説明

保護カバー付き電線接続部

【課題】安全性を確保したまま、電線接続部の異常の有無を的確に判断可能な保護カバー付き電線接続部を提供する。
【解決手段】ケーブル11を接続する圧縮端子12を備えた端子箱30には、プラスチック製の保護カバー21が備えられ、保護カバーは、赤外線サーモグラフィカメラ50による異常診断を行う場合に、画像解析に十分な強度の赤外線による撮影画像を得るため、赤外線透過率の高い、シリコンまたはゲルマニウムを材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護カバーを備えた電線接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
電線は、スリーブやコネクタなどの接続材料を用いて接続される。電線が通電されると、流れる電流により電線やその接続部には熱が発生するが、施工不良による接続端子などの弛みや、仕様を逸脱した不適切な接続材料の使用、接続材料の経年劣化などがあると、その通電部位が過熱して、接続端子や接続材料が破損したり、火災が発生するなどの不具合が生じうる。
【0003】
このような不具合の発生を防止するため、電線の接続部を赤外線サーモグラフィカメラにより撮影し、撮影画像の解析を行うことにより、撮影部位の異常の有無の診断を行うことが一般に行われている。例えば、通電された接続部の撮影画像を解析した結果の表示画像において、過熱された部位は赤色で表示されることにより、その部位の異常状態を発見することができる。
【0004】
ところで、電線の接続部には、人体の感電を防止したり、外的作用から接続部を保護するために、保護カバーが備えられている場合がある。保護カバーの材料としては、成形加工の容易さや安価であることなどから、アクリル板などのプラスチック(合成樹脂)が用いられることが多い。
【0005】
例えば、特許文献1には、回転電機などに使用される端子箱において、底板の周辺に一体に立ち上がった箱壁を分離可能に覆う端子蓋が示されており、この端子蓋は、合成樹脂(プラスチック)からなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−336932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、プラスチック製の保護カバーを備えた電線接続部を赤外線サーモグラフィカメラにより撮影すると、プラスチックは赤外線を吸収しやすいため、通電された電線接続部から放射された赤外線は保護カバーを透過するときに保護カバーに吸収されて減衰してしまう。このため、カメラにより検出される赤外線は、画像解析に十分な強度を確保することができず、撮影部位の的確な異常診断を行うことができない。なお、撮影のために保護カバーを一時的に取り外すことは、安全性の観点から望ましくない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、保護カバーを備えた電線接続部であって、安全性を確保したまま、電線接続部の異常の有無を的確に判断可能な保護カバー付き電線接続部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる保護カバー付き電線接続部の代表的な構成は、保護カバーを備えた電線接続部であって、前記保護カバーは、赤外線透過率の高い部材からなることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、通電状態の電線接続部から放射される赤外線は、保護カバーを透過しやすい。このため、電線接続部を赤外線サーモグラフィカメラにより撮影する場合は、画像解析に十分な強度の赤外線による撮影画像を得ることができる。従って、保護カバーを取り付けた状態で撮影可能であるため、安全性を確保したまま、電線接続部の異常の有無を的確に判断することができる。
【0011】
上記の赤外線透過率の高い部材は、シリコンまたはゲルマニウムを材料としているとよい。例えばシリコンは、波長が3.5から4.3μmで90%、3から11μmでは30%以上を透過するとされており、赤外線透過率が高い。また、300°Cまでの高温に耐性を有し、比較的安価であるため、シリコンは赤外線透過率の高い部材として好適に用いることができる。
【0012】
ゲルマニウムは、シリコンより長波長の赤外線の透過率も高く、透過限界波長は約15μmとされる。ゲルマニウムも300°Cまでの高温に耐え、赤外線透過率の高い部材として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安全性を確保したまま、電線接続部の異常の有無を的確に判断可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかる保護カバー付き電線接続部を説明するための斜視図である。
【図2】アクリル製保護カバーにおける赤外線透過を説明するための図である。
【図3】赤外線透過率の高い保護カバーにおける赤外線透過を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明にかかる保護カバー付き電線接続部の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる保護カバー付き電線接続部を説明するための斜視図であり、端子箱30の蓋(図示せず)を開けた状態を示している。図1に示すように、接続されるケーブル11(電線)同士は、それぞれケーブル導管40内に収められて、例えば上方および下方から、端子箱30内に導かれる。ケーブル11(電線)は、端部の被覆が剥かれ、その導体11aが圧縮端子12に接続されている。端子箱30内において、それぞれの圧縮端子12同士がボルト13およびナット14(図2を参照)で接続されることにより、ケーブル11同士は接続される。
【0017】
