説明

作業車両のアキュムレータの異常検出方法および装置

【課題】オペレータにより作業車両の走行が開始されるタイミングに合わせて、アキュムレータ内の圧油不足を報知することができるようにすること。
【解決手段】パーキングブレーキスイッチ33による指令内容を判定する第1判定手段51と、作業車両の走行時にアキュムレータ20に蓄えられてあるべき圧油の圧力の基準値よりもアキュムレータ20内の圧力が低いか否かの判定を、第1判定手段51による判定が終了したタイミングで行う第2判定手段52と、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の解除であると第1判定手段51によって判定された場合に、第2判定手段52によりアキュムレータ20内の圧力が基準値よりも低いと判定されたことを、第2判定手段52による判定が終了したタイミングで表示器55およびスピーカ56を制御して報知する報知制御手段53とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシリンダの臨時の油圧源となるアキュムレータを備える作業車両に適用される方法および装置であって、そのアキュムレータにおける圧油不足を検出して報知する作業車両のアキュムレータの異常検出方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンプトラック、ホイールローダ等のホイールを駆動して走行する作業車両において、ステアリングシリンダの油圧源は油圧ポンプである。この油圧ポンプはエンジンの出力を伝達されて駆動されるものであるため、エンジンが何らかの不具合で停止し、これに伴って油圧ポンプが圧油を吐出しなくなると、ステアリングシリンダに圧油が供給できなくなって、ステアリング不能な事態に陥ることになる。また、油圧ポンプに不具合が発生した場合にも同じ事態に陥ることになる。その事態を一時的に回避するため、作業車両はステアリングシリンダの臨時の油圧源となるアキュムレータを備える。つまり、オペレータは、エンジンの不具合またはポンプの不具合が生じた場合に、アキュムレータに蓄えられた圧油によってステアリングを行うことができる期間内に、安全を確保して作業車両を停止させるのである。
【0003】
特許文献1に開示の技術は、アキュムレータ内の圧力を圧力センサで検出し、アキュムレータ内の圧力が基準値以下であることを異常として、ブザーにより報知するようになっている。つまり、アキュムレータを含む油圧回路での油漏れに起因したアキュムレータ内の圧油不足が報知されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−263237号公報(段落0072〜段落0076)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アキュムレータは油圧ポンプの吐出油を供給されて圧油を蓄えるようになっていて、その油圧ポンプはエンジンの出力を伝達されて駆動されるものである。このため、エンジンの始動時点からアキュムレータに十分な圧油が蓄えられるまでに時間が掛かる。したがって、特許文献1に開示の技術は、エンジンの始動時点からアキュムレータ内の圧力が基準値よりも高くなるまでの正常な状態をも異常として扱い、ブザーによる報知を行うことになる。この報知は、油圧回路に油漏れに起因してアキュムレータ内の圧油が不足しているという誤解を招く虞がある。
【0006】
アキュムレータがステアリングシリンダの油圧源として必要になるのは作業車両の走行中であるから、オペレータにとってアキュムレータ内の圧油不足の報知が必要になるタイミングは、作業車両の走行を開始する直前である。このタイミングまでにアキュムレータ内に十分な圧油が蓄えられるならば、特許文献1に開示の技術のような誤解を招きかねない報知を、作業車両の走行が開始されないエンジンの始動直後の段階で行う必要はない。
【0007】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、エンジンの始動後にオペレータが作業車両の走行を開始しようとするタイミングに合わせて、アキュムレータにおける圧油不足を報知することができる走行作業車両のアキュムレータの異常検出方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために本発明に係る作業車両のアキュムレータの異常検出方法および装置は次のように構成されている。
【0009】
〔1〕 本発明に係る作業車両の異常検出方法は、作業車両のパーキングブレーキ装置の作動および解除を指令するパーキングブレーキスイッチと、ステアリングシリンダの臨時の油圧源となるアキュムレータとを備える作業車両に適用され、前記アキュムレータに蓄えられた圧油の不足を検出して報知する作業車両のアキュムレータの異常検出方法であって、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容を判定する第1工程と、作業車両の走行時に前記アキュムレータに蓄えられてあるべき圧油の圧力の基準値よりも前記アキュムレータ内の圧力が低いか否かの判定を、前記第1工程が終了したタイミングで行う第2工程と、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の解除であるという判定結果を前記第1工程で得た場合に、前記アキュムレータ内の圧力が前記基準値よりも低いという判定結果を前記第2工程で得たことを、前記第2工程が終了したタイミングで報知する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
