説明

低温物質の移送装置およびこれを用いた低温液化ガス供給システム

【課題】 低温物質の移送手段の異常モードが発生しても、特別な装置や複雑な操作を用いずに、エネルギー効率が高く、低温物質の連続的に安定した移送が可能な低温物質の移送装置およびこれを用いた低温液化ガス供給システムを提供すること。
【解決手段】 出力調整可能な移送手段2a,2bが並列的に配設され、移送手段2a,2bが定格出力よりも低い低出力モードで作動され、移送手段2a,2bの出力合計が所定量となるように制御されるとともに、移送手段2a,2bのいずれかあるいは2以上が、または移送手段2a,2bの出力に係る計装部材のいずれかあるいは2以上が異常モードとなった場合において、該異常モードに係る移送手段を停止モードとし、該停止モードに係る移送手段以外の移送手段の出力を定格モードに変更し、作動する移送手段の出力合計が所定量となるように制御されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温物質の移送装置およびこれを用いた低温液化ガス供給システムに関し、例えば、深冷分離法を用いた低温液化ガス供給システムにおける低温物質の移送装置に関するものである。ここで、「低温物質」とは、常温常圧条件下(一般に約20〜30℃,約0.1MPa)で、移送可能な安定状態を維持する温度が常温以下の物質をいい、液体のみならず気体を含む。具体的には、液体窒素,液体酸素あるいは液体アルゴン等の低温液化ガス等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
従来、窒素、酸素及びアルゴン等の液化ガスの製造装置としては、低温空気分離プラントが広く知られており、一般に複数の蒸留塔を使用して順次分離効率を上げて、最終製品として、高圧の液化窒素、酸素及びアルゴンを生産している。こうした製造装置においては、高純度の液化ガスを取り出すために、塔長の大きな1つの精留塔ではなく、精製段階や内部圧力に応じて低圧塔や中圧塔あるいは高圧塔等に分離した複数の精留塔が用いられる。このとき、還流される液化空気あるいは製品液化ガスの移送が行なわれる。また、こうした液化ガスは、半導体プロセスを含めた各種プロセスにおいて大きな需要があることから、比較的大容量の低温液化ガス貯槽に貯留され、所望の量の液化ガスが供給される。
【0003】
例えば、図6に示すような低温液化ガス移送装置を挙げることができる(例えば特許文献1参照)。具体的には、当該低温液化ガス移送装置において、複数の低温液化ガス貯槽111,111内に貯留した低温液化ガスを、低温液化ガスポンプ112により所定圧力に昇圧してタンクローリー等の送液先に移送するものであって、各低温液化ガス貯槽111には、出口弁113Vを有する底部の出口管113と、手動弁114V、加圧蒸発器114E及び圧力設定弁114Pを有し、槽下部と槽上部とを接続する圧力調整経路114と、圧力設定弁115Pを有する頂部の放圧経路115とがそれぞれ設けられている。低温液化ガスポンプ112には、ポンプ吸入側から各低温液化ガス貯槽111の前記出口管113に吸入弁116Vを介して接続する吸入管116と、ポンプ吐出側からタンクローリー等の送液先に送液弁117Vを介して接続する送液管117とが設けられている。この送液管117の送液弁117Vより上流側からは、ブロー弁118Vを有するブロー管118と、各低温液化ガス貯槽111の上部にバイパス弁119Vを介して接続するバイパス管119とが分岐している。ここで、120は放液溜、120aは排気口、121は圧力スイッチを示す。
【0004】
また、図7に示すようなアルゴン製造装置を挙げることができる(例えば特許文献2参照)。具体的には、主精留塔210の側方に第1粗アルゴン塔216及び第2粗アルゴン塔228を並設する。両粗アルゴン塔216,228の総理論段数を、主精留塔210で精製されたアルゴン濃縮ガス中の酸素濃度を十分低下させるだけの段数に設定する。第1粗アルゴン塔216の理論段数は、第2粗アルゴン塔228の理論段数よりも小さくし、第1粗アルゴン塔216の底部が主精留塔上塔214の底部より高く、第2粗アルゴン塔228の底部が第1粗アルゴン塔216の底部よりも低くなるように両塔216,228を設置する。ここで、この第2粗アルゴン塔228の下部は、ガス移送通路222を介して上記第1粗アルゴン塔216の頂部に接続されており、第2粗アルゴン塔228の底部は還流液供給通路224を介して上記第1粗アルゴン塔216の頂部に接続されている。還流液供給通路224の途中にはポンプ226が設けられており、このポンプ26及び還流液供給通路224により、第2粗アルゴン塔228の塔底液を汲み上げて第1粗アルゴン塔216の頂部に還流液として供給するための還流液供給手段が構成されている。212は下塔、218はガス移送通路、220は液体供給通路、232はガス移送通路、234は精製アルゴン塔、236は塔底リボイラ、238は塔頂コンデンサ38を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−75705号公報
【特許文献2】特開平06−307762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような低温液化ガス移送装置や液化ガスの製造装置では、以下のような種々の課題が生じることがあった。
(i)上述した低温液化ガスポンプ等の移送手段は、こうした移送装置や製造装置の機能を維持する非常に重要な要素であることから、一般に予備として同等の移送手段を別途準備することが多い。しかしながら、移送手段の異常状態あるいは移送手段の出力に係る計装部材の異常状態(以下「移送手段の異常モード」ということがある)の発生時に、予備機への切換えを行なった場合、再起動における低温液化ガスの移送条件、特に温度条件の安定に時間が必要になる。このとき、結果として低温液化ガス貯槽からの低温液化ガスの移送を停止する必要が生じる事態や、所望の条件と異なる低温液化ガスを移送せざるを得ない事態を招来するという問題点があった。
(ii)一方、上記(i)の事態を回避するために、複数の移送手段を並列的に作動させ、必要量以外をバイパスあるいは循環させる方法を採用することも可能であるが、移送に対するエネルギー効率の低下を招くとともに、その低減・改善は非常に困難であった。
(iii)また、こうした移送手段の異常モードを予め検知する方法があれば、予備の移送手段のスタンバイを検討することが可能であるが、低温液化ガスの操作の特殊性等から、実用性の高い異常モードの予知および異常モードへの対応は十分ではなかった。
