傷検査装置、傷検査システム、及び傷検査方法
【課題】傷検査装置、傷検査システム、及び傷検査方法において、検査対象の表面を短時間で検査すること。
【解決手段】移動途中のフィルム2の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光Lをライン状に照射する光照射部8と、検査光Lの照射によりフィルム2から出た散乱光Mを集光する鏡12と、鏡12で集光された散乱光Mの強度に応じた出力信号SMを出力する光電変換部15と、出力信号SMの周波数と検査光Lの周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号SFを出力する周波数比較部32とを有する傷検査装置による。
【解決手段】移動途中のフィルム2の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光Lをライン状に照射する光照射部8と、検査光Lの照射によりフィルム2から出た散乱光Mを集光する鏡12と、鏡12で集光された散乱光Mの強度に応じた出力信号SMを出力する光電変換部15と、出力信号SMの周波数と検査光Lの周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号SFを出力する周波数比較部32とを有する傷検査装置による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷検査装置、傷検査システム、及び傷検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルや電子ペーパ等の表示デバイスでは、基材となるフィルムの上に様々な膜が積層される。フィルムの表面に傷があると、その上に形成される膜に欠陥が入ってデバイスの歩留まりが低下するので、傷検査装置によりフィルムの表面を予め検査しておくのが好ましい。
【0003】
そのような傷検査装置として楕円鏡を利用した装置が提案されている。その装置では、検査対象の観察点にレーザ光を照射しながら、その観察点に楕円鏡の一つの焦点を合わせ、観察点で散乱したレーザ光を楕円鏡の他の焦点において観察する。
【0004】
しかしながら、この装置では、観察点が検査対象の表面の一点であるため、検査対象の全面を検査するのに長時間を要する。しかも、全面を検査するには、検査対象を一平面内で移動させなければならず、そのためには少なくとも二つの駆動軸が必要となり、装置の機構が複雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−053138号公報
【特許文献2】特開平11−218498号公報
【特許文献3】特開平06−317537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
傷検査装置、傷検査システム、及び傷検査方法において、検査対象の表面を短時間で検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の開示の一観点によれば、移動途中の検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部とを有する傷検査装置が提供される。
【0008】
また、その開示の他の観点によれば、検査対象を移動させる移動部と、前記移動部により移動されている途中の前記検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部とを有する傷検査システムが提供される。
【0009】
更に、その開示の別の観点によれば、移動途中の検査対象に、所定の周波数で強度が変わる検査光をライン状に照射し、前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光の周波数と、前記検査光の前記周波数とが同一であるときに、移動方向に延在する傷が前記検査対象に存在すると判断する傷検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下の開示によれば、移動途中の検査対象の表面に検査光をライン状に照射するので、検査のために検査対象を二軸方向に移動させる必要がなく、検査対象の広範囲を短時間で検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態に係る傷検査システムの構成図である。
【図2】図2(a)はフィルムの平面図であり、図2(b)はフィルムの拡大断面図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る傷検査装置の構成図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【図5】図5は、第1実施形態に係る制御回路の回路図である。
【図6】図6は、第1実施形態に係る処理部の機能ブロック図である。
【図7】図7は、第1実施形態に係る傷検査装置の断面図である。
【図8】図8は、第1実施形態に係る出力信号の強度の時間変化を示す図である。
【図9】図9は、第1実施形態に係る出力信号の周波数と強度との関係について示す模式図である。
【図10】図10は、第1実施形態において、符号i(=0、1、・・・n)をフィルムの幅方向の位置を特定するのに使用した場合における出力信号の強度の時間変化を模式的に示す図である。
【図11】図11は、第1実施形態に係る傷検査方法のフローチャートである。
【図12】図12は、第2実施形態に係る傷検査装置の断面図である。
【図13】図13は、第3実施形態に係る傷検査装置の断面図である。
【図14】図14は、第4実施形態に係る光電変換部の断面図である。
【図15】図15は、第5実施形態に係る傷検査システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る傷検査システム1の構成図である。
【0013】
図1に示すように、この検査システム1は、第1のローラ3、第2のローラ4、傷検査装置10、及びロータリーエンコーダ16を有する。
【0014】
このうち、第1のローラ3と第2のローラ4は、不図示のモータにより回転可能であり、検査対象のフィルム2を移動させる移動部として供する。本実施形態のように検査対象が長尺状のフィルムの場合、その移動方向D1は当該フィルム2の長尺方向に等しい。
【0015】
フィルム2は、第2のローラ4から送り出され、途中で傷検査装置10による検査を受けた後、第1のローラ3により巻き取られる。
【0016】
フィルム2の単位時間あたりの移動距離である移動速度はロータリーエンコーダ16により計測される。ロータリーエンコーダ16は、フィルム2の縁に開口されたスプロケットホールに嵌合する不図示のスプロケットピンを備え、移動方向D1に沿ったフィルム2の移動速度を示す移動速度信号SRを出力する。
【0017】
なお、移動速度信号SRに代えて、ローラ3、4の回転数からフィルム2の移動速度を把握することも考えられる。但し、フィルム2の移動速度は各ローラ3、4に巻き取られているフィルム2の積層厚により変わるため、本実施形態のように移動途中のフィルム2にロータリーエンコーダ16を嵌合させた方が正確な移動速度を得ることができる。
【0018】
図2(a)は、フィルム2の平面図である。
【0019】
フィルム2の材料は特に限定されないが、液晶表示パネルに使用するポリカーボネイトフィルム等の透明フィルムをフィルム2として使用し得る。
【0020】
図2(a)に示すように、フィルム2の表面には、その移動方向D1に延在する線状の傷2aが存在することがある。このような傷2aが存在すると、液晶表示デバイス用の透明電極をフィルム2の上に形成する場合に、その透明電極が傷2aを境にして断線するおそれがある。
【0021】
図2(b)は、フィルム2の幅方向D2に沿う拡大断面図である。
【0022】
図2(b)に示すように、フィルム2の表面2xには透明電極膜5が形成されると共に、上記の傷2aが複数存在する。
【0023】
その傷2aのうち、図2(a)の左側のものは透明電極膜5の表面から形成されたものである。
【0024】
一方、図2(b)の右側のものは、透明電極5の形成前に表面2xに形成されたものである。、このような傷2aが存在すると、傷2aの上の透明電極5にひび割れが生じ、透明電極5が不良になってしまう。
【0025】
このようにフィルム2の表面2xには上記の傷2aが存在するが、その裏面2yには複数の微小突起2bが意図的に形成される場合がある。その微小突起2bは裏面2yを滑り易くする役割を担う。
【0026】
後述のように、上記の傷検査装置10(図1参照)は、この微小突起2bを傷と誤認せずに、移動方向D1に延在する傷2aのみを認識することができる。
【0027】
図3は、傷検査装置10の構成図である。
