説明

偏光ガラスの製造方法

【課題】 偏光ガラス製品を製造する方法において、ハロゲン化物相を表面層に生じさせるが、中央相には存在させない。
【解決手段】 銀または銅のハロゲン化物を沈澱させることのできるハロゲン化物を含有するガラスバッチを溶融する。溶融物をガラス製品に成形しかつ冷却する。ガラス製品の表面中に銀または銅の金属をイオン交換する。ガラス製品の表面層中に銀または銅のハロゲン化物の結晶を生成し、沈澱させるのに十分な期間に亘り、製品を高温にさらす。ガラス製品を、ガラスのアニール点よりも高い温度で応力下において伸張して、結晶を応力の方向に引き延ばす。伸張されたガラス製品を高温で還元雰囲気に露出して、銀または銅のハロゲン化物の結晶の少なくとも一部の、銀または銅の金属への還元を開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光ガラスに関する。本発明は、より詳しくは、偏光ガラスおよびそのようなガラスから製造される光アイソレータのような偏光製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光ガラスを製造する方法がいくつか知られている。例えば、偏光ガラスは、特許文献1に開示されているようなリドロープロセス(redraw process)により、または特許文献2および3に開示されているような延伸されたガラスの還元ガス雰囲気への施用により、ハロゲン化銀含有ガラスから製造できることが実証されてきた。リドロープロセスにおいて、分離可能相を含有するガラスが、その軟化温度より高い温度で延伸すなわちリドローされ、そのプロセス中に分離可能相が引き延ばされる。相分離に至る熱処理は、リドロープロセスの前に行われる。上記プロセスの1つの変更例において、分離した相は、最初に、AgClBr、CuClBrまたはハロゲン化銅/カドミウムのようなスペクトル的非吸収性材料である。これらの材料は、偏光効果に必要な所望の二色特性を生じるように、後に改質しなければならない。このことは、スペクトル的非吸収性材料をそれらの対応する金属に化学的に還元するのに十分な時間に亘り、延伸されたガラスを高温下の還元ガス(例えば、水素)雰囲気内で処理することにより行われる。この化学還元プロセスは、水素のガラス中への拡散および水素のハロゲン化物相との化学反応の両方を含む組合せプロセスである。偏光挙動は、還元された層から由来する。また、偏光ガラスが任意の長期に亘り500℃の近傍まで加熱されると、引き延ばされた粒子が再度球状化し、偏光特性が失われてしまう。すなわち、引き延ばされた粒子が球形状に戻る。このことは、ガラスが一旦十分に軟らかくなると、界面張力が、リドロー力が達成したことを取り消すように作用するという事実により説明される。
【0003】
組成中に還元性イオンを含有するガラスの色を変えるための高温での水素焼成も、よく知られている。その技法の注目に値する商業用途が、SERENGETI(登録商標)およびCPF(登録商標)の商標で販売されているコーニング社(Corning incorporated)のアイウェア製品群に見られる。誘発される色変化は、ガラス中のハロゲン化銀の一部が還元されて準球状の銀粒子を形成することによるものである。化学反応は、水素拡散と比較して、非常に速く進行し、これにより、表面近くの還元領域と、表面の下にある未還元領域との間に明確な境界が形成される。
【0004】
ハロゲン化銀含有ガラス以外に、特許文献4に開示されたハロゲン化銅/カドミウムフォトクロミックガラスを、熱的に軟化し、延伸するか、他の様式で引き延ばした場合、暗色状態で偏光性にできることも示されている。この作用は、ハロゲン化物結晶を引き延ばすものであり、特許文献5に詳細に記載されている。特許文献6には、第1銅、カドミウムおよび混合第1銅−カドミウムハロゲン化物から選択される沈澱結晶相を有するガラス偏光子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3540793号明細書
【特許文献2】米国特許第4304584号明細書
【特許文献3】米国特許第4479819号明細書
【特許文献4】米国特許第3325299号明細書
【特許文献5】米国特許第3954485号明細書
【特許文献6】米国特許第5517356号明細書
【特許文献7】米国特許第3208860号明細書
【特許文献8】米国特許第3548060号明細書
【特許文献9】米国特許第3957498号明細書
【特許文献10】米国特許第4190451号明細書
【特許文献11】米国特許第3325299号明細書
【特許文献12】米国特許第5281562号明細書
【特許文献13】米国特許第3524737号明細書
【特許文献14】米国特許第3615322号明細書
【特許文献15】米国特許第3615323号明細書
【特許文献16】米国特許第5007948号明細書
