説明

個人モデルデータの生成方法、生成プログラム、および生成システム

【課題】数値人体モデルに基づき個人モデルデータを高精度、短時間、かつ自動的にシミュレーションして個人モデルデータを生成する。
【解決手段】数値人体モデルモデルポリゴンメッシュと、個人ポリゴンメッシュとを抽出し、値人体モデルのメッシュを変形して、個人データのメッシュに近似した変形人体モデルのメッシュとする体表レジストレーションを行い、変形人体モデルのメッシュをボクセル化して数値人体モデルのボリュームデータを埋め込んで変形人体モデルの内部組織構造を生成し、変形人体モデルの内部組織構造を構成する内部組織の形状を、これら変形人体モデルの内部組織に対応する個人の内部組織の形状に近似させて、変形人体モデルの内部組織構造を変形して、個人内部組織構造とする内部組織レジストレーションを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の解剖学的構造に基づく高分解能な数値人体モデル(標準的数値人体モデル)から、年齢・体形などが相違する個々人の内部組織構造を生成するための、個人モデルデータの生成方法、生成プログラム、および生成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電波や放射線の人体に対する曝露評価用などを目的として、人体の解剖学的な構造を有した高分解能な数値人体モデルが開発されてきた。これら数値人体モデルは、平均的な体形を有した人体のX線CTやMRIの画像のデータ(以下、CT/MRIデータ、または個人データと表記することがある)に基づいて作成されたものであって、標準的数値人体モデル(以下、数値人体モデルと表記することがある)とされている。こうした数値人体モデルは、生体EMC、自動車の衝突などにおける人体への影響の評価などで用いられることはもとより、がん治療における放射線治療などにおいて、曝露位置を定めるために活用されている。
【0003】
数値人体モデルの例としては、分解能が2mm、組織臓器数が51で、総ボクセル数が成人男性では約800万個、成人女性では約630万個のものがある(非特許文献1)。これら成人男女の数値人体モデルは、人体のMRI画像データなどから、約630〜800万個のボクセルを、手動編集によってそれぞれ組織臓器ごとに色づけするなどして作成されたものである。そのため、こうした数値人体モデルを一体開発するには、年単位の期間が必要となる。
【0004】
しかし体形や内部組織構造は、幼児、子供、成人などの年齢層ごとに相違し、また個々人で相違する。つまり年齢差と個人差による体形や内部組織構造の相違がある。
【0005】
したがって多様な年齢層の個人における放射線治療での曝露位置などを、数値人体モデルに基づいて決定しようとすると、患者と数値人体モデルとの相違に起因する精度低下が生じ得る。そこで、患者個人のCT/MRIデータに基づいて個人モデルデータ(個人の数値人体モデル)を作成し、この個人モデルデータで曝露位置などを決定することが考えられる。
【0006】
しかし、個人モデルデータを数値人体モデルと同様に作成することは、多大な時間と莫大な費用がかるため非現実的である。また、生体EMC、自動車の衝突などにおける人体への影響の評価を年齢層ごとに行う場合に、年齢層ごとの数値人体モデルを開発することも非現実的である。
【0007】
ところで、数値人体モデルの体形を変形して、変形後の内部組織構造などをシミュレーションする技術が提案されている。例えばFree Form Deformation
(FFD)などであり(非特許文献2)、姿勢を変えたときの生体EMCなどに活用されている。こうしたシミュレーション技術を用いれば、短時間で数値人体モデルの体形を変形することができる。こうした数値モデルの変形に関連する技術として、数値モデルの変形後の格子生成技術(バウンダリーフィット法(BFM)とも呼ばれる)(非特許文献3)、また体形変形後の体表メッシュをバイナリーボリュームデータベースに変換するグラフィックハードウェアを利用したボクセル化技術がある(非特許文献4)。さらに解剖構造解析方法、解剖構造の表示方法、および解剖構造表示装置に関する技術もある(特許文献1)。
【0008】
こうした数値人体モデルの体形変形技術を活用して、年齢・体形などが相違する個人モデルデータを生成することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−138350号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】独立行政法人情報通信研究機構ウェブサイト:http//emc.nict.go.jp/bio/data/index.html
【非特許文献2】ナガオカとワタナベ共著 “電磁波測定のための人体姿勢モデル” メディカルバイオ誌 53号 7047ページから7061ページ 2008年
【非特許文献3】トムソン、ワージ、マスティン共著“格子生成の基礎と応用”ニューヨーク エルセヴィアノースホーランド社出版1985年
【非特許文献4】ファングとチェン“高速ハードウェアボクセル化”コンピュータグラフィック誌 24号 433ページから442ページ 2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、数値人体モデルの体形を個人の体形に変形することで、個人モデルデータとしても、年齢差および個人差などによる相違を反映することができない。そこで、個人の内部組織構造を、CT/MRIデータとして取得し、個人の体形を目標として体形変形を施した数値人体モデルの内部組織構造を構築して、個人の内部組織構造との相違を調整することで、個人モデルデータとすることが考えられる。
【0012】
そうすれば、数値人体モデルと個人モデルデータとの間の内部組織構造の相違に起因する誤差を低減することができる。しかし、こうしたシミュレーションでは次の課題がある。
【0013】
第1は、シミュレーションの自動化に関する課題である。例えば体形変形のために、基準点をマニュアルで設定する必要があると、それらの設定に時間を要して迅速な治療を実現できない。ここで基準点とは、体表面上において基準となる部位であり、例えば眼、口、耳、関節などである(図9は、体表面上に基準点SPnをマニュアルで設定する例を示した図である。)。
【0014】
しかし基準点SPnをマニュアルで設定すると、例えば口を基準点とする場合、口のどこを基準点SPnとしたかによって、シミュレーションに誤差が生じる。基準点設定に起因するこうした誤差の影響を少なくするために、何らかのパラメータの設定が必要となることもある。このように基準点SPnの設定精度の良否は、シミュレーション精度およびその再現性を左右する。加えて、パラメータの設定によっては、シミュレーションの数学的解が得られないこともある。
【0015】
そこで、基準点SPnおよびパラメータをマニュアルで設定する必要がなく、自動化が可能で再現性の高いシミュレーションが求められる。
【0016】
第2は、数値人体モデルの体表面を、個人の体表面に変形する際の精度である。なぜならば、変形を施した数値人体モデルの体表面に、数値人体モデルの内部組織構造を埋め込んで、変形後における内部組織構造としなければならないため、体表面に変形誤差が生じると、実際に埋め込まれた内部組織構造と、本来埋め込まれるべき内部組織構造との間に相違が生じるからである。
【0017】
ここで体形変形は、数値人体モデルの体表面を3次元的に変形して個人の体表面に近似させる変形だから(体表レジストレーションだから(以下、単にレジストレーションと表記することがある))、レジストレーション精度向上が、内部組織構造埋め込みにおける高精度化をもたらすことになる。
【0018】
第3は、埋め込まれた内部組織構造とCT/MRIデータとの差異を調整しなければならないことである。
【0019】