【0028】
傷検査装置10は、光照射部8、鏡12、光電変換部15、アンプ17、処理部18、制御部19、及び判断部20を備える。
【0029】
このうち、光照射部8は、フィルム2の幅方向D2に列状に並べられたLD(Laser Diode)等の複数の光源8aを備える。なお、LDに代えて、LED(Light Emitting Diode)を光源8aとして設けてもよい。
【0030】
また、光源8aの個数は特に限定されないが、本実施形態では列の端部の光源8aから順に0、1、・・・nと符号を付す。
【0031】
その光照射部8は、フィルム2の裏面にライン状に検査光Lを照射する。なお、各光源8aには指向性があり、ライン状の照射領域Rの各部がそれぞれ各光源8aにより照射される。
【0032】
また、そのライン状の照射領域Rは、フィルム2の面内において移動方向D1に垂直な方向に延在する。
【0033】
一方、鏡12は、その反射面が楕円柱面となっており、検査光Lが傷2aにより散乱されて発生した散乱光Mを集光する集光系として供される。
【0034】
光電変換部15は、鏡12により集光された散乱光Mを受光する蛍光ファイバ13と、蛍光ファイバ13の端部に接続されたフォトマルチプライヤ14とを備える。
【0035】
蛍光ファイバ13においては、その側面から侵入した散乱光Mによってファイバ内の蛍光物質から蛍光が発生し、当該蛍光がファイバ内を伝播してその端部から出力される。その蛍光は、フォトマルチプライヤ14によって散乱光Mの強度に応じたアナログ電圧値の出力信号SMに変換される。
【0036】
アンプ17は、その出力信号SMを増幅し、後段の処理部18に当該出力信号SMを出力する。なお、フォトマルチプライヤ14から出た直後の出力信号SMが十分な大きさの電圧値を有している場合はアンプ17を省いてもよい。
【0037】
一方、制御部19は、ロータリーエンコーダ16(図1参照)から出力された移動速度信号SRを用いて、n個の光源8aの強度を個別に制御する制御信号Fi(i=0、1、2、…n)を出力する。
【0038】
図4は、制御部19の機能ブロック図である。
【0039】
図4に示すように、制御部19は、複数の光源8aの各々に対応した複数の制御回路19aを有する。
【0040】
図5は各制御回路19aの回路図である。
【0041】
図5に示すように、制御回路19aは、加算器21、ラッチ22、SIN ROM23、D-Aコンバータ24、ローパスフィルタ25、及びアンプ26を有する。
【0042】
この制御回路19aにおいては、ラッチ22の8ビットの出力値と8ビットの規定値Nとが加算器21で加算される。加算器21の出力値は、ラッチ22において1クロック遅延された後にラッチ22から出力されるため、ラッチ22の出力値は1クロック前と比較してNだけ増加することになる。
【0043】
そのラッチ22のクロック信号としては、既述のロータリーエンコーダ16から出力された移動速度信号SRが入力されるので、ラッチ22の出力値はフィルム2の移動速度に応じて変化することになる。
【0044】
ラッチ22の出力値は、後段のSIN ROM23に入力される。SIN ROM23には、正弦波の各点の振幅値がラッチ22の出力値に対応して格納されており、フィルム2の移動速度に応じてSIN ROM23から正弦波の振幅値が出力される。
【0045】
SIN ROM23の出力値は、D-Aコンバータにおいてアナログ電圧値の制御信号Fiに変換される。制御信号Fiは、ローパスフィルタ23においてその遮断周波数以上の周波数成分が除去された後、アンプ26で増幅され、各光源8a(図3参照)に入力される。
【0046】
このような制御回路19aによれば、ラッチ22のクロック端子に移動速度信号SRを入力するので、フィルム2の移動速度に応じてSIN ROM23の出力も変わり、フィルム2の移動速度が速くなるほど制御信号Fiの周波数f0が速くなる。
【0047】
本実施形態では、各光源8aの各々の制御信号Fiを同位相とするのではなく、次の式(1)のように、制御信号Fiの位相に値iに依存した位相成分θiを含ませる。
【0048】
【数1】
【0049】
なお、Foffsetは、制御信号Fiが任意の時刻tにおいて正となるような任意のオフセット電圧値である。
【0050】
上記の位相成分θiは、例えば、制御回路19aの各々において、移動速度信号SRを入力するタイミングをずらす等により、式(1)の位相に含ませることができる。
【0051】
式(1)によれば、隣接する光源8aにおける位相のずれ量δθ(=θi+1−θi=π/n)は、iの値によらない正の固定値となる。
【0052】
各光源8aからは、制御信号Fiと同位相であってその制御信号Fiの大きさに比例した強度の検査光が発生する。例えば、i番目の光源8aから出る検査光Lの強度をIiとする場合、Iiは次の式(2)で表される。
【0053】
【数2】
【0054】
なお、式(2)においてAは正の定数である。そして、Ioffsetは、式(1)のFoffsetに対応した正の定数である。
【0055】
一方、図6は、処理部18の機能ブロック図である。
【0056】
図6に示すように、処理部18は、位相比較器31と周波数比較部32とを有する。
【0057】
このうち、位相比較器31は、0番目の制御信号F0(t)と出力信号SMの各々の位相を比較し、それらの位相差δφに比例した電圧の位相比較信号Spを出力する。
【0058】
一方、周波数比較部32は、例えばロックインアンプであって、出力信号SMの周波数が各光源8aの周波数f0と同一であるか否かを判断するのに使用される。
【0059】
その周波数比較部32には、測定対象の出力信号SMが入力されると共に、参照信号として0番目の制御信号F0(t)が入力される。そして、出力信号SMの周波数が0番目の光源8aの周波数f0と同一である場合には、周波数比較部32からハイレベルの周波数比較信号SFが出力され、出力信号SMの周波数がf0と異なる場合には周波数比較信号SFがローレベルとなる。
【0060】
上記のように処理部18から出力された位相比較信号Spと周波数比較信号SFは、それぞれ判断部20(図3参照)に入力される。
【0061】
判断部20は、PC(Personal Computer)等の電子計算機であって、上記の位相比較信号Spと周波数比較信号SFに基づいて、後述のようにフィルム2における傷2aの有無や傷2aの位置などを特定する。
【0062】
次に、この傷検査装置10の動作について説明する。
【0063】
図7は、傷検査装置10の断面図である。
【0064】
図7に示すように、検査に際しては検査光Lがフィルム2の裏面2yから照射される。このとき、フィルム2の表面2xに傷2aがあると、検査光Lが傷2aにより散乱し、その散乱光Mが鏡12によって集光される。
【0065】
鏡12の反射面は楕円Eに沿った楕円柱面であり、本実施形態では鏡12の第1の焦点F1に検査光Lを照射し、第2の焦点F2に蛍光ファイバ13を配する。このようにすると、第1の焦点F1から出た散乱光Mが第2の焦点F2に集まり、蛍光ファイバ13に効率的に散乱光Mを集光することができる。
【0066】
更に、このように第2の焦点F2に光ファイバ13を設けることで、蛍光ファイバ13の側面からその散乱光Mが入射するようになるので、蛍光ファイバ13の側面で散乱光Mが反射するのが抑制され、光ファイバ13内で効率的に蛍光を発生させることができる。
【0067】
しかも、第2の焦点F2を中心にして実質的に全方位の散乱光Mが蛍光ファイバ13に入射するので、光ファイバ13内で更に効率的に蛍光が発生する。
【0068】
なお、第1の焦点F1から見た鏡12の視角Φは、フィルム2を透過した検査光Lに鏡12が触れない範囲で可能な限り大きくするのが好ましい。これにより、傷2aから出た散乱光Mの多くを光ファイバ13に集めることができ、出力信号SMの強度を高めることができる。
【0069】
特に、幅が1μm程度の微細な傷2aの場合は、弱い強度の散乱光Mが広範囲に散乱するので、上記のように視角Φを大きくして出力信号SMの強度を高める実益がある。
【0070】
ところで、傷検査装置10において検出の対象となる傷は、フィルム2の移動方向D1に延在する線状の傷2aである。
【0071】
本実施形態では、上記の出力信号SMに基づいて、以下のようにして線状の傷2aの有無を判断する。
【0072】
図8は、出力信号SMの強度の時間変化を示す図である。なお、図8では、傷2aが存在する場合の出力信号SMの波形を実線で示し、傷2aがない場合の出力信号SMの波形を点線で示している。
【0073】
傷2aがない場合は、傷2aから散乱光Mが発生せず、散乱光Mが原因の蛍光が蛍光ファイバ13で発生しないので、出力信号SMはローレベルのままとなる。
【0074】
