説明

位置決め装置

【課題】翼車と支持軸との位置決め精度の向上を実現可能な位置決め装置を提供する。
【解決手段】支持軸と翼車とが一体的に嵌合された状態で両者の位置決めを行う位置決め装置であって、支持軸をその中心軸線が基準面に対して垂直となるように把持する把持装置と、支持軸の中心軸線が基準面に設定された装置原点を通過するように把持装置を移動させるワーク移動装置と、基準面内の装置原点で交わる3つの座標軸に沿って軸側接触子及び翼側接触子を移動させるアクチュエータと、ワーク移動装置を制御して支持軸の中心軸線が装置原点と一致するように把持装置を移動させた後、アクチュエータを制御して支持軸と各軸側接触子との接触位置と、翼車の開先円と各翼側接触子との接触位置とを計測し、その計測結果に基づいて支持軸の中心軸線上に翼車の重心点が位置するように翼車の位置決めを行う制御装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両や船舶等において、内燃機関から導かれる排気ガスの運動エネルギーを利用して、内燃機関に圧縮した空気を供給し、内燃機関の性能を向上させる過給機が使用されている。過給機の内部には、排気ガスの運動エネルギーを回転の駆動力に変換するタービンロータが設けられている。このタービンロータは、排気ガスの流動によって回転する翼車と、翼車を回転自在に支持軸とを一体的に接続して構成されている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、タービンロータの製造方法として、翼車に嵌合凹部を形成し、この嵌合凹部に嵌合できる嵌合凸部を支持軸に形成し、嵌合凹部に嵌合凸部を嵌合させ、接触部に溶接等を施すことで翼車と支持軸とを一体的に接続する技術が開示されている。なお、嵌合凹部及び嵌合凸部は、翼車及び支持軸のそれぞれの外形・外周面から割り出した機械的な中心位置に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3293712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な支持軸は略円柱状に形成された軸部材であり、外周面側に設けられる所定の軸受によって回転自在に支持されるため、支持軸の回転中心と嵌合凸部の中心位置とはほぼ一致している。一方、翼車は、周方向に並ぶ複数の翼を備えた複雑な形状となっていることから、製造誤差等の影響により、その機械的な回転中心と翼車の重心とが異なる場合がある。
【0006】
このような支持軸と翼車とを一体的に接続すると、支持軸の回転中心と翼車の重心との間にズレが生じ、タービンロータの回転特性がアンバランスとなる虞があった。ロータは高速(例えば、10万rpm以上)で回転することから、その回転特性がアンバランスになるとロータの回転とともに振動が生じる虞があった。
【0007】
振動が生じると、過給機の効率低下や翼車の破損等の不具合を引き起こすことから、アンバランス量を所定の範囲内に抑えることが必要となる。そのため、事前に翼車の重心点を計測しておき、翼車と支持軸とを一体的に嵌合させた状態で支持軸の位置をチャックで固定し、支持軸の中心軸線上に翼車の重心点が位置するようにアクチュエータで翼車の位置調整を行った後、翼車と支持軸との当接部(接触部)を溶接する方法が提案されていた。
【0008】
しかしながら、この方法では、翼車の重心点を高精度に計測できたとしても、基準となる支持軸の位置決め精度(チャックによる把持精度)が低い場合には、支持軸に対する翼車の位置決め精度(支持軸の中心軸線上に翼車の重心点を位置決めする精度)が低下し、タービンロータのアンバランス量が増大する虞があった。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、翼車と支持軸との位置決め精度の向上を実現可能な位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、位置決め装置に係る第1の解決手段として、
