説明

作業機械の動力回生装置

【課題】操作装置の操作に対する油圧アクチュエータの応答性と動力回生効率の良い作業機械の動力回生装置を提供すること。
【解決手段】操作量に応じた操作信号を出力する操作装置4Aと、操作装置4Aから出力される操作信号に基づいて駆動されるブームシリンダ3aと、エンジン7によって駆動されブームシリンダ3aに圧油を供給する油圧ポンプ6とを備える作業機械の動力回生装置において、ブームシリンダ3aからの戻り油によって駆動される可変容量型の油圧モータ24と、油圧モータ24に連結された発電機25と、ブームシリンダ3aからのメータアウト流量の目標流量Qoを操作装置4Aの操作量に基づいて算出し、メータアウト流量が目標流量Qoに近づくように、発電機25の実回転数Nと目標流量Qoに基づいて油圧モータ24の容量qを制御する車体コントローラ11を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械等の作業機械の動力回生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベルをはじめとする油圧作業機械に対して燃料消費率(燃費)の向上に関する要求が高まっている。例えば、油圧ショベルには、ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)のボトム側油圧室に接続されブーム下げ時の戻り油が流通する油路(戻り油油路)に固定容量型油圧モータ及びこれに連結された発電機(電動機)を設置したハイブリッド式油圧ショベルがあり、ブームシリンダからの戻り油によって油圧モータ及び発電機を駆動することで動力を回生している。
【0003】
このように油圧アクチュエータからの戻り油を固定容量型油圧モータに導入して動力回生を行う作業機械では、油圧アクチュエータの操作性を良好に保持する観点から、油圧アクチュエータからの戻り油の流量(メータアウト流量)を制御することが好ましい。さらに、動力回生効率を向上させる観点からは、油圧アクチュエータから吐出され油圧モータに導入されるまでの戻り油のエネルギー損失を可能な限り低減することが好ましい。
【0004】
この2点を鑑みた技術としては、油圧アクチュエータからの戻り油油路に、可変容量型油圧モータ及びこれに連結された発電機を設置した作業機械がある(特許文献1参照)。この技術は、可変容量型油圧モータの容量(押しのけ容積)を操作装置(制御レバー)の操作量に応じて適宜制御することでメータアウト流量を制御している。また、このように可変容量型油圧モータを利用してメータアウト制御をすると、流量調整弁等の流量調整手段を油圧モータの上流側に設置する必要がなくなるので、当該流量調整弁を通過する際に戻り油のエネルギー損失が発生することが抑制でき、回生効率の向上にも寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−162457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、油圧モータに連結された発電機を制御することでメータアウト流量を制御する方式では、発電機と油圧モータの慣性モーメントが大きいため、オペレータの操作に対して油圧アクチュエータの動作の応答性が悪くなる傾向が強い。特に、ブームシリンダのボトム側油圧室からの戻り油を利用して動力回生している場合において、ブーム下げ動作を停止するとき、発電機と油圧モータの慣性モーメントによってブームシリンダの停止性の確保が難しくなることがある。すなわち、例えば、この種のハイブリッド式油圧ショベルでブーム下げ動作を停止する場合には、オペレータのブーム下げ操作に対するブームの縮短速度(減速度)が一般的な油圧ショベルより劣ることがある。そのため、所望の位置でブームを停止させるためには、一般的な油圧ショベルより早くブーム下げ操作を完了させる等して別途工夫する必要があり、操作性が低下するおそれがある。
【0007】
通常、上記のように構成された作業機械において、可変容量型油圧モータ及び発電機の上流側に位置する油圧アクチュエータのメータアウト流量は、当該可変容量型油圧モータの容量と当該発電機の回転数の積によって決定される。この点に関し、上記特許文献1では、操作装置の操作量の増減に応じて容量が増減するように可変容量型油圧モータを制御すると開示しているものの、発電機の回転数についてはどのように制御しているか触れていない。すなわち、特許文献1の技術では、油圧アクチュエータからのメータアウト流量を応答性良く制御することができず、操作性の向上を実現するには不十分である。
【0008】
