説明

低濃度ブタノール水溶液からのブタノールの分離濃縮方法

【課題】低濃度の均一相を有するブタノール溶液から、ブタノールが高濃度で相分離しない均一相のブタノールを効率よく分離濃縮する方法を提供する。
【解決手段】低濃度の均一相を有するブタノール水溶液から、浸透気化分離法により、その濃度が80wt%以上の均一相のブタノール水溶液を得ることができ、浸透気化法に用いる膜として、25℃以上で3時間20分以上撹拌して調製した合成ゲルを用いて、種結晶を塗布した多孔質基板上に水熱合成を施すことでシリカライト膜を形成し、さらにその上にシリコンゴムコーティングを施すことにより製造されたものが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透気化法により、低濃度ブタノール水溶液からブタノールを分離濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオエタノールが注目されているが、エネルギー密度や低吸湿性等の点で、ブタノールの方が自動車燃料として優れており、バイオブタノールが、再生可能な資源を原料とする燃料として注目されるようになっている。
ブタノール発酵に用いられることが知られている細菌は偏性嫌気性であり、副産物として、アセトン、エタノール等を生産するので、それらの頭文字から、ABE発酵と呼ばれている。
【0003】
ABE発酵の問題点は、ブタノールが細菌自体に及ぼす細胞毒性が強く、そのために発酵液中に生産されるブタノール濃度は通常1wt%程度しかなく、せいぜい2wt%程度までにしか高めることができないことである。このことは、発酵液からのブタノールの分離精製に要するエネルギーが増大することを意味する。ブタノールをエネルギー源として利用する場合には、その生産のために要するエネルギーを、得られるブタノールの燃焼エネルギー以下にすることが必須であり、そのためには、分離精製過程の省エネ化が実用化のための鍵になる。
【0004】
代表的な分離濃縮法として蒸留法があるが、ブタノールは水よりも高い沸点を有することから、その過程では大量の水もまた留去させることとなるため、多大のエネルギーを投入せざるを得ない結果、効率よく濃縮することができない。
この蒸留法に代わる分離法としては、ガスストリッピング法、吸着法、液-液抽出法、浸透気化分離法などがあるが、特に、分離膜を用いる浸透気化分離法が注目されている。
この浸透気化分離法では、膜の片側(供給液側)を分離対象とする目的物質を含む液体に接触させ、その反対側(透過側)を真空にするか同伴ガスを流すことで気化させる方法である。膜が有する選択性によって、透過側の目的物資の蒸気濃度が増すため、それを冷却凝縮し、濃縮液として回収する。
【0005】
有機物の分離濃縮に用いられる浸透気化分離法の膜には、高分子膜や無機膜があり、近年、これらの膜が、エタノールやブタノールといったバイオアルコールの選択的な分離・濃縮に応用されている。
例えば、特許文献1には、フッ素樹脂中空糸の表面に、ポリN−イソプロピルアクリルアミドなどの、温度変化によって親水性あるいは疎水性へと可逆的に性質が変化しうる感温性ポリマーを設けた分離膜を用いて、ブタノールを濃縮することが記載されている。
【0006】
一方、本発明者らは、従来のエタノール発酵において、シリカライト膜を用いた浸透気化分離法について研究開発に取り組み、既に多くの技術的提案をしている。
すなわち、シリカライト膜は、従来から一般的に使用されてきたポリジメチルシロキサン膜などのシリコンゴムシートよりもエタノール選択性が高いことが知られており(特許文献2)、例えば、30℃において、シリコンゴムでは、5wt%のエタノール水溶液から約30wt%のエタノール液が得られるのに対して、シリカライト膜では5vol%のエタノール水溶液から80vol%以上のエタノール液を得ることが可能である(非特許文献1)。しかしながら、発酵エタノール液を分離対象液とした場合には、シリカライト膜のエタノール選択性が大きく低下することから、シリカライト膜をシリコンゴムコーティングすること(特許文献3、4等)や、供給液のpHを制御すること(特許文献5、6等)でこの問題点に対処してきた。また、平板状の分離膜では、その分離膜面積を拡張する製膜は技術的に困難であることから、管状シリカライト膜の形成方法も提案されている(特許文献7、8)。
【0007】
これまでに、シリカライト膜を用いて、エタノールを5〜10wt%含有するエタノール発酵液から、71〜81wt%程度の高濃度エタノールを分離濃縮することができたことを報告している。しかしながら、ブタノールを1〜2wt%含有するブタノール液からのブタノールの分離濃縮に膜を実際に用いた例については、その透過液中のブタノールは80wt%を超えていない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−99667号公報
