説明

偏光素子の製造方法

【課題】光学特性に優れた偏光素子を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の偏光素子の製造方法は、ガラス基板上に金属を含む複数の粒子を配置した後、ガラス基板を加熱延伸することで粒子を伸長させ、ガラス基板上に針状粒子を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光素子の一種として、偏光ガラスが知られている。偏光ガラスは無機物のみで構成できるため、有機物を含む偏光板に比べ、光に対する劣化が著しく少ない。したがって、近年高輝度化が進んでいる液晶プロジェクターにおいて有効な光学デバイスとして注目されている。
【0003】
一般的な偏光ガラスとしては、特許文献1に記載されたものが公知であり、その製造方法は以下の通りである。
(1)塩化物、臭化物、及びヨウ化物の群から選択した少なくとも1つのハロゲン化物及び銀を含有する組成物から、所望の形状のガラス製品を作製する。
(2)そのガラス製品を、該ガラス製品中にAgCl、AgBr、又はAgIの結晶を生成せしめるのに十分な期間にわたり、歪み点より高いが、ガラスの軟化点からは約50℃は高くない温度にまで加熱し、結晶含有製品を作製する。
(3)この結晶含有製品を、結晶が少なくとも5:1のアスペクト比に伸長されるように、アニール点より高いが、ガラスが約108ポアズの粘度を示す温度より低い温度において応力下で伸長せしめる。
(4)その製品を、該製品上に化学的な還元表面層を発達せしめるのに十分な期間にわたり、約250℃より高いが、ガラスのアニール点からは約25℃は高くない温度の還元雰囲気に暴露する。ここで伸長ハロゲン化銀粒子の少なくとも一部は銀元素に還元されている。
【0004】
一方、イオン交換法で銀又は銅をガラス表層中へ導入した後、銀又は銅のハロゲン化物の相を析出させ、これを伸長することでガラス製品の表層に偏光分離機能を有する層を形成する方法も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−169140号公報
【特許文献2】特許第4394355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の製造方法では、ガラス製品中に万遍なくハロゲン化物が析出する一方で、還元工程ではガラス製品表層のハロゲン化物しか還元できないため、ガラス製品の厚さ方向の中央部分にハロゲン化物が残存し、偏光素子の透過率を低下させる原因となる。
一方、特許文献2記載の方法によれば、ガラス製品の表層部にのみ銀又は銅を導入するので、還元されずに残るハロゲン化物に起因する上記の不具合を防止することができるが、高温(350℃〜750℃)の溶融塩中に8時間程度も浸漬させる必要がある。そのため、環境負荷が高く、省エネルギー化や生産性の点で課題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、光学特性に優れた偏光素子を簡便に製造する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の偏光素子の製造方法は、ガラス基板上に金属を含む複数の粒子と分散媒とを含む液体材料を塗布する工程と、前記分散媒を除去して、前記ガラス基板上に前記複数の粒子からなる第1の粒子層を形成する工程と、前記ガラス基板を加熱延伸することで、前記複数の粒子を伸長させて複数の針状粒子とする工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この製造方法によれば、液相法を用いて粒子をガラス基板上に配置するので、イオン交換によりガラス基板の表層部に金属元素を導入するプロセスのように高温の溶融塩に長時間浸漬するといった製造工程が不要であり、環境負荷が小さく、生産性に優れた製造方法となる。
またガラス基板の表面上でプロセスが実行されるので、針状粒子の形状や配置密度の制御が容易であり、製造する偏光素子の光学特性の制御も容易に行うことができる。
【0010】
前記ガラス基板上に前記第1の粒子層を形成した後、前記ガラス基板を延伸する前に、前記第1の粒子層上に絶縁膜を形成し、さらに該絶縁膜の上に、前記複数の粒子からなる第2の粒子層を形成する工程を有する製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、ガラス基板上における粒子の配置密度を極めて容易に制御することができる。また粒子層を形成する毎に絶縁膜を形成するので、粒子層間で粒子が凝集してしまうことがなく、粒子の粒径制御を正確かつ容易に行うことができる。
【0011】
前記複数の粒子のうち一の粒子が金属粒子であり、前記第1の粒子層を形成した後、前記ガラス基板を延伸する前に、前記金属をハロゲン化して金属ハロゲン化物とする工程と、前記複数の粒子を前記複数の針状粒子とした後、前記金属ハロゲン化物を還元処理する製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、金属ハロゲン化物粒子を形成した後で延伸処理を行うので、粒子の伸長を円滑に実行することができる。