本発明の目的は、操作装置の操作に対する油圧アクチュエータの応答性と動力回生効率の良い作業機械の動力回生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、操作量に応じた操作信号を出力する操作装置と、この操作装置から出力される操作信号に基づいて駆動される油圧アクチュエータと、エンジンによって駆動され前記油圧アクチュエータに圧油を供給する油圧ポンプとを備える作業機械の動力回生装置において、前記油圧アクチュエータからの戻り油によって駆動される可変容量型油圧モータと、この油圧モータに連結された発電機と、前記油圧アクチュエータからのメータアウト流量の目標流量を前記操作装置の操作量に基づいて算出し、前記メータアウト流量が前記目標流量に近づくように、前記発電機の実回転数と前記目標流量に基づいて前記油圧モータの容量を制御する制御装置とを備えるものとする。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記油圧モータの容量を所定値に固定したときにおける前記油圧アクチュエータからのメータアウト流量の目標流量を前記操作装置の操作量に基づいて算出し、前記発電機の実回転数及び前記目標流量に基づいて、前記メータアウト流量が前記目標流量に近づくように前記油圧モータの容量を制御するものとする。
【0011】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記油圧モータが最大容量のときにおける前記油圧アクチュエータからのメータアウト流量の目標流量を前記操作装置の操作量に基づいて算出し、前記目標流量を前記発電機の実回転数で除して算出される値の分だけ、前記油圧モータの容量を前記最大容量から低減するものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可変容量型油圧モータと発電機によってメータアウト流量を応答性良く制御することができるので、操作に対する油圧アクチュエータの応答性と動力回生効率を良好に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの外観図。
【図2】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの駆動制御システムの概略図。
【図3】本発明の実施の形態に係る車体コントローラ11の構成図。
【図4】本発明の実施の形態に係る記憶装置90に記憶されたメータリング線図。
【図5】操作装置4Aの操作量が最大の状態からブーム下げ操作を終了する場合において、油圧モータ24の容量をq1に固定しつつ発電機25を目標回転数Noで制御したときの実際のメータアウト流量Qと目標流量Qoを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの外観図である。この図に示す油圧ショベルは、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cを有する多関節型の作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eを有する車体1Bを備えており、油圧アクチュエータとして、ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、走行モータ3e,3f等を備えている。
【0015】
ブーム1aは、上部旋回体1dに回動可能に支持されており、ブームシリンダ(油圧シリンダ)3aにより駆動される。アーム1bは、ブーム1aに回動可能に支持されており、アームシリンダ(油圧シリンダ)3bにより駆動される。バケット1cは、アーム1bに回動可能に支持されており、バケットシリンダ(油圧シリンダ)3cにより駆動される。上部旋回体1dは旋回モータ(電動機)16(図2参照)により旋回駆動され、下部走行体1eは左右の走行モータ(油圧モータ)3e,3f(図2参照)により駆動される。ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c及び旋回モータ16の駆動は、上部旋回体1dの運転室(キャブ)内に設置され油圧信号を出力する操作装置4A,4B(図2参照)によって制御される。
【0016】
図2は本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの駆動制御システムの概略図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。この図に示す駆動制御システムは、動力回生装置70と、操作装置4A,4Bと、コントロールバルブ(スプール型方向切換弁)5A,5B,5Cと、油圧信号を電気信号に変換する圧力センサ17,18と、インバータ13と、チョッパ14と、バッテリ(蓄電装置)15と、インバータ12を備えており、制御装置として車体コントローラ(MCU)11、バッテリコントローラ(BCU)22及びエンジンコントローラ(ECU)21を備えている。
【0017】
