説明

偏光子外面保護フィルム、偏光板及び液晶表示素子

【課題】高い透明性を有し、ポリビニルアルコールからなる偏光子に対する易接着処理が施された、液晶表示素子の外面側に配置される新規な偏光子外面保護フィルムの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、液晶表示素子の外面側に配設される偏光子外面保護フィルムであって、透明な合成樹脂製の基材層と、この基材層の内面側に積層される親水性樹脂層とを備えることを特徴とする偏光子外面保護フィルムである。基材層を構成する合成樹脂は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。親水性樹脂層を構成する親水性樹脂の主鎖は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種によって形成されていてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子外面保護フィルム、及び偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板、並びに偏光板を備えた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)が、薄型、軽量であり、消費電力が小さいことからCRTの代わりに広範に使用されている。液晶表示素子の使用分野は、従来の電卓や時計などの小型品から、自動車用計器、PCモニタ、テレビといった大型品に至るまで拡大されつつある。
【0003】
図5に示されるように、液晶表示装置に配置される一般的な液晶表示素子21は、液晶層27が両面の透明媒体層26(例えばガラス)で挟持された液晶セル25と、偏光能を有する偏光子24の両面に偏光板用保護フィルム23が貼り合わせられた偏光板22とを備え、液晶セル25が、接着剤層28を介して偏光板22によって上下から挟持された構造を有している。このように、偏光子24は、強度の向上と取扱いの容易化の観点から偏光子保護フィルム23によって保護されている。
【0004】
偏光子の素材として、一般的に、親水性樹脂であるポリビニルアルコール(PVA)が用いられており、PVAフィルムを一軸延伸してから、ヨウ素又は二色性染料で染色するか、あるいは染色してから延伸し、次いでホウ素化合物で架橋することによって偏光子が形成される。また、偏光子保護フィルムとしては、光学的に透明であり複屈折性が小さいこと、表面が平滑であること、PVAからなる偏光子との接着性が優れていることなどの特性が要求されることから、一般的にトリアセチルセルロース(TAC)が用いられている。トリアセチルセルロースは、アルカリによってケン化処理(エステル基が親水性基である水酸基に変換)された後、親水性樹脂であるポリビニルアルコールで構成された偏光子に接着される。上記のようなトリアセチルセルロースの諸々の要求特性を向上させる技術として、例えば、トリアセチルセルロース層への所定の樹脂層の形成(特開平9−113728号公報、特開平9−281333号公報)が提案されている。ところが、トリアセチルセルロースは高価であるため、同等の性質を有する安価な代替材料の開発が求められている。
【0005】
液晶表示素子の内面側(液晶セルから近い側)に配置される偏光子保護フィルムとしては、特に、小さい複屈折性を有すること(無配向性であること)が強く要求されるため、現状トリアセチルセルロースの適当な代替材料は見当たらない。一方、液晶表示素子の外面側(液晶セルから離れた側、すなわち図5における最上層及び最下層の23の位置)に配置される偏光子保護フィルムの要求特性としては、複屈折性の有無よりも、透明性がさらに重要な位置付けとなるため、トリアセチルセルロース以外の代替材料の開発が期待されている。
【0006】
トリアセチルセルロースに代替しうる高い透明性を有する汎用の樹脂材料としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等が考えられる。しかしながら、これらの樹脂は、親水性基を有していないことから、偏光子を構成する親水性樹脂であるポリビニルアルコールとの接着性が劣るという不都合があるため、そのままでトリアセチルセルロースの代替材料として用いることができない。従って、高い透明性を有することに加えて、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着が容易化された、液晶表示素子の外面側に配置されるための新規な偏光子外面保護フィルムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−113728号公報
【特許文献2】特開平9−281333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、高い透明性を有し、ポリビニルアルコールからなる偏光子に対する易接着処理が施された、液晶表示素子の外面側に配設される新規な偏光子外面保護フィルム、及びこのような偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板、並びに液晶表示素子にの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
液晶表示素子の外面側に配設される偏光子外面保護フィルムであって、
透明な合成樹脂製の基材層と、
この基材層の内面側に積層される親水性樹脂層と
を備えることを特徴とする偏光子外面保護フィルムである。
【0010】
当該偏光子外面保護フィルムによれば、基材層の構成材料として透明な合成樹脂を用いることによって、液晶表示素子の外面側に位置する偏光子を保護するフィルムとして要求される高い透明性が得られる。また、当該偏光子外面保護フィルムは、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着を容易化するように、基材層の内面側に親水性樹脂層を積層することによって、同じく親水性樹脂であるポリビニルアルコールからなる偏光子との接着性が飛躍的に改善される。つまり、このような易接着処理により形成された親水性樹脂層は、同じく親水性樹脂であるポリビニルアルコールとの化学的親和性が高いため、偏光子との接着性が効果的に向上する。また、この親水性樹脂層はそれ自身で親水性を有するため、従来の偏光子保護フィルムを構成するトリアセチルセルロースに対して行われるようなケン化処理を行うことなく偏光子との接着工程に供することが可能である。なお、本明細書における「内面」とは、一対の偏光板間に液晶セルを挟持してなる液晶表示素子において、中心の液晶セル側を意味し、「外面」とはその反対側を意味する。
【0011】
当該偏光子外面保護フィルムにおいて基材層を構成する合成樹脂は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。これらの合成樹脂を用いることによって、高い透明性を有すると共に、偏光子を保護するために適当な強度を有する偏光子外面保護フィルムが得られる。
【0012】
当該偏光子外面保護フィルムにおいて親水性樹脂層を構成する親水性樹脂は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種によって形成されていてよい。このような親水性樹脂は、基材層を構成する合成樹脂との化学的な親和性が高いため、基材層との良好な接着性が得られる。
【0013】
また、このような親水性樹脂は、側鎖に親水性基を有するように変性されていることが好ましい。親水性樹脂の主鎖(炭素鎖)が基材層の合成樹脂と化学的親和性を有すると同時に、この親水性樹脂の側鎖が親水性を付与するように変性されることによって、偏光子を構成するポリビニルアルコールに対する化学的親和性が高まり、偏光板の各層を安定的に接合することが可能となる。
【0014】
当該偏光子外面保護フィルムにおいて、親水性樹脂層の厚みは0.01μm以上3μm以下であってよい。親水性樹脂層の厚みを0.01μm以上とすることによって、ポリビニルアルコールからなる偏光子の接着性の容易化が促進される。一方、親水性樹脂層の厚みを3μm以下とすることによって、十分に薄い偏光子外面保護フィルムを得ることができ、偏光板の厚みの増大を抑制することができる。
【0015】
当該偏光子外面保護フィルムは、基材層の外面側に積層される反射防止層(例えば、アンチグレア層、反射防止層、低屈折率層と称されるものが含まれる)又はハードコート層を備えていてもよい。更に反射防止層を備えた偏光子外面保護フィルムが、液晶表示素子の表示面側に配設される場合には、偏光子の保護と共に反射防止機能を発揮することができる。また、偏光子外面保護フィルムが更にハードコート層を備えることによって、偏光子の保護機能を強化することが可能となる。
【0016】
ポリビニルアルコールからなる偏光子の外面側に当該偏光子外面保護フィルムを積層して、この偏光子の内面側に偏光子内面保護フィルムを積層することによって、偏光板を構成することができる。このような偏光板においては、偏光子の外面側に、ポリビニルアルコールに対する易接着処理が施された基材層を備えた偏光子外面保護フィルムを用いることによって、偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性、接着の耐久性が高められ、しいては偏光板の強度、取扱い性が向上する。また、偏光子の内面側に、従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルムを用いた場合には、小さい複屈折性を有することから、液晶分子の性能に影響を及ぼすことなく保護機能を発揮することができる。
