偏光無依存可変焦点レンズ
【課題】入射光の偏光に依存せず、焦点距離の変更を高速に行うことができる可変焦点レンズを提供する。
【解決手段】反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、第1の基本単位素子と、該第1の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、該偏光回転素子を透過した光を、前記第1の基本単位素子と同一方向に集光するように配置された第2の基本単位素子とを備えた。
【解決手段】反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、第1の基本単位素子と、該第1の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、該偏光回転素子を透過した光を、前記第1の基本単位素子と同一方向に集光するように配置された第2の基本単位素子とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズに関し、より詳細には、電気光学効果を有する光学材料を用いて、焦点距離を変更可能とした可変焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズ、プリズムなどの光学部品は、カメラ、顕微鏡、望遠鏡などの光学機器、プリンタ、コピー機など電子写真方式の記録装置、DVDなどの光記録装置、通信用、工業用の光デバイス等に用いられている。通常の光学レンズは、焦点距離が固定されているが、上述の機器、装置の中には、状況に応じて焦点距離を調整することのできるレンズ、いわゆる可変焦点レンズを用いる場合がある。従来の可変焦点レンズは、複数のレンズを組み合わせて、機械的に焦点距離を調整する。しかしながら、このような機械式の可変焦点レンズは、応答速度・製造コスト・小型化・消費電力などの点から、適用範囲を広げることには限界があった。
【0003】
そこで、光学レンズを構成する透明媒質に、屈折率を可変できる物質を適用した可変焦点レンズ、光学レンズの位置を動かすのではなく、機械的に光学レンズの形状を変形させる可変焦点レンズなどが考え出された。前者の可変焦点レンズとして、光学レンズとして液晶を利用した可変焦点レンズが提案されている。この可変焦点レンズは、2枚のガラス板で液晶を挟み込むなどして、透明物質でできた容器に液晶を封じ込めている。この容器の内側を球面上に加工して、液晶をレンズ形状に成形すると、可変焦点レンズを構成することができる。この容器の内側には透明電極が設けられ、液晶に電界をかけることによって屈折率を制御し、焦点距離を可変制御する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
後者の可変焦点レンズとして、変形するレンズの材料は、液体が用いられることが多い。例えば、非特許文献1に記載された可変焦点レンズは、ガラス板に挟まれた空間に、シリコンオイルなどの液体を封入した構造を有している。ガラス板は、薄く加工されており、外部からチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)ピエゾアクチュエータによって、ガラス板に圧力をかけることにより、オイルとガラス板全体で構成されるレンズを変形させ、焦点位置を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−64817号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金子卓他、「可変焦点レンズを用いた長焦点深度視覚機構」、デンソーテクニカルレビュー、Vol.3, No.1, p.52-58, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の可変焦点レンズは、機械的に焦点距離を調整する可変焦点レンズ、液晶に電界をかけて屈折率を制御する可変焦点レンズ、およびPZTピエゾアクチュエータによりレンズを変形させる可変焦点レンズのいずれも、焦点距離を変更するのに要する応答速度に限界があり、1ms以下の高速応答に適用することができないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、入射光の偏光に依存せず、焦点距離の変更を高速に行うことができる可変焦点レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明の一実施態様は、反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、第1の基本単位素子と、該第1の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、該偏光回転素子を透過した光を、前記第1の基本単位素子と同一方向に集光するように配置された第2の基本単位素子とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記電気光学材料は、ペロブスカイト型単結晶材料が好適であり、典型的にはタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbxO3、0<x<1)を用いることができる。また、前記電気光学材料は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことができ、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、電気光学材料の表面に形成された2組の電極とを備え、電極対の間の印加電圧を変えることにより、出射された光の焦点を可変することができる可変焦点レンズを構成し、この可変焦点レンズを1対または2対と半波長板を配置することにより、偏光の向きによらない可変焦点レンズを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの原理を説明するための図である。
【図3】第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの光路長の例を示す図である。
【図4】可変焦点レンズの偏光無依存化の例を示す図である。
【図5】2つの数値計算法による可変焦点レンズの光路長分布の違いを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図9】本発明の第6の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図10】本発明の第8の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図11】本発明の第9の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図12】実施例3にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の可変焦点レンズは、電気光学材料と、これに取付けた電極から構成される。電気光学効果を利用することにより、従来の可変焦点レンズと比較して、はるかに高速な応答速度を得ることができる。
【0014】
本発明は、偏光依存の可変焦点レンズを2つ以上組み合わせて、偏光に依存しない可変焦点レンズを提供する。最初に、構成単位である偏光依存の可変焦点レンズについて説明する。
【0015】
(シリンドリカル可変焦点レンズの構成)
図1に、本発明の第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電気光学材料を板状に加工した基板1の上面(第1の面)および下面(第2の面)に、帯状の電極4つが形成されている。光の入射側の上部電極として陽極2(第1の陽極)、基板1を挟んで下部電極として陰極3(第1の陰極)が配置されている。さらに、これら電極対とは間隔を置き、光の出射側にもう一対の電極が配置されおり、上部電極が陰極4(第2の陰極)であり、下部電極が陽極5(第2の陽極)である。帯状の4つ電極は、長手方向の辺がすべて平行となる形状を有している。
【0016】
光は、電極を配置した面と直交する面(第3の面)から入射され、基板1の内部をx軸方向に進行し、陽極2と陰極3の間を、これらの帯状電極の長手方向とは垂直な方向に透過する。次いで、陰極4と陽極5との間を透過してから、入射した面と対向する面(第4の面)から空気中へと出射するように設定する。
【0017】
このような構成において、陽極と陰極との間に電圧を印加する。光の入射側の電極対と光の出射側の電極対とは、電圧をかける向き(z軸方向)が互いに逆になっている。陽極2と陽極5との電位は異なっていてもよく、陰極3と陰極4の電位も同様である。なお、陽極2,5の低いほうの電位は、陰極3,4の高いほうの電位よりも高くなるように設定する。
【0018】
このとき、これら電極の間には電界の分布が発生し、基板1の有する電気光学効果によって屈折率が変調される。屈折率の変調された部分を光が透過する時、この屈折率分布によって光は屈曲させられ、その結果、光は集光あるいは発散させられる。集光される場合、図1の構造によれば、シリンドリカル凸レンズとして機能し、発散される場合は、シリンドリカル凹レンズとして機能する。このようにして、光は、1軸方向に集光または発散されるので、1軸変調という。また、印加する電圧によって光の屈曲の度合いが変化するので、焦点距離を電圧によって制御することができる。
【0019】
電気光学効果は、電圧の印加から遅く見積もっても1μs以下の時間で応答するので、従来の可変焦点レンズよりも著しく高速に応答する可変焦点レンズを実現することができる。以上説明したように、図1に示した素子はシリンドリカル可変焦点レンズであり、様々なレンズを構成する基本単位となる。通常の球面レンズを実現するためには、基本単位素子として、2つのシリンドリカル可変焦点レンズと、その間に挿入された半波長板とを組み合わせ、2つの基本単位素子を、光軸を中心に互いに90度の角度をなすように配置する。このようにして、光は、2軸方向に集光または発散されるので、2軸変調という。なお、本実施形態では基板1の材料として、電気光学効果を有する材料の中でも、特に反転対称性を有する結晶からなる材料を用いることを特徴としており、その理由については後述する。
【0020】
以下、図2を参照して、屈折率の変調の様子とレンズとしての機能を詳述する。図2は、図1に示した可変焦点レンズの側面をy軸方向から見た様子を示している。基板1は、4つの電極に電圧を印加しない時には、屈折率が均一であるため、光はそのまま変調を受けずに透過する。従って、レンズの機能はない。しかし、平面波を入射したときには、基板1から出射される光の波面は平面のままで、曲率半径は無限大であることを考慮すると、焦点距離無限大のレンズとみなすこともできる。
【0021】
4つの電極に電圧を印加した時には、これらの電極の間に、図2に示したような電気力線6が発生する。電気力線6は、陽極2と陰極3との間、陰極4と陽極5との間のみならず、これらの電極の外側にも大きく広がって生成される。電気力線が生成されているということは、言い換えると電界が発生している。このとき、基板1が電気光学効果を有するため、基板1内部の電界が発生している箇所では屈折率が変調される。基板1の内部において、4つの電極の付近、すなわち基板1の表面付近では、電界が大きく、屈折率変化が大きい。これに対して基板1の中央部分(すべての軸方向における中央付近)では、電界が比較的小さく、屈折率変化が小さい。
【0022】
図2の右側には、屈折率変化分の分布を表す屈折率変調曲線7を模式的に示している。屈折率変調曲線の縦軸は、z軸の座標、横軸は電圧をかけないときからの屈折率の変化分Δnである。図2においては、屈折率は、全体的にマイナス方向に変化している様子が示されているが、基板1の表面付近では変調が大きく、したがって屈折率変化分Δnとしては小さくなる。一方、中央部付近では変調が小さく、したがって屈折率変化分Δnとしては、表面付近ほどには小さくなっていない。このような屈折率分布の中を光が透過すると、基板1の中央部の光の速度に比べて表面付近の光の速度が速いため、凸レンズとして機能する。すなわち、電圧をかけていない場合の無限大の焦点距離から、有限の焦点距離へと、焦点が移動する。
【0023】
(電気光学材料)
