説明

偏光板の製造方法及び表示装置

【課題】水分バリア性を保持しつつクラックの発生が抑制された耐久性が向上した偏光板の製造方法及びその製造方法により製造された偏光板を具備する表示装置を提供すること。
【解決手段】偏光素子2上に、ポリシラザンと有機樹脂を溶剤中に溶解した塗布液を塗布して塗布膜を形成する工程と、塗布膜を反応硬化し有機無機ハイブリッド膜3を形成する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に用いられる偏光板の製造方法及びその製造方法により製造された偏光板を具備する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置としての液晶表示装置は、液晶パネルを挟みこむように一対の偏光板が配置される構造となっている。偏光板は、これに入射する光のうちある一定の偏光のみを透過させて出射させる偏光特性を有している。偏光板は、例えば一軸に延伸されたポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素で染色した偏光フィルムと、この偏光フィルムを保護するために偏光フィルムの両面に配置されたTAC(トリアセチルセルロース)からなる保護膜とを有している。また、他の偏光板として、偏光フィルムに珪素酸化物薄膜層が形成されたものがある(例えば、特許文献1参照。)。更に他の偏光板として、偏光フィルムに保護膜としてアルコキシシランの加水分解液によるゾルゲル法により形成される有機無機ハイブリッド膜が設けられたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−262226号公報(段落[0005])
【特許文献2】特開2006−137821号公報(段落[0147])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、TACからなる保護膜は水分バリア性が十分でないため、外部から侵入する水分により偏光フィルムの偏光度が低下したり、偏光フィルムの変形による歪みによって面内で均一な偏光特性が得られず、液晶表示装置の表示特性に影響を及ぼすという問題があった。また、珪素酸化物薄膜層からなる保護膜は可撓性が乏しいため、応力が加わることによって珪素酸化物薄膜層にクラックが発生する場合があった。このようなクラックが発生するとクラック箇所から水分が侵入し、偏光板の偏光特性の低下を招き、液晶表示装置の表示特性に影響を及ぼすという問題があった。またアルコキシシランを加水分解液によるゾルゲル法を用いて有機無機ハイブリッド膜を成膜する場合、加水分解液に含まれる水分がポリビニルアルコール系フィルムを基材フィルムとする偏光素子を溶解、膨潤させるため、偏光素子の偏光特性の低下を招くという問題があった。
【0004】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水分バリア性を保持しつつクラックの発生が抑制された耐久性が向上した偏光板の製造方法及びその製造方法により製造された偏光板を具備する表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するにあたり、本発明の偏光板の製造方法は、偏光素子上に、ポリシラザンと有機樹脂を溶剤中に溶解した塗布液を塗布して塗布膜を形成し、前記塗布膜を反応硬化し有機無機ハイブリッド膜を形成する。
【0006】
本発明においては、ポリシラザンを用いて有機無機ハイブリッド膜を形成するため、偏光素子の偏光特性を損ねることなく有機無機ハイブリッド膜を偏光素子上に形成することができる。すなわち、ポリシラザンは水や水酸基と反応するため、溶剤としてはポリシラザンと反応しない溶剤を選択するのであるが、このような溶剤は塗布対象物となる偏光素子を侵すことなく、偏光素子の偏光特性に影響を及ぼすことがない。例えば有機無機ハイブリッド膜の成膜方法としてアルコキシシランの加水分解液によるゾルゲル法を用いることが考えられるが、この方法では工程中用いられる溶液に水分が含まれており、この水分が偏光素子を溶解、膨潤させるため好ましくない。これに対し、本発明における有機無機ハイブリッド膜の形成では、溶剤中に水分が含まれないため、偏光素子を侵すことがない。また、偏光素子上に形成される有機無機ハイブリッド膜は、有機樹脂成分を含有することにより可撓性が得られるのでクラックの発生が抑制され、クラックを介して侵入する水分による偏光素子の特性劣化を抑制することができ、無機成分を含有することにより水分バリア性が得られるので、水分侵入による偏光素子の特性劣化を抑制することができる。
【0007】
また、前記有機樹脂はアクリル系樹脂である。
【0008】
このように、ポリシラザンと相溶性があり、透明性、水分バリア性がある有機樹脂としてアクリル系樹脂を用いることができる。