一方、移動方向D1に延在する傷2aが存在する場合、傷2aから散乱光Mが発生し、その散乱光Mによって蛍光ファイバ13で蛍光が発生するので、傷2aがない場合と比較して出力信号SMが大きくなる。
【0075】
また、式(2)のように検査光Lの波形は周波数がf0の正弦波であるため、線状の傷2aに検査光Lが当たっている間は散乱光Mや出力信号SMの波形も周波数がf0の正弦波となる。
【0076】
このように出力信号SMが検査光Lと同一周波数の正弦波となるには、傷2aが移動方向D1に十分に長く、検査光Lに傷2aが曝されている時間が少なくとも検査光Lの1周期以上の時間であることを要する。
【0077】
よって、微小突起2bのようにフィルム2にランダムに存在する構造体や埃に検査光Lが曝されても、散乱光Mや出力信号SMは正弦波とはならず、当該出力信号SMの周波数はf0とは異なる値となる。
【0078】
そこで、本実施形態では、周波数比較部32(図6参照)により出力信号SMの周波数がf0であるかどうかを調べ、周波数がf0であることが分かった場合に、移動方向D1に延在する線状の傷2aがフィルム2に存在すると判断する。
【0079】
図9は、出力信号SMの周波数と強度との関係について示す模式図である。
【0080】
図9に示すように、周波数がf0の近辺に出力信号SMのピークが存在する場合には、上記のように線状の傷2aが存在することになる。
【0081】
一方、検査対象外の構造体が存在する場合は、f0から外れたところの周波数に出力信号SMのピークが発生する。例えば、微小突起2bは、傷2aよりも短い間隔でフィルム2に点在するため、微小突起2bに対応する出力信号SMの周波数はf0よりもかなり小さくなる。
【0082】
次に、傷2aの位置の特定方法について説明する。
【0083】
図3に示したように、光照射部8は、端から0、1、・・・nと符号を付された複数の光源8aを備え、これらの光源8aの各々によりライン状の照射領域Rに検査光Lが照射される。
【0084】
図10は、上記の符号i(=0、1、・・・n)をフィルム2の幅方向D2の位置を特定するのに使用した場合における出力信号SMの強度の時間変化を模式的に示す図である。
【0085】
図10の実線は、k番目の光源8aから出た検査光Lにより傷2aが照射された場合の出力信号SMの波形を示す。この場合、上記のように傷2aが十分に長ければ、出力信号SMは周波数がf0の正弦波となる。
【0086】
また、図10の破線は、0番目の光源8aに入力される制御信号F0(t)の波形である。式(1)に示したように、0番目の制御信号F0(t)とk番目の制御信号Fk(t)は位相がθkだけずれている。
【0087】
上記のように傷2aがk番目の光源8aにより照射されていれば、上記の位相差θkと同じ位相差が制御信号F0(t)と出力信号SMとの間にも発生する。式(1)より、その位相差θkはπk/nに等しいので、k=θkn/πなる関係が成立する。
【0088】
よって、制御信号F0(t)と出力信号SMとの位相差θkを検出し、そのθkを用いてθkn/πを計算すればその値はkとなり、傷2aがフィルム2の端からk番目にあることが分かる。
【0089】
なお、上記の位相差θkは、位相比較器31(図6参照)から出力される位相比較信号Spにより把握することができる。
【0090】
このように、本実施形態に係る傷検査装置10によれば、線状の傷2aの有無と、傷2aの位置とを知ることができる。
【0091】
次に、この傷検査装置10を用いた傷検査方法について説明する。
【0092】
図11は、本実施形態に係る傷検査方法のフローチャートである。
【0093】
最初のステップP1では、図3に示したように、移動方向D1に移動途中のフィルム2に検査光Lをライン状に照射する。
【0094】
上記のように、検査光Lは各光源8aから照射される。そして、式(2)のように、各光源8aから出る検査光Lは強度Iki(t)が周波数f0で変わる正弦波であり、その強度Ik(t)には隣接する光源8a間で位相差δθ(=θk+1−θk=π/n)がある。
【0095】
次に、ステップP2に移り、散乱光Mと検査光Lの各々の周波数が同一であるかどうかを調べ、同一である場合には移動方向D1に延在する傷2aがフィルム2に存在すると判断する。
【0096】
周波数の同一性の判断は、周波数比較部32(図6参照)から出力される周波数比較信号SFに基づいて判断部20(図3参照)が行い、周波数比較信号SFがハイレベルのときに散乱光Mと検査光Lの各々の周波数が同一であると判断する。
【0097】
なお、判断部20に代えて、ユーザが周波数の同一性を判断するようにしてもよい。
【0098】
次に、ステップP3に移り、散乱光Mの位相と0番目の光源8aの制御信号F0(t)の位相と位相差δθに基づいて、傷2aがフィルム2の幅方向D2のどこに存在するのかを特定する。
【0099】
上記のように、位相差δθがθk(=πk/n)に等しければ、傷2aがk番目の光源8aにより照射されており、フィルム2の端から数えてk番目のところに傷2aがあると特定することができる。
【0100】
この判断は、周波数比較信号SFに基づいて判断部20(図3参照)が行ってもよいし、ユーザが行ってもよい。
【0101】
また、上記では、散乱光Mとの比較対象として0番目の光源8aを選んだが、複数の光源8aのうちの任意の一の光源8aの位相と散乱光Mの位相とを比較してもよい。
【0102】
以上により、本実施形態に係る傷検査方法の基本ステップを終了する。
【0103】
上記した本実施形態によれば、図3に示したように、移動方向D1に移動途中のフィルム2にライン状に検査光Lを照射して傷の有無を検査するので、フィルム2を二軸方向に移動させる必要がなく、フィルム2の全範囲を短時間に検査することができる。
【0104】
また、検査光Lと出力信号SMの各々の周波数が同一か否かを調べることで、フィルム2の移動方向D1に延在する線状の傷2aのみを選択的に検知でき、微小突起のような検査対象外の構造体を傷であると誤認するのを防止できる。
【0105】
更に、ライン状の照射領域Rの延在方向に沿って複数の光源9aの位相をずらし、制御信号F0(t)と出力信号SMの各々の位相差δθを検出することで、傷2aがフィルム2の幅方向D2のどこにあるのかが分かる。
【0106】
(第2実施形態)
第1実施形態では、図3に示したように、検査対象のフィルム2として透明フィルムを使用した。
【0107】
これに対し、本実施形態では、不透明なフィルム2を検査することができる検査装置について説明する。
【0108】
図12は、本実施形態に係る傷検査装置40の断面図である。
【0109】
なお、図12において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態と同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0110】
図12に示すように、この検査装置40では、フィルム2の表面2x側に光照射部8を設け、表面2x側からフィルム2に検査光Lを照射する。その表面2xは、反射面が楕円柱面の鏡12の第1の焦点F1に位置合わせされており、その第1の焦点F1に相当する部分の表面2xに上記の検査光Lが照射される。
【0111】
そして、鏡12の第2の焦点F2には、第1実施形態と同様に蛍光ファイバ13を配する。その蛍光ファイバ13には、第1実施形態で説明した出力信号SMを出力するフォトマルチプライヤ14(図3参照)が接続される。
【0112】
なお、その出力信号SMを用いた傷検査方法は第1実施形態と同様なので以下では省略する。
【0113】
上記した本実施形態によれば、フィルム2が検査光Lに対して不透明な場合であっても、傷2aにおいて検査光Lを散乱させて散乱光Mを発生させ、その散乱光Mを鏡12で集光することができる。これにより、フィルム2が不透明であっても傷2aの有無やその位置を特定できる。
【0114】
(第3実施形態)
第1実施形態と第2実施形態では、フィルム2の片方の面側にのみ鏡を設けた。これに対し、本実施形態では、透明なフィルム2の両方の面側に鏡を設ける。
【0115】
図13は、本実施形態に係る傷検査装置の断面図である。なお、図13において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態と同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0116】
この傷検査装置50は、フィルム2の表面2x側に設けられた第1の鏡51と、フィルム2の裏面2y側に設けられた第2の鏡52とを有する。
【0117】
第1の鏡51と第2の鏡52は集光系として供するものであって、それらの反射面の各々はいずれも楕円柱面であり、各鏡51、52に共通の焦点Q0にフィルム2の表面2xが位置する。また、各鏡51、52の他方の焦点Q1、Q2には、第1実施形態と同様に蛍光ファイバ13が設けられる。
