説明

保護膜被覆チタン板および保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置ならびにそれらの製造方法

【課題】耐酸化性及び耐高温塩害性に優れた保護膜被覆Ti板及び保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】保護膜被覆Ti板又は保護膜被覆Ti板製自動車用排気装置は、平均厚さ0.1〜5μmで平均幅又は平均長さが1〜50μmの箔片状のAl合金及び/又は平均粒径0.1〜30μmの粒状のAl合金が、シリコーン中に10〜40%分散した、厚さ1〜100μmの保護膜が表面に形成され、該Al合金はSi:10.5%〜30.0%を含むAl−Si合金、Mg:0.3〜13.0%を含むAl−Mg合金、Mg:0.3〜13.0%、Si:0.3〜13.0%を含むAl−Mg−Si合金の1種又は2種以上であることを特徴とする。さらに、保護膜に平均粒径0.1〜30μmのSiO2及び/又はMgOが合計で0.5〜20.0%分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪車、二輪車等自動車用排気装置として使用されるチタン材料に関するものであり、メインマフラーはもとより、600℃以上の高温に曝され、特に耐熱性、耐酸化性が要求されるエキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプや触媒マフラー等の部位に使用可能な、耐高温酸化性および耐高温塩害性に優れた保護膜被覆チタン板および保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置ならびにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン材料は、軽量でありながら高強度で耐食性も良好であることから自動車の排気装置にも使用されている。自動車やバイクのエンジンから排出される燃焼ガスは、エキゾーストマニホールドにより一つにまとめられ、エキゾーストパイプにより車両後方の排気口から排出される。エキゾーストパイプは、途中に触媒やマフラー(消音器)を入れるためいくつかに分割されて構成される。本明細書では、エキゾーストマニホールドからエキゾーストパイプ、排気口までの全体を通して排気装置と称する。
【0003】
こうした排気装置の素材として、特許文献1では、冷間加工性と高温強度を併せ持つチタン合金に関する発明が開示されている。また、酸化防止皮膜を形成し耐酸化性を向上させる方法として、アルミニウム粉を含む酸化防止剤の塗布に関する発明(特許文献2参照。)、Al粒子とSi粒子の塗布に関する発明(特許文献3参照。)、Al−Ti系蒸着めっきに関する発明(特許文献4参照。)、AlとNを含有する皮膜に関する発明(特許文献5参照。)、AlまたはSiを含む表面層の溶融めっきに関する発明(特許文献6参照。)等がそれぞれ開示されている。また、耐酸化性に優れる表面処理チタン材として、純Al、または10at%以下のSiを含むAl合金よりなる粒子間に、金属元素M(但しMは、Ti、Zr、Cr、Si、Alの一種または二種以上)とC及び/またはOからなる化合物を充填した、5μm以上の焼成被覆層が形成されたチタン材(特許文献7参照。)が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−234266号公報
【特許文献2】特開平01−022404号公報
【特許文献3】特開2004−115906号公報
【特許文献4】特開平06−088208号公報
【特許文献5】特開平09−256138号公報
【特許文献6】特開2005−036311号公報
