説明

低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物

【課題】220MPa以上の強度値、0.1%以下の低誘電損失と高品質係数を有し、誘電率が6〜10、共振周波数の温度係数が−50〜+50ppm/℃で可変性を持っている低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物を提供する
【解決手段】低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物は、ホウケイ酸塩系ガラスフリットと、Al23、SiO2、コーディエライト、ムライト、MgAl24、ZnAl24、Mg2SiO4、ZrSiO4、MgTiO3、MgSiO3、CaSiO3及びZn2SiO4とからなる単一酸化物と複合酸化物の中から選択された少なくとも1種の充填材と、CaTiO3、SrTiO3及びBaTiO3の中から選択された少なくとも1種のセラミックと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成用低誘電率誘導体セラミック組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、移動通信分野で脚光を受けているマイクロ波は、300MHzから300GHzの周波数範囲の電磁気波を意味し、これは0.1mmから10cmの波長範囲に相当する。このようなマイクロ波と比較されるものがラジオ波である。ラジオ波は、我々がAM、FMラジオを通して使用してきた数千KHzから数MHzに相当する周波数範囲の電磁気波である。情報の種類と量が増加するに従って利用周波数の制限を克服し、爆発的な需要を受け入れるためには、マイクロ波帯域への拡張が必然的に要求される。マイクロ波は第2次世界大戦から主に軍事用として使用されてきたが、80年代に入ると移動通信と衛星通信分野で急速な発展をなしながら、商業的に活用されるようになった。このような情報通信の急速な発展は、電磁パッケージ及び多様なモジュール、基板などの通信システムと係る部品の小型化、低価格化、高機能化を重要な技術要素として浮き彫りにさせた。
【0003】
このような要求を充足できるものとして台頭される技術が、低温同時焼成セラミック(Low Temperature Co−fired Ceramic,LTCC)技術である。製品の小型化と高機能化のための基板の集積化、多様な受動素子が内装された3次元複合モジュール化が、LTCC技術の究極的な目標である。LTCC基板は950℃以下の低温で焼成されるため、内部電極としてAgを使用することができ、既存のセラミック多層基板で使用されていたPtなどの貴金属内部電極に比べて価格が安く、電気伝導度が更に優れているという長所がある。また、L、C、Rなどの多様な受動素子を厚膜テープ形態に積層し、内部電極及びビアホールを通して連結することで、従来、表面実装部品(SMD)として開発されていたセラミック厚膜部品を一体化して一つのモジュールに具現することができるようになった。
【0004】
最初のLTCC技術は、LCR受動素子を内装していない、単純に集積回路を中心として信号伝達速度を早くするための低誘電率高密度配線基板に過ぎなかった。しかし、マイクロ波から素子に具現するためには、λ/4長さを活用する分散回路概念を使用するため、誘電特性を適切に制御することが必要である。
【0005】
このようなLTCCを構成する組成のうち最も基本的なものは、低誘電率及び低誘電損失の特徴を持つ組成物であり、このような組成は大概、50〜90重量%のホウケイ酸塩系ガラスフリットと10〜50重量%のAl23、SiO2などの充填材で構成される。950℃以下の温度で低温焼成を可能とするホウケイ酸塩系ガラスフリットは、他の組成系のガラスフリットより誘電損失値が低いという特徴があり、一緒に混合するAl23、SiO2などの充填剤は誘電率10以下の代表的な低誘電率誘電体セラミックである。そのほかに、MgAl24、ZnAl24などのスピネル構造を持っているセラミックが低誘電率特性を有する低誘電率誘電体セラミックとして広く知られている。
【0006】
特許文献1には、このようなガラスフリットと充填材を適用した低損失LTCC低誘電率誘電体組成物が開示されているが、この特許には、48〜70モル%のSiO2、20〜41モル%のB23が主組成をなしながら、2〜6モル%のAl23、1〜5モル%のZnO、及び更にCaO、MgOが含まれたガラスフリット組成物に、充填材としてMgAl24、ZnAl24のような複合酸化物が一つ以上適用されたLTCC低損失誘電体組成物が記載されている。また、この組成物により製造された試片の誘電特性を見ると、1MHzで誘電率4〜7、誘電損失0.02〜0.2%が測定された。そのほかにも、これと類似した低誘電率配線基板の特許としては、特許文献2〜5などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】大韓民国特許第704318号
【特許文献2】米国特許第5,902,758号
【特許文献3】米国特許第7,160,823号
【特許文献4】米国特許第5,821,181号
【特許文献5】米国特許第5,258,335号
【特許文献6】米国特許第4,191,583号
【特許文献7】米国特許第4,323,652号
【特許文献8】米国特許第4,959,330号
【特許文献9】米国特許第5,416,049号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、配線基板とアンテナなどに使用され得る低温焼成用低誘電率誘電体組成物を開発するが、基本的には220MPa以上の強度値と0.1%以下の低誘電損失、高品質係数を有するようにし、誘電率は6〜10、共振周波数の温度係数は−50〜+50ppm/℃で可変性を持っている低誘電率誘電体組成物を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は次のような技術的特徴がある。
即ち、本発明は、誘電体組成物の誘電損失を最小化するために、ガラスフリット組成の中でも誘電損失が最も小さいホウケイ酸塩系列のガラスフリットを適用し、このとき、ガラスフリット組成にも粘性流動を円滑にするために、Li2Oが0.1〜3モル%添加されたホウケイ酸塩系ガラスフリットをその特徴とする。
【0010】
更に、本発明は、前記ホウケイ酸塩系ガラスフリットと充填材が含まれた誘電体組成物に、誘電特性を制御するために、100以上の高い誘電率とマイクロ波領域で共振周波数の温度係数を持っているCaTiO3、SrTiO3及びBaTiO3の中から選択された少なくとも1種のセラミックが少量添加された低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物をその特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガラスフリットは、類似する従来の発明(特許文献4〜9など)と比較してみると、組成成分及び組成比範囲が大きく異なることが容易に分かる。また、これら従来の発明はマイクロ波帯域での誘電特性制御と係る言及が全くなかったが、本発明ではCaTiO3、SrTiO3、BaTiO3の中から選択されたセラミックを少量添加して焼結することで、誘電特性の制御が可能であった。その結果として、800〜950℃の温度領域で誘電率6〜10、共振周波数の温度係数を−50〜+50ppm/℃で可変性を示す低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)〜(d):本発明による低誘電率誘電体セラミック組成物を875℃で焼結した後、その破断面を走査電子顕微鏡(SEM)を通してその緻密程度を確認した写真である。
【図2】LG01ガラスフリット45:Al23充填材55−x:SrTiO3セラミックxからなる誘電体組成物で、SrTiO3の添加量の変化による誘電率、誘電損失及び共振周波数の温度係数(τf)の変化を測定して表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以上、説明したように、本発明は低誘電損失を有するホウケイ酸塩系ガラスフリットと、このガラスフリットに充填材及びCaTiO3、SrTiO3、BaTiO3のうち少なくとも1種のセラミックを混合してからなる低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物に関する。
【0014】
1.ホウケイ酸塩系ガラスフリット
本発明は、SiO2とB23を主組成とし、これにAl23、Li2O及びアルカリ土類金属酸化物が添加されてからなるホウケイ酸塩系ガラスフリットを特徴とする。LiO2はアルカリ金属酸化物であり、ガラスフリットの粘性流動を円滑にするために添加される。アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、SrO、AnOの中から選択された少なくとも1種を含む。本発明のホウケイ酸塩系ガラスフリットの組成を具体的に例示すると、SiO260〜70モル%、B2315〜30モル%、Al231〜5モル%、Li2O0.1〜3モル%及びMgO、CaO、SrO、ZnOの中から選択された少なくとも2種0.5〜15モル%を含めてからなる。
【0015】
本発明によるホウケイ酸塩系ガラスフリットの製造方法は、
原料粉末を定量比に称量してボールミルした後、乾燥して粉砕する段階と、
前記粉末を白金るつぼに入れて1400〜1600℃の温度で溶融する段階と、
前記溶融液をエッチングローラーに投入してウォーターエッチングすることで、一定なサイズに破砕されたガラスを得る段階と、
前記ガラス破片を粉砕してガラスフリット粉末を得る段階と、
からなる。
【0016】
本発明では、多数の予備実験を経て、配線基板用ガラスフリットの主成分として、SiO2とB23の含量を各々60〜70モル%及び15〜30モル%で混合することが最も適当であることが分かった。下記表1は、本発明が特徴とするガラスフリットの一具現例であり、SiO2とB23の主成分にAl231〜5モル%、Li2O0.1〜3モル%、及びMgO、CaO、SrO、ZnOの中から選択された少なくとも2種を0.5〜15モル%範囲内で可変させた。このような組成変化は、誘電損失値を最小化しながらも、1400〜1600℃の温度でガラス溶融がよくなされる条件を中心として設定した値である。
【0017】
ダイラトメーターにより測定された変曲点からガラス転移温度(Tg)、軟化温度(Ts)を検討した結果及び電気的特性を下記表1に共に表した。
【0018】
【表1】