図2において、動力回生装置70は、油路51と、分岐部52と、回生回路53と、圧力センサ20と、車体コントローラ(MCU)11と、インバータ26を備えている。
【0018】
油路51は、ブームシリンダ3aの縮短時にタンク9に戻る油(戻り油)が流通する戻り油油路であり、ブームシリンダ3aのボトム側油圧室55に接続されている。油路51には当該油路51を複数の油路に分流する分岐部52が設けられている。分岐部52には、回生回路53が接続されている。
【0019】
回生回路53は、チェックバルブ28と、可変容量型油圧モータ24と、発電機25を備えており、ブーム下げ操作時にボトム側油圧室55から吐出される戻り油を油圧モータ24を介してタンク9に導いている。
【0020】
チェックバルブ28には、オペレータによってブーム下げ操作が行われたときに操作装置4Aから出力される操作信号(圧力Pbの油圧信号)が導かれており、当該操作信号が作用することで開くように設定されている。すなわち、チェックバルブ28は、操作装置4Aを介してオペレータによってブーム下げ操作が行われたときに回生回路53を開放し、その他の場合には回生回路53を遮断する機能を有している。
【0021】
可変容量型油圧モータ24は、ブームシリンダ3aのボトム側油圧室55から吐出される戻り油によって駆動されるもので、チェックバルブ28の下流側に設置されている。また、油圧モータ24は、斜板(図示せず)の傾転角を調節することで油圧モータ24の容量(押しのけ容積)を制御するレギュレータ(容量制御手段)31を備えている。レギュレータ31は、車体コントローラ11と接続されており、車体コントローラ11から適宜出力される指令値Smに基づいて斜板の傾転角を変更して油圧モータ24の容量を制御する。
【0022】
発電機25は、可変容量型油圧モータ24に連結されている。ブーム下げ時における戻り油を回生回路53に導入して油圧モータ24を回転させると発電機25が回転して回生電力が発生される。発電機25はインバータ26と接続されている。発電機25及び油圧モータ24の回転数はインバータ26から適宜出力される指令値Sgに基づいて制御されている。このように発電機25及び油圧モータ24の回転数をインバータ26で制御すると、油圧モータ24を通過する油の流量を調整できるので、ブームシリンダ3aにおけるボトム側油圧室55から回生回路53に流れる戻り油の流量(メータアウト流量Q)を調整することができる。発電機25によって発生された電力は、バッテリ15や電動アクチュエータ(例えば、発電電動機10,16)に適宜供給される。
【0023】
発電機25と油圧モータ24を連結する軸には、発電機25及び油圧モータ24の実回転数Nを検出する回転数センサ32が設置されている。回転数センサ32は車体コントローラ11と接続されており、検出した実回転数Nを車体コントローラ11に出力している。
【0024】
操作装置4A,4Bは、エンジン7に接続されたパイロットポンプ41から供給される作動油を2次圧に減圧してブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c及び旋回モータ16を制御するための油圧信号を発生する。
【0025】
操作装置4Aは、ブームシリンダ3aの駆動を制御するコントロールバルブ5Aの受圧部と、アームシリンダ3bの駆動を制御するコントロールバルブ5Bの受圧部にパイロット管を介して接続されており、操作レバーの傾倒方向に応じて各コントロールバルブ5A,5Bの受圧部に油圧信号を出力する。コントロールバルブ5A,5Bは、操作装置4Aから入力される油圧信号に応じて位置を切り換えられ、油圧ポンプ6から吐出される圧油の流れをその切換位置に応じて制御することでブームシリンダ3a、アームシリンダ3bの駆動を制御する。
【0026】
コントロールバルブ5Aにおける一方の受圧部(図2中の右側の受圧部)にはブーム下げ操作時に操作装置4Aから出力される操作信号(圧力Pbの油圧信号)が入力されており、また、他方の受圧部(図2中の左側の受圧部)にはブーム上げ操作時に操作装置4Aから出力される操作信号(圧力Paの油圧信号)が入力されている。コントロールバルブ5Aのスプールは、これら2つの受圧部に入力される操作信号に応じて移動し、油圧ポンプ6からブームシリンダ3aに供給される圧油の方向及び流量を切り換える。
【0027】
