説明

位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法及びプログラム

【課題】高い精度で移動局の位置を推定する。
【解決手段】第1の基地局201〜第4の基地局204と移動局100との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき移動局の位置を推定する位置推定システム10であって、取得した所定の信号に基づき、複数の基地局のそれぞれと移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測部310と、今回、距離計測部310により計測された一の基地局と移動局との第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と移動局との第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定部320と、前記第1の距離及び今回推定されたバイアス量を用いて移動局の位置を推定する位置推定部340と、を有する位置推定システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法及びプログラムに関する。より詳細には、本発明は、移動局と複数の基地局で通信を行い、その通信結果である所定の信号に基づいて移動局の位置を推定する位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動局と複数の基地局で通信を行い、その通信結果である無線信号や受発信時刻などに基づいて移動局の位置を推定する測位システムが提案されている。たとえば、特許文献1〜3には、複数の無線基地局と移動局との間で無線信号を送受信し、移動局の位置を推定するシステムが提案されている。
【0003】
無線信号としては、電波、音波、光、磁気などを用いたものがある。それらを用いて位置を求める方式のうち主要なものを大別すると、信号の受信強度を用いるRSSI(Received Signal Strength Indicator)方式(特許文献1参照)、信号の伝播時間を用いるTOA(Time Of Arrival)方式(特許文献2参照)、信号の伝播時間差を用いるTDOA(Time Difference Of Arrival)方式、信号の受信方位を用いるAOA(Angle Of Arrival)方式(特許文献3参照)の4方式が挙げられる。
【0004】
RSSI方式は、特許文献1に示したように、信号の受信強度から距離を推定し、そこから3辺測量で位置を推定する方式である。この方式は、高精度に距離を推定することが難しい一方で、厳密かつ高精度な時刻管理が不要で、様々な機器に造りこみやすいといった特徴がある。受信強度から距離を推定することが難しいため、複数の受信信号の強弱のパターンの学習と識別により位置を推定するものもあるが、これには付近に学習済のエリアがなければ位置を推定できないといった課題がある。
【0005】
TOA方式は、信号の伝播時間から距離を計測し、そこから3辺測量で位置を推定する方式である。例えば、移動局から基地局に向かって信号を送信した際の信号の伝播時間をtとし(通信方向が逆の場合や、双方向通信のものもある)、信号の伝播速度をcとすると、基地局と移動局間の距離lは、l=c×tで求めることができる。無線信号の一例として電波を媒体としたものの場合、一般に空気中の電波の伝播速度は一定(約30万km/秒)のため、時計の精度が十分に高ければ安定した位置精度を実現しやすい。例えば移動局と基地局の全ての時計が同期している場合、伝播時間tの計測は1回の通信で行なえる。他にも同期なしで距離を求める方法もあるが、その場合には、移動局から発信した電波が基地局に到着し、更に基地局から移動局にて受信した電波を検出する必要があるため処理の負荷が高くなる。
【0006】
例えばTOA方式で用いられる測距の一方式であるTWR(Two Way Ranging)方式では、移動局から基地局に信号を送出し、信号を受信した基地局は直ちに移動局に返信を行ない、移動局は、自局が信号を送出してから基地局からの信号を受信するまでの往復伝播時間から、基地局で折り返しに必要な処理時間を減算して2で割ることにより、片道にかかった伝播時間を求めることができる。いずれにしても、信号の伝播時間を計測するため、高精度な内部時計は必要である。たとえば電波を用いた場合、約1nsの時刻誤差で約30cmの距離誤差が生じる。
【0007】
TDOA方式は、TOA方式と同様に信号の伝播時間をベースとしているが、基地局と移動局の距離を計測せずに、移動局からマルチキャスト発信した信号を同時に複数の基地局にて受信し、その受信時間差に基づいて位置を求める。2つの基地局で受信した信号の受信時刻差は、信号の伝播速度を掛け合わせると、移動局から見た距離差となる。2つの基地局から同一の距離差を発生し得る位置は双曲線を描くため、基地局3局以上で同時に信号を受信すると、複数の双曲線が得られ、それらの交点を求めることにより位置が決定する。この方式は、TOA方式と比較し、移動局が信号を受信する必要がない点、1回の測位に必要な信号の送信回数が少ない(通常、移動局からの1回の信号発信で位置が確定する)といった利点がある一方、基地局間で時刻を厳密に同期しなければならず、また基地局に内蔵する時計には必ず誤差があるため、時計の精度にあわせて逐次時刻同期を行なう必要がある。
【0008】
AOA方式は、複数の基地局が移動局から信号を受信した際の信号の到達角度に基づき、三角測量を行なう方式である。信号の到達角度は、例えば電波の場合は、アレイアンテナ、音波の場合はマイクロフォンアレイなどを用い、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法などを用いることで推定できる。距離的に非常に近いアンテナ(マイクロフォン)間の受信時刻差を用いるため、非常に高い精度で個々の受信信号をサンプリングする必要があるといった難しさがある。
【0009】
このように、各方式には様々な状況により得手、不得手があり、すべてのケースにおいて常に最良となる方式は存在しない。特に、これら無線信号を用いる方式の共通の課題として、反射波による影響がある。
【0010】
例えば特許文献2では、TOA方式で位置を推定するシステムにおいて、反射波の影響を低減する方式が提案されている。通常、基地局と移動局の間に見通し(LOS: Line of sight)があり、直線で結ばれる経路(図1のD〜D)を通る直接波で通信が行なわれる場合には、直線距離を求めることが可能である。しかしながら、現実には経路途中の構造物Obなどにより反射が発生することがあり、このような反射波を用いて距離を計測すると、直線距離よりも長い距離(図1のD’)が得られてしまう。これは、基地局と移動局を最短で結ぶ経路がお互いを直線で結ぶ直接波の通る経路であり、それ以外の反射波の通る経路はすべて直線よりも長くなるD’>Dの関係が成り立つためである。しかし、この関係を逆に利用することで、なるべく直線の経路に近いものを選ぶことができる。例えば1回の通信の中で直接波と反射波が混在する合成波の場合は、一番初めに到達した成分が直接波による成分であり、この成分により伝播時間を求めることができれば、直線距離を算出することができる。また例えば複数回、信号の伝播時間を計測でき、その中に反射波と直接波による計測値が混在している場合は、最小の計測値を選ぶことで直接波による計測結果を選ぶことができ、それに基づき直線距離が得ることができる。また、この最小値を選ぶという処理は、たとえ直接波による計測結果がなく、すべて反射波によるものであったとしても、直接波と比較して最も差の少ない反射波を選ぶことになり、距離計測の誤差を低減するような直線距離に近い値を選ぶことができる。通信の受信品質をあわせて用いると、多重反射波などの品質の悪い通信を排除でき、より直接波に近いものを選ぶことも可能かもしれない。長期間にわたって継続して計測を行なう場合、移動局の基地局から見た平均移動速度を算出することで、よりもっともらしい位置を算出することも可能である。