【0017】
液晶セルの少なくとも一方の面側に当該偏光板を積層することによって、液晶表示素子を構成することができる。このような液晶表示素子においては、偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性、接着耐久性が高く、偏光板の強度、取扱い性が優れているため、液晶表示素子が有する諸特性が長期間に渡って安定的に発揮され、信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の偏光子外面保護フィルムは、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着を容易化するように、内面側が親水性樹脂により表面処理されている透明な合成樹脂製の基材層を備えているため、高い透明性が得られると共に、同じく親水性樹脂であるポリビニルアルコールからなる偏光子との接着性が飛躍的に改善される。また、偏光板が当該偏光子外面保護フィルムを備えることによって、このような偏光板の強度、取扱い性が向上する。さらに、液晶表示素子が当該偏光板を備えることによって、所望の特性が長期間に渡って安定的に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による偏光子外面保護フィルムの模式的断面図である。
【図2】図1の本発明による偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板の模式的断面図である。
【図3】図2の本発明による偏光板を製造するための装置を示す模式図である。
【図4】図2の本発明による偏光板を備えた液晶表示素子の模式的断面図である。
【図5】従来技術による一般的な液晶表示素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
【0021】
図1の偏光子外面保護フィルム1は、透明な合成樹脂製の基材層2、及び親水性樹脂層3を有する。偏光子外面保護フィルム1は、衝撃に対する耐性及び取扱い性を向上させるための偏光子の保護膜として用いられるものであって、液晶表示素子の外面側(図示されたA方向の側)に配置される。
【0022】
透明樹脂製の基材層2を構成する樹脂は、液晶表示素子の偏光子外面保護フィルムとして要求される高い透明性を有する限り特に限定されるものではないが、典型的には、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される。これらの合成樹脂は、優れた光学的透明性及び耐衝撃強度を有するため、トリアセチルセルロースに替わって液晶表示素子の外層側に配置することができる。基材層2は、透明性及び所望の強度を損なわない限りは他の任意成分を含んでよいが、上記のような合成樹脂を好ましくは90質量%以上含み、さらに好ましくは98質量%以上含む。ここでの任意成分の例として、紫外線吸収剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、位相差低減剤、艶消し剤、抗菌剤、防かび等が挙げられる。
【0023】
基材層2に用いられるアクリル系樹脂は、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する骨格を有する樹脂である。アクリル系樹脂の例としては、特に限定されないが、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体)などが挙げられる。これらのアクリル系樹脂の中でも、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが好ましく、メタクリル酸メチル系樹脂がより好ましい。
【0024】
基材層2に用いられるポリカーボネート系樹脂は、ポリ−4,4’−イソプロピリデン−ジフェニルカーボネートと称される化合物から構成される樹脂である。このポリカーボネート系樹脂は、界面重縮合法ではビスフェノールAと塩化カルボニルから製造され、エステル交換法ではビスフェノールAとジフェニルカーボネートから製造される。
【0025】
基材層2に用いられるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンに由来する骨格を有する樹脂である。ポリプロピレン系樹脂の例としては、特に限定されないが、プロピレンの単独重合体、または、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4−12のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0026】
基材層2に用いられるシクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンに由来する骨格を有する樹脂である。シクロオレフィン系樹脂の例としては、特に限定されないが、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のようなポリマー変性を行なった後に水素添加した樹脂、ノルボルネン系モノマーを付加重合させた樹脂、ノルボルネン系モノマーとエチレン及びα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーを付加重合させた樹脂などを挙げることができる。
【0027】
ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を得るために用いられるノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−ノルボルネンなどが挙げられる。この開環重合に用いられる重合触媒としては、メタセシス重合触媒と呼ばれるタングステン、モリブデン、クロム系触媒が好ましく利用される。
【0028】
基材層2に用いられるポリエチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸とエチレングリコールの反応により得られるポリマーである。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は他のコモノマーを含むものであってもよいが、ポリエチレンテレフタレートの繰返し単位が80モル%以上であるものが好ましく用いられる。ポリエチレンテレフタレートは例えば、ジメチルテレフタレート及びエチレングリコールを反応器に仕込み、内温を徐々に上げながらエステル交換反応を行った後、反応生成物を重合反応器に移して、高温真空下にて重合反応を行うことによって生成することができる。
【0029】
基材層2の厚みは、好ましくは10μm以上200μm以下、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。基材層2の厚みを10μm以上とすることによって、適度な強度、剛性が得られ、安定かつ容易にフィルム製造を行うことが可能となり、また親水性樹脂層3を形成するときの取扱性も良好となる。一方、基材層2の厚みを200μm以下とすることによって、製造時のライン速度、生産性、コントロール性等が高められる。
【0030】
基材層2としては、通常、算術平均表面粗さ(Ra)が0.02以上0.06以下のものを用いることができる。また基材層2には、必要に応じてマット処理を行うことができる。このようなマット処理を施した基材層の算術平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.07以上2以下、さらに好ましくは0.1以上1以下とすることができる。基材層の表面粗さをこのような範囲に制御することによって、フィルム原反製造後の処理における傷付きが防止され、取扱い性が向上する。さらに、基材層が液晶表示素子の最上面(表示面側)に位置する場合には、高い反射防止性能が得られると共に、最下層に位置する場合には、他層とのスティッキングが効果的に防止される。また、一般的に、製造されたフィルム原反の巻取りを行う際には、フィルムの幅方向の両端をエンボス加工(ナーリング処理)してブロッキングを防止する必要がある。フィルムにナーリング処理を行った場合、フィルムの両端の処理箇所は使用できなくなるため、その部分は裁断・廃棄しなければならない。また、フィルムの巻取り作業においては、傷付きを防止するために保護膜によってマスキングを行う場合もある。しかし、基材層の算術平均表面粗さを上記のような所定の範囲とすることによって、ナーリング処理を行わずにブロッキングを防止することができるので、製造工程が簡略化され、フィルム幅方向の両端部分も使用可能になると共に、フィルムの故障を生じることなく、長尺にわたる巻取りを行うことができる。また、基材層が適度な表面粗さを有することによって、巻取り時の傷付きが効果的に抑制され、上記のようなマスキングも不要となる。
【0031】
また、基材層2のレターデーション値(Re)は、好ましくは−15nm以上15nm以下、さらに好ましくは−5nm以上5nm以下である。基材層がこのように小さいレターデーションを有することによって、この基材層を備えた偏光子外面保護フィルムによる透過光線の偏光方向の変換作用を抑制し、偏光子の透過軸方向への偏光の最適化及び制御性に対して、偏光子外面保護フィルムが及ぼす影響を抑制することができる。ここで、「レターデーション値(Re)」とは、基材層の平面上の結晶軸方向のうち直交する進相軸方向及び遅相軸方向をx方向及びy方向、基材層の厚さをd、x方向及びy方向の屈折率をnx及びny(nx≠ny)とし、Re=(ny−nx)dで計算される値である。
【0032】