【0007】
本発明の目的は、低温物質の供給システムにおいて、低温物質の移送手段の異常モードが発生しても、特別な装置や複雑な操作を用いずに、エネルギー効率が高く、低温物質の連続的に安定した移送が可能な低温物質の移送装置およびこれを用いた低温液化ガス供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す低温物質の移送装置およびこれを用いた低温液化ガス供給システムによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、移送手段を用い、供給源から消費設備へ、低温物質を連続的に移送する移送装置であって、出力調整可能な前記移送手段が複数並列的に配設され、前記各移送手段が定格出力よりも低い低出力モードで作動され、各移送手段の出力合計が所定量となるように制御されるとともに、前記移送手段のいずれか、あるいは前記移送手段の出力に係る計装部材のいずれかあるいは2以上が、または前記移送手段の出力に係る計装部材のいずれかあるいは2以上が異常モードとなった場合において、該異常モードに係る移送手段を停止モードとし、該停止モードに係る移送手段以外の特定の移送手段あるいは複数の移送手段の出力を定格モードに変更し、作動する移送手段の出力合計が前記所定量となるように制御されることを特徴とする。
【0010】
低温液化ガス等低温物質の供給システムの多くが連続運転を要求されることから、こうしたシステムに用いられる移送手段の異常モードの発生を回避することが難しい。本発明は、異常モードの発生時における既述のような課題を、以下の構成によって解決することを見出した。
(i)移送手段が複数並列的に配設された構成とする
(ii)予め複数の移送手段を定格出力よりも低い低出力モードで作動させる
(iii)いずれかあるいは2以上の移送手段が異常モードとなった場合、該移送手段を停止モードとし、他の移送手段によってその出力低下分をカバーする
こうした構成によって、特別な装置や複雑な操作を用いずに、エネルギー効率が高く、低温物質の連続的に安定した移送が可能な低温物質の移送装置を提供することが可能となった。
【0011】
本発明は、上記低温物質の移送装置であって、前記各移送手段の出力調整が、インバータを介して行われるとともに、前記移送手段に、電力計,シールガス流量計およびケーシング温度計、あるいは該移送手段からの供出流路に、温度計,圧力計および流量計、のうちのいずれかまたはいくつかの計器が配設され、各計器の指示値のいずれかが予め設定された所定の範囲を超えた場合を前記異常モードと認定し、前記各移送手段の出力調整が行われることを特徴とする。
移送手段の異常モードは、例えば給送ポンプの能力低下に伴う吐出圧力の低下等移送手段自体の異常だけではなく、例えば給送ポンプ収容容器の異常発熱等移送手段の出力に係る計装部材のいずれかの異常によっても生じる。特に、低温物質の移送においては、通常の移送手段における異常要因だけではなく、いくつかの検出端からの出力を指標として加えて判断することが好ましいことを見出した。具体的には、移送される低温物質に直接関係する移送流路の温度,圧力および流量に加え、移送手段に係る電力,シールガス流量およびケーシング温度を指標とすることによって、前者から現実の移送状態の異常モードを判断し、後者から近い将来の移送状態の異常モードを判断することができる。本発明は、このように多面的な指標を基に異常モードを判断することによって、停止状態あるいは移送量の低下や低温物質の一時的な温度上昇等を回避し、低温物質の連続的に安定した移送の確保を図ることができる。
【0012】
本発明は、上記低温物質の移送装置であって、前記各移送手段からの供出流路、あるいは並列的に配設された複数の移送手段からの供出流路が集合された集合流路を分岐して設けられたバイパス流路を介して、移送される前記低温物質の一部を前記供給源に還流させるとともに、前記異常モードにおいて、前記バイパス流路を流通させる還流量を調整し、前記消費設備へ移送される低温物質の移送量が所定量となるように制御されることを特徴とする。
低温物質の移送装置であっては、消費設備の運転状況に応じた移送量の調整や、給送ポンプ等における供出側での脈動の発生防止等の観点から、移送手段からの供出流路にバイパス流路を設け、供給源に低温物質の一部を還流しながら所定量の移送を行なうことが好ましいことがある。本発明においては、設定されたバイパス流路をこうした観点だけではなく、異常モード発生時の安定化操作における過渡的な状態を、迅速に解消する観点から利用することを特徴とする。例えば、いずれかの移送手段が異常モードとなった場合、該移送手段を停止モードとする(該移送手段のバイパスも停止する)と同時に、他の移送手段のバイパスの一部を消費設備への移送量として移送することによって、異常モードの移送手段の出力低下分をカバーすることが可能となる。このように、異常モードにおいて、移送手段のバイパスを利用し、還流量を調整することによって、安定的な低温物質の移送量を確保することが可能となる。
【0013】
また、本発明は、上記いずれかに記載の低温物質の移送装置を用いた低温液化ガス供給システムであって、1または2以上の空気分離装置を供給源とし、該空気分離装置からの液相の窒素,酸素あるいはアルゴンを低温液化ガスつまり前記低温物質とし、2以上n個の給送ポンプを移送手段として並列的に配設するとともに、低出力モードにおいて、前記n個の給送ポンプのそれぞれを定格の[100/n]%で作動させ、1またはmの給送ポンプの異常モードにおいて、該1またはmの給送ポンプを停止モードとし、他の給送ポンプを定格の[100/(n−1)]%または[100/(n−m)]%で作動させることを特徴とする。
上記のような低温物質の移送装置は、低温物質の移送手段の異常モードが発生しても、特別な装置や複雑な操作を用いずに、エネルギー効率が高く、低温物質の連続的に安定した移送が可能であることから、低温物質である窒素,酸素あるいはアルゴン等を大量に消費する半導体製造プロセス等の空気分離装置に用いられることが好適である。具体的には、1またはmの給送ポンプの異常モードにおいて、該1またはmの給送ポンプを停止モードとし、他の給送ポンプを定格の[100/(n−1)]%または[100/(n−m)]%で作動させることによって、大量の移送量が必要な空気分離による低温物質であっても、一時的な移送量の低下や移送される物質の温度上昇等を防止し、連続的に安定的な低温物質を移送することができる低温液化ガス供給システムを提供することが可能となった。
【0014】
