説明

保存安定性に優れる硬化性樹脂組成物、硬化性フィルムおよびフィルム

【課題】
ワニスの保存安定性に優れ、誘電率、誘電正接が低く、高耐熱性である樹脂組成物および該組成物を用いた硬化性フィルム、フィルムの提供。
【解決手段】
2官能性フェニレンエーテルオリゴマー体の末端をスチレン化した化合物と二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーに、特定の重合禁止剤もしくは酸化防止剤を組み合わせた硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電特性、耐熱性に優れる硬化物を与え、ワニス状態での保存安定性が良好な硬化性樹脂組成物に関するものであり、該樹脂組成物を用いた硬化性フィルム、該硬化性フィルムを硬化させたフィルムに関する。本発明の硬化性フィルムやフィルムは、高周波用途などの電気絶縁材料として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、PHS、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行している。電気信号の誘電損失は、回路を形成する絶縁体の比誘電率の平方根、誘電正接及び使用される信号の周波数の積に比例する。そのため、使用される信号の周波数が高くなるほど誘電損失が大きくなる。誘電損失は電気信号を減衰させて信号の信頼性を損なうので、これを抑制するために絶縁体には誘電率及び誘電正接の小さな材料を選定する必要がある。これらの材料としては、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等が提案されている。しかしながら、これらの樹脂は、低誘電特性には優れるが、耐薬品性や成形性に問題があるものが多く、電気絶縁材料用としてフィルム化した場合、例えば、ポリフェニレンエーテルでは、屈曲性の問題があり(例えば特許文献1参照)、ジビニルベンゼン等の低分子量スチレン化合物では、フィルム化した際にべたつきが残り易く、得られる硬化物が脆いといった問題があった(例えば特許文献2参照)。本発明者等は、これらの問題を解決すべく、2官能性フェニレンエーテルオリゴマーのビニル化合物誘導体とスチレン系熱可塑性エラストマーを組み合わせた樹脂組成物を開発してきたが、この樹脂組成物は低誘電特性に優れフィルム状態で取り扱いできるものの、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーを使用した場合には、ワニス状態においてエラストマーの分解による粘度低下が起こり、製造時に必要な保存安定性に問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平7-188362号公報
【特許文献2】特開2002-249531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低誘電率、低誘電正接で、耐熱性に優れた硬化物を与え、ワニスの保存安定性が良好な硬化性樹脂組成物、およびこれを用いた硬化性フィルム、およびこれを硬化してなるフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリフェニレンエーテル骨格の優れた誘電特性、耐熱性を引き継いだ、特定の構造のビニル化合物と、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーを配合した樹脂組成物に特定の化合物を添加することで、硬化物が低誘電率、低誘電正接であり、且つ十分な硬化性を維持したままワニスの保存安定性に優れる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は(A)式(1)で表されるビニル化合物と(B)二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーと(C)t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する硬化性樹脂組成物に関し、該硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解させて得られる硬化性ワニス、フィルム状に加工した硬化性フィルム、さらには該硬化性フィルムを硬化させたフィルムに関する。
【化1】

