説明

位置検出装置および位置決め装置

【課題】広い範囲で線形性を有する出力が得られる位置検出装置を提供する。
【解決手段】可動方向に並んでN極3とS極4とに着磁された可動部材2と、可動部材2に対向して、可動方向に並んで配設され、それぞれ、磁界の変化を検出する2つの磁界検出素子5とを備える位置検出装置において、2つの磁界検出素子5の検出信号をA,Bとして、A≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2の演算を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位置検出装置および位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
N極とS極とを交互に着磁した可動部材の位置を、2つの磁気検出素子が検出した磁界の強度をA,Bとして、arctnan(A/B)の演算によって位相を算出することで高分解能に算出する方法が知られている。しかしながら、arctnan(A/B)の演算は処理の負荷が大きく、可動部材が高速に移動する場合、演算が追いつかないという問題が生じる。
【0003】
そこで、arctnan(A/B)の演算結果を予めテーブルに記憶しておいて、A,Bの値を基にテーブルを参照してarctnan(A/B)を求める方法が考えられる。しかし、A,Bの分解能をそれぞれ10bitとすると、テーブルには、1024×1024=1048576個ものデータを保持する必要があり、大きなメモリ空間が必要になり、コストアップを招くことになる。
【0004】
特許文献1には、A>0の場合、B<0の場合、および、A≦0且つB≧0の場合にそれぞれ、異なる演算式を用いることで、演算負荷が小さく、参照テーブルを記憶する必要のない位置検出装置が記載されている。
【0005】
特許文献1の位置検出装置では、図9に示すように、N極とS極との着磁距離毎に略リニアに増加と減少とを繰り返す演算値が得られる。また、特許文献1の位置検出装置では、N極とS極とが1組だけ着磁されている場合にも、図10に示すように、N極とS極との着磁距離の間で略リニアな演算値が得られる。
【0006】
特許文献1の位置検出装置では、N極とS極との着磁距離の範囲を超えると、演算値だけでは可動部材の位置を特定できない。
【特許文献1】特開2006−292396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記問題点に鑑みて、本発明は、N極とS極との着磁距離を超える広い範囲でリニア出力が得られる位置検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明による位置検出装置は、所定の可動方向に移動可能であり、前記可動方向に並んでN極とS極とに着磁された可動部材と、前記可動部材に対向して、前記可動方向に並んで配設され、それぞれ、磁界の変化を検出する2つの磁界検出素子とを備え、前記2つの磁界検出素子の検出信号をA,Bとして、前記A,Bを基に前記可動部材の位置を示す演算値を算出し、Aの正負、Bの正負およびA+Bの正負に応じて演算式を切り替えるものとする。
【0009】
この構成によれば、A+Bの正負に応じて、演算式を切り替えるので、A+Bが正の場合の演算値とA+Bが負の場合の演算値とを直線的に変化するように繋ぎ合わせることができ、リニア出力が得られる範囲を広くすることができる。
【0010】
また、本発明の位置検出装置において、A≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2の演算を行ってもよい。
【0011】
この構成によれば、N極とS極との着磁距離の2倍に近い範囲でリニアな演算値が得られる。
【0012】
また、本発明の位置検出装置において、A≧0、B<0、且つ、A+B≧0のときは、(A+B)/(B−A)+4、A≧0、B≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、A<0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2、A≧0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A+B)/(B−A)−4の演算を行ってもよい。
【0013】
この構成によれば、N極とS極との着磁距離の略2倍の広い範囲でリニアな演算値が得られ、且つ、演算値が発散しないようにできる。
【0014】
また、本発明の位置検出装置において、前記2つの磁界検出手段の間隔は、前記N極と前記S極との着磁距離の1/2の奇数倍であってもよい。
【0015】
この構成によれば、各演算式の線形部分の傾きが同じになるので、各演算式の線形部分を繋ぎ合わせることで、リニアな演算出力が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Aの正負、Bの正負およびA+Bの正負に応じて演算式を切り替えるので、N極とS極との着磁距離の略2倍の広い範囲でリニアな演算値が得られ、可動部材の位置を一義的に特定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
これより、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1に、本発明の第1実施形態の位置検出装置1の構成を示す。位置検出装置1は、x方向に移動可能な可動部材2の表面にN極3とS極4とを一定の着磁距離で交互に着磁し、可動部材2に対向するように固定された2つのホール素子(磁界検出素子)5で、可動部材2によって形成される磁界の強度をそれぞれ検出し、ホール素子5の検出信号をアンプ6を介して演算装置7に入力することにより、可動部材2の位置を算出するように構成されている。
【0018】
可動部材2は、アクチュエータの移動子などの検出対象に固定され、検出対象とともに移動する。また、2つのホール素子5は、着磁距離の5/2倍(1+1/4周期)の間隔を空けて固定されている。