【特許文献7】特開2006−009115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チタン材料は600℃以上の高温では酸化しやすく、600〜800℃における連続酸化試験(大気中で各温度に100〜200時間暴露)での酸化増量は、一般に、自動車用排気装置として使用されるフェライト系ステンレスに比べ、二桁ほど大きく、また、さらに塩素イオンが付着した状態で600℃以上の高温に曝されると、塩素イオンの付着がない場合に比べ、さらに酸化が著しく進むという問題がある。すなわち、自動車排気装置にチタン材料を使う場合の問題は、大気中における高温酸化の問題(以下、耐高温酸化性と言う。)と、塩素イオン付着がある場合における高温酸化の進行の問題(以下、塩素イオン付着がある場合の高温酸化を高温塩害と言い、塩素イオン付着がある場合の耐高温酸化特性を耐高温塩害性とも言う。)、さらに、耐酸化性を向上させるために、表面をチタン以外の物質で被覆した場合、保護膜の密着性が十分かという問題、また、加熱後の保護皮膜が疵に強いかという問題(以下、耐疵性と言う。)である。
【0006】
ところが、何の表面処理も施さない特許文献1記載のチタン合金では、塩素イオンが付着した状態で700℃以上に加熱された場合、酸化は顕著に進み、耐高温塩害性は甚だ不十分である。また、耐高温酸化性についても十分とは言えない。
【0007】
また、特許文献2に記載の発明に係る酸化防止剤の塗布では、塗布膜の密着性が悪く、小さな衝撃に対しても塗布膜が剥がれやすいという問題がある上に、700℃以上の耐高温塩害性が不十分である。
【0008】
また、特許文献3に記載の発明では、Al粒子とSi粒子をフッ化物系フラックスと混合し基材に塗布した後、600℃以上の不活性ガス雰囲気中で加熱する必要があり、手間とコストがかかるという問題がある。
【0009】
また、特許文献4または5に記載の発明では、蒸着またはスパッタやイオンプレーティング、イオン注入、プラズマ溶射のための設備が必要であること、および基材成形後の皮膜形成が困難であるという問題がある。
【0010】
また、特許文献6に記載の発明では、90%以上のAlまたは90%以上のAl+Si(Siは1〜20%)を含む酸化防止膜を溶融めっき法で形成する。同文献では、溶融めっき法以外の方法、例えばAlフレークを含有する有機系塗料の塗布が可能であると記載されているが、有機系樹脂を使用した場合、Alフレークの含有量または、AlとSiの合計含有量を90%以上にすることは困難であって、結局、同文献記載の発明の皮膜形成は推奨されている通り溶融めっきによる方法が基本であると推測できる。このことから、同文献に記載の発明は、めっき槽と加熱が必要であり、やはりコストがかかるという問題がある。
【0011】
特許文献7に記載の、純Al、または10at%以下のSiを含むAl合金よりなる粒子間に、金属元素M(但しMは、Ti、Zr、Cr、Si、Alの一種または二種以上)とC及び/またはOからなる化合物を充填した、5μm以上の焼成被覆層が形成されたチタン材では、600℃以上に加熱された後の被覆層は衝撃に弱く、疵がつき易く、耐高温酸化性および耐高温塩害性が劣化し易いという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題点を有利に解決して、大気中および塩素イオンが付着した状態での耐高温酸化性および密着性に優れ、かつ600℃以上の高温に加熱された後に、被覆層に疵が付きにくい保護膜被覆チタン板および保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置ならびにそれらの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、チタン材料基材の保護膜として、高温酸化、および高温塩害抑制効果があり、かつ、密着性および耐疵性に優れる構成成分について鋭意調査研究を行った。その結果、シリコーン中に微細な箔状または粉末状のAl合金を含む保護膜を基材上に形成することによって、顕著な高温酸化抑制効果、高温塩害抑制効果および、保護膜形成後の密着性、かつ600℃以上の高温における耐疵性が得られることを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基づくものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)平均厚さが0.1〜5μmで、かつ、平均幅ないし平均長さが1〜50μmの箔片状のAl合金、および/または、平均粒径が0.1〜30μmの粒状のAl合金が、シリコーン中に、10〜40質量%の割合で分散した、厚さ1μm以上、100μm以下の保