この「〔1〕」に記載の作業車両のアキュムレータの異常検出方法においては、パーキングブレーキスイッチによる指令内容がパーキングブレーキ装置の解除であるという判定結果を第1工程で得た場合に、アキュムレータ内の圧力が基準値よりも低いという判定結果を第2工程で得たことを、第3工程において第2工程が終了したタイミングで報知する。これによって、エンジン始動後にオペレータが走行を開始しようとしてパーキングブレーキ装置を解除するタイミングで、アキュムレータにおける圧油不足を報知することができる。
【0011】
〔2〕 本発明に係る作業車両の異常検出装置は、作業車両のパーキングブレーキ装置の作動および解除を指令するパーキングブレーキスイッチと、ステアリングシリンダの臨時の油圧源となるアキュムレータとを備える作業車両に適用され、前記アキュムレータに蓄えられた圧油の不足を検出して報知する作業車両のアキュムレータの異常検出装置であって、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容を判定する第1判定手段と、作業車両の走行時に前記アキュムレータに蓄えられてあるべき圧油の圧力の基準値よりも前記アキュムレータ内の圧力が低いか否かの判定を、前記第1判定手段による判定が終了したタイミングで行う第2判定手段と、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の解除であると前記第1判定手段によって判定された場合に、前記アキュムレータ内の圧力が前記基準値よりも低いと前記第2判定手段によって判定されたことを、前記第2判定手段による判定が終了したタイミングで報知する報知手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
この「〔2〕」に記載の作業車両のアキュムレータの異常検出装置において、パーキングブレーキスイッチによる指令内容がパーキングブレーキ装置の解除であると第1判定手段によって判定された場合に、アキュムレータ内の圧力が基準値よりも低いと第2判定手段によって判定されたことを、報知手段は第2判定手段による判定が終了したタイミングで報知する。これによって、エンジン始動後にオペレータが走行を開始しようとしてパーキングブレーキ装置を解除するタイミングで、アキュムレータにおける圧油不足を報知することができる。
【0013】
〔3〕 本発明に係る作業車両のアキュムレータの異常検出装置は「〔2〕」に記載の作業車両のアキュムレータの異常検出装置において、前記報知手段は、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の作動であると前記第1判定手段によって判定された場合にも、前記アキュムレータ内の圧力が前記基準値よりも低いと前記第2判定手段によって判定されたことを報知するものであるとともに、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の作動であると前記第1判定手段によって判定された場合に第1態様での報知を行い、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の解除であると前記第1判定手段によって判定された場合に前記第1態様と異なる第2態様での報知を行うものであることを特徴とする。
【0014】
この「〔3〕」に記載の作業車両のアキュムレータの異常検出装置において、報知手段は、第2判定手段によってアキュムレータ内の圧力が基準値よりも低いと判定されたことを、パーキングブレーキスイッチによる指令内容がパーキングブレーキ装置の作動であると第1判定手段によって判定された場合に第1態様で報知し、パーキングブレーキスイッチによる指令内容がパーキングブレーキ装置の解除であると第1判定手段によって判定された場合に第2態様で報知する。つまり、アキュムレータにおける圧油不足を、パーキングブレーキ装置の作動時と解除時に区分して2段階で報知することができる。この結果、エンジンの始動直後にアキュムレータにおける圧油不足の報知が行われても第1態様と第2態様の違いにより誤解を招かないようにすることができる。また、パーキングブレーキ装置を解除していない状態において、エンジンの始動時点からアキュムレータに十分な圧油が蓄えられるはずの時間が経過しているのにもかかわらず、報知手段により第1態様の報知が継続した場合に、オペレータは、アキュムレータを含む油圧回路に油漏れが生じてアキュムレータへの蓄圧が不能になっていることを認識できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る作業車両のアキュムレータの異常検出方法および装置によれば、エンジンの始動後にオペレータが作業車両の走行を開始しようとしてパーキングブレーキ装置の解除するタイミングで、アキュムレータにおける圧油不足を報知できる。これによって、オペレータによりエンジンが始動されてからアキュムレータに十分な圧油が蓄えられる前に作業車両を走行させようとした場合、および、油圧回路の油漏れに起因してアキュムレータに十分な圧油が蓄えられていない状態でオペレータが作業車両を走行させようとした場合に、アキュムレータにおける圧油不足を報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るアキュムレータの異常検出装置が適用され、ステアリング装置およびパーキングブレーキ装置を含む油圧装置である。