例えば、成人女性の数値人体モデルの体表面を3歳女児の体表面を目標として高精度で変形し、その結果内部組織構造の埋め込みにおける精度を高めることができても、埋め込まれた内部組織構造が3歳女児のそれと相違することは明白である。同様に、治療対象が肥満体形の成人である場合に、数値人体モデルの体表面を、治療対象である肥満体形の成人の体表面に変形し、内部組織構造を埋め込んでも、埋め込まれた内部組織構造が肥満体形の成人のそれと相違することは明白である。したがって、高精度な体表レジストレーションに加えて、埋め込まれた内部組織構造と、個人の内部組織構造との差異を少なくする必要がある。
【0020】
そこで本発明は、数値人体モデルに基づいて、個人モデルデータを、高精度、短時間、かつ自動的にシミュレーションすることができる個人モデルデータの生成方法、生成プログラム、および生成システムの実現を課題としたのである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するための手段について説明する。本発明は、個人データ(個人のCT/MRIデータ)を基準に、数値人体モデルを変形して、数値人体モデルを構築する。一般的には、非剛体レジストレーションを直接的に適用することによって、個人モデルデータを構築する。しかし、非剛体レジストレーション処理は、その負荷が非常に高いことと、ロバストなアルゴリズムを構築することが難しい。そこで本発明は、以下に述べるように、いくつかの手法を段階的に組み合わせて、効率よく精度の高いモデルを構築する。
【0022】
本発明は、数値人体モデルを段階的に変形して、個人データに近づけるものである。第一段階は、全身の人体領域の変形処理である(以下、体形変形処理と表記することがある。)。ここで、全身の人体領域とは、体表面で囲まれた内部の領域とする。この段階で、体形を高精度で一致させることができる。第二段階は、内部組織構造の近似である。
【0023】
体型変形処理では、全身の人体領域の形状近似、とくに体表面の近似を主に行う。そのために、一度体表面を高精細なポリゴンメッシュとして抽出する。そして、数値人体モデルと個人データの体表面をメッシュ処理として近似処理を行う。ポリゴンメッシュの処理は、様々な分野(特にコンピュータグラフィックス分野)で広範に研究されており、様々な手法を適用対象とすることができる。また、ボリュームデータは3次元データであるが、体表面のポリゴンメッシュは本質的に2次元であるため、処理の負荷も軽いという利点がある。ポリゴンメッシュレベルで数値人体モデルの体表面を、目標の個人データの体表面に変形後、その体表面で囲まれる内部領域に数値人体モデルのボリュームデータをマッピングする。このマッピングは、数値計算分野における格子生成技術を適用して得られる。この手法を、本発明ではボリュームリフィリングと呼ぶ。
【0024】
体形変形処理の結果、体表の形状は高い精度で一致し、人体の内部組織構造は連続で滑らかにマッピングされ、個人の体形をもつ人体モデルが得られる。しかしながら、個人の内部組織の形状とマッピングされた内部組織の形状とは、一般的に異なるため、マッピングされたデータを個人モデルのデータとするために、内部組織の形状を合致させる(または近似させる)処理が必要となる。この第二段階の処理を、組織形状変形処理と呼ぶ。
【0025】
組織形状変形処理は、個人データを近似するように体形変形された数値人体モデルと、個人データに対して、流体ベースの非剛体レジストレーションを適用して、内部組織構造を近似変形する。非剛体レジストレーションは、大域的な最適化処理であり、初期値に対する依存性が高い。体形変形で得られた個人の体形を持つ数値人体モデルは、オリジナルの数値人体モデルと比較して、目標の個人のデータに類似度が高い。したがって、非剛体レジストレーションの初期値として、オリジナルのデータと比較してよりよい初期値であることが期待できる。
【発明の効果】
【0026】
上述した本発明にかかる個人モデルデータの生成方法、生成プログラム、および生成システムによれば、体形変形を行うための基準点をマニュアルで設定することなく、数値人体モデルに基づく個人モデルデータのシミュレーションを、段階的に行うことによって、自動的、高精度、短時間かつ高い再現性をもって行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ソースモデル(a)およびターゲットモデル(d)から、ソースモデルに体形変形処理を施しボリュームリフィリングを行い(b)、さらに組織形状変形処理を施して、個人モデルデータ(c)を生成する例を示す図であり、いずれも人体の複数の内部組織(内蔵組織)を画像として示したものである。
【図2】図1に示す各モデルの筋肉組織(Muscle)、脂肪組織(Fat)、およびその他の組織(Other)のボクセルパーセントを示す図である。
【図3】本発明にかかる個人モデルデータの生成のフローチャートである。
【図4】図3における内部組織レジストレーションの詳細なフローチャートである。
【図5】本発明を実施するためのシステムの一例を示す図である。
【図6】ポリゴンメッシュ(a)にラプラシアンを2回適用した例(b)およびラプラシアンを4回適用した例(c)を示す図である。
【図7】図7(a)〜(c)は、いずれも人体における筋肉組織の変形を画像で例示したものである。
【図8】図7と同様に、図8(a)〜(c)は、いずれも人体におけるその他の組織(筋肉、脂肪以外の組織を一つの組織として扱ったもの)の変形を画像で例示したものである。
【図9】体表面上に基準点をマニュアルで設定するときの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。ここでは、発明を実施するための処理などについて説明したのち、実施例の説明を行う。
【0029】
<体形変形処理>
体形変形処理は、数値人体モデルと個人データの体表面をポリゴンメッシュとして抽出し、数値人体モデルの体表面メッシュを個人データの体表面メッシュを近似するように変形して、最終的に変形した数値人体モデルの体表面の内部にボリュームリフィリングを使って、数値人体モデルをマッピングする。
【0030】
ここでは、最初にボリュームリフィリングについて説明し、その後にそれを体形変形処理に適用するための応用処理としてポリゴンメッシュ変形について説明する。
【0031】
<ボリュームリフィリング>
ボリュームリフィリングは、数値人体モデルデータの変形を、その体表面の変形で実現するために開発された。この手法によって、姿勢変形や体形変形を、体表面の変形で制御することが可能となる。この手法の内容は、次のとおりである。
【0032】
体表面の点は、位置座標とその点を含むボクセルのインデックス(テクスチャ座標と呼ぶ)を自然に与えることができる。体表面を変形すると、点の位置座標は変化するが、テクスチャ座標は変化しない。それは、体表面の点については、このテクスチャ座標を使って、数値人体モデルのボクセルをサンプリングすることができることを意味する。すなわち、変形した体表面には、数値人体モデルをマッピングすることが可能である。そこで、もし体表面の内部についても、テクスチャ座標を生成することができれば、数値人体モデルをマッピングできることになる。
【0033】
以上の手法は、数学的に次のように定式化される。
【0034】
数値人体モデルであるソースボリュームデータセットとターゲットのボリュームデータを、それぞれV0,V1とする。これらは、3次元ユークリッド空間E3の部分集合である。それぞれのボリュームデータに含まれる人体領域をD0、D1とする。この、D0、D1は、同じトポロジーを持つ、すなわち、D0をD1に連続変形可能であるとする。∂D0,∂D1をD0,D1の境界とする。(∂D0は数値人体モデルの変形前の体表面、∂D1は変形後の体表面を想定している。)
いま、∂D1から∂D0への連続写像g(式1)が与えられたとき、D1からD0への連続写像G(式2)で∂D1上でgと一致する(式3)ものを求める。