護膜がチタン板の表面に形成されており、前記Al合金は、Si:10.5質量%以上、30.0質量%以下を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si合金、Mg:0.3〜13.0質量%を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg合金、Mg:0.3〜13.0質量%、Si:0.3〜13.0質量%を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si合金の内のいずれか1種または2種以上であることを特徴とする、保護膜被覆チタン板。
(2)前記保護膜に、さらに、平均粒径が0.1〜30μmのSiO2および/またはMgOが合計で0.5〜20.0質量%分散していることを特徴とする、上記(1)に記載の保護膜被覆チタン板。
(3)上記(1)または(2)に記載の保護膜をチタン板製自動車用排気装置の内外表面に有することを特徴とする、保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置。
(4)上記(1)または(2)に記載の保護膜被覆チタン板または該保護膜被覆チタン板を成形加工したチタン製部材を構成部材とすることを特徴とする、保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置。
(5)自動車用排気装置の使用に伴う高温保持により、前記保護膜中の成分組成の一部または全部が、Al23、SiO2、MgO、Ti−Al金属間化合物、Ti−Si金属間化合物の1種または2種以上に変化していることを特徴とする、上記(3)または(4)に記載の保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置。
(6)刷毛塗りまたはスプレー塗装による塗膜塗布、および、その後の加熱温度150〜300℃、加熱時間5〜60分の加熱処理により、上記(1)または(2)に記載の保護膜を、チタン板の基材に、形成することを特徴とする、保護膜被覆チタン板の製造方法。
(7)刷毛塗りまたはスプレー塗装による塗膜塗布、および、その後の加熱温度150〜300℃、加熱時間5〜60分の加熱処理により、上記(3)に記載の保護膜を、保護膜が形成されていないチタン板から成形加工された自動車用排気装置の内外表面に形成することを特徴とする、保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、600℃以上の高温において、耐高温酸化性、耐高温塩害性に優れ、使用中に導入された疵に対する耐疵性があるチタン板を提供することが可能になり、四輪車、二輪車等の自動車の排気装置に用いれば、その軽量化が大きく進み、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0017】
本発明は、チタン板およびチタン板から成形されたチタン製部材を含み、以下、両者を合わせてチタン基材ともいう。
【0018】
本発明の保護膜被覆チタン板は、平均厚さが0.1〜5μmで、かつ、平均幅ないし平均長さが1〜50μmの箔片状のAl合金、および/または、平均粒径が0.1〜30μmの粒状のAl合金が、シリコーン中に、10〜40質量%の割合で分散した、厚さ1μm以上、100μm以下の保護膜がチタン板の表面に形成されており、前記Al合金は、Si:10.5質量%以上、30.0質量%以下を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si合金、Mg:0.3〜13.0質量%を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg合金、Mg:0.3〜13.0質量%、Si:0.3〜13.0質量%を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si合金の内のいずれか1種または2種以上であることを特徴とし、耐高温酸化性、耐高温塩害性、密着性、耐疵性に優れている。
【0019】
