位置決め制御装置とその制御方法
【課題】 機械位置のフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を制御した時と同等の応答性と機械位置を制御したときと同等の精度を得ることができる位置制御装置とその制御方法を提供する。
【解決手段】 位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部(1)と、速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部(2)と、トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部(3)と、モータ位置信号からモータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部(4)と、モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部(5)と、を備えた位置決め制御装置において、位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成する補正位置制御部(6)と、補正位置指令をオンするスイッチと、オンオフされた補正位置指令と位置指令を加算して新たな位置指令を生成する加算器(17)と、を備えた。
【解決手段】 位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部(1)と、速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部(2)と、トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部(3)と、モータ位置信号からモータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部(4)と、モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部(5)と、を備えた位置決め制御装置において、位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成する補正位置制御部(6)と、補正位置指令をオンするスイッチと、オンオフされた補正位置指令と位置指令を加算して新たな位置指令を生成する加算器(17)と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送機械等における構造体を移動し位置決め動作を行なう位置決め制御装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動倉庫は、図4に示すように物品を保管する場所として区切られた格子状の保管棚56と、この保管棚56から任意の物品を納めた容器であるバケット57を入出庫の為に一時的に置く為の入出庫台50と、保管棚56〜入出庫台50の相互間にて物品を搬送する移動台車であるスタッカークレーン52から構成される。スタッカークレーン52は、水平方向移動装置である走行駆動装置53、垂直方向移動装置である昇降駆動装置54、取り出し装置であるフォーク55と、走行駆動装置53の走行する走行レール51から構成される。 物品を保管する場所として区切られた格子状の保管棚56の内、任意に選択された対象区画に、スタッカークレーン52の走行駆動装置54と、昇降駆動装置54にて、フォーク55の位置を合わせる。スタッカークレーン52のフォーク55と保管棚56の任意に選択された対象区画は、バケット57を積み降ろしする際に位置合わせを行った後、荷物の積み降ろしを行なう。スタッカークレーン52の垂直方向移動に用いる構造体は、保管する物の大きさに依って異なるが、大きい装置では数十メートルの高さまで荷物を運ぶ為の高さが必要であるが、省スペース設置を求める為、梯子を組み合わせた様な構造体で、高さ方向の長さが幅方向と奥行き方向に比較して長く、不安定な構造と成る事がほとんどである。スタッカークレーン52の水平方向移動に用いる構造体は、走行駆動装置53の走行レール51の上を前記スタッカークレーン52の垂直方向移動に用いる構造体が水平方向に平行移動する構造体である。保管場所を有効に利用する為に、水平移動方向に対しての長さは、搬送される物品より若干大きいサイズの小さく纏まった大きさである。スタッカークレーン52の垂直方向移動に用いる構造体を支える底辺部分と、フォーク55とは、上部からの投影面積がほぼ同じで有り、スタッカークレーン52は梯子を組み合わせた様な構造体で、高さ方向の長さが幅方向と奥行き方向に比較して長く、不安定な構造体で有る。スタッカークレーン52にて急峻な移動動作を行なった場合に、構造体にしなりや歪みが発生した場合、重心が移動台車を支える部分の中心から外れる可能性が高く、安定構造では無い場合がほとんどである。スタッカークレーン52は、移動させる構造体の剛性を高くすると、重量が重くなり、駆動させるエネルギーも多く必要となる。又、移動させる構造体の重量が重くなると可変速駆動装置の容量も大きくなり経済性にも欠ける。この為、運搬する重量や形状に見合う構造とし、位置決め制御精度向上に対する機械剛性を高めることは困難である。
【0003】
スタッカークレーン52の駆動の伝達媒体(以下駆動伝達装置と記載する)には、ギヤやチェーンといった機構を用いる事が多い。ギヤやチェーンは、その構成上、円滑な動作の為にバックラッシや弛みが必要であり、この時、モータ位置と機械位置は一致しない。モータ軸の位置を管理し位置目標値とする位置制御システムにて、目標とする機械位置へ移動動作(以下位置決めと記載する)を行なうと、駆動伝達装置の捻じれとバックラッシや構造体のしなり等により、モータ位置と機械位置の間に差が生じ、位置目標値に相当するモータ位置に到達していても、位置目標値とする機械位置へ到達しない事や位置目標値とする機械位置を越えて行き過ぎる。
【0004】
このように、任意に設定された保管棚56の対象区画に対する位置目標値とフォーク55の機械位置とが、一致しない可能性が高い。また、位置決めした結果、位置目標値と同じ機械位置が得られなく位置目標値と機械位置との差が大きい場合、フォーク55にて保管棚56の任意に設定された対象区画へバケット57を移動する事が出来ない為、次の動作へ工程が進展出来なくなる。
【0005】
これらを解決する為に従来から下記の方法が開示されている。
(1)モータ位置をフィードバック位置信号として位置決めを行った後、位置目標値と機械位置の偏差を位置目標値に加算し新たな位置目標値としてもう一度位置決めを行う(図10参照)
(2)モータ位置をフィードバック位置信号として位置目標値の手前で一旦速度を下げ、リミットSWにて停止する。(図11参照)
(3)位置制御を行なう。(図12参照)
(4)モータ位置偏差と機械位置偏差を重み付け加算したものを位置偏差として位置制御を行い、目標近傍では機械位置偏差に対する位置制御のみを行う。(例えば、特許文献1参照)
(5)モータ位置偏差と機械位置偏差を補償し応答改善を図る。(例えば、特許文献2や特許文献3参照)
(6)状況に応じてモータ位置と機械位置を切替えてフィードバック位置信号とし精度向上を図る。(例えば、特許文献4参照)
(7)機械位置偏差とバックラッシ補正量を加算したモータ位置偏差の差の低周波分をモータ位置偏差に加算して位置制御を行いバックラッシを補正する。(例えば、特許文献5参照)
【特許文献1】特開2001−222324号公報
