041】
流延膜33を流延ドラム32で冷却することによりゲル状にし、固化させる。そして、流延膜33が自己支持性をもつように固まったら、ドラム32から剥ぎ取る。剥ぎ取りは、流延ドラム32の下流側からフィルム12を引っ張り、このフィルム12が搬送路に備えられたローラ43に支持されることにより、なされる。剥ぎ取りは、流延膜33の溶媒残留率の高低に関わらず、流延膜33が搬送に十分な硬さとなっていれば行うことができる。このように、主に乾燥によるのではなく冷却により固化することにより、流延膜33の剥ぎ取りのタイミングを早めることができるようになり、位相差フィルム17の製造速度を45m/分以上120m/分以下の範囲にまでアップさせることができる。
【0042】
生産速度をアップさせるほど、剥ぎ取り時の溶媒残留率が高くなるので、冷却速度、すなわち単位時間あたりに下降する温度の変化量が大きくなるように、冷却することが好ましい。溶媒残留率が320%よりも高い場合には、流延膜33を冷却しても搬送するに十分な硬さとはいえなかったり、テンタ18での拡幅開始までに十分な硬さとはならずに拡幅時に裂けてしまうことがある。また、剥ぎ取り時の溶媒残留率が小さいということは、流延ドラム32の上でより乾燥させることを意味するので、冷却流延とする意義が薄い。そこで、剥ぎ取り時における流延膜33の溶媒の重量は、固形分の重量を100%としたときに180%以上320%以下であることが好ましい。このように、本発明において溶媒残留率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜33の重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0043】
溶媒を含んだ状態で流延ドラム32から剥ぎ取られたフィルム12は、テンタ18に案内されると、その両側端部が保持手段としてのピンに保持されて下流側へ搬送される。この搬送の間に、フィルム12は送風ダクト51から送り出される空気により乾燥をすすめられる。すなわち、フィルム12は所定温度の雰囲気の中を搬送され、これにより温度が下がりすぎないように所定温度以上に保持された状態で乾燥がすすめられる。剥ぎ取り時にはフィルム12の長手方向、すなわち搬送方向に張力がかけられるものの、このテンタ18におけるフィルム12の温度制御と拡幅を実施するタイミングとにより、セルロースアシレートの分子が搬送方向に配向してしまうことが防止され、Rthが高くならずに低く抑制される。そして、フィルム12は、拡幅によりReを上昇させてもRthの上昇が従来よりも抑えられる。
【0044】
なお、フィルム12の温度は、送風ダクト51から流出される空気により制御される。送風ダクト51のスリットは、フィルム12の搬送路近傍に設けられている。溶媒残留率が多い間のフィルム12から溶媒が蒸発しているときには、蒸発潜熱によりフィルム12の温度が下がりやすい。そこで、溶媒残留率が所定範囲にある間は、所定温度以上に保持されてある雰囲気の中でフィルム12を乾燥する。なお、テンタ18における温度条件と幅の制御とについては、別の図面を用いて後述する。
【0045】
このようにして、テンタ18ではフィルム12が下流に進むに従いフィルム12の溶媒残留率は徐々に減ることになる。
【0046】
テンタ18で、フィルム12に対して幅方向に引っ張り、拡幅することにより、フィルム12がReを発現して位相差フィルム17となる。
【0047】
テンタ18からの位相差フィルム17は、ピンで保持されていた両側端部を耳切装置21により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ52に送られる。クラッシャ52により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。
【0048】
一方、両側端部を切断除去された位相差フィルム17は、乾燥室23に送られて、さらに乾燥される。乾燥室23では、位相差フィルム17はローラ22に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室23の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、乾燥室23は、送風温度を変えるために、位相差フィルム17の搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置21と乾燥室23との間に予備乾燥室(図示せず)を設けて位相差フィルム17を予備乾燥すると、乾燥室23で位相差フィルム17の温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室23での位相差フィルム17の形状変化を抑制することができる。
