説明

信号を決定する装置および手法

【課題】テプリッツ行列、またはブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の求解効率を大幅に上げる。
【解決手段】初期連立方程式を、巡回または近似的に巡回である行列の積に分離し、次数を縮小した多数の連立方程式に分離した後で、次数が少なくなった連立方程式の解をもとに初期連立方程式の解を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
【0002】
本発明は信号を決定する装置および手法に関する。撮像、検出、制御、通信などを行う一般信号処理装置の多くは、信号を決定・判断してそれぞれのオペレーションを行っている。一般信号処理装置としては、デジタルフィルタリング装置、線形予測装置、システム識別装置、および音声・画像処理装置などがあげられる。本開示装置を、これらの信号処理装置のコンポーネントとすることが可能である。
【背景技術】
【0003】
通信装置は一般的に、送信データ、音声または画像情報を表す信号の入力、処理および出力を行い、これらの装置を通信チャネルの推定、符号間干渉の軽減、エコーやノイズのキャンセル、チャネル等化、およびユーザー検出などに使用することができる。こうした装置は、デジタル形式の入力信号を使用して、信号重みを決定する連立方程式に対する分散行列および相互相関ベクトルを生成する。装置のオペレーション用の信号を決定するには通常この信号重みが使用される。分散行列は、テプリッツ(Toeplitz)行列、ブロックテプリッツ行列、またはテプリッツ行列あるいはブロックテプリッツ行列に近似のものであってよい。通信装置の性能には、通常その連立方程式の最大次元数および連立方程式の求解速度が直接かかわっている。連立方程式の次元が大規模であるほど重みベクトルが収容できる情報量は多くなり、また連立方程式を解く速度が速いほど装置の処理能力は高くなる。
【0004】
レーダー、レーザーレーダーおよびソナーシステムなどの検出装置では、一般に、センサアレイでエネルギーを収集し、その収集したエネルギーで生成した信号を処理して係数を取得し、それをビームフォーミングなどの用途に使用している。信号によって目標物の反射率、速度、形状、および位置といった物理的特性を表すことができる。係数取得にあたっては、センサアレイが等間隔要素を有する場合、テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とした連立方程式の求解を要することがある。その方程式の次元で通常センサアレイのサイズおよび装置の分解能が決定されるため、検出装置の性能は通常その連立方程式の最大次元数とかかわっている。また、検出装置の性能は、連立方程式の求解速度によっても左右される。この処理速度をあげることで、目標物の追従や目標物のリアルタイムの位置決定を向上させることが可能になる。また、センサアレイをより大規模にすることでビームがかなり狭くなり、所望外の信号に対する耐性を得られる。
【0005】
合成開口レーダー、故障検査装置、LIDAR、地質学用撮像装置、さらには磁気共鳴画像(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)、ポジトロン断層法(PET)、超音波装置などの医用撮像装置といった各種撮像装置では、テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とした連立方程式の解が必要とされる。その解とは、生体物質または非生体物質の画像を表すデジタル信号である。センサ要素数および装置の分解能は通常は次元数で決定されるため、撮像装置の性能は通常その連立方程式の最大次元数とかかわっている。また、連立方程式の求解速度を上げることでも装置性能は向上するが、これはリアルタイムの演算が容易になるためである。
【0006】
制御装置としては、機械的、生物学的、化学的および電気的コンポーネントを制御する装置があげられる。これらの装置は、一般に、被制御物体の変形、位置、温度、および速度といった広範な物理量を表す信号の処理を行う。これらの信号を使用してテプリッツまたはブロックテプリッツ型の分散行列および連立方程式の既知ベクトルを生成し、それを解いて被制御物体の制御に必要な信号重みを求める。連立方程式の求解速度が速くなると被制御物体の制御に要する応答時間が改善されるため、装置の性能は、通常この求解速度に直接かかわっている。
【0007】
一般信号処理装置は、画像、音声、データ、送信データ、および圧縮データを表す信号、および生物学的・非生物学的目標物、その他これらに制限されない広範な物理量を表す信号の入力、処理、および出力を行っている。この出力信号は、テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とした連立方程式の解、または解から求められたものである。一般信号処理装置の性能は、連立方程式の次元やその求解速度に左右される。
【0008】
上記装置の性能は、通常、テプリッツ行列、またはブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の求解効率によって決まる。従来より、ブロックテプリッツ行列を係数行列とした連立方程式の解法として反復法と直接法がある。反復法には、共役勾配手法族からなる手法がある。一方、直接法には、ガウスの消去法、およびコレスキー分解、LDU分解、固有値分解、特異値分解、およびQR分解といった分解法がげられる。直接法ではO(n3)フロップスの解を求める。
【0009】
従来より、テプリッツ行列を係数行列とした連立方程式の解法はすでにあり、これらの手法については広く研究されているため、本明細書ではごく簡単にまとめる程度にとどめる。これらの手法は一般的に直接法または反復法に分類されるが、直接法はその連立方程式の求解に要するステップ数に応じて、古典的解法、高速解法または超高速解法にさらに分類される。反復法として最も一般的なのは、共役勾配手法族の手法である。一方、O(n)フロップスでなされる直接法の古典的な解法としては、ガウスの消去法、および固有値分解、特異値分解、LDU分解、QR分解、およびコレスキー分解などの分解法があげられる。古典的な解法では、行列の変位構造は利用しない。一方、高速解法は行列の変位構造を利用し、O(n)フロップスでなされる。高速解法の例として、レビンソン(Levinson)型、およびシュール(Schur)型がある。超高速解法は比較的新しく、O(n log−n)フロップスでなされる。反復法は安定性はあるが、システムによっては収束速度が遅くなる。古典的な解法は安定しているが低速である。高速解法は安定していて、かつ、反復法より高速である。超高速解法では安定性は実証されておらず、その多くは漸近的に超高速なだけにとどまる。
【0010】
以下にあげるのは、ブロックテプリッツ行列、またはテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の求解演算を要する装置である。Zrnic(6,448,923)、Barnard(6,545,639)、Davis(6,091,361)、Pillai(2006/0114148)、Yu(6,567,034)、Vasilis(6,044,336)、Garren(6,646,593)、Dzakula(6,438,204)、Sitton et al.(6,038,197)、およびDavis et al.(2006/0020401)に開示のレーダー、レーザーレーダーおよびソナー装置などの検出装置。Kung et al.(2003/0048861)、Wu et al.(2007/0133814)、Vollmer et al.(6,064,689)、Kim et al.(2004/0141480)、Misra et al.(2005/0281214)、Shamsunder(2006/0018398)、およびReznik et al.(2006/0034398)に開示のエコーキャンセラ、イコライザーならびにチャネル推定、搬送波周波数補正、符号間干渉の軽減、およびユーザー検出用装置などの通信装置。Johnson et al.(6,005,916)、Chang et al.(2008/0107319)、Zakhor et al.(4,982,162)、およびLiu(6,043,652)に開示のMRI、CT、PETおよび超音波装置などの撮像装置。Preuss(6,487,524)に開示のノイズおよび振動コントローラなどの一般信号処理装置、Wu et al.(2006/0040706)、およびKim et al.(2005/0271016)に開示のアンテナのビーム形成システム、およびTrimeche et al.(2006/0013479)に開示の画像復元器。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記にあげた装置において各種連立方程式の求解に従来手法を使用した場合、通信装置の容量は低く、検出装置および撮像装置の分解能が低い上にリアルタイム性能に劣り、制御装置の応答時間は遅く、また一般信号処理装置は性能が低くなる。また、従来手法を使用する装置は係数行列の正則化を要することが多く、パワー損失および放熱要件が大きいことが多い。本明細書に開示する手法では、上記にあげた装置においてテプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式を解く際に、従来手法よりもその求解効率を大幅に上げることにより、上記のさまざまな問題の解決を図っている。求解を効率化することにより、上記装置の、リアルタイムでの信号処理性能の向上、高容量化、追従能力の向上、および応答時間の短縮を実現する。また、ここに開示の手法により、実質的に従来手法より大規模な次元の連立方程式の求解が可能となる。これにより、上記装置のセンサアレイをより大きくして高分解能とし、より大量の過去情報の処理を行うことができる装置が実現する。ここに開示の手法では、係数行列の条件数が減るように係数行列が変化していくため正則化は通常は要らない。そのため、通常は正則化で導かれる上記装置の画像歪みは、本手法では少なくなる。また、ここに開示の手法では必要処理ステップ数が大幅に少なくなるため、上記装置の消費電力や放熱の要件も少なくてすむ。ここに開示の手法では、コンピュータメモリも従来手法のものより少なくてすむ。この手法はまた、より安価なコンピュータハードウェアでも実施可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[発明の簡単な概要]
【0013】
多くの信号処理装置の性能は、テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とした連立方程式に対するその装置の求解効率で決まる。係数行列および連立方程式の次数を縮小すれば、この解を高効率で求めることが可能である。ここに開示の装置および手法では、連立方程式およびその係数行列の次数を短縮している。連立方程式の次数を短縮した後は、公知のいずれの手法を用いても次数を縮小した連立方程式の解を高効率で求めることが可能である。
【0014】
テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の解を高効率で求めることができるのは、さらに、テプリッツの係数行列、またはブロックテプリッツの係数行列のサブブロックを、次数をあげて変化させ、行および列を加算して変形し、近似させて、変換した場合である。変換後の行列、または変換後のサブブロックは狭帯域になっている。その後、連立方程式の行および列を再構成して、単一の狭帯域をもつ係数行列を求め、単一の狭帯域係数行列をもつ連立方程式を解く。それからこの解をもとに元の連立方程式の解を反復法によって求める。連立方程式の次数が増大した場合や、行列を変形した場合は、未知変数をさらに連立方程式に導入する。これらの未知変数は多数の異なる手法を用いて求めることができる。
【0015】
テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の解は、テプリッツ行列、またはブロックテプリッツ行列のサブブロックを巡回形式に展開することによって求めることができる。この展開を行うためには、未知変数を連立方程式に加算しなければならない。初期連立方程式が特定の式に正しく因数分解されていれば、元の未知変数、および付加未知変数を効率的に求めることができる。
【0016】
ブロックテプリッツ行列、またはテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の解を要する装置にこの開示の手法を使用して、かなり大幅に性能改善を達成することができる。ここに開示の手法にあるパラメタを選択すると、個々の装置に応じてこれらの手法を最適に実装することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、開示装置を信号処理装置のコンポーネントとした場合を示す。
【図2】図2(a)、2(b)および2(c)は本明細書に開示する装置および手法の各種実施形態のサブコンポーネントを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[発明の詳細な説明]
【0019】
