説明

信号同期装置及び監視方法

【課題】GPS信号喪失時の同期ズレ発生や障害の拡大を未然に防止する。
【解決手段】GPSユニット200より供給されるGPS信号とクロック発生器10のフィードバック信号とを比較器20により比較することにより得られる差分に基づいてクロック発生器10を補正する信号同期装置であって、クロック発生器10を補正する補正値の許容範囲を記憶する許容範囲情報記憶部50と、補正値が許容範囲内にあるか否かを監視する補正監視部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGPS等の基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
TDMAシステムなど、無線通信を行う基地局においては、信号送信時のタイミングを合わせるために他基地局との間で時間的な同期をとる必要があり、同期手段としてGPS衛星から送信されるGPS信号が用いられている。
【0003】
図13は、信号同期装置を含む基地局の構成を示図である。基地局は、信号同期装置110、GPSユニット200、GPSアンテナ300などで構成され、信号同期装置110は、更に、クロック発生器10、比較器25を含む。GPS衛星(図示省略)からGPSアンテナ300を介して受信され、GPSユニット200で復調されたGPS信号と、クロック発生器10からフィードバックされた生成信号とが、比較器25で比較されることにより補正情報が生成され、補正を施した同期クロックがクロック発生器10にて生成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GPSアンテナ300やGPSユニット200の不具合によりGPS信号が正しく受信できなくなった場合、クロック発生器10を修正することができなくなるので、同期クロックにズレを生ずる。同期は、クロックにズレを生じるとシステム性能に致命的な影響を及ぼす重要な動作であるため、GPS信号を受信できない場合でも同期クロックのズレを抑制できるように、高精度のクロック発生器を搭載したり、温度特性を補正する機構を搭載したりするなどの方策がある。
【0005】
しかし、経年変化や故障等の要因によりクロック発生器の性能に劣化が生じると、GPS信号の受信ごとに補正は行われるものの、補正量や補正量のばらつきが大きくなるため、GPS信号を喪失した場合にはすぐに同期が不可能となってしまうという問題があった。また、温度特性を補正するにはあらゆる環境を想定する必要があり、また、特性変動に対するキャリブレーション等に多くの工数がかかるため、コスト面において問題があった。
【0006】
更に、信頼性向上のために冗長構成(例えば、複数のGPS受信同期システムを搭載するなど)をとる方策もあるが、コスト面での問題があることに加え、経年変化や故障に対応する適切なタイミングで予備システムへの切り替えを行うことができないという問題もあった。
【0007】
本発明はGPS信号喪失時の同期ズレ発生や障害の拡大を未然に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置であって、前記信号源を補正する補正値の許容範囲を記憶する手段と、前記補正値が前記許容範囲内にあるか否かを監視する手段とを備える。また、本発明は、外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置の監視方法であっ
て、前記補正値が前記信号源を補正する補正値の許容範囲内にあるか否かを監視する。この構成によれば、信号源を補正する補正値が許容範囲内にあるか否かを監視することで、信号同期装置の障害をいち早く検出し、GPS信号喪失時の同期ズレ発生や障害の拡大を未然に防止することができる。
【0009】
また、本発明は、外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置であって、前記信号源が設置された地点の環境情報を検出する手段と、前記信号源を補正する補正値の許容範囲を前記環境情報毎に記憶する手段と、前記補正値が前記許容範囲内にあるか否かを監視する手段とを備える。また、本発明は、外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置の監視方法であって、前記補正値が前記信号源を補正する補正値の許容範囲内にあるか否かを前記信号源が設置された地点の環境情報に基づいて監視する。この構成によれば、例えば、任意の温度において行われた補正に係る補正値が、予め設定した当該温度に対応する許容範囲にあるか否かを監視することで、信号同期装置の障害をいち早く検出し、GPS信号喪失時の同期ズレ発生や障害の拡大を未然に防止することができる。
【0010】