【0009】
また、前記塗布液中のポリシラザン成分と有機樹脂成分とは1:9〜3:2の重量比で前記溶剤中に溶解されている。
【0010】
このように塗布液中のポリシラザン成分と有機樹脂成分とを1:9〜3:2の重量比とすることにより、クラックの発生が抑制され、水分バリア性を有する有機無機ハイブリッド膜を得ることができる。ポリシラザン成分と有機樹脂成分との比が1/9よりも小さいと、十分な水分バリア性を得ることができず、3/2よりも大きいと十分な可撓性が得られずクラックが発生しやすくなる。
【0011】
また、前記偏光素子の基材フィルムはポリビニルアルコール系樹脂である。
【0012】
偏光素子の基材フィルムとしてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、ポリシラザンを用いて有機無機ハイブリッド膜を形成する際、塗布液中に水分が含まれないため、偏光素子を侵すことがない。
【0013】
また、前記反応硬化は、加熱処理後、湿度処理を行うことによりなされる。
【0014】
このように加熱処理を行うことによって有機溶剤を完全に除去することができ、湿度処理を行うことによって塗布膜中のポリシラザン成分を酸化ケイ素に転化することができる。
【0015】
また、前記湿度処理は、温度40℃以上80℃以下、湿度60%以上90%以下の条件下で行われる。
【0016】
このように湿度処理を40℃以上80℃以下の温度条件下で行うことが望ましい。40℃よりも低い温度であるとポリシラザン成分の反応が促進されず、未反応の成分が残留するためにバリア膜としての特性が不十分となる。80℃よりも高い温度であると塗膜が反応硬化してバリア膜としての特性を発現する前に偏光フィルム自体に水分が侵入してしまうためにフィルムの膨潤や変形が発生する。また、60%以上90%以下の湿度条件下で湿度処理を行うことが望ましい。60%よりも低いとポリシラザン成分の反応が促進されず、未反応の成分が残留するためにバリア膜としての特性が不十分となる。90%よりも高いと塗膜が反応硬化してバリア膜としての特性を発現する前に偏光フィルム自体に水分が侵入してしまうためにフィルムの膨潤や変形が発生する。
【0017】
また、前記加熱処理は、温度60℃以上100℃以下の条件下で行われる。
【0018】
このように60℃以上100℃以下の温度条件下で加熱処理を行うことが望ましい。60℃よりも低い温度であると有機溶剤を十分に除去することができない。100℃よりも高い温度であると、偏光素子としてヨウ素染色されたフィルムを用いた場合、脱色したりフィルムが熱変形してしまう。
【0019】
本発明の表示装置は、表示セルと、対向する第1面と第2面を有する偏光素子と、前記第1面に設けられたポリシラザンと有機樹脂を溶剤中に溶解した溶液を塗布して形成された有機無機ハイブリッド膜とを有し、前記第2面が前記表示セル側に位置するように、前記表示セルを挟み込むように配置される一対の偏光板とを具備する。
【0020】
本発明の表示装置は、有機無機ハイブリッド膜が形成されている偏光板を有しているので、外部から侵入する水分は有機無機ハイブリッド膜によってその侵入を阻止される。従って、水分侵入による偏光板の偏光特性の劣化が抑制され、安定した表示特性を有する表示装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、偏光素子の偏光特性を損ねることなく、偏光素子上に有機無機ハイブリッド膜が形成された偏光板を得ることができる。また、このような有機無機ハイブリッド膜は可撓性、水分バリア性を有するので、有機無機ハイブリッド膜のクラックの発生を抑制し、偏光素子の水分侵入による偏光板の偏光特性の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0023】
(偏光板)
【0024】
本発明に係る偏光板の一実施形態について図1を用いて説明する。
【0025】
図1は偏光板の部分拡大断面図である。
【0026】
偏光板1は例えば平面形状が矩形状の偏光機能を有する光学フィルムである。図1に示すように、偏光板1は、第1面2aと第2面2bを有する偏光素子としての偏光フィルム2と、該偏光フィルム2の第1面2a及び第2面2bに配置された有機無機ハイブリッド膜からなる保護膜3を有する。
【0027】
偏光フィルム2としては既知のものを用いることができ、本実施形態においては、偏光フィルム2として、ヨウ素を吸着配向させた、基材フィルムがポリビニルアルコール系樹脂フィルムであるものを用いた。ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、ポリ(エチレン−酢酸ビニル)共重合体フィルム、これらの部分ケン化または完全ケン化フィルム、ポリビニルアルコールの部分ポリエン化フィルムなどを用いることができる。
