説明

信号処理装置、タッチパネルユニット、情報処理装置および信号処理方法

【課題】脈拍を測定するには、たとえば、血液中のヘモグロビンが赤外線を吸収する性質を用いて脈拍を測定する脈拍センサを搭載した脈拍測定器が必要であり、センサの追加によりコストがかかる。
【解決手段】サンプル抽出部20は、タッチパネルにおいて検出されたタッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得する。離散フーリエ変換部40は、サンプルデータ列を周波数領域に変換する。周波数スペクトル分析部50は、周波数領域に変換されたサンプルデータをもとに、周波数スペクトル分布を求める。ピーク検出部60は、周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タッチパネルの検出信号を処理する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示画面に直接、人間が指で触れることにより入力を行うことができるタッチパネルやタッチパッドなどのインタフェース機器がパーソナルコンピュータ、各種の携帯機器や携帯電話などで幅広く利用されている。最近では、タッチ点の座標以外にも、タッチの強さ(圧力)や、指の向きなど、タッチ点に関する属性情報を取得することができる機器も登場している。
【0003】
特許文献1には、表裏両面に表示画面を備えた携帯型画像表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−26064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タッチパネルやタッチパッドを用いて、ユーザは画面を操作しながらいろいろな情報を入力することができるが、人間の生体情報を入力できるようにしたものは実現されていない。生体情報として、脈拍を測定するには、血液中のヘモグロビンが赤外線を吸収する性質を用いて脈拍を測定する脈拍センサを搭載した脈拍測定器のような専用機器が必要であり、コストがかかる。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、タッチパネルを用いて脈拍に関する情報を取得することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の信号処理装置は、タッチパネルにおいて検出されたタッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するサンプル抽出部と、前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める分析部と、前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるピーク検出部とを含む。
【0008】
本発明の別の態様は、タッチパネルユニットである。このタッチパネルユニットは、タッチパネルと、前記タッチパネルにおけるタッチ点の位置とタッチ状態量を検出して信号として出力するタッチパネルコントローラとを含む。前記タッチパネルコントローラは、前記タッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するサンプル抽出部と、前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める分析部と、前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるピーク検出部とを含む。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、情報処理装置である。この装置は、タッチパネルと前記タッチパネルにおけるタッチ点の位置とタッチ状態量を検出して信号として出力するタッチパネルコントローラとを含むタッチパネルユニットと、タッチパネルコントローラの出力信号を信号処理する信号処理部と、アプリケーションを実行するメインプロセッサと、前記タッチパネルに設けられるディスプレイデバイスに表示すべきデータを制御する表示制御部とを含む。前記信号処理部は、タッチパネルにおいて検出された前記タッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するサンプル抽出部と、前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める分析部と、前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるピーク検出部とを含む。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、信号処理方法である。この方法は、タッチパネルにおいて検出されたタッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するステップと、前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求めるステップと、周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるステップとを含む。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タッチパネルを用いて脈拍に関する情報を効率的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る情報処理装置の構成図である。