図1は信号処理装置100の非限定的な実施例を示しており、信号Jを決定する求解成分130からなっている。第1の入力110は第1のプロセッサ120で処理される少なくとも1つの信号Sinに対するソースであり、該プロセッサはこの信号Sinをもとにブロックテプリッツ行列またはテプリッツ行列の係数行列T、およびベクトルYの各要素を生成する。行列TおよびベクトルYの要素を含んだ信号Ssを求解成分130に入力する。連立方程式が生成され、本応用例に開示の求解成分130で解Xを求める。この求解成分130は解Xをもつ第2の入力160をもとに信号Jを処理することができる。求解成分130からの出力は信号Jであり、これらの信号は第2のプロセッサ140で処理され、出力150の信号Soutを生成する。多くの装置ではこれらのコンポーネントすべてを備えているわけではなく、追加のコンポーネントを備えている装置が多い。各種装置は、第2のプロセッサ140から第1のプロセッサ120、または求解成分130に対するフィードバックなど、コンポーネント間でフィードバックを行うことができる。第2の入力160からの信号は、第1の入力110からの1つまたはそれ以上の信号Sinであってよい。求解成分130は、信号Jを処理しなくても解Xを信号Jとして出力することができる。この場合、第2のプロセッサ140は、必要に応じて信号Jを信号Jで処理することができる。装置100は、通信装置、検出装置、画像装置、制御装置、または公知の一般信号処理装置いずれであってもよい。以下にあげる装置は、装置100によって表すことが可能な装置の非限定的な実施例である。これらの装置のコンポーネントのほとんどは公知である。
【0020】
非限定的な実施例として、検出装置には、能動的および受動的レーダー、ソナー、レーザレーダー、音響流量計、医用装置および制震装置がある。これらの装置の場合、第1の入力110はセンサまたはセンサアレイである。このセンサは音響トランスデューサであったり、光学センサおよび電磁センサであったりする。第1のプロセッサ120としては復調器、復号器、デジタルフィルタ、ダウンコンバータ、およびサンプラなどがあげられるが、これらに制限されるものではない。第1のプロセッサ120は通常、1つまたはそれ以上のセンサアレイでサンプリングされた開口幅データを表す信号Sinをもとに生成した行列要素の係数行列Tを計算する。信号Sinおよび信号Ssは物理的物体の位置、速度、および電気的特徴といった物理的物体関連の情報を表すことができる。アレイ要素が等間隔の場合、その分散行列はエルミートテプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列である。既知ベクトルYはステアリングベクトル、データベクトルまたは任意のベクトルであってよい。求解成分130は連立方程式を解いて信号重みXを求める。この信号重みXを信号Jに当てはめてビームパターンを作る信号Jを生成することが可能である。信号Jおよび信号重みXは目標物の物理的性質に係わる情報を含むこともできる。また、信号重みを信号Jの一部として含めることもできる。第2のプロセッサ140はさらに信号Jを処理して出力150の信号Soutを求めることができ、これは目標物情報表示用ディスプレイ装置、または輻射信号用センサアレイであってよい。
【0021】
非限定的な実施例として、通信装置にはエコーキャンセラ、イコライザー、さらにはチャネル推定、搬送波周波数補正、音声符号化、符号間干渉の軽減、およびユーザー検出などを行う各種装置があげられる。これらの装置の場合、第1の入力110は通常配線接続sまたはアンテナアレイを備えている。第1のプロセッサ120としては、増幅器、検出器、受信機、復調器、デジタルフィルタ、および送信信号Sinの処理用サンプラなどがあげられるが、これらに制限されるものではない。第1のプロセッサ120は通常入力信号Sinのうちの1信号で生成した分散行列からの係数行列Tの要素を計算する。信号Sinおよび信号Ssは通常送信された音声、画像またはデータを表す。分散行列は対称テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列であってよい。既知ベクトルYは通常2つの送信された信号Sin同士の相互相関ベクトルであり、音声、画像またはデータも表す。求解成分130は連立方程式を解いて信号重みXを求め、信号重みと第2の入力160からの信号Jとの統合を行い、通常は送信された音声、画像およびデータも表す信号Jの所望のものを生成する。第2のプロセッサ140はさらに出力150の信号Jを処理するが、これは配線接続、トランスデューサ、またはディスプレイ出力であってよい。第2の入力160からの信号は第1の入力110からの信号Sinと同一のものであってよい。
【0022】
非限定的な実施例として、制御装置には、機械的、化学的、生物学的および電気的な各種コンポーネントの制御を行う装置がある。行列TおよびベクトルYの要素は、第1のプロセッサ120によって信号Sinから生成することができる。信号Sinおよび信号Ssは被制御物体の物理的状態を表す。信号Sinは通常センサ110で収集される。求解成分130は、信号Jからの制御信号Jの生成に使用する重みベクトルXを計算する。信号Jは第2の入力160の入力である。この信号Jは通常第2のプロセッサ140でさらに処理された後、アクチュエータまたはトランスデューサ150へ送られる。物体の物理的状態には、車両の性能データ、医用情報、振動データ、流体または気体の流量特性、化学処理の測定可能量、および運動、パワー、熱流量データなどがある。
【0023】
非限定的な実施例として、撮像装置にはMRI、PET、CT、および超音波装置、合成開口レーダー、故障検査システム、超音波検査、心エコーのほか、音響用および地質学用撮像装置などがあげられる。第1の入力コンポーネント110は通常センサーまたはセンサアレイである。センサは、受信エネルギーから信号Sinを発生する音響トランスデューサ、および光学センサや電磁センサであってよい。第1のプロセッサ120としては、復調器、復号器、デジタルフィルタ、ダウンコンバータ、およびサンプラなどがあげられるが、これに制限されるものではない。第1のプロセッサ120は、信号Sinから生成された分散行列から係数行列Tの要素計算を行ったり、グリーン関数(Greene’s function)などの既知関数から係数行列の生成を行ったりすることができ、その要素はメモリ内に格納される。分散行列はエルミートテプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列である。既知ベクトルYは、測定信号Sin、データベクトル、または任意の定数で生成することができる。信号Ssには画像情報が含まれる。求解成分130は連立方程式を解いて未知ベクトルXを求める。このベクトルXには画像情報が含まれ、これは第2のプロセッサ140でさらに処理され、画像ディスプレイ装置150の画面に表示するための画像Soutが生成される。信号Jには、求解成分130の出力としてのベクトルXが含まれている。
【0024】
撮像装置の非限定的な実施例であるMRI装置は、MRIスキャナ付き走査装置を備える第1の入力110からなる。第1のプロセッサ120はRF信号Sinをk空間データに変換する。求解成分130は、k空間データを画像空間データXに変換することにより画像再構成を行い、その際にブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の生成、求解を手段としている。第2のプロセッサ140は画像空間データXを光学式データに写像し、光学式データをディスプレイ150の信号Soutに変換する。行列Tは、画像空間データをk空間データに写像するフーリエ作用素であってよい。ベクトルYは測定したk空間データで、ベクトルXは画像空間データである。
【0025】
撮像装置の非限定的な実施例である超音波装置は、音響レシーバ110からなる。第1のプロセッサ120は、増幅器、位相検出器、およびアナログ-デジタル変換器で構成される。第1のプロセッサ120は信号Ssを生成するが、その際、グリーン関数で出した係数行列Tの要素、および検出された入射場エネルギーの既知ベクトルYの要素を計算して生成を行う。求解成分130は目標物体の伝導率および誘電率を表す信号係数Xを計算する。第2のプロセッサ140は、送信マルチプレクサ、走査装置、発振器、および増幅器で構成される。出力150は音響送信機、ディスプレイ、プリンタ、およびストレージからなる。
【0026】
非限定的な実施例として、装置はアンテナアレイ110を備えるアレイアンテナシステムであってよい。第1のプロセッサ120としてダウンコンバータ、復調器、およびチャネルセレクタがあげられる。第1のプロセッサ120はステアリングベクトルYの要素およびアンテナの開口信号Sinから生成した分散行列Tの要素について計算を行う。求解成分130は信号重みXを計算し、関連するアンテナ要素の信号Jに信号重みXを乗算して信号Jを求める。この信号Jは第2のプロセッサ140でさらに処理される。出力150はアンテナアレイ、トランスデューサ、またはディスプレイであってよい。信号Ssは送信情報を表す。
【0027】
非限定的な実施例として、装置100はフィルタリング装置であってよい。第1のプロセッサ120は係数行列TおよびベクトルYの要素を計算し、その際に、サンプリングした信号Sinからの自己相関および相互相関手法を手段としている。信号Sinおよび信号Ssは音声、画像およびデータを表す。入力110は配線接続またはセンサーであってよい。解法130はベクトルXを計算するが、これに含まれるフィルタ係数を第2の入力160からの信号Jにあてはめて音声、画像およびデータを表す所望の信号Jを得る。装置100はまた、フィードバックを提供して所望の信号と、所望信号に対する計算近似との照合性を改善を行うこともできる。信号Jは1つまたはそれ以上の信号Sinであってよい。
【0028】
非限定的な実施例として、装置100は演算を行うために線形予測、信号推定、またはデータ圧縮手法に依存する装置であってよい。第1のプロセッサ120は、サンプリングした信号Sinから生成した自己相関行列の係数行列Tの要素を計算する。ベクトルYをサンプリングした信号Sinから計算して求めてもよいし、またはベクトルがその第1の要素以外はすべてゼロ値であることもある。信号Ssは音声、画像およびデータを表す。解法130はベクトルXを計算し、これには通常信号Jの信号Jを計算する際に使用する予測係数が含まれている。信号Jは予測した音声、画像またはデータを表す。ベクトルXが装置の出力である場合、信号Jは計算されないことがある。この場合、信号J音声、画像およびデータを表すベクトルXを含んでいる。
【0029】
非限定的な実施例として、装置100は、その演算を行うためにシステム識別コード、システムモデリング、またはパターン認識手法に依存する装置であってよい。第1のプロセッサ120は係数行列Tの要素を計算するが、通常は入力110で生成されたサンプリング信号Sinをもとに生成した自己相関行列から計算する。ベクトルYの要素は通常第1の入力110によって生成されたサンプリング信号Sinの相互相関演算を行って計算される。信号Ssは音声、画像、システムの特徴、およびデータを表す。解法130は音声、画像、システムの特徴、またはデータを表す係数を含むベクトルXを計算する。解法130は信号Jを生成することもできる。ベクトルXは第2のプロセッサ140によってさらに処理される。この処理にはベクトルXとその他の既知ベクトルとの対照比較が含まれる。これらの対照比較結果を出力150で示すことが可能である。
【0030】
非限定的な実施例として、装置100は画像処理およびネットワークルーティングを行う一般信号処理装置であってよい。係数行列Tの要素は、既知関数で計算する。ベクトルYは、入力110で生成されたサンプリング信号Sinで第1のプロセッサ120によって生成することができる。信号Sinおよび信号Ssは画像およびデータを表すことができる。解法130が計算するベクトルXは画像をを表すことができ、それは第2のプロセッサ140によってさらに処理され、出力150により表示される。
【0031】
非限定的な実施例として、装置100はテプリッツのシナプス行列をもつ人工の神経回路網であってよい。第1のプロセッサ120は係数行列T、およびベクトルYの要素を計算する際に、入力110に適用されたトレーニング信号Sinに自己相関および相互相関手法を用いて行っている。信号Sinおよび信号Ssは通常音声、画像およびデータを表す。解法130はベクトルXを計算し、それにはシナプス重みが含まれている。解法130はシナプス重みXを第2の入力160の信号Jに当てはめて信号Jを生成する。この信号Jは第2のプロセッサ140によってさらに処理される。これには、信号Jに対して非線形関数を適用し、ディスプレイ装置150に送信される出力信号Soutを出す、という処理が含まれる。信号Jは人工の神経回路網の線形部で処理された音声、画像およびデータを表す。信号Jは装置100に対する入力を表す。
【0032】
図2(a)、2(b)、および2(c)は、テプリッツ行列またはブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式(1)を解く求解成分130の各サブコンポーネントを開示したものである。図2(a)に開示の第1のシステムソルバー131は方程式(1)の求解を正確に行う。図2(b)に開示の第2のシステムソルバー132は連立方程式(1)の係数行列の近似である係数行列Tをもつ連立方程式を解く。図2(c)に開示の第3のシステムソルバー133は方程式(1)の求解を正確に行う。求解成分130が図2(b)の実施形態を使用した場合、反復子135は第2のシステムソルバー132による解の精度を改善する。図2(a)、2(b)、および2(c)では、解Xから信号Jを生成するシステムプロセッサ134を開示する。係数行列TおよびベクトルYの要素は求解成分130に対する信号Ssとしての入力される。係数行列Tの要素、ベクトルX、XおよびY、および信号Jは上記で開示したように物理量を表す。
【0033】
【数1】

