説明

低炭素高マンガン鋼の溶製方法

【課題】マンガン源として安価な高炭素FeMnを使用したとしてもなお、CのピックアップやMnのロスを少なくすることで、低C高Mn鋼を確実にかつ安価に溶製することができる低炭素高マンガン鋼の溶製方法を提案する。
【解決手段】転炉の吹錬終了後、底吹きガスによるリンシング処理を行ってから取鍋へ出鋼するに当たり、まず、C≧1.0mass%を含有する高C−FeMnを投入したのちにAlを投入して脱酸処理し、次いで、出鋼溶鋼をAP処理して脱硫し、その後、RHガス脱ガス処理を施すことにより、C:0.030〜0.050mass%、Mn≧1.00mass%の鋼とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低炭素高マンガン鋼の溶製方法に関し、特に低炭素・低燐・低硫・高マンガン鋼を溶製するための方法について提案する。
【背景技術】
【0002】
低炭素高マンガン鋼は、ラインパイプ材や建築構造材として適用される材料の一つであり、特に低炭素・低燐・低硫・高マンガン鋼(C:0.030〜0.050mass%、P≦0.010mass%、S≦0.015mass%、Mn≧1.00mass%)については、以下のような溶製方法によって製造されるのが一般的である。
【0003】
例えば、この種の鋼(以下、「低C高Mn鋼」という)は、主として転炉によって脱燐、脱炭の処理を行なった後、アークプロセス(AP)処理によって脱硫し、さらにRH脱ガス処理を施して脱水素処理を行なうことで溶製(製造)している。このような溶製プロセスの場合、AP処理中にCのピックアップが起こり低C化の障害になるという問題がある。それはAP処理では、加熱のために炭素電極を使用するために、この処理中にC量が上昇することが挙げられる。しかも、この鋼種の場合、低炭素に仕上げなければならないと同時に高Mnにしなければならないため、Mn合金を多量に使用することになる。ところが、Mn源となるフェロマンガン(以下、「FeMn」ともいう)として、安価な高CのFeMnを使用すると、C量が上昇することになるから、どうしても高価な低炭素FeMnを使用せざるをえないという問題があった(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−120930号公報
【特許文献2】特開2003−155517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来技術は、低C高Mn鋼製造のために、転炉から取鍋へ出鋼するに際して、溶鋼中に高炭素フェロマンガンを投入するものの、その後、真空脱ガス槽内で酸素ガスを上吹きし脱炭精錬してから脱ガスすることで、高Cの障害を和らげて高Mnに調整する技術を提案している。たしかに、この技術によれば、転炉出鋼時に高炭素FeMnを添加しても、その後にRH真空脱ガス槽での脱炭精錬を採用して、炭素濃度の上限外れを回避することはできる。
【0006】
しかしながら、この技術では、脱炭精錬中に溶鋼中のMnが酸化してスラグへ移行し、Mnの酸化ロスが大きいことが問題となる。即ち、せっかく安価なMn源を使用しても、その効果がMnの酸化ロスで相殺され、操業コストの低減程度が小さくなってしまうからである。
【0007】
そこで、本発明の目的は、マンガン源として安価な高炭素FeMnを使用したとしてもなお、CのピックアップやMnのロスを少なくすることで、低C高Mn鋼を確実にかつ安価に溶製することができる方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来技術の抱えている上述した問題を解決でき、上記の目的を確実に実現できる方法として、本発明では、転炉の吹錬終了後、底吹きガスによるリンシング処理を行ってから取鍋へ出鋼するに当たり、まず、C≧1.0mass%を含有する高炭素フェロマンガン(以下、高C−FeMnと略記する)を投入したのちにAlを投入して脱酸処理し、次いで、出鋼溶鋼をアークプロセス(AP)処理して脱硫し、その後、RHガス脱ガス処理を施すことにより、C:0.030〜0.050mass%、P≦0.010mass%、S≦0.015mass%、Mn≧1.00mass%の鋼を溶製することを特徴とする低炭素高マンガン鋼の溶製方法を提案する。
【0009】
なお、本発明に係る上記溶製方法においては、
(1)前記高炭素フェロマンガン投入のタイミングは、出鋼時間のうちの30〜45%が経過した期間内で行なうこと、
(2)前記Alの投入のタイミングは、出鋼時間のうちの50%以上が経過した期間で行なうこと、
(3)転炉吹錬中にMn鉱石を投入すること、
(4)転炉出鋼中にC含有量が1.0mass%以上含有する高炭素フェロマンガンを投入すること、
(5)前記リンシング処理は、4〜6分間程度行なうこと、
が、より好ましい解決手段を提供できるものと考えられる。
【発明の効果】
【0010】
上掲のような構成からなる本発明に係る溶製方法によれば、高価な金属(電解)Mnの代替として安価な高炭素フェロマンガンを使用することが可能になるため、低C・低P・低S・高Mn鋼を簡易なプロセス処理で安価に溶製することができる。
【0011】
特に、転炉出鋼前のリンス処理、および高C−FeMn投入のタイミングを工夫(Al添加前)することによって、CのピックアップとMnロスを招くことなく、溶鋼中の酸素を低減させることができる。従って、脱酸用のAl使用量の低減、脱酸生成物(Al)の減少が図れると共に、このことにより介在物欠陥が抑制され、表面品質の良好な鋼片の製造を行なうことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】出鋼待機時間とCmass%(ただし、AP装入時の濃度)との関係を示すグラフである。
