説明

作業車両

【課題】ブレーキ操作でオートクルーズを解除した場合のトラクタの速度減速率又は前後進ペダル操作でオートクルーズを解除した場合のトラクタの速度変化率が走行安全性が従来より高まるようにした作業車両を提供すること。
【解決手段】油圧式無段変速装置21の出力を略一定に維持するオートクルーズ機構を備えた車両で、(a)ブレーキペダル(43)の操作によりオートクルーズ制御が解除される場合の作業車両の速度減速率を、前後進ペダル(1)の作動解除又は減速方向への操作による作業車両の速度減速率よりも大きく設定すること、又は(b)前後進ペダル(1)の加減速操作によるオートクルーズ制御解除時の作業車両の速度変化率を、オートクルーズ制御を行っていないときの前後進ペダル(1)の操作による作業車両の速度変化率より小さく設定することで目標車速にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オートクルーズ操作と前後進ペダル操作での前後進への変速を可能とした電子制御式の静圧式無段変速装置(HST)を有する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御式の静圧式無段変速装置(HST)を有するトラクタにおいて、前後進ペダルの踏み込み量に応じて前進側と後進側への変速速度の設定がそれぞれ可能であり、さらに前進時又は後進時にそれぞれ車速を一定にするオートクルーズ操作ができるトラクタがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−225090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の発明は、オートクルーズを解除した場合のトラクタの減速比と前後進ペダルによる前進又は後進走行の解除をした場合のトラクタの減速比については全く開示がない。
そのため、オートクルーズを解除した場合と前後進ペダルによる前進又は後進走行の解除をした場合でトラクタが減速される時間当たりの車速の減速度合いが同じであると推定され、ブレーキを踏んだときに早めに停車できない。
【0005】
しかし、オートクルーズを解除してトラクタを減速させる場合と前後進ペダルから足を離して減速させる場合では減速条件が互いに異なることが多い。例えば、前後進ペダルにより通常の走行中に当該ペダルから足は離して減速させることは、よく行われることであるが、オートクルーズを選択して一定速度で走行中に減速させる場合は、緊急に減速させる必要があることが考えられるので、素早く減速させることが要請される。
そこで、本発明の課題は、ブレーキ操作でオートクルーズを解除した場合のトラクタの速度減速率又は前後進ペダル操作でオートクルーズを解除した場合のトラクタの速度変化率が走行安全性が従来より高まるようにした作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、車輪(13,14)とエンジン(11)を備えた車体(10)と、エンジン(11)からの動力を変速する油圧式無段変速装置(21)と、該油圧式無段変速装置(21)の前進方向と後進方向の出力を踏み込み量に応じて操作する前後進ペダル(1)と、油圧式無段変速装置(21)の出力を略一定に維持するオートクルーズレバー(42)と、車輪(13,14)の回転を制動するブレーキペダル(43)を設けた作業車両において、前記オートクルーズレバー(42)の操作を検知するとオートクルーズ制御を作動させ、ブレーキペダル(43)の作動を検知するとオートクルーズ制御を解除させるオートクルーズ制御部(312)と、ブレーキペダル(43)の操作によりオートクルーズ制御が解除される場合の作業車両の速度減速率を、前後進ペダル(1)の作動解除又は減速方向への操作による作業車両の速度減速率よりも大きく設定する速度減速率制御部(314)とを有する制御装置(31)を設けたことを特徴とする作業車両である。
【0007】