電気光学効果には、いくつかの次数の異なる電気光学効果が含まれるが、一般的には、1次の電気光学効果(以下、ポッケルス効果という)が利用されている。ポッケルス効果は、屈折率変化が電界に比例する。図1、2に示した構成においては、陽極2と陰極3との間と、陰極4と陽極5との間では、電界の向きが逆になり、屈折率分布も逆になる。従って、 ポッケルス効果を利用すると、光がこれら2つの電極対の間を透過すると、屈折率分布による光の偏向が正負で相殺されてしまい、レンズとしての機能を奏さない。
【0024】
これに対して、2次の電気光学効果(以下、カー効果という)を利用すると、屈折率変化は電界の二乗に比例する。従って、陽極2と陰極3との間と、陰極4と陽極5との間とで、電界の向きが逆になっても、屈折率分布は同じになるので、光の偏向が相殺されることなく、強めあう。
【0025】
多くの電気光学材料は、反転対称性を有しておらず、ポッケルス効果を発現する。これに対して、一部の電気光学材料は、反転対称性を有しており、ポッケルス効果を発現せず、カー効果が支配的となる。従って、本実施形態の基板1を構成する電気光学材料としては、反転対称性を有する材料を用いることが重要である。
【0026】
一般に誘電体は、外部から電界を印加すると、それに比例した分極が発生するが、電界を取り去ると、分極はゼロに戻る。しかし、電界を取り去っても有限の分極が残る物質が存在する。外部電界がなくても存在する分極を自発分極という。この自発分極を、外部電界によって向きを反転させることができる物質が存在し、これを強誘電体という。
【0027】
反転対称性を有する単結晶とは、原子の配列を、ある原点を中心としてx,y,z座標系で反転したとき、元の原子の配列と完全に同じ配列となる結晶をいう。自発分極を有する結晶を、座標軸上で反転すると、自発分極の向きが反転するので、このような結晶は反転対称性を有するとはいえない。従って、強誘電体は自発分極を有するので、反転対称性を有していない。
【0028】
一方、自発分極を有していても、それを外部電界で反転することができない物質も存在する。このような物質は、反転対称性を有していないが、強誘電体でもないので、反転対称性を有していない物質が全て強誘電体であるわけではない。また、強誘電体であって、かつ反転対称性を有するということは、ありえない。
【0029】
反転対称性を有する電気光学材料としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶材料がある。ペロブスカイト型単結晶材料は、使用温度を適切に選択すれば、使用状態において反転対称性を有する立方晶相となる。立方晶相においては、ポッケルス効果を発現せず、カー効果が支配的となる。例えば、最もよく知られたチタン酸バリウム(BaTiO3、以下BTという)でも、120℃付近において正方晶相から立方晶相へ相転移する温度(以下、相転移温度という)を超えた温度であれば、立方晶相となり、カー効果を発現する。
【0030】
また、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbxO3、0<x<1)を主成分とする単結晶材料は、より好適な特徴を有する。BTは相転移温度が決まっているのに対し、KTNは、タンタルとニオブの組成比により、相転移温度を選択することができる。これにより、室温付近に相転移温度を設定することができる。KTNは、相転移温度よりも高い温度であれば立方晶相となり、反転対称性を有し、大きなカー効果を有する。同じ立方晶相にあっても、より相転移温度に近い方が、カー効果が圧倒的に大きくなる。このため、室温付近に相転移温度を設定することは、大きなカー効果を簡便に実現する上で、非常に重要である。
【0031】
さらに、KTNに関連する単結晶材料として、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含む材料を用いることができる。また、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。例えば、立方晶相のKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3、0<x<1、0<y<1)結晶を用いることもできる。
【0032】
(光路長変調)
ここでは、光路長変調について詳述する。図2の構成においてレンズの特性は、下記の式のように、屈折率変化分Δnを光の進行経路(長さL)にわたって積分した光路長変調Δsによって評価する。
【0033】
【数1】
【0034】
ただし、図2の構成において、偏光は、光電界の向きがy軸方向の場合と、z軸方向の場合の2種類がある。それぞれの場合に、光が感じる屈折率変調Δnは異なるので、光路長変調Δsも異なる。
【0035】
図3に、第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの光路長の例を示す。縦軸は、光電界の向きがz軸方向の場合について、光路長変調Δsを数値計算により求めたものである。比誘電率は20,000、基板1の長さLを7mm、z軸方向の基板の厚さを4mm、4つの電極の幅を0.8mm、同一面上の電極の間隔を4mm、電圧を1000Vとして計算した。図3の横軸は、図2に示したz座標における基板1の中央を原点とし、原点からの変位を示す。Δsの分布は、上に凸の曲線を成しており、この素子がシリンドリカル凸レンズとして機能することを表す。この例では凸レンズであるが、前述のように偏光によって光路長変調が異なるので、凹レンズになることもある。
【0036】
(偏光無依存可変焦点レンズ)
反転対称性のある単結晶材料は、等方性であってレンズ効果も偏光に依存しないように思われがちであるが、以上述べてきたように、印加電圧によって生成される電界成分と、光の電界成分とが平行であるかどうかによって、レンズ効果は異なり、偏光に依存した可変焦点レンズとなる。レンズ効果が偏光に依存しないようにするためには、光を、振動電界の方向が互いに直交する2つの偏光に分けて、それぞれについて偏光依存の可変焦点レンズによって変調を行い、しかる後にもう一度2つの偏光を合成する必要がある。
【0037】
図4に、可変焦点レンズの偏光無依存化の例を示す。偏光無依存化のための光学系では、入射光8を、偏向ビームスプリッタ(以下、PBSと略記する)11によって、2つの互いに直交する偏光成分に分波する。透過する分枝20は、紙面と平行な光電界を有し、反射する分枝21は、紙面に垂直な光電界を有する。分枝20は、鏡12で反射して、図1,2にて説明した可変焦点レンズの基本単位素子13に入射する。このとき、分枝20は、光電界が基本単位素子13において電極が形成されている2つの面に対して垂直であるため、図3と同じ光路長分布の変調を受ける。
【0038】
一方の分枝21は、鏡14で反射して、直接、基本単位素子15に入射すると、光電界は、基本単位素子15の電極面に対して平行になるため、分枝20とは偏光関係が異なり、したがって異なる光路長分布の変調を受けることになる。分枝21の変調を分枝20と等しくするためには、半波長板16を用いて光電界方向を90度回転させる必要がある。これにより、分枝20と分枝21とは、同じ光路長分布の変調を受けるので、もう一つのPBS17で合波して出射光22とすれば、両偏光とも同等の変調を受けることになり、偏光無依存可変焦点レンズとして機能する。
【0039】
ただし、分枝21の光は、偏光の状態により、PBS17に入射した後、そのまま直進するので、分枝20の光と合波するためには、分枝20の光をPBS17で反射させる必要がある。このために、半波長板18を用いて、偏光を90度回転させる。または、半波長板18を挿入せず、分枝20の光を、PBS17をそのまま直進透過させ、基本単位素子15とPBS17との間に半波長板を挿入し、分枝21の偏光をもう一度90度回転させてして元に戻す。分枝21の光は、PBS17で反射するので、分枝20の光と合波することができる。
【0040】
以上説明したように、単純な方法では、各偏光の変調を分担する可変焦点レンズの基本単位素子2個以外に、PBS・波長板・鏡をそれぞれ2つずつ組み合わせることが必要であり、高コストであるとともに小型化も困難である。また、図4を用いて説明した偏光無依存可変焦点レンズは、シリンドリカル動作である。通常の球面レンズと同様な2軸集光を実現するためには、さらに光学系が複雑となる。
【0041】
しかし、本発明によれば、この光学系は著しく単純化することが可能で、部品点数を減らし、小型で低コストな偏光無依存可変焦点レンズを実現することができる。以下、その理由と光学系について説明する。
【0042】
本発明の原理は、前述の通り、KTNに代表される反転対称性を持つ単結晶材料の有するカー効果によって、電界分布から屈折率分布を発生させてレンズとして機能させることにある。このカー効果による屈折率変調は、従来、電界ベクトルの成分の二乗の線形結合によって、下記のように表わされてきた。
【0043】
【数2】
【0044】
ここで、屈折率変調Δnyは、光電界の向きがy軸方向の場合、Δnzは、光電界の向きがz軸方向の場合である。また、n0は変調前の屈折率であり、s11とs12は電気光学係数である。
【0045】
しかし、反転対称性を有する単結晶材料は、電界を印加したときに、カー効果と同時に電歪効果も発現する。電歪効果とは、電界を印加すると結晶材料が歪む現象であり、歪(ひずみ)は電界の二乗に比例する。さらに、反転対称性を有する単結晶材料に限らず、物質は一般に、歪を発生させると、その歪に比例した屈折率変化を生ずる、いわゆる光弾性効果を発現する。このために、反転対称性を有する単結晶材料に電界を印加すると、電歪効果によって歪みが発生し、さらにその結果、光弾性効果によって屈折率が変化する。歪が電界の二乗に比例し、屈折率は歪に比例するので、原因と結果だけをみると、単純なカー効果と等価である。つまり、見かけのカー効果は、実は電歪効果と光弾性効果の合成による成分を含んでいるのが常である。
【0046】
さらに、この電歪効果と光弾性効果の成分は、見かけのカー効果の支配的成分であることも分かった。支配的である電歪効果と光弾性効果による成分以外の成分を無視すると、KTNの屈折率変化は、下記のようにあらわされる。
【0047】
【数3】
【0048】
ここで、p11とp12は光弾性係数である。exx、eyy、ezzの3つは、歪みテンソルの成分であるが、それぞれ、x軸方向、y軸方向、z軸方向の線膨張係数と等価である。電界が均一にかかっている場合、電歪効果によれば、これら歪は次の式のように、電界成分の二乗であるEx2とEz2との線形結合で表わされる。
【0049】
【数4】
【0050】
この(3)式を(2)式に代入すると、結局(1)式と等価な式が現れ、その性質は、前の電気光学材料の性質に関する記述と全く矛盾しない。ところが、本発明の可変焦点レンズの基板1の内部のように、電界に分布がある場合、歪は結晶の弾性にも強く影響される。このため、(2)式は成り立っても(3)式は成り立たず、したがって(1)式は成り立たない。
【0051】
図5に、2つの数値計算法による可変焦点レンズの光路長分布の違いを示す。単純なカー効果による計算と、歪の数値計算による計算の結果の違いを示している。実線は、光電界がy軸に平行な場合(y偏光)、破線はz軸に平行な場合(z偏光)である。○プロットは、従来の単純なカー効果の(1)式に従って計算した光路長分布、□プロットは弾性を考慮した歪を数値計算して(2)式に従って計算した光路長分布を示す。z偏光の場合は、歪計算による場合の方が、若干レンズ効果が強いものの、両者同様に凸レンズ機能を示している。一方y偏光の場合、従来のカー効果による計算結果は下に凸の形状であり、凹レンズ機能を示しているのに対して、歪計算によればレンズとしての効果が非常に小さいことが現れている。言い換えると、より正しい計算によれば、y偏光はほとんど変調を受けず、素通りすることが分かる。
【0052】
(偏光無依存可変焦点レンズの構成)
図6に、本発明の第2の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。前述の知見を用いれば、以下に説明する簡単な構成により、偏光無依存可変焦点レンズを実現することができる。偏光無依存可変焦点レンズは、図1,2を用いて説明したシリンドリカル可変焦点レンズの基本単位素子31と、半波長板32と、もう一つの基本単位素子33とを、光軸をそろえて直列に配置した単純な構造である。「シリンドリカル可変焦点レンズの構成」で説明した球面レンズでは、2つの基本単位素子と半波長板を組み合わせ、光軸を中心に互いに90度の角度をなすように配置した。一方、図6の構成では、2つの基本単位素子を回転させず、同じ方向に集光するように配置する。いずれの構成でも、2つの基本単位素子と半波長板を組み合わせる点で同じだが、基本単位素子の配置が異なり、球面レンズでは2軸変調を行っているが、偏光無依存可変焦点レンズでは1軸変調を行う点で異なる。