【0035】
D0,D1などは、3次元ユークリッド空間E3の部分集合なので、写像gやGは、3つの成分関数の組として表すことができる(式4、式5)。

【0036】
これから、(式1)から(式3)は、i=0,1,2について、

と表せる。これは、Dirichletの境界条件になる。そこで、次の条件

を(式6)、(式7)、(式8)に追加して、Giを求めることができる。このような解Giは、必ずユニークに存在する。これにより、Gを決定することができる。
【0037】
実用上は、(式8)と(式9)を離散化してGを求めることになる。(式9)が楕円型の辺微分方程式で線形であるので、この離散化された問題は、大規模な連立一次方程式を解くことになる。ここで例えば、実装が単純な反復解法であるSOR法を使うことができる。
【0038】
<<ポリゴンメッシュの近似変形処理>>
<体表面のポリゴンメッシュ抽出>
数値人体モデルのボリュームデータから体表を表すポリゴンメッシュを抽出する。本発明においては、人体領域のボクセル境界をポリゴンとして抽出している。その頂点の座標は、ボクセルの頂点座標であり、またそれをボリュームの解像度で正規化した座標をテクスチャ座標として付加している。
【0039】

このように抽出したメッシュは階段状の形状を持つが、これはメッシュの変形の際に自己交差をしたり、メッシュ間の最短距離を計算するときに好ましくない状況を引き起こすので、それらの問題を防ぐためにメッシュのラプラシアンに基づくフェアリング処理を行い滑らかにしておく。
【0040】
つぎに、目標となる個人データのメッシュを抽出する。こちらも、数値人体モデルの場合と同じ手法でメッシュを抽出する。このようにして得られたメッシュを使って、近似変形処理を行う。
【0041】
<局所的な近似処理>
このとき、2つのメッシュが十分に類似していて、メッシュ同士の距離が近いときは、局所的な近似処理で精度の高い近似処理が可能である。ここで、局所的な近似処理とは、数値人体モデルのメッシュ頂点すべてに対して、個人データのメッシュの頂点の中で一番近い点をサーチして、その点に移動するという処理を示す。
【0042】