請求項2記載の発明は、車輪(13,14)とエンジン(11)を備えた車体(10)と、エンジン(11)からの動力を変速する油圧式無段変速装置(21)と、該油圧式無段変速装置(21)の前進方向と後進方向の出力を踏み込み量に応じて操作する前後進ペダル(1)と、油圧式無段変速装置(21)の出力を略一定に維持するオートクルーズレバー(42)と、車輪(13,14)の回転を制動するブレーキペダル(43)を設けた作業車両において、前記オートクルーズレバー(42)の操作を検知するとオートクルーズ制御を作動させ、ブレーキペダル(43)の作動を検知するとオートクルーズ制御を解除させるオートクルーズ制御部(312)と、前後進ペダル(1)の操作によりオートクルーズ制御を解除可能とし、前後進ペダル(1)の加減速操作によるオートクルーズ制御解除時の作業車両の速度変化率を、オートクルーズ制御を行っていないときの前後進ペダル(1)の操作による作業車両の速度変化率より小さく設定して目標とする車速にする速度変化率制御部(315)を有する制御装置(31)を設けたことを特徴とする作業車両である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、ブレーキペダル43の操作によりオートクルーズが解除されるとき、作業車両の速度減速率制御部314はオートクルーズ制御の解除時の速度減速率を、通常の前後進ペダル1の操作解除時、すなわち前後進ペダル1から足を離したときの速度減速率又は減速方向への操作による速度減速率よりも大きく設定しているので、より速く車速を下げて停止できるので、車両を停止させたい何らかの事態が発生したときブレーキペダル43の操作時におけるオートクルーズからの速度減速率を、通常の前後進ペダルの操作解除時又は減速方向への操作による速度減速よりも早めて車速を落として、走行安全性を従来より高めることができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、前後進ペダル1を加速方向や減速方向に操作することでオートクルーズ制御が解除されるときには、オートクルーズ制御を行っていないときの通常の前後進ペダル1の操作による速度変化率(速度減速率又は増速率)よりも小さくすることで、遅く車速を下げてまたは上げて、前後進ペダル1が目標とする車速に合わせるので、前後進ペダル1の操作で車速を変更する場合は、前後進ペダル1の操作位置に対応した車速になるまでオートクルーズをゆっくり解除することができ、作業車両の走行安全性を従来より高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施の形態の速度制御装置を備えたトラクタの側面図である。
【図2】図1のトラクタのミッションケース部の側面図である。
【図3】図1のトラクタのHSTの油圧回路図である。
【図4】図1のトラクタのHST操作機構の機能を説明する簡略斜視図である。
【図5】図1のトラクタのコントローラへの入力信号と、出力信号を示す制御ブロック図である。
【図6】図1のトラクタのコントローラの機能を説明する図である。
【図7】図1のトラクタのオートクルーズの解除時の減速速度と通常の前後進ペダルの操作時の減速速度とを説明する図である。
【図8】図1のトラクタの前後進ペダルの操作でオートクルーズを解除したときと通常の前後進ペダルの操作時の減速(または増速)ときの減速(または増速)速度を説明する図である。
【図9】図1のトラクタの前後進切替レバーの切り替える操作時の変速装置の前進切り替えタイミングを説明する図(図9(a))と中立状態が一定時間継続しなくて「ゼロ」であるときの変速装置の前進切り替えタイミングを説明する図(図9(b))である。
【図10】図1のトラクタのオートクルーズレバーの回動操作時の係止機構の一実施例の斜視図である。
【図11】図1のトラクタのブレーキ自動連結装置の概略の構成図である。
【図12】本発明の一実施例のトラクタの車両前半部の平面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
図1は本発明に係る実施の形態1の速度制御装置を備えたトラクタの側面図である。図1に示すように、トラクタ車体10は、前部にエンジン11を搭載し、ステアリングハンドル12によって操向可能の前輪13及び後輪14等を有して、このエンジン11から伝動して駆動走行する四輪駆動走行の乗用形態としている。
【0012】
フロア15の後部に運転席16が設けられ、運転席16のサイドにはオートクルーズレバー42が設けられている。運転席16近傍のフロア15上には左右の後輪14、14をそれぞれ個別にブレーキを掛けることができるブレーキペダル43,43を設けている。また、車体10の後端にはロータリ耕耘装置等の各種作業機(図示せず)を装着して昇降するリフトアーム17が設けられて、車体10の前部にはフロントローダ18等の作業機を装着している。
【0013】