(式中、a、bは少なくともいずれか一方が0でない、0〜30の整数を示す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明の硬化性樹脂組成物を使用することにより、保存安定性の優れたワニスが得られることから生産管理が容易になり、それを硬化させたフィルムは低誘電特性、高耐熱性を有することから、高周波用電気部品の絶縁材料、半導体用絶縁材料、ビルドアップ配線板材料、コーティング材料、塗料、接着剤、コンデンサー用フィルム等への応用が期待され、その工業上の意義は極めて大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の硬化性樹脂組成物に使用される(A)成分であるビニル化合物は、式(1)において、a、bは、少なくともいずれか一方が0でない、0〜30の整数を示すビニル化合物であれば特に限定されない。具体的な化合物としては、2官能性フェニレンエーテルオリゴマー体の末端をスチレン化した化合物が挙げられ、例えば、特開2004-59644、特開2004-315418、特開2005-126523に記載の公知の方法で製造したものである。
【0008】
(A)成分の数平均分子量は 700〜3000の範囲が好ましい。数平均分子量が700未満では、硬化性フィルムにした際にべたつきが発生しやすく、また、3000を超えると、溶剤への溶解性が低下する。
【0009】
本発明の硬化性樹脂組成物において、(A)成分の配合量は特に制限されないが、配合量が少なくなると所望の低誘電特性、耐熱性、硬化性が得られなくなることから、好ましくは硬化性樹脂組成物中で20wt%〜80wt%であり、より好ましくは30wt%〜70wt%である。
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物に使用される(B)成分である二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/イソプレン)スチレン共重合体、これらの二重結合の一部を水添あるいはエポキシ化した化合物等が挙げられる。これらの二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーは単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。これらの中でも、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/イソプレン)スチレン共重合体が好ましい。
【0011】
(B)成分中のスチレン含有量は特に制限はないが、好ましくは10〜70wt%であり、さらに好ましくは20〜50wt%である。また、(B)成分の重量平均分子量は10000以上であれば特に制限はないが、大きすぎると(A)成分のビニル化合物との混合が困難になることから、10000〜300000が好ましい。
【0012】
本発明の硬化性樹脂組成物において、(A)成分と(B)成分の配合比は特に制限されないが、(B)成分の配合比が多くなると所望の耐熱性、硬化性が得られなくなり、少なくなるとフィルム形成能が低下することから、好ましくは(A)成分と(B)成分の配合重量比(A:B)が20:80〜80:20であり、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0013】
本発明の硬化性樹脂組成物に使用される(C)成分は、t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の化合物である。これらは一般的には重合禁止剤、酸化防止剤と呼ばれる部類に含まれるが、これら以外の一般的な重合禁止剤や酸化防止剤ではエラストマーの分解が抑制されず十分な保存安定性を確保することが困難である。
【0014】
硬化性樹脂組成物に対する(C)成分の添加量は特に制限はないが、添加量が多くなるとフィルムの耐折性が低下することがあり、添加量が少ないと所望の保存安定性が得られないことから、好ましくは、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して0.03〜5重量部であり、さらに好ましくは、0.05〜2重量部である。
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物は、それ自体を加熱することにより硬化させることも可能であるが、硬化速度を速くして作業性、経済性などを改善する目的で硬化触媒を添加することができる。硬化触媒としては、ビニル基の重合を開始しうるカチオンまたはラジカル活性種を、熱または光によって生成するものが使用できる。例えば、カチオン重合開始剤としては、BF4、PF6、AsF6、SbF6を対アニオンとするジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩および脂肪族スルホニウム塩などが挙げられ、旭電化工業製SP70、SP172、CP66、日本曹達製CI2855、CI2823、三新化学工業製SI100L、SI150L等の市販品を使用することができる。またラジカル重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチル等のベンゾイン系化合物、アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系化合物、4,4’-ジアジドカルコン、2,6-ビス(4’-アジドベンザル)シクロヘキサノン、4,4’-ジアジドベンゾフェノン等のビスアジド化合物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビスプロパン、ヒドラゾン等のアゾ化合物、2,5-ジメチル-2.5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2.5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。これらの硬化触媒は単独または2種類以上を混合して用いることができる。
【0016】
本発明の硬化性樹脂組成物には、物性を調整するために、必要に応じて公知の難燃剤、充填剤、カップリング剤、熱硬化性樹脂、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0017】
難燃剤としては、公知のものが使用できる。例えば、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化スチレン、臭素化フタルイミド、テトラブロモビスフェノールA、ペンタブロモベンジル(メタ)アクリレート、ペンタブロモトルエン、トリブロモフェノール、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、塩素化ポリスチレン、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤、赤リン、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシルホスフェート、トリアルキルホスフェート、ジアルキルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、ホスファゼン等のリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ほう酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