【特許文献2】特許第2976010号公報
【特許文献3】特許第3755035号公報
【特許文献4】特許第3981724号公報
【特許文献5】特許第4045342号公報
【特許文献6】特許第4048279号公報
【特許文献7】特許第4078423号公報
【特許文献8】特許第4122435号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】膜 23:259-265(1998)
【非特許文献2】J Chem Technol Biotechnol 80:603-629(2005)
【非特許文献3】榊、根岸、池上著、「ブタノール発酵と膜技術」、環境浄化技術、第8巻、第7号、第20〜24頁(2009年7月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが、これまでのシリコンゴムコーティングした管状シリカライト膜を、低濃度ブタノール水溶液からのブタノールの選択的分離に適用した結果、シリカライト膜を透過した蒸気を凝縮させたところ、ブタノールリッチの上層(約80wt%ブタノール液)と水リッチな下層(約8wt%ブタノール液)に2層分離することがわかった(非特許文献3)。
図6は、従来のシリカライト膜を用いた浸透気化分離法においてその膜透過液が相分離する場合のブタノール無水化システムを模式的に示すものである。
図に示すように、ブタノールリッチな上層は、それをA型ゼオライト膜などの親水膜を用いて脱水すれば蒸留法を用いることなく無水ブタノールが得られる。一方、上層と比較して水リッチなブタノール約8wt%の下層を対象とするブタノールの無水化には、より多くのエネルギー(水の蒸発潜熱、2261kJ/kg;ブタノール蒸発潜熱、582kJ/kg)を供給せざるを得ない。
仮に、膜透過液のブタノール濃度が高く、2層分離しない場合には、ブタノールリッチ相のみが脱水工程を経ればよいことから、ブタノールの精製に関する投入エネルギーは大幅に低減されることになる。
【0011】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、低濃度ブタノール水溶液から、浸透気化分離法によって、均一相のブタノール水溶液を効率よく分離濃縮する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが、鋭意検討したところ、シリカライト分離膜の製造において、シリカライト膜自体の分離性能の向上と、その上にシリコンゴムコーティングを施すことにより、上記目的を達成しうるという知見を得た。
【0013】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]低濃度の均一相を有するブタノール水溶液から、浸透気化分離法によって、その濃度が80wt%以上の均一相のブタノール水溶液を得ることを特徴とするブタノールの分離濃縮方法。
[2]前記浸透気化分離法に用いる膜が、シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜であることを特徴とする上記[1]のブタノールの分離濃縮方法。
[3]前記シリカライト膜が、25℃以上で撹拌して調製した製膜用合成ゲルを用いて、種結晶を塗布した多孔質基板上に水熱合成を施すことでシリカライト膜を形成し、さらにその上にシリコンゴムコーティングを施すことにより製造されたものであることを特徴とする上記[2]のブタノールの分離濃縮方法。
[4]前記製膜用合成ゲルが、25℃で3時間20分以上撹拌して調整したものであることを特徴とする上記[3]に記載のブタノールの分離濃縮方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1〜2wt%程度の希薄ブタノール含有水溶液からでも、濃度が80wt%以上の均一相のブタノール水溶液を得ることができるので、ブタノール発酵液等の低濃度ブタノール水溶液からブタノールの精製に関する投入エネルギーを大幅に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の低濃度ブタノール水溶液の分離濃縮方法を示す図
【図2】回分式の膜分離工程の構成図
【図3】連続式の膜分離工程の構成図
【図4】本発明の低濃度ブタノール水溶液の分離濃縮に用いられる、分離膜を模式的に示す図
【図5】シリコンゴムによるコーティング前後のシリカライト膜の表面の顕微鏡写真
【図6】従来のシリカライト膜の膜透過液が相分離した場合を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の低濃度ブタノール水溶液の分離濃縮方法を模式的に示す図である。
