説明

低濃度メタンの分解方法

【課題】 天然ガス等の燃料の使用による温室効果ガスの実質的な排出量を低減する。
【解決手段】 天然ガス等の燃料の製造時に副次的に生成されるガスであって、任意の範囲で空気と混合しても常温常圧において可燃範囲に入らない低濃度のメタンを含む混合ガスG1を、空気と混合及び加湿させた後、放電プラズマ雰囲気中を通過させて、混合ガスG2中の低濃度メタンを分解する。放電プラズマは、パルス電源を備えたプラズマ処理装置1が発生するパルス放電プラズマを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度メタンの分解方法に関し、特に、大気放出されるガス中に含まれる低濃度メタンの温室効果による地球温暖化を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産出ガスにCO(二酸化炭素)が主要成分として含まれる天然ガスの場合、パイプラインで輸送する前に産出ガス中のCOの大部分を除去し、精製後の天然ガスを輸送する必要がある。その場合、通常、産出ガスを先ず水洗してCOやその他の水に可溶な副成分を水に吸収させた後、ベンフィールド法等の化学吸収法で処理する方法が採られる。ところが、天然ガスを水洗処理すると水に溶けたメタンや処理水中に残った気泡に含まれるメタンが水の再生処理側でCOと一緒に放出され、大気中に放散される。
【0003】
このように放出されるメタンは多い場合には天然ガスに含まれるメタンの2〜3%にも及ぶ。しかし、再生処理後のCOを主成分するオフガス中のメタンは、どのような割合で空気と混合しても可燃範囲に入らない程度の低濃度であるため、燃焼処理することができず、そのまま大気放散するしかなかった。
【0004】
ところで、例えば3%のメタンが放出されるとすると、メタンの地球温暖化係数はCOの21倍になるため、放出メタンの温暖化効果は製品天然ガスの最終使用によって発生するCOの地球温暖化効果の20%にも達する。従って、天然ガス精製後の放出オフガス中のメタンを分解することができれば、天然ガスの最終使用に伴う温室効果ガス(COとメタン)の排出量を大幅に削減することが可能であり、京都議定書に定められたCDM(クリーン開発メカニズム)或いはJI(共同実施)等の京都メカニズムにより、排出権クレジットを生み出して販売することができる。
【0005】
しかしながら、通常メタン等の可燃性ガスの処理に使われる触媒酸化の技術では、300℃以上の温度でなければCO中のメタンを処理することはできない。他方、放電プラズマ処理により気体中の微量成分を分解除去する技術は臭気成分やダイオキシン等の有害成分の除去への応用は知られており、例えば、下記の特許文献1の「物質処理方法及び装置」等に開示されているが、低濃度メタンへの応用は知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−38138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、天然ガス等の燃料の使用による温室効果ガスの実質的な排出量を低減することにあり、具体的には、当該燃料の製造過程において副次的に生成される通常燃焼による分解処理不可能な低濃度メタンを含む混合ガス中のメタンを効率的に分解除去するための低濃度メタンの分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る低濃度メタンの分解方法は、任意の範囲で空気と混合しても常温常圧において可燃範囲に入らない低濃度のメタンを含む混合ガスを、前記低濃度メタンの分解に必要な有酸素状態で、放電プラズマ雰囲気中を通過させて、前記混合ガス中の前記低濃度メタンを分解することを第1の特徴とする。
【0009】
更に、本発明に係る低濃度メタンの分解方法は、上記第1の特徴に加え、前記放電プラズマが、パルス放電プラズマであることを第2の特徴とする。
【0010】
更に、本発明に係る低濃度メタンの分解方法は、上記第1または第2の特徴に加え、前記混合ガスを加湿した後、前記放電プラズマ雰囲気中を通過させることを第3の特徴とする。
【0011】
