説明

信号伝送システムおよび信号伝送方法

【課題】通信装置等のデータ伝送を行うシステムにおいて、その運用中に、データの伝送を妨げることなく、伝送損失を補正することのできる信号伝送システムを提供することを目的とする。
【解決手段】伝送システムは、第1の回路と、第2の回路と、第1の回路から第2の回路に差動信号によってデータを伝送する伝送線路と、差動信号の伝送の間隙を監視する監視部と、監視部によって監視された間隙において、差動信号の伝送損失を補正する補正部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送システムおよび信号伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット上のデータの通信量の増加に伴い、データ伝送を高速で行うことのできるシリアアライザー/デシリアライザー(Serializer−Desrializer、以下、SerDesともいう。)方式などを使用するLSI(Large Scale Integration)を備えた通信装置が用いられている。SerDes方式とは、パラレルデータをシリアルデータに相互に変換して高速にデータを転送する方式である。SerDes方式を用いることにより、数10Gbps(Giga bit per second)の高速伝送が可能になる。しかし、高速伝送においては、伝送線路での高周波損失によって、差動信号の損失(伝送損失)がおこる。
【0003】
こうした伝送損失を補正するための技術として、例えば、特許文献1記載の技術がある。この技術では、通信装置の立ち上げ時に、所定のパターンの信号を伝送して伝送損失が最も小さくなるように差動信号のオフセットを補正し、送信側回路の伝送損失に影響を与える様々なパラメータ(以下、単にパラメータともいう)の最適化を行う。
【0004】
また、特許文献2記載の技術では、伝送損失が最も小さくなるように動作周波数とパラメータとの関係を求めて記憶しておき、通信装置の運用中に環境変化が起きた場合にも、その動作周波数に応じた最適なパラメータを用いることで伝送損失を補正している。
【0005】
しかし、特許文献1記載の技術では、運用中に設置温度や電圧変動などの環境変化によっておこる伝送損失の補正量の変化には、対応することができなかった。また、特許文献2記載の技術によって、それぞれの通信装置ごとに動作周波数と最適なパラメータとの関係をあらかじめ求めるのは、不便であった。これらの問題は、通信装置に限らずデータ伝送を行うシステムに共通して生じ得る問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−022392号公報
【特許文献2】特開2011−41109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、通信装置等のデータ伝送を行うシステムにおいて、その運用中に、データの伝送を妨げることなく、伝送損失を補正できる信号伝送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]第1の回路と、第2の回路と、前記第1の回路から前記第2の回路に差動信号によってデータを伝送する伝送線路と、前記データの伝送の間隙を監視する監視部と、前記監視部によって監視された前記間隙において、前記差動信号の伝送損失を補正する補正部と、を備える信号伝送システム。このような構成であれば、システムの運用中に、データ伝送を妨げることなく、差動信号を補正することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1記載の信号伝送システムであって、前記データの伝送損失の度合いを検出する検出部を備え、前記補正部は、前記検出部が検出した伝送損失の度合いに応じて補正を行う、信号伝送システム。このような構成であれば、伝送損失の度合いに応じて差動信号を補正して、伝送損失を補正(改善)することができる。
【0011】
[適用例3]適用例2記載の信号伝送システムであって、前記第1の回路は、前記間隙において所定の補正用データ列を表す差動信号を発生する発生部を備え、前記第2の回路は前記所定の補正用データ列を表す差動信号を受信する受信部を備え、前記補正部は、前記検出部が検出した前記補正用データ列の伝送損失の度合いに応じて、前記間隙において補正を行う、信号伝送システム。このような構成であれば、補正用データ列に対応する伝送損失に基づいて差動信号の補正を行うので、より正確に伝送損失を補正(改善)することができる。