【特許文献2】特開2000−56833号公報
【特許文献3】特公平7−19180号公報
【特許文献4】特開平11−272335号公報
【特許文献5】特開平8−179831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)は目標位置範囲に入るために1〜3回程度位置決め動作が必要で、搬送物の重量が変化する場合、バックラッシ補正を調整しても、1回の位置決め動作で目標位置範囲に入る可能性は低く、位置決め時間が長くなる。
(2)は棚の位置を検出する近接センサで最終的な停止位置が決定される為、ドグを通過する時点の速度と搬送物の重量に依る機械のしなりの影響を受ける。従って最終位置決め時の速度を遅くして影響を抑える必要がある。
(3)は位置精度向上の為には、最終位置決め速度を遅くする必要があり位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
又、各棚ごとに設置しているドグの取り付け位置の位置精度が、目標位置精度に直結する為、設備導入時やメンテナンス時に各棚ごとのドグの位置データを取得し、各棚ごとにドグの位置を微調整する為の位置補正値を準備する等の細工が必要であり、多くの準備時間を費やす事と成る。
(3)は機械剛性が低い用途や、駆動系のバックラッシが大きい用途にて、構造体が大きく位置検出器の検出分解能が粗い場合に、位置制御のループゲインを高くする事が困難であり、動作が緩慢となり位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
(4)は位置目標近傍にて、(3)と同様に、位置制御クローズドループのフィードバック位置信号として機械位置の位置検出器のみしか用いない状況であり、(3)と同様に位置制御のループゲインが低い場合、位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
(5)は機械位置をフィードバック位置信号としながらも、モータ位置をフィードバック位置信号としたときの応答特性が得られるが、モータ部と機械部の伝達関数を調査し設定しなければ、成り立たない。従って、モータ(駆動側)と機械(従動側)を連結する前もしくは、連結後に一旦連結部を開放する等、必ず連結部分を開放しモータ部分のみの伝達関数を測定しなければ成らない。このため、測定のみを目的とした指令発生器と測定器とが必要となり、セットアップに際し多くの時間を必要とする。この制御を汎用的に実現するには、伝達係数の測定機能を持たせたコントロ−ラと、伝達関数を計測済みの駆動装置を組み合わせる必要が有る。これらの内容は、汎用性に乏しく、実際の場面で利用できる機器を準備していない場合は実現する事が困難である。又、市販されているPLCやモーションコントロ−ラにて、容易に実現可能な制御では無い。
(6)は位置目標値近傍にて機械位置をフィードバック位置信号とする制御を行なう為、位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
(7)は機械位置の分解能とモータ位置の分解能が異なる場合に、同じPID制御器にて制御される為、位置検出器の分解能の低い側にあわせた制御ゲインにする必要がある。機械位置の位置検出分解能が低い場合に、機械位置の位置検出器を位置目標とした制御と同等の位置制御ゲインとなり、この場合、モータ位置を位置制御する制御と同等程度の応答特性を得る事は難しく、動作が緩慢となり、位置決め時間が長くなり、作業効率が低下する。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、機械位置を位置制御するフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を位置制御した時と同等の応答性と同等の精度の位置制御装置とその制御方法を提供することを目的とする。
又、汎用の可変速ドライブ製品と汎用のPLCやモーションコントローラを使用して、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮と調整の容易さを兼ね備えた位置決め制御装置とその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。
請求項1に記載の発明は、位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置において、前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成する補正位置制御部と、前記補正位置指令をオンオフするスイッチと、前記スイッチでオンオフされた前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成する加算器と、を備えることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記スイッチは、前記機械位置信号が位置目標値の所定範囲にはいったときにオンすることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記スイッチは、外部から強制的にオンオフできることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成する機械速度信号生成部を備え、前記フィードバック速度信号生成部は、前記モータ速度信号と前記機械速度信号を設定可能な重み付け加算し前記フィードバック速度信号を生成することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記位置指令を微分し設定可能な係数を乗じてフィードフォワード速度指令を生成するフィードフォワード速度指令生成部と、前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算して新たな速度指令を生成する加算器と、を備えたことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記モータ位置信号と前記機械位置信号からトルク補正信号を生成するトルク補正部を備えることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、請求項6記載の位置決め制御装置において、前記トルク補正部は、前記モータ位置信号と前記機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成する減算器と、前記ねじり角信号をPID処理してトルク補正信号を生成するトルク補正信号生成部と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
請求項8に記載の発明は、位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置の制御方法において、前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成するステップと、前記補正位置指令をオンオフするステップと、前記スイッチでオンオフされた前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
請求項9に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記スイッチは、機械の試運転時に強制的にオフし、前記位置制御部と前記速度制御部の調整を自動的に行うステップを備えることを特徴とするものである。
