説明

低偏波モード分散特性の光ファイバテープ心線及びその心線の動的粘弾性測定法

【課題】光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、紫外線硬化後の光ファイバテープ心線の動的粘弾性において、光ファイバ心線が入った状態で、光ファイバの軸方向に応力をかけることを特徴とする光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定方法および前記測定方法を含む光ファイバテープ心線の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の光ファイバ心線をテ−プ状に一体化した光ファイバテープ心線に関するものである。さらに詳しくは、伝送速度が数Gb/sから数10Gb/sという高速伝送に適した光ファイバテープ心線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インタ−ネットの急速な普及や企業ネットワークの拡張により急激に通信需要が増大したことで中継網の容量が不足し始めていることから、光ファイバ網の一層の高速化、大容量化が強く求められている。これに対応するため、特に都市部において通信事業者所有の中継網に伝送容量を飛躍的に増やすことが可能な技術として光ファイバに多数の波長を入れる高密度波長多重(以下DWDM(Dense Wavelength Division Multiplex)という)伝送技術が注目を浴び導入が進んでいる。
【0003】
DWDM伝送技術とは、1本の光ファイバに波長が異なる複数の光信号を伝送する技術であり、1本の光ファイバの通信容量を飛躍的に高めることのできる技術である。特に、次世代の大容量・高速システムである10Gb/sや40Gb/sという高速伝送を行う場合は、通常の分散特性に加えて、偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion: 略してPMD)の影響も加わるために、伝送時の波形劣化を招く要因はますます大きくなってきている。そのため、この偏波モード分散をいかに小さくするかが非常に重要になってきている。
【0004】
偏波モード分散とは、光ファイバ内の複屈折率により生じる等価的な光軸{速波軸(y−偏波)または遅波軸(x−偏波)}と光軸の間(たとえば45°)に光波が入射した場合に、直交する2つの偏波成分の屈折率が一致しないため、2つの偏波の間に群遅延時間差が生じ光パルスが広がる現象のことをいう。偏波モード分散の大きさは、コアの楕円化やわずかに存在する異方応力(側圧、曲げ、ねじれ、張力、および温度変化による熱応力など)により生じる直交偏波の長さ方向の群遅延時間差として表わされ、この群遅延時間差をPMD(単位:ps)と国際電気通信連合(International Telecommunication Union: 略してITU)において定義されている。
【0005】
その偏波モード分散を距離の平方根で割った値が偏波モード分散(PMD)係数(単位:ps/√km)と定義されている。また、この群遅延時間差のことをDGD(Differential Group Delay,単位:ps)とも呼んでいる。
【0006】
また、通信システムを構築する上で光ファイバ同士を接続しなければならないが、その接続方法には数種類ある。その中で、信頼性および接続特性の両面で優れている融着接続方法においては、一回の接続に要する時間が他の方法と比較して長いという欠点があった。これらケーブルの高密度化と融着接続時間の短縮化を図るために開発されたのが光ファイバテープ心線である。例えば、「J.Kohtala,J.tanskanen,P.Fickling,and M.Eriksson,”A High Speed Coating Process for Optical Fiber Ribbon”, in Proceedings of International Wire Cable Symposium '91 (St.Louis,U.S.A.), 1991, pp.550-555.」に、その構造や製造方法が記載されている。
【0007】
光ファイバテープ心線の一般的構造は、光ファイバ素線を横一列に配置し一体化したものである。例えば、光ファイバ素線は、直径125μmの光ファイバ素線に、被覆層および数μmの着色層を施して外径250μmとしたものである。光ファイバ素線としては、石英系シングルモード光ファイバ、石英系マルチモード光ファイバ、分散シフト光ファイバ等があり、基本的にシリカガラスあるいはゲルマガラスを基本に構成されている。