【0012】
[適用例4]適用例3記載の信号伝送システムであって、前記監視部によって所定の間隙が監視されたときは、前記発生部は前記所定の間隙に収容可能な第1の補正用データ列を表す差動信号を発生し、前記監視部によって前記所定の間隙よりも長い間隙が監視されたときは、前記発生部は前記第1の補正用データ列より長い第2の補正用データ列を表す差動信号を発生する、信号伝送システム。このような構成であれば、間隙の長さに応じて第1の補正用データ列と、第1の補正用データ列よりも長い第2の補正用データ列を使いわけることができる。したがって、間隙が短い場合においても、データ伝送を妨げることなく、伝送損失を検出して差動信号の補正を行うことができる。また、間隙が長い場合には、より精度よく伝送損失を検出して、正確に伝送損失を補正(改善)することができる。
【0013】
[適用例5]適用例4記載の信号伝送システムであって、前記間隙において伝送される前記第1の補正用データ列は、複数の同一のビットと一つの異なるビットとを備える、信号伝送システム。このような構成であれば、補正用データ列は一つの異なるビットを備えるので、伝送損失を判別しやすくなり、精度良く伝送損失を補正(改善)することができる。
【0014】
[適用例6]適用例2から適用例5までのいずれか一の適用例記載の信号伝送システムであって、前記補正部は、前記検出部が前記伝送線路におけるデータの伝送において所定のビット誤り率を超えるビット誤り率を検出した場合に、前記補正を行う、信号伝送システム。このような構成であれば、ビット誤り率が所定のビット誤り率よりも大きくなった場合に、差動信号を補正することができるので、信号伝送システムの信号伝送の品質を、所望の品質に近づける補正をすることができる。
【0015】
[適用例7]適用例1から適用例6までのいずれか一の適用例記載の信号伝送システムであって、前記第1の回路は、フレームを受信して、前記フレームの転送に必要なデータを検索するための情報を前記第2の回路に伝送し、前記第2の回路は、前記情報に基づいて、前記フレームの転送に必要なデータを検索して前記第1の回路に返送する、信号伝送システム。このような構成であれば、伝送損失を補正(低減)してフレームを転送することが可能となる。
【0016】
[適用例8]適用例1から適用例7までのいずれか一の適用例記載の信号伝送システムであって、前記間隙はフレーム間ギャップである、信号伝送システム。このような構成であれば、フレームに影響を与えることなく、差動信号の補正を行うことができる。
【0017】
本発明は、上述した信号伝送システムとしての構成のほか、信号伝送方法や、通信装置としても構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例としての信号伝送システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】転送エンジンと検索エンジンと制御ユニットの構成について説明するための図である。
【図3】最適化処理のフローチャートである。
【図4】固定パターン発生部が発生する固定パターンの一例を示した図である。
【図5】固定パターン受信部が受信する固定パターンの一例を示した図である。
【図6】固定パターン受信部が受信する固定パターンの別の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.信号伝送システムの構成:
図1は、本発明の一実施例としての信号伝送システムの概略構成を示すブロック図である。信号伝送システムとしての通信装置10は、バックプレーン400において相互に接続された制御ユニット100と、パケットプロセッサユニット200(以下、PPU200)と、スイッチングユニット300と、を備える。
【0020】
制御ユニット100は、通信装置10の全体制御を行うユニットであり、内部には、CPU110やメモリ120などを備えている。制御ユニット100は、クロスバスイッチ310を介して、各PPU200と接続されており、各PPU200の制御を行う。
【0021】