請求項10に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成するステップと、前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算して新たな速度指令を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
請求項11に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成するステップと、前記モータ速度信号と前記機械速度信号を合成して前記フィードバック速度信号を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
請求項12に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記モータ位置信号と機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成するステップと、前記ねじり角信号をPID処理をしてトルク補正信号を生成するステップと、前記トルク指令と前記トルク補正信号を加算し新たなトルク指令を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、市販されている汎用品を組み合わせて実現可能な制御方式を用い、モータ位置の位置制御器と機械位置の位置制御器を分離するので、各々独立した制御器と制御定数にて制御でき、機械位置を位置制御するフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を位置制御した時と同等の応答性と、機械位置を制御したときと同等の精度の位置決め制御装置とその制御方法を提供することができる。また、汎用の可変速ドライブ製品と汎用のPLCやモーションコントローラを使用して、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮ができ、調整が簡単な位置決め制御装置とその制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の位置決め制御装置の構成を示すブロック図である。図において、1は位置制御部、2は速度制御部、3はトルク制御部、4はモータ速度信号生成部、5はフィードバック速度信号生成部、6は補正位置制御部、7は機械速度信号生成部、8はフィードフォワード速度指令生成部、9は操作部、10は指令生成部、11は位置設定部、12はモータ、13はモータ位置検出器、14は機械、15は機械位置検出器である。
次に動作について説明する。オペレータまたは上位システムは位置設定部11に移動体の移動距離である目標位置を設定する。位置指令生成部10は、あらかじめ設定された速度、加速時間、減速時間、加速度、減速度、S字時間、加加速度、減減速度に基づいて制御周期ごとの位置指令と速度指令を生成する。減算器18は位置指令からモータ位置信号を減算してモータ位置偏差信号を生成し、位置制御部1はモータ位置偏差信号をPID制御処理をして速度指令を生成する。減算器21は速度指令からフィードバック速度信号を減算し速度偏差信号を生成し、速度制御部2は、速度偏差信号をPID制御処理をしてトルク指令を生成する。トルク制御部3はトルク指令を電流指令に変換し、電流指令と電流信号の電流偏差をPID処理して電圧指令を生成する。さらにトルク制御部3は電圧指令をPWM信号に変換し、インバータを介してモータに電圧を供給し、電流を流して駆動する。モータ位置検出器13はモータ位置信号を生成し、機械位置検出器15は機械位置信号を生成する。減算器16は位置指令から機械位置信号を減算して機械位置偏差信号を生成し、補正位置制御部6は機械位置偏差信号をPID制御処理をして補正位置指令を生成する。加算器17は位置指令と補正位置指令を加算して新たな位置指令を生成する。モータ速度信号生成部4はモータ位置信号の時間差分をとってモータ速度信号を生成し、フィードバック速度信号生成部5はモータ速度信号と機械速度信号を合成してフィードバック速度信号を生成する。機械速度信号生成部7は機械位置信号の時間差分をとって機械速度信号を生成し、機械位置操作部9は目標位置から機械位置信号を減算して残距離を生成し、残距離をあらかじめ設定した所定距離とを比較し、残距離が所定距離よりも小さくなったらスイッチ駆動信号をオンして補正位置指令を有効にする。機械位置信号が位置目標値の所定範囲外のときはスイッチ駆動信号をオフして補正位置制御部6を切り離し、所定範囲内に入るオンして補正位置制御部6を接続する。フィードフォワード速度指令生成部は、位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成し、加算器20は第1速度指令とフィードフォワード速度指令を加算して第2速度指令を生成する。加算器19は速度指令と第2速度指令を加算して新たな速度指令を生成する。
【0013】
図2は、本発明の位置決め制御装置のトルク補正部を含む構成のブロック図である。図において、22は加算器、23はトルク補正信号生成部であり他は図1と同じである。トルク補正信号生成部23はモータ位置信号から機械位置信号を減算してねじり角信号を生成する減算器と、ねじり角信号をPID処理をしてトルク補正信号を生成するPID処理部と、トルク補正信号とトルク指令を加算して新たなトルク指令を生成する加算器を備える。
【0014】
図3は、本発明の位置決め制御装置の制御方法を示すフローチャートである。ステップST1であらかじめ設定された速度、加速時間、減速時間、加速度、減速度、S字時間、加加速度、減減速度に基づいて制御周期ごとの位置指令と第1速度指令を生成し、ステップST2で位置指令からモータ位置信号を減算してモータ位置偏差信号を生成し、ステップST3位置指令から機械位置信号を減算して機械位置偏差信号を生成し、ステップST4で機械位置偏差信号をPID制御処理をして補正位置指令を生成し、ステップST5で位置指令と補正位置指令を加算して新たな位置指令を生成する。次にステップST6で目標位置から機械位置信号を減算して残距離を生成し、ステップST7で残距離をあらかじめ設定した所定距離とを比較し、残距離が所定距離よりも小さくなったらステップST8でスイッチ駆動信号をオンして補正位置指令を有効にし、ステップST9で位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成し、ステップST10で第1速度指令とフィードフォワード速度指令を加算して第2速度指令を生成し、ステップST11で速度指令と第2速度指令を加算して新たな速度指令を生成し、ステップST12でモータ位置偏差信号をPID制御処理をして速度指令を生成し、ステップST13で速度指令からフィードバック速度信号を減算し速度偏差信号を生成し、ステップST14で速度偏差信号をPID制御処理をしてトルク指令を生成し、ステップST15でトルク指令を電流指令に変換し、ステップST16で電流指令と電流信号の電流偏差をPID処理して電圧指令を生成し、ステップST17で電圧指令をPWM信号に変換し、インバータを介してモータに電圧を供給し、電流を流して駆動する。さらに、機械セットアップ時は、モータ位置信号の位置決め動作波形が所望の波形になるように強制的にスイッチをオフにしてセミクローズループの調整を行い、次にスイッチをオンにして機械位置信号の位置決め動作波形が所望の波形になるようにフルクローズループの調整を行う。
【0015】