【0012】
前記複数の粒子のうち一の粒子が金属ハロゲン化物を含み、前記複数の粒子を前記複数の針状粒子とした後、前記金属ハロゲン化物を還元処理する製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、ハロゲン化工程が不要であるため、金属粒子を用いる場合と比較してより簡便な製造方法となる。
【0013】
前記第1の粒子層を形成する工程において、前記複数の粒子を軟化又は溶融させことで、前記複数の粒子のうち一の粒子を前記ガラス基板に面で接触させる製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、ガラス基板への粒子の固着性を向上させることができ、ガラス基板を延伸したときに粒子が脱離するのを抑え、歩留まりよく偏光素子を製造することができる。
【0014】
前記金属粒子が、Ag、Cu、Au、Cd、Alから選ばれる1種又は2種類以上の金属からなる製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、偏光素子に好適な針状金属粒子を容易に得ることができる。
【0015】
前記絶縁膜がシリコン酸化膜である製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、ガラス基板と共通の成分を有する絶縁膜とすることができるので、ガラス基板を延伸させる工程を円滑に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の偏光素子の製造方法を示す図。
【図2】第1実施形態の偏光素子の製造方法を示す図。
【図3】第2の焼成工程後及び延伸工程後のガラス基板表面を示す平面図。
【図4】第2実施形態の偏光素子の製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0018】
図1及び図2は、本実施形態の偏光素子の製造方法を示す図である。
本実施形態の偏光素子の製造方法は、図1及び図2に示すように、第1の塗布工程S1と、第1の焼成工程S2と、第1のハロゲン化工程S3と、第1の絶縁膜形成工程S4と、第2の塗布工程S5と、第2の焼成工程S6と、第2のハロゲン化工程S7と、第2の絶縁膜形成工程S8と、延伸工程S9と、還元工程S10と、を有する。
【0019】
まず、図1(a)に示す第1の塗布工程S1では、ガラス基板10上に液体材料Lが塗布される。
ガラス基板10としては、特に限定されず、公知のいかなるガラス基板も用いることができる。これは、本実施形態の偏光素子の製造方法では、ガラス基板中に金属ハロゲン化物を析出させたり、ガラス基板の表面にイオン交換により金属イオンを導入したりする必要がないからである。具体的には、石英ガラス、ソーダライムガラス、サファイアガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等、偏光素子の用途に応じて種々のガラス基板を用いることができる。
【0020】
液体材料Lは、金属粒子11を分散媒dmに分散させた分散液である。
金属粒子11としては、Au、Ag、Cu、Cd、Alから選ばれる1種又は2種以上の金属からなる粒子を用いることができる。金属粒子11は、分散性を向上させるために表面に有機物などをコーティングして使うこともできる。金属粒子11の粒径は1nm〜0.1μm程度であることが好ましい。0.1μmより大きいと、良好な偏光分離特性を得られなくなるおそれがある。一方、粒径が1nmより小さいと、金属粒子11が液体材料L中やガラス基板10上で凝集しやすくなり、コスト面、取り扱いの容易さの点でも好ましくない。
【0021】
分散媒としては、上記の導電性微粒子を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサンなどのエーテル系化合物、さらにプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの極性化合物を例示できる。これらのうち、微粒子の分散性と分散液の安定性等の点で、水、アルコール類、炭化水素系化合物、エーテル系化合物が好ましく、より好ましい分散媒としては、水、炭化水素系化合物を挙げることができる。
【0022】
液体材料Lの塗布方法は、ガラス基板10上に所定の厚さで液体材料Lを塗布することができる方法であれば特に限定されず、スピンコート法、スプレーコート法、スリットコート法、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、液体噴射法等、公知の塗布方法から適宜選択して用いることができる。
【0023】
液体材料Lを塗布した後、分散媒dmの除去のため、必要に応じて乾燥処理を行う。乾燥処理は、ホットプレート、電気炉などによる加熱処理や、真空乾燥処理によって行うことができる。例えば、真空容器内にガラス基板10を収容し、10〜60分程度の排気を行うことで、分散媒dmを除去することができる。また加熱による乾燥処理を行う場合には、大気中で行ってもよく、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0024】
