説明

偏光選択性ホログラム光学素子

【課題】液晶と高分子材料を利用して異方性領域と等方性領域を交互に積み重ねた構造において、液晶の選択、各種モノマの組み合わせ、光重合開始材と色素の組み合わせや、各種材料の配合比を特定し最適化して、回折効率を高くし、偏光分離度を大きくし、更に、材料の光重合に伴う収縮応力の緩和し、また、材料の熱及び光の劣化を防ぐ。
【解決手段】一対の光学基板1、2間に、官能基を1つ以上持つ光重合性モノマの少なくとも1種類と液晶とから構成された混合物により所定の厚みの層を形成し、この層に対してホログラフィック露光を行って形成され、光学基板上に、応力緩衝層10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、投射型画像表示装置において使用される偏光選択性ホログラムを利用した偏光選択性ホログラム光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホログラム技術の偏光分離素子や色分離素子への応用が種々提案されている。偏光選択性ホログラム光学素子は、これら両方の光学素子へのベースとなるものである。一般的なアプリケーションとしては、色分離素子及び偏光変換素子が挙げられる。ホログラム光学素子による色分離素子、いわゆる「カラーフィルタ」への応用としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されている。また、偏光変換素子としては、偏光選択性ホログラム光学素子と波長板とを組み合わせた構成のものが、特許文献3に記載されている。その他に、特許文献4の明細書には、調光素子に利用することの記載もある。
【0003】
以下、このようなホログラム光学素子の材料に関する従来の技術について説明する。ホログラム材料として広く使用されているものとして、フォトポリマがある。フォトポリマは、光重合性高分子材料を用いた等方性材料である。特許文献5には、等方性材料にて構成される厚いホログラムを利用し回折効率の入射偏光依存性を利用したものが記載されている。このようなホログラム光学素子における現象は、理論的には、カップルド−ウェイブ−セオリ(coupled−wave theory)の厳密解を解くことにより証明される。しかし、フォトポリマを用いた場合、偏光分離特性が低い。これは、フォトポリマにおいては、異方性材料を用いたホログラム光学素子と異なり、P、Sどちらの偏光成分にとっても屈折率の変調された見かけの干渉縞が常に存在しているためである。通常のフォトポリマの光重合性高分子材料では、屈折率変調度Δnを0.05以上とすることは非常に離しい。屈折率変調度は、ホログラムの回折効率を決定する重要なパラメータであり、通常、この値が大きいほど回折効率も高くなる。
【0004】
また、従来、特許文献6に記載されているように、偏光分離素子として光硬化型液晶と非硬化型液晶との屈折率異方性を利用したホログラム光学素子がある。このホログラム光学素子の優位性は、非重合性液晶の液晶方位を電界印加によりスイッチングして回折の有無を制御する際、図11に示すように、光硬化型液晶101及び非硬化型液晶102における常光線屈折率と異常光線屈折率とを等しくすれば、理論上、入射方位、入射偏光に関わらず、回折しない状態を作ることができることである。これは、回折がゼロの状態では、光硬化型液晶101と非硬化型液晶102とが、その液晶方位を同じ方向に配向させるため、見かけ上、干渉縞は生じないためである。
【0005】
そして、図12に示すように、電圧を印加した状態では、非硬化液晶102が基板103に垂直な状態となり、光硬化型液晶101との間で干渉縞が形成される。しかし、この状態においては、光線入射方位によっては、見かけの屈折率変調度が大きく変化し、大きな入射角度でホログラムに入射する光線に対する回折効率がほとんど得られないという問題がある。
【0006】
さらに、異方性材料と等方性材料とを交互に配列させた構造をもつホログラム光学素子も提案されている。このようなホログラム光学素子については、高分子分散型液晶(「PDLC」)の研究から派生した技術として、光重合を起こすモノマ材料と液晶分子とを混合したものに対してホログラフィックな手法を用いて干渉縞を形成するホログラフィック高分子分散型液晶(Holographically− formedpolymer dispersed liquid crystals、以下「H−PDLC」という。)として研究が行われている。
【0007】
このような「H−PDLC」の構成と製造方法について、以下、図1、図2及び図3を用いて説明する。まず、図1に示すように、プレポリマ(モノマの混合物)、液晶及び光重合開始剤の混合物をガラス基板1,2間に充填する。この混合物は、プレポリマが約50%乃至70%、液晶が約50%乃至30%、光重合開始剤及び増感色素が数%以下という組成比で構成される。「H−PDLC」のセルギャップ、すなわち、ガラス基板1,2間の空隙間隔は、3μm乃至15μmの範囲で、偏光選択性ホログラム光学素子の所望の特性にあわせて最適な値を選ぶ。
【0008】
次に、この「H−PDLC」のセル3に干渉縞を露光するため、レーザ光源からの物体光4及び参照光5を「H−PDLC」パネルに照射し、図2に示すように、これら2光束の干渉光による光の強弱を発生させる。このとき、干渉縞の明部では、その光エネルギーにより、「H−PDLC」内のプレポリマ部分の重合が起こりポリマ化する。干渉縞の明部においてプレポリマの重合が進むと、干渉縞の暗部から干渉縞の明部にプレポリマが移動するとともに、干渉縞の明部において混合している液晶が溶解していることができなくなって干渉縞の暗部に移動する。この反応が進むことにより、干渉縞に合わせてポリマ領域と液晶領域とが形成される。このとき、液晶分子は、図3に示すように、干渉縞に対して垂直に配列する場合がある。そして、紫外線照射を行なうことにより、未硬化部の硬化を行なう。