スイッチングユニット300は、パケットのスイッチングを処理するためのモジュールであり、クロスバスイッチ310を備える。クロスバスイッチ310は、制御ユニット100からの指示に応じて、PPU200間でパケットの転送を行う際に、その伝送を高速にスイッチングするためのLSI(Large Scale Integration)である。本実施例では、クロスバスイッチ310に6つのPPU200が接続され、各PPU200には、それぞれ、1つのネットワークインターフェース500(以下、NIF500)が接続されているものとした。
【0022】
PPU200は、パケットの入出力を制御するためのモジュールである。PPU200は、それぞれLSIとして構成された転送エンジン210と検索エンジン240と、クロスバスイッチ310に接続されるローカルスイッチ280と、を備える。転送エンジン210は、フレームバッファ220及びヘッダバッファ230と接続されている。検索エンジン240は、経路検索用メモリ250、ARP検索用メモリ260、フレーム・QoS(Quality of Service)処理用メモリ270と接続されている。経路検索用メモリ250には、宛先ネットワークとネットマスクとゲートウェイとの対応関係が記憶されている。ARP検索用メモリ260には、IPアドレスとMACアドレスと物理ポート510との対応関係が記憶されている。フレーム・QoS処理用メモリ270には、フレームのフィルタリング、破棄、処理の優先度等の条件に関する情報が記憶されている。なお、経路検索用メモリ250、ARP検索用メモリ260、フレーム・QoS処理用メモリ270は、例えば、CAM(Content−Address Memory)とよばれる特殊なメモリやDRAM等によって構成することができる。
【0023】
転送エンジン210は、物理ポート510を介してフレームを受信すると、受信したフレーム内に含まれるデータ情報をフレームバッファ220に、ヘッダ情報をヘッダバッファ230に一時的に格納する。転送エンジン210は、また、フレームを送信するためのMACアドレスやインターフェース(PPU200および物理ポート510)などに関する情報を取得するために、検索エンジン240にヘッダ情報を送信する。転送エンジン210は検索エンジン240から返送された検索結果に基づいて、受信したフレームを出力するインターフェースを指定し、ローカルスイッチ280を介してスイッチングユニット300のクロスバスイッチ310へと転送する。転送エンジン210は、本願の「第1の回路」に相当する。
【0024】
検索エンジン240は、転送エンジン210からヘッダ情報を受け取ると、ヘッダ情報から送信先のIPアドレスを抽出した後、経路検索用メモリ250を参照してフレームの転送先のゲートウェイを決定し、ARP検索用メモリ260を参照して送出するインターフェースの決定を行う。また、検索エンジン240は、フレーム・QoS処理用メモリ270を参照して、フレームのフィルタリング、破棄、処理の優先度等の条件に関する情報を取得する。検索エンジン240は、これらの取得した情報を、転送エンジン210に伝送する。検索エンジン240は、本願の「第2の回路」に相当する。
【0025】
NIF500は、1000BASE−Tや10GBASE−T等のネットワーク回線を通信装置10に対して物理的に接続するためのモジュールである。NIF500は、転送エンジン210とネットワーク回線とを接続するための物理ポート510を備えている。
【0026】
B.転送エンジン、検索エンジン、制御ユニットの構成:
B−1.全体の構成:
図2は、転送エンジン210と検索エンジン240と制御ユニット100の構成について説明するための図である。転送エンジン210と検索エンジン240とは差動伝送路600で相互に接続されている。転送エンジン210と検索エンジン240とのデータ伝送には、本実施例においてはSerDes方式が用いられる。
【0027】
転送エンジン210と検索エンジン240とは、それぞれ制御ユニット100と接続されている。制御ユニット100の備えるCPU110は、エラーカウント部112およびフレーム間ギャップ監視部114として機能する。エラーカウント部112は本願の「検出部」に、フレーム間ギャップ監視部114は本願の「監視部」にそれぞれ対応する。
【0028】