【0008】
一体化する方法としては、隣り合う光ファイバ素線を接着したものと隣り合う光ファイバ素線の周囲に被覆(テープ被覆層と呼ぶ)を施して一体化したものの2種類がある。1本の光ファイバテープ心線に収容される光ファイバ素線の数はJIS C 6838において、2,4,5,6,8,10または12本とすることと定められている。
【0009】
このような光ファイバテープ心線の多数枚を集合してケーブル化して光ファイバケーブルを構成している。近年の光増幅技術の進展により、シングルモード光ファイバもしくは分散シフト光ファイバを用いて、数100km〜数1000kmもの無再生中継伝送が可能となっている。
【0010】
しかし、このような長距離伝送を行うためには、特にDWDM伝送システムにおいて偏波モード分散による光信号劣化が問題となるため、偏波モード分散が小さい光ファイバケーブルの実現が強く要求されている。伝送速度が数Gb/s〜数10Gb/sの伝送速度で数100km〜数1000kmもの長距離光増幅伝送を行うためには、光ファイバケーブルの偏波モード分散係数を、0.3ps/√km以下、好ましくは0.2ps/√km以下にする必要がある。
【0011】
以上のようなことから、光ファイバテープ心線においても優れたPMD特性が要求されてきている。しかしながら、光ファイバ素線自体の偏波モード分散がたとえ優れていても、テープ化することによって、偏波モード分散が悪化してしまうという問題点があった。また、テープ形光ファイバ心線には、通常複数本の光ファイバ素線が収容されているが、各光ファイバ素線間においてもPMD特性に差があることも問題となっていた。このように光ファイバテープ心線の偏波モード分散は、特に遠距離伝送のDWDM伝送システムにおいて十分なものでないのが現状であった。
【0012】
本発明は、10Gb/sや40Gb/sといった高速伝送に対応する光ファイバテープ心線を提供するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、光ファイバテープ心線の損失正接値から前記光ファイバテープ心線内の光ファイバの偏波モード分散値を求める工程を含むことを特徴とする光ファイバテープ心線の製造方法及び設計方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に従う光ファイバテープ心線は、複数本の光ファイバ素線をテープ接合材で一体化した光ファイバテープ心線において、該光ファイバテ−プ心線内の光ファイバの偏波モード分散の最大値を0.3ps/√km以下とすることを特徴とする。特に複数本の樹脂被覆光ファイバ素線を横一列に配列した後、該光ファイバ素線のまわりに紫外線硬化樹脂をテープ接合材としてなる光ファイバテープ心線において、該光ファイバテ−プ心線内の光ファイバの偏波モード分散の最大値を0.3ps/√km以下、好ましくは0.2ps/√km以下とすることを特徴とする。
【0015】
これらの光ファイバテープ心線は、損失正接値の極大値が0.080以上より好ましくは0.085以上、あるいは、0.042以上より好ましくは0.050以上とすることにより好適に実現できる。特に光ファイバ素線として分散シフトファイバを用いた場合は損失正接値の極大値が0.080以上、光ファイバとしてシングルモード光ファイバを用いた場合は損失正接値の極大値は0.042以上とすることが好適である。
【0016】
本発明は、紫外線硬化後の光ファイバテープ心線の動的粘弾性において、光ファイバ心線が入った状態で、光ファイバの軸方向に応力をかけることを特徴とする光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定方法および前記測定方法を含む光ファイバテープ心線の製造方法を提供する。
【0017】
上述の光ファイバテ−プ心線を溝付きスペーサの溝の中に収容したことを特徴とするスロット型光ファイバケ−ブルを本発明は提供する。そのスロット型光ファイバケ−ブルの一例は溝付きスペーサのらせん方向が周期的に反転するSZらせん型の溝を有する溝付きスペーサで有るスロット型光ファイバケ−ブルである。
【0018】
テープ用接合材の一例は、紫外線硬化樹脂であり、この紫外線硬化樹脂は光重合プレポリマー、光重合性モノマー及び光重合開始剤からなる。なお、テープ接合材は、その損失正接値が0.60以上である樹脂であるよう選ぶことが好適である。
【0019】
本発明に従う光ファイバテープ心線は、複数の光ファイバ心線各々の偏波モード分散係数値が0.3ps/√km以下となるようテープ用接合材が規定されている。