【0019】
演算装置7は、ホール素子5の出力をそれぞれ、A,Bとして、Aの正負、Bの正負およびA+Bの正負に応じて演算式を切り替える。具体的には、演算装置7は、
A≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、
A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、
B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2の演算を行う。
【0020】
図2に、演算装置7の出力値をF(A,B)として、可動部材2の位置による変化を、ホール素子5の出力A,Bと、3つの演算式の演算値(A+B)/(B−A)、(A−B)/(A+B)+2、および、(A−B)/(A+B)−2とともに示す。
【0021】
A,Bは、ホール素子5がそれぞれN極3に正対するときに最大となり、ホール素子5がそれぞれS極4に正対するときに最小となるように可動部材2の位置に応じて周期的に変動する。つまり、AまたはBの最大値と最小値との横軸距離(A,Bの1/2周期)が、N極3とS極4との着磁距離に相当する。
【0022】
(A+B)および(B−A)は、それぞれ、着磁距離(1/2周期)毎に0になる。演算(A+B)/(B−A)の値は、(B−A)=0のときに発散し(±∞になり)、(A−B)/(A+B)+2、および、(A−B)/(A+B)−2の値は、それぞれ、(A+B)=0のときに発散する。各演算式の値は、発散する位置の中央で略線形な変化をする部分を有している。
【0023】
検出信号A=0のとき、(A+B)/(B−A)=B/B=1であり、(A−B)/(A+B)+2=−B/B+2=1である。また、検出信号B=0のとき、(A+B)/(B−A)=−A/A=−1であり、(A−B)/(A+B)−2=A/A−2=−1である。
【0024】
以上より、(A−B)/(A+B)+2が発散する前のA=0のときに、演算式を(A+B)/(B−A)に切り替え、(A+B)/(B−A)が発散する前のB=0のときに、演算式を(A−B)/(A+B)−2に切り替えることで、各演算式の略線形な部分を繋ぎ合わせて、着磁距離の3/2倍以上の範囲で発散しない連続した出力F(A,B)を得ることができる。
【0025】
特に、2つのホール素子5の間隔を、N極3とS極4との着磁距離の1/2の奇数倍にすることで、AとBとの位相が90°異なるようにすれば、各演算式の線形範囲の傾きが等しくなるので、着磁距離の3/2倍以上の範囲で略リニアな出力F(A,B)を得ることができる。
【0026】
図3に、本実施形態の位置検出装置1において、使用する演算式をさらに追加した代案を示す。この代案では、演算装置7は、
A≧0、B<0、且つ、A+B≧0のときは、(A+B)/(B−A)+4、
A≧0、B≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、
A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、
A<0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2、
A≧0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A+B)/(B−A)−4の演算を行う。
【0027】
演算式(A+B)/(B−A)+4、および、(A+B)/(B−A)−4も、(B−A)=0のときに発散するが、その中央では、略線形な変化をしている。
【0028】
検出信号A>0、且つ、B=0のとき、(A−B)/(A+B)+2=A/A+2=3であり、(A+B)/(B−A)+4=A/(−A)+4=3である。また、検出信号A=0、且つ、B<0のとき、(A−B)/(A+B)−2=−B/B−2=−3であり、(A+B)/(B−A)−4=B/B−4=−3である。
【0029】
よって、A>0、且つ、B=0のときに、演算式(A−B)/(A+B)+2と(A+B)/(B−A)+4とを切り替え、A=0、且つ、B<0のときに、演算式(A−B)/(A+B)−2と、(A+B)/(B−A)−4とを切り替えることで、5つの演算式の線形部分を繋ぎ合わせて、あらゆる検出信号A,Bに対して、演算出力F(A,B)が発散しないようにできる。
【0030】
特に、AとBとの位相が90°(着磁距離の1/2倍)異なるようにすれば、各演算式の線形範囲の傾きが等しくなるので、図示するように、着磁距離の2倍の範囲で略リニアな、鋸歯状の出力F(A,B)を得ることができる。
【0031】
続いて、図4に、本発明の第2実施形態の位置検出装置1を示す。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態において、可動部材2には、N極3と1つのS極4とがそれぞれ1箇所ずつ着磁され、N極3とS極4との間に、着磁されない不着磁部8が設けられている。
【0032】
図5に、本実施形態においても、演算装置7は、第1実施形態と同様に、
A≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、
A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、
B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2の演算を行う。
【0033】
図5に、可動部材2の位置による、ホール素子5の出力A,Bと、3つの演算式の演算値(A+B)/(B−A)、(A−B)/(A+B)+2、および、(A−B)/(A+B)−2と、演算装置7の出力値F(A,B)を示す。図5において、横軸中央が、2つのホール素子5の中央が、N極3とS極4との中央に正対する位置である。この中央において、ホール素子5の出力のうち、小さい方がAであり、大きい方がBになっている。
【0034】
