説明

偏光板の製造方法

【課題】ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面のみに接着剤層を介して透明保護フィルムを積層した偏光板であって、耐久性に優れる偏光板を製造できる方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂からなり、寸法変化率が2.7%以下である偏光フィルムの一方の面のみに接着剤層を介して透明保護フィルムを積層する偏光板の製造方法。当該偏光板の製造方法において、透明保護フィルムが酢酸セルロース系樹脂フィルムであることが好ましく、また、偏光フィルムの他方の面にアクリル系樹脂からなる粘着剤層を形成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面に接着剤層を介して透明保護フィルムを積層して偏光板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置における偏光の供給素子として、また偏光の検出素子として、広く用いられている。かかる偏光板として従来より、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにトリアセチルセルロースからなる透明保護フィルムを接着したものが使用されているが、近年、液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などモバイル機器への展開、さらには大型テレビへの展開などに伴い、薄肉軽量化が求められている。また、携帯化により使用場所が広範囲にわたることから、同時に耐久性の向上も求められている。
【0003】
偏光フィルムは、一般的に、ポリビニルアルコール系樹脂にヨウ素などに代表される二色性色素を含浸させ、高倍率にて一軸延伸して製造されている。このため、偏光フィルムを乾熱環境下に晒すと収縮を伴う大きな寸法変化が生じてしまう。たとえば、特開平6−109922号公報(特許文献1)の表1に記載されるように、偏光フィルムを100℃にて2時間加熱した前後の寸法変化率を測定した場合、10%を超える大きな収縮が観察される。このため、通常、偏光フィルムの両面に接着剤層などを介して透明保護フィルムを積層して偏光板を製造することで、偏光フィルムの寸法変化を低減させている。特許文献1では、上記のような高い収縮率を示す偏光フィルムの両面にトリアセチルセルロースフィルムを積層し、偏光板としている。その偏光板を100℃にて2時間加熱した前後の寸法変化率も同じ表に記載されているが、偏光板の収縮率は2%以下となっており、トリアセチルセルロースフィルムを両面に積層することで収縮が抑制されていることが分かる。
【0004】
また、特開平6−59123号公報(特許文献2)の表1には、トリアセチルセルロースフィルムを偏光フィルムの両面に積層した偏光板を80℃にて4時間加熱した前後の寸法変化率が記載されているが、収縮率は0.3%以下となっており、やはりトリアセチルセルロースフィルムを両面に積層することで収縮が抑制されていることが分かる。
【0005】
しかしながら、近年、薄肉軽量化のため、偏光フィルムの一方の面だけに透明保護フィルムを積層させた偏光板も求められており、このような偏光板は、乾燥環境下に晒されたとき、偏光フィルムの収縮を抑制することができず不具合が生じ易い傾向にあった。このため、このように偏光フィルムの一方の面だけに透明保護フィルムを積層させた偏光板を、粘着剤を介して貼合した液晶セルを乾燥環境下に晒すと、偏光板端部の粘着剤が剥れたり、偏光板端部が盛り上がって画面表示を歪めたりすることがあった。
【特許文献1】特開平6−109922号公報
【特許文献2】特開平6−59123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面のみに接着剤層を介して透明保護フィルムを積層した偏光板であって、耐久性に優れる偏光板を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の偏光板の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂からなり、寸法変化率が2.7%以下である偏光フィルムの一方の面のみに接着剤層を介して透明保護フィルムを積層することを特徴とする。
【0008】
本発明の偏光板の製造方法における透明保護フィルムは、酢酸セルロース系樹脂フィルムであることが好ましい。
【0009】
また本発明の偏光板の製造方法においては、偏光フィルムの他方の面にアクリル系樹脂からなる粘着剤層を形成することが、好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面に透明保護フィルムが積層されている偏光板に比べ、偏光板の厚みを薄くしながらも、耐久性に優れた偏光板を工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の偏光板の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの一方の面のみに接着剤層を介して透明保護フィルムを積層することで、偏光板を製造する。本発明に用いられる偏光フィルムは、具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに一軸延伸および二色性色素による染色処理を施して、その二色性色素を吸着配向させたものである。本発明の偏光板の製造方法は、基本的には、(1)ポリビニルアルコール系樹脂を用いて、偏光フィルムを作製する偏光フィルム作製工程、(2)偏光フィルムと透明保護フィルムとを接着剤を用いて貼合し、積層フィルムを得る貼合工程、(3)積層フィルムを乾燥炉を通過させることにより乾燥させる乾燥工程を含む。本発明の偏光板の製造方法では、上記偏光フィルム作製工程を経て作製され、貼合工程に供する際の偏光フィルムの寸法変化率が2.7%以下であることを大きな特徴とするものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0012】
(1)偏光フィルム作製工程
偏光フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂は、通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99〜100モル%である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、たとえば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000〜10000の範囲内、好ましくは1500〜5000の範囲内である。