ここで、本発明に係る低濃度メタンの分解方法の処理対象となる前記混合ガスは、ガス田から産出された天然ガス中の二酸化炭素を除去する天然ガス精製工程により排出される二酸化炭素を主成分とするガスであり、或いは、炭鉱の坑内換気ガス、二酸化炭素を含む炭層ガス、及び、油田随伴ガスの何れかである。
【0012】
上記各特徴の低濃度メタンの分解方法によれば、天然ガス精製工程により排出される二酸化炭素を主成分とするオフガス等に含まれる可燃範囲に入らない低濃度メタンを放電プラズマ処理により二酸化炭素と水に分解できる。ところで、放電プラズマ処理では、放電により、O(酸素)やHO(水)から非常に酸化力の強いラジカル発生し、当該ラジカルがメタン等の可燃性化合物と選択的に反応するため、処理対象の混合ガスの大部分を占めるCOやNを励起することなく、低濃度メタンの分解に必要なだけの放電励起で分解処理が可能なため、混合ガス全体を励起するのに比べて桁違いに少ないエネルギで高効率に低濃度メタンの分解処理を行える。
【0013】
この結果、地球温暖化係数が21の温室効果ガスであるメタンが、地球温暖化係数が1の二酸化炭素に効率良く変換されるため、例えば、天然ガスの最終使用に伴う温室効果ガス(COとメタン)の排出量を大幅に削減することが可能となる。また、天然ガスの精製過程において発生するメタンの削減は、京都メカニズムにより、排出権クレジットを生み出して販売することも可能となる。
【0014】
尚、被処理ガスである低濃度メタンを含む混合ガスが、炭鉱の坑内換気ガス、二酸化炭素を含む炭層ガス、及び、油田随伴ガスの何れかである場合において、当該ガス中にも任意の範囲で空気と混合しても常温常圧において可燃範囲に入らない低濃度メタンが含まれるので、同様の効果が期待できる。
【0015】
特に、第2の特徴の低濃度メタンの分解方法によれば、パルス放電プラズマを使用することから、放電電界が断続的に発生するため、グロー放電からアーク放電に移行する前に、放電電界が消滅してアーク放電に移行せず、結果として気体を効率的にイオン化、ラジカル化できるグロー放電を継続させることができ、投入したエネルギを低濃度メタンの分解に必要なラジカルの発生に効率的に使用でき、低濃度メタンを放電プラズマ処理により効率的に二酸化炭素と水に分解できるようになる。
【0016】
また、第3の特徴の低濃度メタンの分解方法によれば、前記混合ガス中に水分子が存在するために、OHラジカルが効率的に発生して低濃度メタンの分解が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る低濃度メタンの分解方法(以下、適宜「本発明方法」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、天然ガスの一般的な製造工程では、ガス田(ガス井戸)から産出された産出ガス(メタン:50%、CO:50%)に対し、1次セパレータ10で、COを所定濃度以下に削減した1次精製ガス(メタン:99%、CO:1%)を生成し、更に、2次セパレータ11で、COを更に除去した2次精製ガス(例えば、メタン:100%)を生成し、液化プラント12において、当該2次精製ガスを液化して液化天然ガス(LNG)を製造する。
【0019】
本実施形態では、本発明方法による処理対象ガスとして、図1に示す天然ガスの製造工程において、1次セパレータ10で、産出ガスに対し水洗及び再生処理を施して採集したCOを主成分とするオフガス(混合ガス)を想定し、当該オフガス(メタン:2%、CO:98%)に対し、前処理装置13において所定の前処理を実施した後、本発明方法により2%の低濃度メタンの分解を行う。1次セパレータ10から排出されるオフガス中のメタン濃度は2%程度と低く、常温常圧において可燃範囲外にあり、通常の燃焼処理では分解除去できず、また、触媒酸化による燃焼処理では、少なくとも300℃以上の触媒燃焼可能温度まで加熱する必要がある。尚、前処理装置13では、オフガス中の粒子状物質等放電電極に付着して放電を阻害する物質及び塩素化合物等の電極の消耗を加速するガス等の前処理を実施する。
【0020】