【0053】
図4の場合と同様に、入射光34は、任意の偏光成分を持ち、y偏光とz偏光の2つの成分に分離して考えてもよい。両成分は、一緒に基本単位素子31に入射するが、y偏光は、図5を用いて説明したように、変調を受けずに素通りする。一方、z偏光は、基本単位素子31の凸レンズ機能により、集光するように変調されて出射される。基本単位素子31を透過した両成分は、やはり一緒に半波長板32に入射する。半波長板32を透過すると、光電界方向は90度回転させられるので、入射前のy偏光はz偏光に、z偏光はy偏光に入れ替わり、その後に第2の基本単位素子33に入射される。基本単位素子33で集光するよう変調された光成分は、y偏光へと変わっているので、今度は基本単位素子33を素通りする。基本単位素子31で変調を受けなかった光成分は、今度はz偏光になっているので、集光するように変調を受ける。このために、入射光34を構成していた2つの偏光成分は、両方とも同様に集光変調を受けて出射光35として出射されるので、入射光の偏光にかかわらず、同様に集光変調することができる。
【0054】
以上、図6を用いて説明した偏光無依存可変焦点レンズは、偏光無依存のシリンドリカルレンズであるが、これを、球面レンズと同様の機能を持つ、2軸動作のレンズに拡張することは、簡単にできる。当然のことながら、図6の構成を、光軸上に2つ直列に置き、光軸に関して互いに90度の角度をなすように配置すれば、2軸動作の偏光無依存可変焦点レンズを構成することができる。
【0055】
図7に、本発明の第3の実施形態にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。電圧の印加方向、すなわち電極面の法線が、光軸に対して互いに90度の角度をなすように配置した2つの基本単位素子と、半波長板と、もう一組の基本単位素子とを組み合わせる。このようにして、波長板を1枚減らすこともできる。以下、光変調を、順を追って説明する。
【0056】
図6と同様に、入射光46をy偏光成分とz偏光成分とに分割して考える。このときのy偏光成分を光成分1とし、z偏光成分を光成分2とする。光成分1はy偏光であるので、基本単位素子41によって変調を受けない。しかし、その後に基本単位素子42に入射すると、y軸方向の集光変調を受ける。続いて半波長板43に入射すると、z偏光に変わる。さらに続いて基本単位素子44に入射すると、z偏光であるので、z軸方向にも集光変調を受け、先の変調と併せて2軸の集光変調がかかる。z偏光であるので、最後の基本単位素子45は素通りし、結果的に2軸の集光変調がかかった状態で出射される。
【0057】
一方の光成分2を考える。この成分はz偏光であるので、最初の基本単位素子41でz軸方向の集光変調がかかるが、次の基本単位素子42は素通りする。次いで、半波長板43にてy偏光へ変換されてから、基本単位素子44に入射する。ここでは、変調を受けない。最後に基本単位素子45に進むと、y偏光であるので、ここでy軸方向の集光変調が追加される。このため、最終的には2軸両方の集光変調を受けた状態で出射される。総合すると、光成分1、光成分2ともに2軸両方の集光変調を受けて、出射光47として出射されるので、偏光無依存の2軸の可変焦点レンズとして機能する。
【0058】
なお、この構成で重要なのは、光を同じ方向に集光する基本単位素子41と44が半波長板43を挟んで両側に配置され、この集光方向とは異なる方向ではあるが、やはり同じ方向に集光する基本単位素子42と45とが半波長板43を挟んで両側に配置されていることである。したがって、基本単位素子41と42は、図中の左右を入れ替えても良く、基本単位素子44と45の左右を入れ替えても良い。
【0059】
図8に、本発明の第4の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。第2の実施形態のもう一つの応用例である。この光学系では、入射光55は、ビームスプリッタ51を透過したのちに基本単位素子52に入射する。次に、4分の1波長板53を透過し、鏡54で反射して、元の経路を戻る。4分の1波長板53、基本単位素子52を順に透過して、最終的に、ビームスプリッタ51で反射され、出射光56として出力される。光は、4分の1波長板53を2度透過するので、半波長板を透過するのと同じく、偏光が90度回転した状態で基本単位素子52に再度入射する。これより、図6と同じ効果が得られることが分かる。ビームスプリッタ51は、偏光に依存しないものが好適である。ビームスプリッタ51による光パワーの損失が、この構成の欠点であるが、基本単位素子の数を半分に減らせることが特長である。なお、当然のことながら、基本単位素子をもう一つ追加すれば、2軸の集光が可能となる。
【0060】
(電極の配置)
ここまでで説明した可変焦点レンズの実施形態では、基本単位素子は、基板1の上面に陽極2と陰極4を配置し、下面に陰極3と陽極5とを配置している。しかし、この基本単位素子において、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極にした構成とすることもできる。レンズ効果は、第1の実施形態の可変焦点と比較して小さいが、機能は同じである(第5の実施形態)。
【0061】
図9に、本発明の第6の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電極の配置は、図1の第1の実施形態と同じであるが、光の入射、出射方向が異なる。図9に示すように、光は、基板1の上面の陽極2と陰極4との間から入射され、基板1の内部をz軸方向に進行し、下面の陰極3と陽極5との間から空気中へと出射するように設定する。さらに、第6の実施形態においても、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極にしてもよく、逆に上面を陰極・下面を陽極とする構造でも良い(第7の実施形態)。
【0062】
図10に、本発明の第8の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。第1の実施形態の基本単位素子のさらなる応用であり、光軸方向に沿って直列に配置した構成である。1つの基板61に複数の電極対62a,62b,63a,63b,64a,64bを配置し、互いに隣り合う電極対には反対の極性の電圧を印加する。第5の実施形態と同様に、上面の全ての電極対に同じ極性の電圧を印加し、下面の全ての電極対に同じ極性の電圧を印加する構成としてもよい。もちろん、任意のパターンで電圧を印加してもよい。このように素子を構成すれば、より低い電圧でも、大きなレンズ効果を得ることができる。電極対の数は、偶数でも奇数でもよい。
【0063】
(偏光回転素子)
図6や図7の構成では、半波長板が重要な役割を果たしているが、この半波長板は、もっと一般的には、偏光を90度回転させる、偏光回転素子である。偏光を90度回転させる素子であれば何でも良く、代表例である半波長板以外にも、ファラデー回転素子なども代わりに用いることができる。
【0064】
半波長板は、互いに直交する2つの偏波の間に、波長の半分に相当する位相ずれ、すなわちπラジアンだけの位相ずれを生じさせる光学素子である。典型的には、複屈折性の材料を板状に加工したものからなる。KTNのような反転対称性を有する単結晶材料は、通常、複屈折はないが、電界を一方向に印加することにより、電界に平行な方向と、これに直交する方向とで複屈折が生じる。この性質を利用して、KTNによって半波長板を構成することができる。
【0065】
図11に、本発明の第9の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。図6に示した第2の実施形態の応用として、第1の基本単位素子71とKTN半波長板72と第2の基本単位素子73とが、光軸方向に沿って直列に配置されている。KTN半波長板72の形状は、直方体状であり、互いに対向する2面の面上に、ほぼ全面にわたって電極膜が形成されている。この電極対に電圧を印加することにより、これら2面に垂直な電界が均一に形成される。この電界の向きが、第1の基本単位素子71と第2の基本単位素子73の電圧の印加方向、すなわち電極面の法線に対して、それぞれ45度の角度をなすように配置する。これにより、第1の基本単位素子71を透過した光の偏光が90度回転する。
【0066】
半波長板も、上述した基本単位素子であるシリンドリカル可変焦点レンズと同じくKTNで構成する場合、3つの電気光学材料からなる基板を一体に成型し、第1の基本単位素子71用の電極と、KTN半波長板72用の電極と、第2の基本単位素子73用の電極とを順に並べて取り付ける。このようにして、一体化した偏光無依存可変焦点レンズを構成することもできる。また、図7に示した第3の実施形態の応用として、可変焦点レンズの基本単位素子4つと半波長板とを一体成型することも可能である。
【0067】
(電極材料)
電気光学材料に高い電圧を印加すると、電極から電荷が注入され、結晶内に空間電荷が発生しうる。この空間電荷により電圧の印加方向に電界の大きさの傾斜が生じるために、屈折率の変調にも傾斜が生じる。従って、電気光学材料をレンズとして機能させるための所望の屈折率分布を得るため、または、電気光学材料を透過する光が偏向しないようにするためには、基板1に電圧を印加した際に、基板1の内部に空間電荷が形成されない方がよい。
【0068】
空間電荷の量は、キャリアの注入効率に依存する量であるため、電極から注入されるキャリアの注入効率は小さい方がよい。電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数が大きくなるにつれて、電極と基板との間はショットキー接合に近づき、キャリアの注入効率は減少する。従って、電極は、電気光学材料とショットキー接合が形成される材料であることが好ましい。具体的には、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数は、5.0eV以上であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV以上の電極材料として、Co(5.0)、Ge(5.0)、Au(5.1)、Pd(5.12)、Ni(5.15)、Ir(5.27)、Pt(5.65)、Se(5.9)を用いることができる。()内は仕事関数を示し、単位はeVである。
【0069】
一方、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが正孔の場合には、正孔の注入を抑えるために、電極材料の仕事関数は、5.0eV未満であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV未満の電極材料として、Ti(3.84)等を用いることができる。なお、Tiの単層電極は酸化して高抵抗になるので、一般的には、Ti/Pt/Auを順に積層した電極を用いて、Tiの層と電気光学結晶とを接合させる。さらに、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnOなどの透明電極を用いることもできる。
【実施例1】
【0070】
第1の実施形態(図1)に示したように、電気光学材料を板状に加工した基板1の上面および下面に、陽極2、陰極3、陰極4、陽極5を形成する。基板1は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、7mm×7mm×(厚さT=)4mmの形状に成形する。基板1の6面とも、結晶の(100)面に平行とし、光学研磨を行っている。このKTN単結晶は、相転移温度35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用する。この温度での比誘電率は20,000である。4つの電極は、0.8mm×7mmの帯状で、同一面上の電極の間隔は4mmとする。2つの電極対は、基板1の7mm×7mmの面上に、白金(Pt)を蒸着して形成されている。電極の各辺は、基板1の辺に平行である。
【0071】
このシリンドリカル可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は59cmである。
【0072】