【0013】
これらのポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、たとえばアルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用し得る。通常、偏光フィルム製造の開始材料としては、厚みが20〜100μm、好ましくは30〜80μmのポリビニルアルコール系樹脂フィルムの未延伸フィルムを用いる。工業的には、フィルムの幅は1500〜4000mmが実用的である。この未延伸フィルムを、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理、水洗処理の順に処理し、ホウ酸処理までの工程で一軸延伸を施し、最後に乾燥して得られる偏光フィルムの厚みは、たとえば5〜50μmである。
【0014】
偏光フィルムの作製方法としては、大きく分けて2つの製造方法がある。第1の方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、空気あるいは不活性ガス中で一軸延伸後、膨潤処理工程、染色処理工程、ホウ酸処理工程および水洗処理工程の順に溶液処理し、最後に乾燥を行う方法である。第2の方法は、未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水溶液で膨潤処理工程、染色処理工程、ホウ酸処理工程および水洗処理工程の順に溶液処理し、ホウ酸処理工程および/またはその前の工程で湿式にて一軸延伸を行い、最後に乾燥を行う方法である。
【0015】
いずれの方法においても、一軸延伸は、1つの工程で行ってもよいし、2つ以上の工程で行ってもよいが、複数の工程で行うことが好ましい。延伸方法は、公知の方法を採用することができ、たとえばフィルムを搬送する2つのニップロール間に周速差をつけて延伸を行うロール間延伸、たとえば特許第2731813号に記載されたような熱ロール延伸法、テンター延伸法などがある。また、基本的に工程の順序は、上述のとおりであるが、処理浴の数や、処理条件などに制約はない。また、上記第1および第2の方法に記載されていない工程を別の目的で付加してもよい。かかる工程の例としては、ホウ酸処理後に、ホウ酸を含まないヨウ化物水溶液による浸漬処理(ヨウ化物処理)またはホウ酸を含まない塩化亜鉛などを含有する水溶液による浸漬処理(亜鉛処理)などが挙げられる。
【0016】
膨潤処理工程は、フィルム表面の異物除去、フィルム中の可塑剤除去、次工程での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で行われる。処理条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつ基材フィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。予め気体中で延伸したフィルムを膨潤させる場合には、たとえば20〜70℃、好ましくは30〜60℃の水溶液にフィルムを浸漬して行われる。フィルムの浸漬時間は、30〜300秒間、好ましくは60〜240秒間であある。はじめから未延伸の原反フィルムを膨潤させる場合には、たとえば10〜50℃、好ましくは20〜40℃の水溶液にフィルムを浸漬して行われる。フィルムの浸漬時間は、30〜300秒間、好ましくは60〜240秒間である。
【0017】
膨潤処理工程では、フィルムが幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るなどの問題が生じやすいため、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップなどの公知の拡幅装置でフィルムのシワを取りつつフィルムを搬送することが好ましい。浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)などを併用することも有用である。本工程では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、搬送方向のフィルムのたるみを無くすために、たとえば処理槽前後の搬送ロールの速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。また、使用する膨潤処理浴は、純水の他、ホウ酸(特開平10−153709号公報に記載)、塩化物(特開平06−281816号公報に記載)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などを0.01〜0.1重量%の範囲で添加した水溶液も使用可能である。
【0018】
二色性色素による染色処理工程は、フィルムに二色性色素を吸着、配向させるなどの目的で行われる。処理条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつ基材フィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、たとえば10〜45℃、好ましくは20〜35℃の温度条件下、重量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=0.003〜0.2/0.1〜10/100の濃度の水溶液を用いて、30〜600秒間、好ましくは60〜300秒間浸漬処理を行う。ヨウ化カリウムに代えて、他のヨウ化物、たとえばヨウ化亜鉛などを用いてもよい。また、他のヨウ化物をヨウ化カリウムと併用してもよい。さらに、ヨウ化物以外の化合物、たとえばホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合、ヨウ素を含む点で下記のホウ酸処理と区別される。水100重量部に対し、ヨウ素を0.003重量部以上含んでいるものであれば染色槽とみなすことができる。
【0019】
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合、たとえば20〜80℃、好ましくは30〜70℃の温度条件下、重量比で二色性染料/水=0.001〜0.1/100の濃度の水溶液を用いて、30〜600秒、好ましくは60〜300秒浸漬処理を行う。使用する二色性染料の水溶液は、染色助剤などを含有していてもよく、たとえば硫酸ナトリウムなどの無機塩、界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料は単独でもよいし、2種類以上の二色性染料を併用することもできる。
【0020】
上述したように、染色槽でフィルムを延伸させてもよい。延伸は染色槽の前後のニップロールに周速差を持たせるなどの方法で行われる。また、膨潤処理工程と同様に、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバーなどを、染色浴中および/または浴出入口に設置することもできる。