また、乾燥処理は、ランプアニールによって行うこともできる。ランプアニールに使用する光の光源としては、特に限定されないが、赤外線ランプ、キセノンランプ、YAGレーザ、アルゴンレーザ、炭酸ガスレーザ、XeF、XeCl、XeBr、KrF、KrCl、ArF、ArClなどのエキシマレーザなどを光源として使用することができる。
【0025】
次に、図1(b)に示す第1の焼成工程S2では、金属粒子11の表面に残存する分散媒dmやコーティング剤を除去するとともに、金属粒子11を軟化又は溶融させることで、ガラス基板10の表面に固着させる。これにより、第1の粒子層12が形成される。また、第1の焼成工程S2では、加熱処理条件により金属粒子11の凝集の程度を制御することができ、これによりガラス基板10上に配置された金属粒子11の粒径を調整することができる。
【0026】
第1の焼成工程S2は、熱処理及び光処理のいずれか又は両方により実施することができる。熱処理及び光処理の具体的手法は、上記乾燥処理と同様である。これらの熱処理及び光処理は通常大気中で行われるが、必要に応じて、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で行うこともできる。熱処理及び光処理の処理温度や処理時間は、分散媒の沸点(蒸気圧)、雰囲気ガスの種類や圧力、微粒子の分散性や凝集性等の挙動、コーティング剤の有無や量、基材の耐熱温度などを考慮して適宜決定される。例えば、液体材料LがAgナノ粒子の金属粒子11を炭化水素系の分散媒dmに分散させたものである場合には、150℃、60分間程度の加熱処理を行えばよい。
【0027】
第1の焼成工程S2では、図1(b)に示すように、焼成処理後の金属粒子11を、ガラス基板10との接触面が平坦面となるように略半球状に変形させることが好ましい。このように金属粒子11とガラス基板10とを面で接触させることで、金属粒子11の固着性を高めることができる。
【0028】
第1の焼成工程S2が終了したならば、ガラス基板10上の金属粒子11をハロゲン化処理する第1のハロゲン化工程S3が実行される。第1のハロゲン化工程S3により、金属粒子11が含む金属が金属ハロゲン化物となり、金属粒子11は金属ハロゲン化物粒子12aとなる。形成される金属ハロゲン化物は、例えば、AgClx、AlF、AgF、AgBr、AgI、AlClx等である。
【0029】
第1のハロゲン化工程S3では、金属粒子11をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスと接触させることで金属をハロゲン化する方法を用いることができる。例えば、ClガスやBrガスを含む雰囲気中でガラス基板10を加熱することで、金属粒子11の表面からハロゲン化を進行させる方法を用いることができる。あるいは、金属粒子11をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスのプラズマに曝し、ハロゲンラジカルを金属と反応させることで金属ハロゲン化物を形成するプラズマ処理であってもよい。
【0030】
上記ハロゲン化合物としては、特に限定されるものではないが、BCl、BBr、BF等のホウ素化合物、CF、C等のフッ化炭素化合物、GeCl、GeF等のゲルマニウム化合物、SiCl、SiF等のシリコン化合物、SiHCl、SiHCl等のシラン化合物、NF、PF、SF、SnCl、TiCl、WF等を挙げることができる。
【0031】
なお、第1のハロゲン化工程S3は、必要に応じて設ければよい。金属粒子11のハロゲン化は、後段の延伸工程S9において粒子を円滑に伸長させることができるようにするために実施されるものであり、金属粒子11が十分な延伸加工性を備えている場合にはハロゲン化を行わなくてもよい。また例えば、第1の焼成工程S2をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガス雰囲気中で実施し、焼成と同時にハロゲン化を実行する場合には、第1のハロゲン化工程S3は不要である。
【0032】
次に、図1(c)に示すように、第1の粒子層12上に第1の絶縁膜13aを形成する第1の絶縁膜形成工程S4が実行される。
第1の絶縁膜13aの材質は、透明な被膜を形成可能であり、後段の延伸工程S9における加熱温度に耐えるものあれば特に限定されない。例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物、チタン酸化物やジルコニウム酸化物などを用いることができる。本実施形態では、基材がガラス基板であるため、成分が共通するシリコン酸化物を用いることが好ましい。
【0033】