本発明は、上記低温液化ガス供給システムであって、前記給送ポンプからの供出流路あるいは2以上の供出流路が集合された集合流路を分岐し、前記低温液化ガスの一部を前記空気分離装置に還流させるバイパス流路が設けられ、前記異常モードにおいて、前記定格モードに係る給送ポンプからバイパス流路を流通させる還流量が、ステップ的に調整されると同時に、PIあるいはPID制御によって自動制御されることを特徴とする。
上記のように、移送手段の供出流路へのバイパス流路の配設は、連続的に安定な低温物質の移送において、非常に有用である。本発明者は、さらに検証を進めた結果、バイパス流路の停止操作あるいはバイパス流量の減量操作が、移送の安定化に大きな寄与をすることを見出した。つまり、異常モードの移送手段の停止に伴うこうした操作を、ステップ的に行った場合(以下「パルス的制御」という)、移送量や低温物質の温度に対するオーバーシュートとアンダーシュートを伴う過渡現象を回避することが難しい一方、所定の応答速度を有するPIあるいはPID制御による操作を行なった場合、移送量の低下や低温物質の一時的な温度上昇等を回避することが難しいことが判った。本発明は、異常モードが発生した場合であっても、これに応答して、パルス的制御とPIあるいはPID制御による自動制御を組合せて同時に行うことによって、過渡的あるいは一時的に生じる異常な状態を大幅に軽減し、迅速に安定化された移送状態を確保することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る低温物質の移送装置の第1構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る低温物質の移送装置の第2構成例を示す概略図
【図3】第2構成例における異常モードから定格モードへの移行に伴う移送量の変動を例示する説明図
【図4】本発明に係る低温液化ガス供給システムの1の構成例を示す概略図
【図5】本発明に係る低温液化ガス供給システムの他の構成例を示す概略図
【図6】従来技術に係る低温液化ガス移送装置の構成例を示す概略図
【図7】従来技術に係るアルゴン製造装置の構成例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る低温物質の移送装置(以下「本装置」という)は、出力調整可能な移送手段が複数並列的に配設され、各移送手段が定格出力よりも低い低出力モードで作動され、各移送手段の出力合計が所定量となるように制御されるとともに、移送手段のいずれかあるいは2以上が、または移送手段の出力に係る計装部材のいずれかあるいは2以上が異常モードとなった場合において、該異常モードに係る移送手段を停止モードとし、該停止モードに係る移送手段以外の特定の移送手段あるいは複数の移送手段の出力を定格モードに変更し、作動する移送手段の出力合計が所定量となるように制御されることを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
<本装置の基本構成例>
本装置の基本構成例の概要を、図1に示す(第1構成例)。本装置は、低温物質Sを貯留する1つの供給源1、低温物質Sを移送する2つの移送手段2a,2b、低温物質Sの移送を制御する制御部3を有し、低温物質Sが、その消費設備(図示せず)へ連続的に移送される。ここで、低温物質Sが流通する流路および部材は、低温を維持するための保温処理あるいは冷温処理(特に供給源1の低温物質Sの貯留部については冷温処理される)される。以下、低温物質Sが、低温液化ガスである場合を例に説明する。ここでは、移送手段が2つの場合を例示するが、3つ以上を並列的に配設された構成も可能である。特定の移送手段の異常モードが発生しても、低温物質Sの連続的に安定した移送を確保するためである。また、消費設備において、液化ガスを気体状で使用する場合には、気化器4が設けられる。
【0018】
ここで、「低温物質」には、上記液体窒素等の低温液化ガス等のみならず、石油精製プロセスにおいて作製される液化水素や各種炭化水素あるいは各種プロセスにおいて作製される液化アンモニアや液化塩素等々種々の物質を挙げることができる。また上記のように、常温常圧下において液体のみならず気体を含み、特に熱容量の大きい気体(例えば炭化水素化合物や二酸化炭素等)のように、常温状態から移送可能な低温状態への移行に所定の時間を必要となる物質が対象となる。
【0019】
本装置は、供給源1から移送手段2a,2bによって低温物質S(低温液化ガス)が移送され、移送手段2a,2bの供出流路La,Lbが合流した集合流路Lcに気化器4が設けられた構成を有する。低温液化ガスを液体で直接あるいは輸送手段を介して消費設備に移送される場合には、気化器4を用いない場合がある。移送手段2a,2bの入力側には、流量調整可能な弁Na,Nbが設けられる。移送手段2a,2bの作動時の供給源1に対する脈動や逆流等の影響を緩和・防止することができる。移送手段2a,2bの出力側の供出流路La,Lbには、開閉弁Va,Vbが設けられる。移送手段2a,2bのいずれかが異常モードの場合に、当該移送手段に係る開閉弁を閉として当該供出流路を遮蔽し、正常モードの他の移送手段を定格モードに変更することによって、集合流路Lcから供出される低温物質Sの移送を一定に維持することができる。
【0020】
貯留型の供給源1の場合には、低温物質Sを安定的に貯留するために、外周を保温材あるいは内部を所定温度に冷却・温度制御可能な構造を有する容器が好ましい。ただし、供給源1は、貯留のみを担うタンクである場合だけではなく、後述する空気分離装置のような低温物質Sを作製する装置の生成物貯留部をも含む。
【0021】
移送手段2a,2bは、出力調整可能であることが好ましく、例えば、遠心式ポンプやクライオジェニックポンプ,あるいはブースタポンプやサンクションポンプ等の液化ガス用ポンプを用いることができる。出力調整は、制御部3によって、インバータ(図示せず)を介して行われる。本装置では、インバータが制御部3に内蔵された場合を例示するが、これに限定されるものではない。
【0022】
本装置は、移送手段2a,2bに対する管理指標を得るために、電力計Ma,Mb、シールガス流量計Ga,Gbおよびケーシング温度計Ca,Cb、あるいは移送手段2a,2bの供出流路La,Lbに、温度計Ta,Tb、圧力計Pa,Pbおよび流量計Fa,Fb、のうちのいずれか、またはいくつかの計器が配設される。各計器の指示値のいずれかが予め設定された所定の範囲を超えた場合を、異常モードと認定し、移送手段2a,2bの出力調整が行われる。移送手段2a,2bの能力低下に伴う出力側の圧力の低下等移送手段自体の異常だけではなく、例えば移送手段2a,2bの収容容器の異常発熱等移送手段2a,2bの出力に係る計装部材のいずれかの異常を判断することによって、現実の異常モードを判断するとともに、近い将来の移送状態の異常モードを判断することができる。