基材層2の製造方法は、特に限定されないが、例えば、合成樹脂のフレーク原料及び可塑剤等の添加剤を従来公知の混合方法にて混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、光学フィルムを製造することができる。この熱可塑性樹脂組成物は、例えば、オムニミキサー等の混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練することによって得られる。この場合、押出混練に用いる混練機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等の従来公知の混練機を用いることができる。
【0033】
基材層2のフィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など公知の方法が挙げられる。これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。この際、予め押出し混練した熱可塑性樹脂組成物を用いてもよいし、合成樹脂と、可塑剤等の他の添加剤を、別々に溶媒に溶解して均一な混合液とした後、溶液キャスト法(溶液流延法)や溶融押出法のフィルム成形工程に供してもよい。
【0034】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶媒などの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0035】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられる。熔融押出の際のフィルムの成形温度は、好ましくは150℃以上350℃以下、より好ましくは200℃以上300℃以下である。Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や2軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出したフィルムを巻取り、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取ロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることによって、一軸延伸工程とすることも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸する工程を加えることによって、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの工程を加えることも可能である。
【0036】
基材層2は、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸する場合は、一軸延伸フィルムでもよいし、2軸延伸フィルムでもよい。2軸延伸フィルムとする場合は、同時2軸延伸したものでもよいし、逐次2軸延伸したものでもよい。2軸延伸した場合は、機械強度が向上しフィルム性能が向上する。
【0037】
延伸工程を行う場合の延伸温度としては、フィルム原料の熱可塑樹脂組成物のガラス転移温度近辺で行うことが好ましく、具体的には(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+100)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+80)℃である。延伸温度が(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。延伸温度が(ガラス転移温度+100)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
【0038】
面積比で定義される延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上25倍以下の範囲、より好ましくは1.3倍以上10倍以下の範囲とすることができる。延伸倍率が1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う靭性の向上につながらないために好ましくない。延伸倍率が25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
【0039】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。さらに、基材層2の光学等方性や力学特性を安定化させるため、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うこともできる。
【0040】
可塑剤としては、特に限定されないが、基材層2にヘイズを発生させたり、又は基材層2からブリードアウトあるいは揮発しないように、合成樹脂と水素結合等によって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。このような可塑剤の例としては、特に限定されないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコール系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などが挙げられる。
【0041】
親水性樹脂層3を構成する親水性樹脂は、基材層の合成樹脂及び偏光子を構成するポリビニルアルコールとの化学的親和性を有する樹脂である限りは、特に限定されるものではないが、側鎖が親水性を有する基によって変性されているものが好ましい。親水性樹脂の親水化変性の方法としては、予め親水性の官能基を有するモノマーを(共)重合させてもよいし、あるいは、主鎖となるモノマーを(共)重合させた後、親水性基を有するモノマーをグラフト重合させて側鎖を形成してもよい。また、親水性樹脂は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択されるものから形成されていることが好ましい。これらの樹脂は、単独で重合あるいは2種以上を共重合させたものであってもよい。親水性樹脂としては、例えば、重量平均分子量が300以上30000以下のものを用いることができる。
【0042】
親水性樹脂層3を構成するポリエステル系樹脂は、公知の方法に従い、ジカルボン酸とジオールとをエステル化(エステル交換)し、重縮合させることによって製造される。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸またはそのエステルや、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸のようなヒドロキシカルボン酸またはこれらのエステルを用いることができる。また、ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール類等を用いることができる。
【0043】
ポリエステル系樹脂としては、上記のジカルボン酸及びジオールに加え、親水性基を有する成分を共重合させて、親水性を付与することが好ましい。このような親水性基を有する成分の例としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分や、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のジオール成分が挙げられる。これらの親水性基を有する成分は、上記のジカルボン酸あるいはジオールに対して、例えば2モル%以上80モル%以下の割合で用いることができる。これらのポリエステル系樹脂を構成する成分は、単独又は複数種のものを組み合わせて用いることができる。
【0044】
親水性樹脂層3を構成するアクリル系樹脂は、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する骨格を有する反応性ポリマーを重合させることによって合成することができる。そのような反応性ポリマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシフェニルアクリレートなどのカルボキシル基を有するもの、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するもの、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を有するもの、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジル基を有するもの、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基を有するものなどの他に、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼン、4−ビニルピリジン、ビニルオキサゾリン、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0045】
アクリル系樹脂を構成する上記以外の共重合成分としては、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、プロピレン系、塩化ビニル系、セルロース系、エチレン系、エチレンイミン系、ビニルアルコール系、ペプチド系、ビニルピリジン系、ジエン系、フッ素系、アクリロニトリル系などが挙げられるが、汎用性、塗工性などの観点から、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系を含むことが好ましい。これらのアクリル系樹脂を構成する成分は、単独又は複数種のものを組み合わせて用いることができる。
【0046】