【図2】図1に示したコントローラにより行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図2に示した処理により実現されるアキュムレータ圧力、パーキングブレーキスイッチの状態、表示器の状態、スピーカの状態および報知内容の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すステアリング装置10は、ダンプトラック、ホイールローダ等の作業車両に備えられるものである。このステアリング装置10は、エンジン11と、このエンジン11の出力を伝達されて駆動される油圧ポンプ12と、作業車両の車輪(図示省略)の操舵を行うステアリングシリンダ14と、このステアリングシリンダ14と油圧ポンプ12との間に介在して設けられ、油圧ポンプ12からステアリングシリンダ14に供給される圧油の流れの方向を制御するステアリングバルブ15とを備える。ステアリングバルブ15の弁位置は中立位置から相反する2方向に変化可能である。この弁位置がその2方向のうちの一方に変化した場合には油圧ポンプ12の吐出油がステアリングシリンダ14のボトム室に導かれ、ステアリングシリンダ14のロッド室内の圧油が作動油タンク13に導かれてステアリングシリンダ14は伸長し、一方とは逆の他方に変化した場合には、油圧ポンプ12の吐出油がステアリングシリンダ14のロッド室に導かれ、ステアリングシリンダ14のボトム室内の圧油が作動油タンク13に導かれてステアリングシリンダ14は収縮する。このステアリングシリンダ14の伸縮に伴い車輪の操舵角が変化する。
【0018】
ステアリングバルブ15の弁位置は、作業車両の運転室(図示省略)に設けられたハンドル16の回転方向に応じて変化するようになっている。ハンドル16からはステアリングシャフト17が延びて、油圧モータ18の回転軸に伝動可能に結合している。この油圧モータ18には、油圧ポンプ12の吐出油がステアリングバルブ15を通じて供給され、これにより、ハンドル16の操作を補助する助力が発生するようになっている。
【0019】
ステアリング装置10はさらに、アキュムレータ20を備える。このアキュムレータ20は、油圧ポンプ12の吐出油を供給されて圧油を蓄えるものであり、ステアリングシリンダ14の臨時の油圧源となるものである。
【0020】
また、図1に示すパーキングブレーキ装置30は、作業車両の車輪を制動する方向に常時付勢されたキャリパ(図示省略)と、車輪の制動を解除する方向にキャリパを駆動するキャリパシリンダ31と、油圧ポンプ12とキャリパシリンダ31の間に介在して設けられたブレーキ解除バルブ32(電磁弁)とを備える。ブレーキ解除バルブ32は電流を与えられて作動し、このとき、油圧ポンプ12の吐出油をキャリパシリンダ31に導く。油圧ポンプ12の吐出油がブレーキ解除バルブ32を通じてキャリパシリンダ31に導かれると、キャリパシリンダ31はキャリパをバネに抗して駆動し、これによってキャリパによる車輪の制動が解除される。なお、前述のアキュムレータ20は、キャリパシリンダ31の臨時の油圧源も兼ねる。
【0021】
作業車両の運転室には、作業車両のパーキングブレーキ装置30の作動および解除を指令するパーキングブレーキスイッチ33と、このパーキングブレーキスイッチ33に電気的に接続されたコントローラ40とが設けられている。パーキングブレーキスイッチ33のオン状態は、パーキングブレーキ装置30の作動、すなわちキャリパによる車輪の制動を指令する状態であり、パーキングブレーキスイッチ33のオフ状態はパーキングブレーキ装置30の解除、すなわちキャリパによる車輪の制動の解除を指令する状態である。コントローラ40はCPU、ROM、RAMを備えるマイクロコンピュータであり、制御プログラムにより設定された手段として、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容を、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態かオフ状態かに基づき判定する第1判定手段51を備え、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の解除であると第1判定手段51によって判定された場合、すなわちパーキングブレーキスイッチ33のオフ状態と判定された場合に、ブレーキ解除バルブ32に電流を与え、パーキングブレーキ装置30(キャリパ)による車輪の制動を解除する。
【0022】
本実施形態に係る異常検出装置50(2点鎖線)は、緑色、黄色、赤色で点灯可能な表示器55と、スピーカ56とを備える。これらは前述のコントローラ40により制御されるものであり、その制御の詳細は後述する。また、異常検出装置50はさらに、アキュムレータ20内の圧力を圧力検出信号(電気信号)に変換してコントローラ40に出力する圧力センサ54を備える。
【0023】
異常検出装置50はさらに、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容を判定する前述の第1判定手段51と、作業車両の走行時にアキュムレータ20に蓄えられてあるべき圧油の圧力の基準値よりもアキュムレータ20内の圧力が低いか否かの判定を、コントローラ40に入力された圧力センサ54からの圧力検出信号に基づいて行う第2判定手段52と、第1判定手段51による判定の結果および第2判定手段52による判定の結果に基づき表示器55およびスピーカ56を制御する報知制御手段53とを備える。第2判定手段52は、第1判定手段51による判定が終了したタイミングで、アキュムレータ20内の圧力の判定を行うようになっている。第2判定手段52および報知制御手段53は、第1判定手段51と同じく制御プログラムにより設定された手段であってコントローラ40に設けられている。