図5は本発明の位置決め制御装置の動特性をシミュレーションするための制御ブロック図である。図でPIDAはPID構成の補正位置制御部、PIDBはPID構成の位置制御部、PIDCはPID構成の速度制御部、PIDDはPID構成のトルク補正部、Jmはモータ慣性モーメント、JLは機械慣性モーメント、ksは2慣性系のばね定数、kdは2慣性系のダンピング係数、BKLはバックラッシである。また、θrefは位置指令θlfbは機械位置信号、θmfbはモータ位置信号、ωrefは速度位指令、ωmfbはモータ速度信号、ωlfbは機械速度信号、ωfbはフィードバック速度信号、Trefはトルク指令である。フィードバック速度信号ωfbはモータ速度信号ωmfbと機械速度信号ωlfbをωfb=km・ωmfb+kl・ωlfbで合成する。
【0016】
図6は補正位置制御部のゲインを零として、モータ側の位置信号、速度信号を100%用いたときのシミュレーション結果である。シミュレーションの条件は、制御時間Ts=0.1ms、位置制御比例ゲインkp=100s−1、速度制御比例ゲインkv=10Nms/rad、速度制御積分時定数Tvi=10ms、速度制御微分時定数Tvd=0.2ms、モータ慣性モーメントJm=0.001kgm2、機械慣性モーメントJL=0.01kgm2、ばね定数ks=50Nm/rad、ダンピング係数kd=0.01Nms/rad、バックラッシBKL=1度、機械速度信号の重み付けkl=0、モータ速度信号の重み付けkm=1、トルク補正PIDのゲイン=0で、シミュレーション結果はモータは指令どおりに動作しているが機械は振動している。図7は、図6と同一条件で、補正位置制御ゲインKB=0.9としたときのシミュレーション結果で振動は抑止され、位置決め精度も保持されている。図8は図7と同じ条件でフィードフォワード速度指令に設定可能な係数kff=0.8乗じて速度指令に加えた場合のシミュレーション結果である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によると、市販されている汎用品を組み合わせて実現可能な制御方式を用い、モータ位置の位置制御器と機械位置の位置制御器を分離するので各々独立した制御器と制御定数にて制御でき、機械位置を位置制御するフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を位置制御した時と同等の応答性と、機械位置を制御したときと同等の精度を得られるので、搬送機械だけではなくロボットや一般産業機械への適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の位置決め制御装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の位置決め制御装置の構成を示すブロック図
【図3】本発明の位置決め制御装置の制御方法を示すフローチャート
【図4】搬送機械の構成を示す図
【図5】本発明の位置決め制御装置のシミュレーションをするための制御ブロック図
【図6】本発明の補償をしないときのシミュレーション結果
【図7】本発明の補償をしたときのシミュレーション結果
【図8】本発明の補償をしたときのシミュレーション結果
【図9】従来の位置決め制御装置のブロック図
【図10】従来の位置決め制御装置のブロック図
【図11】従来の位置決め制御装置のブロック図
【符号の説明】
【0019】
1 位置制御部
2 速度制御部
3 トルク制御部
4 モータ速度信号生成部
5 フィードバック速度信号生成部
6 補正位置制御部
7 機械速度信号生成部
8 フィードフォワード速度指令生成部
9 操作部
10 指令生成部
11 位置設定部
12 モータ
13 モータ位置検出器
14 機械
15 機械位置検出器
16、18、21 減算器
17、19、20、22 加算器
23 トルク補正部
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送機械等における構造体を移動し位置決め動作を行なう位置決め制御装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動倉庫は、図4に示すように物品を保管する場所として区切られた格子状の保管棚56と、この保管棚56から任意の物品を納めた容器であるバケット57を入出庫の為に一時的に置く為の入出庫台50と、保管棚56〜入出庫台50の相互間にて物品を搬送する移動台車であるスタッカークレーン52から構成される。スタッカークレーン52は、水平方向移動装置である走行駆動装置53、垂直方向移動装置である昇降駆動装置54、取り出し装置であるフォーク55と、走行駆動装置53の走行する走行レール51から構成される。 物品を保管する場所として区切られた格子状の保管棚56の内、任意に選択された対象区画に、スタッカークレーン52の走行駆動装置54と、昇降駆動装置54にて、フォーク55の位置を合わせる。スタッカークレーン52のフォーク55と保管棚56の任意に選択された対象区画は、バケット57を積み降ろしする際に位置合わせを行った後、荷物の積み降ろしを行なう。スタッカークレーン52の垂直方向移動に用いる構造体は、保管する物の大きさに依って異なるが、大きい装置では数十メートルの高さまで荷物を運ぶ為の高さが必要であるが、省スペース設置を求める為、梯子を組み合わせた様な構造体で、高さ方向の長さが幅方向と奥行き方向に比較して長く、不安定な構造と成る事がほとんどである。スタッカークレーン52の水平方向移動に用いる構造体は、走行駆動装置53の走行レール51の上を前記スタッカークレーン52の垂直方向移動に用いる構造体が水平方向に平行移動する構造体である。保管場所を有効に利用する為に、水平移動方向に対しての長さは、搬送される物品より若干大きいサイズの小さく纏まった大きさである。スタッカークレーン52の垂直方向移動に用いる構造体を支える底辺部分と、フォーク55とは、上部からの投影面積がほぼ同じで有り、スタッカークレーン52は梯子を組み合わせた様な構造体で、高さ方向の長さが幅方向と奥行き方向に比較して長く、不安定な構造体で有る。スタッカークレーン52にて急峻な移動動作を行なった場合に、構造体にしなりや歪みが発生した場合、重心が移動台車を支える部分の中心から外れる可能性が高く、安定構造では無い場合がほとんどである。スタッカークレーン52は、移動させる構造体の剛性を高くすると、重量が重くなり、駆動させるエネルギーも多く必要となる。又、移動させる構造体の重量が重くなると可変速駆動装置の容量も大きくなり経済性にも欠ける。この為、運搬する重量や形状に見合う構造とし、位置決め制御精度向上に対する機械剛性を高めることは困難である。
【0003】
スタッカークレーン52の駆動の伝達媒体(以下駆動伝達装置と記載する)には、ギヤやチェーンといった機構を用いる事が多い。ギヤやチェーンは、その構成上、円滑な動作の為にバックラッシや弛みが必要であり、この時、モータ位置と機械位置は一致しない。モータ軸の位置を管理し位置目標値とする位置制御システムにて、目標とする機械位置へ移動動作(以下位置決めと記載する)を行なうと、駆動伝達装置の捻じれとバックラッシや構造体のしなり等により、モータ位置と機械位置の間に差が生じ、位置目標値に相当するモータ位置に到達していても、位置目標値とする機械位置へ到達しない事や位置目標値とする機械位置を越えて行き過ぎる。
【0004】