また、本発明は、外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置であって、前記信号源が設置された地点の環境情報を検出する手段と、前記信号源を補正する補正値の許容範囲及び補正値のばらつきの許容範囲を前記環境情報毎に記憶する手段と、前記環境情報と前記補正値とを関連付けた補正情報を記憶する手段と、前記補正情報に基づいて算出される任意の環境情報における補正値の平均及びばらつきの範囲のテーブルを生成する手段と、前記補正値が前記許容範囲内にあるか否か、または算出した補正値のばらつきの範囲が前記補正値のばらつきの範囲内にあるか否かを監視する手段とを備える。また、本発明は、外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置の監視方法であって、前記信号同期装置は、前記信号源が設置された地点の環境情報を検出する手段と、前記信号源を補正する補正値の許容範囲及び補正値のばらつきの許容範囲を前記環境情報毎に記憶する手段と、前記環境情報と前記補正値とを関連付けた補正情報を記憶する手段と、前記補正情報に基づいて算出される任意の環境情報における補正値の平均及びばらつきの範囲のテーブルを生成する手段とを備え、前記補正値が前記許容範囲内にあるか否か、または算出した補正値のばらつきの範囲が前記補正値のばらつきの範囲内にあるか否かを監視する。この構成によれば、例えば、温度ごとに計算された直近過去の補正値の平均や分散を参照して、補正に係る補正値またはそのばらつきが予め設定した当該温度に対応する許容範囲やばらつきの許容範囲内にあるか否かを監視することで、信号同期装置の障害をいち早く検出し、GPS信号喪失時の同期ズレ発生や障害の拡大を未然に防止することができる。
【0011】
または、前記環境情報は電気装置の消費電力に関わる情報であり、前記環境情報を検出する手段は電力又は電流又は電圧を検出するセンサーを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記補正情報が追加される度に前記テーブルを更新することが好ましい。また、前記補正値が許容範囲内にない場合、報知を行うことが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の実施の形態1における信号同期装置を含む基地局の構成を示す図である。基地局は、信号同期装置100、GPSユニット200、GPSアンテナ300を含む。信号同期装置100は、クロック発生器10、比較器20、補正監視部40、許容範囲情報記憶部50を含む。信号同期装置100は、GPS衛星(図示省略)からGPSアンテナ300を介して受信され、GPSユニット200で復調されたGPS信号を取得する。
【0014】
信号同期装置100のクロック発生器10は、同期クロックを生成する。また、比較器20で生成される補正値情報に基づいて、補正した同期クロックを外部へ送出する。比較器20は、GPS信号とクロック発生器10からのフィードバック信号とを比較して、クロック発生器10のタイミング補正に必要な補正値を計算し、クロック発生器10へ送出する。補正監視部40は、比較器20で行われたタイミング補正の補正値情報を取得して、後述する許容範囲情報記憶部50または補正情報記憶部30に記憶されている補正値の許容範囲情報や補正範囲情報を参照して、実行中の補正の補正値が許容範囲内にあるか否か、即ち、障害を監視する。
【0015】
許容範囲情報記憶部50には、比較器20で行われる補正の補正値に関して、上限値と下限値を任意に設定して定めた許容範囲情報が記憶されている。これは、補正値が上限値よりも大きい数値や下限値よりも小さい数値である場合、クロック生成における障害と判断することを意味する。即ち、経年劣化や故障などの何等かの要因により正しいクロック生成が行われていないため、GPS信号喪失時には同期ズレなどの障害が発生すると推定される状況にある。許容範囲の詳細については後述する。
【0016】
図2は本発明の実施の形態2における信号同期装置の補正監視動作手順を示す図である。比較器20は、GPSユニット200から取得したGPS信号とクロック発生器10のフィードバック信号とから同期タイミングの補正値を算出し、クロック発生器10へ送出する補正の実行中である(ステップS101)。補正監視部40は、クロック発生器10へ送出される補正値情報を取得し(ステップS102)、さらに許容範囲情報記憶部50に記憶された許容範囲情報を参照して(ステップS103)、取得した補正値情報が許容範囲にあるか否かを判断する(ステップS104)。
【0017】
図3は本発明の実施の形態1における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部に設定されている許容範囲を説明するための図である。許容範囲情報記憶部50には、補正値の下限値Aと上限値Bが許容範囲として設定されている。従って、取得した補正値情報が下限値Aと上限値Bで定まる範囲内にある場合、当該補正に係るクロック生成は正常に行われていると判断される。一方、取得した補正値情報が上記の範囲内にない場合、クロック生成における障害と判断される。
【0018】
図2のフローチャートに戻り、取得した補正値情報が許容範囲内にある場合(ステップS104のYes)、ステップS101に戻り、同様の処理手順を繰り返す。一方、取得した補正値情報が許容範囲内にない場合(ステップS104のNo)、補正監視部40は、アラーム等により報知を行う(ステップS105)。
【0019】