この偏光依存型の可変焦点レンズを基本単位素子とし、2つ同じ仕様のものを作製し、水晶製半波長板と組み合わせて、第2の実施形態(図6)の光学系を作製した。前述の実験と同じく、2つの基本単位素子を40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は、先ほどと同じく59cmである。ここで、印加電圧を500Vにすると、集光効果は小さくなり、焦点距離は290cmになる。また、電圧を印加しない場合は、当然集光効果はなく、焦点距離は無限大である。従って、印加電圧を0Vから1000Vまで変化させることにより、焦点距離を無限大から59cmまで変化させることができる。焦点距離の変更は、印加電圧を変更するだけなので、応答時間は1μs以下であり、従来の可変焦点レンズの応答時間と比較して、3桁以上改善されている。以上の特性は、入射レーザ光の偏光方向を回転しても、回転角によらず、一定であった。
【0073】
さらに、上記の基本単位素子を同じ仕様で4個作製し、水晶製半波長板と組み合わせて、第3の実施形態(図7)の光学系を作製した。前述の実験と同じく、4つの基本単位素子を40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000V前後の電圧を印加すると、基板1から出射する光は、y軸z軸の両方向に集光され、球面凸レンズと同様に機能する。基本単位素子の光軸状の位置が等しくはないため、各個に印加する電圧は±50Vの範囲内で調整した。焦点距離は、先ほどと同じく59cmである。従って、印加電圧を0Vから1000Vまで変化させることにより、焦点距離を無限大から72cmまで変化させることができ、入射レーザ光の偏光方向を回転しても、回転角によらず、同様に変化させることができる。
【実施例2】
【0074】
実施例1において作製した基本単位素子において、第5の実施形態に示したように、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極として使用する。このシリンドリカル可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は115cmである。
【0075】
この基本単位素子を4個使用して、実施例1と同様に、第3の実施形態(図7)の光学系を作製した。焦点距離は、先ほどと同じく115cmであり、レンズ効果は多少小さかったが、偏光状態を変えても焦点制御機能が変わらない点は、実施例1と同じであった。
【実施例3】
【0076】
実施例1において作製した基本単位素子を、第6の実施形態(図9)に示したシリンドリカル可変焦点レンズとして使用する。このシリンドリカル可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はx軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、x軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は104cmである。
【0077】
図12に、実施例3にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。電極が形成されているxy平面を、光軸(z軸)に対して互いに90度の角度をなすように配置した2つの基本単位素子81,82と、半波長板83と、もう一組の基本単位素子84,85とを組み合わせる。y偏光成分とz偏光成分とを有する入射光86は、結果的に2軸の集光変調がかかった状態で出射光87として出射されるので、偏光無依存の2軸の可変焦点レンズとして機能する。
【0078】
4つの基本単位素子を40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はx軸方向である。上下電極間に1000V前後の電圧を印加すると、出射光87は、x軸y軸の両方向に集光され、球面凸レンズと同様に機能する。基本単位素子の光軸状の位置が等しくはないため、各個に印加する電圧は±50Vの範囲内で調整した。焦点距離は104cmである。入射レーザ光の偏光方向を回転しても、回転角によらず、同様に集光させることができる。
【実施例4】
【0079】
実施例3において作製した基本単位素子において、第7の実施形態に示したように、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極として使用する。この基本単位素子を4個使用して、実施例3と同様に、図12の光学系を作製した。焦点距離は114cmであり、レンズ効果は多少小さかったが、偏光状態を変えても焦点制御機能が変わらない点は、実施例3と同じであった。
【符号の説明】
【0080】
1,31,61 基板
2,5,62a,63a,64a 陽極
3,4,62b,63b,64b 陰極
6 電気力線
7 屈折率変調曲線
8,19,34,46,55,86 入射光
11,17 偏光ビームスプリッタ
12,14,54 鏡
13,15,31,33,41,42,44,45,52,71,73,81,82,84,85 基本単位素子
16,18,32,43,53,83 半波長板
20,21 分枝
22,35,47,56,87 出射光
51 ビームスプリッタ
53 4分の1波長板
73 KTN半波長板
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズに関し、より詳細には、電気光学効果を有する光学材料を用いて、焦点距離を変更可能とした可変焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズ、プリズムなどの光学部品は、カメラ、顕微鏡、望遠鏡などの光学機器、プリンタ、コピー機など電子写真方式の記録装置、DVDなどの光記録装置、通信用、工業用の光デバイス等に用いられている。通常の光学レンズは、焦点距離が固定されているが、上述の機器、装置の中には、状況に応じて焦点距離を調整することのできるレンズ、いわゆる可変焦点レンズを用いる場合がある。従来の可変焦点レンズは、複数のレンズを組み合わせて、機械的に焦点距離を調整する。しかしながら、このような機械式の可変焦点レンズは、応答速度・製造コスト・小型化・消費電力などの点から、適用範囲を広げることには限界があった。
【0003】
そこで、光学レンズを構成する透明媒質に、屈折率を可変できる物質を適用した可変焦点レンズ、光学レンズの位置を動かすのではなく、機械的に光学レンズの形状を変形させる可変焦点レンズなどが考え出された。前者の可変焦点レンズとして、光学レンズとして液晶を利用した可変焦点レンズが提案されている。この可変焦点レンズは、2枚のガラス板で液晶を挟み込むなどして、透明物質でできた容器に液晶を封じ込めている。この容器の内側を球面上に加工して、液晶をレンズ形状に成形すると、可変焦点レンズを構成することができる。この容器の内側には透明電極が設けられ、液晶に電界をかけることによって屈折率を制御し、焦点距離を可変制御する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
後者の可変焦点レンズとして、変形するレンズの材料は、液体が用いられることが多い。例えば、非特許文献1に記載された可変焦点レンズは、ガラス板に挟まれた空間に、シリコンオイルなどの液体を封入した構造を有している。ガラス板は、薄く加工されており、外部からチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)ピエゾアクチュエータによって、ガラス板に圧力をかけることにより、オイルとガラス板全体で構成されるレンズを変形させ、焦点位置を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−64817号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金子卓他、「可変焦点レンズを用いた長焦点深度視覚機構」、デンソーテクニカルレビュー、Vol.3, No.1, p.52-58, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の可変焦点レンズは、機械的に焦点距離を調整する可変焦点レンズ、液晶に電界をかけて屈折率を制御する可変焦点レンズ、およびPZTピエゾアクチュエータによりレンズを変形させる可変焦点レンズのいずれも、焦点距離を変更するのに要する応答速度に限界があり、1ms以下の高速応答に適用することができないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、入射光の偏光に依存せず、焦点距離の変更を高速に行うことができる可変焦点レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明の一実施態様は、反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、第1の基本単位素子と、該第1の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、該偏光回転素子を透過した光を、前記第1の基本単位素子と同一方向に集光するように配置された第2の基本単位素子とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記電気光学材料は、ペロブスカイト型単結晶材料が好適であり、典型的にはタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbxO3、0<x<1)を用いることができる。また、前記電気光学材料は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことができ、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、電気光学材料の表面に形成された2組の電極とを備え、電極対の間の印加電圧を変えることにより、出射された光の焦点を可変することができる可変焦点レンズを構成し、この可変焦点レンズを1対または2対と半波長板を配置することにより、偏光の向きによらない可変焦点レンズを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの原理を説明するための図である。
【図3】第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの光路長の例を示す図である。
【図4】可変焦点レンズの偏光無依存化の例を示す図である。
【図5】2つの数値計算法による可変焦点レンズの光路長分布の違いを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図9】本発明の第6の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図10】本発明の第8の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図11】本発明の第9の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図12】実施例3にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の可変焦点レンズは、電気光学材料と、これに取付けた電極から構成される。電気光学効果を利用することにより、従来の可変焦点レンズと比較して、はるかに高速な応答速度を得ることができる。
【0014】
本発明は、偏光依存の可変焦点レンズを2つ以上組み合わせて、偏光に依存しない可変焦点レンズを提供する。最初に、構成単位である偏光依存の可変焦点レンズについて説明する。
【0015】
(シリンドリカル可変焦点レンズの構成)
図1に、本発明の第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電気光学材料を板状に加工した基板1の上面(第1の面)および下面(第2の面)に、帯状の電極4つが形成されている。光の入射側の上部電極として陽極2(第1の陽極)、基板1を挟んで下部電極として陰極3(第1の陰極)が配置されている。さらに、これら電極対とは間隔を置き、光の出射側にもう一対の電極が配置されおり、上部電極が陰極4(第2の陰極)であり、下部電極が陽極5(第2の陽極)である。帯状の4つ電極は、長手方向の辺がすべて平行となる形状を有している。
【0016】