保護膜に微細な粒子として分散するAl−Si合金、Al−Mg合金、および/または、Al−Mg−Si合金は、チタン基材の表面を緻密に覆っている。粒子形状は粒状(球状)の他に、箔状、不定型(たとえば岩石を砕いたような形)でも良く、請求項で言う平均粒径は、不定型の場合は、最も突き出た箇所と箇所を結ぶ線分の長さを指す。
【0020】
これらAl系合金をシリコーン中に分散させ、チタン板表面に被覆する。シリコーンは適度な粘性を有するため、Al合金を分散させる樹脂として、また、塗布材として適している。
【0021】
保護膜被覆チタン板が600℃以上の高温に加熱された際に、保護膜中のAl−Si合金、Al−Mg合金、および/または、Al−Mg−Si合金とチタン板とが反応し、Ti−Al金属間化合物、Al23、Ti−Si金属間化合物、SiO2、MgOのうちの1種または2種以上の形でチタン板の表面を覆う。一方、シリコーンに含まれるSiも、600℃以上の高温に加熱された場合、Ti−Si金属間化合物および/またはSiO2となり、Ti−Al金属間化合物やAl23、MgOとともにチタン基材表面を覆う。両者が複合することにより、保護膜中の酸素のチタン基材中への拡散が確実に抑制され、高温酸化および高温塩害の進行が抑制される。これらの保護膜は、塩素イオンが存在する環境で以降繰返し加熱されてもチタン基材上に残留するので、耐高温塩害性が維持される。
【0022】
本発明では、保護膜に微細な粒子として分散する物質を、Si、Mgを所定量以上含有するAl−Si合金、Al−Mg合金、Al−Mg−Si合金にする。これにより、保護膜に純AlやSi含有量が10.5質量%未満のAl−Si合金を分散させた場合と比較し、保護膜としてより耐久性に優れた耐高温塩害性が得られる。すなわち、600℃以上の温度で加熱された後に保護膜に疵が入った場合にも、十分な耐高温塩害特性が得られる。Al−Si合金やAl−Mg合金、および/またはAl−Mg−Si合金から生成するTi−AlとTi−Siの金属間化合物層、およびMgOが、純AlやSi含有量が10.5質量%未満のAl−Si合金から生成する金属間化合物層に比べ、より緻密であるためである。シリコーン中に分散させるAl合金は、Al−10.5〜30.0質量%Si合金、Al−0.3〜13.0質量%Mg合金、Al−0.3〜13.0質量%Mg−0.3〜13.0質量%Si合金の1種または2種以上が合計0.5〜20.0質量%の割合で分散した。
【0023】
Al−10.5〜30.0質量%Siで、Si含有量を10.5質量%以上とすると、高温加熱後の保護膜と母材との界面に、耐疵性に優れ、かつ耐高温酸化性、耐高温塩害性に優れた緻密な金属間化合物層が生成する。Siが30.0質量%を超えると保護膜の緻密性が劣化し、それに伴い、加熱後の保護膜の耐疵性が劣化し、高温酸化特性、高温塩害特性が劣化する。
【0024】
Al−0.3〜13.0質量%Mg合金、Al−0.3〜13.0質量%Mg−0.3〜13.0質量%Si合金中のMg、Siも高温に加熱された際、MgOやSiO2が生成し、耐高温酸化性を向上させる。ここで、Al−Mg合金および、Al−Mg−Si合金のMg、およびSiの含有量を0.3〜13.0質量%としたのは、0.3質量%未満では、耐高温酸化性に寄与するMgOまたはSiO2を十分生成しないためであり、13.0質量%を超えると、効果が飽和するためである。
【0025】
保護膜に分散して含まれるAl−Si合金、Al−Mg合金、Al−Mg−Si合金は、平均厚さが0.1〜5μmで、かつ、平均幅ないし平均長さが1〜50μmの箔片状、および/または、平均粒径0.1〜30μmの粒状である。平均厚さ、平均幅ないし平均長さ、および平均粒径の規定は、保護膜中において、箔片状または粒状の分散物質が均質で、チタン基材上を緻密に覆い、高温に加熱された際に、チタン基材全面にTi−Al金属間化合物層、Ti−Si金属間化合物および/または、Al23、SiO2、MgOが形成されるようにするために必要な上下限である。分散物質のサイズの平均値が、本範囲の上限を超えた場合、溶剤と混合してスプレーした場合に、ムラができ易く、極端に大きい場合はスプレーそのものが困難となるためである。一方、平均厚さ0.1μm未満の箔片または、平均直径0.1μmを製造することは困難であるため、分散物質の厚さおよび直径の下限を0.1μmとした。保護膜中の分散物質を均質に分散させるためには、保護膜中の分散物質の70%以上が、この寸法範囲に入っていることが望ましい。