【0021】
ホウ酸処理は、水100重量部に対してホウ酸を1〜10重量部含有する水溶液に、二色性色素で染色したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することにより行われる。二色性色素がヨウ素の場合、ヨウ化物を1〜30重量部含有させることが好ましい。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛などが挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、たとえば塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどを共存させてもよい。
【0022】
ホウ酸処理は、架橋による耐水化や色相調整(青味がかるのを防止するなど)などのために実施される。架橋による耐水化のためにホウ酸処理が行われる場合には、必要に応じて、ホウ酸以外に、またはホウ酸と共に、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどの架橋剤も使用することができる。なお、耐水化のためのホウ酸処理を、耐水化処理、架橋処理、固定化処理などの名称で呼称する場合もある。また、色相調整のためのホウ酸処理を、補色処理、再染色処理などの名称で呼称する場合もある。
【0023】
このホウ酸処理は、その目的によって、ホウ酸およびヨウ化物の濃度、処理浴の温度を適宜変更して行われる。耐水化のためのホウ酸処理、色相調整のためのホウ酸処理は特に区別されるものではないが、下記の条件で実施することができる。原反フィルムを膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理する場合であって、ホウ酸処理が架橋による耐水化を目的としている場合には、水100重量部に対してホウ酸を3〜10重量部、ヨウ化物を1〜20重量部含有するホウ酸処理浴を使用し、通常、50〜70℃、好ましくは55〜65℃の温度で行われる。浸漬時間は、90〜300秒である。なお、予め延伸したフィルムに染色処理、ホウ酸処理を行う場合、ホウ酸処理浴の温度は、通常、50〜85℃、好ましくは55〜80℃である。
【0024】
耐水化のためのホウ酸処理の後、色相調整のためのホウ酸処理を行うようにしてもよい。たとえば、二色性染料がヨウ素の場合、この目的のためには、水100重量部に対してホウ酸を1〜5重量部、ヨウ化物を3〜30重量部含有するホウ酸処理浴を使用し、通常、10〜45℃の温度で行われる。浸漬時間は、通常、3〜300秒、好ましくは10〜240秒である。続く色相調整のためのホウ酸処理は、耐水化のためのホウ酸処理と比較して、通常、低いホウ酸濃度、高いヨウ化物濃度、低い温度で行われる。
【0025】
これらのホウ酸処理は複数の工程からなっていてもよく、通常、2〜5の工程で行われることが多い。この場合、使用する各ホウ酸処理槽の水溶液組成、温度は上述した範囲内で、同じであっても異なっていてもよい。上記耐水化のためのホウ酸処理、色相調整のためのホウ酸処理をそれぞれ複数の工程で行ってもよい。
【0026】
なお、ホウ酸処理工程においても、染色処理工程と同様にフィルムの延伸を行ってもよい。最終的な積算延伸倍率は、4〜7倍、好ましくは4.5〜6.5倍である。ここでいう積算延伸倍率は、原反フィルムの長さ方向基準長さが、全ての延伸処理終了後のフィルムにおいてどれだけの長さになったかを意味し、たとえば、原反フィルムにおいて1mであった部分が全ての延伸処理終了後のフィルムにおいて5mとなっていれば、そのときの積算延伸倍率は5倍となる。
【0027】
ホウ酸処理の後、水洗処理が行われる。水洗処理は、耐水化および/または色相調整のためにホウ酸処理したポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬、水をシャワーとして噴霧、あるいは浸漬と噴霧とを併用することによって行われる。水洗処理における水の温度は、通常、2〜40℃であり、浸漬時間は2〜120秒である。
【0028】
ここで、延伸処理後のそれぞれの工程において、フィルムの張力がそれぞれ実質的に一定になるように張力制御を行ってもよい。具体的には、染色処理工程で延伸を終了した場合、以後のホウ酸処理工程および水洗処理工程で張力制御を行う。染色処理工程の前工程で延伸が終了している場合には、染色処理工程およびホウ酸処理工程を含む以後の工程で張力制御を行う。ホウ酸処理工程が複数のホウ酸処理工程からなる場合には、最初または最初から2段目までのホウ酸処理工程で前記フィルムを延伸し、延伸処理を行ったホウ酸処理工程の次のホウ酸処理工程から水洗工程までのそれぞれの工程において張力制御を行うか、最初から3段目までのホウ酸処理工程で前記フィルムを延伸し、延伸処理を行ったホウ酸処理工程の次のホウ酸処理工程から水洗工程までのそれぞれの工程において張力制御を行うことが好ましいが、工業的には、最初または最初から2段目までのホウ酸処理工程で前記フィルムを延伸し、延伸工程を行ったホウ酸処理工程の次のホウ酸処理工程から水洗工程までのそれぞれの工程において張力制御を行うことがより好ましい。なお、ホウ酸処理後に、上述したヨウ化物処理または亜鉛処理を行う場合には、これらの工程についても張力制御を行うことができる。
【0029】
張力制御するためのニップロール、フィルムの搬送方向を制御するためのガイドロールとしては、ゴムロール、ステンレススチール製研磨ロール、スポンジゴムロールなどを用いることができる。ゴムロールとしては、NBRなどからなり、その硬度がJIS K 6301の試験方法で測定したJISショアCスケールで、60〜90度、さらには70〜80度、表面粗さがJIS B 0601(表面粗さ)の粗さ曲線の局部山頂の平均間隔Sで表して、0.1〜5S、さらには0.5〜1Sであることが好ましい。ステンレススチール製研磨ロールとしては、SUS304、SUS316などからなり、膜厚の均一化を図る上から、その表面粗さがJIS B 0601(表面粗さ)の粗さ曲線の局部山頂の平均間隔Sで表して0.2〜1Sであるものが好ましい。スポンジゴムロールとしては、スポンジの硬度がJIS K 6301の試験方法で測定したJISショアCスケールで20〜60度、さらには25〜50度、密度が0.4〜0.6g/m3、さらには0.42〜0.57g/cm3、そして表面粗さがJIS B 0601(表面粗さ)の粗さ曲線の局部山頂の平均間隔Sで表して、10〜30S、さらには15〜25Sであることが好ましい。
【0030】
