説明

作業車両

【課題】簡単な構成で作業車両の姿勢変化を抑制する。
【解決手段】左右一対の前輪(6,6)及び後輪(7,7)を設けた四輪構成の作業車両であって、これら左右前輪(6,6)及び左右後輪(7,7)をそれぞれ上下動可能に支持する上下動支持機構を設け、これらの対角線上に配置されている左右前輪(6,6)、左右後輪(7,7)が互いに相反する方向に上下動させる上下動連繋手段(35,37,38)を設ける。
前記構成によると、上下動支持機構により上下動自在に支持されている左右前輪(6,6)のいずれかが上下動すると、この対角線上に配置されている左右後輪(7,7)のいずれかが上下動連繋手段(35,37,38)により互いに相反する方向に上下動し、作業車両の姿勢変化を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機、収穫機等に利用する作業車両の車輪上下動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用田植機のサスペンション機構において、フロントアクスルケース内にキングピンの上部外周面にサスペンションバネを巻装し、サスペンションバネを前輪駆動軸よりも上方位置に配置し、前輪を上下動自在に支持たものは公知である(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−274135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術では、フロントアクスルケース内にキングピンの上部外周面にサスペンションバネを巻装して、左右前輪をそれぞれ別個に上下動させて、車体の揺れを局部的に抑制するものであり、その効果も左右前輪個々に限定されたものであった。
【0004】
そこで、この発明は、左右前輪及び左右後輪を具備する四輪型の作業車両において、これら四車輪を関連的に上下動して作業車両の揺れを大幅に抑制しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、左右一対の前輪(6,6)及び後輪(7,7)を具備する四輪構成の作業車両であって、これら左右前輪(6,6)及び左右後輪(7,7)をそれぞれ上下動可能に支持する上下動支持機構を設け、これらの対角線上に配置されている左右前輪(6,6)及び左右後輪(7,7)が互いに相反する方向に上下動する上下動連繋手段(35,37,38)を設けたことを特徴とする作業車両とする。
【0006】
前記構成によると、上下動支持機構により上下動自在に支持されている左右前輪(6,6)のいずれかが上下動すると、この対角線上に配置されている左右後輪(7,7)のいずれかが上下動連繋手段(35,37,38)により互いに相反する方向に上下動する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明は、簡単な構成により作業車両の姿勢変化を抑えることができ、走行操縦性及び走行安定性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1〜図3には、この発明を具備した6条植え乗用田植機が図示されている。走行車両1の後側部には昇降用リンク装置2により作業装置の一種である苗植付装置3を連結し、走行車両1は駆動輪である左右一対の前輪6,6及び後輪7,7を有する四輪駆動車両とし、全体を乗用田植機に構成している。
【0009】
左右メインフレーム10,10の前側端部にはミッションケース11をボルトにより取り付け、左右メインフレーム10,10上にはゴムマウントを介してエンジン12を搭載し、ミッションケース11の例えば左側壁面に前進速及び後進速を無段変速する油圧式無段変速装置HSTをボルトにより一体的に組み付けている。
【0010】
左右メインフレーム10,10の前側部からステアリング軸14を上側に向けて突設し、ステアリング軸14の上端部にステアリングハンドル16を取り付け、ステアリングハンドル16の下方部位に操作パネル17を設けている。左右メインフレーム10,10の上方にはフロアとなる合成樹脂製ステップが一体形成されている機体カバー19を取り付け、エンジン12の上方部位に操縦席20を設置しいる。