【0028】
保護膜3は、後述する製造方法により成膜された有機樹脂としてのアクリル系樹脂と珪素酸化物とが分子レベルで結合してなる、光学的に透明な有機無機ハイブリッド膜からなる。保護膜3としてこのような有機無機ハイブリッド膜を用いることにより、偏光フィルム2への水分の侵入が抑制され、かつ可撓性を有する保護膜3を得ることができる。保護膜3によって偏光フィルム2への水分透過が抑制されることにより、偏光フィルム2に水分が侵入することによる偏光板1の偏光度の低下や水分膨潤による偏光フィルムの変形による面内での偏光特性の不均一性といった偏光特性の劣化を抑制することができる。更に、保護膜3が可撓性を有することにより、例えば偏光板1に外的付加が加わり偏光板1が撓んでも保護膜3にクラックが生じにくい。従って、クラックを介して偏光フィルムに水分が侵入することを防止することができ、水分侵入による偏光特性の劣化が抑制された、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。
【0029】
(偏光板の製造方法)
【0030】
上述した偏光板1の製造方法について図6を用いて説明する。
【0031】
図6は偏光板の製造方法を示すフローチャート図である。
【0032】
まず、ヨウ素を吸着配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム2を所定の大きさのシートに加工して用意した。偏光フィルム2は対向する第1面2a及び第2面2bを有する。尚、偏光フィルム2は既知の製法によって作製できる。例えば、未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヨウ素及びヨウ化カリウムの溶液に浸漬したのち、一軸に延伸する方法、一軸に延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヨウ素及びヨウ化カリウムの溶液に浸漬する方法等を上げることができる。
【0033】
また有機無機ハイブリッド膜となる塗布液として、ポリシラザン溶液と有機樹脂溶液とを混合したものを用意した。ポリシラザン溶液としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のペルヒドロポリシラザン溶液(NP110−20)を使用した。これは、ポリシラザンとしての次式Iで表わされるペルヒドロポリシラザンをキシレン溶剤中に20重量%の濃度で溶解したものである。
−(SiHNH)− I
(式中、nは整数を表わす)
また有機樹脂溶液としては、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチルポリマー、三菱レイヨン株式会社製、BR−80)をトルエン溶剤中に10重量%の濃度で溶解したものを用いた。
【0034】
次に、偏光フィルム2の一方の面、例えば第1面2aに、上述のポリシラザン溶液と有機樹脂溶液とを混合した上述の塗布液を、スピンコーターを用いて塗布した(塗布工程)。具体的には、偏光フィルム2上に塗布液を滴下し、1000rpmで30秒間回転させて約0.6〜1.2μm、本実施形態においては1μmの膜厚の塗布膜を得た。尚、スピンコーターによる回転中に、塗布膜に含まれる溶剤はほぼ蒸発するため、乾燥した塗布膜を得ることができる。本実施形態においては、塗布液の塗布にスピンコーターを用いたが、これに限られるものではなく、スプレー塗布方式、グラビアコート方式、ドクターブレード方式、ディップコート方式などを用いることもできる。
【0035】
次に、偏光フィルム2の他方の面である第2面2bに、上述のポリシラザン溶液と有機樹脂溶液とを混合した塗布液を、第1面2aに塗布した方法と同様に塗布し、第1面2aと同様に塗布膜を得た。
【0036】
次に、偏光フィルム2上に形成した塗布膜を80℃で1時間加熱処理した後(加熱処理工程)、60℃、湿度60%の環境下で1時間湿度処理(湿度処理工程)を行って、塗布膜の反応硬化を行った。この反応硬化工程によって、塗布膜中のポリシラザン成分を酸化ケイ素に転化させる反応が生じる。この際に有機樹脂成分はポリシラザン成分と相溶した溶液の状態から固化されるために、ポリシラザン由来の無機成分と有機樹脂成分とが非常に微細な数十ナノメートル以下のレベルで複合化した有機無機ハイブリッド膜として形成される。この微細構造は可視光線の波長より微細であるために、膜としての透明性に影響を及ぼさない。硬化させて、有機無機ハイブリッド膜からなる保護膜3を得た。保護膜3の膜厚は、0.3μm以上10μm以下、本実施形態においては1μmであった。尚、膜厚が0.3μmよりも小さいと水蒸気透過を抑制する効果が小さく湿度保護機能が十分に得られない。また、膜厚が10μmよりも大きいと反応に必要な水分の浸透が困難になるために反応硬化工程が困難になるとともに、塗布膜の可撓性が失われクラックが発生しやすくなる。