【0011】
特許文献3では、TDOA方式とAOA方式を組み合わせることで、位置精度を高めようとする技術が開示されている。AOA方式は、角度の分解能が一定の場合、基地局と移動局の距離が離れるに従い、位置の分解能が低下する。一方で基地局と距離が十分に近い場合は、高い位置分解能を有する。かかる特徴により、信号の受信時刻が早いものが、移動局に最も近い基地局であり、位置分解能が高いとし、高い重み付けを行なう。このように時刻により重みを変えて加重平均をとることで、よりもっともらしい位置の推定を行なう。また、特許文献3では、受信時刻を得るため、TDOA方式の測位もあわせて行い、それらを重み付けによって加重平均を取ることにより、もっともらしい位置を計測する方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−85780号公報
【特許文献2】特開2001−275148号公報
【特許文献3】特開2007−13500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記の手法は、例えば基地局と移動局の間に見通しがなく(このような状態を以下、NLOS(Non Line of sight)と呼ぶ。)、直接波が届かずに反射波のみで伝播経路が構成される場合や、直接波による測定が十分に行なえない場合に、正しく位置を推定することは非常に難しい。
【0014】
例えば特許文献2の方法では、NLOSの状態にあったとしても、時間的な経過により移動局の移動や環境の変化などで、NLOSの状態が一時的にでも解消し、直接波が到達すると仮定している。例えば屋外で移動局が道路上を継続的に移動しており、ビルなどの建築物の影響で一時的にNLOS状態となっている場合は、時間的経過によってLOS状態(Line of sight:見通しがある状態)とNLOS状態が交互に遷移し、長期的にみれば直接波による距離計測が可能な場合も多くある。このような場合では、文献2でもある程度正しく位置を推定可能である。しかし、たとえばオフィス空間などの屋内環境で人や物体を対象とした位置検知を行う場合では、室内の壁や棚などの構造物によりNLOS状態になると、検知対象が継続的に移動しない場合が多いため、なかなかNLOS状態が解消しないといった課題がある。特許文献2の方法では、このような課題に対処できない。たとえば電波の場合、電波暗室でない屋内など周囲に電波を良く反射する壁面のある環境などでは、直接波と反射波が複雑に混在することになるが、このような場合に電波の強度や雑音などの問題で、直接波を取り逃がす場合がよく起こり得る。このような場合、直接波を受信できる頻度が問題となり、頻度が低い場合には、十分な精度で位置測位が出来ないといった問題も起こる。
【0015】
また、特許文献3の方法では、特にAOA方式の分解能が高い基地局近くに移動局がある場合に反射波を拾ってしまうと、移動局が遠方にある場合よりも信号の入射角が大きく変わり、位置精度を大きく低下させる原因となる。
【0016】
上記問題に鑑み、本発明は、上記のようなNLOSの状態の場合や直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、高い精度で移動局の位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する位置推定システムであって、前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測部と、今回、前記距離計測部により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定部と、前記距離計測部により計測された前記第1の距離、及び前記誤差推定部により今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定部と、を備える位置推定システムが提供される。
【0018】
前記距離計測部は、前記所定の信号から各基地局と前記移動局間の信号の伝搬時間を計測し、計測された伝搬時間に所与の伝搬速度を乗算することによって前記第1の距離をそれぞれ算出してもよい。
【0019】
前記誤差推定部は、前記第1の距離に基づき各基地局及び前記移動局間の確からしい距離を推定するための複数の状態ベクトルの密度分布を推定し、前記推定された状態ベクトルの密度分布に基づき前記各基地局及び前記移動局間の確からしい距離として第2の距離を算出し、前記位置推定部は、前記第2の距離に基づき前記移動局の位置を推定してもよい。状態ベクトルは、バイアス量や、第2の距離である推定距離を要素に持つ1次元以上のベクトルであってよい。また、複数の電波の伝播路が存在する場合にも精度良くバイアス量と第2の距離を推定するため、状態ベクトルにバイアス量と推定距離の2要素をもった2次元以上の多次元ベクトルとしても良い。
【0020】
前記誤差推定部は、前記推定された状態ベクトルの密度分布に基づきバイアス量を求め、求められたバイアス量と前記第1の距離とから前記第2の距離を算出してもよい。
【0021】
前記誤差推定部は、前記状態ベクトルの密度分布の分散値と所与の閾値とを比較することにより、前記状態ベクトルの密度分布が収束していると判断した場合、前記求められたバイアス量と前記第1の距離とから前記第2の距離を算出してもよい。
【0022】
前記誤差推定部は、前記状態ベクトルの密度分布の分散値と所与の閾値とを比較することにより、前記状態ベクトルの密度分布が収束していないと判断した場合、前記第1の距離をそのまま前記第2の距離としてもよい。
【0023】
前記距離計測部は、所定時間毎に前記所定の信号を取得し、取得した所定の信号に基づき所定時間毎に前記第1の距離を計測し、前記誤差推定部は、前記第1の距離が計測される都度、前記状態ベクトル密度分布を更新し、更新された状態ベクトル密度分布に基づき前記第2の距離を算出してもよい。
【0024】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、位置が特定される複数の基地局と一方向又は双方向通信することにより取得した所定の信号に基づき自局の位置を推定する移動局であって、前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと自局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測部と、今回、前記距離計測部により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記自局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記自局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定部と、前記距離計測部により計測された前記第1の距離及び前記誤差推定部により今回推定されたバイアス量を用いて前記自局の位置を推定する位置推定部と、を備える移動局が提供される。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する位置推定方法であって、前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測ステップと、今回、前記距離計測ステップにて計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定ステップと、前記距離計測ステップにて算出された前記第1の距離及び前記誤差推定ステップにて今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定ステップと、を含む位置推定方法が提供される。