体積走査型3次元空中映像ディスプレイ
【課題】実鏡映像結像光学系を応用した体積走査法による3次元空中映像ディスプレイ、特に歪みのない3次元空中映像ディスプレイを提供する。
【解決手段】体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置X1を、対称面となる幾何平面S1に対する面対称位置に被投影物の実像を鏡映像として結像可能な実鏡映像結像光学系2Aと、その対称面S1の下面側に配置されて被投影物として映像Oを表示する表示面31を備えたディスプレイ3と、このディスプレイ3´を表示面31に対して垂直方向の成分を含む運動をするように動作させる駆動手段4とを具備するものとして構成し、駆動手段4によるディスプレイ3´の動作と同期させて表示面31に表示される映像Oを変化させることにより、その映像Oを対称面S1の上面側の空間に立体空中映像Pとして結像させるようにした。
【解決手段】体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置X1を、対称面となる幾何平面S1に対する面対称位置に被投影物の実像を鏡映像として結像可能な実鏡映像結像光学系2Aと、その対称面S1の下面側に配置されて被投影物として映像Oを表示する表示面31を備えたディスプレイ3と、このディスプレイ3´を表示面31に対して垂直方向の成分を含む運動をするように動作させる駆動手段4とを具備するものとして構成し、駆動手段4によるディスプレイ3´の動作と同期させて表示面31に表示される映像Oを変化させることにより、その映像Oを対称面S1の上面側の空間に立体空中映像Pとして結像させるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積走査方式により立体空中映像を表示することができるディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、立体映像を閲覧可能とする技術が開発されてきている。現在実用化されている立体表示装置の多くは、立体視要因のうち両眼視差のみを利用するものが多いが、焦点調節や輻輳等の技術面での問題や、長時間見ることで目が疲労するなどといった問題もあり、より利用しやすい技術が望まれているところである。例えば、結像光学系として凸レンズや凹面鏡を利用するものとして、高速表示が可能な2次元ディスプレイを光学系の光軸に対して傾けて配置し、ミラースキャナにより光軸に対して傾いた2次元像を移動させ、それにあわせて2次元ディスプレイに表示物体の断面像を表示させることにより、3次元像を形成する、という体積走査法による3次元像の立体表示方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法によれば、3次元実像が形成されているので、眼鏡などの装着物は不要であり、人の立体視知覚要因を全て満たすことができる、とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Volumetric display systembased on three-dimensional scanning of inclined optical image”、Daisuke Miyazaki et al,、Optic Express、Vol.14 Issue 26、pp12760−12769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示されているような立体表示方法では、光学系として凸レンズや凹面鏡を用いていることから、その収差のために形状に歪みが生じ、定位を完全に安定させることは困難である。
【0005】
一方、本発明者は、等倍結像光学系として、2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを多数備えた光学素子である実鏡映像結像素子(以下、必要に応じて「2面コーナーリフレクタアレイ」という)(特願2006−080009出願明細書参照)や、再帰反射機能を備えたレトロリフレクタアレイとハーフミラーとを利用した実鏡映像結像光学系(特願2007−163323出願明細書参照)を提案してきている。また、焦点距離が無限大であるアフォーカル光学系を備えたアフォーカルレンズアレイを用い、アフォーカルレンズ素子の素子面を対称面として反対側の空間に被投影物の像を結像させる機能を実現した実鏡映像結像光学系も提案されている(特願2005−10755号公報参照)。また、上述した2面コーナーリフレクタアレイを2面コーナーリフレクタが複数方向を向くものとしたり、再帰反射を利用する実鏡映像結像光学系においてレトロリフレクタアレイとハーフミラーとによって被投影物を包囲するなどの構造に工夫を施すことで、実鏡映像を複数方向から観察可能とするものも提案してきている(特願2007−054871出願明細書、特願2007−211992出願明細書参照)。これらの実鏡映像結像光学系は、被投影物をその光学系に設定される対称面(2面コーナーリフレクタアレイの素子面、ハーフミラー面、アフォーカルレンズアレイの素子面)に対する面対称位置に等倍の実像として歪みなく結像させるものであり、被投影物が2次元であれば2次元の実像を、被投影物が3次元であれば3次元の実像を観察することができるものである。
【0006】
そこで本発明は、上述した各実鏡映像結像光学系を応用した体積走査法による3次元空中映像ディスプレイ、特に歪みのない3次元空中映像ディスプレイの提供を主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、被投影物の実像を、対称面となるある1つの幾何平面に対する面対称位置に鏡映像として結像可能な実鏡映像結像光学系と、その対称面の下面側に配置されて前記被投影物として映像を表示する表示面を備えたディスプレイと、このディスプレイを、前記表示面に対して垂直方向の成分を含む運動をするように動作させる駆動手段とを具備し、駆動手段によるディスプレイの動作と同期させて表示面に表示される映像を変化させることにより、その映像を対称面の上面側の空間に立体映像(以下、「立体空中映像」と称する場合がある)として結像させることを特徴とする体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置(以下、説明の簡素化のため「3次元空中映像ディスプレイ装置」と略称する場合がある)である。
【0008】
このような3次元空中映像ディスプレイ装置においては、実鏡映像結像光学系は、被投影物を対称面を境にして面対称位置に歪みのない実像を鏡映像として結像するものである。ただし、観察される実像の奥行きは被投影物の奥行きとは反転したものとなる。また、本発明に適用されるディスプレイは、画面に映像を表示する一般的な意味でのディスプレイ装置だけでなく、プロジェクタ等で投射された映像を映すスクリーン等の映像を表示可能なもの全般を含む趣旨であり、表示面は平面だけでなく曲面であってもよい。そして、駆動手段によりディスプレイがその表示面に対して垂直方向の成分を含む運動、すなわち3次元空間を埋める立体的な動きをすることから、駆動手段とディスプレイは実質的に体積走査型の立体ディスプレイとして機能する。駆動手段には、ディスプレイを所望する3次元空間を埋めるような運動通りに動作させる適宜の態様のものを採用すればよい。ここでディスプレイの運動には、一定方向への振動をはじめとして、表示面が何らかの3次元空間を埋めるように動きさえすればよく、表示面と垂直な方向の成分を含んでいればどのような運動であってもよい。ただし、ディスプレイの「3次元空間を埋める立体的な動き」もしくは「3次元運動」や「立体運動」という表現は、ディスプレイが必ずしも3自由度で動作することだけを意味するものではなく、1自由度の運動であっても所定の3次元空間を埋める運動も含むものである。なお、ディスプレイは、対称面の上面側におけるある視点からその表示面に表示された映像の実像を観察できる範囲に配置することが好ましいが、立体的な動作の間に像が一時的に見えなくなる位置にディスプレイがくることになることは許容される。以上のような本発明の3次元空中映像ディスプレイ装置によれば実鏡映像結像光学系を利用してその対称面の一方側の空間において3次元空間を埋めるような立体運動をするディスプレイ、換言すれば体積走査型立体ディスプレイに表示される映像の実像を、他方側の空間に歪みのない空中立体像として表示して観察できるものである。
【0009】
本発明に用いるのに適した実鏡映像結像光学系の一種としては、所定の素子平面に垂直な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子平面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイであり、この素子平面を前記対称面とするものを挙げることができる。このようなものであれば、被投影物である映像からの光が素子平面を透過する際に、各2面コーナーリフレクタの2つの鏡面で1回ずつ反射して素子平面と平行な光の成分が再帰反射することによって、素子平面の上面側面対称位置の空中に実像として結像する。すなわち、観察者からは、2つの鏡面の内角が視線方向と向き合っている2面コーナーリフレクタで反射して結像した映像の実像、すなわち立体空中映像を観察することが可能となる。
【0010】
ここで、立体空中映像を複数の視点から観察できるようにするためには、2面コーナーリフレクタを素子平面に垂直な回転軸を持った回転方向において複数方向を向けて複数形成したものを採用することで、立体映像を素子平面に対して当該立体映像と同じ側の空間に結像させて複数方向から観察することが可能な3次元空中映像ディスプレイ装置を構成することができる。より詳細には、各2面コーナーリフレクタが対称面である素子平面の下面側に配置された立体走査型立体ディスプレイの方向に開口を向けていればよい。具体的に、2面コーナーリフレクタを利用した実鏡映像結像光学系としては、2面コーナーリフレクタアレイが、素子平面を共有する複数の2面コーナーリフレクタアレイの集合により構成したものが挙げられる。このようなものであれば、例えば、単一の素子平面に2面コーナーリフレクタを複数の方向を向けて同時に形成する態様と比較して、同じ方向を向く2面コーナーリフレクタを備えた2面コーナーリフレクタアレイを複数平面的に組み合わせて単一の2面コーナーリフレクタアレイとして機能するように構成して、製造の容易性とコストを低減することができる。また、所定の一点を向く2面コーナーリフレクタを備えた2面コーナーリフレクタアレイを複数、異なる方向を向くように平面的に組み合わせて単一の2面コーナーリフレクタアレイとして機能するように構成することもできる。
【0011】
ここで、2面コーナーリフレクタについて考察すると、光線を2面コーナーリフレクタにおいて適切に屈曲させつつ素子平面を透過させるには、2面コーナーリフレクタを、素子平面を貫通する方向に想定される光学的な穴の内壁を鏡面として利用するものと考えればよい。ただし、このような2面コーナーリフレクタは概念的なものであり、必ずしも物理的な境界などにより決定される形状を反映している必要は無く、例えば前記光学的な穴は相互に独立させることなく連結させたものとすることができる。
【0012】
2面コーナーリフレクタアレイの構造を単純に述べれば、素子平面にほぼ垂直な鏡面を素子平面に多数並べたものである。構造として問題となるのは、この鏡面をどのように素子平面に支持固定するかということになる。鏡面形成のより具体的な方法としては、例えば2面コーナーリフレクタアレイを、所定の空間を区画する基盤を具備するものとして、当該基盤を通る1つの平面を素子平面としてとして規定し、2面コーナーリフレクタを、素子平面を貫通する方向に想定される光学的な穴として、基盤に形成された穴の内壁を鏡面として利用するものとすることができる。この基盤に形成された穴は、光が透過するように透明でありさえすればよく、例えば内部が真空もしくは透明な気体もしくは液体で満たしたものでもよい。また穴の形状についても、その内壁に単位光学素子として働くための1枚もしくは複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、かつ鏡面で反射した光が穴を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、各穴が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。例えば、基盤の表面に個々の独立した鏡面が林立する態様などは、基盤に形成された穴が連結しているものと理解できる。
【0013】
あるいは2面コーナーリフレクタは、光学的な穴として、透明なガラスや樹脂のような固体によって形成された筒状体を利用するものであってもよい。なお、固体によって個々の筒状体が形成されている場合、これらの筒状体は、相互に密着させて素子の支持部材として働かせてもよく、基盤を具備するものとして当該基盤の表面から突出した態様をとってもよい。また筒状体の形状についても、その内壁に2面コーナーリフレクタとして働くための1枚もしくは複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、かつ鏡面で反射した光が筒状体を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、筒状体と称してはいるが各筒状体が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。
【0014】
ここで、前記光学的な穴として、立方体もしくは直方体のように隣接する内壁面が全て直交する形状を考えることができる。この場合、2面コーナーリフレクタ相互の間隔を最小化することができ、高密度な配置が可能となる。ただし、被投影物方向を向く2面コーナーリフレクタ以外の面は、反射を抑制することが望ましい。
【0015】
