説明

偏光変換素子、偏光変換ユニット、投射装置、及び偏光変換素子の製造方法

【課題】長寿命で光学特性に優れた偏光変換素子、偏光変換ユニット、投射装置、及び偏光変換素子の製造方法の提供。
【解決手段】
偏光変換素子300は、互いに略平行な光入射面310A及び光出射面310Bを有する素子本体310と、この素子本体310の光出射面310Bに接合される位相差板320とを備え、素子本体310は、光出射面310Bに所定の角度をもって順次接合された複数の透光性基板311と、この複数の透光性基板311の間に交互に設けられた偏光分離膜312及び反射膜313と、複数の透光性基板311の間にそれぞれ形成された接着層314とを有し、接着層314は、紫外線硬化型の接着剤により形成され、かつ、その厚みが5μm以上10μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光変換素子、偏光変換ユニット、投射装置、及び偏光変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクターなどの投射装置には、光源の光を1種類の偏光光に変換する偏光変換素子が組み込まれている。
偏光変換素子は、複数の透光性部材の間に偏光分離膜と反射膜とが交互に設けられるとともに、複数の透光性部材の間にそれぞれ接着剤にて接着層が形成された素子本体を有する。この素子本体の光出射面には、選択的に位相差板が配置されている(特許文献1,2)。
図15,16に示すように、このような偏光変換素子を製造する際には、まず、偏光分離膜91及び反射膜92が形成された透光性板材と、これらの膜が形成されていない透光性板材とが接着層93により交互に貼り合わされる。ここで、接着層93の厚みは、例えば、20μm程度である。そして、この貼り合わされた積層体がその表面と所定の角度で切り出される。その後、その切断面が研磨され、素子本体95に光入射面951及び光出射面952が形成される。そして、素子本体95に接合層96を介して位相差板97が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−298212号公報
【特許文献2】特許第3309846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2のような偏光変換素子を製造する場合、従来の接着剤では、粘度が高く接着層93が厚くなる。このような接着層93が厚い積層体が切り出されると、接着層93の端部に歪みが生じてしまう。この歪みが生じた状態で、切断面が研磨されると、図15,16に示すように、接着層93近傍における透光性部材98の角部981が削られてしまう。
これにより、例えば、特開2010−113056号公報に記載されたプラズマ重合法により接合層96が形成される場合、接合層96に隙間が生じて、位相差板97が剥がれやすくなったり、気泡961が形成されて光の透過率が低下するなどの問題がある。
また、接着剤により光出射面952Aに位相差板97が接合される場合でも、接着層91近傍における透光性部材98の角部981が削られるため、光が有効に透過する領域が小さくなるという問題もある。
【0005】
本発明の目的は、長寿命で光学特性に優れた偏光変換素子、偏光変換ユニット、投射装置、及び偏光変換素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[適用例1]
本適用例に係わる偏光変換素子は、互いに略平行な光入射面及び光出射面を有する素子本体と、この素子本体の前記光出射面に接合される位相差板とを備える偏光変換素子であって、前記素子本体は、前記光出射面に所定の角度をもって順次接合された複数の透光性基板と、この複数の透光性基板の間に交互に設けられた偏光分離膜及び反射膜と、前記複数の透光性基板の間にそれぞれ形成された接着層とを有し、前記接着層は、紫外線硬化型の接着剤により形成され、かつ、その厚みが5μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0007】
この構成の本適用例では、接着層の厚みが5μm以上であるため、接着層にごみなどが混入しても、接着層の弾性によりごみの影響を低減して、透光性基板同士を良好に接着できる。また、ごみなどを完全に除去するための特別な洗浄工程を設ける必要がないので、製造効率を向上させることができる。
一方、接着層の厚みが10μm以下であり、薄いため、光入射面などを研磨する際に透光性基板の角部が削られてしまうことがない。従って、例えば、プラズマ重合法などにより素子本体と位相差板とを隙間無く強力に接合できる。よって、長寿命で光学特性に優れた偏光変換素子とすることができる。