【0118】
また、フィルム2の裏面2y側には光照射部8が設けられ、焦点Q0におけるフィルム2に光照射部8から検査光Lが照射される。
【0119】
なお、焦点Q0から見た第2の鏡52の視角Ωは、裏面2yで反射した検査光Lの正反射光Nが第2の鏡52に入射しない範囲で可能な限り大きくするのが好ましい。
【0120】
フィルム2に傷2aが存在する場合、傷2aにより検査光Lが散乱して散乱光Mが発生し、その散乱光Mが第1の鏡51と第2の鏡52の各々により各焦点Q1、Q2に集光されて蛍光ファイバ13に入射する。
【0121】
それらの蛍光ファイバ13の各々の端部には、第1実施形態で説明した出力信号SMを出力するフォトマルチプライヤ14が個別に接続される。各フォトマルチプライヤ14から出力された出力信号SMは、合成された後にアンプ17(図3参照)に入力され、その強度が増幅される。
【0122】
なお、その出力信号SMを用いた傷検査方法は第1実施形態と同様なので以下では省略する。
【0123】
上記した本実施形態によれば、検査光Lの集光系として第1の鏡51と第2の鏡52を設けるので、フィルム2の両面に発生した散乱光Mをこれらの鏡51、52により集めることができる。そのため、第1実施形態や第2実施形態と比較して広い範囲で散乱光Mを集めることができ、傷2aの検出感度を高めることができる。
【0124】
(第4実施形態)
第1実施形態では、図3に示したように、光電変換部15として、蛍光ファイバ13とフォトマルチプライヤ14とを使用した。
【0125】
本実施形態が第1実施形態と異なる点はその光電変換部15の構造だけであり、それ以外は第1実施形態と同様である。
【0126】
図14は、本実施形態に係る光電変換部15の断面図である。
【0127】
図14に示されるように、この光電変換部15は、複数のフォトダイオード55を有する。各フォトダイオード55は、それらの受光面55aを外側にして円状に配される。
【0128】
このように円状にすることで、あらゆる方向からの散乱光Mを光電変換部15で受光することができ、傷2aの検出感度を高めることができる。
【0129】
(第5実施形態)
第1実施形態では、図1に示したように、各ローラ3、4によりフィルム2を懸架するようにした。本実施形態が第1実施形態と異なる点は、フィルム2の懸架の仕方のみであり、これ以外は第1実施形態と同じである。
【0130】
図15は、本実施形態に係る傷検査システムの構成図である。なお、図15において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態に係るのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0131】
図15に示すように、本実施形態に係る傷検査システム60においては、第1のローラ3と第2のローラ4の各々よりも高い位置に二つのロータリーエンコーダ16を設け、これらのロータリーエンコーダ16によりフィルム2を水平に懸架する。
【0132】
このようにすると、傷検査装置10による検査が進んで各ローラ3、4におけるフィルム2の巻取り厚が変化しても、二つのロータリーエンコーダ16で懸架された部分のフィルム2を水平に保つことができる。そのため、フィルム2の傾斜が原因で傷検査装置10による検査が不正確になるのを防止でき、傷の検査精度を一定に維持することが可能となる。
【0133】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0134】
(付記1) 移動途中の検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査装置。
【0135】
(付記2) 前記光照射部が、前記ラインの延在方向に沿って位相がずれた複数の前記検査光を発生する複数の光源を備え、
前記出力信号の位相と、複数の前記光源のうちの一から出た前記検査光の位相との位相差を示す位相比較信号を出力する位相比較器を更に有することを特徴とする付記1に記載の傷検査装置。
【0136】
(付記3) 前記周波数比較信号に基づいて、前記出力信号と前記検査光の各々の前記周波数が同一の場合に、前記検査対象に移動方向に延在する傷が存在すると判断すると共に、
前記位相比較信号が示す前記位相差に基づいて、前記傷が前記検査対象のどこに存在するのかを特定する判断部を更に有することを特徴とする付記2に記載の傷検査装置。
【0137】
(付記4) 前記光照射部は、前記移動方向に垂直なライン状の前記検査光を前記検査対象に照射することを特徴とする付記1に記載の傷検査装置。
【0138】
(付記5) 前記集光系は、前記検査対象の前記表面側又は裏面側の少なくとも一方に設けられた反射面が楕円柱面の鏡であり、
前記光照射部は、前記楕円柱面の第1の焦点に位置する部分の前記検査対象に前記検査光を照射し、
前記光電変換部は、前記楕円柱面の第2の焦点に集光した前記散乱光を前記出力信号に変換することを特徴とする付記1乃至付記4のいずれかに記載の傷検査装置。
【0139】
(付記6) 前記光電変換部は、前記第2の焦点に位置して前記散乱光を側面から受ける蛍光ファイバと、前記蛍光ファイバの端部に接続されて前記出力信号を出力するフォトマルチプライヤとを備えることを特徴とする付記1に記載の傷検査装置。
【0140】
(付記7) 検査対象を移動させる移動部と、
前記移動部により移動されている途中の前記検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査システム。
【0141】
(付記8) 移動途中の検査対象に、所定の周波数で強度が変わる検査光をライン状に照射し、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光の周波数と、前記検査光の前記周波数とが同一であるときに、移動方向に延在する傷が前記検査対象に存在すると判断することを特徴とする傷検査方法。
【0142】
(付記9) 前記検査対象に前記検査光を照射するときに、前記ラインの延在方向に沿って位相がずれた複数の前記検査光を前記検査対象に照射すると共に、
前記散乱光の位相と、複数の前記検査光のうちの一の位相との位相差に基づいて、前記傷が前記検査対象のどこに存在するのかを特定することを特徴とする付記8に記載の傷検査方法。
【符号の説明】
【0143】
1…傷検査システム、2…フィルム、2a…傷、2x…表面、2y…裏面、2b…微小突起、3…第1のローラ、4…第2のローラ、8…光照射部、8a…光源、10、40、50…傷検査装置、12…鏡、13…蛍光ファイバ、14…フォトマルチプライヤ、15…光電変換部、16…ロータリーエンコーダ、17…アンプ、18…処理部、19…制御部、19a…制御回路、20…判断部、21…加算器、22…ラッチ、23…SIN ROM、24…D-Aコンバータ、25…ローパスフィルタ、26…アンプ、31…位相比較器、32…周波数比較部、51…第1の鏡、52…第2の鏡、L…検査光、M…散乱光、F1…第1の焦点、F2…第2の焦点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷検査装置、傷検査システム、及び傷検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルや電子ペーパ等の表示デバイスでは、基材となるフィルムの上に様々な膜が積層される。フィルムの表面に傷があると、その上に形成される膜に欠陥が入ってデバイスの歩留まりが低下するので、傷検査装置によりフィルムの表面を予め検査しておくのが好ましい。
【0003】
そのような傷検査装置として楕円鏡を利用した装置が提案されている。その装置では、検査対象の観察点にレーザ光を照射しながら、その観察点に楕円鏡の一つの焦点を合わせ、観察点で散乱したレーザ光を楕円鏡の他の焦点において観察する。
【0004】
しかしながら、この装置では、観察点が検査対象の表面の一点であるため、検査対象の全面を検査するのに長時間を要する。しかも、全面を検査するには、検査対象を一平面内で移動させなければならず、そのためには少なくとも二つの駆動軸が必要となり、装置の機構が複雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−053138号公報
【特許文献2】特開平11−218498号公報
【特許文献3】特開平06−317537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
傷検査装置、傷検査システム、及び傷検査方法において、検査対象の表面を短時間で検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の開示の一観点によれば、移動途中の検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部とを有する傷検査装置が提供される。