膨潤処理から水洗処理までのそれぞれの工程における張力は同じであってもよく、異なっていてもよい、張力制御におけるフィルムへの張力は、特に限定されるものではなく、単位幅当たり、150〜2000N/m、好ましくは600〜1500N/mの範囲内で適宜設定される。張力が150N/mを下回ると、フィルムにシワなどができやすくなる。一方、張力が2000N/mを超えると、フィルムの破断やベアリングの磨耗による低寿命化などの問題が生じる。また、この単位幅当たりの張力は、その工程の入口付近のフィルム幅と張力検出器の張力値から算出する。なお、張力制御を行った場合に、不可避的に若干延伸・収縮される場合があるが、本発明においては、これは延伸処理に含めない。
【0031】
偏光フィルム作製工程の最後には、乾燥処理が行われる。乾燥処理は、張力を少しずつ変えて多くの段数で行う方が好ましいが、設備上の制約などから、通常、2〜3段で行われる。2段で行われる場合、前段における張力は600〜1500N/mの範囲から、後段における張力は250〜1200N/mの範囲から設定されることが好ましい。張力が大きくなりすぎると、フィルムの破断が多くなり、小さくなりすぎるとシワの発生が多くなり好ましくない。また、前段の乾燥温度を30〜90℃の範囲から、後段の乾燥温度を50〜100℃の範囲から設定することが好ましい。温度が高くなりすぎると、フィルムの破断が多くなり、また光学特性が低下し、温度が低くなりすぎるとスジが多くなり好ましくない。乾燥処理温度は、たとえば60〜600秒とすることができ、各段における乾燥時間は同一でも異なっていてもよい。時間が長すぎると、生産性の面で好ましくなく、時間が短すぎると乾燥が不十分になり好ましくない。
【0032】
本発明の偏光板の製造方法では、こうして偏光フィルム作製工程にて得られた偏光フィルムの寸法変化率が2.7%以下となるようにする。なお、当該偏光フィルムの寸法変化率は、試験片の一辺が偏光フィルムの延伸軸方向と平行になるように、100mm×100mmの大きさとした試験片の延伸軸方向に対し垂直な方向(TD方向)における初期寸法Aと、その試験片を85℃の乾熱環境下で96時間保持した後のTD方向における寸法Bとから、下記式により算出される。
【0033】
寸法変化率(%)=(A−B)/A×100
本発明の偏光板の製造方法において、貼合工程に供する際の偏光フィルムの寸法変化率が2.7%を超える場合には、偏光フィルムの片面に接着剤層を介して保護フィルムを積層した偏光板を、その偏光フィルム側で粘着剤を介して液晶セルなどに貼合した状態で乾熱環境下に晒したとき、偏光板端部の盛り上がりによる画像表示の歪みが目視で著しく観察され、また、その盛り上がりに伴って偏光板端部の粘着剤が剥れたりすることがある。なお、目視による歪みの程度は、変形した端部の盛り上がり高さ(端部における最も高い頂部における高さと主要部における水平面の高さとの差)と変形距離(端部から、主要部における水平面に対し凹凸が観察されない領域までの直線距離)により表すことができ、盛り上がり高さが高いほど、また変形距離が長いほど歪みが大きく観察される。
【0034】
本発明の偏光板の製造方法において、貼合工程に供する際の偏光フィルムの寸法変化率は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1%以下である。当該寸法変化率が1%以下であれば、上述した偏光板端部の盛り上がりによる画像表示の歪みが目視ではほとんど観察されなくなる。なお、貼合工程に供する際の偏光フィルムの寸法変化率は、通常、0%以上である。
【0035】
貼合工程に供する際の偏光フィルムの寸法変化率を上述のように低くする方法としては、たとえば、偏光フィルムを高温(好適には80〜100℃)にて乾燥する方法、低張力の状態(好適には250〜400N/m)で上記高温にて乾燥する方法、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)を高くする方法(たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含まれる可塑剤の量を少なくする方法や、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度がポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度よりも高いモノマーを共重合させる方法)、偏光フィルム中のホウ素含有量をホウ酸架橋の効果を損なわない範囲で少なくする方法(たとえば、ホウ酸処理を少なくとも2段に分けて行い、最後の処理浴のホウ酸濃度を最初の処理浴のホウ酸濃度よりも低くする方法)、ホウ酸処理による架橋を促進させる方法(たとえば、ホウ酸処理の温度を高めの設定する方法や、ホウ酸処理浴における延伸倍率を高くする方法)などから選ばれる少なくともいずれかが挙げられる。
【0036】
また、本発明の偏光板の製造方法において、偏光フィルム作製工程を経て得られる偏光フィルムは、その水分率については特に制限されないが、好ましくは3〜14重量%の範囲内であり、より好ましくは3〜10重量%の範囲内、特に好ましくは3〜8重量%の範囲内である。偏光フィルムの水分率が3重量%未満である場合には、偏光フィルムが脆くなり、延伸方向に沿って裂けやすくなってハンドリングが困難になりやすく、また、偏光フィルムの水分率が14重量%を超える場合には、偏光フィルムが乾熱環境下にて収縮しやすくなる虞がある。なお、偏光フィルムの水分率は、たとえば105℃乾熱下で1時間保持した前後の重量変化から算出することができる。上述した好適な範囲内の水分率を有する偏光フィルムは、たとえば偏光フィルムの乾燥温度および乾燥時間を制御することで得ることができる。
【0037】
こうして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色処理およびホウ酸処理が施されて、偏光フィルムが得られる。この偏光フィルムの厚みは、通常、5〜40μmの範囲内である。
【0038】
(2)貼合工程
続く貼合工程では、上述した偏光フィルム作製工程で得られた偏光フィルムの一方の面に、接着剤層を介して透明保護フィルムが積層され、偏光板とされる。透明保護フィルムとしては、たとえば、シクロオレフィン系樹脂フィルム、酢酸セルロース系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルムなど、当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。
【0039】