親水性樹脂層3を構成するウレタン系樹脂は、公知の方法によって、ポリヒドロキシル化合物、ジイソシアネート及びジイソシアネートと反応する水素原子を少なくとも2個含有する低分子量の鎖伸長剤とから合成することができる。例えば、溶剤中で比較的高分子量のポリウレタンを合成した後、水を少しずつ加えて転相乳化し、減圧により溶剤を除く方法や、ポリマー中に親水性基としてポリエチレングリコールやカルボキシル基等を導入させたウレタンプレポリマーを水に溶解あるいは分散させた後、鎖伸長剤を添加して反応させる方法等がある。
【0047】
ウレタン系樹脂の製造に用いられるポリヒドロキシル化合物の例としては、フタル酸、アジピン酸、二量化リノレイン酸、マレイン酸等のカルボン酸類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどから脱水縮合反応によって得られるポリエステルポリオール類;ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリオール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、シュクローズ、スターチ、リン酸などの無機酸を開始剤としたポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンポリオール等のポリエーテルポリオール;アクリルポリオール、ヒマシ油の誘導体、トール油誘導体、その他水酸基化合物等が挙げられる。これらのポリヒドロキシル化合物は、単独又は複数種のものを組み合わせて用いることができる。
【0048】
ウレタン系樹脂の製造に用いられるジイソシアネートの例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、3,3′−ジクロロ−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネートは、単独又は複数種のものを組み合わせて用いることができる。
【0049】
ウレタン系樹脂の製造に用いられる鎖伸長剤の例としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)アニリン、ヒドロキノン−ビス(β−ヒドロキシエチル)エーテル、レゾルシノール−ビス(β−ヒドロキシエチル)エーテル等のポリオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等のポリアミン類、ヒドラジン類、及び水が挙げられる。これらの鎖伸長剤は、単独又は複数種のものを組み合わせて用いることができる。
【0050】
ウレタン系樹脂の製造における合成反応は、有機錫化合物、有機ビスマス、アミン等の触媒の存在下で行うことができ、この中でも、有機錫化合物の存在下で行うのが特に好ましい。有機錫化合物の具体例としては、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ラウリン酸第一錫、オレイン酸第一錫などのカルボン酸第一錫;ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジ−2−エチルヘキソエート、ジラウリル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテートなどのカルボン酸のジアルキル錫塩;水酸化トリメチル錫、水酸化トリブチル錫、水酸化トリオクチル錫などの水酸化トリアルキル錫;酸化ジブチル錫、酸化ジオクチル錫、酸化ジラウリル錫などの酸化ジアルキル錫;二塩化ジブチル錫、二塩化ジオクチル錫などの塩化ジアルキル錫等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
親水性樹脂層3を構成するエポキシ系樹脂は、エポキシ基を有する単量体を重合させることによって合成することができる。このような単量体の例としては、グリシジルアクリレ−ト、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルを挙げることが出来る。さらに、これらの単量体と共重合可能な単量体としては、ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和ニトリル、アリル化合物、不飽和炭化水素又はビニルシラン化合物が用いられる。これらの具体例としては、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ブチル、マレイン酸オクチル、フマル酸ブチル、フマル酸オクチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、エチレングリコールジメタクリル酸エステル、エチレングリコールジアクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジメタクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジアクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、ブトキシメチロールアクリルアミド、不飽和ニトリルとしてアクリロニトリル、酢酸アリル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、イタコン酸ジアリル、エチレン、プロピレン、ヘキサン、オクテン、スチレン、ビニルトルエン、ブタジエン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルエチルエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。これらのエポキシ系樹脂を構成する成分は、単独又は複数種のものを組み合わせて用いることができる。
【0052】
親水性樹脂の親水化変性において、主鎖となるモノマーを(共)重合させた後、親水性モノマーをグラフト重合させて親水性側鎖を形成する場合には、親水性のラジカル重合性ビニルモノマーをグラフト重合させることが好ましい。この場合には、主鎖成分の合計100質量部に対し、ラジカル重合性ビニルモノマーを10質量部以上500質量部以下の割合で使用することができる。
【0053】
このような親水性のラジカル重合性ビニルモノマーの例としては、−CH−CH(R)−OH(式中、−Rは−H又は−CHである)、−COOX(式中、XはH、アルカリ金属もしくは2級又は3級アミノ基である)、−O−(CH−CH(R)−O)−(式中、−Rは−H又は−CH、nは正の整数である)、−Y−N(R)(R)(−Y−は−C(=O)−又は−CH−であり、−R、−Rは−H、もしくはヒドロキシル基、スルホニル基、アシル基、アミノ基、アルカリ金属塩又は第四級アンモニウム塩を有していてよい低級アルキル基である)、−N−(R)(R)(R)(式中、−R、−R、−Rは−CH又は−Cである)、−CH−CH(O)CH(Oは両側の炭素とエポキシ環を形成)などの親水性基を有するものを用いることができる。
【0054】
親水性のラジカル重合性ビニルモノマーの具体例としては、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアクリル酸エステル、エチレングリコールアクリレート、エチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等のグリコールエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メトキシメチロールアクリルアミド等のアクリルアミド系化合物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のグリシジルアクリレート系化合物、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン等の含窒素ビニル系化合物、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和酸及びその塩、アクリル酸アミノアルキル、メタクリル酸アミノアルキルエステル及びその4級アンモニウム塩等のカチオン系モノマー等を挙げることができる。
【0055】
親水性樹脂の親水化変性においては、これらのラジカル重合性ビニルモノマーに加え、他のビニルモノマーを共重合させてもよい。共重合可能な他のビニルモノマーの例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等の不飽和カルボン酸エステル;ジメチルビニルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン;エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン等のオレフィンやジオレフィン化合物等が挙げられる。
【0056】
親水性樹脂層3を構成する親水性樹脂の中でも、親水性基を有するアクリル酸由来のラジカル重合性ビニルモノマー(以下、「アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマー」と称する)によって側鎖が変性されているポリエステル系樹脂(以下、「アクリル変性ポリエステル系樹脂」又は単に「変性ポリエステル系樹脂」と称する)と、ウレタン系樹脂とを含む組成物が最も好ましい。このような組成物を用いることによって、ポリエステル樹脂が本来有する透明性、強靱性、耐熱性や、合成樹脂(例えば、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂など)に対する接着性などの特性を活かしつつ、上記変性によって親水性樹脂に対する接着性を付与すると共に、ウレタン系樹脂のブレンドによって更に合成樹脂に対する接着性及び柔軟性を付与することが可能となる。