図4は本発明の実施の形態2における信号同期装置を含む基地局の構成を示す図である。実施の形態1と比較して、補正監視部40内に環境情報検出部41が付加された点が異なる。それ以外の構成は実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
【0020】
環境情報検出部41は、温度や湿度などに係る環境情報をセンサー(図示省略)を介して検出する。なお、センサーは、信号同期装置が影響を受ける環境情報を検出できれば、信号同期装置100の内部又は外部の何れに在っても良い。許容範囲情報記憶部51には、比較器20で行われる補正の補正値に関して、上限値と下限値を任意に設定して定めた許容範囲情報が環境情報に関連付けて記憶されている。これは、任意の環境情報に対応する補正値が上限値よりも大きい数値や下限値よりも小さい数値である場合、クロック生成における障害と判断することを意味する。即ち、経年劣化や故障などの何等かの要因により正しいクロック生成が行われていないため、GPS信号喪失時には同期ズレなどの障害が発生すると推定される状況にある。許容範囲の詳細については後述する。
【0021】
図5は本発明の実施の形態2における信号同期装置の補正監視動作手順を示す図である。ステップS201からステップS202までの手順は、実施の形態1の図2のフローチャートにおけるステップS101からステップS102までと同じであるため、説明を省略する。補正監視部40の環境情報検出部41は、センサーを介して温度情報を取得する(ステップS203)。補正監視部40は、許容範囲情報記憶部51に温度ごとに記憶された許容範囲情報の中から、取得した温度に対応する許容範囲情報を参照して(ステップS204)、取得した補正値情報が許容範囲にあるか否かを判断する(ステップS205)。
【0022】
図6は本発明の実施の形態2における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部51に記憶されている許容範囲を説明するための図である。許容範囲情報記憶部51には、補正値の下限値と上限値が許容範囲として設定されており、しかも、それらが温度ごと設定されている。クロック発生器10には温度特性があるため、それらを反映した許容範囲を設定しておけば、より精度の高い障害判定を行うことができる。尚、図の例では所定の温度範囲ごとに許容範囲を設定している。例えば、環境情報検出部41が検出した温度が温度Tである場合、下限値A’と上限値B’で定まる範囲が許容範囲となる。従って、取得した補正値情報がこの範囲内にある場合、当該補正に係るクロック生成は正常に行われていると判断される。一方、取得した補正値情報が上記の範囲内にない場合、クロック生成における障害と判断される。
【0023】
図5のフローチャートに戻り、取得した補正値情報が許容範囲内にある場合(ステップS205のYes)、ステップS201に戻り、同様の処理手順を繰り返す。一方、取得した補正値情報が許容範囲内にない場合(ステップS205のNo)、補正監視部40は、アラーム等により報知を行う(ステップS206)。
【0024】
図7は本発明の実施の形態3における信号同期装置を含む基地局の構成を示す図である。実施の形態2と比較して、補正範囲情報生成部31を含む補正情報記憶部30が付加された点と、比較器20内に補正情報記録部23と環境情報検出部22とが付加された点が異なる。それ以外の構成は実施の形態2と同じであるので、説明を省略する。
【0025】
補正情報記録部23は、クロック発生器10に行った補正に係る補正値情報と環境情報とを関連付け、補正情報として補正情報記憶部30に記録する。補正情報記憶部30は、比較器20から取得した補正情報を記憶する。補正情報記憶部30内の補正範囲情報生成部31は、取得した補正情報をデータベース化し、蓄積された複数の補正情報に基づいて、任意の環境情報における補正に係る補正値の平均およびばらつきの範囲(分散)を算出し、環境情報と平均および分散とに係る補正範囲データテーブルを生成する。データテーブルの詳細については後述する。環境情報検出部22は、比較器20内にあって、温度や湿度などに係る環境情報をセンサー(図示省略)を介して検出する。尚、環境情報検出部41と同等の機能部であるので、いずれかに統合して検出情報を提供するようにしてもかまわない。
【0026】
許容範囲情報記憶部52には、比較器20で行われる補正の補正値に関して、上限値と下限値を任意に設定して定めた許容範囲に加え、クロック発生器10の精度に基づいて任意に定めた補正値のばらつきの許容範囲に関する情報が環境情報に関連付けて記憶されている。これは、補正値が上限値よりも大きい数値や下限値よりも小さい数値である場合に加え、補正値のばらつきが所定範囲よりも大きい場合にもクロック生成における障害と判断することを意味する。即ち、経年劣化や故障などの何等かの要因により正しいクロック生成が行われていないため、GPS信号喪失時には同期ズレなどの障害が発生すると推定される状況にある。特に、補正値のばらつきが大きくなることは、クロック生成精度が経時的に劣化していることの有効な判定要素となる。許容範囲の詳細については後述する。
【0027】