本発明の偏光板における透明保護フィルムに用いられ得るシクロオレフィン系樹脂とは、たとえばノルボルネン、多環ノルボルネン系モノマーのような、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する熱可塑性の樹脂(熱可塑性シクロオレフィン系樹脂とも呼ばれる)である。本発明において、シクロオレフィン系樹脂は、上記シクロオレフィンの開環重合体または2種以上のシクロオレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物であってもよく、シクロオレフィンと鎖状オレフィン、ビニル基を有する芳香族化合物などとの付加重合体であってもよい。また、極性基が導入されているものも有効である。
【0040】
シクロオレフィンと鎖状オレフィンまたは/およびビニル基を有する芳香族化合物との共重合体を用いる場合、鎖状オレフィンとしては、エチレン、プロピレンなどが挙げられ、またビニル基を有する芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。このような共重合体において、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットが50モル%以下(好ましくは15〜50モル%)であってもよい。特に、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとビニル基を有する芳香族化合物との三元共重合体を用いる場合、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットは、上述したように比較的少ない量とすることができる。かかる三元共重合体において、鎖状オレフィンからなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%、ビニル基を有する芳香族化合物からなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%である。
【0041】
シクロオレフィン系樹脂は、適宜の市販品、たとえばTopas(Ticona社製)、アートン(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(ZEONEX)(日本ゼオン(株)製)、アペル(三井化学(株)製)などを好適に用いることができる。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。また、たとえばエスシーナ(積水化学工業(株)製)、SCA40(積水化学工業(株)製)、ゼオノアフィルム((株)オプテス製)などの予め製膜されたシクロオレフィン系樹脂製のフィルムの市販品を用いてもよい。
【0042】
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一軸延伸または二軸延伸されたものであってもよい。延伸することで、シクロオレフィン系樹脂フィルムに任意の位相差値を付与することができる。延伸は、通常、フィルムロールを巻き出しながら連続的に行われ、加熱炉にて、ロールの進行方向、その進行方向と垂直の方向、あるいはその両方へ延伸される。加熱炉の温度は、通常、シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度近傍からガラス転移温度+100℃の範囲が、採用される。延伸の倍率は、通常1.1〜6倍、好ましくは1.1〜3.5倍である。
【0043】
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、ロール状態にあると、フィルム同士が接着してブロッキングを生じ易い傾向にあるので、通常は、プロテクトフィルムを貼合してロール巻きとされる。またシクロオレフィン系樹脂フィルムは、一般に表面活性が劣るため、偏光フィルムと接着させる表面には、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を行うのが好ましい。中でも、比較的容易に実施可能なプラズマ処理、コロナ処理が好適である。
【0044】
また本発明の偏光板における透明保護フィルムに用いられ得る酢酸セルロース系樹脂は、セルロースの部分または完全酢酸エステル化物であって、たとえばトリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。このようなセルロースエステル系樹脂のフィルムとしては、適宜の市販品、たとえばフジタックTD80(富士フィルム(株)製)、フジタックTD80UF(富士フィルム(株)製)、フジタックTD80UZ(富士フィルム(株)製)、KC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)、KC8UY(コニカミノルタオプト(株)製)などを好適に用いることができる。
【0045】
また、本発明の偏光板においては、位相差特性を付与した酢酸セルロース系樹脂フィルムも好適に用いられ、かかる位相差特性が付与された酢酸セルロース系樹脂フィルムの市販品としては、WV BZ 438(富士フィルム(株)製)、KC4FR−1(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。酢酸セルロースは、アセチルセルロースとも、セルロースアセテートとも呼ばれる。
【0046】
酢酸セルロース系樹脂フィルムの表面には、用途に応じて、防眩処理、ハードコート処理、帯電防止処理、反射防止処理などの表面処理が施されてもよい。また、視野角特性を改良するため液晶層などを形成させてもよい。また位相差を付与するためセルロース系樹脂フィルムを延伸させてもよい。また、このセルロース系樹脂フィルムは、偏光フィルムとの接着性を高めるため、通常はケン化処理が施される。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が採用できる。
【0047】
本発明の偏光板の製造方法に用いられる透明保護フィルムは、上述した中でも、酢酸セルロース系樹脂フィルムが好ましい。偏光フィルムと保護フィルムとの接着には、水系接着剤を使用することが従来から行われており、酢酸セルロース系樹脂フィルムは透湿度が高く、接着処理後の水系接着剤から水分を効果的に除去する上で好ましい。また、酢酸セルロース系樹脂フィルムは、偏光板の保護フィルムとして最も一般的に使用されている材料であるため、付加機能(表面処理層や液晶化合物などのコーティング層を形成することで付与される)を有するグレードも数多く存在しており、各種用途への展開がしやすい。
【0048】
透明保護フィルムは、ロール状態にあると、フィルム同士が接着してブロッキングを生じ易い傾向にあるので、ロール端部に凹凸加工を施したり、端部にリボンを挿入したり、プロテクトフィルムを貼合したりしてロール巻きとされる。
【0049】