【0034】
本発明の図2(a)に開示する実施形態において、第1のシステムソルバー131は、方程式(1)のベクトルXおよびYを、要素iと要素(N-1-i)が等しい対称ベクトルX(i)とY(i)とに、そして要素iと要素(N-1-i)の負値とが等しい非対称ベクトルX(i)とY(i)とに分離する。iの範囲は0から(N/2-1)を含む。ベクトルの要素はN個である。方程式(1)のテプリッツ行列Tを歪対称テプリッツ行列Tと対称テプリッツ行列Tとに分離する。元の連立方程式を、対称ベクトルと非対称ベクトルを有する新たな連立方程式と、対称または歪対称いずれかの係数行列とに因数分解する。ベクトル内の冗長要素はベクトルが対称であるか非対称であるかによって、それぞれテプリッツ行列の畳み込み、あるいは対応要素の加算または減算により除去することができる。その結果として出る係数行列は、テプリッツ行列とハンケル(Hankel)行列との和である。この連立方程式の行の半数は冗長であるため、第1のシステムソルバー131で廃棄することができる。以下の関係を使用して初期連立方程式を因数分解することができる。対称テプリッツ行列Tと対称ベクトルXの積は対称ベクトルYである。対称の行列Tと非対称ベクトルXの積は非対称ベクトルYである。歪対称テプリッツ行列Tと対称ベクトルXの積は非対称ベクトルYである。歪対称行列Tと非対称ベクトルXとの積は対称ベクトルYである。
【0035】
非限定的な実施例として、連立方程式(1)は実部であり、係数行列Tは対称である。ベクトルを対称ベクトルXとYと、非対称ベクトルXとYとに分離する。その後ベクトルの重解を除去して連立方程式(2)および(3)の次数を半分に縮小する。次数が半分になった2本の実連立方程式は、第1のシステムソルバー131で公知のいずれの手法を用いても求解できる。初期連立方程式が複雑で、かつ、係数行列がエルミートテプリッツ行列であるとき、次数が同じ2本の実連立方程式を初期連立方程式として生成しそれを第1のシステムソルバー131によって求解する。
【0036】
【数2】