光は、電極を配置した面と直交する面(第3の面)から入射され、基板1の内部をx軸方向に進行し、陽極2と陰極3の間を、これらの帯状電極の長手方向とは垂直な方向に透過する。次いで、陰極4と陽極5との間を透過してから、入射した面と対向する面(第4の面)から空気中へと出射するように設定する。
【0017】
このような構成において、陽極と陰極との間に電圧を印加する。光の入射側の電極対と光の出射側の電極対とは、電圧をかける向き(z軸方向)が互いに逆になっている。陽極2と陽極5との電位は異なっていてもよく、陰極3と陰極4の電位も同様である。なお、陽極2,5の低いほうの電位は、陰極3,4の高いほうの電位よりも高くなるように設定する。
【0018】
このとき、これら電極の間には電界の分布が発生し、基板1の有する電気光学効果によって屈折率が変調される。屈折率の変調された部分を光が透過する時、この屈折率分布によって光は屈曲させられ、その結果、光は集光あるいは発散させられる。集光される場合、図1の構造によれば、シリンドリカル凸レンズとして機能し、発散される場合は、シリンドリカル凹レンズとして機能する。このようにして、光は、1軸方向に集光または発散されるので、1軸変調という。また、印加する電圧によって光の屈曲の度合いが変化するので、焦点距離を電圧によって制御することができる。
【0019】
電気光学効果は、電圧の印加から遅く見積もっても1μs以下の時間で応答するので、従来の可変焦点レンズよりも著しく高速に応答する可変焦点レンズを実現することができる。以上説明したように、図1に示した素子はシリンドリカル可変焦点レンズであり、様々なレンズを構成する基本単位となる。通常の球面レンズを実現するためには、基本単位素子として、2つのシリンドリカル可変焦点レンズと、その間に挿入された半波長板とを組み合わせ、2つの基本単位素子を、光軸を中心に互いに90度の角度をなすように配置する。このようにして、光は、2軸方向に集光または発散されるので、2軸変調という。なお、本実施形態では基板1の材料として、電気光学効果を有する材料の中でも、特に反転対称性を有する結晶からなる材料を用いることを特徴としており、その理由については後述する。
【0020】
以下、図2を参照して、屈折率の変調の様子とレンズとしての機能を詳述する。図2は、図1に示した可変焦点レンズの側面をy軸方向から見た様子を示している。基板1は、4つの電極に電圧を印加しない時には、屈折率が均一であるため、光はそのまま変調を受けずに透過する。従って、レンズの機能はない。しかし、平面波を入射したときには、基板1から出射される光の波面は平面のままで、曲率半径は無限大であることを考慮すると、焦点距離無限大のレンズとみなすこともできる。
【0021】
4つの電極に電圧を印加した時には、これらの電極の間に、図2に示したような電気力線6が発生する。電気力線6は、陽極2と陰極3との間、陰極4と陽極5との間のみならず、これらの電極の外側にも大きく広がって生成される。電気力線が生成されているということは、言い換えると電界が発生している。このとき、基板1が電気光学効果を有するため、基板1内部の電界が発生している箇所では屈折率が変調される。基板1の内部において、4つの電極の付近、すなわち基板1の表面付近では、電界が大きく、屈折率変化が大きい。これに対して基板1の中央部分(すべての軸方向における中央付近)では、電界が比較的小さく、屈折率変化が小さい。
【0022】
図2の右側には、屈折率変化分の分布を表す屈折率変調曲線7を模式的に示している。屈折率変調曲線の縦軸は、z軸の座標、横軸は電圧をかけないときからの屈折率の変化分Δnである。図2においては、屈折率は、全体的にマイナス方向に変化している様子が示されているが、基板1の表面付近では変調が大きく、したがって屈折率変化分Δnとしては小さくなる。一方、中央部付近では変調が小さく、したがって屈折率変化分Δnとしては、表面付近ほどには小さくなっていない。このような屈折率分布の中を光が透過すると、基板1の中央部の光の速度に比べて表面付近の光の速度が速いため、凸レンズとして機能する。すなわち、電圧をかけていない場合の無限大の焦点距離から、有限の焦点距離へと、焦点が移動する。
【0023】
(電気光学材料)
電気光学効果には、いくつかの次数の異なる電気光学効果が含まれるが、一般的には、1次の電気光学効果(以下、ポッケルス効果という)が利用されている。ポッケルス効果は、屈折率変化が電界に比例する。図1、2に示した構成においては、陽極2と陰極3との間と、陰極4と陽極5との間では、電界の向きが逆になり、屈折率分布も逆になる。従って、 ポッケルス効果を利用すると、光がこれら2つの電極対の間を透過すると、屈折率分布による光の偏向が正負で相殺されてしまい、レンズとしての機能を奏さない。
【0024】
これに対して、2次の電気光学効果(以下、カー効果という)を利用すると、屈折率変化は電界の二乗に比例する。従って、陽極2と陰極3との間と、陰極4と陽極5との間とで、電界の向きが逆になっても、屈折率分布は同じになるので、光の偏向が相殺されることなく、強めあう。
【0025】
多くの電気光学材料は、反転対称性を有しておらず、ポッケルス効果を発現する。これに対して、一部の電気光学材料は、反転対称性を有しており、ポッケルス効果を発現せず、カー効果が支配的となる。従って、本実施形態の基板1を構成する電気光学材料としては、反転対称性を有する材料を用いることが重要である。
【0026】
一般に誘電体は、外部から電界を印加すると、それに比例した分極が発生するが、電界を取り去ると、分極はゼロに戻る。しかし、電界を取り去っても有限の分極が残る物質が存在する。外部電界がなくても存在する分極を自発分極という。この自発分極を、外部電界によって向きを反転させることができる物質が存在し、これを強誘電体という。
【0027】
反転対称性を有する単結晶とは、原子の配列を、ある原点を中心としてx,y,z座標系で反転したとき、元の原子の配列と完全に同じ配列となる結晶をいう。自発分極を有する結晶を、座標軸上で反転すると、自発分極の向きが反転するので、このような結晶は反転対称性を有するとはいえない。従って、強誘電体は自発分極を有するので、反転対称性を有していない。
【0028】
一方、自発分極を有していても、それを外部電界で反転することができない物質も存在する。このような物質は、反転対称性を有していないが、強誘電体でもないので、反転対称性を有していない物質が全て強誘電体であるわけではない。また、強誘電体であって、かつ反転対称性を有するということは、ありえない。
【0029】
反転対称性を有する電気光学材料としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶材料がある。ペロブスカイト型単結晶材料は、使用温度を適切に選択すれば、使用状態において反転対称性を有する立方晶相となる。立方晶相においては、ポッケルス効果を発現せず、カー効果が支配的となる。例えば、最もよく知られたチタン酸バリウム(BaTiO3、以下BTという)でも、120℃付近において正方晶相から立方晶相へ相転移する温度(以下、相転移温度という)を超えた温度であれば、立方晶相となり、カー効果を発現する。
【0030】
また、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbxO3、0<x<1)を主成分とする単結晶材料は、より好適な特徴を有する。BTは相転移温度が決まっているのに対し、KTNは、タンタルとニオブの組成比により、相転移温度を選択することができる。これにより、室温付近に相転移温度を設定することができる。KTNは、相転移温度よりも高い温度であれば立方晶相となり、反転対称性を有し、大きなカー効果を有する。同じ立方晶相にあっても、より相転移温度に近い方が、カー効果が圧倒的に大きくなる。このため、室温付近に相転移温度を設定することは、大きなカー効果を簡便に実現する上で、非常に重要である。
【0031】
さらに、KTNに関連する単結晶材料として、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含む材料を用いることができる。また、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。例えば、立方晶相のKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3、0<x<1、0<y<1)結晶を用いることもできる。
【0032】
(光路長変調)
ここでは、光路長変調について詳述する。図2の構成においてレンズの特性は、下記の式のように、屈折率変化分Δnを光の進行経路(長さL)にわたって積分した光路長変調Δsによって評価する。
【0033】
【数1】
【0034】
ただし、図2の構成において、偏光は、光電界の向きがy軸方向の場合と、z軸方向の場合の2種類がある。それぞれの場合に、光が感じる屈折率変調Δnは異なるので、光路長変調Δsも異なる。
【0035】
図3に、第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの光路長の例を示す。縦軸は、光電界の向きがz軸方向の場合について、光路長変調Δsを数値計算により求めたものである。比誘電率は20,000、基板1の長さLを7mm、z軸方向の基板の厚さを4mm、4つの電極の幅を0.8mm、同一面上の電極の間隔を4mm、電圧を1000Vとして計算した。図3の横軸は、図2に示したz座標における基板1の中央を原点とし、原点からの変位を示す。Δsの分布は、上に凸の曲線を成しており、この素子がシリンドリカル凸レンズとして機能することを表す。この例では凸レンズであるが、前述のように偏光によって光路長変調が異なるので、凹レンズになることもある。
【0036】
(偏光無依存可変焦点レンズ)
反転対称性のある単結晶材料は、等方性であってレンズ効果も偏光に依存しないように思われがちであるが、以上述べてきたように、印加電圧によって生成される電界成分と、光の電界成分とが平行であるかどうかによって、レンズ効果は異なり、偏光に依存した可変焦点レンズとなる。レンズ効果が偏光に依存しないようにするためには、光を、振動電界の方向が互いに直交する2つの偏光に分けて、それぞれについて偏光依存の可変焦点レンズによって変調を行い、しかる後にもう一度2つの偏光を合成する必要がある。
【0037】
図4に、可変焦点レンズの偏光無依存化の例を示す。偏光無依存化のための光学系では、入射光8を、偏向ビームスプリッタ(以下、PBSと略記する)11によって、2つの互いに直交する偏光成分に分波する。透過する分枝20は、紙面と平行な光電界を有し、反射する分枝21は、紙面に垂直な光電界を有する。分枝20は、鏡12で反射して、図1,2にて説明した可変焦点レンズの基本単位素子13に入射する。このとき、分枝20は、光電界が基本単位素子13において電極が形成されている2つの面に対して垂直であるため、図3と同じ光路長分布の変調を受ける。
【0038】
一方の分枝21は、鏡14で反射して、直接、基本単位素子15に入射すると、光電界は、基本単位素子15の電極面に対して平行になるため、分枝20とは偏光関係が異なり、したがって異なる光路長分布の変調を受けることになる。分枝21の変調を分枝20と等しくするためには、半波長板16を用いて光電界方向を90度回転させる必要がある。これにより、分枝20と分枝21とは、同じ光路長分布の変調を受けるので、もう一つのPBS17で合波して出射光22とすれば、両偏光とも同等の変調を受けることになり、偏光無依存可変焦点レンズとして機能する。
【0039】
ただし、分枝21の光は、偏光の状態により、PBS17に入射した後、そのまま直進するので、分枝20の光と合波するためには、分枝20の光をPBS17で反射させる必要がある。このために、半波長板18を用いて、偏光を90度回転させる。または、半波長板18を挿入せず、分枝20の光を、PBS17をそのまま直進透過させ、基本単位素子15とPBS17との間に半波長板を挿入し、分枝21の偏光をもう一度90度回転させてして元に戻す。分枝21の光は、PBS17で反射するので、分枝20の光と合波することができる。
【0040】
以上説明したように、単純な方法では、各偏光の変調を分担する可変焦点レンズの基本単位素子2個以外に、PBS・波長板・鏡をそれぞれ2つずつ組み合わせることが必要であり、高コストであるとともに小型化も困難である。また、図4を用いて説明した偏光無依存可変焦点レンズは、シリンドリカル動作である。通常の球面レンズと同様な2軸集光を実現するためには、さらに光学系が複雑となる。
【0041】