透明保護フィルムの厚みは薄いものが好ましいが、薄すぎると、強度が低下し、加工性に劣るものとなる。一方、厚すぎると、透明性が低下したり、積層後に必要な養生時間が長くなったりするなどの問題が生じる。したがって、透明保護フィルムの適当な厚みは、たとえば5〜200μmであり、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜100μmである。
【0050】
本発明の偏光板の製造方法において、偏光フィルムと透明保護フィルムとは、水溶媒系接着剤、有機溶媒系接着剤、ホットメルト系接着剤、無溶剤型接着剤などを用いた接着剤層を介して貼合される。水溶媒系接着剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などが、有機溶媒系接着剤としては、たとえば二液型ウレタン系接着剤などが、無溶剤型接着剤としては、たとえば一液型ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤などが、それぞれ挙げられる。
【0051】
偏光フィルムとの接着面がケン化処理などで親水化処理された酢酸セルロース系樹脂フィルムを透明保護フィルムとして用いる場合、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液が接着剤として好適に用いられる。接着剤として用いるポリビニルアルコール系樹脂には、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるビニルアルコール系共重合体、さらにそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などがある。この接着剤には、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物などが添加剤として添加されていてもよい。このような水系の接着剤を用いた場合、それから得られる接着剤層は、通常1μm以下となり、通常の光学顕微鏡で断面を観察しても、その接着剤層は事実上観察されない。
【0052】
偏光フィルムと透明保護フィルムとを貼合する方法は特に制限されるものではなく、たとえば偏光フィルムおよび/または透明保護フィルムの表面に接着剤を均一に塗布し、塗布面にもう一方のフィルムを重ねてロールなどにより貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。通常、接着剤は、その調製後、15〜40℃の温度下で塗布され、貼合温度は、通常15〜30℃程度の範囲である。
【0053】
(3)乾燥工程
水系接着剤を使用する場合は、偏光フィルムと透明保護フィルムとを貼合した後、水系接着剤中に含まれる水を除去するため、積層フィルムを乾燥させる。乾燥は、適切な温度に保持された乾燥炉を連続的に通過させることにより行われる。このような乾燥は、特に限定されないが、たとえば、乾燥炉内を連続して通過させながら、乾燥後の偏光板をロール状に巻き取っていくことにより行うことができる。
【0054】
乾燥炉の温度は、30〜60℃とするのが好ましい。本発明の製造方法によって製造される偏光板は、偏光フィルムの一方の面のみに透明保護フィルムを積層する構成であるため、乾燥炉の温度が60℃を超える場合には、偏光フィルムの収縮に起因する著しい彎曲が生じる虞がある。また、乾燥炉の温度が30℃未満である場合には、偏光フィルムと透明保護フィルムとの間で剥離しやすくなる傾向がある。乾燥炉の温度は、35℃以上であることがより好ましい。
【0055】
乾燥炉における積層フィルムの滞留時間は、たとえば10〜1000秒とすることができ、特に生産性の観点からは、好ましくは60〜750秒、さらに好ましくは150〜600秒である。
【0056】
乾燥後はさらに、室温またはそれよりやや高い温度、たとえば20〜50℃程度の温度で12〜600時間程度養生することもできる。養生の際の温度は、乾燥時に採用した温度よりも低く設定されるのが一般的である。
【0057】
(4)偏光板製造におけるその他の工程
上述のような本発明の製造方法によって製造された偏光板は、偏光フィルムの他方の面(すなわち、透明保護フィルムが積層された側の面とは反対側の面)にアクリル系樹脂からなる粘着剤層が形成されてなることが好ましい。この粘着剤は、23〜80℃の温度範囲において0.15〜1MPaの貯蔵弾性率を有するものが好ましく、このような粘着剤層は、従来から液晶表示装置用に用いられてきた種々の粘着剤、たとえばアクリル系、ゴム系、ウレタン系、シリコーン系、ポリビニルエーテルなどの粘着剤を用いて形成することができる。また、エネルギー線硬化型、熱硬化型の粘着剤を用いてもよく、これらの中でも、透明性、耐候性、耐熱性などに優れるアクリル系樹脂をベースポリマーとした粘着剤が好適である。
【0058】
アクリル系粘着剤は特に制限されるものではないが、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステル系ベースポリマーや、これらの(メタ)アクリル酸エステルなどを2種類以上用いた共重合系ベースポリマーが好適に用いられる。さらに、これらのベースポリマー中に極性モノマーが共重合されている。極性モノマーとしては、たとえば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートのような、カルボキシ基、水酸基、アミド基、アミン基、エポキシ基などの官能基を有するモノマーを挙げることができる。
【0059】
これらのアクリル系粘着剤は、単独でも勿論使用可能であるが、通常は架橋剤が併用される。架橋剤としては、2価または多価の金属塩であって、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成するもの、ポリアミン化合物であって、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するもの、ポリエポキシ化合物やポリオール化合物であって、カルボキシル基との間でエステル結合を形成するもの、ポリイソシアネート化合物であって、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するものなどが例示される。中でも、ポリイソシアネート化合物が、有機系架橋剤として広く使用されている。
【0060】
エネルギー線硬化型粘着剤とは、紫外線や電子線などのエネルギー線の照射を受けて硬化する性質を有しており、エネルギー線照射前においても粘着性を有してフィルムなどの被着体に密着し、エネルギー線の照射により硬化して密着力の調整ができる性質を有する粘着剤である。エネルギー線硬化型粘着剤としては、特に紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。エネルギー線硬化型粘着剤は、一般にはアクリル系粘着剤と、エネルギー線重合性化合物とを主成分とする。通常は、さらに架橋剤が配合されており、また必要に応じて、光重合開始剤や光増感剤を配合することもできる。