図8は本発明の実施の形態3における信号同期装置の補正監視動作手順を示す図である。ステップS301からステップS305までの手順は、実施の形態2の図5のフローチャートにおけるステップS201からステップS205までと同じであるため、説明を省略する。取得した補正値情報の補正値が上限値・下限値で設定した許容範囲内にある場合(ステップS305のYes)、補正監視部40は、環境情報検出部41が取得した温度情報に基づいて、補正情報記憶部30に記憶された補正範囲情報、具体的には補正範囲データテーブルを参照する(ステップS306)。
【0028】
補正情報記憶部30で生成される補正範囲情報について説明する。通常の信号同期動作において、比較器20は、取得したGPS信号とクロック発生器10のフィードバック信号とから同期タイミングの補正値を算出し、クロック発生器10へ送出している。補正情報記録部23は、クロックの補正が行われるたびに、環境情報検出部22で検出した温度情報と補正値情報とを関連付けた補正情報を補正情報記憶部30へ記録する。補正情報記憶部30の補正範囲情報生成部31は、記録された複数の補正情報のデータベース化を行う。
【0029】
図9は本発明の実施の形態3における信号同期装置の、補正情報記憶部に格納される補正情報データベースのデータ構成を示す図である。補正範囲情報生成部31は、比較器20より取得した温度情報(環境情報)と補正値情報にデータ収集日情報を付加してデータベースを生成する。図9の例では、補正情報が温度ごとにソートされている。補正範囲情報生成部31は、補正情報が記録されるたびにデータベースの生成を行う。補正範囲情報生成部31は、補正情報データベースの作成と同時に、当該温度における補正値の平均およびばらつきの範囲(分散)を算出し、補正監視部が参照可能な補正範囲データテーブルとして生成している(図10参照)。
【0030】
補正範囲データテーブルは具体的に以下の方法で生成される。例えば、図9に示す補正情報データベースにおいて、温度T10についてはα101からα10MまでM個の補正値データが蓄積されている。このM個の補正値は、同じ温度T10において生成された補正値であるので、これらの履歴データを利用して補正値の平均と分散を算出する。このような計算を信号同期装置100の設置環境で想定される温度範囲にわたって実行すれば、当該温度範囲における補正の現時点(最新)における補正の特性、即ち、補正値の平均と分散を提供することができる。
【0031】
本実施の形態では、それぞれの温度において蓄積可能な補正情報数を予め設定できるようにしている(例えば、上記の例では、T10においてM個の補正値データが蓄積可能)。そして、蓄積された補正情報数がM個を超過した場合、最も古い補正情報が削除され、その代わりとして最新の補正情報が記録される。
【0032】
補正範囲情報生成部31は、補正情報の削除や追記などの更新が行われる都度、次の補正タイミングまでにこの補正範囲データテーブルを生成する。従って、気象や季節により設置環境に温度変化が生じた場合でも、周辺環境の変化を反映した最新の特性(実行中の補正に係る特性)を提供することができる。補正監視部40は、算出した平均値および分散値を参照して障害であるか否かを正しく判断することができる。平均値や分散値を参照して行う障害判定の具体的な手順については後述する。
【0033】
図8のフローチャートに戻り、上記の要領で生成された補正範囲データテーブルを参照した補正監視部40は(ステップS306)、取得した補正値情報が、参照した平均値(当該温度における平均値)からどれだけ乖離しているかを判断する(ステップS307)。乖離を判断する範囲としては、例えば、平均値±所定数値とする範囲などを任意に設定すればよい。
【0034】
図11は本発明の実施の形態3における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部52に記憶されている許容範囲を概念的に説明するための図である。許容範囲情報記憶部52には、補正値の下限値と上限値が許容範囲として設定されている。図に示すように、例えば、任意の温度Tmで行った補正の補正値が、温度Tmにおける複数の補正値から算出した平均値を中心とする所定の範囲内にない場合、クロック発生器10の経年劣化などによりクロック生成にばらつきが生じていると判断される。
【0035】
次に、取得した補正値情報の補正値が、補正範囲情報生成部31で算出された平均値を中心とする許容範囲内にある場合(ステップS307のYes)、補正監視部40は、許容範囲情報記憶部52に設定した補正値のばらつきの許容範囲情報を参照する(ステップS308)。そして、ステップS306で参照した補正範囲データテーブルの分散値σが、参照した許容範囲にあるか否かを判断する(ステップS309)。上記の通り補正範囲データテーブルは適宜更新されているので、この分散値σは、最新の補正値を含む直近のばらつきを示すデータとして採用することができる。
【0036】