図2はミッションケース部の側面図である。図2に示すように、車体10はエンジン11の後側にクラッチハウジング19及びミッションケース20を剛体的に連結し、クラッチハウジング19内の後部には油圧式無段変速装置(HST)21が装着されている。このHST21は入力軸22をクラッチ軸23から連動し、出力軸24を後部の副変速装置25へ連動して、このHST21のトラニオン軸26の操作によって、中立位置から前進位置と後進位置に切り替える前後進切替と、前進及び後進の増減速とを行わせることができる。また、例えば前後進ペダル1の前側への踏み込みでペダルセンサ30が作動して、コントローラ31の指令に基きモータ32がトラニオン軸26を回動することによって車両を前進させる方向に回転させて出力軸24から副変速装置25に動力伝達がなされる。前後進ペダル1の後側へ踏み込みにより車両を後進させる方向の回転を出力軸24と出力軸24から副変速装置25に与える。
【0014】
図3はHSTの油圧回路図である。図3に示すように、このHST21はHST油圧回路27に前記入力軸22で駆動されるHST可変油圧ポンプ28と、出力軸24を駆動するHST定量油圧モータ29を有し、前述のように前後進ペダル1の踏み込みでモータ32がトラニオン軸26を回動させることによってHST可変油圧ポンプ28の斜板角を変えて、HST油圧回路27内の油圧力を変更してHST油圧モータ29を中立停止状態から正回転の増減速及び逆回転の増減速の回転に駆動することができる。
【0015】
図4はHST操作機構の機能を説明する簡略斜視図である。前記フロア15(図1)には前後進ペダル1が前に踏み込み自在に設けられて(この図4では前後進レバーを別途設けていて、前後進ペダル1は一方にした踏み込めない例を示し、図2、図3に示す例では前後進ペダル1が前後に動く例である。)、この前後進ペダル1の踏み込み量をポテンショメータ(ペダルセンサ)30が検出し、その検出信号をコントローラ31へ出力する。コントローラ31はその検出結果をモータ32に出力することによって、前記トラニオン軸26及び斜板を作動する。このように、前後進ペダル1の踏込量によってHST定量油圧モータ29の駆動回転数を増減することができる。
【0016】
図5はコントローラ31への入力信号と、出力信号を示す制御ブロック図である。コントローラ31には上述したように、前後進ペダル1の操作量を検知する前後進ペダルセンサ30からの信号、車両の前後進方向を切り替えるために設けられた前後進切替レバー33(前後進切替レバー33があるトラクタでは、前後進ペダル1は前踏み込み式のみであるが、HST搭載型トラクタが前後進時する場合は前後進切替レバー33は不要で、前後進ペダル1のみで前後進を切り替えるものがあり、この場合、(i)シーソー式(前踏み込みと後ろ踏み込み)の一個のペダルで行うものと、(ii)前進ペダルと後進ペダルの2個のペダルで行うものがある。)からの信号の他に、車速センサ38からの検出信号、後述するモード切替スイッチ40からの信号、速度上限ダイヤルスイッチ41、オートクルーズレバー42の操作角度を検知するオートクルーズスイッチ42aからの信号なども入力されている。さらに、コントローラ31からはHST用モータ32、モニターランプ39へ制御信号などが出力される。
【0017】
図6は、コントローラ31の具体的機能を示す機能ブロック図である。図6に示すように、コントローラ31には通常の走行速度制御を行う通常制御部311とオートクルーズ走行の速度制御を行うオートクルーズ制御部312と最大車速変更部313とメモリ310が設けられている。なお、コントローラ31は、本発明の制御部の一例である。
通常制御部311へは、ペダルセンサ30からの外部信号とモード切替スイッチ40からの外部信号が入力されている。ペダルセンサ30からの信号は、オペレータのペダル1への踏み込み量を表す。モード切替スイッチ40からの信号は、走行モードを切り替えさせる指示を表す。すなわち、メモリ310は、通常の走行制御用データを格納した通常モードテーブル310Aと、作業時の走行制御用データを格納した作業モードテーブル310Bを有している。
【0018】
図6においては、この各テーブル310A、310Bの走行制御用データは、縦軸が車速を、横軸が前後進ペダル1の踏み込み量を示す2次元座標の一次直線で表示され、横軸のペダル踏み込み量に応じて、縦軸の車速が決まることを意味している。実際のメモリ310では、この走行制御用データは、このような一次直線(y=ax+b)を用いず、具体的な表形式データで記憶されていてもかまわない。また直線である必要も無い。横軸のDは最大踏み込み量を示し、縦軸のMAX1、MAX2は最大の車速を示す。