【図2】図1の信号処理部の機能構成図である。
【図3】図1のタッチパネルを指で触れている様子を示す図である。
【図4】図3のようにタッチパネルのある位置を指で直接触れたときに検出される静電容量振幅信号に対する信号処理を説明する図である。
【図5】図3のようにタッチパネルの別の位置を硬貨を介して指で間接的に触れたときに検出される静電容量振幅信号Aに対する信号処理を説明する図である。
【図6】異なる仕様の静電容量方式のタッチパネルを指で触れたときに検出される静電容量振幅信号に対する信号処理を説明する図である。
【図7】図7(a)〜(c)は、ユーザにタッチパネルに触れさせるためのディスプレイ画面を説明する図である。
【図8】ゲーム画面においてユーザの脈拍を測定する例を説明する図である。
【図9】携帯ゲーム機においてユーザの脈拍を測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施の形態に係る情報処理装置100の構成図である。図1に示す情報処理装置100の機能構成の一部または全部は、一例として、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、携帯機器、携帯端末などにハードウェア、ソフトウェアまたはその組み合わせによって実装することができる。
【0015】
情報処理装置100は、タッチパネルユニット140、信号処理部150、メインプロセッサ160、メモリ170、表示制御部180、およびディスプレイ190を含む。
【0016】
タッチパネルユニット140は、タッチパネル110と、フレキシブル基板120によりタッチパネル110に接続されたタッチパネルコントローラ130とを含む。
【0017】
タッチパネル110は、各種方式で、指などによる接触点(位置)(以下、「タッチ点(位置)」と呼ぶ)と、タッチ点(位置)における接触状態を示す静電容量や電気抵抗量などの検知量(以下、「タッチ状態量」と呼ぶ)を検出する入力装置であり、液晶ディスプレイや有機EL(electroluminescence)ディスプレイなどのディスプレイ190の上に重ねて設置される。これにより、ユーザはディスプレイ190の画面を見ながら、タッチパネル110に指で直接触れることで画面に対する操作を入力することができる。
【0018】
タッチパネル110は、一例として、静電容量方式タッチパネルである。タッチパネルコントローラ130は、タッチパネル110の各点の静電容量の変化量を測定してタッチ点の位置とタッチ点の静電容量値を検出する。人間の指でタッチパネル110に触れると、静電容量が脈動により変化する。これは、脈拍に連動した指の微少な動きや血流の変化がタッチ点の静電容量に影響を与えるからである。これを利用すれば、タッチパネル110に触れたユーザの脈拍を測定することが可能である。
【0019】
タッチパネルユニット140は、本実施の形態の脈拍測定をするためには以下の条件を備えれば十分である。
【0020】
(1)20Hz以上のサンプリング周波数でタッチ点のスキャニングが行えること。
人間の脈拍は一般に50−200[パルス/分]の範囲に収まるため、脈拍信号の周波数としては、0.5Hz〜2Hzである。一般に、サンプリング周波数は、計測対象の2倍以上、高精度測定の場合、5〜10倍程度のサンプリング周波数が必要となるので、仮に10倍としても、最大サンプリング周波数は2×10=20Hz以上あればよい。この値は、一般的な静電容量型タッチパネルでも比較的簡単に実現されている値であり、特に高性能であるわけではない。
【0021】
(2)各タッチ点ごとに、静電容量の時系列変化(振幅)を取得できること。
ここでいう、静電容量の時系列変化は、非タッチ時とタッチ時の静電容量計測値の差の時系列変化である。
【0022】
(3)好ましくは、適応的ゲイン制御(adaptive gain control)を一時的に停止できること。
静電容量型タッチパネルによっては、適応的にタッチ感度を自動調整する適応的ゲイン制御または自動ゲイン制御を取り入れ、感度を調整して出力を一定に保つようにしたものがある。これは、環境ノイズが変動する場合に安定したタッチパネルのセンシングを実現する上で効果的であるが、その反面、本実施の形態のように脈拍測定のために静電容量の時系列変化を見る場合は、タッチ感度が変化すると、信号の振幅が感度の切り替わり前後で不連続となり、測定値が不安定となってしまう。そこで、脈拍測定時はタッチ感度を固定することが望ましい。もっとも、タッチ感度が変わることで測定値が不安定になる時間帯があってもそれが許容されるようなアプリケーションにおいては、適応的ゲイン制御があっても問題にはならない。また、頻繁に感度調整がかからないものであれば、適応的ゲイン制御を停止しなくてもよいことがある。