【0049】
乾燥室23で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置53により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室23の内部に乾燥風として再度送られる。
【0050】
位相差フィルム17は、冷却室25で略室温にまで冷却される。そして、除電装置26により、位相差フィルム17の帯電圧が−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、位相差フィルム17は、ナーリング付与ローラ対27によりナーリングが両側端部に付与される。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さは1μm〜200μmであることが好ましい。
【0051】
位相差フィルム17は、巻取室28の巻取ロール56で巻き取られる。プレスローラ57で所望のテンションをフィルム62に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られる位相差フィルム17の長さは100m以上とすることが好ましい。巻き取られるフィルム62の幅は600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることが好ましい。しかし、2500mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。また、本発明は、厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0052】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載は本発明に適用することができる。
【0053】
図2は、テンタ18の内部の概略図である。テンタ18の内部には、フィルム12の搬送路に沿って、フィルム12の両側端部の位置に、フィルム12の保持手段としての多数のピン71を有するピンプレート72と、この多数のピンプレート72が取り付けられた無端で走行するチェーン73とチェーンの軌道を決定するレール76と、乾燥装置51(図1参照)とが備えられる。そして、レール76にはシフト機構77が備えられる。テンタ18に送り込まれたフィルム12は、所定の位置に達すると、両側端部にピン71が差し込まれて保持される。シフト機構77は、レール76をフィルム12の幅方向に移動させ、これによりチェーン73は変位する。チェーン73上のピンプレート72は、フィルム12を保持した状態でフィルム12の幅方向に移動し、フィルム12は幅方向に張力が付与される。
【0054】
流延ドラム32から剥ぎ取った直後のフィルム12は、多量の溶媒を含んでおり非常に不安定であるために、ローラで搬送するのが困難である他、クリップによる把持にも耐えることができない。そこで、本実施形態のように、ピン71でフィルム12の両側端部を突き刺すと、フィルム12を安定的に保持して搬送することができる。
【0055】
図3は、流延ドラム32からの剥ぎ取りからテンタ18のピンでの保持を解除するまでのフィルム12の説明図である。矢線Yは、フィルム12の搬送方向である。テンタ18では、フィルム12を矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。テンタ18において、ピン71(図2参照)によるフィルム12の保持を開始する位置を保持開始位置PS、保持を解除する位置を保持解除位置PE、流延ドラム32からの剥ぎ取り位置を第1位置P1とする。なお、テンタ18の入口は保持開始位置PSよりも上流側、出口は第2位置よりも下流側にあるが、図3においては図示を略す。
【0056】
第1位置P1で流延ドラム32から剥がされてから保持開始位置に至るまでもフィルム12からは徐々に溶媒が蒸発し、また、テンタ18では送風ダクト51からの乾燥風の流出によりさらに蒸発が進められてフィルム12の溶媒残留率はさらに低くされる。溶媒残留率が150重量%となる位置を第2位置P2、40重量%となる位置を第3位置P3とする。
【0057】