このように、任意に設定された保管棚56の対象区画に対する位置目標値とフォーク55の機械位置とが、一致しない可能性が高い。また、位置決めした結果、位置目標値と同じ機械位置が得られなく位置目標値と機械位置との差が大きい場合、フォーク55にて保管棚56の任意に設定された対象区画へバケット57を移動する事が出来ない為、次の動作へ工程が進展出来なくなる。
【0005】
これらを解決する為に従来から下記の方法が開示されている。
(1)モータ位置をフィードバック位置信号として位置決めを行った後、位置目標値と機械位置の偏差を位置目標値に加算し新たな位置目標値としてもう一度位置決めを行う(図10参照)
(2)モータ位置をフィードバック位置信号として位置目標値の手前で一旦速度を下げ、リミットSWにて停止する。(図11参照)
(3)位置制御を行なう。(図12参照)
(4)モータ位置偏差と機械位置偏差を重み付け加算したものを位置偏差として位置制御を行い、目標近傍では機械位置偏差に対する位置制御のみを行う。(例えば、特許文献1参照)
(5)モータ位置偏差と機械位置偏差を補償し応答改善を図る。(例えば、特許文献2や特許文献3参照)
(6)状況に応じてモータ位置と機械位置を切替えてフィードバック位置信号とし精度向上を図る。(例えば、特許文献4参照)
(7)機械位置偏差とバックラッシ補正量を加算したモータ位置偏差の差の低周波分をモータ位置偏差に加算して位置制御を行いバックラッシを補正する。(例えば、特許文献5参照)
【特許文献1】特開2001−222324号公報
【特許文献2】特開2000−56833号公報
【特許文献3】特公平7−19180号公報
【特許文献4】特開平11−272335号公報
【特許文献5】特開平8−179831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)は目標位置範囲に入るために1〜3回程度位置決め動作が必要で、搬送物の重量が変化する場合、バックラッシ補正を調整しても、1回の位置決め動作で目標位置範囲に入る可能性は低く、位置決め時間が長くなる。
(2)は棚の位置を検出する近接センサで最終的な停止位置が決定される為、ドグを通過する時点の速度と搬送物の重量に依る機械のしなりの影響を受ける。従って最終位置決め時の速度を遅くして影響を抑える必要がある。
(3)は位置精度向上の為には、最終位置決め速度を遅くする必要があり位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
又、各棚ごとに設置しているドグの取り付け位置の位置精度が、目標位置精度に直結する為、設備導入時やメンテナンス時に各棚ごとのドグの位置データを取得し、各棚ごとにドグの位置を微調整する為の位置補正値を準備する等の細工が必要であり、多くの準備時間を費やす事と成る。
(3)は機械剛性が低い用途や、駆動系のバックラッシが大きい用途にて、構造体が大きく位置検出器の検出分解能が粗い場合に、位置制御のループゲインを高くする事が困難であり、動作が緩慢となり位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
(4)は位置目標近傍にて、(3)と同様に、位置制御クローズドループのフィードバック位置信号として機械位置の位置検出器のみしか用いない状況であり、(3)と同様に位置制御のループゲインが低い場合、位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
(5)は機械位置をフィードバック位置信号としながらも、モータ位置をフィードバック位置信号としたときの応答特性が得られるが、モータ部と機械部の伝達関数を調査し設定しなければ、成り立たない。従って、モータ(駆動側)と機械(従動側)を連結する前もしくは、連結後に一旦連結部を開放する等、必ず連結部分を開放しモータ部分のみの伝達関数を測定しなければ成らない。このため、測定のみを目的とした指令発生器と測定器とが必要となり、セットアップに際し多くの時間を必要とする。この制御を汎用的に実現するには、伝達係数の測定機能を持たせたコントロ−ラと、伝達関数を計測済みの駆動装置を組み合わせる必要が有る。これらの内容は、汎用性に乏しく、実際の場面で利用できる機器を準備していない場合は実現する事が困難である。又、市販されているPLCやモーションコントロ−ラにて、容易に実現可能な制御では無い。
(6)は位置目標値近傍にて機械位置をフィードバック位置信号とする制御を行なう為、位置決め時間が長くなり作業効率が低下する。
(7)は機械位置の分解能とモータ位置の分解能が異なる場合に、同じPID制御器にて制御される為、位置検出器の分解能の低い側にあわせた制御ゲインにする必要がある。機械位置の位置検出分解能が低い場合に、機械位置の位置検出器を位置目標とした制御と同等の位置制御ゲインとなり、この場合、モータ位置を位置制御する制御と同等程度の応答特性を得る事は難しく、動作が緩慢となり、位置決め時間が長くなり、作業効率が低下する。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、機械位置を位置制御するフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を位置制御した時と同等の応答性と同等の精度の位置制御装置とその制御方法を提供することを目的とする。
又、汎用の可変速ドライブ製品と汎用のPLCやモーションコントローラを使用して、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮と調整の容易さを兼ね備えた位置決め制御装置とその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。
請求項1に記載の発明は、位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置において、前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成する補正位置制御部と、前記補正位置指令をオンオフするスイッチと、前記スイッチでオンオフされた前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成する加算器と、を備えることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記スイッチは、前記機械位置信号が位置目標値の所定範囲にはいったときにオンすることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記スイッチは、外部から強制的にオンオフできることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成する機械速度信号生成部を備え、前記フィードバック速度信号生成部は、前記モータ速度信号と前記機械速度信号を設定可能な重み付け加算し前記フィードバック速度信号を生成することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記位置指令を微分し設定可能な係数を乗じてフィードフォワード速度指令を生成するフィードフォワード速度指令生成部と、前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算して新たな速度指令を生成する加算器と、を備えたことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、請求項1記載の位置決め制御装置において、前記モータ位置信号と前記機械位置信号からトルク補正信号を生成するトルク補正部を備えることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、請求項6記載の位置決め制御装置において、前記トルク補正部は、前記モータ位置信号と前記機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成する減算器と、前記ねじり角信号をPID処理してトルク補正信号を生成するトルク補正信号生成部と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