しかしながら、この局所的な近似処理では、適切に近似できない場合は、その前処理として大域的な近似処理が必要である。大域的な近似処理は、メッシュの点ごとではなく、ある程度メッシュの頂点が連動しながら変形して、局所的な近似処理がうまく動作する程度になるまでの変形を行う。大域的な近似処理を自動的に行う手法として、一度メッシュをボクセル化して低解像度でレジストレーションを実行してその変形情報である変位ベクトルを求め、それを利用してメッシュを変形する。
【0043】
<レジストレーションベースの大域的な近似処理>
大域的な近似処理を、3次元レジストレーションを適用して完全にアルゴリズム処理されることを応用して変形する自動的な手法も考察している。これは、人体領域とそれ以外の2つの領域を持つボリュームデータを生成し、レジストレーションを行う。その結果の副産物として得られる、ボリュームデータ変形の変位ベクトル場を使って、ポリゴンメッシュを変形して大域的近似とする。レジストレーション手法については、後述する組織形状変形処理において詳述する。
【0044】
この段階での3次元レジストレーションは、人体領域の形状近似が目的であるので、内部領域情報は必要ない。また、大域的な近似が目的であるため、精度の高い近似はポリゴンメッシュの局所的な近似で行えばよい。したがって、人体形状を表す2値ボリュームを低解像度にしてレジストレーションを行う。
【0045】
<変形した数値人体モデルメッシュの境界条件付き2値ボクセル化>
ボリュームリフィリングを適用するためには、ポリゴンメッシュをボクセル化する必要がある。そのボリュームデータは2つのタイプの情報を持っている。(ア)変形した人体領域を定義する2値ボリュームと、
(イ)境界条件を定める、境界メッシュをボクセル化したボリュームである。このボクセル値は、3次元のテクスチャ座標である。
【0046】
これらデータを使って、(ア)で定まる人体領域の内部のボクセルについて、(イ)から生成したサンプリングのための3次元テクスチャ座標を使って数値人体モデルをサンプリングして、求める変形した数値人体モデルを生成する。
【0047】
<体形変形処理フローのまとめ>
体形変形の処理フローをまとめる。
(A)数値人体モデルおよび、個人データのボリュームデータから体表面をポリゴンメッシュとして抽出する。
(B)ポリゴンメッシュを大域的な近似処理で、2つのメッシュを近づける。この際には、ランドマークベースもしくはレジストレーションベースを選択する。
(C)局所的な近似処理を行い、数値人体モデルのメッシュを個人データのメッシュに高精度で近似させる。
(D)変形した数値人体メッシュを2値ボリューム化した後、ボリュームリフィリングを適用して内部を埋める。
【0048】
<<組織形状変形処理>>
体形変形で得られた、変形した数値人体モデル(以下、変形人体モデルと表記することがある)の内部組織について、個人データの内部組織をより高精度に近似する処理を行う。そのために、フローベースの3次元レジストレーション処理を適用する。レジストレーション処理は、同じ組織が同じボクセル値を持つことが前提となっている。しかしながら、数値人体モデルと個人データは、同じ組織でも異なるボクセル値を持っていることが一般的である。したがって、個人データの組織を簡易的に組織同定する必要がある。
【0049】
<個人データの簡易的な組織同定>
レジストレーションを適用するために、変形人体モデルと個人データについて、同じ組織は同じボクセル値を持つようにする必要がある。それは、すべての組織を同定することに他ならないが、これは目的に反してしまう。したがって、人体の中でもシミュレーションに重要な組織に限定して簡易的に同定する。これらの組織に関しては、CT/MRIデータでの値が比較的分離しやすいので、簡単な閾値処理で同定する。シミュレーションで重要な組織は、脂肪、筋肉、骨格である。それ以外の組織については、1つにまとめて仮想的な組織と考える。
【0050】
<フローベースのレジストレーション・アルゴリズム>
本発明においては、非剛体レジストレーションの手法として、フローベースのアルゴリズムを採用した。
【0051】
フローベースのレジストレーションは、レジストレーション処理を流体力学モデルに基づき大変形を実現するという目的のために開発された。フローベースのレジストレーションは、画像の差分量エネルギーを流体の圧力ポテンシャルと解釈する。そして、それを時間ステップで発展させる。そこで最初に、1時間ステップ分の画像の差分に基づくレジストレーションを説明する。次に、フローベースのレジストレーションを説明する。
【0052】
<画像の差分エネルギーに基づくレジストレーション>
I0,I1をソースおよびターゲット画像とし、変形の写像をf、その写像によって生成された変位ベクトル場をvとする。fとvの関係は次で与えられるとする。
【0053】

レジストレーションの目的は、fでI0を変形した画像I0・fについて、変形した画像I0・fとI1の差分を小さいこと、fを定めるvが滑らかでなるべく小さいこととなるようなfを求めることである。
【0054】
ここで画像I0をボリュームデータとするとき、

によってfで変形した画像I0を定義する。
【0055】
このとき、I0をfで変形した画像I0・fとI1の差分エネルギーを

とする。E1が小さいときに、画像の差分も小さくなる。したがって、画像が一致するためには、E1を最小にすることが必要である。一方、変化が小さいvの中で滑らかで最小のものを選ぶために、ベクトル場のエネルギー

を加える。ここでLは、ベクトル場を滑らかにする作用のある微分作用素とする。
【0056】
E1とE2をあわせて、エネルギー関数Eとする。このとき、レジストレーションとは、Eを最小化するfを求めることである。今fはvで定まっていることを考えると、fを求めることはvを求めることでもある。vがEを最小化することを

と記述する。
(13)を実現するvは、

が成り立つことが必要である。(14)の左辺は、

であり、(14)の右辺は

である。ここで

である。
(14)(15)(16)から

ここで、(17)を離散化すると、連立一次方程式となり、数値的に解であるvを求めることができる。
【0057】
<フローベースのレジストレーション>
フローベースのアルゴリズムでは、画像の差分をエネルギーに基づくレジストレーションにおける画像の差分を圧力のポテンシャルとみなし、そのGradientを圧力とする。圧力ベクトルpとするとき、