テンタ18では、第2位置P2から第3位置P3までは、フィルム12の搬送路の周りの空気、すなわち雰囲気が70℃以上に保持されるようにする。この雰囲気温度は、送風ダクト51から吹き出す空気の温度を調整することにより実施される。すなわち、フィルム12の搬送路の雰囲気温度は、フィルム12の溶媒残留率が150重量%から40重量%となるまでは70℃よりも低くならないようにする。これにより、後にフィルム12を拡幅した場合に、Rthの上昇を従来よりも抑えながらReを上昇させることができる。
【0058】
そして、この温度保持工程の間は、フィルム12拡幅しないことが好ましい。拡幅しないとは、幅を一定に保持することと縮幅することととのいずれでもよい。縮幅とは、フィルム12の収縮力よりも小さな張力でフィルム12を保持することにより、実施することができる。以上のように、雰囲気温度を70℃以上に保持することと、拡幅を実施しないこととにより、フィルム面方向におけるポリマーの配向を抑制することができる。この配向抑制により、剥ぎ取り時に搬送方向にフィルム12が伸びていても、後に実施する拡幅工程ではRthの上昇を抑えながらReを上昇させることができる。より具体的には、Reが50nm以上であるにもかかわらず、Rth/Reが1以上4未満となるようにRthが抑制された位相差フィルム17をつくることができる。この効果は、レタデーション上昇剤をフィルム12に含ませていても同様に得られる。
【0059】
上記のように、温度保持工程では、第2位置P2から第3位置P3までの雰囲気温度が70℃以上に保持、すなわち70℃を下回ることがないように送風ダクト51から吹き出すべき空気の温度を調整する。雰囲気温度の上限は、フィルム12が劣化せず、発泡等が起こらない程度であれば、特に限定されない。そこで、本発明では上限値については特に定めてはおらず、ポリマーの種類や溶媒の種類等に応じて決定するとよい。例えば、ポリマーがセルロースアシレート、溶媒成分としてジクロロメタンが用いられている場合には、120℃が上限であり、保持すべき温度は70℃以上120℃以下の範囲となる。
【0060】
温度保持工程では、70℃以上であればフィルム12の周辺の雰囲気温度を変化させても同様の効果が得られる。したがって、ポリマーがセルロースアシレート、溶媒成分としてジクロロメタンが用いられている場合には、温度保持工程におけるフィルム12の温度は、70℃以上120℃以下の範囲で変化させてもよい。
【0061】
温度保持工程の開始のタイミングは、第2位置P2に至る前であることがより好ましい。すなわち、第1位置P1から実施してもよいし、第1位置P1と第2位置P2との間で開始してもよい。これにより、上記のようなポリマーの配向の抑制効果がより高まり、拡幅工程でのRthの上昇の抑制効果がさらに高まる。
【0062】
さらに、温度保持工程を終えた後でも、フィルム12の溶媒残留率が25重量%となるまでは70℃以上にフィルム12の搬送路周辺の雰囲気温度を保持することがより好ましい。これにより、上記のようなポリマーの配向の抑制効果がさらに高まり、拡幅工程でのRthの上昇の抑制効果が特に大きなものとなる。なお、配向の抑制効果は、溶媒残留率が25重量%を下回ってからの温度保持ではほとんどない。このように、配向の抑制効果は、温度保持工程を溶媒残留率が150重量%から40重量%に達するまでの間に実施するときに特に顕著であり、150重量%以上であるときに温度保持工程を開始することがより好ましく、温度保持工程を終えてからも溶媒残留率が25重量%となるまで70℃以上に温度を保持することがさらに好ましい。
【0063】
配向を抑制するために保持すべき雰囲気温度は上記のように70℃以上であり、80℃以上とすることがより好ましく、90℃以上とすることがさらに好ましい。保持した温度が高いほど配向の抑制効果が高い。したがって、ポリマーをセルロースアシレートとし、溶媒成分にジクロロメタンを用いた場合には、80℃以上120℃以下の範囲に保持することがより好ましく、90℃以上120℃以下の範囲に保持することがさらに好ましいことになる。
【0064】
なお、以上の温度制御により、フィルム12及び位相差フィルム17は従来よりも引き裂けにくくなる、という効果もある。
【0065】
温度保持工程を経たフィルム12をピンで幅方向に拡げる。フィルム12は、テンタ18において、矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加えずにいると、自重で弛んだり、溶媒の蒸発に伴い幅方向X1,X2に収縮したりする。そこで、弛みを防ぐ目的の他、本発明ではReをより高く発現させるために、フィルム12を幅方向X1,X2に張力を加えて拡幅する。張力は、フィルム12の幅方向における中心に関して対称に、フィルム12に付与されることが好ましい。分子配向の制御を、フィルム12の幅方向で均等に行うためである。