2面コーナーリフレクタ内に複数の鏡面が存在する場合には、想定された回数以上の反射を起こす多重反射の透過光が存在する可能性がある。この多重反射対策として、光学的な穴の内壁に相互に直交する2つの鏡面を形成する場合は、これら2鏡面以外の面を、非鏡面として光が反射しないようにしたり、素子平面に対して垂直とならないように角度を付けて設けたり曲面としたりすることで、3回以上の反射を起こす多重反射光を軽減もしくは除去できる。非鏡面とするには、その面を反射防止用の塗料や薄膜で覆う構成や、面粗さを粗くして乱反射を生じさせる構成を採用することができる。なお、透明で平坦な基盤の存在は光学素子の働きを阻害するものではないので、基盤を任意に支持部材・保護部材として用いることが可能である。
【0016】
さらに、映像の実鏡映像すなわち立体空中映像の高輝度化を図るには、複数の2面コーナーリフレクタを、前記素子平面上においてできるだけ間隔を空けずに配置することが望ましく、例えば格子状に配置することが有効である。またこの場合、製造も容易になるという利点がある。2面コーナーリフレクタにおける鏡面としては、固体であるか液体であるかに関わらず金属や樹脂等の光沢のある物質によって形成された平坦面で反射するもの、あるいは異なる屈折率を持つ透明媒質同士の平坦な境界面において反射もしくは全反射するものなどを利用することができる。また、鏡面を全反射によって構成した場合には、複数の鏡面による望まない多重反射は、全反射の臨界角を超える可能性が高くなることから、自然に抑制されることが期待できる。
【0017】
また鏡面は、機能的に問題ない限り、光学的な穴の内壁のごく一部分に形成されていてもよく、平行に配置される複数の単位鏡面により構成されても構わない。後者の態様を換言すれば、1つの鏡面が複数の単位鏡面に分割されても構わないことを意味する。またこの場合、各単位鏡面は、必ずしも同一平面に存在していなくてもよく、それぞれが平行であればよい。さらに、各単位鏡面は、当接している態様、離れている態様のいずれもが許容される。なお、2面コーナーリフレクタアレイを実鏡映像結像素子として構成する場合には、直交する2鏡面による2面コーナーリフレクタを必要とするため、1つの単位光学素子には、直交する2つの鏡面が形成されなければならない。この直交する2つの鏡面同士についても、必ずしも接触している必要はなく、光が素子平面の一方側から他方側へと透過する際に2つの鏡面で1回ずつ反射すればよいので、2つの鏡面同士が当接している態様、離れている態様のいずれもが許容される。
【0018】
また、本発明に適用される他の実鏡映像結像光学系としては、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものであり、このハーフミラー面を実鏡映像結像光学系における対称面とし、レトロリフレクタアレイをハーフミラーに対して前記被投影物と同じ側の空間に配置しているものを挙げることができる。ここでレトロリフレクタの作用である「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。このようなレトロリフレクタをアレイ状に配置したものがレトロリフレクタアレイであり、個々のレトロリフレクタが十分に小さい場合は、入射光と反射光の経路は重なると見なすことができる。このレトロリフレクタアレイにおいてレトロリフレクタは同一面上に存在している必要はなく、各レトロリフレクタは3次元的に散在していても構わない。また、ハーフミラーは、光線を透過させる機能と反射させる機能の両方を備えているものをいい、好ましくは透過率と反射率がほぼ1:1のものが理想的である。
【0019】
レトロリフレクタには、3つの隣接する鏡面から構成されるもの(広義には「コーナーリフレクタ」と呼ぶことができる)や、キャッツアイレトロリフレクタを利用することができる。コーナーリフレクタには、相互に直交する3つの鏡面から構成されるコーナーリフレクタ、3つの隣接する鏡面がなす角度のうち2つが90度であり、且つ他の1つの角度が90/N度(ただしNは整数)をなすもの、3つの鏡面がなす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタ等を採用することができる。
【0020】
このようなレトロリフレクタアレイとハーフミラーを利用する多視点空中映像表示光学系の場合、被投影物から出た光はハーフミラー面で反射し、さらにレトロリフレクタアレイで再帰反射して必ず元の方向に戻り、ハーフミラー面を透過して結像するため、ハーフミラーからの反射光を受けられる位置にある限りレトロリフレクタアレイの形状や位置は限定されない。そして、結像した実像の観察は、ハーフミラー面を透過する光線に対向する方向から観察することができ、斯かるハーフミラーが互いに実像側で180度未満の角度に設定されていることから、ハーフミラーの数に応じた複数の視点から被投影物の実像を観察できることになる。
【0021】
このように、レトロリフレクタアレイとハーフミラーとを用いる実鏡映像結像光学系を適用した3次元空中映像ディスプレイ装置においては、レトロリフレクタを、少なくともハーフミラーの裏面側において当該ハーフミラーと共にディスプレイの表示面を3次元的に包囲するように配置すれば、複数の視点から立体空中映像を観察することが可能となる。
【0022】
以上の他にも、本発明に適用される他の実鏡映像結像光学系としては、所定の素子平面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子平面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであり、この素子平面を対称面とするものを挙げることができる。アフォーカルレンズは、焦点距離を無限大としたものであり、例えば素子平面に対して垂直な光軸を有しそれぞれの焦点距離を隔てて配置した2つのレンズにより構成することができ、このようなアフォーカルレンズを素子平面上に多数並べて配置することでアフォーカルレンズアレイを構成することができる。アフォーカルレンズの構成としては、凸レンズや、光ファイバレンズ等を採用することができる。
【0023】
以上に述べたような本発明の3次元空中映像ディスプレイ装置においては、ディスプレイを、表面と裏面の両面に表示面を備えるものとすることができる。このように構成すれば、特に対称面の上面側における視点から見て両表示面の映像の立体空中映像が確認できる範囲で両表示面を対称面に対して立てた姿勢でディスプレイを配置する場合には、両表示面に表示される映像をそれぞれ対面方向から視認できるようになることから、立体空中映像の多視点化が可能となる。両表示面で同じ映像の表示を行った場合には、複数視点から同じ立体像の透視像を観察することができ、両表示面で異なる映像の表示が可能であることを積極的に利用すれば対面から見ても同じ方向から見た立体空中映像もしくは、全く異なる立体空中映像の表示及び観察が可能となる。また、両表示面に異なる映像の表示を行う場合には、立体空中映像の表面と裏面を個別に表示することが可能となり、透視像とならない立体空中映像の表示が可能となる。さらに、本発明に用いる実鏡映像結像光学系による像は奥行きが反転するため、正常な立体空中映像を表示するためには、あらかじめ被投影物の奥行きを反転させておく必要があるが、両面ディスプレイとすることで、表面裏面それぞれを別々に奥行き反転表示させることが可能となる。但し、実鏡映像結像光学系としてアフォーカルレンズアレイを適用する場合は、対称面である素子面に対して表示面を垂直にすると立体空中映像は殆ど見えないことになる。
【0024】
その他にも、本発明の3次元空中映像ディスプレイ装置においては、ディスプレイを、その表示面が実鏡映像結像光学系の対称面を向けて配置し(表示面が対称面と垂直になる場合を除く)、駆動手段を、ディスプレイを対称面に垂直方向の成分を含む運動をするように動作させるものとするように構成してもよい。このようにすると、視点別の映像表示ができないため、透視映像の表示しかできないものの、ディスプレイの表示面が1面だけであっても、立体空中映像の多視点化が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被投影物の実像をある1つの幾何平面(対称面)に対する面対称位置に結像する実鏡映像結像光学系と、体積走査型立体ディスプレイとして機能するディスプレイ及び駆動手段とから構成することによって、体積走査するディスプレイに表示された映像を対称面の反対側の空間に歪みのない立体空中映像として結像させて観察することができるという、新しい立体空中映像の表示方法、観察方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す斜視図。
【図2】同実施形態に適用される実鏡映像結像光学系である2面コーナーリフレクタアレイを模式的に示す平面図。
【図3】同2面コーナーリフレクタアレイの一部を拡大して模式的に示す斜視図。
【図4】同2面コーナーリフレクタアレイによる結像様式を模式的に示す図。
【図5】同3次元空中映像ディスプレイ装置におけるディスプレイの映像とその立体空中映像との関係を模式的に示す図。
【図6】同実施形態の変形例として多視点化を行った3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す斜視図。
【図7】同実施形態の別の変形例として多視点化を行った3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す斜視図。
【図8】同実施形態に適用される2面コーナーリフレクタアレイの他の例を示す概略的な斜視図。
【図9】本発明の第2実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す側面図。
【図10】同実施形態に適用される実鏡映像結像光学系であるレトロリフレクタアレイの一部を拡大して示す概略的な正面図。
【図11】同レトロリフレクタアレイによる光線の反射の様子を模式的に示す図。
【図12】同実施形態の変形例として多視点化を行った3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す側面図。
【図13】本発明の第3実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す側面図。
【図14】同実施形態に適用される実鏡映像結像光学系であるアフォーカルレンズアレイの構成及び結像様式を模式的に示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
<第1実施形態> まず、本発明の第1実施形態を図1〜図7を参照して説明する。本実施形態に係る体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置(以下、「3次元空中映像ディスプレイ装置」と略する)X1は、図1に示すように、実鏡映像結像光学系の1種として、多数の2面コーナーリフレクタ1を形成した実鏡映像結像素子(以下、「2面コーナーリフレクタアレイ」と称する)2と、映像を表示する表示面31を備えたディスプレイ3と、このディスプレイ3に立体的な運動を行わせる駆動手段4とを備えるものである。すなわち、運動するディスプレイ3の表示面31に逐次表示される映像Oが、本実施形態においては2面コーナーリフレクタアレイ2Aによる鏡映像の実像(実鏡映像)として立体空中映像Pを結像させる元となる被投影物である。以下、各部について説明する。
【0029】
2面コーナーリフレクタアレイ2Aは、全2面コーナーリフレクタ1を構成するそれぞれ2つの鏡面11,12に対してほぼ垂直な平面を素子平面S1とするものであり、この素子平面S1を対称面として、面対称位置に被投影物である映像Oの実鏡映像が結像し、立体空中映像Pが観察される。なお、本実施形態において2面コーナーリフレクタ1は2面コーナーリフレクタアレイ2Aの全体と比べて非常に微小であるので、図1においては2面コーナーリフレクタ1の集合全体をグレーで表し、その内角の向きをV字形状で表してある。2面コーナーリフレクタアレイ2Aは、図2に示すように、平板状の基盤21を備え、この基盤21に、平らな基盤表面に対して垂直に肉厚を貫通する穴22を多数形成し、各穴22の内壁面を2面コーナーリフレクタ1として利用するために、穴22の内壁面のうち直交する2つにそれぞれ鏡面11,12を形成したものである。
【0030】
基盤21は、厚み寸法が例えば50〜200μm、本実施形態では100μmの薄板状のものであり、一辺がそれぞれ約5cmの平面視正方形状のものを適用しているが、基盤21の厚さや平面寸法はこれらに限られることなく適宜設定することができる。図2のA部を拡大して図3に示すように、各2面コーナーリフレクタ1は、光を透過させるために基盤21に形成した物理的・光学的な穴22を利用して形成したものである。本実施形態では、まず基盤21に平面視ほぼ矩形状(具体的に本実施形態では正方形状)の穴22を多数形成し、各穴22のうち隣接して直交する2つの内壁面に平滑鏡面処理を施して鏡面11,12とし、これら鏡面11,12を反射面として機能する2面コーナーリフレクタ1としている。なお、穴22の内壁面のうち2面コーナーリフレクタ1以外の部分には鏡面処理を施さず光が反射不能な面とするか、もしくは角度をつけるなどして多重反射光を抑制することが好ましい。各2面コーナーリフレクタ1は、基盤21上において鏡面11,12がなす内角が全て同じ向きとなるように形成している。以下、この鏡面11,12の内角の向きを、2面コーナーリフレクタ1の向き(方向)と称することがある。鏡面11,12の形成にあたって本実施形態では、金属製の金型をまず作成し、鏡面11,12を形成すべき内壁面をナノスケールの切削加工処理をすることによって鏡面形成を行い、これらの面粗さを10nm以下とし、可視光スペクトル域に対して一様に鏡面となるようにしている。
【0031】