【0057】
アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマー及びウレタン系樹脂の重量平均分子量は、典型的には1000以上15000以下であり、好ましくは2000以上10000以下である。
【0058】
上記組成物におけるアクリル変性ポリエステル系樹脂とウレタン系樹脂の質量比は、60:40から90:10の範囲とすることが好ましく、70:30から80:20の範囲とすることがさらに好ましい。アクリル変性ポリエステル系樹脂とウレタン系樹脂の質量比をこのような範囲とすることによって、親水性樹脂層の透明性、耐水性、耐熱性等の層物性を良好に保ちつつ、基材層を構成する合成樹脂及び偏光子を構成するポリビニルアルコールに対する接着力を最適化することが可能となる。
【0059】
アクリル変性ポリエステル系樹脂の変性成分であるアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーが有する親水性基としては、上記の親水性ラジカル重合性ビニルモノマーの親水性基として例示されたものを用いることができる。すなわち、アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーが有する代表的な親水性基としては、−CH−CH(R)−OH、−COOX、−O−(CH−CH(R)−O)−、−Y−N(R)(R)、−N−(R)(R)(R)、−CH−CH(O)CH(定義は上記の通り)が挙げられる。
【0060】
アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーとしては、上記の親水性ラジカル重合性ビニルモノマーの具体例として挙げられたアクリル系モノマーを用いることができる。すなわち、アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーの具体例としては、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、エチレングリコールアクリレート、エチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メトキシメチロールアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アミノアルキル、メタクリル酸アミノアルキルエステル等を挙げることができる。これらのアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーは、単独で用いてもよいし、複数種のものを組み合わせて用いてもよい。
【0061】
また、アクリル変性ポリエステル系樹脂には、アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーに加えて、上記の共重合可能な他のビニルモノマーを共重合させたものを用いることもできる。他のビニルモノマーを共重合させる場合には、例えば、アクリル系ラジカル重合性ビニルモノマー100質量部に対して、他のビニルモノマーを1質量部以上70質量部用いることができる。
【0062】
アクリル変性ポリエステル系樹脂において、主鎖を形成するポリエステル系樹脂に対するアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーの質量比は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して50質量部以上150質量部以下が好ましく、70質量部以上120質量部以下とすることがさらに好ましい。ポリエステル系樹脂に対するアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーの質量比をこのような範囲とすることによって、親水性樹脂層の基材層に対する化学的親和性と、親水性樹脂層の偏光子に対する化学親和性とをバランス良く改善することが可能となる。
【0063】
アクリル変性ポリエステル系樹脂は、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分などの親水性基を有する成分を共重合させた水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂とポリビニルアルコールとを含有する水溶液又は水分散液を作製し、次いでアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマー(及び任意の他の共重合可能なビニルモノマー)を共重合させることによって製造することができる。また、別法として、アクリル変性ポリエステル系樹脂は、例えば、上記のような水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂と、粒子径が4nm以上100nm以下のコロイダルシリカとを含有する水溶液又は水分散液を作製し、次いでアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマー等を共重合させることによって製造することができる。
【0064】
上記のポリビニルアルコールを用いたアクリル変性ポリエステル系樹脂の製造方法においては、例えば、水溶性又は水分散性ポリエステル100質量部に対しポリビニルアルコールを10質量部以上500質量部以下の割合(固形分比)で反応を行うことができる。また、上記のコロイダルシリカを用いたアクリル変性ポリエステル系樹脂の製造方法においては、例えば、水溶性又は水分散性ポリエステル100質量部に対してコロイダルシリカを5質量部以上200質量部以下の割合(固形分比)で反応を行うことができる。
【0065】
アクリル変性ポリエステル系樹脂を合成するための重合方法としては、例えば、上記水溶性又は水分散性ポリエステルと、ポリビニルアルコールあるいはコロイダルシリカとの水溶液又は水分散液中に、重合開始剤と必要に応じて少量の乳化分散剤とを添加し、70℃程度の温度に保ちながらアクリル系ラジカル重合性ビニルモノマーを攪拌しながら徐々に添加し、数時間熟成させることによって重合反応を完結させる方法が挙げられる。
【0066】
アクリル変性ポリエステル系樹脂の製造に用いられる重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤を用いることができる。重合開始剤の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、過酸化ベンゾイルやt−ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物、アゾジイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0067】
このように、親水性樹脂層3を構成する親水性樹脂が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂又はエポキシ系樹脂などの樹脂から形成され、さらにこれらの樹脂が親水性を有するように変性されていることによって、偏光子を構成するポリビニルアルコールに対する化学的親和性が高められ、親水性樹脂層と偏光子との接着性が高められると同時に、さらに、これらの樹脂と基材層を構成する合成樹脂との化学的な相性が良いことと相俟って、偏光板の各層の安定した接合が可能となる。なお、親水性樹脂層を形成する樹脂としてポリエステル系樹脂とウレタン系樹脂とを組み合わせて用いることによって、層の柔軟性が高くなり、強度及び接着力が向上する。
【0068】
親水性樹脂は、それ自身である程度の親水性を有するため、この樹脂によって形成された親水性樹脂層3は、ケン化処理を行わずに偏光子との接着工程に供することが可能である。ポリエステル系樹脂を含んで形成された親水性樹脂は、さらにアルカリでケン化することによって親水性基である水酸基を生じ、それによって親水性が高まり、ポリビニルアルコールからなる偏光子との親和性・接着性が一層向上する。
【0069】
親水性樹脂層3は、親水性樹脂を含む水系乳化物又は水溶液(以下「水系乳化物等」と称する)を基材層2に塗布し、乾燥することによって形成することができる。水系乳化物等の固形分は、通常10質量%以上50質量%以下である。水系乳化物等の主溶媒としては水が用いられるが、水と混和可能な有機溶媒を少量用いてもよい。このような有機溶媒の例として、低級アルコール類、多価アルコール類及びそのアルキルエーテルまたはアルキルエステル類などが挙げられる。水系乳化物等は、公知のディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)等を用いて、基材層2に塗布することができる。次いで、塗布された水系乳化物等を乾燥することにより、親水性樹脂層3を形成することができる。
【0070】
親水性樹脂層3を形成するための水系乳化物等に、必要に応じて架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤の例として、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール、ジアルデヒド澱粉、イソシアネート系化合物、シランカップリング剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。架橋剤の添加量は、親水性樹脂全量に対して0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。親水性樹脂層を形成するための水系乳化物等には、さらに、必要に応じて、アミノ基含有樹脂等の他の樹脂成分、界面活性剤、すべり剤、染料、UV吸収剤、マット剤、防腐剤、増粘剤、造膜助剤、帯電防止剤、抗酸化剤などを添加してもよい。