【0037】
反応硬化の際、加熱処理を行うことによって、有機溶剤を完全に除去することができ、湿度処理を行うことによって、塗布膜中のポリシラザン成分を酸化ケイ素に転化することができる。
【0038】
また、本実施形態では、加熱処理を80℃で1時間行ったが、60℃以上100℃以下の温度条件下で加熱処理を行うことが望ましい。60℃よりも低い温度であると有機溶剤を十分に除去することができない。100℃よりも高い温度であるとヨウ素染色された偏光フィルムが脱色したりフィルムが熱変形してしまう。また、処理時間は、有機溶剤を完全に除去するように処理温度によって適宜調整すればよい。また、湿度処理は、40℃以上80℃以下の温度条件下で行うことが望ましい。40℃よりも低い温度であるとポリシラザン成分の反応が促進されず、未反応の成分が残留するためにバリア膜としての特性が不十分となる。80℃よりも高い温度であると塗膜が反応硬化してバリア膜としての特性を発現する前に偏光フィルム自体に水分が侵入してしまうためにフィルムの膨潤や変形が発生する。また、60%以上90%以下の湿度条件下で湿度処理を行うことが望ましい。60%よりも低いとポリシラザン成分の反応が促進されず、未反応の成分が残留するためにバリア膜としての特性が不十分となる。90%よりも高いと塗膜が反応硬化してバリア膜としての特性を発現する前に偏光フィルム自体に水分が侵入してしまうためにフィルムの膨潤や変形が発生する。
【0039】
上述した塗布液中のポリシラザン溶液と有機樹脂溶液の混合比率(重量比)を表1に示すように変えて、10の試料を作製した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中、実施例1〜実施例5は、それぞれ塗布液中に含まれるポリシラザン溶液と有機樹脂溶液の重量比が3:4、1:2、1:3、1:8、1:18、言い換えると塗布液中に含まれるポリシラザン成分と有機樹脂成分としてのアクリル系樹脂成分との重量比が3:2、1:1、2:3、1:4、1:9となる塗布液を用いて作製された有機無機ハイブリッド膜が成膜された偏光板である。また、表1中、比較例1は保護膜がない偏光板、比較例2は保護膜としてポリシラザン溶液が含まれる塗布液を用いて作製された珪素酸化膜が成膜された偏光板である。比較例3は、塗布液中に含まれるポリシラザン溶液と有機樹脂溶液の重量比が7:6、言い換えると塗布液中に含まれるポリシラザン成分とアクリル系樹脂成分との重量比が7:3となる塗布液を用いて作製された有機無機ハイブリッド膜が成膜された偏光板である。比較例4は、保護膜としてアクリル系樹脂溶液が含まれる塗布液を用いて作製されたアクリル系樹脂膜が成膜された偏光板である。比較例5は、保護フィルムとしてトリアセチルセルロース(TAC)が用いられた従来の製法により作製された偏光板である。ここでは、厚さ80μmのTACフィルムを偏光フィルムの両面に貼合してある。なお、比較例1を除いていずれの試料の偏光板も両面に保護膜が形成されている。ここで、ポリシラザン成分及び有機樹脂成分というように成分と表現したのは、ポリシラザン及び有機樹脂が溶剤中に溶解している状態ではポリシラザン及び有機樹脂の形態ではないためである。従って、ポリシラザン成分とは溶剤中に溶解するポリシラザンが基になった構造部分をさし、有機樹脂成分とは溶剤中に溶解する有機樹脂が基になった構造部分をさす。
【0042】
表2に上述した10の試料を評価した結果を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
評価は、得られた10の試料の偏光板を温度60℃湿度90%の高温高湿度環境下に200時間保持する耐久試験を行い、試験前後での偏光特性の変化の測定及び外観観察により行った。また、各試料の偏光板の保護膜の硬度を測定した。尚、保護膜を成膜していない比較例1においては、偏光フィルムの硬度を測定した。
【0045】
表2に示すように、いずれの偏光板も試験前では99.98%の偏光度を示したが、試験後、比較例1〜5の偏光板はその偏光度が低下した。特に、保護膜のない比較例1では、偏光度の低下は著しかった。
【0046】
比較例1においては、偏光フィルムの水分の膨潤による寸法変形が発生し、偏光板として使用できないものとなった。比較例2においては、試験後の偏光度の変化は比較例1に比べると抑えられており、また偏光フィルムの変形も抑制されていた。しかし、保護膜中にクラックが発生し、そのクラック部分からの水分の侵入によってクラック周辺では脱色が見られた。比較例3においては、試験後の偏光度の変化は比較例1に比べると抑えられており、また偏光フィルムの変形も抑制されていた。しかし、保護膜中に比較例2よりは少ないもののクラックの発生が見られた。これは保護膜として有機無機ハイブリッド膜を用いても、膜中の無機成分の比率が高いと膜特性が無機膜に近くなり十分な可撓性が得られていないためである。比較例4においては、比較例1よりは抑えられているものの試験前後における偏光度の変化が見られ、保護膜にクラックの発生は生じなかったが、偏光フィルムの変形が発生し偏光板として使用できないものとなった。比較例5においては、やはり比較例1よりは抑えられているものの試験前後における偏光度の変化が見られた。クラックの発生や外観の変化は見られなかった。