具体的に各2面コーナーリフレクタ1を構成する鏡面11,12は、一辺が例えば50〜200μm、本実施形態では基盤21の厚さに対応させた100μmであり、先に作成した金型を用いたプレス工法をナノスケールに応用したナノインプリント工法又は電鋳工法により、1つの基盤21に所定ピッチで複数形成されている。本実施形態では、各2面コーナーリフレクタ1の素子平面S上でV字形状をなす各辺を、基盤21の巾方向又は奥行き方向に対して45度回転させるとともに、全ての2面コーナーリフレクタ1が素子平面S1上に想定される規則的な格子点上に整列されて同一方向を向くようにしている。なお、隣り合う2面コーナーリフレクタ1同士の離間寸法を極力小さく設定することで、透過率を向上させることができる。そして、前記基盤21のうち、2面コーナーリフレクタ1を形成した部分以外の部位には遮光処理を施し、基盤21の上面及び下面に図示しない薄板状をなす透明な補強材を設けている。本実施形態では、このような2面コーナーリフレクタ1を基盤21に数万ないし数十万個設けた2面コーナーリフレクタアレイ2Aを採用している。
【0032】
なお、電鋳工法によりアルミやニッケル等の金属で基盤21を形成した場合、鏡面11,12は、金型の面粗さが十分小さければ、それによって自然に鏡面となる。また、ナノインプリント工法を用いて、基盤21を樹脂製などとした場合には、鏡面11,12を作成するには、スパッタリング等によって、鏡面コーティングを施す必要がある。
【0033】
このようにして基盤21に形成した2面コーナーリフレクタ1は、基盤21の表面側(又は裏面側)から穴22に入った光を一方の鏡面(11又は12)で反射させ、さらにその反射光を他方の鏡面(12又は11)で反射させて基盤21の裏面側(又は表面側)へと通過させる機能を有し、この光の進入経路と射出経路とが基盤21を挟んで面対称をなすことから、上述のように基盤21上に多数の2面コーナーリフレクタ1を形成することで、2面コーナーリフレクタアレイ2Aとして機能する。すなわち、斯かる2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1(基盤21の肉厚の中央部を通り各鏡面と直交する面を仮定し、図3中に想像線で示す)は、基盤21の一方側にある被投影物の実像を他方側の面対称位置に鏡像(実鏡映像)として結像させる対称面となる。
【0034】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイ2Aによる結像様式について、被投影物として点光源oから発せられた光の経路とともに簡単に説明する。図4(a)に平面的な模式図で、同図(b)に模式的な側面図でそれぞれ示すように、点光源oから発せられる光(矢印方向、実線で示す。3次元的には紙面奥側から紙面手前側へ進行する)は、2面コーナーリフレクタアレイ2Aの基盤21(同図では省略)に形成した穴22(同図では省略)を通過する際に、2面コーナーリフレクタ1を構成する一方の鏡面11(又は12)で反射して更に他方の鏡面12(又は11)で反射した後に素子平面S1を透過し(透過光の光線を破線で示す)、2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1(同図では省略)に対して点光源oの面対称位置(同図では、oの位置)を広がりながら通過する。すなわち、結局は点光源oの素子平面S1に対する面対称位置に透過光が集まり、実鏡映像pとして結像することになる。
【0035】
ディスプレイ3は、曲面であってもよいが、表示面31がほぼ平面であれば適宜の公知の形態のディスプレイを適宜使用することができる。本実施形態では、図1に示すように、表示面31が平面形状のディスプレイ3を採用し、その表示面31が2面コーナーリフレクタアレイ2Aの下面側の空間において素子平面S1と垂直となるように配置される。なお、ディスプレイ3の配置姿勢は必ずしもこの限りとする必要はなく、2面コーナーリフレクタアレイ2Aの上面側のある視点から見た場合に、表示面31に表示される映像Oの実像が見えるような姿勢であれば、適宜に設定することができる。
【0036】
駆動手段4は、ディスプレイ3に3次元の動作を与えるものであって、他の物体を駆動するための機構や装置であれば、モータ、スプリング、歯車、ギヤ、レール等を用いた適宜の構成のものを利用可能である。本実施形態では、図1に示すように、駆動手段4を、ディスプレイ3(及び表示面31)を2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1の下面側の空間内で当該素子平面S1と平行に振動(往復運動)させる構成のものを採用することとしている。このような往復運動をディスプレイ3に行わせる駆動手段4としては、例えば、2面コーナーリフレクタアレイ2の素子平面S1と平行な図示しないレールと、このレールに沿ってディスプレイ3を往復させる図示しないモータ等の駆動装置等を適用することができる。そして、ディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oは、駆動手段4によるディスプレイ3の位置変化に対応して順次変化させることとする。このように、駆動手段4によってディスプレイ3を立体運動させることから、ディスプレイ3及び駆動手段4は、体積走査型の立体ディスプレイとして機能することとなる。
【0037】
なお、ここではディスプレイ3の運動を、表示面を平行に保ったままの往復運動としているが、必ずしも平行である必要性はない。また運動方向についても必ずしも素子平面との関係性を考慮する必要はない。さらに運動として、振動(往復運動)としているが、必ずしも往復する必要はなく、一方向への循環運動とすることも可能である。
【0038】
次に、本実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置X1において、ディスプレイ3の表示面31に順次表示される映像Oと、その映像Oの2面コーナーリフレクタアレイ2Aにより結像する立体空中映像Pとについて、一例を挙げて説明する。この例では、ディスプレイ3が往復運動の半分(往路、復路)で球が描かれる映像Oが順次表示面31に表示され、それに伴って実像である球の立体空中映像P(但し、映像Oとは奥行きが反転している)が結像する様子を示すものとする。図5(a)に2面コーナーリフレクタアレイ2Aとディスプレイ3との位置関係を時間を追って間欠的に示すように、ディスプレイ3は一往復運動の間に、時刻t1〜t9において同図に示す各位置、すなわち時刻t1において振動を開始し、t5の位置で振幅の他端側に達し、t9の位置でt1と同じ位置に戻るものとする。各時刻t1〜t9においてディスプレイ3の表示面31には、同図(b)に示すように、中心の位置は一定で直径の異なる円の図形が順次表示される。それに対応して、同図(a),(c)に示すように、表示面31の2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1に対する面対称位置には、各時刻の映像Oの実鏡映像Pとして、映像Oと同一図形の円の像が順次結像する。ディスプレイ3の実際の動きは連続的なものであるため、観察者の視点V1からは球の透視像として立体空中映像Pが見えることとなる。なお、この球体は、ディスプレイ3の運動によって作られる立体像と奥行きが反転したものとなる。
【0039】
このように、本実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置X1によれば、ディスプレイ3と駆動手段4とを実質的な立体ディスプレイとして機能させ、ディスプレイ3の表示面31に連続的に表示される映像Oを2面コーナーリフレクタアレイ2Aを通じてその素子平面S1に対する面対称位置に歪みのない実像の3次元空中映像Pとして結像させることができるため、何もない空中に浮遊し、上下左右の視点移動に対しても空中に完全に静止した立体空中映像という新しい立体映像の提示様式を提供することが可能である。
【0040】
なお、同一方向を向いた2面コーナーリフレクタ1から構成される2面コーナーリフレクタアレイ2Aを用いた場合には、視点がある方向に制限されてしまうが、2面コーナーリフレクタ1の向きを複数方向に向けた2面コーナーリフレクタアレイ2Aを用いることで、立体空中映像Pを複数の視点から観察可能な3次元空中映像ディスプレイ装置X1’とすることも可能である。例えば、図6に示すように、上記実施形態で用いた2面コーナーリフレクタアレイ2Aと同様の構成のものを2つ(同図では、2面コーナーリフレクタアレイ2A,2Bとする)、それぞれの素子平面S1,S1’を面一として2面コーナーリフレクタ1が向かい合うように配置し、さらにディスプレイを両面に表示面31,31を有する両面ディスプレイ3’として駆動手段4により3次元動作させ、両表示面31,31に表示させる映像Oを両面同じものとして表示位置と同期させることで、2つの視点V1,V1’から同一形状の透視立体空中映像Pを同時に観察することが可能となる。その他にも、2面コーナーリフレクタ1を他の態様で複数方向を向けた2面コーナーリフレクタアレイ2Aを採用するとともに、2面コーナーリフレクタ1の向きに合わせてディスプレイ3ないし表示面31を複数配置してそれらを駆動手段4で適宜動作させることによっても、立体空中映像Pの多視点化を実現することができる。なお、両表示面31,31に表示させる映像Oを異なるものとすることも可能であり、例えば立体空中映像の表面と裏面を個別に表示しておけば、透視像とならない立体空中映像の表示が可能となる。さらに、本発明に用いる実鏡映像結像光学系による像は奥行きが反転するため、正常な立体空中映像を表示するためには、あらかじめ被投影物の奥行きを反転させておく必要があるが、両面を表示面とすることで、表面裏面それぞれを別々に奥行き反転表示させることが可能となる。
【0041】
また、同様に2つの2面コーナーリフレクタアレイ2A1,2A2を用いるものとして、図7に示す3次元空中映像ディスプレイ装置X1’’のように、ディスプレイ3の表示面31を対称面である素子平面S1,S1’の方向に向け、駆動手段4によりディスプレイ3を素子平面S1,S1’に対して垂直方向に3次元動作させる構成とすることも可能である。この場合には、表示面31が1面であっても、多視点(図示例の場合は視点V1,V1’’の2視点)での観察が可能となる。ただし、この場合には視点毎に映像を変えることができないことから、透視立体像の表示のみが可能となる。
【0042】
また、2面コーナーリフレクタアレイを構成する2面コーナーリフレクタとしては単に直交する2枚の反射面が存在すればよく、この反射面としては、金属等の光を反射する物質の鏡面精度の平坦度を持つ端面もしくは膜による反射および、屈折率の異なる透明な媒質同士の鏡面精度の平坦度を持つ境界における全反射などの現象を利用することができる。より具体的には、例えば、上述した実施形態では、2面コーナーリフレクタアレイ2Aにおいて、薄板状の基盤21に正方形状の穴22を形成し、その穴の内周壁のうち隣接する2つにより2面コーナーリフレクタを形成したが、このような構成に変えて、図8に拡大して示すように、基盤21の厚み方向に突出する透明な筒状体23のそれぞれに2面コーナーリフレクタ1’を形成し、このような筒状体23を碁盤目状に多数形成した2面コーナーリフレクタアレイ2A’としてもよい。この場合、各筒状体23の内壁面のうち、直交する2つを鏡面要素11’,12’とした態様によっても2面コーナーリフレクタ1’を形成することが可能である。この場合、上述した実施形態と同様に、2面コーナーリフレクタ1’で2回反射する光が、基盤21の面方向すなわち素子平面S1’に対して面対称な点を通過することにより、被投影物とは素子平面S1’に対して反対側の空間に立体空中映像を結像させることができる。
【0043】
なお、筒状体23の鏡面要素11’,12’以外の内壁面を鏡面としないか、もしくは素子平面S’に対して垂直以外の角度をつけることにより、余分な反射をなくして、より鮮明な像を得ることができる。また、2面コーナーリフレクタ1’を構成する2つの鏡面11’,12’は全反射を利用することもできるし、反射膜による反射を利用することも可能である。特に、鏡面11’,12’の全反射を利用する場合、全反射には臨界角が存在するため、多重反射は起こりにくくなることが期待できる。さらに、鏡面を形成すべき筒状体の2つの面に金属反射膜を付け、筒状体同士を接着することも可能である。この場合、鏡面以外の面への非鏡面化等の多重反射対策は必要であるが、開口率が高くなり、透過率が高い2面コーナーリフレクタアレイを得ることができる。
【0044】
その他、2面コーナーリフレクタを構成する2つの鏡面要素は、直交する2枚の反射面さえ形成できれば相互に接触させずに相互に間隙を空けて配置されていてもよいことや、多視点空中映像表示光学系又は2面コーナーリフレクタアレイの形状は自由に設定できることなど、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、種々変更が可能である。
【0045】
<第2実施形態> 次に、本発明の第2実施形態について図9〜図12を参照して説明する。本実施形態に係る3次元空中映像ディスプレイ装置X2は、上記第1実施形態における実鏡映像結像光学系を2面コーナーリフレクタアレイ2Aから、ハーフミラー5とレトロリフレクタアレイ6を利用した実鏡映像結像光学系2Bに換えた構成を有するものである。ディスプレイ3及び駆動手段4の構成は第1実施形態のものと同様である。本実施形態で適用される実鏡映像結像光学系2Bは、図9に示すように、ハーフミラー5のハーフミラー面51を対称面S2として、ハーフミラー面51の下面側の空間に配置したディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oをハーフミラー面51で反射し、さらにレトロリフレクタアレイ6で再帰反射して入射してきた方向に戻り、ハーフミラー面51を透過することによって、映像Oの経時的な集合の対称面S2としてのハーフミラー面51に対する面対称位置に鏡映像を立体空中映像Pとして結像させるものである。
【0046】
