説明

低熱伝導率低密度熱分解窒化ホウ素材料、製造方法およびそれから製造した物品

約30W/m・K以下の面内熱伝導率、および約2W/m・K以下の面間熱伝導率を有する熱分解窒化ホウ素材料が開示される。その密度は、1.85g/cc未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解窒化ホウ素材料、その材料の製造方法およびそれから製造した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素(BN)は、通例、製造物品として形成される。窒化ホウ素(BN)は、よく知られ、商業生産される耐火性非酸化物セラミックス材料である。熱分解窒化ホウ素(p−BN)は、黒鉛などの基板上への化学気相成長(CVD)によって作ることができる。BNについての最も一般的な構造は、六方晶結晶構造である。この構造は、黒鉛についての炭素構造に類似しており、端部が縮合した6員(BN)環の2次元層の広がりからなる。この環は、1つの層内の環におけるB原子が、隣接する層内のN原子の上方および下方に存在する、またその逆である結晶性形態で配列する(すなわち、層に関して環が位置的にずれている)。縮合6員環における平面内B−N結合は、強く共有結合されるが、一方平面間B−N結合は弱く、黒鉛に類似している。層状の六方晶結晶構造は、異方性の物性をもたらし、これが非酸化物セラミックスのコレクション全体においてこの材料を独特のものとしている。
【0003】
ガリウムヒ素半導体を含む化合物半導体の単結晶を製造するチョクラルスキー(LEC)法、水平ブリッジマン(HB)法または垂直勾配凝固(VGF)法に使用されるるつぼは、p−BNから作製することができる。例えば、密度1.90〜2.05g/ccを有する熱分解窒化ホウ素から作製した容器を開示する、Kimuraらへの米国特許第5,674,317号を参照されたい。
【0004】
p−BNの利点は、その異方性である。上述の単結晶半導体材料の製造方法において、チップ製造で意図されるその使用について半導体を不適切なものとする恐れのある結晶欠陥のリスクを軽減するため、溶融物内の温度勾配を注意深く制御することが重要である。窒化ホウ素の熱伝導率は、結晶面を貫通するものよりも結晶面に沿ってより大きい。この異方性は、るつぼ内の溶融した半導体材料の高度に均質な温度プロフィールに有利に働くが、最適な結晶を生成させるため要求される可能性のある温度勾配に関する制御には制約となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,674,317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、全ての半導体溶融物全体にわたる温度均一性を保持するため、るつぼの面内(in−plane)方向および面間(through plane)方向の両方におけるできる限り低い熱伝導率を有することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書において提供されるのは、約30W/m・K以下の面内熱伝導率、および約2W/m・K以下の面間熱伝導率を有する熱分解窒化ホウ素材料である。本発明のp−BN材料は、好ましくは標準的p−BNよりも低い1.85g/cc未満の密度を有する。
【0008】
有利なことに、本発明のp−BN材料は、高いはく離抵抗性を有し、またこの材料から作製したるつぼ内において、レギュラーp−BNよりも優れた半導体溶融物の熱的制御をもたらす。
【0009】
図面を参照して、種々の実施形態を以下に記述している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】標準的な従来技術p−BNるつぼ(std)と、本発明の新規な超低密度(uld)p−BNるつぼとの間の面内熱伝導率の比較を示すグラフである。
【図2】レギュラーおよび層状p−BNと比較した、本発明のp−BNの、レーザフラッシュ方法により測定した面間(すなわち、c軸方向)熱拡散率対温度の関係を示すグラフである。
【図3】レギュラーおよび層状p−BNと比較した、本発明のp−BNの熱容量対温度の関係を示すグラフである。
【図4】レギュラーおよび層状p−BNと比較した、本発明のp−BNの面間(c軸方向)熱伝導率対温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施例以外または特に指示される場合以外、本明細書に記載の物質の量、反応条件、経過時間、材料の量的性質などを表す全ての数は、全ての例において用語「約」により修飾されるものと理解されたい。
【0012】
本明細書において列挙される任意の数範囲は、その範囲内の全ての小範囲(sub−ranges)を含むことを意図するものとも理解されたい。
【0013】
ここに図1を参照すると、従来技術の標準的p−BNるつぼは、面内熱伝導率約52W/m・Kを典型的に示す。しかし、一実施形態において、本発明の熱分解窒化ホウ素(p−BN)は、約30W/m・K以下の面内熱伝導率、および約2W/m・K以下の面間熱伝導率を有する。他の実施形態において、本発明のp−BNは、約24W/m・K以下の面内熱伝導率、および約1.1W/m・K以下の面間熱伝導率を有する。本発明のさらに他の実施形態において、このp−BNは、約20W/m・K以下の面内熱伝導率、および約0.7W/m・K以下の面間熱伝導率を有する。上述の熱伝導率の値は、室温におけるp−BNについて示される。
【0014】
さらに、一実施形態において、本発明のp−BNは、1.85g/cc未満の密度を有し、また他の実施形態において、本発明のp−BNは、約1.81g/cc以下の密度を有する。
【0015】
本発明のp−BNは、標準的密度のレギュラーp−BNよりも結晶性が低く、またより少なく配向され、これがより大きいはく離抵抗性をもたらす。配向度(degree of orientation)は、式
I比=I[002]WG/I[100]WG
(式中、I[002]WGおよびI[100]WGはそれぞれ、a面、すなわち、容器壁(結晶粒による)の層構造を形成する層に平行な平面に垂直な方向の入射X線ビームによって得られたX線回折スペクトルにおいて、それぞれ格子間隔0.333nmを有する結晶学的[002]面、および格子間隔0.250nmを有する結晶学的[100]面に属することができるX線回折ピークの相対強度である)によって定義される。本発明のp−BNは、約35〜75の範囲にあるI比によって特性付けられ、これらは、より高密度のレギュラーp−BNの、通例約110〜210の範囲にあるI比よりも低い。
【0016】
配向度の他の測定値は、I[002]WG値であり、これはI比よりも試料調製におけるばらつきへの感受性が低い。下記の第3表は、本発明の超低密度(ULD)p−BNが、より低い配向度によって特性付けられることを示す(表中、cpsは1秒当り計数を指し、FWHMは半値全幅強度を指し、また面積は、ロッキング曲線下の面積を指す)。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明のp−BNは、少なくとも約0.001インチ/時、好ましくは少なくとも約0.0015インチ/時、またより好ましくは少なくとも約0.002インチ/時の、基板(例えば黒鉛基板)上のp−BNの堆積速度をもたらすのに適した反応条件下で、化学気相成長(CVD)によって製造される。CVD反応域に導入される反応物には、アンモニア、および塩化ホウ素BClまたは三フッ化ホウ素BFなどのハロゲン化ホウ素(BX)が含まれる。典型的には反応物は、約2:1〜約5:1のNH/BX比で、CVDリアクタ内に別々に導入される。反応条件には、1,800℃未満の温度、および約1.0トール〜約0.1トールの圧力が含まれる。他の実施形態において、温度は1700℃未満であり、圧力は約1.0トール〜約0.1トールのものである。反応物の流速は、本発明の顕著な特徴であり、上記に示した堆積速度をもたらすため、リアクタ体積と関連して選択される。典型的なリアクタ体積、およびそれに伴う好ましい反応物の流速を下記の第1表に示している。示される範囲は、例示の目的のためであり、本発明の範囲(scope)に関する制約と解釈すべきではない。
【0019】
【表2】