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する処理をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測処理と、今回、前記距離計測処理により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する位置推定処理と、前記距離計測処理により算出された前記第1の距離及び前記位置推定処理により今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、NLOS状態の場合や直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、高い精度で移動局の位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る位置推定システムの全体構成図である。
【図2】同実施形態に係る位置推定装置の内部構成図である。
【図3】同実施形態に係る推定処理を示したフローチャートである。
【図4】同実施形態に係る位置推定方法を説明するための図である。
【図5】同実施形態に係る位置推定方法を説明するための図である。
【図6】同実施形態に係る位置推定方法を説明するための図である。
【図7】同実施形態に係る状態ベクトルの収束過程を概念的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
[位置推定システムの全体構成]
まず、本発明の一実施形態に係る位置推定システムの全体構成について図1を参照しながら説明する。本実施形態に係る位置推定システム10は、移動局100、第1の基地局201、第2の基地局202、第3の基地局203及び第4の基地局204を有している。位置推定システム10は、移動局100の位置を推定する。第1の基地局201〜第4の基地局204は、位置が既知、もしくは位置推定演算時にその位置が取得でき、移動局100との一方向又は双方向通信が可能である。位置推定システム10は、第1の基地局201〜第4の基地局204と移動局100との通信の結果、送信又は受信により取得した所定の信号に基づき移動局100の位置を推定するようになっている。
【0031】
第1の基地局201〜第4の基地局204は、例えば屋内の無線LANの基地局や携帯電話の基地局等と同様に設置されている。また、第1の基地局201〜第4の基地局204は、測位信号にデータを付加することで、通信網としての共用も可能である。また、第1の基地局201〜第4の基地局204の位置を特定する手段があれば、基地局を固定する必要はなく、移動局100と同様に可動式の形態としても良い。
【0032】
移動局100としては、PC(Personal Computer)やセンサーネットワークのノード、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)、アクティブタグなど、様々な形態への適用が可能である。ここでは、移動局を1局、基地局を4局の例をあげて説明するが、移動局は複数でも良く、まだ基地局も2局以上であれば何局であっても良い。通常、3辺測量による位置の推定には3局以上の基地局が必要だが、電波以外に位置に関連する制約条件(たとえば人がいる領域がある程度決まっている場合など)がある場合、基地局が2局であっても位置を推定することができる場合がある。例えば2つの基地局からの距離がそれぞれxメートルとyメートルとなるエリアは、空間内には環状に存在するが、そのうちオフィスフロア(たとえば床面から1m上部にある平面)やオフィス内で人が移動可能な範囲などの制約条件との交点を求めると、1点が得られる場合がある。このような場合は、2局からでも位置検知が可能である。
【0033】
[位置推定装置の内部構成]
図2に、本実施形態に係る位置推定装置300の内部構成(ブロック)図を示す。位置推定装置300は、基地局に内蔵されていてもよいし、移動局に内蔵されていてもよい。基地局や移動局と別体で存在していてもよい。本実施形態では、位置推定装置300は、基地局に内蔵されている。位置推定装置300は、距離計測部310、誤差推定部320、誤差記憶部330及び位置推定部340を有している。
【0034】
距離計測部310は、第1の測距部311、第2の測距部312、第3の測距部313及び第4の測距部314を有している。第1の測距部311〜第4の測距部314は、移動局100と第1の基地局201〜第4の基地局204との通信により取得した所定の信号に基づき、第1の基地局201〜第4の基地局204と移動局100との観測距離を基地局毎に計測する。すなわち、第1の測距部311〜第4の測距部314は、第1の基地局201〜第4の基地局204から、移動局100との通信結果(上記所定の信号に相当)を取得し、移動局100とそれぞれの基地局との観測距離を出力する。たとえば第1の測距部311は、移動局100と第1の基地局201との通信結果から観測距離(図1のD’)を算出する。同様に、第2の測距手段302、第3の測距部313及び第4の測距部314は、移動局100との通信結果から観測距離D、D、Dを算出する。
【0035】
なお、各測距部で距離を求めるために用いた通信結果は、必ずしも基地局から得る必要はなく、移動局側で収集したのち、特定の基地局へ複数基地局分をまとめて渡してもよいし、別の通信路で測距部へ渡しても良い。ここの通信路やプロトコルについては、いかような方法でも可能である。また、移動局が複数局ある場合は、それぞれの移動局毎に距離の収集と測位演算を行なうが、誤差が十分に収束していない移動局については、近傍の十分に誤差が収束した移動局の誤差情報を流用するなどの方法をとることも可能である。
【0036】
第1の測距部311〜第4の測距部314は、前記所定の信号(通信結果)から第1の基地局201〜第4の基地局204及び移動局100間の信号の伝搬時間を計測し、計測された伝搬時間に所与の伝搬速度を乗算することによって観測距離をそれぞれ算出する。算出された第1の基地局201〜第4の基地局204と移動局100との間の観測距離は、何らの障害物がない場合、観測距離D、D、D、Dとなる。しかしながら、本実施形態では、経路途中の構造物Obなどにより反射が発生し、このような反射波を用いて距離が計測されるため、直線距離よりも長い観測距離D’が算出される。
【0037】
なお、第1の測距部311〜第4の測距部314は、所定時間毎に前記所定の信号を取得し、取得した所定の信号に基づき所定時間毎に観測距離を計測することを繰り返す。各基地局及び移動局間の観測距離は、距離計測部310により計測される第1の距離に相当する。
【0038】
誤差推定部320は、第1の誤差推定部321、第2の誤差推定部322、第3の誤差推定部323及び第4の誤差推定部324を有している。第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、第1の測距部311〜第4の測距部314により計測された観測距離と、過去の履歴などから推定した誤差の分布から観測誤差を予測し、距離を推定する。
【0039】
具体的には、第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、今回、第1の測距部311〜第4の測距部314により計測された第1の基地局201〜第4の基地局204のうちの一の基地局と移動局100との観測距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に第1の基地局201〜第4の基地局204のうちの他の複数の基地局と移動局100との観測距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する。
