説明

作業機械

【課題】作業機械の走行時かつキャブが上昇位置の時のキャブの振動を抑制する。
【解決手段】作業機械1は、作業機械本体10と、作業機械本体10に変位可能に搭載されたキャブ15と、作業機械本体10とキャブ15とを連結して最下位置および上昇位置にキャブ15を変位させるキャブ昇降装置20と、作業機械本体10に対するキャブ15の位置を検出する位置検出器80と、作業機械本体10に設けられて作業機械本体10を走行させる走行モータ25とを備える。また、作業機械1は、キャブ15が上昇位置であることを位置検出器80が検出した時に(ステップS1)、走行モータ25の回転速度の最大値を制限するコントローラ90(速度制限手段)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械本体に変位可能に搭載されたキャブを備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に従来の作業機械が記載されている。この作業機械では、キャブを高く(又は前方に)変位させることが可能である。特許文献1に記載の作業機械では、キャブが上昇位置にある時の、旋回動作の始動および停止時のキャブの揺れを改善することを図っている(特許文献1の段落[0008])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−256048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の作業機械には次の問題がある。作業機械の走行時には、作業機械本体の振動がキャブに伝わる。特にキャブが上昇位置にあるときにキャブの振動は大きくなる。また、キャブの振動により、作業機械のオペレータの乗り心地が悪化する。
【0005】
そこで本発明は、作業機械の走行時かつキャブが上昇位置の時のキャブの振動を抑制でき、オペレータの乗り心地、安全性、及び操作性を向上できる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の作業機械は、作業機械本体と、前記作業機械本体に変位可能に搭載されたキャブと、前記作業機械本体と前記キャブとを連結し最下位置および上昇位置に前記キャブを変位させるキャブ昇降装置と、前記作業機械本体に対する前記キャブの位置を検出する位置検出器と、前記作業機械本体に設けられ前記作業機械本体を走行させる走行モータと、前記キャブが上昇位置であることを前記位置検出器が検出した時に前記走行モータの回転速度の最大値を制限する速度制限手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
作業機械の走行時かつキャブが上昇位置の時のキャブの振動を抑制でき、オペレータの乗り心地、安全性、及び操作性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】作業機械の全体図である。
【図2】図1に示す作業機械が備える制御装置等を示す制御回路図である。
【図3】図2に示す制御装置の動作のフローチャートである。
【図4】図1に示すキャブ昇降装置およびキャブの固有モード変形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜図4を参照して作業機械1を説明する。
【0010】
作業機械1は、図1に示すように、作業機械本体10に対してキャブ15を変位させることが可能な機械である。作業機械1は、建設機械(油圧ショベル等)、または、建設機械の応用機械(金属リサイクル機等)などである。例えば、作業機械1は、港湾作業における荷物の船倉等への積み込み及び積み下ろし作業を行う機械である。また例えば、作業機械1は、スクラップや鉄材等のトラックの荷台等への積み込み及び積み下ろし作業や、スクラップや鉄材等の集積を行う機械である。作業機械1は、船倉、荷台、又は集積物などを上から見ながら操作しやすいように構成される。
作業機械1は、作業機械本体10と、作業機械本体10に変位可能に搭載されたキャブ15と、作業機械本体10とキャブ15とを連結するキャブ昇降装置20と、作業機械本体10に設けられた走行モータ25と、走行モータ25等を制御する制御装置30(図2参照)とを備える。
【0011】