【0009】
以上のようなプロセスによって作製されたホログラム光学素子は、ポリマ層の屈折率と液晶層の常光線屈折率とがほぼ等しく、かつ、ポリマ層の屈折率と液晶層の異常光線屈折率とが異なるため、偏光選択性ホログラムとして形成される。
【0010】
上述の説明では、物体光4及び参照光5が、「H−PDLC」パネルの同一の側から照射されているため、透過型の偏光選択型ホログラムが形成されるが、物体光4及び参照光6を「H−PDLC」パネルに対する反対側から照射することにより、反射型の偏光選択型ホログラムを形成することができる。
【0011】
「H−PDLC」においては、材料の選択の仕方及び混合比の選び方により、回折効率、偏光選択性、散乱、液晶の配向度などの性質が大きく異なる。例えば、特許文献7の記載においては、光重合性材料として「ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート(DPHPA)」を、バインダーモノマとして「N−ビニル−ピロリジノン」を、液晶にシアノビフェニル系液晶の「E7」(メルク社製)を、光重合開始剤に「N−フェニルグリシン」を、増感色素に「ローズベンガル」をそれぞれ用いてホログラム光学素子を作製している。この材料の組み合わせを、以下、「従来例1」という。
【0012】
この「従来例1」の材料系を用いて、「H−PDLC」セルを作製した。すなわち、「シアノビフェニル系液晶」を約40wt%、光重合性多官能基モノマとして、「ジペンタエリスリトールシペンタアクリレート(DPHA)」を約50wt%、光重合性モノマとして、「N−ビニル−ピロリジノン」を約10wt%、光重合開始剤として「N−フェニルグリシン」を約1.0wt%、増感色素として「ローズベンガル」を約1.0wt%秤量し、混合を行なった。そして、この混合物を、約5μmのギャップを介して対向させたガラス基板の間に充填する。次に、波長532nmのSHGレーザを用いて、2光束ホログラフィック露光を行ない、干渉縞の形成を行なった。レーザ露光を行なったサンプルには、さらに高圧水銀灯を光源とした紫外線を照射し、高分子の未重合部分を硬化させた。
【0013】
以上の工程により、セル内部で屈折率が周期的に変化している「ホログラフィックPDLC」を得た。そして、図4に示すように、測定光学系において、波長633nmのHe−Neレーザ11からのレーザ光を用いて、回折効率の測定を行なった。回折効率は、回折光の強度が最も高い角度で測定を行ない、回折効率の値は、次式によって計算した。
〔回折効率〕=(〔回折光の強度Id〕/〔入射光の強度Ii〕)×100(%)
測定結果は、P偏光の回折効率が約80%、S偏光の回折効率が約1.4%であった。P偏光の回折効率としては高い値が得られた。しかし、P偏光の回折効率とS偏光の回折効率との比で与えられる偏光分離度は、60未満であり、低い値であった。
【0014】
特許文献8には、ハロゲン系液晶「TL205」(メルク社製)を用い、光重合性アクリル系オリゴマーとして、「アロニックスM−6100」(2官能基ポリエステルアクリレート、東亞合成(株)社製)を、光重合性アクリル系モノマとして、「KAYARAD DCP−A(ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、日本化薬(株)社製)を、光重合開始剤として、「TAZ−101」(みどり化学(株)製)を、増感色素として「BC」(みどり化学(株)製)をそれぞれ用いた材料が記載されている。なお、光重合性アクリル系モノマとして「ビスフェノールA」を用いても有効であるとされている。この材料の組み合わせを、以下、「従来例2」という。
【0015】
この「従来例2」の材料系を用いて、「H−PDLC」セルを作製した。ハロゲン系液晶「TL205」を約50wt%、光重合性アクリル系オリゴマーとして「アロニックスM−6100」を約10wt%、光重合性アクリル系モノマとして「KAYARAD DCP−A」を約40wt%、光重合開始剤として「N−フェニルグリシン」を約0.5wt%、増感色素として「ローズベンガル」を約0.5wt%を秤量し、混合を行なった。そして、この混合物を約5μmのギャップを介して対向させたガラス基板の間に充填する。次に、波長532nmのSHGレーザを用いて、2光束ホログラフィック露光を行ない、干渉縞の形成を行なった。レーザ露光を行なったサンプルは、さらに、高圧水銀灯を光源とした紫外線を照射して、高分子の未重合部分を硬化させた。
【0016】
以上の工程により、セル内部で屈折率が周期的に変化している「ホログラフィックPDLC」を得た。そして、図4に示す測定光学系において、波長633nmのHe−Neレーザ光を用いて、回折効率の測定を行なった。回折効率は、回折光の強度が最も高い角度で測定を行ない、回折効率の値は、次式によって計算した。
〔回折効率〕=(〔回折光の強度Id〕/〔入射光の強度Ii〕)×100(%)
測定結果は、P偏光の回折効率が約56%、S偏光の回折効率が約1.7%であった。P偏光の回折効率とS偏光の回折効率との比で与えられる偏光分離度は、33程度と、低い値であった。同様に、光重合開始剤として「TAZ−101」を約0.2wt%、増感色素として「BC」を約0.5wt%混合し、波長457nmのSHGレーザで露光を行なったサンプルも作製したが、回折効率は先に示したサンプルより低いものであった。
【0017】
「Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)pp.6388」には、ポリエステル系アクリル酸の多官能基オリゴマーと2官能基オリゴマーとを用い、液晶として「ハロゲン系液晶TL216」(メルク社製)及び「シアノビフェニル系の液晶」を用いて、光重合性単官能基モノマの種類を変えたときの「H−PDLC」の特性の差についての発表がなされている。この発表においては、多官能基及び2官能基のオリゴマーの材料については言及されていない。単官能基モノマとして「N−ビニル−ピロリジノン」や「2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート」を含めて5種類を使用して実験を行った結果が発表されている。この発表によると、10μmのセルギャップで、回折効率が高くなるという実験結果が示されているが、セルギャップを5μmとした場合に充分な回折効率が得られるかは疑問である。
【0018】
【特許文献1】特開平9−171110号公報
【特許文献2】特開平9−189809号公報
【特許文献3】特開平8−234143号公報
【特許文献4】特許第3076106号公報
【特許文献5】特開平9−189809号公報
【特許文献6】特開平11−271536号公報
【特許文献7】米国特許第5942157号明細書
【特許文献8】特開平11−119201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、上述のような偏光選択性ホログラム光学素子において、等方性材料を用いたフォトポリマでは、偏光分離特性が低い。これは、等方性材料を用いた場合には、異方性材料を用いたホログラム光学素子と異なり、P、Sどちらの偏光成分にとっても、屈折率の変調された見かけの干渉縞が常に存在しているためである。そして、通常のフォトポリマの光重合性高分子材料では、屈折率変調度Δnを0.05以上とすることは非常に難しい。
【0020】
一方、光硬化型液晶と非硬化型液晶の屈折率異方性を利用したホログラム材料では、光線入射方位によって、見かけの屈折率変調度が大きく変化し、大きな入射角度でホログラムに入射する光線については回折効率がほとんど取れないという問題がある。
【0021】
そして、液晶と高分子材料を利用した異方性領域と等方性領域を交互に積み重ねた構造をもつホログラム光学素子においては、液晶の選択、各種モノマの組み合わせ、光重合開始材と色素の組み合わせや、さらに、各種材料の配合比が重要であるが、高い回折効率を持つ材料の組み合わせ、偏光分離度を大きくする材料の組み合わせは、いまだ見つけられていない。
【0022】
そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、液晶と高分子材料を利用して異方性領域と等方性領域を交互に積み重ねた構造をもつホログラム光学素子であって、液晶の選択、各種モノマの組み合わせ、光重合開始材と色素の組み合わせや、各種材料の配合比が特定され最適化されて、回折効率が高く、偏光分離度が大きくなされ、更に、材料の光重合に伴う収縮応力の緩和を実現し、材料の熱及び光の劣化を防ぐことができる偏光選択性ホログラム光学素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した目的を達成する本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子は、一対の光学基板間に、官能基を1つ以上持つ光重合性モノマの少なくとも1種類と液晶とから構成された混合物により所定の厚みの層を形成し、この層に対してホログラフィック露光を行って形成された偏光選択性ホログラム光学素子であって、光学基板上には、応力緩衝層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子においては、光重合性多官能基モノマ、光重合性2官能基モノマ、光重合性単官能基モノマ、液晶、光重合開始剤及び増感色素の混合物から構成された偏光選択性ホログラムにおいて、2官能基モノマに、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、または、その付加化合物を用い、さらに、光重合性モノマ材料の組み合わせ、液晶の選択、および配合比の最適化を図ることにより、偏光選択性を向上させることができる。
【0025】
また、本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子においては、入射光のP偏光成分に対する回折効率を高くし、S偏光成分に対する回折効率を限りなく0に近づけることが可能である。
【0026】
さらに、本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子においては、このような材料の組み合わせより、材料による光の吸収を小さくし、デバイスの熱による劣化を少なくすることが可能となった。また、光の散乱を小さくすることが可能であり、このことにより、デバイスの光利用効率を向上させることが可能となる。
【0027】
すなわち、本発明は、液晶と高分子材料を利用して異方性領域と等方性領域を交互に積み重ねた構造をもつホログラム光学素子であって、液晶の選択、各種モノマの組み合わせ、光重合開始材と色素の組み合わせや、各種材料の配合比が特定され最適化されて、回折効率が高く、偏光分離度が大きくなされた偏光選択性ホログラム光学素子を提供することができる。
【0028】
また、本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子では、光学基板上に、応力緩衝層を設けることによって、材料の光重合に伴う収縮応力を緩和することができ、また、材料の熱及び光の劣化も防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を適用した偏光選択性ホログラム光学素子について説明する。まず、本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子に用いる偏光選択性ホログラムとして、高分子分散型液晶(「PDLC」)の材料をベースとしたホログラフィックPDLC(「H−PDLC」)素子の基本構造及び作製方法について説明する。