【0040】
バイアス量bは、図1の反射経路D’に示したように、直線距離Dに対して観測距離に含まれる誤差値(伸び量)である。たとえば第1の基地局201と移動局100との間に電波を通さない障害物Obがあると、電波は、たとえば建物Brの壁を反射して基地局まで到達する。このときの観測距離はD’となり、第1の基地局201及び移動局100間の真の距離よりバイアス量bだけ長くなる。
【0041】
第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、状態ベクトルの密度分布に基づきバイアス量を求め、求められたバイアス量と観測距離とから各基地局と移動局との誤差量を取り除いた各基地局と移動局との確からしい距離を算出する。より具体的には、第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、観測距離に基づき各基地局及び移動局間の確からしい距離を推定するための複数の状態ベクトルの密度分布を推定し、前記推定された状態ベクトルの密度分布に基づき前記各基地局及び前記移動局間の確からしい距離を算出する。なお、第1の距離から各基地局と移動局との誤差量を取り除いた(各基地局と移動局との確からしい)距離は、第2の距離に相当する。
【0042】
第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、状態ベクトルの密度分布の分散値と所与の閾値とを比較することにより、状態ベクトルの密度分布が収束していると判断した場合、求められたバイアス量と観測距離とから第2の距離を算出する。一方、第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、状態ベクトルの密度分布の分散値と所与の閾値とを比較することにより、状態ベクトルの密度分布が収束していないと判断した場合、観測距離をそのまま前記第2の距離とする。
【0043】
第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324は、前記第1の距離が計測される都度、上記の方法で状態ベクトル密度分布を更新し、更新された状態ベクトル密度分布に基づき第2の距離を算出する。
【0044】
誤差記憶部330は、第1の誤差記憶部331、第2の誤差記憶部332、第3の誤差記憶部333及び第4の誤差記憶部334を有している。第1の誤差記憶部331〜第4の誤差記憶部334は、たとえばバイアス量等の過去の誤差の推定値や誤差を推定するための状態ベクトルを記憶する。
【0045】
よって、今回、第1の測距部311〜第4の測距部314のいずれかにより計測される一の基地局と移動局との観測距離に含まれるバイアス量は、第1の誤差記憶部331〜第4の誤差記憶部334に記憶された、前回又は前回より前に他の複数の基地局と移動局との観測距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定されることとなる。
【0046】
位置推定部340は、第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324が推定する誤差を考慮して移動局100の位置を計算する。より詳しくは、位置推定部340は、第1の測距部311〜第4の測距部314により算出された各基地局及び移動局間の観測距離、及び第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324のいずれかにより今回推定されたバイアス量を用いて移動局100の位置を推定する。移動局100の位置を推定する際には、算出された第2の距離を用いてもよい。
【0047】
なお、上記位置推定装置300の各部への指令は、専用の制御デバイスあるいはプログラムを実行する図示しないCPUにより実行される。各プログラムや誤差記憶部330が記憶する状態ベクトルは、図示しないROMや不揮発性メモリに予め記憶されている。CPUが、これらのメモリから各プログラムを読み出し実行することにより、距離計測部310、誤差推定部320、位置推定部340の各機能が実現される。
【0048】
[位置推定装置の動作]
次に、本実施形態に係る位置推定装置300において誤差を推定する動作について、図3の推定処理を示したフローチャートを参照しながら説明する。ここでは、第1の測距部311により測定された観測距離から第1の誤差推定部321により推定された誤差(バイアス量)を用いて第1の基地局201と移動局100との最も確からしい距離を推定し、移動局100の位置を推定する。
【0049】
推定処理は、状態ベクトル初期化ステップ(S301)、距離計測ステップ(S302)、誤差推定ステップ(尤度算出ステップS303、バイアス量推定ステップS304)、出力ステップ(S305)の順に実行される。
【0050】
(状態ベクトル初期化ステップ)
状態ベクトル初期化ステップS301のでは、状態ベクトルが初期状態として取り得る値の範囲にほぼ一様に分布する擬似乱数値や、平均a,分散σのガウス分布に従う乱数などを与えることができる。例えば状態ベクトルの初期状態の一例が、図7(a)に図示されている。この状態ベクトルは、第1の誤差記憶部331に記憶される。
【0051】
状態ベクトルの密度分布は、例えば図7(a)〜図7(g)に粒子として示された多数の状態ベクトルを用いて、前の誤差状態からの予測と現在の観測距離とから現在の誤差状態を推定するために使われる。第1の基地局201と移動局100との観測距離に含まれると推定される誤差(バイアス量)は、一つの状態ベクトルの密度分布で現される。第2の基地局202と移動局100との観測距離に含まれると推定される誤差も、他の一つの状態ベクトルの密度分布で現される。よって、4局の基地局と移動局との間の4つの観測距離に含まれると推定される誤差は、4つの状態ベクトルによってそれぞれ現される。そして、後述するように、今回、いずれかの基地局と移動局との観測距離に含まれると推定される誤差(バイアス量)は、いずれかの基地局以外の3局の基地局と移動局の観測距離に含まれると推定される誤差を示すための3つの状態ベクトルを用いて推定される。状態ベクトルの具体的な用い方については後述する。
【0052】
(距離計測ステップ)
距離計測ステップS301のでは、距離計測部310が、第1の基地局201〜第4の基地局204と移動局100との送信又は受信により取得した所定の信号に基づき、第1の基地局201〜第4の基地局204と移動局100との観測距離を基地局毎に計測する。以下に観測距離の計測方法について例を挙げて説明する。
【0053】
前述したように、第1の基地局201〜第4の基地局204は、それぞれ移動局100と通信を行なう。第1の測距部311〜第4の測距部314は、第1の基地局201〜第4の基地局204のそれぞれと移動局100との通信結果から、観測距離を算出する。
【0054】
第1の測距部311は、第1の基地局201と移動局100との通信結果から、第1の基地局201と移動局100との間の観測距離を求める。TOA方式の場合は、例えば基地局と移動局の間で信号を送受信し、信号の伝播に要した時間に信号の伝播速度をかけることで、観測距離を求める。
【0055】
たとえば、第1の基地局201からの信号の発信時間をTS、第1の基地局201から移動局100に信号が到達した後、移動局100から信号を発信し、その信号を第1の基地局201が受信した時間をTR、移動局100で信号を受信してから信号を発信するまでの時間をtとし、信号の伝播速度をcとすると、第1の測距部311では、第1の基地局201と移動局100の観測距離Dを、以下のように求める。
【0056】
【数1】