一端に嵌合凸部を有する支持軸と、前記嵌合凸部が挿入される嵌合凹部が形成された円筒状の開先円を有する翼車とが一体的に嵌合された状態で両者の位置決めを行う位置決め装置であって、前記支持軸をその中心軸線が基準面に対して垂直となるように把持する把持装置と、前記支持軸の中心軸線が前記基準面に設定された装置原点を通過するように前記把持装置を移動させるワーク移動装置と、前記基準面内の装置原点で交わる3つの座標軸に沿って、前記支持軸に接触する軸側接触子及び前記翼車の開先円に接触する翼側接触子を移動させるアクチュエータと、前記ワーク移動装置を制御して前記支持軸の中心軸線が前記装置原点と一致するように前記把持装置を移動させた後、前記アクチュエータを制御して前記支持軸と各軸側接触子との接触位置と、前記翼車の開先円と各翼側接触子との接触位置とを計測し、その計測結果に基づいて前記支持軸の中心軸線上に前記翼車の重心点が位置するように前記翼車の位置決めを行う制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、位置決め装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記制御装置は、前記アクチュエータを制御して、前記支持軸と各軸側接触子との接触位置の計測結果を基に前記支持軸の半径を算出すると共に、前記翼車の開先円と各翼側接触子との接触位置の計測結果を基に前記翼車の開先円の半径を算出し、各半径の算出結果及び事前に計測していた前記翼車の偏重心距離に基づいて、前記支持軸の中心軸線上に前記翼車の重心点が位置するように前記翼車の位置決めを行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、位置決め装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記3つの座標軸として、前記装置原点で直交するX軸及びY軸と、前記装置原点を中心としてX軸からY軸側の反対側へ135°回転した方向に延びるL軸とが設定され、前記アクチュエータは、前記X軸に沿って軸側接触子を移動させる軸側X軸アクチュエータと、前記Y軸に沿って軸側接触子を移動させる軸側Y軸アクチュエータと、前記L軸に沿って軸側接触子を移動させる軸側L軸アクチュエータと、前記X軸に沿って翼側接触子を移動させる翼側X軸アクチュエータと、前記Y軸に沿って翼側接触子を移動させる翼側Y軸アクチュエータと、前記L軸に沿って翼側接触子を移動させる翼側L軸アクチュエータとを備え、前記制御装置は、前記軸側X軸アクチュエータ、軸側Y軸アクチュエータ及び軸側L軸アクチュエータを力制御モードで制御して、各軸側接触子を前記支持軸へ向けて移動させ、各軸側接触子が静止した位置を接触位置として計測し、その計測結果から前記支持軸の半径を算出すると共に、前記軸側X軸アクチュエータ、軸側Y軸アクチュエータ及び軸側L軸アクチュエータをを位置制御モードで制御して、各軸側接触子を前記計測した接触位置にて固定し、前記翼側X軸アクチュエータ、翼側Y軸アクチュエータ及び翼側L軸アクチュエータをを力制御モードで制御して、各翼側接触子を前記翼車の開先円へ向けて移動させ、各翼側接触子が静止した位置を接触位置として計測し、その計測結果から前記翼車の開先円の半径を算出すると共に、前記翼側X軸アクチュエータ及び翼側Y軸アクチュエータを位置制御モードで制御して、X軸の軸側接触子と翼側接触子との間の距離が、前記翼者の偏重心距離のX軸成分に半径差を加算した値となるようにX軸の翼側接触子の位置調整と、Y軸の軸側接触子と翼側接触子との間の距離が、前記翼者の偏重心距離のY軸成分に半径差を加算した値となるようにY軸の翼側接触子の位置調整とを行った後、翼側L軸アクチュエータを力制御モードで制御して、L軸の翼側接触子を前記翼側開先円へ向けて移動させ、翼側接触子が静止した位置で翼側接触子を固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基準となる支持軸の位置決め精度(把持装置による支持軸の把持精度やワーク移動装置による装置原点に対する支持軸の位置決め精度)に影響されずに、支持軸と翼車との相対的な位置関係が正確に求まるため、支持軸に対する翼車の位置決め精度(支持軸の中心軸線上に翼車の重心点を位置決めする精度)を向上させることができ、その結果、アンバランス量の少ないタービンロータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る位置決め装置1の構成概略図であり、(a)は位置決め装置1の上面図、(b)は位置決め装置1の側面図である。