【0023】
ここでは、静電容量方式のタッチパネル110を例にとって説明したが、指の脈拍に応じて何らかの測定量が時系列データとして取得できるタッチパネルであれば、静電容量方式に限らず、任意の方式のものを利用することができる。たとえば、圧力分解能の高い高感度感圧式タッチパネルでもよく、指の血流に含まれるヘモグロビンの近赤外線反射・吸収強度を高分解能で取得可能な光学式タッチパネルであってもよい。タッチパネル110は、脈動に応じて変動するタッチ状態量を何らかの物理量として検出できるものであれば、ここで例示しない任意の方式のものであってもよい。
【0024】
信号処理部150は、タッチパネルコントローラ130が検出したタッチ点の静電容量の時系列データを取得して、メモリ170に対してデータを読み書きしながら信号処理を行い、タッチしたユーザの脈拍を求める。
【0025】
メインプロセッサ160は、信号処理部150が求めた脈拍データを用いて、ゲームなどのアプリケーションを実行する。たとえば、メインプロセッサ160は、測定された脈拍の値に応じてゲームのパラメータを調整したり、ゲーム実行中に脈拍に関する指標を表示したり、ユーザに通知する。
【0026】
表示制御部180は、ゲームの画面やアプリケーションの出力画面などをディスプレイ190に表示する。また、表示制御部180は、ユーザに触れさせるタッチパネル110上の位置を案内するガイドをディスプレイ190に表示したり、脈拍測定に必要な時間が経過するまで、ユーザがタッチパネル110に触れ続けるように案内するガイドをディスプレイ190に表示する。
【0027】
図2は、信号処理部150の機能構成図である。信号処理部150は、ローパスフィルタ(LPF)10、サンプル抽出部20、窓関数処理部30、離散フーリエ変換(DFT)部40、周波数スペクトル分析部50、およびピーク検出部60を含む。
【0028】
タッチパネルコントローラ130は、タッチ点データとして、n個のタッチ点の座標(X,Y)と静電容量の振幅Aを計測時刻Tとともに出力する。信号処理部150は、以下の時系列データを取得する。複数のタッチ点を同時に検出可能なマルチタッチパネルであれば、n≧2であるが、1点のみしか検出できない場合は、n=1である。
T=t0,(X1,Y1,A1),(X2,Y2,A2),…,(Xn,Yn,An)
T=t1,(X1,Y1,A1),(X2,Y2,A2),…,(Xn,Yn,An)
T=t2,(X1,Y1,A1),(X2,Y2,A2),…,(Xn,Yn,An)

【0029】
ここで、第1のタッチ点に着目すると、静電容量の振幅の時系列データは、
A1(t)={A1(t0),A1(t1),A1(t2),…}
となり、時系列離散サンプリングデータとして得られることになる。ここで、サンプリングレートfsは、
fs=1/(t1−t0)=1/(t2−t1)=…
で求められる。一般には計測時刻にはジッタが含まれるため、サンプリングレートは、個々の時間差の平均値を使用してもよい。
【0030】
上記の静電容量の振幅の時系列データには、人間の脈拍以外の情報、たとえば電源系ノイズや環境ノイズ等も含まれている。特に、一般的なタッチパネルユニットでは、タッチ点座標の時系列変化を細かく取りたいため、サンプリングレートは30Hz以上となっていることが多い。つまり、脈拍の周波数帯0.5〜2Hzと比較すると、より高周波成分を含んでいることになる。
【0031】
そこで、まず、ローパスフィルタ10は、静電容量の振幅信号A(t)に対して、脈拍以外の周波数、特に高域を制限するローパスフィルタをかける。脈拍の周波数帯域を考慮して、ここではカットオフ周波数fc=4Hzで、10タップのローパスフィルタを用いる。ローパスフィルタの特性は、タッチパネル110から得られる周波数特性およびノイズ環境を考慮してチューニングするのが望ましい。
【0032】
次に、サンプル抽出部20は、周波数スペクトル解析を行うため、ローパスフィルタをかけた後の静電容量振幅信号のデータ列からサンプルデータ列を取り出す。サンプル数は、後で離散フーリエ変換の演算処理を施すことができるように、2のべき乗であることが望ましい。ここでは512サンプルを取り出す。サンプル数が多ければ多いほど、精度は上がるが、演算量も大きくなるので、512〜1024サンプル程度が適当である。タッチパネル110が1秒間に60サンプルをサンプリングする場合、512サンプルを取り出すには、8秒程度のサンプルデータ取得期間を設ける必要がある。
【0033】
窓関数処理部30では、周波数解析を精度よく行うため、サンプルデータ列に対して窓関数を適用する。ここでは周波数スペクトルの精度を重視して、ハミング(Hamming)窓を用いたが、タッチパネル110の出力データの特性に合わせて、他の窓関数を利用してもよい。
【0034】
離散フーリエ変換部40は、窓関数を適用した後のサンプルデータ列に対して、離散フーリエ変換(DFT)を実行し、周波数領域に変換する。周波数スペクトル分析部50は、周波数領域に変換されたサンプルデータをもとに、周波数スペクトル分布を求める。