図に示すように、本発明の方法は、低濃度の均一相を有するブタノール水溶液から、浸透気化分離法によってブタノールを分離濃縮する方法であって、シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜を透過して得られた凝縮液は、その濃度が80wt%以上の均一相のブタノール水溶液であるので、その後の工程で、例えば、A型ゼオライト膜などの親水膜を用いて脱すれば、蒸留法を用いることなく無水のブタノールが得られる。
【0017】
通常、1−ブタノールは、その濃度が約8wt%以下の低濃度である場合、及び約80wt%以上の高濃度である場合には、均一相であって、これらの中間の約8〜80wt%の濃度では、ブタノールリッチな上層と水リッチな下層の二層に分離することが知られている。
本発明で用いられる低濃度のブタノール水溶液とは、この低濃度側で均一相を形成しているブタノール水溶液をいうものである(以下、単に「低濃度ブタノール水溶液」ということもある。)。
したがって、本発明で用いられる精製の対象となる浸透気化分離工程への供給液は、代表的には、微生物による発酵液等の低濃度ブタノール水溶液であるが、それ以外のものでも濃縮分離が可能であることはいうまでもない。
【0018】
本発明において、低濃度ブタノール水溶液が、発酵により製造されたブタノール水溶液である場合、発酵液に含まれるブタノール濃度は、一般的には、1%程度、多くても2%以下であり、これに微生物細胞、水及び各種の微量の副生成物等が含有される。このようなブタノール発酵液を膜分離対象の供給液とする場合には、予め遠心分離法や膜分離法によって微生物細胞を除去しておくことが望ましい。
【0019】
本発明の低濃度ブタノール水溶液の分離精製は、図2又は図3に示すように、回分式、あるいは連続式で行う。
図2に図示する回分式操作の場合には、分離膜を直接溶液槽に浸漬する。この場合、槽内の液温は特に限定されないが、一定の透過流束を得るために温度を一定に制御すること、および濃度分極が生じないように攪拌することが望ましい。また、膜の透過流束は温度を上げれば大きくなるので、高い温度で一定にしたほうが透過液はたくさん得られる。
一方、図3に図示する連続式操作の場合には、溶液槽から送液ポンプによって分離膜に送液する。この場合においても同様に、液温は特に限定されないが、一定温度に制御することが望ましい。分離膜は、ホルダー内に設置されている。分離膜ホルダーを通過した供給液は、流路切り替えバルブを経由して、供給液槽に返送されるか、あるいは次の工程へ送られる。
【0020】
いずれの場合も、用いる管状シリカライト膜は、単独、もしくは複数本を束ねたモジュールである。また、ハニカム構造の分離膜も使用することが可能である。管状膜の一方の末端は塞がれており、他方の末端が真空系(真空ポンプ)に接続されている。分離膜と真空ポンプとの間にトラップを設置し、これを冷却することにより、シリカライト膜を透過してきた蒸気を凝縮させ、最終的に濃縮されたブタノール液を回収することができる。
【0021】
以下、本発明の低濃度ブタノール水溶液の分離濃縮に用いられるシリカライト分離膜について、図4により説明する。
図4は、該膜の全体を示す図である。図に示したシリカライト膜は、管状多孔性の支持基板の上に製膜されたシリカライト膜であって、表面にシリコンゴムコーティングを施してある。
【0022】
本発明において浸透気化分離法に用いるシリコンゴムコーティングを施したシリカライト膜は、その製膜過程において、製膜用合成ゲル調製時におけるその溶液温度および溶液攪拌時間の厳格な制御以外は、公知の技術によって作製されるものである。
すなわち、シリカライトの種結晶を合成し、この種結晶を溶媒に懸濁させた液を用いて、多孔質基板上に種結晶を付着させる。次いで、多孔質基板上に付着させた種結晶を水熱合成によりシリカライト膜とし、製膜されたシリカライト膜に、シリコンゴムコーティングを施す。
【0023】
本発明におけるシリカライトとは、ゼオライトの一種であって、アルミ成分を含まないものである。構造としては、MFI型ゼオライトと称されるものである。
ゼオライトの中でMFI型ゼオライトは、0.56nm×0.53nmの僅かに歪んだ楕円状細孔径を有するストレートチャンネルと、0.55nm×0.51nmの僅かに歪んだ楕円状細孔径を有するシヌソイダルチャンネルを持つ。ストレートチャンネルはMFI型ゼオライト結晶のb軸方向に沿って直線状に開口しており、(010)面に細孔入り口を持つ。一方、シヌソイダルチャンネルはa軸方向に沿ってジグザグに開口しており、(100)面に細孔入り口を持つ。ストレートチャンネルとシヌソイダルチャンネルは結晶内で繋がり合い、2次元的細孔構造を形成する。MFI型ゼオライトの構成元素は、一般的にはケイ素とアルミニウムと酸素であり、アルミニウム原子近傍にイオン交換サイトを有する。そのイオン交換サイトに各種金属イオンを導入することができる。また、アルミニウム含有量は、シリカ/アルミナ比で20から無限大まで制御でき、特に、シリカ/アルミナ比が無限大のMFI型ゼオライトは疎水的な性質を有し、シリカライト−1構造と言われる。本発明で扱うシリカライトは、アルミニウム原子を含まない特殊なゼオライトである。よって他のゼオライトの特性である正の電荷を補うといった特性を示さず、電気的に中性である。その為、シリカライトは他のゼオライトに比べ疎水的であり、水/ブタノール系において、より疎水的なブタノールを選択的に収着し透過するという特異的な性質を示す。