充填剤としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維等の繊維状充填剤、炭化ケイ素、窒化珪素、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、アルミノボレート等の無機系ウィスカー、ウオラストナイト、ゾノライト、フォスフェートファイバー、セピオライト等の無機系針状充填剤、粉砕シリカ、溶融シリカ、タルク、アルミナ、チタン酸バリウム、雲母、ガラスビーズ等の球状無機系充填剤、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等を架橋させて得られる微粒子ポリマー等の有機系充填剤が挙げられる。これらは単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0019】
カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β(3、4エポキシシンクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤、シリコーン系カップリング剤、フッ素系カップリング剤等が挙げられる。これらは単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0020】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ等のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のビニル化合物、ビスフェノールAジシアネート、テトラメチルビスフェノールFジシアネート、ビスフェノールMジシアネート、フェノールノボラックのシアネート化物等のシアネート樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらは単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0021】
次に、本発明の硬化性ワニスについて説明する。本発明の硬化性ワニスは、本発明の硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解することで得られる。溶解の方法は特に制限はなく、公知の方法で溶解することができる。例えば、ガラスあるいは金属製の容器に、(A)成分、(B)成分、(C)成分、溶剤を入れ、加熱攪拌することにより硬化性ワニスが得られる。加熱温度は、高温ではビニル基の重合が進行する可能性があり、低温では溶解に時間がかかることから、好ましくは、0〜100℃であり、さらに好ましくは、20〜80℃である。
【0022】
溶剤としては、(A)成分、(B)成分を溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等が挙げられるが、これらに限定されることはない。また、これらの溶剤は単独もしくは2種以上を混合して使用することができる。溶解性の面からはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンが好ましい。
【0023】
続いて、本発明の硬化性フィルムについて説明する。本発明の硬化性フィルムは、本発明の硬化性樹脂組成物をフィルム状に加工することで得られる。フィルム状に加工する方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解した硬化性ワニスを、フィルム状または板状の基材の上に塗布し、溶剤を乾燥する方法などが挙げられる。基材は特に限定されることはなく、例えば、フィルム状の基材としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム;これらのフィルムの表面を離型処理したフィルム;銅箔等の導体箔等が、板状の基材としては、ガラス板、ステンレス板、アルミ板等が挙げられる。基材として導体箔を用いた場合には、導体層付き硬化性フィルムが得られる。このようにして得られた導体層付き硬化性フィルムは、例えば、プリント配線板材料のビルドアップ用硬化性フィルム、樹脂付銅箔などとして用いることができる。
【0024】
溶剤を乾燥する際の乾燥条件は特に制限はないが、低温であると硬化性フィルムに溶剤が残り易く、高温であるとビニル化合物の硬化が進行することから、40℃〜150℃の温度で1〜90分間乾燥するのが好ましい。硬化性フィルムの厚みはワニスの濃度と塗布厚みにより調整することができるが、塗布厚みが厚くなると乾燥時に溶剤が残り易くなることから、硬化性フィルムの厚さは0.1〜500μmが好ましい。
【0025】
本発明のフィルムは、本発明の硬化性フィルムを加熱硬化することにより得られる。硬化条件は、硬化触媒の使用の有無、他の熱硬化性樹脂の併用の有無によって異なるが、温度150〜250℃、0.5〜5時間硬化するのが好ましい。また、必要に応じて真空下、不活性ガス雰囲気下、加圧の条件により硬化することもできる。得られたフィルムは、コンデンサー用フィルム、フレキシブル配線板用カバーレイフィルムなどとして用いることができる。
【0026】
本発明の導体層付きフィルムは、例えば、上記の導体層付き硬化性フィルムを硬化させる方法、硬化性フィルムを加熱硬化させたフィルムの表面に無電解メッキ、スパッタリング、導電性ペースト等により導体層を形成させる方法、などにより得ることができる。このようにして得られた導体層付きフィルムは、例えば、導体層を回路に形成することによりプリント配線板として用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、測定方法は以下による。
1)数平均分子量及び重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。試料のGPC曲線と分子量校正曲線よりデータ処理を行った。分子量校正曲線は、標準ポリスチレンの分子量と溶出時間の関係を次の式に近似して得た。 LogM = A0X3+ A1X2 + A2X + A3 + A4/X2(ここでM:分子量、X:溶出時間−19(分)、A:係数である。)
2)水酸基当量は、2,6-ジメチルフェノールを標準物質とし、溶媒に乾燥ジクロロメタンを使用してIR分析(液セル法;セル長=1mm)を行い、3,600cm-1の吸収強度より求めた。
3)粘度は、コーンプレート型粘度計(CAP2000:ブルックフィールド社製)を使用して25℃の値を測定した。
4)ガラス転移温度は、TMA(TMA120C:セイコー電子工業製)を使用して引張り法により、荷重5g、チャック間10mm、昇温10℃/分の条件で測定した。
5)誘電率、誘電正接は、空胴共振摂動法により10GHzでの値を測定した。
6)耐折性は、MIT試験機(MIT-S:東洋精機製)を使用して、硬化フィルムが破断するまでの回数を測定した。チャック先端R=0.38mm、荷重500g、スイング角度135°、試験速度175回/分、サンプル幅15mmで実施した。