【0008】
[適用例2]
本適用例に係る偏光変換素子では、前記接着層は、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とすることを特徴とする。
この構成の本適用例では、変性アクリレート等を主成分とするため、粘度が比較的低いので、接着層の厚みを5μm以上10μm以下に設定できる。これにより、接着層の端部に歪みが生じることを防止でき、光入射面などを研磨する際に、透光性部材の角部がけずれてしまうことを防止できる。
また、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とするため、耐熱性に優れているので、さらに長寿命の偏光変換素子を実現できる。
【0009】
[適用例3]
本適用例に係る偏光変換素子では、前記透光性基板と前記位相差板とは、接合層により接合され、前記接合層は、プラズマ重合法により形成されシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格とこのSi骨格に結合する有機基からなる脱離基とを含み、エネルギーを付与して表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより発現した接着性を有することを特徴とする。
【0010】
この構成の本適用例では、接着層の厚みが5μm以上10μm以下であるため、透光性基板の角部が削れることがないので、前述のプラズマ重合法により隙間無く接合層を形成して透光性部材と位相差板とを強力に接合できる。
【0011】
[適用例4]
本適用例に係る偏光変換素子は、前記透光性基板と前記位相差板とは、接合層により接合され、前記接合層は、前記透光性基板に設けられた微結晶連続薄膜と、前記位相差板に設けられた微結晶連続薄膜とを接触させて、前記透光性基板の微結晶連続薄膜と前記位相差板の微結晶連続薄膜との接触界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせる原子拡散接合法により形成される、又は、前記透光性基板及び前記位相差板のうちのいずれか一方に設けられた微結晶連続薄膜と、いずれか他方に設けられた微結晶構造とを接触させて、前記微結晶連続薄膜と前記微結晶構造との接触界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせる原子拡散接合法により形成されることを特徴とする。
【0012】
この構成の本適用例では、接着層の厚みが5μm以上10μm以下であるため、前述の原子拡散接合法により隙間無く接合層を形成して透光性部材と位相差板とを強力に接合できる。
【0013】
[適用例5]
本適用例に係る偏光変換素子では、前記位相差板は、水晶により形成されることを特徴とする。
この構成の本適用例では、水晶は耐熱性に優れるため、長時間光に照射されても劣化しにくい。従って、さらに長寿命の偏光変換素子とすることができる。
【0014】
[適用例6]
本適用例に係る偏光変換ユニットは、上述の偏光変換素子と、この偏光変換素子の光入射側に配置されるレンズアレイとを備えることを特徴とする。
この構成の本適用例では、本発明の偏光変換素子を備えるため、長寿命で光学特性に優れた偏光変換ユニットとすることができる。
【0015】
[適用例7]
本適用例に係る投射装置は、光を出射する光源装置と、この光源装置からの光を1種類の偏光光に変換する上述の偏光変換ユニットと、この偏光変換ユニットからの前記偏光光を画像情報に応じて変調して光学像を形成する光変調装置と、この光変調装置にて形成された前記光学像を拡大投射する投射光学装置とを備えることを特徴とする。
この構成の本適用例では、本発明の偏光変換素子を備えるため、長寿命で光学特性に優れた投射装置とすることができる。
【0016】
[適用例8]
本適用例に係る偏光変換素子の製造方法は、互いに略平行な第1面及び第2面を有する複数の透光性板材の間に偏光分離膜及び反射膜を交互に設ける膜形成工程と、前記複数の透光性板材の間にそれぞれ接着層を形成する接着工程と、前記複数の透光性板材を、前記第1面及び前記第2面に対して所定の角度で切断して互いに略平行な光入射面及び光出射面を有する積層ブロックを形成する切断工程と、前記積層ブロックの光入射面及び光出射面を研磨して素子本体を形成する研磨工程と、前記素子本体の光出射面に位相差板を接合する接合工程とを実施し、前記接着工程では、前記接着層は、紫外線硬化型の接着剤により厚みが5μm以上10μm以下となるように形成されることを特徴とする。
