説明

低圧鋳造用保持炉

【課題】人災を防止するため触れても火傷を与えない安全な45℃以下の炉壁温度に低下するとともに、熱効率の向上に寄与する低圧鋳造用保持炉を提供する。
【解決手段】定型耐火物もしくは不定型耐火物のベッセル1a層の外周が断熱層4a、4bと鉄皮2により構築された加圧保持炉Cにおいて、前記鉄皮2の外周に厚み100mm以上のセラミック繊維あるいは発泡セラミックスによる外断熱層14を設けた、あるいは、前記鉄皮2の外周に幅120mm以上の空間を有する第2鉄皮を設け、前記空間にバルクあるいは発泡セラミックスを充填した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧鋳造用保持炉の炉壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムなどの低圧鋳造用保持炉の構造は、大別すると図1に示した黒鉛製や鋳鉄製の坩堝(ベッセル)を鉄製の円筒形の密閉体内に収納するか、あるいは図2に示したベッセル層と断熱層を一体的に成形し、外周を鉄皮で覆い密閉構造としたものがある。
【0003】
溶湯の注湯方法は、大気などにより炉内の溶湯面を1気圧弱で加圧して、溶湯中から保持炉の上方に載置された金型までストーク管を介して充填する。
本発明は、図2に示した坩堝などを使用しない一体構造の低圧鋳造用保持炉の炉壁に関する発明で、以下当該の炉壁構造について説明する。
【0004】
溶湯を収納するベッセル層は、耐溶損性の高いアルミナ質の不定形耐火物(キャスタブル)あるいは定形耐火物(耐火煉瓦)を張り、ベッセル層の外殻にアルミナ繊維およびシリカ繊維などを板状に成形した比重0.3前後のやや硬質の第1断熱層とセラミック繊維を積層しニードリングによりブランケット状に成形された比重0.1〜0.15の軟質の第2断熱層などを鉄製ケーシング(炉壁)に収納した多層構造である。
【0005】
不定形耐火物で作製したベッセル層は熱スポーリングにより亀裂やひび割れが生じる。また、定形耐火物では表面剥離などにより目地から時間の経過と伴に溶湯の差し込みが生じる。一方、低圧鋳造用保持炉は炉内の湯面を加圧するため、差し込んだ溶湯は鉄製ケーシングまで到達して冷却、凝固するので外部に漏洩することはない。
【0006】
しかしながら、差し込んだ溶湯は炉壁の変形を生じさせるのみならずアルミニウムが銀、銅、金に次いで熱伝導率が高い金属であるため、炉壁の温度を上昇せしめる。高温の炉壁は火傷などの人身災害を与えるとともに、炉周りの雰囲気温度との温度差により放熱量が増大し、著しいエネルギーロスが生じていた。
【0007】
特許文献1では、ケーシングを二重殻構造とし中間に真空層を設ける提案がなされている。
長期間において二重殻空間の真空を保持するためには、酸化腐食する一般の鋼材を使用することが困難である。真空容器素材として一般に使用されているSUS304などの素材を使用した場合には、材料費と真空溶接などに掛かる高額な製作費により製造原価が高騰する。
【先行技術文献】
【特許文献1】特開平2007−101064号公報
【発明の概要】