作業機械本体10は、下部走行体11と、下部走行体11の上方に旋回可能に取り付けられた上部本体12とを備える。下部走行体11は、作業機械1を走行させる部分であり、例えばクローラ式である(ホイール式でも良い)。下部走行体11は、走行モータ25が回転することで走行する。上部本体12には、図示しないブーム及びアームなどが起伏可能に取り付けられる。
【0012】
キャブ15は、作業機械1のオペレータの運転室である。キャブ15は、作業機械本体10の上部本体12上に変位可能に搭載される。キャブ15は、箱状のキャブ本体16と、キャブ本体16を下方から支持するキャブ台17とを備える。
【0013】
キャブ昇降装置20は、作業機械本体10とキャブ15とを連結し、最下位置および上昇位置にキャブ15を変位させる装置である。最下位置とは、作業機械本体10に対するキャブ15の位置のうち最も低い位置である(以下では、作業機械本体10に対するキャブ15の位置を、単に「キャブ15の位置」ともいう)。上昇位置とは、キャブ15の位置のうち最下位置よりも高い位置である。すなわち、上昇位置には、キャブ15の位置のうち最も高い最上位置だけでなく、最下位置と最上位置との間の中段位置(上昇途中位置)も含む。キャブ昇降装置20は例えばリンク式である(後述するように垂直エレベータ式でも良い。
【0014】
また、キャブ昇降装置20は、作業機械本体10の上部本体12に固定された支持部21と、支持部21にそれぞれ取り付けられたリンク部22及び昇降シリンダ23とを備える。支持部21は、作業機械本体10から上方に突出するように上部本体12に固定される。リンク部22は、支持部21の上部とキャブ台17の後部とを連結する、例えば2つの箱状部材である。
【0015】
昇降シリンダ23は、キャブ台17と支持部21とに取り付けられた油圧シリンダである。図2に示す昇降シリンダ23は、ボトム室23bまたはロッド室23aに作動油が供給されることで伸縮する。昇降シリンダ23が伸縮すると、図1に示すリンク部22が支持部21に対して回動する、すなわち、キャブ昇降装置20が屈伸する。その結果、キャブ15が作業機械本体10に対して前後および上下に変位する。
【0016】
走行モータ25は、作業機械本体10の下部走行体11に設けられ、作業機械本体10を走行させる油圧モータ(走行アクチュエータ)である。走行モータ25は、可変容量型であり、斜板の傾転角が変わると容量が変わり、作動油の吸収量が変わる。図2に示す走行モータ25は、メインポンプ44から作動油が供給されることで作動(駆動)する。走行モータ25が作動すると、図示しないギア等を介して図1に示す下部走行体11が作動し、その結果、作業機械1が走行する。
【0017】
制御装置30は、図2に示すように、走行モータ25及び昇降シリンダ23等を制御する装置である。制御装置30は、作動油やパイロット油を供給する圧油供給制御部40と、昇降シリンダ23を制御するシリンダ制御部50と、走行モータ25の容量を制御するモータ容量制御部60と、走行モータ25への作動油の流量等を制御するモータ流量制御部70と、キャブ15の位置を検出する位置検出器80と、各種信号の入出力等を行うコントローラ90とを備える。
【0018】
圧油供給制御部40は、エンジン42と、エンジン42の回転数を指令するエンジン回転数指令スイッチ41と、エンジン42にそれぞれ駆動されるメインポンプ44及びパイロットポンプ48と、メインポンプ44の容量を制御するポンプ容量制御装置45とを備える。
【0019】
エンジン回転数指令スイッチ41は、キャブ15(図1参照)内に設置され、オペレータがエンジン42の回転数を指令するためのスイッチである。エンジン回転数指令スイッチ41は、コントローラ90を介してエンジン42に回転数の指令を出力する。
【0020】
メインポンプ44(ポンプ)は、モータ制御弁75を介して走行モータ25に作動油を供給し、また、シリンダ制御弁55を介して昇降シリンダ23に作動油を供給する。メインポンプ44は、可変容量型の油圧ポンプであり、斜板の傾転角が変わると容量が変わり、作動油の吐出量が変わる。
【0021】
ポンプ容量制御装置45は、メインポンプ44の容量を制御する装置である。ポンプ容量制御装置45は、メインポンプ44の斜板の傾転角を制御する斜板制御装置である。ポンプ容量制御装置45は、例えば、コントローラ90の指令に基づきパイロット油圧を制御する比例弁45aと、比例弁45aに制御されたパイロット油圧に応じてメインポンプ44の傾転角を変えるスプール弁45bとを備える。
【0022】
パイロットポンプ48は、走行レバー装置71、昇降スイッチ装置51、及びポンプ容量制御装置45にパイロット油圧を供給する。