エラーカウント部112は、転送エンジン210と検索エンジン240との間の、データの伝送時や、後述するPRBSパターンや固定パターンの伝送時に生じるエラーをカウントする。また、エラーカウント部112は、カウントしたエラーに基づいて、BER(Bit Error Rate:ビット誤り率)を算出する。PRBSパターンおよび固定パターンは、本願の「補正用データ列」に対応し、特に、固定パターンは「第1の補正用データ列」に、PRBSパターンは「第2の補正用データ列」に相当する。BERは、転送エンジン210から発信した信号に対する受信側で受信した信号のエラーの割合であり、差動伝送路600における伝送損失の指標とすることができる。BERは、温度や、電圧などの外部環境の変化に起因して増加する。BERを算出する元となるエラーは、公知のパリティチェック方式やCRC(Cyclic Redundancy Check)方式を用いて検出することができる。なお、「伝送損失」とは、データ伝送に伴って生じる、差動信号の損失、歪み、ずれを含めていう。
【0029】
フレーム間ギャップ監視部114は、転送エンジン210と検索エンジン240との間でデータの送受信がおこなわれているか否かを監視して、現在のデータ伝送の状態がフレーム間ギャップであるか否かを判断する。
【0030】
B−2.転送エンジンの構成:
転送エンジン210は、シリアライザー211と、パターン発生部213と、デエンファシス量調整部217と、出力バッファ216と、を備えている。
【0031】
シリアライザー211は、低速のパラレルデータを高速のシリアルデータに変換する回路であり、シリアル化されたデータは出力バッファ216より送出される。
【0032】
パターン発生部213は、固定パターン発生部214とPRBS発生部215とを備える。固定パターン発生部214は、後述の最適化処理において固定パターンを発生する回路である。PRBS発生部215は、後述の最適化処理においてPRBS(Pseudo Random Bit Sequence:擬似ランダムビット列)パターンを発生する回路である。なお、本明細書において「最適化処理」とは、転送エンジン210と検索エンジン240との間における伝送損失を改善するために、通信装置10のパラメータ(デエンファシス量、イコライザ量)を最適化する一連の処理をいう。パターン発生部213は本願の「発生部」に相当する。
【0033】
デエンファシス量調整部217は、CPU110の指示により、差動信号のデエンファシス量を調整する。「デエンファシス量を調整する」とは、差動伝送路600で減衰する高周波成分に合わせて、出力バッファ216の出力電圧を変化させることで、低周波成分を削除する度合いを調整することをいう。デエンファシス量を調整することによって、差動信号が補正される。デエンファシス量調整部217および後述するイコライザ量調整部247は、本願の「補正部」に対応する。
【0034】
B−3.検索エンジンの構成:
検索エンジン240は、デシリアライザー241と、パターン受信部243と、イコライザ量調整部247と、入力バッファ246とを備えている。
【0035】
デシリアライザー241は出力バッファ216から出力され、差動伝送路600を介して入力バッファ246で受信した高速のシリアルデータを、元のパラレルデータに復元する。
【0036】
パターン受信部243は、固定パターン受信部244と、PRBS受信部245とを備える。後述の最適化処理において、固定パターン受信部244は、固定パターンを受信し、PRBS受信部245は、PRBSパターンを受信する。パターン受信部243は本願の「受信部」に相当する。
【0037】
イコライザ量調整部247は、CPU110の指示に基づいて、入力バッファ246に入力された差動信号のイコライザ量を調整する。「イコライザ量を調整する」とは、差動伝送路600で減衰した高周波成分を復元するために、入力バッファ246で高周波成分を増幅する度合いを調整することをいう。イコライザ量を調整することによって、差動信号が補正される。
【0038】
なお、図示は省略しているが、通信装置10においては、転送エンジン210から検索エンジン240へ差動信号を送信するチャンネルのみではなく、検索エンジン240から転送エンジン210へ差動信号を送信するチャンネルも存在する。後述の最適化処理は、これら2つのチャンネルにおいてそれぞれ別々に実行される。これらのチャンネルは転送エンジン210と検索エンジン240との間において、複数組存在していてもよい。
【0039】
C.最適化処理:
図3は、転送エンジン210と検索エンジン240との間の差動伝送路600における最適化処理のフローチャートである。
【0040】
通信装置10が起動されると、CPU110の備えるエラーカウント部112によって、BERの監視が開始される(ステップS101)。