次に、本発明方法について、図2を参照して説明する。先ず、前処理装置13で前処理後の混合ガスG1(メタン:2%、CO:98%)に対し、スチームHと空気Aの混合ガスを混合する。本実施形態では、混合ガスG1の流量30000Nm/hに対して、空気Aの送入量を30000Nm/h、スチームHの送入量を1000Nm/hとする。混合ガスG1の温度が約30℃、スチームHと空気Aの混合ガスの温度が約50℃、スチームHと空気Aを混合した後の混合ガスG2の温度が約40℃であると想定する。スチームH及び空気Aと混合後の混合ガスG2が、プラズマ処理装置1に送入され、プラズマ処理装置1内の放電プラズマ雰囲気中を通過しながら、下記の[化1]の反応経路式に示す反応を順次繰り返して、全体として[化2]に示すように、混合ガスG3中の低濃度メタンが空気中の酸素と反応してCOと水に分解する。低濃度メタン分解後の処理済ガスG3は、温度が約180℃で、その混合組成は、CO:48%、N:39%、HO:5%、O:7.4%、CH:0.6%となる。
【0021】
[化1]
O → OH・+H・
CH+OH・ → CHO・+H
CHO・+O → CO+OH・+H
2H+O → 2H
【0022】
[化2]
CH+2O → CO+2H
【0023】
図3に、本実施形態で使用するプラズマ処理装置1の概略の構成を示す。図3に示すように、プラズマ処理装置1は、円筒状電極2とその中心軸上に線状電極3からなる同軸円筒型電極構造を有し、円筒状電極2と線状電極3の間にパルス電源4を接続して、円筒状電極2の内部にコロナ放電より放電プラズマを発生させ、混合ガスG2に対して、[化1]の反応経路式に示す反応を励起させる。混合ガスG2は、円筒状電極2の一方端から円筒状電極2内に送入され、反応後の混合ガスG3が、円筒状電極2の他方端から送出される。
【0024】
プラズマ処理装置1の処理条件は、処理対象の混合ガスG2の条件に大きく依存するが、代表的には、例えば、空間速度が100000h−1で、放電エネルギが数10kJ/m程度となる。また、処理する低濃度メタンの濃度に制限は無いが、あまり低濃度の場合には効率が低下するため、1000ppm以上であることが好ましい。
【0025】
以下に、本発明に係る低濃度メタンの分解方法の別実施形態につき説明する。
【0026】
〈1〉上記実施形態では、処理対象ガスとして、天然ガスの精製過程後のCOを主成分とするオフガス(混合ガス)を想定し、オフガスG1の流量30000Nm/hに対して、空気Aの送入量を30000Nm/h、スチームHの送入量を1000Nm/hとしたが、この流量比は適宜変更可能である。また、図2に例示した、各処理前後における混合ガスG1〜G3の温度、各成分ガスの混合組成比は一例であり、上記実施形態に限定されるものではない。
【0027】
〈2〉上記実施形態では、処理対象ガスとして、天然ガスの精製過程後のCOを主成分とするオフガス(混合ガス)を想定したが、処理対象ガスは上記実施形態の混合ガスに限定されるものではなく、例えば、炭鉱の坑内換気のために排気されるガス、炭田から排出されるCOを含む炭層ガス、或いは、油田から排出される油田随伴ガス等の同様に低濃度のメタンを含む混合ガスであっても構わない。
【0028】
例えば、炭田から排出される空気中に微量のCOとメタンを含む炭層ガス(メタン:1%、CO:1%、空気:98%)中の低濃度メタンを分解処理する場合も、本発明方法による放電プラズマ処理が適用可能である。この場合、処理対象ガスに十分な空気が含まれているので、図2に示す空気Aの混合処理は不要である。例えば、スチームHと空気Aの混合処理を行わない場合、混合ガスG1の温度が約30℃であると想定し、混合ガスG1がそのままプラズマ処理装置1に送入される。プラズマ処理装置1内の放電プラズマ雰囲気中を通過しながら、[化1]の反応経路式に示す反応を順次繰り返して、全体として[化2]に示すように、混合ガスG3中の低濃度メタンが空気中の酸素と反応してCOと水に分解する。低濃度メタン分解後の処理済ガスG3は、温度が約170℃で、その混合組成は、CO:1.7%、CH:0.3%、空気:98%となる。
【0029】
〈3〉上記実施形態では、本発明方法に使用するプラズマ処理装置1として、同軸円筒型電極構造のプラズマ反応装置を例示したが(図3参照)、プラズマ処理装置1は、同軸円筒型電極構造のものに限定されるものではない。一般に、ガス処理に使用される大気圧非平衡プラズマの発生には、図3に示す構造のコロナ放電の他に、無声放電(バリア放電)、沿面放電の主として3つの放電形式と、これらの組み合わせが利用される。従って、本発明方法に使用するプラズマ処理装置1も、無声放電や沿面放電等の放電形式の電極構造のプラズマ反応装置を使用するようにしても構わない。