【0023】
シリンダ制御部50は、昇降スイッチ装置51と、昇降スイッチ装置51の操作に応じて昇降シリンダ23を制御するシリンダ制御弁55とを備える。
【0024】
昇降スイッチ装置51は、キャブ15(図1参照)の変位、すなわち、昇降シリンダ23の伸縮を指令する装置である。昇降スイッチ装置51は、キャブ15内に設置され、例えば「上昇」又は「下降」をオペレータが操作するための装置である。昇降スイッチ装置51のスイッチ操作に応じて、昇降スイッチ装置51のパイロット弁51a・51aがシリンダ制御弁55にパイロット油圧を出力する。
【0025】
シリンダ制御弁55は、昇降シリンダ23の動作を制御する弁である。シリンダ制御弁55は、メインポンプ44から昇降シリンダ23に供給される作動油の方向(ロッド室23a側またはボトム室23b側)を、昇降スイッチ装置51から入力されたパイロット油圧に応じて切り換える弁である。シリンダ制御弁55は、例えばパイロット操作式3位置方向切り換え弁である。
【0026】
モータ容量制御部60は、モータ容量切換スイッチ61と、モータ容量切換スイッチ61の操作に応じて走行モータ25の容量を制御するモータ容量制御装置65とを備える。
【0027】
モータ容量切換スイッチ61は、走行モータ25の容量を切り換えることで、走行モータ25の回転速度を切り換える(トルクを切り換える)スイッチである。モータ容量切換スイッチ61は、キャブ15(図1参照)内に設置され、例えば「1速」又は「2速」をオペレータが切り換えるためのスイッチである。モータ容量切換スイッチ61は、コントローラ90を介して、モータ容量制御装置65に指令を出力する。
【0028】
モータ容量制御装置65は、走行モータ25の容量を制御する装置である。モータ容量制御装置65は、モータ容量切換スイッチ61から入力された指令に応じて、走行モータ25の斜板の傾転角を制御する斜板制御装置である。
【0029】
モータ流量制御部70は、走行レバー装置71と、走行レバー装置71の操作に応じて走行モータ25を制御するモータ制御弁75と、走行レバー装置71からモータ制御弁75へ入力されるパイロット油圧を制御する電磁比例弁76・76と、走行レバー装置71が出力するパイロット油圧を計測する圧力センサP1及びP2とを備える。
【0030】
走行レバー装置71は、走行モータ25の回転速度の大きさ、及び、走行モータ25の回転の向き(正転または逆転)を指令する装置である。走行レバー装置71は、キャブ15内に設置され、オペレータに操作される。走行レバー装置71は、レバー操作の向き及びレバー操作量に応じて、モータ制御弁75にパイロット油圧を出力する。走行レバー装置71は、例えば、一対の比例減圧弁であるパイロット弁71a・71aがパイロット油圧を出力する。
【0031】
モータ制御弁75は、走行モータ25に供給する作動油の流量および方向(正転側または逆転側)をパイロット油圧に応じて制御する弁である。モータ制御弁75は、パイロット操作式3位置方向切り換え弁である。モータ制御弁75は、メインポンプ44と走行モータ25との間に設けられる。モータ制御弁75は、正転側パイロット油室75aと逆転側パイロット油室75bとを備える。正転側パイロット油室75aは、正転側パイロット流路72を介して、走行レバー装置71のパイロット弁71aに接続される。逆転側パイロット油室75bは、逆転側パイロット流路73を介して、走行レバー装置71のパイロット弁71aに接続される。モータ制御弁75は、正転側パイロット油室75aと逆転側パイロット油室75bとに作用するパイロット油圧の差圧に応じて制御される。
【0032】
電磁比例弁76は、モータ制御弁75に入力されるパイロット油圧を制御する弁である。電磁比例弁76は、正転側パイロット流路72上および逆転側パイロット流路73上それぞれに設けられる。電磁比例弁76は、コントローラ90から入力される指令に応じて動作する。
【0033】
圧力センサP1は、正転側パイロット流路72のうち、電磁比例弁76の上流側の流路72aの圧力を検出する。圧力センサP2は、逆転側パイロット流路73のうち、電磁比例弁76の上流側の流路73aの圧力を検出する。
【0034】