【特許文献17】米国特許第4125404号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ある用途、特に、通信用途に関して、偏光ガラス素子を上述した方法により製造することの欠点の1つは、ガラス素子の外側の層が元素の銀に還元された後でも、相分離したハロゲン化銀相がその素子の中央層に残留することである。この相分離したハロゲン化銀相は、光の散乱や、偏光素子を通る伝送の減少に寄与する。ガラスの中央層における相分離した相の存在が減少したかまたはない偏光ガラス素子を製造できる方法を提供することが望ましいであろう。したがって、偏光ガラス素子を形成する新規の改良方法が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施の形態は、偏光ガラス製品を製造する方法に関する。この方法は、銀または銅のハロゲン化物を沈澱させることのできるガラスバッチを溶融し、溶融物をガラス製品に成形しかつ冷却し、銀または銅の金属をガラス製品の表面中にイオン交換する各工程を有してなる。この実施の形態によれば、この方法はさらに、ガラスの表面層中に銀または銅のハロゲン化物の結晶を生成し、沈澱させるのに十分な期間に亘りガラス製品を高温にさらし、ガラスのアニール点よりも高い温度でガラス製品を応力下で引き延ばして、応力の方向に結晶を引き延ばし、引き延ばされたガラス製品を高温下で還元雰囲気に露出して、銀または銅のハロゲン化物の結晶の少なくとも一部の、それぞれ銀または銅の金属への還元を開始する各工程を含む。
【0008】
好ましい実施の形態において、前記製品は、銀または銅のハロゲン化物の結晶を実質的に含有しない中央層を含む。ある実施の形態において、前記表面層は厚さが50マイクロメートル未満である。さらに他の実施の形態において、前記表面層は厚さが10マイクロメートル未満である。本発明の利点の1つは、前記偏光製品の表面層中の銀または銅の金属の濃度が、銀または銅がガラスバッチ中に溶融されるものである従来の製造方法を用いることにより提供できるものよりも、より高いレベルに調節することができることである。ある実施の形態において、表面層中の銀または銅の金属の濃度は、0.1重量%よりも大きい。他の実施の形態において、表面層中の銀または銅の金属の濃度は、0.5重量%よりも大きい。
【0009】
本発明のさらに別の実施の形態は、引き延ばされた銅または銀の金属粒子を含有する2つの外側層および銅または銀のハロゲン化物の結晶を実質的に含有しない中央層を持つガラスを有してなる偏光ガラス製品に関する。そのような偏光ガラス製品の利点の1つは、この偏光ガラス製品の中央層中に銀または銅のハロゲン化物の結晶がないために、そのような偏光ガラス製品を用いた光アイソレータ中の散乱および伝送損失が減少することである。上述した方法により偏光ガラス製品を製造することの別の利点は、その製品の表面層中に、より高濃度の銀または銅の金属を含有できることである。例えば、本発明の方法を使用することにより、表面層中に銅または銀の金属を0.5重量%より多く含有できる。
【0010】
本発明の追加の利点が、以下の詳細な説明に述べられている。上述した一般的な説明および以下の詳細な説明は、例示であり、特許請求の範囲に記載された本発明をさらに説明することを意図したものであることが理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の例示的な実施の形態をいくつか説明する前に、本発明は、以下の説明に述べられた構成の詳細に制限されるものではないことを承知すべきである。本発明は、他の実施の形態が可能であり、様々な様式で実行または実施することができる。
【0012】
偏光ガラス素子の製造が公知であり、特許文献2および3に記載されている。そこでは、偏光ガラス素子は、ハロゲン化銀含有ガラスバッチを提供し、ガラスを延伸して、ガラス中の分離可能相を引き延ばし、次いで、引き延ばされたガラスを還元ガス雰囲気にさらして、引き延ばされた銀の金属粒子を提供することにより製造されている。
【0013】
本発明において、銀または銅は母材ガラスのバッチから除外されており、そのバッチを溶融して、偏光ガラス製品のためのベースガラスを製造した後、ガラスの表面層中への銀または銅のイオン交換により、銀または銅がガラス製品に加えられる。本発明により偏光ガラス製品を製造することの利点の1つは、相分離した銀または銅のハロゲン化物の相が、ガラス製品の中央部分中に存在しないことである。中央層中に銀または銅のハロゲン化物がこのようにないと、中央層中の光の散乱が少なく、光アイソレータ中の偏光層のような偏光ガラス製品を通る伝送の改善された偏光ガラス製品が得られる。
【0014】
本発明の実施の形態に使用できる有用な組成物の非限定的例としては、以下に限定されるものではないが、特許文献2、3、7、8、9および10に開示された組成物が挙げられる。同様に、ハロゲン化第1銅および/またはハロゲン化カドミウムを含有する有用な組成物の非限定的例が、特許文献6、11および12に開示されている。上述した特許の各々における組成物において、偏光ガラス層を形成する金属、例えば、銀または銅はバッチから除外され、バッチの溶融およびガラス製品の所望の形状への成形後に、その製品に銀または銅が加えられる。
【0015】
砂、アルミナ、酸化物、炭酸塩およびハロゲン化物を含む標準的なガラス製造材料を用いて、前記ガラスバッチを配合することができる。このバッチをボールミル粉砕して、均質性を確実なものとし、蓋で覆われた坩堝内で溶融する。棒材の注型後、イオン交換を用いて、その棒材の少なくとも1つの表面層に銀または銅を加えることができる。次いで、溶融物からのイオン交換した棒材注型物に熱処理を施して、必須の分離可能な銀または銅のハロゲン化物の結晶相を形成することができる。この結晶相の形成後、この棒材を応力下で加熱しかつ伸張して、ハロゲン化物の粒子を応力の方向に引き延ばし、整列させる。
【0016】
本発明のある実施の形態によれば、偏光ガラス素子が提供され、この素子は、銀または銅のハロゲン化物の沈澱した結晶相を有してなり、この結晶は、引き延ばされ、配向されており、素子の表面層中にしか存在しない。この素子の表面近くの結晶の少なくとも一部は、金属の銀または銅にある程度還元されている。