【0041】
CPU110は、エラーカウント部112で算出されたBERが、あらかじめメモリ120に記憶された規定値に達したか否かを判断する(ステップS102)。BERが規定値に達していない場合には(ステップS102:No)、引き続き転送エンジン210と検索エンジン240との間で信号の伝送が行われる。規定値は、求められる通信装置10の伝送の品質に応じて、あらかじめ定めることができる。
【0042】
BERが規定値を超えた場合には(ステップS102:Yes)、CPU110は伝送損失の補正量を変更(伝送損失を減少)させるために、デエンファシス量、イコライザ量を最適にするための最適化処理を開始する(ステップS103)。
【0043】
最適化処理が開始されると、CPU110のフレーム間ギャップ監視部114は、転送エンジン210と検索エンジン240との現在のデータ伝送の状態が、フレーム間ギャップか否かを判断する(ステップS104)。
【0044】
フレーム間ギャップとは、転送エンジンが取り扱うフレームにおいて、前のフレームと次のフレームとの間隔をいう。フレーム間ギャップか否かは、前のフレームのFCS(Frame Check Sequence)を受信した場合に、フレーム間ギャップであると判断することができる。フレーム間ギャップでない場合は(ステップS104:No)、フレーム間ギャップ監視部114は、引き続き監視を続ける。
【0045】
フレーム間ギャップであると判断すると(ステップS104:Yes)、フレーム間ギャップ監視部114は、さらに、フレーム間ギャップが長いか否かを判断する(ステップS105)。物理ポート510を介して到着したフレーム内に含まれるデータ情報は、フレームバッファ220に一旦格納される。フレームバッファ220にデータ情報が格納されていない場合には、差動伝送路600においてデータ伝送が行われないので、フレーム間ギャップ監視部114は、フレーム間ギャップが長いと判断する(ステップS105:Yes)。一方、フレームバッファ220にデータ情報が格納されている場合には、フレーム間ギャップは短いと判断する(ステップS105:No)。なお、本実施例では、フレーム間ギャップの最小値は「12Byte」である。「フレーム間ギャップが長い」とは、フレーム間ギャップが12Byteよりも長い場合をいい、「フレーム間ギャップが短い」とは、フレーム間ギャップが、12Byteである場合をいう。
【0046】
フレーム間ギャップ監視部114がフレーム間ギャップは短いと判断すると(ステップS105:No)、CPU110は、固定パターン発生部214に固定パターンの発生を指示し、固定パターン受信部244に固定パターンの受信を指示する。エラーカウント部112は固定パターンの伝送に伴って生じたエラーのカウントを行う(ステップS121)。
【0047】
固定パターンは、最短のフレーム間ギャップ内に収容することができる長さのデータ列である。フレーム間ギャップの最小値は、上述のように12Byte(96bit)である。この値は、連続したフレームを送信するときに最低限確保すべき間隔として、IEEE802.3によって規定されている。また、固定パターンは、データ列中の1ビットのみが他のビットと異なる、孤立ビットデータ列である。本実施例では、固定パターンとして、孤立ビット「1」である「000・・・010・・・000」や、孤立ビット「0」である「111・・・101・・・111」を用いる。このような孤立ビットは、「00」や「11」など連続する部分に比べて、環境変化に伴って出力バッファ216および、入力バッファ246で生じる補正量の変動の影響を受けやすい。したがって、エラーカウント部112は、エラーを検出しやすくなる。
【0048】
図4は、固定パターン発生部214が発生する固定パターンの一例を示した図である。図中の破線は、基準電圧を示している。破線よりも電圧が高い場合は、信号が「1」と判定され、低い場合には「0」と判定される。固定パターン発生部214で発生した固定パターンは、例えば図4のような波形を示している。図4に示す固定パターンの孤立ビットは「1」である。
【0049】
図5は、固定パターン受信部244が受信した固定パターンの一例を示した図である。差動伝送路600における高周波成分の減衰のため、図4の孤立ビット「1」において急峻であったピークが、低く緩やかになっている。この場合、図4において「1」であった部分の信号は、「0」に変化しているため、信号が正しく伝送されていない。したがって、エラーカウント部112において、エラーが検出される。