位置検出器80は、図1に示す作業機械本体10に対するキャブ15の位置を検出する装置である。図2に示す位置検出器80は、検出結果をコントローラ90に出力する。位置検出器80は、キャブ15の複数の上昇位置を検出可能である(「複数の上昇位置」とは、「非連続的な複数の上昇位置」または「連続的な無数の上昇位置」である)。すなわち、位置検出器80は、複数の上昇位置のうちどの位置にキャブ15が位置するかを検出可能である。位置検出器80は、例えば、リミットスイッチ81、近接センサ82、及びアングルセンサ83のうち少なくともいずれかを備える。
【0035】
リミットスイッチ81は、昇降シリンダ23の伸縮位置を検出するセンサである。リミットスイッチ81は、昇降シリンダ23が全縮か否か、すなわち、キャブ15(図1参照)の位置が最下位置か否かを検出する。
【0036】
近接センサ82は、キャブ15の複数の上昇位置を検出できるように、複数個設置される(1つのみ設置しても良い)。近接センサ82は、例えば、昇降シリンダ23の伸縮位置や、図1に示す支持部21に対するリンク部22の位置などを検出する。
【0037】
アングルセンサ83(図2参照)は、作業機械本体10に対するリンク部22の回転角度を検出するセンサである。アングルセンサ83(図2参照)は、支持部21とリンク部22との連結部、又は、キャブ台17とリンク部22との連結部の回転ピンの回転角度を検出する。
【0038】
コントローラ90(速度制限手段)は、図2に示すように、位置検出器80や電磁比例弁76・76等に接続され、各種信号の入力、演算、及び出力などを行う。コントローラ90は、キャブ15(図1参照)が上昇位置であることを位置検出器80が検出した時に、走行モータ25の回転速度の最大値を制限する(詳細は後述)。
【0039】
(動作)
以下、主に図2を参照して、作業機械1(図1参照)の動作を説明する。走行モータ25の回転速度の制御(最大値の制限を除く)を説明した後、走行モータ25の回転速度の最大値の制限について説明する。
【0040】
(走行モータ25の回転速度の制御)
走行モータ25の回転速度の制御は、(ア)モータ制御弁75、(イ)メインポンプ44の容量、(ウ)走行モータ25の容量、または、(エ)エンジン42の回転数の制御により行われる。
【0041】
(ア)モータ制御弁75の制御
走行レバー装置71は、オペレータのレバー操作量に応じたパイロット油圧をモータ制御弁75に出力する。モータ制御弁75は、入力されたパイロット油圧に応じた流量の作動油を走行モータ25へ供給する。走行モータ25は、供給された作動油の流量に応じた回転速度で動作する。
【0042】
(イ)メインポンプ44の容量の制御
コントローラ90は、ポンプ容量制御装置45の比例弁45aに指令を出力する。比例弁45aは、入力された指令に応じたパイロット油圧をスプール弁45bに出力する。スプール弁45bは、入力されたパイロット油圧に応じてメインポンプ44の傾転角(容量)を制御する。メインポンプ44は、ポンプ容量に応じた流量の作動油を走行モータ25へ供給し、この流量に応じた回転速度で走行モータ25が動作する。
【0043】
(ウ)走行モータ25の容量の制御
モータ容量切換スイッチ61は、オペレータのスイッチ操作に応じて、コントローラ90を介してモータ容量制御装置65に指令を出力する。モータ容量制御装置65は、入力された指令に応じて走行モータ25の傾転角(容量)を制御する。走行モータ25は、モータ容量に応じた回転速度で動作する。
【0044】
(エ)エンジン42の回転数の制御
エンジン回転数指令スイッチ41は、オペレータのスイッチ操作(回転数指令)に応じた指令を、コントローラ90を介してエンジン42に出力する。エンジン42は、入力された指令に応じて制御された回転数でメインポンプ44を駆動する。メインポンプ44は回転数に応じた流量の作動油を走行モータ25へ供給し、この流量に応じた回転速度で走行モータ25が動作する。
【0045】
(走行モータ25の回転速度の最大値の制限)
走行モータ25の回転速度の最大値の制限の概略は以下の通りである。
キャブ15(図1参照)が上昇位置であることを位置検出器80が検出した時に、走行モータ25の回転速度の最大値をコントローラ90が制限する(図3のステップS1参照)。この制限は、位置検出器80に検出された上昇位置に応じて行う(図3のステップS2参照)。この制限は、系15・20の固有振動数f1よりも走行加振周波数f2が小さくなるように行われる(図3のステップS3参照)。この制限は、図2に示すモータ制御弁75に入力されるパイロット油圧が所定の油圧以下になるように、電磁比例弁76をコントローラ90が制御することで行われる(図3のステップS4及びS5参照)。なお、この制限は、作業機械1(図1参照)の例えば走行開始時、又は、キャブ15の変位中もしくは変位後などに行われる。