【0020】
本発明に従う光ファイバテープ心線の構成の一例は、テープ用接合材が該複数の光ファイバ素線全体を被覆しているカプセル形構造である。
【0021】
本発明に従う高密度波長多重(DWDM)システムは、複数の光信号のための第1の光合分波器、複数の光信号のための第1の光合分波器及び第1と第2の光合分波器の間に配設された上述の光ファイバテープ心線又はその光ファイバテープ心線を収容した光ファイバケーブルからなり、その伝送路上の信号伝送速度は数Gb/S〜数10Gb/Sである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
光ファイバテープ心線の偏波モ−ド分散を左右する要因の一つとしてテープ被覆層用材料を着目し、鋭意検討を行った。その結果、光ファイバ心線が入った状態で、光ファイバの軸方向に応力をかけて測定する光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定において求められる損失正接値(tanδ)はPMD係数に関係していることが判明し、特に分散シフトファイバを用いた場合の損失正接値を0.080以上、シングルモード光ファイバを用いた場合の損失正接値を0.042以上とすることによって、各光ファイバ素線のPMD係数を0.3ps/√km以下に抑えられることを見出した。さらに好ましくは、分散シフトファイバを用いた場合の損失正接値を0.085以上、シングルモード光ファイバを用いた場合の損失正接値を0.050以上とすることによってPMD係数は0.2ps/√km以下に抑えられることがわかった。
【0023】
テープ接合材として例えば紫外線硬化樹脂が採用され、その紫外線硬化型樹脂の一例は、光重合性プレポリマー、光重合性モノマーおよび光重合開始剤からなり、光重合性プレポリマーとして、ウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリオールアクリレート樹脂、ブタジエンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、シリコンアクリレート系樹脂などがあげられる。また、光重合用モノマーとしては、ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート等があげられる。さらに、光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキシド系化合物、アセトフェノン系化合物があげられる。
【0024】
(損失正接値の測定方法)
動的粘弾性とは、物体に周期的に変化する歪みまたは応力を加えたときに観測される粘弾性である。動的粘弾性を測定することによって、貯蔵弾性率(G')、損失弾性率(G'')、そして損失正接値(tanδ=G''/G')のデータが得ることができる。貯蔵弾性率は物質の弾性要素、損失弾性率は物質の粘性要素を表現しており、損失正接値は損失弾性率を貯蔵弾性率で割った値で弾性要素と粘性要素のバランスを表している。完全な弾性体の場合、応力と歪が比例し、与えられた応力に対して遅れなく(位相差ゼロ)応力が検出される。一方、完全な粘性体の場合は、応力と歪み速度が比例するため、応力をsin(ωt)で与えると応答の歪みは、−cos(ωt)=sin(ωt−π/2)となり、応力に対して歪が1/4波長分(位相差π/2)遅れて検出される。
【0025】
測定は試料に交流力を与えたときの、試料の変位量を検出し、試料に加えた交流力と検出した変位量からフ−リエ演算処理を行い、位相差を求めるものである。一般的な高分子は完全弾性体と粘性体の中間を有し、位相差は0〜π/2の間となる。応力と歪みの関係を測定し、力学特性である弾性成分の貯蔵弾性率と粘性成分の損失弾性率の比を表す損失正接値を出力するものである。
【0026】
光ファイバテープ心線の動的粘弾性における損失正接値は、第1図に示す引張型動的粘弾性装置を用いて求めた。ステーションDMS1からの指令により、交流関数発生器は交流信号を力発生器DMS17に印加する。力発生器DMS17は板バネDMS13によりコンプライアンスの与えられているプローブDMS14を交流駆動する。プローブは治具に設置のサンプルDMS16に引張り応力を加える。このときサンプルの粘弾性は差動トランスセンサーDMS12で変位として検知され、検知信号として変位検出回答DMS5を介し、その交流成分はフ−リエ変位検出器DMS6及び振幅位相差演算器DMS7で解析され、解析信号はステーションDMS1に送られて、貯蔵粘弾率(G′)、損失弾性率(G″)及び損失正接値(tanδ=G″/G′)が得られる。尚、変位信号の直流成分は零位制御演算器DMS4に送られ、ステップデータドライバDMS2を介してステップモータDMS11を制御して、零位を設定する。又、その直流出力は直流関数発生器DMS3を解して、交流力駆動信号に重ねられる。サンプルDMS16は、温度検出器DMS9と温度制御回路DMS10で制御されているヒータDMS15によってサンプル温度が与えられている。
