説明

偏光ガラスの製造方法及び偏光ガラス製品

【課題】高い消光比を広い帯域で有する偏光ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法において、熱処理後の母材ガラスをプリフォームとして、プリフォームをガラスの粘度が1×10ポイズから1×1014ポイズとなる温度で加熱し、プリフォームを10mm/分以下の送り速度で電気炉内を移動させながら、プリフォームに200Kg/cmから700Kg/cmの大きさの応力を加え、プリフォームに含まれるハロゲン化金属粒子を2:1から100:1のアスペクト比となる延伸シートに150mm/分以下の引取り速度で延伸する延伸工程と、延伸シートを母材ガラスの歪点温度より高く、母材ガラスの転移点温度より低い温度で、ハロゲン化金属粒子の少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光ガラスの製造方法及び偏光ガラス製品に関する。本発明は、高い消光比を広い帯域で有する偏光ガラスの製造方法及び偏光ガラス製品に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光ガラスは、400nmから700nmの可視領域において、青色半導体レーザの実用化に伴い、高密度記録装置、LCDプロジェクタ等に用いられる偏光素子として期待されている。また、現在、近赤外域において、光通信用途として特に偏波依存型の光アイソレーターに使用されている光学部品である。
【0003】
よって高性能で低コストが要求されているが、現実的には難しい問題を抱えている。例えば特許文献1及び2には、少なくとも50dBの消光比を示す帯域が少なくとも300nmである偏光ガラスとその製造方法が開示されている。また、特許文献3及び4には、少なくとも50dBの消光比を示す帯域が660nmである偏光ガラスとその製造方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献5には、少なくとも対向する2面を研磨したプリフォームを用いて線引きする方法が開示されている。また、特許文献6には、プリフォーム表面を酸水溶液でエッチングしたプリフォームを用いて線引きする方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許第6221480号明細書
【特許文献2】特表2001−505671号公報
【特許文献3】米国特許第6761045号明細書
【特許文献4】特表2003−517634号公報
【特許文献5】特許第3105491号明細書
【特許文献6】特許第3320044号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1から4に示す方法は、少なくとも50dBの消光比を示す帯域を広くする方法を開示しているが、それは主に水素還元工程の改善によるものであり、特に還元時の雰囲気圧力を高くすること(10気圧以上)、または、還元時間を長くすること(12時間以上)が特徴である。よって、水素還元装置を安全性の面から防爆構造にしており、また作業時間が長いことからコストダウンが難しいという問題点がある。
【0006】
また、特許文献5及び6に示す方法は、主に延伸時にプリフォームが破断するのを防ぐために行われるが、研磨またはエッチングによる加工コストの増加は避けられず、さらに、特にエッチングでは作業処理設備およびエッチング廃液処理設備、並びに、処理費用がかかるので、偏光ガラスのコストが下がらない原因となっている。また、プリフォームの破断を避けるために、延伸時にプリフォームに加える応力を300Kg/cm未満に低く設定せざるを得ない問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それに対して発明者らは、簡単な製造装置の改良及び製造方法の改善によって、より高品質な偏光ガラスを低コストで製造するが可能となることを見出した。
【0008】
ここで、発明者らが60dBの消光比に着目した理由は以下の通りである。
【0009】
光アイソレーターに用いられる2枚の偏光ガラスは、アイソレーターの機能を持たすために互いに45°の角度で精密に配置されている。この配置が悪いと、アイソレーターの消光比の低下を引き起こすので、レーザーダイオード(LD)に戻る光を完全に遮断することができず、LDの発振を不安定にするという問題を生じる。
【0010】
偏光ガラスにおける消光比は、延伸した金属粒子の形状異方性(長径と短径)によって分光吸収係数が異なり、非常に大きな二色性を示すことから得られる。ここで、長径の軸を偏光軸と呼ぶ。上述の精密な配置とは、この長径軸、すなわち偏光軸を2枚の偏光ガラス間で45°の角度差で一致させることであり、こうすることによって高性能な光アイソレーターを製造できる。
【0011】