【0030】
この「H−PDLC」において、重合が開始する前の材料の混合物(プレポリマ)は、多官能基モノマ、2官能基モノマ、単官能基モノマから構成され、それぞれのモノマの作用はその材料により異なる。一般的には、単官能基モノマは、他の材料との親和性を良くするため用いられ、バインダーモノマと呼ばれることもある。2官能基以上の多官能基モノマは、重合性が良好なため、ポリマを形成する上での骨格として機能する。
【0031】
一般的に、このような重合性モノマは、エチレン性不飽和結合を有する光重合可能な化合物であって、1分子中に、少なくともエチレン性不飽和二重結合を1個有し、光重合及び光架橋可能なモノマ、オリゴマ、プレポリマ及びこれらの混合物である。
【0032】
これらの例としては、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
【0033】
本発明において使用されている多くの重合性モノマは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステルである。本発明では、多官能基モノマとして、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリストールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート(DPHPA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)などを使用することができる。2官能基モノマとしては、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートの付加化合物を用いる。ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートの付加化合物は、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートの単体に、例えば、以下の付加物により変性された化合物である。
ε−カプロラクトン付加物(−(OC10CO)−)
エチレンオキシド付加物(−(OC−)
プロピレンオキシド付加物(−(OC−)
【0034】
これらの付加化合物は、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート単体の性質を失うことなく、低皮膚刺激性、耐候性、柔軟性及び低収縮性などの性質改善がなされている。
【0035】
なお、光重合性モノマの組み合わせについては、材料の屈析率、物質拡散に関係する粘度、硬化速度を考慮した上で選ばなければいけない。
【0036】
液晶としては、シアノビフェニル系液晶、ハロゲン系液晶、トラン系液晶、シアノエステル系液晶など、一般に用いられている液晶を用いることができるが、本発明において使用される液晶材料は、屈折率の異方性Δnが、0.15以上あることが望ましい。これは、本発明においては、位相変調型のホログラムを使用しているため、Δnが直接回折効率に大きく影響するからである。また、本発明においては、特に屈折率異方性の大きいシアノビフェニル系の液晶を用いることにより、偏光選択性のよいホログラム光学素子を作製することが可能となる。
【0037】
光重合開始剤は、紫外線(UV光)に対して感度を特ち、モノマの光重合開始剤として機能するものである。光重合開始剤としては、一般的にチオキサントン系、ベンゾフェノン系、ジケトン系、アセトフェノン系のものを使用することができる。
【0038】
増感色素としては、キサンテン系、クマリン系、ローダミン系、カルボシアニン系などのものを使用することができる。増感色素は、UV(紫外線)光でしか励起されない重合開始剤を、可視光において励起させる機能がある。すなわち、増感色素は、可視光レーザによる光重合過程を経ていることにより、可視光を吸収し、そのエネルギーを光重合開始剤に伝達する機能を有している。この機能から、増感色素の許容エネルギーレベル及び光重合開始剤の許容エネルギーレベルには、厳密な整合性が必要となり、使用する光重合開始剤と増感色素との組み合わせは重要である。
【0039】
本発明においては、緑色レーザに対しては、光重合開始剤にN−フェニルグリシン(下記、〔化1〕)及び増感色素に口ーズベンガル(下記、〔化2〕)の組み合わせをメインに用いた。また、青色のレーザに対しては、光重合開始剤にTAZ−101(下記、〔化3〕)及び増感色素にBC(下記、〔化4〕)の組み合わせ、もしくは、N−フェニルグリシンとBCの組合わせを用いた。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
まず、以上のような、多官能基モノマ、2官能基モノマ、単官能基モノマ、液晶、光重合開始剤及び増感色素の混合物を、図1に示すように、互いに対向されたガラス基板1,2の間に充填する。
【0045】
この混合物の組成比は、多官能基モノマと2官能基モノマを合わせて40wt%乃至60wt%、単官能基モノマを5wt%乃至20wt%、液晶を30wt%乃至50wt%、光重合開始剤と増感色素を数wt%以下とする。「H−PDLC」のセルギャップ、すなわち、ガラス基板1,2の間の距離は、3μm乃至15μmの範囲で所望の偏光選択ホログラムにあわせて最適な値を選ぶ。
【0046】
ここで、光学ガラス基板1,2上に、それぞれ応力緩衝層10の形成を行う。これら応力緩衝層10は、光学ガラス基板1,2と「H−PDLC」材料との間に形成され、「H−PDLC」材料の光重合に伴う収縮応力の緩和を実現し、また、「H−PDLC」材料のガラス基板1,2の界面からの剥がれを防止するとともに、「H−PDLC」材料の熱及び光による劣化を防ぐ。