【0024】
報知制御手段53と表示器55とスピーカ56は、第2判定手段52によりアキュムレータ20内の圧力が基準値よりも低いと判定されたことを、第2判定手段52による判定が終了したタイミングで報知する報知手段を構成している。具体的には、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動である(パーキングブレーキスイッチ33がオン状態である)と第1判定手段51によって判定された場合に、アキュムレータ20内の圧力が基準値よりも低いと第2判定手段52によって判定されたことの報知を、スピーカ56による警告音の出力を行わずに表示器55を黄色で点灯させる第1態様で行うようになっている。また、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の解除である(パーキングブレーキスイッチ33がオフ状態である)と第1判定手段51によって判定された場合に、アキュムレータ20内の圧力が基準値よりも低いと第2判定手段52によって判定されたことの報知を、スピーカ56に警告音を出力させながら表示器55を赤色で点灯させる第2態様で行うようになっている。
【0025】
さらに、報知手段は、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動である(パーキングブレーキスイッチ33がオン状態である)と第1判定手段51によって判定された場合に、アキュムレータ20内の圧力が基準値以上であると第2判定手段52によって判定されたことの報知を、スピーカ56による音声出力を行わずに表示器55を緑色で点灯させる第3態様で行うようになっている。
【0026】
このように構成された本実施形態に係る異常検出装置50の動作について、図2,図3を用いて次の「(1)」〜「(4)」で説明する。
【0027】
(1) 作業車両を走行させる前のエンジン11の始動直後の段階においては、パーキングブレーキスイッチ33はオン状態であって、アキュムレータ20は十分な圧油を蓄える前の状態である。この状態における異常検出装置50の動作について、はじめに説明する。
【0028】
エンジン11の始動とともにコントローラ40が起動すると、コントローラ40の第1判定手段51はステップS1において、パーキングブレーキスイッチ33の状態がオンかオフかの判定、すなわち、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動であるか解除であるかの判定を行う。今回はエンジン11の始動直後であってパーキングブレーキスイッチ33はオン状態であるため、第1判定手段51はステップS1において、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態、すなわちパーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動である、と判定する(ステップS1で「オン」)。
【0029】
ステップS1の後、コントローラ40の第2判定手段52はステップS2において、アキュムレータ20内の圧力が基準値未満か以上かの判定、すなわち、アキュムレータ20内に十分な圧油が蓄えられているか否かの判定を行う。今回はエンジン11の始動直後であり、アキュムレータ20は十分な圧油を蓄えていないため、第2判定手段52はステップS2において、アキュムレータ20内の圧力が基準値未満であると判定する(ステップS2で「基準値未満」)。
【0030】
そして、ステップS1,S2での判定の結果に基づき、報知制御手段53はステップS4において、スピーカ56に警告音を出力させることなく表示器55を黄色に点灯させる。つまり、アキュムレータ20における圧油不足が第1態様でオペレータに報知される。
【0031】
ステップS4の後にルーチンはステップS1に戻る。その後、パーキングブレーキスイッチ33のオン状態であってアキュムレータ20内の圧力が基準値以上となるまでの間、すなわちアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられるまでの間は、「ステップS1→ステップS2→ステップS4」のルーチンが繰り返され、これによってスピーカ56による警告音の出力が行われない状態で表示器55が黄色に点灯した状態(第1態様での報知状態)が継続される。
【0032】
「(1)」で述べた動作をまとめると、図3に示すように、アキュムレータ20内の圧力が基準値未満の異常圧力であって、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態である場合には、スピーカ56がオフ状態で表示器55が黄色に点灯した状態となり、これによってオペレータに対し軽警告が行われる、ということになる。
【0033】
(2) アキュムレータ20を含む油圧回路が正常であれば、エンジン11の始動時点からしばらくすると、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられ、これに伴ってアキュムレータ20内の圧力は基準値以上の状態となる。この状態において、「(1)」に引き続きパーキングブレーキスイッチ33がオン状態に維持された場合の異常検出装置50の動作について次に説明する。