第1の絶縁膜13aの成膜方法は、所望の厚さの被膜を形成できる方法であれば特に限定されず、気相法、液相法のいずれであってもよい。気相法を用いる場合に、物理蒸着法、化学蒸着法のいずれであってもよい。物理蒸着法としては、蒸発系、スパッタ系のいずれであってもよい。蒸発系の物理蒸着法としては、真空蒸着法、分子線蒸着法(MBE)、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法などを挙げることができる。スパッタ系の物理蒸着法としては、コンベンショナルスパッタリング、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリングなどを挙げることができる。化学蒸着法としては、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、MOCVDなどを挙げることができる。
また液相法としては、スピンコート法、スプレーコート法、スリットコート法、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、液体噴射法などにより塗布し、これを焼成する方法を挙げることができる。
【0034】
第1の絶縁膜13aは、主に金属ハロゲン化物粒子12aの凝集を防止するために設けられる層であるため、その厚さは上記目的を達成できる範囲で薄くすることができる。例えば、シリコン酸化物からなる第1の絶縁膜13aであれば、100nm以下の厚さとすることができる。
【0035】
次に、図1(d)に示すように、第1の絶縁膜13a上に金属粒子11を配置する第2の塗布工程S5が実行される。
第2の塗布工程S5の具体的実施手順は、第1の塗布工程S1と同様とすることができる。すなわち、金属粒子11を分散媒dmに分散させた液体材料Lを、スピンコート法などにより第1の絶縁膜13a上に塗布する。塗布後は、必要に応じて乾燥処理を実行する。なお、液体材料L中の金属粒子11の含有量や分散媒dmの種類、乾燥処理の条件等を、第1の塗布工程S1と異なるものとしてもよいのはもちろんである。
【0036】
次に、図2(a)に示すように、第1の絶縁膜13a上の金属粒子11を焼成する第2の焼成工程S6が実行される。
第2の焼成工程S6によって、第2の粒子層22が形成される。第2の焼成工程S6の具体的実施手順は、第1の焼成工程S2と同様とすることができる。すなわち、熱処理や光処理により金属粒子11を加熱し、金属粒子11に含まれる分散媒やコーティング剤を除去するとともに、加熱に伴う金属粒子11の凝集の度合いを制御することで、金属粒子11の粒径制御を行う。
【0037】
このとき、本実施形態の製造方法では、下層側の第1の粒子層12を覆って第1の絶縁膜13aが形成されているため、第2の焼成工程S6において軟化又は溶融した金属粒子11が、第1の粒子層12の金属ハロゲン化物粒子12aと凝着してしまうことはない。したがって、第2の焼成工程S6において、金属粒子11の粒径は容易に制御することができる。
また、第1の絶縁膜13aが形成されていることにより、金属ハロゲン化物粒子12aを構成する金属ハロゲン化物が気化したり、ハロゲンが脱離したりすることも抑制される。
【0038】
第2の焼成工程S6においても、金属粒子11が第1の絶縁膜13a上で略半球状となるように加熱条件等を設定することが好ましい。このように金属粒子11と絶縁膜13aとを面で接触させることにより、金属粒子11の固着性を高めることができる。
なお、加熱方法や加熱処理の条件等を第1の焼成工程S2と異ならせてもよいのはもちろんである。
【0039】
続いて、第2のハロゲン化工程S7が実行される。
第2のハロゲン化工程S7の具体的手順は、第1のハロゲン化工程S3と同様とすることができる。すなわち、ハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスを直接又はプラズマ化した状態で金属粒子11に接触させ、金属粒子11を構成する金属をハロゲン化させることで、金属粒子11を金属ハロゲン化物粒子22aとする
【0040】
なお、第2のハロゲン化工程S7についても、必要に応じて設ければよい。すなわち、金属粒子11の状態でも延伸可能である場合や、第2の塗布工程S5において、金属粒子11ではなく、金属ハロゲン化物粒子を分散媒に分散させた液体材料を用いる場合、あるいは、第2の焼成工程S6をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガス雰囲気中で実施し、焼成と同時にハロゲン化を実行する場合には、第2のハロゲン化工程S7は不要である。
【0041】
次に、図2(b)に示すように、第2の粒子層22上に第2の絶縁膜13bを形成する第2の絶縁膜形成工程S8が実行される。
第2の絶縁膜形成工程S8の具体的実施手順は、第1の絶縁膜形成工程S4と同様とすることができる。すなわち、スパッタ法やCVD法を用いて、シリコン酸化物やシリコン窒化物からなる第2の絶縁膜13bを形成する。第2の絶縁膜13bも、ガラス基板10と成分が共通するシリコン酸化物からなるものとすることが好ましい。
【0042】