【0071】
親水性樹脂層3の厚みは、好ましくは0.01μm以上3μm以下であり、さらに好ましくは0.03μm以上2μm以下であり、最も好ましくは0.04μm以上1μm以下である。親水性樹脂層3の厚みを0.01μm以上とすることによって、親水性樹脂と偏光子を構成するポリビニルアルコールとの接着が確実となる。また、親水性樹脂層4の厚みを3μm以下とすることによって、偏光子外面保護フィルム1の厚みを十分薄く保つことができ、偏光子外面保護フィルム1を含めた偏光板全体の厚みの増大を抑制することができる。
【0072】
偏光子外面保護フィルム1において、親水性樹脂によって表面処理されていない側の基材層2の表面は、任意に、各種の機能層、例えばアンチグレア層、反射防止層、防眩層、低屈折率層等の反射防止層、帯電防止層、ハードコート層(硬化樹脂層)、光学補償層などによって被覆されていてよい。例えば、偏光子外面保護フィルムが更に防眩層(反射防止層)を備えることによって、偏光子に対する保護機能に加え、防眩機能を発揮することができる。また、偏光子外面保護フィルムが更にハードコート層を備えることによって、偏光子に対する保護機能が強化される。
【0073】
このような防眩層としては、例えば、エンボス加工法により膜表面に凹凸構造を形成する技術や、バインダマトリックス形成材料中に粒子を混入させた塗液を膜表面に塗布し、バインダマトリックス中に粒子を分散させることにより凹凸構造を形成する技術を用いることができる。また、ハードコート層としては、例えば活性線硬化樹脂から形成されたものを用いることができる。このような活性線硬化樹脂の例としては、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0074】
上述のように、本発明による偏光子外面保護フィルムによれば、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着を容易化するように、内面側が親水性樹脂により表面処理されている基材層を備えることによって、偏光子を構成する親水性樹脂であるポリビニルアルコールとの親和性及び接着性が効果的に向上する。
【0075】
図2の偏光板4は、ポリビニルアルコールからなる偏光子6の外面側(図示されたA方向の側)に、図1の偏光子外面保護フィルム1を備え、偏光子6の内面側に、従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム5を備えた構造を有している。偏光子6と偏光子外面保護フィルム1との間、及び、偏光子6と偏光子内面保護フィルム5との間は、接着剤(図示せず)によって接合されている。
【0076】
偏光子6は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを二色性物質(例えば、ヨウ素や二色性染料)で染色し一軸延伸したものが用いられる。このポリビニルアルコール樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコールの重合度は、親水性樹脂を構成するビニルアルコール系重合体の場合と同様に、500以上が好ましく、1000以上がより好ましい。ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、公知の方法(例として、樹脂を水又は有機溶媒に溶解した溶液を流延成膜する流延法、キャスト法など)で成形することができる。偏光子6の厚みは、偏光板4が用いられるLCDの目的や用途に応じて異なるが、典型的には5μm以上100μm以下である。偏光子6は、偏光機能及び光学的透明性を阻害しない限りは、ポリビニルアルコール樹脂及び二色性物質以外の任意成分を含んでいてもよい。
【0077】
偏光子6の代表的な製造方法としては、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを、膨潤、染色、架橋、延伸、水洗及び乾燥工程からなる一連の製造工程が採用される。乾燥工程を除く各処理工程においては、それぞれの工程に用いられる溶液の浴中にポリビニルアルコール樹脂フィルムを浸漬することによって処理を行う。膨潤、染色、架橋、延伸、水洗及び乾燥の各処理の順序、回数及び実施の有無は、目的、使用材料および条件等に応じて適宜設定することができる。例えば、延伸処理は、染色処理の前に行ってもよく、膨潤処理等と同時に行ってもよい。また、架橋処理を延伸処理の前後に行うことは好ましい。
【0078】
偏光子6の一連の製造工程における膨潤工程は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを水で満たした処理浴中に浸漬することにより行うことができる。この処理浴には、グリセリンやヨウ化カリウム等が適宜添加され得る。典型的には、膨潤工程の処理浴の温度は20〜60℃程度であり、処理浴への浸漬時間は0.1〜10分程度である。染色工程は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを、ヨウ素等の二色性物質を含む処理浴中に浸漬することにより行うことができる。この処理浴の溶液に用いられる溶媒としては、一般的に水が用いられる。二色性物質は、溶媒100質量部に対して0.1〜1.0質量部の割合で用いられる。典型的には、染色工程の処理浴の温度は20〜70℃程度であり、浸漬時間は1〜20分程度である。
【0079】
架橋工程は、染色処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、架橋剤を含む処理浴中に浸漬することにより行うことができる。架橋剤の例としては、ホウ酸等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。この処理浴の溶液に用いられる溶媒としては、一般的に水が用いられる。典型的には、架橋工程の処理浴の温度は20〜70℃程度、浸漬時間は1秒〜15分程度である。延伸工程は、いずれの段階で行ってもよい。ポリビニルアルコール樹脂フィルムの延伸倍率は5倍以上にすることが好ましい。延伸方法としては、例えば湿式延伸法を採用することができる。この場合の処理浴の溶液としては、水又は有機溶媒中に、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素又は亜鉛の化合物を添加した溶液が好ましい。
【0080】
水洗工程は、各種処理を施されたポリビニルアルコール樹脂フィルムを、水洗浴中に浸漬することにより行うことができる。この水洗工程により、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの不必要な残存物を洗い流すことができる。水洗浴は、純水であってもよく、ヨウ化物(ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなど)の水溶液であってもよい。水洗浴の温度は好ましくは10〜60℃である。典型的には、浸漬時間は1秒〜1分である。水洗を行う回数は、1回だけでも複数回でもよい。乾燥工程としては、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥を採用することができる。典型的には、乾燥温度は20〜80℃であり、乾燥時間は1〜10分である。上記の各工程を行うことによって、偏光子6を製造することができる。
【0081】
従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム5は、セルロースエステルのフレーク原料及び可塑剤を、メチレンクロライドに溶解して粘稠液とし、これに可塑剤を溶解してドープとし、溶融押出機から、継続的に回転するステンレス等の金属ベルト上に流延して、乾燥させ、生乾き状態でベルトから剥離した後、乾燥させて巻き取り、製造される。セルロースエステルとしては、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択されるものが好ましく、トリアセチルセルロースが特に好ましい。
【0082】
偏光子外面保護フィルム1の親水性樹脂層3を構成する親水性樹脂がポリエステル系樹脂を用いて形成されている場合、偏光子6との接着を行う前に、親水性樹脂層3をアルカリによるケン化処理に供することが一層好ましい。このケン化によって、エステル基が親水性基である水酸基に変換され、これによって、偏光子外面保護フィルム1と、親水性樹脂であるポリビニルアルコールで形成された偏光子6との化学的な親和性が高められ、相互の接着性が格段に向上する。
【0083】
ケン化処理のために用いられるアルカリ水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウムの水溶液などを用いることができる。これらの金属水酸化物の濃度は、一般的に5質量%以上40質量%以下とされる。また、ケン化処理の温度は、10℃以上80℃以下であることが好ましい。金属水酸化物の濃度が5質量%以下の場合やケン化処理の温度が10℃以下の場合は、ケン化処理に要する時間が長くなるため好ましくない。ケン化処理は、上記のようなアルカリ水溶液浴に適当な時間にわたって偏光子外面保護フィルム1を浸積させることによって行われる。
【0084】