【図2】翼車20と支持軸30とが一体的に接続(溶接)されてなるタービンロータの側面図(a)と、そのA−A矢視断面図(b)である。
【図3】位置決め装置1による翼車20と支持軸30の位置決め動作を時系列的に示した第1図である。
【図4】位置決め装置1による翼車20と支持軸30の位置決め動作を時系列的に示した第2図である。
【図5】支持軸30の半径R1の算出手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る位置決め装置1の構成概略図である。本位置決め装置1は、翼車20と支持軸30とを一体的に嵌合させた状態(溶接前の状態)で両者の位置決めを行う装置であり、ワークテーブル2、チャック3、軸側X軸アクチュエータ4、軸側Y軸アクチュエータ5、軸側L軸アクチュエータ6、翼側X軸アクチュエータ7、翼側Y軸アクチュエータ8、翼側L軸アクチュエータ9及び制御装置10から構成されている。
なお、以下では、本位置決め装置1についての理解を容易とするために、位置決め対象物(ワーク)である翼車20及び支持軸30について先に説明する。
【0016】
図2(a)は、翼車20と支持軸30とが一体的に接続(溶接)されてなるタービンロータの側面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A矢視断面図である。周知のように、タービンロータとは、不図示の過給機の内部に設けられ、内燃機関から導かれる排気ガスの運動エネルギーを回転駆動力に変換するものである。
【0017】
翼車20は、内燃機関から導かれる排気ガスの流動によって高速回転(例えば、10万rpm以上)する回転翼である。この翼車20は、ハブ21と、翼部22と、翼側開先円23とを有している。翼車20は、高温の排気ガスが流動する領域内で使用されるため、高耐熱性・高剛性の金属材料(例えばインコネル等)を用いて一体的に成形されている。その成形には精密鋳造等が用いられる。なお、図2では、翼車20の重心点を符号Gで表している。
【0018】
ハブ21は、略円錐状に形成された部材であって、翼部22のベースとなるものである。翼部22は、ハブ21の外周面で周方向に複数並んで配置されている。翼部22は、排気ガスの流動を受けて、翼車20を回転させるためのものである。翼側開先円23は、ハブ21の後端面における中央部に設けられ、支持軸30との接続に用いられる箇所である。翼側開先円23は、略円筒状に形成され、その中心軸が前後方向と平行する向きで設置されている。翼側開先円23の後端面(すなわち支持軸30側の端面)は、前後方向と直交する平面状に形成されている。また、翼側開先円23には、嵌合凹部24が形成されている。嵌合凹部24は、支持軸30側に向かって開口する背面視略円形の孔部となっている。
【0019】
支持軸30は、前後方向で延びる略丸棒状の軸部材であって、翼車20と一体的に接続され、翼車20を回転自在に支持するものである。この支持軸30は、過給機の軸受ハウジング(図示せず)に回転自在に支持される。支持軸30は、高剛性を備える一般的な金属材料(例えばクロムモリブデン鋼等)を用いて成形されている。その成形には一般的な塑性加工(鍛造、転造等)や機械加工(切削、研削等)が用いられる。支持軸30には、軸側接続部31と、嵌合凸部32と、雄ネジ部33とが形成されている。なお、図2では、支持軸30の中心軸線を符号Cで表している。
【0020】
軸側接続部31は、支持軸30の前端側に設けられ、翼車20との接続に用いられる箇所である。また、軸側接続部31の前端面(すなわち翼車20側の端面)は、前後方向と直交する平面状に形成されている。軸側接続部31の前端面には翼側開先円23の後端面が当接しており、両部材の当接部は溶接により一体的に接続された溶接部Wとなっている。すなわち、溶接部Wにおいて、翼車20と支持軸30とが一体的に接続されている。
【0021】
嵌合凸部32は、軸側接続部31の前端側に設けられ、翼車20に向かって突出している。嵌合凸部32は、略円柱状に形成され、翼車20の嵌合凹部24内に挿入される。嵌合凸部32の外径は、嵌合凹部24の内径よりも小さく設定されている。つまり、嵌合凸部32を嵌合凹部24に挿入させた状態(翼車20と支持軸30を嵌合させた状態)では、支持軸30の中心軸線Cと直交する方向への翼車20の微小移動が許容されている。雄ネジ部33は、支持軸30の後端側に設けられ、空気を圧縮するために用いられる不図示のコンプレッサインペラを接続するために用いられるものである。