【0047】
この応力緩衝層10は、ポリイミド等、有機膜の材料からなるものを用いることができる。作製方法としては、ポリイミドを適当な希釈溶媒で薄め、スピンコート法によって塗布を行い、所定の温度で焼成することによって、ポリイミド膜を形成する。この応力緩衝層10の厚さは、10nm乃至50nmとした。
【0048】
次に、この「H−PDLC」のセル3に干渉縞を露光するため、図1に示すように、レーザ光源からの物体光4及び参照光5を「H−PDLC」パネルに照射し、図2に示すように、2光束の干渉光による光の強弱を発生させる。
【0049】
このとき、干渉縞の明部では、そのエネルギーにより、「H−PDLC」パネル内のプレポリマ部分の重合が起こり、ポリマ化する。干渉縞の明部でのプレポリマの重合が進むと、干渉縞の暗部のプレポリマが該暗部から干渉縞の明部に移動するとともに、干渉縞の明部にプレポリマとともに混合している液晶が溶解していることができなくなり、干渉縞の暗部に移動する。このような反応が進むことにより、図3に示すように、干渉縞に対応したポリマ領域7と液晶領域8とが形成される。
【0050】
この説明では、物体光4及び参照光5は、「H−PDLC」パネルの同じ側から照射されるため、透過型の偏光選択型ホログラムが形成される。しかし、物体光4及び参照光6を「H−PDLC」パネルに対し互いに反対側から照射することにより、反射型の偏光選択型ホログラムを形成することができる。
【0051】
このようにして形成された「H−PDLC」において、ポリマ領域7は、屈折率npに関して等方的である。それに対して、液晶領域8は、屈折率に関して異方性を特つ。液晶は、一般に屈折率楕円体を用いて記述される。屈折率楕円体の短軸側の屈折率を常光線屈折率no、長軸側の屈折率を異常光線屈折率neとして表現している。液晶領域8においては、図5及び図6に示すように、液晶の分子の長軸方向が、ポリマ領域7との境界面に対して垂直になるように配向している場合と、図7に示すように、液晶の分子の長軸方向が、ポリマ領域7との境界面に対して平行に配向している場合を考えることができる。どちらの場合においても、液晶領域8では、屈折率が入射偏光方位依存性を有している。
【0052】
(A)液晶分子の長軸方向がポリマ領域との境界面に対して垂直な場合
この場合に、「H−PDLC」パネル3に入射する光線を考える。図6に示すように、入射光は、P偏光成分の光とS偏光線分の光に分けることができる。ここで、S偏光成分について考える。S偏光光に対する液晶領域8の屈折率は、常光線屈折率noであり、ポリマ領域7における屈折率は、等方性の屈折率npである。そして、この液晶領域8の常光線屈折率noをポリマ領域7の屈折率npにほぼ等しくすれば、入射光のS偏光成分に対する屈折率変調が極めて小さくなり、S偏光成分は、回折を起こさない。
【0053】
一方、液晶は、常光線屈折率noと異常光線屈折率neとの差が、0.1から0.2程度ある。そのため、入射方向が同じ光線であっても、P偏光成分にとっては、液晶領域8とポリマ領域7において屈折率差があり、回折する。すなわち、この場合、「H−PDLC」は、位相変調ホログラムとして機能する。これが「H−PDLC」の偏光選択性ホログラムの動作原理である。
【0054】
(B)液晶分子の長軸方向がポリマ領域との境界面に対して平行な場合
この場合は、液晶分子の長軸方向がポリマ領域7との境界面に対して垂直な場合と比較し、液晶の配向方向が90°異なる。すると、P偏光成分に対する液晶領域の屈折率noとポリマ領域7の屈折率npがほぼ等しくなり、回折効率が0に近づく。一方、S偏光については、液晶領域8とポリマ領域7とで屈折率に差が生じ、回折が生じる。
【0055】
液晶分子を配向させる技術としては、ポリイミドなどの配向膜を2枚のガラス基板1,2上にスピンコートなどの手法により塗布し、加熱、焼成を行い、ローラなどを用いて一定方向にラビング処理を行い、配向させる方法が一般的に使用されている。また、ガラス基板1,2上に透明電極を形成し「H−PDLC」セルに電界を印加することによる配向方法もある。その他にも、「H−PDLC」セルの外部から非常に大きい外部電界や外部磁界をかけることによって液晶の配向を行う方法がある。本発明では、高分子材料及び液晶の選択と配合比の最適化を行うことにより、特別な配向処理を行うことなく、液晶分子を干渉縞に対して垂直な方向に配列させることができる。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
以下、具体的な実施例を示す。なお、「H−PDLC」材料の混合物は、可視光の中で重合反応を始めないように、暗室中で材料の混合を行なった。
【0057】
チッソ(株)社製、シアノビフェニル系液晶「SY1018XX」(商品名)を約40wt%、光重合性3官能基モノマとして、束亜合成(株)社製「アロニックスM−309」(商品名)(化学名:トリメチロールプロパントリアクリレート)(下記〔化5〕)を約22wt%、光重合性2官能基モノマとして、日本化薬(株)社製「KAYARAD HX−220」(商品名)(化学名:ε−カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート)(下記〔化6〕)を約22wt%、光重合性単官能基モノマとして日本化薬(株)社製「KAYARAD R−128H」(商品名)(化学名:2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート)(下記〔化7〕)を約16wt%、光重合開始剤としてN−フェニルグリシン(上記〔化1〕)を約0.5wt%、増感色素としてローズベンガル(上記〔化2〕)を約0.5wt%を秤量し、混合を行なった。
【0058】
【化5】

【0059】