しかし、偏光ガラス面内で偏光軸の傾きが大きいと、2枚の偏光ガラスを正確に45°の位置関係で配置できない。すなわち、ある面内で正確に45°で一致していても、他の面内では偏光軸が傾いているので、45°より小さい角度または大きい角度で配置されることになる。そして結果的に消光比が低下する。そのため偏光ガラス面内で50dB以上の消光比を得るためには、偏光軸傾きを考慮すると、1枚当たり少なくとも60dBの消光比が好ましい。
【0012】
本発明の第1の形態においては、ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法において、金属とハロゲンを含む母材ガラスを溶融する溶融工程と、前記母材ガラスを熱処理することによりハロゲン化金属粒子を析出する析出工程と、熱処理後の前記母材ガラスをプリフォームとして、前記プリフォームをガラスの粘度が1×10ポイズから1×1014ポイズとなる温度で加熱し、前記プリフォームを10mm/分以下の送り速度で電気炉内を移動させながら、前記プリフォームに200Kg/cmから700Kg/cmの大きさの応力を加え、前記プリフォームに含まれる前記ハロゲン化金属粒子を2:1から100:1のアスペクト比となる延伸シートに150mm/分以下の引取り速度で延伸する延伸工程と、前記延伸シートを前記母材ガラスの歪点温度より高く、前記母材ガラスの転移点温度より低い温度で、前記ハロゲン化金属粒子の少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程とを備える。
【0013】
上記製造方法において、前記析出工程は、前記母材ガラスを、転移点温度より高いが、軟化点温度より低い温度で少なくとも1時間結晶核を生成後、軟化点温度より高いが、軟化点温度より70℃は高くない温度で少なくとも2時間結晶核を粒成長させてハロゲン化金属粒子を析出する熱処理工程を有してもよい。また、前記析出工程において、析出したハロゲン化金属粒子の結晶析出に起因するhaze(曇度)を2%から30%にしてもよい。
【0014】
上記製造方法の前記延伸工程において、前記プリフォームの送り速度と、前記延伸シートの引取り速度との速度比を15以上としてもよい。
【0015】
上記製造方法の前記延伸工程において、前記プリフォームに加える応力が350Kg/cm以上であってもよい。
【0016】
上記製造方法の前記延伸工程において、前記プリフォームの表裏面と長さ方向両端部を加熱してもよい。
【0017】
上記製造方法において、母材ガラス組成が、重量%で換算した場合に、0から2.5%のLiO、0から9%のNaO、0から17%のKO、0から6%のCsO、8から20%のRO(LiO+NaO+KO+CsO)、14から23%のB、5から25%のAl、0から25%のP、20から65%のSiO、0.004から0.02%のCuO、0.15から0.3%のAg、0.1から0.25%のCl、0.1から0.2%のBrから成り、組成中にCuO以外の二価金属酸化物が実質的に含まれない場合にはRO:Bのモル比が約0.55から0.85であり、Ag:(Cl+Br)の重量比が約0.40から0.95であってもよい。また、他の成分として、6%以下のZrO、3%以下のTiO、0.5%以下のPbO、7%以下のBaO、4%以下のCaO、3%以下のMgO、6%以下のNb、4%以下のLa、2%以下のFとから成る成分から選ばれた組成が10%未満含まれていてもよい。また、Ag:(Cl+Br)の重量比が0.60以下であってもよい。
【0018】
本発明の第2の形態によれば、900nmから1900nmの波長範囲内で、60dB以上の消光比を示す帯域が、250nm以上である、上記製造方法により製造された偏光ガラス製品が提供される。さらに、上記偏光ガラス製品は、900nmから1900nmの波長範囲内で、70dB以上の消光比を示す帯域が、250nm以上であることが好ましい。
【0019】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、延伸工程において、プリフォームの送り速度と引取り速度を比較的遅くして延伸を行うので、水素還元工程またはプリフォーム成形に特別な改善及び加工なしで、70dB以上の消光比を250nm以上の帯域で示す偏光ガラスを低コストで製造することができる。また、本発明の析出工程において、ハロゲン化金属粒子の結晶核の生成と成長をほぼ同時に行うのではなく、一旦結晶核を生成させた後に、その結晶核を粒成長させることにより、ハロゲン化金属粒子の量と粒径を所定の値に制御できる。また、本発明の延伸工程において、プリフォームの表裏面及び幅方向両端面を加熱し、プリフォームの送り速度と引取り速度とを比較的遅くして延伸を行うことにより、面状態の悪いプリフォームを用いてでさえ400Kg/cm以上の応力を加えてもプリフォームを破断なく延伸することができる。そして、このような高い応力に加えて、プリフォームの送り速度と引取り速度との比が大きいので、ハロゲン化金属粒子にはミクロに急激な応力が加わり易く、比較的小さな粒子も引き延ばされ易くなるので、ハロゲン化金属粒子は種々のアスペクト比を持つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