圧力センサ20は、ブーム下げ操作時に操作装置4Aからコントロールバルブ5Aに出力される油圧信号の圧力Pb(パイロット圧Pb)を検出するためのもので、操作装置4Aとコントロールバルブ5Aの受圧部を接続するパイロット管(油路)に取り付けられている。圧力センサ20は車体コントローラ11と接続されており、検出した油圧信号の圧力Pbを電気信号に変換して車体コントローラ11に出力している。ところで、操作装置4Aから出力される油圧信号の圧力Pbは操作装置4Aの操作量に比例しており、圧力センサ20で検出した油圧信号の圧力Pbからブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量を算出することができる。すなわち、本実施の形態における圧力センサ20は操作装置4Aの操作量を検出する手段(操作量検出手段)として機能している。なお、操作装置4Aの操作量を検出する他の手段としては、操作装置4Aにおける操作レバーの位置を検出するポジションセンサを利用することもできる。
【0028】
操作装置4Bは、バケットシリンダ3cの駆動を制御するコントロールバルブ5Cの受圧部と2つのパイロット管を介して接続されており、操作レバーの傾倒方向に応じてコントロールバルブ5Cの受圧部に油圧信号を出力する。コントロールバルブ5Cは、操作装置4Bから入力される油圧信号に応じて位置を切り換えられ、油圧ポンプ6から吐出される圧油の流れをその切換位置に応じて制御することでバケットシリンダ3cの駆動を制御する。
【0029】
また、操作装置4Bは、コントロールバルブ5Cの受圧部に接続する上記2つのパイロットに加え、他の2つのパイロット管に接続されている。また、当該他の2つのパイロット管のうち、上部旋回体1dが右旋回するように旋回モータ16を駆動する油圧信号が通過するものには圧力センサ17が取り付けられており、上部旋回体1dが右旋回するように旋回モータ16を駆動する油圧信号(圧油)が通過するものには圧力センサ18が取り付けられている。圧力センサ17,18は、操作装置4Bから出力される油圧信号の圧力を検出してその圧力に対応する電気信号に変換する信号変換手段として機能するもので、変換した電気信号を車体コントローラ11に出力可能に構成されている。圧力センサ17,18から車体コントローラ11に出力された電気信号は、インバータ13を介して旋回モータ16(電動アクチュエータ)の駆動を制御する操作信号として利用される。
【0030】
コントロールバルブ5E,5Fの受圧部はパイロット管を介して運転室内に設置された走行操作装置(図示せず)と接続されている。コントロールバルブ5E,5Fは、当該走行操作装置から入力される油圧信号に応じて位置を切り換えられ、油圧ポンプ6から吐出される圧油の流れをその切換位置に応じて制御することで走行モータ3e,3fの駆動を制御する。
【0031】
車体コントローラ(MCU)11は、ブーム下げ時におけるブームシリンダ3aからのメータアウト流量Qの目標流量Qo及び発電機25の目標回転数Noを操作装置4Aの操作量に基づいて算出し、メータアウト流量Qが目標流量Qoに近づくように油圧モータ24の容量qを制御する機能を有している(後に詳述)。また、車体コントローラ11は、インバータ13と接続されており、これらに対して指令値を出力している。
【0032】
また、車体コントローラ11は、圧力センサ17,18から入力される電気信号に基づいてインバータ13を介して旋回モータ16の駆動を制御する役割を有する。具体的には、圧力センサ17から電気信号が入力されたときにはその電気信号に対応した速度で上部旋回体1dを左旋回させ、圧力センサ18から電気信号が入力されたときにはその電気信号に対応した速度で上部旋回体1dを右旋回させる。また、車体コントローラ11は、上部旋回体1dの旋回制動時には旋回モータ16から電気エネルギーを回収する動力回生制御も行う。さらに、その動力回生制御時に発生した回生電力や、動力変換機(発電電動機)10によって発生された電力の余剰電力(例えば、油圧ポンプ6の負荷が軽い場合等)をバッテリ15に充電する制御も行う。
【0033】
エンジンコントローラ(ECU)21は、オペレータによってエンジン7の目標回転数が入力されるエンジン回転数入力装置(例えば、エンジンコントロールダイヤル(図示せず))等からの指令に従って、エンジン7が当該目標回転数で回転するように燃料噴射量とエンジン回転数を制御する部分である。
【0034】
エンジン(原動機)7の出力軸には動力変換機(発電電動機)10が連結されており、動力変換機10の出力軸には油圧ポンプ6とパイロットポンプ41が接続されている。
【0035】
動力変換機10は、エンジン7の駆動力及びバッテリ15に蓄えられた電気エネルギーのいずれか一方又は双方によって油圧アクチュエータ3a,3b,3c,3e,3fを駆動している。動力変換機10は、インバータ12を介してインバータ13及びチョッパ14と接続されており、エンジン7の動力を電気エネルギーに変換してインバータ12,13に出力する発電機として機能し、さらに、バッテリ15に蓄えられた電気エネルギーの一部を利用して油圧ポンプ6をアシスト駆動する電動機として機能する。
【0036】