【0046】
ステップS1(図3参照。以下、各ステップについては図3参照)では、キャブ15(図1参照)が最下位置か否かが判断される。この判断は、図2に示す昇降シリンダ23が全縮状態か否かをリミットスイッチ81で検出することで行われる。キャブ15(図1参照)が最下位置ではない時、すなわちキャブ15が上昇位置の時(リミットスイッチ81が例えばOFFの時)は、ステップS2へ進む。キャブ15が最下位置(リミットスイッチ81が例えばON)の時は、ステップS6へ進む。
【0047】
ステップS2では、キャブ15(図1参照)が複数の上昇位置のうちどの上昇位置であるかが位置検出器80で検出される。この検出は、複数個設けた近接センサ82、又はアングルセンサ83で行われる。次に、ステップS3へ進む。
【0048】
ステップS3では、位置検出器80に検出されたキャブ15(図1参照)の上昇位置に応じて、モータ制御弁75に入力されるパイロット油圧の制限値が決定される。以下、パイロット油圧の制限値の条件を説明した後、パイロット油圧の制限値の具体的な決定方法を説明する。
【0049】
(パイロット油圧の制限値の条件)
図1に示すキャブ15とキャブ昇降装置20とで構成される系15・20には、走行加振周波数f2の走行加振力が作業機械本体10から加えられる。この走行加振周波数f2が、この系15・20の固有振動数f1よりも小さくなるように(f2<f1となるように)、パイロット油圧の制限値が決定される。
【0050】
固有振動数f1と、キャブ15の各上昇位置(系15・20の各姿勢)との関係は、解析や実験から把握される。固有振動数f1は、1次の(最も小さい)固有振動数である。例えば、ある(一つの)上昇位置のときのキャブ15の振動には、図4(a)に示す前後モード(固有振動数が例えば約7Hz)と、図4(b)に示す左右モード(固有振動数が例えば約9Hz)とがあるとする。この例では、固有振動数が低い方、すなわち前後モードの固有振動数f1よりも走行加振周波数f2が小さくなるようにする。
【0051】
走行加振周波数f2と、走行モータ25の回転速度(作業機械1の走行速度)との関係は、解析や実験から把握される。なお、走行加振力は、走行モータ25の回転により回転する歯車(図示なし)と、クローラベルト(図示なし)とが噛み込む時などに生じる。
また、走行モータ25の回転速度と、モータ制御弁75に入力されるパイロット油圧との関係は、走行モータ25やモータ制御弁75の特性などに基づいて定まる。
【0052】
(パイロット油圧の制限値の決定)
キャブ15の上昇位置に応じたパイロット油圧の制限値は、以下ように決定される。
コントローラ90には、キャブ15の各上昇位置(複数)と固有振動数f1との関係が予め記憶されている。また、コントローラ90には、走行加振周波数f2とパイロット油圧の制限値との関係が予め記憶されている。そして、位置検出器80からコントローラ90に上昇位置(1つ)が入力される。すると、コントローラ90は、入力された上昇位置に対応する固有振動数f1を読み込み、「固有振動数f1>走行加振周波数f2」を満たす走行加振周波数f2を決定し、決定された走行加振周波数f2に対応するパイロット油圧の制限値を読み込むことで、パイロット油圧の制限値を決定する。
なお、コントローラ90に、キャブ15の各上昇位置(複数)とパイロット油圧の制限値との関係を予め記憶させておいても良い。この場合、コントローラ90は、位置検出器80から入力された上昇位置(1つ)に対応するパイロット油圧の制限値を読み込むことで、パイロット油圧の制限値を決定する。次に、ステップS4へ進む。
【0053】
ステップS4では、図2に示す走行レバー装置71が出力したパイロット油圧が、ステップS3で決定した制限値を超えるか否かが判断される。走行レバー装置71が出力したパイロット油圧は、圧力センサP1又はP2により検出される。検出されたパイロット油圧が制限値を超えない場合、ステップS6へ進む。検出されたパイロット油圧が制限値を超える場合、ステップS5へ進む。
【0054】
ステップS5では、モータ制御弁75に入力されるパイロット油圧が所定の油圧(制限値)以下になるように、電磁比例弁76をコントローラ90が制御する。コントローラ90は、圧力センサP1又はP2により検出されたパイロット油圧に応じて電磁比例弁76に指令を出力する。電磁比例弁76は、正転側パイロット流路72または逆転側パイロット流路73のパイロット油圧を入力された指令に応じて減圧する。具体的には、モータ制御弁75に入力される(実際の)パイロット油圧を、ステップS3で決定した制限値にする。その結果、モータ制御弁75のストローク量が制限され、モータ制御弁75から走行モータ25へ供給される作動油の流量が制限され、走行モータ25の回転速度の最大値が制限される。