本実施形態に係る偏光ガラスの製造方法は、金属とハロゲンを含む母材ガラスを溶融する溶融工程と、母材ガラスを熱処理することによりハロゲン化金属粒子を析出する析出工程と、熱処理後の前記母材ガラスをプリフォームとして、プリフォームを延伸シートに延伸する延伸工程と、ハロゲン化金属粒子の少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程とを備える。
【0023】
本実施形態の溶融工程において、銀及びこの銀とのハロゲン化物として、AgCl、AgBrを用いる。母材ガラスは米国特許第4190451号明細書に開示されたフォトクロミックガラス組成から選択できるが、フォトクロミック特性を示す因子となる銀とハロゲン物の重量比がAg:(Cl+Br)=0.60以下であれば高消光比、広帯域となり易く好ましい。なおハロゲン化金属としてCuClを用いてもよい。
【0024】
析出工程は、結晶核を生成する核生成過程と、結晶核が粒成長する粒成長過程の二つの過程を有する。核生成速度と粒成長速度は処理温度によって異なるので、核生成はガラスの転移点温度より高いが、軟化点温度より低い温度域で、核生成速度が比較的速い温度で少なくとも1時間の熱処理を行う。一方粒成長はガラスの軟化点温度より高いが、軟化点温度より70℃は高くない温度域で、粒成長速度が比較的速い温度で少なくとも2時間の熱処理を行う。核生成時間が長いほど結晶核の数が多くなり、粒成長温度が高く、また、時間が長いほど粒径が大きくなる。この熱処理によって析出するハロゲン化金属粒子はAgCl及びAgBrである。また、析出粒子の粒径は20nmから200nmであり、好ましくは100nm以下である。
【0025】
ここで析出粒子の粒径及び量を間接的に知る値としてhaze(曇度)を用いて、2mm厚のガラスのhazeが2%から30%になるように熱処理を行う。hazeはハロゲン化金属粒子の量と粒径に依存するが、そのどちらがよりhazeに影響を及ぼしているかはまだわかっていない。しかし、表1に示すように種々の熱処理条件においてhazeを調べたところ、どちらかといえば粒径の影響を受け易いと思われる。すなわち、hazeが低い場合には、母材ガラスに含まれるハロゲン化金属粒子の粒径が小さいと考えられる。発明者らは、このような種々のhazeを持つガラスを後述する方法を用いて偏光ガラスに加工した場合、高消光比,広帯域になり易いのはhazeとして5%〜20%が好ましく、さらに好ましくは10%前後であることを見出した。
【表1】

【0026】
図1は、本実施形態の延伸工程を行う延伸装置100の構成を示す。また、図2は、ハロゲン化金属粒子22が延伸される様子を示す概念図である。延伸装置100は、電気炉6と、電気炉6の内部に設けられたガラス支持具5と、同じく電気炉6の内部に設けられた各種ヒータ10、12、14、16、及び20と、プリフォーム1の長手方向に関して上記の各種ヒータより下方に設けられた引張手段40とを備える。
【0027】
延伸工程では、プリフォーム1をガラス支持具5に固定し、プリフォーム1の周囲に配した各種ヒータでプリフォーム1を加熱しながら、引張手段40でプリフォーム1を長手方向に引っ張る。本実施形態では、ガラス支持具5で短冊形状に加工されたプリフォーム1の長手方向の一端を固定するガラス支持具5を下方にゆっくり移動させながら、ヒータの下方に設けられた引張手段40でプリフォーム1の他端を下方に引っ張る。以下、図1の位置関係を用いて本実施形態を説明する。しかしながら、プリフォーム1を延伸する方向は下方向には限られない。例えば、ガラス支持具5でプリフォーム1の下端を固定し、ヒータよりも上方に設けた引張手段40でプリフォーム1の上側を上方に引っ張ってもよい。
【0028】
プリフォーム1の加熱は、該プリフォーム1の周囲に設けた各種ヒータ10、12、14、16、及び20で行う。ヒータは、プリフォーム1の幅方向の収縮が生じる延伸部3における短冊形状の正面から、延伸部3の幅方向の中心付近を加熱するメインヒータ10と、延伸部3における短冊形状の側方から、延伸部3の側面を加熱するサイドヒータ20と、メインヒータ10の上方に所定の間隔で配されるサブヒータ12、14、及び16を有する。
【0029】
メインヒータ10と、サブヒータ12、14、及び16は、プリフォーム1よりやや幅が広い。複数のヒータ10、12、14、16、及び20の出力は、それぞれ独立して制御される。これにより、プリフォーム1は延伸に適した温度分布で加熱される。すなわち、プリフォーム1の延伸が良好に行われ、かつ該プリフォーム1の延伸によるハロゲン化金属粒子の延伸が良好に行われる温度分布に加熱される。サブヒータ12、14、及び16は、延伸部3の上方を段階的に加熱する。