【0022】
図2では、支持軸30の中心軸線C上に翼車20の重心点Gが位置している理想的なタービンロータを図示しているが、実際には、前述のように、基準となる支持軸30の位置決め精度(チャックによる把持精度等)が低い場合には、支持軸30に対する翼車20の位置決め精度(支持軸30の中心軸線C上に翼車20の重心点Gを位置決めする精度)が低下するため、中心軸線Cと重心点Gとの位置ズレが生じ、タービンロータのアンバランス量が増大する虞があった。
【0023】
以下では、上述した翼車20及び支持軸30の構成を前提として、本位置決め装置1について図1を参照しながら説明する。図1(a)は、本位置決め装置1の上面図であり、図1(b)は、本位置決め装置1の側面図である。この図1では、装置構成の理解を容易とするために、各部材の大きさを意図的に実際の部材の大きさと異ならせて表示している。
【0024】
また、以下では、図中に示すXYZ直交座標系を参照しながら各部材の位置関係を説明する。ここでは、XY平面が水平面と平行な基準面として設定され、Z軸がXY平面に直交して鉛直方向に延びる座標軸として設定されている。また、図1(a)に示すように、X軸とY軸との交点を装置原点Oとし、この装置原点Oを中心としてX軸から時計回りに(Y軸側の反対側に)135°回転した方向に延びる座標軸をL軸とする。
【0025】
本位置決め装置1において、ワークテーブル2は、基準面(XY平面)に対して平行となるように設置された円板状の回転テーブルである。このワークテーブル2は、制御装置10による制御の下、不図示のモータ等からなる回転駆動機構によって回転駆動される。チャック3は、ワークテーブル2の上面に設置されたワーク把持装置であり、翼車20と支持軸30とが一体的に嵌合された状態(嵌合凸部32が嵌合凹部24に挿入された状態)で、支持軸30をその中心軸線Cが基準面に対して垂直となるように(言い換えれば、中心軸線CがZ軸と平行となるように)把持する。
【0026】
図1(a)中の符号Mは、ワークテーブル2が回転した時のXY平面内における支持軸30の中心軸線Cの移動軌跡を示している。このように、ワークテーブル2と不図示の回転駆動機構は、支持軸30の中心軸線Cが基準面に設定された装置原点Oを通過するようにチャック3を移動させるワーク移動装置として機能する。なお、図1(b)は、ワークテーブル2の回転によって、支持軸30の中心軸線Cが装置原点Oに位置決めされた状態を示している。
【0027】
軸側X軸アクチュエータ4は、制御装置10による制御の下、支持軸30に接触する軸側接触子4aをX軸に沿って移動させる直動アクチュエータである。
軸側Y軸アクチュエータ5、制御装置10による制御の下、支持軸30に接触する軸側接触子5aをY軸に沿って移動させる直動アクチュエータである。
軸側L軸アクチュエータ6は、制御装置10による制御の下、支持軸30に接触する軸側接触子6aをL軸に沿って移動させる直動アクチュエータである。
【0028】
翼側X軸アクチュエータ7は、制御装置10による制御の下、翼車20の翼側開先円23に接触する翼側接触子7aをX軸に沿って移動させる直動アクチュエータである。
翼側Y軸アクチュエータ8は、制御装置10による制御の下、翼車20の翼側開先円23に接触する翼側接触子8aをY軸に沿って移動させる直動アクチュエータである。
翼側L軸アクチュエータ9は、制御装置10による制御の下、翼車20の翼側開先円23に接触する翼側接触子9aをL軸に沿って移動させる直動アクチュエータである。
【0029】
軸側X軸アクチュエータ4と翼側X軸アクチュエータ7は、同一構造のアクチュエータであり、Z軸方向に対して重なり合うように配置されている。同じく、軸側Y軸アクチュエータ5と翼側Y軸アクチュエータ8も、同一構造のアクチュエータであり、Z軸方向に対して重なり合うように配置されている。また、軸側L軸アクチュエータ6と翼側L軸アクチュエータ9も、同一構造のアクチュエータであり、Z軸方向に対して重なり合うように配置されている。
これらのアクチュエータ4〜9は、基準面内の装置原点Oで交わる3つの座標軸(X軸、Y軸、L軸)に沿って、支持軸30に接触する軸側接触子4a、5a、6a及び翼車20の翼側開先円23に接触する翼側接触子7a、8a、9aを移動させるアクチュエータとして機能する。