しかし、本発明によれば、この光学系は著しく単純化することが可能で、部品点数を減らし、小型で低コストな偏光無依存可変焦点レンズを実現することができる。以下、その理由と光学系について説明する。
【0042】
本発明の原理は、前述の通り、KTNに代表される反転対称性を持つ単結晶材料の有するカー効果によって、電界分布から屈折率分布を発生させてレンズとして機能させることにある。このカー効果による屈折率変調は、従来、電界ベクトルの成分の二乗の線形結合によって、下記のように表わされてきた。
【0043】
【数2】
【0044】
ここで、屈折率変調Δnyは、光電界の向きがy軸方向の場合、Δnzは、光電界の向きがz軸方向の場合である。また、n0は変調前の屈折率であり、s11とs12は電気光学係数である。
【0045】
しかし、反転対称性を有する単結晶材料は、電界を印加したときに、カー効果と同時に電歪効果も発現する。電歪効果とは、電界を印加すると結晶材料が歪む現象であり、歪(ひずみ)は電界の二乗に比例する。さらに、反転対称性を有する単結晶材料に限らず、物質は一般に、歪を発生させると、その歪に比例した屈折率変化を生ずる、いわゆる光弾性効果を発現する。このために、反転対称性を有する単結晶材料に電界を印加すると、電歪効果によって歪みが発生し、さらにその結果、光弾性効果によって屈折率が変化する。歪が電界の二乗に比例し、屈折率は歪に比例するので、原因と結果だけをみると、単純なカー効果と等価である。つまり、見かけのカー効果は、実は電歪効果と光弾性効果の合成による成分を含んでいるのが常である。
【0046】
さらに、この電歪効果と光弾性効果の成分は、見かけのカー効果の支配的成分であることも分かった。支配的である電歪効果と光弾性効果による成分以外の成分を無視すると、KTNの屈折率変化は、下記のようにあらわされる。
【0047】
【数3】
【0048】
ここで、p11とp12は光弾性係数である。exx、eyy、ezzの3つは、歪みテンソルの成分であるが、それぞれ、x軸方向、y軸方向、z軸方向の線膨張係数と等価である。電界が均一にかかっている場合、電歪効果によれば、これら歪は次の式のように、電界成分の二乗であるEx2とEz2との線形結合で表わされる。
【0049】
【数4】
【0050】
この(3)式を(2)式に代入すると、結局(1)式と等価な式が現れ、その性質は、前の電気光学材料の性質に関する記述と全く矛盾しない。ところが、本発明の可変焦点レンズの基板1の内部のように、電界に分布がある場合、歪は結晶の弾性にも強く影響される。このため、(2)式は成り立っても(3)式は成り立たず、したがって(1)式は成り立たない。
【0051】
図5に、2つの数値計算法による可変焦点レンズの光路長分布の違いを示す。単純なカー効果による計算と、歪の数値計算による計算の結果の違いを示している。実線は、光電界がy軸に平行な場合(y偏光)、破線はz軸に平行な場合(z偏光)である。○プロットは、従来の単純なカー効果の(1)式に従って計算した光路長分布、□プロットは弾性を考慮した歪を数値計算して(2)式に従って計算した光路長分布を示す。z偏光の場合は、歪計算による場合の方が、若干レンズ効果が強いものの、両者同様に凸レンズ機能を示している。一方y偏光の場合、従来のカー効果による計算結果は下に凸の形状であり、凹レンズ機能を示しているのに対して、歪計算によればレンズとしての効果が非常に小さいことが現れている。言い換えると、より正しい計算によれば、y偏光はほとんど変調を受けず、素通りすることが分かる。
【0052】
(偏光無依存可変焦点レンズの構成)
図6に、本発明の第2の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。前述の知見を用いれば、以下に説明する簡単な構成により、偏光無依存可変焦点レンズを実現することができる。偏光無依存可変焦点レンズは、図1,2を用いて説明したシリンドリカル可変焦点レンズの基本単位素子31と、半波長板32と、もう一つの基本単位素子33とを、光軸をそろえて直列に配置した単純な構造である。「シリンドリカル可変焦点レンズの構成」で説明した球面レンズでは、2つの基本単位素子と半波長板を組み合わせ、光軸を中心に互いに90度の角度をなすように配置した。一方、図6の構成では、2つの基本単位素子を回転させず、同じ方向に集光するように配置する。いずれの構成でも、2つの基本単位素子と半波長板を組み合わせる点で同じだが、基本単位素子の配置が異なり、球面レンズでは2軸変調を行っているが、偏光無依存可変焦点レンズでは1軸変調を行う点で異なる。
【0053】
図4の場合と同様に、入射光34は、任意の偏光成分を持ち、y偏光とz偏光の2つの成分に分離して考えてもよい。両成分は、一緒に基本単位素子31に入射するが、y偏光は、図5を用いて説明したように、変調を受けずに素通りする。一方、z偏光は、基本単位素子31の凸レンズ機能により、集光するように変調されて出射される。基本単位素子31を透過した両成分は、やはり一緒に半波長板32に入射する。半波長板32を透過すると、光電界方向は90度回転させられるので、入射前のy偏光はz偏光に、z偏光はy偏光に入れ替わり、その後に第2の基本単位素子33に入射される。基本単位素子33で集光するよう変調された光成分は、y偏光へと変わっているので、今度は基本単位素子33を素通りする。基本単位素子31で変調を受けなかった光成分は、今度はz偏光になっているので、集光するように変調を受ける。このために、入射光34を構成していた2つの偏光成分は、両方とも同様に集光変調を受けて出射光35として出射されるので、入射光の偏光にかかわらず、同様に集光変調することができる。
【0054】
以上、図6を用いて説明した偏光無依存可変焦点レンズは、偏光無依存のシリンドリカルレンズであるが、これを、球面レンズと同様の機能を持つ、2軸動作のレンズに拡張することは、簡単にできる。当然のことながら、図6の構成を、光軸上に2つ直列に置き、光軸に関して互いに90度の角度をなすように配置すれば、2軸動作の偏光無依存可変焦点レンズを構成することができる。
【0055】
図7に、本発明の第3の実施形態にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。電圧の印加方向、すなわち電極面の法線が、光軸に対して互いに90度の角度をなすように配置した2つの基本単位素子と、半波長板と、もう一組の基本単位素子とを組み合わせる。このようにして、波長板を1枚減らすこともできる。以下、光変調を、順を追って説明する。
【0056】
図6と同様に、入射光46をy偏光成分とz偏光成分とに分割して考える。このときのy偏光成分を光成分1とし、z偏光成分を光成分2とする。光成分1はy偏光であるので、基本単位素子41によって変調を受けない。しかし、その後に基本単位素子42に入射すると、y軸方向の集光変調を受ける。続いて半波長板43に入射すると、z偏光に変わる。さらに続いて基本単位素子44に入射すると、z偏光であるので、z軸方向にも集光変調を受け、先の変調と併せて2軸の集光変調がかかる。z偏光であるので、最後の基本単位素子45は素通りし、結果的に2軸の集光変調がかかった状態で出射される。
【0057】
一方の光成分2を考える。この成分はz偏光であるので、最初の基本単位素子41でz軸方向の集光変調がかかるが、次の基本単位素子42は素通りする。次いで、半波長板43にてy偏光へ変換されてから、基本単位素子44に入射する。ここでは、変調を受けない。最後に基本単位素子45に進むと、y偏光であるので、ここでy軸方向の集光変調が追加される。このため、最終的には2軸両方の集光変調を受けた状態で出射される。総合すると、光成分1、光成分2ともに2軸両方の集光変調を受けて、出射光47として出射されるので、偏光無依存の2軸の可変焦点レンズとして機能する。
【0058】
なお、この構成で重要なのは、光を同じ方向に集光する基本単位素子41と44が半波長板43を挟んで両側に配置され、この集光方向とは異なる方向ではあるが、やはり同じ方向に集光する基本単位素子42と45とが半波長板43を挟んで両側に配置されていることである。したがって、基本単位素子41と42は、図中の左右を入れ替えても良く、基本単位素子44と45の左右を入れ替えても良い。
【0059】
図8に、本発明の第4の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。第2の実施形態のもう一つの応用例である。この光学系では、入射光55は、ビームスプリッタ51を透過したのちに基本単位素子52に入射する。次に、4分の1波長板53を透過し、鏡54で反射して、元の経路を戻る。4分の1波長板53、基本単位素子52を順に透過して、最終的に、ビームスプリッタ51で反射され、出射光56として出力される。光は、4分の1波長板53を2度透過するので、半波長板を透過するのと同じく、偏光が90度回転した状態で基本単位素子52に再度入射する。これより、図6と同じ効果が得られることが分かる。ビームスプリッタ51は、偏光に依存しないものが好適である。ビームスプリッタ51による光パワーの損失が、この構成の欠点であるが、基本単位素子の数を半分に減らせることが特長である。なお、当然のことながら、基本単位素子をもう一つ追加すれば、2軸の集光が可能となる。
【0060】
(電極の配置)
ここまでで説明した可変焦点レンズの実施形態では、基本単位素子は、基板1の上面に陽極2と陰極4を配置し、下面に陰極3と陽極5とを配置している。しかし、この基本単位素子において、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極にした構成とすることもできる。レンズ効果は、第1の実施形態の可変焦点と比較して小さいが、機能は同じである(第5の実施形態)。
【0061】
図9に、本発明の第6の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電極の配置は、図1の第1の実施形態と同じであるが、光の入射、出射方向が異なる。図9に示すように、光は、基板1の上面の陽極2と陰極4との間から入射され、基板1の内部をz軸方向に進行し、下面の陰極3と陽極5との間から空気中へと出射するように設定する。さらに、第6の実施形態においても、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極にしてもよく、逆に上面を陰極・下面を陽極とする構造でも良い(第7の実施形態)。
【0062】
図10に、本発明の第8の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。第1の実施形態の基本単位素子のさらなる応用であり、光軸方向に沿って直列に配置した構成である。1つの基板61に複数の電極対62a,62b,63a,63b,64a,64bを配置し、互いに隣り合う電極対には反対の極性の電圧を印加する。第5の実施形態と同様に、上面の全ての電極対に同じ極性の電圧を印加し、下面の全ての電極対に同じ極性の電圧を印加する構成としてもよい。もちろん、任意のパターンで電圧を印加してもよい。このように素子を構成すれば、より低い電圧でも、大きなレンズ効果を得ることができる。電極対の数は、偶数でも奇数でもよい。
【0063】
(偏光回転素子)
図6や図7の構成では、半波長板が重要な役割を果たしているが、この半波長板は、もっと一般的には、偏光を90度回転させる、偏光回転素子である。偏光を90度回転させる素子であれば何でも良く、代表例である半波長板以外にも、ファラデー回転素子なども代わりに用いることができる。
【0064】
半波長板は、互いに直交する2つの偏波の間に、波長の半分に相当する位相ずれ、すなわちπラジアンだけの位相ずれを生じさせる光学素子である。典型的には、複屈折性の材料を板状に加工したものからなる。KTNのような反転対称性を有する単結晶材料は、通常、複屈折はないが、電界を一方向に印加することにより、電界に平行な方向と、これに直交する方向とで複屈折が生じる。この性質を利用して、KTNによって半波長板を構成することができる。
【0065】
図11に、本発明の第9の実施形態にかかる偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。図6に示した第2の実施形態の応用として、第1の基本単位素子71とKTN半波長板72と第2の基本単位素子73とが、光軸方向に沿って直列に配置されている。KTN半波長板72の形状は、直方体状であり、互いに対向する2面の面上に、ほぼ全面にわたって電極膜が形成されている。この電極対に電圧を印加することにより、これら2面に垂直な電界が均一に形成される。この電界の向きが、第1の基本単位素子71と第2の基本単位素子73の電圧の印加方向、すなわち電極面の法線に対して、それぞれ45度の角度をなすように配置する。これにより、第1の基本単位素子71を透過した光の偏光が90度回転する。