このような実鏡映像結像光学系2Bの構成要素であるハーフミラー5は、例えば透明樹脂やガラス等の透明薄板の一方の面に薄い反射膜をコーティングしたものを利用することができる。この透明薄板の反対側の面には、無反射処理(ARコート)を施すことで、観察される実鏡映像Pが2重になるのを防止することができる。なお、ハーフミラー5の実上面には、それぞれ特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルム等の光学フィルム52を貼り付けて設けることができる。具体的にはこの光学フィルム52により、映像Oがハーフミラー5を直接透過した光が視点V2以外の位置には届かないようにすることで、ハーフミラー5を通じて視点V2以外からディスプレイ3の表示面3の映像Oが直接観察できるようになることを防止する一方で、後述するハーフミラー5で一旦反射してレトロリフレクタアレイ6で再帰反射した後にハーフミラー6を透過する方向の光線のみを透過させることで、映像Oの実像の集合である立体空中映像Pのみを特定の視点V2から観察できるようにしている。
【0047】
一方、レトロリフレクタアレイ6には、入射光を厳密に逆反射させるものであればあらゆる種類のものを適用することができ、素材表面への再帰反射膜や再帰反射塗料のコーティングなども考えられる。また、その形状も図9に示すように曲面としてもよいし、平面とすることもできる。例えば、図10(a)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ6は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ61は、3つの同形同大の直角二等辺三角形をなす鏡面61a,61b,61cを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面61a,61b,61cは互いに直交してコーナーキューブを構成している。また、同図(b)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ6も、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ61は、3つの同形同大の正方形をなす鏡面61a,61b,61cを1点に集合させて正面視した場合に正六角形を形成するものであり、これら3つの鏡面61a,61b,61cは互いに直交している。このレトロリフレクタアレイ6は、同図(a)のレトロリフレクタアレイ6とは形状が異なるだけで再帰反射の原理は同じである。図11(a)(b)に、図10(a)(b)にそれぞれ示したレトロリフレクタアレイ6を例にして説明すると、鏡面のうちの一つ(例えば61a)に入射した光は、順次他の鏡面(61b,61c)で反射することで、レトロリフレクタ61へ光が入射してきた元の方向へ反射する。なおレトロリフレクタアレイ6に対する入射光と出射光の経路は、厳密には重ならず平行であるが、レトロリフレクタ61がレトロリフレクタアレイ6と比べて十分小さい場合には、入射光と出射光の経路が重なっているとみなしてもよい。これら2種類のコーナーキューブアレイの違いは、鏡面が二等辺三角形のものは比較的作成しやすいが反射率が若干低くなり、鏡面が正方形のものは二等辺三角形のものと比較して作成がやや難しい反面、反射率が高い、ということである。
【0048】
なお、レトロリフレクタアレイ6には、上述したコーナーキューブアレイの他にも、3つの鏡面により光線を再帰反射させるもの(広義には「コーナーリフレクタ」)を採用することができる。図示しないが、例えば、単位再帰反射素子として、3つの鏡面のうち2つの鏡面同士が直交し、且つ他の1つの鏡面が他の2つの鏡面に対して90/N度(ただしNは整数とする)をなすものや、3つの鏡面がそれぞれ隣接する鏡面となす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタが、本実施形態に適用される再帰反射素子3として適している。その他にも、キャッツアイレトロリフレクタ等も単位再帰反射素子として利用することができる。これらのレトロリフレクタアレイは、平面的なものであっても、屈曲又は湾曲していてもよい。図9の例では、部分球面形状のレトロリフレクタアレイ6をディスプレイ3の外側に配置したが、表示面31の映像Oから発してハーフミラー5で反射した光を再帰反射することができるのであれば、レトロリフレクタアレイ6の形状及び配置位置は適宜に設定することができる。
【0049】
このような構成の3次元空中映像ディスプレイ装置X2においても、第1実施形態の場合と同様に、実鏡映像結像光学系2Bが被投影物の対称面S2に対する面対称位置に常にその実鏡映像が結像するものであることから、駆動手段4によりディスプレイ3を3次元動作させ、その動作に対応して表示面31の映像Oを逐次変化させることで、映像Oの実鏡映像の集合としての立体空中映像Pをハーフミラー5の上面側の空間に結像させて観察することが可能である。
【0050】
また、レトロリフレクタアレイ6の配置構成を変更し、第1実施形態の変形例として説明した両面に表示面31,31を有する両面ディスプレイ3’を用いることで、立体空中映像Pの多視点化、すなわち同時に多数の方向から映像Oの実鏡映像としての立体空中映像Pを観察できるようにすることも可能である。図12は、多視点化を実現する3次元空中映像ディスプレイ装置X2’の一例を示す概略的な縦断面図である。この3次元空中映像ディスプレイ装置X2’では、円盤状のハーフミラー5’の下面側において半球状をなすレトロリフレクタアレイ6’とによって、両面ディスプレイ3’を包囲した実鏡映像結像光学系2B’を適用したものである。ハーフミラー5’は、上述したハーフミラー5とは形状が異なるのみで同等のものであり、ハーフミラー面51’を対称面S2’とするものである。また、ハーフミラー5’の上面には、特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルム等の光学フィルム52’を貼り付けて設けている。一方、レトロリフレクタアレイ6’は、上述のレトロリフレクタアレイ6と同様に、内面側にレトロリフレクタ61を多数形成した湾曲形状を有するものである。なお、ディスプレイ3の真下となるレトロリフレクタアレイ6’の底部は光線の再帰反射には利用されないのでレトロリフレクタ61を形成しないこととしているが、底部にレトロリフレクタ61を形成しても特段の不都合はない。
【0051】
この場合、両面ディスプレイ3’の表示面31,31に表示される映像Oから様々な方向に出た光がハーフミラー5’で反射して、ハーフミラー5’の下面側にあるレトロリフレクタアレイ6’で同じ方向へ再帰反射し、さらにハーフミラー5’を直線的に透過することによって、ハーフミラー5’の上面の上方空間における面対称位置で結像する。なお、映像Oから真上に向けて出てハーフミラー5’で反射した光は、再び元の映像Oの位置に戻るため、レトロリフレクタアレイ6’で再帰反射することはなく、この理由により、レトロリフレクタアレイ6’の底部は再帰反射には利用されないことになる。したがって、結像点の集合である立体空中映像Pは、映像Oの真上を除き、ハーフミラー5’の表面側の空間の少なくとも2カ所を視点V2,V2’として同時に観察することが可能となる。また、映像Oのうち、ハーフミラー5’を反射せずに直接透過する光は光学フィルム52により視点には届かないため、ハーフミラー5’の上面側の視点から映像Oが直接観察できるようになることが防止される。
【0052】
このような多視点化が可能な実鏡映像結像光学系は、上述した態様に限られず、ハーフミラーと再帰反射素子とで被投影物を包囲している限り、それらの形状等を適宜変更することができる。その他、本実施形態において実鏡映像結像光学系は、上述した実施形態に限らず、ハーフミラーやレトロリフレクタアレイの具体的構成や形状など、種々変更することが可能である。また、第1実施形態の場合と同様に、ディスプレイの表示面を対称面方向に向け、そのディスプレイを駆動手段4により対称面に対して垂直方向に3次元動作させることも可能であり、この場合には、表示面が1面であっても、多視点での観察が可能となる。ただし、この場合にも、第1実施形態で説明したものと同様に、視点毎に表示面の映像を変えることができないことから、透視立体像の表示のみが可能となる。
【0053】
<第3実施形態> 次に、本発明の第3実施形態を、図13、図14を参照して説明する。本実施形態に係る3次元空中映像ディスプレイ装置X3は、実鏡映像結像光学系としてアフォーカルレンズアレイ2Cを適用したものであり、ディスプレイ3及び駆動手段4の構成は第1実施形態においてディスプレイ3を対称面と平行に配置した変形例(図7参照)と同様である。このアフォーカルレンズアレイ2Cは、図14に示すように、多数のアフォーカルレンズ7を1つの素子平面S3上に並べて構成される。具体的にアフォーカルレンズ7は、素子平面S3に垂直な光軸gを共有し且つ互いの焦点距離fs,feを隔てた2つのレンズ71、72から構成される。この例では、レンズ71、72として共に凸レンズを適用している。これにより、素子平面S3の一方側からレンズ71…に入射した光は、それぞれ対をなす他方側のレンズ72…から出射して、光源とは素子平面S3に対して面対称となる位置に集光する。すなわち、光源となるディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oは、素子平面S3に対する面対称位置に結像する。なお、アフォーカルレンズアレイ2Cを用いて被投影物を素子平面S3に対する面対称位置に実像として結像させる場合、視野角は素子平面S3に対して垂直に近い方向に制限される。
【0054】
このような構成の3次元空中映像ディスプレイ装置X3においても、第1実施形態や第2実施形態の場合と同様に、被投影物であるディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oの対称面である素子平面S3に対する面対称位置に常にその実鏡映像が結像することから、駆動手段4によりディスプレイ3を3次元動作させ、その動作に対応して表示面31の映像Oを変化させることで、映像Oの実鏡映像の集合としての立体空中映像Pをアフォーカルレンズアレイ7の上面側の空間に結像させて観察することが可能である。
【0055】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。上述した各例では、駆動手段によりディスプレイを振動運動(往復運動)させることにより、直径が変化する円形状の映像に基づいてその実鏡映像として空中に球状の3次元映像を結像させる態様を説明したが、ディスプレイの表示面に表示させる映像と駆動手段によるディスプレイの3次元運動の形態は適宜に設定することが可能である。例えば、ディスプレイを表示面が実鏡映像結像光学系の対称面と平行となるように配置して、駆動手段によりディスプレイを対称面の法線方向に駆動すれば、対称面側を向く片面だけに表示面を備えたディスプレイを用いても、立体空中映像の多視点化に対応することができる。その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0056】
X1,X1’,X1’’,X2,X2’,X3…体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置
S1,S1’,S3…素子平面(対称面)
S2…対称面
O…被投影物
P…立体空中映像
1,1’…2面コーナーリフレクタ
2A(2A1,2A2),2’…2面コーナーリフレクタアレイ(実鏡映像結像光学系)
2B,2B’…実鏡映像結像光学系
2C…アフォーカルレンズアレイ(実鏡映像結像光学系)
3,3’…ディスプレイ
4…駆動手段
5,5’…ハーフミラー
6…レトロリフレクタアレイ
7…アフォーカルレンズ
31…表示面
51,51’…ハーフミラー面
61…レトロリフレクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積走査方式により立体空中映像を表示することができるディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、立体映像を閲覧可能とする技術が開発されてきている。現在実用化されている立体表示装置の多くは、立体視要因のうち両眼視差のみを利用するものが多いが、焦点調節や輻輳等の技術面での問題や、長時間見ることで目が疲労するなどといった問題もあり、より利用しやすい技術が望まれているところである。例えば、結像光学系として凸レンズや凹面鏡を利用するものとして、高速表示が可能な2次元ディスプレイを光学系の光軸に対して傾けて配置し、ミラースキャナにより光軸に対して傾いた2次元像を移動させ、それにあわせて2次元ディスプレイに表示物体の断面像を表示させることにより、3次元像を形成する、という体積走査法による3次元像の立体表示方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法によれば、3次元実像が形成されているので、眼鏡などの装着物は不要であり、人の立体視知覚要因を全て満たすことができる、とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Volumetric display systembased on three-dimensional scanning of inclined optical image”、Daisuke Miyazaki et al,、Optic Express、Vol.14 Issue 26、pp12760−12769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示されているような立体表示方法では、光学系として凸レンズや凹面鏡を用いていることから、その収差のために形状に歪みが生じ、定位を完全に安定させることは困難である。
【0005】