【0034】
「(1)」で述べたようにステップS4の後にルーチンはステップS1に戻る。今回も「(1)」と同じく、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態であるので、第1判定手段51はステップS1において、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態、すなわちパーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動である、と判定する(ステップS1で「オン」)。
【0035】
また、今回はアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられているため、ステップS1の次に第2判定手段52はステップS2において、アキュムレータ20内の圧力が基準値以上である、と判定する(ステップS2で「基準値以上」)。
【0036】
そして、ステップS1,S2での判定結果に基づき、報知制御手段53はステップS3において、スピーカ56に警報音を出力させることなく表示器55を緑色に点灯させる。つまり、報知の態様が、表示器55を黄色させる第1態様から、表示器55を緑色に点灯させる第3態様に切り換わる。これによって、オペレータはアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられたことを知ることができる。
【0037】
ステップS4の後にルーチンはステップS1に戻る。その後、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態であってアキュムレータ20内の圧力が基準値以上の状態が継続すれば、すなわちアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられた状態が継続すれば、「ステップS1→ステップS2→ステップS3」のルーチンが繰り返され、これによってスピーカ56による警告音の出力が行われない状態で表示器55が緑色に点灯した状態(第3態様での報知状態)が継続される。
【0038】
「(2)」で述べた動作をまとめると、図3に示すように、アキュムレータ20内の圧力が基準値以上の正常圧力となった状態であって、パーキングブレーキスイッチ33がオン状態の場合には、スピーカ56がオフ状態で表示器55が緑色に点灯した状態となり、これによってアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられた正常であることがオペレータに対して報知される、ということになる。
【0039】
(3) 「(2)」で述べたようにエンジン11の始動時点からしばらくすると、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられ、これに伴ってアキュムレータ20内の圧力は基準値以上の状態となるのだが、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられる前にオペレータが作業車両の走行を開始しようとしてパーキングブレーキスイッチ33をオフしてしまう場合が考えられる。また、油漏れが原因でアキュムレータ20による蓄圧が不可能であるにもかかわらず、オペレータが作業車両の走行を開始しようとしてパーキングブレーキスイッチ33をオフしてしまう場合も考えられる。これら場合の異常検出装置50の動作について次に説明する。
【0040】
「(2)」で述べたようにステップS4の後にルーチンはステップS1に戻る。今回は「(2)」と異なり、パーキングブレーキスイッチ33がオフ状態であるので、第1判定手段51はステップS1において、パーキングブレーキスイッチ33がオフ状態、すなわちパーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の解除である、と判定する(ステップS1で「オフ」)。
【0041】
また、今回はアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられる前、または、アキュムレータ20による蓄圧が不可能な状態であるため、ステップS1の次に第2判定手段52はステップS5において、アキュムレータ20内の圧力が基準値未満である、と判定する(ステップS5で「基準値未満」)。
【0042】
そして、ステップS1,S5での判定結果に基づき、報知制御手段53はステップS7において、スピーカ56に警告音を出力させつつ表示器55を赤色に点灯させる。つまり、報知の態様が、スピーカ56に警告音の出力させることなく表示器55を黄色で点灯させる第1態様から、スピーカ56に警告音を出力させつつ表示器55を赤色に点灯させる第2態様に切り換わる。これによって、オペレータはアキュムレータ20における圧油不足しており、走行を行ってはいけない状態であることを認識できる。
【0043】
ステップS7の後にルーチンはステップS1に戻る。その後、パーキングブレーキ装置30のオフ状態であってアキュムレータ20内の圧力が基準値未満である間は、「ステップS1→ステップS5→ステップS7」のルーチンが繰り返され、これによってスピーカ56による警告音の出力が行われつつ表示器55が赤色に点灯した状態(第2態様での報知状態)が継続される。
【0044】
「(3)」で述べた動作をまとめると、図3に示すように、アキュムレータ20内の圧力が基準値未満の異常圧力な状態であって、パーキングブレーキスイッチ33がオフ状態の場合には、スピーカ56がオンした状態で表示器55が赤色に点灯した状態となり、これによってオペレータに対し重警告が行われる、ということになる。