【0066】
半波長板も、上述した基本単位素子であるシリンドリカル可変焦点レンズと同じくKTNで構成する場合、3つの電気光学材料からなる基板を一体に成型し、第1の基本単位素子71用の電極と、KTN半波長板72用の電極と、第2の基本単位素子73用の電極とを順に並べて取り付ける。このようにして、一体化した偏光無依存可変焦点レンズを構成することもできる。また、図7に示した第3の実施形態の応用として、可変焦点レンズの基本単位素子4つと半波長板とを一体成型することも可能である。
【0067】
(電極材料)
電気光学材料に高い電圧を印加すると、電極から電荷が注入され、結晶内に空間電荷が発生しうる。この空間電荷により電圧の印加方向に電界の大きさの傾斜が生じるために、屈折率の変調にも傾斜が生じる。従って、電気光学材料をレンズとして機能させるための所望の屈折率分布を得るため、または、電気光学材料を透過する光が偏向しないようにするためには、基板1に電圧を印加した際に、基板1の内部に空間電荷が形成されない方がよい。
【0068】
空間電荷の量は、キャリアの注入効率に依存する量であるため、電極から注入されるキャリアの注入効率は小さい方がよい。電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数が大きくなるにつれて、電極と基板との間はショットキー接合に近づき、キャリアの注入効率は減少する。従って、電極は、電気光学材料とショットキー接合が形成される材料であることが好ましい。具体的には、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数は、5.0eV以上であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV以上の電極材料として、Co(5.0)、Ge(5.0)、Au(5.1)、Pd(5.12)、Ni(5.15)、Ir(5.27)、Pt(5.65)、Se(5.9)を用いることができる。()内は仕事関数を示し、単位はeVである。
【0069】
一方、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが正孔の場合には、正孔の注入を抑えるために、電極材料の仕事関数は、5.0eV未満であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV未満の電極材料として、Ti(3.84)等を用いることができる。なお、Tiの単層電極は酸化して高抵抗になるので、一般的には、Ti/Pt/Auを順に積層した電極を用いて、Tiの層と電気光学結晶とを接合させる。さらに、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnOなどの透明電極を用いることもできる。
【実施例1】
【0070】
第1の実施形態(図1)に示したように、電気光学材料を板状に加工した基板1の上面および下面に、陽極2、陰極3、陰極4、陽極5を形成する。基板1は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、7mm×7mm×(厚さT=)4mmの形状に成形する。基板1の6面とも、結晶の(100)面に平行とし、光学研磨を行っている。このKTN単結晶は、相転移温度35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用する。この温度での比誘電率は20,000である。4つの電極は、0.8mm×7mmの帯状で、同一面上の電極の間隔は4mmとする。2つの電極対は、基板1の7mm×7mmの面上に、白金(Pt)を蒸着して形成されている。電極の各辺は、基板1の辺に平行である。
【0071】
このシリンドリカル可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は59cmである。
【0072】
この偏光依存型の可変焦点レンズを基本単位素子とし、2つ同じ仕様のものを作製し、水晶製半波長板と組み合わせて、第2の実施形態(図6)の光学系を作製した。前述の実験と同じく、2つの基本単位素子を40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は、先ほどと同じく59cmである。ここで、印加電圧を500Vにすると、集光効果は小さくなり、焦点距離は290cmになる。また、電圧を印加しない場合は、当然集光効果はなく、焦点距離は無限大である。従って、印加電圧を0Vから1000Vまで変化させることにより、焦点距離を無限大から59cmまで変化させることができる。焦点距離の変更は、印加電圧を変更するだけなので、応答時間は1μs以下であり、従来の可変焦点レンズの応答時間と比較して、3桁以上改善されている。以上の特性は、入射レーザ光の偏光方向を回転しても、回転角によらず、一定であった。
【0073】
さらに、上記の基本単位素子を同じ仕様で4個作製し、水晶製半波長板と組み合わせて、第3の実施形態(図7)の光学系を作製した。前述の実験と同じく、4つの基本単位素子を40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000V前後の電圧を印加すると、基板1から出射する光は、y軸z軸の両方向に集光され、球面凸レンズと同様に機能する。基本単位素子の光軸状の位置が等しくはないため、各個に印加する電圧は±50Vの範囲内で調整した。焦点距離は、先ほどと同じく59cmである。従って、印加電圧を0Vから1000Vまで変化させることにより、焦点距離を無限大から72cmまで変化させることができ、入射レーザ光の偏光方向を回転しても、回転角によらず、同様に変化させることができる。
【実施例2】
【0074】
実施例1において作製した基本単位素子において、第5の実施形態に示したように、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極として使用する。このシリンドリカル可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は115cmである。
【0075】
この基本単位素子を4個使用して、実施例1と同様に、第3の実施形態(図7)の光学系を作製した。焦点距離は、先ほどと同じく115cmであり、レンズ効果は多少小さかったが、偏光状態を変えても焦点制御機能が変わらない点は、実施例1と同じであった。
【実施例3】
【0076】
実施例1において作製した基本単位素子を、第6の実施形態(図9)に示したシリンドリカル可変焦点レンズとして使用する。このシリンドリカル可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はx軸方向である。上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板1から出射する光は、x軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は104cmである。
【0077】
図12に、実施例3にかかる2軸化偏光無依存可変焦点レンズの構成を示す。電極が形成されているxy平面を、光軸(z軸)に対して互いに90度の角度をなすように配置した2つの基本単位素子81,82と、半波長板83と、もう一組の基本単位素子84,85とを組み合わせる。y偏光成分とz偏光成分とを有する入射光86は、結果的に2軸の集光変調がかかった状態で出射光87として出射されるので、偏光無依存の2軸の可変焦点レンズとして機能する。
【0078】
4つの基本単位素子を40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はx軸方向である。上下電極間に1000V前後の電圧を印加すると、出射光87は、x軸y軸の両方向に集光され、球面凸レンズと同様に機能する。基本単位素子の光軸状の位置が等しくはないため、各個に印加する電圧は±50Vの範囲内で調整した。焦点距離は104cmである。入射レーザ光の偏光方向を回転しても、回転角によらず、同様に集光させることができる。
【実施例4】
【0079】
実施例3において作製した基本単位素子において、第7の実施形態に示したように、上面の電極を双方ともに陽極とし、下面の電極を双方ともに陰極として使用する。この基本単位素子を4個使用して、実施例3と同様に、図12の光学系を作製した。焦点距離は114cmであり、レンズ効果は多少小さかったが、偏光状態を変えても焦点制御機能が変わらない点は、実施例3と同じであった。
【符号の説明】
【0080】
1,31,61 基板
2,5,62a,63a,64a 陽極
3,4,62b,63b,64b 陰極
6 電気力線
7 屈折率変調曲線
8,19,34,46,55,86 入射光
11,17 偏光ビームスプリッタ
12,14,54 鏡
13,15,31,33,41,42,44,45,52,71,73,81,82,84,85 基本単位素子
16,18,32,43,53,83 半波長板
20,21 分枝
22,35,47,56,87 出射光
51 ビームスプリッタ
53 4分の1波長板
73 KTN半波長板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、
該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、
該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、
第1の基本単位素子と、
該第1の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、
該偏光回転素子を透過した光を、前記第1の基本単位素子と同一方向に集光するように配置された第2の基本単位素子と
を備えたことを特徴とする偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項2】
反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、
該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、
該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、
前記電極対の電圧の印加方向が、光軸に対して互いに90度の角度をなす第1の基本単位素子および第2の基本単位素子と、
該第2の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、
前記電極対の電圧の印加方向が、光軸に対して互いに90度の角度をなし、前記偏光回転素子を透過した光を集光する第3の基本単位素子および第4の基本単位素子と
を備えたことを特徴とする偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陰極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陰極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陽極とを備え、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項4】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陰極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陰極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陽極とを備え、
