説明

位置決め装置、及び有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造装置

【課題】 Z軸方向への移動機構の簡素化を実現しつつ、高精度かつ高い応答性を満たしており、真空中における高精度なXYθ方向の精密位置決め機能を備えると同時に、Z軸方向への移動により基板受け渡しを行なうことができる位置決め装置を提供する。
【解決手段】 画素パターンの開口部を有する蒸着マスク7とガラス基板6とのXYθ方向の相対的な位置決め、及びZ軸方向の位置決めを行う位置決め装置であって、固定部3上に、Z軸方向に熱膨張及び熱収縮する弾性体継手2を介して、XYθステージ1を支持するとともに、弾性体継手2に加熱手段16を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体継手を用いたXYθ及びZ軸方向の位置決め装置、及びこれを備えた有機エレクトロリミネッセンスパネル(以下、「有機ELパネル」という。)の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELパネルの製造を行なう製造装置では、真空チャンバー内において画素パターンの開口部を有する蒸着マスクとガラス基板とのXYθ方向(水平面方向)の相対的な位置決め機構と、蒸着マスク上へのガラス基板の受け渡しを行なうZ軸方向(上下方向)の移動が可能な機構とが必須の機構となっている。
【0003】
従来、このようなXYθ方向の精密位置決め及びZ軸方向への移動を行なう機構は、大きく分けて2種類に分類される。第1の例はX−Y方向の剛性が小さく、Z軸方向の剛性は大きいという特徴を有する弾性体を介して、ステージを保持する構成であり、X−Y方向に移動するという機構である。第2の例は、ボールネジやリニアガイドによってステージを支持する構成であり、X−Y方向に移動する機構が挙げられる。
【0004】
これに関連する技術として、例えば、特許文献1に蒸着パターンに対応した蒸着用開口配列をもつ蒸着マスクをベース板上に複数個配置、固定して構成される統合マスクの組立装置に関する発明が開示されている。この発明は、「ベース板を保持するテーブルと、蒸着マスクを保持しかつ自在にベース板に対して相対移動可能とする蒸着マスク保持移動機構と、ベース板と蒸着マスクの基準マークあるいは基準位置を検知して、蒸着マスク保持移動機構を用いて蒸着マスクとベース板との相対位置決めを行う位置決めシステムと、蒸着マスクとベース板の固定・開放を行う係合ユニットを備える。」ことを要旨としており、一枚の基板に多数の有機EL素子を形成して生産性を飛躍的に向上できるというものである。
【0005】
【特許文献1】2002−305081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の2例のステージをZ軸方向(上下方向)に移動させる場合には、前記XYθ位置決め機構に加えて、Z軸方向変位を司る機構を別個に備える必要があり、装置が大型化するという問題があった。
【0007】
また、有機ELパネルの製造装置は、真空チャンバー内に配置されるため、真空かつ高温の特殊な環境下で利用されるだけでなく、スペースが制約される。この問題を解決するために、従来は、真空チャンバーの外にステージを動作させるための駆動部を配置するという方策が採られている。しかし、このような装置では駆動部を真空中に導入する必要があるため、装置形態が複雑となり、真空環境の維持を困難にさせる要因が増えるという問題があった。
【0008】
さらに、製造装置においては設備コストが重要な課題となっているが、上記のような装置の大型化や形態の複雑化は設備コストの増大をもたらす要因となり、一工程にかかるタクトも重要な課題となる。
【0009】
特許文献1に開示された統合マスクの組立装置は、X−Yテーブルを備え、蒸着マスクとベース板との固定・開放を行う上下方向の移動手段を備える組立装置であるが、蒸着マスク自体を統合して組み立てる装置であり、上下方向移動手段は公知のエアーシリンダであった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みて創案されたものであり、その目的は、Z軸方向への移動機構の簡素化を実現しつつ、高精度かつ高い応答性を満たしており、真空中における高精度なXYθ方向の精密位置決め機能を備えると同時に、Z軸方向への移動により基板受け渡しを行なうことができる位置決め装置、並びに、装置の小型化、装置形態の単純化、及び設備コスト・タクトの削減を達成できる有機ELパネルの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成すべく、本発明の位置決め装置は、XYθ方向及びZ軸方向の位置決めを行う位置決め装置において、固定部上に、Z軸方向に熱膨張及び熱収縮する弾性体継手を介して、XYθステージを支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の位置決め装置によれば、Z軸方向への移動機構の簡素化を実現しつつ、高精度かつ高い応答性を満たしており、真空中における高精度なXYθ方向の精密位置決め機能を備えると同時に、Z軸方向への移動により基板受け渡しを行なうことができる。