【0057】
移動局100と第1の基地局201〜第4の基地局204が時刻同期を行なっている場合、移動局100が信号を発信した時刻をTM、第1の基地局201が信号を受信した時刻をTBとすると、第1の基地局201と移動局100の観測距離Dは、以下のように求めることもできる。
【0058】
【数2】

【0059】
(観測誤差と誤差推定)
移動局100と第2の基地局202〜第4の基地局204との観測距離D〜Dについても、第2の測距部312〜第4の測距部314により同様に求めることが出来る。また、RSSI方式の場合は、たとえば基地局と移動局が通信を行なった際の電波強度を得て、電波強度と距離との関係から観測距離を求めることができる。
【0060】
第1の測距部311〜第4の測距部314で得られる観測距離D〜Dは、観測値としての距離であり、実際の真の距離ではなく、様々な要因に基づく観測誤差e〜eを含む。真の距離をG〜Gとすると、以下の関係が成り立つ。
【0061】
【数3】

ただし、i=1〜4
【0062】
例えばTOA方式の場合は、信号の伝播時間を測定する際のクロックの分解能、揺らぎやクロック自身の誤差のほか、アンテナ(音波の場合はマイクロフォンなど)と信号を検波し受信時間を付与する部分までの伝送路内の伝播時間、検波処理時間等に誤差要因が存在しうる。TWR方式の場合は、通信の折り返しに必要な処理時間の推定誤差などの要因が発生しうる。また電波や音波等を利用するため、壁の反射などによる反射波の影響や多重反射と直接波の合成、壁などによる直接波の遮断や減衰などが起こりえるほか、電波環境・音波環境としての環境ノイズ重畳による検波ミスや誤検波なども発生する。このうち、位置や距離を測定するといった目的からは、反射波の影響が非常に大きく、反射波を捉えてしまうと、反射経路の推定が難しいため直接波の伝播経路(例えば図1のD)より延びた反射波の伝播経路(例えば図1のD’)を、直接波の経路と誤って観測してしまい、大きな観測誤差が発生することになる。
【0063】
反射波による影響では、NLOS環境では常に反射波を捉えてしまい、非常に大きくて量がある程度固定的なバイアス的な誤差を生じうる。また、アンテナと検波回路までの伝播路の伝播時間は、アンテナの付け替えやケーブル長の影響により、量としては小さいもののバイアス的な誤差を発生しうる。このようなバイアス的な誤差は、観測誤差の中ではある程度固定的な成分となるため、バイアス量bと定義し、これと真の観測雑音e’との合成を観測誤差eと考えることができる。
【0064】
【数4】