一方、本発明者は、等倍結像光学系として、2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを多数備えた光学素子である実鏡映像結像素子(以下、必要に応じて「2面コーナーリフレクタアレイ」という)(特願2006−080009出願明細書参照)や、再帰反射機能を備えたレトロリフレクタアレイとハーフミラーとを利用した実鏡映像結像光学系(特願2007−163323出願明細書参照)を提案してきている。また、焦点距離が無限大であるアフォーカル光学系を備えたアフォーカルレンズアレイを用い、アフォーカルレンズ素子の素子面を対称面として反対側の空間に被投影物の像を結像させる機能を実現した実鏡映像結像光学系も提案されている(特願2005−10755号公報参照)。また、上述した2面コーナーリフレクタアレイを2面コーナーリフレクタが複数方向を向くものとしたり、再帰反射を利用する実鏡映像結像光学系においてレトロリフレクタアレイとハーフミラーとによって被投影物を包囲するなどの構造に工夫を施すことで、実鏡映像を複数方向から観察可能とするものも提案してきている(特願2007−054871出願明細書、特願2007−211992出願明細書参照)。これらの実鏡映像結像光学系は、被投影物をその光学系に設定される対称面(2面コーナーリフレクタアレイの素子面、ハーフミラー面、アフォーカルレンズアレイの素子面)に対する面対称位置に等倍の実像として歪みなく結像させるものであり、被投影物が2次元であれば2次元の実像を、被投影物が3次元であれば3次元の実像を観察することができるものである。
【0006】
そこで本発明は、上述した各実鏡映像結像光学系を応用した体積走査法による3次元空中映像ディスプレイ、特に歪みのない3次元空中映像ディスプレイの提供を主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、被投影物の実像を、対称面となるある1つの幾何平面に対する面対称位置に鏡映像として結像可能な実鏡映像結像光学系と、その対称面の下面側に配置されて前記被投影物として映像を表示する表示面を備えたディスプレイと、このディスプレイを、前記表示面に対して垂直方向の成分を含む運動をするように動作させる駆動手段とを具備し、駆動手段によるディスプレイの動作と同期させて表示面に表示される映像を変化させることにより、その映像を対称面の上面側の空間に立体映像(以下、「立体空中映像」と称する場合がある)として結像させることを特徴とする体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置(以下、説明の簡素化のため「3次元空中映像ディスプレイ装置」と略称する場合がある)である。
【0008】
このような3次元空中映像ディスプレイ装置においては、実鏡映像結像光学系は、被投影物を対称面を境にして面対称位置に歪みのない実像を鏡映像として結像するものである。ただし、観察される実像の奥行きは被投影物の奥行きとは反転したものとなる。また、本発明に適用されるディスプレイは、画面に映像を表示する一般的な意味でのディスプレイ装置だけでなく、プロジェクタ等で投射された映像を映すスクリーン等の映像を表示可能なもの全般を含む趣旨であり、表示面は平面だけでなく曲面であってもよい。そして、駆動手段によりディスプレイがその表示面に対して垂直方向の成分を含む運動、すなわち3次元空間を埋める立体的な動きをすることから、駆動手段とディスプレイは実質的に体積走査型の立体ディスプレイとして機能する。駆動手段には、ディスプレイを所望する3次元空間を埋めるような運動通りに動作させる適宜の態様のものを採用すればよい。ここでディスプレイの運動には、一定方向への振動をはじめとして、表示面が何らかの3次元空間を埋めるように動きさえすればよく、表示面と垂直な方向の成分を含んでいればどのような運動であってもよい。ただし、ディスプレイの「3次元空間を埋める立体的な動き」もしくは「3次元運動」や「立体運動」という表現は、ディスプレイが必ずしも3自由度で動作することだけを意味するものではなく、1自由度の運動であっても所定の3次元空間を埋める運動も含むものである。なお、ディスプレイは、対称面の上面側におけるある視点からその表示面に表示された映像の実像を観察できる範囲に配置することが好ましいが、立体的な動作の間に像が一時的に見えなくなる位置にディスプレイがくることになることは許容される。以上のような本発明の3次元空中映像ディスプレイ装置によれば実鏡映像結像光学系を利用してその対称面の一方側の空間において3次元空間を埋めるような立体運動をするディスプレイ、換言すれば体積走査型立体ディスプレイに表示される映像の実像を、他方側の空間に歪みのない空中立体像として表示して観察できるものである。
【0009】
本発明に用いるのに適した実鏡映像結像光学系の一種としては、所定の素子平面に垂直な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子平面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイであり、この素子平面を前記対称面とするものを挙げることができる。このようなものであれば、被投影物である映像からの光が素子平面を透過する際に、各2面コーナーリフレクタの2つの鏡面で1回ずつ反射して素子平面と平行な光の成分が再帰反射することによって、素子平面の上面側面対称位置の空中に実像として結像する。すなわち、観察者からは、2つの鏡面の内角が視線方向と向き合っている2面コーナーリフレクタで反射して結像した映像の実像、すなわち立体空中映像を観察することが可能となる。
【0010】
ここで、立体空中映像を複数の視点から観察できるようにするためには、2面コーナーリフレクタを素子平面に垂直な回転軸を持った回転方向において複数方向を向けて複数形成したものを採用することで、立体映像を素子平面に対して当該立体映像と同じ側の空間に結像させて複数方向から観察することが可能な3次元空中映像ディスプレイ装置を構成することができる。より詳細には、各2面コーナーリフレクタが対称面である素子平面の下面側に配置された立体走査型立体ディスプレイの方向に開口を向けていればよい。具体的に、2面コーナーリフレクタを利用した実鏡映像結像光学系としては、2面コーナーリフレクタアレイが、素子平面を共有する複数の2面コーナーリフレクタアレイの集合により構成したものが挙げられる。このようなものであれば、例えば、単一の素子平面に2面コーナーリフレクタを複数の方向を向けて同時に形成する態様と比較して、同じ方向を向く2面コーナーリフレクタを備えた2面コーナーリフレクタアレイを複数平面的に組み合わせて単一の2面コーナーリフレクタアレイとして機能するように構成して、製造の容易性とコストを低減することができる。また、所定の一点を向く2面コーナーリフレクタを備えた2面コーナーリフレクタアレイを複数、異なる方向を向くように平面的に組み合わせて単一の2面コーナーリフレクタアレイとして機能するように構成することもできる。
【0011】
ここで、2面コーナーリフレクタについて考察すると、光線を2面コーナーリフレクタにおいて適切に屈曲させつつ素子平面を透過させるには、2面コーナーリフレクタを、素子平面を貫通する方向に想定される光学的な穴の内壁を鏡面として利用するものと考えればよい。ただし、このような2面コーナーリフレクタは概念的なものであり、必ずしも物理的な境界などにより決定される形状を反映している必要は無く、例えば前記光学的な穴は相互に独立させることなく連結させたものとすることができる。
【0012】
2面コーナーリフレクタアレイの構造を単純に述べれば、素子平面にほぼ垂直な鏡面を素子平面に多数並べたものである。構造として問題となるのは、この鏡面をどのように素子平面に支持固定するかということになる。鏡面形成のより具体的な方法としては、例えば2面コーナーリフレクタアレイを、所定の空間を区画する基盤を具備するものとして、当該基盤を通る1つの平面を素子平面としてとして規定し、2面コーナーリフレクタを、素子平面を貫通する方向に想定される光学的な穴として、基盤に形成された穴の内壁を鏡面として利用するものとすることができる。この基盤に形成された穴は、光が透過するように透明でありさえすればよく、例えば内部が真空もしくは透明な気体もしくは液体で満たしたものでもよい。また穴の形状についても、その内壁に単位光学素子として働くための1枚もしくは複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、かつ鏡面で反射した光が穴を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、各穴が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。例えば、基盤の表面に個々の独立した鏡面が林立する態様などは、基盤に形成された穴が連結しているものと理解できる。
【0013】
あるいは2面コーナーリフレクタは、光学的な穴として、透明なガラスや樹脂のような固体によって形成された筒状体を利用するものであってもよい。なお、固体によって個々の筒状体が形成されている場合、これらの筒状体は、相互に密着させて素子の支持部材として働かせてもよく、基盤を具備するものとして当該基盤の表面から突出した態様をとってもよい。また筒状体の形状についても、その内壁に2面コーナーリフレクタとして働くための1枚もしくは複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、かつ鏡面で反射した光が筒状体を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、筒状体と称してはいるが各筒状体が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。
【0014】
ここで、前記光学的な穴として、立方体もしくは直方体のように隣接する内壁面が全て直交する形状を考えることができる。この場合、2面コーナーリフレクタ相互の間隔を最小化することができ、高密度な配置が可能となる。ただし、被投影物方向を向く2面コーナーリフレクタ以外の面は、反射を抑制することが望ましい。
【0015】
2面コーナーリフレクタ内に複数の鏡面が存在する場合には、想定された回数以上の反射を起こす多重反射の透過光が存在する可能性がある。この多重反射対策として、光学的な穴の内壁に相互に直交する2つの鏡面を形成する場合は、これら2鏡面以外の面を、非鏡面として光が反射しないようにしたり、素子平面に対して垂直とならないように角度を付けて設けたり曲面としたりすることで、3回以上の反射を起こす多重反射光を軽減もしくは除去できる。非鏡面とするには、その面を反射防止用の塗料や薄膜で覆う構成や、面粗さを粗くして乱反射を生じさせる構成を採用することができる。なお、透明で平坦な基盤の存在は光学素子の働きを阻害するものではないので、基盤を任意に支持部材・保護部材として用いることが可能である。
【0016】
さらに、映像の実鏡映像すなわち立体空中映像の高輝度化を図るには、複数の2面コーナーリフレクタを、前記素子平面上においてできるだけ間隔を空けずに配置することが望ましく、例えば格子状に配置することが有効である。またこの場合、製造も容易になるという利点がある。2面コーナーリフレクタにおける鏡面としては、固体であるか液体であるかに関わらず金属や樹脂等の光沢のある物質によって形成された平坦面で反射するもの、あるいは異なる屈折率を持つ透明媒質同士の平坦な境界面において反射もしくは全反射するものなどを利用することができる。また、鏡面を全反射によって構成した場合には、複数の鏡面による望まない多重反射は、全反射の臨界角を超える可能性が高くなることから、自然に抑制されることが期待できる。
【0017】
また鏡面は、機能的に問題ない限り、光学的な穴の内壁のごく一部分に形成されていてもよく、平行に配置される複数の単位鏡面により構成されても構わない。後者の態様を換言すれば、1つの鏡面が複数の単位鏡面に分割されても構わないことを意味する。またこの場合、各単位鏡面は、必ずしも同一平面に存在していなくてもよく、それぞれが平行であればよい。さらに、各単位鏡面は、当接している態様、離れている態様のいずれもが許容される。なお、2面コーナーリフレクタアレイを実鏡映像結像素子として構成する場合には、直交する2鏡面による2面コーナーリフレクタを必要とするため、1つの単位光学素子には、直交する2つの鏡面が形成されなければならない。この直交する2つの鏡面同士についても、必ずしも接触している必要はなく、光が素子平面の一方側から他方側へと透過する際に2つの鏡面で1回ずつ反射すればよいので、2つの鏡面同士が当接している態様、離れている態様のいずれもが許容される。
【0018】
また、本発明に適用される他の実鏡映像結像光学系としては、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものであり、このハーフミラー面を実鏡映像結像光学系における対称面とし、レトロリフレクタアレイをハーフミラーに対して前記被投影物と同じ側の空間に配置しているものを挙げることができる。ここでレトロリフレクタの作用である「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。このようなレトロリフレクタをアレイ状に配置したものがレトロリフレクタアレイであり、個々のレトロリフレクタが十分に小さい場合は、入射光と反射光の経路は重なると見なすことができる。このレトロリフレクタアレイにおいてレトロリフレクタは同一面上に存在している必要はなく、各レトロリフレクタは3次元的に散在していても構わない。また、ハーフミラーは、光線を透過させる機能と反射させる機能の両方を備えているものをいい、好ましくは透過率と反射率がほぼ1:1のものが理想的である。
【0019】
レトロリフレクタには、3つの隣接する鏡面から構成されるもの(広義には「コーナーリフレクタ」と呼ぶことができる)や、キャッツアイレトロリフレクタを利用することができる。コーナーリフレクタには、相互に直交する3つの鏡面から構成されるコーナーリフレクタ、3つの隣接する鏡面がなす角度のうち2つが90度であり、且つ他の1つの角度が90/N度(ただしNは整数)をなすもの、3つの鏡面がなす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタ等を採用することができる。
【0020】