【0020】
下記の実施例によって例示しているように、本発明のp−BNは、レギュラーp−BNと比較して有利な性質を有する。
実施例
【実施例1】
【0021】
標準的密度p−BNの試料8点および、本明細書に記載される方法に従って生成させた超低密度(ULD)p−BNの試料11点は、ヘリウム比重計を使用して密度について試験した。これらの試料は、以下に記述する条件で黒鉛マンドレル上に堆積させたVGFるつぼからp−BN小片を切断することにより得られた。本ULDp−BNは、温度1750℃、圧力0.35トール、BCl流速1分当り2.4リットル、アンモニア流速1分当り6.5リットルおよび窒素流速1分当り0.50リットルを含む反応条件下でもたらされた。
【0022】
【表3】

【実施例2】
【0023】
標準的密度のレギュラーp−BN、層状p−BNおよび本発明のULDp−BNの試料8点を、熱拡散率および熱容量について測定した。試料はCVD法で生成させ、るつぼの上端から切断した。層状p−BNは、ドーピングガスを脈動(pulsing)させることにより生成させた。層状p−BNは、より高い密度と、異なる材料性状(TC、機械的強度、結晶化度および配向性)を有する。層状化によってはく離抵抗性が低下する。測定は、レーザフラッシュ、拡散率およびホットディスク方法によって行った。熱伝導率は、式
【0024】
【数1】