【0030】
更に、図4に示すように、上記特許文献1において提案されている電極構造のプラズマ処理装置5を使用するのも好適である。このプラズマ処理装置5は、混合ガスG2を通流させるための貫通孔を多数備えた電気絶縁性のハニカム構造体6の両端部に、混合ガスG2及びG3を通流可能にメッシュ状の電極7,8を夫々設け、メッシュ状電極7,8間にパルス電源4または高周波電源9を接続し、ハニカム構造体6の貫通孔内に放電プラズマを発生させることにより、ハニカム構造体6の一方端から貫通孔内に送入された混合ガスG2に対して、上記[化1]の反応経路式に示す反応を励起させ、混合ガスG2中の低濃度メタンが分解し、反応後の混合ガスG3が、ハニカム構造体6の他方端から送出される。プラズマ処理装置5では、メッシュ状電極7,8間に印加される電界方向が、貫通孔の延伸方向、つまり、混合ガスG2及びG3の通流方向と平行に設定される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る低濃度メタンの分解方法は、大気放出されるガス中に含まれる低濃度メタンの温室効果による地球温暖化を防止するために利用可能である。特に、ガス田から産出された天然ガス中の二酸化炭素を除去する天然ガス精製工程により排出される二酸化炭素を主成分とするオフガス中の低濃度メタンの分解除去に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】天然ガスの一般的な製造工程を示すシステムフロー図
【図2】本発明に係る低濃度メタンの分解方法の一実施形態における処理フローの一実施例を示すシステムフロー図
【図3】本発明に係る低濃度メタンの分解方法の一実施形態において使用するプラズマ処理装置の一例を模式的に示す図
【図4】本発明に係る低濃度メタンの分解方法の一実施形態において使用するプラズマ処理装置の他の一例を模式的に示す図
【符号の説明】
【0033】
1,5: プラズマ処理装置
2: 円筒状電極
3: 線状電極
4: パルス電源
6: ハニカム構造体
7,8: メッシュ状電極
9: 高周波電源
10: 1次セパレータ
11: 2次セパレータ
12: 液化プラント
13: 前処理装置
A: 空気
H: スチーム
G1: 空気及びスチーム混合前の混合ガス
G2: 空気及びスチーム混合後の混合ガス
G3: 処理済ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の範囲で空気と混合しても常温常圧において可燃範囲に入らない低濃度のメタンを含む混合ガスを、前記低濃度メタンの分解に必要な有酸素状態で、放電プラズマ雰囲気中を通過させて、前記混合ガス中の前記低濃度メタンを分解することを特徴とする低濃度メタンの分解方法。
【請求項2】
前記放電プラズマが、パルス放電プラズマであることを特徴とする請求項1に記載の低濃度メタンの分解方法。
【請求項3】
前記混合ガスを加湿した後、前記放電プラズマ雰囲気中を通過させることを特徴とする請求項1または2に記載の低濃度メタンの分解方法。
【請求項4】
前記混合ガスが、ガス田から産出された天然ガス中の二酸化炭素を除去する天然ガス精製工程により排出される二酸化炭素を主成分とするガスであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の低濃度メタンの分解方法。
【請求項5】
前記混合ガスが、炭鉱の坑内換気ガス、二酸化炭素を含む炭層ガス、及び、油田随伴ガスの何れかであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の低濃度メタンの分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−21384(P2007−21384A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207753(P2005−207753)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(304057472)株式会社ルネッサンス・エナジー・インベストメント (12)
【Fターム(参考)】