モード切替スイッチ40は利用する走行制御用データとして、このような通常の走行制御用データと作業時の走行制御用データを切り替えさせることができる。そして、通常制御部311の出力はHST用モータ32へ入力されている。
【0019】
次に、オートクルーズ制御部312へは、モード切替スイッチ40からの外部信号と、オートクルーズレバー42の操作角度を検知するオートクルーズスイッチ42aからの外部信号が入力されている。前記スイッチ42aはオートクルーズ走行を指示するスイッチである。このオートクルーズスイッチ42aからの指示に従って、オートクルーズ制御部312は、後述するようにその指示があった際に、前後進ペダル1を最大踏み込んだ場合の最大車速に維持速度を設定して一定速度走行を実現させる制御部である。
【0020】
さらに、最大車速変更部313へは速度上限ダイヤルスイッチ41からの外部信号が入力されている。この最大車速変更部313は速度上限ダイヤルスイッチ41からの指示に従って、作業モードテーブル310Bにおける、最大踏み込み量Dに対する最大車速MAX2の大きさを変更させる制御部である。すなわち、速度上限ダイヤルスイッチ41はダイヤル式であり、任意の大きさに最大車速MAX2を変更可能となっている。この一次直線のデータの場合はその傾きを任意に変更することになる。
【0021】
次に、本実施の形態における、走行速度制御の動作を説明する。
[i]通常走行モードの場合
オペレータはモード切替スイッチ40により、通常走行モードを選択した場合は、通常制御部311はそれを受けて、通常モードテーブル310Aの方を参照する。そして、ペダルセンサ30からの前後進ペダル1の踏み込み量信号を入力して、その大きさに対応する車速を演算し、その車速信号をHST用モータ32へ出力する。HST用モータ32はその車速信号に従って、HST21のトラニオン軸26の回動角度を適宜変更する。それによって、HST21は変速を行い、トラクタ車体10は踏み込み量に応じた速度で走行する。
オペレータは車体の速度を変更したい場合は、前後進ペダル1の踏み込み量を変更すればよい。なお、前後進ペダル1を最大限度踏み込んだ場合(D量)の車速は、MAX1となるようになっている。
【0022】
[ii]作業走行モードの場合
今、オペレータはモード切替スイッチ40によって、作業走行モードを選択したとする。その場合は、通常制御部311はそれを受けて作業モードテーブル310Bの方を参照する。この作業モードテーブル310Bの場合、その一次直線の傾きは、作業モードにふさわしく、通常の走行モードより緩やかに設定されている(実線参照)。
従って、ペダルセンサ30からの前後進ペダル1の踏み込み量信号を入力して、その大きさに対応する車速を演算するが、その値は、上述した通常走行モードに比べて、当然にその車速値は小さくなる。そしてその車速信号をHST用モータ32へ出力する。HST用モータ32はその車速信号に従って、HST21のトラニオン軸26の回動角度を適宜変更する。それによって、HST21は変速を行い、トラクタ車体10は前後進ペダル1の踏み込み量に応じた速度で走行する。
【0023】
これによって低速作業において、前後進ペダル1の踏み込み量に対応する車速の変更が、通常の走行モードの場合に比べて、微調整が容易になる。すなわち、同じ前後進ペダル1の踏み込み量の変化分でも、通常の走行モードに比べて、車速の変化分は小さいので、車速の微調整が容易になる。なお、この作業モードの場合、前後進ペダル1を最大限度踏み込んだ場合(D量)の車速は、MAX2となるようになっている。
【0024】
次に、オペレータが作業モードの走行制御の態様を変更したい場合は、速度上限ダイヤルスイッチ41を操作する。この速度上限ダイヤルスイッチ41を操作することによって、その操作信号は最大車速変更部313へ入力され、この最大車速変更部313はその操作信号に従って作業モードテーブル310Bの一次直線の傾きの大きさを変更する。このように、一次直線の傾きを任意に変更することができるので、簡単にダイヤルを調節することによって、望ましい傾きに変更することができる(破線参照)。
その変更された傾きの一次直線のデータを参照して、通常制御部311は走行制御を実行することになる。
【0025】
[iii]オートクルーズ走行モードの場合
次に、オペレータがオートクルーズ走行を行う場合は、オートクルーズレバー42を操作すると、その操オートクルーズスイッチ42aがオンする。そのオン信号はオートクルーズ制御部312へ入力される。オートクルーズ制御部312は、そのオートクルーズのオン信号を受けて、通常制御部311の通常の走行制御を停止させる。