また、(12)における微分作用素LをNavier-Stokes方程式における作用素とする。すなわち、

とする。これを(17)に代入し、

となる。
【0058】
以上の処理を1回のタイムステップの処理として、反復を繰り返す。
【0059】
アルゴリズムは、次のようになる。

【0060】
<マルチチャンネルレジストレーションと統合処理>
このときに、ボリュームデータをそのままレジストレーションするのではなく、組織ごとに2値ボリュームを生成して、それをレジストレーションする。これにより、組織ごとにレジストレーションした結果が得られる。
【0061】
原理的には、個人データの組織は、交わりのない集合なので、各組織の和集合はボリュームデータ全体と一致する。したがって、組織ごとのレジストレーションの結果も、レジストレーション誤差がなければ、単純に組織の領域の集合和をとることによってボリュームデータを得ることができる。すなわち、以下の集合の等式が、個人データに関しても、数値人体モデルをレジストレーションした結果でも、ともに成り立つ。

しかしながら、実用上はレジストレーション誤差が発生してしまう。レジストレーションの誤差発生の原因は、おもに組織のトポロジーが異なっていることに起因する。レジストレーションは連続変形であるが、連続変形によって組織を一致させるためには、組織のトポロジーが一致していることが条件になる。しかし、実データ上の組織形状およびトポロジーは複雑であり、一致していることは期待できない。したがって、レジストレーションで得られる結果は、ベストエフォートである。レジストレーション誤差のため、各組織のレジストレーション結果は、(式21、式22)を満たさない。これは、組織間の間に隙間が生じたい、組織が重なることを意味する。
【0062】
そのため、統合はある程度系統的なルールに基づいて、隙間や重なりを修正する。例えば、隙間を脂肪組織で埋め、重なりについては、骨格を筋肉より優先し、筋肉をその他の組織より優先し、そしてその他の組織を脂肪より優先するように内部組織データを上書きする。
【0063】
上記の各修正は、例示であり、隙間を脂肪組織以外の組織で埋めることを排除するものではない。また重なりの修正については、上記以外の優先順位を排除するものではない。
【実施例】
【0064】
本発明にかかる個人モデルデータの生成方法の一実施例を説明する。同時に個人モデルデータの生成プログラムおよび生成システムの実施例についても説明する。
【0065】
実施例の説明では、数値人体モデルとして日本人成人男性のモデル(以下、ソースモデルと表記することがある)を用い、変形対象である個人として日本人成人女性のモデル(以下、ターゲットモデルと表記することがある)を用いる。ソースモデルとして日本人成人男性のモデルを、そしてターゲットモデルとして日本人成人女性のモデルを用いた理由は、両者は、筋肉組織および脂肪組織の量が大きく相違するため、組織形状変形処理の必要性を顕著に示すことができるからである。
【0066】
実施例の説明に先立ち、図1〜図4について説明する。
【0067】
図1は、ソースモデル(a)およびターゲットモデル(d)から、ソースモデルに体形変形処理を施しボリュームリフィリングを行い(b)、さらに組織形状変形処理を施して、個人モデルデータ(c)を生成した例を示したものである。
【0068】
図1(a)〜(d)に示す各モデルにおける、筋肉組織組織(Muscle)、脂肪組織(Fat)、およびその他の組織(Other)のボクセルパーセントは、図2における4本の棒グラフVP1〜VP4に示されている。棒グラフVP1〜VP4は、それらの下部領域が筋肉組織のボクセルパーセントを示し、中間領域が脂肪組織のボクセルパーセントを示し、上部領域がその他の組織のボクセルパーセントを示している。例えばソースモデルのボクセルパーセントを示す棒グラフVP1では、筋肉組織が39.76%、脂肪組織が29.63%、そしてその他の組織が30.61%である。
【0069】
図3は本発明にかかる個人モデルデータの生成のフローチャートであり、図4は内部組織レジストレーションのフローチャートである。以下、本発明をこれらフローチャートを中心に説明する。
【0070】
<ポリゴンメッシュ抽出>
第一段階の処理は、ポリゴンメッシュ抽出(STEP10)から行われる。ここでは、ソースモデルのボリュームデータから体表面をポリゴンメッシュ(数値人体モデルポリゴンメッシュ)として抽出する(STEP11)。ターゲットモデルのボリュームデータから体表面をポリゴンメッシュ(個人ポリゴンメッシュ)として抽出する(STEP12)。
【0071】
こうしたポリゴンメッシュの抽出は、公知のアルゴリズムや、前述した「体表面のポリゴンメッシュ抽出」で示した頂点座標付加のアルゴリズムに基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0072】
図5は、本発明を実施するためのシステム(以下、本システムと表記することがある)の一例を示したものである。本システムにおけるポリゴンメッシュ抽出手段は、上記コンピュータプログラムを収納するコンピュータ10で実現することができる。ここでコンピュータプログラムの収納は、恒常的な収納はもとより、一時的な収納であってもよく、さらにコンピュータプログラムが一時的な収納のために通信回線を経由して伝達されるものであってもよい(コンピュータプログラムの収納について以下同様)。
【0073】
コンピュータ10は、必要に応じLANなどの通信回線を介して、ソースモデルのボリュームデータSDを蓄積したソースデータベース11、ターゲットモデルのボリュームデータデータTDを蓄積したターゲットデータベース12、および生成された個人モデルデータPDを蓄積する個人モデルデータベース13などと接続される。また本システムは、必要に応じ、画像モニタ14や、図示しないプリンタ、X線CT装置などの医療機器に接続されてもよい。
【0074】
抽出された両ポリゴンメッシュは、ラプラシアンを適用するフェアリング処理(STEP13およびSTEP14)が施されて滑らかにされる。図6はポリゴンメッシュ(a)にフェアリング処理を施して体表面を滑らかにする例を示した図であり、同図(b)はラプラシアンを2回適用した例であり、同図(c)はラプラシアンを4回適用した例である。
【0075】
<体表レジストレーション>