【0025】
(式中、
αは熱拡散率であり、
kは熱伝導率であり、
ρは密度であり、
は熱容量である)により計算した。
【0026】
ここで図2を参照すると、密度2.07g/ccを有するレギュラーp−BN、密度1.96g/ccを有する層状p−BN、および密度1.81g/ccを有する本発明のULDp−BNについて、面間(c軸方向)熱拡散率(mm/秒)の比較を提示している。見ることができるように、本ULDp−BNの熱拡散率は、試料を試験した温度範囲全体にわたって0.6未満である。これに反して、層状およびレギュラーp−BNでは、この温度範囲にわたって0.75を超えていた。
【0027】
図3を参照すると、レギュラー、層状およびULDp−BNは、この温度範囲に沿って同様な熱容量を示していた。
【0028】
図4を参照すると、レギュラー、層状およびULDp−BNの面間熱伝導率を、上記に示した式によって計算した。見ることができるように、本ULDp−BNの面間伝導率は、レギュラーおよび層状試料両方の熱伝導率のはるかに下方にあった。例えば、20℃において、本発明のULDp−BNが、面間伝導率約0.85W/m・Kを有していたのに対して、層状p−BNは面間熱伝導率約1.35W/m・Kを有し、また、レギュラーp−BNは面間熱伝導率約1.7W/m・Kを有していた。200℃において、本発明のULDp−BNが、面間熱伝導率約1.35W/m・Kを有していたのに対して、レギュラーp−BNは面間熱伝導率約2.4W/m・Kを有していた。
【0029】
本発明のULDp−BN材料は、熱分解窒化ホウ素が典型的に使用される分子線エピタキシ用るつぼならびに容器の製造、静電チャック用ヒータおよび他の用途向けに有利に使用される。
【0030】
上記の記述は多くの特性値を含むが、これらの特性値は本発明を制約するものと解釈すべきではなく、単にその好ましい実施形態の例示として解釈すべきである。当業者は、本明細書に添付される特許請求範囲によって定義される本発明の範囲および精神以内にある多くの他の実施形態を思い描くであろう。
【符号の説明】
【0031】
p−BN 熱分解窒化ホウ素
CVD 化学気相成長
ULD 超低密度
VGF 垂直勾配凝固
TC 熱伝導率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約30W/m・K以下の面内熱伝導率、および約2W/m・K以下の面間熱伝導率を有する熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項2】
1.85g/cc未満の密度を有する、請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項3】
前記面内伝導率が約24W/m・K以下であり、前記面間伝導率が約1.1W/m・K以下である、請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項4】
前記材料の密度が、約1.81g/cc以下である、請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項5】
前記面内伝導率が約20W/m・K以下であり、前記面間伝導率が約0.7W/m・K以下である、請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項6】
前記窒化ホウ素が約35〜約75のI比を特徴とする、請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項7】
1,800℃未満の温度における化学気相成長によって製造される、請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項8】
前記熱分解窒化ホウ素が少なくとも約0.001インチ/時の堆積速度で基板上に堆積される、請求項6に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項9】
CVD反応域において、アンモニア反応物と、ハロゲン化ホウ素反応物との反応によって製造される、請求項6に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項10】
少なくとも約0.001インチ/時の堆積速度をもたらすため、反応域体積および反応物流速が選択される、請求項7に記載の熱分解窒化ホウ素材料。
【請求項11】
請求項1に記載の熱分解窒化ホウ素材料から作製した容器。
【請求項12】
窒化ホウ素からの粒子の製造方法であって、
基板上への熱分解窒化ホウ素の、少なくとも約0.001インチ/時の堆積速度をもたらすため選択される反応条件下で、化学気相成長反応域においてアンモニアとハロゲン化ホウ素とを反応させるステップを含む、方法。
【請求項13】
前記反応条件に、1,800℃未満の温度が含まれる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも0.002インチ/時の堆積速度をもたらすため、アンモニアおよびハロゲン化ホウ素の流速ならびに反応域体積が選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
アンモニアの流速対ハロゲン化ホウ素の流速の比率が約2:1〜約5:1である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化ホウ素が、三塩化ホウ素である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記反応条件に、1700℃未満の温度が含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記反応条件に、約1.0トール〜約0.1トールの圧力が含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記反応域が約6,000立方インチ〜約30,000立方インチの体積を有し、前記アンモニアが1分当り約3.0〜10.0リットルの流速で前記反応域に導入され、前記ハロゲン化ホウ素が1分当り1.5〜4.0リットルの流速で前記反応域に導入される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記ハロゲン化ホウ素が三塩化ホウ素であり、反応温度が1,800℃未満であり、圧力が約1.0トール〜約0.1トールである、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−507795(P2011−507795A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540676(P2010−540676)
【出願日】平成20年12月30日(2008.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/014113
【国際公開番号】WO2009/088471
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510174118)モーメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】