油圧ポンプ6は、油圧アクチュエータ3a,3b,3c,3e,3fに圧油を供給するメインのポンプであり、パイロットポンプ41は、操作装置4A,4B及び走行操作装置を介してコントロールバルブ5A,5B,5C,5D,5E,5Fに操作信号として出力される圧油を供給する。なお、油圧ポンプ6に接続される油圧管路にはリリーフ弁8が設置されており、リリーフ弁8はその管路内の圧力が過度に上昇した場合にタンク9に圧油を逃がす。
【0037】
インバータ12は、動力変換機10の回転速度を制御するもので、バッテリ15からの電気エネルギーにより、動力変換機10に電力を供給して油圧ポンプ6をアシスト駆動する。インバータ13は、旋回モータ16の回転速度を制御するもので、動力変換機10から出力される電力またはバッテリ15の電気エネルギーを旋回モータ16に供給する。
【0038】
バッテリ15は、チョッパ14を介して電圧を調整し、インバータ12,13,26に電力を供給したり、動力変換機10及び発電機25が発生した電気エネルギーや旋回モータ16からの電気エネルギーを蓄えたりする部分である。
【0039】
次に、本実施の形態に係る車体コントローラ11が備えるメータアウト流量Qの制御機能について図を参照しつつ説明する。
【0040】
図3は本発明の実施の形態に係る車体コントローラ11の構成図である。この図に示す車体コントローラ11は、RAM及びROM等の記憶装置(記憶手段)90と、記憶装置90に記憶されたデータ及びプログラムに従って発電機25及び油圧モータ24を制御するための各種処理を実行する処理装置(CPU)80を備えている。車体コントローラ11には、圧力センサ20が検出した圧力Pbと、回転数センサ32が検出した実回転数Nが入力されている。また、車体コントローラ11からは、レギュレータ31に対して指令値Smが出力されている。
【0041】
記憶装置90には、ブーム下げ操作時におけるオペレータの操作フィーリングを良好に保持するために、ブーム下げ操作時(ブームシリンダ3aが縮短される場合)における操作装置4Aの操作量とメータアウト流量Qの関係が記憶されている。
【0042】
図4は本発明の実施の形態に係る記憶装置90に記憶されたメータリング線図である。本実施の形態では、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量とメータアウト流量の目標流量Qoとの関係は、この図に示すようにメータリング線図の形式で記憶されている。この図に示すように、目標流量Qoと操作装置4Aの操作量は概ね比例関係が保持されるように規定されている。
【0043】
なお、既述のように、コントロールバルブ5Aに出力される油圧信号の圧力(パイロット圧)Pbと操作装置4Aの操作量とは比例関係にある。そのため、本実施の形態のようにコントロールバルブ5Aに出力される操作信号として油圧信号を用いる場合には、操作装置4Aの操作量に代えて、パイロット圧Pbと目標流量Qoの関係をメータリング線図として記憶装置90に記憶しておき、パイロット圧Pbの値に基づいて目標流量Qoを算出しても良い。以下、本実施の形態では、目標流量Qo等を演算する際に、操作装置4Aの操作量に代えてパイロット圧Pbを用いることとする。これを受けて、図4では操作装置4Aの操作量とパイロット圧Pbを併記している。
【0044】
また、記憶装置90に記憶するメータリング線図は、動力回生装置70の有無に関わらずオペレータに対して一定の操作フィーリングを担保する観点から、ボトム側油圧室55からの戻り油の全てをコントロールバルブ5Aを介してタンク9に流した場合に得られるメータリング線図(すなわち、回生回路53を備えず動力源がエンジンのみである油圧ショベル(以下において「通常の油圧ショベル」と称することがある)におけるメータリング線図)と同じに設定することが好ましい。
【0045】
本実施の形態における処理装置80は、図3に示すように、主に、目標流量演算部81、目標容量演算部83及び油圧モータ指令値演算部85として機能する。
【0046】
目標流量演算部81は、記憶装置90に記憶された図4のメータリング線図とブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量(パイロット圧Pb)とに基づいてメータアウト流量の目標流量Qoを算出する部分である。図4に示したように、操作装置4Aの操作量(パイロット圧Pb)と目標流量Qoは1対1で対応しているので、操作量(パイロット圧Pb)が分かれば、当該操作量における目標流量Qoを算出することができる。目標流量演算部81で算出された目標流量Qoは目標容量演算部83に出力される。
【0047】
目標容量演算部83は、目標流量演算部81で算出された目標流量Qoと回転数センサ32で検出された実回転数Nとに基づいて、油圧モータ24の容量を制御する際に用いる値を算出する部分である。ここで、目標容量演算部83で行われる演算処理の内容について図を参照して説明する。
【0048】