【0023】
〔本装置における移送手段の管理指標〕
本装置における移送手段の管理指標に対し、各計器は、以下のような役割を有する。ただし、本装置においては、以下の各指標全てを管理指標とする場合を設定しているが、本発明においては、これに限定されるものではなく、これらの指標のいくつか、あるいはこれら以外の指標を追加して、指標とすることも可能である。
(1)低温液化ガスの温度
温度計Ta,Tbは、移送手段2a,2bの出力側の低温液化ガスの温度を監視することによって、移送手段2a,2bの入力側の低温液化ガスの異常温度、あるいは移送手段2a,2bの過熱等による異常モードの発生を検知することができる。所望の温度条件から、適正な温度範囲が設定される。現実の低温液化ガス移送の異常事態に、迅速に対応することができる。
(2)低温液化ガスの圧力
圧力計Pa,Pbは、移送手段2a,2bの出力側の低温液化ガスの圧力を監視することによって、移送手段2a,2bの能力低下や過圧運転、あるいは移送手段2a,2bの出力側に圧力調整機構がある場合の、該機構の作動異常等による異常モードの発生を検知することができる。所望の圧力条件から、適正な圧力範囲が設定される。現実の低温液化ガス移送の異常事態に、迅速に対応することができる。
(3)低温液化ガスの流量
流量計Fa,Fbは、移送手段2a,2bの出力側の低温液化ガスの流量を監視することによって、移送手段2a,2bの能力低下や過圧運転、あるいは移送手段2a,2bの入出力側に流量調整機構がある場合の、該機構の作動異常等による異常モードの発生を検知することができる。所望の流量条件から、適正な流量範囲が設定される。現実の低温液化ガス移送の異常事態に、迅速に対応することができる。
(4)移送手段の供給電力量
電力計Ma,Mbは、移送手段2a,2bに供給される電力量を監視することによって、移送手段2a,2bの過剰負荷や内部配線の短絡等による過剰電力供給、あるいは内部配線の断線等による電力供給不足等を検知することができる。適正な供給電力の範囲を設定することによって、移送手段2a,2b自体の異常モードを判断することができる。現実の低温液化ガスの移送流量や圧力等に変動がない場合であっても、近い将来の異常事態を回避することができる。
(5)移送手段の収容容器に供給されるシールガス流量
シールガス流量計Ga,Gbは、移送手段2a,2bが収容される容器に供給されるシールガスの流量を監視することによって、移送手段2a,2bを外気から遮蔽するシール機能の低下等を検知することができる。適正な流量の範囲を設定することによって、例えば移送手段2a,2bからの低温液化ガスの漏洩時の2次被害(腐食や火気等)を未然に防止することができる。現実に異常がない場合であっても、近い将来の異常事態を回避することができる。
(6)移送手段の収容容器の温度
ケーシング温度計Ca,Cbは、移送手段2a,2bが収容される容器の温度、つまり移送手段2a,2bからの発熱量を監視することによって、過剰負荷や内部配線の短絡等による移送手段2a,2bの過熱、あるいは内部配線の断線等による能力低下等を検知することができる。適正な温度の範囲を設定することによって、移送手段2a,2b自体の作動状態を判断することができる。現実に異常がない場合であっても、近い将来の異常事態を回避することができる。
【0024】
〔通常モード(低出力モード)での本装置の動作〕
本装置において、低温物質Sは、供給源1に貯留される。通常モード(低出力モード)において、貯留された低温物質Sは、移送手段2a,2bによって2つの供出流路La,Lbを介して各々所定量移送され、集合流路Lcにおいて合流して消費設備に移送される(気化器4によって気化される場合を含む)。このとき、供出流路La,Lbには、ほぼ同量の低温物質Sが流通するように、移送手段2a,2bの出力が調整される。つまり、移送手段2a,2bが、定格出力よりも低い低出力モード(例えば定格の50%)で作動され、移送手段合計の出力が所定量(例えば1つの移送手段の定格の100%)となるように調整される。所望の移送量に増減がある場合には、最大移送量を1つの移送手段の定格の100%となるように設定し、通常の低出力モードにおいて、移送手段2a,2bを例えば定格の30〜50%で作動させることによって、移送手段に過大な負荷が掛からずに、所望の移送量の確保を図ることができる。このとき、最大移送量は、移送手段の選定、あるいは移送手段の数量によって設定することができる。
【0025】
このとき、温度計Ta,Tb等移送手段2a,2bの管理指標に係る各計器からの出力は、制御部3に送信される。これらを受信した制御部3において、予め設定された各指標の上限値および下限値と対比され、設定範囲内にあるとき、通常モード(低出力モード)と認定し、本装置の作動開始あるいは作動継続を行なう。例えば低温液化ガスを液体窒素とし、供給流路La,Lbの設定温度範囲を−195〜−200℃とした場合において、温度計Ta,Tbからの出力がその範囲内、例えば−196℃(液体窒素の沸点)であれば、移送手段2aの「低温液化ガスの温度」について、通常モードと認定する。他の指標についても同様に設定範囲内にあるときを通常モードと認定する。
【0026】
〔異常モードでの本装置の動作〕
本装置において、上記管理指標に係る各計器から出力のいずれかが、予め設定された範囲を外れる場合を、移送手段の異常モードとする。以下、予め定格の50%で設定され、作動していた移送手段2aにおいて異常モードが生じた場合を例に説明する。本装置は、移送手段2aの異常モードにおいて、移送手段2aを停止モードとし、移送手段2bを定格の100%で作動させて移送手段2aの移送量の低下分をカバーする。
(i)異常モードの認定
移送手段2aの管理指標に係る各計器からの出力を受信した制御部3において、予め設定された指標の設定範囲を外れる場合を、移送手段2aの異常モードと認定する。例えば低温液化ガスを液体窒素とし、供給流路Laの設定温度範囲を−195〜−200℃とした場合において、温度計Taからの出力が−195℃以上、例えば−190℃となった場合、供給流路La内での突沸のおそれがあり、移送圧力あるいは移送流量の異常にも繋がることから移送手段2aの異常モードと認定する。
(ii)停止モードの設定