【0045】
(4) 前述のようにアキュムレータ20を含む油圧回路が正常であれば、エンジン11の始動時点からしばらくすると、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられ、これに伴ってアキュムレータ20内の圧力は基準値以上の状態となる。この状態において、パーキングブレーキスイッチ33がオフされた場合の異常検出装置50の動作について次に説明する。
【0046】
今回はパーキングブレーキスイッチ33がオフ状態であるので、第1判定手段51はステップS1において、パーキングブレーキスイッチ33がオフ状態、すなわちパーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動である、と判定する(ステップS1で「オフ」)。
【0047】
また、今回はアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられているため、ステップS1の次に第2判定手段52はステップS5において、アキュムレータ20内の圧力が基準値以上である、と判定する(ステップS5で「基準値以上」)。
【0048】
そして、ステップS1,S5での判定結果に基づき、報知制御手段53はスピーカ56に警告音の出力を行わせることなく表示器55を消灯状態とする(ステップS6)。
【0049】
ステップS6の後にルーチンはステップS1に戻る。その後、パーキングブレーキ装置30のオフ状態であってアキュムレータ20内の圧力が基準値以上の状態が維持されていれば、すなわちアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられた状態が維持されていれば、「ステップS1→ステップS2→ステップS6」のルーチンが繰り返され、これによってスピーカ56が警告音を出力されることなく表示器55が消灯した状態が継続される。
【0050】
「(4)」で述べた動作をまとめると、図3に示すように、アキュムレータ20内の圧力が基準値以上の正常圧力となった状態であって、パーキングブレーキスイッチ33がオフ状態の場合には、表示器55が消灯するとともにスピーカ56がオフし、これによってアキュムレータ20内の圧力に関して無報知の状態になる、ということになる。
【0051】
このようにアキュムレータ20内の圧力に関して無報知な状態になる場合とは、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられた後にパーキングブレーキスイッチ33がオフされた場合、すなわち「ステップS3→ステップS1→ステップS5→ステップS6」のルーチンが行われる場合と、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられる前にパーキングブレーキスイッチ33がオフされたものの、その後、アキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられた場合、すなわち「ステップS7→ステップS1→ステップS5→ステップS6」のルーチンが行われる場合である。
【0052】
前述の「(1)」〜「(4)」で説明した動作は、オペレータが作業車両の走行を開始しようとしてパーキングブレーキスイッチ33を操作する前後のことであるが、図2に示すルーチンは作業車両の走行中にも行われる。作業車両の走行中はパーキングブレーキスイッチ33が解除された状態であり、この状態においてアキュムレータ20内の圧力が基準値未満に低下した場合は、スピーカ56に警報音を出力させつつ表示器55を赤色に点灯させる第2態様の報知が行われることになる(ステップS1→ステップS5→ステップS7)。
【0053】
なお、図2に示ステップS1,S5,S7はそれぞれ、本発明に係る作業車両の異常検出方法における第1工程、第2工程、第3工程のそれぞれに相当する。
【0054】
本実施形態に係る異常検出装置50によれば、次の効果を得られる。
【0055】
本実施形態に係る異常検出装置50においては、第1判定手段51によりパーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の解除であると判定された場合に、第2判定手段52によりアキュムレータ20内の圧力が基準値よりも低いと判定されたことを、報知手段の表示器55は第2判定手段52による判定が終了したタイミングで報知する。これによって、オペレータが走行を開始しようとしてパーキングブレーキ装置30を解除するタイミングで、アキュムレータ20における圧油不足を報知することができる。つまり、オペレータによりエンジン11が始動されてからアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられる前に作業車両を走行させようとした場合、および、油圧回路の油漏れに起因してアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられていない状態でオペレータが作業車両を走行させようとした場合に、アキュムレータ20における圧油不足を報知することができる。
【0056】