【0035】
ピーク検出部60は、周波数スペクトル分析部50により得られたスペクトル分布において脈拍に対応するピークを検出する。スペクトル分布において、0.5Hz〜2Hzに対応する周波数帯のピークが、他のピークよりも大きく、明確な単峰性ピークを示していれば、これは脈拍に対応するものであり、ピーク検出部60は、そのピークの周波数の逆数を取って脈拍P[パルス/分]を算出する。
【0036】
図3は、タッチパネル110を指で触れている様子を示す図である。タッチパネル110のある位置(X1,Y1)を指112で直接触れたとき、静電容量振幅信号A1が検出される。タッチパネル110の別の位置(X2,Y2)を硬貨116を介して指114で間接的に触れたとき、静電容量振幅信号A2が検出される。
【0037】
図4は、図3のようにタッチパネル110のある位置(X1,Y1)を指112で直接触れたときに検出される静電容量振幅信号A1に対する信号処理を説明する図である。
【0038】
図4の上段には、静電容量振幅信号A1の原波形200が横軸を時間(単位は秒)として示されている。図4の中段には、静電容量振幅A1の原波形200をローパスフィルタに通して高周波成分を除去した信号210が示されている。図4の下段には、ローパスフィルタ後の信号210を周波数領域に変換した周波数スペクトル220が横軸を周波数(単位はHz)として示されている。脈拍の周波数帯0.5〜2Hzにおいて、一つのピークがあり、このピークの周波数を脈拍に換算すると、72パルス/秒である。
【0039】
このように、タッチパネル110を指112で直接触れると、タッチ点において検出される静電容量振幅信号には、脈拍に対応する周波数成分が含まれる。静電容量振幅信号から高周波成分を除去した後に周波数スペクトル分析すると、脈拍に対応する周波数スペクトルを検出することができる。周波数スペクトル分布には、複数のピークがあるが、人間の脈拍の周波数帯は0.5〜2Hzの範囲に収まることがわかっているから、脈拍の周波数スペクトルだけを検出することができる。仮に、脈拍の周波数帯に別の要因(たとえばノイズ)によるスペクトルが混入したとしても、脈拍の周波数スペクトルの方が十分に大きければ、脈拍の周波数スペクトルだけを抽出することができる。
【0040】
図5は、図3のようにタッチパネル110の別の位置(X2,Y2)を硬貨116を介して指114で間接的に触れたときに検出される静電容量振幅信号A2に対する信号処理を説明する図である。
【0041】
図5の上段には、静電容量振幅信号A2の原波形204が示されている。図5の中段には、静電容量振幅A2の原波形204をローパスフィルタに通して高周波成分を除去した信号214が示されている。図5の下段には、ローパスフィルタ後の信号214を周波数領域に変換した周波数スペクトル224が示されている。周波数スペクトル224には、脈拍の周波数帯0.5〜2Hzを含めて、顕著なピークは存在しない。このように、硬貨116をタッチパネル110と指114の間に挟むと、脈拍による静電容量の変化は生じないので、脈拍は検出されない。タッチパネル110を静電容量型タッチパネル対応のスタイラスなどで触れた場合も同様である。したがって、人間の指でタッチパネル110を触れているのか、指以外のもので触れているのかを区別することができる。
【0042】
認証などの目的で、タッチパネル110に生身の指で触れているか、指以外のもので触れたり、指に何かを付けて触れているかを区別したい場合がある。そのような場合、タッチパネル110から検出される信号波形から脈拍が検出されるか否かによって、生身の指で触れているか否かを判別することができる。
【0043】
図6は、異なる仕様の静電容量方式のタッチパネルを指で触れたときに検出される静電容量振幅信号に対する信号処理を説明する図である。同じ静電容量方式を用いたタッチパネルであっても、データ取得ならびに信号処理方法が異なり、また検出信号のS/N比などの条件も異なるので、信号波形は異なっている。
【0044】
図6の上段には、静電容量振幅信号の原波形202が示されている。図6の中段には、静電容量振幅A1の原波形202をローパスフィルタに通して高周波成分を除去した信号212が示されている。図6の下段には、ローパスフィルタ後の信号212を周波数領域に変換した周波数スペクトル222が示されている。脈拍の周波数帯0.5〜2Hzにおいて、一つのピークがあり、このピークの周波数を脈拍に換算すると、98パルス/秒である。このように、タッチパネルの種類が異なると、検出される静電容量振幅信号の波形が大きく異なることがあるが、その場合でも周波数スペクトル分布には脈拍に対応するピークがはっきりと表れるので、脈拍を測定することができる。
【0045】
以上述べたように、タッチパネルユニット140を用いれば、タッチパネル110にユーザが指で触れているときにユーザの脈拍を測定することができる。次に、ユーザにタッチパネル110に触れさせて脈拍を測定するためのユーザインタフェース、測定されたユーザの脈拍を利用したアプリケーションについて説明する。
【0046】