7)銅箔剥離強度は、JIS C6481に基づき、幅10mmの銅箔の90度方向の引き剥がし強さを測定した。
【0028】
(合成例1)
「2官能性フェニレンエーテルオリゴマー体の合成」
攪拌装置、温度計、空気導入管、じゃま板のついた12Lの縦長反応器にCuBr23.89g(17.4mmol)、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン0.76g(4.4mmol)、n-ブチルジメチルアミン23.38g(231.1mmol)、トルエン 2,600gを仕込み、反応温度40℃にて攪拌を行い、あらかじめ2,300gのメタノールに溶解させた2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジオール(以下HMBPと記す) 129.32g(0.48mol)、2,6-ジメチルフェノール292.23g(2.39mol)、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン0.51g(2.9mmol)、n-ブチルジメチルアミン15.59g(154.0mmol)の混合溶液を、窒素と空気とを混合して酸素濃度8%に調整した混合ガスを5.2 L/minの流速でバブリングを行いながら230分かけて滴下し、攪拌を行った。滴下終了後、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム23.63g(52.2mmol)を溶解した水1,500gを加え、反応を停止した。水層と有機層を分液し、次いで純水で洗浄した。得られた溶液を一部エバポレーターで濃縮して分析したところ、数平均分子量は930、重量平均分子量は1,460であり、水酸基当量は465であった。分液終了後の溶液は2959.43gであった。この溶液にN,N-ジメチルアセトアミド1250gを加え塔径25mm、理論塔段数15段(上段7段、下段8段)、釜温度200℃、フィード量200g/hr、還流比1.10の条件で連続蒸留を行った。その結果、2官能フェニレンエーテルオリゴマー体のN,N-ジメチルアセトアミド74.78wt%、トルエン0.30wt%の混合溶液「溶液A」を1553.72g得た。
「ビニル化合物の合成」
攪拌装置、温度計、還流管を備えた反応器に「溶液A」791.15g(OH基0.42mol)、クロロメチルスチレン(CMS-P)71.20g(0.47mol)を仕込み、50℃に加熱攪拌した。反応温度を50℃に保ちながらナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度:28.4wt%) 88.71g(ナトリウムメトキシド0.47mol)を滴下し、1時間攪拌した。更にナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度:28.4wt%)12.10g(ナトリウムメトキシド0.06mol)を滴下し、2時間攪拌した。その後、85wt%のリン酸水溶液を7.33g(リン酸0.06mol)加え、生成した無機塩を除去した後、反応溶液を986gの水に滴下することで固形化し、遠心分離機で、固液分離を行った後、1420gのメタノール、次いで純水1420gで洗浄した後、減圧乾燥してビニル化合物「B」234.32gを得た。得られたビニル化合物「B」の数平均分子量は1,210、重量平均分子量は1820であった。
【0029】
(合成例2)
「2官能性フェニレンエーテルオリゴマー体の合成」
攪拌装置、温度計、空気導入管、じゃま板のついた12Lの縦長反応器にCuBr25.48g(24.5mmol)、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン1.07g(6.2mmol)、n-ブチルジメチルアミン32.93g(325.4mmol)、トルエン 2,600gを仕込み、反応温度40℃にて攪拌を行い、あらかじめ2,300gのメタノールに溶解させたHMBP 75.00g(0.28mol)、2,6-ジメチルフェノール508.44g(4.16mol)、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン0.72g(4.2mmol)、n-ブチルジメチルアミン21.95g(217.0mmol)の混合溶液を、窒素と空気とを混合して酸素濃度8%に調整した混合ガスを5.2 L/minの流速でバブリングを行いながら230分かけて滴下し、攪拌を行った。滴下終了後、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム33.29g(73.6mmol)を溶解した水1,500gを加え、反応を停止した。水層と有機層を分液し、次いで純水で洗浄した。得られた溶液を一部エバポレーターで濃縮して分析したところ、数平均分子量は2150、重量平均分子量は3650、水酸基当量が1050であった。分液終了後の溶液は3121.61gであった。この溶液にN,N-ジメチルアセトアミド1725gを加え塔径25mm、理論塔段数15段(上段7段、下段8段)、釜温度200℃、フィード量200g/hr、還流比1.10の条件で連続蒸留を行った。その結果、2官能フェニレンエーテルオリゴマー体のN,N-ジメチルアセトアミド74.85wt%、トルエン0.20wt%の混合溶液「溶液C」を2149.13g得た。
「ビニル化合物の合成」
攪拌装置、温度計、還流管を備えた反応器に「溶液C」1034.00g(OH基0.25mol)、クロロメチルスチレン(CMS-P)48.75g(0.32mol)を仕込み、50℃に加熱攪拌した。反応温度を50℃に保ちながらナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度:28.4wt%) 60.75g(ナトリウムメトキシド0.32mol)を滴下し、1時間攪拌した。更にナトリウムメトキシドのメタノール溶液(濃度:28.4wt%)7.01g(ナトリウムメトキシド0.04mol)を滴下し、2時間攪拌した。その後、85wt%のリン酸水溶液を4.25g(リン酸0.04mol)加え、生成した無機塩を除去した後、反応溶液を1150gの水に滴下することで固形化し、遠心分離機で、固液分離を行った後、メタノール1720g、次いで純水1720gで洗浄した後、減圧乾燥してビニル化合物「D」274.49gを得た。得られたビニル化合物「D」の数平均分子量は2300、重量平均分子量は3840であった。
【0030】
(実施例1〜9および比較例1〜8)
合成例1、2で得られたビニル化合物「B」、「D」((A)成分)、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマー((B)成分)、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール((C)成分)、トルエンを表1の割合で配合し、70℃で3時間加熱攪拌してワニスを調整した。得られたワニスを50℃で20日間保存試験を実施し、試験前後の粘度を測定した。 比較として、(C)成分なし、(A)成分のみ、(B)成分のみのワニスを同様に作製し、保存試験を実施した。
【0031】
【表1】