【0065】
NLOS環境で、非常に大きなバイアス量が生じた場合の補償を考えると、バイアス量と観測誤差の関係はb>>e’となることがあり、このような場合は、観測誤差とバイアス量の関係を以下の式のようにみなすこともできる。
【0066】
【数5】

【0067】
またクロック分解能に起因する誤差やハードウェア上の熱雑音等、ある程度ランダム状、白色雑音状の誤差が発生しうるが、これはe’に分類可能である。これらのように、複数の要因による誤差が合成された観測誤差が発生する。
【0068】
前述したとおり、NLOS環境で、非常に大きなバイアス的な誤差が発生した場合、バイアス量b>>e’となることがあり、このような場合に、バイアス量を推定できれば、距離精度や位置精度を飛躍的に向上させることができる。たとえばIR−UWB(Impulse Radio Ultra wideband)無線を利用したTOA/TDOA型の位置検知デバイスでは、反射波の影響などが少ないLOS環境においては、一般に距離や位置の検知精度が50cm程度といわれている。NLOS環境では、基地局の設置間隔を20m間隔とすると、基地局と移動局間の観測距離(第1の距離)に数m〜十数mレベルのバイアス量が発生する場合があり、このバイアス量の影響で位置の検知精度が劣化する。通常、位置検知を行なう場合は、位置が分かっている複数の基地局を利用し、移動局と複数の基地局との通信結果から位置を推定する。また予め設定された条件に基づき、時間的経過を伴った複数回の通信およびそれに伴う位置の推定を行い、移動局の位置の更新を続けるなどの逐次的な方法で位置の推定を連続する。例えば、1秒間隔で基地局と移動局の通信を連続して行ない、1秒間隔で通信結果が得られる都度、移動局の位置を更新する、あるいは、電波条件が悪く通信が失敗しうる環境では、連続的に通信を試行し、通信が成功する都度、位置を更新する方法などを用いる。または、移動局に振動検知センサ等をつけ、移動時に発生する振動を検知する都度通信を行い、移動局の位置を更新するなどの方法を用いてもよい。
例えば、他の複数の基地局と移動局との距離が正しく推定できていると仮定すれば、複数の基地局との通信結果から得られる観測距離(第1の距離)から、個々の基地局と移動局間の直線距離やNLOS等に起因するバイアス量を推定することができる。一般に、基地局がLOS状態かNLOS状態かを判別することはできないが、1つの基地局の観測距離(第1の距離)に含まれるバイアス量は、他の基地局と移動局との間で推定されるバイアス量に基づく推定距離を用いればおおよそ推定できる。事前知識無く1回の推定処理で正しいバイアス量を推定するのは困難だが、逐次的に複数回、観測距離(第1の距離)が得られる都度、この処理を逐次的に繰り返すことで、個々の基地局毎に推定したバイアス量を、時間の経過に伴いより正しいバイアス量に収束させることが可能であり、その結果として、最終的な距離や位置の精度をLOS環境に近づけることができる。よって、以下の誤差推定ステップではバイアス量を推定する。
【0069】
(誤差推定ステップ)
誤差推定ステップS303では、誤差推定部320が、今回、距離計測ステップにより計測された第1の基地局201〜第4の基地局204のうちの一の基地局と移動局100との観測距離に含まれる誤差量をバイアス量として推定する。例えば第1の基地局201と移動局100との観測距離に含まれるバイアス量は、前回又は前回より前に第2の基地局202〜第4の基地局204(すなわち、第1の基地局201以外の基地局)と移動局100との観測距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定される。
【0070】
第1の誤差推定部321〜第4の誤差推定部324では、第1の測距部311〜第4の測距部314から得られた観測距離D〜Dから推定距離g〜gおよび推定されるバイアス量b〜bを推定する。ここでは、第1の誤差推定部321について記載するが、第2の誤差推定部322〜第4の誤差推定部324についても同様な処理でバイアス量を推定することが可能である。
【0071】
第1の誤差推定部321では、N個の状態ベクトルを用いてバイアス量bを推定し補正距離Gを求める。Nは、値が大きくなるほど精度良く観測誤差を推定できる可能性が高まるが、一方で処理量がNに比例して高くなるため、10〜数千程度の範囲の値が良く用いられる。
【0072】
N個の状態ベクトルを、以下の式(6)と定義する。
【数6】

【0073】
ここでtは観測時刻を示し、t=0は初期状態、t=1は、観測開始後最初に得られた観測値に基づく状態ベクトルである。また1個の状態ベクトルの一例を、たとえば以下のように表現できる。
【数7】

ただし、i=1,…,N
【0074】


【0075】
前述したように、状態ベクトル初期化ステップ(S301)では、初期状態として、取り得る値の範囲にほぼ一様に分布する擬似乱数値や、平均a,分散σのガウス分布に従う乱数などを状態ベクトルに与えた(図7(a)参照)。この状態ベクトルは、第1の誤差記憶部331に記憶される。
【0076】
誤差推定ステップでは、第1の誤差記憶部331で保持している時刻tの状態ベクトルの分布から、時刻(t+1)の状態ベクトルを予測する。予測した時刻(t+1)の状態ベクトルを、以下のように定義する(図7(b),図7(e)参照)。
【0077】
【数8】