【0027】
第2図は、引張型動的粘弾性装置に適用される治具を示す。テープ接合材24と光ファイバ素線25とからなる適当な長さに切断した光ファイバテープ心線試料21の両端を、固定部材22Aと22Bで固定し、固定部材に連結した引っ張りプローブ23にて所定の周波数の交流力を試料21の長軸方向に加える。光ファイバ素線が入った状態のまま光ファイバテープ心線試料を第2図のように固定することで、光ファイバの軸方向に応力をかけて粘弾性測定を行った。
その結果、光ファイバ素線が入った状態のまま光ファイバテープ心線の粘弾性測定を行って求めた損失正接値が、光ファイバテープ心線の偏波モード分散係数と相関係数が高いことが判明した。
【0028】
(PMD係数の測定方法)
偏波モード分散の測定は、ジョーンズマトリックス(JME)法によって行った。偏波モード分散の測定については、例えば、「波平宜敬,OPTRONICS(2000)No.8,pp.146-157」に測定方法が記載してある。
以下の具体例について、損失正接値は、動的粘弾性装置として、(株)セイコ−インスルメンツ製 DMS6100(登録商標)を用い、光ファイバテープ心線を長さ約20mmに切断し、第2図に示したような引張型治具に固定し、第1図のシステムにて測定を行った。動的粘弾性は、光ファイバテープ心線構造体の温度に依存するから、試料温度を変えて、各温度での測定がなされた。測定は下記条件にて行った。
交流力の振動周波数:33Hz
試料の昇温速度 : 2℃/min
本条件にて行った測定の一例を第3図に示す。80〜150℃の温度範囲に損失正接値のピーク値(極大値)が現れることがわかる。この極大値における損失正接値を求めた。
【0029】
また、テープ接合材に用いる紫外線硬化樹脂自体についても、ファイバ素線を含まない単なる長さ20mmのフィルム試料を作成し下記条件にて動的粘弾性を測定することで、同様に、損失正接値の最大値と最大値における温度を測定した。
交流力の振動周波数:33Hz
試料の昇温速度 : 2℃/min
【0030】
第4図は、本発明の一実施例の4心光ファイバテープ心線の製造装置の概略構成図である。4心の光ファイバ素線41を光ファイバ素線集線ダイス42にて横一列に配置し、テープ接合材用樹脂である紫外線硬化樹脂を供給装置44から光ファイバ心線用ダイス43に供給し、紫外線硬化樹脂で4心の光ファイバ素線41をテープ状に被覆するように一体化し、その後紫外線硬化炉45で樹脂を硬化させる。ベルトキャプスタン46を経由して完成した光ファイバテープ心線48を巻取ボビン47に巻き取る。本装置を用いて外径255μmの光ファイバ心線4心を横一列に配列し、テープ接合用紫外線硬化樹脂で被覆した後、紫外線硬化させることによって、第5図に示したような幅1.12mm、高さ0.33mmのカプセル形構造の光ファイバテープ心線を製造した。4心の光ファイバ心線についてジョーンズマトリックス法を用いて偏波モード分散係数を求めた。4心のうち偏波モード分散(PMD)係数が一番高いものの値(即ち、収容されている複数のファイバ素線のうちで最も高いPMD係数を持つファイバのPMD係数値)をこの光ファイバテープ心線の偏波モード分散係数値とした。
【0031】
第5図に示す構成の光ファイバテープ心線を例1から例8までの8種類制作し上述の方法で損失正接値および偏波モード分散値の最大値を測定した。例1から例8の光ファイバテープ心線は紫外線硬化樹脂AからGをテープ接合材として分散シフト光ファイバ、あるいはシングルモード光ファイバをテープ状に接合したものである。また、紫外線硬化樹脂AからGについては上述したように長さ20mmのフィルム試料としても損失正接値の最大値および最大値における温度を測定した。フィルム資料の測定においては窒素中において照度200mW/cm、500mJ/cmにて紫外線射することによって、厚さ200μmのフィルムを作成し、上述の動的粘弾性測定方法で動的粘弾性を測定し損失正接値を求めた。
【0032】