図5は、操作装置4Aの操作量が最大の状態からブーム下げ操作を終了する場合において、油圧モータ24の容量をq1に固定しつつ発電機25を目標回転数Noで制御したときの実際のメータアウト流量(実流量)Qと目標流量Qoを示す図である。
【0049】
この図に示すように、操作装置4Aによるブーム下げ操作を終了する場合において、油圧モータ24の容量を設定容量q1に固定し、ブームシリンダ3aからのメータアウト流量が目標流量Qo(図5中に点線で示した曲線)に近づくように発電機25を目標回転数Noで制御しようとしても、発電機25と油圧モータ24の慣性モーメントが大きいため応答性が悪く、発電機25の実回転数Nが目標回転数Noまで低下するには時間を要する。そのため、実際には、図5に示すように余剰流量ΔQが発生してブームシリンダ3aの減速性が損なわれる傾向がある。ここで余剰流量ΔQは、メータアウト流量の実流量Q(Q=q1・N)と目標流量Qo(Qo=q1・No)との差であり、関係式で整理すると下記式(1)で表すことができる。
【0050】
ΔQ=Q−Qo=q1・N−Qo ……式(1)
したがって、メータアウト流量を目標流量Qoに近づくように制御するためには、発電機25の実回転数がNである時刻tにおいて下記式(2)が成立するように油圧モータ24の容量をq1からΔqだけ減らせば良い。なお、Δq=q1−q(q:目標容量)とし、Δqは油圧モータ24の傾転角の下げ量に相当する。
【0051】
N・Δq=ΔQ ……式(2)
したがって、式(1)及び式(2)から、Δqは下記式(3)によって表すことができる。すなわち、Δqは、メータアウト流量の実流量Q(Q=q1・N)と目標流量Qoの差を実回転数Nで除したものに相当し、さらには、目標流量Qoを発電機25の実回転数Nで除した値を設定容量q1から減じることで算出することができる。
【0052】
Δq=(q1・N−Qo)/N=q1−Qo/N ……式(3)
そこで、本実施の形態における目標容量演算部83は、上記式(3)を利用して実回転数N及び目標流量Qoから、設定容量q1と目標容量qとの差分である差分容量Δqを算出する。目標容量演算部83で算出された差分容量Δqはモータ指令値演算部85に出力される。
【0053】
なお、このように差分容量Δqを算出した次の処理では、上記式(1)、(3)のq1に「q1−Δq」(すなわち、制御後の油圧モータ24の容量)を代入して新たなΔqを算出する。そして、以降の処理はこれを繰り返す。
【0054】
また、本実施の形態では、油圧モータ24の容量を制御する際に用いる値として、差分容量Δqを算出したが、差分容量Δqに代えて目標容量qを算出してモータ指令値演算部85に出力しても良い。この場合、目標容量qは、上記式(3)より、下記式(4)によって表すことができる。
【0055】
q=Qo/N ……式(4)
モータ指令値演算部85は、目標容量演算部83で演算された差分容量Δqの分だけ可変容量型油圧モータ24の容量を設定容量q1から低減させるための指令値Smを演算し、当該指令値Smをレギュレータ31に出力する部分である。モータ指令値演算部85で演算された指令値Smを入力したレギュレータ31は当該指令値Smに基づいて油圧モータ24の斜板の傾転角を調整し、油圧モータ24の容量はq1−Δqに制御される。
【0056】
なお、このように差分容量Δqを算出して、当該差分容量Δqに基づいて油圧モータ24の容量qを制御する場合には、設定容量q1として最大容量qmaxを利用することが好ましい。このようにすると、最大容量qmaxを基準として油圧モータ24の制御が行われるので回生効率(発電量)を最大にすることができる。
【0057】
また、目標容量演算部83において、差分容量Δqに代えて目標容量qを演算した場合には、可変容量型油圧モータ24の容量を目標容量qに設定するための指令値Sm’を演算してレギュレータ31に出力すれば、先と同様の結果を得ることができる。
【0058】
上記のように構成される動力回生装置において、オペレータによって操作装置4Aを介してブーム下げ操作が行われると、車体コントローラ11は、目標流量演算部81において、圧力センサ20から入力されるパイロット圧Pbに基づいてメータアウト流量の目標流量Qoを算出する。次に、車体コントローラ11は、目標容量演算部83において、目標回転数演算部82から入力される目標流量Qoと、回転数センサ32から入力される実回転数Nとに基づいて、差分容量Δqを算出する。そして、車体コントローラ11は、差分容量Δqに基づいて演算した指令値Smをモータ指令値演算部85を介してレギュレータ31に出力することで、油圧モータ24の容量をq1−Δqの値に制御する。
【0059】