【0030】
この延伸工程において、プリフォーム1を電気炉6に入れて、ガラスの粘度が1×10ポイズから1×1014ポイズとなる温度でメインヒータ10並びにサブヒータ12、14、16及び20を加熱しながら、プリフォーム1に200Kg/cmから700Kg/cmの応力を加えて、ハロゲン化金属粒子(AgCl、AgBr)を2:1から100:1のアスペクト比となる延伸シート7に引き延ばす。この時、ガラスの粘度は1×1010ポイズから1×1012ポイズであることが好ましい。この場合に、特にプリフォーム1に350Kg/cm以上の高い応力を加えても、プリフォーム1を破断なく延伸できることが好ましい。また、上記で述べたように、hazeが比較的低い、すなわち内部に含まれるハロゲン化金属粒子の粒径が小さい母材ガラスを偏光ガラスに加工した場合に、高消光比および広帯域になり易いが、一方でこの場合に、高い応力を引っ張ることが好ましい。例えば、hazeが7%のガラスを用いて、近赤外域(1550nm)で高い消光を得ようとする場合には、約700Kg/cmの応力で延伸することが好ましい。
【0031】
また、プリフォーム1を電気炉6内で移動する速度(送り速度)は10mm/分以下とし、プリフォーム1を引き延ばして延伸シート7にする速度(引取り速度)は150mm/分以下とする。プリフォーム1を電気炉6内でゆっくり移動させて、延伸シート7をゆっくり引取ればプリフォーム1に割れや破断が生じにくい。そして、このような送り速度と引取り速度であれば、プリフォーム1表裏面を研磨(polishing)する代わりに、より安価な研削(grinding)やラップ(lapping)した面状態でも破断なく延伸をすることができる。さらに、送り速度(Vf)と引取り速度(Vp)との比(Vp/Vf)が15以上であれば、延伸シート7の中のハロゲン化金属粒子22が種々のアスペクト比に伸び易く高消光比で広帯域になり易い。これは、プリフォーム1に加わる瞬間的な負荷が高くなることにより、ハロゲン化金属粒子22が種々のアスペクト比に伸び易くなると推測することができる。ここで、延伸をゆっくり行っても、一旦引き延ばされたハロゲン化金属粒子22が電気炉6から出るまでの間に再球状化する現象は、本実施形態では確認されていない。
【0032】
上記延伸工程により延伸した延伸シート7には歪が残っているので、ガラスの歪点温度以上、転移点温度以下の温度でアニールを行う。転移点温度より高い、例えば徐冷点温度でアニールを行うと、延伸したハロゲン化金属粒子22が再球状化する可能性が高いので好ましくない。
【0033】
還元工程は、水素ガス雰囲気で行う。還元温度が高いほど水素がガラス内部に深く拡散していくため処理時間を短くできる。しかし、延伸シート7のアニール同様に、転移点温度より高いと、延伸したハロゲン化金属粒子に再球状化の問題が発生する。また、還元温度が低いと処理時間が十時間以上になることもあり経済的でない。従って、還元温度はガラスの歪点温度より高く、転移点温度より低い温度で行う。
【0034】
本実施形態によれば、延伸工程において、ガラス支持具5の送り速度と引張手段40の引取り速度とを比較的遅くしてプリフォーム1の延伸を行うので、水素還元工程やプリフォーム成形に特別な改善や加工なしで、70dB以上の消光比を250nm以上の帯域で示す偏光ガラスを低コストで製造することができる。
【0035】
また、析出工程において、ハロゲン化金属粒子22の結晶核の生成と成長をほぼ同時に行うのではなく、一旦結晶核を生成させた後に、その結晶核を粒成長させるので、ハロゲン化金属粒子22の量と粒径を所定の値に制御できる。
【0036】
また、延伸工程において、メインヒータ10並びにサブヒータ12、14、16及び20によりプリフォーム1の表裏面及び幅方向両端面を加熱し、プリフォーム1の送り速度と引取り速度を比較的遅くして延伸を行うので、面状態の悪いプリフォーム1を用いてでさえ400Kg/cm以上の応力を加えてもプリフォーム1を破断なく延伸することができる。そして、このような高い応力に加えて、プリフォーム1の送り速度と引取り速度との比が大きいので、ハロゲン化金属粒子22にはミクロに急激な応力が加わり易く、比較的小さな粒子も引き延ばされ易くなるので、ハロゲン化金属粒子22は種々のアスペクト比を持つことができる。
【実施例1】
【0037】
重量%で、LiO:1.8wt%、NaO:4.1wt%、KO:5.7wt%、B:18.1wt%、Al:6.2wt%、SiO:56.3wt%、Ag:0.22wt%、Cl:0.22wt%、Br:0.18wt%、CuO:0.006wt%、ZrO:5.0wt%、TiO:2.3wt%を有するガラス原料を白金るつぼに入れて約1350℃でプリメルトを行った。プリメルトで得られたガラスをキャンディ大に砕いてカレットとして、再び白金るつぼに入れて約1450℃で本メルトを行い、グラファイトの型に流し込んで成型し、徐冷炉に入れてアニールを行った後、取り出し母材ガラスとした。