【0026】
Al合金合計の保護膜全体に対する含有量を10〜40質量%としたのは、10質量%未満では、Ti−Al金属間化合物の生成が少なく、耐高温塩害性が十分でないためであり、40質量%を超えると、シリコーンの含有量が減り、保護膜の密着性が低下するためである。
【0027】
耐高温酸化性、および耐高温塩害効果を得るためには、本発明の保護膜が少量でも表面に満遍なく塗布されていれば十分であるが、厚さ1μm以上としたのは、保護膜を厚さ1μm未満に、表面に均一に塗布することは難しいためであり、100μmを超えて塗布すると高温酸化、および高温塩害防止の効果は飽和し、塗料が無駄になるだけでなく剥離しやすくなるため、100μm以下とした。なお、保護膜とは、基材表面に形成された固体状の被覆物のことを指し、塗布時に塗布材に含有していた溶剤が完全に揮発した後の被覆物のことを指す。
【0028】
本発明の保護膜に用いられるシリコーンは、シリコーン樹脂またはシリコーンオイルと呼ばれる場合があるが、ここでは、シリコーンと言う。シリコーンは、シロキサン結合(−Si−O−の結合)からなる直鎖状ポリマーで、ジメチルシリコーン、または、メチルフェニルシリコーン、または、メチルハイドロジェンシリコーン等のストレートシリコーンの他、アルキルシリコーン、高級脂肪酸エステルシリコーン等の変性シリコーン等を指す。
【0029】
保護膜中にSiO2およびMgOを含有させることによっても、保護膜の耐高温酸化性、耐高温塩害性、耐疵性を向上させる。特に700℃以上における耐高温塩害性を向上させる。SiO2とMgOは、含水珪酸マグネシウム((MgO)3(SiO242O)の形で供給しても良い。これらの含有量の合計を0.5〜20.0質量%としたのは、0.5質量%未満では、700℃以上における耐高温塩害性の効果が不十分であるため、20.0質量%超では効果が飽和するからである。
【0030】
保護膜中に含有するSiO2およびMgOの平均粒径は0.1〜30μmとする。この粒径範囲にあることにより、高温に加熱された際に、チタン基材全面にTi−Al金属間化合物層、Ti−Si金属間化合物および/または、Al23、SiO2、MgOが形成されチタン基材上を緻密に覆う。
【0031】
耐酸化性、および/または耐高温塩害性は保護膜で担うものであるため、基材は純チタンを初め、板形状に加工が可能なチタン合金であれば適宜選択できる。ただし、高温強度や室温での加工性の観点からは、Ti−0.5〜2.1質量%Cu合金、Ti−0.4〜2.5質量%Al合金、およびTi−0.5〜2.1質量%Cu−0.4〜2.5質量%Al合金、Ti−0.5〜2.1質量%Cu−0.3〜1.1質量%Nb合金、Ti−0.4〜2.5質量%Al−0.3〜1.1質量%Nb合金、Ti−0.5〜2.1質量%Cu−0.4〜2.5質量%Al−0.3〜1.1質量%Nb合金、Ti−3Al−2.5V等が適している。
【0032】
本発明の基材としてのチタン板は、自動車排気装置用のチタン材料を対象とする場合、高温における強度が高く、室温での加工性が良好な材料が適しているが、耐高温塩害性のみが要求されるような用途の場合、上記チタン基材以外の材料でも効果があることは容易に想像できる。例えば、Ti−6Al−4VやTi−15V−3Cr−3Al−3Sn等の他のチタン合金板に対しても、耐高温塩害性を付与することが可能である。
【0033】
本発明の保護膜被覆チタン板は、自動車用排気装置として用いたときに優れた効果を発揮することができる。
【0034】
本発明の保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置は第1に、上記本発明の保護膜をチタン板製自動車用排気装置の内外表面に有することを特徴とする。チタン板を成形加工してチタン板製自動車用排気装置を形成し、その後その内外表面に本発明の保護膜を形成する。
【0035】
本発明の保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置は第2に、上記本発明の保護膜被覆チタン板または該保護膜被覆チタン板を成形加工したチタン製部材を構成部材とすることを特徴とする。チタン板表面に保護膜を形成して本発明の保護膜被覆チタン板とし、その後、この保護膜被覆チタン板を成形加工した上で、自動車用排気装置の構成部材とする。