請求項8に記載の発明は、位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置の制御方法において、前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成するステップと、前記補正位置指令をオンオフするステップと、前記スイッチでオンオフされた前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
請求項9に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記スイッチは、機械の試運転時に強制的にオフし、前記位置制御部と前記速度制御部の調整を自動的に行うステップを備えることを特徴とするものである。
請求項10に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成するステップと、前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算して新たな速度指令を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
請求項11に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成するステップと、前記モータ速度信号と前記機械速度信号を合成して前記フィードバック速度信号を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
請求項12に記載の発明は、請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法において、前記モータ位置信号と機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成するステップと、前記ねじり角信号をPID処理をしてトルク補正信号を生成するステップと、前記トルク指令と前記トルク補正信号を加算し新たなトルク指令を生成するステップと、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、市販されている汎用品を組み合わせて実現可能な制御方式を用い、モータ位置の位置制御器と機械位置の位置制御器を分離するので、各々独立した制御器と制御定数にて制御でき、機械位置を位置制御するフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を位置制御した時と同等の応答性と、機械位置を制御したときと同等の精度の位置決め制御装置とその制御方法を提供することができる。また、汎用の可変速ドライブ製品と汎用のPLCやモーションコントローラを使用して、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮ができ、調整が簡単な位置決め制御装置とその制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の位置決め制御装置の構成を示すブロック図である。図において、1は位置制御部、2は速度制御部、3はトルク制御部、4はモータ速度信号生成部、5はフィードバック速度信号生成部、6は補正位置制御部、7は機械速度信号生成部、8はフィードフォワード速度指令生成部、9は操作部、10は指令生成部、11は位置設定部、12はモータ、13はモータ位置検出器、14は機械、15は機械位置検出器である。
次に動作について説明する。オペレータまたは上位システムは位置設定部11に移動体の移動距離である目標位置を設定する。位置指令生成部10は、あらかじめ設定された速度、加速時間、減速時間、加速度、減速度、S字時間、加加速度、減減速度に基づいて制御周期ごとの位置指令と速度指令を生成する。減算器18は位置指令からモータ位置信号を減算してモータ位置偏差信号を生成し、位置制御部1はモータ位置偏差信号をPID制御処理をして速度指令を生成する。減算器21は速度指令からフィードバック速度信号を減算し速度偏差信号を生成し、速度制御部2は、速度偏差信号をPID制御処理をしてトルク指令を生成する。トルク制御部3はトルク指令を電流指令に変換し、電流指令と電流信号の電流偏差をPID処理して電圧指令を生成する。さらにトルク制御部3は電圧指令をPWM信号に変換し、インバータを介してモータに電圧を供給し、電流を流して駆動する。モータ位置検出器13はモータ位置信号を生成し、機械位置検出器15は機械位置信号を生成する。減算器16は位置指令から機械位置信号を減算して機械位置偏差信号を生成し、補正位置制御部6は機械位置偏差信号をPID制御処理をして補正位置指令を生成する。加算器17は位置指令と補正位置指令を加算して新たな位置指令を生成する。モータ速度信号生成部4はモータ位置信号の時間差分をとってモータ速度信号を生成し、フィードバック速度信号生成部5はモータ速度信号と機械速度信号を合成してフィードバック速度信号を生成する。機械速度信号生成部7は機械位置信号の時間差分をとって機械速度信号を生成し、機械位置操作部9は目標位置から機械位置信号を減算して残距離を生成し、残距離をあらかじめ設定した所定距離とを比較し、残距離が所定距離よりも小さくなったらスイッチ駆動信号をオンして補正位置指令を有効にする。機械位置信号が位置目標値の所定範囲外のときはスイッチ駆動信号をオフして補正位置制御部6を切り離し、所定範囲内に入るオンして補正位置制御部6を接続する。フィードフォワード速度指令生成部は、位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成し、加算器20は第1速度指令とフィードフォワード速度指令を加算して第2速度指令を生成する。加算器19は速度指令と第2速度指令を加算して新たな速度指令を生成する。
【0013】
図2は、本発明の位置決め制御装置のトルク補正部を含む構成のブロック図である。図において、22は加算器、23はトルク補正信号生成部であり他は図1と同じである。トルク補正信号生成部23はモータ位置信号から機械位置信号を減算してねじり角信号を生成する減算器と、ねじり角信号をPID処理をしてトルク補正信号を生成するPID処理部と、トルク補正信号とトルク指令を加算して新たなトルク指令を生成する加算器を備える。
【0014】