端子箱30内に収納されたケーブル11の接続部は、端子箱本体31の背面とケーブル11接続部を挟んで配置されている保護カバー21により覆われている。ここで、ケーブル11(電線)接続部とは、ケーブル11端部の導体11a、その被覆、圧縮端子12、ボルト13、ナット14を含んだ部分をいう。
【0018】
保護カバー21は、その四隅のねじにより端子箱本体31に固定されており、ケーブル11接続部へ接近する者が誤って通電中のケーブル11接続部に接触して感電することを防止したり、工具類等が衝突してケーブル11接続部が破損することなどを防止する。
【0019】
ケーブル11接続部において、施工不良によるボルト13の弛みや、不適切な仕様の圧縮端子12の使用、ケーブル11や圧縮端子12の経年劣化などがあると、その通電部位が過熱して、ケーブル11接続部を構成する圧縮端子12や導体11aなどが破損したり、火災が発生するなどの不具合が生じうる。
【0020】
このような不具合を防止するため、ケーブル11接続部から放射される赤外線を利用して、ケーブル11接続部の異常診断を行うことができる。すなわち、図1に示すように、ケーブル11接続部を赤外線サーモグラフィカメラ50により撮影することにより、撮影部位から放射される赤外線を検出する。その検出された赤外線を画像解析システム(図示せず)により解析して撮影部位の温度分布画像を得ることにより、ケーブル11接続部の異常の有無を診断するのである。
【0021】
例えば、ある部位において何らかの異常により過熱状態が生じている場合は、解析結果を表示する画像において、その部位における異常な温度上昇が赤色で表示されることにより、異常発生を発見することができる。
【0022】
図2は、アクリル製保護カバーにおける赤外線透過を説明するための図であり、ケーブル11接続部の側面図を示している。図2に示すように、保護カバーにアクリル板26を用いると、ケーブル11接続部から放射された赤外線は、アクリル板26に吸収されてしまうため、アクリル板26を透過した後は減衰している。
【0023】
このため、この赤外線を赤外線サーモグラフィカメラ50により撮影しても、解析に十分な強度を確保することができない。従って、的確な撮影画像を得ることができないため、ケーブル11接続部の異常診断を行うことができない。赤外線のアクリル板26における吸収を防止するため、アクリル板26を一時的に取り外すことは、安全性の観点から望ましくない。
【0024】
図3は、赤外線透過率の高い保護カバーにおける赤外線透過を説明するための図であり、ケーブル11接続部の側面図を示している。図3に示すように、保護カバーに本実施形態において用いられる赤外線透過率の高い保護カバー21を用いれば、保護カバー21による赤外線の吸収を抑えることができる。
【0025】
このため、ケーブル11接続部を赤外線サーモグラフィカメラ50により撮影する場合は、十分な強度の赤外線による撮影画像を得ることができる。従って、保護カバー21を取り付けた状態で撮影可能であるため、安全性を確保したまま、ケーブル11接続部の異常の有無を的確に判断することができる。
【0026】
赤外線透過率の高い保護カバー21の材料は、例えばシリコンやゲルマニウムとすることができる。シリコンは、波長が3.5から4.3μmで90%、3から11μmでは30%以上を透過するとされており、赤外線透過率が高い。また、300°Cまでの高温に耐性を有し、比較的安価であるため、シリコンは赤外線透過率の高い部材として好適に用いることができる。
【0027】
ゲルマニウムは、シリコンより長波長の赤外線の透過率も高い。透過限界波長は約15μmとされる。ゲルマニウムも300°Cまでの高温に耐え、赤外線透過率の高い部材として好適に用いることができる。
【0028】
なお、シリコンやゲルマニウムのほかにも、例えばサファイヤ(AlO3)や、フッ化カルシウムやフッ化リチウムなどのフッ素化合物も赤外線を透過しやすく、保護カバー21として好適に用いることができる。
【0029】
さらに好ましくは、これらの保護カバー21の一部または全部を薄膜状に加工して、その厚みを赤外線サーモグラフィカメラ50の赤外線検出波長の2倍以下または波長の整数倍にするとよい。かかる構成により、保護カバー21における赤外線の吸収が抑えられるため、的確な撮影画像を得ることができる。
【0030】
例えば、赤外線サーモグラフィカメラ50の赤外線検出波長を、大気の吸収の影響を受けないとされる7から14μmとし、保護カバー21の厚みを、その検出波長の整数倍(最大3倍程度)とすることにより、画像解析に十分な強度の赤外線による画像を得ることができる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、保護カバーを備えた電線接続部に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
11 …ケーブル
11a …導体
12 …圧縮端子
13 …ボルト
14 …ナット
21 …赤外線透過率の高い保護カバー
26 …アクリル板
30 …端子箱
31 …端子箱本体
40 …ケーブル導管
50 …赤外線サーモグラフィカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護カバーを備えた電線接続部であって、前記保護カバーは、赤外線透過率の高い部材からなることを特徴とする保護カバー付き電線接続部。
【請求項2】
前記赤外線透過率の高い部材は、シリコンまたはゲルマニウムを材料としていることを特徴とする請求項1に記載の保護カバー付き電線接続部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−5187(P2012−5187A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135636(P2010−135636)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】