この構成の本適用例では、紫外線硬化型の接着剤により5μm以上10μm以下の厚みとなるように接着層を形成するため、長寿命で光学特性に優れた偏光変換素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る投射装置を示す概略構成図。
【図2】前記投射装置に設けられる偏光変換ユニットを示す概略分解斜視図。
【図3】前記投射装置に設けられる偏光変換素子を示す断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る偏光変換素子の製造における膜形成工程を示す図。
【図5】前記偏光変換素子の製造における接着工程を示す図。
【図6】前記接着工程における紫外線が照射される状態を示す図。
【図7】(A)(B)硬化試験における引張強度の測定結果を示す図。
【図8】(A)(B)硬化試験におけるせん断強度の測定結果を示す図。
【図9】前記偏光変換素子の製造における切断工程を示す図。
【図10】前記偏光変換素子の製造における研磨工程を示す図。
【図11】本発明に係る実施例および比較例の耐熱性試験の結果を示す図。
【図12】本発明に係る実施例の平坦度試験の結果を示す図。
【図13】本発明に係る他の実施例の平坦度試験の結果を示す図。
【図14】比較例の平坦度試験の結果を示す図。
【図15】従来の偏光変換素子を示す断面図。
【図16】図15の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[投射装置の構成]
本発明の実施形態に係る投射装置を図1から図3までに基づいて説明する。本実施形態では投射装置として液晶プロジェクターを例示して説明する。図1はプロジェクターの概略構成図である。図2は、プロジェクターに設けられた偏光変換ユニットの分解斜視図である。図3は、プロジェクターに設けられた偏光変換素子の断面図である。
図1において、プロジェクター100は、インテグレーター照明光学系110と、色分離光学系120と、リレー光学系130と、光源から射出された光を画像情報に応じて変調する光変調装置140と、光変調装置140で変調された光を拡大投射する投射光学装置150とを備える。
【0019】
インテグレーター照明光学系110は、光変調装置140を構成する3枚の透過型液晶パネル141(赤、緑、青の色光毎にそれぞれ液晶パネル141R,141G,141Bとする)の画像形成領域をほぼ均一に照明するための光学系である。このインテグレーター照明光学系110は、光源装置111と、第1レンズアレイ112と、偏光変換ユニット200と、重畳レンズ113とを備える。
【0020】
光源装置111は、光源ランプ114とリフレクター115とを備え、光源ランプ114から射出された輻射状の光線をリフレクター115で反射して略平行光線とし、この略平行光線を外部へと射出する。
第1レンズアレイ112は、光軸方向から見てほぼ矩形状の輪郭を有する小レンズがマトリクス状に配列された構成を有する。
【0021】
偏光変換ユニット200は、図2に示すように、第1レンズアレイ112から出射された光を1種類の直線偏光光に変換する機能を有する。この偏光変換ユニット200は、第2レンズアレイ210と、遮光板220と、偏光変換素子300と、これらの第2レンズアレイ210、遮光板220及び偏光変換素子300を保持する枠体230と、第2レンズアレイ210、遮光板220及び偏光変換素子300を枠体230に固定するための固定具240とを備える。
第2レンズアレイ210は、偏光変換素子300の光入射側に配置され、第1レンズアレイ112と同様の構成を有しており、小レンズがマトリクス状に配列された構成を有する。この第2レンズアレイ210は、重畳レンズ113とともに、第1レンズアレイ112の各小レンズの像を透過型液晶パネル141上に結像させる機能を有する。
遮光板220は、スリット状の複数の孔221を有し、これらの孔221が偏光変換素子300の偏光分離膜312に対応するように配置される。これにより、遮光板220は、偏光変換素子300の偏光分離膜312に対応する光入射面310Aにのみ光を入射させる。なお、図2では、孔221と偏光分離膜312との対応関係は、概略的に示されている。
【0022】
偏光変換素子300は、第2レンズアレイ210からの光(p偏光光及びs偏光光)を1種類のs偏光光に変換するものである。図1,2では、2つの偏光変換素子300が互いに接合している。
偏光変換ユニット200を組み立てる際には、枠体230の一方の開口面(図2では下面)側からは2つの偏光変換素子300が挿入され、もう一方の開口面(図2では上面)側からは、遮光板220と第2レンズアレイ112とがこの順に挿入される。これらの第2レンズアレイ210、遮光板220及び偏光変換素子300は、枠体230に収納された状態で、4つの固定具240で上下2方向から挟持される。