【0050】
エラーカウント部112によりエラーが検出されると(ステップS122:Yes)、デエンファシス量調整部217とイコライザ量調整部247は、CPU110の指示に基づいて、デエンファシス量およびイコライザ量を、それぞれ現在のレベルから増加する側へ、1段階調整する(ステップS123)。増加する側へ1段階調整するのは、通信装置10の設置環境における温度は、急激に低下することよりも、通信装置10の動作などにより上昇することの方が多いと考えられ、そのような場合には図5に示すように高周波成分が減衰するためである。なお、デエンファシス量およびイコライザ量の1段階の調整の量は、初期設定時などに任意に定めることができる。
【0051】
図6は、固定パターン受信部244が受信した固定パターンの別の例を示した図である。BERが規定値を超えているにもかかわらず(ステップS102:Yes)、固定パターンの伝送においてエラーが検出されない場合には(ステップS122:No)、図4に示した固定パターンの孤立ビットが強調されすぎて、図6に示すように変化し、ノイズ信号が発生していると考えられる。したがって、このような場合には、デエンファシス量およびイコライザ量は、それぞれ現在のレベルから1段階低下する側へ調整される(ステップS124)。
【0052】
なお、ステップS123およびステップS124で行われるデエンファシス量およびイコライザ量の調整は、フレーム間ギャップ監視部114によりフレーム間ギャップと判断されているときに実行される。通常のデータ伝送中にデエンファシス量およびイコライザ量の調整が行われると、差動信号の波形が乱れて、フレームが欠損する可能性があるからである。
【0053】
一方、フレーム間ギャップ監視部114がフレーム間ギャップは長いと判断すると(ステップS105:Yes)、CPU110は、PRBS発生部215にPRBSパターンの発生を指示し、PRBS受信部245にPRBSパターンの受信を指示する。エラーカウント部112はPRBSパターンの伝送に伴って発生したエラーをカウントする(ステップS106)。
【0054】
本実施例においては、PRBSパターンは、例えば1000bit程度の疑似ランダムビット列である。したがって、PRBSパターンを伝送するためには、96bitの固定パターンと比較して、長いフレーム間ギャップを必要とする。しかし、通信装置10の通信スピードは、一秒あたりギガビット単位であり、連続して受信したフレームがフレームバッファ220に格納されるまでの時間に比べれば、1000bitのビット列の伝送に要する時間はわずかである。したがって、PRBSパターンをフレーム間ギャップ中に十分に伝送することができる。
【0055】
PRBSパターンのエラーがカウントされると、その結果にかかわらず、CPU110は、デエンファシス量調整部217とイコライザ量調整部247に、デエンファシス量およびイコライザ量を現在のレベルからそれぞれ強調する側へ1段階調整することを指示する(ステップS107)。
【0056】
イコライザ量、デエンファシス量がそれぞれ1段階調整されると、CPU110はステップS106と同様に、PRBS発生部215およびPRBS受信部245に、それぞれPRBSパターンの発生とPRBSパターンの受信を指示し、エラーカウント部112は再度PRBSパターンのエラーをカウントする(ステップS108)。こうすることで、エラーカウント部112は、ステップS107における調整前のエラーの値と、調整後のエラーの値を取得する。
【0057】
ステップS109では、エラーカウント部112は、調整前後のエラーの値を比較して、調整によりエラーが増加したか否かを判断する(ステップS109)。調整によりエラーが減少した場合は(ステップS109:No)、ステップS107で行った調整により、差動信号が補正されて伝送損失が改善したことになり、CPU110は、最適化処理を終了する。
【0058】