【化6】

【0060】
【化7】

【0061】
これらの混合には、撹絆機及び超音波を用いて行なった。この混合物を、約5μmのギャップをもって対向させたガラス基板の間に充填した。ギャップの維持には、ガラス、または、プラスチックからなるスペーサビーズを用いた。ガラス基板上には、応力緩衝層として、ポリイミド膜を膜厚30nmにて形成した。
【0062】
そして、波長532nmのSHGレーザを用いて、ガラス基板の同じ面方向から、2光束ホログラフィック露光を行ない、干渉縞の形成を行なった。ホログラフィック露光は、振動による揺らぎを防ぐために、レーザの強度を強くして、できるだけ短時間で露光を行った。
【0063】
レーザ露光を行なったサンプルには、高圧水銀灯を光源として紫外線を照射し、高分子の未重合部分を硬化させた。以上の工程により、セル内部で屈折率が周期的に変化する「H−PDLC」を得た。
【0064】
光重合性2官能基モノマは、「HX−220」の代わりに、日本化薬(株)社製「KAYARAD MANDA」(商品名)(化学名:ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート)(下記〔化8〕)を用いてもよい。
【0065】
【化8】

【0066】
次に、図4に示した測定光学系において、波長633nmのHe−Neレーザ11を用いて回折効率の測定を行なった。回折効率は、回折光の強度が最も高い角度で測定を行ない、回折効率の値は、次式によって計算した。
〔回折効率〕=(〔回折光の強度Id〕/〔入射光の強度Ii〕)×100(%)
測定結果は、P偏光の回折効率が約80%、S偏光の回折効率が0.2%であった。偏光分離度は、P偏光回折効率とS偏光の回折効率の比であるから、400以上となっていることがわかる。
【0067】
さらに、ポリイミドを塗布してラビングを行なったガラス基板に、混合した材料を充填して「H−PDLC」を作成することにより、液晶の配向を制御することができ、偏光分離度を高めることができた。
【0068】
〔実施例2〕
次に、チッソ(株)社製「シアノビフェニル系液晶SY1018XX」(商品名)を約40wt%、光重合性3官能基モノマとして、東亜合成株式会社アロニックス「M−309」(商品名)(化学名:トリメチロールプロパントリアクリレート)を約25wt%、光重合性2官能基モノマとして、日本化薬(株)社製「KAYARAD HX−220」(商品名)(化学名:ε−カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート)を約25wt%、光重合性単官能基モノマとして「N−ビニル−ピロリジノン」(下記〔化9〕)を約10wt%、光重合開始剤としてN−フェニルグリシンを約0.5wt%、増感色素としてローズベンガルを約0.5wt%を秤量し、混合を行なった。
【0069】
【化9】

【0070】
これらの混合には、撹絆機及び超音波を用いて行なった。この混合物を、約5μmのギャップをもって対向させたガラス基板の間に充填した。ギャップの維持には、ガラス、または、プラスチックからなるスペーサビーズを用いた。ガラス基板上には、応力緩衝層として、ポリイミド膜を膜厚30nmにて形成した。
【0071】
そして、波長532nmのSHGレーザを用いて、ガラス基板の同じ面方向から、2光束ホログラフィック露光を行ない、干渉縞の形成を行なった。ホログラフィック露光は、振動による揺らぎを防ぐために、レーザの強度を強くして、できるだけ短時間で露光を行った。
【0072】
レーザ露光を行なったサンプルには、高圧水銀灯を光源として紫外線を照射し、高分子の未重合部分を硬化させた。以上の工程により、セル内部で屈折率が周期的に変化する「H−PDLC」を得た。
【0073】
光重合性2官能基モノマは、「HX−220」の代わりに、日本化薬(株)社製「KAYARAD MANDA」(商品名)(化学名:ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート)(上記〔化8〕)を用いてもよい。
【0074】
光重合開始材及び増感色素の組み合わせは、ローズベンガル及びN−フェニルグリシンの組み合わせに限らず、露光を行なう波長に適した材料の組み合わせを使用することができる。例えば、波長457nmのSHGレーザ光を露光に使用する場合には、光重合開始剤としては、N−フェニルグリシン、または、みどり化学(株)社製「TAZ−101」(商品名)(化学名:2,4,6トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジン(上記〔化3〕)、増感色素としては、みどり化学(株)社製「BC」(商品名)(化学名:3,3´−カルボニル−ビス(7−ジエチルアミノクマリン(上記〔化4〕))の組み合わせを使用した。
【0075】
次に、図4に示した測定光学系において、波長633nmのHe−Neレーザ11を用いて回折効率の測定を行なった。回折効率は、回折光の強度が最も高い角度で測定を行ない、回折効率の値は、次式によって計算した。
〔回折効率〕=(〔回折光の強度Id〕/〔入射光の強度Ii〕)×100(%)
測定結果は、P偏光の回折効率が約70%、S偏光の回折効率が0.3%であった。偏光分離度は、P偏光回折効率とS偏光の回折効率の比であるから、200以上となっていることがわかる。
【0076】
さらに、ポリイミドを塗布してラビングを行なったガラス基板に、混合した材料を充填して「H−PDLC」を作成することにより、液晶の配向を制御することができ、偏光分離度を高めることができた。
【0077】
〔実施例3〕