【0036】
上記第1、第2の本発明の保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置は、自動車用排気装置の使用に伴う高温保持により、前記保護膜中の成分組成の一部または全部が、Al23、SiO2、MgO、Ti−Al金属間化合物、Ti−Si金属間化合物の1種または2種以上に変化していることを特徴とする。自動車用排気装置は、自動車に設置して使用する際、600℃を超える高温にさらされる。このとき、チタン板製自動車用排気装置の表面を被覆した保護膜中のAl−Si合金、Al−Mg合金、および/または、Al−Mg−Si合金、及びシリコーンに含まれるSiのそれぞれとチタン板とが反応し、あるいは酸化し、Ti−Al金属間化合物、Al23、Ti−Si金属間化合物、SiO2、MgOのうちの1種または2種以上の形でチタン板の表面を覆う。これらの保護膜は、塩素イオンが存在する環境で以降繰返し加熱されてもチタン基材上に残留するので、耐高温塩害性が維持される。Al−Si合金のSi含有量を10.5質量%以上とすることにより、高温加熱後の保護膜と母材との界面に、耐疵性に優れ、かつ耐高温酸化性、耐高温塩害性に優れた緻密な金属間化合物層が生成する。また、Al−Mg合金、Al−Mg−Si合金のMg、およびSiの含有量を0.3質量%以上とすることにより、耐高温酸化性に寄与するMgOまたはSiO2を十分生成することができる。
【0037】
本発明の保護膜被覆チタン板の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の保護膜は、刷毛塗りまたは、スプレー塗装によりチタン基材上に形成するのが好ましい。保護膜の所定成分とトルエン、キシレン、エチルベンゼン等の溶剤と混合することにより、刷毛塗り、またはスプレー塗装が可能となる。これらの溶剤は、刷毛塗り、スプレー塗装後の加熱によって揮発するとともに、シリコーン樹脂が硬化し、チタン基材との密着性が高められる。塗装後の加熱温度を150〜300℃の温度とし、5〜60分加熱するのが好ましい。加熱温度は、150℃未満だと保護膜の密着性が不十分となるためであり、300℃を超えても密着性は変わらないため、150〜300℃とした。加熱時間を5分以上としたのは、5分未満だと、溶剤が十分に揮発せず、保護膜の密着性が不十分となるためであり、60分を超えても保護膜の密着性は変わらないためである。
【0039】
本発明の保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置の製造方法において、まずチタン板を成形加工してチタン板製自動車用排気装置を形成し、その後その内外表面に本発明の保護膜を形成する。保護膜の形成に際し、刷毛塗りまたはスプレー塗装による塗膜塗布、および、その後の加熱温度150〜300℃、加熱時間5〜60分の加熱処理により形成する点、及びその理由は、上記保護膜被覆チタン板の製造方法と同様である。
【0040】
本発明のチタン板を用いて製造された自動車用排気装置は、二輪車、四輪車等の自動車用メインマフラー、エキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプ等を指す。本発明では、以上述べたように、高温大気中における耐高温塩害性に優れる保護膜が、刷毛塗りやスプレー塗装のような容易な方法で形成することが出来るため、塗装をチタン板に行うだけでなく、チタン板を自動車排気装置として成形した後に行うことも可能である。
【実施例】
【0041】
表1に、試験に用いた基板、シリコーン中に分散したAl合金の成分含有%、サイズ、塗装後加熱温度、密着性評価試験結果、高温酸化試験結果、および高温塩害試験(塩素イオン付着後の大気加熱試験)結果、耐疵性結果を示す。密着性評価は、クロスカット法による碁盤目テープ剥離試験、およびデュポン式衝撃試験(いずれもJIS K 5600準拠)で行った。
【0042】
【表1】

【0043】