【0078】
【数9】

【0079】
【数10】

【0080】

【0081】
【数11】

【0082】

【0083】
【数12】

【0084】
また、Pt,xyz(g,b)は、例えば次式で表すことができる。
【数13】

【0085】

【0086】

【0087】

【0088】

【0089】

【0090】

【0091】

【0092】
以上のようにして、図3の推定処理中のステップS302〜ステップS305が所定時間経過毎に実行される。すなわち、時刻tで位置推定処理を実行した後、次の時刻t+1で新しい観測距離Dt+1,1が得られると、距離計測ステップS302に戻り、ステップS302〜ステップS305の処理を繰り返す。
【0093】
(位置推定ステップ)
位置推定部340は、距離計測部310により算出された複数の観測距離、及び誤差推定部320により今回推定されたバイアス量を用いて移動局100の位置を推定する。
【0094】

【0095】

【0096】
そこで、位置推定部340は、たとえば、第1の基地局201〜第4の基地局204のうちの2局の組み合わせ(1,4),(2,4),(3,4),(2,3),(1,3),(1,2)について、2局それぞれからの距離の交点を2か所(1点で交わる場合は1か所、交わらない場合は、基地局間を直線で結ぶ直線上で、それぞれの基地局からの推定距離の比で求めた1点)求め、それらの点の重心を移動局100の位置と推定してもよい。また、位置推定部340は、2局それぞれの交点2か所を通る線分を求め、3局〜4局の基地局との距離で得られる2本の線分の交点を位置とする方法(図6参照)により移動局の位置を推定してもよい。また、位置推定部340は、各基地局からの距離の確率分布である各基地局に対応する状態確率モデルの状態ベクトルに含まれる推定距離gの分布を密度関数に置き換え、基地局4局分合成し、もっとも密度の高い位置を移動局100の推定位置としても良い。
【0097】