【0047】
これら比較例に対し、実施例1〜5の偏光板は、試験前後の偏光度の変化が見られず、保護膜にクラックが発生することもなく、変形などの外観上の変化も見られなかった。すなわち、保護膜に有機樹脂成分を含有させることにより可撓性を得、保護膜に無機成分を含有させることにより水分バリア性を得ることができる。そして、保護膜を形成する塗布液中のポリシラザン成分とアクリル系樹脂成分との重量比を3:2〜1:9とすることにより、適度な可撓性を有しつつ、かつ水分バリア性も有する、耐久性が向上した有機無機ハイブリッド膜からなる保護膜3を具備する偏光板1を得ることができる。
【0048】
また、実施例1〜5の偏光板の保護膜は、表2に示すようにいずれも3〜4Hの鉛筆硬度を有しており、保護膜に傷が付きにくい。従って、表面の傷付きを防止するためのハードコート層を新たに設ける必要がなく、ハードコート層を設ける場合と比較して薄型化が可能となる。
【0049】
上述の塗布液において、塗布膜硬化処理時における反応性を高めるために、Au(金)、Ag(銀)、Pd(パラジウム)、Ni(ニッケル)などの金属微粒子やトリエチルアミン、トリペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン及びトリオクチルアミンなどのアミン化合物などの触媒成分を添加してもよい。これにより反応温度を低下させることができ、偏光フィルムが熱変形したり偏光特定を劣化させることなく塗布膜を硬化させることができる。
【0050】
また、ポリシラザンは水や水酸基と反応するため、溶剤としてはベンゼン、トルエン、キシレン、エーテル、THF、塩化メチレン、四塩化炭素などの溶剤に溶解して溶液化されるが、塗布対象物となるポリビニルアルコール系樹脂を基材フィルムとする偏光フィルム2は、これらの溶剤には不溶又は難溶であるため、塗布液の塗布によって偏光フィルム2が侵されることがない。例えば有機無機ハイブリッド膜の成膜方法としてアルコキシシランの加水分解液によるゾルゲル法を用いることも可能であるが、工程中用いられる溶液に水分が含まれており、この水分が偏光フィルム2を溶解、膨潤させるため好ましくない。従って、ポリビニルアルコール系樹脂を基材フィルムとする偏光フィルム2に、本発明のようにポリシラザンを用いて有機無機ハイブリッド膜を成膜することによって、偏光フィルム2を侵すことがないので、偏光特性に優れた偏光板1を得ることができる。
【0051】
本実施形態において、ポリシラザン及びアクリル系樹脂の双方を溶解可能な溶剤を用いることが必要である。そのような溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素溶剤、ハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン、ハロゲン化ベンゼン等のハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。好ましい溶剤は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、1,2−ジオキシエタン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、セロソルブアセテート、カルビトールアセテート等のエーテル類、ペンタンヘキサン、イソヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素等がある。溶剤を使用する場合、アクリル系樹脂、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために、2種類以上の溶剤を混合してもよい。溶剤の使用量(割合)は採用するコーティング方法により作業性がよくなるように、また必要とする膜厚により適宜調整することができる。またポリシラザンの平均分子量、分子量分布、その構造によって異なるが、一般的には塗布液中の溶剤は99〜5重量%程度、固形分濃度が1〜95重量%の範囲で混合することができる。好ましくは固形分濃度5〜60重度%である。
【0052】
本実施形態では、ポリシラザンとしてペルヒドロポリシラザンを用いたがこれに限定されるものではない。例えば、次式Iの水素原子の一部をアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基などで置換したポリシラザン化合物を使用することも出来る。