【0037】
非限定的な実施例として、連立方程式(1)はブロックテプリッツ行列を係数行列に持ち、ブロックベクトルを有している。その解を効率的に求めることが可能で、係数行列の各サブブロックを対称および歪対称サブブロックに分離し、またベクトルXとYの各サブベクトルを対称および非対称サブベクトルに分離することにより行う。方程式の各項を因数分解して対称および非対称サブベクトルを有する連立方程式を複数生成する。その後サブベクトルの重複要素を除去して新たな連立方程式の次数を縮小する。
【0038】
本発明の図2(a)に開示したある実施形態においては、第1のシステムソルバー131は、ベクトルXおよびYのサブベクトルを分離して、要素iと要素(N-1-i)が等しい対称サブベクトルx(i)とy(i)を有する対称ベクトルXとYと、要素iと要素(N-1-i)の負値とが等しいサブベクトルx(i)とy(i)を有する非対称ベクトルXとYとを生成する。iの範囲は0から(N/2-1)を含む。サブベクトルの要素はN個である。ブロックテプリッツ行列のサブブロックTを、歪対称テプリッツ行列のサブブロックTと、対称テプリッツ行列のサブブロックTとに分離する。連立方程式(1)は、対称および非対称サブベクトルを有するベクトルをもつ連立方程式と、対称または歪対称サブブロックのいずれかを有する係数行列とに因数分解することができる。第1のシステムソルバー131は、通常、次数がより小規模の実連立方程式を生成する。これらの連立方程式の係数行列のサブブロックはもはやテプリッツ行列ではなくて、ハンケル行列とテプリッツ行列との和または差となっている。新規の各サブブロックは第1のシステムソルバー131で生成し、その際、サブベクトルが対称であるか非対称であるかによって、各テプリッツ行列のサブブロックを畳み込んだり、あるいは対応要素を加算または減算したりして行う。
【0039】
非限定的な実施例として、連立方程式(1)は、実テプリッツ行列ブロックテプリッツの係数行列Tを有する。この係数行列Tはサブブロックの行・列あたりN個の対称サブブロックを有する。ベクトルXおよびYにはN個のサブベクトルがある。行列Tの次数は(NxN)であり、Tのサブブロックの次数は(NxN)である。
【0040】
【数3】

【0041】
第1のシステムソルバー131は、各サブベクトルを対称サブベクトルと非対称サブベクトルとに分離する。式(2)および(3)の形をした2本の連立方程式では、1本は対称ベクトルで、もう1本は非対称ベクトルとなる。ベクトルXおよびベクトルXのサブベクトルには重複要素がある。連立方程式それぞれの次数は各サブブロックの畳み込みを行って半分に縮小し、テプリッツ行列とハンケル行列との和または差を求める。各サブブロックの下半分は無視する。この結果、異なる係数行列TおよびTを有し、次数が(N/2xN/2)である2本の連立方程式(4)および(5)ができる。係数行列がブロックテプリッツ行列であるとき、これらの2本の連立方程式を第1のシステムソルバー131で求解して、ベクトルXとXそれぞれのサブベクトルの上半分および下半分である、XS1とXA1を求めることができる。
【0042】
【数4】

【0043】
係数行列Tがテプリッツ行列のブロックテプリッツ行列であるとき、第1のシステムソルバー131は係数行列TおよびTの双方で行と列の再構成を行い、再構成した2本のブロックテプリッツ行列を得る。これら再構成された行列は次数が(NxN)のテプリッツ行列であるサブブロックを有する。方程式(4)および(5)のベクトルの行もまた再構成される。これら再構成されたベクトルはその後対称サブベクトルを有するベクトルと非対称サブベクトルを有するベクトルとに分割される。再構成された行列双方の各サブブロックは半分に畳み込みされ、その結果得られた各サブブロックの要素は、テプリッツ行列とハンケル行列との和または差のいずれかとなる。こうして、各サブブロックの次数は(N/2xN/2)になった。この時点で4本の連立方程式ができあがっている。各連立方程式は異なる係数行列を有している。4本の連立方程式それぞれの次数は(N/4xN/4)である。これらの4本の連立方程式は公知の任意の手法を用いて第1のシステムソルバー131により求解される。得られた4つの解を統合して連立方程式(1)の解Xを生成する。
【0044】
非限定的な実施例においては、方程式(1)の行列Tは複素エルミートテプリッツ行列のブロックテプリッツ行列である。ベクトルXおよびYは複素ベクトルである。連立方程式を乗算すると、実方程式と虚方程式がそれぞれ一組になった方程式を得ることができる。これら2組の方程式はいずれもさらに分割して、対称サブベクトルを有するベクトルをもった方程式と、非対称サブベクトルを有するベクトルをもった方程式の、各組がいくつか得られる。これらの4組の方程式を統合すると、次数が(2Nx2N)である同一の係数行列をもつ2組の方程式(6)および(7)にすることができる。このサブブロックの次数は(NxN)である。各行および列には2N個のサブブロックがある。サブブロックTSRは行列Tの実対称コンポーネントであり、サブブロックTAIは行列Tの虚非対称コンポーネントである。方程式(6)および(7)の下付き文字R、I、S、Aは、それぞれコンポーネントが実、虚、対称、非対称であることを表している。
【0045】
【数5】

【0046】
行列Tの各象限にはテプリッツ行列のサブブロックがある。ブロックベクトルX01、X02、01、Y02はサブベクトルを有し、そこに含まれる重複要素の除去は、行列Tの各サブブロックを畳み込みを行って半分にし、各サブブロックの次数を(N/2xN/2)まで縮小し、係数行列T1を生成することによって行うことができる。係数行列Tがブロックテプリッツ行列の場合、第1のシステムソルバー131は同一係数行列をもつこれら2本の連立方程式を解いてベクトルX01およびベクトルX02の要素を求める。それからこれらのベクトルを統合してベクトルXを決定する。
【0047】
テプリッツ・ブロックテプリッツ行列である係数行列Tについては、係数行列Tの行および列を各象限内で再構成するとブロックテプリッツ行列の係数行列Tを得ることができる。ブロックベクトルについても再構成を行い、こうして2本の連立方程式の再構成によって得られたブロックベクトルを分割して、対称ブロックベクトルX11S、X12S、Y11S、Y12Sと、非対称ブロックベクトルX11A、X12A、Y11A、Y12Aとが得られるが、双方ともに重複要素がある。行列Tの各サブブロックについて畳み込みを行い、重複ベクトル要素を除去して次数を半分にできる。その結果、2つの異なる係数行列T2SおよびT2Aをもつ(N/2xN/2)次数の連立方程式が4本できる。これら4本の連立方程式それぞれを第1のシステムソルバー131で解くと、4つのブロックベクトルX11S、X11A、12S、X12Aの要素が求められる。その後、これらのベクトルを統合して解Xを決定する。
【0048】
本発明の図2(b)に開示するある実施形態においては、方程式(1)でテプリッツ行列である係数行列Tを変換すると、狭帯に近似した形になる。変換した係数行列の帯域外要素の大きさを小さくするには、行列Tの有する対角成分が拡張して行列Tより次数が大規模な行列Tを生成していてよい。行列Tの対角成分を拡張することにより、任意値の要素をもった付加対角成分も導かれることになる。この任意の値としては、以下の関係式(8)によって与えられる値があげられるが、これに制限されるものではない。
【0049】
【数6】

【0050】
行列T(i)(j)の次数は(NxN)である。インデックスiおよびjの値はゼロから付加対角成分数までを含む。この関係式で求めるのは、新たな対角成分の要素であって、それぞれの対角線上の他の要素に近似的に等しくなっている、拡張もとの対角成分の新要素ではない。ベクトルXおよびベクトルYはゼロ詰めされ、行にあるゼロ要素は行列Tで付加された行および列のパッドと対応している。付加未知変数Sを連立方程式に導入する。行列Aは、パッド行に対応する非ゼロ要素を除いたすべてのゼロ要素をもつ列で構成される。行列Bは、行列Tに付加され行列Tを生成したパッド行で構成される。
【0051】
変換した係数行列の帯域外要素の大きさも、行列Tの行および列の変形によって縮小可能である。行列Bは変形行からなる。一方、行列Aは変形列と、変形行に対応する非ゼロ要素を除いたすべてのゼロ要素をもつ列とからなる。
【0052】
【数7】