図3は、本発明の位置決め制御装置の制御方法を示すフローチャートである。ステップST1であらかじめ設定された速度、加速時間、減速時間、加速度、減速度、S字時間、加加速度、減減速度に基づいて制御周期ごとの位置指令と第1速度指令を生成し、ステップST2で位置指令からモータ位置信号を減算してモータ位置偏差信号を生成し、ステップST3位置指令から機械位置信号を減算して機械位置偏差信号を生成し、ステップST4で機械位置偏差信号をPID制御処理をして補正位置指令を生成し、ステップST5で位置指令と補正位置指令を加算して新たな位置指令を生成する。次にステップST6で目標位置から機械位置信号を減算して残距離を生成し、ステップST7で残距離をあらかじめ設定した所定距離とを比較し、残距離が所定距離よりも小さくなったらステップST8でスイッチ駆動信号をオンして補正位置指令を有効にし、ステップST9で位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成し、ステップST10で第1速度指令とフィードフォワード速度指令を加算して第2速度指令を生成し、ステップST11で速度指令と第2速度指令を加算して新たな速度指令を生成し、ステップST12でモータ位置偏差信号をPID制御処理をして速度指令を生成し、ステップST13で速度指令からフィードバック速度信号を減算し速度偏差信号を生成し、ステップST14で速度偏差信号をPID制御処理をしてトルク指令を生成し、ステップST15でトルク指令を電流指令に変換し、ステップST16で電流指令と電流信号の電流偏差をPID処理して電圧指令を生成し、ステップST17で電圧指令をPWM信号に変換し、インバータを介してモータに電圧を供給し、電流を流して駆動する。さらに、機械セットアップ時は、モータ位置信号の位置決め動作波形が所望の波形になるように強制的にスイッチをオフにしてセミクローズループの調整を行い、次にスイッチをオンにして機械位置信号の位置決め動作波形が所望の波形になるようにフルクローズループの調整を行う。
【0015】
図5は本発明の位置決め制御装置の動特性をシミュレーションするための制御ブロック図である。図でPIDAはPID構成の補正位置制御部、PIDBはPID構成の位置制御部、PIDCはPID構成の速度制御部、PIDDはPID構成のトルク補正部、Jmはモータ慣性モーメント、JLは機械慣性モーメント、ksは2慣性系のばね定数、kdは2慣性系のダンピング係数、BKLはバックラッシである。また、θrefは位置指令θlfbは機械位置信号、θmfbはモータ位置信号、ωrefは速度位指令、ωmfbはモータ速度信号、ωlfbは機械速度信号、ωfbはフィードバック速度信号、Trefはトルク指令である。フィードバック速度信号ωfbはモータ速度信号ωmfbと機械速度信号ωlfbをωfb=km・ωmfb+kl・ωlfbで合成する。
【0016】
図6は補正位置制御部のゲインを零として、モータ側の位置信号、速度信号を100%用いたときのシミュレーション結果である。シミュレーションの条件は、制御時間Ts=0.1ms、位置制御比例ゲインkp=100s−1、速度制御比例ゲインkv=10Nms/rad、速度制御積分時定数Tvi=10ms、速度制御微分時定数Tvd=0.2ms、モータ慣性モーメントJm=0.001kgm2、機械慣性モーメントJL=0.01kgm2、ばね定数ks=50Nm/rad、ダンピング係数kd=0.01Nms/rad、バックラッシBKL=1度、機械速度信号の重み付けkl=0、モータ速度信号の重み付けkm=1、トルク補正PIDのゲイン=0で、シミュレーション結果はモータは指令どおりに動作しているが機械は振動している。図7は、図6と同一条件で、補正位置制御ゲインKB=0.9としたときのシミュレーション結果で振動は抑止され、位置決め精度も保持されている。図8は図7と同じ条件でフィードフォワード速度指令に設定可能な係数kff=0.8乗じて速度指令に加えた場合のシミュレーション結果である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によると、市販されている汎用品を組み合わせて実現可能な制御方式を用い、モータ位置の位置制御器と機械位置の位置制御器を分離するので各々独立した制御器と制御定数にて制御でき、機械位置を位置制御するフルクローズドループ制御でありながら、モータ位置を位置制御した時と同等の応答性と、機械位置を制御したときと同等の精度を得られるので、搬送機械だけではなくロボットや一般産業機械への適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の位置決め制御装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の位置決め制御装置の構成を示すブロック図
【図3】本発明の位置決め制御装置の制御方法を示すフローチャート
【図4】搬送機械の構成を示す図
【図5】本発明の位置決め制御装置のシミュレーションをするための制御ブロック図
【図6】本発明の補償をしないときのシミュレーション結果
【図7】本発明の補償をしたときのシミュレーション結果
【図8】本発明の補償をしたときのシミュレーション結果
【図9】従来の位置決め制御装置のブロック図
【図10】従来の位置決め制御装置のブロック図
【図11】従来の位置決め制御装置のブロック図
【符号の説明】
【0019】
1 位置制御部
2 速度制御部
3 トルク制御部
4 モータ速度信号生成部
5 フィードバック速度信号生成部
6 補正位置制御部
7 機械速度信号生成部
8 フィードフォワード速度指令生成部
9 操作部
10 指令生成部
11 位置設定部
12 モータ
13 モータ位置検出器
14 機械
15 機械位置検出器
16、18、21 減算器
17、19、20、22 加算器
23 トルク補正部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置において、
前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成する補正位置制御部と、
前記補正位置指令をオンオフするスイッチと、
前記スイッチでオンオフされた前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成する加算器と、
を備えることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
前記スイッチは、前記機械位置信号が位置目標値の所定範囲に入ったときオンすることを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項3】
前記スイッチは、外部から強制的にオンオフできることを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項4】
前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成する機械速度信号生成部を備え、前記フィードバック速度信号生成部は、前記モータ速度信号と前記機械速度信号を設定可能な重み付け加算し前記フィードバック速度信号を生成することを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項5】
前記位置指令を微分し設定可能な係数を乗じてフィードフォワード速度指令を生成するフィードフォワード速度指令生成部と、前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算し新たな速度指令を生成する加算器と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項6】
前記モータ位置信号と前記機械位置信号からトルク補正信号を生成するトルク補正部を備えることを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項7】
前記トルク補正部は、前記モータ位置信号と前記機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成する減算器と、前記ねじり角信号をPID処理してトルク補正信号を生成するトルク補正信号生成部と、を備えることを特徴とする請求項6記載の位置決め制御装置。