さらに、そのオートクルーズのオン信号が出された際の走行モードが、通常走行モードか作業走行モードかをモード切替スイッチ40からの信号により判断する。さらにその結果に従って、その際の走行モードが通常走行モードの場合は、通常モードテーブル310Aにおける車速MAX1を、オートクルーズ走行の一定走行の維持速度として決定する。
【0026】
また、その際の走行モードが作業走行モードの場合は、作業モードテーブル310Bにおける車速MAX2をオートクルーズ走行の一定走行の維持速度として決定する。従って、作業走行モードの場合、速度上限ダイヤルスイッチ41のダイヤル調整で調整された最大車速MAX2が維持速度として決定される。
そのため、作業走行モードの場合において、走行制御の適切なダイヤル調整に対応したオートクルーズ走行の適切な維持速度が実現される。また逆に言えば、オートクルーズ走行の維持速度が適切になるように、作業走行モードの一次直線の傾きを予め決めておくことになる。なお、このことは、通常走行モードにおけるオートクルーズ走行の維持速度についても同じことが言える。
このようにして、維持速度が決定されると、オートクルーズ制御部312はその決定された速度信号をHST用モータ32へ出力する。HST用モータ32はその車速信号に従って、HST21のトラニオン軸26の回動角度を変更する。それによって、HST21は変速を行い、以後、トラクタ車体10は決定された速度を維持して走行する。
【0027】
以上説明したように、オートクルーズ走行を行う場合には、その指示が出た際の走行モード次第で、それにふさわしい維持速度が自動的に決定され、オートクルーズ走行が実現される。従って、オートクルーズ走行専用の維持速度選択スイッチなど余分なスイッチ類は省くことができる。また、上述のように適切な維持速度が実現できる。
なお、図6はコントローラ31の機能図であって、このような機能を実現するために、コンピュータを用いてソフトウェア的に実現することも、専用のハード回路を用いて実現してもかまわない。
また、本実施例のコントローラ(制御装置)31には以下に述べるブレーキペダル43の操作が行われたとき(ブレーキペダルセンサ43aで検知)にオートクルーズ制御の解除を行う場合のトラクタの速度減速率制御部314又は前後進ペダル1の操作が行われたときにオートクルーズ制御の解除を行う場合の作業車両の速度変化率制御部315を備えている。
【0028】
ブレーキペダル43の踏み込みを検知するブレーキペダルセンサ43aが設けられている。該ブレーキペダル43の踏み込みがあると、ブレーキペダルセンサ43aからの入力信号に基きコントローラ31は、上記オートクルーズ制御部312において、オートクルーズが実行されている場合はこれを解除する。このとき、トラクタの速度減速率制御部314はオートクルーズの解除時の速度減速率を図7の実線に示すように、破線で示す前後進ペダル1の作動解除又は減速方向への操作によるトラクタの速度減速率よりも大きく設定しているので、通常の前後進ペダル1の操作時の減速速度より速く車速を下げて停止することができる。
ブレーキペダル43の踏み込みがある場合は、トラクタを停止させたい何らかの事態が発生したと考えられるので、オートクルーズからの速度減速率を、前後進ペダル1の作動解除又は減速方向への操作による作業車両の速度減速率より速めて車速を落として、走行安全性を高めることができる。
【0029】
一方、図6に示す例では、減速速度変化率の制御部315が、図8の実線に示すように、前後進ペダル1の加減速操作でオートクルーズを解除したときの作業車両の速度変化率を破線で示すオートクルーズ制御を行っていないときの前後進ペダル1の操作による速度変化率よりも小さくすることで、前後進ペダルセンサ30の検出値である目標車速に合うまで、ゆっくり車速を変化させて減速又は増速させる。
こうして前後進ペダル1の加減速操作で車速を変更する場合は、前後進ペダル1の操作位置に対応した車速になるまでオートクルーズをゆっくり解除することで安全性を高めることができる。
【0030】