一方、調整によりエラーが増加した場合は(ステップS109:Yes)、ステップS107においてデエンファシス量およびイコライザ量を強調する側へ1段階調整したことにより、伝送損失が悪化したことになる。つまり、ステップS107において、デエンファシス量およびイコライザ量を1段階下げていれば、差動信号が補正されて伝送損失が改善したはずである。そこで、CPU110は、デエンファシス量およびイコライザ量を、現在のレベルからそれぞれマイナス2段階下げる調整を行うことを、デエンファシス量調整部217およびイコライザ量調整部247に指示する(ステップS110)。こうすることで、イコライザ量およびデエンファシス量が、ステップS106でのデエンファシス量およびイコライザ量から実質的に1段階下がって、差動信号が補正された結果、伝送損失が改善したことになり、CPU110は、最適化処理を終了する。
【0059】
なお、固定パターンおよびPRBSパターンによる最適化処理が終了しても、通信装置10が起動している間はBERの監視が行われているため、BERが規定値を超えた場合には上述の最適化処理が繰り返される。
【0060】
以上で説明した信号伝送システムとしての通信装置10によれば、フレーム間ギャップにデエンファシス量およびイコライザ量を調整して差動信号の補正を行うので、データの伝送を妨げることがない。また、エラーを検出するために、フレーム間ギャップの長さに応じて固定パターンとPRBSパターンを使い分けることができる。最小のフレーム間ギャップにおいては、最小のフレーム間ギャップに伝送可能な孤立ビットを含む固定パターンを用いる。したがって、フレーム間ギャップが短い場合であっても、エラーを精度良く検出して、デエンファシス量およびイコライザ量を調整し、差動信号を補正することができる。一方、フレーム間ギャップが長い場合には、PRBSパターンのような長いデータ列によってエラーを検出するので、固定パターンでは検出されなかったエラーを検出することができる。したがって、より精度良くデエンファシス量およびイコライザ量を調整して差動信号を補正することができる。また、デエンファシス量およびイコライザ量は、1段階ずつであるが、フレーム間ギャップにおいて伝送損失を減少する方向に調整されていくので、通信装置10の運用中に最適な値に次第に近づいていく。そのため、デエンファシス量およびイコライザ量を、より正確に伝送損失を減少する方向に調整することができる。従ってこのような信号伝送システムとしての通信装置10においては、それぞれの通信装置の製造時の特性や、通信装置を運用している間の環境変化にも対応して、フレームの転送を停止することなく現在生じている伝送損失を、減少させることが可能となる。
【0061】
D.変形例:
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明はこのような実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。そのほか、以下のような変形が可能である。
【0062】
上述の実施例においては、ステップS101においてBERが規定値を超えた時点で最適化処理を開始しているが、BERが規定値を超えなくとも、例えば通信装置10の立ち上げと同時に、最適化処理を開始してもよい。また、通信装置10を起動した後に、上述の実施例で使用したPRBSパターンよりも長いパターンのデータ列によってエラーをカウントしてデエンファシス量およびイコライザ量を調整してから、データ伝送を開始して、上述の実施例における最適化処理を行ってもよい。
【0063】
上述の実施例においては、デエンファシス量およびイコライザ量をともに調整しているが、一方のみを調整してもよい。また、デエンファシスに代えて、プリエンファシスを行ってもよい。
【0064】
上述の実施例においては、フレーム間ギャップが長い場合にはPRBSパターンを使用してエラーを検出しているが、PRBSパターンに限らず、エラーを検出可能なデータ列であれば、あらかじめ定めた固定されたデータ列を用いてもよい。
【0065】
上述の実施例においては、フレーム間ギャップにおいて、固定パターンもしくはPRBSパターンを使用してエラーを検出しているが、固定パターンもしくはPRBSパターンを必ずしも使用しなくてもよい。例えば、BERが規定値を超えた場合に、フレーム間ギャップにおいてデエンファシス量およびイコライザ量を調整して差動信号を補正してもよい。
【0066】
上述の実施例においては転送エンジン210から検索エンジン240へのデータ伝送についての最適化処理について説明したが、転送エンジン210と検索エンジン240との間のデータ伝送に限らず、高速でデータを伝送する回路の間でのデータ伝送に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…通信装置