必要に応じてケン化処理に供された偏光子外面保護フィルム1と、ポリビニルアルコールからなる偏光子6とは、図3に模式的に示される装置7によって貼合される。図3に示された複数の膜を貼合するための装置7は、偏光子6を供給するためのニップ8、偏光子外面保護フィルム1を供給するためのニップ9、接着剤を供給するための手段10、及び、偏光子6と偏光子外面保護フィルム1とを接着剤を介して押圧・接合するためのニップ11を備えている。
【0085】
装置7によって偏光子外面保護フィルム1の親水性樹脂層3と偏光子6とを貼り合わせるために使用される接着剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレートなどビニル系ラテックス等が挙げられる。通常、これらの接着剤は水溶液として用いられる。接着剤の樹脂溶液中の固形分濃度としては、塗工性や放置安定性等を考慮すれば、好ましくは0.1〜15質量%である。また、接着剤の樹脂溶液の粘度としては、例えば1〜50mPa・sの範囲が好ましい。
【0086】
装置7において、ニップ8から供給されるフィルム状の偏光子6とニップ9から供給される偏光子外面保護フィルム1とがニップ11へ向かう方向に送出され、これらのフィルム間に挟み込まれるように適量の接着剤が供給され、次いでニップ11で押圧することによって、偏光子6と偏光子外面保護フィルム1の親水性樹脂層3とが貼合されて、偏光子6の片面に偏光子外面保護フィルム1が積層された構造体が得られる。
【0087】
次いで、偏光子外面保護フィルム1が積層されていない方の偏光子6の面にも、同様の手段を用いて偏光子内面保護フィルム5を積層することによって、偏光板4が得られる。偏光子内面保護フィルム5は、偏光子6との接着を行う前に、予めアルカリでケン化処理に供して、トリアセチルセルロースのエステル基を水酸基に変換しておく。積層された偏光板4の厚みは、典型的には10μm以上100μm以下である。
【0088】
上述のように、本発明による偏光子外面保護フィルムを有する偏光板によれば、ポリビニルアルコールからなる偏光子の外面側に配置された合成樹脂製の基材層に易接着処理が施されていることから、ポリビニルアルコールからなる偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性及び剥離耐久性が高められ、それによって偏光板の強度や取扱い性が改善される。また、偏光子の内面側に、小さい複屈折性を有する(すなわち無配向性である)セルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルムを用いることによって、液晶分子の性能に影響を及ぼさずに、偏光子の保護機能を付与することができる。
【0089】
図4の液晶表示素子12は、液晶層15が透明媒体層14(例えばガラス)で挟持された液晶セル13の両面に対して、接着剤層16を介し、本発明による図2の偏光板4(基材層2、親水性樹脂層3、偏光子内面保護フィルム5及び偏光子6からなる)を貼り合わせることによって構成されている。本発明による偏光子外面保護フィルム(基材層2及び親水性樹脂層3)は、専ら偏光子6の外面側に配置され、従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム5が偏光子6の内面側に配置される(図示されたA方向の側が外面側)。液晶セル13の液晶層15及び透明媒体層14並びに接着剤層16を構成する材料は、特に限定されず公知のものを用いることができる。なお、液晶表示素子において、液晶セルの一方の面側に図2の偏光板4(本発明による偏光板)を用い、液晶セルの他方の面側に従来技術による他の偏光板を用いてもよい。
【0090】
本発明による偏光子外面保護フィルムが配置された偏光板を備えた液晶表示素子は、偏光子外面保護フィルムが易接着化処理されているため、偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性、剥離に対する耐久性が高く、かつ偏光板の強度、取扱い性が優れている。従って、液晶表示素子が有する諸特性が長期間に渡って継続的かつ安定して発揮されることになり、機器全体への信頼性が高くなる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0092】
[アクリル系樹脂製の基材層の形成]
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体(モル比9:1)100質量部、〔2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール〕1質量部、メチレンクロライド400質量部、及びメタノール100質量部を密閉容器に仕込み、加圧下、80℃で攪拌しながら溶解させてドープ組成物を得た。このドープ組成物をろ過し、冷却してから、エンドレスステンレスバンド上に均一に流延し、剥離が可能になるまで溶媒を蒸発させた後で、エンドレスステンレスバンドから剥離し、さらに乾燥させて膜厚30μmのアクリル系樹脂フィルム(透明な合成樹脂製の基材層)を得た。このアクリル系樹脂フィルムを試料A1とする。
【0093】
[ポリエチレンテレフタレート樹脂製の基材層の形成]
数珠状シリカを添加したエチレングリコールスラリーを調製し、このエチレングリコールスラリーを190℃で2時間熱処理し、続いて、これをテレフタル酸ジメチルとエステル交換反応させた後、重縮合させてエチレンテレフタレートペレットを作製した。次に、このペレットから得られた樹脂を180℃で3時間滅圧乾燥させた後、押出機に供給して310℃で加熱溶融した。続いて、押出機から溶融した樹脂をシート状に押出して、表面温度30℃のキャスティングドラム上で冷却固化することによって、未延伸フィルムを作製した。次に、ロール延伸により、上記の未延伸フィルムを100℃で長手方向に4倍に延伸し、さらにテンターを用いて110℃で幅方向に4倍に延伸した。続いて、この二軸延伸フィルムを235℃(結晶化温度)で5秒間熱処理して結晶化させることにより、厚み40μmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを作製した。このポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを試料A2とする。
【0094】
[ポリエステル系樹脂製の親水性樹脂層の形成]
テレフタル酸ジメチル50質量%、イソフタル酸ジメチル42質量%、及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸8質量%からなるカルボン酸成分と、エチレングリコール50質量%及びネオペンチルグリコール50質量%からなるグリコール成分を用い、酢酸亜鉛及び三酸化アンチモンを触媒とし、200℃前後で3時間エステル交換反応を行なった後、260℃まで昇温しながら、反応系内を0.2mmHgに至るまで徐々に減圧して、所定粘度が得られるまで重縮合を行なった。得られたポリエステル系樹脂100質量部を、150質量部の水に70℃前後で攪拌しつつ均一に分散させて、固形分40質量%のポリエステル系樹脂の水系乳化物を得た。このポリエステル系樹脂の水系乳化物25質量%、ポリビニルアルコール10%水溶液25質量%、アクリル酸3.5質量%、メタクリル酸ブチル1.5質量%、過硫酸アンモニウム0.2質量%、水44.8質量%を反応器に仕込み、約70℃で3時間反応させることによって、変性ポリエステル系樹脂の水系乳化物を得た。次いで、この変性ポリエステル系樹脂の水系乳化物を、試料A1のアクリル系樹脂フィルムの面上に塗布し、加熱・乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B1とする。また、この変性ポリエステル系樹脂の水系乳化物を、試料A2のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの面上に塗布し、乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B2とする。
【0095】
[ポリエステル系樹脂/ウレタン系樹脂製の親水性樹脂層の形成]
上で得られた変性ポリエステル系樹脂の水系乳化物に対して、固形分40質量%の水性ウレタン(東亞合成化学工業社製の「アロンネオタンUE−1300」)を、両者の固形分の比が75:25となるようにブレンドして、ポリエステル系樹脂/ウレタン系樹脂混合系の水系乳化物を得た。次いで、この水系乳化物を、試料A1のアクリル系樹脂フィルムの面上に塗布し、加熱・乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B3とする。また、この水系乳化物を、試料A2のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの面上に塗布し、乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B4とする。
【0096】
[アクリル系樹脂製の親水性樹脂層の形成]
2−ヒドロキシエチルアクリレート70質量%及びメチルアクリレート30質量%の共重合体30質量部、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールのジアクリレート3質量部、ウレタンアクリレート系オリゴマー(日本化薬(株)製の「“KAYARAD”UX−4101」)3質量部、過酸化ベンゾイル0.3質量部、イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン(株)製の「スミジュールN−75」)1.5質量部、シリコーン系界面活性剤3質量部、水50質量部をブレンドすることによって、アクリル系樹脂の水系乳化物を得た。このアクリル系樹脂の水系乳化物を、試料A1のアクリル系樹脂フィルムの面上に塗布し、乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B5とする。また、このアクリル系樹脂の水系乳化物を、試料A2のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの面上に塗布し、加熱・乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B6とする。