・TR2003:スチレンブタジエンスチレン共重合体(JSR製)(重量平均分子量約10万、スチレン含有量43wt%)
・AntageBHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(川口化学工業製)

比較例1〜8により、(A)成分のみ、(B)成分のみでは粘度変化は見られず、(A)成分と(B)成分を組み合わせた際に粘度低下が起こることが分かる。実施例1〜9により、(C)成分を加えることで粘度低下を抑制できることが分かる。また、実施例4より、(C)成分の添加量が少ないと、粘度低下を抑制する効果が低くなることが分かる。
【0032】
(実施例10、11および比較例9、10)
合成例2で得られたビニル化合物「D」((A)成分)、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマー((B)成分)、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール((C)成分)、トルエンを表2の割合で配合し、70℃で3時間加熱攪拌してワニスを調整した。得られたワニスを50℃で20日間保存試験を実施し、試験前後の粘度を測定した。 比較として、(C)成分なしのワニスを同様に作製し、保存試験を実施した。
【0033】
【表2】

・TR2827:スチレンブタジエンスチレン共重合体(JSR製:重量平均分子量約10万、スチレン含有量24wt%)
・ハイブラー5127:スチレンイソプレンスチレン共重合体(クラレ製:重量平均分子量約12万、スチレン含有量20wt%)
比較例9、10より、(B)成分の種類を変えても、(C)成分を加えない場合には粘度低下が起こることが分かり、実施例10、11により、(C)成分により粘度低下を抑制できることが分かる。
【0034】
(実施例12〜15および比較例11〜19)
合成例2で得られたビニル化合物「D」((A)成分)、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマー((B)成分)、(C)成分、トルエンを表3の割合で配合し、70℃で3時間加熱攪拌してワニスを調整した。得られたワニスを50℃で20日間保存試験を実施し、試験前後の粘度を測定した。 比較として、(C)成分以外の酸化防止剤や重合禁止剤を使用したワニスを同様に作製し、保存試験を実施した。
【0035】
【表3】

・TBHQ:t-ブチルハイドロキノン(宇部興産製)
・SumilizerMDP-S:2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)(住友化学製)
・Irganox1098:N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド](チバスペシャリティケミカルズ製)
・Irganox565:2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノフェノール(チバスペシャリティケミカルズ製)
・Irganox1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)-トリ-p-クレゾール(チバスペシャリティケミカルズ製)
・Irganox3114:1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(チバスペシャリティケミカルズ製)
・アデカスタブAO-40:4,4-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)(旭電化製)
・アデカスタブAO-80:3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(旭電化製)
・ホスタノックスO3:ビス-[3,3-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブタン酸]グリコエステル(クラリアント製)
・SumilizerGM:2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学製)
・AntageDBH:2,6-ジ-t-ブチルハイドロキノン(川口化学工業製)
・AntageDAH:2,6-ジ-t-アミルハイドロキノン(川口化学工業製)
・MEHQ:ハイドロキノンメチルエーテル(試薬:東京化成製)