−(SiHNH)− I
(式中、nは整数を表わし、好ましくは100〜50000程度のものを用いることができる)
【0053】
アクリル系樹脂としては、各種の樹脂が使用できるが、例えばアクリル酸エステル(アルコール残基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等を例示できる);メタクリル酸エステル(アルコール残基は上記と同じ)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の如きヒドロキシ含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド等の如きアミド基含有モノマー;N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等の如きアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等の如きエポキシ基含有モノマー、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、及びそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等の如きスルホン酸基又はその塩を含有するモノマー、クロトン酸、イタコン酸、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、及びそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等の如きカルボキシル基又はその塩を含有するモノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水物を含有するモノマー、その他ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等の単量体の組合せからつくられたものであるが、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体の如き(メタ)アクリル単量体の成分が50モル%以上含まれているものが好ましく、特にメタクリル酸メチルの成分を含有しているものが好ましい。
【0054】
本実施形態では、有機樹脂としてアクリル系樹脂を用いたが、これに限られるものではない。ポリシラザンとの相溶性、透明性、水分バリア性などが満たされればよく、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ハロトリフロロエチレンを含む共重合体、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンの共重合体などを用いることもできる。
【0055】
(偏光板の変形例)
【0056】
また、上述の実施形態における偏光板1では、偏光フィルム2の両面に保護膜3を設けたが、図2に示すように偏光フィルム2の一方の第1面2aのみに保護膜3を設けた偏光板101としてもよい。この偏光板101を液晶表示装置に組み込む場合、保護膜3を設けていない第2面2bが液晶セル側に位置するように偏光板101を配置すればよい。液晶表示装置においては、液晶セルを挟み込むように一対の偏光板が配置される。液晶セルは、離間して配置される2枚のガラス基板に液晶を挟持して構成されるが、ガラス基板は水分透過性がないため、液晶セル側から偏光板に侵入する水分は少なく、偏光板の液晶セルが配置される面とは反対の面側から侵入する水分がほとんどである。従って、液晶装置に組み込んだ状態で、偏光板の液晶セル側の面とは反対の面側に保護膜を設ければ、水分の侵入を抑制することができる。これにより液晶表示装置に偏光板101を組み込んだ場合でも、外部からの水分の侵入を保護膜3によって抑制することができる。また、偏光フィルム2の両面に保護膜3を形成する場合と比較して、生産工程を簡略化できるため、生産コスト面で有効である
【0057】
また、一般に液晶表示装置には、光学フィルムとして偏光板の他に視野角改善のための光学補償フィルムが設けられるが、図3に示す光学補償フィルム付偏光板201のように、図2に示す偏光板101の構造に加え、偏光フィルム2の第2面2b側に接着剤11を介して光学補償フィルム10を貼り付けても良い。この場合、偏光フィルム2の第2面2bが液晶セル側に位置するように、光学補償フィルム付偏光板201を液晶表示装置に組み込めば良い。
【0058】
また、図4に示す光学補償フィルム付偏光板301のように、図3に示す光学補償フィルム付偏光板201の構造に加え、保護膜3上に接着剤11を介して保護フィルム13を貼り付けても良い。このように保護フィルム13を設けることにより、面の傷付きを防止することができる。
【0059】