【0097】
[ウレタン系樹脂製の親水性樹脂層の形成]
固形分40質量%の水性ウレタン(東亞合成化学工業社製の「アロンネオタンUE−1300」)25質量%、ポリビニルアルコール10%水溶液25質量%、メタクリル酸ヒドロキシエチル5質量%、過硫酸カリウム0.2質量%、水44.8質量%を反応器に仕込み、約70℃で3時間反応させることによって、ウレタン系樹脂の水系乳化物を得た。このウレタン系樹脂の水系乳化物を、試料A1のアクリル系樹脂フィルムの面上に塗布した後、加熱・乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B7とする。また、このウレタン系樹脂の水系乳化物を、試料A2のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの面上に塗布し、乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B8とする。
【0098】
[エポキシ系樹脂製の親水性樹脂層の形成]
グリシジルアクリレート70質量%及びプロピオン酸ビニル30質量%の共重合体30質量部、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールのジアクリレート3質量部、ウレタンアクリレート系オリゴマー(日本化薬(株)製の「“KAYARAD”UX−4101」)3質量部、過酸化ベンゾイル0.3質量部、イソシアネート化合物(住友バイエルウレタン(株)製の「スミジュールN−75」)1.5質量部、シリコーン系界面活性剤3質量部、水50質量部をブレンドすることによって、エポキシ系樹脂の水系乳化物を得た。このエポキシ系樹脂の水系乳化物を、試料A1のアクリル系樹脂フィルムの面上に塗布し、乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B9とする。また、このエポキシ系樹脂の水系乳化物を、試料A2のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの面上に塗布し、加熱・乾燥させて厚み0.3μmの親水性樹脂層を有する偏光子保護フィルムを得た。この偏光子保護フィルムを試料B10とする。
【0099】
[偏光子の形成]
膜厚200μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)して、膜厚40μmのフィルムを得た。このフィルムを、ヨウ素0.15g及びヨウ化カリウム10gを含む水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム12g及びホウ酸7.5gを含む68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し、偏光子を得た。
【0100】
[実施例1−10]
試料B1からB10の各々の偏光子保護フィルム及び上記偏光子を18cm×5cmのサイズに裁断し、固形分濃度が2質量%のポリビニルアルコール水溶液である接着剤を介して、これらを重ね合わせ、ハンドローラーを用いて過剰の接着剤や気泡を取り除きながら貼り合わせた。これを2kg/cmに加圧したラミネーターに挿入し、さらに80℃で乾燥させることによって、積層体1から10を得た(それぞれを実施例1から10とする)。この貼合においては、試料B1からB10の各々の親水性樹脂層と上記偏光子が接着されるようにした。
【0101】
[比較例1及び2]
試料A1のアクリル系樹脂フィルム又は試料A2のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムと上記偏光子とを、上記実施例1から10と同様の手段により貼り合わせて積層体11及び12を得た。
【0102】
上で得られた積層体1から12に対して、以下の方法により初期接着性及び耐久性に関する特性評価を行った。これらの評価結果を表1に示す。
【0103】
(1)初期接着性
積層体の二つの層を手で剥離し、材料破壊の発生の程度により、下記の三段階に評価した。
極めて良好(◎):殆どの部分で材料破壊が起こる。
良好(○):半分程度の部分で材料破壊が起こる。
やや不良(△):一部材料破壊が起こるが、試料と偏光子の間の剥がれ面積が大きい。
不良(×):試料と偏光子の間が完全に剥がれる。
【0104】
(2)耐久性
積層体を、75℃で90%RHの条件下に500時間放置し、外観変化を観察し、端部からの剥離の幅を測定した。評価基準は以下のとおりした。
極めて良好(◎):0.1mm未満
良好(○):0.1mm以上0.5mm以下
やや不良(△):0.5mm以上1.5mm以下
不良(×):1.5mm以上
【0105】
【表1】

【0106】
表1の結果から、実施例1〜10の積層体1から10は、初期接着性が良好であり、また厳しい条件下での剥離耐久性も優れていることが分かった。特に、変性ポリエステル系樹脂及びウレタン系樹脂を含む水系乳化物から形成された資料B3及びB4を用いた実施例3及び4における初期接着性は、格段に優れていた。一方、比較例1及び2の積層体11、12は、初期接着性が不良であると共に、剥離耐久性が劣っていることが分かった。このように、本発明による偏光子外面用の保護フィルムは、一方の表面が親水性樹脂により表面処理されている基材層を備えていることによって、そのような表面処理がなされていない基材層からなるフィルムと比較して、ポリビニルアルコールに対する接着力及び剥離耐久性が飛躍的に改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明による偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板を用いた液晶表示素子は、偏光子外面保護フィルムと偏光子の間の接着が確実に行われているため、液晶表示素子及びこれを備えた電子機器全体の信頼性が高まる。そのため、このような液晶表示素子は、電卓や時計などの小型品から、自動車用計器、PCモニタ、テレビといった大型品に至るまで様々な分野で用いることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 本発明による偏光子外面保護フィルム
2 透明な合成樹脂製の基材層
3 親水性樹脂層
4 偏光板
5 セルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム
6 偏光子
7 偏光板を製造するための装置
8 ニップ
9 ニップ
10 接着剤供給手段
11 ニップ
12 液晶表示素子
13 液晶セル
14 透明媒体層
15 液晶層
16 接着剤層
21 液晶表示素子
22 偏光板
23 偏光子保護フィルム
24 偏光子
25 液晶セル
26 透明媒体層
27 液晶層
28 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶表示素子の外面側に配設される偏光子外面保護フィルムであって、
透明な合成樹脂製の基材層と、
この基材層の内面側に積層される親水性樹脂層と
を備えることを特徴とする偏光子外面保護フィルム。
【請求項2】
上記基材層を構成する合成樹脂が、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項3】
上記親水性樹脂層を構成する親水性樹脂が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種によって形成されている請求項1又は請求項2に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項4】
上記親水性樹脂層を構成する親水性樹脂が、側鎖に親水性基を有するように変性されている請求項1、請求項2又は請求項3に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項5】
上記親水性樹脂層の厚みが、0.01μm以上3μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項6】
上記基材層の外面側に積層される反射防止層又はハードコート層を備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項7】
ポリビニルアルコールからなる偏光子と、
この偏光子の外面に積層される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルムと、
偏光子の内面に積層される偏光子内面保護フィルムと
を備える偏光板。
【請求項8】
液晶セルと、
この液晶セルの少なくとも一方の面側に積層される請求項7に記載の偏光板と
を備える液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−204622(P2010−204622A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117418(P2009−117418)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(595138591)株式会社ジロオコーポレートプラン (16)
【Fターム(参考)】