前後進切替レバー42と前後進ペダル1(前後進切替レバー42がある場合は、前後進ペダル1を前述のように前側への踏み込み式のペダルのみでよいので走行ペダルとかHSTペダルと呼ぶ。)と油圧式無段変速装置(HST)を備えトラクタにおいて、前後進切替レバー42を前進側から後進側に切り替えた場合または後進側から前進側に切り替えた場合に中立位置を通過する時間が短いと切替信号を出力しない構成とする。例えば図9(a)に示すように前後進切替レバー42を前進側から後進側に切り替える操作をした場合に中立状態が一定時間継続してあると、前進側に出力していた変速装置を後進側に切り替える。しかし、図9(b)に示すように前後進切替レバー42を前進側から後進側に切り替える操作をした場合に中立状態が一定時間継続せず、ほぼゼロに近い時間しかないと、すぐには後進側に切り替えないで、一定時間(例えば、0.5〜1秒間)経過後にはじめて変速装置を後進側に切り替える。こうすることで走行安定性を保つことができる。
【0031】
図10にオートクルーズレバー42の回動操作時の係止機構の一実施例の斜視図を示す。
オートクルーズレバー42の長手方向に沿って、円周方向に複数段に亘って溝45aを複数個設けた半円状の回転支持板45を設け、該回転支持板45の平面に沿ってオートクルーズレバー42の基部に設けられた回動軸42cを中心に矢印(イ)方向に回動するようにオートクルーズレバー42を配置し、該オートクルーズレバー42の側面に前記回転支持板45の溝45aに係止される大きさの突起42bを設けている。さらにオートクルーズレバー42の基部には、回動軸42cの回動方向(矢印(イ)方向)に直交する方向(矢印(ロ)方向)に回動する回動軸42dを設けており、該回動軸42dを中心にオートクルーズレバー42が回動して、一旦回転支持板45の溝45aに係止された突起42bが溝から抜けないような方向に付勢力を与えるトルクスプリング47を回動軸42dとオートクルーズレバー42の間に設けている。
【0032】
こうしてオートクルーズレバー42を回転支持板45の平面に沿って回動する場合に、オートクルーズレバー42の突起42bが回転支持板45の複数の溝45aの中で適切な位置にある溝45aにはまるようにトルクスプリング47の付勢力に抗して回転支持板の平面に直交する方向にレバー42を動かすことで適切な位置の回転支持板45の溝45aにレバー42の突起42bを係止することができる。こうして、一定走行速度でのクルージングができる構成にしている。
【0033】
このとき、悪路で車両が振動してもトルクスプリング47の付勢力によりオートクルーズレバー42の突起42bが回転支持板45の溝45aから抜けないので、レバー42が適切な位置の回転支持板45に支持される。また適切なオートクルージング位置にレバー42を設定する操作を互いに直交する方向への(イ)方向と(ロ)方向の2モーションで行うことができるので安全性も確保できる。
【0034】
また、路上を高速で走行する際、左右一対のブレーキペダル43を連結することを忘れると、片側の走行輪14にのみにブレーキが掛かり、予期せぬ旋回動作をすることがあるので、本発明のトラクタでは路上走行時には片側のブレーキペダル43だけを踏んでも両側の走行輪14が共にブレーキ制動されるようにコンピュータによるブレーキ自動連結装置を設けている。
【0035】
図11に本ブレーキ自動連結装置の概略の構成を示す。
左右のブレーキペダル43の動きは、ペダルアーム43bの基部側に設けたブレーキ検知センサ43aで検出されるので、ブレーキ検知センサ43aにより左右のブレーキペダル43が踏み込まれたことが検出されると、ペダルアーム43bが動くことで連結ロッド52を介してブレーキアーム53が動き、同時に電磁バルブ57よりブレーキシリンダ59がトランスミッション内の左右のブレーキ機構(図示せず)を作動させてトラクタが制動される。
【0036】
そして、副変速レバー51が高速位置(路上走行)に変速されているとき(高速検知センサ55で検知)において、左右のブレーキペダル43の連結状態(図示しない連結センサで検出)が確認されない場合は、左右のブレーキペダル43のいずれか一方が踏まれると、左右のブレーキシリンダ59を同時に作動させて左右のブレーキアーム53を同時に動かして左右の走行輪14のブレーキが作動する。
こうして左右の走行輪14のブレーキを連結し忘れても高速走行を選択するように副変速レバー51がの操作されると自動で両方の走行輪14を同時にブレーキングするのでトラクタが急旋回することを防ぐことができる。
【0037】
本実施例のトラクタでは、図12の車両前半部の平面略図に示すように、サイドカバー60に角度変更自在にルーバ61を設け、エンジン冷却水の水温計と連動して、このルーバ61の向きを変更することができる構成を設けている。