【0030】
制御装置10は、ワークテーブル2(詳細には回転駆動機構)を回転制御して、支持軸30の中心軸線Cが装置原点Oと一致するようにチャック3を移動させた後、各アクチュエータ4〜9を制御して、支持軸30と各軸側接触子4a、5a、6aとの接触位置と、翼車20の翼側開先円23と各翼側接触子7a、8a、9aとの接触位置とを計測し、その計測結果に基づいて支持軸30の中心軸線C上に翼車20の重心点Gが位置するように翼車20の位置決めを行うものである。
【0031】
次に、上記のように構成された本位置決め装置1による翼車20と支持軸30の位置決め動作について図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
まず、翼車20と支持軸30とを一体的に嵌合させた状態で、支持軸30をその中心軸線Cが基準面に対して垂直となるように(中心軸線CがZ座標軸と平行となるように)チャック3に把持させた後、不図示の操作盤を操作して制御装置10に対して位置決め動作開始を指示すると、制御装置10は、図3(a)に示すように、ワークテーブル2を回転させて支持軸30の中心軸線Cが装置原点Oと一致するようにチャック3を移動させる。
【0032】
ここで、ワークテーブル2の位置決め誤差やチャック3による支持軸30の把持誤差(チャック誤差)等によって、支持軸30の中心軸線Cと装置原点Oとが完全に一致しない。図3(a)中の実線は、ワークテーブル2の位置決め誤差やチャック誤差を含む支持軸30の現在位置を示し、点線は支持軸30の理想的な位置(中心軸線Cが装置原点Oと一致する位置)を示している。
【0033】
そして、制御装置10は、図3(b)に示すように、軸側X軸アクチュエータ4、軸側Y軸アクチュエータ5及び軸側L軸アクチュエータ6を力制御モードで制御して、各軸側接触子4a、5a、6aを支持軸30へ向けて最小力で移動させ、各軸側接触子4a、5a、6aが静止した位置(各軸側接触子4a、5a、6aの先端面が支持軸30に接触した位置)をそれぞれ軸側接触位置TX1、TY1、TL1として計測し、その計測結果を内部メモリに記録する。
【0034】
そして、制御装置10は、上記のように内部メモリに記録した各軸側接触位置TX1、TY1、TL1の計測結果から支持軸30の半径R1を算出する。以下、図4を参照しながら、各軸側接触位置TX1、TY1、TL1から支持軸30の半径R1を算出する手法について説明する。図4において、符号TX1、TY1、TL1は、上記の軸側接触位置を示し、符号TX0、TY0、TL0は、各軸側接触子4a、5a、6aの先端面の初期位置を示している。
【0035】
また、符号X0は、装置原点Oから軸側接触子4aの初期位置TX0までのX軸方向の距離を示し、符号X1は、装置原点Oから軸側接触子4aの軸側接触位置TX1までのX軸方向の距離を示し、符号Xmは、軸側接触子4aの初期位置TX0から軸側接触位置TX1までのX軸方向の距離を示している。
また、符号Y0は、装置原点Oから軸側接触子5aの初期位置TY0までのY軸方向の距離を示し、符号Y1は、装置原点Oから軸側接触子5aの軸側接触位置TY1までのY軸方向の距離を示し、符号Ymは、軸側接触子5aの初期位置TY0から軸側接触位置TY1までのY軸方向の距離を示している。
また、符号L0は、装置原点Oから軸側接触子6aの初期位置TL0までのL軸方向の距離を示し、符号L1は、装置原点Oから軸側接触子6aの軸側接触位置TL1までのL軸方向の距離を示し、符号Lmは、軸側接触子6aの初期位置TL0から軸側接触位置TL1までのL軸方向の距離を示している。
【0036】
ここで、X1=X0−Xm、Y1=Y0−Ym、L1=L0−Lmの関係式が成立し、X0、Y0及びL0は既知の値であり、Xm、Ym及びLmは軸側接触位置TX1、TY1、TL1の計測結果から求まる値であるので、結果的に、X1、Y1、L1は数値演算によって求めることができる。
【0037】
また、図4中の符号Dで示される直線の長さは、X1、Y1、L1を用いて下記(1)式で表される。この下記(1)式において、X2はL1のX軸成分(=L1/√2)であり、Y2はL1のY軸成分(=L1/√2)である。
D=X1+Y1+X2+Y2
=X1+Y2+(L1/√2)+(L1/√2)
=X1+Y2+L1√2 ・・・(1)