【0055】
ステップS6では、走行レバー装置71が出力したパイロット油圧をそのまま(電磁比例弁76を動作させずに)モータ制御弁75に入力する。すなわち、コントローラ90による走行モータ25の回転速度の最大値の制限をしない。走行レバー装置71でのレバー操作の通り走行モータ25を動作させる。
【0056】
(効果)
次に、図1に示す作業機械1による効果を説明する。作業機械1は、作業機械本体10と、作業機械本体10に変位可能に搭載されたキャブ15と、作業機械本体10とキャブ15とを連結して最下位置および上昇位置にキャブ15を変位させるキャブ昇降装置20と、作業機械本体10に対するキャブ15の位置を検出する位置検出器80(図2参照)と、作業機械本体10に設けられて作業機械本体10を走行させる走行モータ25とを備える。
【0057】
(効果1)
作業機械1は、キャブ15が上昇位置であることを図2に示す位置検出器80が検出した時に(図3のステップS1参照)、走行モータ25の回転速度の最大値を制限するコントローラ90(速度制限手段)を備える。よって、作業機械本体10から系15・20に加えられる走行加振周波数f2が、系15・20の固有振動数f1に達しにくい。すなわち、走行加振周波数f2と固有振動数f1とが一致して、系15・20で共振が生じることが抑制される。したがって、作業機械1の走行時、かつ、キャブ15が上昇位置の時の、キャブ15の振動を抑制できる。その結果、作業機械1のオペレータの乗り心地、安全性、及び操作性を向上できる。具体的には、作業機械1の走行時かつキャブ15が上昇位置の時のキャブ15の振動を、作業機械1の走行時かつキャブ15が最下位置の時のキャブ15の振動と例えば同程度に抑制できる。
【0058】
(効果2)
コントローラ90(図2参照)は、キャブ15とキャブ昇降装置20とで構成される系15・20に作業機械本体10から加えられる走行加振周波数f2が、系15・20の固有振動数f1よりも小さくなるように、走行モータ25の回転速度の最大値を制限する(図3のステップS3参照)。よって、作業機械本体10から系15・20に加えられる走行加振周波数f2が、系15・20の固有振動数f1に達することを防ぐことができる。すなわち、走行加振周波数f2と固有振動数f1とが一致して、系15・20で共振が生じることを防ぐことができる。したがって、作業機械1の走行時、かつ、キャブ15が上昇位置の時の、キャブ15の振動をより抑制できる。
【0059】
(効果3)
図2に示す位置検出器80は、キャブ15(図1参照)の複数の上昇位置を検出可能である(図3のステップS2参照)。また、コントローラ90は、位置検出器80に検出された上昇位置に応じて走行モータ25の回転速度の最大値を制限する(図3のステップS3参照)。したがって、走行モータ25の動作速度の最大値を必要以上に制限して、作業機械1の走行速度が遅くなることを抑制できる。
【0060】
(効果4)
作業機械1(図1参照)は、図2に示す走行モータ25に供給する作動油の流量をパイロット油圧に応じて制御するモータ制御弁75と、このパイロット油圧を制御する電磁比例弁76と、を備える。また、コントローラ90は、前記パイロット油圧が所定の油圧以下になるように電磁比例弁76を制御することで走行モータ25の回転速度の最大値を制限する(図3のステップS4及びS5参照)。この構成により、走行モータ25の速度の最大値を確実に制限できる。
【0061】
(効果7〜9)
(a)図1に示すように、キャブ昇降装置20は、キャブ15を変位させる昇降シリンダ23を備える。また、図2に示すように、位置検出器80は、昇降シリンダ23の伸縮位置を検出するリミットスイッチ81を備える。
(b)位置検出器80は、図1に示す作業機械本体10に対するキャブ15の位置を検出する近接センサ82(図2参照)を備える。
(c)図1に示すように、キャブ昇降装置20は、作業機械本体10に固定された支持部21と、支持部21とキャブ15とを連結するリンク部22と、を備える。また、位置検出器80(図2参照)は、作業機械本体10に対するリンク部22の回転角度を検出するアングルセンサ83(図2参照)を備える。