このようなレトロリフレクタアレイとハーフミラーを利用する多視点空中映像表示光学系の場合、被投影物から出た光はハーフミラー面で反射し、さらにレトロリフレクタアレイで再帰反射して必ず元の方向に戻り、ハーフミラー面を透過して結像するため、ハーフミラーからの反射光を受けられる位置にある限りレトロリフレクタアレイの形状や位置は限定されない。そして、結像した実像の観察は、ハーフミラー面を透過する光線に対向する方向から観察することができ、斯かるハーフミラーが互いに実像側で180度未満の角度に設定されていることから、ハーフミラーの数に応じた複数の視点から被投影物の実像を観察できることになる。
【0021】
このように、レトロリフレクタアレイとハーフミラーとを用いる実鏡映像結像光学系を適用した3次元空中映像ディスプレイ装置においては、レトロリフレクタを、少なくともハーフミラーの裏面側において当該ハーフミラーと共にディスプレイの表示面を3次元的に包囲するように配置すれば、複数の視点から立体空中映像を観察することが可能となる。
【0022】
以上の他にも、本発明に適用される他の実鏡映像結像光学系としては、所定の素子平面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子平面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであり、この素子平面を対称面とするものを挙げることができる。アフォーカルレンズは、焦点距離を無限大としたものであり、例えば素子平面に対して垂直な光軸を有しそれぞれの焦点距離を隔てて配置した2つのレンズにより構成することができ、このようなアフォーカルレンズを素子平面上に多数並べて配置することでアフォーカルレンズアレイを構成することができる。アフォーカルレンズの構成としては、凸レンズや、光ファイバレンズ等を採用することができる。
【0023】
以上に述べたような本発明の3次元空中映像ディスプレイ装置においては、ディスプレイを、表面と裏面の両面に表示面を備えるものとすることができる。このように構成すれば、特に対称面の上面側における視点から見て両表示面の映像の立体空中映像が確認できる範囲で両表示面を対称面に対して立てた姿勢でディスプレイを配置する場合には、両表示面に表示される映像をそれぞれ対面方向から視認できるようになることから、立体空中映像の多視点化が可能となる。両表示面で同じ映像の表示を行った場合には、複数視点から同じ立体像の透視像を観察することができ、両表示面で異なる映像の表示が可能であることを積極的に利用すれば対面から見ても同じ方向から見た立体空中映像もしくは、全く異なる立体空中映像の表示及び観察が可能となる。また、両表示面に異なる映像の表示を行う場合には、立体空中映像の表面と裏面を個別に表示することが可能となり、透視像とならない立体空中映像の表示が可能となる。さらに、本発明に用いる実鏡映像結像光学系による像は奥行きが反転するため、正常な立体空中映像を表示するためには、あらかじめ被投影物の奥行きを反転させておく必要があるが、両面ディスプレイとすることで、表面裏面それぞれを別々に奥行き反転表示させることが可能となる。但し、実鏡映像結像光学系としてアフォーカルレンズアレイを適用する場合は、対称面である素子面に対して表示面を垂直にすると立体空中映像は殆ど見えないことになる。
【0024】
その他にも、本発明の3次元空中映像ディスプレイ装置においては、ディスプレイを、その表示面が実鏡映像結像光学系の対称面を向けて配置し(表示面が対称面と垂直になる場合を除く)、駆動手段を、ディスプレイを対称面に垂直方向の成分を含む運動をするように動作させるものとするように構成してもよい。このようにすると、視点別の映像表示ができないため、透視映像の表示しかできないものの、ディスプレイの表示面が1面だけであっても、立体空中映像の多視点化が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被投影物の実像をある1つの幾何平面(対称面)に対する面対称位置に結像する実鏡映像結像光学系と、体積走査型立体ディスプレイとして機能するディスプレイ及び駆動手段とから構成することによって、体積走査するディスプレイに表示された映像を対称面の反対側の空間に歪みのない立体空中映像として結像させて観察することができるという、新しい立体空中映像の表示方法、観察方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す斜視図。
【図2】同実施形態に適用される実鏡映像結像光学系である2面コーナーリフレクタアレイを模式的に示す平面図。
【図3】同2面コーナーリフレクタアレイの一部を拡大して模式的に示す斜視図。
【図4】同2面コーナーリフレクタアレイによる結像様式を模式的に示す図。
【図5】同3次元空中映像ディスプレイ装置におけるディスプレイの映像とその立体空中映像との関係を模式的に示す図。
【図6】同実施形態の変形例として多視点化を行った3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す斜視図。
【図7】同実施形態の別の変形例として多視点化を行った3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す斜視図。
【図8】同実施形態に適用される2面コーナーリフレクタアレイの他の例を示す概略的な斜視図。
【図9】本発明の第2実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す側面図。
【図10】同実施形態に適用される実鏡映像結像光学系であるレトロリフレクタアレイの一部を拡大して示す概略的な正面図。
【図11】同レトロリフレクタアレイによる光線の反射の様子を模式的に示す図。
【図12】同実施形態の変形例として多視点化を行った3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す側面図。
【図13】本発明の第3実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置を概略的に示す側面図。
【図14】同実施形態に適用される実鏡映像結像光学系であるアフォーカルレンズアレイの構成及び結像様式を模式的に示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
<第1実施形態> まず、本発明の第1実施形態を図1〜図7を参照して説明する。本実施形態に係る体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置(以下、「3次元空中映像ディスプレイ装置」と略する)X1は、図1に示すように、実鏡映像結像光学系の1種として、多数の2面コーナーリフレクタ1を形成した実鏡映像結像素子(以下、「2面コーナーリフレクタアレイ」と称する)2と、映像を表示する表示面31を備えたディスプレイ3と、このディスプレイ3に立体的な運動を行わせる駆動手段4とを備えるものである。すなわち、運動するディスプレイ3の表示面31に逐次表示される映像Oが、本実施形態においては2面コーナーリフレクタアレイ2Aによる鏡映像の実像(実鏡映像)として立体空中映像Pを結像させる元となる被投影物である。以下、各部について説明する。
【0029】
2面コーナーリフレクタアレイ2Aは、全2面コーナーリフレクタ1を構成するそれぞれ2つの鏡面11,12に対してほぼ垂直な平面を素子平面S1とするものであり、この素子平面S1を対称面として、面対称位置に被投影物である映像Oの実鏡映像が結像し、立体空中映像Pが観察される。なお、本実施形態において2面コーナーリフレクタ1は2面コーナーリフレクタアレイ2Aの全体と比べて非常に微小であるので、図1においては2面コーナーリフレクタ1の集合全体をグレーで表し、その内角の向きをV字形状で表してある。2面コーナーリフレクタアレイ2Aは、図2に示すように、平板状の基盤21を備え、この基盤21に、平らな基盤表面に対して垂直に肉厚を貫通する穴22を多数形成し、各穴22の内壁面を2面コーナーリフレクタ1として利用するために、穴22の内壁面のうち直交する2つにそれぞれ鏡面11,12を形成したものである。
【0030】
基盤21は、厚み寸法が例えば50〜200μm、本実施形態では100μmの薄板状のものであり、一辺がそれぞれ約5cmの平面視正方形状のものを適用しているが、基盤21の厚さや平面寸法はこれらに限られることなく適宜設定することができる。図2のA部を拡大して図3に示すように、各2面コーナーリフレクタ1は、光を透過させるために基盤21に形成した物理的・光学的な穴22を利用して形成したものである。本実施形態では、まず基盤21に平面視ほぼ矩形状(具体的に本実施形態では正方形状)の穴22を多数形成し、各穴22のうち隣接して直交する2つの内壁面に平滑鏡面処理を施して鏡面11,12とし、これら鏡面11,12を反射面として機能する2面コーナーリフレクタ1としている。なお、穴22の内壁面のうち2面コーナーリフレクタ1以外の部分には鏡面処理を施さず光が反射不能な面とするか、もしくは角度をつけるなどして多重反射光を抑制することが好ましい。各2面コーナーリフレクタ1は、基盤21上において鏡面11,12がなす内角が全て同じ向きとなるように形成している。以下、この鏡面11,12の内角の向きを、2面コーナーリフレクタ1の向き(方向)と称することがある。鏡面11,12の形成にあたって本実施形態では、金属製の金型をまず作成し、鏡面11,12を形成すべき内壁面をナノスケールの切削加工処理をすることによって鏡面形成を行い、これらの面粗さを10nm以下とし、可視光スペクトル域に対して一様に鏡面となるようにしている。
【0031】
具体的に各2面コーナーリフレクタ1を構成する鏡面11,12は、一辺が例えば50〜200μm、本実施形態では基盤21の厚さに対応させた100μmであり、先に作成した金型を用いたプレス工法をナノスケールに応用したナノインプリント工法又は電鋳工法により、1つの基盤21に所定ピッチで複数形成されている。本実施形態では、各2面コーナーリフレクタ1の素子平面S上でV字形状をなす各辺を、基盤21の巾方向又は奥行き方向に対して45度回転させるとともに、全ての2面コーナーリフレクタ1が素子平面S1上に想定される規則的な格子点上に整列されて同一方向を向くようにしている。なお、隣り合う2面コーナーリフレクタ1同士の離間寸法を極力小さく設定することで、透過率を向上させることができる。そして、前記基盤21のうち、2面コーナーリフレクタ1を形成した部分以外の部位には遮光処理を施し、基盤21の上面及び下面に図示しない薄板状をなす透明な補強材を設けている。本実施形態では、このような2面コーナーリフレクタ1を基盤21に数万ないし数十万個設けた2面コーナーリフレクタアレイ2Aを採用している。
【0032】
なお、電鋳工法によりアルミやニッケル等の金属で基盤21を形成した場合、鏡面11,12は、金型の面粗さが十分小さければ、それによって自然に鏡面となる。また、ナノインプリント工法を用いて、基盤21を樹脂製などとした場合には、鏡面11,12を作成するには、スパッタリング等によって、鏡面コーティングを施す必要がある。
【0033】
このようにして基盤21に形成した2面コーナーリフレクタ1は、基盤21の表面側(又は裏面側)から穴22に入った光を一方の鏡面(11又は12)で反射させ、さらにその反射光を他方の鏡面(12又は11)で反射させて基盤21の裏面側(又は表面側)へと通過させる機能を有し、この光の進入経路と射出経路とが基盤21を挟んで面対称をなすことから、上述のように基盤21上に多数の2面コーナーリフレクタ1を形成することで、2面コーナーリフレクタアレイ2Aとして機能する。すなわち、斯かる2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1(基盤21の肉厚の中央部を通り各鏡面と直交する面を仮定し、図3中に想像線で示す)は、基盤21の一方側にある被投影物の実像を他方側の面対称位置に鏡像(実鏡映像)として結像させる対称面となる。
【0034】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイ2Aによる結像様式について、被投影物として点光源oから発せられた光の経路とともに簡単に説明する。図4(a)に平面的な模式図で、同図(b)に模式的な側面図でそれぞれ示すように、点光源oから発せられる光(矢印方向、実線で示す。3次元的には紙面奥側から紙面手前側へ進行する)は、2面コーナーリフレクタアレイ2Aの基盤21(同図では省略)に形成した穴22(同図では省略)を通過する際に、2面コーナーリフレクタ1を構成する一方の鏡面11(又は12)で反射して更に他方の鏡面12(又は11)で反射した後に素子平面S1を透過し(透過光の光線を破線で示す)、2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1(同図では省略)に対して点光源oの面対称位置(同図では、oの位置)を広がりながら通過する。すなわち、結局は点光源oの素子平面S1に対する面対称位置に透過光が集まり、実鏡映像pとして結像することになる。
【0035】
ディスプレイ3は、曲面であってもよいが、表示面31がほぼ平面であれば適宜の公知の形態のディスプレイを適宜使用することができる。本実施形態では、図1に示すように、表示面31が平面形状のディスプレイ3を採用し、その表示面31が2面コーナーリフレクタアレイ2Aの下面側の空間において素子平面S1と垂直となるように配置される。なお、ディスプレイ3の配置姿勢は必ずしもこの限りとする必要はなく、2面コーナーリフレクタアレイ2Aの上面側のある視点から見た場合に、表示面31に表示される映像Oの実像が見えるような姿勢であれば、適宜に設定することができる。
【0036】