【0053】
方程式(9)の行列AおよびAの値を求めるには、対角成分の拡張後で、しかも変形前に、行列Tを行列の積の和に分離する。行列の積のこの和は、対角行列D1iとD2iと、巡回行列Cとからなる。この行列D1iおよびD2iの対角線上の要素は通常指数関数で与えられる。指数Uri/Lriを各対角行列Driに近似的に代入する。行列Uriをフーリエ変換したものが帯行列Uritである。以下の方程式(10)の総和はインデックスiについてのものである。
【0054】
【数8】

【0055】
各指数Uri/Lriの計算は、対角行列Dri、gri(x)の主対角線上の要素をもとに式(11)によって行うことができる。この和はインデックスmについてのものである。
【0056】
【数9】

【0057】
非線形回帰手法などの回帰手法を使用して展開関数cosineおよびsineの重み定数を求めることができる。回帰手法は公知の手法である。また、方程式(12)の反復重み付け最小二乗法を使用しても重み定数を求めることが可能である。パッドや変形行および変形列に対応するgri(x)の要素は、通常は、重み定数を求める計算には含まれない。重み定数を求めたところで、パッドや変形行および変形列に対応する要素の値を計算する。その後、こうして求めた値を行列の元の値の代わりに使用して、パッドや変形行および変形列を求める。変形行および変形列は、g(x)と方程式(11)の総和との差から計算する。方程式(12)の外総和はインデックスxに対するものである。方程式(12)の内総和はインデックスmに対するものである。
【0058】
【数10】

【0059】
ここでBrp(x)は反復ごとの定数であり、かつ、その前の反復で得られた定数値に基づいて、反復ごとに更新される。以下の総和はインデックスmに対するものである。
【0060】
【数11】

【0061】
方程式(9)は、狭帯域の変換後係数行列Tをもつ連立方程式(13)に変換可能である。ベクトルYを方程式(14)で計算する。行列U1itおよびU2itは、メモリ内に格納されている定数、かつ帯状の、既知行列である。行列(PL1i)はメモリ内に格納されている対角行列である。行列AqtおよびAptには列はほとんどなく、やはりメモリ内に格納されている。行列[FFT]は高速離散フーリエ変換行列である。行列Cit、UritおよびLritは行列C、UriおよびLriのFFTである。
【0062】
【数12】

【0063】
連立方程式(13)は、図2(b)の第2のシステムソルバー132により、任意の分解法を含めた公知のいずれの手段によっても解くことができる。通常は、まず未知変数SおよびSを方程式(15)、(16)または(17)で求めてから、未知変数Xを計算する。変形行および変形列がなければ、方程式(17)を用いてベクトルXのパッドの行部からS値を計算する。一般に、第2のシステムソルバー132でSおよびSを計算し、ついで方程式(18)を使用してベクトルXを計算する。
【0064】
【数13】

【0065】
行列Tが行列Tの十分な近似値であるとき、行列Tをもつ連立方程式の解Xを共分散係数行列Tをもつ連立方程式の解Xとして使用することができる。解Xが解Xの十分な近似値でないとき、図2(b)の反復子135は公知の任意の手法で解Xを使用して解Xを計算する。これらの手法に含まれるのは、初期解Xをとって更新解を求め、それを元の行列方程式(19)の解として使用することである。その後、Yベクトルと、元のT行列と解Xの積との差を、T行列を持つ行列方程式(20)に対する新しい入力列ベクトルとして使用する。ベクトルYはベクトルYと近似的に等しい。ベクトルXおよびYはパッドされたベクトルである。ベクトルSは求めるべき未知変数である。
【0066】
【数14】

【0067】
ここに開示した発明のある実施形態においては、図2(b)の第2のシステムソルバー132は、方程式(1)におけるブロックテプリッツ行列の係数行列Tの各サブブロックに対して、パッド行およびパッド列の付加や、既存の行および列の変形を行ったりして、係数行列Tを生成することができる。係数行列Tは、サブブロックがすべて対称である対称係数行列Tと、サブブロックがすべて歪対称である歪対称係数行列Tとの和に分離することができる。連立方程式(1)のベクトルXおよびYはブロックベクトルであり、それぞれ、XとX、およびYとYという2つのブロックベクトルの和に分離できる。これらのベクトルの各サブベクトルはゼロ詰めされる。対称ベクトルXおよびYは対称サブベクトルを有し、また歪みベクトルXおよびYは歪対称サブベクトルを有している。対称サブベクトルの要素iは要素(N-i)に等しい。歪対称サブベクトルの要素iは要素(N-i)の負に等しい。iの範囲は1から(N/2-1)である。サブベクトルの要素はN個である。要素0およびN/2は歪対称サブベクトルではゼロであり、対称サブベクトルではいかなる値でもとれる。
【0068】
以下の関係式を使用するとブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式の因数分解を行える。対称テプリッツ行列のサブブロックTと、対称サブベクトルXとの積が対称サブベクトルYである。また対称サブブロックTと、歪対称サブベクトルXとの積が歪対称サブベクトルYである。歪対称テプリッツ行列のサブブロックTと、対称サブベクトルXとの積は歪対称サブベクトルYとなる。歪対称サブブロックTと歪対称サブベクトルXの積は対称サブベクトルYである。対称サブベクトルのフーリエ変換は実であり、歪対称サブベクトルのフーリエ変換は虚である。
【0069】
一般に、第2のシステムソルバー132は複素連立方程式の展開を行い、それを1本は実項の、そしてもう1本は虚項の、2本の連立方程式に分離する。これらの連立方程式はそれぞれをさらに分解して対称ベクトルを持つ連立方程式および歪対称ベクトルをもつ連立方程式を得る。こうしてできた4組の方程式を統合して次数が(4Nx4N)である実連立方程式を生成する。
【0070】
非限定的な実施例において、係数行列Tは実テプリッツ・ブロックテプリッツ行列である。第2のシステムソルバー132は、方程式(1)を因数分解することにより、実テプリッツ・ブロックテプリッツ行列の係数行列Tをもつ2本の連立方程式(21)および(22)を生成する。行列Tのサブブロックは対称であり次数が(NxN)である。係数行列Tの次数は(NxN)である。Tの各行および列のサブブロックはN個である。方程式(21)は対称ベクトルXおよびYで構成される。方程式(22)は歪対称ベクトルXおよびYで構成される。方程式(21)および(22)はともに同一の係数行列Tを有している。
【0071】
第2のシステムソルバー132は、パッド行およびパッド列を各サブブロック周辺に配置することにより、係数行列方程式(1)のサブブロックそれぞれの次数を増大させる。行列Aは、行列Tより次数が大きい行列T、および行列Tの行および列の変形を行って生成した行列Tにより得られる。ベクトルSは求めるべき未知変数を含んでいる。行列Aは、連立方程式の求解の特性を改善する要素で構成することもでき、例えば、行列TとTとの照合性の向上、行列Tの条件数の削減、および行列T、行列Tの実変換などがあげられる。行列Aは、変形列と、行列Tのパッドおよび変形行に対応する1つまたは2つの非ゼロ値を除いたすべてのゼロ値を有する列とで構成可能である。行列Bは、パッド行と、T行列の要素を変形する変形行とで構成可能である。ベクトルX、X、YおよびYのサブベクトルは、パッド行に対応するゼロ埋め要素を有している。
【0072】
【数15】

【0073】
係数行列Tのサブブロックそれぞれを第2のシステムソルバー132によって、対角行列d1iと巡回行列Cixyと対角行列d2iとの積の和に分離する。この和はインデックスiに対してのものである。対角行列d1iおよびd2iの要素は、実偏角および/または虚偏角をもつ指数関数と、三角関数と、主対角線要素の下半分または上半分いずれかの要素とそのもう一方にある主対角線要素の上半分または下半分の負の要素とからなる要素と、再帰関係式によって対角成分の他の要素から求めた要素と、これらの要素を含んだ行列を因数分解または変換して求めた要素とによって与えられる。一般的ブロックテプリッツ行列の非限定的な実施例の場合、サブブロックは方程式(23)で表わされる一般的な形をしている。
【0074】
【数16】

【0075】
方程式(23)の部分行列Txyは、行列uri、ri、とCixyとの積からなる。以下の総和はインデックスiに対するものである。
【0076】
【数17】