碁盤目テープ剥離試験は、表面保護膜を塗布した、厚さ1mm×幅50mm×長さ70mmの試験片に、等間隔スペーサーを用いて1mm間隔で6本の平行な切り込みを入れ、これらの切り込みと直角をなすように、もう6本の平行な切り込みを入れて、1mm角の100個の格子パターンを作り、これにテープを貼り付けてから取り外し、表面保護膜の剥がれをルーペで観察した。
【0044】
デュポン式衝撃試験は、半径6.35mmの撃ち型と受け台の間に、表面保護膜を塗布した試料1mm×50mm×70mmの試験片を、塗面を上にして挟み、質量500gのおもりを500mmの高さから撃ち型の上に落とし、塗面に割れ、剥がれ等の損傷がないかどうかを観察した。
【0045】
高温塩害試験は、表面保護膜を塗布した、厚さ1mm×幅20mm×長さ20mmの試験片に、5%食塩水、1時間浸漬、700℃、23時間大気中加熱、という操作を5回繰返した後、試料断面を観察し、肉厚が最大に減少した箇所の最大減肉比率を測定した。
【0046】
耐疵性試験は、上記高温塩害試験後に、試料表面に超硬けがきペンで塗布厚さと同等の深さに十字の疵を付け、再度700℃の高温塩害試験を行い、試験後、疵導入部の試料断面を観察し、肉厚が最大に減少した箇所の減肉比率を測定した。
【0047】
表1のNo.1〜10は、本発明の保護膜被覆チタン板である。これらチタン板の高温塩害試験後の最大減肉比率は、いずれも1.5%以下と小さく、十分な耐高温塩害性を有しているのに対し、保護膜を被覆しないNo.11〜13のチタン板では、高温塩害試験後の減肉が大きかった。また、本発明の保護膜被覆チタン板では高温塩害試験後に疵を入れて再度高温塩害試験を行った場合においても、最大減肉比率は、いずれも2.5%以下と小さく、十分な耐高温塩害性と耐久性を有していた。
【0048】
一方、Al合金の保護膜全体に対する含有量が、本発明の範囲を超え、結果としてシリコーン含有量の少ないNo.14では、保護膜の密着性が悪く、碁盤目テープ剥離試験で1mm角格子の半分以上が剥離し、デュポン式衝撃試験においても剥離が発生した。また、Al合金の平均粒径、保護膜全体に対する含有量、および塗膜厚さが本発明の上限を超えるNo.15では、高温塩害試験後の最大減肉比率が本発明よりも一桁大きく、耐高温塩害特性が不十分であった。保護膜中の、Al合金量が本発明の下限を下回るNo.16および、Al合金中のSi含有量が、本発明の下限を下回るNo.17では、疵をつけて再度高温塩害試験を行った際の、最大減肉比率が大きく、本発明の保護膜被覆チタン板に比べ耐疵性に劣る。
【0049】
【表2】

【0050】
表2のNo.18〜23は、Al−Si合金の他に、MgO、SiO2、Al−Mg合金、Al−Mg−Si合金等の分散物質を1種または2種以上含む場合の実施例である。No.18は、Al−Mg−Si合金のみを分散物質として含む場合の実施例である。No.19とNo.23は、Al−12Si合金と、含水珪酸マグネシウムを保護膜全体に対する含有量として、それぞれ25%、5%含む場合で、初回の高温塩害試験後の最大減肉比率、疵導入後の再試験後の最大減肉比率ともに、極めて優れた耐高温塩害性と耐久性を有している。
【0051】
No.20は、Al−12Siと、Al−10Mg合金を保護膜全体に対する含有量として、それぞれ25%、5%含む場合、No.21,22は、Al−12Si合金と、Al−Mg−Si合金を保護膜全体に対する含有量として、それぞれ25%、5%含む場合であり、いずれの場合も初回の高温塩害試験後の最大減肉比率、疵導入後の再試験後の最大減肉比率ともに、実施例No.1〜No.10の本発明の場合に比べて小さく、極めて優れた耐高温塩害性と耐久性を有していた。
【0052】
高温塩害試験後、表面に形成された物質をX線回折で同定した結果、判明した主要生成物質を表1に示す。No.1〜10では、Al23、SiO2、Ti−Al金属間化合物、Ti−Si金属間化合物が生成した。一方、保護膜を形成しなかったNo.11〜13では、表面生成物質は、ほとんどがTiO2であり、酸化が進行していた。また、No.14ではAl23、Ti−Al金属間化合物が生成したが、Al合金の保護膜全体に対する含有量が、本発明の範囲を超え、結果としてシリコーンが少ないため膜の密着性が悪く、碁盤目テープ剥離試験及びデュポン式衝撃試験で剥離を生じた。No.15ではTi−Al金属間化合物、Ti−Si金属間化合物が生成したが、分散物質の平均粒径、保護膜全体に対する含有量、塗布厚さが本発明の上限を超えるため、碁盤目テープ剥離試験及び衝撃試験で保護膜の剥離が発生した。