移送手段2aの異常モードが認定されると、制御部3から移送手段2aの停止モードに係る停止信号が出力される。具体的には、移送手段2aの駆動電源を停止し、開閉弁Vaを閉状態にする。と同時に、移送手段2aの各指標について、停止モード時の相当値であること、あるいは停止モード時の相当値へ変化していることを確認する。例えば、移送手段2aの「低温液化ガスの流量」について、流量が0(ゼロ)あるいは減少して0へ変化している場合を、停止モードと認定する。
(iii)定格モードへの変更
移送手段2aの異常モードが認定されると、移送手段2aの停止信号の出力と同時に、制御部3から移送手段2bの定格モードへの変更が出力される。具体的には、移送手段2bの出力が定格モードとなるように移送手段2bのインバータ出力を制御し、制御部3から移送手段2bへ出力される。と同時に、通常モード(低出力モード)から定格モードへの移行時に変化する移送手段2bの各指標について、予め設定された各指標の上限値および下限値と対比され、設定範囲内にあることを確認する。例えば、移送手段2bの「低温液化ガスの流量」について、低出力モードの流量を「α」としたとき、定格モードへの移行に伴い「2α」(つまり本装置「通常モード」の移送量)へ変化している場合を、定格モードと認定する。
【0027】
以上は、2つの移送手段2a,2bが配設された構成における動作を例示したが、3つ以上(n個)の移送手段を並列的に配設された構成においては、次の通りに動作させることによって、同様の機能を確保することができる。以下同様である。
(i)通常モードにおいてn個の移送手段のそれぞれを定格の[100/n]%で作動させる。
(ii)複数(m個)の移送手段に異常モードが発生した場合には、m個の移送手段を停止モードとし、他の(n−m)個の移送手段を定格の[100/(n−m)]%で作動させる。
【0028】
<本装置の他の構成例>
本装置の他の構成例として、移送手段の出力側にバイパスを設けた装置の概要を、図2に示す(第2構成例)。本装置を種々の用途に利用する場合において、通常モードにおける移送圧力や流量の安定性を図るとともに、異常モード時の本装置のモード変更に伴い発生する過渡的な状態の緩和を図る目的から、移送手段の出力側にバイパスを設けることが好ましい場合がある。第2構成例にあっては、各移送手段2a,2bからの供出流路La,Lbに、各々バイパス流路Ba,Bbを設け、移送される低温物質Sの一部を供給源1に還流させる。バイパス流路Ba,Bbには、それぞれの流路の還流量を調整するための調整器Ra,Rbが設けられる。集合流路Lcには、消費設備(図示せず)に移送される低温物質Sの移送量を検知するための流量計Fcが設けられる。異常モードにおいて、供出流路La,Lbを流通させる低温物質Sの移送量が調整されるとともに、バイパス流路Ba,Bbを流通させる還流量が調整され、消費設備へ移送される低温物質Sの移送量が所定量となるように制御される。なお、こうした構成に代え、集合流路Lcを分岐して1つのバイパス流路(図示せず)を設け、移送される低温物質Sの一部を供給源1に還流させる構成を用いること、あるいは各供出流路La,Lbおよび集合流路Lcを分岐してそれぞれにバイパス流路(図示せず)を設け、移送される低温物質Sの一部を供給源1に還流させる構成を用いることも可能である。
【0029】
バイパス流路Ba,Bbを設け、供給源1に低温物質Sの一部を還流しながら所定量の移送を行なうことによって、消費設備の運転状況に応じた移送量の微調整や、移送手段2a,2bの供出側での脈動の発生防止を行うことができる。さらに、異常モード発生時の安定化操作における過渡的な状態を大幅に軽減し、短時間で定格モードに移行することができる。以下、第2構成例に係る本装置の動作を説明する。なお、第1構成例と共通する点については省略することがある。
【0030】
〔通常モードでの本装置の動作〕
本装置において、低温物質Sは、供給源1から移送手段2a,2bによって2つの供出流路La,Lbを介して各々所定量移送され、バイパス流路Ba,Bbにその一部を流出させながら、集合流路Lcにおいて合流して消費設備に移送される。このとき、供出流路LaとLbに、ほぼ同量の低温物質Sが流通するように移送手段2a,2bの出力が調整され、バイパス流路BaとBbに、それぞれの低温物質Sの一部が、ほぼ同量流通するように調整器Ra,Rbによって調整される。つまり、移送手段2a,2bが、定格出力よりも低い低出力モード(例えば定格の50%)で作動され、移送手段合計の出力が所定量(例えば1つの移送手段の定格の100%)となるように調整される。低出力モードでの移送量の一部(例えば定格の10%)をバイパス流路BaとBbに還流し、残量を消費設備への移送量とする(例えば定格の80%)。所望の移送量に増減がある場合には、最大移送量を1つの移送手段の定格の100%となるように設定し、通常の低出力モードにおいて、移送手段2a,2bを例えば定格の50%で作動させ、バイパス流路BaとBbの還流量を、所望の移送量の最大変動量よりも多くするとともに、所望の移送量の変動を、その還流量で調整することによって、移送手段に過大な負荷が掛からずに、所望の移送量の確保を図ることができる。このとき、還流量は、異常モードでの調整が容易となるように、各バイパス流路BaとBbにほぼ均等に増減することが好ましい。
【0031】
このとき、消費設備へ移送される低温物質Sの移送量は、流量計Fcによって検知されるとともに、バイパス流路BaとBbの還流量が調整器Ra,Rbによって調整されることから、調整器Ra,Rbによって微調整することができる。流量計Fcの出力は、移送手段2a,2bの管理指標となる。また、消費設備へ移送される低温物質Sの圧力についても、圧力計Pa,Pbによって検知されるとともに、調整器Ra,Rbの調整によって、微調整することができる。その他、温度計Ta,Tb等移送手段2a,2bの管理指標に係る各計器からの出力に基づく制御部3における通常モードの認定、および本装置の作動開始あるいは作動継続操作は、基本的に第1構成例と同様である。
【0032】
〔異常モードでの本装置の動作〕
本装置において、上記管理指標に係る各計器から出力のいずれかが、予め設定された範囲を外れる場合を、移送手段の異常モードとする。以下、バイパス流路Baに定格の約10%を還流し、予め定格の50%で設定されて作動していた移送手段2aにおいて異常モードが生じた場合を例に説明する。本装置は、移送手段2aの異常モードにおいて、移送手段2aを停止モードとし、移送手段2bを定格の100%で作動させて移送手段2aの移送量の低下分をカバーする。
(i)異常モードの認定
第1構成例と同様、移送手段2aの管理指標に係る各計器からの出力を受信した制御部3において、予め設定された指標の設定範囲を外れる場合を、移送手段2aの異常モードと認定する。