【0077】
非限定的な実施例として、ブロック係数行列Tは、2つの積からなるiについての和によって表すことができる。各サブブロックは同じ対角行列dおよびd*で分離され、ここでは行列dのフーリエ変換は、行列d*のフーリエ変換の複素共役である。これには、少なくとも1つのパッド行およびパッド列、または変形行および変形列を有する連立方程式が要る。ブロック行列Tは以下のように分離することができる。方程式(24)において、行列DおよびCはブロック行列である。
【0078】
【数18】

【0079】
対角行列u/lまたはu*/lの指数を含むサブブロックを、各サブブロックdまたはd*それぞれに近似的に代入する。対角行列uおよびlは、方程式(12)の手法など公知の任意の手法によって求められる。変換後の連立方程式(26)は、係数行列の各サブブロックを個々に変換し、帯状のサブブロックを生成することにより生成される。行列TおよびTは、高速フーリエ変換(FFT)サブブロックと逆高速フーリエ変換(iFFT)サブブロックとで構成されるブロック行列であり、各サブブロックTxyからなる積に変形する。行列積(PLri)は、行列lriの積からなるサブブロックをもつブロック行列である。行列T、Tおよび(PLri)は、通常、主対角線成分に非ゼロブロックしか持たない。非限定的な実施例において、方程式(27)から行列Tを効率的に計算することが可能である。行列Citは各サブブロックが対角行列であるブロック行列である。各サブブロックは行列Cの対応する巡回サブブロックのFFTであり、方程式(24)で求められる。行列UritおよびLritは主対角線成分のサブブロックである非ゼロサブブロックのみを有するブロック行列である。行列Uritの非ゼロサブブロックは全く等しい狭帯域サブブロックである。Lritの非ゼロサブブロックは全く等しい。行列UritおよびLritの非ゼロサブブロックは、それぞれ、行列UriおよびLriの非ゼロサブブロックのフーリエ変換である。行列UriおよびLriは、主対角線成分の対角サブブロックを除いてはすべてのサブブロックはゼロに等しい。行列UritおよびLritは通常メモリ内に格納される。行列Lriがすべて等しいとき、項(PLri)は単一行列Lである。方程式(27)で開示するように、必要な行列Uritは2つのみであってよい。行列Uritの非ゼロサブブロックは、行列の右上隅および左下隅にあるコーナー帯域からなる。これらのコーナー帯域は、行列Tのサブブロックに対するコーナー帯域となる。行列Tのサブブロックのコーナー帯域と行列Tのサブブロックの主対角線周辺にある帯域とを統合すると、行列Tのサブブロックは畳み込まれ次数が縮小される。
【0080】
【数19】

【0081】
方程式(21)および(22)を変換した後、係数行列の各変換後サブブロックを次数(N/2+1)x(N/2+1)まで畳み込みして、変換後ベクトルの変換後サブベクトルにある重複要素を除去することができる。その結果できた2本の実連立方程式の係数行列の行および列に再構成を行って、次数がN(N/2+1)xN(N/2+1)である係数行列TおよびTを生成することができる。係数行列Tがブロックテプリッツ行列のとき、係数行列TおよびTの行および列で帯状の係数行列が連立方程式に生成され、この式を第2のシステムソルバー132で解くことができる。
【0082】
係数行列Tがテプリッツ・ブロックテプリッツ行列のとき、係数行列TおよびTは、テプリッツ行列のサブブロックからなる帯域を有する。これらのテプリッツ行列のサブブロックをパッドおよび変形して、行列T1SおよびT1Aを生成できる。係数行列T1SとT1Aとが生成されると、ベクトルX1S、X1A、Y1S、、Y1Aと、行列A1S、A1Aとが生成される。ベクトルSには付加未知変数が含まれる。行列A1S、A1A、B1S、B1Aは、それぞれ、行列A、A、B、Bであり、これらはさらにT行列およびT行列の要素を変形する際に使用した変形行および変形列と、行列Tおよび行列Tの次数を増大する際に使用したパッド行に対応する非ゼロ要素をもった列とで構成される。ベクトルX1S、1A、1SおよびY1Aにはゼロ埋め要素があり、これらは係数行列のサブブロックTおよびTの次数増大の際に使用した行に対応した、上記ベクトルの行に付加されたものである。
【0083】
次いで、各連立方程式を因数分解して、1本は対称ベクトル、そしてもう1本は歪対称ベクトルである2本の連立方程式にする。第2のシステムソルバー132は、各サブブロックをパッド/変形した行列T1SおよびT1Aに変換する。各連立方程式を方程式(26)に開示の行列T、TおよびLriで変換する。その後、各サブブロックを畳み込み、次数(N/2+1)x(N/2+1)まで縮小する。次数が(N/2+1)(N/2+1)x(N/2+1)(N/2+1)である4本の連立方程式それぞれに対して、異なる単一帯域の変換係数行列T2SS、T2SA、T2ASおよびT2AAを生成する。第2のシステムソルバー132はこの4本の連立方程式を解いて方程式(31)の形式の方程式を求める。4本の連立方程式の各解を統合して解Xを生成する。
【0084】
非限定的な実施例において、連立方程式(1)は複素エルミートテプリッツ・ブロックテプリッツ行列の係数行列T0、および複素ベクトルXとYを有する。連立方程式(1)を因数分解して2本の連立方程式(6)および(7)にすることができる。第2のシステムソルバー132は、方程式(6)および(7)の行列Tの各サブブロックについてパッド、分離、および変形を行い、方程式(28)および(29)の行列Tを求める。
【0085】
【数20】

【0086】
【数21】

【0087】
方程式(28)および(29)の行列Tの各サブブロックは、ついで、方程式(26)に開示したように行列T、TおよびLriによって帯状サブブロックに変換が可能である。このサブベクトルについても変換を行い、各変換後のサブベクトルに含まれる重複要素は、行列Tの各サブブロック自身に畳み込みを行って除去する。係数行列Tがブロックテプリッツ行列のとき、2つの係数行列の行および列を帯状に再構成し、次数を縮小後に2本の連立方程式を第2のシステムソルバー132で解く。いずれの連立方程式も、行および列の再構成前は同じ係数行列Tを有している。
【0088】
係数行列Tがテプリッツ・ブロックテプリッツ行列のとき、Tの各象限内の行および列を各象限内で再構成して、帯域をもつ係数行列をテプリッツ行列のサブブロックを含む各象限内に生成することができる。第2のシステムソルバー132は、パッドおよび/または変形行および変形列を各テプリッツ行列のサブブロックに付加し、ついで、各サブブロックを帯状の式に変換する。変換後のサブブロックは実部であることから、変換後のベクトルのサブベクトルは、重複要素のある対称サブベクトルおよび歪対称サブベクトルに分割が可能である。各サブブロック自身に畳み込みを行っていくと、各サブベクトルの重複要素を除去できる。4本の連立方程式には、次数が2(N/2+1)(N/2+1)x2(N/2+1)(N/2+1)である2つの異なる係数行列ができる。第2のシステムソルバー132はこの4本の連立方程式を解いて、方程式(31)の形の連立方程式4本を得る。4つの解ベクトルを統合して解Xを得る。
【0089】
図2(c)に開示の本発明のある実施形態においては、ベクトルが対称または歪対称のいずれかである実連立方程式における対称または歪対称テプリッツ行列の係数行列は、上記で定義したように、ベクトルSにあるN/2の未知変数要素を加算すると巡回行列Cに展開できる。同様の手法で、上記で定義したように、ベクトルが対称または非対称ベクトルである連立方程式にもあてはめることができる。巡回行列であるCは、フーリエ変換で対角化されるテプリッツ行列型である。方程式(8)でCの新しい対角要素を求めることができる。図2(c)の第3のシステムソルバー133は、連立方程式にフーリエ変換を用いる手法などの公知の任意の手法によって方程式(30)のベクトルSおよびベクトルXの計算を行う。これらの計算にはO(N/2)フロップスという複雑性がともなう。初期連立方程式の次数は(NxN)である。連立方程式(30)および行列Cの次数は(2Nx2N)に近似である。ベクトルXおよびYにはゼロ埋め要素があり、これらは通常ベクトルの始点および終点にあり、テプリッツ行列から巡回行列Cを作成する際に使用したパッド行およびパッド列と対応している。
【0090】
【数22】