【0019】
前記表1によると、本発明が特徴とするガラスフリットは、誘電率が4.2〜5.1程度の低い範囲で一定に維持される結果を得て、誘電損失値は0.04〜0.18程度の優れた結果を表した。これに比べて、EX1とEX2の場合は、ガラスフリットの組成をアルカリ金属酸化物を3モル%以上添加することで、ガラスの誘電率と誘電損失値が増加する傾向を示し、これは、アルカリ土類金属よりアルカリ金属酸化物がガラスの網目を容易に切ることで、物性を低下させる要因として作用するためである。
【0020】
以上で説明したように、本発明のホウケイ酸塩系ガラスフリットと従来のガラスフリットを比較して見ると、本発明では誘電損失を大きくするアルカリ金属酸化物(R2O)の含量を少量に限定し、アルカリ土類金属酸化物(RO)を主に添加するところに技術的差異があり、これによりガラスフリットの誘電損失値が低く維持される効果を得た。
【0021】
2.低誘電率誘電体セラミック組成物
本発明は、前記ホウケイ酸塩系ガラスフリットに充填材及びセラミックを混合させてからなる低誘電率誘電体セラミック組成物を特徴とする。本発明の低誘電率誘電体セラミック組成物の組成をより具体的に説明すると、ホウケイ酸塩系ガラスフリット44.5〜64.5重量%、充填材35〜55重量%及びセラミック0.5〜20重量%を含めてからなる。
【0022】
充填材としてはAl23とSiO2などの単一酸化物及び複合酸化物の中から選択された少なくとも1種を使用する。本発明に適用される充填材として、複合酸化物は、コーディエライト、ムライト、MgAl24、ZnAl24、Mg2Al24、ZrSiO4、MgTiO3、MgSiO3、CaSiO3、Zn2SiO4などを含む。セラミックとしては、CaTiO3、SrTiO3、BaTiO3の中から選択された少なくとも1種を使用する。
【0023】
本発明による低誘電率誘電体セラミック組成物の製造方法は、
準備したガラスフリット粉末、充填材粉末及びセラミック粉末を混合する段階と、
前記混合した粉末を500〜1500kg/cm3の圧力、好ましくは、800〜1000kg/cm3の圧力範囲で成形する段階と、
前記成形体を800〜950℃の温度、好ましくは、800〜900℃の温度範囲で焼結する段階と、
からなる。
【0024】
下記表2は、本発明が特徴とする低誘電率誘電体セラミック組成物の一具現例であり、各組成物の強度は220MPa以上であり、1MHzで0.1%以下の低誘電損失、高品質係数を表しており、共振周波数の温度係数が0に近接して、ある特定周波数で温度によっては誘電率の変化がほとんどない、所望する焼結温度と周波数帯域で所望する誘電特性を持っていることが確認できた。
【0025】
【表2】