【0053】
No.16、17では、Ti−Al金属間化合物、Al23が生成したが、疵をつけて再度高温塩害試験を行った際の、最大減肉比率が大きく、保護膜の耐疵性が本発明のNo.1〜10に比べ劣っていた。
【0054】
Al−Si合金の他に、MgO、SiO2、Al−Mg合金、Al−Mg−Si合金等を1種または2種以上含むNo.18〜23では、Al23、SiO2、Ti−Al金属間化合物、Ti−Si金属間化合物の1種または2種以上の生成の他に、MgOが生成または、存在し、高温塩害試験後、および疵導入再試験後の最大減肉比率が小さく、耐高温塩害性と耐疵性に極めて優れた保護膜が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚さが0.1〜5μmで、かつ、平均幅ないし平均長さが1〜50μmの箔片状のAl合金、および/または、平均粒径が0.1〜30μmの粒状のAl合金が、シリコーン中に、10〜40質量%の割合で分散した、厚さ1μm以上、100μm以下の保護膜がチタン板の表面に形成されており、前記Al合金は、Si:10.5質量%以上、30.0質量%以下を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si合金、Mg:0.3〜13.0質量%を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg合金、Mg:0.3〜13.0質量%、Si:0.3〜13.0質量%を含み残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si合金の内のいずれか1種または2種以上であることを特徴とする、保護膜被覆チタン板。
【請求項2】
前記保護膜に、さらに、平均粒径が0.1〜30μmのSiO2および/またはMgOが合計で0.5〜20.0質量%分散していることを特徴とする、請求項1に記載の保護膜被覆チタン板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保護膜をチタン板製自動車用排気装置の内外表面に有することを特徴とする、保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の保護膜被覆チタン板または該保護膜被覆チタン板を成形加工したチタン製部材を構成部材とすることを特徴とする、保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置。
【請求項5】
自動車用排気装置の使用に伴う高温保持により、前記保護膜中の成分組成の一部または全部が、Al23、SiO2、MgO、Ti−Al金属間化合物、Ti−Si金属間化合物の1種または2種以上に変化していることを特徴とする、請求項3または4に記載の保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置。
【請求項6】
刷毛塗りまたはスプレー塗装による塗膜塗布、および、その後の加熱温度150〜300℃、加熱時間5〜60分の加熱処理により、請求項1または2に記載の保護膜を、チタン板の表面に形成することを特徴とする、保護膜被覆チタン板の製造方法。
【請求項7】
刷毛塗りまたはスプレー塗装による塗膜塗布、および、その後の加熱温度150〜300℃、加熱時間5〜60分の加熱処理により、請求項3に記載の保護膜を、保護膜が形成されていないチタン板から成形加工された自動車用排気装置の内外表面に形成することを特徴とする、保護膜被覆チタン板製自動車用排気装置の製造方法。

【公開番号】特開2008−7799(P2008−7799A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176348(P2006−176348)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】