(例1)テープ接合材として樹脂Aを、光ファイバとして分散シフト光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例2)テープ接合材として樹脂Bを、光ファイバとして分散シフト光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例3)テープ接合材として樹脂Cを、光ファイバとして分散シフト光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例4)テープ接合材として樹脂Dを、光ファイバとして分散シフト光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例5)テープ接合材として樹脂Eを、光ファイバとして分散シフト光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例6)テープ接合材として樹脂Bを、光ファイバとしてシングルモード光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例7)テープ接合材として樹脂Fを、光ファイバとしてシングルモード光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
(例8)テープ接合材として樹脂Gを、光ファイバとしてシングルモード光ファイバを用いた光ファイバテープ心線である。
【0033】
上記結果を表1にまとめて示し、偏波モード分散係数と光ファイバテープ心線の損失正接値の関係をグラフ化したものを第7図に示している。
【0034】
【表1】

※ DS:分散シフト光ファイバ、SMシングルモード光ファイバ
※※ 温度80℃以上で得られた損失正接値の極大値
※※※ 4心の光ファイバ素線の中の最大値
【0035】
第7図から見られるように、偏波モード分散係数が0.3ps/√km以下になる損失正接値は、分散シフトファイバを用いた場合は0.080以上、シングルモード光ファイバを用いた場合は0.042以上である。樹脂AとBを用いた例1及び例2及び例6の構成において所望の偏波モード分散係数が得られている。即ち、例1と2と6は本発明実施例であり、例3、4、5、7は比較例である。又、テープ用被覆材自体の損失正接値を高くすることも偏波モード分散係数の低減に有効であり、該係数を0.60以上に選択したときも0.3ps/√km以上の所望の偏波モード分散係数が得られる傾向にある。ここで、本発明実施例1と2および6の樹脂AとBはそれぞれジェイエスアール(JSR)株式会社のR3059Y1(グレード名)とR3194(グレード名)である。比較例3、4及び5の樹脂C、D、E、F及びGは樹脂A、Bとは異なる組成のものであった。
【0036】
尚、本発明の第5図のような4心の光ファイバ心線周囲をラップ用接合材で被覆したカプセル型に構成する場合、各寸法はJISで規定されているようにテープ厚0.25±0.08〜0.40±0.08mm、テープ幅1.01±0.12とするのが一般的であるが例えば直径165μmの細径光ファイバ素線を用いる場合、4心以外の心数を採用する場合、その他収納スペース上の事情などにより適宜変更することができる。各テープ心線間の隙間についてもほとんど隙間のないもの(第5図)でも良いし、若干の隙間を有するもの(第12図)であってもよい。
【0037】
また、本発明の第5図のような光ファイバ心線周囲をラップ用接合材で被覆したカプセル型の他に、第6A図と第6B図で示すようなタイプの光ファイバテープ心線構造にも適用される。第6A図と第6B図の構造は、隣り合う光ファイバ素線をテープ用接合材で接着したものである。
【0038】
第8図は、本発明の光ファイバテープ心線を収容した光ファイバケーブル伝送線81を、光合分波器80Aと80B間に配置したDWDMシステム構成を示す。伝送線81上で光信号はλ1、λ2…λ2は多重化され、伝送速度数Gb/s〜数十Gb/S(例えば、10Gb/s、40Gb/s)で情報パルスが伝送される。
【0039】