【0026】
図1は、本発明による低誘電率誘電体セラミック組成物を875℃で焼結した後、その破断面を走査電子顕微鏡(SEM)を通してその緻密程度を確認した写真である。全体的に、組成物は各々最適の焼結温度で焼成相対密度が97%以上であり、走査電子顕微鏡(SEM)観察を通しても気孔がなく、緻密な組織を持っていることが確認できた。
【0027】
更に、図2は、LG01ガラスフリット:AL23充填材:SrTiO3セラミック=45:55−x:zモル%からなる誘電体組成物を875℃で焼結させた時、SrTiO3の添加量を変化させながら、誘電率、誘電損失及び共振周波数の温度係数(τf)の変化を測定して表したグラフである。図2によると、SrTiO3の添加量によって誘電率と共振周波数の温度係数が可変的に変わり、誘電損失がほぼ一定に維持されることを確認した。
【0028】
下記表3によると、本発明が提案している誘電体組成物において、その組成成分及び成分比変化によって緻密化が不良であったり、機械的強度または誘電特性の低下が起きることが確認できる。これは、どのような充填材とガラスフリット組成を選定するかによって、誘電特性の制御のために添加されるCaTiO3、SrTiO3、BaTiO3セラミック組成と反応が起きて、2次相の析出、緻密化の抑制などの効果が起きるためであり、最適の組合せを探すことが重要である。
【0029】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の低誘電率誘電体セラミック組成物は、220MPa以上の強度値と0.1%以下の低誘電損失、高品質係数を有しながら、同時に800〜950℃の低い温度領域で、誘電率6〜10、共振周波数の温度係数を−50〜+50ppm/℃で可変性を示す。従って、本発明の低誘電率誘電体セラミック組成物は、周波数帯域によって基板、アンテナ、共振器フィルターなどとして広く利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO260〜70モル%と、
2315〜30モル%と、
Al231〜5モル%と、
Li2O0.1〜3モル%と、
MgO、CaO、SrO及びZnOの中から選択された少なくとも2種0.5〜15モル%と、
を含むホウケイ酸塩系ガラスフリット。
【請求項2】
請求項1のホウケイ酸塩系ガラスフリットと、
Al23、SiO2、コーディエライト、ムライト、MgAl24、ZnAl24、Mg2SiO4、ZrSiO4、MgTiO3、MgSiO3、CaSiO3及びZn2SiO4とからなる単一酸化物と複合酸化物の中から選択された少なくとも1種の充填材と、
CaTiO3、SrTiO3及びBaTiO3の中から選択された少なくとも1種のセラミックと、
を含む低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物。
【請求項3】
前記ホウケイ酸塩系ガラスフリット44.5〜64.5重量%と、
前記充填材35〜55重量%と、
前記セラミック0.5〜20重量%と、
を含む、請求項2記載の低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物。
【請求項4】
焼成温度が800〜950℃であり、強度値が220MPa以上である、請求項3記載の低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物。
【請求項5】
誘電定数が6〜10であり、誘電損失が0.1%以下であり、共振周波数の温度係数が−50〜+50ppm/℃の範囲である、請求項3または4記載の低温焼成用低誘電率誘電体セラミック組成物。



【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−6690(P2010−6690A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122923(P2009−122923)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(304039548)コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー (36)
【Fターム(参考)】