【0013】
また、この位置決め装置を備えた有機ELパネルの製造装置によれば、装置の小型化、装置形態の単純化、及び設備コスト・タクトの削減を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明するが、本発明は本実施形態に限るものではない。
【0015】
図1は本発明の位置決め装置の側面構造を示す模式図であり、図2は本発明の位置決め装置を示す平面図である。また図3は、本発明における弾性体継手の断面構造を示す模式図である。これらの図面において、1はXYθステージ、2は弾性体継手、3は固定部、4はチャンバー壁、5はCCDカメラ、6はガラス基板、7は蒸着マスク、8は画像処理装置、9は演算装置、10は駆動回路、11はアクチュエータ、12はピン、13はOリング、14はフランジ、15は中空パイプ、16はニクロム線、17は絶縁テープ、18はバネ、19は保持体、20は真空内管路である。
【0016】
これらの図面に示すように、本発明の位置決め装置は、画素パターンの開口部を有する蒸着マスク7とガラス基板6とのXYθ方向の相対的な位置決め、及びZ軸方向の位置決めを行う装置であって、固定部3上に、Z軸方向に熱膨張及び熱収縮する弾性体継手2を介して、XYθステージを支持しており、上記弾性体継手2には加熱手段16を備えて、概ね構成される。
【0017】
図1に示すように、XYθステージ1は水平面方向の移動機構であって、このXYθステージ1と固定部3とは、Z軸方向(上下方向)に沿って熱膨張又は熱収縮しうるように配設された4本の弾性体継手2により接続されている。上記固定部3は、本発明の位置決め装置が設置される真空チャンバー内に、ボルトで固定されている。また、図1及び図2に示すように、この固定部3のX軸方向及びY軸方向の一側部には、後述するアクチュエータ11a、11b及び11cをそれぞれ保持する保持体19がボルトにより固定されている。
【0018】
蒸着マスク7は、図1に示すように、チャンバー壁4上に上方へ突設させた支持台を介して設置されている。また、XYθステージ1は、図2に示すように、中央部に長方形状の開口部を開設した矩形額縁状の構造を有している。ガラス基板6は、図2に示すように、XYθステージ1の開口部の四隅に配置されたL字状の爪部に支持され、4本の弾性体継手2によりZ軸方向に持ち上げられる構造と成っている。弾性体継手2が膨張していないときには、蒸着マスク7上にガラス基板6が載置された状態となる。一方、弾性体継手2が膨張してZ軸方向に上昇しているときには、ガラス基板6はXYθステージ1により持ち上げられ、ガラス基板6は蒸着マスク7から離間した状態となる。
【0019】
また、蒸着マスク7とガラス基板6とには、各々の四隅のうちの対角をなす2点において不図示のアライメントマークが付されており、図1に示すように、蒸着マスク7の上方には2台のCCDカメラ5が設置され、上記アライメントマークを観察しうるように成っている。CCDカメラ5は、これらの画像から上記アライメントマークの重心位置を算出する画像処理装置8、重心位置から各アクチュエータ11a、11b、11cへの指令値演算をする演算装置9、及び各アクチュエータ11a、11b、11cを駆動するための駆動回路10が順次接続されている。
【0020】
次に、弾性体継手2の構造及び機能について説明する。
【0021】
図3に示すように、本実施形態では、弾性体継手2は、中空パイプ15の両端にフランジ14がロウ付けで接合された構造を有しており、一方のフランジ14と固定部3、他方のフランジ14とXYθステージ1はボルトにより固定されている。これにより、XYθステージ1は、固定部3上にZ軸方向に沿って配設された弾性体継手2を介して、Z軸方向に固定部3から離間して保持されるとともに、XYθ方向へ微動が可能に成っている。
【0022】