ここで図3(a)は、第2の絶縁膜形成工程S8後のガラス基板の模式平面図である。図3(a)に示すように、上記した工程により、ガラス基板10上に、例えば平面視で粒径20nmの金属ハロゲン化物粒子12a及び金属ハロゲン化物粒子22aが平面配置される。金属ハロゲン化物粒子12aと金属ハロゲン化物粒子22aがいずれも設けられていない領域には、ガラス基板10上に第1の絶縁膜13aと第2の絶縁膜13bのみが積層された光透過領域10aが形成されている。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、延伸工程S9が実行される。延伸工程S9では、加熱して軟化させたガラス基板10を、第1の粒子層12が設けられているガラス基板10の面と平行な方向に引き延ばす。引き延ばす方法としては、ガラス基板10を面と平行な方向に引っ張る延伸処理であってもよく、圧力により薄く延ばす圧延処理であってもよい。延伸工程S9における加熱温度は特に限定されず、ガラス基板10を溶融させることなく軟化させることができる温度に加熱すればよい。
【0044】
延伸工程S9により、ガラス基板10は延伸方向に引き延ばされるとともに薄く加工される。また、ガラス基板10上の金属ハロゲン化物粒子12a、22aも延伸方向に引き延ばされ、図2(c)及び図3(b)に示すように、ガラス基板10上で延伸方向(図示左右方向)に配向した多数の針状粒子12b、22bとなる。針状粒子12b、22bは、アスペクト比が5以上の細長い形状であり、例えば、幅1〜5nm、長さ5〜40nm程度の大きさである。
【0045】
また、針状粒子12b、22bの間の領域においても、図3(a)に示した光透過領域10aが引き延ばされ、細長いスリット状の光透過領域10bが形成される。このスリット状の光透過領域10bの大きさは、金属ハロゲン化物粒子12a、22aの形成密度により変化するが、幅1〜20nm、長さ3〜100nm程度である。
【0046】
なお、本実施形態の場合、第1の粒子層12を覆って第1の絶縁膜13aが形成され、第2の粒子層22を覆って第2の絶縁膜13bが形成されているが、これらは延伸工程S9にほとんど影響を与えない。
まず、第1の絶縁膜13aのうち、ガラス基板10上に直接形成されている部分については、延伸工程S9ではガラス基板10とほとんど一体化され、ガラス基板10とともに伸長される。
次に、第2の絶縁膜13bのうち、光透過領域10aに位置する部分は、下層の第1の絶縁膜13aとともにガラス基板10と一体化され、ガラス基板10とともに伸長される。
一方、第2の絶縁膜13bのうち、金属ハロゲン化物粒子12a上、又は金属ハロゲン化物粒子22a上に位置する部分については、ガラス基板10とは一体化されず、割れたり、穴が空いたりすると推定されるが、このように金属ハロゲン化物粒子12a、22a(針状粒子12b、22b)上の絶縁膜が部分的にでも除去されていれば、後段の還元工程S10における還元効率が高まるため、工程上有利に作用する。
【0047】
次に、図2(d)に示すように、還元工程S10が実行される。
還元工程S10では、ガラス基板10を、水素等の還元雰囲気中に配置するとともに加熱することで、針状粒子12b、22bを構成する金属ハロゲン化物を還元する。これにより、ガラス基板10上に針状金属粒子12c、22cが形成される。例えば、針状粒子12b、22bがAgClxからなるものである場合には、Agからなる針状金属粒子12c、22cとなり、針状粒子12b、22bがAlFからなるものである場合には、Alからなる針状金属粒子12c、22cとなる。
以上の工程により、ガラス基板10上に、基板面内の一方向に配向した多数の針状金属粒子12c、22cがスリット状の光透過領域10bを介して配列された偏光素子100を製造することができる。
【0048】
本実施形態の製造方法により製造される偏光素子100は、平面視において可視光の波長よりも狭い幅の針状金属粒子12c、22cが狭ピッチで配列されていることにより、透過光を所定の振動方向の直線偏光に分離する機能を奏する光学素子として用いることができる。
また従来の偏光ガラスでは、針状の金属粒子の配置密度は1μmあたり20本以下程度であったため、高い偏光分離特性を得るためには、針状の金属粒子をガラス基板の厚さ方向に広く分布させる必要があった。これに対して本実施形態の偏光素子では、針状金属粒子12c、22cは、ガラス基板10の表面に高密度で配置されているため、任意の厚さのガラス基板10を用いることができ、薄型の偏光素子とすることも容易である。
【0049】
以上に詳細に説明した本実施形態の製造方法によれば、液相法を用いてガラス基板10の表面に金属粒子11を配置した後、ハロゲン化して金属ハロゲン化物粒子12a、22aとし、これを延伸、還元して針状金属粒子を形成する。このようにガラス基板10の表面上でプロセスが実行されるので、最終の還元工程で金属ハロゲン化物を確実に還元することができ、金属のみからなる針状金属粒子12c、22cを容易かつ確実に得ることができる。したがって、従来の偏光ガラスのようにガラス基板内部に金属ハロゲン化物が残留して光学特性を劣化させることがない。
また、液相法を用いて金属粒子11をガラス基板10上に配置するので、イオン交換によりガラス基板の表層部に金属元素を導入するプロセスのように高温の溶融塩に長時間浸漬するといった製造工程が不要であり、環境負荷が小さく、生産性に優れた製造方法となる。
【0050】