【図2】終点酸素と素鋼ロスAlとの関係を示すグラフである。
【図3】C含有量に及ぼす従来法と本発明法との比較図である。
【図4】Mn含有量に及ぼす従来法と本発明法との比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る低炭素高マンガン鋼溶製方法の構成の特徴は、
(1)転炉吹錬終了後の炉内でリンス処理、即ちリンシングを行なうこと、
(2)出鋼するに当たり、先にC≧1.0mass%の高炭素フェロマンガン(高C−FeMn)を投入してからアルミニウム(Al)を投入すること、
(3)脱硫後、RHガス脱ガス処理を行なうこと、
である。
【0014】
また、上記本発明方法において、さらに低炭素・低燐・低硫・高マンガン鋼を溶製する場合には、
(4)転炉内に装入する溶銑として、脱燐処理を施した予備処理溶銑を用いること、
(5)脱硫後、RHガス脱ガス処理を行なうこと、
が有効であり、これによって、本発明では、C:0.030〜0.050mass%、P≦0.010mass%、S≦0.015mass%、Mn≧1.00mass%の溶鋼を溶製することができる。
【0015】
まず、本発明方法の第1の特徴である溶鋼のリンシングは、吹錬終了後の出鋼前に炉底から溶鋼中に底吹きガス(Arガス)を吹き込んで攪拌することにより、C+O→COの反応を起こさせることにより鋼中のCおよびOをなるべく低減して、始めの段階で低炭素化の基礎を作っておくために行なう処理である。
【0016】
図1は、終点酸素量ごとの出鋼待機時間(リンス時間)と溶鋼中C量(ただし、AP装入時の濃度)との関係を示したものである。この図からわるように、少なくとも出鋼前のC量は、後でC≧1.0mass%の高C−FeMnを投入してピックアップする分を考慮した上で最終C量を0.030〜0.050mass%にするには、0.020mass%程度に抑制しておくために前記リンシングの処理を行なうが、このような処理によって必要なCレベルにするためには、該リンシングの処理は4分以上6分程度行なうことが必要であることわかる。その理由は、リンシング処理時間の上限は4分程度で効果が飽和するものの、精錬時間を長引かせないためにも好ましくは6分とする。なお、前記出鋼待機時間とは、吹錬終了から出鋼開始までの時間である。
【0017】
本発明方法の第2の特徴である出鋼中での処理において、まず、高C−FeMnを投入したのちAlを投入することとした理由は、先に投入したC≧1.0mass%の高C−FeMnのCを除去する上で有効だからである。
【0018】
なお、この段階の処理において、AlよりもFeMnを先に投入することで、Mnの酸化ロスが発生するが、転炉吹錬中にMn鉱石の投入を行なうことと、次工程のAP処理(脱硫処理)時に、スラグ中のMnOが還元されて鋼中のMn量が増加することで、結果的にMnロスを防いで高Mnを確保する。所謂、この段階で必要Mn量の調整ができる。
【0019】
また、出鋼前リンシングおよびFeMn先投入によって鋼中酸素が低減するため、図2に示すように、本発明の場合、脱酸用Al投入量を低減させることができるから、脱酸生成物(Al)もまた減少し、ひいては鋼中介在物が少なくなって、表面欠陥が抑制され、鋼の品質向上が期待できることがわかる。なお、終点酸素の量は、出鋼(直)前に測定した値であり、また、素鋼ロスA1は、出鋼からTD(タンデッシュ)までのロスしたA1量のことである。
【0020】
上記のようにして、Mn量、S量の調整が終った溶鋼は、次に、真空脱ガス槽にて酸素を上吹きして脱炭すると共に、その脱炭後に引続いて脱ガス処理を行なって、低C、低P、低S、高Mn鋼の溶製を終える。なお、RH脱ガス処理時にMnの酸化ロス(0.1〜0.5mass%)が起こるが、AP処理済み溶鋼の組成が最終のMn量:1.0〜1.4mass%となるように溶鋼調整しておくことが望ましい。
【0021】
本発明では、予め行なう脱Pと必要に応じて行なう脱Sとを行なった予備処理溶銑を用いて転炉吹錬を行なうことが好ましい。このとき、高Mn化のために該転炉吹錬中に所要量のMn鉱石を投入するが好ましく、併せて吹錬終了後出鋼前にリンス処理を行なって脱C、脱Oを促進した上で出鋼するようにする。そして、その出鋼に際しては、先に安価な高C(≧1.0mass%)−FeMnを投入し、その後でAlを投入することにより、Cのピックアップを阻止して低Cを実現するようにする。その後、AP処理を行なうことにより、低S、高Mnの確保を通じて必要なMn量の調整を行なうようにしている。
【0022】
前記AP処理の後は、RH脱ガス処理工程を経て、脱C、脱ガスを行ない、最終的に所定の低C、低P、低S、高Mn溶鋼を得るようにする。
【0023】
ところで、図3は、上述した本発明方法に従って処理した溶鋼の各工程におけるC量の推移を示すものであり、図4は同じくMn量の推移を示すものであって、いずれも本発明方法の適用によって、安価な高炭素フェロマンガンを使用した場合であっても、少なくとも高価な金属マンガンを使う従来方法と同程度の低C化、低Mn化が達成されており、この方法が低C、高Mn鋼の溶製方法として有効であることがわかる。これらの溶製に当たって使用したマンガン合金の組成を表1に示す。
【0024】
【表1】