上述の実施例1及び実施例2で作製した「H−PDLC」パネルと反射型空間光変調素子を用いて、図8に示すように、反射型画像表示装置を構成することができる。すなわち、この反射型画像表示装置においては、実施例1及び実施例2と同様の方法で作製された「H−PDLC」パネル3に、反射型空間光変調素子として反射型液晶パネル23が、「H−PDLC」パネルとの界面22において、光学的に密着されている。この実施例における「H−PDLC」パネルは、図8に示すように、この「H−PDLC」パネルの同じ側より入射する物体光31(入射角0°)及び参照光32(入射角θ1)の露光によって製造されている。
【0078】
この反射型画像表示装置において、P偏光成分とS偏光成分との両方を含む再生光32が、入射角θ1で「H−PDLC」パネル3のガラス基板1より入射する。ここで、屈折された入射光は、続いてホログラム層に入射角θ2にて入射する。このとき、前述のように、本構成の場合P偏光成分の光が回折され、反射型液晶パネル23に対して、該垂直に入射光33として入射する。
【0079】
反射型液晶パネル23に入射した光は、画像表示装置の信号に応じて、液晶層で変調を受け、アルミ反射面24で反射されて、ホログラム層に再度入射する。液晶層で変調されたS偏光成分の変調光は、アルミ反射面24で反射されてホログラム層に再度入射したときに、ホログラム層にて回折されることなく、射出光35として「H−PDLC」パネル3から略々垂直に射出する。液晶層で変調を受けなかったP偏光成分の光は、アルミ反射面24で反射され、ホログラム層に再度入射したときに、再び「H−PDLC」パネル3で回折され、射出光34として、再生光32の逆方向に戻る。
【0080】
実際の画像表示においては、反射型液晶パネルの画素ごとに光の変調が行なわれることにより、パネル全体として画像表示が可能となる。
【0081】
一方、再生光31のS偏光成分は、「H−PDLC」パネル3のホログラム層において回折されることなく、そのままθ2の入射角にて反射型液晶パネル23に入射する。
【0082】
このとき、再生光31のS偏光成分は、反射型液晶パネル23の液晶層を通過することによって偏光状態の変調を受ける。しかし、アルミ反射面24で反射された反射光36は、ホログラム層が厚いホログラムであるため、回折条件に合致せず、S偏光成分はもちろんP偏光成分もほとんど回折されることなく、「H−PDLC」パネル3を透過する。たとえP偏光成分の一部が回折されたとしても、射出光35との射出方向が十分に異なるので、これらは容易に分離することができる。
【0083】
〔実施例4〕
実施例1及び実施例2で作製した「H−PDLC」を用いて、図9及び図10に示すように、透過型偏光選択性ホログラムカラースイッチと反射型空間光変調素子とからなる反射型画像表示装置を構成することができる。
【0084】
すなわち、まず、実施例1及び実施例2で使用した材料を、透明電極44を有するガラス基板43によって所定の厚さとなして挟み込むことにより「H−PDLC」パネルを作製する。この「H−PDLC」パネルにおいて、液晶領域8の液晶分子46は、ポリマ領域7との境界面に対して、垂直に配向されている。この場合、前記の説明のように、S偏光成分の光はほとんど回折されず、P偏光成分は回折される。この状態は、ガラス基板の透明電極44,44間の電圧をオフ(0V)にした状態と同等である。
【0085】
次に、透明電極44を介して、「H−PDLC」パネルに電圧を印加した状態の動作原理を説明する。パネル内部に電界が印加されると、誘電率異方性を有する液晶分子46は、印加された電圧に応じた角度だけ、光軸を電界方向に揃える方向に向く。このため、液晶分子46の光軸方向を揃えることにより、入射光47の偏光方向に関わらず、この入射光47が回折を起さないように制御することが可能である。
【0086】
以上の原理により、入射光の一方の偏光を回折させる、または、入射光の全方向の偏光を回折させない、という2つの状態への切り替え動作を可能となる。このような「H−PDLC」パネルを、赤色回折用41R、緑色回折用41G、青色回折用41Bとして3枚構成し、これらを積層させることにより、ホログラムカラースイッチとして動作させることができる。これら赤色回折用、緑色回折用及び青色回折用の「H−PDLC」パネル41R、41G、41Bは、それぞれ光学的に接合されて積層されている。
【0087】
入射光47は、透過型偏光選択性ホログラムとなる「H−PDLC」パネル41R、41G、41Bに入射し、P偏光成分のみが回折されて、反射型液晶パネル42に入射する。S偏光成分は、「H−PDLC」パネル内を回折を生じずに直進して、空気層に出る際に全反射される。この光は、光吸収層を設けることによって吸収する。
【0088】
反射型液晶パネル42に入射した入射光のP偏光成分は、画像信号に従って変調されて反射される。反射された光のうちのP偏光成分は、「H−PDLC」パネルで再び回折され、入射光47の方向へ戻る。そして、反射型液晶パネル42によってS偏光成分に変調された光は、「H−PDLC」パネルで回折を生じずに直進する。このように直進した光は、プロジェクターレンズなどを経て、スクリーンに投影され、画像を表示する。
【0089】
これら「H−PDLC」パネル41R、41G、41Bにおいては、ホログラムカラースイッチ駆動回路45によって、順次電圧を印加されることにより、入射光47に含まれる、赤色光、緑色光、青色光を時分割で回折させることができる。また、反射型液晶パネル42は、各色に対応して時分割で光を変調する。ホログラムカラースイッチとなる各「H−PDLC」パネル41R、41G、41Bと、反射型液晶パネル42とが、スイッチングされる色について同期することにより、カラー画像の生成を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る偏光選択性ホログラム光学素子の製造方法(第1の工程)を示す縦断面図である。
【図2】上記偏光選択性ホログラム光学素子の製造方法(第2の工程)を示す縦断面図である。