駆動手段4は、ディスプレイ3に3次元の動作を与えるものであって、他の物体を駆動するための機構や装置であれば、モータ、スプリング、歯車、ギヤ、レール等を用いた適宜の構成のものを利用可能である。本実施形態では、図1に示すように、駆動手段4を、ディスプレイ3(及び表示面31)を2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1の下面側の空間内で当該素子平面S1と平行に振動(往復運動)させる構成のものを採用することとしている。このような往復運動をディスプレイ3に行わせる駆動手段4としては、例えば、2面コーナーリフレクタアレイ2の素子平面S1と平行な図示しないレールと、このレールに沿ってディスプレイ3を往復させる図示しないモータ等の駆動装置等を適用することができる。そして、ディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oは、駆動手段4によるディスプレイ3の位置変化に対応して順次変化させることとする。このように、駆動手段4によってディスプレイ3を立体運動させることから、ディスプレイ3及び駆動手段4は、体積走査型の立体ディスプレイとして機能することとなる。
【0037】
なお、ここではディスプレイ3の運動を、表示面を平行に保ったままの往復運動としているが、必ずしも平行である必要性はない。また運動方向についても必ずしも素子平面との関係性を考慮する必要はない。さらに運動として、振動(往復運動)としているが、必ずしも往復する必要はなく、一方向への循環運動とすることも可能である。
【0038】
次に、本実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置X1において、ディスプレイ3の表示面31に順次表示される映像Oと、その映像Oの2面コーナーリフレクタアレイ2Aにより結像する立体空中映像Pとについて、一例を挙げて説明する。この例では、ディスプレイ3が往復運動の半分(往路、復路)で球が描かれる映像Oが順次表示面31に表示され、それに伴って実像である球の立体空中映像P(但し、映像Oとは奥行きが反転している)が結像する様子を示すものとする。図5(a)に2面コーナーリフレクタアレイ2Aとディスプレイ3との位置関係を時間を追って間欠的に示すように、ディスプレイ3は一往復運動の間に、時刻t1〜t9において同図に示す各位置、すなわち時刻t1において振動を開始し、t5の位置で振幅の他端側に達し、t9の位置でt1と同じ位置に戻るものとする。各時刻t1〜t9においてディスプレイ3の表示面31には、同図(b)に示すように、中心の位置は一定で直径の異なる円の図形が順次表示される。それに対応して、同図(a),(c)に示すように、表示面31の2面コーナーリフレクタアレイ2Aの素子平面S1に対する面対称位置には、各時刻の映像Oの実鏡映像Pとして、映像Oと同一図形の円の像が順次結像する。ディスプレイ3の実際の動きは連続的なものであるため、観察者の視点V1からは球の透視像として立体空中映像Pが見えることとなる。なお、この球体は、ディスプレイ3の運動によって作られる立体像と奥行きが反転したものとなる。
【0039】
このように、本実施形態の3次元空中映像ディスプレイ装置X1によれば、ディスプレイ3と駆動手段4とを実質的な立体ディスプレイとして機能させ、ディスプレイ3の表示面31に連続的に表示される映像Oを2面コーナーリフレクタアレイ2Aを通じてその素子平面S1に対する面対称位置に歪みのない実像の3次元空中映像Pとして結像させることができるため、何もない空中に浮遊し、上下左右の視点移動に対しても空中に完全に静止した立体空中映像という新しい立体映像の提示様式を提供することが可能である。
【0040】
なお、同一方向を向いた2面コーナーリフレクタ1から構成される2面コーナーリフレクタアレイ2Aを用いた場合には、視点がある方向に制限されてしまうが、2面コーナーリフレクタ1の向きを複数方向に向けた2面コーナーリフレクタアレイ2Aを用いることで、立体空中映像Pを複数の視点から観察可能な3次元空中映像ディスプレイ装置X1’とすることも可能である。例えば、図6に示すように、上記実施形態で用いた2面コーナーリフレクタアレイ2Aと同様の構成のものを2つ(同図では、2面コーナーリフレクタアレイ2A,2Bとする)、それぞれの素子平面S1,S1’を面一として2面コーナーリフレクタ1が向かい合うように配置し、さらにディスプレイを両面に表示面31,31を有する両面ディスプレイ3’として駆動手段4により3次元動作させ、両表示面31,31に表示させる映像Oを両面同じものとして表示位置と同期させることで、2つの視点V1,V1’から同一形状の透視立体空中映像Pを同時に観察することが可能となる。その他にも、2面コーナーリフレクタ1を他の態様で複数方向を向けた2面コーナーリフレクタアレイ2Aを採用するとともに、2面コーナーリフレクタ1の向きに合わせてディスプレイ3ないし表示面31を複数配置してそれらを駆動手段4で適宜動作させることによっても、立体空中映像Pの多視点化を実現することができる。なお、両表示面31,31に表示させる映像Oを異なるものとすることも可能であり、例えば立体空中映像の表面と裏面を個別に表示しておけば、透視像とならない立体空中映像の表示が可能となる。さらに、本発明に用いる実鏡映像結像光学系による像は奥行きが反転するため、正常な立体空中映像を表示するためには、あらかじめ被投影物の奥行きを反転させておく必要があるが、両面を表示面とすることで、表面裏面それぞれを別々に奥行き反転表示させることが可能となる。
【0041】
また、同様に2つの2面コーナーリフレクタアレイ2A1,2A2を用いるものとして、図7に示す3次元空中映像ディスプレイ装置X1’’のように、ディスプレイ3の表示面31を対称面である素子平面S1,S1’の方向に向け、駆動手段4によりディスプレイ3を素子平面S1,S1’に対して垂直方向に3次元動作させる構成とすることも可能である。この場合には、表示面31が1面であっても、多視点(図示例の場合は視点V1,V1’’の2視点)での観察が可能となる。ただし、この場合には視点毎に映像を変えることができないことから、透視立体像の表示のみが可能となる。
【0042】
また、2面コーナーリフレクタアレイを構成する2面コーナーリフレクタとしては単に直交する2枚の反射面が存在すればよく、この反射面としては、金属等の光を反射する物質の鏡面精度の平坦度を持つ端面もしくは膜による反射および、屈折率の異なる透明な媒質同士の鏡面精度の平坦度を持つ境界における全反射などの現象を利用することができる。より具体的には、例えば、上述した実施形態では、2面コーナーリフレクタアレイ2Aにおいて、薄板状の基盤21に正方形状の穴22を形成し、その穴の内周壁のうち隣接する2つにより2面コーナーリフレクタを形成したが、このような構成に変えて、図8に拡大して示すように、基盤21の厚み方向に突出する透明な筒状体23のそれぞれに2面コーナーリフレクタ1’を形成し、このような筒状体23を碁盤目状に多数形成した2面コーナーリフレクタアレイ2A’としてもよい。この場合、各筒状体23の内壁面のうち、直交する2つを鏡面要素11’,12’とした態様によっても2面コーナーリフレクタ1’を形成することが可能である。この場合、上述した実施形態と同様に、2面コーナーリフレクタ1’で2回反射する光が、基盤21の面方向すなわち素子平面S1’に対して面対称な点を通過することにより、被投影物とは素子平面S1’に対して反対側の空間に立体空中映像を結像させることができる。
【0043】
なお、筒状体23の鏡面要素11’,12’以外の内壁面を鏡面としないか、もしくは素子平面S’に対して垂直以外の角度をつけることにより、余分な反射をなくして、より鮮明な像を得ることができる。また、2面コーナーリフレクタ1’を構成する2つの鏡面11’,12’は全反射を利用することもできるし、反射膜による反射を利用することも可能である。特に、鏡面11’,12’の全反射を利用する場合、全反射には臨界角が存在するため、多重反射は起こりにくくなることが期待できる。さらに、鏡面を形成すべき筒状体の2つの面に金属反射膜を付け、筒状体同士を接着することも可能である。この場合、鏡面以外の面への非鏡面化等の多重反射対策は必要であるが、開口率が高くなり、透過率が高い2面コーナーリフレクタアレイを得ることができる。
【0044】
その他、2面コーナーリフレクタを構成する2つの鏡面要素は、直交する2枚の反射面さえ形成できれば相互に接触させずに相互に間隙を空けて配置されていてもよいことや、多視点空中映像表示光学系又は2面コーナーリフレクタアレイの形状は自由に設定できることなど、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、種々変更が可能である。
【0045】
<第2実施形態> 次に、本発明の第2実施形態について図9〜図12を参照して説明する。本実施形態に係る3次元空中映像ディスプレイ装置X2は、上記第1実施形態における実鏡映像結像光学系を2面コーナーリフレクタアレイ2Aから、ハーフミラー5とレトロリフレクタアレイ6を利用した実鏡映像結像光学系2Bに換えた構成を有するものである。ディスプレイ3及び駆動手段4の構成は第1実施形態のものと同様である。本実施形態で適用される実鏡映像結像光学系2Bは、図9に示すように、ハーフミラー5のハーフミラー面51を対称面S2として、ハーフミラー面51の下面側の空間に配置したディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oをハーフミラー面51で反射し、さらにレトロリフレクタアレイ6で再帰反射して入射してきた方向に戻り、ハーフミラー面51を透過することによって、映像Oの経時的な集合の対称面S2としてのハーフミラー面51に対する面対称位置に鏡映像を立体空中映像Pとして結像させるものである。
【0046】
このような実鏡映像結像光学系2Bの構成要素であるハーフミラー5は、例えば透明樹脂やガラス等の透明薄板の一方の面に薄い反射膜をコーティングしたものを利用することができる。この透明薄板の反対側の面には、無反射処理(ARコート)を施すことで、観察される実鏡映像Pが2重になるのを防止することができる。なお、ハーフミラー5の実上面には、それぞれ特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルム等の光学フィルム52を貼り付けて設けることができる。具体的にはこの光学フィルム52により、映像Oがハーフミラー5を直接透過した光が視点V2以外の位置には届かないようにすることで、ハーフミラー5を通じて視点V2以外からディスプレイ3の表示面3の映像Oが直接観察できるようになることを防止する一方で、後述するハーフミラー5で一旦反射してレトロリフレクタアレイ6で再帰反射した後にハーフミラー6を透過する方向の光線のみを透過させることで、映像Oの実像の集合である立体空中映像Pのみを特定の視点V2から観察できるようにしている。
【0047】
一方、レトロリフレクタアレイ6には、入射光を厳密に逆反射させるものであればあらゆる種類のものを適用することができ、素材表面への再帰反射膜や再帰反射塗料のコーティングなども考えられる。また、その形状も図9に示すように曲面としてもよいし、平面とすることもできる。例えば、図10(a)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ6は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ61は、3つの同形同大の直角二等辺三角形をなす鏡面61a,61b,61cを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面61a,61b,61cは互いに直交してコーナーキューブを構成している。また、同図(b)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ6も、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ61は、3つの同形同大の正方形をなす鏡面61a,61b,61cを1点に集合させて正面視した場合に正六角形を形成するものであり、これら3つの鏡面61a,61b,61cは互いに直交している。このレトロリフレクタアレイ6は、同図(a)のレトロリフレクタアレイ6とは形状が異なるだけで再帰反射の原理は同じである。図11(a)(b)に、図10(a)(b)にそれぞれ示したレトロリフレクタアレイ6を例にして説明すると、鏡面のうちの一つ(例えば61a)に入射した光は、順次他の鏡面(61b,61c)で反射することで、レトロリフレクタ61へ光が入射してきた元の方向へ反射する。なおレトロリフレクタアレイ6に対する入射光と出射光の経路は、厳密には重ならず平行であるが、レトロリフレクタ61がレトロリフレクタアレイ6と比べて十分小さい場合には、入射光と出射光の経路が重なっているとみなしてもよい。これら2種類のコーナーキューブアレイの違いは、鏡面が二等辺三角形のものは比較的作成しやすいが反射率が若干低くなり、鏡面が正方形のものは二等辺三角形のものと比較して作成がやや難しい反面、反射率が高い、ということである。
【0048】
なお、レトロリフレクタアレイ6には、上述したコーナーキューブアレイの他にも、3つの鏡面により光線を再帰反射させるもの(広義には「コーナーリフレクタ」)を採用することができる。図示しないが、例えば、単位再帰反射素子として、3つの鏡面のうち2つの鏡面同士が直交し、且つ他の1つの鏡面が他の2つの鏡面に対して90/N度(ただしNは整数とする)をなすものや、3つの鏡面がそれぞれ隣接する鏡面となす角度が90度、60度及び45度となる鋭角レトロリフレクタが、本実施形態に適用される再帰反射素子3として適している。その他にも、キャッツアイレトロリフレクタ等も単位再帰反射素子として利用することができる。これらのレトロリフレクタアレイは、平面的なものであっても、屈曲又は湾曲していてもよい。図9の例では、部分球面形状のレトロリフレクタアレイ6をディスプレイ3の外側に配置したが、表示面31の映像Oから発してハーフミラー5で反射した光を再帰反射することができるのであれば、レトロリフレクタアレイ6の形状及び配置位置は適宜に設定することができる。
【0049】
このような構成の3次元空中映像ディスプレイ装置X2においても、第1実施形態の場合と同様に、実鏡映像結像光学系2Bが被投影物の対称面S2に対する面対称位置に常にその実鏡映像が結像するものであることから、駆動手段4によりディスプレイ3を3次元動作させ、その動作に対応して表示面31の映像Oを逐次変化させることで、映像Oの実鏡映像の集合としての立体空中映像Pをハーフミラー5の上面側の空間に結像させて観察することが可能である。