【0024】
種結晶の合成は以下の通りである。
シリカ源、アルカリ、およびテンプレート剤(シリカライトに数オングストロームの細孔を形成させるもの)からなる水熱合成ゲルを調製し、開放系反応容器に入れ、撹拌しつつ加熱する。一例を示すと、テンプレート剤である臭化テトラプロピルアンモニア水溶液に、シリカ源としてコロイダルシリカ、及びアルカリとして水酸化ナトリウム水溶液を加えたものを、約40℃で24時間攪拌し、種結晶用合成ゲルを調製する。次いで、得られた合成ゲルをろ過し、ろ過した合成ゲルを開放系反応器に入れ、攪拌しつつ約100℃で144時間保持する。この加熱温度は80〜150℃の範囲であるが、100℃程度の加熱で十分である。得られた種結晶を回収し、ろ液が中性になるまで、イオン交換水で洗浄する。洗浄した種結晶を120℃で乾燥させた後、テンプレートを除去するために375℃で60時間保持し、焼成する。
上記の条件で得られた種結晶は、3μm以下のシリカライト種結晶であることがわかった。また、前記合成の条件を変えることで様々な粒径のシリカライト種結晶が合成できることが明らかとなった。
【0025】
前記シリカ源としては、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、シリカゾル、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、水ガラス、メタケイ酸カリウム、シリコンアルコキシド等を用いる。
また、アルカリ源としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。これらの中から目的とするゼオライトの種類、組成にしたがって、シリカ源、アルミナ源、アルカリ金属源を任意に選択することができる。
また、テンプレートとして、テトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)等を用いることができる。
【0026】
次に、多孔質基板への種結晶の付着工程について記載する。
前記のシリカライトを種結晶として、有機溶媒又は水に分散させ、懸濁状態とし、これを維持する。
有機溶媒としては、有機溶媒として知られているものであれば、適宜使用することができる。極性のあるなしで検討してみると、極性のある溶媒の方が好ましいという傾向にある。メタノール、エタノール、1-プロパノール等のアルコールなどのほか、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、が用いられる。
シリカライト種結晶と溶媒の割合は適宜決定することができる。一般的には、懸濁状態に維持できる濃度であれば差し支えない。懸濁状態を良好に保つために、スターラーやホモジナイザーによる撹拌手段を用いる事が有効であり、超音波を照射することが必要に応じて行なわれる。このようにして電着液を製造する。
次に、シリカライト種結晶を有機溶媒又は水に分散させた状態で、多孔質基板と電極間に電圧を印加して、多孔質基板表面に前記シリカライト種結晶を付着させる。
【0027】
多孔質基板には、アルミナ、ムライト、コーディライト等のセラミックの他、多孔質ステンレス、多孔質ガラス等を用いることができる。電気泳動の電極として多孔質基板を用いる場合、導電性を有していることが必要となる。この場合には、多孔質ステンレスやステンレス鋼などの金属や導電性酸化物などを用いることができる。
また、多孔質であっても導電性を有していない酸化物を基板に用いる場合には、例えば、セラミックス等に、無電解めっき等により導電性を付与すれば電気泳動の電極として、適用が可能となる。具体的には、CuやNiなどを付与してやればよい。
また、多孔質基板を電極としないので、多孔質基板を隔てて、その両側に電極を設置し、両極間に電圧を印加するという方法をとることで、多孔質基板を電極としなくても、分散させてある帯電粒子を多孔質基板上に捕捉(トラップ)し、種結晶を均一に塗布することができる。この場合には、多孔質基板が導電性であるかどうかは、問題とならない。
多孔質基板が平板状又は円管状とすることができる。この形状とすることにより得られる分離膜の形状を、平板状又は円管状とすることができる。
【0028】
本発明においては、以下の実験を行い多孔質基板上に前記シリカライト膜を付着させることができることを確認した。