【0038】
次に母材ガラスを、610℃で3時間核生成させた後、740℃で4時間粒成長の条件で熱処理する析出工程を行った。析出したハロゲン化銀粒子の平均粒径は70nmであった。また、このガラスの一部を2mm厚にしてhazeを測定したところ約11%であった。そして、熱処理した母材ガラスを70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)の実験用プリフォームに成形して延伸工程を行った。
【0039】
延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱し、プリフォームの送り速度を1.5mm/分,延伸シートの引取り速度を40mm/分とし、約410Kg/cmの応力を加えながら、プリフォームを延伸し、延伸シートを作製した。
【0040】
この延伸シートを480℃,2時間のアニール後、大気圧下で水素ガス雰囲気に置き、470℃で6時間の還元工程を行うことにより、偏光ガラスを製造した。還元後、偏光ガラスの消光比を測定したところ65dBであり、60dB以上の消光比を示す帯域幅は約330nmであった。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同じ母材ガラスを用意し、この母材ガラスを610℃で3時間核生成させた後、750℃で6時間粒成長の条件で熱処理する析出工程を行った。析出したハロゲン化銀粒子の平均粒径は120nmであった。また、このガラスの一部を2mm厚にしてhazeを測定したところ約33%であった。そして、熱処理した母材ガラスを70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)の実験用プリフォームに成形して延伸工程を行った。
【0042】
この延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱し、プリフォームの送り速度を1.5mm/分,延伸シートの引取り速度を40mm/分とし、約260Kg/cmの応力を加えながら、プリフォームを延伸し、延伸シートを作製した。
【0043】
この延伸シートを480℃で2時間のアニール後、大気圧下で水素ガス雰囲気に置き、470℃で6時間の還元工程を行うことにより、偏光ガラスを製造した。還元後、消光比を測定したところ54dBであり、60dB以上の消光比を示す帯域幅はなかった。
【実施例3】
【0044】
実施例1と同じ母材ガラスに、実施例1と同じ熱処理を施し、実施例1と同じ形状の実験用プリフォームを用意した。
【0045】
延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱し、プリフォームの送り速度を2.5mm/分,延伸シートの引取り速度を35mm/分とし、約410Kg/cmの応力を加えながら、プリフォームを延伸し、延伸シートを作製した。
【0046】
この延伸シートを480℃で2時間のアニール後、大気圧下で水素ガス雰囲気に置き、470℃で6時間の還元工程を行うことにより、偏光ガラスを製造した。還元後、偏光ガラスの消光比を測定したところ62dBであり、60dB以上の消光比を示す帯域幅は約200nmであった。
【実施例4】
【0047】
重量%で、LiO:1.8wt%、NaO:5.5wt%、KO:5.7wt%、B:18.2wt%、Al:6.2wt%、SiO:56.3wt%、Ag:0.22wt%、Cl:0.15wt%、Br:0.15wt%、CuO:0.01wt%、ZrO:5.0wt%、TiO:2.3wt%を有するガラス原料を白金るつぼに入れて約1350℃でプリメルトを行った。プリメルトで得られたガラスをキャンディ大に砕いてカレットとして、再び白金るつぼに入れて約1450℃で本メルトを行い、グラファイトの型に流し込んで成型し、徐冷炉に入れてアニールを行った後取り出し母材ガラスとした。
【0048】
次に母材ガラスを、610℃で3時間核生成させた後、735℃で4時間粒成長の条件で熱処理する析出工程を行った。析出したハロゲン化銀粒子の平均粒径は60nmであった。また、このガラスの一部を2mm厚にしてhazeを測定したところ約9%であった。そして、熱処理した母材ガラスを70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)の実験用プリフォームに成形して延伸工程を行った。
【0049】
この延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱し、プリフォームの送り速度を1.5mm/分,延伸シートの引取り速度を40mm/分とし、約410Kg/cmの応力を加えながら、プリフォームを延伸し、延伸シートを作製した。