(ii)停止モードの設定
第1構成例と同様、移送手段2aの異常モードが認定されると、制御部3から移送手段2aの停止モードに係る停止信号が出力され、移送手段2aの駆動電源を停止し、開閉弁Vaを閉状態にする。
(iii)定格モードへの変更
移送手段2aの異常モードが認定されると、移送手段2aの停止信号の出力と同時に、制御部3から移送手段2bの定格モードへの変更が出力される。具体的には、移送手段2bの出力が定格モードとなるように移送手段2bのインバータ出力を制御し、制御部3から移送手段2bへ出力される。と同時に、バイパスBbに還流されている低温物質Sの一部を、消費設備への移送量として移送することによって、移送手段2aの出力低下分をカバーすることができる。
併せて、通常モードから定格モードへの移行に伴う移送手段2bの各指標について、予め設定された各指標の上限値および下限値と対比され、設定範囲内にあることを確認する。例えば、低出力モードにおける、移送手段2bの流量を「α」とし、バイパスの還流量を「β」としたとき、定格モードへの移行に伴い、前者が「2α」(つまり本装置「通常モード」の移送量)へ変化し、後者が「2β」へ変化している場合を、定格モードと認定する。
【0033】
上記操作における、移送手段2aの停止モードと同時に行う、移送手段2bの低出力モード(定格の50%)から定格モード(定格の100%)への移行操作に伴う移送量(流量計Fc出力),移送手段2aの出力(流量計Fa出力),移送手段2bの出力(流量計Fb出力),バイパス流路Bbの還流量の変動について、以下に詳述する。
【0034】
(ア)調整器Rbを操作せずに、移送手段2bを、低出力モードから定格モードに変更した場合
移送手段2bの出力(流量計Fb出力)は、図3(A)の破線(a)のように、所定の応答遅れと応答速度を有する応答となり、バイパス流路Bbの還流量も、図3(A)の破細線(b)のように、同様の応答となる。一方、停止モードとなった移送手段2aの出力(流量計Fa出力)は、図3(A)の一点鎖線(c)のように、短時間の応答遅れと応答速度を有する応答となり、バイパス流路Baの還流量も、図3(A)の一点鎖細線(d)のように、同様の応答となる。両移送手段2a,2bの出力からバイパス流路Ba,Bbの還流量を減算した消費設備への移送量(流量計Fc出力)は、図3(A)の実線(e)のような応答となる。過渡的に移送量の低下が見られるが、低温物質Sの温度上昇を招くことなく、異常モードの解消を図ることができる。また、こうした過渡的に移送量の低下は、移送手段2aの停止モードにおける出力を、所定の応答遅れと応答速度を有するように制御することによって、軽減することができる。
【0035】
(イ)調整器Rbを移送手段2bと同様に自動制御しながら、移送手段2bを低出力モードから定格モードに変更した場合
調整器Rbを操作して、還流量の減量あるいはバイパス流路Bbの停止を行ない、移送手段2aの停止に伴う移送量の低下を抑制する。移送手段2bと同様に自動制御することによって、図3(B)の破線(b)のように、バイパス流路Bbの還流量を減少させて、消費設備への移送量を補充し、所望の移送量となった時点で、還流量を増加させ、所望の移送量を維持する。このとき、消費設備への移送量(流量計Fc出力)は、上記(ア)における消費設備への移送量(図3(B)の実細線(e))に、バイパス流路Bbの還流量減量分が加算された移送量となり、図3(B)の実線(f)のような応答となる。こうした操作によって、過渡的な移送量の低下を軽減した移送量を確保することができる。また、こうした過渡的に移送量の低下は、停止モードにおける移送手段2aの出力を、所定の応答遅れと応答速度を有するように制御することによって、さらに軽減することができる。
【0036】
(ウ)移送手段2bの低出力モードから定格モードへの変更を、パルス的制御と自動制御の組合せによって行った場合
バイパス流路Bbを流通させる還流量を、消費設備への移送量(流量計Fc出力)を指標として、調整器Rbをステップ的に調整すると同時に、PIあるいはPID制御によって自動制御することによって、移送手段2aの停止に伴う移送量の低下を抑制する。定格モードへの切換と同時に、調整器Rbをステップ的に閉状態とし、移送手段2aの停止直後の移送量の減少をカバーする。と同時に、直ちに調整器Rbを自動制御し、移送量のオーバーシュートを抑制する。このとき、図3(C)の破線(b)のように、バイパス流路Bbの還流量は、一旦短時間で減少して消費設備への移送量を補充すると同時に、所望の移送量を超えないように減少量が緩和される。迅速でパルス的な応答が期待できる一方、オーバーシュートやアンダーシュートの発生を軽減することができる。その後、所望の移送量になるまで還流を停止し、所望の移送量となった時点で、還流量を増加させ、所望の移送量を維持する。この還流量の増加操作も、パルス的制御と自動制御の組合せによって、より迅速に還流量を確保し、安定な低温物質Sの移送を可能とする。また、消費設備への移送量(流量計Fc出力)は、図3(C)の実線(f)のような応答となる。上記(イ)よりも、さらに過渡的な移送量の低下を軽減した移送量を確保することができる。また、こうした過渡的に移送量の低下は、停止モードにおける移送手段2aの出力を、所定の応答遅れと応答速度を有するように制御することによって、さらに軽減することができる。
【0037】
<本装置を用いた低温液化ガス供給システム>
次に、上記いずれかの本装置を用いた低温液化ガス供給システム(以下「本システム」という)の概要を説明する。本システムの実施態様として、アルゴン精製プロセスを含む空気分離システムを取り上げる。1または2以上の空気分離装置を供給源とし、該空気分離装置からの液相の窒素,酸素あるいはアルゴンを低温液化ガス(低温物質、以下「液体窒素等」という)とし、2以上n個の給送ポンプを移送手段として並列的に配設するとともに、低出力モードにおいて、n個の給送ポンプのそれぞれを定格の[100/n]%で作動させ、1またはmの給送ポンプの異常モードにおいて、該1またはmの給送ポンプを停止モードとし、他の給送ポンプを定格の[100/(n−1)]%または[100/(n−m)]%で作動させることを特徴とする。空気分離装置に用いられることによって、大量の液体窒素等の移送量が必要な場合であっても、一時的な移送量の低下や移送される液体窒素等の温度上昇等を防止し、エネルギー効率が高く、低温物質の連続的に安定した移送が可能である。
【0038】
〔本システムの1の構成例〕