【0008】
また、その開示の他の観点によれば、検査対象を移動させる移動部と、前記移動部により移動されている途中の前記検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部とを有する傷検査システムが提供される。
【0009】
更に、その開示の別の観点によれば、移動途中の検査対象に、所定の周波数で強度が変わる検査光をライン状に照射し、前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光の周波数と、前記検査光の前記周波数とが同一であるときに、移動方向に延在する傷が前記検査対象に存在すると判断する傷検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下の開示によれば、移動途中の検査対象の表面に検査光をライン状に照射するので、検査のために検査対象を二軸方向に移動させる必要がなく、検査対象の広範囲を短時間で検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態に係る傷検査システムの構成図である。
【図2】図2(a)はフィルムの平面図であり、図2(b)はフィルムの拡大断面図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る傷検査装置の構成図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【図5】図5は、第1実施形態に係る制御回路の回路図である。
【図6】図6は、第1実施形態に係る処理部の機能ブロック図である。
【図7】図7は、第1実施形態に係る傷検査装置の断面図である。
【図8】図8は、第1実施形態に係る出力信号の強度の時間変化を示す図である。
【図9】図9は、第1実施形態に係る出力信号の周波数と強度との関係について示す模式図である。
【図10】図10は、第1実施形態において、符号i(=0、1、・・・n)をフィルムの幅方向の位置を特定するのに使用した場合における出力信号の強度の時間変化を模式的に示す図である。
【図11】図11は、第1実施形態に係る傷検査方法のフローチャートである。
【図12】図12は、第2実施形態に係る傷検査装置の断面図である。
【図13】図13は、第3実施形態に係る傷検査装置の断面図である。
【図14】図14は、第4実施形態に係る光電変換部の断面図である。
【図15】図15は、第5実施形態に係る傷検査システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る傷検査システム1の構成図である。
【0013】
図1に示すように、この検査システム1は、第1のローラ3、第2のローラ4、傷検査装置10、及びロータリーエンコーダ16を有する。
【0014】
このうち、第1のローラ3と第2のローラ4は、不図示のモータにより回転可能であり、検査対象のフィルム2を移動させる移動部として供する。本実施形態のように検査対象が長尺状のフィルムの場合、その移動方向D1は当該フィルム2の長尺方向に等しい。
【0015】
フィルム2は、第2のローラ4から送り出され、途中で傷検査装置10による検査を受けた後、第1のローラ3により巻き取られる。
【0016】
フィルム2の単位時間あたりの移動距離である移動速度はロータリーエンコーダ16により計測される。ロータリーエンコーダ16は、フィルム2の縁に開口されたスプロケットホールに嵌合する不図示のスプロケットピンを備え、移動方向D1に沿ったフィルム2の移動速度を示す移動速度信号SRを出力する。
【0017】
なお、移動速度信号SRに代えて、ローラ3、4の回転数からフィルム2の移動速度を把握することも考えられる。但し、フィルム2の移動速度は各ローラ3、4に巻き取られているフィルム2の積層厚により変わるため、本実施形態のように移動途中のフィルム2にロータリーエンコーダ16を嵌合させた方が正確な移動速度を得ることができる。
【0018】
図2(a)は、フィルム2の平面図である。
【0019】
フィルム2の材料は特に限定されないが、液晶表示パネルに使用するポリカーボネイトフィルム等の透明フィルムをフィルム2として使用し得る。
【0020】
図2(a)に示すように、フィルム2の表面には、その移動方向D1に延在する線状の傷2aが存在することがある。このような傷2aが存在すると、液晶表示デバイス用の透明電極をフィルム2の上に形成する場合に、その透明電極が傷2aを境にして断線するおそれがある。
【0021】
図2(b)は、フィルム2の幅方向D2に沿う拡大断面図である。
【0022】
図2(b)に示すように、フィルム2の表面2xには透明電極膜5が形成されると共に、上記の傷2aが複数存在する。
【0023】
その傷2aのうち、図2(a)の左側のものは透明電極膜5の表面から形成されたものである。
【0024】
一方、図2(b)の右側のものは、透明電極5の形成前に表面2xに形成されたものである。、このような傷2aが存在すると、傷2aの上の透明電極5にひび割れが生じ、透明電極5が不良になってしまう。
【0025】
このようにフィルム2の表面2xには上記の傷2aが存在するが、その裏面2yには複数の微小突起2bが意図的に形成される場合がある。その微小突起2bは裏面2yを滑り易くする役割を担う。
【0026】
後述のように、上記の傷検査装置10(図1参照)は、この微小突起2bを傷と誤認せずに、移動方向D1に延在する傷2aのみを認識することができる。
【0027】
図3は、傷検査装置10の構成図である。
【0028】
傷検査装置10は、光照射部8、鏡12、光電変換部15、アンプ17、処理部18、制御部19、及び判断部20を備える。
【0029】
このうち、光照射部8は、フィルム2の幅方向D2に列状に並べられたLD(Laser Diode)等の複数の光源8aを備える。なお、LDに代えて、LED(Light Emitting Diode)を光源8aとして設けてもよい。
【0030】
また、光源8aの個数は特に限定されないが、本実施形態では列の端部の光源8aから順に0、1、・・・nと符号を付す。
【0031】
その光照射部8は、フィルム2の裏面にライン状に検査光Lを照射する。なお、各光源8aには指向性があり、ライン状の照射領域Rの各部がそれぞれ各光源8aにより照射される。
【0032】
また、そのライン状の照射領域Rは、フィルム2の面内において移動方向D1に垂直な方向に延在する。
【0033】
一方、鏡12は、その反射面が楕円柱面となっており、検査光Lが傷2aにより散乱されて発生した散乱光Mを集光する集光系として供される。
【0034】
光電変換部15は、鏡12により集光された散乱光Mを受光する蛍光ファイバ13と、蛍光ファイバ13の端部に接続されたフォトマルチプライヤ14とを備える。
【0035】
蛍光ファイバ13においては、その側面から侵入した散乱光Mによってファイバ内の蛍光物質から蛍光が発生し、当該蛍光がファイバ内を伝播してその端部から出力される。その蛍光は、フォトマルチプライヤ14によって散乱光Mの強度に応じたアナログ電圧値の出力信号SMに変換される。
【0036】
アンプ17は、その出力信号SMを増幅し、後段の処理部18に当該出力信号SMを出力する。なお、フォトマルチプライヤ14から出た直後の出力信号SMが十分な大きさの電圧値を有している場合はアンプ17を省いてもよい。
【0037】
一方、制御部19は、ロータリーエンコーダ16(図1参照)から出力された移動速度信号SRを用いて、n個の光源8aの強度を個別に制御する制御信号Fi(i=0、1、2、…n)を出力する。
【0038】
図4は、制御部19の機能ブロック図である。
【0039】
図4に示すように、制御部19は、複数の光源8aの各々に対応した複数の制御回路19aを有する。
【0040】
図5は各制御回路19aの回路図である。
【0041】
図5に示すように、制御回路19aは、加算器21、ラッチ22、SIN ROM23、D-Aコンバータ24、ローパスフィルタ25、及びアンプ26を有する。
【0042】
この制御回路19aにおいては、ラッチ22の8ビットの出力値と8ビットの規定値Nとが加算器21で加算される。加算器21の出力値は、ラッチ22において1クロック遅延された後にラッチ22から出力されるため、ラッチ22の出力値は1クロック前と比較してNだけ増加することになる。
【0043】
そのラッチ22のクロック信号としては、既述のロータリーエンコーダ16から出力された移動速度信号SRが入力されるので、ラッチ22の出力値はフィルム2の移動速度に応じて変化することになる。
【0044】