【0061】
粘着剤組成物には、上述したベースポリマーおよび架橋剤のほか、必要に応じて、粘着剤の粘着力、凝集力、粘性、弾性率、ガラス転移温度などを調整するために、たとえば天然物や合成物である樹脂類、粘着性付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、消泡剤、腐食抑制剤、光重合開始剤などの適宜の添加剤を配合することもできる。さらに微粒子を含有させて、光散乱性を示す粘着剤層とすることもできる。
【0062】
粘着剤層の厚みは1〜40μmであることが好ましいが、本発明の目的である薄型偏光板を得るためには加工性、耐久性の特性を損なわない範囲で、薄く塗ることが望ましく、良好な加工性を保ち、且つ偏光子の寸法変化を押さえる点から、より好ましくは3〜25μmである。粘着剤層が薄すぎると粘着性が低下し、厚すぎると粘着性がはみ出すなどの不具合を生じ易くなる。
【0063】
本発明における粘着剤層の形成に用いられる粘着剤は、上述したように上記粘着剤は、23〜80℃の温度範囲における貯蔵弾性率がいずれも0.15〜1MPaであることが好ましい。通常の画像表示装置またはそれ用の光学フィルムに用いられている感圧接着剤は、その貯蔵弾性率が高々0.1MPa程度であり、それに比べ、本発明に用いられる粘着剤の好ましい貯蔵弾性率0.15〜1MPaは高い値となる。なお、貯蔵弾性率は、市販の粘弾性測定装置、たとえばDYNAMIC ANALYZER RDA II(REOMETRIC社製)を用いて測定することができる。
【0064】
本発明の偏光板の製造方法では、上述した範囲内の通常の粘着剤よりも高い貯蔵弾性率を有する粘着剤を用いることで、高温環境下において発生する偏光フィルムの収縮に伴う寸法変化を小さく抑えることができ、良好な耐久性を有する偏光板を好適に製造することが可能となる。
【0065】
なお、本発明の偏光板の製造方法において、粘着剤層を偏光フィルムに形成する方法としては特に制限されるものではなく、偏光フィルムの他方の面に、上記したベースポリマーをはじめとする各成分を含む溶液を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成した後、シリコーン系などの離型処理が施されているセパレータを積層して得てもよいし、セパレータ上に粘着剤層を形成した後、偏光フィルムに転写して積層してもよい。また、粘着剤層を偏光フィルムに形成する際には、必要に応じて偏光フィルムおよび粘着剤層の少なくとも一方に密着処理、たとえばコロナ処理などを施してもよい。なお、形成された粘着剤層の表面は通常、離型処理が施されたセパレータフィルムで保護されており、セパレータフィルムは、液晶セルや他の光学フィルムなどへこの偏光板を貼合する前に剥がされる。
【0066】
上記のようにして製造される偏光板は、その保護フィルム面または粘着剤層面に、偏光板以外の光学機能を有する光学フィルムを積層してもよい。かかる光学フィルムの例としては、基材表面に液晶性化合物が塗布され、配向されている光学補償フィルム、ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルム、ポリカーボネート系樹脂からなる位相差フィルム、環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルム、表面に凹凸形状を有する防眩機能付きフィルム、表面反射防止機能付きフィルム、表面に反射機能を有する反射フィルム、反射機能と透過機能とを併せ持つ半透過反射フィルムなどが挙げられる。基材表面に液晶性化合物が塗布され、配向されている光学補償フィルムに相当する市販品としては、WVフィルム(富士フィルム(株)製)、NHフィルム(新日本石油(株)製)、NRフィルム(新日本石油(株)製)などが挙げられる。ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルムに相当する市販品としては、たとえばDBEF(3M社製、日本では住友スリーエム(株)から入手できる)、APF(3M社製、日本では住友スリーエム(株)から入手できる)などが挙げられる。また、環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムに相当する市販品としては、たとえばアートンフィルム(JSR(株)製)、エスシーナ(積水化学工業(株)製)、ゼオノアフィルム((株)オプテス製)などが挙げられる。
【0067】
このような他の光学フィルムを上記した偏光板の保護フィルム側に設ける場合は、通常両者が粘着剤を介して積層される。この場合の粘着剤には、上で説明したのと同様のものを用いることができるが、貯蔵弾性率はさほど大きくなくてもよい。また、他の光学フィルムを上記した偏光板の粘着剤層側に設ける場合は、その粘着剤層により、光学フィルムが接着される。この場合は、その光学フィルムの外側に、液晶セルへの貼合のための粘着剤層を設けるのが通例である。
【0068】
本発明の製造方法により製造された粘着剤層付きの偏光板は、通常、大型のロール材料やシート材料の形態を有しており、所望の形状と透過軸を有する偏光板を得るためには、鋭利な刃を持った切断工具により切断(チップカット)される。このため、切断して得られる偏光板チップには、外周端部において偏光フィルムが外部へ露出した状態が生じてしまう。
【0069】
この状態の偏光板チップを、たとえばヒートショック試験などの耐久性試験にかけると、一般的に使用されている偏光板、すなわち、偏光フィルムの両面をセルロース系樹脂フィルムなどで保護した偏光板に比べ、剥離やクラックといった不具合が生じ易い傾向にある。このような不具合を回避するため、本発明で得られた偏光板チップは、外周端面をフライカット法などで連続的に切削する方が好ましい。
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。
【0071】
<実施例1>
(A)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、乾式で約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態に保ったまま、60℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.1/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が10.5/7.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬した。引き続き10℃の純水で5秒間洗浄した後、90℃で180秒間乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。