【解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炉の外壁温度を低くして、火傷などの人心災害が生じない、安全で且つ省エネルギー効果が向上する安価な低圧鋳造用保持炉を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
定型耐火物もしくは不定形耐火物のベッセル層の外周が断熱層と鉄皮により構築された加圧保持炉において、該鉄皮の外周に厚み100mm以上のセラミック繊維あるいは発泡セラミックスによる外断熱層を設けてなることを特徴とする低圧鋳造用保持炉とする。
【0010】
セラミック繊維は、炉外壁に金属製のライニング用支持材などを溶接し、炉底部は外断熱層を圧縮させないよう、鉄皮から外断熱層の下端に設けられた炉架台まで支柱を出し溶接で固定することが好ましい。また、発泡セラミクッスは耐熱温度200℃程度の接着剤をコーティングし、噴霧して施工することができる。また、セラミック繊維と発泡セラミックスを併用して使用することもできる。
【0011】
定型耐火物もしくは不定形耐火物のベッセル層の外周が断熱層と鉄皮により構築された加圧保持炉において、該鉄皮の外周に幅120mm以上の空間を有する第2鉄皮を設け、該空間にバルクあるいは発泡セラミックスを充填したことを特徴とする低圧鋳造用保持炉とする。
【0012】
本発明では、バルク(セラミック短繊維)や発泡セラミックスに接着剤などの加工を施すことなく使用することができる。発泡セラミックス材としては、シラスバルーン、発泡パーライトおよび人工軽量骨材などやこれらを混合したものなども使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、炉壁に外断熱層を具備したことにより、炉外壁表面温度を従来の使用初期時80℃から50℃未満まで低下することができたため、不注意で炉の外壁に触れても火傷などの人身災害を発生せず、また70%程度の省エネ効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 坩堝を使う従来の低圧鋳造炉の断面図である。
【図2】 密閉構造の従来の低圧鋳造炉の断面図である。
【図3】 請求項1に記載した本発明の低圧鋳造用保持炉の全体概略断面図である。
【図4】 請求項2に記載した本発明の低圧鋳造用保持炉の全体概略断面図である。
【図5】 図2記載従来の低圧鋳造用保持炉の炉壁拡大断面図である。
【図6】 図3記載の炉壁拡大断面図である。
【図7】 図4記載の炉壁拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、従来の低圧鋳造用保持炉の炉構造を添付図面1および図2を参照し説明する。
また本発明の炉構造を添付図3および図4で、炉壁の断面詳細は添付図5〜図7を参照して最良の形態を説明する。
【0016】
【実施例】
【0017】
ベッセルに坩堝1を使用する低圧鋳造用保持炉Aは、図1に示すとおり、鉄皮2と熱源3(以下の図例では電気加熱式を示す)を配した断熱層4が金型5を載置するダイベース6の間をシール材7により密閉し、ストーク管8とエアー管9を具備するものである。坩堝1内に貯留する溶湯Mは、エアー管9より炉内に気体圧を加えることにより、ストーク管8を経て金型5の製品と概ね同形状のキャビティ5a内に上昇充填される。
【0018】
図2は坩堝を使用しない従来の低圧鋳造用保持炉Bの1図例である。
厚み12tの鉄皮2の内部に熱源3を配し厚み50mmのベッセル1aと一体化した厚み各50mmの第1断熱層4aおよび第2断熱層4bで製作されたものである。本低圧鋳造用保持炉には溶湯Mの補給のための給湯口10および給湯扉11が設けられる。尚、炉壁断面A−A‘の詳細は図5に示す。
【0019】
ベッセル1a内に貯留する溶湯Mを直接加熱するため坩堝1を使う炉よりエネルギー効率がよい。鉄皮2(炉体外壁)温度は80℃〜100℃と高温となるため、プレートなどにより高温危険などの注意喚起が表示されている。
尚、金型5およびストーク管8などの構成や溶湯Mの充填手段は図1に示した坩堝1を使用するものと同様であり、本図以下の参考図例での詳細の記述は省略する。
【0020】
図3は請求項1に記載した本発明の低圧鋳造用保持炉Cの全体概略断面図である。
厚み12tの鉄皮2の内部に熱源3を配し厚み50mmのベッセル1aと一体化した厚み各50mmの第1断熱層4a及び第2断熱層4bで製作された鉄皮2の外殻に、支持具13を溶接しセラミック繊維の厚み100mmの外断熱層14を固定したものである。
【0021】
外断熱層14の外周の一部すなわちダイベース6および給湯口10からのリークを防止するため、鉄皮2に溶接された鋼管および鋼板が延伸する。また、外断熱層14の外周の一部は施工後モルタルなどで仕上げることもできる。尚、炉壁断面の詳細B−B‘は図6に示す。
【0022】
図4は請求項2に記載した本発明の低圧鋳造用保持炉Dの全体概略断面図である。
厚みを9mmの鉄皮2の外側に支持具13を溶接し、内部に熱源3を配し厚み50mmのベッセル1aと一体化して制作した厚み各50mmの2層の断熱材層4aおよび4bの鉄皮2の外側に、100mmの空間を確保する厚み12mmの第2鉄皮2aを施工し支持具13のナット部を固定するとともに、120mmの空間に発泡セラミックスを充填したものである。尚、炉壁断面C−C‘の詳細は図7に示す。
【0023】
<比較例> 炉壁温度と損失熱量
放熱損失は従来の一体化した低圧鋳造用保持炉を100として算出した。

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、低圧鋳造用保持炉以外の工業炉などに使用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 坩堝
2 鉄皮
3 熱源
4 断熱層
5 金型
6 ダイベース
7 シール材
8 ストーク管
9 エアー管
10 給湯口
11 給湯扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定型耐火物もしくは不定形耐火物のベッセル層の外周が断熱層と鉄皮により構築された加圧保持炉において、該鉄皮の外周に厚み100mm以上のセラミック繊維あるいは発泡セラミックスによる外断熱層を設けてなることを特徴とする低圧鋳造用保持炉。
【請求項2】
定型耐火物もしくは不定形耐火物のベッセル層の外周が断熱層と鉄皮により構築された加圧保持炉において、該鉄皮の外周に幅120mm以上の空間を有する第2鉄皮を設け、該空間にバルクあるいは発泡セラミックスを充填したことを特徴とする低圧鋳造用保持炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−257119(P2011−257119A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144244(P2010−144244)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(591255623)エスエイコーサン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】