【0091】
複素連立方程式の場合は、ベクトルSが持つことが可能な未知変数の数は2N個もある。元の連立方程式の形は、通常、この手法の応用には適していない。そういう場合は、上記で開示したように連立方程式の因数分解を行い、対称および非対称、または歪対称および対称の各ベクトルと、対称および歪対称のテプリッツ行列とを持つ形に整える。ベクトルおよび係数行列がこの形になったところで、本手法を適用する。この手法の計算効率は全行列についてみるとよくはないが、行列によってはよいものがある。
【0092】
非限定的な実施例において、ブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式で、その係数行列のサブブロックが対称または歪対称いずれかであり、かつ、そのベクトルが有するサブベクトルが上記で定義したように対称または非対称いずれかであるか、または上記で定義したように対称または歪対称のいずれかであれば、この連立方程式の次数を増大させることが可能なので、ブロックテプリッツ行列の係数行列からブロック巡回の係数行列を生成できる。そのためには、通常各サブブロックを取り囲むようにして存在するパッド行およびパッド列を連立方程式に付加する必要がある。連立方程式の次数は通常2倍、または近似的に2倍になり、近似的にN/2個の付加未知変数が連立方程式に導入される。初期連立方程式の次数は(NxN)であり、行列Aの持つ列数は、通常N/2列で、各列の1つまたは2つの非ゼロ要素以外はすべてゼロ値である。これらの列には通常2N個の要素がある。Sの値を求めるには、次数が通常(N/2xN/2)である連立方程式を解かなければならない。巡回サブブロックをフーリエ変換して対角サブブロックを得ることができる。係数行列の行および列を再構成して非ゼロサブブロックが主対角線上にしかない係数行列を生成する。この連立方程式を第3のシステムソルバー133で解いて方程式(31)の形をした方程式を得る。方程式(32)を使用してベクトルSを求めることができる。方程式(32)は、方程式(31)のパッド行から生成する。これらの行にはベクトルYのゼロ値がある。ベクトルSが既知になっていれば方程式(31)を使用してベクトルXを計算できる。
【0093】
非限定的な実施例において、初期連立方程式の係数行列は実対称または複素エルミートのテプリッツ・ブロックテプリッツ行列である。上記のいずれの手法を使用しても、サブブロックが対称であり、かつ、その手法により異なるが、ベクトルのサブベクトルが対称または非対称、または対称または歪対称である係数行列をもつ連立方程式を第3のシステムソルバー133で生成できる。係数行列の各サブブロックを展開して巡回式を得る。展開した連立方程式を変換、再構成して、ベクトルSおよびXを求める。
【0094】
連立方程式を、巡回型または帯状の係数行列を持つ形、または次数が縮小された形にした後、公知の任意の手法で求解可能である。これらの手法には、ガウスの消去法などの古典的な手法、各種共役勾配手法などの反復法、および固有値分解、特異値分解、LDU分解、QR分解、およびコレスキー分解などの分解法が含まれる。求解後の連立方程式はそれぞれ方程式(31)の形になっている。方程式(31)において、項Xは上記で開示した任意の係数行列の逆行列とベクトルYとの積である。この任意の係数行列は、巡回、帯状、または初期の係数行列より次数が小規模である係数行列であってよい。ベクトルYは、再構成または変換されたベクトルであってよい。行列Xは逆係数行列と、上記で開示した任意の行列Aとの積である。ベクトルXおよびベクトルSは未知ベクトルである。行列Xは通常図2(a)の実施形態には必要ない。図2(c)の実施形態では、行列Xは巡回係数行列を生成する際に使用したパッド列から求められる。行列Bは行列Bおよび行列Bからなり、それぞれ、パッド行および変形行を含んでいる。求解した連立方程式それぞれの解を統合して方程式(1)の解を生成する。図2(b)および2(c)の実施形態でのパッド行およびパッド列については、ベクトルSは方程式(32)により求めることができる。
【0095】
【数23】

【0096】
テプリッツ・ブロックテプリッツ行列構造を持つ係数行列において、ここに開示する発明の別の実施形態は、係数行列にあるどのテプリッツ行列レベルにも使用可能である。ここに開示の手法はまた、あらゆるテプリッツ行列のサブブロックに適用可能である。
【0097】
各種の装置100では、メモリストレージ、メモリアクセス、および計算複雑性に関するその性能要件もさまざまである。装置100に応じて、各種の手法を並列コンピュータアーキテクチャに実装できる。ここに開示の手法を特定の装置に実装する場合、行列Tの帯幅mをどのくらいにするか、パッドや変形した行pおよび行qをいくつにするか、どのハードウェアアーキテクチャにするか、といった手法パラメタをその特定の装置用に選択する必要がある。
【0098】
さらなる効率改善が得られるのは、係数行列のサブブロックが大きく、かつ、係数行列Tの逆行列T−1が、行列T−1のサブブロックそれぞれの主対角線から離れるに従って、その大きさが小さくなるという要素を持つときである。図2(b)の第2のシステムソルバー132はベクトルXをゼロ値を持つ行でゼロ詰めしてベクトルXを生成する。ベクトルXのゼロに設定される行は通常Xの各サブベクトルの始点および終点にある行である。ゼロ値の行をベクトルYの各サブベクトルの始点と終点に付加してゼロ埋めされたベクトルYを生成する。それから、ベクトルXをベクトルXyrとベクトルXとに分割する。ベクトルXyrをまず方程式(33)から計算し、次いで、ベクトルXyrの各サブベクトルの始点と終点にある、追加の選択行要素をゼロに設定してベクトルXyrpを生成する。ベクトルXyrpは、ベクトルYにのみ近似的に依存するベクトルXの一部である。その後、ベクトルXを方程式(34)で計算する。行列Tには、行列Tの要素、またはベクトルXyrpの一部となっていないベクトルX非ゼロ要素に対応する行列Tの要素いずれかが含まれる。これらの要素は、通常、パッド行またはパッド列ではない、行列Tまたは行列Tのサブブロックのコーナー部の要素である。ベクトルXの要素は、ベクトルXyrpを生成するためにベクトルXyrにおいてゼロに設定された追加の選択行要素である。第2のシステムソルバー132は、上記に開示した任意の手法により方程式(33)および(34)を解く。連立方程式(34)は、通常、連立方程式(33)よりかなり小規模である。行列Tはテプリッツ行列に近似ではあるが、行列TおよびTに含まれる対称行列ゆえに、実施形態図2(a)に開示の手法を使用して方程式(33)および(34)の解を求めることができる。この対称性は、係数行列の異なる行の要素のオーダーに関係している。一般に、図2(a)の実施形態の手法は、係数行列に含まれる行が、その係数行列の別の行にある要素の逆オーダーになっている要素を持つ場合に適用可能である。通常、実施形態図2(b)に開示の手法を使用して方程式(33)および(34)を解く。係数行列が2階(level)のテプリッツ行列からなるとき、1度に1階ずつ行い2度で方程式(33)および(34)の形の方程式を生成することができる。
【0099】
【数24】