サイドカバー60は夏場の暑いときにオーバーヒートしないよう考えて構成されているため、冬場は温度が上がりにくく、暖気運転に時間がかかる。そこで、コントローラ31によりエンジン冷却水の水温計と連動し、エンジン冷却水の水温が低いときにはルーバ61を閉じる側へ図示しないソレノイドにより動かして、エンジン冷却水の水温の上昇に合わせて順次ルーバ61を開く構成とすることで暖気時間も短くでき、省エネ運転が可能となる。
従って冬場にはルーバ61をほぼ閉めた状態で運転ができる。
【符号の説明】
【0038】
1 前後進ペダル 10 トラクタ車体
11 エンジン 12 ステアリングハンドル
13 前輪 14 後輪
15 フロア 16 運転席
17 リフトアーム 18 フロントローダ
19 クラッチハウジング 20 ミッションケース
21 油圧式無段変速装置(HST)
22 入力軸 23 クラッチ軸
24 出力軸 25 副変速装置
26 トラニオン軸 27 HST油圧回路
28 HST可変油圧ポンプ 29 HST定量油圧モータ
30 ペダルセンサ 31 コントローラ
32 モータ 33 前後進切替レバー
38 車速センサ 39 モニターランプ
40 モード切替スイッチ
41 速度上限ダイヤルスイッチ
42 オートクルーズレバー
42a オートクルーズスイッチ
42b 突起 42c 回動軸
42d 回動軸 43 ブレーキペダル
43a ブレーキペダルセンサ
43b ペダルアーム 45 回転支持板
45a 溝 47 トルクスプリング
51 副変速レバー 52 直結連結ロッド
53 ブレーキアーム 55 高速検知センサ
57 電磁バルブ 59 ブレーキシリンダ
60 サイドカバー 61 ルーバ
310 メモリ
310A 通常モードテーブル
310B 作業モードテーブル
311 通常制御部 312 オートクルーズ制御部
313 最大車速変更部 314 速度減速率制御部
315 速度変化率制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪(13,14)とエンジン(11)を備えた車体(10)と、エンジン(11)からの動力を変速する油圧式無段変速装置(21)と、該油圧式無段変速装置(21)の前進方向と後進方向の出力を踏み込み量に応じて操作する前後進ペダル(1)と、油圧式無段変速装置(21)の出力を略一定に維持するオートクルーズレバー(42)と、車輪(13,14)の回転を制動するブレーキペダル(43)を設けた作業車両において、
前記オートクルーズレバー(42)の操作を検知するとオートクルーズ制御を作動させ、ブレーキペダル(43)の作動を検知するとオートクルーズ制御を解除させるオートクルーズ制御部(312)と、
ブレーキペダル(43)の操作によりオートクルーズ制御が解除される場合の作業車両の速度減速率を、前後進ペダル(1)の作動解除又は減速方向への操作による作業車両の速度減速率よりも大きく設定する速度減速率制御部(314)
を有する制御装置(31)
を設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
車輪(13,14)とエンジン(11)を備えた車体(10)と、エンジン(11)からの動力を変速する油圧式無段変速装置(21)と、該油圧式無段変速装置(21)の前進方向と後進方向の出力を踏み込み量に応じて操作する前後進ペダル(1)と、油圧式無段変速装置(21)の出力を略一定に維持するオートクルーズレバー(42)と、車輪(13,14)の回転を制動するブレーキペダル(43)を設けた作業車両において、
前記オートクルーズレバー(42)の操作を検知するとオートクルーズ制御を作動させ、ブレーキペダル(43)の作動を検知するとオートクルーズ制御を解除させるオートクルーズ制御部(312)と、
前後進ペダル(1)の操作によりオートクルーズ制御を解除可能とし、前後進ペダル(1)の加減速操作によるオートクルーズ制御解除時の作業車両の速度変化率を、オートクルーズ制御を行っていないときの前後進ペダル(1)の操作による作業車両の速度変化率より小さく設定して目標とする車速にする速度変化率制御部(315)
を有する制御装置(31)
を設けたことを特徴とする作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−67829(P2012−67829A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212523(P2010−212523)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】