本システムの1の構成例の具体的な実施態様を、図4に示す(システム構成例1)。本装置10は、上記第2構成例を構成し、1つの空気分離装置(精留塔)5の上塔部5aの底部5bから取り出される、システム構成例1の低温物質の1つである液化酸素を、熱交換器6に移送し、製品酸素として供出する構成部分に用いられる。底部5bからの液化酸素は、流路L1を介して分岐されて給送ポンプ(移送手段)2a,2bに移送され、供出流路La,Lbが合流した集合流路Lc、および流路L2を介して熱交換器6に移送される。熱交換器6には、原料となる空気が導入され、液化酸素と熱交換される。加熱された液化酸素は、製品酸素ガスとして供出される。液化された空気は、流路L3を介して精留塔5の下塔部5c下部に導入される。また、移送される液化酸素の一部も、供出流路La,Lbから分岐したバイパス流路Ba,Bb、およびこれらが合流した流路L4を介して精留塔5の上塔部5a上部に導入され、精留塔5の還流を形成し、高純度液化酸素が作製される。
【0039】
システム構成例1において、本装置10は、精留塔5からの製品酸素を供出するルートの一部を構成するだけではなく、下記の機能を有することによって、非常に効率のよい空気分離システムを形成することができる。
(i)低温液化酸素の移送において、給送ポンプ2aまたは2bの異常発生に伴う本システムへの障害を回避することができる。
(ii)バイパス流路Ba,Bbから流路L4を介して高純度液化酸素の一部を精留塔5上塔部5aに還流することによって、精留塔5における還流機能を高くする。
【0040】
システム構成例1は、本装置10についての上記第2構成例における〔通常モードでの本装置の動作〕および〔異常モードでの本装置の動作〕を適用することが可能である。具体的には、低出力モードにおいて、給送ポンプ2a,2bのそれぞれを定格の50%で作動させ、1の給送ポンプ2aまたは2bの異常モードにおいて、該1の給送ポンプ2aまたは2bを停止モードとし、他の給送ポンプ2bまたは2aを定格の100%%で作動させる。特に、システム構成例1では、上記(ii)のように、精留塔5への高純度酸素の還流によって、精留塔5のみならず、システム全体の機能および製品の品質が確保されていることから、こうした制御操作によって、異常モードにおける製品酸素の移送量の安定性を確保するとともに、迅速に還流量を確保することができる。このとき、定格モードへの移行段階において、上記(ii)の精留塔5への高純度酸素の還流量の低下は、製品酸素のみならず製品窒素の純度に影響する。こうした定格モードへの移行において、通常モードでの還流条件を変更せずに移行するか否かは、精留塔5の運転条件によって定められる。
【0041】
〔本システムの他の構成例〕
本システムの他の構成例の具体的な実施態様を、図5に示す(システム構成例2)。主精留塔51,第1粗アルゴン塔52,第2粗アルゴン塔53および精製アルゴン塔54という,4つの空気分離装置(精留塔)によって、原料空気から高純度の窒素,酸素およびアルゴンが製品として作製される。本装置10は、上記第2構成例を構成し、第2粗アルゴン塔53の下塔部53bの底部53aから取り出される、システム構成例2の低温物質の1つである液化粗アルゴンを、第1粗アルゴン塔52上部に移送する構成部分に用いられる。つまり、第2粗アルゴン塔53の下塔部53bの底部53aからの液化粗アルゴンは、流路L1を介して分岐されて給送ポンプ2a,2bに移送され、その一部がバイパス流路Ba,Bbに移送されるとともに、供出流路La,Lbが合流した集合流路Lc、および流路L2を介して第1粗アルゴン塔52上部に移送される。本装置10のバイパス流路Ba,Bbに移送された液化粗アルゴンは、第1粗アルゴン塔52の塔頂部52aから供出された粗アルゴン(以下「第1粗アルゴン」という)と合流し、流路L4を介して第2粗アルゴン塔53の下塔部53b下部に還流される。ここでいう「粗アルゴン」は、例えば組成的には定常時には約98%のアルゴンと約2%の窒素で構成され、「第1粗アルゴン」は、例えばアルゴン約96%、酸素約4%の組成をいう。なお、かかる組成は一例であり、これに限定されないことはいうまでもなく、以下の成分・組成についても同様である。
【0042】
システム構成例2において、流路L3を介して原料空気が、3段塔を構成する主精留塔51の下塔部51a(中圧塔)下部に導入される。主精留塔51の下塔部51a上部からは、流路L5を介して中圧窒素ガスが製品として取り出され、中塔部51b底部からは、流路L6を介して製品液化酸素が取り出され、上塔部51c(低圧塔)の塔頂部51dからは、流路L7を介して低圧窒素ガスが製品として取り出される。このとき、上塔部51c下部には、低濃度の酸素および窒素を含むアルゴンリッチな液化空気が形成されることから、これをアルゴン原料として流路L8を介して取り出され、第1粗アルゴン塔52下部に移送される。ここでいう「アルゴン原料」は、例えばアルゴン約7%、酸素約93%で構成される。
【0043】
移送されたアルゴン原料は、第1粗アルゴン塔52において精製され、塔頂部52aから、第1粗アルゴンとして供出され、本装置10から還流される液化粗アルゴンとともに、流路L4を介して第2粗アルゴン塔53の下塔部53b下部に移送される。また、第1粗アルゴン塔52の底部52bに形成される液体組成は大まかに酸素92%,アルゴン8%なので、酸素リッチな液化成分は、流路L9を介して主精留塔51の上塔部51c下部に還流される。
【0044】
第2粗アルゴン塔53において精留され、さらにアルゴンリッチとなった液化成分(以下「第2粗アルゴン」という)が、下塔部53b上部から、流路L10を介して精製アルゴン塔54中央部に移送される。下塔部53bに形成された液化粗アルゴンは、流路L1,本装置10,流路L2を介して第1粗アルゴン塔52上部に還流される。また、上塔部53cには酸素リッチな成分が形成され、そのガス成分は、塔頂部53dから流路L11を介して、その液化成分は、底部53eから流路L12を介して、主精留塔51の上塔部51cに還流される。ここでいう「第2粗アルゴン」は、例えばアルゴン約98%、酸素約2%で構成され、「酸素リッチな液化成分」は、例えば窒素約61%、アルゴン約2%、酸素約37%の酸素リッチな液化成分で構成される。
【0045】
移送された第2粗アルゴンは、精留アルゴン塔54においてさらに高純度に精製され、高純度液化アルゴンが、精留アルゴン塔54の塔底部54aから流路L13を介して製品アルゴンとして供出されるとともに、一部は、流路L14を介して精留アルゴン塔54中央部に還流される。精留アルゴン塔54上部の窒素富化ガスは、塔頂部54bから排ガスとして流路L15を介して排出される。
【0046】