【0023】
図1に示すように、色分離光学系120は、2枚のダイクロイックミラー121,122と、反射ミラー123とを備え、ダイクロイックミラー121、122によりインテグレーター照明光学系110から射出された複数の光を赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の色光に分離する。ダイクロイックミラー121で分離された青色光は、反射ミラー123によって反射され、フィールドレンズ142を通って、青色用の透過型液晶パネル141Bに到達する。
【0024】
ダイクロイックミラー121を透過した赤色光と緑色光のうちで、緑色光は、ダイクロイックミラー122によって反射され、フィールドレンズ142を通って、緑色用の透過型液晶パネル141Gに到達する。
リレー光学系130は、入射側レンズ131と、リレーレンズ133と、反射ミラー132、134とを備える。色分離光学系120で分離された赤色光は、ダイクロイックミラー122を透過して、リレー光学系130を通り、さらにフィールドレンズ142を通って、赤色光用の透過型液晶パネル141Rに到達する。
【0025】
光変調装置140は、入射された光を画像情報に応じて変調してカラーの光学像を形成する。この光変調装置140は、透過型液晶パネル141R,141G,141Bと、クロスダイクロイックプリズム143とを備える。
クロスダイクロイックプリズム143は、各色光毎に変調された光学像を合成してカラーの光学像を形成するものであり、赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが4つの直角プリズムの界面に沿って略X字状に設けられ、これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成される。
投射光学装置150は、複数の投射レンズを含んで構成され、光変調装置140で変調された光を拡大投射する。
【0026】
[偏光変換素子の構成]
図3に示すように、偏光変換素子300は、素子本体310と、素子本体310に選択的に接合された位相差板320とを備える。
素子本体310は、複数の透光性基板311と、複数の透光性基板311間に交互に設けられた偏光分離膜312及び反射膜313と、複数の透光性基板311の間にそれぞれ設けられた接着層314とを備える。
複数の透光性基板311は、互いに略平行な光入射面310Aと光出射面310Bとを有する。
偏光分離膜312は、第2レンズアレイ210からの光(s偏光光及びp偏光光)のうち、p偏光光を選択的に透過させ、s偏光光を反射させる。
反射膜313は、偏光分離膜312にて反射されたs偏光光を光出射面310Bに向けて反射させる。
【0027】
接着層314は、厚みが5μm以上10μm以下である。接着層314は、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とする紫外線硬化型の接着剤により形成されるため、前記特定範囲の厚みとすることができる。一方、従来の紫外線硬化型の接着剤では、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分としないため、粘度が高く、接着層の厚みが10μm超20μm以下となっていた。
従来の接着層のように、厚みが10μmを超える場合、偏光変換素子を製造する際に、接着層の端部に歪みが生じてしまう。そのため、光入射面310A及び光出射面310Bを研磨する際、歪み近傍の透光性基板311の角部が削られる(図16参照)。その結果、透光性基板311の光出射面310Bに位相差板320を接合する際、透光性基板311と位相差板320との間の接合層に隙間が生じ気泡が発生してしまう。これにより、透光性基板311と位相差板320とが十分に接合されず、位相差板320が剥がれやすくなる。また、透光性基板311と位相差板320との間に形成された気泡により光の透過率が落ちる。
【0028】
一方、接着層の厚みが5μm未満の場合、接着層にごみなどが混入した場合、ごみなどによって、接着層の接着強度が低下する。
本実施形態に用いられる接着剤としては、例えば、UT20、HR154(商品名、株式会社アーデル製)などが挙げられるなどが挙げられる。
【0029】
位相差板320は、接合層321により透光性基板311の光出射面310Bに接合される。この位相差板320は、水晶により形成された1/2波長板であり、偏光分離膜312を透過したp偏光光をs偏光光に変換する。