図12は本発明の実施の形態3における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部52に記憶されている許容範囲を説明するための図である。許容範囲情報記憶部52には、補正値の下限値と上限値が許容範囲として設定されており、さらに、それぞれの温度ごとに許容される補正値のばらつき範囲が設定されている。クロック発生器10には温度特性があるため、それらを反映した許容範囲を設定しておけば、より精度の高い障害判定を行うことができる。図に示すように、例えば、任意の温度Tmにおける補正値の分散値σが、予め設定された許容範囲(閾値)を超過している場合、クロック発生器10の経年劣化などによりクロック生成にばらつきが生じていると判断される。
【0037】
分散値σが閾値内にある場合(ステップS309のYes)、ステップS301に戻り、同様の手順を繰り返す。一方、上記のステップS305、ステップS307、ステップS309において、取得した補正値情報または補正情報から算出した値が許容範囲内にない場合、補正監視部40は障害と判定してアラーム等により報知を行う(ステップS310)。
【0038】
上記実施の形態によれば、補正情報を監視することにより、GPS信号に基づく信号同期装置の障害をいち早く検出し、GPS信号喪失時の同期ズレ発生や障害の拡大を未然に防止できる。特に、冗長構成をとっている場合には、故障に至る前に適切に予備装置に切り替えることができ、信号同期装置の信頼性を向上させることができる。
【0039】
(環境情報として装置の消費電力を用いる実施例)
前述の環境情報をある電気装置の消費電力の情報(消費電流又は供給電圧などから算出する場合を含む)としても良い。
【0040】
これにより、この電気装置の発熱がクロック発生装置10と温度センサーとのそれぞれに対し異なった影響をした場合でも、適切な補正値が得られるようになる。
【0041】
以下にその詳細を説明する。
【0042】
ある閉空間に収められた電気装置は、その電気装置が電波や光又は電気信号などのかたちで電力消費に伴うエネルギーを閉空間外部へ出力しない限り、この電気装置が消費した消費電力は最終的に全て熱となって閉空間内に放出される。
【0043】
一方、前述の温度センサーは前述のクロック発生装置10の温度を検出するために成るべく同一の場所に取り付けたいが、個別の装置であれば厳密には同一の場所に取り付けることは出来ない。また装置の組み込み上の都合などにより、必ずしも近い場所に取りつけられないこともある。このような状況では、前述の電気装置の発熱がクロック発生装置10と温度センサーとのそれぞれに対し異なった影響をし、温度差を生じさせることがある。
【0044】
ところで、これら電気装置、クロック発生装置10、温度センサーなどが閉空間の近傍にある場合など、空気の対流などの影響の無視や位置関係の変化が微小と考えられる場合には、各装置間における熱の伝わり安さである熱抵抗θ[℃/W]は一定となり、熱源の温度T[℃]、熱の影響を受けた部分の温度T[℃]、電気装置の発熱に寄与する消費電力P[W]とした場合、
【数1】

【0045】
このように一意に表されることが一般に知られている。
【0046】
このことから、熱源である電気装置の温度をT[℃]、クロック発生装置10の温度をT[℃]、温度センサーの温度をT[℃]、その他の熱源の発熱は特に増減しない環境である場合、電気装置からクロック発生装置10への熱抵抗θ1→S[℃/W]は、
【数2】

【0047】
電気装置から温度センサーへの熱抵抗θ1→S[℃/W]は、
【数3】

【0048】
で表すことが出来る。これら数2、数3より、クロック発生装置10と温度センサーとの温度差T−T[℃]を求めると、
【数4】

【0049】
となることが分かる。このことから、少なくともクロック発生装置10と温度センサーとの温度差は、熱源となる電気装置の消費電力と相関関係があることがわかる。
【0050】
なお、電気装置が前述のように閉空間外にエネルギーを出力していたとしても、そのエネルギーの量が一定な場合や、変化が電気装置の消費電力全体に対し微小である場合などは前述の相関関係が維持されると考えることが出来る。
【0051】
これらのことから、閉空間内に各装置が固定されているような装置系では、熱源となる電気装置の消費電力の情報を環境情報として加味して前述のデータテーブルを生成することにより、より適切な補正値を生成することが可能となる。
【0052】
また、クロック発生装置10と温度センサーとの間の熱抵抗が考慮できることにより、各装置の取り付け位置などの設計事項に自由度を与えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1における信号同期装置を含む基地局の構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態2における信号同期装置の補正監視動作手順を示す図
【図3】本発明の実施の形態1における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部に設定されている許容範囲を説明するための図
【図4】本発明の実施の形態2における信号同期装置を含む基地局の構成を示す図
【図5】本発明の実施の形態2における信号同期装置の補正監視動作手順を示す図