図7(a)〜(c)は、ユーザにタッチパネル110に触れさせるためのディスプレイ画面を説明する図である。ユーザの脈拍を測定するには、測定に必要なサンプル数を取得するのに必要な時間だけユーザにタッチパネル110に触れさせる必要がある。
【0047】
図7(a)に示すように、タッチパネル110(厳密にはタッチパネル110の下に配置されたディスプレイ190の画面)には、キャラクタが「ここに触れて!!」と話ながら、点線で囲まれた領域118を指さしてタッチするようにユーザに案内する。
【0048】
このガイドにしたがって、図7(b)に示すように、ユーザが指115で領域118に触れると、キャラクタは「押し続けて!」と話し、ユーザが領域118に触れ続けるように促す。一定の測定時間、たとえば5〜8秒が経過すると、図7(c)に示すように、キャラクタは表情を変えて「もういいよ!!」と話し、ユーザは指115をタッチパネル110から離す。
【0049】
ユーザの指115がタッチパネル110に触れている間、信号処理部150は、タッチパネルユニット140から得られるタッチ点の静電容量振幅値を周波数スペクトル分析してユーザの脈拍を測定する。こうして、ユーザに気づかれないうちに、脈拍を測定することができる。
【0050】
脈拍は、タッチパネル110上のどの位置でも計測可能であるが、より高精度のセンシングを行うために、指を当てる場所を制限することもできる。その場合は、図7(a)〜(c)の点線で囲まれた領域118を高精度のセンシングが可能な位置に表示して、指で触れる位置をガイドすることができる。
【0051】
図7(a)〜(c)の例では、画面に表示されたキャラクタが、ユーザにタッチパネル110を長押しするように促したが、脈拍を計測中であることをインジケータなどを点滅させてユーザに知らせる形態を取ってもよい。
【0052】
図8は、ゲーム画面においてユーザの脈拍を測定する例を説明する図である。タッチパネル110のディスプレ画面には、エアホッケーゲームが表示されており、第1のユーザは指111で自分のマレット124を操作し、円盤122を打つ。第2のユーザは指113で自分のマレット126を操作し、円盤122を打つ。
【0053】
第1、第2のユーザはそれぞれ自分のマレット124、126を操作する間、自分の指111、113でタッチパネル110に触れている。タッチ点は移動するが、指111、113でタッチパネル110を一定時間触れ続ける。したがって、マルチタッチ対応のタッチパネル110であれば、たとえば、第1のユーザについて、タッチ位置座標と静電容量振幅の時系列データが次のように得られる。
T=t1,(X1,Y1,A1)
T=t2,(X2,Y2,A2)
T=t3,(X3,Y3,A3)

T=tn,(Xn,Yn,An)
【0054】
第1のユーザについて、タッチ位置を変えながら、静電容量振幅の時系列データA1={A1(t1),A2(t2),A3(t3),…,An(tn)}が得られる。第2のユーザについても、同様にタッチ位置を変えながら、静電容量振幅の時系列データB1={B1(t1),B2(t2),B3(t3),…,Bn(tn)}が得られる。
【0055】
マルチタッチ対応のタッチパネルユニット140は、第1のユーザの静電容量振幅の時系列データA1と第2のユーザの静電容量振幅の時系列データB1とを同時に出力するが、信号処理部150は、両者をタッチ位置の違いで区別することができる。エアホッケーゲームでは、第1、第2のユーザは、それぞれタッチパネル110のディスプレ画面に表示された自分のコート内でタッチし、相手のコート内ではタッチしないから、タッチ位置座標(X,Y)がどちらのコートに属するかを判定して第1のユーザの静電容量振幅信号と第2のユーザの静電容量振幅信号とを区別することができる。
【0056】
第1ユーザ、第2ユーザの脈拍測定値をゲームアプリケーションで利用して、図8に示すようにユーザの緊張度を表示してもよい。この例では、第1ユーザはゲームの進行に連れて脈拍が高くなったため、自分のコート内に「緊張度80」と高い値が表示されているが、第2ユーザは脈拍が上がっていないため、自分のコート内に「緊張度30」と低い値が表示されている。
【0057】
測定された脈拍に応じてゲームアプリケーションのパラメータを変更してもよい。たとえば、脈拍が上がると、ゲームのキャラクタの感情の高ぶりを示すパラメータの値を上げたり、攻撃力や体力に関するパラメータの値を下げてもよい。また、ユーザの脈拍が上がると、キャラクタの緊張度を示す値を上げて、ゲーム中のキャラクタも緊張するようにしてもよい。レーシングゲームであれば、乗り物の速度を脈拍に応じて変化させてもよい。また、脈拍の時間変化をゲームの展開に反映させてもよい。脈拍が速くなるにつれて、ゲームの進行速度を速めたり、ゲーム中に流れる音楽のテンポを上げたり、曲を変えてもよい。
【0058】
このように、ゲームなどのアプリケーションでは、脈拍の測定結果をゲームの演出に用いることができる。その場合、脈拍の測定値の精度はそれほど問われない。
【0059】