【0011】
また、図3に示すように、ミッションケース11の前側部から左右フロントアクスルケース21,21を左右両側に向けて延出し、左右フロントアクスルケース21,21の左右両側部に縦軸回りに回動可能で且つ上下動自在に左右前輪支持ケース22,22を取り付け、左右前輪支持ケース22,22の下端部に左右前輪6,6を支架している。
【0012】
次に、図4により左右前輪6,6の支持構成について説明する。左右フロントアクスルケース21,21内には左右前輪駆動軸23,23を軸架し、左右フロントアクスルケース21,21の左右端部には左右縦筒体部21a,21aを設け、この左右縦筒体部21a,21aに左右前輪支持ケース22,22を嵌合し、縦軸回りに回動自在で、且つ、上下動自在に支持している。左右前輪支持ケース22,22内には左右第二前輪駆動軸24,24を軸架し、左右前輪支持ケース22,22の下部には左右前輪軸6a,6aを介して左右前輪6,6を支架している。
【0013】
また、この左右第二前輪駆動軸24,24の上部を縦筒体部21a,21aに挿入し、左右前輪駆動軸23,23側のベベルギヤG1と左右第二前輪駆動軸24,24に上下動自在にスプライン嵌合した第二ベベルギヤG2とを噛み合わせ、左右第二前輪駆動軸24,24の下端部のベベルギヤG3と左右前輪軸6a,6aのベベルギヤG4,G4とを噛み合わせている。また、縦筒体部21a,21aの上部空間筒部22a,22aにバネ25,25を内装し、左右第二前輪駆動軸24,24を下方に押圧付勢し、左右前輪支持ケース22,22が上下動しても左右前輪7,7に動力を伝達するように構成している。
【0014】
また、図3に示すように、左右メインフレーム10,10の後側端部に横フレーム10aを連結し、この横フレーム10aに設けたローリング軸30にケース連結フレーム28をロワーリンク自在に支持し、このケース連結フレーム28の左右両側部に左右後輪伝動ケース29,29を支持している。
【0015】
また、左右メインフレーム10,10の後端部には左右縦フレーム10g,10gを立設し、左右縦フレーム10g,10gに前記昇降用リンク装置2を上下回動自在に支持している。
【0016】
エンジン12の回転動力をベルト伝動装置31,31を介して油圧式無段変速装置HSTの入力軸に伝達し、油圧式無段変速装置HSTにより前後進切替及び前進無段変速、後進無段変速し、次いで、出力軸を経てミッションケース11内のギヤ式変速装置、デフ機構に伝達うる。次いで、ミッションケース11の左右両側部から前記左右フロントアクスルケース21,21内の左右前輪駆動軸23,23に伝達し、更に、左右ベベルギヤG1,G1、左右ベベルギヤG2,G2、左右第二前輪伝動軸24,24、左右ベベルギヤG3,G3、左右ベベルギヤG4,G4を経て左右前輪6,6に伝達する。
【0017】
また、ミッションケース11内のデフ機構を経由した走行動力を、左右後輪サイドクラッチ機構、左右後輪伝動軸32,32を経て左右後輪伝動ケース29,29に伝達し、左右後輪伝動ケース29,29内の減速機構を経て左右後輪7,7に伝達する構成である。
【0018】
また、図1に示すように、ケース連結フレーム28には左右後輪伝動ケース29,29を左右方向の中間伝動軸33,33回りに上下回動自在に支持し、左右縦フレーム10g,10gから左右後輪ダンパーフレーム34,34を後側に向けて延出し、この左右後輪ダンパーフレーム34,34と左右後輪伝動ケース29,29の間に左右後輪ダンパー35,35を介装している。また、左右メインフレーム10,10の前側部からから延出している左右前輪ダンパーフレーム36,36と左右前輪支持ケース22,22の上端部間に、左右前輪ダンパー37,37を介装している。
【0019】
また、図5(A)に示すように、左前輪ダンパー37と右後輪ダンパー35とを油路38aを介して接続し、また、右前輪ダンパー37と左後輪ダンパー35とを油路を38bを介して接続している。
【0020】