また、中空パイプ15の中間部分には、一重巻きの絶縁テープ17が巻かれており、その上に上記中空パイプ15を加熱する手段16として、ポリイミドにより絶縁皮膜されたニクロム線が巻き付けられている。このニクロム線16に電流を流すことでジュール熱が発生し、ニクロム線16の温度が上昇する。ニクロム線16により加熱された中空パイプ15がZ軸方向へ熱膨張することで、中空パイプ15上に保持されたXYθステージ1がZ軸方向に上昇することになる。
【0023】
さらに、温度上昇した中空パイプ15の放熱手段として、その内部に熱媒体としての圧縮空気を流入するように成っており、圧縮空気を流入させて中空パイプ15を急速に冷却することで、中空パイプ15は熱収縮し、XYθステージ1がZ軸方向に下降することになる。このような構成を採ることにより、圧縮空気により放熱時における熱交換を促進させて、XYθステージ1のZ軸方向における下降時間を短縮することが可能となる。
【0024】
そして、上記中空パイプ15の両端に設けたフランジ14にはOリング13を配置しており、2本の中空パイプ同士を真空内管路20で接続し、U字管のように形成することにより、外部から真空チャンバー内に熱媒体を導入し、再び真空チャンバー外に熱媒体を導出する構造を有する熱媒体の導入手段を構成することが可能となる。このような構成により、熱媒体の循環が可能となり、真空チャンバー内における弾性体継手2の熱交換を促進させて、XYθステージ1のZ軸方向における下降時間を削減することが可能となる。
【0025】
本実施形態では、上記弾性体継手2を構成する中空パイプ15の材質として、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を採用し、その外径は0.9mm、内径は0.6mm、長さは20mmの中空構造とした。真空チャンバー内における実験では、Z軸方向のストロークは、ニクロム線16の加熱温度を200℃にしたとき約65μmであった。その際、上昇速度は約60秒で、下降速度は約1秒であった。また、XYθ方向のストロークは±100μm前後に設定した。
【0026】
なお、弾性体継手2は中空パイプ構造に限るものではなく、例えば、弾性体継手の周りに熱交換しうる管路を配置した構造とし、この管路内に熱媒体を流すように構成してもよい。また、本実施形態では、熱媒体として安価な圧縮空気を採用しているが、他の流体であってもよく、気体のみならず液体であっても構わない。
【0027】
次に、図1及び図2に基づいて、XYθ方向の精密位置決め機構についての詳細構成を説明する。
【0028】
図1及び図2に示すように、XYθステージ1と保持体19との間には、3基のアクチュエータ11が配置されている。また、アクチュエータ11とXYθステージ1との間はピン12で接続され、アクチュエータ11とXYθステージ1及びピン12のバックラッシュを無くすために、各ピン12と並列にそれぞれバネ18が設置されている。図2に示すように、X軸方向には2基のアクチュエータ11a、11bが、Y軸方向には1基のアクチュエータ11cが配置されている。即ち、アクチュエータ11の先端の進出運動は、並列に配置されたピン12とバネ18に伝達され、XYθステージ1のXY方向の変位と姿勢θを決定することになる。
【0029】
また次に、蒸着マスク7とガラス基板6とのXYθ及びZ軸方向の精密位置決め機構における精密位置決め動作、及び精密位置決め終了後の蒸着マスク7上へのガラス基板6の受け渡し動作について説明する。
【0030】
精密位置決め時の初期状態として、弾性体継手2に巻き付けられたニクロム線16には電流が流されてジュール熱が発生し、中空パイプ15が加熱されて熱膨張し、XYθステージ1をZ軸方向へ上昇させた状態になっている。それと同時に、ガラス基板6はXYθステージ1の開口部四隅のL字状爪部によって、Z軸方向に持ち上げられている。
【0031】
2台のCCDカメラ5により蒸着マスク7とガラス基板6トに配されたアライメントマークの画像を取得し、画像処理装置8が上記アライメントマークの重心位置を算出して、演算装置9でアクチュエータ11a、11b、11cへの指令値演算を行なう。指令を受けた上記アクチュエータ11a、11b、11cは、各ピン12を介してXYθステージ1を変位させて、蒸着マスク7とガラス基板6との相対的な精密位置決めが行なわれる。
【0032】
蒸着マスク7とガラス基板6との精密位置決めが終了した後、弾性体継手2に巻き付けられたニクロム線16への電流を打ち切り、上記中空パイプ15内に圧縮空気を流入させて冷却することで、弾性体継手2が収縮すると同時に、XYθステージ1はZ軸方向に下降する。したがって、XYθステージ1の開口部四隅の爪部により支持されていたガラス基板6は蒸着マスク7上に受け渡され、精密位置決め動作が完了する。