上記(a)、(b)、又は(c)の構成により、キャブ15の位置を確実に検出できる。
【0062】
(変形例1)
上記実施形態では、図2に示すモータ制御弁75に入力されるパイロット油圧が所定の油圧以下になるように電磁比例弁76をコントローラ90が制御することで、走行モータ25の回転速度の最大値を制限した。走行モータ25の回転速度の最大値の制限は、下記(変形例1−1)〜(変形例1−4)のように行っても良い。
【0063】
(変形例1−1)メインポンプ44の容量の制限
コントローラ90は、メインポンプ44の容量が所定の容量(制限値)以下になるようにポンプ容量制御装置45を制御することで、走行モータ25の回転速度の最大値を制限する。コントローラ90は、上述したステップS3(図3参照)と同様に、「走行加振周波数f2<固有振動数f1」を満たすように、メインポンプ44の容量の制限値を決定する(後述する走行モータ25の容量およびエンジン42の回転数それぞれの制限値も同様)。そして、コントローラ90は、メインポンプ44の容量が制限値を超えるような条件になった時、メインポンプ44の容量が例えば制限値になるようにポンプ容量制御装置45に指令を出力する。
【0064】
(効果5)
作業機械1(図1参照)は、走行モータ25に作動油を供給する可変容量型のメインポンプ44(ポンプ)と、メインポンプ44の容量を制御するポンプ容量制御装置45と、を備える。コントローラ90は、メインポンプ44の容量が所定の容量以下になるようにポンプ容量制御装置45を制御することで走行モータ25の回転速度の最大値を制限する。この構成により、走行モータ25の速度の最大値を確実に制限できる。
【0065】
(変形例1−2)走行モータ25の容量の制限
コントローラ90は、走行モータ25の容量が所定の容量(制限値、下限値)以上になるようにモータ容量制御部60を制御することで、走行モータ25の回転速度の最大値を制限する。例えば、モータ容量切換スイッチ61の「1速」が、走行モータ25の容量を制限値以上にする指令であるとする。また、モータ容量切換スイッチ61の「2速」が、走行モータ25の容量を制限値未満にする指令であるとする。ここで、キャブ15(図1参照)が上昇位置の時に、モータ容量切換スイッチ61を「1速」から「2速」に切り換えたとする。この時、コントローラ90は、上記「2速」の指令をモータ容量切換スイッチ61に出力せず、走行モータ25の容量を「1速」に対応する容量のままとする。または、コントローラ90は、走行モータ25の容量が例えば制限値(「1速」と「2速」の中間)になるようにモータ容量制御部60に指令を出力する。
【0066】
(効果6)
作業機械1は、可変容量型の走行モータ25の容量を制御するモータ容量制御装置65を備える。また、コントローラ90は、走行モータ25の容量が所定の容量以上になるようにモータ容量制御装置65を制御することで走行モータ25の回転速度の最大値を制限する。この構成により、走行モータ25の速度の最大値を確実に制限できる。
【0067】
(変形例1−3)エンジン42の回転数の制限
コントローラ90は、エンジン42の回転数が所定の回転数(制限値)以下になるようにエンジン42を制御して、走行モータ25の回転速度の最大値を制限する。この場合も走行モータ25の最大値を確実に制限できる。
【0068】
(変形例1−4)その他
コントローラ90は、上記実施形態および(変形例1−1)〜(変形例1−3)に記載の方法を適宜組み合わせて、走行モータ25の回転速度の制限を行っても良い。
例えば、コントローラ90は、メインポンプ44の容量、走行モータ25の容量、およびエンジン42の回転数に応じて、モータ制御弁75に入力するパイロット油圧の制限値を決定(演算)しても良い。
また例えば、コントローラ90は、モータ制御弁75に入力するパイロット油圧、メインポンプ44の容量、走行モータ25の容量、及びエンジン42の回転数、のうち2以上を制限値以下に制御することで、走行モータ25の回転速度を制限しても良い。
【0069】
(変形例2)
走行モータ25の回転速度の最大値の制限を、図1に示すキャブ15の上昇位置に応じて行わなくても良い。この場合は例えば、キャブ15が上昇位置の時にとりうる固有振動数f1のうち最小の固有振動数f1よりも走行加振周波数f2が小さくなるように走行モータ25の回転速度を制限することが好ましい。
【0070】
(変形例3)