本実施形態でも、図示するように、3つの演算式の線形部分を繋ぎ合わせて、着磁距離の3/2倍以上の範囲で略リニアな出力F(A,B)を得られる。
【0035】
ここで、2つのホール素子5の中央が、N極3とS極4との中央に正対する位置において、ホール素子5の出力のうち、大きい方をAとし、小さい方をBとすると、図6に示すように、横軸中央で演算出力F(A,B)が発散し、リニアな出力が得られないので、N極3とS極4とが1つずつの場合には、N極3とS極4との中央に正対する位置において、ホール素子5の出力のうち、小さい方をAとし、大きい方をBとしなければならない。
【0036】
さらに、図7に、第2実施形態の位置検出装置1において、使用する演算式をさらに追加した代案を示す。この代案では、演算装置7は、
A≧0、B<0、且つ、A+B≧0のときは、(A+B)/(B−A)+4、
A≧0、B≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、
A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、
A<0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2、
A≧0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A+B)/(B−A)−4の演算を行う。
【0037】
この代案では、N極3とS極4とが1つずつの場合には、演算式が3つの場合と比べて、線形範囲を広げることはできないが、演算出力F(A,B)の発散をなくすことはできる。
【0038】
この代案においても、2つのホール素子5の中央が、N極3とS極4との中央に正対する位置において、ホール素子5の出力のうち、大きい方をAとし、小さい方をBとすると、図6に示すように、横軸中央で演算出力F(A,B)が発散するので、出力AとBとの大小に留意が必要である。
【0039】
なお、本発明において、着磁した可動部材の移動とは、磁界検出素子に対する相対移動を指す。例えば、本発明の位置検出装置を、自走式のアクチュエータに適用する場合、着磁した可動部材の絶対位置が変わらず、磁界検出素子の絶対位置が移動することになるが、そのような場合も、可動部材の磁界検出素子に対する位置を算出するものと解され、本発明から除外されない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態の位置決め装置の構成を示す概略図。
【図2】図1の位置検出装置の検出信号と演算出力とを示すグラフ。
【図3】図1の位置決め装置における代案の演算による出力を示すグラフ。
【図4】本発明の第2実施形態の位置決め装置の構成を示す概略図。
【図5】図4の位置検出装置の検出信号と演算出力とを示すグラフ。
【図6】図4の位置決め装置における不適切な演算による出力を示すグラフ。
【図7】図4の位置決め装置における代案の演算による出力を示すグラフ。
【図8】図4の位置決め装置における不適切な演算による出力を示すグラフ。
【図9】従来の位置検出装置の検出信号と演算出力とを示すグラフ。
【図10】従来の位置検出装置の検出信号と演算出力とを示すグラフ。
【符号の説明】
【0041】
1 位置決め装置
2 可動部材
3 N極
4 S極
5 ホール素子
6 アンプ
7 演算装置
8 付着磁部
A 検出信号
B 検出信号
F(A,B)演算出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の可動方向に移動可能であり、前記可動方向に並んでN極とS極とに着磁された可動部材と、
前記可動部材に対向して、前記可動方向に並んで配設され、それぞれ、磁界の変化を検出する2つの磁界検出素子とを備え、
前記2つの磁界検出素子の検出信号をA,Bとして、前記A,Bを基に前記可動部材の位置を示す演算値を算出し、
Aの正負、Bの正負およびA+Bの正負に応じて演算式を切り替えることを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
A≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、
A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、
B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2の演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
A≧0、B<0、且つ、A+B≧0のときは、(A+B)/(B−A)+4、
A≧0、B≧0、且つ、A+B≧0のときは、(A−B)/(A+B)+2、
A<0、且つ、B≧0のときは、(A+B)/(B−A)、
A<0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A−B)/(A+B)−2、
A≧0、B<0、且つ、A+B<0のときは、(A+B)/(B−A)−4の演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記N極と前記S極とはそれぞれ1箇所ずつ着磁され、
前記2つの磁界検出手段の中央が、前記N極と前記S極との中央に対向する位置において、前記磁界検出素子の検出信号の小さい方をA、大きい方をBとすることを特徴とする請求項2または3に記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記2つの磁界検出手段の間隔は、前記N極と前記S極との着磁距離の1/2の奇数倍であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−298570(P2008−298570A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144657(P2007−144657)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】