100…制御ユニット
110…CPU
112…エラーカウント部
114…フレーム間ギャップ監視部
120…メモリ
200…パケットプロセッサユニット
210…転送エンジン
211…シリアライザー
213…パターン発生部
214…固定パターン発生部
215…PRBS発生部
216…出力バッファ
217…デエンファシス量調整部
220…フレームバッファ
230…ヘッダバッファ
240…検索エンジン
241…デシリアライザー
243…パターン受信部
244…固定パターン受信部
245…PRBS受信部
246…入力バッファ
247…イコライザ量調整部
250…経路検索用メモリ
260…ARP検索用メモリ
270…フレーム・QoS処理用メモリ
280…ローカルスイッチ
300…スイッチングユニット
310…クロスバスイッチ
400…バックプレーン
500…ネットワークインターフェースユニット
510…物理ポート
600…差動伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回路と、
第2の回路と、
前記第1の回路から前記第2の回路に差動信号によってデータを伝送する伝送線路と、
前記データの伝送の間隙を監視する監視部と、
前記監視部によって監視された前記間隙において、前記差動信号の伝送損失を補正する補正部と、
を備える信号伝送システム。
【請求項2】
請求項1記載の信号伝送システムであって、
前記データの伝送損失の度合いを検出する検出部を備え、
前記補正部は、前記検出部が検出した伝送損失の度合いに応じて補正を行う、信号伝送システム。
【請求項3】
請求項2記載の信号伝送システムであって、
前記第1の回路は、前記間隙において所定の補正用データ列を表す差動信号を発生する発生部を備え、
前記第2の回路は前記所定の補正用データ列を表す差動信号を受信する受信部を備え、
前記補正部は、前記検出部が検出した前記補正用データ列の伝送損失の度合いに応じて、前記間隙において補正を行う、信号伝送システム。
【請求項4】
請求項3記載の信号伝送システムであって、
前記監視部によって所定の間隙が監視されたときは、前記発生部は前記所定の間隙に収容可能な第1の補正用データ列を表す差動信号を発生し、
前記監視部によって前記所定の間隙よりも長い間隙が監視されたときは、前記発生部は前記第1の補正用データ列より長い第2の補正用データ列を表す差動信号を発生する、信号伝送システム。
【請求項5】
請求項4記載の信号伝送システムであって、
前記間隙において伝送される前記第1の補正用データ列は、複数の同一のビットと一つの異なるビットとを備える、信号伝送システム。
【請求項6】
請求項2から請求項5までのいずれか一の請求項記載の信号伝送システムであって、
前記補正部は、前記検出部が前記伝送線路におけるデータの伝送において所定のビット誤り率を超えるビット誤り率を検出した場合に、前記補正を行う、信号伝送システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一の請求項記載の信号伝送システムであって、
前記第1の回路は、フレームを受信して、前記フレームの転送に必要なデータを検索するための情報を前記第2の回路に伝送し、
前記第2の回路は、前記情報に基づいて、前記フレームの転送に必要なデータを検索して前記第1の回路に返送する、信号伝送システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一の請求項記載の信号伝送システムであって、
前記間隙はフレーム間ギャップである、信号伝送システム。
【請求項9】
信号伝送方法であって、
第1の回路から第2の回路に伝送線路を介して差動信号を伝送し、
前記差動信号の伝送の間隙を監視し、
前記監視された前記間隙において、前記差動信号の伝送損失を補正する、信号伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−115802(P2013−115802A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263286(P2011−263286)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(504411166)アラクサラネットワークス株式会社 (315)
【Fターム(参考)】