前記構成によると、図5(B)に示すように、例えば、左前輪6が圃場の凸部に乗り上げ、左前輪支持ケース22が上方に押し上げられると、左前輪ダンパー37のピストン部が衝撃を弱めながら上方に移動し、左前輪ダンパー37のオイルを油路38aを経由して右後輪ダンパー35に送り、右後輪伝動ケース24及び右後輪7を下方に回動し、走行車両1の右側後部を持ち上げる。従って、走行車両1のピッチングを少なくし乗り心地を良くすることができる。
【0021】
また、左右前輪ダンパー37,37及び左右後輪ダンパー35,35を次のように作動するように構成してもよい。油路38a,38bに油圧ポンプ(図示省略)から圧油の送られる油路を切替弁(図示省略)を介して接続する。そして、乗用田植機を超低速で走行する場合に、油圧式無段変速装置HSTを操作する主変速レバー39(図1に示す)の超低速位置への操作をレバー検出器(図示省略)により検出すると、前記切替弁(図示省略)を開調節して左右前輪ダンパー37,37側を閉鎖状態で左右後輪ダンパー35,35に接続状態となり、前記油圧ポンプ(図示省略)の圧油を左右後輪ダンパー35,35に送るように構成する。
【0022】
前記構成によると、左右後輪伝動ケース29,29及び左右後輪7,7が下方に回動し、車体後部の地上高を高くすることができ、乗用田植機をトラックに積み込む場合に、前上り姿勢を抑制し、楽に積み込むことができる。
【0023】
なお、乗用田植機の所定角度以上の前上り姿勢を傾斜角度検出器により検出すると、左右後輪7,7を押し下げるように構成しても同様の効果が期待できる。
また、油圧式無段変速装置HST操作用の主変速レバー39(図1に示す)の後進位置への操作を、レバー検出器(図示省略)により検出すると、前記切替弁(図示省略)を切り替えて、前記油圧ポンプ(図示省略)の圧油を左右前輪ダンパー37,37に送り込み、左右前輪6,6を下方に移動し車体前側部を上昇させたり、あるいは、左右後輪ダンパー35,35から圧油を逃がし、左右後輪7,7を上昇させ車体後側部を下げるように構成してもよい。このようにすることにより、乗用田植機の後進時の機体の前上り衝撃を押さえることができる。
【0024】
また、乗用田植機の超低速での後進走行時に、左右後輪7,7を上昇し車体後側部を下げるように構成してもよい。このようにすることにより、乗用田植機の下り坂走行時において、車体の前下がり傾斜を抑え楽に走行することができる。
【0025】
また、次のように構成してもよい。ハンドル切れ角検出器40(図1に示す)により乗用田植機の旋回走行を検出した旋回走行中に、左右前輪6,6のいずれかが空転して進まなくなるのを前輪回転検出器(図示省略)及び走行速度検出器(図示省略)により検出すると、旋回外側の前輪6を下降調節するように構成する。このように構成することにより、旋回外側の前輪6の空転を抑制し、円滑に旋回することができる。併せて、前輪デフロックを作動させてもよい。
【0026】
また、次のように構成してもよい。苗植付装置3の前方には図1に示すように、ロータリブラケット45を前方へ突出するように設け、このロータリブラケット45を筒体に構成してロータリフレーム46を上下動自在に支持する。そして、ロータリ上下調節モータ47の回転により、上下動リンク48を介してロータリフレーム46を上下動するように構成し、ロータリフレーム46の下端部には苗植付装置3の苗植付位置に対応するように左右方向に複数のロータリ整地装置49,…を設け、例えば油圧モータ(図示省略)により駆動するように構成する。
【0027】
そして、ロータリ整地装置49,…を下降調節し整地作業状態にした場合には、左右後輪7,7を上方へ回動調節し、車体の後側部を下降調節する。このようにすることにより、ロータリ整地装置49による苗植付装置3の浮き上がりを抑制し、適正深さの整地作業と苗植付作業をすることができる。
【0028】
次に、図6に基づき左右前輪6,6の上下動装置の他の実施例について説明する。
前記実施例と同様に、左右フロントアクスルケース21,21の縦筒体部21a,21aに左右前輪支持ケース22,22を上下動自在に支持し、左右フロントアクスルケース21,21の縦筒体部21a,21aの上端部にブリーザホース55の両端部を接続し、ブリーザホース55の中途部にブリーザバルブ56を設けている。そして、ブレーキぺダル58の踏み込み操作に連動して、ブリーザバルブ56を閉じると共に、エアポンプ(図示省略)を作動し、ブリーザホース55を経由して縦筒体部21a,21aの上端部に空気を送り込むように構成している。