【図3】上記偏光選択性ホログラム光学素子の構成を示す縦断面図である。
【図4】上記偏光選択性ホログラム光学素子についての回折効率の測定方法を示す側面図である。
【図5】上記偏光選択性ホログラム光学素子の動作原理(液晶分子が境界面に垂直な場合)を示す平面図である。
【図6】上記偏光選択性ホログラム光学素子の動作原理(液晶分子が境界面に垂直な場合)を示す縦断面図である。
【図7】上記偏光選択性ホログラム光学素子の動作原理(液晶分子が境界面に平行な場合)を示す平面図である。
【図8】本発明に係る反射型画像表示装置の構成を示す縦断面図である。
【図9】本発明に係る反射型画像表示装置の他の例を構成する偏光選択性ホログラム光学素子を示す縦断面図である。
【図10】本発明に係る反射型画像表示装置の他の例を示す縦断面図である。
【図11】従来の偏光選択性ホログラム光学素子の構成(電圧印加なし)を示す縦断面図である。
【図12】従来の偏光選択性ホログラム光学素子の構成(電圧印加時)を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1,2,43 ガラス基板、3,41R,41G,41B 「H−PDLC」パネル、7 ポリマ領域、8 液晶領域、10 応力緩衝層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の光学基板間に、官能基を1つ以上持つ光重合性モノマの少なくとも1種類と液晶とから構成された混合物により所定の厚みの層を形成し、この層に対してホログラフィック露光を行って形成された偏光選択性ホログラム光学素子であって、
上記光学基板上には、応力緩衝層が設けられていることを特徴とする偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項2】
応力緩衝層は、有機膜により形成されていることを特徴とする請求項1記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項3】
光重合モノマは、光重合性多官能基モノマ、光重合性2官能基モノマ及び光重合性単官能基モノマの混合物から構成されていることを特徴とする請求項1記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項4】
光重合性2官能基モノマは、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、もしくは、その付加化合物であることを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項5】
光重合性2官能基モノマに、ε−カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートを用いたことを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項6】
光重合性単官能基モノマに、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートを用いたことを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項7】
光重合性単官能基モノマに、N−ビニル−ピロリジノンを用いたことを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項8】
光重合性多官能基モノマに、トリメチロールプロパントリアクリレートを用いたことを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項9】
単官能基モノマの混合比が混合物全体の5wt%乃至20wt%となっていることを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項10】
2官能基モノマの混合比が混合物全体の10wt%乃至40wt%となっていることを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項11】
多官能基モノマの混合比が混合物全体の20wt%乃至40wt%となっていることを特徴とする請求項3記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項12】
液晶にシアノビフェニル系液晶を用いたことを特徴とする請求項1記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項13】
液晶の混合比が混合物全体の30wt%乃至50wt%となっていることを特徴とする請求項1記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項14】
液晶材料は、配向規制手段により配向制御されていることを特徴とする請求項1記載の偏光選択性ホログラム光学素子。
【請求項15】
2枚の光学基板は、透明電極を有し、これら透明電極への印加電圧により液晶方位を可変制御することを特徴とする請求項1記載の偏光選択性ホログラム光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−209932(P2008−209932A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63382(P2008−63382)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【分割の表示】特願2001−363181(P2001−363181)の分割
【原出願日】平成13年11月28日(2001.11.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】