ラッチ22の出力値は、後段のSIN ROM23に入力される。SIN ROM23には、正弦波の各点の振幅値がラッチ22の出力値に対応して格納されており、フィルム2の移動速度に応じてSIN ROM23から正弦波の振幅値が出力される。
【0045】
SIN ROM23の出力値は、D-Aコンバータにおいてアナログ電圧値の制御信号Fiに変換される。制御信号Fiは、ローパスフィルタ23においてその遮断周波数以上の周波数成分が除去された後、アンプ26で増幅され、各光源8a(図3参照)に入力される。
【0046】
このような制御回路19aによれば、ラッチ22のクロック端子に移動速度信号SRを入力するので、フィルム2の移動速度に応じてSIN ROM23の出力も変わり、フィルム2の移動速度が速くなるほど制御信号Fiの周波数f0が速くなる。
【0047】
本実施形態では、各光源8aの各々の制御信号Fiを同位相とするのではなく、次の式(1)のように、制御信号Fiの位相に値iに依存した位相成分θiを含ませる。
【0048】
【数1】
【0049】
なお、Foffsetは、制御信号Fiが任意の時刻tにおいて正となるような任意のオフセット電圧値である。
【0050】
上記の位相成分θiは、例えば、制御回路19aの各々において、移動速度信号SRを入力するタイミングをずらす等により、式(1)の位相に含ませることができる。
【0051】
式(1)によれば、隣接する光源8aにおける位相のずれ量δθ(=θi+1−θi=π/n)は、iの値によらない正の固定値となる。
【0052】
各光源8aからは、制御信号Fiと同位相であってその制御信号Fiの大きさに比例した強度の検査光が発生する。例えば、i番目の光源8aから出る検査光Lの強度をIiとする場合、Iiは次の式(2)で表される。
【0053】
【数2】
【0054】
なお、式(2)においてAは正の定数である。そして、Ioffsetは、式(1)のFoffsetに対応した正の定数である。
【0055】
一方、図6は、処理部18の機能ブロック図である。
【0056】
図6に示すように、処理部18は、位相比較器31と周波数比較部32とを有する。
【0057】
このうち、位相比較器31は、0番目の制御信号F0(t)と出力信号SMの各々の位相を比較し、それらの位相差δφに比例した電圧の位相比較信号Spを出力する。
【0058】
一方、周波数比較部32は、例えばロックインアンプであって、出力信号SMの周波数が各光源8aの周波数f0と同一であるか否かを判断するのに使用される。
【0059】
その周波数比較部32には、測定対象の出力信号SMが入力されると共に、参照信号として0番目の制御信号F0(t)が入力される。そして、出力信号SMの周波数が0番目の光源8aの周波数f0と同一である場合には、周波数比較部32からハイレベルの周波数比較信号SFが出力され、出力信号SMの周波数がf0と異なる場合には周波数比較信号SFがローレベルとなる。
【0060】
上記のように処理部18から出力された位相比較信号Spと周波数比較信号SFは、それぞれ判断部20(図3参照)に入力される。
【0061】
判断部20は、PC(Personal Computer)等の電子計算機であって、上記の位相比較信号Spと周波数比較信号SFに基づいて、後述のようにフィルム2における傷2aの有無や傷2aの位置などを特定する。
【0062】
次に、この傷検査装置10の動作について説明する。
【0063】
図7は、傷検査装置10の断面図である。
【0064】
図7に示すように、検査に際しては検査光Lがフィルム2の裏面2yから照射される。このとき、フィルム2の表面2xに傷2aがあると、検査光Lが傷2aにより散乱し、その散乱光Mが鏡12によって集光される。
【0065】
鏡12の反射面は楕円Eに沿った楕円柱面であり、本実施形態では鏡12の第1の焦点F1に検査光Lを照射し、第2の焦点F2に蛍光ファイバ13を配する。このようにすると、第1の焦点F1から出た散乱光Mが第2の焦点F2に集まり、蛍光ファイバ13に効率的に散乱光Mを集光することができる。
【0066】
更に、このように第2の焦点F2に光ファイバ13を設けることで、蛍光ファイバ13の側面からその散乱光Mが入射するようになるので、蛍光ファイバ13の側面で散乱光Mが反射するのが抑制され、光ファイバ13内で効率的に蛍光を発生させることができる。
【0067】
しかも、第2の焦点F2を中心にして実質的に全方位の散乱光Mが蛍光ファイバ13に入射するので、光ファイバ13内で更に効率的に蛍光が発生する。
【0068】
なお、第1の焦点F1から見た鏡12の視角Φは、フィルム2を透過した検査光Lに鏡12が触れない範囲で可能な限り大きくするのが好ましい。これにより、傷2aから出た散乱光Mの多くを光ファイバ13に集めることができ、出力信号SMの強度を高めることができる。
【0069】
特に、幅が1μm程度の微細な傷2aの場合は、弱い強度の散乱光Mが広範囲に散乱するので、上記のように視角Φを大きくして出力信号SMの強度を高める実益がある。
【0070】
ところで、傷検査装置10において検出の対象となる傷は、フィルム2の移動方向D1に延在する線状の傷2aである。
【0071】
本実施形態では、上記の出力信号SMに基づいて、以下のようにして線状の傷2aの有無を判断する。
【0072】
図8は、出力信号SMの強度の時間変化を示す図である。なお、図8では、傷2aが存在する場合の出力信号SMの波形を実線で示し、傷2aがない場合の出力信号SMの波形を点線で示している。
【0073】
傷2aがない場合は、傷2aから散乱光Mが発生せず、散乱光Mが原因の蛍光が蛍光ファイバ13で発生しないので、出力信号SMはローレベルのままとなる。
【0074】
一方、移動方向D1に延在する傷2aが存在する場合、傷2aから散乱光Mが発生し、その散乱光Mによって蛍光ファイバ13で蛍光が発生するので、傷2aがない場合と比較して出力信号SMが大きくなる。
【0075】
また、式(2)のように検査光Lの波形は周波数がf0の正弦波であるため、線状の傷2aに検査光Lが当たっている間は散乱光Mや出力信号SMの波形も周波数がf0の正弦波となる。
【0076】
このように出力信号SMが検査光Lと同一周波数の正弦波となるには、傷2aが移動方向D1に十分に長く、検査光Lに傷2aが曝されている時間が少なくとも検査光Lの1周期以上の時間であることを要する。
【0077】
よって、微小突起2bのようにフィルム2にランダムに存在する構造体や埃に検査光Lが曝されても、散乱光Mや出力信号SMは正弦波とはならず、当該出力信号SMの周波数はf0とは異なる値となる。
【0078】
そこで、本実施形態では、周波数比較部32(図6参照)により出力信号SMの周波数がf0であるかどうかを調べ、周波数がf0であることが分かった場合に、移動方向D1に延在する線状の傷2aがフィルム2に存在すると判断する。
【0079】
図9は、出力信号SMの周波数と強度との関係について示す模式図である。
【0080】
図9に示すように、周波数がf0の近辺に出力信号SMのピークが存在する場合には、上記のように線状の傷2aが存在することになる。
【0081】
一方、検査対象外の構造体が存在する場合は、f0から外れたところの周波数に出力信号SMのピークが発生する。例えば、微小突起2bは、傷2aよりも短い間隔でフィルム2に点在するため、微小突起2bに対応する出力信号SMの周波数はf0よりもかなり小さくなる。
【0082】
次に、傷2aの位置の特定方法について説明する。
【0083】
図3に示したように、光照射部8は、端から0、1、・・・nと符号を付された複数の光源8aを備え、これらの光源8aの各々によりライン状の照射領域Rに検査光Lが照射される。
【0084】
図10は、上記の符号i(=0、1、・・・n)をフィルム2の幅方向D2の位置を特定するのに使用した場合における出力信号SMの強度の時間変化を模式的に示す図である。
【0085】
図10の実線は、k番目の光源8aから出た検査光Lにより傷2aが照射された場合の出力信号SMの波形を示す。この場合、上記のように傷2aが十分に長ければ、出力信号SMは周波数がf0の正弦波となる。
【0086】
また、図10の破線は、0番目の光源8aに入力される制御信号F0(t)の波形である。式(1)に示したように、0番目の制御信号F0(t)とk番目の制御信号Fk(t)は位相がθkだけずれている。
【0087】
上記のように傷2aがk番目の光源8aにより照射されていれば、上記の位相差θkと同じ位相差が制御信号F0(t)と出力信号SMとの間にも発生する。式(1)より、その位相差θkはπk/nに等しいので、k=θkn/πなる関係が成立する。
【0088】
よって、制御信号F0(t)と出力信号SMとの位相差θkを検出し、そのθkを用いてθkn/πを計算すればその値はkとなり、傷2aがフィルム2の端からk番目にあることが分かる。
【0089】