【0072】
(B)接着剤の調製
別途、100部の水に、完全ケン化ポリビニルアルコール(クラレポバール117H、(株)クラレ製)3部、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(ゴーセファイマーZ−200、日本合成化学工業(株)製)3部、塩化亜鉛(ナカライテスク(株)より販売)0.18部、グリオキザール(ナカライテスク(株)より販売)1.4部を溶解させて、ポリビニルアルコール系樹脂接着剤を調製した。
【0073】
(C)偏光板の作製
先に得られた偏光フィルムの一方の面に、ケン化処理が施されたトリアセチルセルロースからなる厚み40μmのフィルム(KC4UY、コニカミノルタオプト(株)製)を上記接着剤を介して、ニップロールにより貼合した。貼合物の張力を320N/mの保ちながら、38℃で5分間乾燥して、偏光板を得た。
【0074】
(D)粘着剤層の形成
アクリル酸ブチルとアクリル酸の共重合体にウレタンアクリレートオリゴマ−およびイソシアネート系架橋剤が添加された粘着剤層が、離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の離型処理面に、15μmの厚みで形成されたシート状粘着剤を用い、粘着剤層を形成した。粘着剤層の貯蔵弾性率は、23℃において0.41MPa、80℃において0.22MPaであった。上述のように作製された偏光板の偏光フィルムの他方の面に、当該シート状粘着剤を貼り合わせて、粘着剤付き偏光板とした。
【0075】
(E)位相差フィルムの積層
ノルボルネン系樹脂の延伸フィルムからなり、光の波長λに対してλ/4である140nmの面内位相差を有し、厚みが25μmの位相差フィルム(エスシーナフィルム、積水化学工業(株)製)の片面に、シート状のアクリル系粘着剤を貼り合わせて、粘着剤付き位相差フィルムとした。このアクリル系粘着剤の貯蔵弾性率は、23℃において0.05MPa、80℃において0.04MPaであった。上記(D)で作製した粘着剤付き偏光板の粘着剤面に、上記粘着剤付き位相差フィルムの位相差フィルム面(粘着剤層が形成されていない面)を貼合して、位相差機能が付与された粘着剤付き偏光板を作製した。
【0076】
上記(E)で作製した位相差機能が付与された粘着剤付き偏光板を40mm×40mmのサイズにカットし、位相差フィルムの外側に設けられた粘着剤層でガラスに貼合して評価サンプルとした。
【0077】
<実施例2〜5および比較例>
表1に示すように、偏光フィルムの乾燥温度と時間を変化させて偏光フィルムを作製し、実施例1と同様に粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0078】
<参考例>
ポリビニルアルコールフィルムに、染色処理、ホウ酸処理および水洗を施した後の乾燥条件を、90℃で140秒に変更した以外は、実施例1の(A)と同様にして、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。この偏光フィルムの両面に、実施例1の(B)で調製したポリビニルアルコール系接着剤を介して、実施例1の(C)で用いたのと同じケン化処理が施されたトリアセチルセルロースからなる厚さ40μmのフィルムをニップロールにより貼合した。貼合物の張力を320N/mに保ちながら、50℃で5分間乾燥して、偏光板を得た。
【0079】
得られた偏光板の片面に、実施例1の(E)で用いたのと同じ、23℃における貯蔵弾性率が0.05MPaで80℃における貯蔵弾性率が0.04MPaのアクリル系粘着剤フィルムを貼り合わせて、粘着剤層付き偏光板とした。その粘着剤面に、実施例1の(E)で用いたのと同じ、23℃における貯蔵弾性率が0.05MPaで80℃における貯蔵弾性率が0.04MPaのアクリル系粘着剤層が片面に設けられた位相差フィルムの位相差フィルム面(粘着剤層が形成されていない面)を貼合して、位相差機能が付与された粘着剤付き偏光板を作製した。
【0080】
<評価試験>
実施例、比較例および参考例で各偏光板を作製する際に、トリアセチルセルロースからなるフィルムに貼合する前の偏光フィルムから、試験片の一辺が偏光フィルムの延伸軸方向と平行になるように、100mm×100mmの大きさとした試験片を切り出し、当該試験片の延伸軸方向に対し垂直な方向(TD方向)における初期寸法Aと、その試験片を85℃の乾熱環境下で96時間保持した後のTD方向における寸法Bとから、下記式により偏光フィルムの寸法変化率を算出した。
【0081】
寸法変化率(%)=(A−B)/A×100
また、実施例、比較例および参考例で作製した各粘着剤層付き偏光板について、85℃の乾熱環境下にて96時間保持し、偏光板端部の変形状態として、TD方向における端部の変形距離(端部から、主要部における水平面に対し凹凸が観察されない領域までの直線距離)(mm)、TD方向における端部の盛り上がり高さ(端部における最も高い頂部における高さと主要部における水平面の高さとの差)(μm)を測定するとともに、当該端部の歪みを目視観察にて評価した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示す結果から、比較例のように透明保護フィルム貼合直前の偏光フィルムの寸法変化率が2.7%を超える場合には、変形が大きく、目視観察で反射光が歪んで見えたことが分かる。なお、参考例のように、偏光フィルムの両面に透明保護フィルムを貼合した場合は、貼合直前の偏光フィルムの寸法変化率が大きくても、変形が少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなり、寸法変化率が2.7%以下である偏光フィルムの一方の面のみに接着剤層を介して透明保護フィルムを積層する、偏光板の製造方法。
【請求項2】
透明保護フィルムが酢酸セルロース系樹脂フィルムである、請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
偏光フィルムの他方の面にアクリル系樹脂からなる粘着剤層を形成する、請求項1または2に記載の偏光板の製造方法。

【公開番号】特開2009−109860(P2009−109860A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283609(P2007−283609)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】