【0100】
多くのテプリッツ・ブロックテプリッツ行列Tは悪条件である。パッド行およびパッド列を使用して行列Tの条件を実質的に改善することができる。解Xが解Xに十分近似でないとき、図2(b)の反復子135は方程式(19)および(20)を使用して公知の任意の手法により解Xを計算する。大部分がすでに計算されて各更新事項が求められているため更新には数学的な演算はほとんど要らない。解Xが解Xに十分近似であるとき、解Xは反復子135が出す解Xとしての出力である。
【0101】
システムプロセッサ134は信号Jを解Xから計算する。信号Jの計算には、解Xおよび信号Jの両方を要する。信号Jは、ベクトルXおよび信号Jの要素からなる積の和を計算するなど、任意の既知の従来手法で計算できる。装置によっては、信号Jがないものがある。そのような場合、信号JはベクトルX、または実際にベクトルXでありうるものからなる。ベクトルXおよび信号Jが双方ともに求解成分130の出力であるとき、信号JはベクトルXでも構成される。信号JおよびJいずれも、複数の信号、単一の信号、デジタル信号、またはアナログ信号であってよい。
【0102】
どのハードウェアアーキテクチャにするかは、その手法を実装する個々の装置100がもつ性能、コストおよびパワーなどに対する制約によって決まる。方程式(31)のベクトルXと行列Xの列とを、SIMD型並列コンピュータアーキテクチャ上で同じ時間に出された同じ命令により、ベクトルYおよび行列Aから計算することができる。ベクトルYおよび行列Tは、上記で開示した変換した連立方程式のいずれでも得られる行列AおよびベクトルSの積、および行列Tの計算を要する積は、どれも既存の並列コンピュータアーキテクチャで計算することが可能である。行列Tの分解もまた既存の並列コンピュータアーキテクチャで計算可能である。
【0103】
図2(a)および2(c)の実施形態に開示した手法は、テプリッツ行列およびブロックテプリッツ行列を係数行列とする連立方程式に制限されるものではない。いずれの手法も、係数行列の行要素がその係数行列の別の行の要素のオーダーに対して逆オーダーになっている連立方程式であればいずれにも適用可能である。連立方程式のベクトルは、対称ベクトルと、そのベクトルの要素の負である他の要素を持つベクトルとの和に分離可能である。ベクトルの重複する大きさを除去するには、係数行列の次数を縮小する。これにより、別の連立方程式は生成されないが、求解効率が上がる。
【0104】
ここに開示の手法を効率的に実装することができる回路としては、デジタル信号プロセッサ、一般的なマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路、フィールドプログラム可能なゲートアレイ、および中央演算処理装置などのコンピュータアーキテクチャの回路があるが、これらに制限されるものではない。これらのコンピュータアーキテクチャは、係数行列を持つ連立方程式を求解して動作を行う装置の一部である。本発明は、フロッピーディスク、読取専用メモリ、コンパクトディスク、ハードディスク・ドライブなどのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体を備えた有形の媒体で実行されるコンピュータコードという形で実施してよく、その場合、コンピュータのプロセッサがコンピュータプログラムコードの読み込みを行い、それを実行した時点で、そのコンピュータのプロセッサが本発明を実施するための装置となる。コンピュータのプロセッサに実装した場合は、コンピュータプログラムコードの各セグメントでそのプロセッサの環境設定を行って特定の論理回路を作成する。
【0105】
本発明は、ここに示した詳細な説明に限定することを意図するものではない。本発明の範囲から外れることなく、さまざまな変形を細部に行うことが可能である。本開示で使用した用語の代わりに、それと同義または類義の他の語を使用することが可能である。開示のコンポーネントの数および構成は変えてもよい。装置100および求解成分130の異なるコンポーネントを統合したり、または多数のコンポーネントにとに分離したりすることができる。装置100のコンポーネントすべてを統合して単一のコンポーネントとすることが可能である。求解成分130のサブコンポーネントすべてを統合して単一のコンポーネントとすることが可能である。求解成分130のサブコンポーネントを装置100のコンポーネントと統合してもよい。求解成分130は、本発明の実施形態のうち1つ、2つ、または3つすべてを実施するために必要とされるコンポーネントからなってよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つのコンポーネントであり、デジタル信号を処理するためのデジタル回路からなる装置であって、
行列TおよびベクトルYの要素からなる信号Ssを解Xから計算する第2のシステムソルバーと、
前記解Xから信号Jを計算するシステムプロセッサと、からなり、
前記解X、前記信号Ss、および前記信号Jは、
ビームパターン、目標物の物理的特徴、送信音声、画像およびデータ、機械的、電気的、化学的、または生物学的コンポーネントを制御するための情報、画像、および音声およびデータのフレームのうち少なくとも1つを表すし、かつ、
前記第2のシステムソルバーは、
前記信号Ssをもとに、変換した係数行列Tからなる変換した連立方程式を生成すること
を特徴とするデジタル信号処理用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記第2のシステムソルバーは、
行列Tの要素に近似的に等しい要素からなる係数行列Tを前記行列Tから計算し、
前記係数行列Tを、巡回または近似的に巡回である行列Cからなる行列の積の和に分離し、
前記行列Cから前記変換した係数行列Tを計算し、
前記ベクトルYから計算したベクトルである、変換したベクトルYを計算し、
前記変換した係数行列Tおよび前記変換したベクトルYから解Xを計算する、
請求項1に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置において、前記第2のシステムソルバーは、
ブロック行列である前記行列Tから、この行列Tの要素に近似的に等しい要素からなるブロック係数行列Tを計算し、
前記ブロック係数行列Tを、ブロック巡回または近似的にブロック巡回である行列Cからなる、行列の積の和に分離し、
ブロック行列である、前記変換した係数行列Tを前記行列Cから計算し、
前記ベクトルYから計算した、ブロック変換したベクトルYを計算し、
ブロック解Xを前記ブロック変換した係数行列Tおよび前記ブロック変換したベクトルYから計算する、
請求項1に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置において、前記第2のシステムソルバーは、解XpRからなる和をもとに前記解Xを計算し、その際に、前記解XpRは、前記行列Tの部分、またはこの行列Tに近似的に等しい行列Tの部分をもとに生成されたブロック係数行列Tをもつ連立方程式の解である、請求項1に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項5】
前記行列の積の和はさらに対角行列からなる請求項2に記載の装置。
【請求項6】
請求項2に記載の装置において、前記装置はさらに、前記解Xから解Xを計算する反復子からなり、前記システムプロセッサは、信号Jを前記解Xから計算する、請求項2に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項7】
請求項2に記載の装置において、前記第2のシステムソルバーは、前記解Xを前記変換した係数行列Tと前記変換したベクトルYとから計算する並列処理コンピュータハードウェアアーキテクチャからなる、請求項2に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項8】
請求項2に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなる
ことを特徴とする請求項2に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項9】
請求項3に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなること
を特徴とする請求項3に記載の装置デジタル信号処理用装置。
【請求項10】
請求項4に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなること
を特徴とする請求項4に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項11】
撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置のコンポーネントであり、デジタル信号を処理するためのデジタル回路からなる装置であって、該装置は、さらに、
係数行列TおよびaベクトルYの要素からなる信号Ssをもとに解Xを計算する第1のシステムソルバーと、
信号Jを前記解Xから計算するシステムプロセッサと、からなり、
前記解X、前記信号Ss、および前記信号Jは、ビームパターン、目標物の物理的特徴、送信された音声・画像・データ、機械的、電気的、化学的、または生物学的コンポーネントを制御するための情報、また、画像、および音声フレームとデータフレーム、のうち少なくとも1つを表し、
前記第1のシステムソルバーは、対称ベクトルおよび非対称ベクトルを前記ベクトルYから計算してなること、
を特徴とするデジタル信号処理用装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置において、前記第1のシステムソルバーは対称係数行列および歪対称係数行列を前記係数行列Tから計算する請求項11に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項13】
請求項11に記載の装置において、前記第1のシステムソルバーは、対称サブブロックからなる対称係数行列と歪対称サブブロックからなる歪対称係数行列とを前記係数行列Tから計算する請求項11に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項14】
請求項12に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなること
を特徴とする請求項12に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項15】
請求項13に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなること
を特徴とする請求項13に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項16】
撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置のコンポーネントであり、デジタル信号を処理するためのデジタル回路からなる装置であって、該装置は、さらに、
係数行列TおよびベクトルYの要素からなる信号Ssをもとに解Xを計算する第3のシステムソルバーと、
信号Jを前記解Xから計算するシステムプロセッサと、からなり、
前記解X、前記信号Ss、および前記信号Jは、ビームパターン、目標物の物理的特徴、送信音声データ、機械的、電気的、化学的、または生物学的コンポーネントを制御するための情報、画像、および音声フレームとデータフレーム、のうち少なくとも1つを表し、
前記第3のシステムソルバーは、前記信号Ssをもとに少なくとも1つの巡回係数行列を生成すること
を特徴とするデジタル信号処理用装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置において、前記第3のシステムソルバーは、前記係数行列Tをもとに対称係数行列および歪対称係数行列のうち少なくとも1つを計算する請求項16に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項18】
請求項16に記載の装置において、前記第3のシステムソルバーは、前記係数行列Tをもとに、対称サブブロックからなる対称係数行列および歪対称サブブロックからなる歪対称係数行列のうち少なくとも1つを計算する請求項16に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項19】
請求項17に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなること
を特徴とする請求項17に記載のデジタル信号処理用装置。
【請求項20】
請求項18に記載の装置において、前記撮像装置、検出装置、通信装置、制御装置、および一般信号処理装置のうちの1つの装置は、さらに、
センサー、センサアレイ、トランスデューサ、トランスデューサアレイ、および配線接続のうち少なくとも1つの装置を備える、信号Sinを生成する第1の入力と、
前記信号Ssを前記信号Sinから計算する第1のプロセッサと、
出力と、からなること
を特徴とする請求項18に記載のデジタル信号処理用装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−262622(P2010−262622A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−273179(P2009−273179)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(509248017)
【氏名又は名称原語表記】James Vannucci
【Fターム(参考)】