尚、図2〜図4における偏光板において、図1に示す偏光板と同様の構成については同様の符合を付し、また図2〜図4において共通の構成については同様の符合を付した。
【0060】
(液晶表示装置)
【0061】
図5を用いて、上述した製造方法により製造された偏光板1が組み込まれた表示装置としての液晶表示装置について説明する。ここでは透過型液晶装置を例にあげて説明するが、これに限定されるものではなく、反射型液晶装置や半透過型液晶装置などにも本発明の製造方法によって製造される偏光板を用いることができる。
【0062】
図5は液晶表示装置100が概略断面図である。
【0063】
図5に示すように、液晶表示装置100は、表示セルとしての液晶セル40と、液晶セル40を挟み込むように配置された一対の偏光板1と、液晶セル40の一方の面側に配置された照明装置50とを有する。液晶セル40は、所定の間隙をあけて配置された2枚のガラスなどからなる透明基板に液晶を挟持して構成される。また、必要に応じ、照明装置50側に配置される偏光板1とは反対側の偏光板1と液晶セル40との間に光学補償フィルム(図示せず)が設けられる。
【0064】
液晶表示装置100においては、上述した耐久性に優れた、偏光特性が安定した偏光板1を用いているので、安定した表示特性を有する液晶表示装置100を得ることができる。また、上述の偏光板1の代わりに図2〜図4に示す偏光板のいずれかを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態における偏光板の部分拡大断面図である。
【図2】本発明の他の偏光板を示す部分拡大断面図である。
【図3】本発明の更に他の偏光板を示す部分拡大断面図である。
【図4】本発明の更に他の偏光板を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明の液晶表示装置の概略断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における偏光板の製造方法を説明するためのフローチャート図である。
【符号の説明】
【0066】
1、101…偏光板、2…偏光フィルム、2a…第1面、2b…第2面、3…保護膜、40…液晶セル、100…液晶表示装置、201、301…光学補償フィルム付偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光素子上に、ポリシラザンと有機樹脂を溶剤中に溶解した塗布液を塗布して塗布膜を形成し、
前記塗布膜を反応硬化し有機無機ハイブリッド膜を形成する
偏光板の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の偏光板の製造方法であって、
前記有機樹脂はアクリル系樹脂である
偏光板の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の偏光板の製造方法であって、
前記塗布液中のポリシラザン成分と有機樹脂成分とは1:9〜3:2の重量比で前記溶剤中に溶解されている
偏光板の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の偏光板の製造方法であって、
前記偏光素子の基材フィルムはポリビニルアルコール系樹脂である
偏光板の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の偏光板の製造方法であって、
前記反応硬化は、
加熱処理後、湿度処理を行うことによりなされる
偏光板の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の偏光板の製造方法であって、
前記湿度処理は、
温度40℃以上80℃以下、湿度60%以上90%以下の条件下で行われる
偏光板の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の偏光板の製造方法であって、
前記加熱処理は、
温度60℃以上100℃以下の条件下で行われる
偏光板の製造方法。
【請求項8】
表示セルと、
対向する第1面と第2面を有する偏光素子と、前記第1面に設けられたポリシラザンと有機樹脂を溶剤中に溶解した溶液を塗布して形成された有機無機ハイブリッド膜とを有し、前記第2面が前記表示セル側に位置するように、前記表示セルを挟み込むように配置される一対の偏光板と
を具備する表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−169132(P2009−169132A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7594(P2008−7594)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】