【0033】
このように本実施形態の位置決め装置によれば、XYθステージ1と固定部3とが4本の弾性体継手2で接続されており、XYθステージ1を支持する弾性体継手2を加熱又は冷却することにより、XYθステージ1をZ軸方向に変位させることができる。したがって、弾性体継手は、XYθステージ1がXYθ方向に移動する際の微動ガイドとして機能するとともに、Z軸方向への移動機構として機能し、装置の小型化と設備コストの削減が可能となる。また、弾性体継手2としての中空パイプ15の外周部に加熱手段としてニクロム線16を設けたので、中空パイプ15が熱膨張してZ軸方向への移動作用を発揮する。さらに、弾性体継手2に熱媒体を接触させることにより、熱膨張した弾性体継手2を急速に放熱させることが可能となり、弾性体継手2が熱収縮する際のZ軸方向への移動速度を向上させることができる。そして、弾性体継手2を中空パイプ構造に構成するか、あるいは弾性体継手の周りに熱交換しうる管路を配置した構造に構成し、中空パイプ15内や管路内に熱媒体を流すことにより、真空中に配置された弾性体継手2を急速に放熱させて熱収縮させることができ、弾性体継手2が熱収縮する際のZ軸方向への移動速度を向上させることができる。
【0034】
すなわち、本実施形態の位置決め装置によれば、Z軸方向への移動機構の簡素化を実現しつつ、高精度かつ高い応答性を満たしており、真空中における高精度なXYθ方向の精密位置決め機能を備えると同時に、Z軸方向への移動により基板受け渡しを行なうことができる。
【0035】
また、前述した構成を有するXYθ及びZ軸方向の位置決め装置は、有機ELパネルの有機膜蒸着工程において、真空チャンバー内において画素パターンの開口部を有する蒸着マスクとガラス基板との相対的な位置決めを行う位置決め装置として採用することができる。このような位置決め装置を備えた有機ELパネルの製造装置によれば、装置の小型化、装置形態の単純化、及び設備コスト・タクトの削減を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の位置決め装置の側面構造を示す模式図である。
【図2】本発明の位置決め装置を示す平面図である。
【図3】本発明における弾性体継手の断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 XYθステージ
2 弾性体継手
3 固定部
4 チャンバー壁
5 CCDカメラ
6 ガラス基板
7 蒸着マスク
8 画像処理装置
9 演算装置
10 駆動回路
11(11a、11b、11c) アクチュエータ
12 ピン
13 Oリング
14 フランジ
15 中空パイプ
16 ニクロム線
17 絶縁テープ
18 バネ
19 保持体
20 真空内管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XYθ方向及びZ軸方向の位置決めを行う位置決め装置において、固定部上に、Z軸方向に熱膨張及び熱収縮する弾性体継手を介して、XYθステージを支持することを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記弾性体継手に加熱手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記弾性体継手には、熱媒体を接触させて該弾性体継手の放熱を促進する放熱手段が備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
当該位置決め装置は真空チャンバー内に配置され、前記熱媒体の導入手段は外部から真空チャンバー内に導入されて、再び真空チャンバー外へと導出される構造を有することを特徴とする請求項3に記載の位置決め装置。
【請求項5】
真空チャンバー内において画素パターンの開口部を有する蒸着マスクとガラス基板とのXYθ方向の相対的な位置決め、及びZ軸方向の位置決めを行う位置決め装置として、請求項1〜4のいずれかに記載の位置決め装置を備えていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスパネルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241489(P2006−241489A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55308(P2005−55308)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】