【実施例】
【0025】
溶銑を予備処理して脱Si、脱P、脱Sした表2に示す予備処理溶銑、その他の鉄源(スクラップ)を転炉(250トン)内に装入したあとMn鉱石を投入した上で酸素吹錬を行なうことにより、表3に示す溶鋼を得た。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
上記酸素吹錬の終了後、Arガスを炉底から15〜25Nm/min吹き込むリンシング処理を4分間行なった後、出鋼した。その出鋼中に、Mn含有量が1.0〜2.5mass%である高C−FeMnを投入し、1分経過後さらに1.5〜2.0kg/tのAlを投入した。その後、出鋼溶鋼をAP処理した。このAP処理は、一般的なLF設備を用い、かつフラックスとしてCaOを加えて、25〜35分間の攪拌処理を行なった。この処理後の溶鋼成分は、表4に示すものとなった。
【0029】
【表4】

【0030】
次に、前記AP処理溶鋼をRH脱ガス処理槽内に移して、脱C、脱ガスを行なった。得られた最終的な溶鋼成分を表5に示す。
【表5】

【0031】
以上説明した本発明方法に従う溶製を行なった結果、電解マンガンのような高価な高純度マンガンを使用するまでもなく高炭素フェロマンガンの使用であっても低炭素・低燐・低硫・高マンガン鋼の溶製が可能になることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の技術は、低C、高Mn鋼の溶製を主とする技術であるが、特に低C、低P、低S、高Mn鋼の溶製技術として有効である他、他の低Cの鋼種を溶製する場合にも応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の吹錬終了後、底吹きガスによるリンシング処理を行ってから取鍋へ出鋼するに当たり、まず、C≧1.0mass%を含有する高炭素フェロマンガンを投入したのちにAlを投入して脱酸処理し、次いで、出鋼溶鋼をアークプロセス(AP)処理して脱硫し、その後、RHガス脱ガス処理を施すことにより、C:0.030〜0.050mass%、P≦0.010mass%、S≦0.015mass%、Mn≧1.00mass%の鋼を溶製することを特徴とする低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記高炭素フェロマンガン投入のタイミングは、出鋼時間のうちの30〜45%が経過した期間内で行なうことを特徴とする請求項1に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項3】
前記Alの投入のタイミングは、出鋼時間のうちの50%以上が経過した期間で行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項4】
転炉吹錬中にMn鉱石を投入することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項5】
転炉出鋼中にC含有量が1.0mass%以上含有する高炭素フェロマンガンを投入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項6】
前記リンシング処理は、4〜6分間程度行なうことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112855(P2013−112855A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260423(P2011−260423)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】