【請求項8】
位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置の制御方法において、
前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成するステップと、
前記機械位置偏差の絶対値を所定値と比較するステップと、
前記機械位置信号が位置目標値の所定範囲に入ったときスイッチをオンして前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成するステップと、
を備えることを特徴とする位置決め制御装置の制御方法。
【請求項9】
前記スイッチは、機械の試運転時に強制的にオフし、前記位置制御部と前記速度制御部の調整を自動的に行うステップを備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項10】
前記位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成するステップと、
前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算して新たな速度指令を生成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項11】
前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成するステップと、
前記モータ速度信号と前記機械速度信号を合成して前記フィードバック速度信号を生成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項12】
前記モータ位置信号と機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成するステップと、
前記ねじり角信号をPID処理をしてトルク補正信号を生成するステップと、
前記トルク指令と前記トルク補正信号を加算し新たなトルク指令を生成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項1】
位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置において、
前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成する補正位置制御部と、
前記補正位置指令をオンオフするスイッチと、
前記スイッチでオンオフされた前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成する加算器と、
を備えることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
前記スイッチは、前記機械位置信号が位置目標値の所定範囲に入ったときオンすることを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項3】
前記スイッチは、外部から強制的にオンオフできることを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項4】
前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成する機械速度信号生成部を備え、前記フィードバック速度信号生成部は、前記モータ速度信号と前記機械速度信号を設定可能な重み付け加算し前記フィードバック速度信号を生成することを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項5】
前記位置指令を微分し設定可能な係数を乗じてフィードフォワード速度指令を生成するフィードフォワード速度指令生成部と、前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算し新たな速度指令を生成する加算器と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項6】
前記モータ位置信号と前記機械位置信号からトルク補正信号を生成するトルク補正部を備えることを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項7】
前記トルク補正部は、前記モータ位置信号と前記機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成する減算器と、前記ねじり角信号をPID処理してトルク補正信号を生成するトルク補正信号生成部と、を備えることを特徴とする請求項6記載の位置決め制御装置。
【請求項8】
位置指令とモータ位置信号とのモータ位置偏差から速度指令を生成する位置制御部と、前記速度指令とフィードバック速度信号との速度偏差からトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令に基づいてモータを駆動するトルク制御部と、前記モータ位置信号から前記モータ速度信号を生成するモータ速度信号生成部と、前記モータ速度信号をフィードバック速度信号とするフィードバック速度信号生成部と、を備えた位置決め制御装置の制御方法において、
前記位置指令と機械位置信号との機械位置偏差から補正位置指令を生成するステップと、
前記機械位置偏差の絶対値を所定値と比較するステップと、
前記機械位置信号が位置目標値の所定範囲に入ったときスイッチをオンして前記補正位置指令と前記位置指令を加算して新たな位置指令を生成するステップと、
を備えることを特徴とする位置決め制御装置の制御方法。
【請求項9】
前記スイッチは、機械の試運転時に強制的にオフし、前記位置制御部と前記速度制御部の調整を自動的に行うステップを備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項10】
前記位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を生成するステップと、
前記フィードフォワード速度指令と前記速度指令を加算して新たな速度指令を生成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項11】
前記機械位置信号を微分して機械速度信号を生成するステップと、
前記モータ速度信号と前記機械速度信号を合成して前記フィードバック速度信号を生成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【請求項12】
前記モータ位置信号と機械位置信号の差をとりねじり角信号を生成するステップと、
前記ねじり角信号をPID処理をしてトルク補正信号を生成するステップと、
前記トルク指令と前記トルク補正信号を加算し新たなトルク指令を生成するステップと、
を備えることを特徴とする請求項8記載の位置決め制御装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−26144(P2009−26144A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189920(P2007−189920)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]