説明

低温スラッシュ状流体製造装置

【課題】スラッシュ状流体の重量固化率を増加させることができる低温スラッシュ状流体製造装置を提供すること。
【解決手段】容器10の内部に貯留された液体状の低温流体Lの中に配置された、伝熱面11を有する熱交換器12と、前記伝熱面11の表面に生成した固体状の低温流体を掻き落とす掻き落とし手段13とを備えたスラッシュ状流体製造部2と、前記伝熱面11の内部に、前記容器10の内部に貯留された液体状の低温流体Lよりも温度の低い極低温流体を供給する極低温流体発生部3と、を備えた低温スラッシュ状流体製造装置1であって、前記掻き落とし手段13によって掻き落とされる固体状の低温流体の粒径に応じて、前記伝熱面11の内部に流入する前記極低温流体の流量と温度、および前記掻き落とし手段13の回転速度または往復動速度が、調整され得るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラッシュ状の低温流体(例えば、スラッシュ水素(固体水素と液体水素とがシャーベット状に混合したものであり、液体水素に比べて密度が大きく、保有する寒冷量が大きいもの))を製造する低温スラッシュ状流体製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スラッシュ水素を製造する装置としては、非特許文献1に開示されたものが知られている。
【非特許文献1】D.E. デイニー(D.E.Daney)著、「HYDROGEN SLUSH PRODUCTION WITH A LARGE AUGER」(米国)Advanced in CryogenicEngineering, Vol.35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されたスラッシュ水素を製造する装置では、固化水素の粒径を小さくするのに限界があり、スラッシュ水素の重量固化率(液体水素中における固化水素の重量割合)を思うように増加させることができないといった問題点があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、スラッシュ状流体の重量固化率を増加させることができる低温スラッシュ状流体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明による低温スラッシュ状流体製造装置は、容器の内部に貯留された液体状の低温流体の中に配置された、伝熱面を有する熱交換器と、前記伝熱面の表面に生成した固体状の低温流体を掻き落とす掻き落とし手段とを備えたスラッシュ状流体製造部と、前記伝熱面の内部に、前記容器の内部に貯留された液体状の低温流体よりも温度の低い極低温流体を供給する極低温流体発生部と、を備えた低温スラッシュ状流体製造装置であって、前記掻き落とし手段によって掻き落とされる固体状の低温流体の粒径に応じて、前記伝熱面の内部に流入する前記極低温流体の流量と温度、および前記掻き落とし手段の回転速度または往復動速度が、調整され得るように構成されている。
このような低温スラッシュ状流体製造装置によれば、例えば、図1に示す加熱器6による加熱量、第1のバルブ7の弁開度、第2のバルブ8の弁開度、および駆動用のモータ19の回転速度を調整(制御)することにより、オーガ(掻き落とし手段)13の刃13aによって掻き落とされる低温流体Lの粒22の粒径を小径化(微粒化)することができるので、スラッシュ状流体の重量固化率を増加させることができる。
また、このようなスラッシュ状流体(重量固化率が増加したスラッシュ水素)を、例えば、燃料電池自動車、水素自動車等の水素を燃料として走行する車両に搭載される車載用水素充填タンクに充填(補充)するような場合には、車載用水素充填タンク内における水素の蒸発を低減させることができるとともに、水素の利用効率を向上させることができることとなる。
【0006】
上記低温スラッシュ状流体製造装置において、前記掻き落とし手段はオーガとされ、該オーガの中心軸と、該オーガを駆動する駆動用のモータの駆動軸とが、ユニバーサルジョイントを介して接続されているとさらに好適である。
このような低温スラッシュ状流体製造装置によれば、駆動用のモータの駆動軸からオーガの中心軸に伝達される熱が、ユニバーサルジョイントのところで大幅に低減されることとなるので、駆動用のモータの駆動軸からオーガの中心軸へ侵入する熱の低減化を図ることができる。
【0007】
上記低温スラッシュ状流体製造装置において、前記掻き落とし手段はオーガとされ、該オーガが、前記伝熱面に対して回転可能に構成されているとともに、前記オーガの回転軸の両端部が、ベアリングを介して軸受け支持されているとさらに好適である。