接合層321は、分子接合するプラズマ重合膜であり、その主材料はポリオルガノシロキサンである。プラズマ重合膜は、プラズマ重合法により形成されシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格とこのSi骨格に結合する有機基からなる脱離基とを含む。そして、エネルギーを付与して表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより接着性を発現する。
このプラズマ重合膜は、エネルギーが付与されると、その表面および内部に活性手が生じるため、プラズマ重合膜に強力な接着性が発現する。
【0030】
[偏光変換素子の製造方法]
次に、本実施形態の偏光変換素子の製造方法について図4から図9までに基づいて説明する。図4は、膜形成工程を示す図であり、図5は、接着工程を示す図であり、図6は、接着工程における紫外線が照射される状態を示す図である。図7(A)(B)は、硬化試験における引張強度の測定結果を示す図であり、図8(A)(B)は、硬化試験におけるせん断強度の測定結果を示す図である。図9は、切断工程を示す図であり、図10は、研磨工程を示す図である。
偏光変換素子の製造方法では、膜形成工程と、接着工程と、切断工程と、研磨工程と、接合工程とが順に実施される。
【0031】
[膜形成工程]
膜形成工程では、図4に示すように、複数の透光性板材311Aが準備される。これら透光性板材311Aは、互いに略平行な第1面311A1及び第2面311A2を有する。
いくつかの透光性板材311Aの第1面311A1には、偏光分離膜312が形成され、第2面311A2には反射膜313が形成される。その他の透光性板材311Aの透光性板材311Aの第1面311A1及び第2面311A2には、これらの膜のいずれも形成されない。
【0032】
[接着工程]
接着工程では、図5に示すように、偏光分離膜312及び反射膜313が形成された透光性板材311Aと、これらの膜が形成されていない透光性板材311Aとが接着剤314Aによって交互に貼り合わされる。ここで、接着剤314Aの塗布量は、硬化後の厚みが5μm以上10μm以下となるように調整される。
また、接着工程では、図6に示すように、透光性板材311Aの第1面311A1にほぼ垂直な方向から紫外線が照射される。紫外線は、偏光分離膜312及び反射膜313を通過する。このように、透光性板材311Aの第1面311A1にほぼ垂直な方向から紫外線が照射されて、接着剤314Aが同時に硬化される。
これにより、偏光分離膜312及び透光性板材311Aの間と、反射膜313及び第2の透光性板材311Aの間にそれぞれ接着層314が形成される。そして、複数の透光性板材311Aが接合された積層体400が形成される。
なお、透光性基板311の第1面311A1にほぼ平行な方向から紫外線を照射してもよい。
【0033】
ここで、接着剤314Aの硬化条件と、各硬化条件によって得られた接着層314の接合強度との関係について説明する。
表1に示すように、紫外線(UV)照射量を変化させて硬化試験1から硬化試験7までを実施した。その結果、引張強度については、表1,図7(A),(B)に示すようになり、せん断強度については、表1,図8(A),(B)に示すようになった。
すなわち、図7(A),(B)に示すように、紫外線照射量が15,000mJ/cm以上45,000mJ/cm以下、特に、20,000mJ/cm以上35,000mJ/cm以下の場合、接着層314の引張強度が高くなるため好ましい。また、図8(A),(B)に示すように、紫外線照射量が15,000mJ/cm以上60,000mJ/cm以下、特に25,000mJ/cm以上50,000mJ/cm以下の場合、接着層314のせん断強度が高くなるため好ましい。なお、表1中、各硬化試験は、2回ずつ実施している。
引張り強度試験、せん断強度試験は、以下の試験方法で実施した。すなわち、10mm×10mmの大きさの白板ガラス2枚を接着剤314Aで接着して作成した試験品を引張り試験機で、接着面に対し垂直あるいは平行方向に引張り加重をかけ、2枚の白板ガラスが分離した時の加重を測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
[切断工程、研磨工程、接合工程]
切断工程では、図9に示すように、第1面311A1と所定の角度θをなす切断面(図中、破線で示す)でほぼ平行に積層体400が切断されて、積層ブロック410が切り出される。θの値は、約45度であることが好ましい。
研磨工程では、図10に示すように、切り出された積層ブロック410の切断面410Aを研磨装置500により研磨することにより、素子本体310が得られる。