【0017】
銀または銅の前記ガラス製品の表面層中へのイオン交換は、どのような適したイオン交換技法により行っても差し支えない。イオン交換は、ガラス製品の表面中のイオンの、混合物または溶液中のイオンとの置換に関する。イオン交換は、特許文献13、14および15に記載されているように、例えば、ナトリウムイオンを、カリウム、銅またはリチウムイオンと置換することにより、ガラス製品を強化するために過去に用いられてきた。特許文献16には、銀イオンをガラス製品中にイオン交換する技法が記載されており、そこに記載された技法は、本発明によるガラス製品の表面層に銀イオンを加えるために利用することができる。特許文献16中に開示されたガラス組成物は、ハロゲン化物や沈澱相を含有せず、偏光ガラス製品を製造するのに使用できない。しかしながら、そこに開示されたイオン交換技法を上述した適切なガラス組成物に使用することにより、本発明のある実施の形態による偏光ガラス製品が提供される。
【0018】
例えば、銀イオンは、アルカリ金属イオンおよびハロゲン化物を含有するガラス製品の表面中において、この製品を、室温よりも高い温度(例えば、約350℃から約750℃)で銀イオンの外部供給源と、ガラス中のアルカリ金属イオンの少なくとも一部を銀イオンと置換するのに十分な期間に亘り接触させることにより、交換できる。銀イオンの適切な供給源としては、溶融塩化銀が挙げられる。銀の金属イオンの他の適切な供給源が特許文献17に記載されている。この文献には、銀塩およびナトリウム塩を含有する溶融塩バッチ中にガラス製品を高温で浸漬することによる、この製品中への銀イオンの交換が記載されている。具体的には、ある実施例において、ガラス製品が、36%の硝酸銀および64%の硝酸ナトリウムを含有するバッチ中に、8時間に亘り約280℃の温度で入れられる。これらのイオン交換プロセスは例示であり、本発明はどのような特定のイオン交換プロセスにも限定されるものではないことが理解されよう。ガラス中へのイオン交換後、前記製品に熱処理を行って、表面相中のみに銀または銅のハロゲン化物を沈澱させることができる。この後、この製品を延伸して、ハロゲン化銀粒子を楕円形に引き延ばし、この製品を還元雰囲気中で加熱して、配向された銀または銅の金属粒子を提供することができる。
【0019】
他の実施態様
1.偏光ガラス製品を製造する方法であって、
銀または銅のハロゲン化物を沈澱させることのできるハロゲン化物を含有するガラスバッチを溶融し、
溶融物をガラス製品に成形しかつ冷却し、
該ガラス製品の表面中に銀または銅の金属をイオン交換し、
該ガラス製品の表面層中に銀または銅のハロゲン化物の結晶を生成させ、沈澱させるのに十分な期間に亘り、該製品を高温にさらし、
該ガラス製品を、ガラスのアニール点よりも高い温度で応力下において伸張して、前記結晶を該応力の方向に引き延ばし、
伸張されたガラス製品を高温で還元雰囲気に露出して、前記銀または銅のハロゲン化物の結晶の少なくとも一部の、銀または銅の金属への還元を開始させる、
各工程を有してなることを特徴とする方法。
【0020】
2.前記製品が、銀または銅のハロゲン化物の結晶を実質的に含有しない中央層を有してなることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0021】
3.前記表面層が50マイクロメートル未満の厚さであることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0022】
4.前記表面層が10マイクロメートル未満の厚さであることを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0023】
5.前記表面層中の銀または銅の金属の濃度が0.1重量%より大きいことを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0024】
6.前記表面層中の銀または銅の金属の濃度が0.5重量%より大きいことを特徴とする実施態様1記載の方法。
【0025】
7.実施態様1記載の方法により製造された偏光ガラス製品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸張された銅または銀の金属粒子を含有する2つの外側層および銀または銅のハロゲン化物の結晶を実質的に含有しない中央層を有するガラスから構成され、前記2つの外側層に含まれる銅または銀の金属の濃度が0.1重量%より大きいことを特徴とする偏光ガラス製品。
【請求項2】
前記銅または銀の金属の濃度が0.5重量%より大きいことを特徴とする請求項1記載の製品。
【請求項3】
前記外側層が50マイクロメートル未満の厚さであることを特徴とする請求項1または2記載の製品。
【請求項4】
前記外側層が10マイクロメートル未満の厚さであることを特徴とする請求項3記載の製品。

【公開番号】特開2009−280496(P2009−280496A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192915(P2009−192915)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【分割の表示】特願2003−15672(P2003−15672)の分割
【原出願日】平成15年1月24日(2003.1.24)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】