【0098】
なお、位置推定方法は、以上に説明した方法以外の既存の方法を用いることができる。例えば、特開2009−47556号公報に記載のように、TOA(到来時間)方式とRSS(受信信号強度)方式とにより位置を推定する方法を利用してもよい。この方法では、推定距離と波発生源から各座標までの実際の距離との差の二乗平均平方根を各座標において算出して、二乗平均平方根が最小となる座標を選択することにより位置を推定する。
【0099】
また、特表2004−530358号公報に記載のように、TOA(距離)とAOA(角度)を組み合わせて位置を推定するようにしてもよい。また、特開2008−249419号公報に記載のように、あらかじめ測定エリアをメッシュで分割(障害物の周辺は大きく)し、対応座標を割り当てておく方法や、特開2006−3187号公報に記載された位置推定方法を用いることもできる。さらに、特表2009−515201号公報に記載されたTOA方式等を利用することも可能である。
【0100】
通常、1個の移動局に対する位置検知は、複数の基地局との通信の結果に基づき遂行されるため、一部の基地局との通信結果がNLOS状態で劣化し、観測距離が実際の直線距離と異なった場合でも、他の複数の基地局との通信結果を用いると、直線距離と比較したNLOSによる観測距離の伸び量(バイアス量)を含む誤差分布を推定できる場合がほとんどである。また、同一基地局との観測距離においても、長期的な分布をみると、移動速度が高速でないという条件下では直線距離を推定できる可能性は非常に高い。そのため、複数の基地局との通信結果から得られる観測距離(第1の距離)から、個々の基地局と移動局間の直線距離やNLOS等に起因するバイアス量を推定することができる。これにより、前記第1の距離及び今回推定されたバイアス量を用いて高い精度で移動局の位置を推定することができる。
【0101】
以上に説明したように、本実施形態に係る位置推定システム10によれば、見通しのないNLOS環境や、反射波の発生しやすい環境に対する耐性が得られる。また、NLOS環境かどうかを事前に設定する必要もなく、NLOS環境の場合に、NLOS環境の伝播経路の特性等を事前にモデル化して設定する必要もなく、伝播経路が未知である場合でも測位が可能なほか、動的に環境に追随することができるため、環境変化についても、従来方式よりも優れた精度で位置を検知可能である。
【0102】
通常、基地局を多数配置すれば、確率的に信頼性の高い情報を収集する頻度も高くなり、位置精度を向上しやすいが、本発明を適用することで、基地局の設置数を増やさずに位置精度を高めることが可能となり、設置コストを削減することも可能である。
【0103】
上述した位置推定システムは、次のように応用することができる。例えば、通常、移動局は複数あることがあるが、このような場合、移動局は移動局間でユニークなIDを発信することで、基地局は移動局毎にデータを収集することができる。また、基地局と移動局の通信上の関係は、逆(移動局が基地局との距離を収集する)でも良い。さらに、基地局の位置は、位置を知る方法があれば固定である必要はない。
【0104】
なお、上記実施形態において、各部の動作は互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作及び一連の処理として置き換えることができる。これにより、位置推定システム及び位置推定装置の実施形態を、位置推定方法の実施形態とすることができる。また、位置推定システム及び位置推定装置の実施形態を、これらが有する機能をコンピュータに実現させるためのプログラムの実施形態とすることができる。
【0105】
これにより、位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する位置推定方法であって、前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測ステップと、今回、前記距離計測ステップにより計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定ステップと、前記距離計測ステップにより算出された前記第1の距離、及び前記誤差推定ステップにより今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定ステップと、を含む位置推定方法を提供することができる。
【0106】
また、これにより、位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により得られた所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する処理をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、前記所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測処理と、今回、前記距離計測処理により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差値であるバイアス量を、前回又は前回より前に推定された前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する位置推定処理と、前記距離計測処理により算出された前記第1の距離、及び前記位置推定処理により今回又は今回以前に推定された1又は2以上の前記バイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することができる。
【0107】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0108】
例えば、上記説明では、図3の推定処理中に移動局の位置を推定する処理は含まれていなかった。しかし、移動局の位置推定処理は、図3の推定処理中の出力ステップS305の後に位置推定ステップを設けることにより、繰り返し実行されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0109】
10 位置推定システム
100 移動局
201 第1の基地局
202 第2の基地局
203 第3の基地局
204 第4の基地局
310 距離計測部
311 第1の測距部
312 第2の測距部
313 第3の測距部
314 第4の測距部
320 誤差推定部
321 第1の誤差推定部
322 第2の誤差推定部
323 第3の誤差推定部
324 第4の誤差推定部
330 誤差記憶部
331 第1の誤差記憶部
332 第2の誤差記憶部
333 第3の誤差記憶部
334 第4の誤差記憶部
340 位置推定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する位置推定システムであって、
前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測部と、
今回、前記距離計測部により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定部と、
前記距離計測部により計測された前記第1の距離、及び前記誤差推定部により今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定部と、を備える位置推定システム。
【請求項2】
前記距離計測部は、前記所定の信号から各基地局と前記移動局間の信号の伝搬時間を計測し、計測された伝搬時間に所与の伝搬速度を乗算することによって前記第1の距離をそれぞれ算出する請求項1に記載の位置推定システム。
【請求項3】
前記誤差推定部は、前記第1の距離に基づき各基地局及び前記移動局間の確からしい距離を推定するための複数の状態ベクトルの密度分布を推定し、前記推定された状態ベクトルの密度分布に基づき前記各基地局及び前記移動局間の確からしい距離として第2の距離を算出し、
前記位置推定部は、前記第2の距離に基づき前記移動局の位置を推定する請求項1又は2に記載の位置推定システム。
【請求項4】
前記状態ベクトルは、推定バイアス量と推定距離を含む2次元以上の多次元ベクトルである請求項3に記載の位置推定システム。
【請求項5】
前記距離計測部は、時刻の経過と共に逐次的に第1の距離計測を複数回行ない、前記誤差推定部は前記距離計測部によって前記第1の距離計測が行なわれる度にバイアス量を推定し、前記位置推定部は前記誤差推定部によってバイアス量の推定が行なわれる度に前記移動体の位置を推定する請求項3又は4に記載の位置推定システム。
【請求項6】
前記誤差推定部は、前記推定された状態ベクトルの密度分布に基づきバイアス量を求め、求められたバイアス量と前記第1の距離とから前記第2の距離を算出する請求項3〜5のいずれかに記載の位置推定システム。
【請求項7】
前記誤差推定部は、前記状態ベクトルの密度分布の分散値と所与の閾値とを比較することにより、前記状態ベクトルの密度分布が収束していると判断した場合、前記求められたバイアス量と前記第1の距離とから前記第2の距離を算出する請求項6に記載の位置推定システム。
【請求項8】
前記誤差推定部は、前記状態ベクトルの密度分布の分散値と所与の閾値とを比較することにより、前記状態ベクトルの密度分布が収束していないと判断した場合、前記第1の距離をそのまま前記第2の距離とする請求項6又は7のいずれかに記載の位置推定システム。
【請求項9】
前記距離計測部は、所定時間毎に前記所定の信号を取得し、取得した所定の信号に基づき所定時間毎に前記第1の距離を計測し、
前記誤差推定部は、前記第1の距離が計測される都度、前記状態ベクトル密度分布を更新し、更新された状態ベクトル密度分布に基づき前記第2の距離を算出する請求項1〜8のいずれか一項に記載の位置推定システム。
【請求項10】
位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する位置推定装置であって、
前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測部と、
今回、前記距離計測部により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定部と、
前記距離計測部により計測された前記第1の距離、及び前記誤差推定部により今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定部と、を備える位置推定装置。
【請求項11】
位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する位置推定方法であって、
前記取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測ステップと、
今回、前記距離計測ステップにて計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差量を示すバイアス量を、前回又は前回より前に前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する誤差推定ステップと、
前記距離計測ステップにて算出された前記第1の距離、及び前記誤差推定ステップにて今回推定されたバイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定ステップと、を含む位置推定方法。
【請求項12】
位置が特定される複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により得られた所定の信号に基づき該移動局の位置を推定する処理をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、
前記所定の信号に基づき、前記複数の基地局のそれぞれと前記移動局との距離を第1の距離として基地局毎に計測する距離計測処理と、
今回、前記距離計測処理により計測された前記複数の基地局のうちの一の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれる誤差値であるバイアス量を、前回又は前回より前に推定された前記複数の基地局のうちの他の複数の基地局と前記移動局との前記第1の距離に含まれると推定されたバイアス量を用いて推定する位置推定処理と、
前記距離計測処理により算出された前記第1の距離、及び前記位置推定処理により今回又は今回以前に推定された1又は2以上の前記バイアス量を用いて前記移動局の位置を推定する位置推定処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58928(P2011−58928A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208201(P2009−208201)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度総務省「ユビキタスサービスプラットフォーム技術に関わる研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】