【図6】本発明の実施の形態2における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部に記憶されている許容範囲を説明するための図
【図7】本発明の実施の形態3における信号同期装置を含む基地局の構成を示す図
【図8】本発明の実施の形態3における信号同期装置の補正監視動作手順を示す図
【図9】本発明の実施の形態3における信号同期装置の、補正情報記憶部に格納される補正情報データベースのデータ構成を示す図
【図10】補正範囲データテーブルのデータ構成を示す図
【図11】本発明の実施の形態3における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部に記憶されている許容範囲を説明するための図
【図12】本発明の実施の形態3における信号同期装置の、許容範囲情報記憶部に記憶されている許容範囲を説明するための図
【図13】信号同期装置を含む基地局の従来の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0054】
10 クロック発生器
20 比較器
22、41 環境情報検出部
23 補正情報記録部
24 補正値情報読出部
30 補正情報記憶部
31 補正範囲情報生成部
40 補正監視部
50、51、52 許容範囲情報記憶部
100、110 信号同期装置
200 GPSユニット
300 GPSアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置であって、
前記信号源を補正する補正値の許容範囲を記憶する手段と、
前記補正値が前記許容範囲内にあるか否かを監視する手段とを備える信号同期装置。
【請求項2】
外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置であって、
前記信号源が設置された地点の環境情報を検出する手段と、
前記信号源を補正する補正値の許容範囲を前記環境情報毎に記憶する手段と、
前記補正値が前記許容範囲内にあるか否かを監視する手段とを備える信号同期装置。
【請求項3】
外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置であって、
前記信号源が設置された地点の環境情報を検出する手段と、
前記信号源を補正する補正値の許容範囲及び補正値のばらつきの許容範囲を前記環境情報毎に記憶する手段と、
前記環境情報と前記補正値とを関連付けた補正情報を記憶する手段と、
前記補正情報に基づいて算出される任意の環境情報における補正値の平均及びばらつきの範囲のテーブルを生成する手段と、
前記補正値が前記許容範囲内にあるか否か、または算出した補正値のばらつきの範囲が前記補正値のばらつきの範囲内にあるか否かを監視する手段とを備える信号同期装置。
【請求項4】
前記補正情報が追加される度に前記テーブルを更新する手段を備える請求項3記載の信号同期装置。
【請求項5】
前記補正値が許容範囲内にない場合、報知を行う手段を備える請求項1から4の何れか一項記載の信号同期装置。
【請求項6】
前記環境情報は電気装置の消費電力に関わる情報であり、前記環境情報を検出する手段は電力又は電流又は電圧を検出するセンサーを含むことを特徴とする請求項2から5の何れかに記載の信号同期装置。
【請求項7】
外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置の監視方法であって、
前記補正値が前記信号源を補正する補正値の許容範囲内にあるか否かを監視する監視方法。
【請求項8】
外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置の監視方法であって、
前記補正値が前記信号源を補正する補正値の許容範囲内にあるか否かを前記信号源が設置された地点の環境情報に基づいて監視する監視方法。
【請求項9】
外部からの基準信号と同期信号を生成する信号源のフィードバック信号との差分に基づいて前記信号源を補正する信号同期装置の監視方法であって、前記信号同期装置は、前記信号源が設置された地点の環境情報を検出する手段と、前記信号源を補正する補正値の許容範囲及び補正値のばらつきの許容範囲を前記環境情報毎に記憶する手段と、前記環境情報と前記補正値とを関連付けた補正情報を記憶する手段と、前記補正情報に基づいて算出される任意の環境情報における補正値の平均及びばらつきの範囲のテーブルを生成する手段とを備え、
前記補正値が前記許容範囲内にあるか否か、または算出した補正値のばらつきの範囲が前記補正値のばらつきの範囲内にあるか否かを監視する監視方法。
【請求項10】
前記補正値が許容範囲内にない場合、報知を行う請求項7から9の何れか一項記載の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−160820(P2008−160820A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307198(P2007−307198)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】