【0066】
張力を加えることにより、テンタ18に入った時に幅L1(以後、第1幅と称する)であったフィルム12の幅をL2(以後、第2幅と称する)に大きくする。この幅L2は、図3に示すようにこの後変わらないように保持されてもよいし、さらに保持の後に小さくしてもよい。第2幅L2を保持する場合も、第2幅L2から幅を小さくする場合もフィルム12には幅方向X1,X2に張力が付与される。小さくする場合には、ピンで保持しない場合に自然に収縮するというフィルム12の収縮力を利用して、この収縮力とピンによる張力とのバランスを調整することにより幅を制御する。なお、図3において符号KLは、ピンで保持されるフィルム12の保持対象部のうち、フィルム12の幅方向における最も中央部側の位置を表し、第1幅L1、第2幅L2はいずれも両側の保持対象ラインKL間の距離である。
【0067】
第1幅L1を第2幅L2に拡幅し始める位置を第4位置P4、拡幅を終える位置を第5位置P5とする。拡幅は温度保持工程の後に実施する。よって、拡幅の開始のタイミングは、溶媒残留率が40重量%に達した後であり、第4位置P4は第3位置P3と同じまたは第3位置P3よりも下流となる。したがって、温度保持工程を終了して溶媒残留率が25重量%となるまでフィルム12の温度が70℃以上に保持されている場合には、この間に拡幅を開始してよい。この場合には、溶媒残留率が25重量%となる位置を第6位置P6とすると、第6位置P6は第4位置P4と第5位置P6との間となる。ただし、拡幅時、すなわち第4位置P4から第5位置P5においては、拡幅率に応じて、拡幅するに十分な弾性率となるように、フィルム12の温度を上げることが好ましいので、結果的に70℃よりも高くすることになる。なお、拡幅の終了のタイミングは特に限定されない。
【0068】
第4位置P4から第5位置P5までの拡幅時におけるフィルム12の温度は、ポリマー及び溶媒の種類と溶媒残留率とに応じて決定する。ポリマーをセルロースアシレートとし、溶媒成分としてジクロロメタンを用いている場合には135℃以上190℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0069】
さらに、第4位置P4から第5位置P5までの拡幅率は、10%以上60%以下とすることが好ましい。ここで、拡幅率(単位;%)は、100×(L2−L1)/L1で求める値である。70℃以上の温度を保持した後で上記拡幅を行うことにより、Rth/Reが4未満と低く抑えられているにも関わらずReが50nm以上と高い位相差フィルム12を得ることができる効果が高まる。
【0070】
なお、拡幅の前に温度保持工程を実施することの上記効果は、長尺に作られたフィルムをロール状に一旦巻取り、このフィルムを後で巻きだして幅方向に延伸するといういわゆるオフライン延伸する場合であっても得られる。すなわち、後に幅方向に延伸すべきフィルムを長尺につくる際には、溶液製膜でそのフィルムをつくり、その工程の中で、フィルムの溶媒残留率が150重量%から40重量%と減少する間に70℃以上にフィルムの温度を保持しておく温度保持工程を実施することにより、溶液製膜の中で拡幅を実施せずにオフライン延伸すると、得られる位相差フィルムは上記の実施形態で得られる位相差フィルム17と同様のレタデーション特性を有するようになる。
【実施例1】
【0071】
下記の処方のドープ11をドープ製造設備10によりつくった。
セルロースアシレート 100重量部
(置換度2.94のセルローストリアセテート、粘度平均重合度305.6%、ジクロロメタン溶液6質量%の粘度 350mPa・s)
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 390重量部
メタノール(溶媒の第2成分) 60重量部
レタデーション上昇剤 7重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
なお、レタデーション上昇剤としては、N−N’−ジ−m−トルイル−N”−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンを用いた。
【0072】