【0050】
この延伸シートを480℃で2時間のアニール後、大気圧下で水素ガス雰囲気に置き、470℃で6時間の還元工程を行うことにより、偏光ガラスを製造した。還元後、偏光ガラスの消光比を測定したところ65dBであり、60dB以上の消光比を示す帯域幅は約110nmであった。
【実施例5】
【0051】
実施例1の母材ガラスに、実施例1と同じ熱処理を施した。熱処理したガラスから実験用プリフォームを成形するにあたって、プリフォーム外周は研削し形状を整え、角部分は研削で面取りを行い、プリフォーム表裏面は#1000ラップを行った。そして、70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)形状の実験用プリフォームとした。ここで、プリフォーム表裏面の面粗度は研磨すると200から〜550Å(0.02から0.055μm)であるのに対して、#1000ラップの場合の面粗度は約1.5μmである。一方、#1000ラップによる表面処理は、研磨による表面処理よりも、価格が安い。
【0052】
延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱して、プリフォームの送り速度を1.5mm/分,延伸シートの引取り速度を40mm/分とし、450Kg/cmの応力を加えて延伸を行ったところ、プリフォームは破断せず、また、延伸シートも割れなかった。
【実施例6】
【0053】
実施例1の母材ガラスに、実施例1と同じ熱処理を施した。熱処理したガラスから実験用プリフォームを成形するにあたって、プリフォーム外周は研削し形状を整え、角部分は研削で面取りを行い、プリフォーム表裏面は#500研削を行った。そして、70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)形状の実験用プリフォームとした。ここで、プリフォーム表裏面の面粗度は2から3μmである。一方、#500研削による表面処理は、#1000ラップの表面処理よりさらに安価である。
【0054】
延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱して、プリフォームの送り速度を1.5mm/分,延伸シートの引取り速度を40mm/分とし、450Kg/cmの応力を加えて延伸を行ったところ、実施例5同様にプリフォームは破断せず、また、延伸シートも割れなかった。
【実施例7】
【0055】
実施例4と同じ母材ガラスを用意し、この母材ガラスを620℃で3時間核生成させた後、720℃で4時間粒成長の条件で熱処理する析出工程を行った。析出したハロゲン化銀粒子の平均粒径は51nmであった。また、このガラスの一部を2mm厚にしてhazeを測定したところ約7%であった。そして、熱処理した母材ガラスを70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)の実験用プリフォームに成形して延伸工程を行った。
【0056】
この延伸工程において、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱し、プリフォームの送り速度を1.5mm/分、延伸シートの引取り速度を60mm/分とし、約500Kg/cmの応力を加えながら、プリフォームを延伸し、延伸シートを作製した。
【0057】
この延伸シートを480℃で2時間のアニール後、大気圧下で水素ガス雰囲気に置き、470℃で6.5時間の還元工程を行うことにより、偏光ガラスを製造した。還元後、偏光ガラスの消光比を測定したところ72dBであり、70dB以上の消光比を示す帯域幅は約110nmであった。この場合、60dB以上の消光比を示す帯域幅は約230nmであった。
【実施例8】
【0058】
実施例7で作製したhaze7%の実験用プリフォームを、ガラスの粘度が約1×1010から1×1011ポイズとなるように加熱し、プリフォームの送り速度を1.5mm/分,延伸シートの引取り速度を60mm/分とし、約680Kg/cmの応力を加えながら、プリフォームを延伸し、延伸シートを作製した。
【0059】
この延伸シートを480℃で2時間のアニール後、大気圧下で水素ガス雰囲気に置き、470℃で6.5時間の還元工程を行うことにより、偏光ガラスを製造した。還元後、偏光ガラスの消光比を測定したところ75dBであり、70dB以上の消光比を示す帯域幅は約280nmであった。また、この場合、60dB以上の消光比を示す帯域幅は約440nmであった。
【0060】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】延伸装置100の構成を示す図である。
【図2】ハロゲン化金属粒子22が延伸される様子を示す概念図である。
【符号の説明】
【0062】