この例では、ユーザに脈拍を測定させるためにタッチパネル110に意識的に触れさせなくても、ユーザがタッチパネル110に触れてゲームをしている内に、ユーザの知らない間に脈拍が測定されてゲームに利用される。したがって、ユーザは何ら負担を感じることがない。また、マルチタッチ対応のタッチパネル110では、複数のユーザの脈拍を測定できるため、マルチユーザのゲームに応用することができる。
【0060】
マルチタッチ対応のタッチパネル110では、一人のユーザが複数の指を用いてマルチタッチしている場合と、複数のユーザがマルチタッチしている場合とがあるが、これらを区別することも可能である。サンプル抽出部20が上述のようにマルチタッチに対応して複数の静電容量振幅の時系列データを取得した場合、もし、複数のユーザによるマルチタッチであれば、一般に、ピーク検出部60は脈拍の周波数帯にあるピークを複数検出し、複数の異なる脈拍値を得る。それに対して、一人のユーザによるマルチタッチであれば、脈拍の周波数帯においてピークは一つだけ検出され、脈拍値は一つしか得られないはずである。ユーザの脈拍値は一般にそれぞれ異なるため、メインプロセッサ160は、マルチタッチが検出されても、実質的に同じ脈拍値が検出されたならば、たまたま複数のユーザの脈拍値が一致する場合を除けば一人のユーザがマルチタッチしたものと推定することができ、同時に異なる脈拍値が検出されたならば、複数のユーザがマルチタッチしたものとみなすことができる。
【0061】
図9は、携帯ゲーム機400においてユーザの脈拍を測定する方法を説明する図である。携帯ゲーム機400をユーザがグリップすると、ユーザの親指が携帯ゲーム機400の液晶ディスプレイに触れる。このグリップ箇所410においてタッチパネルユニットが検出する静電容量の変化をもとにユーザの脈拍を測定してもよい。
【0062】
また、表裏両面にタッチパッドやタッチパネルのようにタッチセンサを備えた携帯ゲーム機400であれば、親指以外の指で背面のタッチセンサに触れているため、背面のタッチセンサにおいて脈拍を検出してもよい。この方法であれば、前面のタッチパネルに親指が触れていないときでも、携帯ゲーム機400をグリップしている限り、背面のタッチセンサには指が触れているから、より安定かつ継続的な脈拍の測定が可能である。
【0063】
以上述べたように、本実施の形態の情報処理装置によれば、タッチパネルを用いて簡単にユーザの脈拍を測定し、アプリケーションに対する入力として利用したり、ユーザにフィードバックを与えることができる。これにより、ヒューマンインタフェースデバイスとしての機能性を高めることができる。生体情報として脈拍の入力を可能にしたことにより、ユーザとアプリケーションの相互作用を支援し、運動や健康管理に関連するアプリケーションの実現性を高めたり、ゲームなどのアプリケーションに臨場感を与えることができる。
【0064】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0065】
上記の説明では、タッチパネルユニット140のタッチパネルコントローラ130から出力されるタッチ状態量を示す信号を信号処理部150が取得して信号処理し、周波数スペクトル分析により脈拍を求めたが、信号処理部150の機能構成をタッチパネルコントローラ130の内部に専用回路または専用プログラムで実装することも可能である。脈拍は1秒に1回程度であるから、信号処理にはそれほどのリアルタイム性は求められず、1秒に1回程度の演算ができればよい。したがって、タッチパネル110にフレキシブル基板120で接続されたタッチパネルコントローラ130の処理能力でも十分に対応することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 ローパスフィルタ、 20 サンプル抽出部、 30 窓関数処理部、 40 離散フーリエ変換部、 50 周波数スペクトル分析部、 60 ピーク検出部、 100 情報処理装置、 110 タッチパネル、 120 フレキシブル基板、 130 タッチパネルコントローラ、 140 タッチパネルユニット、 150 信号処理部、 160 メインプロセッサ、 170 メモリ、 180 表示制御部、 190 ディスプレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチパネルにおいて検出されたタッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するサンプル抽出部と、
前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める分析部と、
前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるピーク検出部とを含むことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
タッチパネルと、
前記タッチパネルにおけるタッチ点の位置とタッチ状態量を検出して信号として出力するタッチパネルコントローラとを含み、
前記タッチパネルコントローラは、
前記タッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するサンプル抽出部と、