システム構成例2において、本装置10は、第2粗アルゴン塔53からの液化粗アルゴンを第1粗アルゴン塔52へ移送するルートの一部を構成するだけではなく、下記の機能を有することによって、非常に効率のよい空気分離システムを形成することができる。
(i)低温液化粗アルゴンの移送において、給送ポンプ2aまたは2bの異常発生に伴う本システムへの障害を回避することができる。
(ii)バイパス流路Ba,Bbから流路L4を介して液化粗アルゴンの一部を第2粗アルゴン塔53下塔部53bに還流することによって、第2粗アルゴン塔53における還流機能を高くする。
【0047】
なお、システム構成例2について、図5においては、本装置10を第2粗アルゴン塔53によって形成された液化粗アルゴンの第1粗アルゴン塔52へ移送する構成を例示したが、本装置10(第1構成例を含む)を他の液化成分の移送流路に用いる構成をとることが可能である。具体的には、以下の構成を挙げることができる。
(i)流路12に第1構成例の本装置10を設け、第2粗アルゴン塔53上塔部53cによって形成された空気リッチな液化成分を主精留塔51の上塔部51cへ移送する構成
(ii)流路14に第1構成例の本装置10を設け、精製アルゴン塔54底部54aから供出された高純度液化アルゴンを精製アルゴン塔54中央部へ移送する構成
【0048】
システム構成例2は、システム構成例1と同様、本装置10についての上記第2構成例における〔通常モードでの本装置の動作〕および〔異常モードでの本装置の動作〕を適用することが可能である。具体的には、低出力モードにおいて、給送ポンプ2a,2bのそれぞれを定格の50%で作動させ、1の給送ポンプ2aまたは2bの異常モードにおいて、該1の給送ポンプ2aまたは2bを停止モードとし、他の給送ポンプ2bまたは2aを定格の100%%で作動させる。特に、システム構成例2では、上記(ii)のように、第2粗アルゴン塔53への液化粗アルゴンの還流によって、第2粗アルゴン塔53のみならず、システム全体の機能および製品の品質が確保されていることから、こうした制御操作によって、異常モードにおける製品アルゴンの移送量と品質の安定性を確保するとともに、迅速に還流量を確保することができる。このとき、定格モードへの移行段階において、上記(ii)の第2粗アルゴン塔53への液化粗アルゴンの還流量の低下は、製品アルゴンのみならず製品窒素や製品酸素の純度や収量に影響する。こうした定格モードへの移行において、通常モードでの還流条件を変更せずに移行するか否かは、主精留塔51,第1粗アルゴン塔52,第2粗アルゴン塔53あるいは精製アルゴン塔54の運転条件によって定められる。
【符号の説明】
【0049】
1 供給源
2a,2b 移送手段(給送ポンプ)
3 制御部
4 気化器
5,(51〜54) 精留塔
51 主精留塔
52 第1粗アルゴン塔
53 第2粗アルゴン塔
54 精製アルゴン塔
6 熱交換器
Ba,Bb バイパス流路
Ca,Cb ケーシング温度計
Fa,Fb,Fc 流量計
Ga,Gb シールガス流量計
La,Lb 供出流路
Lc 集合流路
Ma,Mb 電力計
Na,Nb 弁
Pa,Pb 圧力計
Ra,Rb 調整器
S 低温物質
Ta,Tb 温度計
Va,Vb 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送手段を用い、供給源から消費設備へ、低温物質を連続的に移送する移送装置であって、
出力調整可能な前記移送手段が複数並列的に配設され、前記各移送手段が定格出力よりも低い低出力モードで作動され、各移送手段の出力合計が所定量となるように制御されるとともに、
前記移送手段のいずれかあるいは2以上が、または前記移送手段の出力に係る計装部材のいずれかあるいは2以上が異常モードとなった場合において、該異常モードに係る移送手段を停止モードとし、該停止モードに係る移送手段以外の特定の移送手段あるいは複数の移送手段の出力を定格モードに変更し、作動する移送手段の出力合計が前記所定量となるように制御されることを特徴とする低温物質の移送装置。
【請求項2】
前記各移送手段の出力調整が、インバータを介して行われるとともに、
前記移送手段に、電力計,シールガス流量計およびケーシング温度計、あるいは該移送手段からの供出流路に、温度計,圧力計および流量計、のうちのいずれかまたはいくつかの計器が配設され、各計器の指示値のいずれかが予め設定された所定の範囲を超えた場合を前記異常モードと認定し、前記各移送手段の出力調整が行われることを特徴とする請求項1記載の低温物質の移送装置。
【請求項3】
前記各移送手段からの供出流路、あるいは並列的に配設された複数の移送手段からの供出流路が集合された集合流路を分岐して設けられたバイパス流路を介して、移送される前記低温物質の一部を前記供給源に還流させるとともに、
前記異常モードにおいて、前記バイパス流路を流通させる還流量を調整し、前記消費設備へ移送される低温物質の移送量が所定量となるように制御されることを特徴とする請求項1または2記載の低温物質の移送装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の低温物質の移送装置を用い、
1または2以上の空気分離装置を供給源とし、該空気分離装置からの液相の窒素,酸素あるいはアルゴンを低温液化ガスつまり前記低温物質とし、2以上n個の給送ポンプを移送手段として並列的に配設するとともに、
低出力モードにおいて、前記n個の給送ポンプのそれぞれを定格の[100/n]%で作動させ、
1またはmの給送ポンプの異常モードにおいて、該1またはmの給送ポンプを停止モードとし、他の給送ポンプを定格の[100/(n−1)]%または[100/(n−m)]%で作動させることを特徴とする低温液化ガス供給システム。
【請求項5】
前記給送ポンプからの供出流路あるいは2以上の供出流路が集合された集合流路を分岐し、前記低温液化ガスの一部を前記空気分離装置に還流させるバイパス流路が設けられ、前記異常モードにおいて、前記定格モードに係る給送ポンプからバイパス流路を流通させる還流量が、ステップ的に調整されると同時に、PIあるいはPID制御によって自動制御されることを特徴とする請求項4記載の低温液化ガス供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−24376(P2013−24376A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162244(P2011−162244)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】