また、塗布工程と焼成工程と絶縁膜形成工程とを必要に応じて1回又は複数回繰り返して実行することにより、ガラス基板10上における金属ハロゲン化物粒子12a、22aの配置密度を、容易かつ高精度に制御することができる。これにより、偏光素子100を構成する針状金属粒子12c、22c及びスリット状の光透過領域10bの形成密度、面積率を容易に制御することができるので、偏光素子の光学特性を極めて容易に制御することが可能である。
【0051】
また本実施形態の製造方法では、多様な材質の金属粒子11を用いることができ、ハロゲン化する際のハロゲン元素も任意のものを用いることができる。したがって、従来の偏光ガラスの製造プロセスでは使用することができなかった材質であっても用いることが可能である。このように材質の選択範囲が広がることで、偏光素子の光学特性の制御が容易になり、生産性を高めることも容易になる。
【0052】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、第1の粒子層12の上に第1の絶縁膜13aを介して第2の粒子層22を設けた場合を説明したが、第2の実施形態では、粒子層として第1の粒子層12のみを設ける場合について説明する。
【0053】
まず、図4(a)に示す第1の塗布工程S31で、金属ハロゲン化物AlFを含む金属ハロゲン化物粒子31aが分散された液体材料Laをガラス基板10上に塗布する。
次に、図4(b)に示す焼成工程S32では、第1の実施形態と同様に、金属ハロゲン化物粒子31aの表面に残存する分散媒dmやコーティング剤を除去するとともに、金属ハロゲン化物粒子31aを軟化又は溶融させることで、金属ハロゲン化物粒子31aをガラス基板10の表面に面で固着させる。これによって、複数の金属ハロゲン化物粒子31aからなる粒子層32が形成される。
次に、図4(c)に示した延伸工程S33によって、ガラス基板10上で延伸方向(図示左右方向)に配向した多数の針状粒子31bを形成する。
最後に、図4(d)に示した還元工程S34によって、AlFからなる針状粒子31bはAlからなる針状金属粒子31cになる。
以上の工程により、偏光素子200を製造することができる。
【0054】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様、光学特性に優れた偏光素子を簡便に製造することができる。
【符号の説明】
【0055】
L,La…液体材料、10…ガラス基板、11…金属粒子、12…第1の粒子層、12a,22a,31a…金属ハロゲン化物粒子、12b,22b,31b…針状粒子、12c,22c,31c…針状金属粒子、13a…第1の絶縁膜、13b…第2の絶縁膜、22…第2の粒子層、32…粒子層、100,200…偏光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に金属を含む複数の粒子と分散媒とを含む液体材料を塗布する工程と、
前記分散媒を除去して、前記ガラス基板上に前記複数の粒子からなる第1の粒子層を形成する工程と、
前記ガラス基板を加熱延伸することで、前記複数の粒子を伸長させて複数の針状粒子とする工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基板上に前記第1の粒子層を形成した後、前記ガラス基板を延伸する前に、前記第1の粒子層上に絶縁膜を形成し、さらに該絶縁膜の上に、前記複数の粒子からなる第2の粒子層を形成する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項3】
前記複数の粒子のうち一の粒子が金属粒子であり、
前記第1の粒子層を形成した後、前記ガラス基板を延伸する前に、前記金属をハロゲン化して金属ハロゲン化物とする工程と、
前記複数の粒子を前記複数の針状粒子とした後、前記金属ハロゲン化物を還元処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項4】
前記複数の粒子のうち一の粒子が金属ハロゲン化物を含み、
前記複数の粒子を前記複数の針状粒子とした後、前記金属ハロゲン化物を還元処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の粒子層を形成する工程において、前記複数の粒子を軟化又は溶融させことで、前記複数の粒子のうち一の粒子を前記ガラス基板に面で接触させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項6】
前記金属が、Ag、Cu、Au、Cd、Alから選ばれる1種又は2種類以上の金属からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁膜がシリコン酸化膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−198309(P2012−198309A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61052(P2011−61052)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】