なお、上記式(3)から明らかであるが、差分容量Δqは、発電機25の実回転数Nと目標回転数Noに偏差が生じている場合に発生する値である。そのため、車体コントローラ11は、当該回転数偏差に起因して発生する余剰流量が低減するように油圧モータ24の容量を小さくすることでメータアウト流量を目標流量Qoに近づけても良い。
【0060】
一方、オペレータによって操作装置4Aを介してブーム下げ操作が行われると、チェックバルブ28にパイロット圧Pbが作用して回生回路53が開放され、ブームシリンダ3aにおけるボトム側油圧室55からの戻り油が回生回路53に導入される。なお、本実施の形態では、図2のコントロールバルブ5Aのシンボルから明らかなように、パイロット圧Pbがコントロールバルブ5Aに作用しているときには、ボトム側油圧室55からの戻り油がコントロールバルブ5Aを通過してタンク9に戻るルートは遮断されるので、ボトム側油圧室55内の圧油は全て回生回路53に導入される。
【0061】
このようにブームシリンダ3aからの戻り油が油圧モータ24に導入されると、油圧モータ24及び発電機25に発生する慣性モーメントに起因して余剰流量が生じても、余剰流量が低減するように油圧モータ24の容量qが制御される。これにより、ブームシリンダ3aからのメータアウト流量は、車体コントローラ11によって目標流量Qoに近づくように常に制御されるので、オペレータの操作に対するブームシリンダ3aの応答性を良好に保持することができる。また、本実施の形態では、ボトム側油圧室55から油圧モータ24に至るまでの経路には、流量調整弁等の装置も設置されていない。そのため、この種の装置を通過することで戻り油のエネルギー損失が発生することも抑制できるので、回生回路53による動力回生効率も良好に保持することができる。
【0062】
したがって、本実施の形態によれば、油圧モータ24と発電機25によってブームシリンダ3aからのメータアウト流量を応答性良く制御することができるので、オペレータのブーム下げ操作に対するブームシリンダ3aの応答性と動力回生効率を良好に保持することができる。
【符号の説明】
【0063】
3a ブームシリンダ
4A 操作装置
6 油圧ポンプ
7 エンジン
11 車体コントローラ
15 蓄電装置
24 可変容量型油圧モータ
25 発電機
26 インバータ
28 チェックバルブ
31 レギュレータ
32 回転数センサ
53 回生回路
81 目標流量演算部
82 目標回転数演算部
83 目標容量演算部
84 発電機指令値演算部
85 モータ指令値演算部
90 記憶装置
N 実回転数
No 目標実回転数
Pb パイロット圧
Q メータアウト流量
Qo 目標流量
q 目標容量
q1 設定容量
Δq 差分容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作量に応じた操作信号を出力する操作装置と、この操作装置から出力される操作信号に基づいて駆動される油圧アクチュエータと、エンジンによって駆動され前記油圧アクチュエータに圧油を供給する油圧ポンプとを備える作業機械の動力回生装置において、
前記油圧アクチュエータからの戻り油によって駆動される可変容量型油圧モータと、
この油圧モータに連結された発電機と、
前記油圧アクチュエータからのメータアウト流量の目標流量を前記操作装置の操作量に基づいて算出し、前記メータアウト流量が前記目標流量に近づくように、前記発電機の実回転数と前記目標流量に基づいて前記油圧モータの容量を制御する制御装置とを備えることを特徴とする作業機械の動力回生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の動力回生装置において、
前記制御装置は、
前記油圧モータの容量を所定値に固定したときにおける前記油圧アクチュエータからのメータアウト流量の目標流量を前記操作装置の操作量に基づいて算出し、前記発電機の実回転数及び前記目標流量に基づいて、前記メータアウト流量が前記目標流量に近づくように前記油圧モータの容量を制御することを特徴とする作業機械の動力回生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械の動力回生装置において、
前記制御装置は、
前記油圧モータが最大容量のときにおける前記油圧アクチュエータからのメータアウト流量の目標流量を前記操作装置の操作量に基づいて算出し、前記目標流量を前記発電機の実回転数で除して算出される値の分だけ、前記油圧モータの容量を前記最大容量から低減することを特徴とする作業機械の動力回生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53499(P2013−53499A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194421(P2011−194421)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】