前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める分析部と、
前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるピーク検出部とを含むことを特徴とするタッチパネルユニット。
【請求項3】
タッチパネルと前記タッチパネルにおけるタッチ点の位置とタッチ状態量を検出して信号として出力するタッチパネルコントローラとを含むタッチパネルユニットと、
タッチパネルコントローラの出力信号を信号処理する信号処理部と、
アプリケーションを実行するメインプロセッサと、
前記タッチパネルに設けられるディスプレイデバイスに表示すべきデータを制御する表示制御部とを含み、
前記信号処理部は、
タッチパネルにおいて検出された前記タッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するサンプル抽出部と、
前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める分析部と、
前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるピーク検出部とを含むことを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記ディスプレイデバイスの画面に、ユーザに触れさせるタッチパネル上の位置を案内するガイドを表示することを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、脈拍測定に必要な時間が経過するまで、ユーザがタッチパネルに触れ続けるように案内するガイドを表示することを特徴とする請求項3または4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、ユーザが所定の時間、操作入力を与えるために前記タッチパネルに触れている間に検出されたタッチ状態量をもとに周波数スペクトル分析することにより、ユーザの脈拍を求めることを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記メインプロセッサは、測定された脈拍の値にもとづいてゲームアプリケーションのパラメータを調整することを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記ピーク検出部により、脈拍の周波数帯にあるピークが検出されない場合、前記メインプロセッサは、生身の指でタッチされたものではないと判定することを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記タッチパネルユニットがマルチタッチ対応であり、前記サンプル抽出部がマルチタッチに対応して複数のサンプルデータ列を取得した場合、
前記ピーク検出部が脈拍の周波数帯にあるピークを複数検出し、複数の異なる脈拍値を得たならば、前記メインプロセッサは、複数のユーザによるマルチタッチであると判定し、
前記ピーク検出部が脈拍の周波数帯にあるピークを実質的に一つだけ検出し、一つの脈拍値を得たならば、前記メインプロセッサは、単一のユーザによるマルチタッチであると判定することを特徴とする請求項3から8のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項10】
タッチパネルにおいて検出されたタッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得するステップと、
前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求めるステップと、
前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求めるステップとを含むことを特徴とする信号処理方法。
【請求項11】
タッチパネルにおいて検出されたタッチ状態量を示す信号のサンプルデータ列を取得する機能と、
前記サンプルデータ列を周波数領域に変換して周波数スペクトル分布を求める機能と、
前記周波数スペクトル分布において脈拍の周波数帯にあるピークを検出し、検出されたピークの周波数の逆数を取って脈拍を求める機能とをコンピュータに実現させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
請求項11のプログラムを格納したことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−130565(P2012−130565A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286240(P2010−286240)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(310021766)株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント (417)
【Fターム(参考)】