そして、接合工程では、プラズマ重合法により偏光分離膜312の光出射面310Bに位相差板320が接合される。これにより、素子本体310に位相差板320が接合された偏光変換素子300が得られる。
【0036】
本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)偏光変換素子300の接着層314は、厚みが5μm以上であるため、接着層314にごみなどが混入しても、接着層314の弾性によりごみの影響を低減して、透光性基板311同士を良好に接着できる。
一方、接着層314の厚みが10μm以下であるため、光入射面310Aなどを研磨する際に透光性基板311の角部が削られてしまうことがない。従って、例えば、プラズマ重合法などにより隙間無く接合層321を形成して素子本体310と位相差板320とを強力に接合できる。
【0037】
(2)接着層314を形成する際、紫外線照射量が20,000mJ/cm以上35,000mJ/cm以下である場合、接着層314の引張強度を高くできる。紫外線照射量が25,000mJ/cm以上50,000mJ/cm以下である場合、接着層314のせん断強度を高くできる。
(3)接着層314を形成する接着剤314Aは、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とするため、接着層314の厚みを5μm以上10μm以下に設定できる。また、接着剤314Aは、変性アクリレートなどを主成分とするため、耐熱性に優れているので、さらに長寿命の偏光変換素子300を実現できる。
【0038】
(4)接着層314の厚みが5μm以上10μm以下であるため、研磨する際に、透光性基板311の角部が削れない。
従って、プラズマ重合法を用いて、素子本体310と位相差板320とが接合された場合、その接合層321には、気泡が形成されないため、良好な接合強度及び光の透過率が発揮できる。
(5)位相差板320は、耐熱性に優れた水晶にて形成されているため、長時間光に照射されても劣化しにくい。従って、さらに長寿命の偏光変換素子300にできる。
【0039】
(6)プロジェクター100及び偏光変換ユニット200は、偏光変換素子300を備えるため、長寿命で光学特性に優れたプロジェクター100及び偏光変換ユニット200を実現できる。
(7)本実施形態の偏光変換素子の製造方法は、接着工程において、紫外線硬化型の接着剤により5μm以上10μm以下の厚みとなるように接着層314を形成するため、長寿命で光学特性に優れた偏光変換素子300を得ることができる。
【0040】
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、接合層をプラズマ重合法により形成する構成を説明したが、原子拡散接合法により、接合層を形成してもよい。
ここで、原子拡散接合法とは、まず、真空容器内においてスパッタリングやイオンプレーティング等の真空成膜により真空中で透光性基板及び位相差板にそれぞれ微結晶連続薄膜を成膜する。そして、微結晶連続薄膜同士を、成膜中又は成膜後に重ね合わせて、接合界面及び結晶粒界において原子拡散を生じさせることにより透光性基板及び位相差板の間で強固に接合する方法である。
なお、微結晶連続薄膜同士を重ね合わせるだけでなく、透光性基板及び位相差板のいずれか一方に微結晶連続薄膜を形成し、いずれか他方に微結晶構造を形成する。そして、これら微結晶連続薄膜と微結晶構造とを重ね合わせることにより、原子拡散接合を実施することもできる。
【0041】
また、本実施形態では、偏光分離膜に対応する光出射面に位相差板を設ける構成を例示したが、これに限らず、反射膜に対応する光出射面に位相差板を設けてもよい。また、さらに、偏光分離膜や反射膜に位相差板を重ねて設けてもよい。
この場合、偏光分離膜で透過した偏光光は、そのまま光出射面から出射する。一方、偏光分離膜で反射された偏光光は、さらに反射膜で反射された後、光出射面から出射され、位相差板(1/2波長板)により位相が変換される。これにより、偏光変換素子から出射される光は、p偏光光に偏光状態が揃えられることになる。
そして、偏光変換素子をプロジェクターに用いたが、本発明では、プロジェクター以外の装置、例えば、撮像装置等にも用いることができる。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[耐熱性試験]
(実施例1及び比較例1)
実施例1及び比較例1により、本発明に用いる接着層の耐熱性について評価した。図11は、実施例1および比較例1の耐熱性試験を示す図である。