【0029】
前記構成によると、乗用田植機の制動時に左右縦筒体部21a,21aの上部に空気を送り込んで内圧を高め、左右前輪支持ケース22,22の上動を抑制して後輪7,7の浮き上がりを防ぎ、車体の前のめり現象を抑制し安全性を高めることができる。
【0030】
また、図7に示すように構成してもよい。即ち、左右フロントアクスルケース21,21の縦筒体部21a,21aの上端部にブリーザホース55の両端部をそれぞれ接続し、ブリーザホース55の中途部にブリーザバルブ56を設け、油圧無段変速装置HST操作用の主変速レバー39(図1に示す)の中立位置への変速操作に連動して、ブリーザバルブ56を閉じると共に、エアポンプ(図示省略)を作動してブリーザホース55を経由して縦筒体部21a,21aの上端部に空気を送り込むように構成する。
【0031】
このように構成すると、主変速レバー39の前進変速位置あるいは後進変速位置から中立位置へ操作した走行停止時に、左右縦筒体部21a,21aに空気を送り込み内圧を高め、左右前輪支持ケース22,22の上下動を抑制し車体の前のめり現象を防ぐことができる。
【0032】
次に、図8に基づき乗用田植機の車体構成の他の実施例について説明する。
乗用田植機の主フレーム61を前側フレーム61aと後側フレーム61bに分割構成し、これら前側フレーム61aと後側フレーム61bを左右方向の軸62で連結し屈折自在に構成する。また、前側フレーム61aには左右前輪6,6やステアリングハンドル16等を設け、後側フレーム61aには左右後輪7,7や操縦席20等を設けている。そして、前側フレーム61aのミッションケース(図示省略)から後側フレーム61bに向けて延出している左右後輪伝動軸32,32には、前記左右方向の軸62の下方部位に自在継手63,63を介装し、前側フレーム61aと後側フレーム61bの間にはロック装置(図示省略)を設けている。
【0033】
前記構成によると、苗の植付作業時には前側フレーム61aと後側フレーム61bをロック装置(図示省略)により固定状態とし前側フレーム61aと後側フレーム61bを直線状に固定して作業を行なう。また、畔越え時にはロック装置(図示省略)を解除することにより、前側フレーム61aと後側フレーム61bを屈折させることにより、車体の上下の揺れを押さえながら畔越えすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】乗用田植機の全体側面図。
【図2】乗用田植機の全体平面図。
【図3】乗用田植機の一部省略した平面図。
【図4】乗用田植機の前輪支架部分を示す切断正面図。
【図5】乗用田植機の一部省略した平面図及び側面図。
【図6】乗用田植機の前輪支架部分を示す切断正面図。
【図7】乗用田植機の前輪支架部分を示す切断正面図。
【図8】乗用田植機の全体側面図。
【符号の説明】
【0035】
1 走行車両
6 前輪
7 後輪
35 上下動連繋手段(後輪ダンパー)
37 上下動連繋手段(前輪ダンパー)
38a,38b 上下動連繋手段(油路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前輪(6,6)及び後輪(7,7)を具備する四輪構成の作業車両であって、これら左右前輪(6,6)及び左右後輪(7,7)をそれぞれ上下動可能に支持する上下動支持機構を設け、これらの対角線上に配置されている左右前輪(6,6)及び左右後輪(7,7)が互いに相反する方向に上下動する上下動連繋手段(35,37,38)を設けたことを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−112329(P2007−112329A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306957(P2005−306957)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】