体表レジストレーション(STEP20)では、大域的な近似(STEP21)および局所的レジストレーション(STEP22)の何れか一方または双方が選択され行われる。
【0076】
大域的な近似は、ソースモデルのメッシュの形状の画像とターゲットモデルのメッシュの形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化することによって行われる非剛体レジストレーションである。大域的な近似は、前述した「レジストレーションベースの大域的な近似処理」および「組織形状変形処理」で示したアルゴリズム(式10〜式20等)に基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0077】
局所的レジストレーションは、ソースモデルのメッシュ頂点すべてに対して、ターゲットモデルのメッシュの頂点の中で一番近い点をサーチして、その一番近い点に前記数値人体モデルのメッシュ頂点を移動させるレジストレーションである。局所的レジストレーションは、前述した「局所的な近似処理」で示したアルゴリズムに基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0078】
ここで局所的レジストレーションは、メッシュ頂点を移動させるレジストレーションだから自動化しても必ず収束し、またパラメータをマニュアルで設定する必要がなく演算の再現性が高い。また大局的な近似は、両メッシュの形状の画像の間の差分量エネルギーを最小化するものだから自動化しても必ず収束し、パラメータをマニュアルで設定する必要がなく演算の再現性が高い。
【0079】
したがって大域的な近似および局所的レジストレーションを自動的に実行する手段は、図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる(以下、レジストレーションによって変形したソースモデルのメッシュを、変形人体モデルのメッシュと表記することがある。)。
【0080】
ソースモデルのメッシュは、図1(a)においてその体形の輪郭(男性の特徴を有している)となって示されている。同様に変形人体モデル(図1(b))は、同図上においてその体形の輪郭(女性の特徴を有している)を示している。生成された変形人体モデルの体表面形状は、このように、ターゲットモデルの体表面形状に高精度で近似している。
【0081】
<ボリュームリフィリング>
ボリュームリフィリング(STEP30)では、変形人体モデルのメッシュを2値ボリューム化(STEP31)した後、ボリュームリフィリングを適用して、変形人体モデルのメッシュに内部組織構造が埋め込まれる(STEP32)。こうして埋め込まれた内部組織を変形人体モデルの内部組織と表記し、その構造を変形人体モデルの内部組織構造と表記することがある。
【0082】
ボリュームリフィリングは、前述した「ボリュームリフィリング」で示したアルゴリズム(式10〜式20等)に基づく演算を実施する工程で行われる。これら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0083】
ここでボリュームリフィリングは、前述したとおり、その解が必ずユニークに存在するから自動化しても必ず収束し、またパラメータをマニュアルで設定する必要がなく、演算の再現性が高い。したがってボリュームリフィリングを自動的に実行する手段は、図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる。
【0084】
こうして、図1(b)に示すように、変形人体モデルのメッシュ(ターゲットモデルである女性の体表メッシュ)に、ソースモデルである男性の内部組織構造が埋め込まれる。
【0085】
しかし、変形人体モデルの内部組織のボクセルパーセントを示す図2の棒グラフVP2に示されたように、変形人体モデルでは、筋肉組織が40.91%、脂肪組織が30.50%、その他の組織が28.59%である。
【0086】
これらをターゲットモデルにおけるボクセルパーセントを示す図2の棒グラフVP4(筋肉組織30.45%、脂肪組織41.44%、およびその他の組織28.11%)と比較すると、変形人体モデルとターゲットモデルは、それらのボクセルパーセントに差異がある一方、変形人体モデルのボクセルパーセントは、ソースモデルのボクセルパーセント(棒グラフVP1に示された筋肉組織が39.76%、脂肪組織が29.63%、その他の組織が30.61%)に近い。すなわち変形人体モデルの内部組織構造は、ターゲットモデルよりも、ソースモデルに近い。
【0087】
たとえば図7は、後述する筋肉組織における組織形状変形処理の例を示す図であるが、図7(a)のモデルは、変形人体モデル(女性モデルの体形に変形されたモデル)のメッシュに男性モデルの筋肉組織だけを埋め込んだものであり、ここでは変形人体モデルの筋肉組織構造(例えば腿は、筋肉がたくましく男性的である)は、ターゲットモデル図7(c)の筋肉組織構造よりも、ソースモデル(男性)の筋肉組織構造に近い。
【0088】
ここまでが「第一段階の処理」である。
【0089】
このようにまだソースモデルに近似している、変形人体モデルの内部組織構造を、ターゲットモデルの内部組織構造と近似させる内部組織レジストレーションが、以下に述べる「第二段階の処理」である。
【0090】
<内部組織レジストレーション>
第二段階の処理(前述した「組織形状変形処理」である)では、人体の中でもシミュレーションに重要な組織(例えば脂肪、筋肉、骨格)に限定した簡易的な組織同定を行う(STEP41)。これらの組織に関しては、CT/MRIデータでの値が比較的分離しやすいので、簡単な閾値処理で同定することができる(自動化を阻害する要因はない。)。ここではまた、それ以外の組織について、その他の組織として1つにまとめて仮想的な組織として同定する(同じくSTEP41)。
【0091】
なお組織臓器数が51である数値人体モデル(非特許文献1)では、51の組織臓器にそれぞれIDが付されており、上記組織同定がなされると、同定された組織のIDが付される(その他の組織については、新たなIDを付す。)。
【0092】