前記合成法により得られたシリカライト種結晶1gを水又は有機溶媒100mlに添加し超音波を10分間した照射したものを電着液とした。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール等のアルコール類を用いた。
シリカライト種結晶を前記溶媒に懸濁させた状態で、ステンレス多孔質基板を陽極とし、対極にステンレス網を使用した装置を使用して電圧を印加した。この方法は、電極基板に多孔質基板を用いる方法である。後で記載するように、電極基板として多孔質基板を直接使用するのではなく、多孔質基板を隔てて、その両側に電極を設置し、両極間に電圧を印加するという方法をとることができる。
【0029】
印加する電圧に関しては、格別制限されるものではなく、実際に、1〜数千Vの電圧を利用することができる。本発明の実験としては5〜50Vの電圧を印加することでシリカライト種結晶を電気泳動させ、多孔質基板表面にシリカライト種結晶を塗布することができることを確認した。その結果、シリカライト種結晶の塗布量は5〜20Vの範囲で印加電圧及び電気泳動時間に対して比例関係にあることを確認している。また、ステンレス多孔質基板表面へシリカライト種結晶が均一に塗布されていることが明らかとなった。
【0030】
水熱合成によるシリカライト膜の製膜は以下のとおりである。
製膜用合成ゲルは、テンプレートとして臭化テトラプロピルアンモニウム水溶液を用いて、コロイダルシリカおよび水酸化ナトリウム水溶液に加えたものを、25℃以上で十分に攪拌することにより調整する。具体的には、25℃であれば、3時間20分以上撹拌する必要があるが、温度を高くすれば撹拌時間を短くしても同等の効果が得られる。例えば、26℃であれば3時間以上撹拌すればよく、25℃で3時間20分と、26℃で3時間を結ぶ線より高い温度条件又は長い時間条件を満たすことが必要である。また、撹拌中は一定温度に制御して、温度ムラを抑えることが必要である。
次いで、ろ過した前記の製膜用合成ゲルをオートクレーブ(反応器)にいれ、そこに前記電着方法によりシリカライト種結晶を付着させた多孔質基板をいれて、加熱状態に保って水熱反応を行なう。反応温度は150〜250℃の範囲の温度が採用される。オートクレーブおよび合成ゲルを自然冷却させた後、膜を取り出し、イオン交換水で洗浄した。取り出した膜を乾燥させた後、テンプレートを除去するために昇温速度を一定にして一定時間保持を行なう。
【0031】
このようにして得られるシリカライト膜の表面をシリコンゴムによりコーティングする。シリコンゴムには、ジメチルシリコン系ゴム、メチルビニルシリコン系ゴム、メチルフエニルシリコン系ゴム、フロロシリコン系ゴムなどを挙げることができる。これらは触媒を用いて架橋して、或いは熱を与えて架橋して用いる。あるいは、触媒を用いずに、空気中の水分と反応して硬化するタイプのシリコンゴムも知られている。
シリコンゴムによりコーティングするには、シリカライト膜をシリコンゴムの溶液に浸漬することにより行われる。シリコンゴムを予め溶剤に溶かしたものが用いられることが一般的である。溶剤には、無極性溶媒、例えば、n-ヘキサン、n-ペンタンなどが用いられる。
以上の操作により目的とする、分離膜を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
〈シリカライト膜の製造〉
(種結晶の合成)
臭化テトラプロピルアンモニア水溶液にコロイダルシリカ及び水酸化ナトリウム水溶液を加えたものを、約40℃で24時間攪拌し、種結晶用合成ゲルを調製した。ろ過した合成ゲルを開放系反応器に入れ、攪拌しつつ約100℃で144時間保持した。得られた種結晶を回収し、ろ液が中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。洗浄した種結晶を120℃で乾燥させた後、テンプレートを除去するために375℃で60時間保持し、焼成した。得られた種結晶が、3μm以下のシリカライト種結晶であることを確認した。
(泳動電着法による種結晶の塗布)
前記合成法により得られたシリカライト種結晶1gを、1−プロパノール100mlに添加し超音波を10分間した照射したものを電着液とした。シリカライト種結晶を前記溶媒に懸濁させた状態で、ステンレス多孔質基板を陽極とし、対極にステンレス網を使用した装置を使用して20Vの電圧を10分間、印加した。溶媒を除去する目的で、シリカライト種結晶を付着させた多孔質基板を300℃で6時間、熱処理した。
(水熱合成によるシリカライト膜の作製)
製膜用合成ゲルとして、テンプレートとして臭化テトラプロピルアンモニウム水溶液を用いて、コロイダルシリカおよび水酸化ナトリウム水溶液に加えたものを25℃で3時間20分以上撹拌した。