上記ドープを用いて、溶液製膜設備10により厚み80μmの複数の位相差フィルム17を60m/分の生産速度で製造した。各製造条件は、表1に示す。本発明は「実験1」〜「実験5」である。これらの実験1〜実験5では、テンタ18における保持開始位置PSから第2位置P2までの区間におけるフィルム12の周辺の雰囲気温度と、第2位置P2から第3位置P3までの区間におけるフィルム12の周辺の雰囲気温度と、第3位置P3から第6位置P6までの区間におけるフィルム12の周辺の雰囲気温度を、送風ダクト51からの空気により独立して制御した。表1には、これらの3区間におけるフィルム12の周辺の雰囲気温度の最低値を示すが、この最低温度と各区間におけるフィルム12の周辺の雰囲気温度の最高値との差が20℃以内となるようにした。なお、第1位置P1における溶媒残留率を250重量%とし、テンタ18での拡幅時におけるフィルム12の温度を170℃とし、拡幅率は実験1〜実験4、比較実験1及び2では30%、実験5では40%とした。拡幅時におけるフィルム12の温度とは、第4位置P4から第5位置P5までのフィルム12の温度である。
【0073】
また、本発明に対する比較実験として、上記の3区間におけるフィルムの周辺の雰囲気温度を変えて「比較実験1」及び「比較実験2」を行った。各区間におけるフィルムの周辺の雰囲気温度の最低値は表1に示す。他の条件は実験1〜実験5と同じである。
【0074】
実験1〜実験5,比較実験1,比較実験2で得られた各位相差フィルムにつき、ReとRthを測定した。そして、Rthの上昇を抑える効果につき、Rth/Reの値により以下の基準で評価した。Re、Rth、評価結果については表1に示す。
「◎」 ; Rth≦3.5であり、非常によい
「○」 ; 3.5<Rth<4であり、良好
「×」 ; 4≦Rthであり、良好とはいえない
「××」; 4.4≦Rthであり、悪い
【0075】
【表1】

【0076】
本発明によると、冷却流延であってもReが50以上60以下と高い値であっても、Rth/Reが2以上4未満となるようにRthが低く抑えられた位相差フィルムを製造することができる。これにより、Rth/Re<4、50≦Reである位相差フィルムを45m/分以上120m/分以下という高速の冷却流延法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図2】テンタにおけるフィルムの保持状態を示す概略図である。
【図3】テンタにおけるフィルムの拡幅及び縮幅を示す概略図である。
【符号の説明】
【0078】
10 溶液製膜設備
11 ドープ
17 位相差フィルム
18 テンタ
31 流延ダイ
32 流延ドラム
71 ピン
77 シフト機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを、支持体上に流延ダイから連続的に流出して流延膜とし、この流延膜を前記支持体からフィルムとして剥ぎ取り、乾燥して拡幅することにより位相差フィルムとする位相差フィルムの製造方法において、
周方向に回転し周面が冷却されたドラムを前記支持体として用いることにより前記流延膜を冷却して固化し、前記ドラムからフィルムとして剥ぎ取るフィルム形成工程と、
前記溶媒が蒸発して溶媒残留率が150重量%から40重量%になる間は、雰囲気温度を70℃以上に保持し、この雰囲気下で前記フィルムを乾燥する温度保持工程と、
前記温度保持工程の後に前記フィルムを拡幅する拡幅工程と、
を有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記温度保持工程では、前記フィルムを拡幅しない状態で前記雰囲気により前記フィルムの温度を保持することにより、フィルム面方向における前記ポリマーの配向を抑制することを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーはセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムの両側部を保持して前記フィルムを搬送し、この搬送の間に前記フィルムを拡幅する保持手段と、前記フィルムの搬送方向に延びるように前記フィルムの搬送路の上方に配され、前記フィルムに温度調整された空気を送り出す送風ダクトとを備えるテンタにより、前記温度保持工程と前記拡幅工程とを為すことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−234227(P2009−234227A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86803(P2008−86803)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】