なお、上記の位相差θkは、位相比較器31(図6参照)から出力される位相比較信号Spにより把握することができる。
【0090】
このように、本実施形態に係る傷検査装置10によれば、線状の傷2aの有無と、傷2aの位置とを知ることができる。
【0091】
次に、この傷検査装置10を用いた傷検査方法について説明する。
【0092】
図11は、本実施形態に係る傷検査方法のフローチャートである。
【0093】
最初のステップP1では、図3に示したように、移動方向D1に移動途中のフィルム2に検査光Lをライン状に照射する。
【0094】
上記のように、検査光Lは各光源8aから照射される。そして、式(2)のように、各光源8aから出る検査光Lは強度Iki(t)が周波数f0で変わる正弦波であり、その強度Ik(t)には隣接する光源8a間で位相差δθ(=θk+1−θk=π/n)がある。
【0095】
次に、ステップP2に移り、散乱光Mと検査光Lの各々の周波数が同一であるかどうかを調べ、同一である場合には移動方向D1に延在する傷2aがフィルム2に存在すると判断する。
【0096】
周波数の同一性の判断は、周波数比較部32(図6参照)から出力される周波数比較信号SFに基づいて判断部20(図3参照)が行い、周波数比較信号SFがハイレベルのときに散乱光Mと検査光Lの各々の周波数が同一であると判断する。
【0097】
なお、判断部20に代えて、ユーザが周波数の同一性を判断するようにしてもよい。
【0098】
次に、ステップP3に移り、散乱光Mの位相と0番目の光源8aの制御信号F0(t)の位相と位相差δθに基づいて、傷2aがフィルム2の幅方向D2のどこに存在するのかを特定する。
【0099】
上記のように、位相差δθがθk(=πk/n)に等しければ、傷2aがk番目の光源8aにより照射されており、フィルム2の端から数えてk番目のところに傷2aがあると特定することができる。
【0100】
この判断は、周波数比較信号SFに基づいて判断部20(図3参照)が行ってもよいし、ユーザが行ってもよい。
【0101】
また、上記では、散乱光Mとの比較対象として0番目の光源8aを選んだが、複数の光源8aのうちの任意の一の光源8aの位相と散乱光Mの位相とを比較してもよい。
【0102】
以上により、本実施形態に係る傷検査方法の基本ステップを終了する。
【0103】
上記した本実施形態によれば、図3に示したように、移動方向D1に移動途中のフィルム2にライン状に検査光Lを照射して傷の有無を検査するので、フィルム2を二軸方向に移動させる必要がなく、フィルム2の全範囲を短時間に検査することができる。
【0104】
また、検査光Lと出力信号SMの各々の周波数が同一か否かを調べることで、フィルム2の移動方向D1に延在する線状の傷2aのみを選択的に検知でき、微小突起のような検査対象外の構造体を傷であると誤認するのを防止できる。
【0105】
更に、ライン状の照射領域Rの延在方向に沿って複数の光源9aの位相をずらし、制御信号F0(t)と出力信号SMの各々の位相差δθを検出することで、傷2aがフィルム2の幅方向D2のどこにあるのかが分かる。
【0106】
(第2実施形態)
第1実施形態では、図3に示したように、検査対象のフィルム2として透明フィルムを使用した。
【0107】
これに対し、本実施形態では、不透明なフィルム2を検査することができる検査装置について説明する。
【0108】
図12は、本実施形態に係る傷検査装置40の断面図である。
【0109】
なお、図12において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態と同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0110】
図12に示すように、この検査装置40では、フィルム2の表面2x側に光照射部8を設け、表面2x側からフィルム2に検査光Lを照射する。その表面2xは、反射面が楕円柱面の鏡12の第1の焦点F1に位置合わせされており、その第1の焦点F1に相当する部分の表面2xに上記の検査光Lが照射される。
【0111】
そして、鏡12の第2の焦点F2には、第1実施形態と同様に蛍光ファイバ13を配する。その蛍光ファイバ13には、第1実施形態で説明した出力信号SMを出力するフォトマルチプライヤ14(図3参照)が接続される。
【0112】
なお、その出力信号SMを用いた傷検査方法は第1実施形態と同様なので以下では省略する。
【0113】
上記した本実施形態によれば、フィルム2が検査光Lに対して不透明な場合であっても、傷2aにおいて検査光Lを散乱させて散乱光Mを発生させ、その散乱光Mを鏡12で集光することができる。これにより、フィルム2が不透明であっても傷2aの有無やその位置を特定できる。
【0114】
(第3実施形態)
第1実施形態と第2実施形態では、フィルム2の片方の面側にのみ鏡を設けた。これに対し、本実施形態では、透明なフィルム2の両方の面側に鏡を設ける。
【0115】
図13は、本実施形態に係る傷検査装置の断面図である。なお、図13において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態と同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0116】
この傷検査装置50は、フィルム2の表面2x側に設けられた第1の鏡51と、フィルム2の裏面2y側に設けられた第2の鏡52とを有する。
【0117】
第1の鏡51と第2の鏡52は集光系として供するものであって、それらの反射面の各々はいずれも楕円柱面であり、各鏡51、52に共通の焦点Q0にフィルム2の表面2xが位置する。また、各鏡51、52の他方の焦点Q1、Q2には、第1実施形態と同様に蛍光ファイバ13が設けられる。
【0118】
また、フィルム2の裏面2y側には光照射部8が設けられ、焦点Q0におけるフィルム2に光照射部8から検査光Lが照射される。
【0119】
なお、焦点Q0から見た第2の鏡52の視角Ωは、裏面2yで反射した検査光Lの正反射光Nが第2の鏡52に入射しない範囲で可能な限り大きくするのが好ましい。
【0120】
フィルム2に傷2aが存在する場合、傷2aにより検査光Lが散乱して散乱光Mが発生し、その散乱光Mが第1の鏡51と第2の鏡52の各々により各焦点Q1、Q2に集光されて蛍光ファイバ13に入射する。
【0121】
それらの蛍光ファイバ13の各々の端部には、第1実施形態で説明した出力信号SMを出力するフォトマルチプライヤ14が個別に接続される。各フォトマルチプライヤ14から出力された出力信号SMは、合成された後にアンプ17(図3参照)に入力され、その強度が増幅される。
【0122】
なお、その出力信号SMを用いた傷検査方法は第1実施形態と同様なので以下では省略する。
【0123】
上記した本実施形態によれば、検査光Lの集光系として第1の鏡51と第2の鏡52を設けるので、フィルム2の両面に発生した散乱光Mをこれらの鏡51、52により集めることができる。そのため、第1実施形態や第2実施形態と比較して広い範囲で散乱光Mを集めることができ、傷2aの検出感度を高めることができる。
【0124】
(第4実施形態)
第1実施形態では、図3に示したように、光電変換部15として、蛍光ファイバ13とフォトマルチプライヤ14とを使用した。
【0125】
本実施形態が第1実施形態と異なる点はその光電変換部15の構造だけであり、それ以外は第1実施形態と同様である。
【0126】
図14は、本実施形態に係る光電変換部15の断面図である。
【0127】
図14に示されるように、この光電変換部15は、複数のフォトダイオード55を有する。各フォトダイオード55は、それらの受光面55aを外側にして円状に配される。
【0128】
このように円状にすることで、あらゆる方向からの散乱光Mを光電変換部15で受光することができ、傷2aの検出感度を高めることができる。
【0129】
(第5実施形態)
第1実施形態では、図1に示したように、各ローラ3、4によりフィルム2を懸架するようにした。本実施形態が第1実施形態と異なる点は、フィルム2の懸架の仕方のみであり、これ以外は第1実施形態と同じである。
【0130】
図15は、本実施形態に係る傷検査システムの構成図である。なお、図15において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態に係るのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0131】
図15に示すように、本実施形態に係る傷検査システム60においては、第1のローラ3と第2のローラ4の各々よりも高い位置に二つのロータリーエンコーダ16を設け、これらのロータリーエンコーダ16によりフィルム2を水平に懸架する。
【0132】