ついで、ろ過した合成ゲル330gをオートクレーブにいれ、そこに前記電着方法によりシリカライト種結晶を付着させた多孔質基板を、反応器内にいれて、加熱状態に保って水熱反応を行なった。具体的には、ボルトで密閉した後170℃で72時間保持することで製膜を行うことができた。オートクレーブおよび合成ゲルを自然冷却させた後、膜を取り出し、イオン交換水で洗浄した。取り出した膜を120℃で乾燥させた後、テンプレートを除去する為に、昇温速度を0.1℃/minに一定にして375℃まで昇温し、60時間保持した。
(シリカライト膜のシリコンゴムコーティング)
J Chem Technol Biotechnol 82:745-751(2007)(非文献文献4)に従い、シリコンゴムコーティングを施した。すなわち、ヘキサン溶媒中にシリコンゴム(信越化学製、K E 108)を0.3wt%となるように均一に溶解した液に、両端をテフロン(登録商標)で密栓した管状シリカライト膜を数秒間浸漬した後、1日間硬化させた。さらに、その膜をヘキサン溶媒に対してシリコンゴム(信越化学製、K E 45)を0.3wt%となるように均一に溶解した液に数秒間浸漬した後、再度1日間硬化させた。
【0033】
図5は、該実施例で得られたシリコンゴムコーティング前後のシリカライト膜の表面の顕微鏡写真であり、上は、シリコンゴムコーティング前の写真であり、下が、シリコンゴムコーティング後の写真である。
【0034】
《実施例2》
〈シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のブタノール分離性能測定〉
実施例1で作製したシリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のブタノール分離性能を、前記非特許文献4に記載された、回分式の装置を用いて測定した。測定用容器内に1wt%のブタノール水溶液を注入し、管状シリカライト膜の一方の末端を密栓し、他端を真空ポンプに接続した。当該膜を透過した蒸気を液体窒素を用いたコールドトラップにより凝縮し、濃縮ブタノール液として回収した。
回収液中のブタノール濃度の分析は、水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィー(ジーエルサイエンス株式会社製、GC4000)、InertCap 5キャピラリーカラム(0.53mm×30m)により行った。その結果を、当該膜のシリコンゴムコーティング前のブタノール分離性能と併せて表1に示した。
シリコンゴムコーティング前の当該膜を用いた場合には、透過液が2層分離し、透過液全体に占めるブタノールの総体的な濃度は、68.4wt%であったが、シリコンゴムコーティングを施した結果、当該膜の透過液は、ブタノール濃度が81.8wt%の均一な液体であった。
【0035】
【表1】

【0036】
《比較例1》
シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のブタノール分離性能測定
実施例1の水熱合成によるシリカライト膜の作製において、製膜用合成ゲルの攪拌時間を3時間とした以外は、実施例2と同様にして、当該膜のブタノール分離性能を測定した。その結果、透過液は2相に分離しており、透過液全体に占めるブタノールの総体的な濃度は、72.2wt%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低濃度の均一相を有するブタノール水溶液から、浸透気化分離法によって、その濃度が80wt%以上の均一相のブタノール水溶液を得ることを特徴とするブタノールの分離濃縮方法。
【請求項2】
前記浸透気化分離法に用いる膜が、シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜であることを特徴とする請求項1に記載のブタノールの分離濃縮方法。
【請求項3】
前記シリカライト膜が、25℃以上で撹拌して調製した製膜用合成ゲルを用いて、種結晶を塗布した多孔質基板上に水熱合成を施すことでシリカライト膜を形成し、さらにその上にシリコンゴムコーティングを施すことにより製造されたものであることを特徴とする請求項2に記載のブタノールの分離濃縮方法。
【請求項4】
前記製膜用合成ゲルが、25℃で3時間20分以上撹拌して調整したものであることを特徴とする請求項3に記載のブタノールの分離濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−136979(P2011−136979A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252415(P2010−252415)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/膜分離プロセス促進型アルコール生産技術の研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】