【0038】
また、符号Eで示される直線の長さは、Dを用いると下記(2)式で表され、支持軸30の半径R1を用いると下記(3)式で表される。従って、支持軸30の半径R1は、(2)(3)式から最終的に下記(4)式で表される。
E=D/√2 ・・・(2) E=√2・R+R ・・・(3)
R1=D/√2+2=D/3.4142 ・・・(4)
つまり、制御装置10は、軸側接触位置TX1、TY1、TL1の計測結果から算出したX1、Y1、L1を上記(1)式に代入してDを求め、さらに、このDを上記(4)式に代入することにより、支持軸30の半径R1を算出する。
【0039】
制御装置10は、上記のように支持軸30の半径R1を算出して、その算出結果を内部メモリに記録した後、軸側X軸アクチュエータ4、軸側Y軸アクチュエータ5及び軸側L軸アクチュエータ6を位置制御モードで制御して、各軸側接触子4a、5a、6aを軸側接触位置TX1、TY1、TL1にて固定する。これにより、支持軸30は現在位置にて完全に固定される。
【0040】
続いて、制御装置10は、図3(c)に示すように、翼側X軸アクチュエータ7、翼側Y軸アクチュエータ8及び翼側L軸アクチュエータ9を力制御モードで制御して、各翼側接触子7a、8a、9aを翼車20の翼側開先円23へ向けて最小力で移動させ、各翼側接触子7a、8a、9aが静止した位置(各翼側接触子7a、8a、9aの先端面が翼側開先円23に接触した位置)をそれぞれ翼側接触位置として計測し、その計測結果を内部メモリに記録する。
【0041】
そして、制御装置10は、上記のように内部メモリに記録した各翼側接触位置の計測結果から翼側開先円23の半径R2を算出し、その算出結果を内部メモリに記録する。なお、翼側開先円23の半径R2の算出方法は、支持軸30の半径R1の算出方法と同じであるため、詳細な説明については省略する。
また、前述のように、支持軸30の嵌合凸部32を翼車20の嵌合凹部24に挿入させた状態(翼車20と支持軸30を嵌合させた状態)では、支持軸30の中心軸線Cと直交する方向への翼車20の微小移動が許容されているため、図3(c)に示すように、翼側開先円23の現在位置には翼車20と支持軸30との嵌合誤差が含まれている。言い換えれば、この時点での、翼側開先円23の中心位置と支持軸30の中心軸線Cとの間には位置ズレが生じている。
【0042】
そして、制御装置10は、内部メモリから翼側開先円23の半径R2と支持軸30の半径R1とを読み出して、これら半径R2とR1の差分(半径差ΔR)を算出し、さらに、内部メモリから翼車20の偏重心距離(翼車20の回転中心から重心点Gまでの距離)のX軸成分GXとY軸成分GYを読み出す。なお、これら偏重心距離のX軸成分GXとY軸成分GYは、事前に翼車20について計測されていた値である。
【0043】
そして、制御装置10は、図3(d)に示すように、翼側X軸アクチュエータ7及び翼側Y軸アクチュエータ8を位置制御モードで制御して、軸側接触子4aと翼側接触子7aとの間の距離が、偏重心距離のX軸成分GXに半径差ΔRを加算した値となるように翼側接触子7aの位置調整を行うと共に、軸側接触子5aと翼側接触子8aとの間の距離が、偏重心距離のY軸成分GYに半径差ΔRを加算した値となるように翼側接触子8aの位置調整を行う。
【0044】
制御装置10は、上記のように翼側接触子7a、8aの位置調整を行った後、翼側L軸アクチュエータ9を力制御モードで制御して、翼側接触子9aを翼車20の翼側開先円23へ向けて最小力で移動させ、翼側接触子9aが静止した位置で翼側接触子9aを固定する。これにより、図3(d)に示すように、支持軸30の中心軸線C上に翼車20の重心点Gが位置するように翼車20の位置決めが完了する。
【0045】
以上のような本実施形態によれば、基準となる支持軸30の位置決め精度(チャック3による支持軸30の把持精度やワークテーブル2による装置原点Oに対する支持軸30の位置決め精度)に影響されずに、支持軸30と翼車20との相対的な位置関係が正確に求まるため、支持軸30に対する翼車20の位置決め精度(支持軸30の中心軸線C上に翼車20の重心点Gを位置決めする精度)を向上させることができ、その結果、アンバランス量の少ないタービンロータを得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…位置決め装置、2…ワークテーブル、3…チャック、4…軸側X軸アクチュエータ、5…軸側Y軸アクチュエータ、6…軸側L軸アクチュエータ、7…翼側X軸アクチュエータ、8…翼側Y軸アクチュエータ、9…翼側L軸アクチュエータ、10…制御装置、20…翼車、30…支持軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に嵌合凸部を有する支持軸と、前記嵌合凸部が挿入される嵌合凹部が形成された円筒状の開先円を有する翼車とが一体的に嵌合された状態で両者の位置決めを行う位置決め装置であって、