第8図の伝送係の実施例として配設されるケーブル構造に、上述の本発明に係る光ファイバテープ心線が収容される。スロット型光ケーブルとした例を第9図に示す。樹脂等からなるスペーサ93の外周に複数条の溝(スロット)94が形成されている。この溝94各々内に本発明に係る平板状の光ファイバ心線を複数枚積層して収容している。91は光ファイバ素線であり、95は銅線等のテンション材である。このようなスロット型光ケーブル自体の構造は、例えば特開平2−282709号に開示されている。実施例の1つとしてこのスペーサ93の外周の複数条の溝94は、SZ螺旋型である。本発明に係る光ファイバテープ心線はこの螺旋溝内に収容される。そして、この螺旋状の溝は、螺旋方向が周期的に反転するように形成されている。このような構成ケーブルを第10図に示すが、このようなSZスロット型の構成自体は例えば特開平2−282709号に開示されている。スペーサ111の外周にらせん状の溝113が形成され、溝112のポイント113がらせん方向の反転部であり、ポイント114が反転部中央部である。反転部113から次の反転部迄がらせんピッチである。このようならせん方向が周期的に反転する溝113内に本発明に係る平板状の光ファイバテープ心線が収容され、光ファイバケーブルを構成する。このような光ファイバケーブル構造は、ケーブルの曲げに対する光ファイバの歪みを軽減することができる。本発明に係る光ファイバテープ心線によってこのようなスロット型ケーブルを構成している。
【0040】
第11図は、分散シフト光ファイバを用いた場合におけるファイバ素線状態、そのファイバ素線を含むテープ心線状態及びそのテープ心線を含むSZスロット型ケーブル状態を構成したときの、それぞれの偏波モード分散(PMD)係数を示している。例2のテープ心線の損失正接値の極大値tanδ=0.088の場合と、例3のtanδ=0.077の場合を示す。即ち、伝送路としてのケーブル状態で良好なPMD特性を得るには、ファイバ素線そのもののPMDに加えテープ心線状態でのPMD特性も重要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明の光ファイバテ−プ心線によれば、光ファイバテープ心線で測定した損失正接値が高いほど偏波モ−ド分散係数を小さくすることができることがわかった。これにより、伝送時におけるパルスの拡がりを抑えることができるので、伝送速度が数Gb/sから数10Gb/sという高速伝送に適した光ファイバテープ心線を供給することができ、長距離無再生のDWDMシステムが構築され得る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】引張型動的粘弾性測定システムの概要図である。
【図2】本発明の光ファイバテープ心線試料の測定用治具を示す図である。
【図3】光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定結果の一例を説明する図である。
【図4】本発明の光ファイバテープ心線の製造装置の概略構成図である。
【図5】光ファイバテープ心線のカプセル形構造の一例を示す図である。
【図6A】光ファイバテープ心線のエッジボンド形構造の一例を示す図である。
【図6B】光ファイバテープ心線のエッジボンド形構造の他の例を示す図である。
【図7】本発明の光ファイバテープ心線の偏波モード分散係数と損失正接値を示す図である。
【図8】本発明のDWDMシステムを示す図である。
【図9】本発明の光ファイバテープ心線を収容したスロット型光ファイバケーブルを示す図である。
【図10】本発明の光ファイバテープ心線を収容したSZらせん型スロット型光ファイバケーブルを示す図である。
【図11】2つの損失正接値に関し、ファイバ素線状態、テープ心線状態及びケーブル状態での変波モード分散係数を示す図である。
【図12】光ファイバテープ心線のカプセル形構造の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の樹脂被覆光ファイバ素線を横一列に配列した後、該光ファイバ素線のまわりに紫外線硬化樹脂を被覆層として塗布してなる光ファイバテープ心線であって、紫外線硬化後の該光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定方法において、光ファイバ素線が入った光ファイバテープ心線の状態で、光ファイバの軸方向に応力をかけることを特徴とする光ファイバテープ心線の動的粘弾性の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−292504(P2008−292504A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207064(P2008−207064)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【分割の表示】特願2004−535934(P2004−535934)の分割
【原出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】