実施例12〜15より、(C)成分によりワニスの粘度低下が抑制されることが分かる。また、比較例11〜19より、(C)成分以外の酸化防止剤や重合禁止剤ではワニスの粘度低下を抑制する能力が低いことが分かる。
【0036】
(実施例16〜22、比較例20)
合成例2で得られたビニル化合物「D」((A)成分)、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマー((B)成分)、(C)成分、トルエンを表4の割合で配合し、70℃で3時間加熱攪拌してワニスを調整した。得られたワニスをドクターブレード(隙間200μm)で、100μm厚のPETフィルム(ルミラーT:東レ製)上に塗布、送風乾燥機を使用して80℃で5分間乾燥して、樹脂層の厚み約30μmの硬化性フィルムを得た。得られた硬化性フィルムをイナートオーブンで、窒素下、昇温4℃/分、200℃30分保持の条件で加熱した後、PETフィルムを手で剥離してフィルムを得た。フィルムの厚みは約30μmであった。得られたフィルムのガラス転移温度、誘電率、誘電正接、耐折性を評価した結果を表4に示す。比較として、(C)成分なしの組成を評価した。
【0037】
【表4】

実施例16〜22、比較例20より、(C)成分はガラス転移温度、誘電特性にほとんど影響を及ぼさないことが分かる。
【0038】
(実施例23、24、比較例21〜23)
合成例2で得られたビニル化合物「D」((A)成分)、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマー((B)成分)、(C)成分、トルエンを表5の割合で配合し、70℃で3時間加熱攪拌してワニスを調整した。得られたワニスをドクターブレード(隙間200μm)で、12μm厚の電解銅箔(3EC-VLP:三井金属製)のシャイニー面上に塗布、送風乾燥機を使用して80℃で5分間乾燥して、樹脂層の厚み約30μmの片面に導体層を有する導体層付き硬化性フィルムを得た。得られた導体層付き硬化性フィルムをイナートオーブンで、窒素下、昇温4℃/分、200℃30分保持の条件で加熱した後、エッチングにより銅箔を除去してフィルムを得た。フィルムの厚みは約30μmであった。得られたフィルムのガラス転移温度、誘電率、誘電正接、耐折性を評価した結果を表5に示す。比較として、(C)成分なし、(C)成分以外の酸化防止剤を評価した。
【0039】
【表5】

実施例23、24、比較例21より、(C)成分はガラス転移温度、誘電特性、耐折性にほとんど影響を及ぼさないことが分かる。また、比較例21〜23より、(C)成分以外の酸化防止剤はガラス転移温度の低下、誘電率、誘電正接の増大、耐折性の低下が見られる。
【0040】
(実施例25〜29、比較例24)
合成例2で得られたビニル化合物「D」((A)成分)、二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマー((B)成分)、(C)成分、トルエンを表6の割合で配合し、70℃で3時間加熱攪拌してワニスを調整した。得られたワニスをドクターブレード(隙間200μm)で、12μm厚の電解銅箔(3EC-VLP:三井金属製)のマット面上に塗布、送風乾燥機を使用して80℃で5分間乾燥して、樹脂層の厚み約30μmの片面に導体箔を有する導体層付き硬化性フィルムを得た。これのフィルム面を、パターニングしたコア材(EL190:銅箔厚み18μm:三菱ガス化学製)の両面と対向させて配置し、真空加熱プレスで昇温3℃/分、200℃90分保持、面圧2MPaの条件で加熱加圧硬化させ4層板を作製した。得られた4層板の最外層の銅箔剥離強度を測定した結果を表6に示す。比較として、(C)成分なしを評価した。
【0041】
【表6】

実施例25〜29、比較例24より、(C)成分は銅箔剥離強度に影響を及ぼさないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(1)で表されるビニル化合物と、(B)二重結合を有するスチレン系熱可塑性エラストマーと、(C)t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、a、bは少なくともいずれか一方が0でない、0〜30の整数を示す。)
【請求項2】
(A)成分の数平均分子量が700〜3000である請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分がスチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/イソプレン)スチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分と(B)成分の配合重量比(A:B)が20:80〜80:20であり、(C)成分の添加量が(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して0.03〜5重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解して得られる硬化性ワニス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物をフィルム状に加工した硬化性フィルム。
【請求項7】
請求項6記載の硬化性フィルムの少なくとも片面に導体層を有する導体層付き硬化性フィルム。
【請求項8】
請求項6記載の硬化性フィルムを硬化させたフィルム。
【請求項9】
請求項7記載の導体層付き硬化性フィルムを硬化させた導体層付きフィルム。

【公開番号】特開2007−191681(P2007−191681A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226781(P2006−226781)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】