このような低温スラッシュ状流体製造装置によれば、オーガを安定した状態で回転させることができ、オーガによって掻き落とされる低温流体の粒の粒径を略一定に保つことができるとともに、スラッシュ状流体の製造効率を向上させることができる。
【0008】
本発明による低温スラッシュ状流体貯蔵施設は、上記低温スラッシュ状流体製造装置と、前記容器の底部に溜まったスラッシュ状の低温流体を別の場所に移送する移送手段と、この移送手段により移送されてきたスラッシュ状の低温流体を貯蔵しておく低温スラッシュ状流体貯蔵タンクと、を備えている。
このような低温スラッシュ状流体貯蔵施設によれば、低温スラッシュ状流体貯蔵タンクの内部が、重量固化率の高いスラッシュ状の低温流体で満たされることとなるので、低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵されたスラッシュ状の低温流体の気化(ボイルオフ)を低減させることができる。
【0009】
上記低温スラッシュ状流体貯蔵施設において、前記低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵されるスラッシュ状の低温流体の重量固化率が、所望の値となるように構成されているとさらに好適である。
このような低温スラッシュ状流体貯蔵施設によれば、例えば、スラッシュ状流体製造部により製造される低温流体の粒の粒径を調整したり、移送手段により移送されるスラッシュ状の低温流体と液体状の低温流体との割合を調整することで、低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵されるスラッシュ状の低温流体の重量固化率が、所望の値となるようになっている。
これにより、低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵された低温流体の気化(ボイルオフ)を低減させることができ、貯蔵期間の長期化を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スラッシュ状流体の重量固化率を増加させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による低温スラッシュ状流体製造装置(以下、「製造装置」という。)の一実施形態について、図1および図2を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る製造装置1全体の概略構成図である。図1に示すように、製造装置1は、スラッシュ状の低温流体(例えば、スラッシュ水素)を製造するスラッシュ状流体製造部2と、このスラッシュ状流体製造部2に供給される極低温流体(例えば、13Kの気体ヘリウム)を発生させる極低温流体発生部3とを主たる要素として構成されている。また、図2は、スラッシュ状流体製造部2の要部拡大断面図である。
【0012】
極低温流体発生部3は、極低温流体貯蔵タンク4と、流量・温度調整装置5とを備えている。
極低温流体貯蔵タンク4の内部には、液体状の極低温流体(例えば、4Kの液体ヘリウム)が貯留されている。また、この極低温流体貯蔵タンク4と、スラッシュ状流体製造部2の熱交換器12とは、極低温流体供給管14を介して接続(連結)されている。
流量・温度調整装置5は、極低温流体供給管14の途中に配置されるとともに、極低温流体貯蔵タンク4から送られてきた(圧送されてきた)液体状の極低温流体を加熱してガス化(気化)させる加熱器6と、この加熱器6の上流側に位置する極低温流体供給管14に配置されるとともに、極低温流体貯蔵タンク4から加熱器6に流入する液化された極低温流体の流量を調整する第1のバルブ7と、加熱器6の下流側に位置する極低温流体供給管14に配置されるとともに、加熱器6からスラッシュ状流体製造部2の熱交換器12に流入する気体状の極低温流体(例えば、13Kの気体ヘリウム)の流量を調整する第2のバルブ8とを備えている。
【0013】
スラッシュ状流体製造部2は、液体状の低温流体(例えば、13.8Kの液体水素)Lを貯留する容器10と、この容器10内に配置された円筒状の伝熱面11を有する熱交換器12と、伝熱面11の表面に生成した図示しない固体状の低温流体(例えば、固体水素)を掻き落とす(削り落とす)オーガ(掻き落とし手段)13とを備えている。
【0014】
容器10は、その内部が真空とされ、かつその内面に、例えば、銅板等の輻射シールド板(図示せず)が貼られた断熱真空容器(図示せず)の中に収容されており、これにより、容器10の外部から内部へ侵入する熱の低減化が図られるようになっている。
【0015】