実施例1では、本発明の接着剤(UT20 株式会社アーデル製)により2枚のガラス板を貼り合せ、所定量の紫外線を照射した。これにより実施例1の試験片600を作製した。
一方、比較例1では、従来の接着剤(PHOTOボンド 300、サンライズMSI株式会社)により2枚のガラス板を貼り合せ、所定量の紫外線を照射した。これにより、比較例1の試験片601を作製した。
これら試験片600,601を固定枠610内に固定した後、試験片600,601をプロジェクターの偏光変換素子を設置すべき場所に組み込み、試験片600,601に光源ランプの光が照射された時、試験片の温度が120℃になるようプロジェクターの冷却機構を調整した。3800時間この環境下に放置した時の試験結果を図11に示す。
図11に示すように、試験片601の接着層では一部に黄変620が見られた。一方、試験片600の接着層では、黄変は見られなかった。
さらに、試験片600,601をこの環境下に放置し続けた結果、4800時間後、試験片601の接着層では、激しい黄変が見られた。一方、試験片600の接着層では若干黄変したが、光学特性に影響はない程度であった。
従って、本発明の接着剤により形成された接着層は、耐熱性に優れることが分かる。
【0043】
[平坦度試験]
(実施例2から実施例11まで及び比較例2)
実施例2から実施例11まで及び比較例2により、本発明の偏光変換素子における光入射面及び光出射面の平坦度について評価した。
図12は、本発明に係る実施例2から実施例6までの平坦度試験の結果を示す図であり、図13は、本発明に係る実施例7から実施例11までの平坦度試験の結果を示す図であり、図14は、比較例2の平坦度試験の結果を示す図である。
【0044】
(実施例2から実施例6まで)
実施例2では、実施例1と同様の接着剤を用いて、図2に示すような素子本体310を作製した。そして、図2に示される左右の2つの素子本体310のうち左側の素子本体310を用いた。そして、下記測定方法により、その素子本体310の光入射面310Aの略中央における断面図を得た。ここで、断面図とは、図2の左右方向の断面図である。
そして、得られた断面図において、比較的上側に大きく膨らんだ凸部を選び、その凸部の左右近傍の凹部の頂点を線で結んだ。この線から凸部の頂点までの距離を縦軸のスケールで換算して「高低差」を算出した。
実施例3から実施例6でも、実施例2と同様に素子本体310を作製して、その光入射面310Aについて測定し断面図を得た。そして、断面図より実施例2と同様に、「高低差」を2点算出した。それらの結果を図12に示す。
【0045】
(実施例7から実施例11まで及び比較例2)
実施例7から実施例11まででは、それぞれ実施例2から実施例6までで作製した素子本体310の光出射面310Bについて、実施例2と同様に測定して断面図を得た。得られた断面図より実施例2と同様にして、「高低差」を2点算出した。
比較例2では、接着剤として、比較例1と同様の接着剤を用いた以外は、実施例2と同様にして、素子本体を作製し、その光出射面を測定して断面図を得た。得られた断面図より実施例2と同様にして、「高低差」を2点算出した。
実施例7から実施例11まで及び比較例2の結果を図13,14に示す。
【0046】
(断面図の測定方法)
レーザー干渉計G102S(フジノン株式会社(現富士フィルム株式会社)製)により、素子本体の光入射面又は光出射面に平行光を照射して、素子本体からの反射光と元々の平行光とを干渉させることによって干渉縞を得る。なお、レーザー干渉計で設定した光の波長は、685nmである。
得られた干渉縞を干渉縞解析ソフトウェア(フジノン株式会社(現富士フィルム株式会社)製)で解析することにより、光入射面又は光出射面の断面図を得る。
【0047】
図12,13に示すように、本発明の接着剤を用いた実施例2から実施例11まででは、光入射面及び光出射面における高低差が小さいため、平坦度が優れることが分かった。
一方、図14に示すように、従来の接着剤を用いた比較例2では、光入射面における高低差が大きいため、平坦度が悪いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、プロジェクターなどの投射装置に組み込まれる偏光変換素子として利用できる。
【符号の説明】
【0049】