前記支持軸をその中心軸線が基準面に対して垂直となるように把持する把持装置と、
前記支持軸の中心軸線が前記基準面に設定された装置原点を通過するように前記把持装置を移動させるワーク移動装置と、
前記基準面内の装置原点で交わる3つの座標軸に沿って、前記支持軸に接触する軸側接触子及び前記翼車の開先円に接触する翼側接触子を移動させるアクチュエータと、
前記ワーク移動装置を制御して前記支持軸の中心軸線が前記装置原点と一致するように前記把持装置を移動させた後、前記アクチュエータを制御して前記支持軸と各軸側接触子との接触位置と、前記翼車の開先円と各翼側接触子との接触位置とを計測し、その計測結果に基づいて前記支持軸の中心軸線上に前記翼車の重心点が位置するように前記翼車の位置決めを行う制御装置と、
を備えることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記アクチュエータを制御して、前記支持軸と各軸側接触子との接触位置の計測結果を基に前記支持軸の半径を算出すると共に、前記翼車の開先円と各翼側接触子との接触位置の計測結果を基に前記翼車の開先円の半径を算出し、各半径の算出結果及び事前に計測していた前記翼車の偏重心距離に基づいて、前記支持軸の中心軸線上に前記翼車の重心点が位置するように前記翼車の位置決めを行うことを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記3つの座標軸として、前記装置原点で直交するX軸及びY軸と、前記装置原点を中心としてX軸からY軸側の反対側へ135°回転した方向に延びるL軸とが設定され、
前記アクチュエータは、
前記X軸に沿って軸側接触子を移動させる軸側X軸アクチュエータと、
前記Y軸に沿って軸側接触子を移動させる軸側Y軸アクチュエータと、
前記L軸に沿って軸側接触子を移動させる軸側L軸アクチュエータと、
前記X軸に沿って翼側接触子を移動させる翼側X軸アクチュエータと、
前記Y軸に沿って翼側接触子を移動させる翼側Y軸アクチュエータと、
前記L軸に沿って翼側接触子を移動させる翼側L軸アクチュエータとを備え、
前記制御装置は、
前記軸側X軸アクチュエータ、軸側Y軸アクチュエータ及び軸側L軸アクチュエータを力制御モードで制御して、各軸側接触子を前記支持軸へ向けて移動させ、各軸側接触子が静止した位置を接触位置として計測し、その計測結果から前記支持軸の半径を算出すると共に、前記軸側X軸アクチュエータ、軸側Y軸アクチュエータ及び軸側L軸アクチュエータをを位置制御モードで制御して、各軸側接触子を前記計測した接触位置にて固定し、
前記翼側X軸アクチュエータ、翼側Y軸アクチュエータ及び翼側L軸アクチュエータをを力制御モードで制御して、各翼側接触子を前記翼車の開先円へ向けて移動させ、各翼側接触子が静止した位置を接触位置として計測し、その計測結果から前記翼車の開先円の半径を算出すると共に、前記翼側X軸アクチュエータ及び翼側Y軸アクチュエータを位置制御モードで制御して、X軸の軸側接触子と翼側接触子との間の距離が、前記翼者の偏重心距離のX軸成分に半径差を加算した値となるようにX軸の翼側接触子の位置調整と、Y軸の軸側接触子と翼側接触子との間の距離が、前記翼者の偏重心距離のY軸成分に半径差を加算した値となるようにY軸の翼側接触子の位置調整とを行った後、翼側L軸アクチュエータを力制御モードで制御して、L軸の翼側接触子を前記翼側開先円へ向けて移動させ、翼側接触子が静止した位置で翼側接触子を固定する
ことを特徴とする請求項2に記載の位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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