内部組織レジストレーションは、体表レジストレーションにおける大域的な近似と同じアルゴリズムによって行うことができる(STEP42)。すなわち、前述した「レジストレーションベースの大域的な近似処理」および「組織形状変形処理」で示したアルゴリズムに基づく演算を実施する工程で行われる。またこれら演算はコンピュータプログラムによって実行することができる。
【0093】
こうした大局的な近似は、前述したとおり自動化しても必ず収束するから、パラメータをマニュアルで設定する必要がなく、演算の再現性が高い。したがって内部組織レジストレーションを自動的に実行する手段は、図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる。
【0094】
例えば筋肉組織に組織形状変形処理を施す場合には、変形人体モデルのメッシュに、ソースモデルの筋肉組織だけを埋め込んで生成された図7(a)のモデルの筋肉組織構造に、さらに内部組織レジストレーションを施して、ターゲットモデル図7(c)の筋肉組織構造と近似させる(図7(b)のモデル参照)。
【0095】
この筋肉組織のレジストレーションによって、変形人体モデルにおける筋肉組織のボクセルパーセント40.91%(図2の棒グラフVP2参照))が30.85%と変化して(図2の棒グラフVP3参照)、ターゲットモデル(女性モデル)の筋肉組織構造のボクセルパーセント30.45%(図2の棒グラフVP4参照))と近似する。
【0096】
同様にして、脂肪組織を対象とする組織形状変形処理を行う。この処理によって、変形人体モデルにおける脂肪組織のボクセルパーセント30.50%(図2の棒グラフVP2参照))が、42.12%と変化して(図2の棒グラフVP3参照)、ターゲットモデル(女性モデル)の脂肪組織構造のボクセルパーセント41.44%(図2の棒グラフVP4参照))と近似する。
【0097】
図8は、その他の組織における組織形状変形処理の例を示す図である。図8(a)のモデルは、変形人体モデルのメッシュにソースモデルの他の組織だけを埋め込んだものであり、図8(c)のモデルは、ターゲットモデルのその他の組織構造を示すものであり、図8(b)のモデルは、図8(a)のモデルのその他の組織に内部組織レジストレーションを施して、ターゲットモデルのその他の組織に近似させたモデルである。
【0098】
この処理によって、変形人体モデルにおけるその他の組織のボクセルパーセント28.59%(図2の棒グラフVP2参照))が、27.03%と変化して(図2の棒グラフVP3参照)、ターゲットモデルのその他の組織構造のボクセルパーセント28.11%(図2の棒グラフVP4参照))と近似する。
【0099】
<マルチチャンネルレジストレーションと統合処理>
内部組織レジストレーション(STEP40)では、さらにマルチチャンネルレジストレーションと統合処理が行われる。前述した「マルチチャンネルレジストレーションと統合処理」で述べたように、内部組織間に隙間や内部組織間の重なりが生じるからである。
【0100】
そこで「マルチチャンネルレジストレーションと統合処理」で示したように内部組織間の隙間を埋め(STEP43)、同じく例示した優先順位で内部組織を上書きして、内部組織間の重なりを修正する(STEP44)。
【0101】
内部組織間の隙間は、処理対象となる複数の内部組織のデータが存在しない領域として必ず自動的に検出できるから、高い再現性をもって脂肪組織を埋め込むことができる。また内部組織間の重なりは、処理対象となる複数の内部組織のデータが重複する領域として必ず自動的に検出できるから、高い再現性をもって優先される内部組織で上書きする処理を実施できる。こうしたマルチチャンネルレジストレーションと統合処理をへて個人モデルデータが生成される。
【0102】
こうした埋め込み処理および上書き処理は、コンピュータプログラムによって実行することができ、埋め込み処理および上書き処理を自動的に実行する手段は、図5に示す本システムのコンピュータ10によって実現することができる。
【0103】
なお本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を変更することなく適宜変形して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明にかかる個人モデルデータの生成システムおよび生成プログラムは、医療機器産業において製造および販売などの対象となり、医療研究および医療現場などにおいて使用できるから、そして本発明にかかる個人モデルデータの生成方法は、医療研究および医療現場などにおいて使用できるから、本発明は経済的価値を有し、また産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0105】
STEP10 ポリゴンメッシュ抽出工程
STEP11 数値人体モデルポリゴンメッシュ抽出工程
STEP12 個人ポリゴンメッシュ抽出工程
STEP13 数値人体モデルポリゴンメッシュのフェアリング処理工程
STEP14 個人ポリゴンメッシュのフェアリング処理工程
STEP20 体表レジストレーション工程
STEP21 大域的近似(非剛性レジストレーション)工程
STEP22 局所的レジストレーション工程
STEP30 ボリュームリフィリング工程
STEP31 変形人体モデルのメッシュの2値ボリューム化工程
STEP32 変形人体モデルのメッシュへの内部組織構造埋め込み工程
STEP40 内部組織レジストレーション工程
STEP41 簡易的組織同定工程
STEP42 内部組織レジストレーション工程
STEP43 内部組織間隙間埋め込み工程
STEP44 内部組織間の重なり修正工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部組織構造を有した数値人体モデルに基づいて、個人の内部組織構造をシミュレーションによって生成する個人モデルデータの生成方法であって、
前記数値人体モデルの体表面を数値人体モデルポリゴンメッシュとして抽出するとともに、前記個人の体表面を個人ポリゴンメッシュとして抽出するポリゴンメッシュ抽出工程と、
前記数値人体モデルのメッシュを変形して、個人データのメッシュに近似した変形人体モデルのメッシュとする体表レジストレーション工程と、
前記変形人体モデルのメッシュをボクセル化したうえで、前記数値人体モデルのボリュームデータに基づく内部組織構造を埋め込んで、変形人体モデルの内部組織構造を生成するボリュームリフィリング工程と、