前記第1の陽極と前記第2の陰極との間の前記第1の面に光を入射させたき、前記電気光学材料の内部を透過してから、前記第1の陰極と前記第2の陽極との間の前記第2の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記2つの陽極と前記2つの陰極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第2の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項5】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陽極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陽極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陰極とを備え、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項6】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陽極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陽極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陰極とを備え、
前記第1の陽極と前記第2の陽極との間の前記第1の面に光を入射させたき、前記電気光学材料の内部を透過してから、前記第1の陰極と前記第2の陰極との間の前記第2の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記2つの陽極と前記2つの陰極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第2の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項7】
前記の基本単位素子は、
該電気光学材料の表面に形成された2N個の電極とを備え、
1≦k≦N−1の時、前記電気光学材料の第1の面上に形成され、光の入射側からk番目の電極をk番目の陽極とし、前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記k番目の陽極と向かい合う位置に形成された電極をk番目の陰極とし、
前記第1の面上に形成され、前記k番目の陽極とは間隔をおいて配置された電極をk+1番目の陰極とし、前記第2の面上に形成され、前記k+1番目の陰極と向かい合う位置に形成され、前記k+1番目の陰極とは間隔をおいて配置された電極をk+1番目の陽極とし、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記k番目の陽極および前記k番目の陰極からなる電極対の間と、N番目の陽極およびN番目の陰極からなる電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記k番目およびN番目の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項8】
前記電気光学材料は、ペロブスカイト型単結晶材料であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項9】
前記電気光学材料は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbxO3、0<x<1)であることを特徴とする請求項8に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項10】
前記電気光学材料は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項11】
前記電気光学材料は、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族またはIIa族の1または複数種を含むことを特徴とする請求項10に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項12】
前記第1および第2の陽極と前記第1および第2の陰極と前記2N個の電極とは、前記電気光学材料とショットキー接合が形成される材料からなることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項13】
前記第1および第2の陽極と前記第1および第2の陰極と前記2N個の電極とは、帯状の形状を有し、その長手方向の辺は、すべて平行であることを特徴とする請求項12に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項1】
反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、
該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、
該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、
第1の基本単位素子と、
該第1の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、
該偏光回転素子を透過した光を、前記第1の基本単位素子と同一方向に集光するように配置された第2の基本単位素子と
を備えたことを特徴とする偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項2】
反転対称性を有する単結晶からなる電気光学材料と、
該電気光学材料の第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とにそれぞれ向かい合う位置に形成された複数の電極対とを備え、
該電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過する光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズを基本単位素子とし、
前記電極対の電圧の印加方向が、光軸に対して互いに90度の角度をなす第1の基本単位素子および第2の基本単位素子と、
該第2の基本単位素子を透過した光の直線偏光を90度回転させる偏光回転素子と、
前記電極対の電圧の印加方向が、光軸に対して互いに90度の角度をなし、前記偏光回転素子を透過した光を集光する第3の基本単位素子および第4の基本単位素子と
を備えたことを特徴とする偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陰極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陰極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陽極とを備え、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項4】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陰極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陰極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陽極とを備え、
前記第1の陽極と前記第2の陰極との間の前記第1の面に光を入射させたき、前記電気光学材料の内部を透過してから、前記第1の陰極と前記第2の陽極との間の前記第2の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記2つの陽極と前記2つの陰極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第2の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項5】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陽極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陽極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陰極とを備え、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項6】
前記基本単位素子は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陽極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陽極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陰極とを備え、
前記第1の陽極と前記第2の陽極との間の前記第1の面に光を入射させたき、前記電気光学材料の内部を透過してから、前記第1の陰極と前記第2の陰極との間の前記第2の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記2つの陽極と前記2つの陰極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第2の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項7】
前記の基本単位素子は、
該電気光学材料の表面に形成された2N個の電極とを備え、
1≦k≦N−1の時、前記電気光学材料の第1の面上に形成され、光の入射側からk番目の電極をk番目の陽極とし、前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記k番目の陽極と向かい合う位置に形成された電極をk番目の陰極とし、
前記第1の面上に形成され、前記k番目の陽極とは間隔をおいて配置された電極をk+1番目の陰極とし、前記第2の面上に形成され、前記k+1番目の陰極と向かい合う位置に形成され、前記k+1番目の陰極とは間隔をおいて配置された電極をk+1番目の陽極とし、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記k番目の陽極および前記k番目の陰極からなる電極対の間と、N番目の陽極およびN番目の陰極からなる電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記k番目およびN番目の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変するシリンドリカル可変焦点レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項8】
前記電気光学材料は、ペロブスカイト型単結晶材料であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項9】
前記電気光学材料は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbxO3、0<x<1)であることを特徴とする請求項8に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項10】
前記電気光学材料は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項11】
前記電気光学材料は、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族またはIIa族の1または複数種を含むことを特徴とする請求項10に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項12】
前記第1および第2の陽極と前記第1および第2の陰極と前記2N個の電極とは、前記電気光学材料とショットキー接合が形成される材料からなることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【請求項13】
前記第1および第2の陽極と前記第1および第2の陰極と前記2N個の電極とは、帯状の形状を有し、その長手方向の辺は、すべて平行であることを特徴とする請求項12に記載の偏光無依存可変焦点レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−42900(P2012−42900A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186665(P2010−186665)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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