100…プロジェクター(投射装置)、111…光源装置、140…光変調装置、150…投射光学装置、200…偏光変換ユニット、210…第2レンズアレイ、300…偏光変換素子、310…素子本体、310A…光入射面、310B…光出射面、311…透光性基板、311A…透光性板材、311A1…第1面、311A2…第2面、312…偏光分離膜、313…反射膜、314…接着層、320…位相差板、321…接合層、410…積層ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに略平行な光入射面及び光出射面を有する素子本体と、この素子本体の前記光出射面に接合される位相差板とを備える偏光変換素子であって、
前記素子本体は、
前記光出射面に所定の角度をもって順次接合された複数の透光性基板と、
この複数の透光性基板の間に交互に設けられた偏光分離膜及び反射膜と、
前記複数の透光性基板の間にそれぞれ形成された接着層とを有し、
前記接着層は、紫外線硬化型の接着剤により形成され、かつ、その厚みが5μm以上10μm以下である
ことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光変換素子において、
前記接着層は、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とする
ことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の偏光変換素子において、
前記透光性基板と前記位相差板とは、接合層により接合され、
前記接合層は、プラズマ重合法により形成されシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格とこのSi骨格に結合する有機基からなる脱離基とを含み、エネルギーを付与して表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより発現した接着性を有する
ことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の偏光変換素子において、
前記透光性基板と前記位相差板とは、接合層により接合され、
前記接合層は、前記透光性基板に設けられた微結晶連続薄膜と、前記位相差板に設けられた微結晶連続薄膜とを接触させて、前記透光性基板の微結晶連続薄膜と前記位相差板の微結晶連続薄膜との接触界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせる原子拡散接合法により形成される、又は、前記透光性基板及び前記位相差板のうちのいずれか一方に設けられた微結晶連続薄膜と、いずれか他方に設けられた微結晶構造とを接触させて、前記微結晶連続薄膜と前記微結晶構造との接触界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせる原子拡散接合法により形成される
ことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の偏光変換素子において、
前記位相差板は、水晶により形成されている
ことを特徴とする偏光変換素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の偏光変換素子と、
この偏光変換素子の光入射側に配置されるレンズアレイとを備える
ことを特徴とする偏光変換ユニット。
【請求項7】
光を出射する光源装置と、
この光源装置からの光を1種類の偏光光に変換する請求項6に記載の偏光変換ユニットと、
この偏光変換ユニットからの前記偏光光を画像情報に応じて変調して光学像を形成する光変調装置と、
この光変調装置にて形成された前記光学像を拡大投射する投射光学装置とを備える
ことを特徴とする投射装置。
【請求項8】
互いに略平行な第1面及び第2面を有する複数の透光性板材の間に偏光分離膜及び反射膜を交互に設ける膜形成工程と、
前記複数の透光性板材の間にそれぞれ接着層を形成する接着工程と、
前記複数の透光性板材を、前記第1面及び前記第2面に対して所定の角度で切断して互いに略平行な光入射面及び光出射面を有する積層ブロックを形成する切断工程と、
前記積層ブロックの光入射面及び光出射面を研磨して素子本体を形成する研磨工程と、
前記素子本体の光出射面に位相差板を接合する接合工程とを実施し、
前記接着工程では、前記接着層は、紫外線硬化型の接着剤により厚みが5μm以上10μm以下となるように形成される
ことを特徴とする偏光変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−78605(P2012−78605A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224403(P2010−224403)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】