変形人体モデルの内部組織構造を構成する1または複数の内部組織の形状を、これら変形人体モデルの内部組織に対応する前記個人の1または複数の個人内部組織の形状に近似させることによって、前記変形人体モデルの内部組織構造を変形して、前記個人内部組織構造とする内部組織レジストレーション工程とを有することを特徴とする個人モデルデータの生成方法。
【請求項2】
前記体表レジストレーション工程における前記数値人体モデルのメッシュの変形が、
前記数値人体モデルのメッシュの形状の画像と前記個人データのメッシュの形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化することによって行われる非剛体レジストレーション、および前記数値人体モデルのメッシュ頂点すべてに対して、前記個人データのメッシュの頂点の中で一番近い点をサーチして、その一番近い点に前記数値人体モデルのメッシュ頂点を移動させる局所的レジストレーションの何れか一方または双方を行うものであり、
前記内部組織レジストレーション工程における前記変形人体モデルの内部組織の形状の、前記個人内部組織の形状への近似変形が、前記変形人体モデルの内部組織の形状の画像と前記個人内部組織の形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化する非剛体レジストレーションによって行われること
を特徴とする請求項1に記載の個人モデルデータの生成方法。
【請求項3】
内部組織構造を有した数値人体モデルに基づいて、個人の内部組織構造をシミュレーションによって生成するための手順をコンピュータに実行させる個人モデルデータの生成プログラムであって、
前記数値人体モデルの体表面を数値人体モデルポリゴンメッシュとして抽出するとともに、前記個人の体表面を個人ポリゴンメッシュとして抽出するポリゴンメッシュ抽出手順と、
前記数値人体モデルのメッシュを変形して、個人データのメッシュに近似した変形人体モデルのメッシュとする体表レジストレーション手順と、
前記変形人体モデルのメッシュをボクセル化したうえで、前記数値人体モデルのボリュームデータに基づく内部組織構造を埋め込んで、変形人体モデルの内部組織構造を生成するボリュームリフィリング手順と、
変形人体モデルの内部組織構造を構成する1または複数の内部組織の形状を、これら変形人体モデルの内部組織に対応する前記個人の1または複数の個人内部組織の形状に近似させることによって、前記変形人体モデルの内部組織構造を変形して、前記個人内部組織構造とする内部組織レジストレーション手順とを有すること
を有することを特徴とする個人モデルデータの生成プログラム。
【請求項4】
前記体表レジストレーション手順における前記数値人体モデルのメッシュの変形が、
前記数値人体モデルのメッシュの形状の画像と前記個人データのメッシュの形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化することによって行われる非剛体レジストレーション、および前記数値人体モデルのメッシュ頂点すべてに対して、前記個人データのメッシュの頂点の中で一番近い点をサーチして、その一番近い点に前記数値人体モデルのメッシュ頂点を移動させる局所的レジストレーションの何れか一方または双方を行うものであり、
前記内部組織レジストレーション手順における前記変形人体モデルの内部組織の形状の、前記個人内部組織の形状への近似変形が、
前記変形人体モデルの内部組織の形状の画像と前記個人内部組織の形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化する非剛体レジストレーションによって行われることを特徴とする請求項3に記載の個人モデルデータの生成プログラム。
【請求項5】
内部組織構造を有した数値人体モデルに基づいて、個人の内部組織構造をシミュレーションによって生成するための個人モデルデータの生成システムであって、
前記数値人体モデルの体表面を数値人体モデルポリゴンメッシュとして抽出するとともに、前記個人の体表面を個人ポリゴンメッシュとして抽出するポリゴンメッシュ抽出手段と、
前記数値人体モデルのメッシュを変形して、個人データのメッシュに近似した変形人体モデルのメッシュとする体表レジストレーション手段と、
前記変形人体モデルのメッシュをボクセル化したうえで、前記数値人体モデルのボリュームデータに基づく内部組織構造を埋め込んで、変形人体モデルの内部組織構造を生成するボリュームリフィリング手段と、
変形人体モデルの内部組織構造を構成する1または複数の内部組織の形状を、これら変形人体モデルの内部組織に対応する前記個人の1または複数の個人内部組織の形状に近似させることによって、前記変形人体モデルの内部組織構造を変形して、前記個人内部組織構造とする内部組織レジストレーション手段とを有すること
を特徴とする個人モデルデータの生成システム。
【請求項6】
前記体表レジストレーション手段における前記数値人体モデルのメッシュの変形が、
前記数値人体モデルのメッシュの形状の画像と前記個人データのメッシュの形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化することによって行われる非剛体レジストレーション、および前記数値人体モデルのメッシュ頂点すべてに対して、前記個人データのメッシュの頂点の中で一番近い点をサーチして、その一番近い点に前記数値人体モデルのメッシュ頂点を移動させる局所的レジストレーションの何れか一方または双方を行うものであり、
前記内部組織レジストレーション手段における前記変形人体モデルの内部組織の形状の、前記個人内部組織の形状への近似変形が、
前記変形人体モデルの内部組織の形状の画像と前記個人内部組織の形状の画像との間の差分量エネルギーを最小化する非剛体レジストレーションによって行われることを特徴とする請求項5に記載の個人モデルデータの生成システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89123(P2013−89123A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230945(P2011−230945)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】