【0050】
また、レトロリフレクタアレイ6の配置構成を変更し、第1実施形態の変形例として説明した両面に表示面31,31を有する両面ディスプレイ3’を用いることで、立体空中映像Pの多視点化、すなわち同時に多数の方向から映像Oの実鏡映像としての立体空中映像Pを観察できるようにすることも可能である。図12は、多視点化を実現する3次元空中映像ディスプレイ装置X2’の一例を示す概略的な縦断面図である。この3次元空中映像ディスプレイ装置X2’では、円盤状のハーフミラー5’の下面側において半球状をなすレトロリフレクタアレイ6’とによって、両面ディスプレイ3’を包囲した実鏡映像結像光学系2B’を適用したものである。ハーフミラー5’は、上述したハーフミラー5とは形状が異なるのみで同等のものであり、ハーフミラー面51’を対称面S2’とするものである。また、ハーフミラー5’の上面には、特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルム等の光学フィルム52’を貼り付けて設けている。一方、レトロリフレクタアレイ6’は、上述のレトロリフレクタアレイ6と同様に、内面側にレトロリフレクタ61を多数形成した湾曲形状を有するものである。なお、ディスプレイ3の真下となるレトロリフレクタアレイ6’の底部は光線の再帰反射には利用されないのでレトロリフレクタ61を形成しないこととしているが、底部にレトロリフレクタ61を形成しても特段の不都合はない。
【0051】
この場合、両面ディスプレイ3’の表示面31,31に表示される映像Oから様々な方向に出た光がハーフミラー5’で反射して、ハーフミラー5’の下面側にあるレトロリフレクタアレイ6’で同じ方向へ再帰反射し、さらにハーフミラー5’を直線的に透過することによって、ハーフミラー5’の上面の上方空間における面対称位置で結像する。なお、映像Oから真上に向けて出てハーフミラー5’で反射した光は、再び元の映像Oの位置に戻るため、レトロリフレクタアレイ6’で再帰反射することはなく、この理由により、レトロリフレクタアレイ6’の底部は再帰反射には利用されないことになる。したがって、結像点の集合である立体空中映像Pは、映像Oの真上を除き、ハーフミラー5’の表面側の空間の少なくとも2カ所を視点V2,V2’として同時に観察することが可能となる。また、映像Oのうち、ハーフミラー5’を反射せずに直接透過する光は光学フィルム52により視点には届かないため、ハーフミラー5’の上面側の視点から映像Oが直接観察できるようになることが防止される。
【0052】
このような多視点化が可能な実鏡映像結像光学系は、上述した態様に限られず、ハーフミラーと再帰反射素子とで被投影物を包囲している限り、それらの形状等を適宜変更することができる。その他、本実施形態において実鏡映像結像光学系は、上述した実施形態に限らず、ハーフミラーやレトロリフレクタアレイの具体的構成や形状など、種々変更することが可能である。また、第1実施形態の場合と同様に、ディスプレイの表示面を対称面方向に向け、そのディスプレイを駆動手段4により対称面に対して垂直方向に3次元動作させることも可能であり、この場合には、表示面が1面であっても、多視点での観察が可能となる。ただし、この場合にも、第1実施形態で説明したものと同様に、視点毎に表示面の映像を変えることができないことから、透視立体像の表示のみが可能となる。
【0053】
<第3実施形態> 次に、本発明の第3実施形態を、図13、図14を参照して説明する。本実施形態に係る3次元空中映像ディスプレイ装置X3は、実鏡映像結像光学系としてアフォーカルレンズアレイ2Cを適用したものであり、ディスプレイ3及び駆動手段4の構成は第1実施形態においてディスプレイ3を対称面と平行に配置した変形例(図7参照)と同様である。このアフォーカルレンズアレイ2Cは、図14に示すように、多数のアフォーカルレンズ7を1つの素子平面S3上に並べて構成される。具体的にアフォーカルレンズ7は、素子平面S3に垂直な光軸gを共有し且つ互いの焦点距離fs,feを隔てた2つのレンズ71、72から構成される。この例では、レンズ71、72として共に凸レンズを適用している。これにより、素子平面S3の一方側からレンズ71…に入射した光は、それぞれ対をなす他方側のレンズ72…から出射して、光源とは素子平面S3に対して面対称となる位置に集光する。すなわち、光源となるディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oは、素子平面S3に対する面対称位置に結像する。なお、アフォーカルレンズアレイ2Cを用いて被投影物を素子平面S3に対する面対称位置に実像として結像させる場合、視野角は素子平面S3に対して垂直に近い方向に制限される。
【0054】
このような構成の3次元空中映像ディスプレイ装置X3においても、第1実施形態や第2実施形態の場合と同様に、被投影物であるディスプレイ3の表示面31に表示される映像Oの対称面である素子平面S3に対する面対称位置に常にその実鏡映像が結像することから、駆動手段4によりディスプレイ3を3次元動作させ、その動作に対応して表示面31の映像Oを変化させることで、映像Oの実鏡映像の集合としての立体空中映像Pをアフォーカルレンズアレイ7の上面側の空間に結像させて観察することが可能である。
【0055】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。上述した各例では、駆動手段によりディスプレイを振動運動(往復運動)させることにより、直径が変化する円形状の映像に基づいてその実鏡映像として空中に球状の3次元映像を結像させる態様を説明したが、ディスプレイの表示面に表示させる映像と駆動手段によるディスプレイの3次元運動の形態は適宜に設定することが可能である。例えば、ディスプレイを表示面が実鏡映像結像光学系の対称面と平行となるように配置して、駆動手段によりディスプレイを対称面の法線方向に駆動すれば、対称面側を向く片面だけに表示面を備えたディスプレイを用いても、立体空中映像の多視点化に対応することができる。その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0056】
X1,X1’,X1’’,X2,X2’,X3…体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置
S1,S1’,S3…素子平面(対称面)
S2…対称面
O…被投影物
P…立体空中映像
1,1’…2面コーナーリフレクタ
2A(2A1,2A2),2’…2面コーナーリフレクタアレイ(実鏡映像結像光学系)
2B,2B’…実鏡映像結像光学系
2C…アフォーカルレンズアレイ(実鏡映像結像光学系)
3,3’…ディスプレイ
4…駆動手段
5,5’…ハーフミラー
6…レトロリフレクタアレイ
7…アフォーカルレンズ
31…表示面
51,51’…ハーフミラー面
61…レトロリフレクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被投影物の実像を、対称面となるある1つの幾何平面に対する面対称位置に鏡映像として結像可能な実鏡映像結像光学系と、
前記対称面の下面側に配置されて前記被投影物として映像を表示する表示面を備えたディスプレイと、
前記ディスプレイを、その表示面に対して垂直方向の成分を含む運動をするように動作させる駆動手段と、を具備し、
前記駆動手段による前記ディスプレイの動作と同期させて前記表示面に表示される映像を変化させることにより、当該映像を前記対称面の上面側の空間に立体映像として結像させることを特徴とする体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項2】
前記実鏡映像結像光学系が、所定の素子平面に垂直な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子平面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイであり、この素子平面を前記対称面とするものである請求項1に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項3】
前記実鏡映像結像光学系が、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものであり、このハーフミラー面が前記対称面とし、前記レトロリフレクタアレイを当該ハーフミラーに対して前記被投影物と同じ側の空間に配置しているものである請求項1に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項4】
前記レトロリフレクタを、少なくとも前記ハーフミラーの裏面側において当該ハーフミラーと共に前記ディスプレイの表示面を3次元的に包囲するように配置している請求項3に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項5】
前記実鏡映像結像光学系が、所定の素子平面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子平面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであり、この素子平面を前記対称面とするものである請求項1に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項6】
前記ディスプレイを、表面と裏面の両面に前記表示面を備えるものとしている請求項3乃至5の何れかに記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項7】
前記ディスプレイを、その表示面が前記対称面を向けて配置し、前記駆動手段を、当該ディスプレイを対称面に垂直方向の成分を含む運動をするように動作させるものである請求項1乃至5の何れかに記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項1】
被投影物の実像を、対称面となるある1つの幾何平面に対する面対称位置に鏡映像として結像可能な実鏡映像結像光学系と、
前記対称面の下面側に配置されて前記被投影物として映像を表示する表示面を備えたディスプレイと、
前記ディスプレイを、その表示面に対して垂直方向の成分を含む運動をするように動作させる駆動手段と、を具備し、
前記駆動手段による前記ディスプレイの動作と同期させて前記表示面に表示される映像を変化させることにより、当該映像を前記対称面の上面側の空間に立体映像として結像させることを特徴とする体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項2】
前記実鏡映像結像光学系が、所定の素子平面に垂直な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子平面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイであり、この素子平面を前記対称面とするものである請求項1に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項3】
前記実鏡映像結像光学系が、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものであり、このハーフミラー面が前記対称面とし、前記レトロリフレクタアレイを当該ハーフミラーに対して前記被投影物と同じ側の空間に配置しているものである請求項1に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項4】
前記レトロリフレクタを、少なくとも前記ハーフミラーの裏面側において当該ハーフミラーと共に前記ディスプレイの表示面を3次元的に包囲するように配置している請求項3に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項5】
前記実鏡映像結像光学系が、所定の素子平面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子平面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであり、この素子平面を前記対称面とするものである請求項1に記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項6】
前記ディスプレイを、表面と裏面の両面に前記表示面を備えるものとしている請求項3乃至5の何れかに記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【請求項7】
前記ディスプレイを、その表示面が前記対称面を向けて配置し、前記駆動手段を、当該ディスプレイを対称面に垂直方向の成分を含む運動をするように動作させるものである請求項1乃至5の何れかに記載の体積走査型3次元空中映像ディスプレイ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−80227(P2013−80227A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232638(P2012−232638)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2007−246286(P2007−246286)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2007−246286(P2007−246286)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
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