熱交換器12の内部には、極低温流体発生部3で発生した極低温流体(容器10内に貯留された液体状の低温流体Lよりも温度の低い流体)が供給されるようになっている。熱交換器12の内部に供給された極低温流体は、容器10内に貯留された液体状の低温流体Lと熱交換させられて伝熱面11の表面に固体状の低温流体Lを生成させた後、極低温流体戻り管15を通って貯蔵タンク(図示せず)に一旦貯留され、液化装置(図示せず)により液化されてから、極低温流体発生部3の極低温流体貯蔵タンク4に戻されるようになっている。
【0016】
図2に示すように、オーガ13は、その回転軸(中心軸)16の両端部がベアリング17,18によって軸受け支持されるとともに、伝熱面11に沿って回転可能に収容された円筒状の部材であり、その外周面(すなわち、伝熱面11と対向する面)には、長手方向に沿って螺旋状に形成された刃13aが設けられている。
また、回転軸16と、駆動用のモータ19(図1参照)から延びる駆動軸20(図1参照)とは、ユニバーサルジョイント21を介して接続(連結)されており、駆動用のモータ19が回転すると、その回転に伴ってオーガ13も同じように(図1中の矢印の方向(図1の上方から見て時計方向)に回転し、伝熱面11に生成した固体状の低温流体が、オーガ13の刃13aによって掻き落とされ、低温流体Lの粒(例えば、固体水素の粒)22となって、容器10の底部へ落下し、スラッシュ状流体(例えば、スラッシュ水素)Sを形成するようになっている。
さらに、加熱器6、第1のバルブ7、第2のバルブ8、および駆動用のモータ19はそれぞれ、図示しない制御器に接続されており、オーガ13の刃13aによって掻き落とされる低温流体Lの粒(例えば、固体水素の粒)22の粒径が所望の大きさ(例えば、1μm〜10μm)となるように制御されるようになっている。
【0017】
本実施形態による製造装置1によれば、加熱器6による加熱量、第1のバルブ7の弁開度、第2のバルブ8の弁開度、および駆動用のモータ19の回転速度を調整(制御)することにより、オーガ13の刃13aによって掻き落とされる低温流体Lの粒22の粒径を小径化(微粒化)することができるので、スラッシュ状流体の重量固化率(固化率)を増加させることができる。
また、このようなスラッシュ状流体(重量固化率が増加したスラッシュ水素)を、例えば、燃料電池自動車、水素自動車等の水素を燃料として走行する車両に搭載される車載用水素充填タンクに充填(補充)するような場合には、車載用水素充填タンク内における水素の蒸発を低減させることができるとともに、水素の利用効率を向上させることができることとなる。
【0018】
さらに、オーガ13の回転軸16と、駆動用のモータ19から延びる駆動軸20とが、ユニバーサルジョイント21を介して接続(連結)されているので、駆動用のモータ19の駆動軸20からオーガ13の回転軸16に伝達される熱が、ユニバーサルジョイント21のところで大幅に低減されることとなるので、駆動用のモータ19および駆動軸20の側から回転軸16およびオーガ13の側に伝達される熱の低減化を図ることができる。
【0019】
さらにまた、オーガ13の回転軸16の両端部がベアリング17,18によって軸受け支持されているので、オーガ13を安定した状態で回転させることができ、オーガ13の刃13aによって掻き落とされる低温流体Lの粒22の粒径を略一定に保つことができるとともに、スラッシュ状流体の製造効率を向上させることができる。
【0020】
なお、上述した実施形態では、加熱器6による加熱量、第1のバルブ7の弁開度、第2のバルブ8の弁開度、および駆動用のモータ19の回転速度が、制御器により調整(制御)されるようになっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの調整を手動で行うようにしてもよい。
【0021】
また、上述した実施形態では、オーガ13が、伝熱面11に沿って回転可能に構成されたものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、オーガ13が、伝熱面11に沿って往復動可能に構成されたもの、すなわち、駆動用のモータ19の代わりに往復動アクチュエータまたは超音波振動子を備えたものであってもよい。
【0022】
さらに、容器10の底部に溜まったスラッシュ状の低温流体を別の場所に移送する移送手段(図示せず)と、この移送手段により移送されてきたスラッシュ状の低温流体を貯蔵しておく低温スラッシュ状流体貯蔵タンク(図示せず)とを備えているとさらに好適である。
これにより、低温スラッシュ状流体貯蔵タンクの内部が、重量固化率の高いスラッシュ状の低温流体で満たされることとなるので、低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵されたスラッシュ状の低温流体の気化(ボイルオフ)を低減させることができる。