1 プリフォーム、3 延伸部、5 ガラス支持具、6 電気炉、7 延伸シート、10 メインヒータ、12、14、16 サブヒータ、20 サイドヒータ、40 引張手段、100 延伸装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法において、
金属とハロゲンを含む母材ガラスを溶融する溶融工程と、
前記母材ガラスを熱処理することによりハロゲン化金属粒子を析出する析出工程と、
熱処理後の前記母材ガラスをプリフォームとして、前記プリフォームをガラスの粘度が1×10ポイズから1×1014ポイズとなる温度で加熱し、前記プリフォームを10mm/分以下の送り速度で電気炉内を移動させながら、前記プリフォームに200Kg/cmから700Kg/cmの大きさの応力を加え、前記プリフォームに含まれる前記ハロゲン化金属粒子を2:1から100:1のアスペクト比となる延伸シートに150mm/分以下の引取り速度で延伸する延伸工程と、
前記延伸シートを前記母材ガラスの歪点温度より高く、前記母材ガラスの転移点温度より低い温度で、前記ハロゲン化金属粒子の少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程と
を備える偏光ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記析出工程は、前記母材ガラスを、転移点温度より高いが、軟化点温度より低い温度で少なくとも1時間結晶核を生成後、軟化点温度より高いが、軟化点温度より70℃は高くない温度で少なくとも2時間結晶核を粒成長させてハロゲン化金属粒子を析出する熱処理工程を有する請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記析出工程において、析出したハロゲン化金属粒子の結晶析出に起因するhaze(曇度)を2%から30%にする請求項2に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記延伸工程において、前記プリフォームの送り速度と、前記延伸シートの引取り速度との速度比を15以上とする請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程において、前記プリフォームに加える応力が350Kg/cm以上である請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記延伸工程において、前記プリフォームの表裏面と長さ方向両端部を加熱する請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項7】
母材ガラス組成が、重量%で換算した場合に、0から2.5%のLiO、0から9%のNaO、0から17%のKO、0から6%のCsO、8から20%のRO(LiO+NaO+KO+CsO)、14から23%のB、5から25%のAl、0から25%のP、20から65%のSiO、0.004から0.02%のCuO、0.15から0.3%のAg、0.1から0.25%のCl、0.1から0.2%のBrから成り、組成中にCuO以外の二価金属酸化物が実質的に含まれない場合にはRO:Bのモル比が約0.55から0.85であり、Ag:(Cl+Br)の重量比が約0.40から0.95である請求項1から6のいずれかに記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項8】
他の成分として、6%以下のZrO、3%以下のTiO、0.5%以下のPbO、7%以下のBaO、4%以下のCaO、3%以下のMgO、6%以下のNb、4%以下のLa、2%以下のFとから成る成分から選ばれた組成が10%未満含まれている請求項7に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項9】
Ag:(Cl+Br)の重量比が0.60以下である請求項7に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項10】
900nmから1900nmの波長範囲内で、60dB以上の消光比を示す帯域が、250nm以上である、請求項1から9のいずれかに記載の偏光ガラスの製造方法により製造された偏光ガラス製品。
【請求項11】
900nmから1900nmの波長範囲内で、70dB以上の消光比を示す帯域が、250nm以上である、請求項10に記載の偏光ガラス製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−301595(P2006−301595A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41423(P2006−41423)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】