このようにすると、傷検査装置10による検査が進んで各ローラ3、4におけるフィルム2の巻取り厚が変化しても、二つのロータリーエンコーダ16で懸架された部分のフィルム2を水平に保つことができる。そのため、フィルム2の傾斜が原因で傷検査装置10による検査が不正確になるのを防止でき、傷の検査精度を一定に維持することが可能となる。
【0133】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0134】
(付記1) 移動途中の検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査装置。
【0135】
(付記2) 前記光照射部が、前記ラインの延在方向に沿って位相がずれた複数の前記検査光を発生する複数の光源を備え、
前記出力信号の位相と、複数の前記光源のうちの一から出た前記検査光の位相との位相差を示す位相比較信号を出力する位相比較器を更に有することを特徴とする付記1に記載の傷検査装置。
【0136】
(付記3) 前記周波数比較信号に基づいて、前記出力信号と前記検査光の各々の前記周波数が同一の場合に、前記検査対象に移動方向に延在する傷が存在すると判断すると共に、
前記位相比較信号が示す前記位相差に基づいて、前記傷が前記検査対象のどこに存在するのかを特定する判断部を更に有することを特徴とする付記2に記載の傷検査装置。
【0137】
(付記4) 前記光照射部は、前記移動方向に垂直なライン状の前記検査光を前記検査対象に照射することを特徴とする付記1に記載の傷検査装置。
【0138】
(付記5) 前記集光系は、前記検査対象の前記表面側又は裏面側の少なくとも一方に設けられた反射面が楕円柱面の鏡であり、
前記光照射部は、前記楕円柱面の第1の焦点に位置する部分の前記検査対象に前記検査光を照射し、
前記光電変換部は、前記楕円柱面の第2の焦点に集光した前記散乱光を前記出力信号に変換することを特徴とする付記1乃至付記4のいずれかに記載の傷検査装置。
【0139】
(付記6) 前記光電変換部は、前記第2の焦点に位置して前記散乱光を側面から受ける蛍光ファイバと、前記蛍光ファイバの端部に接続されて前記出力信号を出力するフォトマルチプライヤとを備えることを特徴とする付記1に記載の傷検査装置。
【0140】
(付記7) 検査対象を移動させる移動部と、
前記移動部により移動されている途中の前記検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査システム。
【0141】
(付記8) 移動途中の検査対象に、所定の周波数で強度が変わる検査光をライン状に照射し、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光の周波数と、前記検査光の前記周波数とが同一であるときに、移動方向に延在する傷が前記検査対象に存在すると判断することを特徴とする傷検査方法。
【0142】
(付記9) 前記検査対象に前記検査光を照射するときに、前記ラインの延在方向に沿って位相がずれた複数の前記検査光を前記検査対象に照射すると共に、
前記散乱光の位相と、複数の前記検査光のうちの一の位相との位相差に基づいて、前記傷が前記検査対象のどこに存在するのかを特定することを特徴とする付記8に記載の傷検査方法。
【符号の説明】
【0143】
1…傷検査システム、2…フィルム、2a…傷、2x…表面、2y…裏面、2b…微小突起、3…第1のローラ、4…第2のローラ、8…光照射部、8a…光源、10、40、50…傷検査装置、12…鏡、13…蛍光ファイバ、14…フォトマルチプライヤ、15…光電変換部、16…ロータリーエンコーダ、17…アンプ、18…処理部、19…制御部、19a…制御回路、20…判断部、21…加算器、22…ラッチ、23…SIN ROM、24…D-Aコンバータ、25…ローパスフィルタ、26…アンプ、31…位相比較器、32…周波数比較部、51…第1の鏡、52…第2の鏡、L…検査光、M…散乱光、F1…第1の焦点、F2…第2の焦点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動途中の検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査装置。
【請求項2】
前記光照射部が、前記ラインの延在方向に沿って位相がずれた複数の前記検査光を発生する複数の光源を備え、
前記出力信号の位相と、複数の前記光源のうちの一から出た前記検査光の位相との位相差を示す位相比較信号を出力する位相比較器を更に有することを特徴とする請求項1に記載の傷検査装置。
【請求項3】
前記周波数比較信号に基づいて、前記出力信号と前記検査光の各々の前記周波数が同一の場合に、前記検査対象に移動方向に延在する傷が存在すると判断すると共に、
前記位相比較信号が示す前記位相差に基づいて、前記傷が前記検査対象のどこに存在するのかを特定する判断部を更に有することを特徴とする請求項2に記載の傷検査装置。
【請求項4】
前記集光系は、前記検査対象の前記表面側又は裏面側の少なくとも一方に設けられた反射面が楕円柱面の鏡であり、
前記光照射部は、前記楕円柱面の第1の焦点に位置する部分の前記検査対象に前記検査光を照射し、
前記光電変換部は、前記楕円柱面の第2の焦点に集光した前記散乱光を前記出力信号に変換することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の傷検査装置。
【請求項5】
検査対象を移動させる移動部と、
前記移動部により移動されている途中の前記検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査システム。
【請求項6】
移動途中の検査対象に、所定の周波数で強度が変わる検査光をライン状に照射し、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光の周波数と、前記検査光の前記周波数とが同一であるときに、移動方向に延在する傷が前記検査対象に存在すると判断することを特徴とする傷検査方法。
【請求項1】
移動途中の検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査装置。
【請求項2】
前記光照射部が、前記ラインの延在方向に沿って位相がずれた複数の前記検査光を発生する複数の光源を備え、
前記出力信号の位相と、複数の前記光源のうちの一から出た前記検査光の位相との位相差を示す位相比較信号を出力する位相比較器を更に有することを特徴とする請求項1に記載の傷検査装置。
【請求項3】
前記周波数比較信号に基づいて、前記出力信号と前記検査光の各々の前記周波数が同一の場合に、前記検査対象に移動方向に延在する傷が存在すると判断すると共に、
前記位相比較信号が示す前記位相差に基づいて、前記傷が前記検査対象のどこに存在するのかを特定する判断部を更に有することを特徴とする請求項2に記載の傷検査装置。
【請求項4】
前記集光系は、前記検査対象の前記表面側又は裏面側の少なくとも一方に設けられた反射面が楕円柱面の鏡であり、
前記光照射部は、前記楕円柱面の第1の焦点に位置する部分の前記検査対象に前記検査光を照射し、
前記光電変換部は、前記楕円柱面の第2の焦点に集光した前記散乱光を前記出力信号に変換することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の傷検査装置。
【請求項5】
検査対象を移動させる移動部と、
前記移動部により移動されている途中の前記検査対象の表面に、強度が所定の周波数で変化する検査光をライン状に照射する光照射部と、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光を集光する集光系と、
前記集光系で集光された前記散乱光の強度に応じた出力信号を出力する光電変換部と、
前記出力信号の周波数と前記検査光の前記周波数とが同一であるか否かを示す周波数比較信号を出力する周波数比較部と、
を有することを特徴とする傷検査システム。
【請求項6】
移動途中の検査対象に、所定の周波数で強度が変わる検査光をライン状に照射し、
前記検査光の照射により前記検査対象から出た散乱光の周波数と、前記検査光の前記周波数とが同一であるときに、移動方向に延在する傷が前記検査対象に存在すると判断することを特徴とする傷検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−154686(P2012−154686A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12116(P2011−12116)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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