キャブ昇降装置20は垂直エレベータ式でも良い。垂直エレベータ式のキャブ昇降装置20では、上下方向にスライド可能にキャブ15を支持部21が支持する。そして、昇降シリンダ23が伸縮すると、作業機械本体10に対してキャブ15が上下方向に変位する。
【符号の説明】
【0071】
1 作業機械
10 作業機械本体
15 キャブ
20 キャブ昇降装置
21 支持部
22 リンク部
23 昇降シリンダ
25 走行モータ
44 メインポンプ(ポンプ)
45 ポンプ容量制御装置
65 モータ容量制御装置
75 モータ制御弁
76 電磁比例弁
80 位置検出器
81 リミットスイッチ
82 近接センサ
83 アングルセンサ
90 コントローラ(速度制限手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械本体と、
前記作業機械本体に変位可能に搭載されたキャブと、
前記作業機械本体と前記キャブとを連結し、最下位置および上昇位置に前記キャブを変位させるキャブ昇降装置と、
前記作業機械本体に対する前記キャブの位置を検出する位置検出器と、
前記作業機械本体に設けられ、前記作業機械本体を走行させる走行モータと、
前記キャブが上昇位置であることを前記位置検出器が検出した時に、前記走行モータの回転速度の最大値を制限する速度制限手段と、を備える作業機械。
【請求項2】
前記速度制限手段は、前記キャブと前記キャブ昇降装置とで構成される系に前記作業機械本体から加えられる走行加振周波数が、前記系の固有振動数よりも小さくなるように、前記走行モータの回転速度の最大値を制限する、請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記位置検出器は、前記キャブの複数の前記上昇位置を検出可能であり、
前記速度制限手段は、前記位置検出器に検出された前記上昇位置に応じて前記走行モータの回転速度の最大値を制限する、請求項1または2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記走行モータに供給する作動油の流量をパイロット油圧に応じて制御するモータ制御弁と、
前記パイロット油圧を制御する電磁比例弁と、をさらに備え、
前記速度制限手段は、前記パイロット油圧が所定の油圧以下になるように前記電磁比例弁を制御することで前記走行モータの回転速度の最大値を制限する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項5】
前記走行モータに作動油を供給する可変容量型のポンプと、
前記ポンプの容量を制御するポンプ容量制御装置と、をさらに備え、
前記速度制限手段は、前記ポンプの容量が所定の容量以下になるように前記ポンプ容量制御装置を制御することで前記走行モータの回転速度の最大値を制限する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項6】
可変容量型の前記走行モータの容量を制御するモータ容量制御装置をさらに備え、
前記速度制限手段は、前記走行モータの容量が所定の容量以上になるように前記モータ容量制御装置を制御することで前記走行モータの回転速度の最大値を制限する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項7】
前記キャブ昇降装置は、前記キャブを変位させる昇降シリンダを備え、
前記位置検出器は、前記昇降シリンダの伸縮位置を検出するリミットスイッチを備える、請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項8】
前記位置検出器は、前記作業機械本体に対する前記キャブの位置を検出する近接センサを備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項9】
前記キャブ昇降装置は、
前記作業機械本体に固定された支持部と、
前記支持部と前記キャブとを連結するリンク部と、を備え、
前記位置検出器は、前記作業機械本体に対する前記リンク部の回転角度を検出するアングルセンサを備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28926(P2013−28926A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164554(P2011−164554)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】