本実施形態に係る異常検出装置50において、報知手段(報知制御手段53、表示器55、スピーカ56)は、第2判定手段52によってアキュムレータ20内の圧力が基準値よりも低いと判定されたことを、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の作動であると第1判定手段51によって判定された場合に第1態様(表示器55の黄点灯およびスピーカ56のオフ)で報知し、パーキングブレーキスイッチ33による指令内容がパーキングブレーキ装置30の解除であると第1判定手段51によって判定された場合に第2態様(表示器55の赤点灯およびスピーカ56による警告音の出力)で報知する。つまり、アキュムレータ20における圧油不足を、パーキングブレーキ装置30の作動時と解除時に区分して2段階で報知することができる。この結果、エンジン11の始動直後にアキュムレータ20における圧油不足の報知が行われても第1態様と第2態様の違いにより誤解を招かないようにすることができる。また、パーキングブレーキ装置30が解除されていない状態において、エンジン11の始動時点からアキュムレータ20に十分な圧油が蓄えられるはずの時間が経過しているのにもかかわらず、報知手段により第1態様の報知が継続した場合に、オペレータは、アキュムレータ20を含む油圧回路に油漏れが生じてアキュムレータへの蓄圧が不能になっていることを認識できる。
【符号の説明】
【0057】
10 ステアリング装置
11 エンジン
12 油圧ポンプ
13 作動油タンク
14 ステアリングシリンダ
15 ステアリングバルブ
16 ハンドル
17 ステアリングシャフト
18 油圧モータ
20 アキュムレータ
30 パーキングブレーキ装置
31 キャリパシリンダ
32 ブレーキ解除バルブ
33 パーキングブレーキスイッチ
40 コントローラ
50 異常検出装置
51 第1判定手段
52 第2判定手段
53 報知制御手段
54 圧力センサ
55 表示器
56 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両のパーキングブレーキ装置の作動および解除を指令するパーキングブレーキスイッチと、ステアリングシリンダの臨時の油圧源となるアキュムレータとを備える作業車両に適用され、前記アキュムレータに蓄えられた圧油の不足を検出して報知する作業車両のアキュムレータの異常検出方法であって、
前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容を判定する第1工程と、
作業車両の走行時に前記アキュムレータに蓄えられてあるべき圧油の圧力の基準値よりも前記アキュムレータ内の圧力が低いか否かの判定を、前記第1工程が終了したタイミングで行う第2工程と、
前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の解除であるという判定結果を前記第1工程で得た場合に、前記アキュムレータ内の圧力が前記基準値よりも低いという判定結果を前記第2工程で得たことを、前記第2工程が終了したタイミングで報知する第3工程と
を含むことを特徴とする作業車両のアキュムレータの異常検出方法。
【請求項2】
作業車両のパーキングブレーキ装置の作動および解除を指令するパーキングブレーキスイッチと、ステアリングシリンダの臨時の油圧源となるアキュムレータとを備える作業車両に適用され、前記アキュムレータに蓄えられた圧油の不足を検出して報知する作業車両のアキュムレータの異常検出装置であって、
前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容を判定する第1判定手段と、
作業車両の走行時に前記アキュムレータに蓄えられてあるべき圧油の圧力の基準値よりも前記アキュムレータ内の圧力が低いか否かの判定を、前記第1判定手段による判定が終了したタイミングで行う第2判定手段と、
前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の解除であると前記第1判定手段によって判定された場合に、前記アキュムレータ内の圧力が前記基準値よりも低いと前記第2判定手段によって判定されたことを、前記第2判定手段による判定が終了したタイミングで報知する報知手段と
を備えることを特徴とする作業車両のアキュムレータの異常検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両のアキュムレータの異常検出装置において、
前記報知手段は、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の作動であると前記第1判定手段によって判定された場合にも、前記アキュムレータ内の圧力が前記基準値よりも低いと前記第2判定手段によって判定されたことを報知するものであるとともに、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の作動であると前記第1判定手段によって判定された場合に第1態様での報知を行い、前記パーキングブレーキスイッチによる指令内容が前記パーキングブレーキ装置の解除であると前記第1判定手段によって判定された場合に前記第1態様と異なる第2態様での報知を行うものである
ことを特徴とする作業車両のアキュムレータの異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23105(P2013−23105A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160889(P2011−160889)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】