【0023】
さらにまた、低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵されたスラッシュ状の低温流体の重量固化率が、所望の値となるように構成されているとさらに好適である。これは、スラッシュ状流体製造部2により製造される低温流体Lの粒22の粒径を調整したり、移送手段により移送されるスラッシュ状流体Sと液体状の低温流体Lとの割合を調整することで実現することができる。
これにより、低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵された低温流体の気化(ボイルオフ)を低減させることができ、貯蔵期間の長期化を図ることができる。
【0024】
さらにまた、本明細書中において使用した「低温」とは、−273℃〜−数10℃のことを指している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による低温スラッシュ状流体製造装置の一実施形態を示す図であって、製造装置全体の概略構成図である。
【図2】図1に示す低温スラッシュ状流体製造装置の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 低温スラッシュ状流体製造装置
2 スラッシュ状流体製造部
3 極低温流体発生部
10 容器
11 伝熱面
12 熱交換器
13 オーガ(掻き落とし手段)
16 回転軸(中心軸)
17 ベアリング
18 ベアリング
19 駆動用のモータ
20 駆動軸
21 ユニバーサルジョイント
L 液体状の低温流体
S スラッシュ状の低温流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の内部に貯留された液体状の低温流体の中に配置された、伝熱面を有する熱交換器と、前記伝熱面の表面に生成した固体状の低温流体を掻き落とす掻き落とし手段とを備えたスラッシュ状流体製造部と、
前記伝熱面の内部に、前記容器の内部に貯留された液体状の低温流体よりも温度の低い極低温流体を供給する極低温流体発生部と、を備えた低温スラッシュ状流体製造装置であって、
前記掻き落とし手段によって掻き落とされる固体状の低温流体の粒径に応じて、前記伝熱面の内部に流入する前記極低温流体の流量と温度、および前記掻き落とし手段の回転速度または往復動速度が、調整され得るように構成されていることを特徴とする低温スラッシュ状流体製造装置。
【請求項2】
前記掻き落とし手段はオーガとされ、該オーガの中心軸と、該オーガを駆動する駆動用のモータの駆動軸とが、ユニバーサルジョイントを介して接続されていることを特徴とする請求項1に記載の低温スラッシュ状流体製造装置。
【請求項3】
前記掻き落とし手段はオーガとされ、該オーガが、前記伝熱面に対して回転可能に構成されているとともに、前記オーガの回転軸の両端部が、ベアリングを介して軸受け支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の低温スラッシュ状流体製造装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の低温スラッシュ状流体製造装置と、前記容器の底部に溜まったスラッシュ状の低温流体を別の場所に移送する移送手段と、この移送手段により移送されてきたスラッシュ状の低温流体を貯蔵しておく低温スラッシュ状流体貯蔵タンクと、を備えてなることを特徴とする低温スラッシュ状流体貯蔵施設。
【請求項5】
前記低温スラッシュ状流体貯蔵タンク内に貯蔵されるスラッシュ状の低温流体の重量固化率が、所望の値となるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の低温スラッシュ状流体貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−333264(P2007−333264A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163661(P2006−163661)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年20日付け、平成17年度、平成18年度、平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素安全利用等基盤技術開発/水素に関する共通基盤技術開発/ボイルオフガス低減を目指したスラッシュ水素製造/供給装置の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】